説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】生産性を低下させることなく、成膜対象物上に形成される薄膜の膜厚管理を正確な精度で行うことができる成膜装置及びその成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜材料を加熱し、前記成膜材料の蒸気を放出するための成膜源21と、成膜源21を所定の成膜待機位置と成膜位置との間で移動させるための移動手段(成膜源ユニット20)と、成膜源21から放出される前記成膜材料の蒸気の量をモニタするための測定用水晶振動子22と、測定用水晶振動子22に付着した前記成膜材料の膜から測定値を校正するための校正用水晶振動子23と、を有し、成膜対象物に前記成膜材料からなる膜を形成する成膜装置1であって、前記移動手段が、測定用水晶振動子22及び校正用水晶振動子23を保持することを特徴とする、成膜装置1、及び成膜装置1を利用して行う成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及びこの成膜装置を利用して行う成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸着やスパッタリング等で基板等の成膜対象物に薄膜を形成する際には、形成される薄膜の膜厚を制御するために、成膜室内に水晶振動子を配置している。成膜室内に水晶振動子を配置すると、薄膜を形成する際に、水晶振動子と成膜対象物とに薄膜を構成する成膜材料が堆積される。ここで水晶振動子に成膜材料が堆積すると、堆積される成膜材料の量に応じて水晶振動子の共振周波数が変化する。この現象を利用して、共振周波数の変化量から水晶振動子に堆積した膜厚を算出し、予め成膜対象物との膜厚比を求めておくことで、成膜対象物に堆積する成膜材料の膜厚を知ることができる。
【0003】
しかし、水晶振動子に成膜材料が堆積するにつれて、共振周波数の変化量と成膜対象物に堆積する膜厚値との関係にズレが生じてくる。このため、長期間にわたって成膜対象物の膜厚を正確に管理することは困難であった。
【0004】
そこで、特許文献1には、成膜対象物の膜厚管理において問題となる膜厚値の誤差を小さくする方法が開示されている。即ち、特許文献1では、成膜室内に従来通りの測定用の水晶振動子とは別に、測定用の水晶振動子の共振周波数の変化量から算出される膜厚値のズレを校正する校正用の水晶振動子を設ける方法を採用している。
【0005】
通常の成膜工程では、先ず成膜対象物を成膜室に搬入し、成膜対象物に成膜を行う。ここで成膜対象物に成膜を行う際は、測定用の水晶振動子に成膜材料を堆積させて、成膜対象物の膜厚を管理している。そして成膜が終了すると成膜対象物を成膜室から搬出して成膜工程を終える。しかし、成膜工程を複数回繰り返すと測定用の水晶振動子に成膜材料が堆積してくるので、成膜工程を繰り返すたびに膜厚管理の精度が低下してくる。そこで、校正用の水晶振動子を用いて測定用の水晶振動子から算出される膜厚を校正する校正工程を行う。
【0006】
特許文献1にて開示される成膜方法によれば、校正工程は成膜工程間、即ち、成膜工程が完了してから次の成膜工程が開始するまでに行う。この校正工程では、まず校正用の水晶振動子及び測定用の水晶振動子にそれぞれ成膜材料を堆積させる。そして、校正用の水晶振動子から求まった成膜対象物上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値P0)と、測定用の水晶振動子から求まった成膜対象物上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値M0)とをそれぞれ測定してから校正係数P0/M0を求める。そして校正工程後に行われる成膜工程では、測定用の水晶振動子が算出される成膜対象物の膜厚値M1に、先に求めた校正係数P0/M0を乗算することで成膜対象物の膜厚を正確に管理している。
【0007】
一方、特許文献2には、成膜対象物の面内に均一な膜厚で成膜する装置及び成膜方法が開示されている。特許文献2にて開示されている薄膜形成装置は、移動可能な成膜源が、固定された成膜対象物の下方を等速運動している。この薄膜形成装置を用いて薄膜を形成することにより、面積が広い成膜対象物においてもこの成膜対象物の面内に均一な膜厚で成膜を行うことができる。
【0008】
また特許文献2の薄膜形成装置では、成膜源からの成膜材料の放出量をモニタするために、成膜源の待機位置の上方に固定された膜厚センサーを設けている。この膜厚センサーにより成膜材料の成膜速度を検出することができるので、所望の成膜速度になった時点で成膜源が成膜位置に移動して、成膜対象物に成膜を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−122200号公報
【特許文献2】特開2004−091919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように特許文献1では、成膜工程と成膜工程との間に校正工程を行っている。しかし、校正工程を成膜工程と成膜工程との間に行っていると、その間成膜対象物に成膜が行えないので生産性が低下するという問題があった。また校正工程を行う際に成膜対象物が成膜室前で滞留するので、若干ではあるが高真空中に含まれている水分等の不純物を成膜対象物上に形成される薄膜が吸収するため、膜純度が低下していた。
【0011】
一方、特許文献2では、成膜源の待機位置(成膜対象物への成膜を行わない位置)に膜厚センサーが固定されているため、この膜厚センサーは成膜工程中に成膜源から放出される成膜材料の放出量をモニタすることができない。このため特許文献2に開示される薄膜形成装置に特許文献1にて開示される校正用の水晶振動子を設けたとしても、成膜工程中に校正工程を行うことは不可能であった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされるものである。本発明の目的は、生産性を低下させることなく、成膜対象物上に形成される薄膜の膜厚管理を正確な精度で行うことができる成膜装置及びその成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の成膜装置は、成膜材料を加熱し、前記成膜材料の蒸気を放出するための成膜源と、
前記成膜源を所定の成膜待機位置と成膜位置との間で移動させるための移動手段と、
前記成膜源から放出される前記成膜材料の蒸気の量をモニタするための測定用水晶振動子と、
前記測定用水晶振動子に付着した前記成膜材料の膜から測定値を校正するための校正用水晶振動子と、を有し、
成膜対象物に前記成膜材料からなる膜を形成する成膜装置であって、
前記移動手段が、前記測定用水晶振動子及び前記校正用水晶振動子を保持することを特徴とする。
【0014】
また本発明の成膜方法は、成膜材料を含む成膜源を加熱して前記成膜材料の蒸気を放出し、前記成膜材料の蒸気の放出量を測定用水晶振動子にてモニタしながら成膜対象物に前記成膜材料からなる膜を形成する成膜工程と、
前記測定用水晶振動子から求められる膜厚値に基づいて、前記成膜源の加熱温度を調整する制御工程と、
前記成膜材料の蒸気の放出量を校正用水晶振動子にてモニタして求められる膜厚値を用いて前記測定用水晶振動子から求められる膜厚値を校正するための校正工程と、を有し、
前記校正工程は、前記成膜対象物に成膜を行う成膜工程の最中に行われ、
前記校正工程は、前記測定用水晶振動子と前記校正用水晶振動子のそれぞれが前記成膜材料の蒸気の放出量を測定する工程と、
前記校正用水晶振動子上に成膜される前記成膜材料の膜厚値A、及び前記測定用水晶振動子上に成膜される前記成膜材料の膜厚値Bを求める工程と、
前記A及び前記Bとの比(A/B)を用いて前記測定用水晶振動子上に成膜される前記成膜材料の膜厚値を校正する校正係数を算出する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産性を低下させることなく、成膜対象物上に形成される薄膜の膜厚管理を正確な精度で行うことができる成膜装置及びその成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の成膜装置における実施形態の例を示す概略図であり、(a)は、成膜源が成膜待機位置にあるときの概略図であり、(b)及び(c)は、成膜源が成膜位置にあるときの概略図である。
【図2】図1の成膜装置の制御系を示す回路ブロック図である。
【図3】成膜対象物上に成膜される成膜材料の膜厚制御フローを示すフロー図である。
【図4】校正工程を行ったときと行わなかったときにおける成膜対象物上の薄膜の膜厚を比較したグラフである。
【図5】成膜工程と校正工程とを所定のサイクルで実施した際の時間経過をシミュレートした図であり、(a)は、校正工程を成膜工程の最中に行ったときの時間の流れを示す図であり、(b)は、校正工程を成膜工程と成膜工程との間に行ったときの時間の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の成膜装置は、成膜源と、この生膜源を移動させるための移動手段と、測定用水晶振動子と、校正用水晶振動子と、を有している。
【0018】
本発明の成膜装置において、成膜対象物上に成膜材料の薄膜を形成する際には、成膜源にて成膜材料を加熱し、成膜材料の蒸気を放出させる。
【0019】
本発明の成膜装置においては、成膜源を所定の成膜待機位置と成膜位置との間で移動させる移動手段が設けられている。そしてこの移動手段は、成膜源に対する相対位置を保持するように測定用水晶振動子及び校正用水晶振動子を保持している。
【0020】
本発明の成膜装置において、測定用水晶振動子は、成膜対象物上に形成される成膜材料の薄膜の膜厚を測定する水晶振動子であり、校正用水晶振動子は、測定用水晶振動子を校正する水晶振動子である。尚、本発明において、校正用水晶振動子が測定用水晶振動子を校正するタイミングは任意に決めることができる。
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の成膜装置について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また本発明は、発明の主旨を変更しない範囲において、適宜変更することが可能である。
【0022】
図1は、本発明の成膜装置における実施形態の例を示す概略図である。図1において、(a)は、成膜源が成膜待機位置にあるときの概略図であり、(b)及び(c)は、成膜源が成膜位置にあるときの概略図である。尚、図1は、成膜装置を正面から見たときの断面概略図である。
【0023】
図1の成膜装置1は、成膜室10内に、成膜源21の移動手段である成膜源ユニット20が所定の位置に設けられている。この成膜ユニット20内には、2種類の水晶振動子、即ち、測定用水晶振動子22と、校正用水晶振動子23と、が設けられている。
【0024】
以下、図1の成膜装置1の構成部材について説明する。尚、図1の成膜装置1は、例えば、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の製造に用いられる。
【0025】
図1の成膜装置1において、成膜室10は、真空排気系(不図示)と接続されている。この真空排気系により、成膜室10内の圧力が1.0×10-4Pa乃至1.0×10-6Paの範囲になるように真空排気できるようになっている。
【0026】
図1の成膜装置1において、成膜源ユニット20は、成膜室10内に設けられるレール24に沿って、図1(a)の矢印の方向、具体的には、成膜待機位置と成膜位置との間を往復移動することができる。ここで成膜待機位置とは、成膜対象物30上に成膜材料の成膜を行っていないときの成膜源ユニット20の位置をいう。具体的には、成膜源ユニット20の直上に成膜対象物30がない図1(a)のように、蒸着材料が付着する範囲の外に成膜対象物30があるときの成膜源ユニット20の位置をいう。一方、成膜位置とは、成膜対象物30上に成膜材料の成膜を行っているときの成膜源ユニット20の位置をいう。具体的には、図1(b)及び(c)に示されるように、蒸着材料が付着する範囲(成膜範囲)内に成膜対象物30があるときの成膜源ユニット20の位置をいう。
【0027】
尚、本発明において、成膜源ユニット20の形状は特に限定されるものではないが、成膜材料の蒸気を所定の位置から選択的に放出させるという観点で、上部に成膜材料の蒸気を放出するための開口部25を設けた筐体にするのが好ましい。成膜源ユニット20を筐体にすることにより、成膜源ユニット20から放出される成膜材料の蒸気の進行方向やその分布を開口部25の形状により制御することができる。また本発明において、成膜源ユニット20の大きさも特に限定されるものではない。尚、成膜源ユニット20の大きさは、成膜室10等の他の部材とのバランスを考慮して適宜設定される。
【0028】
図1(a)に示されるように、成膜源ユニット20を、レール24に沿って成膜待機位置と成膜位置との間を往復移動する際には、成膜源ユニット20に移動速度を制御する移動制御手段(不図示)を設けてもよい。特に、この移動制御手段によって成膜源ユニット20を等速度で移動させることができると、成膜対象物30上に成膜材料が均一に成膜されるので、好ましい。
【0029】
成膜源ユニット20内に設けられる成膜源21の形状は、成膜対象物30の大きさや成膜材料の蒸気の分布を考慮して適宜設定することができる。また成膜源ユニット20内に設けられる成膜源21を複数設けてもよい。一方、成膜源ユニット20内に設けられる成膜源21の中には、成膜材料(不図示)が収容されている。成膜源21が備える加熱手段(不図示)で成膜材料を加熱することで、成膜源21から成膜材料の蒸気を放出することができる。
【0030】
また成膜源ユニット20内には、2種類の水晶振動子、即ち、測定用水晶振動子22と、校正用水晶振動子23と、が設けられている。ここで2種類の水晶振動子(測定用水晶振動子22、校正用水晶振動子23)は、成膜源ユニット20内の所定の位置、具体的には、成膜対象物30へ向かう成膜材料の蒸気を遮断しない位置に固定されている。2種類の水晶振動子は、常に成膜源21と共に移動する。このため、成膜源21に対する2種類の水晶振動子(測定用水晶振動子22、校正用水晶振動子23)の相対的位置は常に所定の位置に保持されている。言い換えれば、成膜源21と測定用水晶振動子22との相対位置、及び成膜源21と校正用水晶振動子23との相対位置は、いずれも常に一定である。このように成膜源21と水晶振動子(測定用水晶振動子22、校正用水晶振動子23)との相対位置を一定に保つことは、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気の量をモニタする上で重要である。
【0031】
尚、2種類の水晶振動子(測定用水晶振動子22、校正用水晶振動子23)の近傍には、センサーシャッター26を設けてもよい。センサーシャッター26を設けることにより、所定のタイミングで各水晶振動子に成膜材料を付着させたり成膜材料の蒸気を遮断したりすることができる。
【0032】
成膜源ユニット20内に設けられる測定用水晶振動子22は、成膜源21から放出される成膜材料の放出量をモニタできる位置に配置されている。成膜材料が測定用水晶振動子22に堆積することにより、測定用水晶振動子22の共振周波数が変化する。図2は、図1の成膜装置の制御系を示す回路ブロック図である。図2に示されるように、測定用水晶振動子22の共振周波数の変化量は、膜厚測定器41が感知する。そして膜厚測定器41から出力される電気信号(測定用水晶振動子22の共振周波数の変化量の情報に関する電気信号)を制御系40が備える温度調節器(不図示)に送信して成膜源21の加熱手段の制御、例えば、成膜材料への加熱温度の調整を行う。こうすることで、成膜源21から放出される成膜材料の放出量が一定になるように制御されている。
【0033】
成膜源ユニット20内に設けられる校正用水晶振動子23は、成膜源21から放出される成膜材料(の蒸気)が到達できる位置に配置されている。図2に示されるように、成膜材料の付着に伴う校正用水晶振動子23の共振周波数の変化量は、膜厚測定器42が感知する。そして膜厚測定器42から出力される電気信号(校正用水晶振動子23の共振周波数の変化量の情報に関する電気信号)は、制御系40に送信された後、測定用水晶振動子22へ送信され適宜測定用水晶振動子22の校正を行う。
【0034】
図1の成膜装置1において、基板等の成膜対象物30は、搬送機構(不図示)によって成膜室10へ搬入したり、成膜室10から搬出されたりしている。また成膜対象物30を成膜室10へ搬入する際には、支持部材(不図示)を用いて成膜対象物30を所定の位置で支持する。
【0035】
次に、本発明の成膜装置を利用した成膜方法について説明する。
【0036】
本発明の成膜方法は、特に、成膜対象物に成膜を行う成膜工程の最中に校正工程を行うことを特徴とするものである。
【0037】
本発明の成膜方法において、校正工程は、下記(i)乃至(iii)の工程を有している。
測定用水晶振動子と校正用水晶振動子とにそれぞれ成膜材料を成膜させる工程
(ii)校正用水晶振動子上に成膜される成膜材料の膜厚値A及び測定用水晶振動子上に成膜される成膜材料の膜厚値Bを求める工程
(iii)A及びBとの比(A/B)を用いて測定用水晶振動子を校正する工程
(i)成膜材料を含む成膜源を加熱して前記成膜材料の蒸気を放出し、当該成膜材料の蒸気の放出量を測定用水晶振動子にてモニタしながら成膜対象物に前記成膜材料からなる膜を形成する成膜工程
(ii)測定用水晶振動子から求められる膜厚値に基づいて、前記成膜源の加熱温度を調整する制御工程
(iii)成膜材料の蒸気の放出量を校正用水晶振動子にてモニタして求められる膜厚値を用いて前記測定用水晶振動子から求められる膜厚値を校正するための校正工程
以下、本発明の成膜方法について具体的に説明する。
【0038】
先ず、成膜の準備段階として、測定用水晶振動子22にある一定時間あたりに堆積する膜厚と、校正用水晶振動子23にある一定時間あたりに堆積する膜厚と、成膜対象物30に堆積する膜厚と、をそれぞれ測定しその測定値を元に膜厚比を求める準備工程を行う。 この準備工程では、まず成膜対象物30を搬送機構(不図示)で成膜室10内に搬入する。次に、成膜源21からの放出量が所望の放出量になった時点で成膜源ユニット20の移動を開始し、成膜対象物30に成膜材料の薄膜を形成する。そして所定の移動条件で所定の回数往復移動した後、搬送機構(不図示)を使用して成膜対象物30を成膜室10から搬出する。
【0039】
ここで搬出した成膜対象物30上に形成された薄膜について、光学式や接触式の膜厚測定器で膜厚を測定し、その測定値(膜厚値)をtとする。一方で成膜対象物30上に成膜材料を成膜する際に、測定用水晶振動子22上に所定時間あたりに堆積する薄膜の膜厚は、測定用水晶振動子22の共振振動数の変化量より測定できる。ここで測定用水晶振動子22に所定時間あたりに堆積する薄膜の膜厚(膜厚値)をMとすると、tとMとの比(膜厚比)αが、α=t/Mと求まる。
【0040】
また測定用水晶振動子22のときと同様に、校正用水晶振動子23の共振振動数の変化量より校正用の水晶振動子23上に所定時間あたりに堆積する薄膜の膜厚(膜厚値)をPとすると、tとPとの比(膜厚比)βが、β=t/Pと求まる。尚、βは、β(=t/P)=α×M/Pと表すことができる。
【0041】
ここで、膜厚比βを求める際には、センサーシャッター26を利用するなりして校正用水晶振動子23に成膜材料が必要以上に堆積するのを防止するのが好ましい。こうすることで、校正用水晶振動子23が有する膜厚測定精度を高いまま維持する時間を長くすることができる。
【0042】
以上のようにして膜厚比α及びβを求めた後、成膜対象物30上に成膜材料の成膜を行う成膜工程を行う。
【0043】
成膜工程では、まず成膜対象物30となる基板を成膜室10内に搬入する。次に、成膜源ユニット20を、所定の条件で成膜待機位置と成膜位置とを往復移動させて成膜対象物30上に成膜材料を成膜する。成膜が終了すると成膜室10内から成膜対象物30を搬出する。そしてこの成膜工程を繰り返すことで複数の成膜対象物30に成膜材料の成膜を行うことができる。
【0044】
図3は、成膜対象物30上に成膜される成膜材料の膜厚制御フローを示すフロー図である。尚、図3のフロー図には、校正工程のフローも併せて示している。以下、図2の回路ブロック図と併せて説明する。
【0045】
先ず、校正工程を行わないときは、校正用水晶振動子23の近傍にあるセンサーシャッター26が閉じられる一方で、測定用水晶振動子22に成膜材料が堆積される。このとき測定用水晶振動子22に電気的に接続された膜厚測定器41で水晶振動子の共振周波数の変化量を測定する。膜厚測定器41で測定された共振周波数の変化量から膜厚測定器41内で、測定用水晶振動子22に所定時間あたりに堆積した膜厚値M0’を算出する。そして膜厚測定器41は、電気的に接続され制御系40が備える温度調節器(不図示)に膜厚値M0’を送信すると共に、成膜対象物30に堆積する薄膜の膜厚、即ち、膜厚値t0(=α×M0’)を求める。ここでt0が所望の膜厚より厚い場合は、制御系40が備える温度調節器(不図示)によって成膜源21の温度を下げるように、膜厚測定器41から温度調節器へ電気信号が送信される。一方、t0が所望の膜厚が薄い場合は、温度調節器によって成膜源21の温度を上げるように、膜厚測定器41から温度調節器へ電気信号が送信される。他方、t0が所望の膜厚と等しい場合は、温度調節器によって成膜源21の温度を維持するように、膜厚測定器41から温度調節器へ電気信号が送信される。尚、上述したように、測定用水晶振動子22と成膜源21との相対的な位置関係は常に変化しないので、成膜源ユニット20が移動しているときでも膜厚値M0’のモニタと、成膜源21の温度制御とを常時行うことができる。このため、成膜源21から放出される成膜材料の放出量を一定に維持することができる。
【0046】
しかし、成膜源21が稼動している間では、常に、測定用水晶振動子23に成膜材料が堆積していくので、徐々に膜厚の測定精度が低下していく。かかる場合には以下に説明する校正工程を行う。
【0047】
校正工程では、校正用水晶振動子23の近傍にあるセンサーシャッター26を、成膜工程中の任意のタイミングで開放状態にする。ここで所定時間以上の間センサーシャッター26を開放状態にすることで、校正用水晶振動子23に一定量の成膜材料が堆積するため、所定時間あたりに校正用水晶振動子23上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値P1)を求めることができる。同時に、所定時間あたりに測定用水晶振動子22上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値M1)を求めることができる。膜厚値P1及びM1をそれぞれ求めたらセンサーシャッター26を閉めておく。ここで、成膜対象物30上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値)は、膜厚値P1を用いてβP1と求まる一方で、膜厚値M1を用いてαM1とも求まる。
【0048】
ところで、校正用水晶振動子23に堆積される成膜材料の膜の量は極端に少ないので、膜厚測定誤差が小さい。その一方で、測定用水晶振動子22には成膜材料が充分堆積しており膜厚測定誤差が大きい。このため、必ずしもβP1=αM1とはならない。そこで、膜厚値M1に補正係数(βP1/αM1)を乗算する。そうすると、測定用水晶振動子22から求められる膜厚値を、誤差が小さい校正用水晶振動子23から求めた膜厚値(βP1)と等しくすることができるので、誤差の少ない膜厚値を求めることができる。
【0049】
校正工程後は、測定用水晶振動子23に堆積した成膜材料の膜厚値M1’を求める。そして、制御系40にて、M1’に校正係数γ1(=(βP1)/(αM1))とαとを乗算した値αγ11’が、成膜対象物30に堆積させる所望の膜厚値となるよう、成膜源21の温度を制御系40が備える温度調節器(不図示)にて制御する。
【0050】
以上のようにして適宜校正工程を実施して、n回目の校正工程後に行う成膜工程では、測定用水晶振動子22に成膜材料を堆積させ、膜厚測定器41にてある一定時間あたりに堆積する膜厚値Mn’を求める。次にMn’に校正係数(γ1×γ2×…×γn)とαを乗算した値α×(γ1×γ2×…×γn)×Mn’が、成膜対象物30に堆積させる所望の膜厚値となるように、成膜源21の温度を制御系40が備える温度調節器(不図示)にて制御する。
【0051】
校正工程は成膜工程の最中に行うことを前提として任意のタイミングで行うことができるが、一定時間ごとに行ってもよいし、ある複数枚の成膜対象物ごとに行ってもよい。また測定用水晶振動子22の共振周波数の減衰量が所定量に達した時点で行ってもよいし、測定用水晶振動子22の共振周波数がある値になった時点に行ってもよい。
【0052】
図4は、校正工程を行ったときと行わなかったときにおける成膜対象物30上の薄膜の膜厚を比較したグラフである。図4に示されるように、校正工程を適宜行うことで成膜対象物30上の膜厚の誤差を低減できているのがわかる。
【0053】
図5は、成膜工程と校正工程とを所定のサイクルで実施した際の時間経過をシミュレートした図である。図5において、(a)は、校正工程を成膜工程の最中に行ったときの時間の流れを示す図であり、(b)は、校正工程を成膜工程と成膜工程との間に行ったときの時間の流れを示す図である。言い換えると、図5(a)は、本発明の成膜方法を採用したときの図であり、図5(b)は、従来の成膜方法を採用したときの図である。図5は、成膜工程を1回あたり10分行うものとし、5回の成膜工程毎に1回あたり5分の校正工程を行うサイクルを24時間行った場合を示している。図5に示されるように、校正工程を成膜工程の最中に行うことによって、校正工程を成膜工程と成膜工程との間に行ったときと比べて成膜工程の数を多くすることができる。
【0054】
ここで本発明の成膜装置では、図1に示されるように、装置内に、成膜源21と、測定用水晶振動子22と、校正用の水晶振動子23とを有する成膜源ユニット20を備えている。また成膜源21と2つの水晶振動子(22、23)とが互いの配置関係を維持しながら常に一緒に移動する。このため、いつでも校正工程を行うことが可能となる。また成膜工程の最中に校正工程を行うことで、生産性を低下させることなく、成膜対象物の滞留によって発生する膜純度の低下を防ぎ、かつ、正確な膜厚精度で成膜を行うことができる。
【実施例】
【0055】
[実施例1]
図1に示される成膜装置を用いて基板上に成膜材料を成膜した。
【0056】
本実施例では、成膜源ユニット20を、搬送距離1000mm、搬送速度20mm/sで一回往復させることで成膜を行った。また、基板(成膜対象物30)の長手方向の長さは500mmである。
【0057】
また本実施例においては、基板(成膜対象物30)上に成膜される成膜材料の薄膜の膜厚が100nmとなるように成膜源21の加熱温度を調整した。
【0058】
また本実施例においては、測定用水晶振動子22及び校正用水晶振動子23には、INFICON社製金電極の6MHz水晶振動子を用いた。
【0059】
先ず、成膜の準備工程を行った。
【0060】
この準備工程では、始めに膜厚測定用の基板(成膜対象物30)を成膜室10内に搬入し、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気量が所望の値で安定したことを確認して、成膜源ユニット20を搬送速度20mm/sで移動を開始した。成膜源ユニット20が移動を開始して10秒後にセンサーシャッター26を開放状態にし、校正用水晶振動子23に成膜材料を堆積させた。そしてセンサーシャッター26を開放状態にしてから30秒後から90秒後までに測定用水晶振動子22に堆積した成膜材料の膜厚M(nm)、及び校正用の水晶振動子23に堆積した成膜材料の膜厚P(nm)をそれぞれ求めた。
【0061】
次に、センサーシャッター26を開放状態にしてから91秒後にセンサーシャッター26を閉鎖した。次に、成膜源ユニット20がスタート位置(成膜待機位置)に戻った時点で、膜厚測定用の基板(成膜対象物30)を、搬送手段(不図示)を用いて成膜室10から搬出した後、光学系や接触式の膜厚測定器で膜厚を測定した。これにより測定した膜厚測定用の基板上に形成される薄膜の膜厚(膜厚値:t(nm))が求まる。すると、基板と測定用水晶振動子22とそれぞれに1分間に堆積する膜厚値の比αは、α=t/Mとなり、基板と校正用水晶振動子23に1分間に堆積する膜厚値の比βはβ=t/Pとなる。尚、準備工程では基板の膜厚値t(nm)はt=αM=βPという関係式を満たしていた。
【0062】
次に、成膜工程に移行した。成膜工程では先ず、成膜対象物30となる基板を成膜室10内に搬入した。搬入が完了した後、成膜源ユニット20の移動を開始した。成膜源ユニット20が移動を終了した後、基板を成膜室10から搬出し成膜工程を終えた。
【0063】
成膜工程を複数回行う内に、測定用水晶振動子22に膜が堆積していくので、膜厚の測定誤差が徐々に大きくなる。そこで、以下に説明する校正工程を行った。
【0064】
1回目の校正工程は、10回目の成膜工程の最中に行った。具体的には、成膜源ユニット20が待機位置から移動を開始してから10秒後にセンサーシャッター26を開放状態にした。そしてセンサーシャッター26を開放状態にしてから20秒後から80秒後までの間に測定用水晶振動子22に堆積した成膜材料の膜厚(膜厚値:M1(nm))、及び校正用の水晶振動子23に堆積した成膜材料の膜厚(膜厚値:P1(nm))を求めた。ここでM1及びP1から、基板上に成膜される成膜材料の膜厚(膜厚値)は、αM1(nm)又はβP1(nm)と求まる。しかし膜厚値αM1(nm)は誤差が大きく、膜厚値βP1(nm)は誤差が小さい。そのため必ずしもαM1=βP1とはならない。そこで、校正係数γ1=(βP1)/(αM1)を求める。校正係数γ1を求めた後の成膜工程では、測定用水晶振動子22に1分間に堆積する膜厚値M1’に校正係数γ1と膜厚比αとを乗算した値(α×γ1×M1’)が基板に堆積する所望の膜厚100nmになるよう成膜源21の加熱温度の調整を行った。
【0065】
ただし、成膜源ユニット20を移動する最中に成膜源21の加熱温度を変更すると、成膜源21からの噴出量がハンチングしたり、また、急に噴出量が変わって基板の面内に均一な膜が成膜されなかったりすることがある。このため、成膜源21の加熱温度の変更は、成膜源ユニット20の移動終了後に行った。こうすると、基板を搬出してから次の基板を搬入する間に、成膜源21からの噴出量のハンチングが終わるので、スムーズに次の成膜に移行できた。
【0066】
以上のようにして、成膜工程と校正工程とを行い、10n回目の成膜工程の最中に行うn回目の校正工程において、各水晶振動子上に成膜される薄膜の膜厚を求めた。具体的には、1分間に校正用水晶振動子23上に成膜される成膜材料の膜厚(膜厚値:Pn(nm))、及び測定用水晶振動子22上に成膜される成膜材料の膜厚(膜厚値:Mn(nm))を求めた。そうすると、校正係数γnは、γn=(βPn)/(αMn)と求まる。校正係数γnを求めた後の成膜工程では、1分間に測定用水晶振動子22上に成膜される成膜材料の膜厚(膜厚値Mn’)に1回目乃至n回目の校正工程で求めた校正係数と膜厚比αを乗算した値となるように成膜源21の加熱温度を調整する。即ち、α×(γ1×γ2×…×γn)×Mn’が100(nm)となるように成膜源21の加熱温度を調整する。尚、上述したように、成膜源21の加熱温度の変更は成膜源ユニット20の移動が終了した後に行った。
【0067】
このようにして成膜を行った結果、生産性を低下させることなく、基板(成膜対象物30)が成膜室10内に滞留することによって発生する膜純度の低下を防ぎ、かつ正確な膜厚精度で成膜を行うことができることがわかった。
【符号の説明】
【0068】
1:成膜装置、10:成膜室、20:成膜源ユニット、21:成膜源、22:測定用水晶振動子、23:校正用水晶振動子、24:レール、25:開口部、26:センサーシャッター、30:成膜対象物、40:制御系、41(42):膜厚測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料を加熱し、前記成膜材料の蒸気を放出するための成膜源と、
前記成膜源を所定の成膜待機位置と成膜位置との間で移動させるための移動手段と、
前記成膜源から放出される前記成膜材料の蒸気の量をモニタするための測定用水晶振動子と、
前記測定用水晶振動子に付着した前記成膜材料の膜から測定値を校正するための校正用水晶振動子と、を有し、
成膜対象物に前記成膜材料からなる膜を形成する成膜装置であって、
前記移動手段が、前記測定用水晶振動子及び前記校正用水晶振動子を保持することを特徴とする、成膜装置。
【請求項2】
成膜材料を含む成膜源を加熱して前記成膜材料の蒸気を放出し、前記成膜材料の蒸気の放出量を測定用水晶振動子にてモニタしながら成膜対象物に前記成膜材料からなる膜を形成する成膜工程と、
前記測定用水晶振動子から求められる膜厚値に基づいて、前記成膜源の加熱温度を調整する制御工程と、
前記成膜材料の蒸気の放出量を校正用水晶振動子にてモニタして求められる膜厚値を用いて前記測定用水晶振動子から求められる膜厚値を校正するための校正工程と、を有し、
前記校正工程は、前記成膜対象物に成膜を行う成膜工程の最中に行われ、
前記校正工程は、前記測定用水晶振動子と前記校正用水晶振動子のそれぞれが前記成膜材料の蒸気の放出量を測定する工程と、
前記校正用水晶振動子上に成膜される前記成膜材料の膜厚値A、及び前記測定用水晶振動子上に成膜される前記成膜材料の膜厚値Bを求める工程と、
前記A及び前記Bとの比(A/B)を用いて前記測定用水晶振動子上に成膜される前記成膜材料の膜厚値を校正する校正係数を算出する工程と、を有することを特徴とする、成膜方法。
【請求項3】
前記成膜装置が請求項1に記載の成膜装置であることを特徴とする、請求項2に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−112036(P2012−112036A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211799(P2011−211799)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】