説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】スパッタリングによる複数材料の薄膜形成における装置機構の複雑化を抑えて簡素化し、装置コストの上昇を抑制することが可能な成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】スパッタリング装置1は、真空チャンバ2と、基板31を保持する基板ホルダ32と、真空チャンバ2内で基板31に対向可能な状態にターゲット11,12をそれぞれ支持するカソード機構21,22と、互いに材質の異なるターゲット11,12と基板31との間に個別に進退してターゲット11,12で発生した成膜粒子を遮蔽又は開放するシャッタ41,42とを備えている。これらシャッタ41,42の少なくとも1つ、例えばシャッタ42を、ターゲット11,12の材料とは異なるターゲット材料で形成してターゲット兼用シャッタとして構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングにより薄膜を形成するための成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置、ディスプレー装置、照明装置、撮像装置、その他の電子部品、光学部品等を製造する過程においては、薄膜形成技術が不可欠である。薄膜を形成するための方法として、スパッタリング方法が良く知られている。スパッタリングによる薄膜形成技術は、低温薄膜形成が可能、大面積薄膜形成が可能、成膜パラメータの電気的制御が容易である等の利点がある。
【0003】
スパッタリング方法は、スパッタリング装置により実施される。このようなスパッタリング方法では、加速されたイオンをターゲットに対して照射し、ターゲットからターゲット粒子を弾き出し、そのターゲット粒子を、シリコンウェーハ上やガラス基板上に薄膜状に堆積させる。
【0004】
スパッタリングによる薄膜形成技術は、蒸着法やCVD(化学気相成長法:Chemical Vapor Deposition)法と比較して、性能面で優れる部分も多い反面、装置機構が複雑になる場合がある。例えばターゲットが複数(例えば3個)備えた従来のスパッタリング装置71について、模式的に示す図15を参照して説明する。
【0005】
図15に示すように、従来のスパッタリング装置71は、真空チャンバ72を備えている。真空チャンバ72内の上部には、一端を接地されてアノードとして機能する基板ホルダ32が配置されており、この基板ホルダ32には基板31が着脱可能に保持される。基板31として用いるレンズに形成する膜は、一般的な光学部品の反射防止膜であり、例えばTa、SiO、Alからなる多層膜である。
【0006】
真空チャンバ72内の中央部にはカソード機構21,22,23が配置されており、これらカソード機構21,22,23には、電源スイッチ3,4,10を介して高電圧を印加可能な直流の高圧電源(以下、DC電源)51が接続されている。DC電源51は、陰極が電源スイッチ3,4,10側に接続され、陽極が接地されている。カソード機構21,22,23は並列に配置され、これらの上部にターゲット11,12,13が着脱可能に取り付けられている。ターゲット11はTaにより構成され、ターゲット12はSiにより構成され、ターゲット13はAlにより構成されている。
【0007】
真空チャンバ72内の上部には、ターゲット11,12,13と基板31との間に位置するようにSUS(ステンレス)製のシャッタ41,44,43が個別に配置されている。シャッタ41は、真空チャンバ72外部に配置された駆動装置5に連結されて、ターゲット11の上部に所定空間をあけた状態で進退可能に構成されている。シャッタ44は、真空チャンバ72外部に配置された駆動装置6に連結されて、ターゲット12の上部に所定空間をあけた状態で進退可能に構成されている。シャッタ43は、真空チャンバ72外部に配置された駆動装置9に連結されて、ターゲット13の上部に所定空間をあけた状態で進退可能に構成されている。なお、図15における符号721は、ターゲット12上に発生するプラズマを示している。
【0008】
従来のスパッタリング装置71では、Taターゲット11、Siターゲット12、Alターゲット13ごとにカソード機構21,22,23が個別に必要になって、機構が複雑になっており、それに伴い、装置コストも上昇している(特許文献1、2参照)。
【0009】
ところで、同じ撮像装置に使用される光学部品でも、コストに比べて性能が優先される半導体露光装置などの産業用製品においては、装置コストの上昇は許容できても、一般的なコンシューマ向けのカメラや放送機器に用いる場合は、まずコストが最優先となる。また、光学部品における薄膜形成では、例えば反射防止膜を製作する場合、少なくとも2種類以上の複数材料をスパッタリングできる装置を用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−331432号公報
【特許文献2】特開2003−113467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、複数の材料をスパッタリングするためには、その分の個数だけ、ターゲットとそれに付随するカソード周辺部の機構をスパッタリング装置に配置しなければならない。その結果、機構の数だけ装置コストは上昇し、また機構の体積分だけ装置が大型化し、装置コストの上昇を引き起こすおそれがある。
【0012】
そこで本発明は、スパッタリング等による複数材料の薄膜形成における装置機構の複雑化を抑えて簡素化し、装置コストの上昇を抑制することが可能な成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、真空チャンバと、前記真空チャンバ内で成膜対象物を保持するホルダ部と、前記真空チャンバ内で前記成膜対象物に対向可能な状態にターゲットをそれぞれ支持する複数のカソード機構と、互いに材質の異なる複数の前記ターゲットと前記成膜対象物との間に個別に進退して前記ターゲットで発生した成膜粒子を遮蔽又は開放する複数のシャッタとを備え、スパッタリングによって前記成膜対象物に薄膜を成膜する成膜装置において、前記複数のシャッタの少なくとも1つを、前記複数のターゲットの材料とは異なるターゲット材料で形成してターゲット兼用シャッタとして構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、元々スパッタリング等の成膜装置に付随しているシャッタをターゲットとして兼用することにより、別途複雑なカソード機構を用意して装置の大型化を招くようなおそれがない。これにより、装置機構の複雑化を抑えて簡素化し、装置コストの上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態におけるターゲットが可動するスパッタリング装置を示す模式図である。
【図3】本発明の第3の実施形態におけるターゲットが固定され斜めを向いたスパッタリング装置を示す模式図である。
【図4】図1〜図3に共通する作動を示すフローチャート図である。
【図5】図1の構成を用いた実施例1におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図6】図1の構成を用いた実施例2におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図7】図1の構成を用いた実施例3におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図8】図1の構成を用いた実施例4におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図9】図1の構成を用いた実施例5におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図10】図1の構成を用いた実施例6におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図11】図1の構成を用いた実施例7におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図12】図1の構成を用いた実施例8におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図13】図1の構成を用いた実施例9におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図14】図1の構成を用いた実施例10におけるスパッタリング装置を示す模式図である。
【図15】従来のスパッタリング装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に沿って、本発明に係る実施形態について説明する。まず、図1を参照して、本発明に係る、スパッタリング方法(成膜方法)を実施可能なスパッタリング装置1の全体構成及びその機能について説明する。成膜装置としてのスパッタリング装置1のすべての制御系は、制御部としてのコンピュータ(不図示)に接続され、このコンピュータによる一括制御が可能とされている。制御部には、本スパッタリング方法を実施するためのプログラムが設定されている。
【0017】
本実施形態のスパッタリング装置(成膜装置)1は、スパッタリングによって基板(成膜対象物)31に薄膜を成膜するもので、図1に示すように、真空チャンバ2と、真空チャンバ内で基板31を保持する基板ホルダ(ホルダ部)32とを備えている。また、スパッタリング装置1は、真空チャンバ2内で基板31に対向可能な状態にターゲット11,12をそれぞれ支持する複数(本実施形態では2つ)のカソード機構21,22を備えている。
【0018】
更に、スパッタリング装置1は、互いに材質の異なる複数(本実施形態では2つ)のターゲット11,12と基板31との間に個別に進退してターゲット11,12で発生した成膜粒子を遮蔽又は開放する複数(2つ)のシャッタ41,42を備えている。複数のシャッタ41,42の少なくとも1つ(本実施形態ではシャッタ42)は、遮蔽対象の上記ターゲット11,12の材料とは異なるターゲット材料で形成され、ターゲット兼用シャッタとして構成されている。
【0019】
真空チャンバ2には、不図示の減圧ポンプによって排気されて所定の真空度に保たれた状態で、アルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガスが導入される。真空チャンバ2内の上部には、一端を接地されてアノードとして機能する基板ホルダ(ホルダ部)32が配置されており、この基板ホルダ32には、成膜対象物としての基板31が着脱可能に保持される。本実施形態において、基板31にはレンズが用いられる。基板31としてのレンズに形成される膜は、一般的な光学部品の反射防止膜であり、例えばTa、SiO、Alからなる多層膜である。
【0020】
真空チャンバ2内の中央部にはカソード機構21,22が配置されており、これらカソード機構21,22には、制御部によって開閉制御される電源スイッチ3,4を介して高電圧を印加可能なDC電源51が接続されている。このDC電源51は、陰極が電源スイッチ3,4側に接続され、陽極が接地されている。カソード機構21,22は並列に配置され、これらの上部にTaターゲット11及びSiターゲット12が着脱可能に取り付けられている。
【0021】
真空チャンバ2内の上部には、ターゲット11,12と基板31との間に位置するようにシャッタ41,42が配置されている。シャッタ41は、真空チャンバ2外部に配置された駆動装置5に連結されて、Taターゲット11の上部に所定空間をあけた状態で進退可能(出没可能)に構成されている。また、ターゲット兼用シャッタ42は、真空チャンバ2外部に配置された駆動装置6に連結されて、Siターゲット12の上部に所定空間をあけた状態で進退可能(出没可能)に構成されている。シャッタ41,42用の上記駆動装置5,6は、遮蔽用の開閉機構だけでなく、シャッタ面の法線方向(図の上下方向)にシャッタ41,42を移動させる機構もそれぞれ有している。
【0022】
駆動装置6は、上述のような機構を有している。そのため、ターゲット兼用シャッタ42は、ターゲット11,12の内の対応する1つのターゲット12と基板ホルダ32との間で、ターゲット12で発生した成膜粒子を遮蔽又は開放する機能と、ターゲット12に対して接離する機能とを有する。本スパッタリング装置1では、ターゲット兼用シャッタ42を用いたスパッタリング時には、この駆動装置6を動作させてシャッタ42をターゲット12側に移動させて少なくとも一部をターゲット12に接触させる。これにより、ターゲット12を介してシャッタ42に電圧を印加する。
【0023】
駆動装置5は、スパッタリング開始前のターゲット11表面のクリーニングが目的であるプリスパッタ時には、シャッタ41をターゲット11から離れるように図中上方に移動させる。また、駆動装置6は、スパッタリング開始前のターゲット12表面のクリーニングが目的であるプリスパッタ時には、ターゲット兼用シャッタ42をターゲット12から離れるように上方に移動させる。
【0024】
このように、シャッタ41,42は、それぞれ駆動装置5,6によって、基板31とターゲット11,12の間で粒子を遮断できるように開閉でき、かつシャッタ面から法線方向(図中の上下方向)に移動できるように構成される。また、シャッタ41,42と基板31との間に膜厚分布制御用のマスクを取り付けることも可能である。
【0025】
基板31の表面に、Ta、SiO、Alからなる多層膜を形成する場合、Alの膜厚は他のTa、SiOに比べて薄くてよい場合などが、光学膜の設計上しばしばある。これに着目して成膜による成膜材料の損耗度が小さなAlのターゲットをターゲット兼用シャッタとして採用するとより好適である。もちろん、Al以外のターゲットをターゲット兼用シャッタとして採用することも可能である。
【0026】
従って、本実施形態では、成膜材料であるAlからなるターゲット兼用シャッタ42を用いることで、図15に示した従来のスパッタリング装置におけるAlターゲット13と、Alターゲット13用のシャッタ43とを省略した構成としている。このため、従来は3つ必要であったカソード機構21,22,23が1つ少ないカソード機構21,22となり、従来は3つ必要であったターゲット11,12,13が1つ少ないターゲット11,12となった。つまりターゲット兼用シャッタ42とターゲット12とでカソード機構22を共用することで、スパッタリング装置1の構成が大幅に簡素化することができる。
【0027】
上述のように、本実施形態では、Taの遮蔽用シャッタ41に、真空チャンバ2の材質と同じであるSUSを使用するが、成膜材料が4種の場合、例えばNbなどを使用してもよい。さらに、成膜材料が多い場合は、ターゲット兼用シャッタ42を2枚重ねするなど、多段構造にしてもよい。ターゲット兼用シャッタの多段構造を用いると従来のスパッタリング装置とくらべて装置の簡素化のメリットが大きい。
【0028】
また、シャッタのスパッタが長時間に及ぶ場合、加熱による変形や溶解を防止するため、シャッタに水冷ジャケットなどの冷却機構を搭載することもできる。
【0029】
冷却機構の搭載は、装置構成の複雑化につながることから、ターゲット兼用シャッタ42を2材料以上で構成してもよい。その際、シャッタの基板側の材料が、ターゲット11,12と異なる材料となる。例えば、2枚以上の合板で構成し強度を強くすることで、変形を防止しすることや、ターゲット兼用シャッタ42をるつぼ型で形成し、その中にターゲット11,12と異なる材料を入れることで、融解の対策も可能になる。
【0030】
さらに、上述の2材料以上で構成されたターゲット兼用シャッタ42において、シャッタのターゲット側の材料を、その直下のターゲットと同じ材料とすることで、ターゲットの汚染を防止することができる。もしくは、ターゲット側の材料を、W、Mo、Ta、C、Ti、Zr、Fe等、高融点、低線膨張係数をもつ導電性の材料及び前記材料の合金、化合物とすることでも、ターゲットの汚染を抑制することができる。
【0031】
一方、2材料以上で構成されたターゲット兼用シャッタ42において、シャッタのターゲット側の材料がスパッタされることにより、不純物が混入することがあることから、ターゲット側材料を、見えなくする、ターゲットと異なる材料で被膜することもできる。
【0032】
基板31は、例えば直径200mmかつ厚さ100mmのガラス基板が用いられ、成膜時には、不図示の機構により自転することも可能に保持される。また、基板31は、上記のサイズの範囲内であれば、複数にすることも可能であり、その場合、自転は公転となる。
【0033】
本実施形態において、カソード機構21,22には永久磁石を用いたDCマグネトロン方式を使用しているが、例えばRF(高周波)放電や、コンベンショナル方式を使用することも可能である。
【0034】
ターゲットには、例えば直径8インチのTaターゲット11及びSiターゲット12が取り付けられており、各材料を切り替えて、基板31上に成膜する。このターゲットの材料は交換することも可能である。この材料は、上記に限定されるものではなく、例えば、光学部品を作成する場合であれば、Mg、La、Nb、Mo、Ni、Ce、Hf、Ti、Y、W、Ca、Zr、Gd、等の金属、並びにこれらの酸化物、フッ化物を用いることができる。
【0035】
以上の構成を備えたスパッタリング装置1では、制御部のコントロールに基づいて電源スイッチ3,4が開閉制御されると、以下のようになる。つまり、真空チャンバ2内の基板ホルダ32に保持された基板31に、DC電源51に接続されたカソード機構21,22に取り付けられたターゲット11,12上にプラズマ721が発生し、スパッタリングによる薄膜形成が開始される。
【0036】
そして、陰極に保持されたターゲット12にプラズマ中のイオンが衝突し、Siターゲット12の原子がたたき出され、このスパッタ原子が基板31に付着して膜を形成する。また、基板31がTaターゲット11側に移動させられてシャッタ41が開放した状態では、陰極に保持されたターゲット11にプラズマ中のイオンが衝突し、Siターゲット12の原子がたたき出され、このスパッタ原子が基板31に付着して膜を形成する。
【0037】
例えば、Alからなるターゲット兼用シャッタ42をスパッタリングして基板31に成膜する際には、制御部により駆動装置6を作動させ、ターゲット兼用シャッタ42をターゲット12に接近するように下方に移動させてターゲット12に接触させる。このようにターゲット兼用シャッタ42をスパッタリングする際と、後述するプリスパッタの際にはターゲット兼用シャッタ42は閉じているが、ターゲット12を用いてスパッタリングする際にはターゲット兼用シャッタ42は開いている。なお、ターゲット11,12の交換直後や真空保管後には、ターゲット11,12の表面に酸化層などの汚染層が形成されていることがある。従って、そのままでスパッタリングを開始すると、ターゲット11,12とともに汚染層もスパッタされて、基板31に形成される膜が不純物を含んだものとなる場合がある。このような不都合を防ぐために上記プリスパッタが実施される。
【0038】
上記シャッタの開閉、上下移動の動作を含めた、AlとTaとSiOを成膜する場合の成膜工程について、図4のフローチャート図を参照して説明する。
【0039】
成膜時には真空チャンバ2に、スパッタガスとして例えば、Arガスが50sccm、反応性ガスとしてOガスが20sccm導入される。ターゲット11,12に投入する電力は、DC電源51により例えば1kWとしている。また、放電の安定化のために必要に応じて100kHzオーダーの高周波を重畳してもよい。膜厚は、制御部により時間制御している。これら、ガスや電力等のプロセス条件は、材料や所望する膜質により変えることができる。
【0040】
ターゲット12と同電位にされてスパッタされるターゲット兼用シャッタ42で形成される膜は、カソード機構21,22に設置されたターゲット11,12を使用している場合に比較し、材料にもよるが、成膜レートが10%から60%程度に低減する場合がある。これは、カソードに搭載された永久磁石から離れ、成膜方式がよりコンベンショナルに近い状態になるためである。しかし、例えば光学部品の形成する光学薄膜の場合、複数材料を要する多層膜であれば、薄くてもよい材料などにターゲット兼用シャッタ42による成膜を行うことで、成膜レート低減の影響を最小限に抑えることも可能である。
【0041】
図4に示すように、Alからなるターゲット兼用シャッタ42を用いてAlを基板31に成膜する場合、シャッタ41は、駆動装置5の作動により閉止された状態で上方に移動される。そして、ターゲット兼用シャッタ42は、駆動装置6の作動により閉止された状態で下方に移動される。
【0042】
そして、ターゲット11のプリスパッタを行う場合、シャッタ41は駆動装置5の作動により閉止された状態で上方に移動され、ターゲット兼用シャッタ42は駆動装置6の作動により閉止された状態で上方に移動される。引き続き、ターゲット11を用いてTaを基板31に成膜する場合、シャッタ41は駆動装置5の作動で開放され、ターゲット兼用シャッタ42は駆動装置6の作動で閉止された状態で上方に移動される。
【0043】
また、Alからなるターゲット兼用シャッタ42のプリスパッタを行う場合、シャッタ41は駆動装置5の作動で閉止された状態で上方に移動され、ターゲット兼用シャッタ42は駆動装置6の作動で閉止された状態で上方に移動される。引き続き、Alからなるターゲット兼用シャッタ42を用いてSiOを基板31に成膜する場合、シャッタ41は駆動装置5の作動で閉止された状態で上方に移動され、ターゲット兼用シャッタ42は駆動装置6の作動で開放される。
【0044】
なお、本実施形態において、基板31とターゲット11,12との位置関係は、基板31が図の左右に移動してターゲット11,12、又はAlからなるターゲット兼用シャッタ42の正面に配置するように構成することもできる。
【0045】
以下、図1に示した本実施形態の構成を変形した変形例について、図2及び図3を参照して説明する。
【0046】
すなわち、図2に示す変形例1では、ターゲット11,12を回転するように構成している。つまり、ターゲット11,12を夫々取り付けられたカソード機構21,22が、上下方向にて背中合わせの形で連結された状態で、駆動装置7によって基板31に対し回転して、個別に対向するように構成されている。この場合、カソード機構21、ターゲット11、シャッタ41及び駆動装置5と、カソード機構22、ターゲット12、ターゲット兼用シャッタ42及び駆動装置6とは、それぞれ一体的に駆動装置7によって回転するように構成される。カソード機構21,22には、それぞれ電源スイッチ3,4を介してDC電源51が接続される。
【0047】
また、図3に示す変形例2では、基板31もターゲット11,12も移動させなくてよいように、ターゲット11,12をそれぞれ基板31に対して斜めに向いた状態に配置している。即ち、ターゲット11,12を夫々取り付けられたカソード機構21,22が、上部中央の基板31に向かって斜めになるように配置されており、シャッタ41は駆動装置5により、Alからなるターゲット兼用シャッタ42は駆動装置6により夫々作動させられる。カソード機構21,22には、夫々電源スイッチ3,4を介してDC電源51が接続される。
【0048】
以上の変形例1及び2によっても、図1で説明した本実施形態のスパッタリング装置1と同様にスパッタリング及びプリスパッタを実施することができ、同様の効果を奏することができる。
【0049】
以上のような本実施形態及び変形例1、2によると、元々スパッタリング装置に付随しているシャッタ42をターゲットとして兼用したターゲット兼用シャッタ42とすることで、別途複雑なカソード機構を用意して装置の大型化を招くようなおそれがない。これにより、装置機構の複雑化を抑えて簡素化し、装置コストの上昇を抑制することができる。
【0050】
以下、本発明を適用したスパッタリング装置1による実施例について、図5〜図8を参照して説明する。図5〜図8において、図1〜図3で説明した構成部と共通する部分には、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0051】
[実施例1]
本実施例1では、基本的な装置形態は、上述したDCマグネトロン方式、ターゲット11にTa、ターゲット12にSi、ターゲット兼用シャッタ42にAl、シャッタ41に真空チャンバ2と同材質のSUSを使用したスパッタリング装置を用いる。
【0052】
Alからなるターゲット兼用シャッタ42をスパッタリングして基板31に成膜する場合、以下のようにする。即ち、図5に示すように、ターゲット兼用シャッタ42が閉止された状態において、ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12との間隔がデバイ長以下になるように、ターゲット兼用シャッタ42を下方に移動させる。
【0053】
ここで、デバイ長は、成膜のプロセス条件にも依るが、通常のスパッタリングで用いるグロー放電条件下では、0.1[mm]〜5[mm]程度である。ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12との間隔をデバイ長以下にすることで、ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12間にプラズマ721を発生させない。これにより、ターゲット12のSiを汚染することなく、ターゲット兼用シャッタ42のAlを基板31にのみ到達させることができる。
【0054】
本実施例1では、ターゲット兼用シャッタ42は、ターゲット12側に向いた面に導電性の突起61を有し、ターゲット12に突起61を介して接触することにより導通する。突起61の長さは、デバイ長以下に設定されている。即ち、ターゲット兼用シャッタ42には、ターゲット兼用シャッタ42のターゲット12側の面に、面と垂直に突出する突起61が設けられている。この突起61の垂直方向の長さは、デバイ長以下であり、かつターゲット兼用シャッタ42とターゲット12との間隔と同じである。ターゲット兼用シャッタ42のスパッタリング時、突起61がターゲット12に接触することで、ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12とは同電位になっている。
【0055】
この結果、ターゲット兼用シャッタ42にもターゲット12と同じ電圧が印加されて、ターゲット兼用シャッタ42の基板側にプラズマ722が発生するため、Alが基板31に成膜されることになる。この際、ターゲット兼用シャッタ42によるスパッタリングはコンベンショナルに近い状態となるため、成膜レートは低減するが、Alは多層膜の全体の膜厚の10%以下の厚みであることから、全体の成膜工程への影響は小さい。
【0056】
[実施例2]
本実施例2では、基本的な装置形態は、実施例1と同様である。
【0057】
Alからなるターゲット兼用シャッタ42をスパッタリングして基板31に成膜する場合、以下のようにする。即ち、図6に示すように、ターゲット兼用シャッタ42が閉止された状態において、ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12との間隔がデバイ長以下になるように、ターゲット兼用シャッタ42を下方に移動させる。
【0058】
ここで、デバイ長は、成膜のプロセス条件にも依るが、通常のスパッタリングで用いるグロー放電条件下では、0.1[mm]〜5[mm]程度である。ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12との間隔をデバイ長以下にすることで、ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12間にプラズマ721を発生させない。これにより、ターゲット12のSiを汚染することなく、ターゲット兼用シャッタ42のAlを基板31にのみ到達させることができる。
【0059】
本実施例では、ターゲット兼用シャッタ42は、ターゲット12に対応するカソード機構22に電圧を供給するDC電源51から配線52を介して直接に電圧を印加される。つまり、ターゲット12に使用しているDC電源51をターゲット兼用シャッタ42に配線52を介して繋げ、DC電源51からの電圧をターゲット兼用シャッタ42に印加している。なお、この構成に限らず、DC電源51と異なる電源を別途設け、この電源からターゲット兼用シャッタ42に電圧を印加するように構成することも可能である。
【0060】
本実施例では、ターゲット兼用シャッタ42にも電圧が直接に印加され、ターゲット兼用シャッタ42の基板31側にプラズマ722が発生して、Alが基板31に成膜される。この際、ターゲット兼用シャッタ42によるスパッタリングはコンベンショナルに近い状態となるため、成膜レートは低減するが、Alは多層膜の全体の膜厚の10%以下の厚みであることから、全体の成膜工程への影響は小さい。
【0061】
[実施例3]
本実施例3においても、基本的な装置形態は、実施例1と同様である。
【0062】
本実施例3では、ターゲット兼用シャッタ42は、ターゲット12側に向いた面をターゲット12に直接接触させることにより導通する。即ち、Alからなるターゲット兼用シャッタ42をスパッタリングして基板31に成膜する場合、以下のようにする。即ち、図7に示すように、ターゲット兼用シャッタ42が閉止された状態において、ターゲット兼用シャッタ42をターゲット12に直接接触させて、シャッタ42とターゲット12とを同電位にする。この場合、両者が全面で接触し、両者間に空間がないため、ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12間にプラズマ721は発生しない。このため、ターゲット12のSiを汚染することなく、ターゲット兼用シャッタ42のAlを基板31にのみ到達させることができる。
【0063】
この結果、Siターゲット12を介してターゲット兼用シャッタ42にも電圧が印加され、ターゲット兼用シャッタ42の基板31側にプラズマ722が発生して、Alが基板31に成膜される。この際、ターゲット兼用シャッタ42によるスパッタリングはコンベンショナルに近い状態となるため、成膜レートは低減するが、Alは多層膜の全体の膜厚の10%以下の厚みであることから、全体の成膜工程への影響は小さい。
【0064】
[実施例4]
本実施例4においても、基本的な装置形態は、実施例1と同様である。
【0065】
本実施例4では、ターゲット兼用シャッタ42は、スパッタリング開始前のプリスパッタ時にはその対応する1つのターゲット12から離間する。そして、ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12との間隔がデバイ長を超える寸法に設定される。即ち、スパッタリング開始前のターゲット12表面のクリーニングを目的とするプリスパッタをする際には、以下のようにする。つまり、図8に示すように、ターゲット兼用シャッタ42を閉止した状態で、ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12との間隔がデバイ長を超える寸法になるように、ターゲット兼用シャッタ42を上方に移動させる。
【0066】
ここで、デバイ長は成膜のプロセス条件にもよるが、通常のスパッタリングでも用いるグロー放電条件下では、0.1[mm]〜5[mm]程度である。ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12とをデバイ長を超える値にすることで、ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12間にプラズマ721を発生させて、ターゲット12のSiのプリスパッタを可能にすることができる。この結果、ターゲット兼用シャッタ42は、ターゲット12からの成膜粒子の遮蔽体として機能し、ターゲット12表面のクリーニングを行うことができる。
【0067】
[実施例5]
本実施例5において、基本的な装置形態は、ターゲット11がSi、ターゲット12がTaである点以外は、図9に示すように、実施例1と同様である。
【0068】
本実施例5は、ターゲット兼用シャッタ42の構成自体に関わる実施例である。実際の実施形態としては、上述の実施例1から実施例4の全てにおいて効果を発揮することができる。最大の効果が発揮されるのは、ターゲット兼用シャッタ42をターゲット12に直接接触し、ターゲット兼シャッタ42がターゲット11,12を汚染してしまうおそれのある実施例3(図7)の形態の場合である。
【0069】
本実施例5では、ターゲット兼用シャッタ42を2材料以上で構成している。その際、ターゲット兼用シャッタ42の基板31側(成膜対象物側)に位置する基板側材料421は、ターゲット11,12と異なる材料で構成されている。
【0070】
ターゲット兼用シャッタ42は、熱による変形を抑制するために、2枚以上の合板で構成される。その際、ターゲット12側に位置するターゲット側材料422は、融解することなく、熱による変形を抑制できるように、高融点、低線膨張係数の導電性材料で構成される。ターゲット側材料422は、ターゲット12と同じ材料であることが好ましく、本実施例ではTaとされる。
【0071】
基板側材料421とターゲット側材料422とは、化学的に接合されており、例えば、Inなどのボンディング接合用の第3の材料423を利用する。
【0072】
この結果、ターゲット兼用シャッタ42は、2枚以上の合板化及びターゲット側材料422の低線膨張の効果で、熱による変形を抑制できる。さらに、ターゲット側材料422がTaで構成されることで、直接接触時にターゲット12を汚染することも防止できる。
【0073】
[実施例6]
本実施例6において、基本的な装置形態は、実施例5と同様である。
【0074】
本実施例6では、ターゲット兼用シャッタ42を2材料以上で構成する。その際、図10に示すように、ターゲット兼用シャッタ42の基板31側の基板側材料421は、ターゲット11,12と異なる材料となっている。
【0075】
ターゲット兼用シャッタ42は、熱による変形を抑制するために、2枚以上の合板で構成される。その際、ターゲット12側のターゲット側材料422は、融解することなく、熱による変形を抑制できるように、高融点、低線膨張係数の導電性材料で構成される。好ましくは、ターゲット12と同じ材料で、本実施例ではTaである。
【0076】
基板側材料421とターゲット側材料422とは、機械的に接合されており、例えば、ボルト424などを用いて接合する。
【0077】
この結果、ターゲット兼用シャッタ42は、2枚以上の合板化及びターゲット側材料422の低線膨張の効果で、熱による変形を抑制できる。さらに、ターゲット側材料422がTaで構成されることで、直接接触時にターゲット12を汚染することも防止できる。
【0078】
[実施例7]
本実施例7において、基本的な装置形態は、実施例5と同様である。
【0079】
本実施例7では、ターゲット兼用シャッタ42を2材料以上で構成する。その際、図11に示すように、ターゲット兼用シャッタ42の基板31側の基板側材料421は、ターゲット11,12と異なる材料となっている。
【0080】
ターゲット兼用シャッタ42は、融解した場合のシャッタ機能の喪失を防止するため、るつぼ型に構成されており、その中にターゲット11,12と異なる材料である基板側材料421が収容されている。
【0081】
その際、るつぼとなるターゲット側材料422は、融解することなく、熱による変形が発生しないように、高融点、低線膨張係数の導電性材料で構成される。好ましくは、ターゲット12と同じ材料で、本実施例ではTaである。また、るつぼとなるターゲット側材料422と基板側材料421とを、実施例5及び6のような方法で接合しておくことで、基板側材料421の熱による変形も防止できる。
【0082】
本るつぼの端部は、基板側材料421の高さよりも高くすることで、融解時に周辺にこぼれ出ることを防いでいる。
【0083】
この結果、ターゲット兼用シャッタ42をるつぼ型に構成することで、熱による融解時でもシャッタ機能を喪失することなくターゲット兼用シャッタ42を使用できる。さらに、ターゲット側材料422がTaで構成されることで、直接接触時にターゲット12を汚染することも防止できる。
【0084】
[実施例8]
本実施例8において、基本的な装置形態は、実施例5と同様である。
【0085】
本実施例8では、ターゲット兼用シャッタ42を2材料以上で構成する。その際、図12に示すように、ターゲット兼用シャッタ42の基板31側の基板側材料421は、ターゲット11,12と異なる材料となっている。
【0086】
ターゲット兼用シャッタ42は、融解した場合のシャッタ機能の喪失を防止するために、るつぼ型に構成されており、その中にターゲット11,12と異なる材料である基板側材料421が収容されている。
【0087】
その際、るつぼとなるターゲット側材料422は、融解することなく、熱による変形が発生しないように、高融点、低線膨張係数の導電性材料で構成される。好ましくは、ターゲット12と同じ材料で、本実施例ではTaである。また、るつぼとなるターゲット側材料422と基板側材料421とを、実施例5及び6のような方法で接合しておくことで、基板側材料421の熱による変形も防止できる。
【0088】
本るつぼの端部のコバが、先端で終端していることで、融解時に周辺にこぼれ出ることを防ぐとともに、コバ面からのターゲット側材料422のスパッタを抑制し、ターゲット兼用シャッタ42の成膜時のターゲット側材料422による不純物汚染を低減できる。
【0089】
この結果、ターゲット兼用シャッタ42をるつぼ型に構成することで、熱による融解時でもシャッタ機能を喪失することなくターゲット兼用シャッタ42を使用できる。さらに、ターゲット側材料422がTaで構成されることで、直接接触時にターゲット12を汚染することも防止できる。
【0090】
[実施例9]
本実施例9において、基本的な装置形態は、実施例5と同様である。
【0091】
本実施例9では、ターゲット兼用シャッタ42を2材料以上で構成する。その際、図13に示すように、ターゲット兼用シャッタ42の基板31側の基板側材料421は、ターゲット11,12と異なる材料となっている。
【0092】
ターゲット兼シャッタ42の基板31側の基板側材料421に、ターゲット11,12と異なる材料を配置し、シャッタの基板側材料421をスパッタすることで、成膜をしている。しかし、実施例8で述べたように、ターゲット側材料422のコバ面、さらには側面がスパッタされることも見逃せない。
【0093】
従って、ターゲット兼シャッタ42のスパッタ面において、基板側材料421の面積をターゲット側材料422の面積と同じ、もしくは大きくする。それにより、図13に示すように、シャッタ42の基板31側の材料以外で構成された側面4222からのスパッタによる粒子が基板31に到達しないようにすることができる。図13において、符号4221は、シャッタ42の基板31側の材料以外で構成されたコバ面を示している。
【0094】
本実施例9の構成には、実施例5、6の化学的、機械的な接合構成を適用することができる。また、図13に示すように実施例7のるつぼ型シャッタと同時に用いると、熱による変形しか防止できなくなるが、コバ面4221からのスパッタをなくすことができる。
【0095】
この結果、熱による変形を抑制、直接接触時のターゲット12の汚染を防止するとともに、基板側材料421以外の材料による成膜時の不純物汚染を低減できる。
【0096】
[実施例10]
本実施例10において、基本的な装置形態は、実施例5と同様である。
【0097】
本実施例10では、ターゲット兼用シャッタ42を2材料以上で構成する。その際、図14に示すように、ターゲット兼用シャッタ42の基板31側の基板側材料421は、ターゲット11,12と異なる材料となっている。
【0098】
ターゲット兼シャッタ42の基板31側の基板側材料421に、ターゲット11,12と異なる材料を配置し、シャッタの基板側材料421をスパッタすることで、成膜をしている。しかし、実施例8で述べたように、ターゲット側材料422のコバ面4221、さらには側面4222がスパッタされることも見逃せない。
【0099】
従って、ターゲット兼シャッタ42における、基板側材料421以外の部分において、コバ面4221のような基板31側の面や側面4222を、基板側材料421で被膜する。本手段は、実施例5、6、7、8、9と同時に用いることができる。図14で示しているのは、実施例7と組み合わせた場合である。
【0100】
この結果、熱による変形を抑制、熱による融解時でもシャッタ機能の喪失を防止、直接接触時のターゲット12の汚染を防止するとともに、基板側材料421以外の材料による成膜時の不純物汚染を低減できる。
【0101】
以上のように、スパッタリング装置1を用いたスパッタリング方法(成膜方法)では、真空チャンバ2内で基板ホルダ32に保持された基板31に対向可能な状態にカソード機構21,22で夫々支持された互いに材質の異なるターゲット11,12を用いる。そして、基板31と各ターゲット11,12との間にシャッタ41,42を個別に進退させることで各ターゲット11,12で発生した成膜粒子を遮蔽又は開放し、スパッタリングによって基板31に薄膜を成膜する。この成膜方法では、シャッタ41,42の少なくとも1つ、例えばシャッタ42を、ターゲット11,12の材料とは異なるターゲット材料で構成してターゲット兼用シャッタとしてスパッタリングを行う。
【0102】
このため、元々スパッタリング装置に付随しているシャッタをターゲットとして兼用したターゲット兼用シャッタ42とすることで、別途複雑なカソード機構を用意して装置の大型化を招くようなおそれがない。これにより、装置機構の複雑化を抑えて簡素化し、装置コストの上昇を抑制することができる。
【0103】
[実施例11]
本実施例11においても、基本的な装置形態は、実施例1と同様である。図面は、図7を参照する。
【0104】
本実施例11では、ターゲット兼用シャッタ42は、ターゲット12側に向いた面をターゲット12に直接接触させることにより導通する。即ち、Alからなるターゲット兼用シャッタ42をスパッタリングして基板31に成膜する場合、以下のようにする。
【0105】
すなわち、図7に示すように、ターゲット兼用シャッタ42が閉止された状態において、ターゲット兼用シャッタ42をターゲット12に直接接触させて、シャッタ42とターゲット12とを同電位にする。
【0106】
この場合、両者が全面で接触するが、実際は例えば、ターゲット兼用シャッタ42の消耗や熱による変形、ターゲット12の消耗による形状変化が発生することがある。そのため、シャッタ42を上下機構により下げても隙間なく全面に接触しないことがある。シャッタ42とターゲット12との間に隙間があると、その隙間の幅によって放電電圧が変動し、成膜速度が一定にならない。
【0107】
そこで、シャッタ42には、遮蔽用の開閉機構、及び接離用の上下機構に加えて、駆動装置6にはシャッタ42の傾き角度を調整可能な不図示の「あおり機構」を具備させた。つまり、ターゲット兼用シャッタ42を、シャッタの傾きを変える「あおり動作」を実行可能に構成した。本あおり機構により、シャッタ42の変形やターゲット12の形状変化に合わせて、シャッタ42の傾きを変えることで、隙間なく全面で接触させることが可能になる。
【0108】
この場合、両者が全面で接触し、両者間に空間がないため、ターゲット兼用シャッタ42とターゲット12間にプラズマ721は発生しない。このため、ターゲット12のSiを汚染することなく、ターゲット兼用シャッタ42のAlを基板31にのみ到達させることができる。
【0109】
この結果、Siターゲット12を介してターゲット兼用シャッタ42にも電圧が印加され、ターゲット兼用シャッタ42の基板31側にプラズマ722が発生して、Alが基板31に成膜される。この際、ターゲット兼用シャッタ42によるスパッタリングはコンベンショナルに近い状態となるため、成膜レートは低減するが、Alは多層膜の全体の膜厚の10%以下の厚みであることから、全体の成膜工程への影響は小さい。
【符号の説明】
【0110】
1…成膜装置(スパッタリング装置)、2…真空チャンバ、5,6…駆動装置、11,12…ターゲット、21,22…カソード機構、31…成膜対象物(基板)、32…ホルダ部(基板ホルダ)、41…シャッタ、42…シャッタ(ターゲット兼用シャッタ)、51…DC電源(電源)、52…配線、61…導電性の突起、421…基板側材料、422…ターゲット側材料、423…シャッタの第3の材料、424…ボルト、4221…シャッタの基板側の材料以外で構成されたコバ面、4222…シャッタの基板側の材料以外で構成された側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、前記真空チャンバ内で成膜対象物を保持するホルダ部と、前記真空チャンバ内で前記成膜対象物に対向可能な状態にターゲットをそれぞれ支持する複数のカソード機構と、互いに材質の異なる複数の前記ターゲットと前記成膜対象物との間に個別に進退して前記ターゲットで発生した成膜粒子を遮蔽又は開放する複数のシャッタとを備え、スパッタリングによって前記成膜対象物に薄膜を成膜する成膜装置において、
前記複数のシャッタの少なくとも1つを、前記複数のターゲットの材料とは異なるターゲット材料で形成してターゲット兼用シャッタとして構成した、ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記ターゲット兼用シャッタは、前記複数のターゲットの内の対応する1つのターゲットと前記ホルダ部との間で、前記1つのターゲットで発生した成膜粒子を遮蔽又は開放する動作と、前記1つのターゲットに対して接離する動作とを実行可能に構成される、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記ターゲット兼用シャッタを用いたスパッタリング時には、前記ターゲット兼用シャッタを前記1つのターゲット側に移動させて少なくとも一部を接触させることにより、前記1つのターゲットを介して前記ターゲット兼用シャッタに電圧を印加する、ことを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記ターゲット兼用シャッタは、前記1つのターゲット側に向いた面に導電性の突起を有し、前記1つのターゲットに前記突起を介して接触することにより導通する、ことを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記突起の長さがデバイ長以下に設定される、ことを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記ターゲット兼用シャッタは、前記1つのターゲット側に向いた面を前記1つのターゲットに直接接触させることにより導通する、ことを特徴とする請求項3記載の成膜装置。
【請求項7】
前記ターゲット兼用シャッタは、前記1つのターゲットに対応する前記カソード機構に電圧を供給する電源から配線を介して直接に電圧を印加される、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記ターゲット兼用シャッタは、スパッタリング開始前のプリスパッタ時にはその対応する前記1つのターゲットから離間する、ことを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記ターゲット兼用シャッタと前記1つのターゲットとの間隔がデバイ長を超える寸法に設定される、ことを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記ターゲット兼用シャッタは、2材料以上で構成され、
前記複数のターゲットの材料と異なるターゲット材料を、前記成膜対象物側に配置した、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記ターゲット兼用シャッタは、シャッタの傾きを変えるあおり動作を実行可能に構成される、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項12】
真空チャンバ内でホルダ部に保持された成膜対象物に対向可能な状態に複数のカソード機構でそれぞれ支持された互いに材質の異なる複数のターゲットを用い、前記成膜対象物と前記各ターゲットとの間に複数のシャッタを個別に進退させることで前記各ターゲットで発生した成膜粒子を遮蔽又は開放し、スパッタリングによって前記成膜対象物に薄膜を成膜する成膜方法において、
前記複数のシャッタの少なくとも1つを、前記複数のターゲットの材料とは異なるターゲット材料で構成してターゲット兼用シャッタとしてスパッタリングを行う、ことを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−177191(P2012−177191A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−13169(P2012−13169)
【出願日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】