説明

感光性樹脂印刷版原版

【課題】原画フィルムを必要とすることなくレリーフ像を形成することが可能であり、印刷版の表面粘着性および印刷時のレリーフ表面の剥離を低減することができる感光性樹脂印刷版原版を提供すること。
【解決手段】支持体上に、親水基を有するポリアミドおよびエチレン性不飽和結合を有する化合物を含有する感光性樹脂層(A)、少なくとも1層の中間層(B)および赤外線吸収物質を含有する水不溶性の感熱マスク層(C)をこの順に有する感光性樹脂印刷版原版であって、前記中間層(B) がポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコール、ならびに親水基を有するポリアミドを含有することを特徴とする感光性樹脂印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂印刷版原版に関する。さらに詳しくは、コンピューター製版技術で樹脂凸版印刷版を作製する際に使用される感光性樹脂印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
各種印刷の分野において、デジタル画像形成技術として知られているコンピューター製版技術(コンピューター・トゥ・プレート(CTP)技術)は、一般的なものとなってきている。CTP技術の一つとして、感光性樹脂層上に紫外光に対して不透明な感熱マスク層をあらかじめ設けておき、感熱マスク層に赤外レーザーを照射して感熱マスク層を融除し、画像マスクを形成する方法がある。
【0003】
CTP技術に用いられる感光性樹脂印刷版原版として、支持体上に、水に溶解または分散可能な樹脂および紫外光により硬化可能なモノマーを含有する感光性樹脂層(A)、水に溶解または分散可能な樹脂を含有する接着力調整層(B)および赤外線吸収物質を含有する水不溶性の感熱マスク層(C)がこの順に積層されていることを特徴とする感光性樹脂印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、感熱マスク層へのシワの発生を抑制する手段として、例えば、接着力調整層が鹸化度60モル%以上の部分鹸化ポリ酢酸ビニルを含有する感光性樹脂印刷版原版(例えば、特許文献2参照)や、接着力調整層がアミン化合物を含有する感光性樹脂印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−163925号公報
【特許文献2】特開2005−326442号公報
【特許文献3】特開2009−139598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
感光性樹脂層と感熱マスク層との間に、感光性樹脂層と極性が類似する接着力調整層などの中間層を設ける場合、経時により感光性樹脂成分が中間層に移行し、露光、現像を経て作製される印刷版表面に、中間層が残存する場合がある。一般に、ポリビニルアルコールおよび部分鹸化ポリビニルアルコールは結晶化度が高く、粘着性も少ないため、これらを含有する中間層が印刷版表面に残存する場合、表面粘着性が少なく、印刷時の版表面へのゴミ付着などが抑制され、品位の良い印刷物が得られる。しかしながら、感光性樹脂層が親水基を有するポリアミドを含有する場合、ポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールを含有する中間層と感光性樹脂層との密着性が低いため、印刷中に中間層が剥がれやすく、剥がれた中間層成分が印刷物に付着するなど、印刷物の品位が低下する課題があることがわかった。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、原画フィルムを必要とすることなくレリーフ像を形成することが可能であり、印刷版の表面粘着性および印刷時のレリーフ表面の剥離を低減することができる感光性樹脂印刷版原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、主として以下の構成を有する。すなわち、支持体上に、親水基を有するポリアミドおよびエチレン性不飽和結合を有する化合物を含有する感光性樹脂層(A)、少なくとも1層の中間層(B)および赤外線吸収物質を含有する水不溶性の感熱マスク層(C)をこの順に有する感光性樹脂印刷版原版であって、前記中間層(B)がポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコール、ならびに親水基を有するポリアミドを含有することを特徴とする感光性樹脂印刷版原版である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の感光性樹脂印刷版原版によれば、原画フィルムを必要とすることなくレリーフ像を形成することが可能であり、印刷版の表面粘着性および印刷時のレリーフ表面の剥離を低減することができる。このため、品位の高い印刷物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
本発明の感光性樹脂印刷版原版は、支持体上に、感光性樹脂層(A)、中間層(B)および感熱マスク層(C)をこの順に有する。各層を2層以上有してもよい。
【0011】
本発明における支持体としては、寸法安定なものが好ましく、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属板やポリエステルなどのプラスチックシート、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴムシートなどが挙げられる。また、感光性樹脂層(A)との接着性を向上させる易接着加工を表面に施したものでもよいし、表面に接着層を有してもよい。支持体の厚みは50μm〜1mmが好ましい。接着層を有する場合、接着層の厚みは1〜100μmが好ましい。
【0012】
本発明における感光性樹脂層(A)は、親水基を有するポリアミドおよびエチレン性不飽和結合を有する化合物を含有し、紫外光、好ましくは300〜400nmの光を照射することにより光硬化する。さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。感光性樹脂層(A)は、感光性樹脂組成物から形成され、厚さ0.1〜10mmのシート状に成形したものが好ましい。
【0013】
本発明における感光性樹脂層(A)は、親水基を有するポリアミドを含有する。かかるポリアミドは、感光性樹脂組成物を固体状態にして形態を保持するための担体樹脂としての機能を有し、また、感光性樹脂層(A)の水またはアルコールによる現像性を付与するために使用される。
【0014】
親水基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基やその塩、アルキレンオキシ基(エチレンオキシ基、ポリ(エチレンオキシ)基、プロピレンオキシ基、ポリ(プロピレンオキシ)基など)、アミノ基、アンモニウム基、スルホン酸基やその塩、リン酸基やその塩などが挙げられる。
【0015】
このような親水基を有するポリアミドとして、親水基を主鎖または側鎖に有するものが好ましく、例えば、ε−カプロラクタムと親水基を有する成分を共重合した共重合ポリアミドや、ポリアミドのアミド結合中の水素原子を親水基により置換した変性ポリアミドなどが挙げられる。このようなポリアミドは、アミド結合以外にエステル結合やウレタン結合を有していてもよい。
【0016】
前記共重合ポリアミドとしては、例えば、特開昭48−72250号公報に記載される、側鎖にスルホン酸基またはその塩を有するポリアミド、特開昭55−74537号公報に記載される、ポリ(エチレンオキシ)基を有する共重合ポリアミド、特開昭58−117537号公報に記載される、ポリ(エチレンオキシ)基を有する共重合ポリエステルアミド、特開昭50−7605号公報に記載される、塩基性窒素を有するポリアミドなどが挙げられる。また、前記変性ポリアミドとしては、例えば、特開昭39−3143号公報に記載される、ポリアミドまたは共重合ポリアミドのアミド結合(−NHCO−)の水素原子の少なくとも一部をメトキシメチル基(−CHOCH)で置換したN−メトキシメチル化ポリアミドなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0017】
前記ポリアミドの中でも、主鎖または側鎖にアミノ基を有するポリアミド、例えばピペラジン環を有するものや、ポリエチレングリコールなどのポリエーテルセグメント(ポリ(アルキレンオキシ)基)を有するポリアミドが好ましく用いられる。
【0018】
本発明において、感光性樹脂層(A)中の親水基を有するポリアミドの含有量は、感光性樹脂層(A)の全固形分中30重量%〜70重量%が好ましい。
【0019】
本発明における感光性樹脂層(A)は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を含有する。エチレン性不飽和結合を有する化合物は、一般的に、ラジカル重合により架橋する。エチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、アクリル基および/またはメタクリル基を有する化合物が挙げられる。具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、β−ヒドロキシ−β’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート、クロロエチル(メタ)アクリレート、クロロプロピル(メタ)アクリレートなどのハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのフェノキシアルキル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類、2、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2,2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのエチレン性不飽和結合を1個だけ有する化合物、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルに不飽和カルボン酸や不飽和アルコールなどのエチレン性不飽和結合と活性水素を持つ化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの不飽和エポキシ化合物とカルボン酸やアミンのような活性水素を有する化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどの多価(メタ)アクリルアミド、ジビニルベンゼンなどの多価ビニル化合物などの2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。なお、文中の(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルはアクリルまたはメタクリルを意味する。
【0020】
本発明において、感光性樹脂層(A)中のエチレン性不飽和結合を有する化合物の含有量は、感光性樹脂層(A)の全固形分中15重量%〜55重量%が好ましい。
【0021】
本発明における感光性樹脂層(A)は、光重合開始剤を含有することが好ましい。光によって重合性の炭素−炭素不飽和基を重合させることができる光重合開始剤を含有することにより、紫外光の照射によって前記エチレン性不飽和結合を有する化合物を架橋させ、感光性樹脂層を容易に光硬化させることができる。光重合開始剤としては、自己開裂や水素引き抜きによってラジカルを生成する機能を有するものが好ましい。このような光重合開始剤として、例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、アセトフェノン類、ジアセチル類などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0022】
本発明において、感光性樹脂層(A)中の光重合開始剤の含有量は、感光性樹脂層(A)の全固形分中0.5重量%〜5重量%が好ましい。
【0023】
感光性樹脂層(A)には、その他の成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類を含有してもよく、相溶性や柔軟性を向上させることができる。また、例えば、フェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類などの従来公知の重合禁止剤を含有してもよく、熱安定性を向上させることができる。また、染料、顔料、界面活性剤、紫外線吸収剤、香料、酸化防止剤などを含有することもできる。
【0024】
本発明における感熱マスク層(C)は、(1)赤外レーザーを効率よく吸収して、その熱によって該層の一部または全部が蒸発または融除し、レーザーの照射部分と未照射部分の光学濃度に差が生じる、すなわち照射部分の光学濃度の低下が起こる働きと、(2)紫外光を実用上遮断する働きを有するものである。なお、ここでいう紫外光を実用上遮断するとは、感熱マスク層(C)の光学濃度(optical density)が2.0以上のことを指し、2.5以上であることがより好ましい。光学濃度は一般にDで表され、以下の式で定義される。
D=log10(100/T)=log10(I/I)
(ここで、Tは透過率(単位は%)、Iは透過率測定の際の入射光強度、Iは透過光強度である。)
【0025】
光学濃度の測定には、入射光強度を一定にして透過光強度の測定値から算出する方法と、ある透過光強度に達するまでに必要な入射光強度の測定値から算出する方法が知られているが、本発明における光学濃度は前者の透過光強度から算出した値をいう。光学濃度は、オルソクロマチックフィルターを用いて、マクベス透過濃度計「TR−927」(コルモルゲンインスツルメンツ(Kollmorgen Instruments Corp.)社製)により測定することができる。
【0026】
感熱マスク層(C)は、赤外線吸収物質を含有する。さらに、熱によって蒸発または融除する熱分解性化合物と紫外光を遮断する紫外線吸収物質を含有してもよい。
【0027】
赤外線吸収物質としては、赤外光を吸収して熱に変換し得る物質であれば、特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、シアニンブラックなどの黒色顔料、フタロシアニン、ナフタロシアニン系などの緑色顔料、ローダミン色素、ナフトキノン系色素、ポリメチン系染料、ジイモニウム塩、アゾイモニウム系色素、カルコゲン系色素、カーボングラファイト、ジアミン系金属錯体、ジチオール系金属錯体、フェノールチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、アリールアルミニウム金属塩類、結晶水含有無機化合物、硫酸銅、硫化クロム、珪酸塩化合物や、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化タングステンなどの金属酸化物、これらの金属の水酸化物、硫酸塩、さらにビスマス、スズ、テルル、鉄、アルミニウムの金属粉などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0028】
これらの中でも、光熱変換効率、経済性、取扱い性および後述する紫外線吸収機能の観点から、カーボンブラックが特に好ましい。カーボンブラックは、その製造方法からファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ランプブラックなどに分類される。これらの中でも、ファーネスブラックは粒径その他の面で様々なタイプのものが市販されており、商業的にも安価であるため、好ましく使用される。
【0029】
本発明において、感熱マスク層(C)における赤外線吸収物質の含有量は、光熱変換効率の観点から、感熱マスク層(C)の全固形分中2重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましい。一方、感熱マスク層(C)の耐傷性の観点から、75重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましい。
【0030】
層(C)に好ましく使用される熱分解性化合物としては、例えば、熱分解しやすい高分子化合物やニトロ化合物、有機過酸化物、アゾ化合物、ジアゾ化合物あるいはヒドラジン誘導体、および赤外線吸収物質の項で列挙した金属あるいは金属酸化物が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。塗工性の観点などから高分子化合物が好ましく、例えば、アクリル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂は比較的熱分解しやすく、一般的なアクリル樹脂の熱分解温度は190℃〜250℃である。アクリル樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群から選ばれる1つ以上のモノマーの重合体あるいは共重合体のことをいう。アクリル樹脂の中でも、水やアルコールに溶解しないグレードを選択することによって、下層の感光性樹脂層(A)への物質移動を抑制することができるので、水/アルコール不溶型のアクリル樹脂がさらに好ましく用いられる。本発明において、感熱マスク層(C)における熱分解性化合物の含有量は、感熱マスク層(C)の全固形分中20〜50重量%が好ましい。
【0031】
層(C)に好ましく使用される紫外線吸収物質としては特に限定されないが、好ましくは、300nm〜400nmの領域に吸収を有する化合物である。例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、カーボンブラック、および赤外線吸収物質で列挙した金属あるいは金属酸化物などを挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。中でもカーボンブラックは、紫外光領域だけでなく赤外光領域にも吸収特性があり、光熱変換物質としても機能するので、特に好ましく用いられる。本発明において、感熱マスク層(C)における紫外線吸収物質の含有量は、感熱マスク層(C)の全固形分中10〜40重量%が好ましい。
【0032】
本発明に使用する感熱マスク層(C)は水不溶性である。ここでいう水不溶性とは、感熱マスク層(C)単体では水に溶解も分散しせず、水中で膜形状を保つことをいう。具体的には、感光性樹脂印刷版原版または感熱マスク層(C)を25℃の水に浸漬したときに、感熱マスク層(C)が24時間以上溶解せずに膜形状を維持することをいう。感熱マスク層(C)を水不溶性とすることにより、高湿度(相対湿度70%以上)環境下においても感熱マスク層(C)の膨潤を抑制することができる。また、感熱マスク層(C)が水に溶解または分散する場合、親水基を有するポリアミドを含有する感光性樹脂層(A)や中間層(B)と極性が類似するため、これらの層間で物質移動が起こり、各層固有の機能を低下させる場合がある。例えば(1)感熱マスク層(C)に感光性樹脂層(A)のエチレン性不飽和結合を有する化合物などが移動すると、感熱マスク層(C)のレーザー融除性が損なわれることになるし、(2)感光性樹脂層(A)中に紫外線吸収物質が混入すると紫外光による硬化が阻害されることになるが、感熱マスク層(C)が水不溶性である場合は上述の現象は発生しにくい。
【0033】
感熱マスク層(C)に水不溶性を付与する方法は特に限定されないが、例えば、感熱マスク層(C)の全組成を疎水性成分により構成する方法、硬化性樹脂を架橋させる方法などを挙げることができる。後者の方法は、感熱マスク層(C)を構成する成分の高分子化により、層間物質移動をさらに起こりにくくする効果や、感熱マスク層(C)に耐傷性を付与する効果も得られるので好ましい。
【0034】
感熱マスク層(C)に硬化性樹脂を用いる場合、樹脂の架橋方法は特に限定されないが、紫外光を実用上遮断する感熱マスク層(C)における光硬化は困難あるいは不効率であり、熱硬化が好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、架橋性ポリエステル樹脂、架橋性ポリアミド樹脂などが挙げられる。また、多官能イソシアネート系化合物および多官能エポキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、尿素系樹脂、アミン系化合物、アミド系化合物、水酸基含有化合物、カルボン酸化合物、チオール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との組み合わせが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0035】
多官能イソシアネート系化合物を用いた場合、反応が短時間で完結しないので、高温でキュアする必要があるが、熱分解性化合物としてニトロセルロースを用いる場合、その分解温度が180℃であるため、それ以上の温度でキュアすることができないという制約がある。従って、架橋方法としては、多官能エポキシ化合物と、尿素系樹脂、アミン系化合物、アミド系化合物、水酸基含有化合物、カルボン酸化合物、チオール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との組み合わせが好ましく使用される。
【0036】
多官能エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0037】
また、尿素系樹脂としては、例えば、ブチル化尿素樹脂、ブチル化メラミン樹脂、ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチル化尿素メラミン共縮合樹脂、アミノアルキッド樹脂、iso−ブチル化メラミン樹脂、メチル化メミニン樹脂、ヘキサメトキシメチロールメラミン、メチル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチル化ベンゾグアナミン樹脂などが挙げられる。アミン系化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、メタキシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミンなどが挙げられる。アミド系化合物としては、例えば、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるポリアミド系硬化剤やジシアンジアミドなどが挙げられる。水酸基含有化合物としては、例えば、フェノール樹脂、多価アルコールなどが挙げられる。カルボン酸化合物としては、例えば、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ドデシニルコハク酸、ピロメリット酸、クロレン酸、マレイン酸、フマル酸やこれらの無水物などが挙げられる。チオール系化合物としては、例えば、多価チオールなどが挙げられる。
【0038】
これら熱硬化性樹脂の含有量は、水不溶性を付与するために十分な架橋構造を形成する観点から、感熱マスク層(C)中0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましい。一方、感熱マスク層(C)を容易に除去する観点から、感熱マスク層(C)中20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。
【0039】
赤外線吸収物質としてカーボンブラックなどの顔料を用いる場合は、その分散を行いやすくするため、可塑剤、界面活性剤や分散助剤を含有してもよい。
【0040】
なお、感熱マスク層(C)の膜厚は0.5〜5μmが好ましい。
【0041】
本発明の感光性樹脂印刷版原版は、感光性樹脂層(A)と感熱マスク層(C)の間に、ポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコール、ならびに親水基を有するポリアミドを含有する少なくとも1層の中間層(B)を有することを特徴とする。中間層を2層以上有してもよい。例えば、感熱マスク層(C)に接する中間層(B1)と、前述の感光性樹脂層(A)との密着が不十分である場合、両層の間に、感熱性樹脂層(A)との密着により優れる中間層(B2)をさらに形成することもできる。上述の中間層を設けることにより、特に、親水基を有するポリアミドおよびエチレン性不飽和結合を有する化合物を含有する感光性樹脂層(A)、中間層(B)、感熱マスク層(C)の各層間の密着力を最適化し、印刷時のレリーフ表面の剥離を抑制することができる。また、親水基を有するポリアミドを含有することにより、感光性樹脂層(A)と極性が類似する中間層(B)には、感光性樹脂層を構成する成分のうち低分子量のエチレン性不飽和結合を含有する化合物や光重合開始剤が移行しやすい。これにより、結晶化度が高く、粘着性の小さいポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールを含有する中間層(B)が、露光、現像を経て作製される印刷版表面にも残存し、印刷版の表面粘着性が抑制される。
【0042】
印刷版表面に残存する中間層は、印刷版表面のFT−IR分析による官能基分析や飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による表面組成のフラグメント分析、走査電子顕微鏡(SEM)および/または透過型電子顕微鏡(TEM)による印刷版の断面の分析により確認できる。
【0043】
中間層(B)に用いられるポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールとしては、親水基を有するポリアミドと相溶性を有するものが好ましい。ここでいう相溶性とは、ポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールを水とアルコールの混合溶媒に溶解させた溶液と、親水基を有するポリアミドを水とアルコールの混合溶媒に溶解させた溶液とを混合した混合溶液が、24時間後に相分離していない状態である。相溶性の高い樹脂を組み合わせることにより、中間層(B)と感光性樹脂層(A)または感熱マスク層(C)との密着性が均一になり、印刷版の表面粘着性や印刷時のレリーフ表面の剥離を安定して抑制することができる。また、中間層(B)と感光性樹脂層(A)とが均一に密着するため、両層間における部分的な剥離を抑制し、感熱マスク層(C)の破れを抑制することができる。
【0044】
また、前記感熱マスク層(C)に接する中間層1(B1)に用いられるポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールは、鹸化度60モル%以上であることが好ましい。鹸化度が60モル%以上であれば、水素結合により強固な中間層(B)膜を形成するため、UVインキの成分であるエチレン性不飽和結合を有する化合物による膨潤を低減し、印刷時のレリーフ表面の剥離をより抑制することができる。また、印刷版表面の粘着性をより低減することができる。より好ましくは鹸化度75%以上である。なお、中間層1(B1)は、中間層を1層のみ有する場合は、当該中間層を指し、中間層を2層以上有する場合は、複数の中間層の中で最も感熱マスク層(C)側に位置する層を指す。鹸化度は、JIS K6726(1994)に示す方法で測定することができる。
【0045】
中間層(B)のうち、前記感熱マスク層(C)に接する中間層1(B1)に用いられるポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールは、側鎖および/または末端にカルボキシル基を有するものがより好ましい。カルボキシル基を有することにより、親水基を有するポリアミド、好ましくはアミノ基を有するポリアミド、より好ましくはピペラジン環を有するポリアミドとイオン結合を形成し、強固な中間層(B)膜を形成するため、印刷時のレリーフ表面の剥離をより抑制することができる。なお、側鎖および/または末端にカルボキシル基を有するポリビニルアルコールまたは部分鹸化ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールまたは部分鹸化ポリビニルアルコールと酸無水物とを反応させ、ポリビニルアルコールまたは部分鹸化ポリビニルアルコールの水酸基を起点としてカルボキシル基を側鎖に導入することにより容易に得ることができる。
【0046】
中間層(B)に用いられる親水基を有するポリアミドとしては、感光性樹脂層のポリアミドとして例示したポリアミドが適している。親水基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基やその塩、アルキレンオキシ基(エチレンオキシ基、ポリ(エチレンオキシ)基、プロピレンオキシ基、ポリ(プロピレンオキシ)基など)、アミノ基、アンモニウム基、スルホン酸基やその塩、リン酸基やその塩などが挙げられる。これらの親水基の中でも、アルキレンオキシ基やアミノ基が好ましく、ピペラジン環を有することがより好ましい。
【0047】
このような親水基を有するポリアミドとして、親水基を主鎖または側鎖に有するものが好ましく、例えば、側鎖にスルホン酸基またはその塩を有するポリアミド、ポリ(エチレンオキシ)基を有する共重合ポリアミド、ポリ(エチレンオキシ)基を有する共重合ポリエステルアミド、ピペラジン環などアミノ基を有するポリアミド、アミド結合(−NHCO−)の水素原子の少なくとも一部をメトキシメチル基(−CHOCH)で置換したN−メトキシメチル化ポリアミドなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0048】
前記ポリアミドの中でも、主鎖または側鎖にアミノ基を有するポリアミドや、ポリエチレングリコールなどのポリエーテルセグメント(ポリ(アルキレンオキシ)基)を有するポリアミドが好ましく用いられる。アミノ基を有するポリアミドの中でも、ピペラジン環を有するポリアミドがより好ましい。このようなポリアミドを用いることにより、側鎖および/または末端にカルボキシル基を有するポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールとイオン結合を形成し、強固な中間層(B)膜を形成するため、印刷時のレリーフ表面の剥離をより抑制することができる。また、印刷版表面の粘着性をより低減し、印刷物のカスレを低減することができる。
【0049】
前記感光性樹脂層(A)に接する中間層2(B2)に、親水基を有するポリアミドを含有することが好ましい。かかる中間層2(B2)により、感光性樹脂層(A)との密着性がより向上し、印刷時のレリーフ表面の剥離をより抑制し、高品位な印刷物を容易に得ることができる。なお、中間層2(B2)は、中間層を1層のみ有する場合は、当該中間層を指し、中間層を2層以上有する場合は、複数の中間層の中で最も感光性樹脂層(A)側に位置する層を指す。なお、前述の中間層(B1)と感光性樹脂層(A)との密着が不十分である場合、両層の間に、感光性樹脂層(A)との密着により優れる中間層(B2)をさらに形成することが好ましい。これにより、また、中間層(B)と感光性樹脂層(A)との間の剥離を抑制し、感熱マスク層(C)の破れを抑制することができる。
【0050】
本発明において、中間層(B)中の親水基を有するポリアミドの含有量は、ポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールの含有量100重量部に対し、10重量部〜100重量部が好ましい。親水基を有するポリアミドの含有量を10重量部以上とすることにより、中間層(B)と感光性樹脂層(A)との密着性が向上し、印刷時のレリーフ表面剥離をより抑制できる。また、中間層(B)と感光性樹脂層(A)との間の剥離を抑制し、感熱マスク層(C)の破れを抑制することができる。より好ましくは15重量部以上である。また、100重量部以下とすることにより、印刷版の表面粘着性をより低減することができる。より好ましくは50重量部以下である。
【0051】
中間層(B)のうち、前記感熱マスク層(C)に接する中間層1(B1)中の親水基を有するポリアミドの含有量は、前記中間層(B)について記載するとおり、ポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールの含有量100重量部に対し、10重量部〜100重量部が好ましい。一方、中間層(B)を2層以上有する場合、感光性樹脂層(A)に接する中間層2(B2)中の親水基を有するポリアミドの含有量は、印刷時のレリーフ表面剥離をより抑制する観点から、ポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールの含有量100重量部に対し、50重量部以上が好ましく、100重量部以上がより好ましい。
【0052】
中間層(B)には、エチレン性不飽和結合を有する化合物や光重合開始剤、可塑剤、界面活性剤を含有してもよい。
【0053】
本発明において、中間層(B)の膜厚は、露光時の光の屈曲や散乱を抑制し、シャープなレリーフを得る観点から、15μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。一方、中間層(B)を容易に形成する観点から、0.05μm以上が好ましい。膜厚の測定方法としては、単位面積当たりの膜重量により測定する方法や、マイクロメーターにより測定する方法が挙げられる。
【0054】
本発明の感光性樹脂印刷版原版は、支持体上に、前記感熱性樹脂層(A)、少なくとも1層の中間層(B)および感熱マスク層(C)をこの順に有する。必要により、感熱マスク層(C)の上に、さらにカバーフィルム(E)を設けてもよい。カバーフィルム(E)を有することにより、感熱マスク層(C)を外傷から保護することができる。カバーフィルム(E)は、感熱マスク層(C)から剥離可能なものが好ましく、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、フルオロポリマー、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムやシリコーンなどが塗布された剥離紙などが挙げられる。
【0055】
カバーフィルム(E)の膜厚は、25μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。この範囲であれば、取り扱いが容易であり、また、感熱マスク層(C)を外傷から容易に保護することができる。一方、経済的観点からは、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。カバーフィルム(E)の膜厚は、マイクロメーターにより測定することができる。
【0056】
本発明の感光性樹脂印刷版原版は、感熱マスク層(C)とカバーフィルム(E)の間に、さらに(D)剥離補助層を有してもよい。剥離補助層(D)は、感光性樹脂印刷版原版から剥離補助層(D)のみまたはカバーフィルム(E)のみまたはカバーフィルム(E)および剥離補助層(D)両方を容易に剥離せしめる機能を有することが好ましい。カバーフィルム(E)と感熱マスク層(C)が直接積層されており両層間の接着力が強いと、カバーフィルム(E)を剥離できない、または、感熱マスク層(C)ごと剥離してしまう可能性がある。
【0057】
したがって、剥離補助層(D)は、感熱マスク層(C)との接着力が強く、カバーフィルム(E)との接着力が剥離可能な程度に弱い物質、あるいは感熱マスク層(C)との接着力が剥離可能な程度に弱く、カバーフィルム(E)との接着力が強い物質から構成されことが好ましい。なお、カバーフィルム(E)を剥離した後、剥離補助層(D)は感熱マスク層(C)側に残留し最外層になる場合があるので、取り扱いの面から粘着質でないことが好ましい。また、剥離補助層(D)を通して紫外光露光されるため、実質的に透明であることが好ましい。
【0058】
剥離補助層(D)に使用される材料としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂などの、水に溶解または分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。これらの中で、粘着性の面から、鹸化度60〜99モル%の部分鹸化ポリビニルアルコール、アルキル基の炭素数が1〜5のヒドロキシアルキルセルロースおよびアルキルセルロースが特に好ましく用いられる。
【0059】
剥離補助層(D)は、さらに、赤外線で融除しやすくするために、赤外線吸収物質および/または熱分解性化合物を含有してもよい。赤外線吸収物質や熱分解性化合物としては、(C)感熱マスク層(C)の成分として前述したものを使用することができる。また、塗工性や濡れ性向上のために界面活性剤を含有してもよい。
【0060】
剥離補助層(D)の膜厚は、下層の感熱マスク層(C)のレーザー融除性を維持する観点から、6μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。一方、剥離補助層(D)を容易に形成する観点から、0.03μm以上が好ましい。膜厚の測定方法としては、単位面積当たりの膜重量により測定する方法が容易である。
【0061】
感光性樹脂印刷版原版からカバーフィルム(E)を200mm/分の速度で剥離する時、幅1cm当たりの剥離力が0.5g/cm以上が好ましく、1g/cm以上がより好ましい。この範囲であれば、作業中の保護層(E)の剥離を抑制することができる。一方、カバーフィルム(E)の剥離を容易に行う観点から、20g/cm以下が好ましく、15g/cm以下がより好ましい。
【0062】
次に本発明の感光性樹脂印刷版原版の好ましい製造方法を記載する。
【0063】
まず、支持体上に感光性樹脂層(A)を形成する方法としては、例えば、親水基を有するポリアミド、必要によりその他の樹脂を溶媒に溶解した後に、エチレン性不飽和結合を有する化合物、必要により光重合開始剤およびその他添加剤を添加して充分撹拌し、感光性樹脂組成物溶液を得て、この溶液から溶媒を除去した後に、好ましくは接着剤を塗布した支持体上に溶融押し出しすることにより得ることができる。あるいは一部溶媒が残存している感光性樹脂組成物溶液を、接着剤を塗布した支持体上に溶融押し出しし、残存している溶媒を経時によって自然乾燥させることによっても得ることができる。感光性樹脂層(A)の形成に用いられる溶媒は、中間層(A)成分を溶解することができれば特に限定されないが、水、アルコールまたはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0064】
感光性樹脂層(A)または感熱マスク層(C)上に中間層(B)を形成する方法は特に限定されないが、薄膜形成の簡便さから、中間層(B)成分を溶媒に溶解した溶液を感光性樹脂層(A)または感熱マスク層(C)上に塗布し、溶媒を除去する方法が好ましく用いられる。中間層(B)の形成に用いられる溶媒は、中間層(B)成分を溶解することができれば特に限定されないが、水、アルコールまたはこれらの混合物が好ましく用いられる。水やアルコールを用いることにより、水不溶性の感熱マスク層(C)上に溶液を塗布しても、感熱マスク層(C)が浸食されないため好ましい。また、大気圧下における溶媒の沸点は、塗布中の揮発を抑制する観点から80℃以上が好ましい。一方、溶媒の除去を容易に行う観点から、200℃以下が好ましい。
【0065】
中間層(B)を2層以上形成する場合、薄膜形成の簡便さから、感光性樹脂層(A)に接する中間層(B2)成分を溶媒に溶解した溶液を感光性樹脂層(A)に塗布し、溶媒を除去した後、少なくとも中間層(B2)を含む中間層(B)上に、感熱マスク層(C)に接する中間層(B1)成分を溶媒に溶解した溶液を塗布し、溶媒を除去する方法や、感熱マスク層(C)上に感熱マスク層(C)と接する中間層(B1)成分を溶媒に溶解した溶液を塗布し、溶媒を除去した後、少なくとも中間層(B1)を含む中間層(B)上に感光性樹脂層(A)に接する中間層(B2)成分を溶媒に溶解した溶液を塗布し、溶媒を除去する方法が好ましく用いられる。
【0066】
次に、感熱マスク層(C)を形成する方法としては、例えば、カーボンブラックなど赤外線吸収物質を溶媒に分散させた分散液を用意し、その他の感熱マスク層成分をそのまま、あるいは適当な溶媒に溶解させた溶液と混合して塗布し、溶媒を除去し、必要により熱硬化させる方法が好ましく用いられる。感熱マスク層(C)の形成に用いられる溶媒は、感熱マスク層(C)成分である熱分解性化合物や硬化性樹脂を溶解することができれば特に限定されないが、大気圧下における沸点が80℃以上200℃以下であるものが好ましい。
【0067】
感熱マスク層(C)または保護層(E)上に剥離補助層(D)を形成する方法は特に限定されないが、薄膜形成の簡便さから、剥離補助層(D)成分を溶媒に溶解した溶液を感熱マスク層(C)または保護層(E)上に塗布し、溶媒を除去する方法が好ましく用いられる。剥離補助層(D)の形成に用いられる溶媒は、剥離補助層(D)成分を溶解することができれば特に限定されないが、水、アルコールまたはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0068】
前記各層を積層することにより、本発明の感光性樹脂印刷版原版を得ることができる。
【0069】
本発明の感光性樹脂印刷版原版の第1の例は、支持体上に感光性樹脂層(A)、中間層(B)、感熱マスク層(C)、剥離補助層(D)および保護層(E)を順次積層した構造を有する原版である。例えば、保護層(E)上に順次塗布法で、層(D)、層(C)および層(B)を積層した感熱マスク層(C)を有するシートと、支持体上に層(A)を積層した感光性樹脂シートとをラミネートすることによって得ることができる。ラミネート方法としては特に限定されず、例えば、層(A)あるいは層(B)の表面を水および/またはアルコールで膨潤させ、感熱マスクシートと感光性樹脂シートとを貼り合わせる方法、層(A)と同じ、あるいは類似組成の高粘度の液体を、感光性樹脂シートと感熱マスクシートの間に流し込んで両者を貼り合わせる方法、常温下であるいは加熱しながらプレス機でプレスする方法などが挙げられる。
【0070】
第2の例は、支持体上に感光性樹脂層(A)、中間層(B)および感熱マスク層(C)を順次積層した構造を有する原版である。例えば、支持体上に感光性樹脂層(A)を積層した感光性樹脂シートに、層(B)成分の溶液を塗布し、乾燥させて、次いで、感熱マスク層(C)成分の溶液または分散液を塗布し、加熱して硬化させることによって得ることができる。別の方法として、剥離紙に同様の塗布法で層(C)および層(B)を順次積層した感熱マスク層(C)を有するシートと、支持体上に層(A)を積層した感光性樹脂シートとを用意し、次いで、層(A)が層(B)と接するように両者をラミネートした後、剥離紙を剥離することによって得ることもできる。剥離した剥離紙は、同目的で再利用できるという利点がある。
【0071】
第3の例は、支持体上に感光性樹脂層(A)、中間層(B)、感熱マスク層(C)、剥離補助層(D)を順次積層した構造を有する原版である。この原版は、例えば、第1の例で得られた原版から保護層(E)を剥離することによって得ることができる。この例では、保護層(E)を再利用できるという利点がある。
【0072】
第4の例は、支持体上に感光性樹脂層(A)、中間層(B)、感熱マスク層(C)、保護層(E)を順次積層した構造を有する原版である。例えば、保護層(E)上に順次塗布法で層(C)および層(B)を積層した感熱マスクシートと、支持体上に層(A)を積層した感光性樹脂シートとをラミネートすることによって得ることができる。
【0073】
以上のようにして得られた感光性樹脂印刷版原版は、少なくとも(1)上述の感光性樹脂印刷版原版を用い、(2)赤外レーザーで感熱マスク層(C)に像様照射することによって画像マスク(C’)を形成する工程、(3)形成された画像マスク(C’)側から紫外光を用いて露光し、感光性樹脂層(A)に潜像を形成する工程、(4)水を主成分とする液により現像処理し、画像マスク(C’)および紫外光未露光部の感光性樹脂層(A)を除去する工程を経て、樹脂凸版印刷版を製造することができる。
【0074】
層(D)および/または層(E)が存在する場合には、少なくとも層(E)を剥離した後、感熱マスク層(C)に赤外レーザーを画像状に像様照射して、画像マスク(C’)を形成することが好ましい。より好ましくは、層(D)と層(E)が存在し、層(E)のみを剥離した後、感熱マスク層(C)に赤外レーザーを画像状に像様照射して、画像マスク(C’)を形成することである。
【0075】
(2)赤外レーザーで感熱マスク層(C)に像様照射して画像マスク(C’)を形成する工程とは、赤外レーザーを画像データに基づきON/OFFさせて、感熱マスク層(C)に対して走査照射する工程のことである。感熱マスク層(C)は、赤外レーザーが照射されると赤外線吸収物質の作用で熱が発生し、その熱の作用で熱分解性化合物が分解して感熱マスク層(C)が除去、すなわちレーザー融除される。レーザー融除された部分は、光学濃度が大きく低下し、紫外光に対して実質的に透明になる。画像データに基づき、感熱マスク層(C)を選択的にレーザー融除する事によって、感光性樹脂層(A)に潜像を形成しうる画像マスク(C’)が得られる。
【0076】
赤外レーザー照射には、発振波長が750nm〜3000nmの範囲にあるものが用いられる。このようなレーザーとしては、例えば、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ペロブスカイトレーザー、Nd−YAGレーザーやエメラルドガラスレーザーなどの固体レーザー、InGaAsP、InGaAsやGaAsAlなどの半導体レーザー、ローダミン色素などの色素レーザーなどが挙げられる。またこれらの光源をファイバーにより増幅させるファーバーレーザーも用いることができる。なかでも、半導体レーザーは近年の技術的進歩により、小型化し、経済的にも他のレーザー光源よりも有利であるので好ましい。また、Nd−YAGレーザーも高出力であり、歯科用や医療用に多く利用されており、経済的にも安価であるので好ましい。
【0077】
(3)画像マスク(C’)側から紫外光を用いて露光し、感光性樹脂層(A)に潜像を形成する工程とは、上記の方法でレーザー照射された感光性樹脂印刷版材に、紫外光を、好ましくは300〜400nmの波長の紫外光を、レーザーにより画像が形成された画像マスク(C’)を通して全面に露光し、画像マスク(C’)におけるレーザー融除部の下部の感光性樹脂層(A)を選択的に光硬化する工程である。
【0078】
露光の際、感光性樹脂印刷版材の側面からも紫外光が入り込むので、紫外光が透過しないカバーで側面を覆うようにしておくのが良い。300〜400nmの波長を露光できる光源として、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯、ケミカル灯などが使用できる。紫外光で露光された部分の感光性樹脂層(A)は、現像液により溶出分散できない物質に変化する。
【0079】
(4)水を主成分とする液により現像処理し、画像マスク(C’)および紫外光未露光部の感光性樹脂層(A)を除去する工程は、例えば、感光性樹脂層(A)を溶解または分散可能な水を主成分とする現像液を持つブラシ式洗い出し機を用いて現像することで達成される。この工程を経て、紫外光で露光された部分が残存し、レリーフ像を有する樹脂凸版印刷版が得られる。剥離補助層(D)が残存している場合は、この現像工程で除去されることが好ましい。
【0080】
水を主成分とする現像液には、水道水、蒸留水、水のいずれかを主成分とし、炭素数1〜6のアルコールを含有してもよい。ここで、主成分とは、70重量%以上であることを言う。また、これらの液に感光性樹脂層(A)、中間層(B)、感熱マスク層(C)や剥離補助層(D)の成分が混入したものも使用できる。
【0081】
画像マスク(C’)は耐傷性向上の目的で水不溶性にしており、水やアルコールからなる現像液には溶解しない。しかし、コスト的に優位な薄膜状であるため、コシの強い、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)製のブラシで擦ることで、物理的に除去することができる。この際、30℃から70℃の比較的高温の現像水を用いることによって、画像マスク(C’)の除去を効率的に行うことができる。
【0082】
その後、必要に応じ、版表面に付着している現像液を乾燥する処理、感光性樹脂印刷版材の後露光や粘着性除去処理等を行うこともできる。
【0083】
本発明の製造方法で製造された樹脂凸版印刷版は、印刷機に装着できる樹脂凸版印刷版として好ましく使用される。
【実施例】
【0084】
以下に、本発明を実施例で具体的に説明する。
【0085】
<水溶性ポリアミド1の合成>
数平均分子量600のポリエチレングリコールの両末端にアクリロニトリルを付加し、これを水素還元して得たα, ω−ジアミノポリオキシエチレンとアジピン酸との等モル塩60重量部、ε−カプロラクタム20重量部およびヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩20重量部を溶融重合して、相対粘度(ポリマー1g を抱水クロラール100mlに溶解し、25℃で測定した粘度)2.5の水溶性ポリアミド1を得た。この水溶性ポリアミド1は、主鎖に親水基であるポリエチレングリコールセグメントを有する。
【0086】
<水溶性ポリアミド2の合成>
ε−カプロラクタム10重量部、N−(2−アミノエチル)ピペラジンとアジピン酸のナイロン塩90重量部および水100重量部をステンレス製オートクレーブに入れ、内部の空気を窒素ガスで置換した後に180℃ で1時間加熱し、次いで水分を除去して水溶性ポリアミド2を得た。この水溶性ポリアミド2は、主鎖に親水基であるピペラジン環を有する。
【0087】
<変性ポリビニルアルコール1の合成>
冷却管をつけたフラスコ中に、部分鹸化ポリビニルアルコール“ゴーセノール”(登録商標)KL−05(JIS K6726(1994)に示す方法で測定した鹸化度78.5モル%〜82.0モル%、日本合成化学工業(株)製)50重量部、無水コハク酸2重量部およびアセトン10重量部を入れ、60℃で6時間加熱した後、冷却管を外してアセトンを揮発させた。その後、100重量部のアセトンで未反応の無水コハク酸を溶出させる精製工程を2回行った後、60℃で減圧乾燥を5時間行い、水酸基にコハク酸がエステル結合した変性ポリビニルアルコール1を得た。
【0088】
<感光性樹脂層(A1)用の組成物溶液1の調製>
撹拌用ヘラおよび冷却管を取り付けた3つ口フラスコ中に、(a)水溶性ポリアミド1 50重量部、(b)水34重量部および(c)エタノール22重量部を入れ、撹拌しながら90℃で2時間加熱し、水溶性ポリアミド1を溶解させた。70℃に冷却した後、(d)グリシジメタクリレート(“ブレンマー”(登録商標)G、日本油脂(株)製)1.5重量部を添加し、30分間撹拌した。さらに、(e)グリセリンジメタクリレート(“ブレンマー”GMR、日本油脂(株)製)8重量部、(f)2−アクロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸(HOA−MPE、共栄社化学(株)製)24重量部、(g)ポリエチレングリコール(PEG#400、ライオン(株)製)5重量部、(h)N,N, N’,N’−テトラ(2−ヒドロキシ−3−メタアクロイルオキシプロピル)−m−キシレンジアミン5重量部、(i)テトラメチロールメタントリアクリレート(“NKエステル”A−TMM−3、新中村化学(株)製)4重量部、(j)ベンジルジメチルケタール(“イルガキュア”(登録商標)651、チバ・ガイギー(株)製)1.3重量部および(k)ハイドロキノンモノメチルエーテル0.01重量部を添加して30分間撹拌し、感光性樹脂層(A1)用の組成物溶液1を得た。
【0089】
<感光性樹脂シート1の製造>
厚さ250μmのポリエステルフィルム“ルミラー”(登録商標)S10(東レ(株)製)にポリエステル系接着剤(“バイロン”(登録商標)30SS(共重合ポリエステル、東洋紡積(株)製)100重量部と“コロネート”(登録商標)L(多価イソシアネート、日本ポリウレタン工業(株)製)3重量部を混合した溶液)を乾燥後20μmの厚みになるようにバーコーターで塗布し、90℃で10分間乾燥させ支持体を形成した。
【0090】
前記支持体上に、感光性樹脂層(A1)用の組成物溶液1を流延させ、60℃で2時間乾燥し、支持体を含めて厚さ950μmの感光性樹脂シート1を得た。感光性樹脂シート1の膜厚の調整は、支持体上に所定厚みのスペーサーを設置し、スペーサーからはみ出している部分の組成物溶液1を、水平な金尺で掻き出すことによって行った。
【0091】
<剥離補助層(D1)用の組成物溶液1の調製>
前記部分鹸化ポリビニルアルコール“ゴーセノール”KL−05(JIS K6726(1994)に示す方法で測定した鹸化度78.5モル%〜82.0モル%、日本合成化学工業(株)製)11重量部を水55重量部、メタノール14重量部、n−プロパノール10重量部およびn−ブタノール10重量部に溶解させ、剥離補助層(D1)用の組成物溶液1を得た。
【0092】
<感熱マスク層(C1)用の組成物溶液1の調製>
“MA100”(カーボンブラック、三菱化学(株)製)23重量部、“ダイヤナール”(登録商標)BR−95(アルコール不溶性のアクリル樹脂、三菱レイヨン(株)製)15重量部、可塑剤ATBC(アセチルクエン酸トリブチル、(株)ジェイ・プラス製)1重量部およびメチルイソブチルケトン30重量部をあらかじめ混合させたものを、3本ロールミルを用いて混練分散させ、カーボンブラック分散液1を調製した。分散液1にAER6071(エポキシ樹脂、旭化成ケミカルズ(株)製)1重量部、“ユーバン”(登録商標)20SE60(メラミン樹脂、三井化学(株)製)1重量部、“ライトエステル”P−1M(リン酸モノマー、共栄社化学(株)製)0.05重量部およびメチルイソブチルケトン100重量部を添加し30分間撹拌し、感熱マスク層(C1)用の組成物溶液1を得た。
【0093】
<中間層(B)用の組成物溶液a〜lの調製>
表1に記載の組成(重量比)にしたがってポリマーを溶媒に溶解させ、中間層用の組成物溶液とした。なお、使用した溶媒は、中間層用の組成物溶液a〜hとj〜kは水:エタノール=50:50(重量比)の混合溶媒で、中間層用の組成物溶液iは水:エタノール=20:80(重量比)の混合溶媒で、中間層用の組成物溶液lはエタノールである。
【0094】
なお、表1中の“ゴーセノール”AL−06は、JIS K6726(1994)に示す方法で測定した鹸化度が91.0モル%〜94.0モル%である部分鹸化ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製)である。また、L−17は、JIS K6726(1994)に示す方法で測定した鹸化度が48.0モル%〜51.0モル%である部分鹸化ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製)である。また、CM−9000は、親水基を有しないポリアミド(東レ(株)製)である。
【0095】
<感熱マスク要素1の製造>
厚さ100μmのポリエステルフィルム“ルミラー”S10(東レ(株)製)上に、剥離補助層(D1)用の組成物溶液1をバーコーターで乾燥膜厚が0.1μmになるように塗布し、120℃で20秒間乾燥し、剥離補助層(D1)/保護層(E)の積層体を得た。
【0096】
このようにして得られた積層体の剥離補助層(D1)側に感熱マスク層(C1)用の組成物溶液1をバーコーターで乾燥膜厚が1.0μmになるように塗布し、140℃で20秒間乾燥し、感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/保護層(E)の積層体を得た。
【0097】
さらに、感熱マスク層(C1)上に、中間層用の組成物溶液aをバーコーターで乾燥膜厚が1.0μmになるように塗布し、120℃で20秒間乾燥し、中間層(B−a)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/保護層(E)の積層体である感熱マスク要素1を得た。この感熱マスク要素1の光学濃度(オルソクロマチックフィルター、透過モード)は2.5であった。この感熱マスク要素1からセロハンテープで保護層(E)を剥離し、中間層(B−a)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)の積層体を25℃の水に浸漬したところ、感熱マスク層(C1)は1ヶ月経過した後も溶解せずに膜形状を維持しており、水不溶性であった。
各実施例・比較例における評価は次の方法で行った。
【0098】
<ポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールと親水基を有するポリアミドとの相溶性評価>
中間層用の組成物溶液をガラス瓶に入れ、25℃で24時間静置した後、溶液の状態を目視観察し、相溶性の有無を評価した。目視観察により溶液が2相に分離していないものを相溶性ありと評価し、表1に○で示した。一方、目視観察により溶液が2相に分離しているものを相溶性なしと判断し、表1に×で示した。
【0099】
<感熱マスク層破れ評価>
各実施例・比較例で得られた感光性樹脂印刷版原版から保護層(E)を剥離した後、ライトテーブル上で感熱マスク層(C1)を観察した。感光性樹脂層(A)と中間層(B)との密着性が不十分である場合、保護層(E)側とともに部分的に中間層(B)が剥離し、感熱マスク層(C1)に破れが生じる。20cm×20cmの感熱マスク層における50μm以上の感熱マスク層破れの箇所を計数した。10個以下であれば実用上問題ないが、2個以下が好ましく、0個がより好ましい。
【0100】
<印刷版の表面粘着性評価>
各実施例・比較例で得られた印刷版を用いて、LR−3(凸版間欠輪転ラベル印刷機、岩崎鉄工製作所(株)製)により印刷を行った。インキはUV161藍(株式会社T&K TOKA製)、紙はNミラー(王子タック(株)製)を使用し、印刷速度は100rpmとした。1200m印刷した後、印刷版表面を10倍の光学顕微鏡で観察し、付着したゴミの数を計数した。10個以下であれば実用上問題ないが、2個以下が好ましく、0個がより好ましい。
【0101】
<印刷物のカスレ評価>
各実施例・比較例で得られた印刷版を用いて、LR−3(凸版間欠輪転ラベル印刷機、岩崎鉄工製作所(株)製)により印刷を行った。インキはUV161藍(株式会社T&K TOKA製)、紙はNミラー(王子タック(株)製)を使用し、印刷速度は100rpmとした。1200m印刷した後、5cm×5cmのベタ部のうち、マクベス透過濃度計「TR−927」(コルモルゲンインスツルメンツ(Kollmorgen Instruments Corp.)社製)により測定したシアン反射濃度が1.40〜1.60である領域の印刷物を、目視および20倍のルーペを用いて観察した。印刷版の表面粘着性が高い場合や、レリーフ表面剥離が生じる場合、インキ抜けが生じる。以下の評価基準により評価した。
○:印刷物に50〜100μmのインキ抜けが5cm×5cmで3個以下
△:印刷物に50〜100μmのインキ抜けが5cm×5cmが4個〜10個
×:印刷物に50〜100μmのインキ抜けが5cm×5cmが10個より多い。
【0102】
<印刷時のレリーフ表面剥離評価>
各実施例・比較例で得られた3cm×3cmのベタ部を有する印刷版を用いて、M−3印刷適性試験機(宮腰機械製作所(株)製)により200μmの押し込み量で2万回回転させた後、印刷版のレリーフ表面を10倍の光学顕微鏡で観察し、200μm以上の傷、剥がれの数を計測した。10個以下であれば実用上問題ないが、2個以下が好ましく、0個がより好ましい。
【0103】
(実施例1)
上記した感光性樹脂シート1の感光性樹脂層(A1)上に、水/エタノール=70/30重量%の混合溶媒をバーコーター#20を用いて塗布して感光性樹脂層(A1)を膨潤させ、感熱マスク要素1の感熱マスク層(C1)が感光性樹脂層(A1)に接するようにローラー圧着し、1週間静置して、支持体/感光性樹脂層(A1)/中間層(B−a)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/保護層(E)の順に積層された感光性樹脂印刷版原版1を得た。前記方法により感熱マスク層破れを評価したところ、50μm以上の感熱マスク層破れは認められなかった。
【0104】
続いて、保護層(E)を剥離した感光性樹脂印刷版原版を、赤外に発光領域を有するファイバーレーザーを備えた外面ドラム型プレートセッター“CDI SPARK”(エスコ・グラフィックス(株)製)に、支持体側がドラムに接するように装着し、解像度150線のテストパターン(ベタ部を有する画像)を描画し、感熱マスク層(C1)を画像マスク(C1’)に形成した。レーザー出力6W、ドラム回転数300rpmの条件で、ベタ部の感熱マスク層(C1)が実質上レーザー融除され、下層の感光性樹脂層(A1)表面へのレーザー掘削や描画パターンの歪みなどのレーザー出力過多による弊害は発生しなかった。また、感熱マスク層(C1)は架橋されているため外傷に強く、プレートセッターへの装着などの取り扱いが容易であった。続いて、画像マスク(C1’)側から、紫外領域に光源を有する超高圧水銀灯(オーク(株)製)で全面露光した(露光量:900mJ/cm)。次いで、PBT(ポリブチレンテレフタレート)製のブラシを備えたブラシ式現像機FTW430II(東レ(株)製)により25℃の水道水により1.5分間現像を行ったところ、剥離補助層(D1)、画像マスク(C1’)および画像マスクに遮断され紫外線に露光されていない部分の感光性樹脂層(A)が選択的に現像され、画像マスク(C1’) に対してネガティブなレリーフを忠実に再現していた。
【0105】
得られたレリーフには黒色の画像マスク(C1’)が混入しておらず、シャープな形状を示していた。これは感熱マスク層(C1) が架橋されて水不溶性の性質を有しているため、親水性の感光性樹脂層(A1)と混合することがないためである。
【0106】
さらに、得られたレリーフを60℃で10分間乾燥し、その後、紫外領域に光源を有する超高圧水銀灯(オーク(株)製)で全面露光(露光量:900mJ/cm)して、印刷版1を得た。
【0107】
印刷版1の表面をIRI−30型顕微赤外付属装置を備えたFT/IR610赤外分光分析装置(日本分光(株)製)で分析したところ、印刷版1の表面には部分鹸化ポリビニルアルコールの特徴であるシグナル(3360cm−1付近の水酸基に由来するシグナル及び1740cm−1付近のエステル結合に由来するシグナル)が観測され、中間層B−aが保持されていることが確認できた。
【0108】
前記方法により印刷版の表面粘着性、印刷物のカスレおよび印刷時のレリーフ表面剥離を評価した結果を表1に示す。
【0109】
(実施例2〜4,6〜10)
中間層用の組成物溶液aに代えて表1に記載の中間層用の組成物溶液b〜iを使用し中間層B−b〜B−iを形成する以外は実施例1と同様に感光性樹脂印刷版原版および印刷版を作製した。評価結果を表2に示す。
【0110】
(実施例5)
感熱マスク層(C1)上に、中間層用の組成物溶液cをバーコーターで乾燥膜厚が1.0μmになるように塗布し、120℃で20秒間乾燥し、中間層(B−c)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/保護層(E)の積層体を得た。その後、中間層(B−c)上に、中間層用の組成物溶液iをバーコーターで乾燥膜厚が1.0μmになるように塗布し、120℃で20秒間乾燥し、中間層(B−i)/中間層(B−c)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/保護層(E)からなる感熱マスク要素2を得た。
【0111】
感熱マスク要素1に代えて上記感熱マスク要素2を使用する以外は実施例1と同様に感光性樹脂印刷版原版を作製および印刷版を作製した。評価結果を表2に示す。
【0112】
(比較例1〜3)
中間層用の組成物溶液aに代えて表1に記載の中間層用の組成物溶液j、k、lを使用し中間層B−j、B−kおよびB−lを形成する以外は実施例1と同様に感光性樹脂印刷版原版および印刷版を作製した。ただし、中間層に親水基を有しないポリアミドを用いた比較例3は、実施例1と同様の現像方法では印刷版を作製することができなかったため、現像液として25℃の水道水のかわりにエタノールを用いた。評価結果を表2に示す。
【0113】
表2から明らかな通り、中間層(B) がポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコール、ならびに親水基を有するポリアミドを含有することで、印刷版の表面粘着性および印刷時のレリーフ表面剥離を低減し、高品位な印刷物を得ることができる。一方、比較例1では中間層に親水基を有するポリアミドを含有しないため、感光性樹脂層(A)との密着性が低く、わずかな感熱マスク層破れや、印刷時のレリーフ表面剥離などの不具合が発生した。また、レリーフ表面剥離が発生した箇所は、表面粘着性が高くゴミ付着が増加した。その結果、印刷物にカスレが発生した。また、ポリビニルアルコールを含有しない比較例2は、印刷版の表面粘着性が高くゴミ付着が多いため、カスレが発生し、高品位な印刷物が得られなかった。親水基を有しないポリアミドを用いた比較例3では、印刷版表面には中間層が残存していなかった。また、印刷版の表面粘着性が高く、ゴミ付着が多いため、高品位な印刷物は得られなかった。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の感光性樹脂印刷版原版により、印刷版の表面粘着性および印刷時のレリーフ表面の剥離を低減し、品位の高い印刷物を得ることができる。感光性樹脂を用いていれば、凸状レリーフを有する樹脂凸版だけではなく、フレキソ版、凹版にも応用できるが、その応用範囲がこれらに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、親水基を有するポリアミドおよびエチレン性不飽和結合を有する化合物を含有する感光性樹脂層(A)、少なくとも1層の中間層(B)および赤外線吸収物質を含有する水不溶性の感熱マスク層(C)をこの順に有する感光性樹脂印刷版原版であって、前記中間層(B) がポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコール、ならびに親水基を有するポリアミドを含有することを特徴とする感光性樹脂印刷版原版。
【請求項2】
前記親水基を有するポリアミドがアミノ基を有することを特徴とする請求項1に記載の感光性樹脂印刷版原版。
【請求項3】
前記アミノ基を有するポリアミドがピペラジン環を有することを特徴とする請求項2に記載の感光性樹脂印刷版原版。
【請求項4】
前記中間層(B)のうち、感熱マスク層(C)に接する中間層(B1)に含有されるポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールの鹸化度が60モル%以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の感光性樹脂印刷版原版。
【請求項5】
前記中間層(B)のうち、感熱マスク層(C)に接する中間層(B1)に含有されるポリビニルアルコールおよび/または部分鹸化ポリビニルアルコールが、側鎖および/または末端にカルボキシル基を有することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の感光性樹脂印刷版原版。
【請求項6】
前記中間層(B)のうち、前記感光性樹脂層(A)に接する中間層(B2)が親水基を有するポリアミドを含有することを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の感光性樹脂印刷版原版。

【公開番号】特開2012−22229(P2012−22229A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161391(P2010−161391)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】