説明

成膜装置、膜厚測定装置及び膜厚測定システム

【課題】蒸着レートが高い場合や成膜する膜厚が厚い場合でも安定して膜厚を測定できる成膜装置、膜厚測定装置及び膜厚測定システムを提供する。
【解決手段】蒸発源側が遮蔽されると共に蒸発源14から気化した成膜材料の粒子が真空容器12の内壁によって反射して水晶振動子34に付着するようにセンサ部30を構成し、水晶振動子34の発振周波数を検出し、ガラス基板22に形成される膜の膜厚に対するセンサ部30に形成される膜の膜厚の変化率及び検出された水晶振動子34の発振周波数に基づいてガラス基板22上の膜厚を導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、膜厚測定装置及び膜厚測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸発源から成膜材料を気化させて基板上に膜を形成する成膜装置が知られている。
【0003】
このような成膜装置において、装置内に水晶振動子を配置し、基板と共に水晶振動子にも成膜を行い、水晶振動子に付着した膜により発振周波数が低下することを利用し、発振周波数を測定することで基板上の膜厚を測定する技術が知られている。
【0004】
ところで、水晶振動子によって検出できる薄膜の厚みには検出限界があり、その検出限界を超える厚みの膜厚は測定できない。
【0005】
そこで、特許文献1には、膜厚測定器の水晶振動子を真空雰囲気内で加熱しながら基板表面と水晶振動子表面とに薄膜を一緒に形成させる技術が提案されている。
【0006】
さらに、水晶振動子に対する成膜材料の飛翔方向に、成膜材料の一部を遮蔽するフィルタを設けて、水晶振動子に向って飛翔する成膜材料の一部を遮蔽する提案がなされている。このフィルタとしては、スリットなどが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−111121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術は、水晶振動子は温度依存性を有するため、膜厚を安定して測定できない。また、フィルタを設けた場合、蒸着レートが高い場合や成膜する膜厚が厚い場合にフィルタが目詰まりして精度が低下し、膜厚を安定して測定できない。
【0009】
本発明は、上記事実を考慮し、蒸着レートが高い場合や成膜する膜厚が厚い場合でも安定して膜厚を測定できる成膜装置、膜厚測定装置及び膜厚測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明の成膜装置は、内部に成膜対象物が配置され、当該成膜対象物に対して成膜を行う際に内部が真空とされる真空容器と、前記真空容器の内部に配置され、成膜を行う際に成膜材料を気化させる蒸発源と、前記真空容器の内部に配置され、付着した成膜材料の量に応じて発振周波数が変化する水晶振動子を有し、前記蒸発源側が遮蔽されると共に前記蒸発源から気化した成膜材料の粒子が前記真空容器の内壁又は前記真空容器の内部に設けられた反射板によって反射して前記水晶振動子に付着するように構成されたセンサ部と、前記水晶振動子の発振周波数を検出する検出手段と、前記蒸発源から気化した成膜材料の粒子により前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記真空容器の内壁又は前記反射板で反射した前記粒子により前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を示す関係情報を記憶した記憶手段と、前記記憶手段に記憶された前記関係情報、及び前記検出手段により検出される前記水晶振動子の発振周波数に基づいて前記成膜対象物上の膜厚を導出する導出手段と、を備えている。
【0011】
本発明によれば、成膜を行う際に内部が真空とされる真空容器の内部に、成膜対象物及び成膜材料を気化させる蒸発源が配置されている。また、蒸発源側が遮蔽されると共に蒸発源から気化した成膜材料の粒子が真空容器の内壁又は真空容器の内部に設けられた反射板によって反射して水晶振動子に付着するように構成されたセンサ部が真空容器の内部に配置されている。
【0012】
また、蒸発源から気化した成膜材料の粒子により成膜対象物に形成される膜の膜厚と真空容器の内壁又は反射板で反射した粒子によりセンサ部に形成される膜の膜厚との関係を示す関係情報が記憶手段に記憶されている。
【0013】
そして、検出手段により、水晶振動子の発振周波数が検出され、導出手段により、前記記憶手段に記憶された関係情報、及び検出手段により検出される水晶振動子の発振周波数に基づいて成膜対象物上の膜厚が導出される。
【0014】
このように、蒸発源側が遮蔽されると共に蒸発源から気化した成膜材料の粒子が真空容器の内壁又は真空容器の内部に設けられた反射板によって反射して水晶振動子に付着するようにセンサ部を構成し、センサ部の水晶振動子の発振周波数を検出し、蒸発源から気化した成膜材料の粒子により成膜対象物に形成される膜の膜厚と真空容器の内壁又は反射板で反射した粒子によりセンサ部に形成される膜の膜厚との関係を示す関係情報及び検出された水晶振動子の発振周波数に基づいて成膜対象物上の膜厚を導出するので、蒸着レートが高い場合や成膜する膜厚が厚い場合でも安定して膜厚を測定できる。
【0015】
なお、請求項1記載の発明は、請求項2に記載の発明のように、前記水晶振動子に対して前記粒子が反射する真空容器の内壁の反射面又は前記反射板の温度を調整する温度調整手段をさらに備え、前記関係情報が、前記反射面又は前記反射板の温度毎の前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を示すものとし、前記導出手段が、前記記憶手段により記憶された関係情報に基づいて、前記調整手段により調整された温度での前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を求め、前記検出手段により検出された前記水晶振動子の発振周波数に基づいて前記成膜対象物上の膜厚を導出してもよい。
【0016】
また、請求項1又は請求項2記載の発明は、請求項3に記載の発明のように、前記関係情報が、前記反射板と前記センサ部の距離毎及び前記反射板の前記センサ部に対して前記粒子が反射する面の面積毎の前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係、又は前記水晶振動子に対して前記粒子が反射する真空容器の内壁の反射面と前記センサ部間の距離毎の前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を示すものとし、前記導出手段が、前記記憶手段により記憶された関係情報に基づいて、前記反射板と前記センサ部の距離及び前記反射板の面積、又は前記反射面と前記センサ部間の距離での前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を求め、前記検出手段により検出された前記水晶振動子の発振周波数に基づいて前記成膜対象物上の膜厚を導出してもよい。
【0017】
一方、請求項4記載の発明の膜厚測定装置は、成膜を行う際に成膜材料を気化させる蒸発源から気化した成膜材料の粒子により真空容器の内部に配置された成膜対象物に形成される膜の膜厚と、前記蒸発源側が遮蔽されると共に前記蒸発源から気化した成膜材料の粒子が前記真空容器の内壁又は前記真空容器の内部に設けられた反射板によって反射して前記水晶振動子に付着するように構成されたセンサ部に形成される膜の膜厚との関係を示す関係情報を記憶した記憶手段と、前記水晶振動子の発振周波数を示す周波数情報を取得する取得手段と、前記記憶手段に記憶された関係情報及び前記取得手段により取得される前記水晶振動子の発振周波数に基づいて前記成膜対象物上の膜厚を導出する導出手段と、を備えている。
【0018】
よって、本発明は、請求項1記載の発明と同様に作用するので、蒸着レートが高い場合や成膜する膜厚が厚い場合でも安定して膜厚を測定できる。
【0019】
一方、請求項5記載の発明の膜厚測定システムは、内部に成膜対象物が配置され、当該成膜対象物に対して成膜を行う際に内部が真空とされる真空容器、前記真空容器の内部に配置され成膜を行う際に成膜材料を気化させる蒸発源、前記真空容器の内部に配置され付着した成膜材料の量に応じて発振周波数が変化する水晶振動子を有し前記蒸発源側が遮蔽されると共に前記蒸発源から気化した成膜材料の粒子が前記真空容器の内壁又は前記真空容器の内部に設けられた反射板によって反射して前記水晶振動子に付着するように構成されたセンサ部、並びに前記水晶振動子の発振周波数を検出する検出手段を備えた成膜装置と、前記蒸発源から気化した成膜材料の粒子により前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記真空容器の内壁又は前記反射板で反射した前記粒子により前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を示す関係情報を記憶した記憶手段、並びに前記記憶手段に記憶された前記関係情報及び前記検出手段により検出される前記水晶振動子の発振周波数に基づいて前記成膜対象物上の膜厚を導出する導出手段を備えた膜厚測定装置と、を有する。
【0020】
よって、本発明は、請求項1記載の発明と同様に作用するので、蒸着レートが高い場合や成膜する膜厚が厚い場合でも安定して膜厚を測定できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、蒸着レートが高い場合や成膜する膜厚が厚い場合でも安定して膜厚を測定できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態に係る成膜装置の構成を示す平面図である。
【図2】第1の実施の形態に係る成膜装置の構成を示す側面図である。
【図3】第1の実施の形態に係るセンサ部の構成を示す拡大斜視図である。
【図4】実施の形態に係る制御部の構成を示すブロック図である。
【図5】第1の実施の形態に係る膜厚測定処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】第1の実施の形態に係る膜厚測定処理プログラムによる膜厚の予測値と膜厚の実測値の比較結果を示すグラフである。
【図7】第2の実施の形態に係る成膜装置の構成を示す平面図である。
【図8】第2の実施の形態に係る成膜装置の構成を示す側面図である。
【図9】第2の実施の形態に係るセンサ部の構成を示す拡大斜視図である。
【図10】第2の実施の形態に係る反射板とセンサ部の距離毎の反射板の面積(半径)に応じたセンサ部に対する粒子の入射確率を示すグラフである
【図11】第2の実施の形態に係る膜厚測定処理プログラムによる膜厚の予測値と膜厚の実測値の比較結果を示すグラフである。
【図12】他の実施の形態に係る成膜装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
[第1の実施の形態]
図1には、第1の実施の形態に係る成膜装置10の構成を示す平面図が示されており、図2には、第1の実施の形態に係る成膜装置10の構成を示す側面図が示されている。
【0025】
本実施の形態に係る成膜装置10は、成膜材料を蒸着させる際に真空とされる真空容器12を備えている。真空容器12はステンレス等の金属で構成され、不図示の真空ポンプが接続されている。
【0026】
また、真空容器12内部には、成膜材料を気化させる4つの蒸発源14−1〜14−4が底部に設けられ、当該4つの蒸発源14−1〜14−4の上部に、成膜対象物である基板を支持するための支持台20が設けられている。なお、以下、4つの蒸発源14−1〜14−4を特に区別しない場合は蒸発源14と記す。
【0027】
本実施の形態では、成膜対象物を平板状のガラス基板22としている。ガラス基板22は、支持台20により各蒸発源14から所定の高さで支持される。このガラス基板22の領域22Aは、膜の形成対象領域を示している。
【0028】
各蒸発源14は、内部に成膜材料を加熱して気化させるための不図示の抵抗加熱ヒーターが設けられている。また、各蒸発源14は、上面に気化した成膜材料の蒸気を通過する矩形状の開口16が設けられている。なお、蒸発源14は抵抗加熱方式に限定されず、電子ビーム、高周波誘導、レーザーなどによる加熱を行なってもよい。加熱による気化のみならず、比較的低圧力で行なわれるイオンビームスパッタリング等による物質の気化を行なってもよい。
【0029】
4つの蒸発源14は、上面から見てガラス基板22の4隅に対応して配置されており、それぞれ開口16の長辺が中心方向となるように45°ずつ角度を変えて配置されている。
【0030】
また、真空容器12内部の上部の支持台20の脇には、膜厚を測定するためにセンサ部30が設けられている。第1の実施の形態に係る成膜装置10では、真空容器12の上部壁面で反射した粒子によってセンサ部30に膜が形成されるように、センサ部30が上部壁面の近傍に配置されている。
【0031】
図3には、第1の実施の形態に係るセンサ部30を拡大した拡大斜視図が示されている。
【0032】
センサ部30は、略円筒形の箱状に形成されたケース32の内部に水晶振動子34が設けられている。ケース32は、真空容器12内部に突出した支持部材36上にケース32が上方に向かって開放された状態で配置されている。センサ部30は、蒸発源14側がケース32によって遮蔽されており、真空容器12の上部の内壁によって反射された成膜材料の粒子が水晶振動子34に付着するように構成されている。すなわち、センサ部30は、真空容器12の上部壁面での粒子の反射成分をモニターしている。センサ部30に設けられた水晶振動子34は、真空容器12外に設けられた後述する制御部50(図2参照)に接続されている。
【0033】
ここで、一般的に、気化した粒子の壁面での反射率は、反射する壁面の温度によって異なる。また、気化した粒子の壁面での反射率は、反射する壁面に膜がある程度形成されると一定の値で安定する。
【0034】
本実施の形態に係る成膜装置10では、真空容器12の上部壁面の温度を制御するため、真空容器12のセンサ部30が配置された位置の外側にパイプ40(図3参照)が配置されている。パイプ40は、ポンプ42(図2参照)と接続され、ポンプ42は、温水タンク44が接続されている。温水タンク44は、制御部50に接続されており、制御部50からの制御により内部に貯留された水を所望温度に加熱できるように構成されている。ポンプ42は、制御部50に接続されており、制御部50からの制御により温水タンク44に貯留された水をパイプ40内に循環させる。
【0035】
本実施の形態では、温水タンク44で所定の温度に加熱した水をポンプ42によりパイプ40内に循環させることにより真空容器12の上部壁面の温度の所定の温度に制御することが可能とされている。
【0036】
図4には、本実施の形態に係る制御部50の構成を示すブロック図が示されている。
【0037】
同図に示すように、成膜装置10は、装置全体の動作を司るCPU(中央処理装置)100と、各種データを一時的に記憶するRAM102と、装置全体を制御する制御プログラムや後述する膜厚導出処理プログラムを含む各種プログラムが予め記憶されたROM104と、各種情報を記憶するHDD(ハード・ディスク・ドライブ)105と、各種の操作画面を表示する液晶表示パネル等の表示装置106に接続されて当該表示装置106を制御する表示制御部108と、ユーザからの各種の操作指示が入力される操作パネル110に接続されて当該操作パネル110に対する操作を検出する操作入力検出部112と、を備えている。
【0038】
また、制御部50は、水晶振動子34の発振周波数を検出するために発振周波数検出部114と、ポンプ42の駆動を制御するポンプ制御部116と、温水タンク44に貯留された水の温度を制御する温度制御部118と、を備えている。
【0039】
発振周波数検出部114は、水晶振動子34に交流電圧を印加して発振現象の検出を行っており、発振現象が発生した発振周波数を検出する。
【0040】
CPU100、RAM102、ROM104、HDD105、表示制御部108、操作入力検出部112、発振周波数検出部114、ポンプ制御部116、及び温度制御部118は、システムバスBUSを介して相互に接続されている。従って、CPU100は、RAM102、ROM104、及びHDD105へのアクセスと、表示制御部108を介した表示装置106への操作画面、各種メッセージ等の各種情報の表示の制御と、ポンプ制御部116を介したポンプ42の駆動の制御と、温度制御部118を介した温水タンク44に貯留された水の温度を制御とを各々行うことができる。また、CPU100は、操作入力検出部112により検出された操作情報に基づく、操作パネル110に対する操作内容を把握と、発振周波数検出部114により検出された発振周波数の把握と、を各々行なうことができる。
【0041】
本実施の形態では、HDD105に、成膜材料毎に、各温度での各蒸発源14から気化した成膜材料の粒子によりガラス基板22に形成される膜の膜厚に対するセンサ部30に形成される膜の膜厚の変化率を示す変化率情報と、水晶振動子34の発振周波数と膜厚との関係を示す膜厚情報と、を記憶している。この変化率情報は、例えば、成膜材料毎に、様々な温度でガラス基板22を配置して成膜を行って、実際にガラス基板22に形成される膜の膜厚とセンサ部30に形成される膜の膜厚から求めてもよい。また、壁面の温度と壁面での反射率との関係から解析を行って求めてもよい。
【0042】
次に、本実施の形態に係る成膜装置10の作用を説明する。
【0043】
最初に、作業者は、支持台20にガラス基板22を配置せずに、操作パネル110に対して準備開始を指示する所定操作を行う。成膜装置10は、操作パネル110に対して準備開始を指示する所定操作が行われと、図示しない真空ポンプを起動して真空容器12内を真空排気し、各蒸発源14から成膜材料を加熱して気化させて真空容器12の上部壁面に膜の変化率が一定の値で安定する程度の膜の形成を行う。なお、上部壁面の膜による変化率の変化量が小さい場合は、上部壁面に予め膜を形成する準備工程を行う必要はない。
【0044】
次に、作業者は、成膜装置10の支持台20にガラス基板22を配置し、操作パネル110に対して成膜材料を指定して成膜開始を指示する所定操作を行う。成膜装置10は、操作パネル110に対して成膜開始を指示する所定操作が行われと、温水タンク44に貯留された水の温度を所定の温度に加熱し、所定の温度の水をパイプ40内に循環させる。これにより、真空容器12の上部壁面の温度が所定の温度に調整される。
【0045】
そして、成膜装置10は、図示しない真空ポンプを起動して真空容器12内を真空排気し、各蒸発源14から成膜材料を加熱して気化させ、ガラス基板22に成膜を行う。これにより、センサ部30には、真空容器12の上部壁面で反射した粒子により膜が形成される。
【0046】
本実施の形態に係る成膜装置10は、各蒸発源14から成膜材料を気化させてガラス基板22に成膜を行っている際に、予め定めたタイミング毎(例えば、1分毎)にガラス基板22に形成された膜の膜厚の測定を行う。
【0047】
図5には、膜厚の測定を行なう際にCPU100により実行される膜厚測定処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートが示されている。なお、当該プログラムはROM104の予め定められた領域に予め記憶されている。
【0048】
ステップS10では、発振周波数検出部114を制御して水晶振動子34に交流電圧を印加して水晶振動子34の発振周波数を検出する。
【0049】
次のステップS12では、HDD105に記憶された膜厚情報に基づき、上記ステップS10で検出された水晶振動子34の発振周波数に対応する膜厚Aを求める。
【0050】
次のステップS14では、HDD105に記憶された変化率情報から操作パネル110で指定された成膜材料の所定の温度での膜厚の変化率Xを特定する。
【0051】
次のステップS16では、膜厚A/変化率Xの演算を行う。
【0052】
次のステップS18では、上記ステップ16演算の結果得られた値をガラス基板22に形成された膜の膜厚Bとして表示装置106に表示し、処理を終了する。
【0053】
これは、気化した成膜材料の粒子によりガラス基板22に膜厚Bの膜が形成され、また、気化した成膜材料の粒子によりセンサ部30に膜厚Aの膜が形成されるものとした場合、膜厚A/膜厚B=変化率Xの関係が成り立つためである。
【0054】
図6には、成膜装置10の4つの蒸発源14から同時に成膜材料としてセレンを気化させてガラス基板22に形成された膜の膜厚を上記膜厚測定処理プログラムにより導出した予測値とガラス基板22に形成された膜を実際に測定した実測値の比較結果が示されている。なお、図6では、比較結果を蒸着レートで示している。蒸着レートの予測値は、膜厚の予測値の1分間での変化から求めており、実線で示している。蒸着レートの実測値は、ガラス基板22の膜厚を実際に測定し、30分間成膜を行った後にガラス基板22の膜厚を再度実際に測定して、30分での膜厚の変化量/30とした値であり、実際に測定を行った15分時点での蒸着レートとして示している。
【0055】
膜厚を精度が良く求めることができるため、図6に示す、蒸着レートの予測値と実測値は対応している。
【0056】
このように本実施の形態に係る成膜装置10は、真空容器12の上部壁面で反射された粒子によりセンサ部30に形成された膜の膜厚を測定し、ガラス基板22に形成される膜の膜厚に対するセンサ部30に形成される膜の膜厚の変化率で減算することにより、ガラス基板22に形成された膜の膜厚を測定することができる。
【0057】
なお、上記第1の実施の形態では、真空容器12のセンサ部30が配置された位置の外側にパイプ40を配置してパイプ40に所望の温度の水を循環させることにより、真空容器12の上部壁面のセンサ部30が配置された位置に対応する領域の温度を制御する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、真空容器12のセンサ部30が配置された位置の外側に発熱体等を配置して温度を制御するようにしてもよい。また、パイプ40や発熱体を真空容器12のセンサ部30が配置された位置の真空容器12の壁面内部に埋め込むようにしてもよい。
【0058】
また、上記第1の実施の形態では、センサ部30に対して粒子が反射する反射面の温度を制御する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、温度変化に対する膜厚の変化率の変化が小さい場合や、成膜中に真空容器12の壁面のセンサ部30が配置された位置に対応する領域の温度がほぼ一定となる成膜装置10の場合、パイプ40や発熱体を設けて温度制御を行わなくてもよい。この場合、HDD105にガラス基板22に形成される膜の膜厚に対するセンサ部30に形成される膜の膜厚の変化率のみを記憶しておいてもよい。
【0059】
[第2の実施の形態]
図7には、第2の実施の形態に係る成膜装置10の構成を示す平面図が示されており、図8には、第2の実施の形態に係る成膜装置10の構成を示す側面図が示されている。なお、第1の実施の形態(図1、図2)と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0060】
第2の実施の形態に係る成膜装置10では、真空容器12の壁面で反射した粒子によるセンサ部30への影響を抑えるために、センサ部30が壁面から所定間隔てて配置されている。また、第2の実施の形態に係るセンサ部30は、成膜材料の粒子を反射させるための反射板38を有している。
【0061】
図9には、第2の実施の形態に係るセンサ部30を拡大した拡大斜視図が示されている。
【0062】
センサ部30は、略円筒形の箱状に形成されたケース32の内部に水晶振動子34が設けられており、ケース32が上方に向かって開放された状態で配置されている。反射板38は、円板形状をしており、ケース32の開放された上部で保持されるように保持部39により支持部材36に固定されている。すなわち、センサ部30は、反射板38での粒子の反射成分をモニターしている。
【0063】
ここで、このように反射板38を配置した場合、反射板38の面積及び反射板38とセンサ部30との距離によってセンサ部30に形成される膜の膜厚が異なる。
【0064】
図10には、反射板38とセンサ部30との距離SSを50mm、100mm、150mm、200mmとした場合の円板形状の反射板38の半径と反射板38で反射されてセンサ部30に入射する粒子の入射確率との関係が示されている。
【0065】
図10に示すように、半径が小さくほど入射確率は小さくなる。これは、半径が小さいほど反射板38の面積が小さくなるためである。
【0066】
また、50mmから200mmと距離SSが大きくなるほど入射確率は大きくなる。これは、距離SSが小さいときには、反射板38中心付近の反射した粒子の成分をセンサ部30で捉えるのに対し、距離SSが大きくなると反射板38全体から反射した粒子の成分をセンサ部30で捉えるためと考えられる。また水晶振動子34に対して粒子を反射できる範囲が大きくなるためであると考えられる。なお、グラフの変化から入射確率は距離が大きくなると一定の値に近づいていくと考えられる。
【0067】
本実施の形態に係る成膜装置10では、反射板38とセンサ部30との距離及び反射板38の半径がそれぞれ定められており、HDD105には、成膜材料毎に、反射板38とセンサ部30との距離及び反射板38のセンサ部30に対して粒子が反射する面の面積での、各蒸発源14から気化した成膜材料の粒子によりガラス基板22に形成される膜の膜厚に対するセンサ部30に形成される膜の膜厚の変化率を変化率情報として記憶している。この変化率情報は、例えば、成膜材料毎に、様々な温度でガラス基板22を配置して成膜を行って、実際にガラス基板22に形成される膜の膜厚とセンサ部30に形成される膜の膜厚から求めてもよい。また、図10に示すような反射板36の面積と反射板38とセンサ部30との距離との関係から解析を行って求めてもよい。
【0068】
図11には、第2の実施の形態に係る膜厚測定処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートが示されている。なお、第1の実施の形態(図1参照)と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0069】
ステップS15では、HDD105に記憶された変化率情報から操作パネル110で指定された成膜材料に対応する膜厚の変化率Xを求める。
【0070】
このように本実施の形態に係る成膜装置10は、反射板38で反射された粒子によりセンサ部30に形成された膜の膜厚を測定することにより、ガラス基板22に形成された膜の膜厚を測定することができる。
【0071】
なお、上記各実施の形態では、膜厚の測定結果を表示装置106に表示する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、測定結果をデータとして記憶するものとしてもよく、さらにネットワーク等を介して測定結果を送信するものとしてもよい。
【0072】
また、上記各実施の形態では、蒸発源14から気化した成膜材料の粒子によりガラス基板22に形成される膜の膜厚と真空容器12の内壁又は反射板38で反射した粒子によりセンサ部30に形成される膜の膜厚との関係を示す関係情報を変化率情報とした場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ガラス基板22に形成される膜の膜厚と真空容器12の内壁又は反射板38で反射した粒子によりセンサ部30に形成される膜の膜厚との関係をルックアップテーブルとして記憶しておき、センサ部30に形成される膜の膜厚を検出し、ルックアップテーブルで検出されたセンサ部30の膜の膜厚に対応するガラス基板22に形成される膜の膜厚を求めてもよい。また、ガラス基板22に形成される膜の膜厚と真空容器12の内壁又は反射板38で反射した粒子によりセンサ部30に形成される膜の膜厚との関係を示す関数を記憶しておいてもよい。
【0073】
また、上記第1の実施の形態では、パイプ40に所定の温度に加熱した水を循環させて粒子が反射する真空容器12の上部壁面の温度が一定となるように制御した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。パイプ40に循環させる水の温度を変えて上部壁面の温度が変わると、上部壁面での粒子の反射率が変わり、センサ部30での膜の成長速度が変わる。このため、例えば、測定精度が低くても構わない場合はパイプ40に循環させる水の温度を低くし、測定精度を高くする必要がある場合はパイプ40に循環させる水の温度を高くするようにしてもよい。また、1回の成膜中でも測定精度が低くする場合と測定精度を高くする場合でパイプ40に循環させる水の温度を変えて真空容器12の上部壁面の温度を変えるようにしてもよい。
【0074】
また、上記第2の実施の形態においても、反射板38とセンサ部30との距離が変わると、センサ部30への粒子の入射確率が変わり、センサ部30での膜の成長速度が変わる。このため、例えば、センサ部30及び反射板38の少なくとも一方を移動させて反射板38とセンサ部30との距離を変更する移動機構を設けて、測定精度が低くても構わない場合は反射板38とセンサ部30との距離を大きくし、測定精度を高くする必要がある場合は反射板38とセンサ部30との距離を近くするようにしてもよい。また、1回の成膜中でも測定精度が低くする場合と測定精度を高くする場合で反射板38とセンサ部30との距離を変えるようにしてもよい。
【0075】
また、上記第2の実施の形態において、反射板38に発熱体等を配置して反射板38の温度を制御するようにしてもよい。この場合、HDD105には、成膜材料毎に、反射板38とセンサ部30の距離毎、反射板38のセンサ部30に対して粒子が反射する面の面積毎、及び反射板38の温度毎の膜厚の変化率を変化率情報として記憶し、当該変化率情報から操作パネル110で指定された成膜材料の、反射板38とセンサ部30との距離、反射板38の面積、及び反射板38の温度に応じた変化率を求めるようにしてもよい。
【0076】
また、上記第1の実施の形態では、センサ部30が真空容器12の上部壁面での粒子の反射成分をモニターする場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、真空容器12の側壁面での粒子の反射成分をモニターするようにしてもよい。例えば、図12に示すように、蒸発源14−2の横の側壁面に、ケース32が側壁面に向かって開放された状態でセンサ部30を配置した場合、主に蒸発源14−2で気化された粒子により成膜される膜厚を測定することができる。また、第2の実施の形態に係るセンサ部30を真空容器12の側壁面に設けてもよい。
【0077】
また、上記各実施の形態では、基板としてガラス基板22を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、シリコン基板等であってもよい。
【0078】
また、上記各実施の形態では、成膜装置10に4つの蒸発源14を設けた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0079】
また、上記各実施の形態では、成膜装置10に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、制御部50を別体の膜厚測定装置とした膜厚測定システムとしてもよい。また、例えば、パーソナルコンピュータ等のHDDに膜厚情報や膜厚情報、膜厚測定処理プログラムを記憶させておき、例えば、キーボードから水晶振動子の発振周波数を示す周波数情報を入力してパーソナルコンピュータで膜厚を測定するようにしてもよい。
【0080】
その他、上記各実施の形態で説明した成膜装置10、センサ部30の構成(図1〜図3、図4、図7〜9、図12参照。)は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において状況に応じて変更可能であることは言うまでもない。
【0081】
さらに、上記実施の形態で説明した膜厚測定処理プログラム(図5、図11参照。)の処理の流れも一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において状況に応じて変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0082】
10 成膜装置
12 真空容器
14 蒸発源
22 ガラス基板(成膜対象物)
30 センサ部
34 水晶振動子
38 反射板
40 パイプ(温度調整手段)
42 ポンプ(温度調整手段)
44 温水タンク(温度調整手段)
50 制御部
100 CPU(導出手段)
105 HDD(記憶手段)
110 操作パネル
114 発振周波数検出部(検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に成膜対象物が配置され、当該成膜対象物に対して成膜を行う際に内部が真空とされる真空容器と、
前記真空容器の内部に配置され、成膜を行う際に成膜材料を気化させる蒸発源と、
前記真空容器の内部に配置され、付着した成膜材料の量に応じて発振周波数が変化する水晶振動子を有し、前記蒸発源側が遮蔽されると共に前記蒸発源から気化した成膜材料の粒子が前記真空容器の内壁又は前記真空容器の内部に設けられた反射板によって反射して前記水晶振動子に付着するように構成されたセンサ部と、
前記水晶振動子の発振周波数を検出する検出手段と、
前記蒸発源から気化した成膜材料の粒子により前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記真空容器の内壁又は前記反射板で反射した前記粒子により前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を示す関係情報を記憶した記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記関係情報、及び前記検出手段により検出される前記水晶振動子の発振周波数に基づいて前記成膜対象物上の膜厚を導出する導出手段と、
を備えた成膜装置。
【請求項2】
前記水晶振動子に対して前記粒子が反射する真空容器の内壁の反射面又は前記反射板の温度を調整する温度調整手段をさらに備え、
前記関係情報は、前記反射面又は前記反射板の温度毎の前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を示すものとし、
前記導出手段は、前記記憶手段により記憶された関係情報に基づいて、前記調整手段により調整された温度での前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を求め、前記検出手段により検出された前記水晶振動子の発振周波数に基づいて前記成膜対象物上の膜厚を導出する
請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記関係情報は、前記反射板と前記センサ部の距離毎及び前記反射板の前記センサ部に対して前記粒子が反射する面の面積毎の前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係、又は前記水晶振動子に対して前記粒子が反射する真空容器の内壁の反射面と前記センサ部間の距離毎の前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を示すものとし、
前記導出手段は、前記記憶手段により記憶された関係情報に基づいて、前記反射板と前記センサ部の距離及び前記反射板の面積、又は前記反射面と前記センサ部間の距離での前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を求め、前記検出手段により検出された前記水晶振動子の発振周波数に基づいて前記成膜対象物上の膜厚を導出する
請求項1又は請求項2記載の成膜装置。
【請求項4】
成膜を行う際に成膜材料を気化させる蒸発源から気化した成膜材料の粒子により真空容器の内部に配置された成膜対象物に形成される膜の膜厚と、前記蒸発源側が遮蔽されると共に前記蒸発源から気化した成膜材料の粒子が前記真空容器の内壁又は前記真空容器の内部に設けられた反射板によって反射して前記水晶振動子に付着するように構成されたセンサ部に形成される膜の膜厚との関係を示す関係情報を記憶した記憶手段と、
前記水晶振動子の発振周波数を示す周波数情報を取得する取得手段と、
前記記憶手段に記憶された関係情報及び前記取得手段により取得される前記水晶振動子の発振周波数に基づいて前記成膜対象物上の膜厚を導出する導出手段と、
を備えた膜厚測定装置。
【請求項5】
内部に成膜対象物が配置され、当該成膜対象物に対して成膜を行う際に内部が真空とされる真空容器、前記真空容器の内部に配置され成膜を行う際に成膜材料を気化させる蒸発源、前記真空容器の内部に配置され付着した成膜材料の量に応じて発振周波数が変化する水晶振動子を有し前記蒸発源側が遮蔽されると共に前記蒸発源から気化した成膜材料の粒子が前記真空容器の内壁又は前記真空容器の内部に設けられた反射板によって反射して前記水晶振動子に付着するように構成されたセンサ部、並びに前記水晶振動子の発振周波数を検出する検出手段を備えた成膜装置と、
前記蒸発源から気化した成膜材料の粒子により前記成膜対象物に形成される膜の膜厚と前記真空容器の内壁又は前記反射板で反射した前記粒子により前記センサ部に形成される膜の膜厚との関係を示す関係情報を記憶した記憶手段、並びに前記記憶手段に記憶された前記関係情報及び前記検出手段により検出される前記水晶振動子の発振周波数に基づいて前記成膜対象物上の膜厚を導出する導出手段を備えた膜厚測定装置と、
を有する膜厚測定システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate