説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】粒状基板の表面全体に均一に膜を形成できる成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜処理対象の粒状基板が搭載される主面を有し、粒状基板の粒径よりも狭い幅で主面と平行に延伸する複数の溝が主面に形成されたプレートと、粒状基板の一部分が溝に嵌ることによって粒状基板が主面上で転動を開始するように、プレートを主面と平行方向に振動させる振動機構と、主面上の粒状基板の露出した表面に薄膜を形成する薄膜形成機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状基板の表面に膜を形成する成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の表面に膜を形成するために、プラズマ化学気相成長(CVD)法などの方法が使用されている。そして、球体形状などの粒状基板の表面全体に薄膜を形成するために、粒状基板を搭載したプレートを振動させて粒状基板を転動させながら、粒状基板の表面に成膜する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−228027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、粒状基板がプレート上で転がらず、横滑りしてしまう場合がある。成膜処理では粒状基板の上方からデポダウン形式で成膜を行うため、粒状基板がプレート上で横滑りする場合には、粒状基板の一定の上面のみしか膜が形成されず、プレートに面した領域などに膜が形成されない。このため、粒状基板の表面全体に均一に膜が形成されないという問題があった。
【0005】
上記問題点に鑑み、本発明は、粒状基板の表面全体に均一に膜を形成できる成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、(イ)成膜処理対象の粒状基板が搭載される主面を有し、粒状基板の粒径よりも狭い幅で主面と平行に延伸する複数の溝が主面に形成されたプレートと、(ロ)粒状基板の一部分が溝に嵌ることによって粒状基板が主面上で転動を開始するように、プレートを主面と平行方向に振動させる振動機構と、(ハ)主面上の粒状基板の露出した表面に薄膜を形成する薄膜形成機構とを備える成膜装置が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、(イ)成膜処理対象の粒状基板が搭載される主面を有し、粒状基板の粒径よりも狭い幅で主面と平行に延伸する複数の溝が主面に形成されたプレートを用意するステップと、(ロ)プレートの主面上に粒状基板を搭載するステップと、(ハ)粒状基板の一部分が溝に嵌ることによって粒状基板が主面上で転動を開始するように、プレートを主面と平行方向に振動させるステップと、(ニ)主面上の粒状基板の露出した表面に薄膜を形成するステップとを含み、プレートを振動させるステップと薄膜を形成するステップとを含む薄膜形成工程を複数回繰り返す成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粒状基板の表面全体に均一に膜を形成できる成膜装置及び成膜方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る成膜装置のプレート上における粒状基板の状態の例を示す模式図である。
【図3】図3(a)及び図3(b)は、本発明の実施形態に係る成膜装置のプレートの主面に形成される溝の断面形状の例を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る成膜装置のプレートの主面に形成された溝のパターンを示す平面図である。
【図5】図5(a)及び図5(b)は、本発明の実施形態に係る成膜装置のプレートの主面に形成された溝の他のパターンを示す平面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る成膜装置を高周波プラズマCVD装置として構成した例を示す模式図である。
【図7】比較例のプレート上における粒状基板の状態の例を示す模式図である。
【図8】比較例の成膜装置により形成された粒状基板の成膜エリアを示す模式図である。
【図9】本発明の実施形態に係る成膜装置により形成された粒状基板の成膜エリアを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
本発明の実施形態に係る成膜装置1は、粒状基板の表面に膜を形成する成膜装置である。成膜装置1は、図1に示すように、成膜処理対象の粒状基板50が搭載される主面11を有し、主面11と平行に延伸する複数の溝110が主面11に形成されたプレート10と、プレート10を主面11と平行方向に振動させる振動機構20と、主面11上の粒状基板50の露出した表面に薄膜を形成する薄膜形成機構30とを備える。
【0012】
プレート10の主面11に形成される溝の幅は、粒状基板50の粒径よりも狭く設定されている。粒状基板50は、例えばシリコン(Si)基板であり、粒径は1〜数mm程度である。
【0013】
振動機構20がプレート10を振動させると、主面11上に搭載された粒状基板50の一部分が溝110に嵌ることにより、粒状基板50が主面11上で転動を開始する。
【0014】
図2に、プレート10の主面11上で静止した状態の粒状基板50の例を示す。図2では、粒状基板50の形状がDカット形状である例を示している。「Dカット形状」は、全体として略球体であるが平坦な面を有する形状である。
【0015】
溝110が延伸する方向と垂直な方向に沿った溝110の断面形状(以下において、単に「断面形状」という。)は、粒状基板50の形状に応じて適宜決定される。即ち、溝110の断面形状は、プレート10が振動したときに粒状基板50の一部分が溝110に引っ掛かり、粒状基板50が転がるきっかけになればよい。
【0016】
図2では、Dカット形状である粒状基板50の形状に応じて、溝110の断面形状が三角型である例を示した。これにより、図2に示すように、プレート10の主面11上で静止した状態の粒状基板50のDカット面をランダムに配置することができる。また、断面形状が三角型の溝110は加工が容易である。
【0017】
しかし、溝110の断面形状が三角型に限られない。例えば図3(a)に示すような四角型や、図3(b)に示すような半円型も採用可能である。
【0018】
なお、粒状基板50がDカット形状以外の、立方体形状などの多面体や球体であってもよいことはもちろんである。例えば図3(b)に示すように、粒状基板50が球体である場合に溝110の形状を粒状基板50の外形に合わせた丸溝形状にすることにより、粒状基板50を溝110に隙間なく密着させ、安定させることができる。
【0019】
ただし、粒状基板50の形状に対して溝110の形状は一意的に決まるものではない。即ち、粒状基板50のサイズ、溝110の配置や間隔などの条件によって、溝110の最適な形状が選定される。
【0020】
溝110の延伸方向に垂直な方向の開口部の幅は、溝110に嵌った粒状基板50の表面の少なくとも一部がプレート10の主面11よりも上方にあるように設定される。このため、溝110の開口部の幅は、粒状基板50の粒径よりも狭く、且つ、粒状基板50が引っ掛かって転動を開始するきっかけになる程度の広さである。粒状基板50の表面の露出した領域に、薄膜が形成される。
【0021】
また、溝110同士の間隔は、例えば粒状基板50の粒径と同程度以上に設定されることが好ましい。隣接する溝110にそれぞれ嵌った状態で静止した粒状基板50間の間隔が狭いと、粒状基板50の側面などに膜が形成されにくくなる。一方、溝110の間隔を粒状基板50の粒径と同じくらい、或いはそれ以上にすることにより、粒状基板50の露出した表面の全体に、膜を形成することができる。
【0022】
図4に、プレート10の主面11を上方から見た図を示す。図4は、プレート10の主面11上に溝110が同心円状に配置された例を示している。溝110を同心円状に配置することにより、どの方向の振動に対しても粒状基板50を均一に転動させることができる。また、プレート10が小型の場合に、旋盤加工などにより容易に溝110を形成できる。
【0023】
なお、例えば図5(a)に示すように、互いに並行するストライプ状に溝110を配置してもよい。図5(a)に示した溝110の配置によれば、プレート10を一方向に振動させる場合に粒状基板50を効果的に転動させることができる。また、溝110の加工が容易である。或いは、図5(b)に示すように、格子状に溝110を配置してもよい。これにより、プレート10を二方向に振動させる場合に、粒状基板50を効果的に転動させることができる。
【0024】
なお、プレート10には、例えばカーボン、ステンレス鋼、アルミニウム、セラミックなどが採用可能である。
【0025】
図6に、成膜装置1を高周波プラズマCVD装置として構成した例を示す。図6に示した成膜装置1においては、チャンバー31内のプレート10の主面11上に処理対象の粒状基板50を搭載する。排気装置32によりチャンバー31内を減圧して所定のガス圧にした後、導入口33から原料ガス300をチャンバー31内に導入する。接地されたプレート10と電極34間に高周波電源35から高周波電力を供給することにより、チャンバー31内の原料ガス300がプラズマ化される。形成されたプラズマに粒状基板50を曝すことにより、粒状基板50の露出した表面に膜が形成される。
【0026】
高周波プラズマCVD装置以外の、例えば他の方式で粒状基板50の表面に膜を成長させるCVD装置や、粒状基板50の表面に膜を堆積させるスパッタ装置などの、半導体製造プロセスに使用される成膜装置として成膜装置1を構成することができる。
【0027】
図1に示した成膜装置1を用いて粒状基板50の表面に成膜する方法の例を、以下に説明する。
【0028】
先ず、プレート10の主面11上に処理対象の粒状基板50を搭載する。
【0029】
次いで、振動機構20によって、主面11と平行方向にプレート10を素早くスライドさせる。例えば、プレート10を一往復乃至数往復させる。これにより、粒状基板50が主面11に形成された溝110に引っ掛かり、粒状基板50は主面11上で転動する。プレート10の移動速度は、主面11上で粒状基板50が転動するように、粒状基板50の形状や粒径などを考慮して適宜設定される。
【0030】
プレート10の往復運動を停止させると、主面11上で粒状基板50は様々な姿勢で静止する。なお、多数の粒状基板50を同時に主面11で転動させた場合、一部の粒状基板50は溝110に嵌って停止し、他の粒状基板50は溝110間で停止する。この状態で、デポダウン形式により粒状基板50の露出した表面に、薄膜形成機構30により膜を形成する。
【0031】
一定時間成膜した後、薄膜形成機構30による膜の形成を中断し、振動機構20によってプレート10を再度振動させる。これにより、表面の少なくとも一部に膜が形成された粒状基板50を主面11上で転動させる。その後、プレート10の振動を停止させると、前回とは異なる姿勢で粒状基板50が主面11上で静止する。この状態で、粒状基板50の新たに露出した表面に膜を形成する。
【0032】
プレート10を振動させるステップと粒状基板50の表面に薄膜を形成するステップとを含む薄膜形成工程を複数回繰り返すことにより、粒状基板50の表面全体に均一に膜が形成される。
【0033】
例えば、粒状基板50の表面に形成する膜の所望の膜厚が80nmであるときに、1回の薄膜形成工程によって数nmの膜が形成される場合には、薄膜形成工程を20〜30回程度繰り返す。
【0034】
なお、溝110の断面形状は、粒状基板50の一部が溝110に嵌った状態で、粒状基板50が安定して静止する形状にすることが好ましい。これにより、成膜工程において、粒状基板50の表面に安定して膜が形成される。
【0035】
上記の成膜方法に対して、図7に示すように粒状基板50を載せたプレート10Aの主面11Aが平坦な場合には、粒状基板50が主面11A上を横滑りして転がらない。このため、図8に破線で示すように、粒状基板50の上面のみが成膜対象エリアである。
【0036】
しかし、図1に示した成膜装置1を用いた場合には、プレート10の主面11上で粒状基板50が転動する。このため、図9に破線で示したように、粒状基板50の表面全体が成膜対象エリアである。
【0037】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る成膜装置1によれば、プレート10の主面11に溝110を形成することにより、プレート10を振動させる毎に主面11上で粒状基板50が転動し、粒状基板50の表面の異なる領域が主面11上で露出する。このため、溝110に嵌って転動した粒状基板50の露出した面に薄膜を形成する工程を繰り返すことによって、粒状基板50の表面全体に均一に膜を形成できる。
【0038】
成膜装置1を用いた成膜方法は、粒状基板50の形状が、溝110が形成されていない平坦な主面のプレート上では転がりにくい形状である場合、例えば粒状基板50がDカット形状や立方体形状の場合に、粒状基板50の表面全体に均一に膜を形成するために、特に有効である。近年、集光効率の高い太陽電池としてDカット形状のSi基板の研究が進められており、この分野での成膜装置などとしても成膜装置1は有望である。
【0039】
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。即ち、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0040】
1…成膜装置
10…プレート
11…主面
20…振動機構
30…薄膜形成機構
31…チャンバー
32…排気装置
33…導入口
34…電極
35…高周波電源
50…粒状基板
110…溝
300…原料ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜処理対象の粒状基板が搭載される主面を有し、前記粒状基板の粒径よりも狭い幅で前記主面と平行に延伸する複数の溝が前記主面に形成されたプレートと、
前記粒状基板の一部分が前記溝に嵌ることによって前記粒状基板が前記主面上で転動を開始するように、前記プレートを前記主面と平行方向に振動させる振動機構と、
前記主面上の前記粒状基板の露出した表面に薄膜を形成する薄膜形成機構と
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記溝の断面形状が、前記溝に嵌った前記粒状基板が安定して静止する形状であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記薄膜形成機構が、前記プレートの前記主面上において前記薄膜の原料ガスをプラズマ化して、前記粒状基板の前記表面に前記薄膜を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記溝が延伸する方向と垂直な方向に沿った前記溝の断面形状が、三角型であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記溝が前記主面上に同心円状に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
成膜処理対象の粒状基板が搭載される主面を有し、前記粒状基板の粒径よりも狭い幅で前記主面と平行に延伸する複数の溝が前記主面に形成されたプレートを用意するステップと、
前記プレートの前記主面上に前記粒状基板を搭載するステップと、
前記粒状基板の一部分が前記溝に嵌ることによって前記粒状基板が前記主面上で転動を開始するように、前記プレートを前記主面と平行方向に振動させるステップと、
前記主面上の前記粒状基板の露出した表面に薄膜を形成するステップと
を含み、前記プレートを振動させるステップと前記薄膜を形成するステップとを含む薄膜形成工程を複数回繰り返すことを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
前記薄膜を形成するステップが、前記プレートの前記主面上において前記薄膜の原料ガスをプラズマ化して、前記粒状基板の前記表面に前記薄膜を形成することを特徴とする請求項6に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−1922(P2013−1922A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132068(P2011−132068)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】