説明

成形用ペースト、セラミック体の製造のためのその使用並びにその方法

【課題】形状に要求が高い最終物品、例えばクラウンキャップの製造のためのセラミック成形を、その方法を時間的に相当に速め、そして電気泳動の原理を用いずにも層厚を制御可能なように改良する。
【解決手段】成形をスラリーと、セラミック成形で使用するための、少なくとも1種の離型剤、少なくとも1種のイオン放出剤及び/又は両性物質を含有する成形用ペーストとを接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック成形で使用するための成形用ペーストとしての組成物並びにセラミック懸濁液から出発するセラミック成形法におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック部材の製造のために、従来技術によれば非常に様々な方法を使用することができる。これらの方法は、加圧法、可塑性成形及びセラミック懸濁液を用いた鋳込み成形技術に分類できる。鋳込み成形技術の基礎は、安定なセラミック懸濁液(いわゆるスラリー)を、主に石膏又は微孔性プラスチックからなる多孔質の型に装入することであり、その多孔質の型は毛管力によって液体を取り去るので、その型壁に緻密な粒子層(胴体形成(Scherbenbildung)あるいは成形品形成)が形成する。得られる、いわゆる成形体は引き続き最終的な圧縮率にまで焼結させねばならず、その際に該成形体は30%だけまで収縮するため、それを石膏型の設計に際して考慮に入れねばならない。この方法の大きな利点は、緻密化された部品を薄肉性と非対称形状の点で製造することができるという可能性にある。この場合に、鋳込み成形法は、小規模にも経済的に製造できるのであれば自動化できる。欠点及び制限としては、胴体形成に長時間を要することと、成形体を取り出す過程が危険なことと、各成形工程後に長時間乾燥させねばならないので、激しい負荷を受ける型の耐久性が低いこととがある。
【0003】
型を成形体の収縮度と危険な離型に対して寸法適合させる技術的解決策は、歯科技術においてEP0241384号で、特殊な石膏からなる歯の残根模型の複製にスラリーをはけを用いて層状に施与するか又はその残根をスラリー中に何度も浸漬させることによって残根上に、ほぼ最終的なその形状を有するキャップを形成させる方法によって解決された。前記の方法は、とりわけクラウン骨格の製造に用いられる。引き続き、第一の燃焼を低い温度で行うが、成形体はまだ残根上に存在する。その際に、石膏模型は、2%までの低い収縮によってゆっくりと成形体から剥離する。その成形体から、引き続いての第一の焼結燃焼において多孔質の白素地が形成し、それは最終工程でガラス浸潤によってその最終的な強度を保つ。この方法の欠点は、原模型の複製による長い作業時間と、キャップの制御不可能な層厚と、純粋に手作業の加工による失敗しやすさである。
【0004】
セラミックスラリーからの成形の改良は、導電性の型での電気泳動堆積である。この場合に、導電性層を型に施与し、直流電圧の印加によって周りに存在する帯電スラリー粒子が型に運ばれ、そこに堆積する(DE10332802号A1、DE10346775号A1、DE10339603号A1)。脱水による均一な層厚の生成に用いられるべき他の措置は、DE10127144号B4によれば吸水性層、例えばゲルの施与である。場合により、請求項4によれば、電圧を印加して粒子の析出を促進するが、その成形は同様に電気泳動の原理に基づくものである。実際には、前記の方法は、直流電圧の印加をせずにスラリー中に型を何度も浸すことを必要とするが、その際に、生成する層厚を制御することができないことが示されている。このことは、生成した型を引き続き所望の厚さに削り戻すことによって解決される。均一な層厚は、電気泳動の原理によってのみ生じる。電気泳動の欠点は、堆積がなされる型の導電性が必ず必要なこと、すなわち石膏型に導電性層を設けるか又は導電性の型材料で作業せねばならないことである。両者の場合において、石膏型の製造後に、更なる手作業の方法工程が必要であり、これらの工程は一方で全工程を長くし、そして他方で失敗の原因となる。
【特許文献1】EP0241384号
【特許文献2】DE10332802号A1
【特許文献3】DE10346775号A1
【特許文献4】DE10339603号A1
【特許文献5】DE10127144号B4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、形状に要求が高い最終物品、例えばクラウンキャップの製造のためのセラミック成形を、その方法を時間的に相当に速め、そして電気泳動の原理を用いずにも層厚を制御可能なように改良することであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その製造は、成形をスラリーと、セラミック成形で使用するための、少なくとも1種の離型剤、少なくとも1種のイオン放出剤及び/又は両性物質を含有する成形用ペーストとを接触させることによって実施する場合に、セラミック成形体を所望の層厚に関して効果的に制御可能であり、かつ石膏又は多孔質のプラスチック、例えばガラス、種々のプラスチック又は金属に代わる型材料を使用できることが判明した。
【0007】
制御された凝集の誘導のための静電的不安定化のための必要条件は、静電的に安定化されたスラリーである。スラリーの安定化は、ゼータ電位と等電点(IEP)を含めて効果的に調整することができる。例えば、バイエル法による酸化アルミニウムは非常に広いIEPを有するので、純粋な水性のスラリーは既に十分に安定化されていることがある。静電的安定化は、スラリーにおいて、液体環境での緩い配置をもたらす。反発力の変更(セラミック粒子のイオン殻の電荷分布の変更、静電的不安定化)は、液体環境での緩い配置を相殺でき、そしてスラリー中に含まれるセラミック粉末の効果的な緻密化を達成できる。
【0008】
従って、本発明は、一実施態様において、セラミック成形で使用するための
・ 少なくとも1種の離型剤、及び
・ 少なくとも1種のイオン放出剤及び/又は両性物質
を含有する成形用ペーストに関する。
【0009】
有利には、該ペーストは静電的に不安定化させる組成物である。
【0010】
離型剤には、好ましくは、クリーム、ゲル、軟膏又は洗浄剤から形成される群が該当する。イオン放出剤は、好ましくは、水溶性の塩、特に好ましくはアルカリ金属ハロゲン化物、アンモニウムハロゲン化物又はアルカリ土類金属ハロゲン化物から形成される群の塩である。両性物質は、有利には界面活性剤、例えばSDS又はTweenである。更に、水性溶剤及び乳化剤が存在してもよい。該塩は、組成物中に約3〜80質量%、有利には5〜70質量%、特に7〜60質量%まで存在する。
【0011】
また本発明は、前記の成形用ペーストを、セラミックスラリーからセラミック成形体を製造するために、特に義歯部を製造するために用いる使用に関する。
【0012】
また本発明は、セラミックスラリーからセラミック体を製造する方法であって、
A 模型の表面上に、
・ 少なくとも1種の離型剤、及び
・ 少なくとも1種のイオン放出剤及び/又は両性物質
を含有する成形用ペーストを施与し、
B 次いで該成形用ペーストとセラミックスラリーとを接触させ、
C セラミックスラリーの少なくとも一部を成形用ペーストのきわで緻密化させることによってセラミック体(Koerper)を形成させ、かつ
D 次いで模型から取り出す
方法に関する。
【0013】
驚くべきことに、かかる方法は歯科技術の他にも、セラミックの更なる使用分野に拡張できることが明らかにされた。前記の方法により、型の性質とは無関係に成形用ペーストによってセラミック成形体を製造することが可能であり、また該成形体は型から容易に取り出すことができる。
【0014】
従って、スラリーから所定の必要条件下で部材を、静電的不安定化の原理による効果的な成形によって製造することができる。
【0015】
従ってまた、本発明は、クリーム、ゲル、軟膏又は洗浄剤のような、既に十分に高い塩含量又は電解質含量を有するか又は後に塩が施される市販の配合物の、成形用ペーストとしての使用に関する。
【0016】
当然のように、相応のペーストは前記の成分の混合によっても製造することができる。
【0017】
また本発明は、被覆されるべき模型の表面を、
ペースト基材
可溶性の無機又は有機の塩、有利にはアルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物、無機又は有機のアンモニウム塩
を含有する成形用ペーストで含浸させることによって、静電的に安定化されたスラリーを不安定化する方法に関する。
【0018】
粒子のイオン殻を変更する全ての別の可溶性化合物は好適な層の形成をもたらす。例えばCoSOのような金属塩又はイオン性の界面活性物質を使用することもできる。
【0019】
以下のように本発明の効果を明確にするが、これは本発明を更に制限するものではない:
含まれるイオンは、スラリーとの接触に際して溶解し、そしてセラミック粒子のイオン殻の電荷分布を小さくする。それにより、これらの粒子は、互いにより近づき、そこで留まり、機械的に安定でより緻密な層となる。ペーストの塩含量によって、層形成のための時間を制御できる。その際にペーストが更に脂質を基礎として配合されている場合には、更に形成された型と模型との剥離又は離型が容易になる。それによって、効果的に層を遊離形に作成できる。引き続きの乾燥により多孔質の層が生じ、これは焼結することができる。
【0020】
多くの研究において、塩の溶解度が様々な役割を担うことが立証された。成形のための緻密化のために、イオンをスラリー中に混加せねばならないか、又はイオンを少なくとも成形用ペーストとスラリーとの界面で少なくとも粒子とを接触させねばならず、そうして拡散電気二重層を変更することができる。これは、異なる溶解度の塩による検査が正しいことを実証している。
【実施例】
【0021】
実施例1:市販の化粧用又は医薬用のエマルジョン、ゲル及びクリームを基礎とする成形用ペースト
市販の皮膚保護軟膏、例えばTactosan(油中水エマルジョン、Stockhausen社、ハウトシュッツ在)を加熱により溶融物とし、引き続きそれを60%の塩化マグネシウム水溶液に入れて撹拌し、全混合物を撹拌しながら均質化させる。冷却した後に、該混合物はペースト状の粘稠性を有し、成形準備ができている。塩化マグネシウム溶液の濃度は、場合により3〜80質量%で変更することができる。油中水エマルジョンの代わりに、その用途に相応して既に塩含量を含む医薬用の電極クリーム、例えば5質量%のNaClを含む電極クリーム(Marquette社製HELLIGE)を使用できる。
【0022】
実施例2:幾つかの成分を含む成形用ペースト
ワセリンベース
5gのワセリン
1gのパルミチン酸セチル
2gの酢酸アンモニウム
1gのTween 20
1gの水
並びに
パラフィンベース
7gの液状パラフィン
1.5gの水
3.2gのTween 20
1gのCaCl
を、これらの成分の均質混和によって製造する。
【0023】
例示的な方法実施態様
被覆されるべき型を、実施例1又は2によるペーストで薄く塗被し、そして所望の層厚及びペーストの塩含量に応じてスラリー中に1〜10分間浸漬する。この場合に、堆積は、塩含量が高くなればなるほどより迅速になる。実施例1による60%のMgClの塩溶液の場合には、2分後に約670μmの層厚が得られる。浸漬時間の完了後に、型をスラリーから取り出し、気流中で25〜60℃で短時間乾燥させ、そして次いで離型し、引き続き1120℃で焼結させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック成形で使用するための、
・ 少なくとも1種の離型剤、
・ 少なくとも1種のイオン放出剤及び/又は両性物質
を含有する成形用ペースト。
【請求項2】
静電的に不安定化させる、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
離型剤が、クリーム、ゲル、軟膏又は洗浄剤から形成される群に属する、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
イオン放出剤が水溶性の塩である、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
両性物質が界面活性剤である、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
更に水性の溶剤及び乳化剤を含有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
塩がアルカリ金属ハロゲン化物、アンモニウムハロゲン化物又はアルカリ土類金属ハロゲン化物から形成される群に属する、請求項3記載の組成物。
【請求項8】
塩が中に3〜80質量%まで存在する、請求項3又は6記載の組成物。
【請求項9】
塩が中に5〜70質量%まで存在する、請求項7記載の組成物。
【請求項10】
塩が中に7〜60質量%まで存在する、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
セラミックスラリーからセラミック体を製造するための、請求項1から10までのいずれか1項記載の成形用ペーストの使用。
【請求項12】
義歯部の製造のための、請求項10記載の使用。
【請求項13】
セラミックスラリーからセラミック体を製造するための方法であって、
A 模型の表面上に、請求項1記載の成形用ペーストを施与し、
B 次いで該成形用ペーストとセラミックスラリーとを接触させ、
C セラミックスラリーの少なくとも一部を成形用ペーストのきわで緻密化させることによってセラミック体を形成させ、
D 次いで模型から取り出す
方法。

【公開番号】特開2007−1976(P2007−1976A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169209(P2006−169209)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(399011900)ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (56)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH 
【Fターム(参考)】