説明

成形体の製造方法

【課題】表面状態が良好なポリエーテルエーテルケトンを含有する成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)ポリエーテルエーテルケトンを濃硫酸に溶解した溶液を、濾過径0.4μm以上、4μm以下のフィルターを用いて濾過する工程と、
(2)該濾過工程によって得られた濾液から精製ポリエーテルエ−テルケトンを回収する工程と、
(3)該精製ポリエーテルエーテルケトンを熔融押出しする工程と
を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルエーテルケトンを含む成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトンは、耐熱性、機械的強度、表面平滑性、寸法安定性、電気的特性、耐湿性、耐屈曲性、透明性等に優れている。このため、油井用電線、ポンプインペラ、ポンプハウジング、パッキン、ベアリングリテーナー、防食コーティング、純水配管装置、半導体及び液晶用ガラス基盤製造冶具、高信頼性コネクター、複写機部品等の用途で用いられている(非特許文献1)。
【0003】
また、電子写真装置用部材として、ベルト状やローラー状等の帯電部材、感光体ドラムの感光体層とそれを支持するためのベルト状又はローラー状支持体、ローラー状やベルト状の現像部材、トナー層厚を一定にする現像剤層厚規制部材等の形成に用いられている。更に、ポリエーテルエーテルケトンを用いて形成した転写ベルト、中間転写ベルト、転写ローラー等の転写部材、クリーニングブレード等のクリーニング部材、ブレード、ベルト、ローラー等の除電部材、紙搬送部材が挙げられる(特許文献1)。また、ポリエーテルエーテルケトンが工業的に透明で異物の少ない安定した樹脂として得られることから、光学位相差フイルム等への利用が提案されている(特許文献2)。このような精密なシート・ベルト等を形成するためポリエーテルエーテルケトンを用いるためには、高度な表面性が要求される。
【0004】
しかしながら、ポリエーテルエーテルケトンは、混練・成形過程において、押出機内に長時間滞留した場合、あるいは、樹脂の製造過程で、高分子量化したポリエーテルエーテルケトン、いわゆる、ゲル状物が発生することがある。ゲル状物を含有するポリエーテルエーテルケトンを用いて成形体を調製すると、成形体の表面が、フィッシュアイと呼ばれるいわゆるブツや流れむら等の発生により悪化することが知られている(特許文献3)。
【0005】
最近、ポリエーテルエーテルケトンの成形体の表面を改善する方法として、樹脂を溶融し、10〜80μmのフィルターで濾過したポリエーテルエーテルケトンを用いる方法が提案されている(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、このような溶融樹脂をフィルターで濾過する方法では、直径200μm以上の突起状のフィッシュアイを取り除くことは可能であるが、直径200μm未満の突起状のフィッシュアイに対しては有効な効果が得られない。これに対する方法として、更に濾過径(目開き)の細かいフィルターで濾過する方法が考えられる。しかし、フィルターの濾過径(目開き)が10μmより小さいと、押出成形機内での樹脂の圧力上昇が大きくなり、モーターが過負荷となり押出成形が不能となるという問題がある。
【特許文献1】特開2005−112942
【特許文献2】特開平05−177702
【特許文献3】特公平07−057819
【特許文献4】特開平10−076563
【非特許文献1】エンジニアリングプラスチック 株式会社プラスチック・エージ発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、表面状態が良好なポリエーテルエーテルケトンを含有する成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、現在、開発され、入手可能なポリエーテルエーテルケトンに対して、成形温度を340−390℃に変化させて成形を行い、成形時間を5−40分で変化させ、即ち押出成形速度を変化させて成形を行い、表面に生じるフィッシュアイの観察を行った。成形温度と発生するフィッシュアイの数、成形時間と発生するフィッシュアイの数は、それぞれ図2、図3に示すように比例関係にあることが示された。更に、図2を外挿すると、ポリエーテルエーテルケトンの融点で成形した場合でも、直径70μm以上の突起状フィッシュアイをなくすことはできないと推測された。また、図3を外挿しても0にはならず、成形時間を可能な限り短縮しても、直径70μm以上の突起状フィッシュアイをなくすことはできないと推測された。
【0009】
このため、本発明者はもともとポリエーテルエーテルケトン樹脂中に含まれるゲル分を取り除く必要があるのではないかと考えた。そして、ポリエーテルエーテルケトンを濃硫酸に溶解した溶液(X)をフィルターの濾過径(目開き)0.4μm以上、4μm以下のフィルターで繰り返しろ過し、濾液から回収した精製ポリエーテルエーテルケトンを熔融押出しして成形体を形成した。その結果、突起状フィッシュアイの数が抑制できることを見出した。特に、精製ポリエーテルエーテルケトンを濃硫酸に溶解した溶液(Y)を、前記フィルターを用いて1回濾過した際にフィルター上に回収される濾過残留物の割合が10−4質量%以下となるように、精製ポリエーテルエーテルケトンの精製度を高める。すると、成形体表面に生じる直径70μm以上の突起状フィッシュアイの数を極めて有効に抑制できることの知見を得た。かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)ポリエーテルエーテルケトンを濃硫酸に溶解した溶液を、濾過径0.4μm以上、4μm以下のフィルターを用いて濾過する工程と、
(2)該濾過工程によって得られた濾液から精製ポリエーテルエ−テルケトンを回収する工程と、
(3)該精製ポリエーテルエーテルケトンを熔融押出しする工程と
を含むことを特徴とするポリエーテルエーテルケトンを含有する成形体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエーテルエーテルケトンを含有する成形体の製造方法は、押出成形機を用いて成形可能であって、表面状態が良好な成形体が得られる。特に、電子写真装置用中間転写ベルトの形成に好適を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のポリエーテルエーテルケトン(以降「PEEK」とも記す。)を含む成形体の製造方法は、
(1)ポリエーテルエーテルケトンを濃硫酸に溶解した溶液を、濾過径0.4μm以上、4μm以下のフィルターを用いて濾過する工程と、
(2)該濾過工程によって得られた濾液から精製ポリエーテルエ−テルケトンを回収する工程と、
(3)該精製ポリエーテルエーテルケトンを熔融押出しする工程とを含む。
【0013】
本発明のポリエーテルエーテルケトンを含有する成形体の製造方法における(1)工程は、ポリエーテルエーテルケトンを濃硫酸に溶解した溶液を、濾過径0.4μm以上、4μm以下のフィルターを用いて濾過する工程である。(1)工程に用いるポリエーテルエーテルケトンとしては、その構造も、分子量も特に限定されず、含有するゲル状物の含有量も特に限定されるものではない。具体的には、式(1)で表される繰返し単位を有する重合体を挙げることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
式(1)で表される繰返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンとしては、例えば、ビクトレックス社製の商品名「Victrex PEEK」等を挙げることができる。
【0016】
市販品等のポリエーテルエーテルケトンを濃硫酸に溶解し、溶液(X)を得る。使用する濃硫酸は、常温で、ポリエーテルエーテルケトンを溶解し、高分子量のポリエーテルエーテルケトンのゲル状物質を溶解しないものが好ましい。濃硫酸の濃度は90質量%以上であることが好ましく、例えば、硫酸の濃度が98質量%(キシダ化学社製)のものを挙げることができる。
【0017】
溶液(X)中のポリエーテルエーテルケトンの濃度は、ポリエーテルエーテルケトンが、沈殿物なく溶解し得る濃度であれば、特に制限はない。ポリエーテルエーテルケトンの濃硫酸の溶解度が23質量%程度であるため、溶液(X)のポリエーテルエーテルケトンの濃度は、23質量%以下であることが好ましい。更に、濃硫酸の粘度と同程度の粘度を有することから10質量%以下であることが特に好ましい。
【0018】
溶液(X)の濾過に用いるフィルターは、濾過径(目開き)0.4μm以上、4μm以下である。濾過径がこの範囲であれば、ポリエーテルエーテルケトンの濃硫酸液に含有されるゲル状物を濾別し、除去を行うことができる。使用するフィルターや濾過装置は濃硫酸に対し耐久性を有する材質であることが好ましい。フィルターとしては、ミリポア社製フロリナートメンブレンフィルター等を使用することができる。
【0019】
ゲル状物の濾過方法としては、上記フィルターを用いれば、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等いずれの方法によってもよい。フィルターによる濾過は複数回行う。フィルターによる濾過は3回以上行うことが好ましい。
【0020】
濾液からのポリエーテルエーテルケトンの回収は、ポリエーテルエーテルケトンの分解や、異物・不純物の混入を抑制できる方法によることが好ましい。その具体的方法の一例として、以下の方法を挙げることができる。濾液を100倍量蒸留水で希釈し、析出したポリエーテルエーテルケトンを遠心分離機を用いて回収する。また、回収したポリエーテルエーテルケトンから、残留している硫酸イオン等を取り除く目的で、蒸留水で反復して、例えば、5回洗浄する。
【0021】
(1)工程は回収したポリエーテルエ−テルケトン(精製ポリエーテルエーテルケトン)の精製度を高めるために、以下の工程を含むことが好ましい。精製ポリエーテルエーテルケトンの濃硫酸溶液を前記フィルターで1回濾過したときに前記フィルター上の残留物の、精製ポリエ−テルエーテルケトンに対する質量比が1×10-4質量%以下となるように濾過を繰り返す工程である。
【0022】
まず、回収したポリエーテルエ−テルケトンを濃硫酸に溶解し溶液(Y)を調製する。溶液(Y)中の精製ポリエーテルエーテルケトンの濃度は、上記溶液(X)中のポリエーテルエーテルケトンの濃度と同様の範囲を好ましい範囲として挙げることができる。また、溶液(Y)の濾過は、上記溶液(X)の濾過と同様の方法を用いて行うことができるが、濾過回数は1回とする。このとき、フィルター上に捕集される濾過残留物の回収方法は、フィルターを濃硫酸溶液中でよく洗い、フィルター上に捕集されたゲル状物を濃硫酸中に再び、分散させる。この溶液からのポリエーテルエーテルケトンの回収は、ポリエーテルエーテルケトンの分解や、異物・不純物の混入を抑制できる方法によることが好ましい。そして、該フィルター上の残留物の、該精製ポリエーテルエーテルケトンに対する質量比が1×10-4質量%以下となるように、上記精製ポリエーテルエーテルケトンの精製度を高める。これにより、当該精製ポリエーテルエーテルケトンを熔融押出しして得られる成形体に生じるフィッシュアイの数を極めて有効に抑制できる。
【0023】
精製ポリエーテルエーテルケトンの精製度を高める具体的方法の一例として、具体的に以下の方法を挙げることができる。濾液を100倍量蒸留水で希釈し、析出したポリエーテルエーテルケトンを遠心分離機を用いて回収する。また、回収したポリエーテルエーテルケトンから、残留している硫酸イオン等を取り除く目的で、蒸留水で反復して、例えば、5回洗浄する。回収したポリエーテルエ−テルケトンとこれを濃硫酸に溶解した溶液(Y)と前記フィルターを用いて、1回濾過した際にフィルター上に回収される濾過残留物の割合を求める方法として、通常これらの質量を測定し比較し、算出することが考えられる。しかし、洗浄を繰り返しても回収したポリエーテルエーテルケトンや濾過残留物から、完全に濃硫酸を取り除くことは困難であるために、これを濃硫酸中に溶解して、これらの吸光度から算出することが好ましい。
【0024】
ポリエーテルエーテルケトンやそのゲル状物を濃硫酸に溶解した溶液の紫外可視吸収スペクトルは、410nm近傍にピークをもつ。このピークは、ポリエーテルエーテルケトンやそのゲル状物に含有されるカルボニル基に起因するものである。ポリエーテルエーテルケトン0.1ミリグラムを1リットルに溶解した溶液の光路長1cm当りの吸光度が、0.21であることから、ランベルト・ベールの法則を用いて、溶液中のポリエーテルエーテルケトンやそのゲル状物の濃度を算出することができる。この濃度と溶液の質量から、ポリエーテルエーテルケトンやそのゲル状物の質量を算出することができる。
【0025】
ポリエーテルエーテルケトンやそのゲル状物を濃硫酸に溶解した溶液の紫外可視吸収スペクトルの測定方法として、市販されている紫外可視分光光度計を用いて測定することができる。測定条件として、計測温度は、20±1℃、光路長1cm、波長分解精度1nm以上で400nm〜500nmより広い範囲を測定することが好ましい。また、この際に用いるポリエーテルエーテルケトンやそのゲル状物の濃硫酸溶液は、使用する吸光度測定装置の測定可能範囲とするため、適宜、濃縮、又は希釈して調整することが好ましい。吸光度の測定値は、溶液(Y)の濃縮又は希釈した倍率に応じて補正する。
【0026】
本発明のポリエーテルエーテルケトンを含有する成形体の製造方法における(2)工程は、(1)工程の濾過工程によって得られた濾液から精製ポリエーテルエ−テルケトンを回収する工程である。精製ポリエーテルエ−テルケトンを回収する工程としては、上記(1)工程におけるポリエーテルエーテルケトンの回収と同様の手段を用いることができる。
【0027】
本発明のポリエーテルエーテルケトンを含有する成形体の製造方法における(3)工程は、(2)工程で回収した精製ポリエーテルエーテルケトンを熔融押出しする工程である。(3)工程において、上記精製ポリエーテルエーテルケトンを含む組成物を形成し、これを熔融押出しして成形体を成形する。かかる精製ポリエーテルエーテルケトン含有する組成物には、上記成分の効果を阻害しない範囲で、各種フィラーや、添加物等が含有されていてもよい。かかる各種フィラーの具体例を以下に挙げる。炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質)タルク、マイカ、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、ゼオライト、ウオラストナイト、けいそう土、ガラス繊維、ガラスビーズ、ベントナイト、モンモリロナイト。アスベスト、中空ガラス玉、黒鉛、二硫化モリブデン、酸化チタン、炭素繊維、アルミニウム繊維、ステンレススチール繊維、黄銅繊維、アルミニウム粉末、木粉、もみ殻、グラファイト、金属粉、導電性金属酸化物、有機金属化合物、有機金属塩等。添加剤として、酸化防止剤(フェノール系、硫黄系等)、滑剤、有機・無機系の各種顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、銅害防止剤、難燃剤、架橋剤、流れ性改良剤等を挙げることができる。
【0028】
上記精製ポリエーテルエーテルケトン組成物を熔融して押出成形としては、ダイから押し出す方法であり、例えば、東洋精機製ラボプラストミルに付属1軸押出機及び、スリットダイを接続した装置を挙げることができる。
【0029】
押出成形により得られる成形体は、厚さ10μm以上、300μm以下であることが好ましい。成形体の厚さがこの範囲であれば、フィッシュアイの発生を抑制することができ、表面状態が良好となる。
【0030】
本発明のポリエーテルエーテルケトンを含む成形体の製造方法は、シームレスベルトの製造に適用することが好ましく、特に、電子写真装置に用いられる中間転写ベルト等の製造方法として好適である。その一例として、図1に示す電子写真装置に設けたものを挙げることができる。図1に示す電子写真装置は、矢印A方向に回転する感光ドラム1が設けられ、その周囲に帯電器2、露光光学系3、現像器4、シームレスの中間転写ベルト6を有する中間転写装置、クリーナー5等が設置される。上記中間転写装置には、感光ドラムに対向して静電転写器10が中間転写ベルト6を介して設けられる。中間転写ベルトは、搬送ローラー7、8、9に懸架され、矢印A方向に回転する感光ドラムと同調して矢印B方向に移動するようになっている。更に、中間転写ベルトを介して搬送ローラー9に対向する位置に押圧ローラーを有する転写装置12が設けられ、押圧ローラーは、中間転写ベルト間を通過する記録紙等の記録材11を中間転写ベルトに押圧するように設置される。
【0031】
このような電子写真装置においては、感光ドラム1を矢印A方向に回転させ、その表面を帯電器2により一様に帯電する。次に、露光光学系3により、例えば、半導体レーザー光源等を用いた画像読み取り装置等で得られた画像に対応する静電潜像を感光ドラム1上に形成する。静電潜像は現像器4において供給されるトナーが付着してトナー像として現像される。トナー像は、静電転写器10により感光ドラムの帯電電荷量より高電荷が中間転写ベルト6を介して付与されることにより、中間転写ベルト上に移動する。中間転写ベルト上に移動したトナー像は、トナーと逆極性電荷を付与する押圧ローラーにより、中間転写ベルトと押圧ローラー間を通過する記録材11上へ移動する。その後、記録材11上に転写されたトナー像は、図示しない定着器において加熱等により定着され、画像が形成された記録材を得る。一方、感光ドラムは、トナー像が中間転写ベルト上へ転写後に、残留するトナーがその表面から除去され、画像形成可能な状態となる。
【0032】
本発明の電子写真装置用中間転写ベルトの製造方法は、使用する材料によって適宜選択することができる。具体的には、添加剤、溶媒等を添加したポリエーテルエーテルケトン組成物をスプレー、浸漬、ロールコート等の手法により、基材上に塗膜を形成し、燥炉で乾燥させた後、熱プレスを行いシート状のベルト材料を得る。このシート状のベルト材料の端部を熱融着して、電子写真装置用中間転写ベルトを作製することができる。
【0033】
また、本発明の他の実施形態のポリエーテルエーテルケトンを含有する成形体の製造方法として、重量平均粒子径が100μm以下のポリエーテルエーテルケトンを含むポリエーテルエーテルケトン組成物を使用してもよい。
【0034】
重量平均粒子径が100μm以下のポリエーテルエーテルケトンは市販のポリエーテルエーテルケトンを粉砕して得ることができる。粉砕後、篩い分けすることが好ましい。粉砕装置として、ハンマーミル等を例示することができ、また、粉砕条件として、液体窒素等を用いた凍結粉砕を行うことが好ましい。
【0035】
ポリエーテルエーテルケトンの重量平均粒子径は、動的光散乱法を用いて測定した測定値を採用することができる。測定装置として、例えば、大塚電子(株)製動的光散乱測定装置(LPA−3000/LPA−3100)を用いることができる。
【0036】
上記重量平均粒子径を有するポリエーテルエーテルケトン組成物には、上記例示のフィラー、添加剤を含有していてもよい。
【0037】
上記ポリエーテルエーテルケトン組成物の混合、成形は組成物を凝集させず充分に分散させることのできる装置、条件により成形すればよい。例として、2軸混練押出機(PCM30:株式会社池貝製)等を使用することができる。
【0038】
上記ポリエーテルエーテルケトン組成物を用いて得られる成形体として、上記電子写真装置用中間転写ベルトを挙げることができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の導電性エンドレスベルト適用した具体的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex PEEKグレード450G:ビクトレックス社)に濃硫酸98%(キシダ化学社製)を加え、10質量%の溶液(X)を調製した。この溶液(X)をミリポア社製フロリナートメンブレンフィルター(孔径1μm)を用いて3回濾過した。濾液を100倍量蒸留水で希釈し、析出したポリエーテルエーテルケトンを遠心分離機で回収した。回収したポリエーテルエーテルケトンを1Lの蒸留水で5回洗浄した。
【0040】
回収したポリエーテルエーテルケトンに濃硫酸98%(キシダ化学社製)を加え、0.001質量%の溶液(Y)を調製し、以下の方法で、吸光度を測定した。測定は、日立製分光光度計U−4000を用いて、1cm石英セル、常温で300〜800nmの範囲で測定した。結果を表1に示す。
【0041】
また、回収したポリエーテルエーテルケトンと、カーボンブラック(デンカブラック(粒状品):電気化学工業社製)とを質量比90:10の割合で混合し、混練・造粒機(PCM30:株式会社池貝製)を用いてペレット化した。その後、厚み0.5mm、幅50mmのスリットダイを取り付けた1軸押出機(ラボプラストミル:東洋精機製)を用いて、厚み100μm、片面表面積1000cm2のシートを作成した。
【0042】
シートの全表面を、25倍率のルーペを用いて観察しフィッシュアイの個数を測定し、測定されたフィッシュアイについて光学顕微鏡を用いてその直径を測定した。直径70μm以上の突起状フィッシュアイは確認されなかった。
【0043】
[実施例2]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex PEEKグレード381G:ビクトレックス社)を用い、濾過を5回行った以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルエーテルケトンを回収し、シートを作成した。実施例1と同様にして、ポリエーテルエーテルケトンの吸光度を測定し、シートの表面の直径70μm以上の突起状フィッシュアイ数を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex PEEKグレード151G:ビクトレックス社)を用い、濾過を11回行った以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルエーテルケトンを回収し、シートを作成した。実施例1と同様にして、ポリエーテルエーテルケトンの吸光度を測定し、シートの表面の直径70μm以上の突起状フィッシュアイ数を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex PEEKグレード151G:ビクトレックス社)を用い、濾過を11回行った以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルエーテルケトンを回収し、ポリエーテルエーテルケトンの吸光度を測定した。得られたポリエーテルエーテルケトンを用いて、厚み2.0mm、幅50mmのスリットダイを用い、厚さ2000μmのシートを作成した。シートの表面の直径70μm以上の突起状フィッシュアイ数を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例5]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex PEEKグレード450G:ビクトレックス社)を、重量平均粒子径56.8μmまで粉砕した。このポリエーテルエーテルケトンと、カーボンブラック(デンカブラック(粒状品):電気化学工業社製)とを質量比95:5の割合として用いた他は実施例1と同様にシートを作成し、シートの表面の直径70μm以上の突起状フィッシュアイ数を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例6]
重量平均粒子径93.2μmまで粉砕したポリエーテルエーテルケトンと、カーボンブラック(デンカブラック(粒状品):電気化学工業社製)とを質量比97:3の割合として用いた。それ以外は、実施例5と同様にシートを作成し、シートの表面の直径70μm以上の突起状フィッシュアイ数を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
ミリポア社製フロリナートメンブレンフィルター(孔径5μm)フィルターを用いて濾過を1回行なった他は、実施例1と同様にして、ポリエーテルエーテルケトンを回収し、シートを作成した。実施例1と同様にして、ポリエーテルエーテルケトンの吸光度を測定し、シートの表面の直径70μm以上の突起状フィッシュアイ数を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例2]
重量平均粒子径304μmまで粉砕したポリエーテルエーテルケトンを用いた他は実施例6と同様にシートを作成し、シートの表面の直径70μm以上の突起状フィッシュアイ数を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
結果からも、本発明の成形体においては、直径70μm以上の突起状フィッシュアイは形成されず、表面状態が優れていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のポリエーテルエーテルケトンを含有する成形体の製造方法を適用して得られた中間転写ベルトを適用した電子写真装置を示す概略構成図である。
【図2】従来のポリエーテルエーテルケトンを用いた成形体における成形温度とフィッシュアイの数の関係を示す図である。
【図3】従来のポリエーテルエーテルケトンを用いた成形体における成形時間とフィッシュアイの数の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 感光ドラム
6 中間転写ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリエーテルエーテルケトンを濃硫酸に溶解した溶液を、濾過径0.4μm以上、4μm以下のフィルターを用いて濾過する工程と、
(2)該濾過工程によって得られた濾液から精製ポリエーテルエ−テルケトンを回収する工程と、
(3)該精製ポリエーテルエーテルケトンを熔融押出しする工程と
を含むことを特徴とするポリエーテルエーテルケトンを含有する成形体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)が、精製ポリエーテルエーテルケトンの濃硫酸溶液を前記フィルターで1回濾過したときに前記フィルター上の残留物の、精製ポリエ−テルエーテルケトンに対する質量比が1×10-4質量%以下となるように濾過を繰り返す工程を含む請求項1記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記成形体が、シームレスベルトである請求項1又は2記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記シームレスベルトが、電子写真装置に用いられるものである請求項3記載の成形体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−115897(P2010−115897A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292101(P2008−292101)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】