説明

感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルム

【課題】高速キャスティング法を用いて得た二軸延伸ポリエステルフィルムを感熱転写記録材の基材として用いても、感熱転写リボンの加工工程や印字工程での破断や皺等が発生しにくく、さらに感熱転写リボンに用いた際のインクの転写性に優れる感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】最大径が25μm以上の異物が10個/10m2以下のポリエステルをシート状に溶融押出し、ストリーマコロナ放電により、該溶融樹脂シートを冷却ロールに密着、固化させた未延伸シートを二軸延伸して得た、感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムであって、前記フィルムは、ワックスを0.01〜0.15質量%含有し、かつ縦方向の屈折率が1.640〜1.690、縦方向の5%伸長時強度が90〜140MPaであることを特徴とする感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムに関し、さらに詳細には、生産性に優れ、かつ感熱転写リボンとした際の印刷適性に優れる感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、記録方式として種々のものが知られているが、感熱転写記録方式は、基材フィルム表面に設けられた感熱転写インク層を、サーマルヘッドの加熱状態に応じて受像紙等の表面に転写する記録方式であり、印字が鮮明であるとともに、装置の簡便さや低騒音の観点から広く普及しており、なかでも、フィルム上に顔料とワックス類等を構成成分とするインクを、サーマルヘッドの加熱により溶融転写させることにより受像紙に印刷する溶融型感熱転写法はコストの点で優れていることから、ファクシミリーやバーコード等のモノカラー印刷用を中心に広く普及している。
【0003】
一方、ポリエステルフィルムは、機械的強度、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性等、多くの性能に優れており、コストパフォーマンスに優れているため、包装用や磁気テープ用だけでなく感熱転写記録材用のベースフィルムとして広く使用されている。しかしながら、感熱転写記録材用ポリエステルフィルム は、フィルム厚みが2〜10μmと非常に薄いため、記録材への加工工程や印字工程等で発生する破断や皺等の問題があり、さらに、感熱転写インク層及びバックコート層を塗布後に所定の幅に裁断してロール状に巻き取る際のスリット性の悪さによる巻き形状不良が生じ、その結果印字不良を引き起こすといった問題があった。
【0004】
かかる問題を回避するため、ポリエステルよりなり、縦方向の5%伸長時強度が125〜140MPaである縦方向の寸法安定性が良好な感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムが開示されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、このフィルムは、フィルム上に顔料とワックス類等で構成された感熱転写インク層を、サーマルヘッドの加熱により受像紙に溶融転写させた際、基材フィルム上にインクが残りやすいという問題があった。
【0006】
かかる問題を回避するため、溶融比抵抗が0.2〜3.0(×108Ω・cm)のポリエステルをシート状に溶融押し出しして、静電密着冷却法を用いてチルロール上に密着・固化させて得た未延伸シートを二軸延伸したポリエステルフィルムが開示されている。(例えば、特許文献2)
【0007】
しかしながら、この方法では、ポリエステルを溶融状態でダイスからシート状に押し出し、冷却ロール上で密着、固化させて、未延伸シートを得る際に、生産性向上のために溶融樹脂シートを高速(例えば、30m/分以上の速度)でキャストすると、気泡状の欠点が入りやすい。この気泡状の欠点は、次工程の延伸工程で、気泡が延伸により拡大するため、得られた二軸延伸フィルムに凹みが発生しやすい。このような凹みを表面に有する二軸延伸フィルム上に、顔料とワックス類等を構成成分とする感熱転写インク層を設けた感熱転写記録材では、凹みの部分でアンカー効果によりフィルムへのインクの密着性が上がり、サーマルヘッドの加熱により受像紙に溶融転写させた際に、フィルム上に感熱転写インクが残りやすくなるという問題があった。
【0008】
また、40m/分程度の高速のキャスティング速度で、溶融樹脂シートを冷却ロールに効率よく密着させるため、針状、鋸刃状、ワイヤー状又はナイフエッジ状の電極からストリーマコロナ放電を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
しかしながら、この方法はポリアミド系組成物には有効な方法であるが、感熱転写記録材に好適なフィルムを構成するポリエステル組成物では、ストリーマコロナ放電を行うと、ポリエステル組成物の内部に存在する異物により、過剰な電流が流れて火花放電が発生し、キャスティングが安定しないという問題があった。
【特許文献1】特開平2−206591号公報
【特許文献2】特開平2−009686号公報
【特許文献3】特開昭56−105930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高速キャスティング法を用いて得た二軸延伸ポリエステルフィルムを感熱転写記録材の基材として用いても、感熱転写リボンの加工工程や印字工程での破断や皺等が発生しにくく、さらに感熱転写リボンに用いた際に、フィルムからのインクの転写性に優れる感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決することができる、本発明の感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムとは、最大径が25μm以上の異物が10個/10m2以下のポリエステルをシート状に溶融押出し、次いで溶融樹脂シートの冷却ロールへの接触点に沿って配置された電極から、ストリーマコロナ放電により該溶融樹脂シートを冷却ロールに密着、固化させた未延伸シートを二軸延伸して得た、感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムであって、前記フィルムは、ワックスを0.01〜0.15質量%含有し、かつ縦方向の屈折率が1.640〜1.690、縦方向の5%伸長時強度が90〜140MPaであることを特徴とする。
【0012】
また、前記の感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムの好適な製造方法は、最大径が25μm以上の異物が10個/10m2以下で、かつワックスを0.01〜0.15質量%含有するポリエステルをシート状に溶融押出し、次いで溶融樹脂シートの冷却ロールへの接触点に沿って配置された電極から、ストリーマコロナ放電により、該溶融樹脂シートを冷却ロールに密着、固化させた未延伸シートを、縦方向の屈折率が1.640〜1.690、縦方向の5%伸長時強度が90〜140MPaとなるように二軸延伸する方法である。
【0013】
本発明においては、フィルム原料として溶融比抵抗が0.3×108(Ω・cm)よりも大きいポリエステルを用いても、本発明の効果を得ることができる。
【0014】
また、ワックスが、パラフィン系ワックス、カルナバワックス、ラノリンワックス、ポリエチレンワックス、エステル系ワックス、グリセリン脂肪酸エステル、高級脂肪酸モノアミドから選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。
【0015】
また、電極が、厚みが5〜200μmで、電極先端部に0.1mm以上の突出量を有する複数の突部を複数有するテープ状電極であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムは、高速、例えば、30m/分以上の高速のキャスティング速度で溶融樹脂シートを冷却固化しても、溶融樹脂シートの冷却ロールへの接触点に沿って配置された電極からストリーマコロナ放電により冷却ロールに密着、固化させているため、未延伸シートに気泡状の欠点が発生しにくく、該シートを二軸延伸しても前記の気泡状の欠点に起因する凹みを低減することができる。
【0017】
さらに、フィルム中にワックスを0.01〜0.15質量%含有させ、フィルムの縦方向の屈折率を1.640〜1.690、縦方向の5%伸長時強度を90〜140MPaとしているため、高速キャスティング法を用いて得た、生産性に優れ安価な二軸延伸ポリエステルフィルムを感熱転写記録材の基材として用いても、感熱転写リボンの加工工程や印字工程での破断や皺等が発生しにくく、感熱転写リボンに用いた際に、サーマルヘッドの加熱によりフィルム面上の感熱転写インクを受像紙に溶融転写させるときの印字性、即ち、フィルムからのインクの転写性を優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムは、最大径が25μm以上の異物が10個/10m2以下のポリエステルをシート状に溶融押出し、次いで溶融樹脂シートの冷却ロールへの接触点に沿って配置された電極から、ストリーマコロナ放電により該溶融樹脂シートを冷却ロールに密着、固化させた未延伸シートを二軸延伸して得た、感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムであって、前記フィルムは、ワックスを0.01〜0.15質量%含有し、かつ縦方向の屈折率が1.640〜1.690、縦方向の5%伸長時強度が90〜140MPaであることを特徴とする。
【0019】
本発明でフィルム原料として使用するポリエステルは、エチレンテレフタレート成分を主たる構成成分とするポリエステルであることが、感熱転写リボンへの加工工程や印字工程等で発生する破断や皺等を抑制する点から好ましい。
【0020】
本発明では、フィルムを構成するポリエステルはエチレンテレフタレート成分を主たる構成成分とするポリエステルであることが好ましいが、その目的を阻害しない範囲で他の共重合成分を含むことができる。使用できる他の共重合成分のうち、ジカルボン酸成分として、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸,コハク酸,アジピン酸,セバシン酸,デカンジカルボン酸,マレイン酸,フマル酸,ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が使用できる。使用できる上記のジカルボン酸及びそれらのエステル誘導体の量は10モル%以下が好ましく、5モル%以下がさらに好ましい。他のジカルボン酸及びそれらのエステル誘導体の使用量が10モル%を超えると、ポリエステルの熱安定性が低下しやすくなる。
【0021】
また、使用できる他の共重合成分のうち、グリコール成分として、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物,ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が使用できる。このほか少量のアミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、カーボネート結合等を含有する化合物を含んでいてもよい。ここで、使用できる他のグリコール成分の量は10モル%以下が好ましく、5モル%以下がさらに好ましい。他のグリコール成分の使用量が10モル%を超えると、ポリエステルの熱安定性が低下しやすくなる。
【0022】
本発明では、ポリエステルを公知の1軸又は2軸押出機内で溶融させ、異物除去用濾過材(例えば、初期濾過効率の95%が20μm以下に設定されたステンレス製焼結濾過材)を通した後、Tダイから得られるポリエステル溶融樹脂シートに含有される最大径が25μm以上の異物量を10個/10m2以下とすることが、ストリーマコロナ放電による静電密着を安定化させるために重要である。
【0023】
本発明において、ストリーマコロナ放電とは、例えば、正電圧が印加される電極とアース体である溶融樹脂シートとが橋絡して安定したコロナ放電が行われる状態である。すなわち、該電極と冷却ロールとの間に印加される電圧を増加させていくと、最初に暗流状態(持続性のない放電現象)が生じた後、グロー放電状態となり、次いで、電極からの放電により空気がイオン化されて安定した電流が持続的に流れるストリーマコロナ放電状態となる。また、ストリーマコロナ放電状態では、電極に印加される電圧V(kV)と電極とアース体である溶融樹脂シートに流れる単位幅当りの電流値I(mA/cm)に、下記の関係が成立する。
I≧0.025×V−0.12
【0024】
本発明では、ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの溶融比抵抗が0.3×108(Ω・cm)よりも大きくても、ストリーマコロナ放電により溶融樹脂シートに多くの電荷を安定して連続的に付与できるため、溶融樹脂シートを高速、例えば、30m/分以上の高速で、冷却ロールに密着させながらキャスティングした場合でも、気泡状の欠点、言い換えれば、得られたフィルムの表面に凹みが発生しにくく、この凹みの部分でアンカー効果によるフィルム面からの転写用インクの転写性低下が起こりにくい。
【0025】
本発明におけるストリーマコロナ放電としては、放電電極として、放電点を非連続的に配置した電極を用いるのがよく、針状電極、鋸歯状電極や電極先端部に複数の突部を有するテープ状電極等を用いることができるが、好ましくは、厚みが5〜200μm、電極先端部に0.1mm以上の突出量を有する複数の突部を有するテープ状電極を用いることにより、電極と冷却ロールとの間に印加される電圧を過度に高い値に設定することなく、電極に設けた各突部から溶融樹脂シートに均一にストリーマコロナ放電を発生することができる。テープ状電極の場合、その厚みが5μ未満であると、電極が破断しやすく製膜が不安定になる。一方、100μmを超えると、電場の集中度が低下しやすくストリーマコロナ放電が不安定になる。また、突出量が0.1mm未満の場合、電場の集中度が低下しやすくストリーマコロナ放電が不安定な傾向になる。
【0026】
本発明では、フィルム中にワックスを0.01〜0.15質量%含有することが重要であり、好ましくは0.02〜0.1質量%含有することが重要である。ワックス含有量が0.01質量%未満の場合、サーマルヘッドの加熱により受像紙に溶融転写させた際の印字性改良(フィルムからのインクの転写性改良)の効果が不十分となる。一方、0.15質量%を超える場合、印字性改良効果が飽和するばかりでなく、かえってポリエステルの熱安定性を損なう場合がある。
【0027】
本発明では、ポリエステルフィルムに含有するワックス成分としては、樹脂への配合の作業性、フィルム製膜性の点からパラフィン系ワックス、カルナバワックス、ラノリンワックス、ポリエチレンワックス、エステル系ワックス、グリセリン脂肪酸エステル、高級脂肪酸モノアミドから選ばれた1種または2種以上のワックスを含有することが好ましい。
【0028】
本発明では、フィルムを形成するポリエステルの固有粘度は、0.52〜0.65dl/gが好ましい。固有粘度が0.52dl/g未満の場合、フィルム製造時や感熱転写リボンへの加工工程での破断が発生しやすくなる。一方、固有粘度が0.65dl/gを超える場合、所定の製品幅への裁断工程で寸法不良が起こりやすくなる。
【0029】
本発明では、二軸延伸ポリエステルフィルムの縦方向の屈折率が1.640〜1.690であり、縦方向の5%伸長時強度が90〜140MPaであることが重要である。寸法安定性の点からは、縦方向の屈折率が1.690を超える、あるいは5%伸長時強度が140MPaを超えることが好ましい。しかしながら、縦方向の屈折率が1.640未満の場合、あるいは縦方向の5%伸長時強度が90MPa未満の場合、フィルムの平面性が悪くなり、サーマルヘッドの加熱により受像紙に溶融転写させる際、フィルムの受像紙への密着性が悪くなる。その結果、インクの転写性が低下する。一方、縦方向の屈折率が1.690を超える場合、あるいは縦方向の5%伸長時強度が140MPaを超える場合、サーマルヘッドの加熱により受像紙に溶融転写させる際、フィルムの剛性により受像紙への密着が悪くなり、フィルムからインクが剥離するより以前にインクの凝集破壊が起こり、インクの転写性が低下する。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム製造時や感熱転写リボンへの加工工程での安定性という点から、二軸延伸ポリエステルフィルムであることが重要である。2軸延伸法としては、遂次2軸延伸、同時2軸延伸等が例示できる。例えば、ポリエステルのガラス転移温度以上、冷結晶化温度未満の温度で、縦及び横方向に各々2〜5倍延伸すればよい。さらに、緊張下でポリエステルの冷結晶化温度〜(融点−20℃)の温度で1〜20秒間熱処理して、150℃での縦方向の熱収縮率(150℃で30分間処理した時の無荷重下での熱収縮率)を3.0%以下にすることが、顔料とワックス類等を構成成分とする感熱転写インクの塗工安定性(特に、塗工後の乾燥工程で平面性)を確保する点から好ましい。さらに、熱処理工程を実施する前に縦方向及び/又は横方向に再延伸を行ってもよい。さらに、延伸工程又はその前後において、フィルムの片面又は両面にコロナ放電処理や離型効果を有する材料を塗布してもよい。
【0031】
本発明では、二軸延伸ポリエステルフィルムの厚みが2〜6μmであることが好ましく、3〜5μmであることがさらに好ましい。フィルムの厚みが2μm未満の場合、フィルム製造時や感熱転写リボンへの加工工程での破断が発生しやすくなる。一方、フィルムの厚みが6μmを超える場合、熱の伝導が悪くなり、また熱が2次元的に拡散するので、印字性能が悪化しやすくなる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例をもとに本発明を説明する。まず、本発明で用いた特性値の評価方法について説明する。
【0033】
(1)ポリエステルフィルムの縦方向の屈折率(Nx)
アッベ屈折率計の接眼側に偏光板アナライザーを取付け、NaD線を光源とし、ヨウ化メチレンを媒液に用いて25℃で縦方向の屈折率を測定する。
【0034】
(2)ポリエステルフィルムの縦方向の5%伸長時強度(F5)
温度23℃、湿度65%RHの環境下において、引張試験機(東洋ボールドウイン社製、テンシロンHTM−100)を用いて、サンプル幅12.7mm、チャック間距離100mm、引張り速度100mm/分で測定し、5%伸長時強度(MPa)を求める。
【0035】
(3)最大径が25μm以上の異物の検出
溶融押出後に冷却固化したポリエステルシート片(250mm×250mm)160枚をサンプルとし、光学欠点検出装置を用いて最大径が25μm以上の大きさと認識される光学的欠点を検出した。上記光学欠点検出装置には、投光器として20W×2灯の蛍光灯がXYテーブルの下方400mmに設置され、かつスリット幅10mmのマスクが設置されている。そして、上記投光器とこれに対向して設置された受光器とを結ぶ線と、測定するシート面の鉛直方向となす角度を12°に設定し、そこに光学的欠点が存在すると入射光に応じて光り輝くため、その光量をXYテーブルの上方500mmに設置されたCCDイメージセンサーカメラで電気信号に変換し、その電気信号を増幅するとともに、微分してスレッシュホールドレベルとコンパレーターで比較することにより、光学的欠点の検出信号を出力するように構成されている。また、上記CCDイメージセンサーカメラから入力されたビデオ信号に基づき、画像手順により光学的欠点の大きさを計測し、予め設定された大きさの光学的欠点の位置を表示するようになっている。このようにして求めた欠点を顕微鏡下で観察し、最大径が25μm以上の異物の個数(個/10m2)を数えた。
【0036】
(4)ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの溶融比抵抗(ρi)
275℃で溶融したポリエステル中に2本の電極(ステンレス製針金)を置き、120Vの電圧を印加した時の電流(i)を測定し、これを下記式に代入し比抵抗値ρi(Ω・cm)を求めた。また、未延伸ポリエステルシート又はフィルムの溶融比抵抗は、複数のポリエステル原料を用いる場合、各原料の溶融比抵抗と配合量による加重平均により算出することができる。
ρi=(A/L)×(V/i)
A:電極間面積(cm2)、L:電極間距離(cm)、V:電圧(V)
【0037】
(5)印刷適性
(感熱転写インク層用塗布液の調製)
下記の組成物を攪拌・加熱して溶融した後、カーボンブラック13質量部を加えて、分散、混合して、感熱転写インク層用塗布液とした。
カルナウバワックス 40質量部
エステルワックス 34質量部
酢酸ビニルーエチレン共重合体 10質量部
ステアリン酸ナトリウム 3質量部
【0038】
(背面コート層用塗布液の調製)
下記の組成物を攪拌・混合して溶液とし、次いでシリカ粉末(デグサ社製、アエロジルOX5)2質量部を分散・混合して、背面コート層用塗布液とした。なお、背面コート層は、サーマルヘッドが直接接触する層である。
ポリビニルブチラール 15質量部
シリコーンワックス 5質量部
トルエン/MEK(1:1混合液) 78質量部
【0039】
(感熱転写リボンの作製)
2段のグラビアコーターを用いて、実施例及び比較例で得たポリエステルフィルムの裏面(ポリエステルからなる溶融樹脂シートが冷却ロールと接しなかった面)に、背面コート層用塗布液を塗布した後、100℃で90秒間乾燥し、厚さ0.5μmの背面コート層を設けた。引き続いて、フィルムの表面(ポリエステルからなる溶融樹脂シートが冷却ロールと接した面)に、感熱転写インク層用塗布液(液温:85℃)を塗布、乾燥させた。次いで、フィルムを冷却し厚さ4μmの感熱転写インク層を形成させて、6インチ紙管に巻き取りジャンボロールとした。さらに、ジャンボロールをスリッターに掛け、110mmの幅に裁断し、1インチの紙管(肉厚4mm)に巻き取り感熱転写リボンとした。
【0040】
(印刷適性の評価)
バーコードプリンター(サトー社製、MR400)を使用し、上質紙に200回のバーコード印刷をして、目視判定した。
○:全て抜けがなく印刷されて、濃淡が見られない。
×:バーの歪みや、大きな印刷抜けがある。
【0041】
実施例及び比較例に用いたポリエステルの種類と配合量、異物の個数、縦方向の屈折率(Nx)、縦方向の5%伸長時強度(F5)、印刷適性を表1に示す。
【0042】
(1)ポリエステルA−1
溶融比抵抗(ρi)が0.23×108(Ω・cm)で、かつ平均粒径が1.3μmの凝集シリカを1000ppm含有するポリエチレンテレフタレートである。
【0043】
(2)ポリエステルA−2
溶融比抵抗(ρi)が3.6×108(Ω・cm)で、かつ平均粒径が1.3μmの凝集シリカを1000ppm含有するポリエチレンテレフタレートである。
【0044】
(3)ポリエステルB
溶融比抵抗(ρi)が0.23×108(Ω・cm)で、かつ平均粒径が1.3μmの凝集シリカを1000ppm含有する、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート共重合体(エチレンイソフタレートの繰り返し単位が10モル%)である。
【0045】
(4)ポリエステルC(ワックス1質量%含有ポリエステル)
ポリエステルA−1とポリエチレンワックス(三井化学社製:ハイワックス)を混合(99質量%/1質量%)し、該混合物を2軸押出機にて溶融混練して得たワックス含有ポリエステルである。
【0046】
[実施例1]
ポリエステル原料としてA−1、A−2、Cを用い、これらをA−1/A−2/C=45/50/5(質量%)の質量比で混合し、120℃で24時間減圧乾燥(1.3hPa)し、単軸押出機を用いて280℃で溶融させた。次いで、濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が10μmのステンレス製焼結濾材からなるフィルターで異物を除去した。さらに、45cm幅のTダイより、溶融樹脂をシート状に押出し、回転冷却金属ロール(周速50m/分)上にキャストして、未延伸シートを得た。
【0047】
なお、前記のキャスティング工程で、冷却ロール周面に対向するように設置した10mm幅×50μm厚のオーステナイト系SUS316からなり、2mmの突出量を有する突部が1.2mm間隔で配置されたテープ状電極から7.2kVの電圧を印加し、8.3mAの電流を流して、ストリーマコロナ放電により、溶融樹脂シートを冷却ロールに密着させた。
【0048】
該未延伸シートを、予熱温度80℃、延伸温度100℃で縦方向に3.6倍延伸し、さらにテンターで予熱温度80℃、延伸温度100℃で横方向に4.0倍延伸した後、228℃で熱処理した。さらに、横方向に210℃で2.6%、150℃で0.3%の2段階に分けて緩和熱処理して、厚さ4.5μmのポリエステルフィルムを得た。
本実施例1で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの特性値を表1に示す。表1に示すように、印刷適性に優れた感熱転写記録材用基材として好適な二軸延伸ポリエステルフィルムであった。
【0049】
[実施例2]
実施例1において、ポリエステル原料としてA−1及びCを用い、これらをA−1/C=95/5(質量%)の質量比で混合したものに変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ4.5μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
本実施例2で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの特性値を表1に示す。表1に示すように、印刷適性に優れた感熱転写記録材用基材として好適な二軸延伸ポリエステルフィルムであった。
【0050】
[実施例3]
実施例1において、延伸方法を、テンターで予熱温度95℃、延伸温度90℃で横方向に3.5倍延伸した後、予熱温度80℃、延伸温度105℃で縦方向に3.8倍延伸し、次いで、熱固定ゾーンにおいて、150℃で1.3倍再横延伸する方法に変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ4.5μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
本実施例3で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの特性値を表1に示す。表1に示すように、印刷適性に優れた感熱転写記録材用基材として好適な二軸延伸ポリエステルフィルムであった。
【0051】
[実施例4]
実施例1において、延伸方法を、テンターで予熱温度95℃、延伸温度90℃で横方向に3.5倍延伸した後、予熱温度80℃、延伸温度105℃で縦方向に4.0倍延伸した後、熱処理ゾーンにおいて、150℃で1.05倍再横延伸する方法に変更した以外は実施例1と同様にして厚さ4.5μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
本実施例4で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの特性値を表1に示す。表1に示すように、印刷適性に優れた感熱転写記録材用基材として好適な二軸延伸ポリエステルフィルムであった。
【0052】
[実施例5]
実施例1において、ポリエステル原料としてA−1、B、Cを用い、これらをA−1/B/C=92/3/5(質量%)の質量比で混合したものに変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ4.5μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
本実施例5で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの特性値を表1に示す。表1に示すように、印刷適性に優れた感熱転写記録材用基材として好適な二軸延伸ポリエステルフィルムであった。
【0053】
[比較例1]
実施例1において、ステンレス製焼結濾材からなる異物除去用フィルターとして、濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が25μmのものに変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造しようとした。
しかしながら、キャスティング工程で、火花放電が頻発して未延伸シートの全面に密着異常が発生し、ポリエステルフィルムを安定して得ることができなかった。
【0054】
[比較例2]
実施例1のキャスティング工程において、直径が30μmのタングステンワイヤー電極を用いて溶融樹脂シートを冷却ロールに静電密着させた以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造しようとした。
しかしながら、キャスティング工程で、電極の位置、電圧、電流を調整しても、気泡や筋状の斑が発生した。さらに、電圧又は電流を上げて、未延伸シートと冷却ロールとの密着性を高めると、アーク放電によるワイヤーの切断、あるいはシートに冷却斑が生じて冷却ロールへの巻きつき不良が起こり、ポリエステルフィルムを安定して得ることができなかった。
【0055】
[比較例3]
実施例4において、ポリエステル原料としてA−1及びA−2を用い、これらをA−1/A−2=50/50(質量%)の質量比で混合したものに変更した以外は実施例4と同様にして厚さ4.5μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの特性値を表1に示す。表1に示すように、印刷適性が劣り、感熱転写記録材用基材として好ましくなかった。
【0056】
[比較例4]
実施例1において、縦延伸条件を、予熱温度80℃、延伸温度115℃で縦方向に3.3倍延伸する条件に変更した以外は実施例1と同様にして厚さ4.5μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの特性値を表1に示す。表1に示すように、印刷適性が劣り、感熱転写記録材用基材として好ましくなかった。
【0057】
[比較例5]
実施例1において、縦延伸条件を、予熱温度80℃、延伸温度110℃で縦方向に4.1倍延伸する条件に変更した以外は実施例1と同様にして厚さ4.5μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの特性値を表1に示す。表1に示すように、印刷適性が劣り、感熱転写記録材用基材として好ましくなかった。
【0058】
【表1】

【0059】
以上、本発明の感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムについて、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、各実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムは、高速キャスティング法(例えば、30m/分以上)を用いて得た二軸延伸ポリエステルフィルムを感熱転写記録材の基材として用いても、感熱転写リボンの加工工程や印字工程での破断や皺等が発生しにくく、さらに感熱転写リボンに用いた際に、フィルムからのインクの転写性に優れるため、感熱転写記録材用基材フィルムとして極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大径が25μm以上の異物が10個/10m2以下のポリエステルをシート状に溶融押出し、次いで溶融樹脂シートの冷却ロールへの接触点に沿って配置された電極から、ストリーマコロナ放電により該溶融樹脂シートを冷却ロールに密着、固化させた未延伸シートを二軸延伸して得た、感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルムであって、前記フィルムは、ワックスを0.01〜0.15質量%含有し、かつ縦方向の屈折率が1.640〜1.690、縦方向の5%伸長時強度が90〜140MPaであることを特徴とする感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリエステルの溶融比抵抗が0.3×108(Ω・cm)よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ワックスが、パラフィン系ワックス、カルナバワックス、ラノリンワックス、ポリエチレンワックス、エステル系ワックス、グリセリン脂肪酸エステル、高級脂肪酸モノアミドから選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項4】
電極が、厚みが5〜200μmで、電極先端部に0.1mm以上の突出量を有する複数の突部を複数有するテープ状電極であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の感熱転写記録材用二軸延伸ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−334814(P2006−334814A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159203(P2005−159203)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】