説明

成形体及びブロー容器、並びにブロー容器の製造方法

【課題】単層で耐擦傷性とガスバリア性に優れる容器を開発すること。
【解決手段】第1の樹脂成分、第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンを含有する第1の樹脂組成物から形成される第1の層と、熱可塑性樹脂から形成される基材層とが積層されてなる一次成形体を、二次成形して得られる成形体であり、以下の条件(1)および(2)を満たす成形体。
(1)前記第1の樹脂成分が水酸基とカルボキシル基とを含み、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)である
(2)第1の可塑剤が分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合しており、分子量が200〜4000である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦傷性とガスバリア性に優れる成形体及びブロー容器、並びにブロー容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性に優れる成形体は、従来から食品や飲料、医療用容器等に用いられている。このようなガスバリア性容器としては、熱可塑性樹脂からなる基材層上にガスバリア層を積層した容器が一般的である。例えば特許文献1には、無機層状化合物を有する樹脂組成物からなるガスバリア層を有している積層体を真空成型法または圧空成型法により成型して得られるガスバリア容器が記載されている。
【特許文献1】特開平11−314670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、基材層上に積層するガスバリア層を形成する樹脂組成物の組成を特定することにより、耐擦傷性とガスバリア性に優れる成形体が得られることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明は、第1の樹脂成分、第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンを含有する第1の樹脂組成物から形成される第1の層と、熱可塑性樹脂から形成される基材層とが積層されてなる一次成形体を、二次成形して得られる成形体であり、以下の条件(1)および(2)を満たす成形体である。
(1)前記第1の樹脂成分が水酸基とカルボキシル基とを含み、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)である
(2)前記第1の可塑剤が分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合しており、分子量が200〜4000である
また本発明は、他の面において、熱可塑性樹脂から形成される基材層に、第1の層が積層されてなるブロー容器の製造方法であって、以下の工程(1)〜(4)を順に含むブロー容器の製造方法である。
(1)熱可塑性樹脂からなる予備成形体を成形する工程
(2)前記予備成形体表面に、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む第1の樹脂成分、分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合しており、分子量が200〜4000である第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンが溶媒に分散されてなる第1の塗工液を塗工して第1の塗布膜を形成する工程
(3)第1の塗布膜から溶媒を除去して第1の層を有する一次成形体(1)を得る工程
(4)前記一次成形体(1)をブロー成形する工程
【発明の効果】
【0005】
本発明の成形体およびブロー容器は、耐擦傷性とガスバリア性に優れるものである。本発明のブロー容器の製造方法によれば、耐擦傷性とガスバリア性に優れるブロー容器を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の成形体は、第1の層と熱可塑性樹脂から形成される基材層とが積層されてなる一次成形体を、二次成形して得られる成形体である。
本発明における基材層を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1などのオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体またはそのケン化物、エチレン−α・β不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン−α・β不飽和カルボン酸共重合体などのエチレン系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリアリレート;ポリカーボネート;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのスチレン系樹脂;ポリアミド樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系樹脂を挙げられる。基材層は2種類以上の熱可塑性樹脂から形成されていてもよく、また公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、アンチブロッキング剤、ワックス、石油樹脂、帯電防止剤、充填剤としての無機フィラーなど(例えば「プラスチック及びゴム用添加剤実用便覧」化学工業(1970年)など参照)を含んでいてもよい。また基材層には、エチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合ゴム、スチレン系ゴムなどの改質剤が含有されていてもよい。
【0007】
基材層を構成する樹脂としては、環境問題などへの配慮から非ハロゲン系樹脂が好ましく、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、アクリル系樹脂などが特に好ましい。
【0008】
オレフィン系樹脂としては、特にポリプロピレンが好ましい。ポリプロピレンとしては、プロピレンのホモポリマー、プロピレンとα−オレフィンとのランダムコポリマーやブロックコポリマー等の共重合体が挙げられる。プロピレンとα−オレフィンとのランダムコポリマーとしては、プロピレンと、エチレンおよび/または炭素原子数4〜20のα−オレフィンとのランダムコポリマーが挙げられ、好ましくはエチレン、ブテン−1、4−メチル−ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1から選ばれる1種または2種以上のコモノマーとプロピレンとをランダム共重合した、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体が挙げられる。
【0009】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどの芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを縮合重合したポリエステル樹脂のほかに、脂肪族または脂環族ジカルボン酸とポリエーテル系ジオールとを縮合重合させた構造単位を有し熱可塑性エラストマー的な性質を有する樹脂などが挙げられる。
【0010】
アクリル系樹脂としては、ポリメチルメタアクリレートの他に、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、メタアクリル酸またはアクリル酸エステルなどのアクリル酸誘導体などを単独または共重合して得られる樹脂が挙げられる。
【0011】
基材層は単層であってもよく、2層以上の多層であってもよい。
本発明における一次成形体の基材層の厚みは、二次成形性や成形体のデザインを考慮して適宜設定すればよい。本発明の成形体における基材層の厚みは、通常0.05〜2mmの範囲である。
【0012】
本発明における第1の層は、第1の樹脂成分、第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンを含有する第1の樹脂組成物から形成される層である。
【0013】
第1の樹脂成分は水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む。第1の樹脂成分は、一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む重合体成分であってもよいし、水酸基を含む重合体成分とカルボキシル基を含む重合体成分とを含有する重合体成分であってもよい。ここで、「水酸基」とはいわゆる「アルコール性水酸基」であり、カルボキシル基中の水酸基は含まない。一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む重合体成分としては、ビニルアルコール−アクリル酸共重合体や、ビニルアルコール−メタアクリル酸共重合体が挙げられる。水酸基を含む重合体成分としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール部分ケン化物等のポリビニルアルコール系重合体、多糖類が挙げられる。カルボキシル基を含む重合体成分としては、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、ポリメタアクリル酸部分中和物が挙げられる。
【0014】
前記水酸基を含む重合体成分としては、水系の溶媒に溶解させることができ、取り扱いが容易であることや、得られる成形体の耐擦傷性およびガスバリア性の観点から、ポリビニルアルコール系重合体が最も好ましい。ポリビニルアルコール系重合体とは、ビニルアルコールのモノマー単位を主成分として有するポリマーである。このようなポリビニルアルコール系重合体としては、例えば、酢酸ビニル重合体や酢酸ビニル−α−オレフィン共重合体の酢酸エステル部分の全てまたは一部を加水分解して得られるポリマーや、トリフルオロ酢酸ビニル重合体、ギ酸ビニル重合体、ピバリン酸ビニル重合体、tert−ブチルビニルエーテル重合体、トリメチルシリルビニルエーテル重合体等を加水分解して得られるポリマーが挙げられる。ポリビニルアルコール系重合体のビニルアルコール単位含有量は通常50モル%を超え、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは85モル%以上である。前記α−オレフィンとしては、エチレンやプロピレンが挙げられ、その含有量は、40モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましい(「ポリビニルアルコール」の詳細については、例えば、ポバール会編、「PVAの世界」、1992年、(株)高分子刊行会;長野ら、「ポバール」、1981年、(株)高分子刊行会を参照することができる)。ポリマーのエステル部分の「ケン化」の程度は、70モル%以上が好ましく、85モル%以上のものがより好ましく、98%モル以上のいわゆる完全ケン化品がさらに好ましい。また、使用するポリビニルアルコール系重合体の重合度は、耐擦傷性、塗工液を用いて第1の層を形成する場合のハンドリングの良さの観点から100以上5000以下であることが好ましく、200以上3000以下であることがより好ましい。
【0015】
また、ポリビニルアルコール系重合体は、水酸基以外の官能基を有していてもよく、水酸基以外の官能基として例えば、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸イオン基、燐酸イオン基、アンモニウム基、ホスホニウム基、シリル基、シロキサン基、アルキル基、アリル基、フルオロアルキル基、アルコシキ基、カルボニル基、ハロゲン基等が例示できる。
【0016】
本発明におけるカルボキシル基を含む重合体成分は、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、ポリメタアクリル酸部分中和物からなる群から選択される1種以上の重合体成分であることが好ましい。またアクリル酸とメタアクリル酸との共重合体も使用できる。上記カルボキシル基を含む重合体成分の重量平均分子量は、得られる成形体の耐擦傷性およびガスバリア性に加えて、塗工液を用いて第1の層を形成する場合のハンドリングの良さの観点から2,000〜5,000,000の範囲が好ましく、100,000〜5,000,000であることがより好ましい。
【0017】
ポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物は、通常、ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸の水溶液に水酸化ナトリウム等のアルカリ成分を添加することにより得ることができる。またポリアクリル酸完全中和物またはポリポリメタアクリル酸完全中和物をイオン交換により部分中和物に変換することもできる。ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸とアルカリの量比を調節することにより、所望の中和度とすることができる。ここでポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸の中和度は下式で定義される。ポリアクリル酸部分中和物およびポリメタアクリル酸部分中和物は、中和度が0.1%〜20%であることが好ましい。
中和度=(A/B)×100
A:ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸1g中に含まれる中和されたカルボキシル基のモル数
B:ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸1g中に含まれる中和前のカルボキシル基のモル数
【0018】
第1の樹脂成分に含まれる水酸基とカルボキシル基の個数比は、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5であり、好ましくは70:30〜95:5である。また、得られる成形体の耐擦傷性およびガスバリア性の観点から、第1の樹脂成分に含まれる水酸基およびカルボキシル基の合計重量が第1の樹脂成分の重量の30〜60%であることが好ましく、より好ましくは35〜55%である。
【0019】
第1の樹脂成分に含まれる水酸基とカルボキシル基の個数比は、NMR法、IR法等により求めることができる。例えばIR法であれば、水酸基とカルボキシル基の個数比が既知のサンプルを用いて、検量線を求め、これを用いて測定サンプルの水酸基とカルボキシル基の個数比を算出することができる。またビニルアルコール単一重合体と、アクリル酸単一重合体および/またはメタアクリル酸単一重合体を用いる場合は、予めその重量から水酸基およびカルボキシル基のモル数を求め、水酸基とカルボキシル基の個数比を算出することができる。第1の樹脂成分に含まれる水酸基およびカルボキシル基の合計重量測定については、個数比と同様、NMR法、IR法等にて求めることができる。例えばIR法であれば、ポリオールユニット数が既知であるポリオール重合体および、ポリカルボン酸ユニット数が既知であるポリカルボン酸重合体について検量線を求め、これらの検量線を用いて測定サンプルにおける水酸基とカルボキシル基の合計重量を算出することができる。またビニルアルコール単一重合体と、アクリル酸単一重合体および/またはメタアクリル酸単一重合体を用いる場合は、予めその重量から水酸基およびカルボキシル基の重量を求め、この合計量を用いることができる。
【0020】
本発明における第1の樹脂成分は、ポリビニルアルコール系重合体95〜5重量%と、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、ポリメタアクリル酸部分中和物からなる群から選択される1種以上の重合体成分5〜95重量%の混合物であることが、得られる成形体の耐擦傷性およびガスバリア性と、塗工液を用いて第1の層を形成する場合のハンドリングの良さの点から好ましい。
【0021】
本発明における第1の可塑剤とは、分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合しており、分子量が200〜4000である化合物である。また塗工液を用いて第1の層を形成する場合のハンドリングの良さの点から該第1の可塑剤は水に溶解することが好ましい。
水への溶解性の点から、該第1の可塑剤は、例えば、ポリソルビトール、ポリマンニトール、ポリズルシトール、ポリキシリトール、ポリエリトリトール、ポリグリセリン等の多価アルコールの多量体が好ましく、最も好ましくはポリグリセリンである。これらの可塑剤は2種類以上を併用してもよい。
【0022】
二次成形性と、得られる成形体の耐擦傷性およびガスバリア性の観点から、第1の可塑剤はポリグリセリンが好ましい。また第1の可塑剤の分子量としては、350〜3000であることが好ましく、500〜2500であることがさらに好ましい。
二次成形性の点からは、第1の層を形成する第1の樹脂組成物に含まれる第1の可塑剤の量は、第1の樹脂成分100重量部に対して20〜150重量部であることが好ましく、25〜120重量部であることがさらに好ましく、40〜120重量部であることがさらに好ましく、60〜110重量部であることが最も好ましい。
【0023】
本発明における第1のアルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。第1の樹脂組成物に含まれる第1のアルカリ金属イオンの重量は特に限定されるものではないが、第1の樹脂成分100重量部に対し、好ましくは0.2〜5重量部であり、より好ましくは0.2〜2重量部である。
【0024】
前記第1のアルカリ金属イオンは、通常、アルカリ金属イオン供与化合物に由来する。すなわち第1の樹脂組成物は、通常、アルカリ金属イオン供与化合物を含む。アルカリ金属イオン供与化合物としては、水酸化ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アルカリ金属イオンを含む粘土鉱物等が挙げられる。2種類以上のアルカリ金属イオン供与化合物を併用してもよい。
【0025】
粘土鉱物は、通常無機層状化合物である。得られる成形体の耐擦傷性およびガスバリア性の観点から、アルカリ金属イオン供与化合物として第1の粘土鉱物を用いることが好ましい。第1の粘土鉱物としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、金雲母等が挙げられる。また、これら粘土鉱物を有機物でイオン交換等の処理し、分散性等を改良したもの(朝倉書店、「粘土の事典」参照;以下、有機修飾粘土鉱物と称する場合もある)もアルカリ金属イオン含有粘土鉱物として用いることができる。粘土鉱物を処理する前記有機物としては、ジメチルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩やフォスフォニウム塩、イミダゾリウム塩等を用いることができる。
【0026】
第1の層の熱反応を促進し、得られる成形体の耐擦傷性およびガスバリア性を高める観点から、アルカリ金属イオンはナトリウムイオンであることが好ましく、該ナトリウムイオンを供与するナトリウムイオン供与化合物としては、ナトリウムイオン含有粘土鉱物が好ましい。とりわけモンモリロナイトが好ましく用いられる。
【0027】
アルカリ金属イオン供与化合物として用いられる第1の粘土鉱物のアスペクト比は、200〜3000の範囲が好ましい。アスペクト比が大きすぎる場合には分散性が損なわれるため、耐擦傷性が不十分となる傾向がある。また、使用する第1の粘土鉱物は、平均粒径が5μm以下であることが好ましい。平均粒径が大きすぎると透明性、製膜性に劣る傾向があり、特に透明性が求められる用途では1μm以下であることが好ましい。
【0028】
本発明において、第1の粘土鉱物のアスペクト比(Z)とは、式:Z=L/aで定義される。式中、Lは第1の粘土鉱物の平均粒径であり、aは、第1の粘土鉱物の単位厚さ、即ち、粘土鉱物の単位結晶層の厚みを示し、粉末X線回析法(「機器分析の手引き(a)」(1985年、化学同人社発行、塩川二朗監修)69頁参照)により求められる。
【0029】
本発明において、第1の粘土鉱物の平均粒径とは、溶媒中の回折/散乱法により求めた粒径(体積基準のメジアン径)である。第1の粘土鉱物の平均粒径を回折/散乱法で求める際に用いた溶媒と同種の溶媒で前記粘土鉱物を充分に膨潤し劈開させた後に樹脂等と混合した場合には、樹脂中の膨潤し劈開した粘土鉱物の粒径は、溶媒中で測定した粘土鉱物の粒径とほぼ等しいと見なすことができる。
【0030】
本発明で用いる第1の粘土鉱物は、具体的には、下記の膨潤性試験による膨潤値が5以上のものが好ましく、膨潤値が20以上のものがより好ましい。また、下記の劈開性試験による劈開値が5以上のものが好ましく、劈開値が20以上のものがより好ましい。
【0031】
〔膨潤性試験〕
100mlメスシリンダーに溶媒100mlを入れ、これに粘土鉱物2gを徐々に加える。23℃にて24時間静置後、上記メスシリンダー内における粘土鉱物分散層と上澄みとの界面の目盛から粘土鉱物分散層の体積(ml)を読む。この数値(膨潤値)が大きい程、膨潤性が高いことを示す。
〔劈開性試験〕
粘土鉱物30gを溶媒1,500ml中に徐々に加え、分散機(浅田鉄工株式会社製、デスパMH−L、羽根径52mm、回転数3,100rpm、容器容量3L、底面−羽根間の距離28mm)にて、周速8.5m/分、23℃で90分間分散させた後、この分散液100mlをメスシリンダーに採取する。60分静置後、上記メスシリンダー内における粘土鉱物分散層と上澄みとの界面の目盛から粘土鉱物分散層の体積(ml)を読む。この数値(劈開値)が大きい程、劈開性が高いことを示す。
【0032】
本発明において第1の粘土鉱物を膨潤し劈開させる溶媒としては、第1の粘土鉱物が親水性の膨潤性粘土鉱物の場合には、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、とりわけ水、アルコール、水−アルコール混合物が好ましい。
【0033】
また、第1の粘土鉱物が有機修飾粘土鉱物の場合には、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、エチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素類、クロロベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類、酢酸エチル、メタアクリル酸メチル、フタル酸ジオクチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルセロソルブ、シリコンオイルなどを液体媒体として用いることができる。
【0034】
第1の層を形成する第1の樹脂組成物に含まれる第1の粘土鉱物の量は特に限定されるものではないが、二次成形性と、得られる成形体の耐擦傷性およびガスバリア性の点から、第1の樹脂成分および第1の可塑剤の合計体積と第1の粘土鉱物の体積との比が、(第1の樹脂成分+第1の可塑剤)/(第1の粘土鉱物)=50/50〜99/1であることが好ましく、70/30〜99/1であることがより好ましく、80/20〜99/1であることがさらに好ましく、85/15〜99/1であることが最も好ましい。
【0035】
本発明の成形体は、前記基材層、前記第1の層に加えて第2の層が積層されていても良い。該第2の層は該第1の層と隣接してなり、基材層と第2の層との間に第1の層が配されてなることが、一次成形体の二次成形性と、得られる成形体の耐擦傷性の点から好ましい。
【0036】
前記第2の層は、第2の樹脂成分、第2の可塑剤および第2のアルカリ金属イオンを含有する第2の樹脂組成物からなる。該第2の樹脂成分、第2の可塑剤および第2のアルカリ金属イオンとしてはそれぞれ前述した第1の樹脂成分、第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンを用いることができる。
【0037】
第2の樹脂組成物は第2のアルカリ金属イオンを有する第2の粘土鉱物を含んでいても良い。該第2の粘土鉱物は前述した第1の粘土鉱物を用いることができるが、該第2の樹脂組成物における第2の粘土鉱物の体積分率は、前記第1の樹脂組成物における第1の粘土鉱物の体積分率より高いことが好ましい。
【0038】
第1の層を形成する第1の樹脂組成物および/または第2の層を形成する第2の樹脂組成物は、目的や用途に応じて、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、アンチブロッキング剤、着色剤など等の公知の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもかまわない。
【0039】
本発明の成形体における第1の層の厚みは、通常0.05〜5μmの範囲である。本発明の成形体が第2の層を有する場合、該第2の層の厚みも該第1の層の厚みと同様であるが、また該第1の層の厚みが該第2の層の厚み以上に厚いことが好ましい。
【0040】
本発明の成形体は、前記した第1の層と、熱可塑性樹脂から形成される基材層とが積層されてなる一次成形体を、二次成形して得られる。一次成形体の製造方法としては、以下の方法が挙げられる。まず、熱可塑性樹脂を用いて、押出成形法、射出成形法、溶融流延法等の公知の方法により基材層を得る。次に該基材層上に、第1の樹脂成分と、第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンが溶媒に分散されてなる第1の塗工液を塗工して、第1の塗布膜を形成する。次いで前記第1の塗布膜から溶媒を除去して、第1の層を形成し、一次成形体(1)を得ることができる。
また本発明の成形体がさらに第2の層を有する場合、前記一次成形体(1)の第1の層上に第2の樹脂成分と、第2の可塑剤および第2のアルカリ金属イオンが溶媒に分散されてなる第2の塗工液を塗工して、第2の塗布膜を形成する。次いで前記第2の塗布膜から溶媒を除去して、第2の層を形成し、一次成形体(2)を得ることができる。
【0041】
基材層と第1の層との密着性や、第1の層と第2の層との密着性を改良する目的で、該基材層や第1の層に予め表面処理することが好ましい。表面処理の方法としては、例えばコロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電子線放射処理、紫外線照射処理、酸処理、アンカーコート処理、プライマー処理などが挙げられる。これらの方法は、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0042】
前記第1の塗工液の製造方法としては、第1の樹脂成分、第1の可塑剤、アルカリ金属イオン供与化合物をそれぞれ溶媒に溶解あるいは分散させた後、これらを混合して塗工液とする方法や、第1の樹脂成分、第1の可塑剤、アルカリ金属イオン供与化合物を同じ溶媒に溶解または分散させて塗工液を得る方法などが挙げられる。また第2の塗工液の製造方法についても同様に第2の樹脂成分、第2の可塑剤、アルカリ金属イオン供与化合物をそれぞれ溶媒に溶解あるいは分散させた後、これらを混合して塗工液とする方法や、第2の樹脂成分、第2の可塑剤、アルカリ金属イオン供与化合物を同じ溶媒に溶解または分散させて塗工液を得る方法などが挙げられる。
第1の樹脂成分および/または第2の樹脂成分が、水酸基を含む重合体成分とカルボキシル基を含む重合体成分との混合物である場合には、各重合体成分をそれぞれ別の溶媒に溶解または分散させてもよく、両方を同じ溶媒に溶解または分散させてもよい。
【0043】
溶媒に膨潤しへき開する粘土鉱物を用いて塗工液を製造する場合には、該粘土鉱物を溶媒に十分に膨潤させへき開させるために、高圧分散処理により前記粘土鉱物を溶媒に分散させることが好ましい。高圧分散処理とは、粘土鉱物を溶媒に混合した混合液を複数本の細管中に高速通過させた後に合流させて、前記混合液同士あるいは該混合液と細管内壁とを衝突させることにより、混合液に高剪断および/または高圧を付加する処理方法である。高圧分散処理では、混合液を管径1μm〜1000μm程度の細管中に通過させ、このとき100kgf/cm2以上の最大圧力が印加されるように処理することが好ましい。 最大圧力は500kgf/cm2以上であることがより好ましく、1000kgf/cm2以上であることが特に好ましい。また、混合液が細管内を通過する際、該分散液の最高到達速度は100m/s以上であることが好ましく、圧力損失による伝熱速度は100kcal/hr以上であることが好ましい。前記高圧分散処理には、Microfluidics Corporation 社製超高圧ホモジナイザー(商品名:マイクロフルイダイザー)、ナノマイザー社製ナノマイザー、マントンゴーリン型高圧分散装置、イズミフードマシナリ製ホモゲナイザー等の高圧分散装置を用いることができる。高圧分散処理する液には、樹脂成分および/または可塑剤が含有されていてもよい。
【0044】
塗工液には、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤を含有する塗工液を用いて層を形成することにより、該層と、それに隣接する層との密着性を向上させることができる。界面活性剤の含有量は、通常、塗工液100重量%中0.001〜5重量%である。
【0045】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤など、公知の界面活性剤を用いることができる。とりわけ炭素原子数6以上24以下のアルキル鎖を有するカルボン酸のアルカリ金属塩、ポリジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体等のエーテル型の非イオン性界面活性剤(シリコーン系非イオン性界面活性剤)や、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド化合物等のフッ素型非イオン性界面活性剤(フッ素系非イオン性界面活性剤)を使用することが密着性向上の観点から好ましい。
【0046】
基材層にアンカーコート層、第1の層、第2の層を塗工により設ける場合には、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法などのグラビア法、2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法などのロールコーティング法、ドクターナイフ法、ダイコート法、バーコーティング法、ディッピング法、スプレーコート法などを適用することができる。容易に層を設けることができることからディッピング法、スプレーコート法、グラビア法を採用することが好ましい。
【0047】
前記した方法で得られる一次成形体を二次成形することにより、本発明の成形体を得ることができる。二次成形とは、一次成形体を加熱して所定の形状に賦形する成形方法であり、ブロー成形、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等が挙げられる。
【0048】
本発明の成形体における第1の層や第2の層は、一次成形体の段階では第1の層や第2の層に含まれる水酸基とカルボキシル基とがほとんど反応していないが、二次成形の際に加熱することにより、水酸基とカルボキシル基とが反応して表面硬度が高くなる。また第1の樹脂組成物や第2の樹脂組成物が可塑剤を含むため、延伸性に優れる。したがって、前記のように二次成形して得られる本発明の成形体では第1の層や第2の層が均一に形成され、耐擦傷性とガスバリア性に優れるものとなる。
【0049】
従来、ブロー成形、とりわけ2軸延伸ブロー成形のように、一次成形体を高延伸倍率で延伸して成形体を製造する方法では、熱可塑性樹脂からなる予備成形体に、塗工により表面保護層を積層した一次成形体を用いると、表面保護層が延伸に十分に追随できず、得られるブロー容器は表面保護層が均一ではない場合があった。本発明によれば、ブロー成形によって、耐擦傷性に優れるブロー容器を得ることができる。本発明は、とりわけ2軸延伸ブロー成形に好適である。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂から形成される基材層に第1の層が積層されてなる成形体の製造方法として、例えば予備成形体がシートであり、二次成形が真空成形である場合には、以下の工程を含む方法が挙げられる。
(1)熱可塑性樹脂からなる予備成形体を押出成形等の方法で成形する工程
(2)前記予備成形体表面に、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む第1の樹脂成分、分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合しており、分子量が200〜4000である第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンが溶媒に分散されてなる第1の塗工液を塗工して第1の塗布膜を形成する工程
(3)第1の塗布膜から溶媒を除去して第1の層を有する一次成形体(1)を得る工程
(4)前記一次成形体(1)を真空成形する工程
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂から形成される基材層に、第1の層が積層されてなるブロー容器の製造方法は、以下の工程(1)〜(4)を順に含む方法が挙げられる。
(1)熱可塑性樹脂からなる予備成形体を成形する工程
(2)前記予備成形体表面に、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む第1の樹脂成分、分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合しており、分子量が200〜4000である第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンが溶媒に分散されてなる第1の塗工液を塗工して第1の塗布膜を形成する工程
(3)第1の塗布膜から溶媒を除去して第1の層を有する一次成形体(1)を得る工程
(4)前記一次成形体(1)をブロー成形する工程
【0052】
また本発明の熱可塑性樹脂から形成される基材層に、第1の層および第2の層が積層されてなるブロー容器の製造方法は、以下の工程(1)〜(6)を順に含む方法が挙げられる。
(1)熱可塑性樹脂からなる予備成形体を成形する工程
(2)前記予備成形体表面に、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む第1の樹脂成分、分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合しており、分子量が200〜4000である第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンが溶媒に分散されてなる第1の塗工液を塗工して第1の塗布膜を形成する工程
(3)第1の塗布膜から溶媒を除去して第1の層を有する一次成形体(1)を得る工程
(4)前記第1の層を有する一次成形体(1)表面に、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む第2の樹脂成分、第2の可塑剤および第2のアルカリ金属イオンが溶媒に分散されてなる第2の塗工液を塗工して第2の塗布膜を形成する工程
(5)第2の塗布膜から溶媒を除去して第1の層および第2の層を有する一次成形体(2)を得る工程
(6)前記一次成形体(2)をブロー成形する工程
【0053】
予備成形体はパリソンとも呼ばれ、前記熱可塑性樹脂を射出成形することにより成形することができる。次いで該予備成形体表面に、前記第1の塗工液を塗工して第1の塗布膜を形成する。該第1の塗布膜から溶媒を除去して、第1の層を有する一次成形体(1)を得る。固化した一次成形体(1)を再加熱した後、延伸棒等を用いて強制的に縦延伸し、次いで一次成形体内に加圧流体を圧入して横方向に延伸することにより、ブロー容器を得ることができる。また基材層、第1の層に加えてさらに第2の層を有する場合、該一次成形体(1)表面に、前記第2の塗工液を塗工して第2の塗布膜を形成する。該第2の塗布膜から溶媒を除去して、第2の層を有する一次成形体(2)を得る。固化した一次成形体(2)を再加熱した後、延伸棒等を用いて強制的に縦延伸し、次いで一次成形体内に加圧流体を圧入して横方向に延伸することにより、ブロー容器を得ることができる。
【0054】
本発明の成形体は、耐擦傷性およびガスバリア性に優れるため、各種液体の包装、輸送容器として最適である。さらに、本発明の成形体は、食品、調味料、飲料水等の食品用容器、化粧品、洗剤などの非食品用容器、輸液などの医療用容器などにも適している。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。はじめに、以下の実施例における物性値の測定方法を説明する。
〔厚み測定〕
0.5μm以上の厚みは、市販のデジタル厚み計(接触式厚み計、商品名:超高精度デシマイクロヘッド MH−15M、日本光学社製)を用いて測定した。0.5μm未満の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)の断面観察より求めた。
【0056】
〔粒径測定〕
レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA910、堀場製作所(株)製)を用いて測定した。後述する塗工液(2)、塗工液(6)、塗工液(8)〜(11)中の粘土鉱物の平均粒径をペーストセルにて光路長50μmで測定し、さらに塗工液(2)、塗工液(6)、塗工液(8)〜(11)の希釈液中の粘土鉱物の平均粒径をフローセル法にて光路長4mmで測定した。いずれの場合も平均粒径の値は変わらず、塗工液中で粘土鉱物が充分に膨潤し劈開していることを確認した。この値を、第1の層または第2の層を形成する樹脂組成物中の粘土鉱物(D)の平均粒径Lとみなした。
【0057】
〔樹脂成分(A)に含まれる水酸基とカルボキシル基の個数比測定〕
水酸基を含む重合体成分としてポリビニルアルコール(完全ケン化物)を、カルボキシル基を含む重合体成分としてポリアクリル酸を用いた。以下の式により、ポリビニルアルコール中の水酸基数およびポリアクリル酸中のカルボキシル基数を算出し、その比を求めた。
水酸基数=(ポリビニルアルコール添加量)/(ポリビニルアルコールを構成するモノマー単位1単位あたりの分子量)
カルボキシル基数=(ポリアクリル酸添加量)/(ポリアクリル酸を構成するモノマー単位1単位あたりの分子量)
【0058】
〔樹脂成分(A)に含まれる水酸基およびカルボキシル基の合計重量測定〕
以下の式より水酸基量およびカルボキシル基量算出し、合計した。
水酸基量=(17/(ポリビニルアルコールを構成するモノマー単位1単位あたりの分子量))×(ポリビニルアルコール添加量/樹脂成分(A)添加量)×100
カルボキシル基量=(45/(ポリアクリル酸を構成するモノマー単位1単位あたりの分子量))×(ポリアクリル酸添加量/樹脂成分(A)添加量)×100
【0059】
〔アルカリ金属イオン濃度測定〕
誘導結合プラズマ発光分析装置(Optima 3000、パーキンエルマー社製)を用いて、成形体全体のナトリウムイオン濃度を測定し、そこから第1の層および第2の層を形成する樹脂組成物以外の層に含まれるナトリウムイオン濃度を差し引くことによって、該樹脂組成物中のナトリウムイオン濃度を求めた。試料の調整方法は以下のとおりである。成形体および基材層をそれぞれ1gずつ採取し、96%硫酸1ml添加した後、電気炉で灰化し、残った残渣物を5%塩酸に溶解させ、残った残渣物を5%塩酸10mlに溶解させた。その溶解させた液を誘導結合プラズマ発光分析装置に供試し、それぞれナトリウムイオン濃度を測定し、その差を求めた。
【0060】
〔アスペクト比計算〕
X線回折装置(XD−5A、(株)島津製作所製)を用い、粘土鉱物の回折測定を粉末法により行い、粘土鉱物の単位厚さaを求めた。上述の方法で求めた平均粒径Lを用いて、該粘土鉱物のアスペクト比Zを、Z=L/aの式により算出した。なお塗工液(2)、塗工液(6)、塗工液(8)〜(11)を乾燥したものについてもX線回折測定を行ない、粘土鉱物の面間隔が広がっていることを確認した。
【0061】
〔耐擦傷性の評価〕
下記方法により得られた成形体から5cm角のシートをサンプリングし、23±2℃、50±5%RHで24時間以上状態調整した後、図1に示す装置を用いて該シートに傷をつけた。具体的には、シート(2)を軟質材(3)の上に弛みや皺のないように取り付け、シェーカー(4)上に固定した(傷付き性測定用試料)。また2軸延伸ポリプロピレンフィルム(5)を、金属パイプにシリコンゴムを張り付けた棒(1)を介して固定し、振幅40mm、振とう速度60回/分の条件で1分間前記シートと2軸延伸ポリプロピレンフィルムを擦り合わせた。擦り合わせた前後のシートのヘイズをASTM D1003−61に準拠して測定し、その差(Haze値)を成形体の耐擦傷性の尺度とした。数値の小さい方が耐擦傷性に優れる。
【0062】
〔成形性の評価〕
下記方法により得られた成形体を目視にて観察し、成形性を下記基準に従って評価した。
○:成形体の表面保護層、基材層のいずれにも、割れ、傷等が認められない。
×:成形体の表面保護層または基材層に割れ、傷等が発生する。
【0063】
〔酸素透過度測定〕
JIS K7126に基づき、超高感度酸素透過度測定装置(OX−TRANML、MOCON社製)にて、耐擦傷性評価前後のシートサンプルについて、23℃5%RHの条件下にて測定を行った。
【0064】
〔塗工液に用いた原料〕
使用した原料は、次のとおりである。
樹脂成分(A):
水酸基を含む重合体成分:ポリビニルアルコール
PVA117H;(株)クラレ製,ケン化度;99.6%、重合度1,700(以下、PVA(i)と称する)
AQ2117;(株)クラレ製,ケン化度;99.6%、重合度1,700(以下、PVA(ii)と称する)
カルボキシル基を含む重合体成分:ポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量1,000,000)(以下、PAAと称する)
可塑剤(B):ポリグリセリン(PGL10;ダイセル化学工業(株)製、10量体、分子量758)
可塑剤(B’):グリセリン(和光純薬工業(株)製、単量体、分子量92)
粘土鉱物(D):高純度モンモリロナイト(商品名:クニピアG;クニミネ工業(株)製)(層間にナトリウムイオンを含有)
【0065】
〔塗工液の作製〕
塗工液(1)の作製
分散釜(商品名:デスパMH−L、浅田鉄工(株)製)に、イオン交換水(比電気伝導率0.7μs/cm以下)1300gと、PVA(i)130gとを混合し、低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)で95℃に昇温した。該混合系を同温度で30分間攪拌してPVAを溶解させたのち、60℃に冷却し、PVA水溶液を得た。該PVA水溶液(60℃)を前記同様の条件で攪拌しながら、1−ブタノール122g、イソプロピルアルコール122gおよびイオン交換水520gを混合してなるアルコール水溶液を5分間かけて滴下し、PVA溶液を得た。該PVA溶液を、前記同様の条件で攪拌しながら、さらにポリグリセリン(PGL10;ダイセル化学工業(株)製、10量体)163g、イソプロパノール243gを15分間かけて加え、次いで該混合系を室温まで冷却し、可塑剤含有液(1)を得た。
この可塑剤含有液(1)に対し、非イオン性界面活性剤(ポリジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体、商品名:SH3746、東レ・ダウコーニング(株)製)0.1重量%(前記分散液の重量を基準とする)を低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において添加し、可塑剤調製液(1)を調製した。
またさらに別の分散釜(商品名:デスパMH−L、浅田鉄工(株)製)に、イオン交換水(比電気伝導率0.7μs/cm以下)1067gと、PAA33gとを混合し、常温にて低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)でPAA溶液を作製した。
可塑剤調製液(1)2080g、PAA溶液1100gと、次亜リン酸ナトリウム14g(和光純薬工業(株)製)を、低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において徐々に混合し、塗工液(1)を得た。
【0066】
塗工液(2)の作製
前記可塑剤調製液(1)において、さらに高速攪拌(3,000rpm、周速度=8.2m/分)下、該攪拌系に高純度モンモリロナイト(商品名:クニピアG;クニミネ工業(株)製)34gを徐々に加え、添加終了後、60℃で60分間攪拌を続けたこと以外は同様にして、可塑剤調製液(2)を作製した。
該可塑剤調製液(2)2080g、前記PAA溶液1100gとを、低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において徐々に混合して混合液とし、さらに該混合液を高圧分散装置(商品名:超高圧ホモジナイザーM110−E/H、Microfluidics Corporation 製)を用いて、1100kgf/cm2の条件で処理することにより、塗工液(2)を得た。
塗工液(2)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。塗工液(2)中のPVA(i)、PAA、ポリグリセリンと無機層状化合物の合計体積を100%としたとき、無機層状化合物の体積分率は5vol%であった。
塗工液(3)の作製
ポリグリセリンを40.8g用いたこと以外は塗工液(1)と同様にして、塗工液(3)を作製した。
塗工液(4)の作製
ポリグリセリンを331g用いたこと以外は塗工液(1)と同様にして、塗工液(4)を作製した。
塗工液(5)の作製
ポリグリセリンのかわりにグリセリンを用いたこと以外は塗工液(1)と同様にして、塗工液(5)を作製した。
塗工液(6)の作製
ポリグリセリンのかわりにグリセリンを用いたこと以外は塗工液(2)と同様にして、塗工液(6)を作製した。
塗工液(7)の作製
ポリグリセリンを添加しないこと以外は塗工液(1)と同様にして、塗工液(7)を作製した。
塗工液(8)の作製
PVA(i)のかわりにPVA(ii)を用い、さらに高純度モンモリロナイトを16.7g用いたこと以外は塗工液(2)と同様にして、塗工液(8)を作製した。塗工液(8)中のPVA(ii)、PAA、ポリグリセリンと無機層状化合物の合計体積を100%としたとき、無機層状化合物の体積分率は2.5vol%であった。
塗工液(9)の作製
高純度モンモリロナイトを52.8g用いたこと以外は塗工液(8)と同様にして、塗工液(9)を作製した。塗工液(9)中のPVA(ii)、PAA、ポリグリセリンと無機層状化合物の合計体積を100%としたとき、無機層状化合物の体積分率は7.5vol%であった。
塗工液(10)の作製
高純度モンモリロナイトを8.4g用い、さらにポリグリセリンを添加しなかったこと以外は塗工液(8)と同様にして、塗工液(10)を作製した。塗工液(10)中のPVA(ii)、PAAと無機層状化合物の合計体積を100%としたとき、無機層状化合物の体積分率は2.5vol%であった。
塗工液(11)の作製
高純度モンモリロナイトを26.4g用い、さらにポリグリセリンを添加しなかったこと以外は塗工液(8)と同様にして、塗工液(11)を作製した。塗工液(11)中のPVA(ii)、PAAと無機層状化合物の合計体積を100%としたとき、無機層状化合物の体積分率は7.5vol%であった。
【0067】
〔実施例1〕
(株)日本製鋼所製射出成形機(J100E型)にてシリンダー温度190℃でポリプロピレン(JIS−K7210に従って、230℃、2.16Kg荷重の条件で測定されるMFR=3.2g/10分)を射出成形し、直径29mm、長さ123mm、厚さ3.9mm、重量29gの予備成形体(a)を得た。該予備成形体の外側にUV照射処理し、該処理面上にアンカ−コート剤(EL510−1/CAT−RT87=5/1(重量比)、固形分濃度4wt%:東洋モートン(株)製)を、ディッピング法により塗工し、温度40℃にて1時間乾燥させることにより、アンカーコート層を形成した。当該アンカーコート層の乾燥厚みは0.1μmであった。
次に前述の塗工液(1)をディッピング法により塗工し、温度80℃にて1時間乾燥させ、これを3回繰り返すことにより、第1の層が形成された一次成形体(b)を得た。該第1の層の厚みは1.0μmであり、第1の層中のNa濃度は7000ppmであった。該一次成形体(b)を、(株)フロンティア製延伸ブロー成形機(EFB2000型)に供給して、赤外線ヒーターによる加熱、空気による冷却を行い、該一次成形体(b)表面温度を100〜140℃に加熱調整した後、ストレッチロッドによる縦延伸、および圧縮空気によるブローを行い、容量1L、高さ275mm、幅72mmの角形の成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表2に示した。
【0068】
〔実施例2〕
実施例1において塗工液(1)のかわりに塗工液(2)を用いたこと以外は同様にして、成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表2に示した。
【0069】
〔実施例3〕
実施例1において塗工液(1)のかわりに塗工液(3)を用いたこと以外は同様にして、成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表2に示した。
【0070】
〔実施例4〕
実施例1において塗工液(1)のかわりに塗工液(4)を用いたこと以外は同様にして、成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表2に示した。
【0071】
〔比較例1〕
実施例1において塗工液(1)のかわりに塗工液(5)を用いたこと以外は同様にして、成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表2に示した。
【0072】
〔実施例2〕
実施例1において塗工液(1)のかわりに塗工液(6)を用いたこと以外は同様にして、成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表2に示した。
【0073】
〔実施例3〕
実施例1において塗工液(1)のかわりに塗工液(7)を用いたこと以外は同様にして、成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表2に示した。
【0074】
〔比較例4〕
実施例1において塗工液(1)を用いなかったこと以外は同様にして、成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表2に示した。
【0075】
〔実施例5〕
実施例1と同様に予備賦形体(a)の外側にUV照射処理し、その後該処理面にアンカーコート層を形成した。当該アンカーコート層の乾燥厚みは0.1μmであった。
次いで塗工液(8)をディッピング法により塗工し、温度80℃にて1時間乾燥させ、これを2回繰り返すことにより、第1の層が形成された一次成形体(b’)を得た。該第1の層の厚みは0.4μmであった。またさらに塗工液(9)をディッピング法により塗工し、温度80℃にて1時間乾燥させ、これを2回繰り返すことにより、第2の層が形成された一次成形体(b1)を得た。該第2の層の厚みは0.4μmであり、該第1の層と第2の層中のNa濃度は7000ppmであった。
該一次成形体(b1)を、実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表5に示した。
【0076】
〔実施例6〕
実施例5において塗工液(8)のかわりに塗工液(9)を、塗工液(9)のかわりに塗工液(8)を用いたこと以外は同様にして、一次成形体(b2)を得た。第1の層および第2の層の厚みはいずれも0.4μmであり、該第1の層と第2の層中のNa濃度は7000ppmであった。該一次成形体(b2)を、実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表5に示した。
【0077】
〔比較例5〕
実施例5において塗工液(8)のかわりに塗工液(10)を、塗工液(9)のかわりに塗工液(11)を用いたこと以外は同様にして、一次成形体(b3)を得た。第1の層および第2の層の厚みはいずれも0.4μmであり、該第1の層と第2の層中のNa濃度は7000ppmであった。該一次成形体(b3)を、実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体について評価を行った。結果を表5に示した。
【0078】
表1

【0079】
表2

【0080】
表3

【0081】
表4

【0082】
表5

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】耐擦傷性評価方法の概略図である。
【符号の説明】
【0084】
1:棒
2:シート
3:軟質材
4:シェーカー
5:2軸延伸ポリプロピレンフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂成分、第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンを含有する第1の樹脂組成物から形成される第1の層と、熱可塑性樹脂から形成される基材層とが積層されてなる一次成形体を、二次成形して得られる成形体であり、以下の条件(1)および(2)を満たす成形体。
(1)前記第1の樹脂成分が水酸基とカルボキシル基とを含み、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)である
(2)第1の可塑剤が分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合しており、分子量が200〜4000である
【請求項2】
第1の可塑剤の含有量が、第1の樹脂成分100重量部に対して20〜150重量部である請求項1記載の成形体。
【請求項3】
第1の樹脂成分が、ポリビニルアルコール系重合体95〜5重量%と、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物およびポリメタアクリル酸部分中和物からなる群から選択される1種以上の重合体成分5〜95重量%とを含有する、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項4】
第1のアルカリ金属イオンの含有量が、第1の樹脂成分100重量部に対し0.2〜5重量部である請求項1〜3いずれかに記載の成形体。
【請求項5】
第1の樹脂組成物が、第1のアルカリ金属イオンを有する第1の粘土鉱物を含む請求項1〜4いずれかに記載の成形体。
【請求項6】
第1の層と隣接して、第2の層が積層されてなり、前記第2の層が第2の樹脂成分、第2の可塑剤および第2のアルカリ金属イオンを含有する第2の樹脂組成物からなり、前記基材層と第2の層との間に第1の層が配されてなる請求項1〜5いずれかに記載の成形体。
【請求項7】
第2の樹脂組成物が、第2のアルカリ金属イオンを有する第2の粘土鉱物を含み、該第2の樹脂組成物における第2の粘土鉱物の体積分率が、前記第1の樹脂組成物における第1の粘土鉱物の体積分率より高い請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
前記第1の層の厚みが、前記第2の層の厚み以上に厚い請求項6または7に記載の成形体。
【請求項9】
ブロー容器である請求項1〜8いずれかに記載の成形体。
【請求項10】
熱可塑性樹脂から形成される基材層に、第1の層が積層されてなるブロー容器の製造方法であって、以下の工程(1)〜(4)を順に含むブロー容器の製造方法。
(1)熱可塑性樹脂からなる予備成形体を成形する工程
(2)前記予備成形体表面に、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む第1の樹脂成分、分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合しており、分子量が200〜4000である第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンが溶媒に分散されてなる第1の塗工液を塗工して第1の塗布膜を形成する工程
(3)第1の塗布膜から溶媒を除去して第1の層を有する一次成形体(1)を得る工程
(4)前記一次成形体(1)をブロー成形する工程
【請求項11】
熱可塑性樹脂から形成される基材層に、第1の層および第2の層が積層されてなるブロー容器の製造方法であって、以下の工程(1)〜(6)を順に含むブロー容器の製造方法。
(1)熱可塑性樹脂からなる予備成形体を成形する工程
(2)前記予備成形体表面に、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む第1の樹脂成分、分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合しており、分子量が200〜4000である第1の可塑剤および第1のアルカリ金属イオンが溶媒に分散されてなる第1の塗工液を塗工して第1の塗布膜を形成する工程
(3)第1の塗布膜から溶媒を除去して第1の層を有する一次成形体(1)を得る工程
(4)前記第1の層を有する一次成形体(1)表面に、水酸基とカルボキシル基とを、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5(個数比)で含む第2の樹脂成分、第2の可塑剤および第2のアルカリ金属イオンが溶媒に分散されてなる第2の塗工液を塗工して第2の塗布膜を形成する工程
(5)第2の塗布膜から溶媒を除去して第1の層および第2の層を有する一次成形体(2)を得る工程
(6)前記一次成形体(2)をブロー成形する工程

【図1】
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【公開番号】特開2008−179137(P2008−179137A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329889(P2007−329889)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】