説明

成形同時絵付け用転写シート

【課題】成形同時絵付け時において金型を汚すことなく、また、オリゴマーの析出を十分に防止することができる成形同時絵付け用転写シートを提供する。
【解決手段】厚み方向にオリゴマー含有量の異なるポリエステル系樹脂で構成された基材フィルム35と、前記基材フィルム35の一方の面に設けられた転写層32とを備え、前記基材フィルム35の前記転写層が設けられていない他方の面35bの最表面側に位置する外側部分36bは、厚み0.1〜5.0μmのオリゴマー含有量が0.5重量%未満の樹脂で形成されており、中間部分37はオリゴマー含有量が1重量%以上の樹脂で形成されている。外側部分36bと中間部分37は、同じ種類の樹脂で構成され、両者間には境界が存在しない一体的な構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品、音響機器、携帯電話機、自動車のインジケータなどの表示パネルなどの製造に用いられ、樹脂を射出成形する際、成形金型の中に挿入し樹脂が成形されると同時にその表面に絵付けを行ういわゆる成形同時絵付け用転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
成形された成型物に絵付けや塗装を行う方法として、一般的に、金型内に加飾用フィルムを配置した後、型閉めをし、成形樹脂を射出して、射出成形品に加飾用フィルムを一体化接着させて成形と同時に絵付けする成形同時絵付けが利用されている。成形同時絵付けは、成形同時絵付け金型の固定側金型と可動側金型との間に基材フィルム上に転写層を備えた成形同時絵付け用転写シートを配置し、固定側金型と可動側金型との型閉めにより形成した成形用空間内に溶融樹脂を注入し樹脂成形品を形成すると同時に、成形時の樹脂圧力と熱によって樹脂成形品の表面に転写層を一体化接着させる方法である。
【0003】
このとき、成形樹脂は約220℃〜280℃の溶融状態で射出され成形同時絵付け用転写シートに衝突するが、約220℃〜280℃という高熱と射出圧力に耐えなければならないので、成形同時絵付け用転写シートの基材フィルムの材質として、耐熱性と強靭性を兼ね備えた樹脂が選択されている。このような樹脂としては、ジオールとジカルボン酸とを縮重合させて得られるエステル基を主鎖にもつポリエステル、中でもポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレートなどが材質として多く使用されている。
【0004】
前記ポリエステルからなる基材フィルム中には、オリゴマーが含有されているのが一般的である。このオリゴマーは、分子量が小さいため、製膜された時点から表面側に徐々に移行する性質がある。
【0005】
上述のように、成形同時絵付け法は、金型間に成形同時絵付け用転写シートを挟んだ状態で保持し、射出成形することにより射出樹脂の圧力により成形される。その際、オリゴマーのガラス転移点を超える程度にまで加熱されるので、その結果フィルムの背面付近に含まれる析出し金型に付着して堆積する場合がある。この状態で射出成形を行うと、成形品にその形がつくといういわゆる打痕が生じる。また、金型のキャビティ面が曇ったり、金型の腐食が促進されたりする。このため、頻繁に金型払拭作業をする必要があり、生産効率低下の問題があった。さらに、金型のキャビティ面にキズを付けることがあり、金型の補修作業が必要になるという点でも生産効率の低下につながっていた。
【0006】
この問題を解決すべく特開2002−59451号公報(特許文献1)には、基材フィルムの一面にオリゴマー遊離防止層を設けた射出成形同時加飾用フィルムが開示されており、このオリゴマー遊離防止層は、50℃の状態でJISK−5400のXカットテープ法に準じた付着性試験方法において基材フィルムとの固着が評価点数8〜10となるものが開示されている。
【特許文献1】特開2002−59451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、この加飾用フィルムは、ポリエステルからなる基材フィルムの表面に例えば、メラミン系樹脂又はアクリル系樹脂から構成されたオリゴマー遊離防止層を積層する構成をとっており、基材フィルムとの密着性が弱いオリゴマー遊離防止層だと、成形時に熱と圧による衝撃によりオリゴマー遊離防止層がはがれ落ちて金型に付着する。また、アクリル系樹脂などのオリゴマー遊離防止層はブロッキングをおこしやすいため、ワックスなどのブロッキング防止剤を添加するが、このワックスが析出して金型に付着することがある。よって、この加飾用フィルムは、成形時にオリゴマー遊離防止層自体が金型を汚すという問題があった。さらに、オリゴマー析出を十分に防止するには、オリゴマー遊離防止層の架橋密度が高くなくてはならないが架橋密度が高いと基材フィルムとの密着が悪くなるため、架橋密度を高くすることができないという問題があった。その結果オリゴマー析出防止効果が弱く、オリゴマーの析出を十分に防止することができないという問題もあった。また、コスト上の問題もあった。
【0008】
さらに、基材フィルムと異素材からなるオリゴマー遊離防止層を用いてオリゴマーの析出を防止するためには、膜厚を大きくすることでオリゴマーの析出を防止する効果が向上する。しかし、オリゴマー遊離防止層を厚くすると、成形時にキャビティの形状に合わせて転写シートが延伸した場合、その延伸部でクラックが生じたり、基材フィルム自体の延伸性を阻害したりして、成形時にフィルムの破損、成形品の不良を招くおそれがある。
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、上記問題を解決し、成形同時絵付け時において金型を汚すことなく、また、オリゴマーの析出を十分に防止することができる成形同時絵付け用転写シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、以下の構成の成形同時絵付け用転写シートを提供する。
【0011】
本発明の第1態様によれば、基材フィルムの表面に転写層が積層された成形同時絵付け用転写シートであって、
前記基材フィルムは、転写層が積層されていない側の最表面側に位置する外側部を構成する樹脂のオリゴマー含有量が、前記外側部より内側に位置する中間部を構成する樹脂のオリゴマー含有量より少なくなるように構成され、前記外側部と中間部は同じ種類のポリエステル系樹脂からなり、その間の境界がないように一体的に構成されていることを特徴とする成形同時絵付け用転写シートを提供する。
【0012】
本発明の第2態様によれば、前記外側部はオリゴマー含有量が0.5重量%未満の樹脂で構成され、前記中間部はオリゴマー含有量が0.5重量%以上の樹脂で構成されることを特徴とする、第1態様の成形同時絵付け用転写シートを提供する。
【0013】
本発明の第3態様によれば、前記外側部の厚みは、0.1〜5μmであることを特徴とする、第1または第2態様の成形同時絵付け用転写シートを提供する。
【0014】
本発明の第4態様によれば、前記基材フィルムが、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなることを特徴とする、第1から第3態様のいずれか1つの成形同時絵付け用転写シートを提供する。
【0015】
本発明の第5態様によれば、前記基材フィルムは、前記転写層が設けられている側の表面に位置する部分のオリゴマー含有量が、前記外側部のオリゴマー含有量よりも少ないことを特徴とする、第1から第4態様のいずれか1つの成形同時絵付け用転写シートを提供する。
【0016】
本発明の第6態様によれば、前記基材フィルムは、前記外側部を構成するポリエステル系樹脂と、前記中間部を構成するポリエステル系樹脂とを溶融状態で積層して貼り合わせ、厚み方向に圧縮したあと2軸延伸することにより前記外側部と前記中間部との境界をなくすように製造されることを特徴とする、第1から第5態様のいずれか1つの成形同時絵付け用転写シートを提供する。
【0017】
本発明の第7態様によれば、前記転写層は、前記基材フィルムの表面に印刷法により作成されることを特徴とする、第1から第6のいずれか1つの成形同時絵付け用転写シートを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1態様及び第2態様によれば、同じ種類のポリエステル系樹脂で構成された基材フィルムが、その厚み方向にオリゴマー含有量が異なるように構成されており、その外側部分のオリゴマー含有量が中間部オリゴマー含有量よりも低くまた、その境界がないように構成されているため、中間部に含まれるオリゴマーが外側部分に移動したとしても、外側部分がこのオリゴマーを吸収して成形同時絵付け用転写シートの表面に析出させることがない。よって、成形同時転写時において金型にオリゴマーが付着するという問題を解消することができる。よって、成形同時転写時において金型にオリゴマーが付着するという問題を解消することができる。具体的には、外側部を構成する樹脂のオリゴマー含有量が0.5重量%未満であり、中間部を構成する樹脂のオリゴマーが0.5重量%以上となるようにすれば、効果的にオリゴマーの析出を防止することができる。
【0019】
また、基材フィルムは、すべてポリエステル系樹脂で構成されているため、2つの層を貼り合わせたような構成とは異なり、層間剥離や、層間の収縮率や線膨張率の相違によるフィルムの反り、しわの発生を防止することができる。さらに、オリゴマー含有量が多いポリエステル系樹脂を中間部分に用いているため、基材フィルムの全体をオリゴマー含有量が少ない樹脂を用いる場合に比較して、基材フィルムを安価に製造することができる。
【0020】
さらに、基材フィルムの最表面側、すなわち、転写成形時には金型に接触する面に設けられている外側部分はポリエステル系樹脂から構成され、転写層内のインキ成分との密着性が弱く、ブロッキングをおこしにくい。また、製膜後のコーティングが不要であり、異素材をオフラインコートした場合に比較して製造コストを安くすることができる。
【0021】
さらに、基材フィルムは、同じ種類のポリエステル樹脂から構成されているため、基材フィルムの延伸を阻害することがなく、フィルムの破損、成形品の不良を起こす問題がない。
【0022】
本発明の第3態様によれば、オリゴマー含有量が少ないである外側部の厚みを薄くして基材フィルムをより安価に製造することができる。一方、外側部分の厚みを厚くすれば、より多くのオリゴマーを吸収することができ、長期間にわたりオリゴマー析出を防止することができる。成形同時絵付け用転写シートに用いられる場合には、外側部は5μm程度の厚みで、成形するまでのオリゴマーの析出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る成形同時絵付け用転写シートについて、図面を参照しながら説明する。まず、本実施形態にかかる成形同時絵付け用転写シートが用いられる成形同時絵付け装置の基本的な構成について説明する。図1に示すように、成形同時絵付け装置20は、可動盤21に取付けた可動側金型1と固定盤22に取付けた固定側金型2と両金型間に画定される成形用空間に溶融樹脂を射出する射出ノズル25を備える。
【0024】
この実施の形態では固定盤22は架台26に固定され、この固定盤22に固定されたタイバー24によって可動盤21が案内され固定盤22に離接可能に移動する。
【0025】
可動盤21を移動することで固定側金型2のパーティング面と可動側金型1のパーティング面が圧接し、固定側金型2の第2キャビティ58と可動側金型1の第1キャビティ28とで成形用空間を画定した型閉じ状態と、両金型のパーティング面が離隔した型開き状態となる。
【0026】
また、基本的には固定側金型2と可動側金型1を用い当該2つの金型で成形用空間を形成するが、例えば、両金型に挟まれて成形用空間を形成する中間金型などの附随的な部材を用いることもできる。
【0027】
前記可動盤21にはシート送り出し装置27とシート巻取り装置23が設けられている。シート送り出し装置27とシート巻取り装置23は、成形同時絵付け用転写シート100を可動側金型1の第1キャビティ28に対して縦方向(鉛直方向)に移動させる。成形同時絵付け用転写シート100は可動側金型1のパーティング面と離隔し、かつ平行となるように縦方向に移動される。
【0028】
なお、可動金型側及び固定金型側のシート送り出し装置とシート巻取り装置の取りつけ位置は、図1に示すものに限るものではない。シート送り出し装置27を可動盤21の下部に設け、シート巻取り装置23を可動盤21の上部に設けるようにしてもよい。あるいは、可動金型側のシート送り出し装置27とシート巻取り装置23を左右側部に取付け、固定金型側のシート送り出し装置とシート巻取り装置を固定盤22の上部又は下部に取付けても良い。さらに、シート送り出し装置、シート巻取り装置を架台に直接取付けてもよい。
【0029】
つまり、成形同時絵付け用転写シート100が、成形同時絵付けを行う前に金型のパーティング面(固定側金型2のパーティング面又は可動側金型1のパーティング面)に対向して配置されるように、成形同時絵付け用転写シート100を移動可能である構成であればよい。
【0030】
次に、成形同時絵付け用転写シートの構成について説明する。図2(a)は、本実施形態にかかる成形同時絵付け用転写シートの外観構成を示す。本実施形態にかかる成形同時絵付け用転写シートは、ロールの状態から固定側金型のパーティング面上を移動するように送り出され、成形同時絵付けがなされた後、シート巻き取り装置でロール状に巻き取られる。
【0031】
成形同時絵付け用転写シート100は、図2(a)に示すように、図柄31が長手方向に間隔を置いて設けられている。成形同時絵付け用転写シート100は、図2(b)に示すように基材フィルム35と転写層32とを備え、転写層32は剥離層34と、その上に図柄31を構成する図柄インキ層31aが設けられる。また、図柄インキ層31aの上には、接着層33が設けられており、成形同時絵付け時に溶融樹脂と接触してこれに接着し、図柄インキ層31aが剥離層34と共に基材フィルム35から剥離して転写層32が樹脂成形品に転写される。
【0032】
成形同時絵付け時においては、基材フィルム35上に、剥離層34、図柄インキ層31a、接着層33などからなる転写層32を形成した成形同時絵付け用転写シート100を用い、このシートを成形金型内に挟み込み、キャビティ内に樹脂を射出充満させ、冷却して樹脂成形品を得るのと同時にその面に成形同時絵付け用転写シート100を接着させた後、基材フィルムを剥離して、樹脂成形品の表面に転写層32を転移して装飾を行う。
【0033】
基材フィルム35の材質としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ビスフェノールなどのジオールと、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェン酸、アジピン酸、ナフタレンジカルボン酸、エイコ酸、ダイマー酸などで代表されるジカルボン酸とを縮重合させて得られるエステル基を主鎖にもつポリエステルを主成分とする樹脂が用いられる。具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレン-p-オキシベンゾエート、ポリ-1,4-シクロへキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどが挙げられる。これらのポリエステルは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよく、共重合成分としては、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分が挙げられる。これらの材質のうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを主成分とするものが好ましい。特に好ましいものは、引張り強度、耐熱性に優れたポリエチレンテレフタレートである。
【0034】
基材フィルム35は、一面に設けた絵柄層31aが他面側から透かして見えるようにする場合は、透明や半透明であってもよい。基材フィルム35は、着色されていてもよいが、絵柄層31a自体の色を活かすためには無色のものが好ましい。基材フィルム35は、表面を艶消ししたものでもよい。艶消しする方法としては、基材フィルム35上にマットインキを印刷してマット層を印刷により設ける方法や、基材フィルム35の成形時にマット材を練り込む方法などがある。
【0035】
基材フィルム35の厚みDとしては、射出成形同時絵付け用として用いる場合は、一般的には0.025mm〜0.10mmであり、さらに好ましいのは0.030mm〜0.050mmである。0.025mmより薄いと成形樹脂による高熱と射出圧力によって射成形同時絵付け用フィルム100が破れてしやすくなるからである。一方、0.10mmを超えると剛性が大きくなり絵柄層31aなどを印刷する際の印刷基材として用いにくくなる。
【0036】
図3は、図2(b)の成形同時絵付け用転写シートの基材フィルムの部分を拡大した断面図である。基材フィルム35は、その厚み方向にオリゴマーの含有率が異なるように構成されており、中間部37の両表面35a,35bを構成する部分にオリゴマーの含有率が0.5重量%以下(「低オリゴマー含有グレード」ともいわれる。)のポリエステル系樹脂からなる外側部36a,36bが形成されるように構成されている。外側部36a,36bに用いられるオリゴマー含有量の少ないポリエステル樹脂は、ポリエステル重合時に基材フィルム1中でオリゴマー(特にオリゴマー環状低分子量体(PETの場合は、多くはテレフタレート環状三量体))が生成することを抑える、あるいはPET中のオリゴマー成分を除去することにより作製される。
【0037】
外側部36a,36bは、その厚みが0.1〜5.0μmとなるように構成されている。外側部36a,36bが0.1μmよりも薄いと、後述する中間部37からのオリゴマーの析出を防止することが困難であり、5.0μm以上としても、後述するように、オリゴマーの析出効果について顕著な効果の飛躍はみられず、高価な低オリゴマー含有グレードの樹脂を多く用いるためコストが高くなる。
【0038】
また、基材フィルムの厚み方向中間部に位置する中間部37は、低オリゴマー含有グレードの層36a,36bよりもオリゴマー含有グレードが高い樹脂で構成されている(例えば、オリゴマーの含有率が0.5重量%以上)。中間部37の厚みBは、基材フィルム35全体の厚みDに対して大部分の厚みを有しており、例えば、基材フィルム35の厚み寸法Dの70〜99.7%の厚みを有するように構成される。中間部37を構成するオリゴマー含有グレードが高い樹脂は、オリゴマー成分の生成を防止したり、オリゴマー成分を除去することなく製造されるので、一般に低オリゴマーのポリエステル樹脂よりもコストが安く、この樹脂を中間部37として基材フィルム35の大部分を構成するようにすれば、基材フィルム35を低コストで製造することができる。
【0039】
中間部37と外側部36a,36bとの境界は、例えば、複数枚の層を接着剤で貼り合わせたように、完全に区別された物理的な境界面はなく、基材フィルムを構成するポリエステル系樹脂のオリゴマー含有量によって区別される。ここで境界とは、中間部37と外側部36a,36bとを構成するポリエステル系樹脂のオリゴマー含有量の飛躍的な差のことであり、境界がない場合の具体的な構成としては、中間部37と外側部36a,36bの境界部分は、中間部37と外側部36a,36bを構成する樹脂がその接触面近傍で混じり合って融着し、徐々にオリゴマー成分の含有量が変化するように構成されている状態である。すなわち、基材フィルム35は厚み方向にオリゴマー含有量が異なる(外側部分に向かうにしたがってオリゴマーの含有量が低くなる)構成を有する。このように、明確な境界を設けていないので、例えば、成形同時絵付け時において、加熱されたり高圧が加わった場合に、両者の収縮率、線膨張率などの違いにより基材フィルム35、ひいては成形同時絵付け用転写シート100自体のしわの発生などを防止することができると共に、例えば、成形同時絵付け用転写シート100が強い力で引っ張られたような場合、ごくうすく構成されている外側部36a,36bにクラックが発生したりすることがない。また、中間部37に含まれるオリゴマーの外側部36a,36bへの移動が、境界により阻害されることがない。よって、2つの層を積層状態で貼り合わせた場合に両者の境界にオリゴマーが析出するというような問題がない。
【0040】
基材シート35は、オリゴマー含有量の多い中間部37の両面をオリゴマー含有量が少ない外側部36a,36bで挟まれたような構成をしているため、中間部37中のオリゴマーが基材シート35の表面、すなわち外側部36a,36bへ移動したとしても、そのオリゴマーは外側部36a,36b中に吸収、蓄積されて基材フィルム表面にまで析出することが防止される。したがって、基材フィルムの外側部36a,36bに含まれるオリゴマー量が少なく、また、厚さ寸法が大きいほどより多くのオリゴマーを吸収、蓄積することができ、長期間にわたりオリゴマーの析出を防止することができる。
【0041】
なお、外側部36a,36bの厚さ寸法を5μm以上としても飛躍的な効果の向上はあまり見られず、5μmの厚みがあれば通常の成形同時絵付け用転写シートとして用いる場合には十分なオリゴマー析出防止効果が得られる。一方、低オリゴマー含有グレードの樹脂の量が増えることとなるため、転写フィルムのコストが高くなる。よって、成形同時絵付け用転写シートの用途及びコストなどの諸条件により、中間部37を構成する樹脂のオリゴマー含有量、外側部36a,36bを構成する樹脂のオリゴマー含有量、外側部36a,36bの厚さ寸法などを適宜調整して設計すればよい。具体的には、例えば、製造から成形同時転写を行うまでに長期間かかるような場合や、中間部37にオリゴマー含有量が非常に多い樹脂を使用した場合などは、外側部36a,36bを、オリゴマー含有量が少ない樹脂を用い厚さ寸法を大きく構成すれば、長期間に亘りオリゴマーの析出を防止することが可能である。
【0042】
離型層38は、基材フィルム35からの転写層の剥離性を改善するために、基材フィルム35上に全面的に形成される。離型層38は、成形同時転写後に基材フィルム35を剥離した際に、基材フィルム35と共に転写層から離型する。ただし、基材フィルム35からの転写層32の剥離性がよい場合などにはこれを設けることなく基材フィルム35上に転写層32または剥離層を直接設けてもよい。離型層38の材質としては、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース誘導体系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤及びこれらの複合型離型剤などを用いることができる。離型層38の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0043】
剥離層は、基材フィルム35または離型層38上に全面的または部分的に形成する。剥離層は、成形同時転写後に、基材フィルムを剥離した際に基材フィルム35または離型層38から剥離して、被転写物の最外面となり、被転写物の表面保護を行うための層である。剥離層の材質としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂などの他、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などのコポリマーを用いるとよい。剥離層に硬度が必要な場合には、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いるとよい。剥離層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0044】
剥離層の厚みは、0.5〜50μmが好ましい。膜厚が0.5μmより薄いと、十分な接着性が得られないという問題があり、50μmより厚いと、印刷後に乾燥し難いという問題が生じる。
【0045】
図柄インキ層31aは、例えば、オーディオやテレビ、洗濯機、携帯電話機などのフロントパネル、あるいは、自動車のメーターパネルやオーディオパネルなどの表面に形成される文字、数字、図形、記号、模様などを表現する層である。図柄インキ層31aは、剥離層34の上に、通常は印刷層として形成する。図柄インキ層31aの材質としては、アクリル系樹脂、硝化綿系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。図柄インキ層31aの形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。特に、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印別法やグラビア印刷法が適している。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。印刷層は、表現したい図柄に応じて、全部的に設ける場合や部分的に設ける場合もある。
【0046】
また、図柄インキ層31aは、金属薄膜層からなるもの、あるいは印刷層と金属薄膜層との組み合わせからなるものでもよい。金属薄膜層は、図柄インキ層31aとして金属光沢を表現するためのものであり、真空蒸着法、スパッターリング法、イオンプレーテイング法、鍍金法などで形成する。この場合、表現したい金属光沢色に応じて、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、スズ、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛などの金属、これらの合金又は化合物を使用する。部分的な金属薄膜層を形成する場合の一例としては、金属薄膜層を必要としない部分に溶剤可溶性樹脂層を形成した後、その上に全面的に金属薄膜を形成し、溶剤洗浄を行って溶剤可溶性樹脂層と共に不要な金属薄膜を除去する方法がある。この場合によく用いられる溶剤は、水又は水溶液である。また、別の一例としては、全面的に金属薄膜を形成し、次に金属薄膜を残しておきたい部分にレジスト層を形成し、酸又はアルカリでエッチングを行い、レジスト層を除去する方法がある。なお、金属薄膜層を設ける際に、他の転写層と金属薄膜層との密着性を向上させるために、前アンカー層や後アンカー層を設けてもよい。前アンカー層および後アンカー層の材質としては、2液性硬化ウレタン樹脂、熱硬化ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、塩素含有ゴム系樹脂、塩素含有ビニル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系共重合体樹脂などを使用するとよい。前アンカー層および後アンカー層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0047】
図柄インキ層31aの膜厚は0.5μm〜50μmが好ましい。膜厚が0.5μmより薄いと、十分な意匠性が得られないという問題があり、50μmより厚いと、印刷後に乾燥し難いという問題があるためである。但し、金属膜層の場合は5〜120nmが好ましい。金属膜層の膜厚が5nmより薄いと、十分な金属光沢感が得られないという問題があり、120nmより厚いと、クラックが生じやすいという問題があるためである。
【0048】
接着層33は、樹脂成形品の面に上記の各層を接着するものである。接着層33は、接着させたい部分に形成する。すなわち、接着させたい部分が全面的なら、図柄インキ層31a上に接着層33を全面的に形成する。また、接着させたい部分が部分的な場合は、図柄インキ層31a上に接着層33を部分的に形成する。接着層33としては、樹脂成形品の素材に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。例えば、樹脂成形品の材質がポリアクリル系樹脂の場合はポリアクリル系樹脂を用いるとよい。また、樹脂成形品の材質がポリフェニレンオキシド共重合体ポリスチレン系共重合体樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、樹脂成形品の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。
【0049】
接着層33の厚みは、0.5〜50μmが好ましい。膜厚が0.5μmより薄いと、十分な接着性が得られないという問題があり、50μmより厚いと、印刷後に乾燥し難いという問題が生じる。接着層33の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0050】
なお、転写層32の構成は、上記した態様に限定されるものではなく、たとえば、図柄インキ層の材質として樹脂成形品との接着性に優れたものを使用する場合には、接着層33を省略することができる。
【0051】
次に、基材フィルムの製造方法について説明する。中間部37と外側部36a,35bとが一体的に構成された基材フィルム35の製造は、複数のノズルからそれぞれ中間部37を構成する樹脂と、外側部36a,35bを構成する樹脂とを溶融状態で吐出し、双方の樹脂を積層させた状態でローラーなどを用いて厚み方向に圧縮して延伸してフィルム状態にした後、当該フィルムを2軸延伸することによって製造される。
【0052】
基材フィルム35の製造には、3つの押し出し装置41,42,50を用いる。第1及び第2の押し出し装置41,42は、外側部36a,35bを構成する低オリゴマー含有グレードの樹脂を加熱して溶融状態で吐出する。第3の押し出し装置50は、中間部37を構成するオリゴマー含有量が多い樹脂を加熱して溶融状態で吐出する。第1及び第2の押し出し装置41,42から吐出された溶融樹脂45,46及び第3の押し出し装置50から吐出された溶融樹脂51の体積比は、概ね基材フィルムの外側部36a,36bと中間部37との比とほぼ同一であり、第1及び第2の押し出し装置41,42から吐出される溶融樹脂45,46は、第3の押し出し装置50から吐出される溶融樹脂51よりも吐出量が少ない。
【0053】
3つの押し出し装置41,42,50から吐出された溶融樹脂45,46,51はTダイに供給され、それぞれシート状に成形されて、Tダイ47から吐出され、同時に中間部を構成する溶融樹脂50を、外側部を構成する溶融樹脂41,42で挟むように積層される。Tダイ47から吐出された両外側部を構成する溶融樹脂41,42は約13μmであり、中間部を構成する溶融樹脂50は、474μm程度である。Tダイ47から吐出された3つの溶融樹脂45,46,51の積層シート52は、3つの溶融状態の樹脂45,46,51が互いに積層されて融着されているが、その板状樹脂45,46,51間の境界部分は存在する。
【0054】
Tダイ47から吐出された積層シート52は、キャスティングロール48に送られる。キャスティングロールは48は、積層シート52の送り方向と同じ向きに積層シート52の送り速度より高速で回転することにより、積層シート52をその送り方向に引き伸ばし、厚み方向に圧縮する。この処理において、3つの層はその境界部分が混合し、物理的な境界が存在しない一体的な構造となる。次いで、該押し出しシートの縦延伸機によって延伸温度92℃で流れ方向に4.2倍、横延伸機によって幅方向に3.1倍の二軸延伸を行い、0.025mm〜0.10mm、好ましくは0.030mm〜0.050mmの厚みの基材フィルムとし、200℃で熱固定して巻き取る。
【0055】
このようにして得られた基材フィルムに、上記のように印刷法によって転写層を形成し、成形同時絵付け用転写シートが製造される。
【0056】
以上説明したように、本実施形態にかかる成形同時絵付け用転写シートによれば、ポリエステル系樹脂で構成された基材フィルムの両面にオリゴマー含有量が0.5重量%未満の外側部が設けられていることにより、オリゴマーの含有量が多い中間部からのオリゴマーの基材フィルム表面方向へ移動しても、外側部によりこれを吸収、蓄積するため、オリゴマーの基材フィルム表面への析出を防止することができる。したがって、成形同時絵付け時において、金型に不純物であるオリゴマーが付着することがなく、成形品の打痕の発生を防止することができる。また、基材フィルムはすべてのポリエステル系樹脂であるポリエチレンテレフタレートで構成されているため、その膨張率、収縮率は厚み方向に同じであるため、成形同時絵付け時に成形同時絵付け用転写シートのしわや反りたわみを発生させることがない。
【0057】
また、中間部37と外側部36a,36bとは、その境界がないように構成されているため、層間剥離の問題もなく、成形同時絵付け時に成形同時絵付け用転写シートに加えられる高熱、高圧力による劣化、しわの発生なども防止することができる。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。例えば、上記実施形態においては、基材フィルムの両面にオリゴマー含有量の少ない樹脂を用いて外側層を形成しているが、当該外側層は、転写層が設けられていない側の表面にのみ設けられていてもよい。すなわち、成形同時絵付け時において、少なくとも、金型に接触する面である転写層が設けられていない側の表面にオリゴマーが析出することを防止すれば、打痕の問題や金型を汚すという問題を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る成形同時絵付け用転写シートを用いる成形同時絵付け装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1の成形同時両面加飾装置において用いられる加飾フィルムの構成を示す図であり、(a)は外観斜視図、(b)は(a)のIIB−IIB断面概略図である。
【図3】図2(b)の部分拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る成形同時絵付け用転写シートの基材フィルムの製造工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0060】
1 可動側金型
2 固定側金型
28,58 キャビティ
31 図柄
31a 図柄インキ層
32 転写層
33 接着層
34 剥離層
35 基材フィルム
36a,36b 外側部
37 中間部
100 成形同時絵付け用転写シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの表面に転写層が積層された成形同時絵付け用転写シートであって、
前記基材フィルムは、転写層が積層されていない側の最表面側に位置する外側部を構成する樹脂のオリゴマー含有量が、前記外側部より内側に位置する中間部を構成する樹脂のオリゴマー含有量より少なくなるように構成され、前記外側部と中間部は同じ種類のポリエステル系樹脂からなり、その間の境界がないように一体的に構成されていることを特徴とする成形同時絵付け用転写シート。
【請求項2】
前記外側部はオリゴマー含有量が0.5重量%未満の樹脂で構成され、前記中間部はオリゴマー含有量が0.5重量%以上の樹脂で構成されることを特徴とする、請求項1に記載の成形同時絵付け用転写シート。
【請求項3】
前記外側部の厚みは、0.1〜5μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の成形同時絵付け用転写シート。
【請求項4】
前記基材フィルムが、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1つに記載の成形同時絵付け用転写シート。
【請求項5】
前記基材フィルムは、前記外側部のオリゴマー含有量が、前記転写層が設けられている側の表面に位置する部分のオリゴマー含有量よりも少ないことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1つに記載の成形同時絵付け用転写シート。
【請求項6】
前記基材フィルムは、前記外側部を構成するポリエステル系樹脂と、前記中間部を構成するポリエステル系樹脂とを溶融状態で積層して貼り合わせ、厚み方向に圧縮したあと2軸延伸することにより前記外側部と前記中間部との境界をなくすように製造されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1つに記載の成形同時絵付け用転写シート。
【請求項7】
前記転写層は、前記基材フィルムの表面に印刷法により作成されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1つに記載の成形同時絵付け用転写シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−320146(P2007−320146A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152126(P2006−152126)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】