説明

成形型及びこれを用いた無機質板の製造方法

【課題】セメント系無機質材料に成形面を押圧して成形面の形状を転写成形する成形型について、この成形型とセメント系無機質材料との間の良好な離型性の確保を、簡便な手法にて容易に達成することができる成形型を提供する。
【解決手段】成形型1の成形面3を多孔性樹脂にて形成することから、成形面3に切削加工等を施すことで成形面3に容易に凹凸形状を形成すると共に、それと同時に成形面3に微細な凹凸を形成することができる。これにより、成形面3に離型油を供給した場合の成形面3と離型油との馴染み性が高くなり、成形面3とセメント系無機質材料5との間の離型性を著しく向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系無機質材料に成形面を押圧して成形面の形状を転写成形するための成形型及びこの成形型を用いた無機質板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメント系無機質板は、住宅等の外装材等として広く用いられており、表面に柄、目地等の凹凸模様や塗装が施された多種多様の意匠性を有するものが提供されている。これらのセメント系無機質板は、通常、セメントや無機フィラーを主成分とする原料スラリーを押出し、ロール型等の成形型により柄、目地等の凹凸模様を付与したセメント材とした後、養生、乾燥して得られる。
【0003】
このようなセメント系無機質板の製造方法においては、セメント材の成形型からの離型性を上げるために、従来より、成形型の表面にフッ素樹脂等のコーティング層が施されている。しかし、それでも離型性は十分とはいえず、さらに離型性を向上させるために、ロール金型のコーティング層表面に離型油が塗布しても、このような離型油は、フッ素樹脂等のコーティング層に均一に馴染み難く、折角塗布しても撥ねられたり流れ落ちたりするという問題があった。
【0004】
また、コーティング層と離型油との馴染み性を向上するために、コーティング層をサンドブラスト処理し、表面にセメント材への模様付けに影響を及ぼさない程度の微細な凹凸をサンドブラスト処理等により設けて離型油の馴染みをよくする方法も提案されているが、コーティング層にサンドブラスト処理等の後加工により微細な凹凸を設けても、処理を繰り返すことにより表面が摩耗して凹凸がなくなり、微細な凹凸を形成するために頻繁に再度サンドブラスト処理を施さなければならないものであった。
【特許文献1】特開2002−240018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、セメント系無機質材料に成形面を押圧して成形面の形状を転写成形する成形型について、この成形型とセメント系無機質材料との間の良好な離型性の確保を、簡便な手法にて容易に達成すると共に離型性を長期に亘って維持することができる成形型、及びこの成形型を用いた無機質板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る成形型1は、セメント系無機質材料5に成形面3を押圧して成形面3の形状を転写成形する成形型1において、前記成形面3を多孔性樹脂にて形成して成ることを特徴とするものである。
【0007】
上記成形型1は、ロール型1aとして形成することができ、また平型1bとして形成しても良い。
【0008】
また、上記多孔性樹脂にて形成された成形面3には、切削加工を施すことにより成形面3に多孔性樹脂の気泡を露出させて微細な凹凸を形成すると共にこの凹凸のRmaxが40〜200μmの範囲となるようにすることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る無機質板6の製造方法は、セメント系無機質材料5に、上記のような成形型1の成形面3を押圧することにより前記成形面3の形状を転写成形する工程を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セメント系無機質材料に成形型の成形面を押圧して成形面の形状を転写成形するにあたり、成形面が多孔性樹脂にて形成されていることから、成形面に切削加工等を施すことで成形面に容易に凹凸形状を形成すると共に、それと同時に成形面に微細な凹凸を形成することができ、これにより、成形面に離型油を供給する場合に成形面と離型油との馴染み性が高くなって、成形面とセメント系無機質材料との間の離型性を著しく向上することができるものである。また、成形面が摩耗しても多孔性樹脂中の気泡が順次表出して新たな凹凸が形成されることとなり、長期に亘って表面の微細な凹凸を維持して離型性を保つことができるものである。
【0011】
また、切削により成形面に多孔性樹脂の気泡を露出させて、Rmaxが40〜200μmの凹凸を形成することで、離型油を供給する場合の成形面における離型油の馴染み性を更に向上することができて、特に優れた離型性が得られることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をその実施をするための最良の形態に基づいて説明する。
【0013】
図3は、無機質板6の製造工程の一例を模式的に示したものである。図示の例では、まず成形工程9において、セメント系無機質材料5を混合・混練し、押出成形機7からコンベアベルト8に向けて押出成形し、更にコンベアベルト8上で成形型1の成形面3からの押圧を受けて表面に凹凸模様等が転写成形される。このとき成形体の成形面3には離型油が供給されており、これにより無機質材料5の成形型1への付着が抑制されている。次に、成形後の無機質材料5(グリーンシート)は、養生工程10に送られ、オートクレーブ養生等により養生硬化される。養生硬化にて得られる無機質板6は、乾燥工程11において乾燥された後に、切削工程12において所望の寸法に切削され、更に塗装工程13において外面塗装が施された後、検査工程14において出荷検査が施され、最終的に出荷されるものである。
【0014】
無機質板6の製造工程は上記のものに限られないが、少なくともセメント系無機質材料5を成形型1にて押圧して転写成形する工程を含むものである。
【0015】
このとき、使用されるセメント系無機質材料5の配合は特に限定されず、一般的なセメント系建材の原料として使用されるセメントやフィラーを含有するものであればよい。また、成形型1の成形面3に供給される離型油も特に限定されず、例えば灯油等を主成分とする一般的な離型油を用いることができる。
【0016】
本発明に係る成形型1は、例えば図1(a)のようなロール型1aや、図1(b)のような平型1bとして形成することができるが、ロール型1aの場合は成形面3となる外周面が、また平型1bの場合は成形面3となる一面が、多孔性樹脂にて形成されている。
【0017】
ここで、ロール型1aの場合には、例えば鉄鋼材等で構成されるロール状の母材15の外周面に、多孔性樹脂の層2を形成するものである。また、平型1bの場合には、例えば鉄鋼材等で構成される板状の母材15の一面側に、図1(c)のように多孔性樹脂の層2を形成するものである。
【0018】
上記多孔性樹脂としては、適宜のものを用いることができるが、例えば、エポキシ系樹脂やウレタン系樹脂等の適宜の樹脂中に、中空ガラスビーズや中空アクリルビーズ等の中空粒子を分散混合させたものを用いることができる。
【0019】
成形型1をロール型1aとして形成する場合、ロール状の母材15の外周面に多孔性樹脂の層2を形成する手法は、適宜のものを採用することができるが、例えば、上記のようなエポキシ系樹脂やウレタン系樹脂等の樹脂中に中空粒子を分散混合させた樹脂組成物を母材15の表面に塗布した後、成形硬化したり、前記のような樹脂組成物を予め成形硬化させた後に母材15の表面に貼着したりすることで形成することができる。
【0020】
また、このように形成された多孔性樹脂の層2の外面(成形面3)には、図1(d)のように転写成形のための凹凸を形成する。この凹凸は切削により形成することができ、具体的には、例えば図2に示すように、成形型1の成形面3に対向するように切削治具16を配置し、切削治具16にて成形面3を切削しながら成形面3に対する切削治具16の位置を移動させることで転写成形のための凹凸を形成することができる。図示の例では、切削治具16を成形型1の径方向(図示のC矢印方向)に移動可能に形成すると共に成形型1の軸方向(図示のB矢印方向)に移動可能に形成しており、これにより、成形型1を図示のA矢印方向に軸回転させながら、切削治具16をC矢印方向に移動させて適宜の形状に切削加工を施し、且つ切削治具16をB矢印方向に移動させることにより切削位置を移動させて成形面3の全面に亘って切削加工を施すことができるものである。
【0021】
このように多孔性樹脂の層2の外面に切削により転写用の凹凸を形成すると、形成された成形面3には、多孔性樹脂の層2中の気泡4が切削により外面に露出し、このため成形面3には、微細な凹凸(前記転写用の凹凸とは異なる微視的な凹凸)が露出することになる。この微細な凹凸が形成されることにより、成形面3に離型油を供給する場合に、成形面3において離型油が弾かれにくくなって、離型油との馴染み性が高くなり、このため離型性を向上することができる。
【0022】
また、成形型1を平型1bとして形成する場合、板状の母材15の一面に多孔性樹脂の層2を形成する手法は、ロール型1aの場合と同様に、エポキシ系樹脂やウレタン系樹脂等の樹脂中に中空粒子を分散混合させた樹脂組成物を母材15の表面に塗布した後、成形硬化したり、前記のような樹脂組成物を予め成形硬化させた後に母材15の表面に貼着したりすることで形成することができる。
【0023】
また、このように形成された多孔性樹脂の層2の外面(成形面3)には、ロール型1aの場合と同様に成形型1の成形面3に対向するように切削治具を配置し、切削治具にて成形面3を切削しながら成形面3に対する切削治具の位置を移動させるなどして、転写成形のための凹凸が形成される。
【0024】
上記のようにして成形型1を作製すると成形面3に切削加工等を施すことで成型面3に容易に凹凸形状を形成することができ、またこのような転写成形のための凹凸形状の形成と同時に、成型面3に微細な凹凸を形成することができて微細な凹凸を形成するための工程を削減できる。また、このような成形型1にてセメント系無機質材料5の転写成形を行うと、成形面3に離型油を供給した場合の成形面3と離型油との馴染み性が高くなって、成形面3とセメント系無機質材料5との間の離型性を向上することができるものである。
【0025】
また、成形型1を長期間使用することにより表面に摩耗が生じても、成形面3の内側に存在する気泡4が順次表出して新たな凹凸が形成されることとなり、このため長期間に亘って微細な凹凸を維持することができ、離型性を保つことができるものである。
【0026】
ここで、多孔性樹脂の層2における気泡4の径や密度は、上記のように中空微粒子にて気泡4を形成する場合には、中空微粒子の径や混入量を適宜調整することで制御することができる。この気泡4の径や密度は特に制限されないが、多孔性樹脂の層2の切削により形成される成形面3に現れる微細な凹凸のRmaxが40〜200μmの範囲となるように調整することが望ましい。この範囲において、離型油を供給する場合に成形面3における離型油の馴染み性が非常に高くなって特に優れた離型性が発揮されるものである。このとき、前記Rmaxの値が40μmに満たない場合には、十分な離型性を発揮することが難しく、またこの値が200μmを超える場合には凹凸にセメント系無機材料5が食い込むことにより離型性を十分に向上することができなくなるおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)はロール型として形成された成形型の一例を示す斜視図、(b)は平型として形成された成形型の一例を示す斜視図、(c)及び(d)は成形型の製造工程の一例を示す断面図である。
【図2】成形型の表面における転写用の凹凸の形成方法の一例を示す概略の斜視図である。
【図3】無機質板の製造工程の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1 成形型
1a ロール型
1b 平型
3 成形面
5 セメント系無機質材料
6 無機質板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系無機質材料に成形面を押圧して成形面の形状を転写成形する成形型において、前記成形面を多孔性樹脂にて形成して成ることを特徴とする成形型。
【請求項2】
ロール型として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の成形型。
【請求項3】
平型として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の成形型。
【請求項4】
上記多孔性樹脂にて形成された成形面に切削加工を施すことにより成形面に多孔性樹脂の気泡を露出させて微細な凹凸を形成すると共にこの凹凸のRmaxが40〜200μmの範囲となるようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の成形型。
【請求項5】
セメント系無機質材料に、請求項1乃至3のいずれかに記載の成形型の成形面を押圧することにより前記成形面の形状を転写成形する工程を含むことを特徴とする無機質板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−88662(P2006−88662A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280327(P2004−280327)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】