成形樹脂製品及びその製造方法
【課題】製造容易であると共に、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材2と、ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光を吸収する吸収材3とを重ね合せた重ね合せ部11に対し、透過材2側からレーザー光Lを照射することにより、透過材2と吸収材3とを溶着してなる成形樹脂製品。透過材2は、熱可塑性ポリエステルにポリアミド6を配合してなる。
【解決手段】熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材2と、ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光を吸収する吸収材3とを重ね合せた重ね合せ部11に対し、透過材2側からレーザー光Lを照射することにより、透過材2と吸収材3とを溶着してなる成形樹脂製品。透過材2は、熱可塑性ポリエステルにポリアミド6を配合してなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステルを主成分とした透過材と、ポリフェニレンスルフィドを主成分とした吸収材とをレーザー溶着により接合してなる成形樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、2個以上の樹脂成形部材をレーザー溶着により接合してなる成形樹脂製品がある。上記レーザー溶着は、レーザー光を透過する透過材と、レーザー光を吸収する吸収材とを重ね合わせた重ね合せ部に対し、上記透過材側からレーザー光を照射することにより、上記吸収材と上記透過材とを溶着する方法である。
樹脂部材同士を接合する他の方法としては、例えば、振動溶着、超音波溶着、或いは接着剤による接着等の手段があるが、成形樹脂製品に内蔵される電子部品等への影響や、接合自由度、気密性等を考慮すると、上記レーザー溶着が優れている。
【0003】
そして、近年、耐熱性、耐薬品性に優れた熱可塑性樹脂として、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が注目されており、この熱可塑性樹脂をレーザー溶着によって接合する技術が開示されている(特許文献1〜5参照)。これらの技術は、ポリフェニレンスルフィドからなる部材同士を接合する技術である。
【0004】
しかし、ポリフェニレンスルフィドは高価であるため、耐熱性や耐薬品性等が要求される部位にのみポリフェニレンスルフィドを使用し、その他の部位は他の熱可塑性樹脂によって構成することにより、耐久性を確保しつつ安価な成形樹脂製品を得ることが考えられる。また、ポリフェニレンスルフィドは融点が高く、この融点に近い耐熱性を有する有機染料が現在のところ存在しない。それ故、ポリフェニレンスルフィドからなる部材のみで成形樹脂製品を製造すると、所望の色彩に着色することができず、意匠面において制約が生じるという問題がある。
【0005】
そこで、ポリフェニレンスルフィドからなる部材と、比較的安価かつ低融点で着色の可能な熱可塑性ポリエステルからなる部材とを、レーザー溶着によって接合する技術が望まれている。
しかしながら、このように異なる熱可塑性樹脂からなる2つの部材を溶着することは困難である。
【0006】
異なる熱可塑性樹脂からなる部材のレーザー溶着を可能とする技術は、特許文献6に示されている。この技術は、第1の樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂と第2の樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂との何れにも相溶する相溶化剤を、第2の樹脂成形体の樹脂組成物に混入しておくものである。
しかし、ポリフェニレンスルフィドと熱可塑性ポリエステルとの何れにも相溶する相溶化剤は存在せず、ポリフェニレンスルフィドからなる部材と熱可塑性ポリエステルからなる部材とを接合するに当って、この技術を採用することはできない。
【0007】
【特許文献1】特開2006−205619号公報
【特許文献2】特開2006−168221号公報
【特許文献3】特開2006−096886号公報
【特許文献4】特開2005−015792号公報
【特許文献5】特開2005−007759号公報
【特許文献6】特開2006−312303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、製造容易であると共に、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材と、ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光を吸収する吸収材とを重ね合せた重ね合せ部に対し、上記透過材側からレーザー光を照射することにより、上記透過材と上記吸収材とを溶着してなる成形樹脂製品であって、
上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルにポリアミド6を配合してなることを特徴とする成形樹脂製品にある(請求項1)。
【0010】
次に、本発明の作用効果につき説明する。
上記成形樹脂製品は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を主成分とする吸収材と、熱可塑性ポリエステルを主成分とする透過材とからなる。それ故、PPSからなる部材のみで構成する場合に比べて安価な成形樹脂製品を得ることができる。また、着色の容易な熱可塑性ポリエステルからなる透過材を成形樹脂製品の一部として用いることにより、必要に応じて所望の色彩に着色することが可能となり、外観意匠性に優れた成形樹脂製品を得ることができる。
そして、上記透過材と上記吸収材とは、レーザー溶着によって接合してなるため、接着材を用いた接着等を行う必要もなく、製造が容易である。
【0011】
熱可塑性ポリエステルを主成分とする透過材とポリフェニレンスルフィドを主成分とする吸収材とは異種材料からなるため、通常は、これらをレーザー溶着によって接合することは困難である。そこで、本発明の発明者は、透過材を構成する熱可塑性ポリエステルに、吸収材を構成するPPSと相溶性のある(SP値の近い)相溶化剤を配合することを考案した。ただし、この相溶化剤を透過材に混入したことによって、透過材におけるレーザー光の透過性が低下してしまっては、レーザー溶着が困難となる。また、相溶化剤として、透過材を構成する熱可塑性ポリエステルとの融点の差が大きい材料を用いたのでは、透過材の成形が困難となる。
【0012】
それ故、この相溶化剤としては、PPSとの相溶性に優れ(SP値が小さく)、透過率が高く、熱可塑性ポリエステルの屈折率に近い屈折率を有し、更に熱可塑性ポリエステルの融点に近い熱可塑性樹脂を用いる必要がある。
そこで、発明者は、これらの条件を全て満たす熱可塑性樹脂であるポリアミド6(PA6)を相溶化剤として、透過材2を構成する樹脂に配合することにより、PPSを主成分とする吸収材と熱可塑性ポリエステルを主成分とする透過材とを、レーザー溶着によって容易に接合することができることを見出した。
【0013】
即ち、ポリアミド6は、SP値がPPSと近く、PPSとの相溶性に優れるため、ポリアミド6を透過材に混入することにより、熱可塑性ポリエステルからなる透過材とPPSからなる吸収材との溶着が可能となる(後述の図4参照)。ここで、SP値とは、凝集エネルギ密度の平方根で、通常は溶解度パラメータといわれるものである。
また、ポリアミド6は、それ自身の透過率が高く、また、熱可塑性ポリエステルとの屈折率の差が小さいため、ポリアミド6を熱可塑性ポリエステルに配合しても、透過材におけるレーザー光の透過性の低下は少なく、充分な透過率を維持することができる(後述の図5〜図7参照)。それ故、レーザー溶着を妨げることにもならない。
【0014】
更に、ポリアミド6は、その融点が熱可塑性ポリエステルと近似しているため、ポリアミドを配合することにより透過材の成形性が低下することもない(後述の図8参照)。
このように、ポリアミド6を熱可塑性ポリエステルに配合することにより、特に不具合を生じることなく、熱可塑性ポリエステルを主成分とする透過材とPPSを主成分とする吸収材とをレーザー溶着によって接合することが可能となる。
【0015】
以上のごとく、本発明によれば、製造容易であると共に、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品を提供することができる。
【0016】
第2の発明は、熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材と、ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光を吸収する吸収材とを重ね合せた後、
その重ね合せ部に対して、上記透過材側からレーザー光を照射することにより、上記透過材と上記吸収材とを溶着して成形樹脂製品を製造する方法であって、
上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルにポリアミド6を配合してなることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法にある(請求項10)。
【0017】
本製造方法によれば、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
第1の発明(請求項1)又は第2の発明(請求項10)において、上記成形樹脂製品は、上記透過材及び上記吸収材を、それぞれ2個以上接合してなるものであってもよい。
また、上記レーザー光としては、例えば、GaAs系等の半導体レーザーのレーザー光を用いることができる。
また、上記吸収材の主成分である上記熱可塑性ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等がある。
【0019】
また、上記重ね合せ部における上記透過材と上記吸収材との互いの対向面の少なくとも一方には突起部が形成されていることが好ましい(請求項2、請求項11)。
この場合には、突起部を含めた重ね合せ部にレーザー光を照射したとき、突起部を起点に透過材に混入したポリアミド6と吸収材のPPSとが充分に溶け合うことにより、透過材と吸収材との接合強度を向上させることができる。
【0020】
また、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、30重量%以上であることが好ましい(請求項3、請求項12)。
この場合には、ポリアミド6を配合したことによる、透過材と吸収材との接合強度の向上を充分に図ることができる。
なお、上記ポリアミド6の重量比が30重量%未満の場合には、透過材と吸収材との接合強度を充分に向上することが困難となるおそれがある。
【0021】
また、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、40重量%以上であることが好ましい(請求項4、請求項13)。
この場合には、透過材と吸収材との接合強度を一層向上させることができる。
なお、上記ポリアミド6の重量比は50重量%未満とする。即ち、ポリアミド6の重量比が50重量%を超えると、上記透過材において、熱可塑性ポリエステルが主成分とは言えなくなり、熱可塑性ポリエステルの有する、吸水時の寸法安定性、電気的特性の安定性等が充分に得られなくなるおそれがある。
それ故、透過材においては、連続相としての熱可塑性ポリエステルの間に、分散相としてのポリアミド6が分散した状態にあることが望ましい。
【0022】
また、上記透過材は、レーザー光を透過するフィラーを添加してなることが好ましい(請求項5、請求項14)。
この場合には、上記透過材の強度の向上、コストの低減を図ることができ、強度に優れた低コストの成形樹脂製品を得ることができる。
なお、上記フィラーとしては、例えばガラス繊維、ガラスビーズ等を用いることができる。
【0023】
また、上記透過材は、レーザー光を透過する着色剤を添加してなることが好ましい(請求項6、請求項15)。
この場合には、所望の色彩の着色剤を上記透過材に添加することにより、所望の色彩の透過材を得ることができる。これにより、成形樹脂製品の外観意匠性を向上させることができる。また、上記着色剤はレーザー光を透過するため、着色剤がレーザー溶着の妨げとなることもない。
なお、上記着色剤としては、例えば、赤色着色剤であるレーキレッド等の有機顔料、青色着色剤であるコバルトブルー等の無機顔料やフタロシアニンブルー等の有機顔料、緑色着色料であるクロムグリーン等の無機顔料やフタロシアニングリーン等の有機顔料を用いることができる。
【0024】
また、上記吸収材は、カーボンブラックを添加してなることが好ましい(請求項7、請求項16)。
この場合には、上記吸収材において、レーザー光を充分に吸収することができるため、高い溶着強度を得ることができる。
【0025】
また、上記カーボンブラックは、上記吸収材に0.01〜10重量%添加されていることが好ましい(請求項8、請求項17)。
この場合には、吸収材と透過材との溶着強度を充分に確保することができる。
上記カーボンブラックの添加量が0.01重量%未満の場合には、吸収材がレーザー光を充分に吸収することが困難となり、充分な溶着強度を得ることが困難となるおそれがある。一方、上記添加量が10重量%を超える場合には、絶縁性低下や強度低下のおそれがある。
【0026】
また、上記成形樹脂製品は、自動車部品とすることができる(請求項9、請求項18)。
この場合には、耐熱性に優れた自動車部品を得ることができる。即ち、本発明の成形樹脂製品における吸収材は、上述のごとく耐熱性に優れているため、耐熱性が要求される自動車部品として適している。そして、成形樹脂製品の中でも特に耐熱性が要求される部位を上記吸収材によって構成し、比較的耐熱性の要求されない部位を上記透過材によって構成することにより、耐熱性を備えつつ外観意匠性の向上及びコスト低減を図ることができる。
上記自動車部品としては、例えば、自動車のエンジンに取り付けられるクランク角センサ、各種圧力センサ、電子スロットル、或いは、各種電子基板を収容するケース等がある。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる成形樹脂製品及びその製造方法につき、図1〜図8を用いて説明する。
本例の成形樹脂製品1は、図1に示すごとく、熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材2と、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を主成分としたレーザー光を吸収する吸収材3とを重ね合せた重ね合せ部11に対し、透過材2側からレーザー光Lを照射することにより、透過材2と吸収材3とを溶着してなる。図1において、符号14が溶着部を示す。
そして、透過材2は、熱可塑性ポリエステルにポリアミド6(PA6)を配合してなる。
本例においては、熱可塑性ポリエステルとして、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いる。
【0028】
吸収材3における透過材2との対向面32には突起部31が形成されている。即ち、吸収材3は、重ね合せ部11において、透過材2との対向面32に、例えば断面略三角形状の突起部31を、透過材2側へ突出するように設けてある。突起部31は、例えば0.1mm以上の高さを有する。
そして、吸収材3に対して、透過材2を重ね合せるに当っては、吸収材3の突起部31に透過材2における吸収材3との対向面22を押し当てる。この状態で、レーザー光Lを、突起部31を略中心とした、重ね合せ部11の所定領域に照射する。
【0029】
透過材2は、PBTとPA6との総重量に対するPA6の重量比が、30重量%以上、更に好ましくは、40重量%以上である。
また、透過材2においては、連続相としてのPBTの間に、分散相としてのPA6が分散した状態にある。
【0030】
また、透過材2は、レーザー光Lを透過するフィラーを添加してなる。フィラーとしては、例えばガラス繊維、ガラスビーズ等を用いる。
また透過材2は、レーザー光を透過する着色剤を添加してなる。着色剤としては、例えば、赤色着色剤であるレーキレッド等の有機顔料、青色着色剤であるコバルトブルー等の無機顔料やフタロシアニンブルー等の有機顔料、緑色着色料であるクロムグリーン等の無機顔料やフタロシアニングリーン等の有機顔料を用いることができる。
一方、吸収材3は、カーボンブラックを0.01〜10重量%添加してなる。
【0031】
また、本例の成形樹脂製品1は、自動車部品であり、具体的には、図3に示すごとく、自動車のエンジンに取り付けられるクランク角センサ5の一部、即ち、クランク角センサ5のカバー部を構成する。また、成形樹脂製品1は、金属部材12をインサートしたインサート成形品である。
【0032】
上記クランク角センサ5は、MRE(磁気抵抗素子)センサであって、図3に示すごとく、エンジンに固定される本体部51と、センサ素子を覆う素子カバー部52とを有する。上記本体部51には、エンジンにクランク角センサ5を取り付けるためのボルトを挿通する取付部512が形成されている。そして、該取付部512に上記金属部材12がインサートされている。
【0033】
本体部51と素子カバー部52とは、互いに接合部53において、レーザー溶着されている。即ち、本体部51が吸収材3に該当し、素子カバー部52が透過材2に該当し、接合部53が上記重ね合せ部11に該当する(図1、図3)。
また、レーザー光Lとしては、GaAs系の半導体レーザーのレーザー光を用い、その波長は940nmである。
【0034】
透過材2としての素子カバー部52と、吸収材3としての本体部51とは、例えば以下のようにレーザー溶接する。
まず、図3に示すように、素子カバー部52と本体部51とを嵌合させ、素子カバー52の鍔部521を本体部51に当接させる。即ち、透過材2と吸収材3とを重ね合わせる。
【0035】
次いで、接合部53(重ね合せ部11)を加圧しながら、該接合部53に、素子カバー部52(透過材2)側からレーザー光Lを照射する(図1、図3)。レーザー光Lの照射は、接合部53の全周にわたって行う。このときのレーザー出力は70〜100W、レーザー溶接の速度は30〜40mm/秒とする。
【0036】
これにより、レーザー光Lが透過材2を透過して、透過材2と吸収材3との互いの対向面22、32に達する。そして、対向面32における吸収材3(PPS)が溶融する。また、レーザー光Lによって加熱された吸収材3の熱が、透過材2にも伝達され、この熱により対向面22における透過材2(PBT及びPA6)も溶融する。このとき、吸収材3の対向面32に設けた突起部31が特に積極的に溶融し、その中のPPSが、透過材2の対向面22において溶融したPA6と接触する。
【0037】
そして、溶融した吸収材3のPPSと透過材2のPA6とが相溶し、融合した状態で吸収材3と透過材2とが冷却されることにより、両者が接合される。
以上の現象が、本体部51と素子カバー部52との接合部53の全周にわたって起こり、本体部51(吸収材3)と素子カバー部52(透過材2)とが溶着接合される。
【0038】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記成形樹脂製品1は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を主成分とする吸収材3と、PBTを主成分とする透過材2とからなる。それ故、PPSからなる部材のみで構成する場合に比べて安価な成形樹脂製品1を得ることができる。また、着色の容易なPBTからなる透過材2を成形樹脂製品1の一部として用いることにより、必要に応じて所望の色彩に着色することが可能となり、外観意匠性に優れた成形樹脂製品1を得ることができる。
そして、透過材2と吸収材3とは、レーザー溶着によって接合してなるため、接着材を用いた接着等を行う必要もなく、製造が容易である。
【0039】
また、ポリアミド6(PA6)を、透過材2を構成するPBTに配合することにより、PPSを主成分とする吸収材3とPBTを主成分とする透過材2とを、レーザー溶着によって容易に接合することができる。
【0040】
即ち、図4に示すごとく、PA6は、SP値がPPSと近く、PPSとの相溶性に優れるため、PA6を透過材2に混入することにより、PBTからなる透過材とPPSからなる吸収材3との溶着が可能となる。
ここで、図4は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PMMA(メタクリル樹脂)、PA12(ポリアミド12)、PC(ポリカーボネート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、EPOXY(エポキシ)、POM(ポリアセタール)、PF(フェノール樹脂)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PA6(ポリアミド6)、PA66(ポリアミド66)、EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂)のそれぞれのSP値を比較したグラフである。
【0041】
また、図5に示すごとく、PA6は、それ自身の透過率が高く、また、図6に示すごとく、PBTとの屈折率の差が小さいため、PA6をPBTに配合しても、図7に示すごとく、透過材2におけるレーザー光Lの透過性の低下は少なく、レーザー溶着を妨げることのない透過率25%以上を充分に確保している。
なお、図5は、PPS、PBT、PA6のそれぞれの透過率を比較したグラフであり、図6は、各素材の屈折率を比較したグラフである。同図において、GFはガラス繊維を示す。また、図5に示す透過率は、波長940nmのレーザー光に対してのものである。
なお、PETの透過率もPBTと同様に約10%である。
【0042】
また、図7は、PBTのみからなる素材(A1)と、PBTにガラス繊維を30重量%配合した素材(A2)と、PBT:PA6=70:30の混合樹脂にガラス繊維を30重量%配合した素材(A3)と、PBT:PA6=60:40の混合樹脂にガラス繊維を30重量%配合した素材(A4)とについてのレーザー光(波長940nm)の透過率を示すものである。
【0043】
更に、図8に示すごとく、PA6は、その融点がPBTと近似しているため、PA6を配合することにより透過材2の成形性が低下することもない。図8は、各樹脂の融点を示す。
このように、PA6をPBTに配合することにより、特に不具合を生じることなく、PBTを主成分とする透過材2とPPSを主成分とする吸収材3とをレーザー溶着によって接合することが可能となる。
【0044】
また、吸収材3には突起部31が形成されている。そのため、突起部31を含めた重ね合せ部11にレーザー光Lを照射したとき、突起部31を起点に透過材2に混入したPA6と吸収材3のPPSとが充分に溶け合うことにより、透過材2と吸収材3との接合強度を向上させることができる。
【0045】
また、透過材2は、PBTとPA6との総重量に対するPA6の重量比が、30重量%以上である。そのため、PA6を配合したことによる、透過材2と吸収材3との接合強度の向上を充分に図ることができる。また、上記PA6の重量比を40重量%以上とすることにより、透過材2と吸収材3との接合強度を一層向上させることができる。
【0046】
また、透過材2はフィラーを添加してなるため、透過材2の強度の向上、コストの低減を図ることができ、強度に優れた低コストの成形樹脂製品1を得ることができる。
また、透過材2は、レーザー光を透過する着色剤を添加してなる。そのため、所望の色彩の透過材2を得ることができる。これにより、成形樹脂製品1の外観意匠性を向上させることができる。また、着色剤はレーザー光Lを透過するため、着色剤がレーザー溶着の妨げとなることもない。
【0047】
また、吸収材3は、カーボンブラックを添加してなるため、吸収材3において、レーザー光Lを充分に吸収することができ、高い溶着強度を得ることができる。
また、カーボンブラックは、吸収材3に0.01〜10重量%添加されているため、吸収材3と透過材2との溶着強度を充分に確保することができる。
【0048】
また、本例の成形樹脂製品1は、自動車部品であるクランク角センサ5である。そのため、高い耐熱性が要求される自動車部品として適切な製品とすることができる。そして、本発明の成形樹脂製品1における吸収材3は、上述のごとく耐熱性に優れているため、成形樹脂製品1の中でも特に耐熱性が要求される部位を吸収材3によって構成し、比較的耐熱性の要求されない部位を透過材2によって構成することにより、耐熱性を備えつつ外観意匠性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0049】
以上のごとく、本例によれば、製造容易であると共に、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品を提供することができる。
【0050】
なお、本例では、熱可塑性ポリエステルとしてPBTを用いたが、PPT(ポリプロピレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等、他の熱可塑性ポリエステルを用いても、上記と同様に、製造容易であると共に、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品を提供することができる。即ち、図6、図8に示すごとく、PA6は、例えばPETに対しても屈折率及び融点が近似しているため、レーザー光の透過を妨げたり、透過材2の成形性を低下させたりすることなく、透過材2と吸収材3とのレーザー溶着強度を高めることができる。
【0051】
(実施例2)
本例は、図9に示すごとく、透過材2に突起部21を設けた例である。
即ち、重ね合せ部11における透過材2の吸収材3との対向面22に、断面略三角形状の突起部21が設けてある。一方、吸収材3には、突起部を設けていない。
そして、吸収材3に対して、透過材2を重ね合せるに当っては、吸収材3の対向面32に、透過材2の突起部21を押し当てる。この状態で、突起部21を略中心とした、重ね合せ部11の所定領域にレーザー光Lを照射する。
その他は、実施例1と同様である。
【0052】
本例の場合にも、突起部21を含めた重ね合せ部11にレーザー光Lを照射したとき、突起部21を起点に透過材2に混入したPA6と吸収材3のPPSとが充分に溶け合うことにより、透過材2と吸収材3との接合強度を向上させることができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0053】
なお、透過材2と吸収材3との双方に突起部21、31を設けてもよい。また、突起部21、31は、それぞれ複数個形成することもできる。
【0054】
(実施例3)
本例は、図10に示すごとく、成形樹脂製品1として、電子基板13を収容するケースに、本発明を適用した例である。
即ち、成形樹脂製品1としてのケース4は、開口部を有する収容部43と、収容部43の開口部を覆う蓋部42とからなる。収容部43は吸収材3からなり、蓋部42は透過材2からなる。
【0055】
そして、ケース4(成形樹脂製品1)の収容部43(吸収材3)に、電子部品131を実装した電子基板13を収容した後、蓋部42(透過材2)を収容部の開口部を覆うように重ね合せ、その重ね合せ部11にレーザー光Lを照射して、レーザー溶着を行う。
これにより、内部に電子部品13を収容したケース4(成形樹脂製品1)を得る。
その他は、実施例1と同様である。
本例の場合にも、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0056】
(実施例4)
本例は、図11〜図14に示すごとく、透過材2のPBTにPA6を配合したことによる、レーザー溶着強度の向上の効果につき確認した例である。
即ち、種々の組成の透過材2と、吸収材3との溶着強度を以下の方法で測定した。
まず、図11に示すごとく、吸収材3として、幅20mm、長さ80mm、厚み3mmの試験片を用意した。吸収材3は、PPSに、ガラス繊維を40重量%、カーボンブラックを0.5重量%添加したものからなる。
【0057】
一方、透過材2として、幅20mm、長さ80mm、厚さ1mmの試験片を用意した。この透過材2の試験片は、各水準ごとに以下に示す組成を有する。即ち、水準1は、PA6を配合しない透過材2を用い、水準2は、PBT:PA6=7:3となる割合でPA6を配合した透過材2を用い、水準3及び水準4は、PBT:PA6=6:4となる割合でPA6を配合した透過材2を用いた。これらの透過材2は、全て、ガラス繊維を30重量%添加してなる。
また、水準1〜3については、吸収材3に断面略三角形状の突起部31(図1参照)を設けてなる。この突起部31の高さは0.3mmである。また、水準4については、吸収材3に突起部31を設けていない。
【0058】
各水準に付き、図11〜図13に示すごとく、吸収材3と透過材2とを長さ方向に20mm重ね合せると共に、図12の矢印Pに示すように、透過材2を吸収材3に向かって加圧した状態でレーザー光Lを重ね合せ部11に照射した。レーザー光Lの波長は940nm、照射径dは2mm、走査速度は35mm/秒とした。
これにより、図11、図13に示すごとく、透過材2と吸収材3とを溶着した。このとき、溶着部14の長さaは12.5mm、幅bは2.3mmとした。
【0059】
そして、透過材2と吸収材3とを、図11(B)に示す矢印F1、F2の方向に引張って、剪断破壊強度を測定した。すなわち、この剪断試験において、破壊した時点において加えていた力が剪断破壊強度であり、これを溶着強度として図14に示した。
【0060】
図14から分かるように、透過材2のPBTにPA6を配合しない水準1に比べて、透過材2のPBTにPA6を配合した水準2の溶着強度は高かった。更に、PA6の配合量をPBT:PA6=6:4と増やした透過材2を用いた水準3の溶着強度は、溶着強度は更に高くなった。即ち溶着強度の測定値は14MPaであり、破壊モードも母材破壊、即ち透過材2又は吸収材3自体の破壊であるため、実際の溶着強度は14MPa以上ということとなる。
【0061】
一方、突起部31を設けない吸収材3と透過材2との溶着である水準4については、同様の組成である水準3と比べて溶着強度が低下している。逆に、突起部31を設けることにより、水準3のように、溶着強度が充分に大きくなる。
以上のごとく、本例によれば、透過材2のPBTにPA6を適量配合することにより、溶着強度が向上し、更に突起部31を設けることにより、溶着強度を向上させることができることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1における、成形樹脂製品の製造方法を示す説明図。
【図2】実施例1における、溶着後の成形樹脂製品の説明図。
【図3】実施例1における、成形樹脂製品の説明図。
【図4】実施例1における、各種樹脂のSP値を示すグラフ。
【図5】実施例1における、各種樹脂の透過率を示すグラフ。
【図6】実施例1における、各種樹脂の屈折率を示すグラフ。
【図7】実施例1における、各種透過材の屈折率を示すグラフ。
【図8】実施例1における、各種樹脂の融点を示すグラフ。
【図9】実施例2における、成形樹脂製品の製造方法を示す説明図。
【図10】実施例3における、成形樹脂製品の説明図。
【図11】実施例4における、引張試験方法の説明図。
【図12】実施例4における、試験サンプルの作成方法の説明図。
【図13】実施例4における、試験サンプルの溶着部の説明図。
【図14】実施例4における、試験結果を示す線図。
【符号の説明】
【0063】
1 成形樹脂製品
11 重ね合せ部
2 透過材
22 対向面
3 吸収材
31 突起部
32 対向面
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステルを主成分とした透過材と、ポリフェニレンスルフィドを主成分とした吸収材とをレーザー溶着により接合してなる成形樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、2個以上の樹脂成形部材をレーザー溶着により接合してなる成形樹脂製品がある。上記レーザー溶着は、レーザー光を透過する透過材と、レーザー光を吸収する吸収材とを重ね合わせた重ね合せ部に対し、上記透過材側からレーザー光を照射することにより、上記吸収材と上記透過材とを溶着する方法である。
樹脂部材同士を接合する他の方法としては、例えば、振動溶着、超音波溶着、或いは接着剤による接着等の手段があるが、成形樹脂製品に内蔵される電子部品等への影響や、接合自由度、気密性等を考慮すると、上記レーザー溶着が優れている。
【0003】
そして、近年、耐熱性、耐薬品性に優れた熱可塑性樹脂として、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が注目されており、この熱可塑性樹脂をレーザー溶着によって接合する技術が開示されている(特許文献1〜5参照)。これらの技術は、ポリフェニレンスルフィドからなる部材同士を接合する技術である。
【0004】
しかし、ポリフェニレンスルフィドは高価であるため、耐熱性や耐薬品性等が要求される部位にのみポリフェニレンスルフィドを使用し、その他の部位は他の熱可塑性樹脂によって構成することにより、耐久性を確保しつつ安価な成形樹脂製品を得ることが考えられる。また、ポリフェニレンスルフィドは融点が高く、この融点に近い耐熱性を有する有機染料が現在のところ存在しない。それ故、ポリフェニレンスルフィドからなる部材のみで成形樹脂製品を製造すると、所望の色彩に着色することができず、意匠面において制約が生じるという問題がある。
【0005】
そこで、ポリフェニレンスルフィドからなる部材と、比較的安価かつ低融点で着色の可能な熱可塑性ポリエステルからなる部材とを、レーザー溶着によって接合する技術が望まれている。
しかしながら、このように異なる熱可塑性樹脂からなる2つの部材を溶着することは困難である。
【0006】
異なる熱可塑性樹脂からなる部材のレーザー溶着を可能とする技術は、特許文献6に示されている。この技術は、第1の樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂と第2の樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂との何れにも相溶する相溶化剤を、第2の樹脂成形体の樹脂組成物に混入しておくものである。
しかし、ポリフェニレンスルフィドと熱可塑性ポリエステルとの何れにも相溶する相溶化剤は存在せず、ポリフェニレンスルフィドからなる部材と熱可塑性ポリエステルからなる部材とを接合するに当って、この技術を採用することはできない。
【0007】
【特許文献1】特開2006−205619号公報
【特許文献2】特開2006−168221号公報
【特許文献3】特開2006−096886号公報
【特許文献4】特開2005−015792号公報
【特許文献5】特開2005−007759号公報
【特許文献6】特開2006−312303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、製造容易であると共に、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材と、ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光を吸収する吸収材とを重ね合せた重ね合せ部に対し、上記透過材側からレーザー光を照射することにより、上記透過材と上記吸収材とを溶着してなる成形樹脂製品であって、
上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルにポリアミド6を配合してなることを特徴とする成形樹脂製品にある(請求項1)。
【0010】
次に、本発明の作用効果につき説明する。
上記成形樹脂製品は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を主成分とする吸収材と、熱可塑性ポリエステルを主成分とする透過材とからなる。それ故、PPSからなる部材のみで構成する場合に比べて安価な成形樹脂製品を得ることができる。また、着色の容易な熱可塑性ポリエステルからなる透過材を成形樹脂製品の一部として用いることにより、必要に応じて所望の色彩に着色することが可能となり、外観意匠性に優れた成形樹脂製品を得ることができる。
そして、上記透過材と上記吸収材とは、レーザー溶着によって接合してなるため、接着材を用いた接着等を行う必要もなく、製造が容易である。
【0011】
熱可塑性ポリエステルを主成分とする透過材とポリフェニレンスルフィドを主成分とする吸収材とは異種材料からなるため、通常は、これらをレーザー溶着によって接合することは困難である。そこで、本発明の発明者は、透過材を構成する熱可塑性ポリエステルに、吸収材を構成するPPSと相溶性のある(SP値の近い)相溶化剤を配合することを考案した。ただし、この相溶化剤を透過材に混入したことによって、透過材におけるレーザー光の透過性が低下してしまっては、レーザー溶着が困難となる。また、相溶化剤として、透過材を構成する熱可塑性ポリエステルとの融点の差が大きい材料を用いたのでは、透過材の成形が困難となる。
【0012】
それ故、この相溶化剤としては、PPSとの相溶性に優れ(SP値が小さく)、透過率が高く、熱可塑性ポリエステルの屈折率に近い屈折率を有し、更に熱可塑性ポリエステルの融点に近い熱可塑性樹脂を用いる必要がある。
そこで、発明者は、これらの条件を全て満たす熱可塑性樹脂であるポリアミド6(PA6)を相溶化剤として、透過材2を構成する樹脂に配合することにより、PPSを主成分とする吸収材と熱可塑性ポリエステルを主成分とする透過材とを、レーザー溶着によって容易に接合することができることを見出した。
【0013】
即ち、ポリアミド6は、SP値がPPSと近く、PPSとの相溶性に優れるため、ポリアミド6を透過材に混入することにより、熱可塑性ポリエステルからなる透過材とPPSからなる吸収材との溶着が可能となる(後述の図4参照)。ここで、SP値とは、凝集エネルギ密度の平方根で、通常は溶解度パラメータといわれるものである。
また、ポリアミド6は、それ自身の透過率が高く、また、熱可塑性ポリエステルとの屈折率の差が小さいため、ポリアミド6を熱可塑性ポリエステルに配合しても、透過材におけるレーザー光の透過性の低下は少なく、充分な透過率を維持することができる(後述の図5〜図7参照)。それ故、レーザー溶着を妨げることにもならない。
【0014】
更に、ポリアミド6は、その融点が熱可塑性ポリエステルと近似しているため、ポリアミドを配合することにより透過材の成形性が低下することもない(後述の図8参照)。
このように、ポリアミド6を熱可塑性ポリエステルに配合することにより、特に不具合を生じることなく、熱可塑性ポリエステルを主成分とする透過材とPPSを主成分とする吸収材とをレーザー溶着によって接合することが可能となる。
【0015】
以上のごとく、本発明によれば、製造容易であると共に、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品を提供することができる。
【0016】
第2の発明は、熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材と、ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光を吸収する吸収材とを重ね合せた後、
その重ね合せ部に対して、上記透過材側からレーザー光を照射することにより、上記透過材と上記吸収材とを溶着して成形樹脂製品を製造する方法であって、
上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルにポリアミド6を配合してなることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法にある(請求項10)。
【0017】
本製造方法によれば、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
第1の発明(請求項1)又は第2の発明(請求項10)において、上記成形樹脂製品は、上記透過材及び上記吸収材を、それぞれ2個以上接合してなるものであってもよい。
また、上記レーザー光としては、例えば、GaAs系等の半導体レーザーのレーザー光を用いることができる。
また、上記吸収材の主成分である上記熱可塑性ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等がある。
【0019】
また、上記重ね合せ部における上記透過材と上記吸収材との互いの対向面の少なくとも一方には突起部が形成されていることが好ましい(請求項2、請求項11)。
この場合には、突起部を含めた重ね合せ部にレーザー光を照射したとき、突起部を起点に透過材に混入したポリアミド6と吸収材のPPSとが充分に溶け合うことにより、透過材と吸収材との接合強度を向上させることができる。
【0020】
また、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、30重量%以上であることが好ましい(請求項3、請求項12)。
この場合には、ポリアミド6を配合したことによる、透過材と吸収材との接合強度の向上を充分に図ることができる。
なお、上記ポリアミド6の重量比が30重量%未満の場合には、透過材と吸収材との接合強度を充分に向上することが困難となるおそれがある。
【0021】
また、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、40重量%以上であることが好ましい(請求項4、請求項13)。
この場合には、透過材と吸収材との接合強度を一層向上させることができる。
なお、上記ポリアミド6の重量比は50重量%未満とする。即ち、ポリアミド6の重量比が50重量%を超えると、上記透過材において、熱可塑性ポリエステルが主成分とは言えなくなり、熱可塑性ポリエステルの有する、吸水時の寸法安定性、電気的特性の安定性等が充分に得られなくなるおそれがある。
それ故、透過材においては、連続相としての熱可塑性ポリエステルの間に、分散相としてのポリアミド6が分散した状態にあることが望ましい。
【0022】
また、上記透過材は、レーザー光を透過するフィラーを添加してなることが好ましい(請求項5、請求項14)。
この場合には、上記透過材の強度の向上、コストの低減を図ることができ、強度に優れた低コストの成形樹脂製品を得ることができる。
なお、上記フィラーとしては、例えばガラス繊維、ガラスビーズ等を用いることができる。
【0023】
また、上記透過材は、レーザー光を透過する着色剤を添加してなることが好ましい(請求項6、請求項15)。
この場合には、所望の色彩の着色剤を上記透過材に添加することにより、所望の色彩の透過材を得ることができる。これにより、成形樹脂製品の外観意匠性を向上させることができる。また、上記着色剤はレーザー光を透過するため、着色剤がレーザー溶着の妨げとなることもない。
なお、上記着色剤としては、例えば、赤色着色剤であるレーキレッド等の有機顔料、青色着色剤であるコバルトブルー等の無機顔料やフタロシアニンブルー等の有機顔料、緑色着色料であるクロムグリーン等の無機顔料やフタロシアニングリーン等の有機顔料を用いることができる。
【0024】
また、上記吸収材は、カーボンブラックを添加してなることが好ましい(請求項7、請求項16)。
この場合には、上記吸収材において、レーザー光を充分に吸収することができるため、高い溶着強度を得ることができる。
【0025】
また、上記カーボンブラックは、上記吸収材に0.01〜10重量%添加されていることが好ましい(請求項8、請求項17)。
この場合には、吸収材と透過材との溶着強度を充分に確保することができる。
上記カーボンブラックの添加量が0.01重量%未満の場合には、吸収材がレーザー光を充分に吸収することが困難となり、充分な溶着強度を得ることが困難となるおそれがある。一方、上記添加量が10重量%を超える場合には、絶縁性低下や強度低下のおそれがある。
【0026】
また、上記成形樹脂製品は、自動車部品とすることができる(請求項9、請求項18)。
この場合には、耐熱性に優れた自動車部品を得ることができる。即ち、本発明の成形樹脂製品における吸収材は、上述のごとく耐熱性に優れているため、耐熱性が要求される自動車部品として適している。そして、成形樹脂製品の中でも特に耐熱性が要求される部位を上記吸収材によって構成し、比較的耐熱性の要求されない部位を上記透過材によって構成することにより、耐熱性を備えつつ外観意匠性の向上及びコスト低減を図ることができる。
上記自動車部品としては、例えば、自動車のエンジンに取り付けられるクランク角センサ、各種圧力センサ、電子スロットル、或いは、各種電子基板を収容するケース等がある。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる成形樹脂製品及びその製造方法につき、図1〜図8を用いて説明する。
本例の成形樹脂製品1は、図1に示すごとく、熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材2と、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を主成分としたレーザー光を吸収する吸収材3とを重ね合せた重ね合せ部11に対し、透過材2側からレーザー光Lを照射することにより、透過材2と吸収材3とを溶着してなる。図1において、符号14が溶着部を示す。
そして、透過材2は、熱可塑性ポリエステルにポリアミド6(PA6)を配合してなる。
本例においては、熱可塑性ポリエステルとして、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いる。
【0028】
吸収材3における透過材2との対向面32には突起部31が形成されている。即ち、吸収材3は、重ね合せ部11において、透過材2との対向面32に、例えば断面略三角形状の突起部31を、透過材2側へ突出するように設けてある。突起部31は、例えば0.1mm以上の高さを有する。
そして、吸収材3に対して、透過材2を重ね合せるに当っては、吸収材3の突起部31に透過材2における吸収材3との対向面22を押し当てる。この状態で、レーザー光Lを、突起部31を略中心とした、重ね合せ部11の所定領域に照射する。
【0029】
透過材2は、PBTとPA6との総重量に対するPA6の重量比が、30重量%以上、更に好ましくは、40重量%以上である。
また、透過材2においては、連続相としてのPBTの間に、分散相としてのPA6が分散した状態にある。
【0030】
また、透過材2は、レーザー光Lを透過するフィラーを添加してなる。フィラーとしては、例えばガラス繊維、ガラスビーズ等を用いる。
また透過材2は、レーザー光を透過する着色剤を添加してなる。着色剤としては、例えば、赤色着色剤であるレーキレッド等の有機顔料、青色着色剤であるコバルトブルー等の無機顔料やフタロシアニンブルー等の有機顔料、緑色着色料であるクロムグリーン等の無機顔料やフタロシアニングリーン等の有機顔料を用いることができる。
一方、吸収材3は、カーボンブラックを0.01〜10重量%添加してなる。
【0031】
また、本例の成形樹脂製品1は、自動車部品であり、具体的には、図3に示すごとく、自動車のエンジンに取り付けられるクランク角センサ5の一部、即ち、クランク角センサ5のカバー部を構成する。また、成形樹脂製品1は、金属部材12をインサートしたインサート成形品である。
【0032】
上記クランク角センサ5は、MRE(磁気抵抗素子)センサであって、図3に示すごとく、エンジンに固定される本体部51と、センサ素子を覆う素子カバー部52とを有する。上記本体部51には、エンジンにクランク角センサ5を取り付けるためのボルトを挿通する取付部512が形成されている。そして、該取付部512に上記金属部材12がインサートされている。
【0033】
本体部51と素子カバー部52とは、互いに接合部53において、レーザー溶着されている。即ち、本体部51が吸収材3に該当し、素子カバー部52が透過材2に該当し、接合部53が上記重ね合せ部11に該当する(図1、図3)。
また、レーザー光Lとしては、GaAs系の半導体レーザーのレーザー光を用い、その波長は940nmである。
【0034】
透過材2としての素子カバー部52と、吸収材3としての本体部51とは、例えば以下のようにレーザー溶接する。
まず、図3に示すように、素子カバー部52と本体部51とを嵌合させ、素子カバー52の鍔部521を本体部51に当接させる。即ち、透過材2と吸収材3とを重ね合わせる。
【0035】
次いで、接合部53(重ね合せ部11)を加圧しながら、該接合部53に、素子カバー部52(透過材2)側からレーザー光Lを照射する(図1、図3)。レーザー光Lの照射は、接合部53の全周にわたって行う。このときのレーザー出力は70〜100W、レーザー溶接の速度は30〜40mm/秒とする。
【0036】
これにより、レーザー光Lが透過材2を透過して、透過材2と吸収材3との互いの対向面22、32に達する。そして、対向面32における吸収材3(PPS)が溶融する。また、レーザー光Lによって加熱された吸収材3の熱が、透過材2にも伝達され、この熱により対向面22における透過材2(PBT及びPA6)も溶融する。このとき、吸収材3の対向面32に設けた突起部31が特に積極的に溶融し、その中のPPSが、透過材2の対向面22において溶融したPA6と接触する。
【0037】
そして、溶融した吸収材3のPPSと透過材2のPA6とが相溶し、融合した状態で吸収材3と透過材2とが冷却されることにより、両者が接合される。
以上の現象が、本体部51と素子カバー部52との接合部53の全周にわたって起こり、本体部51(吸収材3)と素子カバー部52(透過材2)とが溶着接合される。
【0038】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記成形樹脂製品1は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を主成分とする吸収材3と、PBTを主成分とする透過材2とからなる。それ故、PPSからなる部材のみで構成する場合に比べて安価な成形樹脂製品1を得ることができる。また、着色の容易なPBTからなる透過材2を成形樹脂製品1の一部として用いることにより、必要に応じて所望の色彩に着色することが可能となり、外観意匠性に優れた成形樹脂製品1を得ることができる。
そして、透過材2と吸収材3とは、レーザー溶着によって接合してなるため、接着材を用いた接着等を行う必要もなく、製造が容易である。
【0039】
また、ポリアミド6(PA6)を、透過材2を構成するPBTに配合することにより、PPSを主成分とする吸収材3とPBTを主成分とする透過材2とを、レーザー溶着によって容易に接合することができる。
【0040】
即ち、図4に示すごとく、PA6は、SP値がPPSと近く、PPSとの相溶性に優れるため、PA6を透過材2に混入することにより、PBTからなる透過材とPPSからなる吸収材3との溶着が可能となる。
ここで、図4は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PMMA(メタクリル樹脂)、PA12(ポリアミド12)、PC(ポリカーボネート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、EPOXY(エポキシ)、POM(ポリアセタール)、PF(フェノール樹脂)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PA6(ポリアミド6)、PA66(ポリアミド66)、EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂)のそれぞれのSP値を比較したグラフである。
【0041】
また、図5に示すごとく、PA6は、それ自身の透過率が高く、また、図6に示すごとく、PBTとの屈折率の差が小さいため、PA6をPBTに配合しても、図7に示すごとく、透過材2におけるレーザー光Lの透過性の低下は少なく、レーザー溶着を妨げることのない透過率25%以上を充分に確保している。
なお、図5は、PPS、PBT、PA6のそれぞれの透過率を比較したグラフであり、図6は、各素材の屈折率を比較したグラフである。同図において、GFはガラス繊維を示す。また、図5に示す透過率は、波長940nmのレーザー光に対してのものである。
なお、PETの透過率もPBTと同様に約10%である。
【0042】
また、図7は、PBTのみからなる素材(A1)と、PBTにガラス繊維を30重量%配合した素材(A2)と、PBT:PA6=70:30の混合樹脂にガラス繊維を30重量%配合した素材(A3)と、PBT:PA6=60:40の混合樹脂にガラス繊維を30重量%配合した素材(A4)とについてのレーザー光(波長940nm)の透過率を示すものである。
【0043】
更に、図8に示すごとく、PA6は、その融点がPBTと近似しているため、PA6を配合することにより透過材2の成形性が低下することもない。図8は、各樹脂の融点を示す。
このように、PA6をPBTに配合することにより、特に不具合を生じることなく、PBTを主成分とする透過材2とPPSを主成分とする吸収材3とをレーザー溶着によって接合することが可能となる。
【0044】
また、吸収材3には突起部31が形成されている。そのため、突起部31を含めた重ね合せ部11にレーザー光Lを照射したとき、突起部31を起点に透過材2に混入したPA6と吸収材3のPPSとが充分に溶け合うことにより、透過材2と吸収材3との接合強度を向上させることができる。
【0045】
また、透過材2は、PBTとPA6との総重量に対するPA6の重量比が、30重量%以上である。そのため、PA6を配合したことによる、透過材2と吸収材3との接合強度の向上を充分に図ることができる。また、上記PA6の重量比を40重量%以上とすることにより、透過材2と吸収材3との接合強度を一層向上させることができる。
【0046】
また、透過材2はフィラーを添加してなるため、透過材2の強度の向上、コストの低減を図ることができ、強度に優れた低コストの成形樹脂製品1を得ることができる。
また、透過材2は、レーザー光を透過する着色剤を添加してなる。そのため、所望の色彩の透過材2を得ることができる。これにより、成形樹脂製品1の外観意匠性を向上させることができる。また、着色剤はレーザー光Lを透過するため、着色剤がレーザー溶着の妨げとなることもない。
【0047】
また、吸収材3は、カーボンブラックを添加してなるため、吸収材3において、レーザー光Lを充分に吸収することができ、高い溶着強度を得ることができる。
また、カーボンブラックは、吸収材3に0.01〜10重量%添加されているため、吸収材3と透過材2との溶着強度を充分に確保することができる。
【0048】
また、本例の成形樹脂製品1は、自動車部品であるクランク角センサ5である。そのため、高い耐熱性が要求される自動車部品として適切な製品とすることができる。そして、本発明の成形樹脂製品1における吸収材3は、上述のごとく耐熱性に優れているため、成形樹脂製品1の中でも特に耐熱性が要求される部位を吸収材3によって構成し、比較的耐熱性の要求されない部位を透過材2によって構成することにより、耐熱性を備えつつ外観意匠性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0049】
以上のごとく、本例によれば、製造容易であると共に、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品を提供することができる。
【0050】
なお、本例では、熱可塑性ポリエステルとしてPBTを用いたが、PPT(ポリプロピレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等、他の熱可塑性ポリエステルを用いても、上記と同様に、製造容易であると共に、耐熱性、外観意匠性に優れた安価な成形樹脂製品を提供することができる。即ち、図6、図8に示すごとく、PA6は、例えばPETに対しても屈折率及び融点が近似しているため、レーザー光の透過を妨げたり、透過材2の成形性を低下させたりすることなく、透過材2と吸収材3とのレーザー溶着強度を高めることができる。
【0051】
(実施例2)
本例は、図9に示すごとく、透過材2に突起部21を設けた例である。
即ち、重ね合せ部11における透過材2の吸収材3との対向面22に、断面略三角形状の突起部21が設けてある。一方、吸収材3には、突起部を設けていない。
そして、吸収材3に対して、透過材2を重ね合せるに当っては、吸収材3の対向面32に、透過材2の突起部21を押し当てる。この状態で、突起部21を略中心とした、重ね合せ部11の所定領域にレーザー光Lを照射する。
その他は、実施例1と同様である。
【0052】
本例の場合にも、突起部21を含めた重ね合せ部11にレーザー光Lを照射したとき、突起部21を起点に透過材2に混入したPA6と吸収材3のPPSとが充分に溶け合うことにより、透過材2と吸収材3との接合強度を向上させることができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0053】
なお、透過材2と吸収材3との双方に突起部21、31を設けてもよい。また、突起部21、31は、それぞれ複数個形成することもできる。
【0054】
(実施例3)
本例は、図10に示すごとく、成形樹脂製品1として、電子基板13を収容するケースに、本発明を適用した例である。
即ち、成形樹脂製品1としてのケース4は、開口部を有する収容部43と、収容部43の開口部を覆う蓋部42とからなる。収容部43は吸収材3からなり、蓋部42は透過材2からなる。
【0055】
そして、ケース4(成形樹脂製品1)の収容部43(吸収材3)に、電子部品131を実装した電子基板13を収容した後、蓋部42(透過材2)を収容部の開口部を覆うように重ね合せ、その重ね合せ部11にレーザー光Lを照射して、レーザー溶着を行う。
これにより、内部に電子部品13を収容したケース4(成形樹脂製品1)を得る。
その他は、実施例1と同様である。
本例の場合にも、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0056】
(実施例4)
本例は、図11〜図14に示すごとく、透過材2のPBTにPA6を配合したことによる、レーザー溶着強度の向上の効果につき確認した例である。
即ち、種々の組成の透過材2と、吸収材3との溶着強度を以下の方法で測定した。
まず、図11に示すごとく、吸収材3として、幅20mm、長さ80mm、厚み3mmの試験片を用意した。吸収材3は、PPSに、ガラス繊維を40重量%、カーボンブラックを0.5重量%添加したものからなる。
【0057】
一方、透過材2として、幅20mm、長さ80mm、厚さ1mmの試験片を用意した。この透過材2の試験片は、各水準ごとに以下に示す組成を有する。即ち、水準1は、PA6を配合しない透過材2を用い、水準2は、PBT:PA6=7:3となる割合でPA6を配合した透過材2を用い、水準3及び水準4は、PBT:PA6=6:4となる割合でPA6を配合した透過材2を用いた。これらの透過材2は、全て、ガラス繊維を30重量%添加してなる。
また、水準1〜3については、吸収材3に断面略三角形状の突起部31(図1参照)を設けてなる。この突起部31の高さは0.3mmである。また、水準4については、吸収材3に突起部31を設けていない。
【0058】
各水準に付き、図11〜図13に示すごとく、吸収材3と透過材2とを長さ方向に20mm重ね合せると共に、図12の矢印Pに示すように、透過材2を吸収材3に向かって加圧した状態でレーザー光Lを重ね合せ部11に照射した。レーザー光Lの波長は940nm、照射径dは2mm、走査速度は35mm/秒とした。
これにより、図11、図13に示すごとく、透過材2と吸収材3とを溶着した。このとき、溶着部14の長さaは12.5mm、幅bは2.3mmとした。
【0059】
そして、透過材2と吸収材3とを、図11(B)に示す矢印F1、F2の方向に引張って、剪断破壊強度を測定した。すなわち、この剪断試験において、破壊した時点において加えていた力が剪断破壊強度であり、これを溶着強度として図14に示した。
【0060】
図14から分かるように、透過材2のPBTにPA6を配合しない水準1に比べて、透過材2のPBTにPA6を配合した水準2の溶着強度は高かった。更に、PA6の配合量をPBT:PA6=6:4と増やした透過材2を用いた水準3の溶着強度は、溶着強度は更に高くなった。即ち溶着強度の測定値は14MPaであり、破壊モードも母材破壊、即ち透過材2又は吸収材3自体の破壊であるため、実際の溶着強度は14MPa以上ということとなる。
【0061】
一方、突起部31を設けない吸収材3と透過材2との溶着である水準4については、同様の組成である水準3と比べて溶着強度が低下している。逆に、突起部31を設けることにより、水準3のように、溶着強度が充分に大きくなる。
以上のごとく、本例によれば、透過材2のPBTにPA6を適量配合することにより、溶着強度が向上し、更に突起部31を設けることにより、溶着強度を向上させることができることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1における、成形樹脂製品の製造方法を示す説明図。
【図2】実施例1における、溶着後の成形樹脂製品の説明図。
【図3】実施例1における、成形樹脂製品の説明図。
【図4】実施例1における、各種樹脂のSP値を示すグラフ。
【図5】実施例1における、各種樹脂の透過率を示すグラフ。
【図6】実施例1における、各種樹脂の屈折率を示すグラフ。
【図7】実施例1における、各種透過材の屈折率を示すグラフ。
【図8】実施例1における、各種樹脂の融点を示すグラフ。
【図9】実施例2における、成形樹脂製品の製造方法を示す説明図。
【図10】実施例3における、成形樹脂製品の説明図。
【図11】実施例4における、引張試験方法の説明図。
【図12】実施例4における、試験サンプルの作成方法の説明図。
【図13】実施例4における、試験サンプルの溶着部の説明図。
【図14】実施例4における、試験結果を示す線図。
【符号の説明】
【0063】
1 成形樹脂製品
11 重ね合せ部
2 透過材
22 対向面
3 吸収材
31 突起部
32 対向面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材と、ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光を吸収する吸収材とを重ね合せた重ね合せ部に対し、上記透過材側からレーザー光を照射することにより、上記透過材と上記吸収材とを溶着してなる成形樹脂製品であって、
上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルにポリアミド6を配合してなることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項2】
請求項1において、上記重ね合せ部における上記透過材と上記吸収材との互いの対向面の少なくとも一方には突起部が形成されていることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、30重量%以上であることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項4】
請求項3において、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、40重量%以上であることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記透過材は、レーザー光を透過するフィラーを添加してなることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記透過材は、レーザー光を透過する着色剤を添加してなることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記吸収材は、カーボンブラックを添加してなることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項8】
請求項7において、上記カーボンブラックは、上記吸収材に0.01〜10重量%添加されていることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項において、上記成形樹脂製品は、自動車部品であることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項10】
熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材と、ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光を吸収する吸収材とを重ね合せた後、
その重ね合せ部に対して、上記透過材側からレーザー光を照射することにより、上記透過材と上記吸収材とを溶着して成形樹脂製品を製造する方法であって、
上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルにポリアミド6を配合してなることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、上記重ね合せ部における上記透過材と上記吸収材との互いの対向面の少なくとも一方には突起部が形成されていることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11において、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、30重量%以上であることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項13】
請求項12において、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、40重量%以上であることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか一項において、上記透過材は、レーザー光を透過するフィラーを添加してなることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか一項において、上記透過材は、レーザー光を透過する着色剤を添加してなることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項16】
請求項10〜15のいずれか一項において、上記吸収材は、カーボンブラックを添加してなることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項17】
請求項16において、上記カーボンブラックは、上記吸収材に0.01〜10重量%添加されていることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項18】
請求項10〜17のいずれか一項において、上記成形樹脂製品は、自動車部品であることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項1】
熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材と、ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光を吸収する吸収材とを重ね合せた重ね合せ部に対し、上記透過材側からレーザー光を照射することにより、上記透過材と上記吸収材とを溶着してなる成形樹脂製品であって、
上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルにポリアミド6を配合してなることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項2】
請求項1において、上記重ね合せ部における上記透過材と上記吸収材との互いの対向面の少なくとも一方には突起部が形成されていることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、30重量%以上であることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項4】
請求項3において、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、40重量%以上であることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記透過材は、レーザー光を透過するフィラーを添加してなることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記透過材は、レーザー光を透過する着色剤を添加してなることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記吸収材は、カーボンブラックを添加してなることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項8】
請求項7において、上記カーボンブラックは、上記吸収材に0.01〜10重量%添加されていることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項において、上記成形樹脂製品は、自動車部品であることを特徴とする成形樹脂製品。
【請求項10】
熱可塑性ポリエステルを主成分としたレーザー光を透過する透過材と、ポリフェニレンスルフィドを主成分としたレーザー光を吸収する吸収材とを重ね合せた後、
その重ね合せ部に対して、上記透過材側からレーザー光を照射することにより、上記透過材と上記吸収材とを溶着して成形樹脂製品を製造する方法であって、
上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルにポリアミド6を配合してなることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、上記重ね合せ部における上記透過材と上記吸収材との互いの対向面の少なくとも一方には突起部が形成されていることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11において、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、30重量%以上であることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項13】
請求項12において、上記透過材は、上記熱可塑性ポリエステルと上記ポリアミド6との総重量に対する上記ポリアミド6の重量比が、40重量%以上であることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか一項において、上記透過材は、レーザー光を透過するフィラーを添加してなることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか一項において、上記透過材は、レーザー光を透過する着色剤を添加してなることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項16】
請求項10〜15のいずれか一項において、上記吸収材は、カーボンブラックを添加してなることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項17】
請求項16において、上記カーボンブラックは、上記吸収材に0.01〜10重量%添加されていることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【請求項18】
請求項10〜17のいずれか一項において、上記成形樹脂製品は、自動車部品であることを特徴とする成形樹脂製品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−279730(P2008−279730A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128245(P2007−128245)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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