説明

成形体の製造方法

【課題】微細なパターンを有する成形体を、目的の形状を有するものとして効率よく製造することができる成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の成形体の製造方法は、成形型を用い、ワークを加熱して、幅が10nm以上500μm以下の微細なパターンを有する成形体を製造する方法であって、前記成形型の構成材料と前記ワークの構成材料との貯蔵弾性率E’の差が100[MPa]以上となる温度T[℃]で成形を行う加熱工程と、前記ワークを加熱・成形することにより得られた成形体を前記成形型から離型する離型工程とを有し、前記温度T[℃]における前記ワークの構成材料の線膨張係数をα[℃−1]、前記温度T[℃]における前記成形型の構成材料の線膨張係数をα[℃−1]としたとき、|α−α|≦100.0×10−4の関係を満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形体の製造には、各種成形方法が用いられている。
特に、成形型を用いて、ワークの表面に凹凸を転写する方法が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記のような方法では、微細パターン(例えば、幅が500μm以下の微細なパターン)を形成しようとした場合、成形型のパターンを忠実に転写することが困難であり、離型する際にワークに形成されたパターンに割れ、欠け等の欠陥を生じる場合がある等の問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−326367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、微細なパターンを有する成形体を、目的の形状を有するものとして効率よく製造することができる成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)〜(9)に記載の本発明により達成される。
(1) 成形型を用い、ワークを加熱して、幅が10nm以上500μm以下の微細なパターンを有する成形体を製造する方法であって、
前記成形型の構成材料と前記ワークの構成材料との貯蔵弾性率E’の差が100[MPa]以上となる温度T[℃]で成形を行う加熱工程と、
前記ワークを加熱・成形することにより得られた成形体を前記成形型から離型する離型工程とを有し、
前記温度T[℃]における前記ワークの構成材料の線膨張係数をα[℃−1]、前記温度T[℃]における前記成形型の構成材料の線膨張係数をα[℃−1]としたとき、|α−α|≦100.0×10−4の関係を満足することを特徴とする成形体の製造方法。
【0007】
(2) 前記温度Tは、前記ワークの構成材料のガラス転移点以上の温度である上記(1)に記載の成形体の製造方法。
【0008】
(3) 前記温度T[℃]における前記成形型の構成材料の貯蔵弾性率E’は、100[MPa]以上である上記(1)または(2)に記載の成形体の製造方法。
【0009】
(4) 前記加熱工程と前記離型工程との間に、前記ワークの構成材料の貯蔵弾性率E’が1000[MPa]以上となる温度まで冷却する冷却工程をさらに有する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【0010】
(5) 前記成形体は、規則的な前記パターンを有するものである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【0011】
(6) 前記成形体は、前記パターンとして、複数の柱状の凸部を有するものである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【0012】
(7) 前記成形型がポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステルおよびポリエーテルイミドよりなる群から選択される1種または2種以上で構成されたものである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【0013】
(8) 前記ワークが非晶性の樹脂で構成されたものである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【0014】
(9) 前記成形型として、離型剤が付与されていないものを用いる上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、微細なパターンを有する成形体を、目的の形状を有するものとして効率よく製造することができる成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】成形体の製造方法の好適な実施形態を示す縦断面図である。
【図2】示差走査熱量分析を行ったときに得られる、試料の融点付近での示差走査熱量分析曲線のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
<成形体の製造方法>
まず、本発明の成形体の製造方法について説明する。図1は、成形体の製造方法の好適な実施形態を示す縦断面図である。なお、本明細書で参照する図面は、構成の一部を誇張して示したものであり、実際の寸法等を正確に反映したものではない。
【0018】
本発明の製造方法は、成形型を用い、ワークを加熱して、幅が10nm以上500μm以下の微細なパターンを有する成形体を製造する方法であって、前記成形型の構成材料と前記ワークの構成材料との貯蔵弾性率E’の差が100[MPa]以上となる温度T[℃]で成形を行う加熱工程と、前記ワークを加熱・成形することにより得られた成形体を前記成形型から離型する離型工程とを有し、前記温度T[℃]における前記ワークの構成材料の線膨張係数をα[℃−1]、前記温度T[℃]における前記成形型の構成材料の線膨張係数をα[℃−1]としたとき、|α−α|≦100.0×10−4の関係を満足することを特徴とする。これにより、微細なパターンを有する成形体を、目的の形状を有するものとして効率よく製造することができる成形体の製造方法を提供することができる。特に、製造する成形体や成形型に欠け等の欠陥が生じることを防止しつつ、所望の形状を有する成形体を、長期間にわたって安定的に繰り返し製造することができる。
【0019】
また、本実施形態では、加熱工程(1b)と離型工程(1d)との間に、ワーク1の構成材料の貯蔵弾性率E’が1000[MPa]以上となる温度まで冷却する冷却工程(1c)をさらに有している。これにより、成形体10の形状の安定性が十分に高くなった状態で、離型工程において、成形体10を成形型2から離型することができ、最終的に得られる成形体10の寸法精度等を特に優れたものとすることができる。また、離型工程での操作性も向上し、成形体10の生産性を特に優れたものとすることができる。なお、貯蔵弾性率E’は、JIS K7244に準拠した測定により求めることができる。
【0020】
以下、各工程等について、詳細に説明する。
[準備工程]
加熱工程に先立ち、成形型2とワーク1とを準備する(1a)。
成形型2およびワーク1については、後に詳述する。
【0021】
[加熱工程]
上述したように、本工程では、成形型2とワーク1とを密着させた状態で、成形型2の構成材料とワーク1の構成材料との貯蔵弾性率E’の差が100[MPa]以上となる温度T[℃]で成形を行う。すなわち、成形温度T[℃]におけるワーク1の構成材料の貯蔵弾性率E’をE’1[MPa]、成形温度T[℃]における成形型2の構成材料の貯蔵弾性率E’をE’2[MPa]としたとき、E’2−E’1≧100の関係を満たすものである。このように、成形型2の構成材料の貯蔵弾性率E’2とワーク1の構成材料の貯蔵弾性率E’1との差が十分に大きい状態で本工程を行うことにより、容易かつ確実にワーク1を変形させることができるとともに、成形型2が変形してしまうことを確実に防止することができ、結果として、所望の形状に成型された成形体を得ることが可能となる。
【0022】
上記のように、本発明においては、E’2−E’1≧100の関係を満たせばよいが、E’2−E’1≧300の関係を満たすのが好ましく、E’2−E’1≧500の関係を満たすのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0023】
また、本発明においては、前記温度T[℃]におけるワークの構成材料の線膨張係数をα[℃−1]、前記温度T[℃]における成形型の構成材料の線膨張係数をα[℃−1]としたとき、|α−α|≦100.0×10−4の関係を満足する。このように|α−α|の値を十分に小さいものとすることにより、後に詳述する離型工程において、ワークから得られた成形体および成形型のうち、一方が他方よりも大きく収縮した状態となり、成形体を成形型から離型する操作を円滑に行うことができるとともに、成形体、成形型に欠陥が生じてしまうこと等を確実に防止することができる。
【0024】
なお、本発明で、ワークの構成材料および成形型の構成材料の線膨張係数について、温度Tにおける値で規定したのは、以下のような理由によるものである。すなわち、固体状(軟化状態を含む)の物質は、一般に、高温で線膨張係数が大きく、低温では線膨張係数が小さくなる。そして、固体状(軟化状態を含む)の物質では、一般に、高温領域での単位温度あたりの線膨張係数の差(例えば、200℃と180℃とでの線膨張係数の差)が、低温領域での単位温度あたりの線膨張係数の差(例えば、30℃と10℃とでの線膨張係数の差)よりも大きい。したがって、加熱工程での温度Tでの線膨張係数の差(|α−α|)が十分に小さい値となることを規定しておけば、離型処理を行う温度(T℃以下の温度)での線膨張係数の差も十分に小さい値(|α−α|以下の値)とすることができるため、上述したような効果が確実に得られる。
【0025】
これに対し、従来の方法では、上記のような線膨張係数の関係を満足するものではなかったため、成形型に微小なパターンを精密に形成したとしても、そのパターンをワークに転写した後に、成形体と成形型とが、いわゆる噛んだ状態となり、成形品を成形型から離型することが困難であり、離型時に成形品に欠陥が生じてしまうという問題があった。
線膨張係数は、JIS K7197に準拠した測定により求めることができる。
【0026】
上記のように、本発明においては、|α−α|≦100.0×10−4の関係を満たせばよいが、|α−α|≦80.0×10−4の関係を満たすのが好ましく、|α−α|≦70.0×10−4の関係を満たすのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0027】
ワーク1の構成材料のガラス転移点をTg[℃]としたとき、本工程での処理温度T[℃]は、Tg[℃]以上の温度であるのが好ましく、(Tg+10)[℃]以上(Tg+100)[℃]以下の温度であるのがより好ましい。これにより、本工程における成形圧力を小さいものとすることができ、過大な圧力が加わることによるワーク1(成形体10)の割れ等をより確実に防止することができ、成形体10の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0028】
また、成形型2の構成材料のガラス転移点をTg[℃]としたとき、本工程での処理温度T[℃]は、(Tg−20)[℃]未満の温度であるのが好ましい。これにより、成形体10の製造を繰り返し行った場合であっても、成形型2の不本意な変形等を確実に防止することができる。
【0029】
なお、本工程において、加熱温度を経時的に変化させる場合、前記温度Tとしては、本工程での最高処理温度を採用するものとする。
【0030】
温度T[℃]における成形型2の構成材料の貯蔵弾性率E’は、100[MPa]以上であるのが好ましく、300[MPa]以上であるのがより好ましい。これにより、本工程において、成形型2が変形してしまうことをより確実に防止することができ、所望の形状に成型された成形体をより確実に得ることができるとともに、成形型2の耐久性を特に優れたものとすることができ、より長期間にわたって安定的な成形体の生産を行うことができる。
【0031】
成形型2は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、例えば、エッチング等による化学的な加工、レーザー加工、機械加工等により、ワーク1に形成すべき微細なパターンに対応するパターンが形成されたものを用いることができる。
【0032】
成形型2の構成材料としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリイミド、非晶ポリアリレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等の樹脂材料を挙げることができるが、成形型2は、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステルおよびポリエーテルイミドよりなる群から選択される1種または2種以上で構成されたものであるのが好ましい。これにより、成形型2の耐久性を特に優れたものとすることができ、また、後に詳述する離型工程での成形体10の成形型2からの離型性(特に、ワーク1の構成材料が後述するようなものである場合の離型性)を特に優れたものとすることができる。
【0033】
ワーク1の構成材料は、成形型2の構成材料との間で、上述したような関係を満足するものであればいかなるものであってもよく、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル・スチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン等の樹脂材料を用いることができるが、ワーク1は、非晶性の樹脂で構成されたものであるのが好ましい。このような材料は、成形温度幅が広いため成形性が良く、寸法安定性にも優れる。
【0034】
ワーク1の構成材料として用いることのできる非晶性の樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン等が挙げられる。
【0035】
なお、本発明において、「非晶性」とは、示差走査熱量分析(DSC)による融点の吸熱ピークの測定を行ったときに明確な吸熱ピークを示さないことをいい、対象となる材料について示差走査熱量分析による融点の吸熱ピークの測定を行ったときに求められる融解熱Eが検出不能であるのが好ましい。ただし、融解熱としては、ガラス転移点の吸熱ピークの熱量は含まないものとする(図2参照)。融点の吸熱ピークの測定条件は特に限定されないが、例えば、対象となる重合体を、昇温速度:10℃/分で200℃まで昇温し、さらに、降温速度:10℃/分で降温した後、昇温速度:10℃/分で昇温したときに測定される値を融解熱として求めることができる。なお、図中、示差走査熱量分析(DSC)による融点の吸熱ピークの測定を行ったときのピークの中心値をTmp[℃]、ショルダーピーク値をTmsで示した。
【0036】
特に、ワーク1の構成材料と成形型2の構成材料との組み合わせとしては、上記で挙げた樹脂の組み合わせが好ましいが、成形型2がポリエーテルエーテルケトンで構成されたものでありかつワーク1がポリメタクリル酸メチルで構成されたもの、または、成形型2がポリエーテルサルフォンで構成されたものでありかつワーク1がポリメタクリル酸メチルで構成されたものであるのが特に好ましい。これにより、成形型2の耐久性を特に優れたものとすることができ、また、後に詳述する離型工程での成形体10の成形型2からの離型性を特に優れたものとすることができる。また、製造される成形体10の寸法精度、透明性等を特に優れたものとすることができ、また、割れ、欠け等の欠陥の発生をより確実に防止することができる。
【0037】
また、本工程では、成形型2として、離型剤が付与されていないものを用いるのが好ましい。これにより、ワーク1に離型剤が移行し、製造される成形体10の特性に悪影響が及ぶこと等を確実に防止することができる。また、従来、離型性を確保する目的で、成形型に離型剤を付与した状態で成形を行っており、離型性の経時的な低下を防止するためには、定期的に離型剤を付与する等のメンテナンスが必要であったが、本発明では、このようなメンテナンスも不要とすることができる。
【0038】
ワーク1の成形圧力は、0.5MPa以上50MPa以下であるのが好ましく、1MPa以上30MPa以下であるのがより好ましい。成形圧力が前記範囲内の値であると、成形体10、成形型2に割れ、欠け等の欠陥が発生することをより確実に防止しつつ、所望のパターンを有する成形体10をより効率よく製造することができる。
【0039】
製造すべき成形体10は、成形型2によって形成されるパターンとして、規則的なパターンを有するものであるのが好ましい。すなわち、成形型2は、ワーク1に転写するパターンとして規則的なパターンを有するものであるのが好ましい。従来では、微細で規則的なパターンを有する成形体を製造する場合に上記のような問題の発生がより顕著に表れたのに対し、本発明では、微細で規則的なパターンを有するものであっても上記のような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、本発明の効果をより顕著に発揮させることができる。また、不規則なパターンを有する成形体に比べ、規則的なパターンを有する成形体では、わずかな欠陥であっても、その欠陥が視認されやすい。したがって、仮に、パターンの欠陥が成形体の性能上、許容できる程度のものであったとしても、使用者等に、成形体の信頼性に疑問を抱かせてしまう等の問題があったが、本発明では、このような問題も確実に防止することができる。
【0040】
また、製造すべき成形体10は、成形型2によって形成されるパターンとして、複数の柱状の凸部(ピラー)を有するものであるのが好ましい。すなわち、成形型2は、ワークに転写するパターンとして、複数の柱状の凸部(ピラー)形成用の凹部を有するものであるのが好ましい。従来では、複数の柱状の凸部(ピラー)を有する微小なパターンの成形体を製造する場合に上記のような問題の発生がより顕著に表れたのに対し、本発明では、このようなパターンを有するものであっても上記のような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、本発明の効果をより顕著に発揮させることができる。
【0041】
製造すべき成形体10が、柱状の凸部(ピラー)を有するものである場合、当該凸部の高さは、10nm以上5000μm以下であるのが好ましく、100nm以上500μm以下であるのがより好ましい。従来では、このように高さの大きい複数の柱状の凸部(ピラー)を形成する場合に上記のような問題の発生がより顕著に表れたのに対し、本発明では、このようなパターンを有するものであっても上記のような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、本発明の効果をより顕著に発揮させることができる。
【0042】
製造すべき成形体10が、柱状の凸部(ピラー)を有するものである場合、当該凸部のアスペクト比、すなわち、凸部の高さをH[nm]、凸部の幅をW[nm]としたときのH/Wは、0.1以上20以下であるのが好ましく、1以上20以下であるのがより好ましい。従来では、このようにアスペクト比の大きい複数の柱状の凸部(ピラー)を形成する場合に上記のような問題の発生がより顕著に表れたのに対し、本発明では、このようなパターンを有するものであっても上記のような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、本発明の効果をより顕著に発揮させることができる。
【0043】
なお、本発明において、成形型によって形成されるパターンは、凹凸を有するものであれば、上記のようなものに限定されず、例えば、ライン状の凹凸を有するもの、柱状の凹部を有するもの等であってもよい。
【0044】
[冷却工程]
加熱工程の後、ワーク1と成形型2とを密着させた状態を維持しつつこれらを冷却する(1c)。これにより、成形型2から転写されたパターンを有する形状が固定化され、成形体10が得られる。
【0045】
特に、本実施形態では、ワーク1の構成材料の貯蔵弾性率E’が1000[MPa]以上となる温度まで冷却する。これにより、成形体10の形状の安定性が十分に高くなった状態で、後の離型工程で、成形体10を成形型2から離型することができ、最終的に得られる成形体10の寸法精度等を特に優れたものとすることができる。また、後の離型工程での操作性も向上し、成形体10の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0046】
冷却工程において、ワーク1(成形体10)および成形型2は、いずれも収縮するが、上記のように、ワーク1の構成材料の線膨張係数と成形型2の構成材料の線膨張係数とが所定の関係を満足するものであることから、両者の収縮率の差は非常に小さいものとなる。その結果、微細なパターンを有するワーク1(成形体10)と成形型2とが密着状態で冷却されても、成形型2および成形体10に、欠け等の欠陥が生じることが確実に防止されている。
【0047】
(T−10)℃から(T−50)℃までの降温速度は、5℃/分以上50℃/分以下であるのが好ましい。これにより、急激な温度変化による成形型2やワーク1(成形体10)についての欠陥の発生を確実に防止しつつ、成形体10の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0048】
[離型工程]
その後、成形体10を成形型2から離型する(1d)。
【0049】
成形体10は成形型2から転写された微細なパターンを有するものであり、成形型2もこれに対応する微細なパターンを有するものであるが、上記のように、ワーク1の構成材料の線膨張係数と成形型2の構成材料の線膨張係数とが所定の関係を満足するものであることから、両者の収縮率の差は非常に小さく、本工程において、欠陥を生じさせることなく、成形体10を成形型から容易に取り外すことができる。
【0050】
<成形体>
上記のようにして得られる成形体は、いかなる用途のものであってもよいが、例えば、リソグラフィ、パッケージ、インターポーザ等の半導体関連部材、拡散版、導光板、反射防止膜、機能性光学フィルム、マイクロレンズアレイ、光導波路等の光学部材、Blu−ray、HD−DVD等の光ディスク、光磁気ディスク等の記録メディア、DNAチップ、血液検査用チップ、ウェルプレート等のバイオ医療関係部材、燃料電池用セパレータ、太陽電池用集光膜等の電池用部材、耐指紋ハードコート膜等が挙げられる。
【0051】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
例えば、前述した実施形態では、加熱工程と、ワークの構成材料の貯蔵弾性率E’が1000[MPa]以上となる温度まで冷却する冷却工程と、離型工程とを有する場合について代表的に説明したが、本発明の成形体の製造方法は、前述したような加熱工程と離型工程と有するものであればよく、上述したような条件を満足する冷却工程を設けなくてもよい。
【0053】
また、本発明の製造方法においては、加熱工程の前処理工程、前記各工程間に行う中間工程、離型工程の後の行う後処理工程を有するものであってもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を具体的な実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
[1]成形体の製造
(実施例1)
まず、ポリエーテルエーテルケトン(ガラス転移点:161℃)を用いて、エンドミルによる機械加工により、多数個の円柱状の凹部を表面に有する成形型を製造した。成形型が有する円柱状の凹部は、直径が10μm、深さが5μmであった。また、多数個の円柱状の凹部は、格子状に設けられたもの(成形型を平面視した際に凹部の中心を直線で結んだ場合に、多数個の正方形が規則的に配置されたもの)であり、隣接する凹部間のピッチは20μmであった。また、成形型は、縦1cm×横1cm×厚さ0.2mmの板状をなすものであった。
【0056】
次に、縦3cm×横3cm×厚さ0.5mmの板状をなすポリメチルメタクリレート(ガラス転移点:131℃)製のワークを用意した。
【0057】
そして、成形型を温度T:170℃まで加熱し、成形型の凹部が設けられた面をワークの一方の面に当接させ、成形圧力:5MPaの条件で成形を行った(加熱工程)。温度Tの保持時間は2分間とした。
【0058】
その後、ワークと成形型とを密着させた状態を維持しつつ、これらを冷却温度40℃まで冷却し、成形体を得た(冷却工程)。温度T℃から(T−50)℃までの降温速度は、13℃/分で一定とした。
【0059】
その後、成形体を成形型から離型し、目的とする成形体を得た。得られた成形体は、直径が10μm、高さが5μmの円柱状の凸部を多数有するものであった。
【0060】
(実施例2〜12)
成形型の構成材料、ワークの構成材料を表1に示すものとするとともに、加熱工程での昇温速度、成形温度(温度T)、成形圧力、降温速度、冷却温度を表1に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして成形体を製造した。
【0061】
(比較例1〜3)
成形型の構成材料、ワークの構成材料を表1に示すものとするとともに、加熱工程での昇温速度、成形温度(温度T)、成形圧力、降温速度、冷却温度を表1に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして成形体を製造した。
【0062】
前記各実施例および比較例について、成形体の製造条件を表1にまとめて示した。なお、表中、ポリエーテルエーテルケトンをPEEK、ポリメチルメタクリレート(非晶性の樹脂)をPMMA、シクロオレフィンポリマー(非晶性の樹脂)をCOP、ポリカーボネート(非晶性の樹脂)をPC、ポリエーテルサルフォンをPES、ポリプロピレンをPP、ワークの構成材料のガラス転移点をTg、成形型の構成材料のガラス転移点をTg、成形温度Tにおけるワークの構成材料の貯蔵弾性率E’をE’1、成形温度T[℃]における成形型の構成材料の貯蔵弾性率E’をE’2、成形温度Tにおけるワークの構成材料の線膨張係数をα、成形温度Tにおける成形型の構成材料の線膨張係数をα、冷却温度におけるワークの構成材料の貯蔵弾性率E’をE’3で示した。
【0063】
なお、貯蔵弾性率E’は、DMS210(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、JIS K7244に準拠した測定により求めた。また、線膨張係数は、EXSTAR TMA/SS 6000シリーズ(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、JIS K7197に準拠した測定により求めた。また、前記各実施例および比較例では、いずれも、温度T℃から温度(T−50)℃までの降温速度は一定とした。また、表中、保持時間の欄には、(T−10)℃以上(T+10)℃以下の温度での保持時間(積算時間)を示し、降温速度の欄には、(T−10)℃から(T−50)℃からまでの降温速度を示した。
【0064】
【表1】

【0065】
[2]評価
[2.1]離型性
前記各実施例および比較例での成形体の製造時の離型工程における成形型から成形体の離型性を、以下の基準に従い評価した。
【0066】
A:きわめて容易に成形体を取り外すことができ、離型性が非常に優れている。
B:容易に成形体を取り外すことができ、離型性が優れている。
C:成形体の取り外しにやや難があり、離型性がやや劣っている。
D:成形体の取り外しに難があり、離型性が劣っている。
【0067】
[2.2]寸法精度
前記各実施例および各比較例で得られた成形体について、寸法精度を、以下の基準に従い評価した。
【0068】
A:成形体の高さが、成形型の凹部の深さの90%以上である。
B:成形体の高さが、成形型の凹部の深さの75%以上90%未満である。
C:成形体の高さが、成形型の凹部の深さの50%以上75%未満である。
D:成形体の高さが、成形型の凹部の深さの50%未満である。
【0069】
[2.3]割れ、欠け等の欠陥の有無
前記各実施例および各比較例で得られた成形体について、顕微鏡を用いた観察を行い、以下の基準に従い評価した。
【0070】
A:割れ、欠け等の欠陥の発生が全く認められない。
B:割れ、欠け等の欠陥の発生がわずかに認められる。
C:割れ、欠け等の欠陥の発生が多数認められる。
D:割れ、欠け等の欠陥の発生が顕著に認められる。
上記の評価の結果を表2に示した。
【0071】
【表2】

【0072】
表から明らかなように、本発明では、優れた結果が得られたのに対し、比較例では、満足な結果が得られなかった。
【0073】
また、形成すべきパターンの幅を、10nm〜500μmの範囲で変更した以外は、上記と同様にして成形体を製造し、これらについて上記と同様の評価を行った結果、上記と同様の結果が得られた。
【0074】
また、製造すべき成形体の凸部の高さの設計値(成形型の凹部の深さ)を10nm以上5000μm以下の範囲で変更し、製造すべき成形体の凸部のアスペクト比(H/W)の設計値を0.1以上20以下の範囲で変更した以外は、上記と同様にして成形体を製造し、これらについて上記と同様の評価を行った結果、上記と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0075】
1 ワーク
2 成形型
10 成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型を用い、ワークを加熱して、幅が10nm以上500μm以下の微細なパターンを有する成形体を製造する方法であって、
前記成形型の構成材料と前記ワークの構成材料との貯蔵弾性率E’の差が100[MPa]以上となる温度T[℃]で成形を行う加熱工程と、
前記ワークを加熱・成形することにより得られた成形体を前記成形型から離型する離型工程とを有し、
前記温度T[℃]における前記ワークの構成材料の線膨張係数をα[℃−1]、前記温度T[℃]における前記成形型の構成材料の線膨張係数をα[℃−1]としたとき、|α−α|≦100.0×10−4の関係を満足することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項2】
前記温度Tは、前記ワークの構成材料のガラス転移点以上の温度である請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記温度T[℃]における前記成形型の構成材料の貯蔵弾性率E’は、100[MPa]以上である請求項1または2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程と前記離型工程との間に、前記ワークの構成材料の貯蔵弾性率E’が1000[MPa]以上となる温度まで冷却する冷却工程をさらに有する請求項1ないし3のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形体は、規則的な前記パターンを有するものである請求項1ないし4のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記成形体は、前記パターンとして、複数の柱状の凸部を有するものである請求項1ないし5のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記成形型がポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステルおよびポリエーテルイミドよりなる群から選択される1種または2種以上で構成されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
前記ワークが非晶性の樹脂で構成されたものである請求項1ないし7のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
前記成形型として、離型剤が付与されていないものを用いる請求項1ないし8のいずれかに記載の成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−91307(P2013−91307A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236327(P2011−236327)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】