説明

意識低下運転検出装置、運転支援装置及びプログラム

【課題】ドライバの意識低下状態を精度よく判定すること。
【解決手段】周波数分析部18で、操舵角センサ12から入力された操舵角信号の時系列データsから周波数帯域i毎のパワー値fを算出し、総パワー値算出部22で、周波数帯域i毎のパワー値fに、意識低下時における周波数帯域iのパワー値ldと他の周波数帯域のパワー値との相違度、及び同一の周波数帯域における意識低下時のパワー値と覚醒時のパワー値との相違度が大きい程、大きな値を示す重み係数wを重み係数DB20から読み出して乗算し、周波数帯域毎のw×fの値を所定周波数帯域分加算して、総パワー値pを算出し、判定部24で、総パワー値pの累積値aを算出し、累積値aが所定値より大きいか否かを判断することにより、ドライバの意識低下状態を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意識低下運転検出装置、運転支援装置及びプログラムに係り、特に、車両の走行状態やドライバの操舵状態に基づいて、ドライバの意識低下状態を判定する意識低下運転検出装置、運転支援装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行状態やドライバの操作状態に基づくデータを検出し、検出したデータに基づいて、ドライバが意識低下状態にあるか否かを判定して、ドライバに対して警報を発する等して、ドライバの運転を支援することが行われている。例えば、特許文献1の運転集中判定装置では、操舵角センサで検出した操舵角信号に対する2つの移動平均処理を組み合わせることによって、1Hz付近のパワー値に相当する値をミドル値として算出し、そのミドル値を所定時間加算することによって得られる判定値の大小に基づいて運転の集中度を判定することが提案されている。
【特許文献1】特開2007−026271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の特許文献1記載の技術は、居眠りに入る直前に1Hzを中心とする周波数帯域の測定信号が検出されやすいという前提で、1Hzを中心とする周波数帯域のデータに相当する値を判定に用いているが、図12に示すように、意識低下時に検出されやすい周波数帯域や、意識低下時と通常時とでパワー値の差が大きい周波数帯域は、車両特性や走行条件等の環境によって異なる。特許文献1記載の技術では、このような集中度の低下(意識低下)がどの周波数帯域にどの程度の影響を及ぼしているかという点が考慮されておらず、精度よくドライバの意識低下状態を判定することができない、という問題があった。
【0004】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ドライバの意識低下状態を精度よく判定することができる意識低下運転検出装置、運転支援装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明に係る意識低下運転検出装置は、自車両の走行状態またはドライバが自車両を操舵したときの操舵状態を示す物理量を連続して検出し、検出した物理量の時系列データを出力する検出手段と、前記検出手段により出力された物理量の時系列データの周波数分析を行って、周波数帯域毎のパワー値の分布で示される周波数分布を算出する周波数分析手段と、意識低下時の前記周波数分布と、覚醒時の前記周波数分布との相違度が大きいほど重くなるように算出された前記周波数帯域毎の重み係数を、対応する前記周波数帯域毎のパワー値に乗じた値を所定周波数帯域にわたって加えた総和を総パワー値として算出する総パワー値算出手段と、前記総パワー値算出手段により算出された総パワー値の所定時間内の和が所定値以上かを判定することによって、前記ドライバの意識低下状態を判定する判定手段と、を含んで構成されている。
【0006】
また、本発明に係る意識低下運転検出プログラムは、コンピュータを、自車両の走行状態またはドライバが自車両を操舵したときの操舵状態を示す物理量を連続して検出し、検出した物理量の時系列データを出力する検出手段により出力された物理量の時系列データの周波数分析を行って、周波数帯域毎のパワー値の分布で示される周波数分布を算出する周波数分析手段と、意識低下時の前記周波数分布と、覚醒時の前記周波数分布との相違度が大きいほど重くなるように算出された前記周波数帯域毎の重み係数を、対応する前記周波数帯域毎のパワー値に乗じた値を所定周波数帯域にわたって加えた総和を総パワー値として算出する総パワー値算出手段と、前記総パワー値算出手段により算出された総パワー値の所定時間内の和が所定値以上かを判定することによって、前記ドライバの意識低下状態を判定する判定手段として機能させるためのものである。
【0007】
本発明に係る意識低下運転検出装置及び意識低下運転検出プログラムによれば、検出手段が、自車両の走行状態またはドライバが自車両を操舵したときの操舵状態を示す物理量を連続して検出し、検出した物理量の時系列データを出力し、周波数分析手段が、出力された物理量の時系列データの周波数分析を行って、周波数帯域毎のパワー値の分布で示される周波数分布を算出する。そして、総パワー値算出手段が、意識低下時の周波数分布と、覚醒時の周波数分布との相違度が大きいほど重くなるように算出された周波数帯域毎の重み係数を、対応する周波数帯域毎のパワー値に乗じた値を所定周波数帯域にわたって加えた総和を総パワー値として算出し、判定手段が、総パワー値の所定時間内の和が所定値以上かを判定することによって、ドライバの意識低下状態を判定する。
【0008】
このように、対応する周波数帯域の意識低下時と覚醒時との周波数分布の相違度に基づく重み係数が乗算された値の総和として求められる総パワー値の所定時間内の和に基づいて意識低下か否かの判定を行うことにより、意識低下によって影響を受ける周波数帯域及び影響の度合いが考慮されるため、ドライバの意識低下状態を精度よく判定することができる。
【0009】
また、本発明に係る意識低下運転検出装置は、自車両の走行状態またはドライバが自車両を操舵したときの操舵状態を示す物理量を連続して検出し、検出した物理量の時系列データを出力する検出手段と、前記検出手段により出力された物理量の時系列データの周波数分析を行って、周波数帯域毎のパワー値の分布で示される周波数分布を算出する周波数分析手段と、意識低下時の前記周波数分布と、走行開始から所定時間内に前記検出手段により出力された物理量の初期の時系列データから得られる覚醒時の周波数分布との相違度が大きいほど重くなるように算出された前記周波数帯域毎の重み係数を、対応する前記周波数帯域毎のパワー値に乗じた値を所定周波数帯域にわたって加えた総和を総パワー値として算出する総パワー値算出手段と、前記総パワー値算出手段により算出された総パワー値の所定時間内の和が所定値以上かを判定することによって、前記ドライバの意識低下状態を判定する判定手段と、を含んで構成されている。
【0010】
また、本発明の意識低下運転検出プログラムは、コンピュータを、自車両の走行状態またはドライバが自車両を操舵したときの操舵状態を示す物理量を連続して検出し、検出した物理量の時系列データを出力する検出手段により出力された物理量の時系列データの周波数分析を行って、周波数帯域毎のパワー値の分布で示される周波数分布を算出する周波数分析手段と、意識低下時の前記周波数分布と、走行開始から所定時間内に前記検出手段により出力された物理量の初期の時系列データから得られる覚醒時の周波数分布との相違度が大きいほど重くなるように算出された前記周波数帯域毎の重み係数を、対応する前記周波数帯域毎のパワー値に乗じた値を所定周波数帯域にわたって加えた総和を総パワー値として算出する総パワー値算出手段と、前記総パワー値算出手段により算出された総パワー値の所定時間内の和が所定値以上かを判定することによって、前記ドライバの意識低下状態を判定する判定手段として機能させるためのものである。
【0011】
本発明に係る意識低下運転検出装置及び意識低下運転検出プログラムによれば、総パワー値算出手段が、意識低下時の周波数分布と、走行開始からの所定時間内に検出手段により出力された物理量の初期の時系列データから得られる覚醒時の周波数分布との相違度が大きいほど重くなるように算出された周波数帯域毎の重み係数を、対応する周波数帯域毎のパワー値に乗じた値を所定周波数帯域にわたって加えた総和を総パワー値として算出する。
【0012】
このように、実際に検出された物理量の時系列データを用いて算出された重み係数に基づいて総パワー値を算出するため、より車両特性や走行状態等の環境による影響が考慮され、ドライバの意識低下状態を精度よく判定することができる。
【0013】
また、本発明の重み係数を帯域の情報量に基づいて算出することができる。帯域の情報量に基づいて重み係数を算出するには、前記重み係数を以下の式に従って算出することができる。
【0014】
【数1】

【0015】
ただし、pdは意識低下時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値を意識低下時の周波数分布における前記所定周波数帯域のパワー値の総和で除して得られる帯域確率、paは覚醒時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値を覚醒時の周波数分布における前記所定周波数帯域のパワー値の総和で除して得られる帯域確率である。
【0016】
また、本発明の前記重み係数を以下の式に従って算出することもできる。
【0017】
【数2】

【0018】
ただし、μdiは、意識低下時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の平均値、σdiは、意識低下時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の分散値、μaiは、覚醒時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の平均値、σaiは、覚醒時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の分散値である。
【0019】
また、前記所定値を、走行開始から所定期間内の前記和の平均値としたり、前記車両の車速及びヨーレートに基づいて運転状態が安定していると判定されたときの累積期間が予め定めた期間以上となったときの前記累積期間内の前記和の平均値としたりとすることができる。また、前記車両の車速及びヨーレートに基づいて運転状態が安定していると判定されたときの連続期間が予め定めた期間以上となったときに開始するようにすることもできる。なお、前記車両の車速が予め定めた値より小さく、かつ前記車両のヨーレートが予め定めた値より大きい場合に、運転状態が安定していないと判定するようにすることができる。このように、実際に検出されたデータから算出される総パワー値に基づいて、意識低下状態か否かの判定をするための所定値を決定することにより、車両特性やドライバの個性によって大小が異なるパワー値に対して、より精度よく意識低下状態を判定することができる。
【0020】
さらに、前記所定値を、走行開始から所定期間内における車速及びカーブの大きさに基づいて補正することができる。
【0021】
また、前記所定値を、車速、ヨーレート、ヨー角、横方向加速度のうち少なくとも1つ以上の値に基づいて算出することができる。また、前記所定値を以下の式に従って算出することもできる。
【0022】
【数3】

【0023】
ただし、thrは、初期設定された前記所定値、vは、現在の車速、vは、走行開始から所定期間内における車速の平均値、yは、現在の車両のヨーレート、yは、走行開始から所定期間内におけるヨーレートの平均値、θは、ヨーレートの時間積分により求められるヨー角、及びθは、ヨー角の平均値である。特に車速が速い場合、また走行路のカーブの大きさが大きい場合には、パワー値の大きさが大きくなることが実験により観察されており、意識低下状態か否かの判定をするための所定値を、車速及びカーブの大きさが平均値より大きい場合に大きくすることにより、より精度よく意識低下状態を判定することができる。なお、ycosθは、ヨーレート及びヨー角によって表される走行路のカーブの大きさを示す指標である。
【0024】
また、本発明に係る運転支援装置は、上記意識低下運転検出装置と、前記判定手段によって意識低下状態が検出されたときに、覚醒状態に復帰させるための支援を行う支援手段と、を含んで構成されている。
【0025】
また、本発明の運転支援装置は、前記所定時間内において、前記ドライバが車両に設けられたステアリング以外の機器を操作した場合、前記ドライバが急激なアクセル操作を行った場合、車両の速度が所定速度以下の場合、及び運転を支援するための他の装置が作動した場合の何れかの場合に、前記支援手段により行われる支援を停止させる支援停止手段を更に含んで構成することができる。このような状況下では、意識低下状態の判定に誤判定が生じる可能性が高いため、支援停止手段により支援を停止して、誤った支援が行われるのを防止することができる。なお、運転を支援するための他の装置とは、例えば、レーンキープシステムやオートクルーズコントロールなどである。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明の意識低下運転検出装置、運転支援装置及びプログラムによれば、意識低下によって影響を受ける周波数帯域及び影響の度合いが考慮されるため、ドライバの意識低下状態を精度よく判定することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して、車両に搭載された意識低下運転検出装置に本発明を適用した場合の実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る意識低下運転検出装置10は、操舵角を検出する操舵角センサ12、及び操舵角センサ12からの出力に基づいて意識低下状態を判定する処理ルーチンを実行し、判定結果に応じて警報装置16によってドライバに対して警報を出力させるコンピュータ14を備えている。
【0029】
操舵角センサ12は、ステアリングの操舵角を検出し、操舵角に応じた信号を発生して、時系列データとしてコンピュータ14へ出力する。
【0030】
コンピュータ14は、意識低下運転検出装置10全体の制御を司るCPU、後述する意識低下状態検出の処理ルーチンのプログラム等を記憶した記憶媒体としてのROM、ワークエリアとしてデータを一時格納するRAM、及びこれらを接続するバスを含んで構成されている。
【0031】
このコンピュータ14をハードウエアとソフトウエアとに基づいて定まる機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、図1に示すように、操舵角センサ12から入力される操舵角に応じた時系列データの周波数分析を行う周波数分析部18、周波数分析部18の分析結果と重み係数DB20に記憶されている周波数帯域毎の重み係数とに基づいて総パワー値を算出する総パワー値算出部22、及び総パワー値算出部22の算出結果に基づいてドライバが意識低下状態にあるか否かを判定し、判定結果に基づいて警報が出力されるよう警報装置16を制御する判定部24を含んだ構成で表すことができる。
【0032】
周波数分析部18は、操舵角センサ12から入力される所定時間内の操舵角の時系列データに対して、カーブによる操舵角周波数成分への影響を除去するためにハイパスフィルタリング処理を施してから、離散フーリエ変換を施して操舵周波数の周波数帯域i毎のパワー値f(周波数分布)を算出する。
【0033】
総パワー値算出部22は、周波数分析部18で算出された周波数帯域i毎のパワー値fから(1)式によって、総パワー値pを算出する。
【0034】
【数4】

【0035】
ここで、nは予め定めた定数であり、周波数帯域1〜nまでの所定周波数帯域において総パワー値pを求めることを表している。所定周波数帯域は、後述する重み係数を算出した周波数帯域と対応させた周波数帯域とする必要があるため、予め実験等により意識低下時及び覚醒時の操舵周波数の最小値〜最大値を求めておき、この範囲を所定周波数帯域として設定しておく。なお、設定した所定周波数帯域が実際に検出される操舵周波数の略全周波数帯域と対応することが望ましい。
【0036】
また、wは周波数帯域毎の重み係数であり、(2)式によって予め算出された値が重み係数DB20に記憶されている。
【0037】
【数5】

【0038】
ここで、pdは意識低下時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値ldを周波数帯域1〜nまでの所定周波数帯域のパワー値の総和で除算したものであり、paは覚醒時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値laを周波数帯域1〜nまでの所定周波数帯域のパワー値の総和で除算したものである。なお、パワー値ld及びパワー値laは、所定回数の物理量の時系列データの検出により得られた所定回数分の周波数分布について、同一の周波数帯域のパワー値の平均として算出した値である。
【0039】
(2)式は、平均パワー値の周波数分布(平均スペクトル)の形状を離散確率分布とみなした場合に、意識低下時と覚醒時との確率分布の相違度を対称化したKL(Kullbuck-Leibler)情報量として算出したものに相当する。これは、図2に示すように、意識低下時における周波数帯域iのパワー値ldと他の周波数帯域のパワー値との相違度、及び同一の周波数帯域iにおける意識低下時のパワー値ldと覚醒時のパワー値laとの相違度が大きい程、大きな値を示す情報量である。
【0040】
したがって、他の周波数帯域に比べてパワー値が大きな周波数帯域や、意識低下時のパワー値と覚醒時のパワー値との差が大きな周波数帯域では、大きな値となる。すなわち、(2)式で表される周波数帯域の重み係数が重くなる。
【0041】
なお、重み係数DB20は、ハードディスクドライブ(HDD)やCD−ROM等のように、内蔵または外付けの記憶手段であって、周波数帯域毎の重み係数を記憶できる媒体により構成されている。
【0042】
判定部24は、総パワー値算出部22で算出された総パワー値pを所定サイズのFIFO型バッファ(図示省略)に格納して、格納された総パワー値pの累積値aを算出する。FIFO型バッファは、所定個数(例えば6個)の総パワー値pを記憶可能なサイズであり、所定個数+1の総パワー値pを格納しようとする場合には、最も古いデータを更新する。また、記憶可能なサイズを時間に換算すると、所定個数×総パワー値pの算出に使用した操舵角の時系列データsの検出時間(例えば10秒)、例えば6個×10秒=60秒が記憶可能である。そして、判定部24は、総パワー値pの累積値aが所定値以上か否かを判定し、判定結果に基づいて警報装置16によって警報が出力されるように警報装置16を制御する。
【0043】
次に、図3を参照して、第1の実施の形態の意識低下状態検出の処理ルーチンについて説明する。
【0044】
ステップ100で、操舵角センサ12から周波数分析部18へ操舵角信号の時系列データsが入力される。
【0045】
次に、ステップ102で、操舵角の時系列データsにハイパスフィルタリング処理を施してs’とし、次に、ステップ104で、s’に離散フーリエ変換を施して、周波数帯域i毎のパワー値fを算出する。
【0046】
次に、ステップ106で、算出された周波数帯域i毎のパワー値fに、各々対応する周波数帯域iの重み係数を重み係数DB20から読み出して乗算し、周波数帯域毎のw×fの値を所定周波数帯域(周波数帯域1〜n)にわたって加算して、総パワー値pを算出する((1)式)。
【0047】
次に、ステッップ108で、算出された総パワー値pをFIFO型バッファに格納する。次に、ステップ110で、FIFO型バッファに格納されている総パワー値pの累積値aを算出し、累積値aが所定値より大きいか否かを判断する。所定値以下の場合には、まだ意識低下状態ではないと判断して、ステップ100へ戻って処理を繰り返す。所定値より大きい場合には、意識低下状態になったと判断して、ステップ112へ進んで、警報装置16からドライバに対して警報を発する。
【0048】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る意識低下運転検出装置10によれば、意識低下によって影響を受ける周波数帯域及び影響の度合いが考慮された総パワー値に基づいて判定するため、精度良くドライバの意識低下状態を判定することができ、また、常に最新の所定時間分の総パワー値の累積値により判定を行うため、タイミングよくドライバに警報を発することができ、精度良く運転支援を行うことができる。
【0049】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一の符号を付して説明を省略する。第2の実施の形態の構成は、図1に示すように、第1の実施の形態の構成と同様であるが、重み係数DB20に記憶されている周波数帯域毎の重み係数の算出方法が第1の実施の形態とは異なっている。
【0050】
第2の実施の形態における意識低下運転検出装置10では、(3)式によって予め算出された周波数帯域毎の重み係数wが重み係数DB20に記憶されている。
【0051】
【数6】

【0052】
ここで、μdiは、図4に示すように、意識低下時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の平均値、σdiは、意識低下時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の分散値、μaiは、覚醒時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の平均値、σaiは、覚醒時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の分散値である。
【0053】
周波数帯域iにおける意識低下時の操舵周波数の確率分布をpd(x)、及び覚醒時の操舵周波数の確率分布をpa(x)とし、確率分布pd(x)と確率分布pa(x)との相違度をKL情報量で表すと(4)式となる。
【0054】
【数7】

【0055】
上記確率分布pd(x)及び確率分布pa(x)が正規分布であると仮定して、(4)式を展開して、対称化すると(3)式が得られる。(3)式で示される重み係数は、図4に示すように、意識低下時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値のばらつき度、及び同一の周波数帯域iにおける意識低下時のパワー値のばらつき度と覚醒時のパワー値のばらつき度との相違度が大きい程、重くなる。
【0056】
以上説明したように、第2の実施の形態における意識低下運転検出装置によれば、周波数帯域毎のパワー値のばらつきを考慮した総パワー値に基づいて判定するため、精度良くドライバの意識低下状態を判定することができる。
【0057】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成及び処理となる部分については、同一の符号を付して説明を省略する。第3の実施の形態では、走行開始から所定時間内に検出された操舵周波数の周波数分布を利用して重み係数を算出する点が第1の実施の形態とは異なっている。
【0058】
図5に示すように、第3の実施の形態における意識低下運転検出装置210は、機能的には、周波数分析部18、周波数分析部18の分析結果と周波数分布(ld)DB220に記憶された意識低下時の操舵周波数の周波数分布とに基づいて周波数帯域毎の重み係数を算出する重み係数算出部226、周波数分析部18の分析結果と重み係数算出部226で算出された周波数帯域毎の重み係数とに基づいて総パワー値を算出する総パワー値算出部22、及び判定部24で構成されるコンピュータ214を備えている。
【0059】
周波数分析部18は、走行開始から所定時間内に検出された操舵角の時系列データに基づいて、初期の操舵周波数についての周波数分布を算出する。走行開始から所定時間の初期では、ドライバは意識低下状態になっていないと仮定して、この期間に取得された操舵角の時系列データに基づいて算出される操舵周波数の周波数分布を覚醒時の周波数分布とするものである。
【0060】
重み係数算出部226は、周波数分析部18で算出された覚醒時の周波数分布と、周波数分布(ld)DB220に記憶された意識低下時の周波数分布とに基づいて、上記(2)式または(3)式から、周波数帯域i毎の重み係数wを算出する。
【0061】
なお、第3の実施の形態の重み係数算出部226と総パワー値算出部22とをあわせたものが、請求項2の総パワー値算出手段に該当する。
【0062】
次に、図6を参照して、第3の実施の形態の意識低下状態検出の処理ルーチンについて説明する。
【0063】
ステップ300でカウンタ値tに1をセットし、次に、ステップ100で、操舵角センサ12から操舵角信号の時系列データsを所得し、次に、ステップ102で、操舵角の時系列データsにハイパスフィルタリング処理を施してs’とし、次に、ステップ104で、s’に離散フーリエ変換を施して、周波数帯域i毎のパワー値f(周波数分布)を算出する。
【0064】
次に、ステップ302で、カウンタ値tが所定値Tより大きいか否かを判断する。所定値Tより大きい場合には、ステップ106へ進んで、所定値T以下の場合には、ステップ304へ進む。所定値Tは覚醒時の周波数分布を得るために必要な走行開始からの所定時間に基づいて設定しておく。すなわち、操舵角信号の時系列データsの検出時間×Tが、走行開始からの所定時間となるように設定しておく。
【0065】
ステップ304で、カウンタ値tがTであるか否かを判断する。tがTより小さい場合には、覚醒時の周波数分布を得るために必要な走行開始からの所定時間が経過していないため、否定されてステップ306へ進んで、ステップ104で算出した周波数帯域i毎のパワー値f(f(t=1)とする。)を所定の記憶領域である周波数バッファ(図示省略)に格納する。
【0066】
次に、ステップ312で、カウンタ値tをインクリメントして、ステップ100へ戻って、t=Tとなるまで、ステップ100〜ステップ104、ステップ302〜ステップ306、及びステップ312の処理を繰り返す。
【0067】
ステップ304でt=Tと判断された場合には、ステップ308へ進んで、周波数バッファに記憶されたf(t=1)〜f(t=T)から、覚醒時の周波数分布として、初期の操舵周波数の周波数分布を算出する。具体的には、(2)式に基づいて重み係数を算出する場合には、図2に示すように、f(t=1)〜f(t=T)の平均スペクトルを算出し、(3)式に基づいて重み係数を算出する場合には、f(t=1)〜f(t=T)を図4に示すような分布として算出する。
【0068】
次に、ステップ310で、ステップ308で算出された初期の操舵周波数の周波数分布と、周波数分布(ld)DBに記憶されている意識低下時の周波数分布とに基づいて、(2)式または(3)式から周波数帯域i毎の重み係数wを算出する。
【0069】
次に、ステップ312を経てステップ100〜ステップ104の処理を繰り返し、ステップ302へ進むと、tが所定値Tより大きくなるため、肯定されてステップ106に進む。ステップ106〜ステップ112で、上記第1の実施の形態と同様の処理により、意識低下状態の判定及びドライバへの警報処理が行われる。この際、意識低下の判定に使用される総パワー値pの算出には、ステップ310で算出された重み係数が使用される。
【0070】
以上説明したように、第3の実施の形態における意識低下運転検出装置によれば、実際の走行により検出された操舵角データに基づいて、意識低下状態を判定するための重み係数を算出するため、判定に個人差も考慮されることとなり、より精度良くドライバの意識低下状態を判定することができる。
【0071】
次に、第4の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成及び処理となる部分については、同一の符号を付して説明を省略する。第4の実施の形態では、走行開始から所定時間内に算出されたパワー値を利用して意識低下状態か否かを判定するための所定値の値を設定する点が第1の実施の形態とは異なっている。
【0072】
図7に示すように、第4の実施の形態における意識低下運転検出装置410は、操舵角センサ12、コンピュータ414、警報装置16、車両の車速を検出する車速センサ418、及び車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ420を含んで構成されている。
【0073】
コンピュータ414は、機能的には、周波数分析部18、重み係数DB20、総パワー値算出部22、及び判定部424で構成されている。判定部424は、総パワー値算出部22で算出された総パワー値が所定値以上か否かで、ドライバが意識低下状態にあるか否かを判定する。判定のための所定値は、総パワー値算出部22で算出された総パワー値に基づいて決定され、車速センサ418で検出された車速及びヨーレートセンサ420で検出されたヨーレートに基づいて補正される。
【0074】
次に、図8を参照して、第4の実施の形態の意識低下状態検出の処理ルーチンについて説明する。
【0075】
ステップ300でカウンタ値tに1をセットし、次に、ステップ100〜ステップ106の処理で総パワー値pを算出し、次に、ステップ500で、総パワー値pをFIFO型バッファに格納する。
【0076】
次に、ステップ502で、カウンタ値tが所定値Tより大きいか否かを判断する。所定値Tより大きい場合には、ステップ518へ進んで、所定値T以下の場合には、ステップ504へ進む。
【0077】
ステップ504で、カウンタ値tがTであるか否かを判断する。tがTより小さい場合には、意識低下状態判定のための所定値を決定するために必要な走行開始からの所定時間が経過していないため、否定されてステップ506へ進み、FIFO型バッファに所定個数(例えば6個)の総パワー値pが格納されているか否かを判断する。格納されている場合には、ステップ508で、FIFO型バッファ内の総パワー値pの累積値aを算出して、所定の記憶領域である累積値バッファ(図示省略)に格納しておき、ステップ516へ進む。所定個数の総パワー値pが格納されていない場合には、そのままステップ516へ進み、カウンタ値tをインクリメントしてステップ100へ戻る。t=Tとなるまでステップ506及びステップ508の処理を繰り返すことにより、累積値バッファに所定個の総パワー値pの累積値aが格納される。
【0078】
ステップ504で、t=Tと判断された場合には、ステップ510へ進み、走行開始から時刻Tまでに検出された車速v(t)及びヨーレートy(t)を取得する。次に、ステップ512で、累積値バッファに格納されている総パワー値pの累積値aの平均値を算出し、これに係数kを加算して判定のための所定値の初期値thrを算出する。係数kは、走行開始時に運転が慎重になることにより、通常より低い総パワー値pが算出される可能性を考慮して、所定値の初期値thrが不当に低い値とならないように補正するためのものである。係数kは、例えば累積値バッファに格納されている総パワー値pの累積値aの標準偏差の2倍の値とすることができる。
【0079】
次に、ステップ514で、所定値の初期値thrの値を所定値thrに代入する。次に、ステップ516で、カウンタ値tをインクリメントしてステップ100へ戻り、ステップ100〜ステップ106、及びステップ500の処理を繰り返し、ステップ502へ進むと、tが所定値Tより大きくなるため、肯定されてステップ518へ進む。
【0080】
ステップ518で、現在の車速v及びヨーレートyを取得し、次に、ステップ520で、下記(5)式により所定値thrの値を補正する。
【0081】
【数8】

【0082】
ただし、vは、ステップ510で取得した走行開始から時刻Tまでの車速v(t)の平均値、及びyは、同じくステップ510で取得した走行開始から時刻Tまでのヨーレートy(t)の平均値、θは、ヨーレートyの時間積分により求められるヨー角、及びθは、ヨー角θの平均値である。なお、ycosθは、走行路のカーブの大きさが操舵角に与える影響を示す指標(走行路のカーブの大きさを示す指標)である。なお、走行路のカーブの大きさを示す指標として、横方向加速度を用いるようにしてもよい。
【0083】
次に、ステップ110では、(5)式により補正された所定値thrを閾値として、意識低下状態か否かの判定を行う。
【0084】
以上説明したように、第4の実施の形態における意識低下運転検出装置によれば、実際の走行により検出された操舵角データにより算出される総パワー値に基づいて、意識低下状態を判定するための閾値(所定値thr)を算出するため、例えば、ステアリングを大きく操舵する特性を持つドライバの場合には、所定値thrは大きな値となり、ステアリングを小さく操舵する特性を持つドライバの場合には、所定値thrは小さな値となるなど、通常時の操舵量に応じて判定の基準が設定されるため、判定に個人差も考慮されることとなり、より精度良くドライバの意識低下状態を判定することができる。さらに、時々刻々変化する車速や走行路のカーブの大きさにより変化する操舵量を考慮して、車速及びヨーレートに基づいて所定値thrを補正するため、より判定精度を向上させることができる。
【0085】
なお、第4の実施の形態では、ヨーレート及びヨー角により表される走行路のカーブの大きさを示す指標を用いて所定値thrを補正する場合について説明したが、GPSで取得した現在位置及び地図情報などから、走行路のカーブの大きさrを算出し、所定時間内の走行路のカーブの大きさの平均値rと現在の走行路のカーブの大きさrとの比を用いて所定値thrを補正するようにしてもよい。
【0086】
次に、第5の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成及び処理となる部分については、同一の符号を付して説明を省略する。第5の実施の形態では、所定の条件下で運転支援を行わない点が第1の実施の形態とは異なっている。
【0087】
図9に示すように、第5の実施の形態における意識低下運転検出装置610は、操舵角センサ12、コンピュータ614、警報装置16、アクセルの操作量を検出するアクセルセンサ618、ウィンカ等の操作スイッチ620、車両の車速を検出する車速センサ622、及び走行路の曲率を検出するためのGPS624を含んで構成されている。
【0088】
コンピュータ614は、機能的には、周波数分析部18、重み係数DB20、総パワー値算出部22、及び判定部624で構成されている。判定部624は、総パワー値算出部22で算出された総パワー値が所定値以上で、かつ所定の条件が成立する場合に、警報装置16を制御して警報を出力する。
【0089】
次に、図10を参照して、第5の実施の形態の意識低下状態検出の処理ルーチンについて説明する。
【0090】
ステップ100〜ステップ108の処理で総パワー値pを算出して、FIFO型バッファに格納し、次に、ステップ110で、FIFO型バッファに格納されている総パワー値pの累積値aが所定値thrより大きくなったか否かを判断することにより、意識低下状態か否かの判定を行う。所定値thrより大きくなった場合には、ステップ700へ進み、所定値thr以下の場合には、ステップ100へ戻って処理を繰り返す。
【0091】
次に、ステップ700で、所定時間内に検出された速度v(t)を取得し、時刻tによって異なる重み係数waを速度v(t)に乗じた値を所定時間分加算して車速の重み付線形和aoprを算出する。重み係数は、例えば図11に示すように、Σ|wa|=1.0となるような値とする。これにより、車速の重み付線形和aoprは、車速に急激な変化が生じた場合に大きな値をとり、車速に急激な変化が生じていない場合には小さな値をとる。
【0092】
次に、ステップ702で、車速の重み付線形和aoprが所定値athrより大きいか否かを判断し、所定値athr以下の場合には、所定時間内に車速の急激な変化はなかったと判断して、否定されてステップ704へ進む。
【0093】
ステップ704で、アクセルセンサ618及び操作スイッチ620での検出データを取得し、次に、ステップ706で、所定時間内にアクセルの操作及びウィンカ等の操作スイッチの操作があったか否かを判断する。なお、アクセル操作については、急激なアクセル操作のみを検出するために、所定量以上のアクセルの踏み込みがあった場合にアクセル操作を検出するようにしてもよい。操作がなかった場合には、所定時間内に操舵に影響を与えるような操作がなかったと判断して、否定されてステップ708へ進む。
【0094】
ステップ708で、現在の車速vを取得し、次に、ステップ710で、車速vが所定値vthrより小さいか否かを判断する。所定値vthrは、例えば、70km/hといった市街地では規制されている値とする。これにより、現在の速度vが所定値vthrよりも小さい場合には、操舵量の変化が大きい市街地を走行中であると判断することができる。速度vが所定値vthr以上の場合には、例えば高速道路などを走行中の場合のように、操舵量の変化が小さいと判断して、否定されてステップ712へ進む。
【0095】
ステップ712で、GPS624で取得した現在位置及び地図情報などから、走行路の曲率rを算出し、次に、ステップ714で、走行路の曲率rが所定値rthrより大きいか否かを判断する。曲率rが所定値rthr以下の場合には、走行路の曲率により操舵角に与える影響が小さいと判断して、否定されてステップ716へ進む。なお、走行路の曲率の指標として、第4の実施の形態で述べたヨーレートy及びヨー角θで表されるycosθの値を用いてもよい。
【0096】
ステップ716で、所定時間内にレーンキープシステムやオートクルーズコントロールなどの他の運転支援装置が作動中であることを示す信号を受信したか否かを判断する。受信していない場合には、他の運転支援装置の作動による操舵角への影響がないと判断して、否定されてステップ112へ進んで、ドライバに警報を出力して、処理を終了する。
【0097】
ステップ702、ステップ706、ステップ710、ステップ714及びステップ716で肯定された場合には、運転環境の変化などにより意識低下状態の判定に誤判定が生じやすい状況であると判断して、警報を出力することなく、ステップ100へ戻って処理を繰り返す。
【0098】
以上説明したように、第5の実施の形態における意識低下運転検出装置によれば、車速の重み付線形和aporが所定値athrより大きい場合、所定時間内にアクセル及び操作スイッチの操作があった場合、車速vが所定値vthrより小さい場合、走行路の曲率rが所定値rthrより大きい場合、及び他の運転支援装置が作動している場合の何れかの場合に該当するときは、意識低下状態の判定に誤判定が生じる可能性が高いため、警報の出力を停止することにより、誤った警報が行われるのを防止することができる。
【0099】
次に、第6の実施の形態について説明する。なお、第1〜第5の実施の形態と同様の構成及び処理となる部分については、同一の符号を付して説明を省略する。第6の実施の形態では、運転状態が安定しているときに検出された操舵角に基づくパワー値を利用して意識低下状態か否かを判定するための所定値を設定する点が他の実施の形態とは異なっている。
【0100】
図12に示すように、第6の実施の形態における意識低下運転検出装置710は、操舵角センサ12、コンピュータ714、警報装置16、車両の車速を検出する車速センサ720、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ722、及びウィンカ等の操作スイッチ724を含んで構成されている。
【0101】
コンピュータ714は、機能的には、周波数分析部18、重み係数DB20、総パワー値算出部22、及び判定部724で構成されている。判定部724は、総パワー値算出部22で算出された総パワー値が所定値以上か否かで、ドライバが意識低下状態にあるか否かを判定する。判定のための所定値thrは、車速センサ720、ヨーレートセンサ722及び操作スイッチ724の検出信号に基づいて運転状態が安定していると判定されたときの操舵角信号に基づいて総パワー値算出部22で算出された総パワー値に基づいて決定される。
【0102】
次に、図13を参照して、第6の実施の形態の意識低下状態検出の処理ルーチンについて説明する。
【0103】
ステップ800で、カウンタ値t1に0をセットし、次に、ステップ802で、現在の車速v及びヨーレートyを取得する。
【0104】
次に、ステップ804で、車速vが予め定めた速度vx以上、かつヨーレートyの絶対値が予め定めたヨーレートyx以下、かつ操作スイッチ724が操作されていない状態か否かを判断する。これは、運転状態が安定しているか否かを判断するものである。例えば、直線道路をある程度の速度以上で走行している状態を、運転状態が安定している状態とし、車線変更等を行うために操作スイッチ724の1つであるウィンカが操作されている状態や、曲率の大きい道路を走行している状態などを、運転状態が安定していない状態とすることができる。
【0105】
なお、ヨーレートに代えて、横方向加速度や、ヨーレート及び横方向加速度の車両信号の発生元となる操舵角信号を用いて、運転状態が安定しているか否かを判断するようにしてもよい。運転状態が安定している場合には、ステップ806へ進み、安定していない場合には、ステップ800へ戻る。
【0106】
次に、ステップ806で、カウンタ値t1をインクリメントして、次に、ステップ808で、カウンタ値t1が、予め定めた所定値T1以上になったか否かを判断する。これは、上記ステップ804で判断した運転状態が安定している期間の連続期間が所定期間以上となったか否かを判断するものである。安定状態の連続期間が所定値T1で定まる所定期間以上となった場合には、所定値thr算出のための操舵角信号を取得するためにステップ300へ進み、T1未満の場合には、ステップ802へ戻り、安定状態の連続期間が所定期間以上となるまで、ステップ802〜ステップ806の処理を繰り返す。
【0107】
ステップ300で、カウンタ値tに1をセットし、ステップ100〜ステップ106の処理で総パワー値pを算出する。次に、ステップ810で、カウンタ値tが予め定めた所定値Tより小さいか否かを判断する。所定値Tは、意識低下状態判定のための所定値thrを算出するために必要な累積期間に基づく値である。tがTより小さい場合には、ステップ812へ進み、tがT以上の場合には、既に意識低下状態を判定するための所定値thrが算出されていると判断して、ステップ500へ進む。
【0108】
次に、上記ステップ802及びステップ804と同様の処理により、ステップ812で、現在の車速v及びヨーレートyを取得、ステップ814で、運転状態が安定しているか否かを判断する。運転状態が安定している場合には、ステップ500へ進み、運転状態が安定していない場合には、ステップ100へ戻る。
【0109】
次に、ステップ500で、総パワー値pをFIFO型バッファに格納する。次に、ステップ502で、カウンタ値tが所定値Tより大きいか否かを判断する。所定値Tより大きい場合には、ステップ110へ進んで、所定値T以下の場合には、ステップ504へ進む。
【0110】
ステップ504で、カウンタ値tがTであるか否かを判断する。tがTより小さい場合には、意識低下状態判定のための所定値thrを算出するために必要な累積時間が経過していないため、否定されてステップ506へ進み、FIFO型バッファに所定個数(例えば6個)の総パワー値pが格納されているか否かを判断する。格納されている場合には、ステップ508で、FIFO型バッファ内の総パワー値pの累積値aを算出して、所定の記憶領域である累積値バッファ(図示省略)に格納しておき、ステップ516へ進む。所定個数の総パワー値pが格納されていない場合には、そのままステップ516へ進み、カウンタ値tをインクリメントしてステップ100へ戻る。t=Tとなるまでステップ506及びステップ508の処理を繰り返すことにより、累積値バッファに所定個の総パワー値pの累積値aが格納される。
【0111】
ステップ504で、t=Tと判断された場合には、ステップ816へ進み、累積値バッファに格納されている総パワー値pの累積値aの平均値を算出し、これに係数kを加算して判定のための所定値thrを算出する。係数kは、走行開始時に運転が慎重になることにより、通常より低い総パワー値pが算出される可能性を考慮して、所定値thrが不当に低い値とならないように補正するためのものである。係数kは、例えば累積値バッファに格納されている総パワー値pの累積値aの標準偏差の2倍の値とすることができる。
【0112】
次に、ステップ516で、カウンタ値tをインクリメントしてステップ100へ戻り、ステップ102〜ステップ106の処理を経て、ステップ810へ進むと、t>Tとなっているため否定されてステップ500へ進む。ステップ500の処理を経てステップ502へ進む。ステップ502で肯定されてステップ110へ進む。
【0113】
ステップ110で、上記ステップ816で算出された所定値thrを閾値として、累積値バッファに格納された累積値aが所定値thrより大きい場合には、意識低下状態であると判断して、ステップ112へ進んで警報を出力し、累積値aがthr以下の場合には、ステップ100へ戻る。
【0114】
以上説明したように、第6の実施の形態における意識低下運転検出装置によれば、実際の走行により検出された操舵角データにより算出される総パワー値に基づいて、意識低下状態を判定するための閾値(所定値thr)を算出する場合において、運転状態が安定しているときの操舵角データに基づいて所定値を算出するため、意識低下時と覚醒時との相違をより明確に判断できる所定値を算出することができる。
【0115】
なお、第6の実施の形態においても、第4の実施の形態と同様に、算出した所定値を所定値の初期値として、車速やヨーレートの値に基づいて所定値を補正するようにしてもよい。
【0116】
なお、上記の実施の形態では、検出する物理量を操舵角とする場合について説明したが、ヨーレート、横位置、車間距離、及び操舵角速度等の意識低下時に変化が現われる信号であればよい。
【0117】
また、上記実施の形態では、総パワー値を算出する所定周波数帯域を、検出される操舵周波数の略全周波数帯域とする場合について説明したが、総パワー値の算出に加算したくない周波数帯域の重み係数を「0」とすることにより、所望の周波数帯域のパワー値のみから総パワー値を算出するようにすることもできる。
【0118】
また、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、予め算出されて重み係数DBに記憶された重み係数を総パワー値の算出に使用する場合について説明したが、意識低下時の周波数分布及び覚醒時の周波数分布を予め記憶しておき、総パワー値の算出の際に、記憶しておいた意識低下時の周波数分布及び覚醒時の周波数分布から重み係数を算出するようにしてもよい。
【0119】
また、上記実施の形態では、ドライバが意識低下状態であると判断された場合に、警報を出力する場合について説明したが、ブレーキをかけるように制御する等、他の方法によりドライバの運転を支援するものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】第1の実施の形態に係る意識低下運転検出装置の構成を示す概略図である。
【図2】第1の実施の形態における重み係数の算出方法を説明するための図である。
【図3】第1の実施の形態の意識低下状態検出の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】第2の実施の形態における重み係数の算出方法を説明するための図である。
【図5】第3の実施の形態に係る意識低下運転検出装置の構成を示す概略図である。
【図6】第3の実施の形態の意識低下状態検出の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】第4の実施の形態に係る意識低下運転検出装置の構成を示す概略図である。
【図8】第4の実施の形態の意識低下状態検出の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図9】第5の実施の形態に係る意識低下運転検出装置の構成を示す概略図である。
【図10】第5の実施の形態の意識低下状態検出の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図11】第5の実施の形態における車速の重み係数付線形和算出のための重み係数の一例を示す図である。
【図12】第6の実施の形態に係る意識低下運転検出装置の構成を示す概略図である。
【図13】第6の実施の形態の意識低下状態検出の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図14】環境の違いによる意識低下の影響を示す図である。
【符号の説明】
【0121】
10、210、410、610、710 意識低下運転検出装置
12 操舵角センサ
14、214、414、614、714 コンピュータ
16 警報装置
18 周波数分析部
20 重み係数DB
22 総パワー値算出部
24、424、624、724 判定部
220 周波数分布(ld)DB
226 重み係数算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行状態またはドライバが自車両を操舵したときの操舵状態を示す物理量を連続して検出し、検出した物理量の時系列データを出力する検出手段と、
前記検出手段により出力された物理量の時系列データの周波数分析を行って、周波数帯域毎のパワー値の分布で示される周波数分布を算出する周波数分析手段と、
意識低下時の前記周波数分布と、覚醒時の前記周波数分布との相違度が大きいほど重くなるように算出された前記周波数帯域毎の重み係数を、対応する前記周波数帯域毎のパワー値に乗じた値を所定周波数帯域にわたって加えた総和を総パワー値として算出する総パワー値算出手段と、
前記総パワー値算出手段により算出された総パワー値の所定時間内の和が所定値以上かを判定することによって、前記ドライバの意識低下状態を判定する判定手段と、
を含む意識低下運転検出装置。
【請求項2】
自車両の走行状態またはドライバが自車両を操舵したときの操舵状態を示す物理量を連続して検出し、検出した物理量の時系列データを出力する検出手段と、
前記検出手段により出力された物理量の時系列データの周波数分析を行って、周波数帯域毎のパワー値の分布で示される周波数分布を算出する周波数分析手段と、
意識低下時の前記周波数分布と、走行開始から所定時間内に前記検出手段により出力された物理量の初期の時系列データから得られる覚醒時の周波数分布との相違度が大きいほど重くなるように算出された前記周波数帯域毎の重み係数を、対応する前記周波数帯域毎のパワー値に乗じた値を所定周波数帯域にわたって加えた総和を総パワー値として算出する総パワー値算出手段と、
前記総パワー値算出手段により算出された総パワー値の所定時間内の和が所定値以上かを判定することによって、前記ドライバの意識低下状態を判定する判定手段と、
を含む意識低下運転検出装置。
【請求項3】
前記重み係数を帯域の情報量に基づいて算出する請求項1または請求項2記載の意識低下運転検出装置。
【請求項4】
前記重み係数を以下の式に従って算出する請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の意識低下運転検出装置。
【数1】

ただし、pdは意識低下時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値を意識低下時の周波数分布における前記所定周波数帯域のパワー値の総和で除して得られる帯域確率、paは覚醒時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値を覚醒時の周波数分布における前記所定周波数帯域のパワー値の総和で除して得られる帯域確率である。
【請求項5】
前記重み係数を以下の式に従って算出する請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の意識低下運転検出装置。
【数2】

ただし、μdiは、意識低下時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の平均値、σdiは、意識低下時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の分散値、μaiは、覚醒時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の平均値、σaiは、覚醒時の周波数分布における周波数帯域iのパワー値の分散値である。
【請求項6】
前記所定値を、走行開始から所定期間内の前記和の平均値とした請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の意識低下運転検出装置。
【請求項7】
前記所定値を、前記車両の車速及びヨーレートに基づいて運転状態が安定していると判定されたときの累積期間が予め定めた期間以上となったときの前記累積期間内の前記和の平均値とした請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の意識低下運転検出装置。
【請求項8】
前記累積期間を、前記車両の車速及びヨーレートに基づいて運転状態が安定していると判定されたときの連続期間が予め定めた期間以上となったときに開始する請求項7記載の意識低下運転検出装置。
【請求項9】
前記車両の車速が予め定めた値より小さく、かつ前記車両のヨーレートが予め定めた値より大きい場合に、運転状態が安定していないと判定する請求項7または請求項8記載の意識低下運転検出装置。
【請求項10】
前記所定値を、走行開始から所定期間内における車速及びカーブの大きさに基づいて補正する請求項1〜請求項9のいずれか1項記載の意識低下運転検出装置。
【請求項11】
前記所定値を、車速、ヨーレート、ヨー角、横方向加速度のうち少なくとも1つ以上の値に基づいて算出する請求項1〜請求項10のいずれか1項記載の意識低下運転検出装置。
【請求項12】
前記所定値を以下の式に従って算出する請求項1〜請求項11のいずれか1項記載の意識低下運転検出装置。
【数3】

ただし、thrは、初期設定された前記所定値、vは、現在の車速、vは、走行開始から所定期間内における車速の平均値、yは、現在の車両のヨーレート、yは、走行開始から所定期間内におけるヨーレートの平均値、θは、ヨーレートの時間積分により求められるヨー角、及びθは、ヨー角の平均値である。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれか1項記載の意識低下運転検出装置と、
前記判定手段によって意識低下状態が検出されたときに、覚醒状態に復帰させるための支援を行う支援手段と、
を含む運転支援装置。
【請求項14】
前記所定時間内において、前記ドライバが車両に設けられたステアリング以外の機器を操作した場合、前記ドライバが急激なアクセル操作を行った場合、車両の速度が所定速度以下の場合、及び運転を支援するための他の装置が作動した場合の何れかの場合に、前記支援手段により行われる支援を停止させる支援停止手段を更に含む請求項13記載の運転支援装置。
【請求項15】
コンピュータを、
自車両の走行状態またはドライバが自車両を操舵したときの操舵状態を示す物理量を連続して検出し、検出した物理量の時系列データを出力する検出手段により出力された物理量の時系列データの周波数分析を行って、周波数帯域毎のパワー値の分布で示される周波数分布を算出する周波数分析手段と、
意識低下時の前記周波数分布と、覚醒時の前記周波数分布との相違度が大きいほど重くなるように算出された前記周波数帯域毎の重み係数を、対応する前記周波数帯域毎のパワー値に乗じた値を所定周波数帯域にわたって加えた総和を総パワー値として算出する総パワー値算出手段と、
前記総パワー値算出手段により算出された総パワー値の所定時間内の和が所定値以上かを判定することによって、前記ドライバの意識低下状態を判定する判定手段と、
して機能させるための意識低下運転検出プログラム。
【請求項16】
コンピュータを、
自車両の走行状態またはドライバが自車両を操舵したときの操舵状態を示す物理量を連続して検出し、検出した物理量の時系列データを出力する検出手段により出力された物理量の時系列データの周波数分析を行って、周波数帯域毎のパワー値の分布で示される周波数分布を算出する周波数分析手段と、
意識低下時の前記周波数分布と、走行開始から所定時間内に前記検出手段により出力された物理量の初期の時系列データから得られる覚醒時の周波数分布との相違度が大きいほど重くなるように算出された前記周波数帯域毎の重み係数を、対応する前記周波数帯域毎のパワー値に乗じた値を所定周波数帯域にわたって加えた総和を総パワー値として算出する総パワー値算出手段と、
前記総パワー値算出手段により算出された総パワー値の所定時間内の和が所定値以上かを判定することによって、前記ドライバの意識低下状態を判定する判定手段と、
して機能させるための意識低下運転検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−289251(P2009−289251A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288740(P2008−288740)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】