説明

成膜装置及び発光装置

【課題】 ダメージが少なく均質な膜を形成可能な成膜装置や、当該成膜装置により形成される膜を電極として用いる発光装置を提供する。
【解決手段】 成膜装置1は、ターゲットTaの側方を囲うように配置されるシールド部6と、ターゲットTaの裏面側に配置されて磁場を発生する棒状の磁場発生部4と、ターゲットTaの表裏方向に対して垂直な面である水平面内で磁場発生部4の長手方向に対して垂直な方向である駆動方向に沿って磁場発生部4を直線的に往復駆動する駆動部5と、を備える。磁場発生部4が駆動部5によって駆動される範囲の端に位置するとき、磁場発生部4と、シールド部6を水平面に対して垂直に投影したときの射影との駆動方向における距離は、10mm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜を形成する成膜装置や、当該成膜装置によって形成される電極を備えた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LED(Light Emitting Diode)や有機EL、液晶ディスプレイ、タッチパネルなどの様々な光学装置において、ITO(Indium Tin Oxide、酸化インジウムスズ)などから成る透明電極が利用されている。このような透明電極の成膜装置として、マグネトロンスパッタリング装置がある(非特許文献1参照)。
【0003】
マグネトロンスパッタリング装置は、ターゲットの裏面側に配置する磁石等によって、ターゲットの表面近傍にプラズマを発生させることで、ターゲットを迅速にスパッタすることが可能である。ただし、マグネトロンスパッタリング装置は、プラズマの発生場所が限定的になることで、ターゲットが局所的に消費(侵食)される問題がある。
【0004】
この問題に対して、例えば特許文献1では、磁石及びターゲット間の距離を変更可能にすることで、発生するプラズマの状態を変化させ、ターゲットの消費を均一化するとともに生成される膜の均質化を図るマグネトロンスパッタリング装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−199354号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「透明導電膜の技術」日本学術振興会透明酸化物光・電子材料第166委員会編、オーム社出版局、2008年5月、第218頁〜第221頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のようなマグネトロンスパッタリング装置では、磁石が生成する磁場の強さに応じて、シース電圧(放電電圧)が変動する。この詳細について、図6を参照して説明する。図6は、磁束密度とシース電圧との関係を示すグラフである。なお、当該グラフの横軸は磁束密度(T)であり、縦軸はシース電圧の絶対値(V)である。また、図6に示すグラフは、上述の非特許文献1の記載内容に基づいたものである。
【0008】
図6に示すように、磁束密度を大きくするほど、シース電圧の絶対値が小さくなる。これは、磁束密度を大きくするほど、ターゲット上のプラズマ密度が大きくなるためである。シース電圧の絶対値を小さくすると、基板または基板上の膜に衝突するターゲット粒子(ターゲットのスパッタによって生じる粒子。以下同じ。)のエネルギーを、小さくすることができる。即ち、ダメージの少ない膜を形成することが可能になる。
【0009】
しかしながら、磁束密度を大きくしてシース電圧の絶対値を小さくする場合、磁石の大型化または複雑化に伴い、装置が大型化または複雑化したり、装置の大幅な設計変更が必要になったりするため、問題である。また、シース電圧の絶対値を小さくすることができたとしても、その時間的な変動が大きければ、形成される膜が不均質になるため、問題である。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑み、ダメージが少なく均質な膜を形成可能な成膜装置や、当該成膜装置により形成される膜を電極として用いる発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、プラズマによりターゲットをスパッタすることで、前記ターゲットの表面側に配置された基板上に、前記ターゲットを構成する材料を含む膜を形成する成膜装置であって、
内部で前記膜の形成が行われるチャンバと、
前記チャンバ内で、前記ターゲットの側方を囲うように配置されるシールド部と、
前記シールド部の内側かつ前記ターゲットの裏面側に配置されて磁場を発生する棒状の磁場発生部と、
前記ターゲットの表裏方向に対して垂直な面である水平面内で、前記磁場発生部の長手方向に対して垂直な方向である駆動方向に沿って、前記磁場発生部を直線的に往復駆動する駆動部と、を備え、
前記磁場発生部が、前記駆動部によって駆動される範囲の端に位置するとき、前記磁場発生部と、前記シールド部を前記水平面に対して垂直に投影したときの射影との前記駆動方向における距離が、10mm以上であることを特徴とする成膜装置を提供する。
【0012】
さらに、上記特徴の成膜装置は、前記磁場発生部が、前記駆動部によって駆動される範囲の端に位置するとき、前記磁場発生部と、前記シールド部を前記水平面に対して垂直に投影したときの射影との前記駆動方向における距離が、20mm以上であると、好ましい。
【0013】
さらに、上記特徴の成膜装置は、前記磁場発生部の、前記ターゲット側かつ前記水平面内の外周側における極性と、前記ターゲット側かつ前記水平面内の中心側における極性と、が異なると、好ましい。
【0014】
さらに、上記特徴の成膜装置は、前記磁場発生部が、前記駆動部によって駆動される範囲の端に位置するとき、前記磁場発生部と、前記シールド部を前記水平面に対して垂直に投影したときの射影との前記駆動方向における距離が、30mm以下であると、好ましい。
【0015】
さらに、上記特徴の成膜装置は、前記駆動部が、10mm/秒以上かつ20mm/秒以下の速さで、前記磁場発生部を駆動すると、好ましい。
【0016】
さらに、上記特徴の成膜装置は、前記基板及び前記ターゲット間の距離が、50mm以上かつ150mm以下であり、
前記ターゲット及び前記磁場発生部間の距離が、15mm以上かつ30mm以下であると、好ましい。
【0017】
さらに、上記特徴の成膜装置は、前記ターゲット表面内の前記磁場発生部と対向する領域の磁束密度が、0.03T以上かつ0.12T以下であると、好ましい。
【0018】
さらに、上記特徴の成膜装置は、前記膜が形成されるときの前記チャンバの内部が、0.4Pa以上かつ1Pa以下のアルゴン雰囲気であると、好ましい。
【0019】
さらに、上記特徴の成膜装置は、前記膜が形成されるときの前記基板の温度が、50℃以下であると、好ましい。
【0020】
さらに、上記特徴の成膜装置は、前記膜が形成されるときに前記ターゲットに供給される直流電力が、200W以上かつ1200W以下であると、好ましい。
【0021】
また、本発明は、プラズマによりターゲットをスパッタすることで、前記ターゲットの表面側に配置された基板上に、前記ターゲットを構成する材料を含む膜を形成する成膜装置であって、
内部で前記膜の形成が行われるチャンバと、
前記チャンバ内かつ前記ターゲットの側方を囲うように配置されるシールド部と、
前記シールド部の内側かつ前記ターゲットの裏面側に配置されて磁場を発生する磁場発生部と、
前記ターゲットの表裏方向に対して垂直な面である水平面内で、前記磁場発生部を駆動する駆動部と、を備え、
前記磁場発生部が、前記駆動部によって駆動される範囲の端に位置するとき、前記磁場発生部と、前記シールド部を前記水平面に対して垂直に投影したときの射影との距離が、10mm以上であることを特徴とする成膜装置を提供する。
【0022】
また、本発明は、上記特徴の成膜装置を用いて形成された酸化インジウムスズから成る電極を備えることを特徴とする発光装置を提供する。
【発明の効果】
【0023】
上記特徴の成膜装置によれば、磁場発生部の駆動範囲を限定するだけで、シース電圧の絶対値及び変動を小さくすることが可能になる。したがって、ダメージが少なく均質な膜を形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の構造例を示す断面図
【図2】図1に示す成膜装置の磁場発生部の駆動方法を示す平面図
【図3】比較例及び実施例における磁場発生部の中心位置とシース電圧との関係を示すグラフ
【図4】比較例及び実施例における成膜時間とシース電圧との関係を示すグラフ
【図5】比較例及び実施例を適用したそれぞれの成膜装置により形成される膜を備えた素子の特性を示すグラフ
【図6】磁束密度とシース電圧との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る成膜装置(マグネトロンスパッタリング装置)について、図面を参照して説明する。最初に、本発明の実施形態に係る成膜装置の構造例について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る成膜装置の構造例を示す断面図である。
【0026】
図1に示すように、成膜装置1は、基板Sbが実装されるステージ2と、ターゲットTaが実装されるバッキングプレート3と、磁場を発生する磁場発生部4と、磁場発生部4を駆動する駆動部5と、ターゲットTa及びバッキングプレート3の周囲に設けられるシールド部6と、内部で膜の形成が行われるとともに接地されるチャンバ7と、チャンバ7の外部に配置されるとともにバッキングプレート3に電力を供給する電源部8と、を備える。なお、以下では説明の具体化のために、電源部8が、バッキングプレート3に対して負電圧の直流電力を供給する場合について例示する。
【0027】
ステージ2は、チャンバ7と電気的に接続することで接地され、陽極となる。バッキングプレート3は、電源部8から負電圧の直流電力が供給され、陰極となる。また、図1に示す成膜装置1では、ステージ2の基板Sbが実装される面と、バッキングプレート3のターゲットTaが実装される面と、が対向している。即ち、基板Sb及びターゲットTaが対向している。なお、以下において、ターゲットTaの基板Sb側(図中上方向)の面を表面、反対側(バッキングプレート3側、図中下方向)の面を裏面とする。また、ターゲットTaから見て基板Sbが存在する方向を、表面方向または上方向と表現するとともに、ターゲットTaから見てバッキングプレート3が存在する方向を、裏面方向または下方向と表現する。
【0028】
磁場発生部4は、例えば永久磁石や電磁石などの磁場を発生し得るものから成る。駆動部5は、ターゲットTaの表裏方向(上下方向)に対して垂直な面(図中の左右方向及び紙面の前後方向が含まれる面。以下、水平面とする。)内で、磁場発生部4を駆動する。なお、駆動部5による磁場発生部4の駆動方法の詳細については、後述する。また、磁場発生部4及び駆動部5は、ターゲットTaの裏面側(特に、バッキングプレート3とチャンバ7の壁面との間であり、かつシールド部6の内側)に配置される。
【0029】
シールド部6は、チャンバ7と電気的に接続することで接地される。また、シールド部6は、ターゲットTa及びバッキングプレート3の側方を囲うように配置される。さらに、シールド部6は、上側の端部が、内側に向かって(ターゲットTaの上側に向かって)屈曲している。これにより、チャンバ7内に発生したプラズマによってバッキングプレート3がスパッタされることが、抑制される。
【0030】
図1では、シールド部6の屈曲した部分の先端が、ターゲットTaの端辺上までせり出した構造について例示しているが、このシールド部6の屈曲した部分の先端は、図1に示す状態よりさらに内側にあっても良いし、さらに外側にあっても良い。また、例えばバッキングプレート3がターゲットTaと略等しい大きさである場合などでは、シールド部6に上記の屈曲した部分を設けなくても良い。
【0031】
チャンバ7は、上述した各部(ステージ2、バッキングプレート3、磁場発生部4、駆動部5及びシールド部6)を、その内部に備える。また、チャンバ7は、プラズマを生成するためのガス(例えば、アルゴンガス)を内部に導入するための導入口71と、チャンバ7の内部のガスを排出するための排出口72と、を備える。導入口71には、例えばマスフローコントローラ等によって流量が制御されたガスが導入される。また、排出口72には真空ポンプ等が接続され、チャンバ7から内部のガスが排出される。これにより、チャンバ7内のガスの状態が、所望の状態に保持される。
【0032】
また、チャンバ7は、チャンバ7の外部に配置される電源部8とバッキングプレート3とを電気的に接続する電源ケーブル81を通過させるための接続口73を備える。電源部8は、当該電源ケーブル81を介して、バッキングプレート3に負電圧の直流電力を供給する。
【0033】
電源部8が、バッキングプレート3に負電圧の直流電力を供給すると、陰極であるバッキングプレート3と陽極であるステージ2との間で絶縁破壊が生じ、チャンバ7内のガスが電離してプラズマが発生する。このとき、磁場発生部4が発生する磁場によって、ターゲットTa近傍にプラズマが発生する。そのため、プラズマ内のイオンが効率良くターゲットTaに衝突して、ターゲットTaが効率よくスパッタされる。そして、当該スパッタにより生じたターゲット粒子が基板Sbに到達することで、基板Sb上にターゲットTaを構成する材料を含む膜が形成される。
【0034】
また、本発明の実施形態に係る成膜装置1では、駆動部5が磁場発生部4を駆動することで、プラズマの発生場所を変動させる。これにより、ターゲットTaの消費を均一化する。
【0035】
図2を参照して、本発明の実施形態に係る成膜装置1における磁場発生部4の駆動方法について説明する。図2は、図1に示す成膜装置の磁場発生部の駆動方法を示す平面図である。なお、図2は、磁場発生部4が駆動される水平面を、ステージ2側(上側)から見た状態を示す平面図である。また、図2において、ターゲットTaの外周端及びシールド部6の内周端を水平面に対して垂直に投影した射影を、破線で表示している。
【0036】
図2に例示する磁場発生部4は、全体として棒状の形状である。さらに、この磁場発生部4は、水平面内において外周に配置される外周部41と、水平面内において外周部41の内側(中心側)に配置される中心部42と、を備える。外周部41及び中心部42は、ターゲットTa側(上側)の極性が異なる。具体的に例えば、外周部41のターゲットTa側の極性はNであり、中心部42のターゲットTa側の極性はSである。
【0037】
このように、磁場発生部4の外周部41及び中心部42の極性を異ならせると、磁場が無用に広がる(即ち、プラズマの発生場所が無用に広がる)ことを抑制することができるため、好ましい。なお、外周部41及び中心部42のそれぞれは、異なる磁石または電磁石から成るものであっても良いし、一つの磁石または電磁石の異なる部分から成るものであっても良い。
【0038】
駆動部5は、磁場発生部4の長手方向に対して垂直な方向(図中左右方向。以下、駆動方向とする。)に沿って、磁場発生部4を直線的に往復駆動する。
【0039】
上述のようにターゲットTaの消費を均一化する(ターゲットTaの表面近傍にまんべんなくプラズマを発生させる)観点に基づく場合、磁場発生部4が最大限に駆動されるように駆動部5を設定する。この場合、具体的に例えば、ターゲットTaの直下の領域内(ターゲットTaを水平面に対して垂直に投影した射影内、図2に示す破線の内側の領域)の全体を、磁場発生部4が駆動される範囲(以下、駆動範囲とする)とする。即ち、この場合の磁場発生部4の駆動範囲は、図2中のAの範囲である。なお、以下の説明において、上記のように磁場発生部4の駆動範囲がAである場合を、『比較例』とする。
【0040】
これに対して、本発明の実施形態に係る成膜装置1では、磁場発生部4の駆動範囲を、上述の比較例よりも狭くする。具体的には、磁場発生部4と、シールド部6を水平面に対して垂直に投影したときの射影(図2に示す破線の外側の領域)と、の駆動方向における距離がBになる位置を、磁場発生部4の駆動範囲の端(駆動方向における両端)とする。即ち、本発明の実施形態に係る成膜装置1における磁場発生部4の駆動範囲は、図2中のC(C=A−2B)の範囲である。なお、以下の説明において、上記のように磁場発生部4の駆動範囲がCである場合を、『実施例』とする。
【0041】
比較例及び実施例について、以下図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明中における実施例は、上述のBの値を20mmとしたものである。
【0042】
最初に、図3を参照して、比較例及び実施例におけるシース電圧の大きさについて説明する。図3は、比較例及び実施例における磁場発生部の中心位置とシース電圧との関係を示すグラフである。なお、当該グラフの横軸は磁場発生部の中心位置(mm)であり、縦軸はシース電圧の絶対値(V)である。
【0043】
図3に示すように、比較例のように磁場発生部4を駆動すると、磁場発生部4が駆動範囲の両端(図中の100mm,−100mm)に位置するときのシース電圧の絶対値が、他の位置におけるシース電圧の絶対値よりも際立って大きくなる。これは、磁場発生部4が駆動範囲の端に位置するときに、ターゲットTaの端部で発生したプラズマが、接地されたシールド部6に掛かり広がる(ターゲットTa近傍のプラズマ密度が小さくなる)ためである。
【0044】
そして、比較例のようにシース電圧の絶対値が大きくなると、基板Sbまたは基板Sb上の膜に衝突するターゲット粒子のエネルギーが、大きくなる。即ち、基板Sb上に、ダメージの多い膜が形成されることになる。
【0045】
これに対して、実施例のように磁場発生部4を駆動すると、磁場発生部4が駆動範囲の両端(図中の80mm,−80mm)に位置するときのシース電圧の絶対値を、他の位置におけるシース電圧の絶対値と同程度まで小さくすることが可能になる。これは、磁場発生部4の駆動範囲を上述のように狭くしたことで、磁場発生部4が駆動範囲の端に位置したとしても、発生したプラズマが接地されたシールド部6に掛かり難くなる(ターゲットTa近傍のプラズマ密度が小さくなることが抑制される)ためである。
【0046】
そして、実施例のようにシース電圧の絶対値を小さくすることで、基板Sbまたは基板Sb上の膜に衝突するターゲット粒子のエネルギーを、低減することが可能になる。即ち、基板Sb上に、ダメージの少ない膜を形成することが可能になる。
【0047】
なお、図3に示すように、上述した実施例におけるBの値を少なくとも10mm以上にすることで、シース電圧の絶対値を効果的に小さくすることが可能になる。ただし、Bの値を20mm以上にすると、シース電圧の絶対値をより効果的に小さくすることができるため、好ましい。
【0048】
一方、図3に示すように、上述した実施例におけるBの値は、ある程度以上大きくすると、シース電圧の絶対値を小さくすることができなくなる。さらに、Bの値を大きくし過ぎると、プラズマの発生場所が限定されることで、ターゲットTaが局所的に消費される問題が生じる。そこで、Bの値を30mm以下にすると、シース電圧の絶対値を小さくするとともに、ターゲットTaを均一的に消費することができるため、好ましい。
【0049】
次に、図4を参照して、比較例及び実施例におけるシース電圧の時間的な変動について説明する。図4は、比較例及び実施例における成膜時間とシース電圧との関係を示すグラフである。なお、図4(a)は比較例を示したグラフであり、図4(b)は実施例を示したグラフである。また、図4(a)及び図4(b)に示すグラフの横軸は成膜時間(秒)であり、縦軸はシース電圧の絶対値(V)である。また、図4(a)及び図4(b)のグラフでは、成膜中の任意のタイミングを0秒としている。
【0050】
図4(a)に示すように、比較例では、所定時間毎にシース電圧の絶対値が大きくなる。これは、磁場発生部4が、所定時間毎に駆動範囲の端に位置するためである。上述のように、磁場発生部4が駆動範囲の端に位置すると、ターゲットTaの端部で発生したプラズマが接地されたシールド部6に掛かり、シース電圧の絶対値が大きくなる。なお、図4(a)に示す成膜時間中において、シース電圧値の絶対値のばらつきは26Vであり、シース電圧値の絶対値の平均値は240Vである。
【0051】
比較例のように、シース電圧の時間的な変動が大きいと、基板Sbまたは基板Sb上の膜に衝突するターゲット粒子のエネルギーが大きく変動する。即ち、基板Sb上に、不均質な膜が形成されてしまう。
【0052】
これに対して、図4(b)に示すように、実施例では、成膜時間中におけるシース電圧の変動が小さくなる。これは、磁場発生部4が、所定時間毎に駆動範囲の端に位置したとしても、発生したプラズマが接地されたシールド部6に掛かり難く、シース電圧の絶対値が大きくなり難いためである。なお、図4(b)に示す成膜時間中において、シース電圧値の絶対値のばらつきは5Vであり、シース電圧値の絶対値の平均値は236Vであった。
【0053】
実施例のように、シース電圧の時間的な変動が小さいと、基板Sbまたは基板Sb上の膜に衝突するターゲット粒子のエネルギーを、均一化することが可能になる。即ち、基板Sb上に、均質な膜を形成することが可能になる。
【0054】
以上のように、本発明の実施形態に係る成膜装置1では、磁場発生部4の駆動範囲を限定するだけで、シース電圧の絶対値及び変動を小さくすることが可能になる。したがって、ダメージが少なく均質な膜を形成することが可能になる。
【0055】
次に、図5を参照して、比較例及び実施例を適用したそれぞれの成膜装置を用いて形成される膜を備えた素子の特性について説明する。具体的には、比較例を適用した成膜装置を用いてp型のGaN上にITOから成る透明電極を形成した素子(以下、比較例素子とする)と、実施例を適用した成膜装置を用いてp型のGaN上にITOから成る透明電極を形成した素子(以下、実施例素子とする)と、のコンタクト抵抗率について説明する。
【0056】
図5は、比較例及び実施例を適用したそれぞれの成膜装置により形成される膜を備えた素子の特性を示すグラフである。なお、図5(a)に示すグラフの横軸はコンタクト抵抗率であり、縦軸は累積度数(%)である。また、図5(b)に示すグラフの横軸はコンタクト抵抗率であり、縦軸は度数(%)である。図5(a)及び図5(b)のグラフでは、比較例素子及び実施例素子におけるコンタクト抵抗率の大きさを相対的に表現すべく、規格化している。
【0057】
上述のように、実施例素子は、比較例素子と比べて形成される膜のダメージが少なく均質である。さらに、実施例素子は、比較例素子と比べて膜(電極)の形成時におけるターゲット粒子のエネルギーが小さいため、基板Sbに与えるダメージを小さくすることができる。そのため、図5(a)及び図5(b)に示すように、実施例素子のコンタクト抵抗率の分布は、比較例素子のコンタクト抵抗率の分布と比べて、全体的に小さくなる。
【0058】
以上のように、本発明の実施形態に係る成膜装置1を用いて、LEDなどの発光装置が備えるITOから成る透明電極を形成することで、当該発光装置の特性を改善することができる。具体的に例えば、当該発光装置の閾値電圧を、低減することが可能になる。
【0059】
なお、良質な膜を形成する観点から、本発明の実施形態に係る成膜装置1を、以下のように設定すると好ましい。
【0060】
例えば、基板Sb及びターゲットTa間の距離を50mm以上かつ150mm以下にするとともに、ターゲットTa及び磁場発生部4間の距離を15mm以上かつ30mm以下にすると、好ましい。また例えば、駆動部5が、磁場発生部4を10mm/秒以上かつ20mm/秒以下の速さで駆動すると、好ましい。また例えば、ターゲットTaの表面内において、磁場発生部4と対向する領域の磁束密度を、0.03T以上かつ0.12T以下にすると、好ましい。また例えば、膜を形成するときのチャンバ7の内部を、0.4Pa以上かつ1Pa以下のアルゴン雰囲気にすると、好ましい。また例えば、膜が形成されるときの基板Sbの温度を、50℃以下(室温以上、基板加熱なし)にすると、好ましい。また例えば、膜を形成するときにターゲットTa(バッキングプレート3)に供給する直流電力を、200W以上かつ1200W以下にすると、好ましい。
【0061】
例えば、磁場発生部4の磁束密度を大きくすることには、シース電圧の絶対値を低減することができるという利点がある反面、磁石の大型化または複雑化に伴い、装置が大型化または複雑化したり、装置の大幅な設計変更が必要になったりすることでコストが高くなるなどの欠点がある。そのため、磁場発生部4の磁束密度を上記の範囲内に収めることで当該欠点を解消し、磁場発生部4の駆動範囲を限定することでシース電圧の絶対値及び変動を小さくすると、好ましい。
【0062】
また、これらの設定範囲内における最適値は、成膜装置の構造や生成する膜の種類等に応じて変動し得る。例えば、本発明の実施形態に係る成膜装置1では、上述した成膜条件が最適値となる。
【0063】
また、本発明の実施形態に係る成膜装置1では、磁場発生部4と、シールド部6を水平面に対して垂直に投影したときの射影との駆動方向における距離について規定したが、駆動方向に対して垂直な方向(磁場発生部4の長手方向)の距離についても同様に規定しても良い。即ち、磁場発生部4と、シールド部6を水平面に対して垂直に投影したときの射影と、の駆動方向に対して垂直な方向における距離を、10mm以上(好ましくは20mm以上、また好ましくは30mm以下)にしても良い。ただし、この場合、磁場発生部4の長手方向の長さを短くするなど、成膜装置の設計変更が必要になる場合がある。
【0064】
上述した本発明の実施形態に係る成膜装置1のように、磁場発生部4が棒状である場合、プラズマが磁場発生部4の長手方向に沿って発生し得るため、磁場発生部4の長手方向とシールド部6との距離が、シース電圧に対して強く影響する。したがって、磁場発生部4と、シールド部6を水平面に対して垂直に投影したときの射影との駆動方向における距離について規定するだけでも、十分にシース電圧を低減することが可能である。さらに、このように構成すると、磁場発生部4などの変更を不要として、駆動部5による磁場発生部4の駆動方法を変更するだけで済む。そのため、従来の成膜装置に対して、本発明を容易に適用することができる。
【0065】
また、本発明は、磁場発生部4が直線的に往復駆動される成膜装置1以外の成膜装置に対しても、適用可能である。具体的に例えば、磁場発生部が回転駆動される成膜装置にも、本発明を適用することができる。どのような成膜装置に本発明を適用する場合も、磁場発生部が駆動範囲の端に位置するときに(場合よっては常時)、磁場発生部とシールド部を水平面に対して垂直に投影したときの射影との距離が10mm以上(好ましくは20mm以上、また好ましくは30mm以下)になるようにすれば良い。
【0066】
ただし、上述した本発明の実施形態に係る成膜装置1のように、プラズマの発生領域の端辺とシールド部の端辺との重なりが大きい成膜装置に対して本発明を適用すると、シース電圧を効果的に低減することができるため、特に好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、マグネトロンスパッタリング装置などの成膜装置や、当該成膜装置によって形成される電極を備えた発光装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 : 成膜装置
2 : ステージ
3 : バッキングプレート
4 : 磁場発生部
41 : 外周部
42 : 中心部
5 : 駆動部
6 : シールド部
7 : チャンバ
71 : 導入口
72 : 排出口
73 : 接続口
8 : 電源部
Ta : ターゲット
Sb : 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマによりターゲットをスパッタすることで、前記ターゲットの表面側に配置された基板上に、前記ターゲットを構成する材料を含む膜を形成する成膜装置であって、
内部で前記膜の形成が行われるチャンバと、
前記チャンバ内で、前記ターゲットの側方を囲うように配置されるシールド部と、
前記シールド部の内側かつ前記ターゲットの裏面側に配置されて磁場を発生する棒状の磁場発生部と、
前記ターゲットの表裏方向に対して垂直な面である水平面内で、前記磁場発生部の長手方向に対して垂直な方向である駆動方向に沿って、前記磁場発生部を直線的に往復駆動する駆動部と、を備え、
前記磁場発生部が、前記駆動部によって駆動される範囲の端に位置するとき、前記磁場発生部と、前記シールド部を前記水平面に対して垂直に投影したときの射影との前記駆動方向における距離が、10mm以上であることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記磁場発生部が、前記駆動部によって駆動される範囲の端に位置するとき、前記磁場発生部と、前記シールド部を前記水平面に対して垂直に投影したときの射影との前記駆動方向における距離が、20mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記磁場発生部の、前記ターゲット側かつ前記水平面内の外周側における極性と、前記ターゲット側かつ前記水平面内の中心側における極性と、が異なることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記磁場発生部が、前記駆動部によって駆動される範囲の端に位置するとき、前記磁場発生部と、前記シールド部を前記水平面に対して垂直に投影したときの射影との前記駆動方向における距離が、30mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記駆動部が、10mm/秒以上かつ20mm/秒以下の速さで、前記磁場発生部を駆動することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記基板及び前記ターゲット間の距離が、50mm以上かつ150mm以下であり、
前記ターゲット及び前記磁場発生部間の距離が、15mm以上かつ30mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記ターゲット表面内の前記磁場発生部と対向する領域の磁束密度が、0.03T以上かつ0.12T以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記膜が形成されるときの前記チャンバの内部が、0.4Pa以上かつ1Pa以下のアルゴン雰囲気であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記膜が形成されるときの前記基板の温度が、50℃以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記膜が形成されるときに前記ターゲットに供給される直流電力が、200W以上かつ1200W以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項11】
プラズマによりターゲットをスパッタすることで、前記ターゲットの表面側に配置された基板上に、前記ターゲットを構成する材料を含む膜を形成する成膜装置であって、
内部で前記膜の形成が行われるチャンバと、
前記チャンバ内かつ前記ターゲットの側方を囲うように配置されるシールド部と、
前記シールド部の内側かつ前記ターゲットの裏面側に配置されて磁場を発生する磁場発生部と、
前記ターゲットの表裏方向に対して垂直な面である水平面内で、前記磁場発生部を駆動する駆動部と、を備え、
前記磁場発生部が、前記駆動部によって駆動される範囲の端に位置するとき、前記磁場発生部と、前記シールド部を前記水平面に対して垂直に投影したときの射影との距離が、10mm以上であることを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の成膜装置を用いて形成された酸化インジウムスズから成る電極を備えることを特徴とする発光装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−251233(P2012−251233A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127133(P2011−127133)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】