説明

成形品の製造方法、及び、被覆電線の製造方法

【課題】ポリテトラフルオロエチレンからなる成形品の厚みを極めて薄くすることができる成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、表面エネルギーが16〜20mN/mの有機溶剤(A)をポリテトラフルオロエチレンファインパウダーに添加して成形用組成物を得る工程と、前記成形用組成物を圧縮繊維化成形して成形品を得る工程と、を含むことを特徴とする成形品の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の製造方法、及び、被覆電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕は、その優れた性質から、さまざまな用途に用いられてきた。近年の技術の進歩と共に、情報通信機器、医療用機器、自動車部品等は小型化し、それに伴って、フッ素樹脂が使用されている電線、ケーブル、チューブ、フィルター等も、微細化、薄膜化が強く求められている。
【0003】
PTFEを電線、ケーブル、チューブ、フィルター等に成形する場合、PTFEは、モールディングパウダーやファインパウダー、ペレットと呼ばれる形態で使用される。従来の製造方法においては、PTFEファインパウダーのペースト押出の成形助剤として、アイソパーE、アイソパーGのようなナフサや石油系炭化水素が用いられてきたが、これらの成形用材料を成形した場合、得られる成形品の厚みは100μmを超えるものが限界であり、100μm以下の厚みに成形しようとすると均一な厚みが得られなかった。
【0004】
このような中で、特許文献1には、厚みの薄いPTFEフィルムを得るための圧延加工を容易にするためのフッ素樹脂成形品の製造方法として、フッ素系溶剤をポリテトラフルオロエチレンファインパウダーの成形助剤に使用し、ペースト押出成形により製造するフッ素樹脂成形品の製造方法が記載されている。
【0005】
ところで、特許文献2には、所望の形状のフッ素樹脂焼結体を効率的に得るための方法として、フッ素樹脂の粉末と少なくとも1種の低温分解性バインダーを混合し、混合物を射出成形したのち、成形体を脱脂処理してから焼結する、フッ素樹脂焼結体の製造法が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、細物の電線として、直径が0.05〜0.07mmである芯線に対して、一定条件下で被覆したときに被覆切れを起こさないフッ素樹脂が提案されているが、フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等の溶融加工可能な樹脂に限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−38423号公報
【特許文献2】特開平6−262693号公報
【特許文献3】国際公開第2005/052015号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で使用されている成形助剤は、C14とC1226の2種類のフッ素系溶剤を混合したものであるが、フッ素系溶剤は、炭化水素系溶剤と比較して表面エネルギーが著しく低いものである。
【0009】
特許文献2には、射出成形用のコンパウンドを得るために、n−パラフィン等の溶媒に低温分解性バインダーとフッ素樹脂粉末との混合物を溶解させて混合することが記載されているが、この溶媒は加熱乾燥により蒸発し、成形時には残っていない。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、ポリテトラフルオロエチレンからなる成形品の厚みを極めて薄くすることができる成形品の製造方法、及びポリテトラフルオロエチレンからなる被覆材の厚みを極めて薄くすることができる被覆電線の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、表面エネルギーが16〜20mN/mの有機溶剤(A)をポリテトラフルオロエチレンファインパウダーに添加して成形用組成物を得る工程と、前記成形用組成物を圧縮繊維化成形して成形品を得る工程と、を含むことを特徴とする成形品の製造方法である。
【0012】
上記成形品は、厚みが100μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、表面エネルギーが16〜20mN/mの有機溶剤(A)をポリテトラフルオロエチレンファインパウダーに添加して成形用組成物を得る工程と、ペースト押出成形法により前記成形用組成物を芯線上に押し出して被覆材を成形し、芯線と被覆材とからなる被覆電線を得る工程と、を含むことを特徴とする被覆電線の製造方法でもある。
【0014】
上記被覆材は、厚みが100μm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の成形品又は被覆電線の製造方法は、得られる成形用組成物100質量部に対して1〜60質量部の有機溶剤(A)を添加することが好ましい。
【0016】
上記有機溶剤(A)は、ノルマルヘキサン、ノルマルペンタン、及びジメチルポリシロキサンからなる群より選択される少なくとも1種の炭化水素系溶剤であることが好ましい。
【0017】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明の成形品及び被覆電線の製造方法は、表面エネルギーが16〜20mN/mの有機溶剤(A)をポリテトラフルオロエチレンファインパウダー(以下「PTFEファインパウダー」ともいう。)に添加して成形用組成物を得る工程を含む。
【0019】
上記成形用組成物が有機溶剤(A)及びPTFEファインパウダーを含有するものであるため、本発明の製造方法により得られる成形品や被覆電線の被覆材は、厚みを薄くしたとしても、均一な厚みに成形することができる。また、ペースト押出成形法により成形を行う場合、押出圧力を小さくすることができる。有機溶剤(A)は、いわゆる成形助剤として用いられるものである。
【0020】
PTFEファインパウダーに有機溶剤(A)を添加する方法は、特に限定されず、例えば、PTFEファインパウダーを容器に入れ、その後、有機溶剤(A)を容器内に注ぎ込む方法等が挙げられる。有機溶剤(A)をPTFEファインパウダーに添加した後、PTFEファインパウダーと有機溶剤(A)とを攪拌等により混合することも好ましい。
【0021】
上記有機溶剤(A)は、表面エネルギーが16〜20mN/mである。有機溶剤(A)の表面エネルギーは、17mN/m以上であることが好ましい。また、19mN/m以下であることが好ましい。
【0022】
上記有機溶剤(A)の表面エネルギーは、JIS K2241に準拠して、デュヌイ表面張力計による表面張力測定方法で測定することができる。
【0023】
上記有機溶剤(A)は、沸点が50℃以上であることが好ましい。また、50℃を超えることも好ましい。
【0024】
上記有機溶剤(A)としては、例えば、炭化水素系溶剤が挙げられ、中でも、有機溶剤(A)は、ノルマルヘキサン、ノルマルペンタン、及びジメチルポリシロキサンからなる群より選択される少なくとも1種の炭化水素系溶剤であることが好ましい。上記化合物は、単独で使用してもよいし、併用してもよい。有機溶剤(A)としてより好ましくは、ノルマルヘキサンである。また、表面エネルギーが16〜20mN/mの範囲に含まれない溶剤と混合してもよい。
【0025】
本発明の成形品又は被覆電線の製造方法では、得られる成形用組成物100質量部に対して1〜60質量部となるように有機溶剤(A)を添加することが好ましい。より好ましくは、10〜50質量部であり、更に好ましくは、20〜40質量部である。
【0026】
上記PTFEファインパウダーは、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕からなるものである。上記PTFEは、テトラフルオロエチレンホモポリマーであってもよいし、テトラフルオロエチレン〔TFE〕と微量単量体とを重合して得られる非溶融加工性のフルオロポリマー〔変性PTFE〕であってもよい。上記微量単量体としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のフルオロオレフィン、炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つフルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール;パーフルオロアルキルエチレン;ω−ヒドロパーフルオロオレフィン等が挙げられる。上記変性PTFEを用いることにより、TFEホモポリマーを用いた場合に比べて押出圧力を低下させることができる。
【0027】
上記変性PTFEは、上記微量単量体単位を、TFE単位と微量単量体単位との合計に対して0.01〜1質量%含有するものであることが好ましい。上記微量単量体単位の含有量が少なすぎると、微量単量体添加による効果が得られないおそれがあり、多すぎると、機械的強度が低下するおそれがある。上記微量単量体単位の含有量は、より好ましい下限が0.03質量%であり、より好ましい上限が0.2質量%である。
【0028】
上記PTFEは、得られる成形品の機械的強度の点で、標準比重〔SSG〕が2.195以下であるものが好ましい。上記SSGのより好ましい下限は2.14、更に好ましい下限は2.145であり、成形性の点でより好ましい上限は2.18である。上記SSGは、ASTM D 4895に準拠して測定された値である。
【0029】
上記PTFEファインパウダーは、平均粒径が400〜600μmであることが好ましく、より好ましくは、420〜500μmである。平均粒径が大きすぎると、薄く均一な肉厚が得られないおそれがあり、小さすぎると、成形品の機械的強度が劣るおそれがある。本明細書において、上記平均粒径は、ASTM D 1457に準拠して測定したものである。
【0030】
上記PTFEファインパウダーは、肉厚の薄い成形品が得られ、成形が容易である点で、乳化重合により得られたPTFEファインパウダーであることが好ましい。すなわち、本発明の成形品の製造方法は、乳化重合によりTFEを重合してPTFEファインパウダーを得る工程を含むものであってもよい。
上記PTFEファインパウダーは、例えば、乳化重合によりPTFE水性分散液を得て、該PTFE水性分散液からPTFE微粒子を回収し、凝集したのち乾燥させることにより得ることができる。上記凝集は、PTFE水性分散液に凝析剤を添加して攪拌することにより行うこともできるし、凝集剤を添加せずPTFE水性分散液を高速撹拌することによって行うこともできる。上記凝析剤としては、硝酸、塩酸、炭酸アンモニウム、アルコール等が好ましく、なかでも炭酸アンモニウムがより好ましい。上記凝集後に行う乾燥は、特に限定されないが、好ましくは100〜250℃、より好ましくは130〜200℃の温度下で行う。
【0031】
上記PTFEファインパウダーは、平均1次粒径が0.02〜0.5μmであることが好ましく、より好ましい下限は0.1μmであり、より好ましい上限は0.3μmである。平均1次粒径が大きすぎると、薄く均一な肉厚が得られないおそれがあり、小さすぎると、成形品の機械的強度が劣るおそれがある。
本明細書において、上記平均1次粒径は、乳化重合により得られるPTFE1次粒子が分散したPTFE水性分散液を、固形分濃度0.15質量%に調製してセルに入れ、550nmの光を入射したときの透過率と、透過型電子顕微鏡写真により定方向径を測定して算出した数平均1次粒径との相関を検量線にまとめ、得られた検量線と各試料について測定した上記透過率とから求める値である。
【0032】
上記成形用組成物は、有機溶剤(A)及びPTFEファインパウダーを含有するものである。すなわち、本発明の成形品又は被覆電線の製造方法は、有機溶剤(A)及びPTFEファインパウダーを含有する成形用組成物を成形するものである。
また、本発明の成形品の製造方法は、成形用組成物を得る工程の後、成形品を得る工程の前に、有機溶剤(A)を乾燥させる工程を含まないことが好ましい。同様に、本発明の被覆電線の製造方法は、成形用組成物を得る工程の後、被覆電線を得る工程の前に、有機溶剤(A)を乾燥させる工程を含まないことが好ましい。
【0033】
上記成形用組成物は、更に、PTFE以外の樹脂を含有してもよい。すなわち、本発明の成形品又は被覆電線の製造方法は、PTFEファインパウダーとPTFE以外の樹脂との混合物に有機溶剤(A)を添加して成形用組成物を得る工程を含むものであってもよい。また、成形用組成物を得る工程の前に、PTFEファインパウダーとPTFE以外の樹脂とを混合してPTFEファインパウダーとPTFE以外の樹脂との混合物を得る工程を含んでもよい。
【0034】
上記成形用組成物は、PTFE以外の樹脂のパウダーをPTFEの分散液に添加して、その後、凝析等によりPTFEファインパウダーとPTFE以外の樹脂のパウダーとの混合物を得てもよいし、PTFE以外の樹脂の分散液をPTFEの分散液に添加して、その後、凝析等によりPTFEファインパウダーとPTFE以外の樹脂のパウダーとの混合物を得てもよい。
【0035】
上記PTFE以外の樹脂としては、例えば、TFE/HFP共重合体〔FEP〕、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕共重合体〔PFA〕、エチレン/TFE共重合体〔ETFE〕、ポリビリニデンフルオライド〔PVdF〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。
【0036】
上記PAVEとしては、熱的安定性の点で、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)〔PBVE〕であることが好ましく、PPVEであることがより好ましい。また、上記PAVE単位を1種有するものであってもよいし、2種以上有するものであってもよい。
【0037】
本明細書において、上記PAVE単位は、特性吸収1040〜890cm−1の範囲で赤外分光分析を行うことにより求められる値である。
【0038】
上記PTFE以外の樹脂としては、得られる成形品の耐熱性を向上させ、比較的高温下でも安定した使用が可能となる点で、溶融加工可能なフッ素樹脂が好ましい。溶融加工可能なフッ素樹脂としては、例えば、FEP、PFA、PVdF、及び、ETFEからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂が好ましく、なかでも、FEP、及び、PFAからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂が好ましい。上記PFAとしては、TFE/PMVE共重合体、TFE/PPVE共重合体等が挙げられる。
【0039】
上記成形用組成物がPTFE以外の樹脂を含有する場合、成形用組成物は、PTFEファインパウダーとPTFE以外の樹脂との合計質量に対して、PTFEファインパウダーが、40重量%以上100重量%未満であり、上記PTFE以外の樹脂が0重量%超60重量%以下であることが好ましい。PTFEファインパウダーが40重量%未満であると、得られる成形品の耐熱性、耐薬品性、耐候性、非粘着性、電気的絶縁性、難燃性、機械的強度が劣るおそれがある。上記成形用組成物は、PTFEファインパウダーとPTFE以外の樹脂との合計質量に対して、PTFEファインパウダーが70重量%以上であり、上記PTFE以外の樹脂が30重量%以下であることがより好ましい。
【0040】
本発明の成形品の製造方法は、成形用組成物を圧縮繊維化成形して成形品を得る工程を含む。圧縮繊維化成形とは、圧縮および繊維化することにより成形するものである。圧縮繊維化成形としては、成形用組成物に圧縮応力を作用させて繊維化を生じさせる方法であれば特に限定されないが、たとえば、ペースト押出成形法、カレンダー成形法、又は、ブレード成形法が好ましい。
上記成形品を得る工程において、ペースト押出成形法、カレンダー成形法、又は、ブレード成形法は、密閉型の金型を用いることなく成形することができるものであり、上記成形用組成物を成形して得られた成形品は、その厚みを極めて薄くしたとしても均一な厚みにすることができる。本発明の成形品の製造方法は、円柱状、チューブ状などの成形品を得る観点から、ペースト押出成形法により成形して成形品を得るものであることが好ましい。
【0041】
上記成形用組成物は、有機溶剤(A)及びPTFEファインパウダー以外に、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、着色剤、顔料、染料、フィラー等の添加剤が添加されていてもよい。上記添加剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アルミナ、マイカ、炭化珪素、窒化硼素、酸化チタン、酸化ビスマス、ブロンズ、金、銀、銅、ニッケル等の粉末又は繊維粉末等が挙げられる。また、本発明の目的を損なわない範囲であれば、上述した樹脂以外の他の重合体微粒子、その他の成分が添加されていてもよい。
【0042】
上記ペースト押出成形法とは、円形、方形等の断面形状をもつシリンダ内に押出し物を入れて、ラムやピストン等の機械的手段で、常圧(自然状態の圧力)よりも加圧して、シリンダ断面積よりも小さいダイから押出すことで成形品を得る成形法である。
【0043】
上記ペースト押出成形法により成形を行う場合、加熱を行って成形してもよい。加熱の温度としては、有機溶剤(A)の沸点以下であることが好ましく、より好ましくは有機溶剤(A)の沸点よりも10℃以上低い温度である。上記加熱の温度として具体的には、例えば、30〜70℃であり、好ましくは、30〜60℃であり、より好ましくは、40〜50℃である。
従来、ペースト押出成形では、押出時に樹脂を柔らかくして細く安定して押し出せるように比較的高温に押出金型を加熱していたため、沸点の低い押出助剤を使用していなかった。上記範囲のように低い温度で押出金型の温度を比較的低温にすることで、有機溶剤(A)が比較的沸点の低いものであったとしても、その蒸散を抑制することができる。
【0044】
上記ペースト押出成形法は、押出圧力を50MPa以下で行うことが好ましい。より好ましくは、30MPa以下であり、更に好ましくは、10MPa以下である。押出圧力の下限は特に限定されないが、例えば、0.1MPaである。本発明の成形品又は被覆電線の製造方法では、通常のペースト押出成形法よりも低い押出圧力で成形することが好ましい。
【0045】
本発明の成形品又は被覆電線の製造方法は、PTFEファインパウダーに有機溶剤(A)を添加した組成物を予備成形して予備成形品を得て、該予備成形品をペースト押出成形法により成形することによって行うものであってもよい。
【0046】
上記ペースト押出成形法により成形して得られる成形品としては、例えば、被覆電線の被覆材、チューブ等が挙げられる。
【0047】
カレンダー成形法は、上記成形用組成物をカレンダーロールで圧延することで成形する方法であり、通常、上記圧延は、2本以上の加熱したカレンダーロールで行う。これにより、所望の厚さのフィルム状或いはシート状の成形体に成形することができる。
カレンダー成形法は、従来公知の装置及び成形条件で行うことができる。例えば、カレンダー成形法を行う装置としては、直列型、L型、逆L型、Z型等が挙げられる。
上記カレンダー成形法により成形を行う場合、加熱を行って成形してもよい。加熱の温度としては、有機溶剤(A)の沸点以下であることが好ましく、より好ましくは有機溶剤(A)の沸点よりも10℃以上低い温度である。上記加熱の温度として具体的には、例えば、30〜70℃であり、好ましくは、30〜60℃であり、より好ましくは、40〜50℃である。
カレンダー成形法により成形して得られる成形品としては、例えば、シート又はフィルムが好ましい。シート又はフィルムとしては、例えば、配管シールテープ、アパレル撥水通気シート等が挙げられる。
すなわち、本発明は、表面エネルギーが16〜20mN/mの有機溶剤(A)をポリテトラフルオロエチレンファインパウダーに添加して成形用組成物を得る工程と、前記成形用組成物をカレンダー成形法により成形してシート又はフィルムを得る工程と、を含むシート又はフィルムの製造方法でもある。
【0048】
ブレード成形法は、一般的にブレード成形と称される成形方法であり、例えば、PTFEファインパウダーと有機溶媒(A)とを含有する成形用組成物を基材の表面に塗布し、ブレードと基材との隙間を調節して、ブレードの底部にある基材を移動させることで、成形用組成物をシート状に成形する方法である。
上記ブレード成形法により成形を行う場合、加熱を行って成形してもよい。加熱の温度としては、有機溶剤(A)の沸点以下であることが好ましい。より好ましくは、有機溶剤(A)の沸点未満であり、更に好ましくは有機溶剤(A)の沸点よりも10℃以上低い温度である。上記加熱の温度として具体的には、例えば、30〜70℃であり、好ましくは、30〜60℃であり、より好ましくは、40〜50℃である。シート状に成形した後、有機溶媒(A)を蒸発させることで、シート状の成形品が得られる。
上記ブレードは、例えば、ドクターブレード等の刃状部品である。シート状の成形品は基材から剥離して使用するものであってもよいし、基材を被覆する被覆材等であってもよい。
基材とシート状の被覆材を有する製品としては、例えば、プリント基板等が挙げられる。本発明は、表面エネルギーが16〜20mN/mの有機溶剤(A)をポリテトラフルオロエチレンファインパウダーに添加して成形用組成物を得る工程と、前記成形用組成物をプリント基板用の基材に塗布し、ブレード成形して、プリント基板の被覆材を形成する工程と、を含むことを特徴とするプリント基板の製造方法でもある。
【0049】
本発明の成形品の製造方法において、成形した後、得られる未焼成の成形品を焼成してもよい。焼成温度としては、上記PTFEの融点を超えることが好ましく、360〜400℃であることがより好ましく、370〜390℃であることが更に好ましい。
【0050】
本発明の製造方法により得られる成形品を多孔体とする場合、上記成形用組成物は、PTFE以外の樹脂を含むものであることが好ましく、上記PTFE以外の樹脂は溶融加工性フッ素樹脂であることがより好ましい。
この場合、成形した後、得られる未焼成の成形品を焼成する温度は、上記PTFEの融点以下、かつ、上記PTFE以外の樹脂のうち、最も低い融点を有する樹脂の融点以上で行うものであることが好ましく、280〜320℃であることがより好ましく、300〜318℃であることが更に好ましい。
【0051】
焼成を行うことにより、PTFEは溶融していないため低密度でやわらかく、上記PTFE以外の樹脂は一旦溶融した後固化するため、得られる成形品は、微細な空隙を有するとともに機械的強度に優れたものとなり、多孔質成形体、低誘電率成形体、低誘電正接成形体等とすることができ、電線の被覆材、ケーブル及びフィルターとして特に好適に使用できる。これは、特定の温度範囲内での焼成によってPTFE以外の樹脂が部分的に溶解することにより、PTFE同士の隙間にPTFE以外の樹脂が入り込み、冷却後固化することで空洞を保ったまま機械的強度を上げることを可能にできるからであると考えられる。
【0052】
本発明の成形品の製造方法により得られる成形品は、厚みが100μm以下であることが好ましい。より好ましくは、80μm以下であり、更に好ましくは、50μm以下である。成形品の厚みの下限は、5μmであることが好ましい。
本発明の製造方法により得られる成形品は、上記のような極めて薄い厚みであっても、均質な厚みに成形することが可能である。本発明は、上記成形品の製造方法により得られる成形品でもある。
【0053】
本発明の製造方法により得られる成形品としては、例えば、電線、ケーブル等の被覆材、プリント基板の被覆材、チューブ、シート、二軸延伸膜等のフィルム等が挙げられる。また、円柱状、糸状押出を行うことにより成形する、織布、不職布等も挙げられる。
本発明の製造方法は、PTFEの肉厚を極めて薄くすることができるため、特に、細物や薄物と呼ばれる薄肉電線の被覆材、薄膜チューブ、又は、フィルターの製造方法として特に優れている。
【0054】
上記厚みは、PTFEを電線又はケーブルの被覆材とした場合の被覆材の膜厚、チューブとした場合の肉厚、円筒状のフィルターとした場合の直径、チューブ状のフィルターとした場合の肉厚のいずれかである。上記厚みは、電線やケーブルの場合はそれらの直径をマイクロメーターで計測し、計測値から芯線径を引いた値を2で除することにより求めることができ、チューブの場合は、チューブを押しつぶして厚みを計測し、計測値を2で除することにより得ることができる。
【0055】
本発明の製造方法により得られる成形品は、肉厚を小さくすることができるため、医療用チューブ、半導体チューブ、絶縁チューブ、熱交換チューブ等のチューブに好適に使用できる。上記チューブは、後述する被覆電線の製造方法と同様にして得られる芯線付きの成形品から芯線を引き抜くことによっても製造することができる。
【0056】
本発明の製造方法により得られる成形品がフィルターである場合、例えば、空気を通すが水は通しにくい性質を有するものとすることができ、酸素富化膜、気液分離膜等のフィルター用途に好適に使用できる。
【0057】
フィルターとして使用する方法としては、チューブ状に成形してチューブ内側から外側へ、あるいはその逆への流れによってフィルター作用を利用することや、棒状(円柱状)に成形してチューブ内へ入れて円柱中心線に平行な方向への流れによるフィルター作用の利用等が挙げられる。
【0058】
本発明の製造方法により得られる成形品は、PTFEを含む被覆材の肉厚を薄くすることができるため、極細の電線、ケーブル等の被覆材として特に好適である。
本発明は、表面エネルギーが16〜20mN/mの有機溶剤(A)をポリテトラフルオロエチレンファインパウダーに添加して成形用組成物を得る工程と、ペースト押出成形法により前記成形用組成物を芯線上に押し出して被覆材を成形し、芯線と被覆材とからなる被覆電線を得る工程と、を含むことを特徴とする被覆電線の製造方法である。本発明はまた、上記被覆電線の製造方法により得られる被覆電線でもある。
【0059】
上記被覆電線の製造方法において、成形用組成物を得る工程の好ましい態様は、上述の成形品の製造方法と同じである。
【0060】
ペースト押出成形法により成形用組成物を芯線上に押し出して被覆材を成形する方法としては、押出成形時に押出成形機のマンドレルに芯線を通して押出し、必要に応じて乾燥し、更に焼成する方法等が挙げられる。
上記芯線として銅線を使用した場合、薄肉厚の被覆電線が得られ、極細同軸ケーブルや、フラットケーブル、モータコイル線、トランスコイル線として有用である。
【0061】
上記被覆材は、厚みが100μm以下であることが好ましい。より好ましくは、80μm以下であり、更に好ましくは、50μm以下である。被覆材の厚みの下限は、5μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0062】
本発明の成形品の製造方法は、上述の構成よりなることから、PTFEファインパウダーを成形する場合に、得られる成形品の厚みを極めて薄くすることができる。本発明の被覆電線の製造方法は、上述の構成よりなることから、得られる被覆電線の被覆材の厚みを極めて薄くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明する。
なお、各実施例及び比較例において、各値の測定は以下の方法により行った。
【0064】
(被覆材の膜厚)
電線の直径をマイクロメーターで計測し、計測値から芯線径を引いた値を2で除することにより求めた。
【0065】
(部分放電開始電圧の測定)
部分放電開始電圧は、ツイスト片について、総研電気(株)製DAC−PD−3を用いて、周波数100kHz、電荷量100pCにて測定を行った。
【0066】
実施例1
ダイキン工業株式会社製のポリフロンPTFEファインパウダー F−208H 500gに、n−ヘキサンを170g(助剤混合粉体に対して24重量%)混合し、25℃で8時間放置した。この助剤混合粉体(成形用組成物)を、予備成形機を用いて、1MPaで予備成形して、予備成形品を作成し、この予備成形品を成形機へ挿入した。
【0067】
芯線としては0.7mm直径の軟銅線を用い、金型内径を0.77mmとすることでReductoinRatio 21800とした。ReductionRatioはシリンダと金型の断面積比である。シリンダ温度は、常温度(21〜27℃)とし、金型先端を押出助剤(n−ヘキサン)の沸点よりも10℃以上低い温度である40℃とする。芯線を25m/min、ラム速度を1.5mm/minとすることで押出を開始する。押出直後の直径を0.77〜0.80mmとすることで安定した押出物となった。
【0068】
押出物は、乾燥物行程30m、70℃のドライキャプスターンを通し、乾燥炉1を100℃、乾燥炉2を180℃、乾燥炉3を250℃、焼成炉1を330℃、焼成炉2を410℃、焼成炉3を410℃、焼成炉4を380℃として、焼成物を得た。この焼成物の直径は0.75mmであり、片側の被覆厚みは25μmであった。また、部分放電開始電圧は630Vであった。
【0069】
実施例2
押出金型内径を0.79mmとする以外は実施例1と同様にした。この焼成物の直径は0.77mmであり、片側の被覆厚みは35μmであった。また、部分放電開始電圧は800Vであった。
【0070】
比較例1
n−ヘキサンに代えて炭化水素系溶剤であるアイソパーEを用いたこと以外は、実施例1と同条件で予備成形体を作製した。実施例1と同様に、0.7mm直径の軟銅線を用い、金型内径を0.77mmとすることでReductoinRatio 21800で押出成形を行ったが、押出機の圧力上限である100MPaを超え押出成形できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の製造方法は、PTFEの優れた性質を必要とし、かつ、細物又は薄物が必要とされる分野において、電線、ケーブル等の被覆材、プリント基板の被覆材、チューブ、シート、二軸延伸膜等のフィルム等を製造する方法として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面エネルギーが16〜20mN/mの有機溶剤(A)をポリテトラフルオロエチレンファインパウダーに添加して成形用組成物を得る工程と、
前記成形用組成物を圧縮繊維化成形して成形品を得る工程と、
を含むことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶剤(A)は、ノルマルヘキサン、ノルマルペンタン、及びジメチルポリシロキサンからなる群より選択される少なくとも1種の炭化水素系溶剤である請求項1記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
得られる成形用組成物100質量部に対して1〜60質量部の有機溶剤(A)を添加する請求項1又は2記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
前記成形品は、厚みが100μm以下である請求項1、2又は3記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
表面エネルギーが16〜20mN/mの有機溶剤(A)をポリテトラフルオロエチレンファインパウダーに添加して成形用組成物を得る工程と、
ペースト押出成形法により前記成形用組成物を芯線上に押し出して被覆材を成形し、芯線と被覆材とからなる被覆電線を得る工程と、
を含むことを特徴とする被覆電線の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶剤(A)は、ノルマルヘキサン、ノルマルペンタン、及びジメチルポリシロキサンからなる群より選択される少なくとも1種の炭化水素系溶剤である請求項5記載の被覆電線の製造方法。
【請求項7】
得られる成形用組成物100質量部に対して1〜60質量部の有機溶剤(A)を添加する請求項5又は6記載の被覆電線の製造方法。
【請求項8】
前記被覆材は、厚みが100μm以下である請求項5、6又は7記載の被覆電線の製造方法。

【公開番号】特開2012−81590(P2012−81590A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226936(P2010−226936)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】