説明

成形サイクル停止時の樹脂劣化防止手段を備えた射出成形機

【課題】成形サイクル停止時の樹脂焼けを防止する手段を備えた、高温の溶融樹脂温度で成形できる射出成形機を提供する。
【解決手段】
成形サイクルを停止するとき、シリンダ(3)の設定温度を高温射出用温度(41)から標準成形用温度(42)に切り替える。シリンダ(3)の温度が標準成形用温度(42)まで低下するまでは、計量とパージを所定の周期で繰り返す間欠パージを実施して樹脂焼けを防止する。成形サイクルの再開時には、シリンダ(3)の設定温度を高温射出用温度(44)に切り替えて、ヒータ(21、22、…)でシリンダ(3)を加熱する。シリンダ(3)の温度が高温射出用温度(47)に達するまで間欠パージを実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダとシリンダ内に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとからなり、成形サイクルの停止時に溶融樹脂がシリンダ内で熱劣化することを防止する手段を備えた射出成形機と、そのような射出成形機の運転方法に関するものであり、特に、樹脂メーカに推奨されている標準の成形用温度よりもシリンダ温度を高温にして溶融樹脂の流動性と充填性を高めて金型に射出して超薄肉成形品を得る射出成形機に適用して好適な、成形サイクル停止時の樹脂劣化防止手段を備えた射出成形機と、その運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、光学特性や耐熱特性に優れ機械的強度を有するアクリル樹脂(PMMA)やポリカーボネート樹脂(PC)等の樹脂からなる導光板が設けられ、側方の光源から発光された光は液晶全体にバックライトとして導かれるようになっている。このような導光板は、従来周知のように射出成形によって成形されている。携帯電話、カーナビゲーション、そしてノートパソコン等の機器に採用されている液晶表示装置は、携帯し易いように軽量でかつ薄型のものが求められている。従って、導光板も薄型のものが要求されている。このような導光板は板厚に比して板の幅が広い薄肉成形品であり射出成形が難しい。すなわち、射出成形されるときの樹脂の流動距離(L)を肉厚(t)で除したL/t値が大きく、射出時に充填不足が発生して成形不良が発生し易い。従って、このような導光板は、充填不足が生じないように、射出圧力が高く、射出速度が高速で立ち上がり応答性に優れ、型締性能の優れた型締装置を備えた高性能の射出成形機によって成形されている。例えば、ノートパソコン用の導光板の射出成形には型締力が450tonの超高速射出成形機が使用されており、同じ型締力の汎用の射出成形機と比較すると、射出圧力が約1.4倍、射出速度が約4倍、射出速度の応答性が約6倍の性能を有している。さらに、金型や成形技術も改善されている。近年、液晶表示装置の軽量化と薄型化の要求は強くなってきており、より薄型の導光板が求められている。例えば、初期のノートパソコンに採用されていたアクリル樹脂からなる導光板は、L/t値が118〜165で、板の断面形状も充填不足が発生し難いくさび形であったが、最新モデルのノートパソコン用の導光板は、L/t値が383〜478と非常に高く、しかも充填不足の発生し易い平板になっている。このような充填不足が発生し易い超薄肉成形品の導光板の成形は、上記したような射出成形機の高性能化等の対応だけでは困難であり、樹脂材料の流動性の改善も必要である。樹脂材料の流動性は材料を改良して高められることもあるが、一般的に樹脂の溶融時の流動性と成形された製品時の機械的強度とは相反する関係にあるので、流動性の高い樹脂材料を採用すると機械的強度が十分な製品が得られなくなってしまう。従って、従来使用されているアクリル樹脂(PMMA)やポリカーボネート樹脂(PC)等の樹脂材料の流動性を直接高める必要がある。具体的には、射出時の樹脂温度を樹脂メーカの推奨温度よりも高温にして流動性を高めることになる。上記したような、最新モデルのノートパソコン用の導光板でアクリル樹脂(PMMA)の場合、射出装置のシリンダの温度を328℃にすると、樹脂の流動性が十分に確保でき、充填不足が発生することなく射出成形できる。このような超薄肉成形品を成形するときのシリンダ温度、すなわち高温射出用温度が下記表に示されている。
【0003】
【表1】

【0004】
上記表に示されているように、高温射出用温度は樹脂メーカが推奨している射出用温度、すなわち標準成形用温度よりも30〜60℃も高い。このように溶融樹脂の温度を高温にすると、流動性は高くなるが熱によって樹脂が劣化する熱劣化、いわゆる樹脂焼けが生じ易くなる。樹脂の温度が高温であっても、高温になっている時間が短時間であれば熱劣化は発生し難い。従って、型締工程、計量工程、射出工程、型開工程等からなる成形サイクルが連続して実施されている場合には、樹脂が高温の状態になっている時間は短時間で済むので、樹脂は熱劣化し難く成形不良は発生し難い。しかしながら、金型のメンテナンス等の必要から成形サイクルを一時的に中断する、いわゆる寸停を実施すると、停止時間が比較的短時間であっても樹脂の熱劣化が発生してしまい、例えば、スクリュやシリンダ内に熱劣化して分解された分解物、炭化物が付着して炭化膜として堆積してしまう。このような、分解物や炭化物は成形再開後の成形品に10〜200μm程度の黒点となって混入してしまい、不良品が発生してしまう。一旦強固な炭化膜が形成されてしまうと、新しい材料をシリンダ内に供給してシリンダ外に排出するパージを成形再開前に繰り返し実施しても炭化膜を完全に除去することは困難であり、この結果全体の成形不良率が10〜20%になってしまう。成形サイクルの停止時間が長時間に及ぶとさらに問題は大きい。成形不良率を大幅に低減するためには、寸停を含む成形サイクルの停止期間中に溶融樹脂が熱劣化しないようにする、運転方法を確立する必要がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−36293号公報
【特許文献2】特開2002−307510号公報
【0006】
特許文献1には、射出成形機において異常が発生したときに、射出装置のシリンダ先端に設けられているノズルを金型から離間させて、シリンダへの樹脂材料の供給を停止して、ノズルからシリンダ内の溶融樹脂を排出して、その後シリンダを所定の温度に保温するパージ方法が記載されている。特許文献2には、他の種類の樹脂を射出するためにシリンダ内の溶融樹脂を排出する色替パージと、シリンダ内の全量の溶融樹脂を排出する材料抜きパージと、成形サイクルの短時間の停止時にシリンダ内の変性しかけた溶融樹脂を排出する寸停パージとを、選択的に実施できるパージ方法が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
成形サイクルの停止時に特許文献1、または特許文献2に記載のパージ方法を実施すれば、シリンダ内の溶融樹脂を排出することができるので、ある程度はシリンダ内で溶融樹脂が熱劣化することを防ぐことができる。しかしながら、特許文献1に記載のパージ方法は、射出工程時に発生する異常時に手作業で実施されている通常のパージを自動化したものに過ぎず、特許文献2に記載のパージ方法も、従来手作業で実施されていた複数の異なる種類のパージが自動化されたものに過ぎない。すなわち、特許文献1と特許文献2に記載のパージ方法は、本発明が対象としているような格別に高温に加熱された溶融樹脂を対象としたものではないので、そのまま適用することはできない。本発明が対象としているシリンダ温度は、樹脂メーカが推奨している標準成形用温度よりも高温なので、シリンダ内の溶融樹脂は3〜5分程度の短時間であっても熱劣化してしまう。もし、このようなシリンダから、特許文献1に記載のパージ方法によって溶融樹脂を排出してしまうと、シリンダ温度はすぐには低下しないし、わずかにシリンダ内に残留している溶融樹脂は空気に接触する面積が大きくなるので急速に熱劣化してしまい、シリンダ内で樹脂焼けが生じてしまう。特許文献2に記載の材料抜きパージと、シリンダへの材料の供給を交互に繰り返し実施すれば、ある程度熱劣化を防止できそうではあるが、材料抜きパージ直後に熱劣化が急速に進行してしまう危険はあるし、廃棄される樹脂が大量になり経済的でもない。
【0008】
本発明は、上記したような従来の問題点あるいは課題を解決した、射出成形機とその運転方法を提供することを目的としており、具体的には、樹脂メーカに推奨されている標準成形用温度よりもシリンダ温度を高温にして溶融樹脂の流動性と充填性を高めて金型に射出する射出成形機であって、成形サイクルの停止時にシリンダ内の溶融樹脂が熱劣化するのを効果的に防止して、樹脂焼けを原因とする成形不良率を低減でき、廃棄される樹脂も少なくて済む、溶融樹脂の熱劣化防止手段を備えた射出成形機とその運転方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、射出成形機に備えられているコントローラには、樹脂メーカが推奨している射出用の温度である標準成形用温度と、標準成形用温度よりも高温の高温射出用温度と、標準成形用温度よりも低温の保温用温度とからなる3段階の切替可能な温度が設定されるように構成されている。そして、コントローラには、成形サイクルの停止時に、温度センサによって検出されるシリンダの温度に応じて、成形用樹脂をシリンダに供給する計量処理と、ノズルから所定量の溶融樹脂を排出するパージ処理とを適宜実施する制御手段が設けらるように構成されている。そして、高温射出用温度を選択して成形しているときに成形サイクルを停止して、標準成形用温度、または保温用温度に切り替えると、シリンダ温度が標準成形用温度に到達するまで、計量処理とパージ処理とを所定の周期で繰り返す様に構成される。寸停後または停止後に成形サイクルと再開するときには、高温射出用温度に切り替えると共に、シリンダ温度が標準成形用温度を超えたら、シリンダ温度が高温射出用温度に到達するまで、計量処理とパージ処理とを所定の周期で繰り返すように構成される。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、ヒータと温度センサとを備え先端部にノズルが設けられているシリンダと、該シリンダ内に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとからなり、前記スクリュを回転駆動して成形用樹脂を計量し、そして前記スクリュを軸方向に駆動して金型へ射出充填すると、薄肉成形品が得られるようになっている射出成形機であって、該射出成形機はコントローラを備え、前記コントローラには、樹脂メーカが推奨している射出用の温度である標準射出用温度と、該標準射出用温度よりも高温の高温射出用温度と、前記標準射出用温度よりも低温の保温用温度とからなる少なくとも3段階の切替可能な温度が設定されるようになっており、前記コントローラには、成形サイクルの停止時に、前記温度センサによって検出されるシリンダ温度に応じて、前記成形用樹脂を前記シリンダに供給する計量処理と、前記ノズルから所定量の前記溶融樹脂を排出するパージ処理とを適宜実施する制御手段が設けられるように構成される。請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の射出成形機を使用して、前記高温射出用温度を選択して成形しているときに、成形サイクルを停止して前記標準成形用温度、または前記保温用温度に切り替えると、前記シリンダ温度が前記標準成形用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とを所定の周期で繰り返すように構成され、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の運転方法において、前記停止後に前記成形サイクルを再開するときは、前記高温射出用温度に切り替えると共に、前記シリンダ温度が前記標準成形用温度を超えたら、前記高温射出用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とを所定の周期で繰り返すように構成され、請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の運転方法において、前記シリンダ温度は、前記シリンダの先端部近傍に設けられている温度センサによって検出するように構成され。そして、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の射出成形機において、前記コントローラには、運転モードと寸停モードと長期停止モードとからなる少なくとも3個の選択可能なモードからなる選択手段が設けられ、前記運転モードが選択されているときに、前記寸停モードが選択されると、前記シリンダの設定温度が前記標準成形用温度に切り替えられると共に、前記シリンダ温度が前記標準成形用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とが所定の周期で繰り返され、前記運転モードが選択されているときに、前記長期停止モードが選択されると、前記シリンダの設定温度が前記保温用温度に切り替えられると共に、前記シリンダ温度が前記標準成形用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とが所定の周期で繰り返され、前記寸停モード、または前記長期停止モードが選択されているときに前記運転モードが選択されると、前記シリンダの設定温度が前記高温射出用温度に切り替えられると共に、前記シリンダ温度が前記標準成形用温度を超えたら、前記高温射出用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とが所定の周期で繰り返されるようになっていることを特徴とする射出成形機として構成される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によると、射出成形機に備えられているコントローラには、樹脂メーカが推奨している射出用の温度である標準成形用温度と、標準成形用温度よりも高温の高温射出用温度と、標準成形用温度よりも低温の保温用温度とからなる3段階の切替可能な温度が設定されるようになっており、コントローラには、成形サイクルの停止時に、温度センサによって検出されるシリンダ温度に応じて、成形用樹脂をシリンダに供給する計量処理と、ノズルから所定量の溶融樹脂を排出するパージ処理とを適宜実施する制御手段が設けられている。従って、樹脂メーカが推奨する標準成形用温度よりも高い高温射出用温度で成形を実施していて、成形サイクルを停止しても、シリンダに新しい成形用樹脂を所定量供給する計量処理と、シリンダから所定量の溶融樹脂を排出するパージ処理を適宜実施できるので、シリンダ内で溶融樹脂が熱劣化して樹脂焼けが生じることはない。さらに、シリンダ温度に応じてこのような計量処理とパージ処理を実施できるので、樹脂の温度が熱劣化が生じ易い比較的高温時には計量処理をパージ処理を実施して、温度が低下したらパージ処理等を停止できるので、廃棄される樹脂は少なくて済み経済的に溶融樹脂の熱劣化を防止できる。
【0012】
請求項2に記載の発明によると、成形サイクルを停止して標準成形用温度、または保温用温度に切り替えると、シリンダ温度が標準成形用温度に到達するまで、計量処理とパージ処理とを所定の周期で繰り返すので、短時間の停止である寸停にも長期間の停止にも対応することができる。そして、比較的熱劣化し易い温度において、計量処理とパージ処理を実施して溶融樹脂が熱劣化することがないので、安全に樹脂の温度を低下させることができる。また、請求項3に記載の発明によると、成形サイクル停止後に成形サイクルを再開するときは、高温射出用温度に切り替えると共に、シリンダ温度が標準成形用温度を超えたら、高温射出用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とを所定の周期で繰り返すので、廃棄される樹脂を最小限に抑制しながら、溶融樹脂の熱劣化を防止して、シリンダ温度を安全に高温射出用温度にして、成形サイクルを再開することができる。従って、成形サイクルの再開後に成形品に樹脂の分解物が混入する黒点不良や樹脂が分解して生じるシルバー現象等の成形不良は生じない。請求項4に記載の発明によると、シリンダ温度は、シリンダの先端部近傍に設けられている温度センサによって検出するので、すなわち、シリンダの各部分のうち、樹脂温度が最も高くなる位置で検出して制御することになるので、溶融樹脂が熱劣化する危険性が非常に小さくなるし、樹脂焼けを確実に防止できる。さらに、請求項5に記載の発明によると、コントローラには運転モードと寸停モードと長期停止モードとからなる少なくとも3個の選択可能なモードからなる選択手段が設けられているので、成形サイクルの停止時間によって適切に運転することができる。例えば、金型のエアーベント部にガスの凝縮物が堆積して充填不良が発生してメンテナンスするときには、成形サイクルを停止する時間は比較的短時間で済むが、このような時には寸停モードを選択することができる。そうすると、シリンダの設定温度は標準成形用温度に切り替わるので、シリンダ内の溶融樹脂の温度は比較的高温に維持されて、成形サイクルを再開するときにも容易にシリンダを加熱でき、成形サイクルを速やかに再開できる。また、計画されていた生産が完了した後には、比較的長期間成形サイクルを停止することになるが、このようなときには長期停止モードを選択することができる。そうすると、溶融樹脂は流動性を確保した状態で長期間シリンダ内に保持しても熱劣化する恐れは無い。そして成形サイクルの再開時には、シリンダ内の樹脂は溶融状態になっているので速やかに高温射出用温度にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る射出成形機1は、図1に示されているように、従来周知の射出成形機とほぼ同様に構成されている。すなわち射出成形機1は、概略的に、シリンダ3、このシリンダ3の内部に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュ4、シリンダ3の後方部に設けられシリンダ3内に成形用樹脂を供給するホッパ5、等からなる。シリンダ3の先端にはシリンダヘッド7が、シリンダヘッド7の先端にはノズルアダプタ8が設けられ、さらにその先端にノズル9が取り付けられている。シリンダ3の外周面にには、前方から後方にかけて第1〜3のシリンダヒータ11、12、13が巻き付けられ、第1〜3のシリンダヒータ11、12、13が巻き付けられている所定の部分には、シリンダ3の外周面から軸中心に向かう所定の深さの穴がそれぞれ明けられて、熱電対等の第1〜3のシリンダ温度センサ15、16、17が埋め込まれている。第1〜3のシリンダ温度センサ15、16、17はシリンダ3の温度を検出するようになっているが、センサが埋め込まれている穴は比較的深いので、検出される温度は溶融樹脂の温度であると見なすこともできる。第1〜3のシリンダ温度センサ15、16、17からの信号を検出して第1〜3のシリンダヒータ11、12、13を独立して制御すれば、シリンダ3の温度をシリンダ3の部分毎に制御することができる。例えば、シリンダ3の先端部近傍の温度を中央部から後方部にかけてよりも高温にする等のように制御することができる。シリンダヘッド7にも、その外周面にシリンダヘッドヒータ19が巻き付けられ、ノズル9とノズルアダプタ8の外周面にも、第1、2のノズルヒータ21、22が巻き付けられている。そして、シリンダヘッド7には外周面から軸中心に向かう所定の深さの穴が明けられて、シリンダヘッド温度センサ24が埋め込まれている。従って、シリンダヘッド温度センサ24からの信号を検出して、シリンダヘッドヒータ19と第1、2のノズルヒータ21、22を制御すれば、シリンダヘッド7とノズルアダプタ8とノズル9の温度を制御することができ、これらの内部の溶融樹脂の温度を制御することができる。
【0014】
このような射出成形機1は支持体25で支持されており、ベッドB上を前後方向にスライドさせることができる。射出成形機1の前方には、型締装置を構成している固定盤26と可動盤27とが設けられ、固定盤26には固定側金型28が、可動盤27には可動側金型29がそれぞれ取り付けられている。射出成形機1を前方にスライドさせると、ノズル9は固定盤26に明けられている開口部に挿入され、固定側金型28に設けられているスプル31にタッチすることになる。射出成形機1を後方にスライドさせると、ノズル9はスプル31から離間して、固定盤26に明けられている開口部から抜き出されて露出することになる。ノズル9の下方には、排出樹脂受32が設けられており、ノズル9がスプル31から離間しているときにノズル9から溶融樹脂が排出されると、排出された溶融樹脂を排出樹脂受32で受けることができるようになっている。
【0015】
本実施の形態に係る射出成形機1にはコントローラ34が設けられている。コントローラ34は、成形サイクルの停止時に、シリンダ3内の溶融樹脂が熱劣化して樹脂焼けが生じないように、射出成形機1を制御することになる。コントローラ34は、実際にはCPU、メモリ、入出力デバイス等のハードウエアと、ハードウエア上で動作するソフトウエアと、操作者の入力を受け付ける各種ボタン等から構成されていが、図には、1個の機能ブロックとして示されている。コントローラ34は、スクリュ4を回転方向に駆動する回転駆動機構35、スクリュ4を軸方向に駆動する軸駆動機構36、支持体25を前後方向にスライドする射出装置スライド機構37のそれぞれと、信号線a1、a2、a3によって接続されている。従って、コントローラ34からの指令で、スクリュ4の回転速度や軸方向への駆動を制御でき、射出成形機1を前後方向に駆動することができる。コントローラ34には、第1〜3のシリンダヒータ11、12、13にON/OFF指令を発信する信号線b1、b2、b3と、シリンダヘッドヒータ19にON/OFF指令を発信する信号線b4と、第1、2のノズルヒータ21、22にON/OFF指令を発信する信号線b5が接続されている。そして、コントローラ34には、第1〜3のシリンダ温度センサ15、16、17からの温度信号を受信する信号線c1、c2、c3と、シリンダヘッド温度センサ24からの温度信号を受信する信号線c4とが接続されている。このようなコントローラ34は、シリンダ3の各部分の温度を独立して制御できるようになっており、シリンダ3の部分毎に設定温度が設定できるようになっている。各部分の設定温度は3段階から設定できるようになっており、3段階の設定温度は、樹脂メーカが推奨する射出用温度である標準成形用温度と、標準成形用温度よりも30〜60℃高温の高温射出用温度と、樹脂を溶融状態で長期間保持しても熱劣化しない低温の保温用温度とからなる。このような各設定温度はコントローラ34内の不揮発性メモリに設定されることになる。さらに、コントローラ34には、切替可能な3個のモードが設けられ、ボタン操作によって各モードが選択できるようになっている。3個のモードは、成形を実施するモードである運転モードと、成形サイクルを寸停させる寸停モードと、成形サイクルを比較的長期間停止させる長期停止モードとからなる。
【0016】
本実施の形態に係る樹脂劣化防止装置1を備えた射出装置2の作用について説明する。
最初に、運転モードが選択されて、射出成形の成形サイクルが連続的に実施されている状態について説明する。成形サイクルが連続的に実施されているとき、射出成形機1のノズル9は、固定側金型28のスプル31にタッチされた状態になっている。従来周知のように、型締工程、計量工程、射出工程、保圧工程、型開工程、取出工程からなる一連の成形サイクルが繰り返し実施される。シリンダ3の設定温度には高温射出用温度が選択され、例えば、アクリル樹脂(PMMA)の場合は328℃、ポリカーボネート樹脂(PC)の場合は360℃の高温に加熱されて溶融樹脂の流動性が高められている。従って、L/t値が非常に大きい超薄肉成形品でも、充填不足が生じることなく成形できる。通常、このような温度に加熱されていると溶融樹脂は熱によって熱劣化し易くなり、仮に3〜5分間加熱された状態で放置されると、樹脂焼けが発生して樹脂が分解して炭化物が生成されてしまい、成形品に炭化物が混入するいわゆる黒点不良やシルバー現象が発生してしまう。しかしながら、成形サイクルが連続して実施されているので、溶融樹脂が高温に加熱されていても速やかに射出されて高熱状態になっている時間は短い。従って、樹脂焼けが発生することはなく不良品は発生しない。
【0017】
金型のメンテナンスの作業等によって、成形サイクルを短時間だけ停止する、いわゆる寸停時の作用について説明する。コントローラ34においてボタンを操作して寸停モードを選択する。そうすると、コントローラ34は、シリンダ3の設定温度を標準成形用温度に切り替える。そうすると、第1〜3のシリンダヒータ11、12、13とシリンダヘッドヒータ19と第1、2のノズルヒータ21、22がOFFされる。次いで、射出装置スライド機構37を駆動して射出成形機1を後退させてノズル9を固定側金型28のスプル31から離間させる。回転駆動機構35に指令を発信してスクリュ4の回転数を極力低い回転数に低下させ、軸駆動機構36に指令を発信してスクリュ4が空下がりしない程度の低い背圧をかける。図2の(ア)のグラフには、連続して実施されていた成形サイクルが寸停されて、成形サイクルが再開されるまでのシリンダ3の温度の変化が示されている。寸停直後は、符号41で示されている。
【0018】
ヒータ11、12、…がOFFされるとシリンダ3とシリンダ3内の溶融樹脂の温度は放熱によって徐々に低下する。シリンダ3の温度が標準成形用温度に達するまで、コントローラ34は、以下に説明する間欠パージを実施する。間欠パージは、計量処理とパージ処理とからなり、これらの処理が所定の時間間隔で間欠的に繰り返される。計量処理は、シリンダ内に新しい成形用樹脂を供給する処理であり、スクリュ4をゆっくりと後退させながらホッパ5から成形用樹脂をシリンダ3に供給する。パージ処理は、シリンダ3内に所定量の溶融樹脂が残存するようにして、スクリュ4を軸方向に所定量だけ駆動してノズル9からシリンダ3内の溶融樹脂を外部に排出する処理である。排出された溶融樹脂は、排出樹脂受32で受けられて廃棄される。計量処理とパージ処理は、例えば、1〜3分程度の時間間隔を空けて繰り返し実施される。間欠パージの実施例が表2に示されている。なお、表2において計量値は計量処理で樹脂が供給されるときのスクリュ4の後退ストロークを表したものであり、パージ速度はパージ処理におけるスクリュ4の軸方向の駆動速度のことであり、中間時間は計量処理とパージ処理とからなる一組の処理と次の一組の処理の時間間隔、すなわちインターバル時間のことである。
【0019】
【表2】

【0020】
符号42で示されているように、シリンダ3の温度が標準射出用温度に達したら、コントローラ34は間欠パージを停止する。ヒータ11、12、…を制御してシリンダ3の温度を標準射出用温度に維持する。溶融樹脂は標準射出用温度においては比較的熱劣化し難い。従って、寸停程度の短時間であれば樹脂焼けは発生しない。なお、実際には温度はノズル9、シリンダ3内の部分毎において異なるように制御されている。具体的には、ノズル9近傍とシリンダ3の先端部近傍の温度は、シリンダ3の中央部や後方部の温度よりも高くなるように制御されている。下記の表3には、アクリル樹脂(PMMA)とポリカーボネート樹脂(PC)のそれぞれを樹脂材料とする場合の、高温射出用温度と標準成形用温度の設定事例が示されている。表3に示されているように、それぞれの設定温度は、シリンダ3の部分毎に異なる値で設定されている。シリンダ3の温度はこのように部分毎に制御されているが、ある部分が標準射出用温度に達していても他の部分ではまだ標準射出用温度に達していない状態が生じる可能性がある。従って、間欠パージを停止する条件が曖昧にならないように、予め間欠パージの停止の条件を決定しておく必要がある。本実施の形態においては、間欠パージの停止は、第1のシリンダ温度センサ15とシリンダヘッド温度センサ24の信号の2個の信号に基づいて判断されるようになっており、いずれの信号も標準成形用温度に達したときに間欠パージが停止されるようになっている。
【0021】
【表3】

【0022】
金型のメンテナンスが完了する等して、寸停の状態から成形サイクルを再開するとき、コントローラ34のボタンを操作して運転モードを選択する。そうすると、コントローラ34は、シリンダ3の設定温度を高温射出用温度に切り替える。ヒータ11、12、…がONされる。次いで、スクリュ4の回転を低速に維持した状態で、前記した間欠パージを実施する。図2の(ア)のグラフの符号44に示されているようにシリンダ3の温度が高温射出用温度に達したら、コントローラ34は間欠パージを停止して、射出装置スライド機構37を駆動して射出装置2を前進させてノズル9を固定側金型28のスプル31にタッチさせる。成形サイクルを再開する。
【0023】
寸停のように比較的短時間な停止ではなく、予定されていた生産が完了する等して、成形サイクルを比較的長時間停止する場合について図2の(イ)のグラフを参照して説明する。成形サイクルを停止するとき、コントローラ34の所定のボタンを操作して長期停止モードを選択する。そうすると、コントローラ34は、シリンダ3の設定温度を保温用温度に切り替える。第1〜3のシリンダヒータ11、12、13とシリンダヘッドヒータ19と第1、2のノズルヒータ21、22はOFFされる。そうしておいて、コントローラ34は寸停時と同様に以下の処理を行う。射出装置スライド機構37を駆動して射出成形機1を後退させてノズル9を固定側金型28のスプル31から離間させる。
【0024】
ヒータ11、12、…がOFFされるとシリンダ3とシリンダ3内の溶融樹脂の温度は放熱によって徐々に低下する。シリンダ3の温度が標準成形用温度まで低下するまでは、寸停時と同様に間欠パージを実施する。グラフの符号47で示されているように、シリンダ3の温度が標準射出用温度よりも低下したら、間欠パージを停止する。さらにシリンダ3の温度が放熱によって低下して、符号48で示されているように予めコントローラ34に設定された保温用温度に達したら、ヒータ11、12、…を制御してシリンダ3の温度を保温用温度に維持する。好ましい保温用温度は、樹脂のガラス転移点よりも10℃程度高い温度であり、前記した表3には、このような保温用温度の例が示されている。保温用温度に維持されていれば停止期間が比較的長時間になっても溶融樹脂が劣化することは無い。
【0025】
停止されている状態から成形サイクルを再開する場合、コントローラ34において運転モードを選択する。そうすると、コントローラ34はシリンダ3の設定温度を高温射出用温度に切り替える。ヒータ11、12、…がONされてシリンダ3が加熱される。符号50で示されているように、シリンダ3の温度が標準成形用温度を超えたら、前記した間欠パージを開始して樹脂焼けの発生を防止する。符号51に示されているようにシリンダ3の温度が高温射出用温度に達したら、コントローラ34は、間欠パージを停止して、射出装置スライド機構37を駆動して射出装置2を前進させてノズル9を固定側金型28のスプル31にタッチさせ、成形サイクルを再開する。
【0026】
本発明の実施の形態に係る射出成形機は、上記実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できる。例えば、寸停モードや長期停止モード等は、オペレータによって切り替えられるように説明されているが、射出成形機の異常が検出されたら自動的に寸停モード、または長期停止モードに切り替えられるように構成されていてもよい。また、コントローラは、溶融樹脂の劣化を防止する処理を実施する独立した専用のコントローラであるように説明されているが、従来周知の射出成形の各工程を制御するコントローラから構成され、このようなコントローラに樹脂の劣化を防止する機能が付加されていてもよい。このようにすると、ハードウエアを新たに追加する必要がなく安価に実施できる。また、成形サイクルの停止時にはヒータをOFFして自然放熱によって溶融樹脂の温度を低下させるように説明されているが、シリンダの近傍にファンを設けて強制的に冷却するようにしてもよい。このようにすると、速やかに溶融樹脂の温度が低下するので、間欠パージを実施する回数を少なくでき、廃棄される溶融樹脂は少なくて済む。また、成形サイクルの停止時に溶融樹脂が射出用温度から標準射出用温度に低下する間に一定のインターバル時間で間欠パージが実施されるように説明されているが、インターバル時間は溶融樹脂の温度によってきめ細かく変化させても良い。そうするとさらに無駄に廃棄される樹脂量を抑制することができるし、樹脂焼けの危険も低下する。また、標準成形用温度は、樹脂メーカに推奨されている温度に設定されているように説明されているが、そのような温度よりも低い温度に設定されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の実施の形態に係る射出成形機は、超薄肉成形品だけでなく、他の成形品を成形する射出成形機にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る射出成形機を模式的に示す正面図である。
【図2】本実施の形態に係る射出成形機によって、成形サイクルを停止した場合のシリンダの温度変化と射出装置の動作を説明するグラフであり、その(ア)は、成形サイクルの寸停時の、その(イ)は成形サイクルの比較的長期間の停止時の、それぞれのシリンダの温度変化と射出成形機の動作を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 射出成形機
3 シリンダ 5 スクリュ
6 ホッパ 7 シリンダヘッド
9 ノズル
11、12、13 第1〜3のシリンダヒータ
15、16、17 第1〜3のシリンダ温度センサ
19 シリンダヘッドヒータ
21、22 第1、2のノズルヒータ
26 固定盤 27 可動盤
28 固定側金型 29 可動側金型
34 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータと温度センサとを備え先端部にノズルが設けられているシリンダと、該シリンダ内に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとからなり、前記スクリュを回転駆動して成形用樹脂を計量し、そして前記スクリュを軸方向に駆動して金型へ射出充填すると、薄肉成形品が得られるようになっている射出成形機であって、
該射出成形機はコントローラを備え、
前記コントローラには、樹脂メーカが推奨している射出用の温度である標準射出用温度と、該標準射出用温度よりも高温の高温射出用温度と、前記標準射出用温度よりも低温の保温用温度とからなる少なくとも3段階の切替可能な温度が設定されるようになっており、前記コントローラには、成形サイクルの停止時に、前記温度センサによって検出されるシリンダ温度に応じて、前記成形用樹脂を前記シリンダに供給する計量処理と、前記ノズルから所定量の前記溶融樹脂を排出するパージ処理とを適宜実施する制御手段が設けられていることを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形機を使用して、前記高温射出用温度を選択して成形しているときに、成形サイクルを停止して前記標準成形用温度、または前記保温用温度に切り替えると、前記シリンダ温度が前記標準成形用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とを所定の周期で繰り返すことを特徴とする、射出成形機の運転方法。
【請求項3】
請求項2に記載の運転方法において、前記停止後に前記成形サイクルを再開するときは、前記高温射出用温度に切り替えると共に、前記シリンダ温度が前記標準成形用温度を超えたら、前記高温射出用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とを所定の周期で繰り返すことを特徴とする、射出成形機の運転方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の運転方法において、前記シリンダ温度は、前記シリンダの先端部近傍に設けられている温度センサによって検出することを特徴とする、射出成形機の運転方法。
【請求項5】
請求項1に記載の射出成形機において、前記コントローラには、運転モードと寸停モードと長期停止モードとからなる少なくとも3個の選択可能なモードからなる選択手段が設けられ、
前記運転モードが選択されているときに、前記寸停モードが選択されると、前記シリンダの設定温度が前記標準成形用温度に切り替えられると共に、前記シリンダ温度が前記標準成形用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とが所定の周期で繰り返され、
前記運転モードが選択されているときに、前記長期停止モードが選択されると、前記シリンダの設定温度が前記保温用温度に切り替えられると共に、前記シリンダ温度が前記標準成形用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とが所定の周期で繰り返され、
前記寸停モード、または前記長期停止モードが選択されているときに前記運転モードが選択されると、前記シリンダの設定温度が前記高温射出用温度に切り替えられると共に、前記シリンダ温度が前記標準成形用温度を超えたら、前記高温射出用温度に到達するまで、前記計量処理と前記パージ処理とが所定の周期で繰り返されるようになっていることを特徴とする射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−99995(P2010−99995A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275386(P2008−275386)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】