説明

成膜装置

【課題】幅方向における膜厚分布・膜質分布を均一にすることができる成膜装置を提供する。
【解決手段】本発明の成膜装置は、被処理対象を走行させる搬送手段と、被処理対象の走行方向に対して直交する方向に沿うように、被処理対象の成膜面に対向して設けられたライン状の蒸着原料と、蒸着原料を溶融するための複数の電子ビーム装置23と、蒸着原料からの蒸着粒子を活性化させるイオンビームを放出する複数の第1イオンソース31とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、反射防止膜や透明導電膜などの機能性薄膜層は、基板やフィルム基材などの上に蒸着法、スパッタリング法などにより形成されている。この場合に、ロール状になった基材を巻き取りながら成膜を行ういわゆるロール・ツー・ロール方式を用いることで、生産性を向上させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、被処理対象であるフィルムに対して垂直に蒸着原料からの蒸着イオンが到達するように、フィルムが巻き付かれた成膜ドラムがロールに対向して蒸着原料が設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−18828号公報(請求項1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、被処理対象の大型化によりロール状のフィルムの幅も長くなってきている。これにより、上述した特許文献1に記載されたような装置を用いて成膜すると、フィルムの幅方向において膜厚や膜質などの面内分布が均一にならないという問題がある。
【0005】
このような問題は大型の基板に成膜する場合であっても同様に存在する。
【0006】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、幅方向における膜厚分布・膜質分布を均一にすることができる成膜装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成膜装置は、被処理対象を走行させる搬送手段と、前記被処理対象の走行方向に対して直交する方向に沿うように、該被処理対象の成膜面に対向して設けられたライン状の蒸着原料と、前記蒸着原料を溶融するための複数の電子ビーム装置と、前記蒸着原料からの蒸着粒子を活性化させるイオンビームを放出する複数の第1イオンソースとを備えることを特徴とする。
【0008】
このようにライン状の蒸着原料を備えることで前記被処理対象の走行方向に対して直交する方向に亘って膜厚及び膜質が均一となるように成膜することができる。
【0009】
前記蒸着原料と、第1イオンソースとの間には、フィラメントが設けられていると共に、該フィラメントには、電圧印加手段が設けられていることが好ましい。電圧印加手段によりフィラメントに電圧を印加することにより、フィラメントから放出された電子が第1イオンソースにおけるプラズマを大きくすることができる。これにより、第1イオンソースでの電流密度を上昇させることができる。
【0010】
前記電子ビーム装置は、電子ビームの蒸着原料に照射された時のビーム形状が非円形形状であって、該ビーム形状の長手方向が前記蒸着原料の長手方向に沿うように構成されていることが好ましい。このように構成されていることで、蒸着原料をその長手方向に沿って均一に溶融することができ、その結果、前記被処理対象の走行方向に対して直交する方向に亘って膜厚及び膜質がより均一となるように成膜することができる。
【0011】
前記電子ビーム装置は、前記電子ビームが前記蒸着原料の長手方向に沿って掃引可能であるように構成されていることが好ましい。このように構成することで、電子ビーム装置の数を減ずることが可能である。
【0012】
本発明の好ましい実施形態としては、前記蒸着原料は、蒸着材料からなるペレットを複数列設したものであることが挙げられる。
【0013】
前記蒸着原料の、前記第1イオンソースとは逆側に、前記被処理対象をアニールするためのイオンビームを送出する第2イオンソースが設けられていることが好ましい。第2イオンソースが設けられていることで、被処理対象の膜質をアニールにより向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】蒸着装置の構成を示す概略正面図である。
【図2】蒸着装置の構成を示す概略上面図である。
【図3】蒸着手段について説明するための図であり、(1)が拡大概略図、(2)が装置使用中の蒸着原料の上面図及び断面図である。
【図4】イオンソースの構成を示す概略断面図及び概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本実施の形態によるロール・ツー・ロール式のイオンビームアシスト蒸着装置の概略構成例を示す図である。本実施形態においては、イオンビームアシスト蒸着装置である蒸着装置1は、インジウムを有さない透明導電膜をフィルム状の基材Sに対して成膜するためのものである。
【0016】
蒸着装置1は、真空チャンバ10を有する。真空チャンバ10の排気口11には真空排気装置12が設けられている。真空排気装置12により真空チャンバ10内を真空排気して真空チャンバ10内部を真空状態にすることが可能である。このような真空排気装置12としては、ターボ分子ポンプやクライオポンプ等の公知の真空ポンプがあげられ、本実施形態では、ターボ分子ポンプ及びクライオポンプを併用して用いている。
【0017】
真空チャンバ10内には、帯状であるフィルム状の基材Sを巻装してなる巻き出しロール13と、このフィルム状の基材Sを巻き取る巻き取りロール14と、成膜ドラム15とが配置されている。また、巻き出しロール13と、成膜ドラム15との間、及び巻き取りロール14と成膜ドラム15との間には、基材Sを巻き出しロール13から巻き取りロール14へ搬送するための駆動ロール16がそれぞれ設けられている。フィルム状の基材Sは、巻き出しロール13から、駆動ロール16、成膜ドラム15及び駆動ロール16を走行し通過して巻き取りロール14で所定速度で巻き取られる。フィルム状の基材Sの成膜ドラム15の下端部17に位置する領域が成膜面S1となる。
【0018】
真空チャンバ10の底面には、成膜ドラム15の最下端部に対向する位置に、蒸着手段21が設けられている。この蒸着手段21により、フィルム状の基材Sの成膜面S1に成膜を行う。この蒸着手段21は、図2に示すように、成膜ドラム15の幅方向に沿うように、ライン状となって複数並設されている。
【0019】
各蒸着手段21は、図3(1)に示すように、各蒸着原料22aが収納された坩堝22と、坩堝22の蒸着原料22aを溶融するための電子ビーム装置23と、磁場発生手段24とを有する。各坩堝22は、等間隔で離間している。蒸着原料22aは、本実施形態では、上面視において円形状のペレットである。かかる蒸着原料22aは、酸化亜鉛又は亜鉛からなる。このように、インジウムを用いないことで、本実施形態では、低コストで透明導電膜を形成することが可能である。
【0020】
電子ビーム装置23は、坩堝22の近傍に設けられている。電子ビーム装置23は、放出する電子ビームが各蒸着原料22aに照射できるように設置されている。電子ビームが蒸着原料22aに照射されることで、蒸着原料22aが溶融して、蒸着粒子が基材Sの処理面に付着し堆積する。
【0021】
本実施形態においては、この電子ビーム装置23からの電子ビームは、蒸着原料22aの照射時のビーム形状(照射するビームの断面形状)が、蒸着手段21の並設方向とは直交する方向においてのみ焦点があうように(フォーカスされるように)、磁場発生手段24が坩堝22の電子ビーム装置23とは逆側に設置されている。即ち、蒸着手段21では、磁場発生手段24により、蒸着原料22aに照射された電子ビームが並設方向に平行な線状(アスペクト比が3の楕円形状)となるように構成されている。
【0022】
磁場発生手段24は、磁石を芯としてその外周にコイルを設けたものであり、該磁場発生手段24への電流を制御することで、発生する磁場の強度を調整して電子ビームのフォーカスを調整する。本実施形態では、蒸着手段21は、磁場発生手段としてはこの磁場発生手段24のみを有しており、坩堝22と電子ビーム装置23とに対して直交する位置に、別の磁場発生手段24aを有していない。従来の蒸着手段では別の磁場発生手段24aをさらに有することで、蒸着手段21の並設方向にも焦点があうように(フォーカスされるように)構成されているが、本実施形態では、蒸着手段21が、この別の磁場発生手段24aを有さず磁場発生手段24のみを有していることで、電子ビームは蒸着手段21の並設方向に対して直交する方向のみにフォーカスされるので、蒸着原料22aの照射時のビーム形状は、非円形形状となる。
【0023】
また、本実施形態では、この電子ビーム装置23は、電子ビームを蒸着手段21の並設方向(ライン状に設けられた蒸着原料の長手方向)に掃引することができるように構成されている。ビーム形状が並設方向に沿った線状である電子ビームを蒸着手段21の並設方向に掃引できることで、蒸着原料22aを溶融し放出された蒸着粒子を、成膜面S1の蒸着原料22aに対向する領域だけでなく、蒸着原料22aに対向しない領域にも付着させることができる。
【0024】
このような線状の電子ビームを蒸着手段21の並設方向に掃引することで、蒸着原料22aは、図3(2)に示すように、上面視において蒸着手段21の並設方向に沿った中心線部から徐々に溶融されていく。そして、溶融されることで、蒸着原料22aは、断面視において凹部がV字状となるように形状を変化させる。
【0025】
このように各蒸着原料22aは、蒸着手段21の並設方向に沿った中心線部から溶融され、かつ、電子ビームが掃引されることで、基材Sの幅方向全域に亘って線状に各蒸着原料22aからの蒸着粒子が付着する。即ち、本実施形態では、蒸着原料22aに照射された時の電子ビームのビーム形状が線状であることで、基材Sの幅方向に亘って蒸着粒子が付着するので、得られた膜の膜厚、膜質が均一となるように成膜を行うことが可能である。ちなみに、電子ビーム装置がその並設方向に直交する方向に対して焦点があうと共に並設方向においても焦点があっているとすれば、本実施形態のように並設方向に沿って蒸着原料22aが溶解されないので、基材Sの幅方向に亘って均一に成膜することはできない。
【0026】
また、このように蒸着原料22aに対向しない領域においても蒸着粒子を付着させることができるので、蒸着原料22aをライン状に隙間なく並べる必要もなく、その結果、蒸着原料22aを隙間なく並べた場合よりも製造コストを抑制することができる。そして、このように蒸着原料22aを離間して設けることができ、電子ビーム装置23もこの蒸着原料22aの数に合わせて設置すればよいので、蒸着原料22aを隙間なく並べた場合よりも電力消費量を抑制することが可能である。
【0027】
図1及び図2に戻り、真空チャンバ10内には、第1イオンソース31が、基材Sの進行方向の上流側(逆側)に、蒸着手段21の並設方向に沿って複数並設されている。即ち、第1イオンソース31が並設されてなる列は、蒸着手段21が並設されてなる列に対して平行である。
【0028】
真空チャンバ10には、さらに複数の電圧印加手段32が設けられている(図2中図示せず)。電圧印加手段32は、例えばDC電源であり、正電圧側が各第1イオンソース31に接続されると共に、負電圧側が成膜ドラム15に接続されている。
【0029】
蒸着手段21の成膜アシスト手段である第1イオンソース31は、詳しくは後述するように、図示しないガス供給ラインからガスが供給されると、その内部でイオンを生成し、この生成したイオンからなるイオンビームを基材Sに向けて放出する。本実施形態では第1イオンソース31に導入したOガスとCxFyを含むガスとのプラズマから、正に帯電したイオン(O,CxFy)を引き出し、電圧印加手段32の加速電圧により加速して基材Sに向けて放出する。
【0030】
そして、放出されたイオンビームは、電圧印加手段32により第1イオンソース31と基材Sとの間に形成された電界により、基材Sの成膜面S1に到達し、成膜面S1に堆積した蒸着粒子と反応し、又は蒸着粒子に付着して、所望の膜が形成される。本実施形態では、所望の膜としては、CxFyドープされた酸化亜鉛膜が形成される。
【0031】
ここで、第1イオンソース31について図4を用いて詳細に説明する。
【0032】
第1イオンソース31は、筐体41と、筐体41に収納されたアノード電極として機能するアノード部42とを備える。アノード部42は、その中央部にすり鉢状の凹部43を有している。この凹部43により形成される空間が、イオン形成空間44となる。アノード部42の凹部43の表面は、TiN膜に覆われている。これにより、後述するようにイオン形成空間44にOガスとCxFyを含むガスとが導入されてプラズマが形成された場合であっても、酸素イオンにより表面が荒れることがなく、かつ、酸素を含むプラズマを安定して形成することができる。
【0033】
この凹部43に対向する位置に、カソードとしても機能する第1フィラメント45が設けられている。この第1フィラメント45には、図示しない電圧印加手段が設けられていて、第1フィラメント45に電圧を印加することが可能である。
【0034】
凹部43は、その底部に突起部46が設けられている。突起部46は、イオン形成空間44側に突出しており、断面視において円弧状となっている。このような突起部46が設けられていることで、カソードから放出された電子を効率よくイオン形成空間44に閉じ込めることが可能である。
【0035】
筐体41には、第1貫通孔51が設けられている。第1貫通孔51は、筐体41の壁面を貫通している。また、筐体41とアノード部42との間には、間隙52が設けられている。間隙52に第1貫通孔51が臨んでいる。また、アノード部42には、アノード部42を貫通する第2貫通孔53が設けられている。第2貫通孔53は、一端側で間隙52に臨み、他端側で、イオン形成空間44に臨む。即ち、第2貫通孔53を介して、間隙52とイオン形成空間44とが連通している。なお、図4(b)に示すように、第2貫通孔53は、複数設けられている。
【0036】
この第1貫通孔51、間隙52及び第2貫通孔53により、イオン形成空間44にガスを導入するためのガス導入路が構成されている。即ち、図示しないガス供給ラインが第1貫通孔51に連通し、ガス導入路により、イオン形成空間44にOガスとCxFyを含むガスとが導入される。
【0037】
また、アノード部42の凹部43とは逆側には、磁石47が設けられている。この磁石47により、カソードである第1フィラメント45と、アノード部42との間に形成される電場に対して直交する磁場が形成され、ガス導入時にイオン形成空間44にプラズマが形成される。
【0038】
なお、この場合に非常に第1イオンソース31が高温になるのを抑制すべく、アノード部42の突起部46の後方(イオン形成空間44とは逆側)には、冷却手段48が設けられている。冷却手段48は、本実施形態では、水冷手段であり、冷却手段48の内部を冷却液が通過することで、アノード部42を冷却できるように構成されている。
【0039】
また、この第1イオンソース31では、電圧印加手段32(図1参照)からアノード部42に電圧が印加されるように構成されており、この電圧印加手段32により印加される電圧は、200V以下である。本実施形態では、エンドホール型のイオンソースであり、かつ、直流放電可能であるので、低電圧を印加しても大電流を流すことができ、安定してイオン化することが可能である。
【0040】
図1及び図2に示すように、この各第1イオンソース31の蒸着手段21側には、第1イオンソース31から離間して各第1イオンソース31に対向する位置にそれぞれ第2フィラメント6が設けられている。即ち、第2フィラメント6は、蒸着手段21の並設方向に沿ってライン状に複数並設されている。この第2フィラメント6にはフィラメント電圧印加手段61が設けられている(図2中図示せず)。本実施形態では、フィラメント電圧印加手段61から、所定電圧、即ち―5kVの直流電圧が第2フィラメント6に印加されている。このような所定電圧としては、―4〜―10kVの範囲にあれば良い。
【0041】
このように第2フィラメント6に所定電圧が印加されることにより、第1イオンソース31がこの第2フィラメント6から発生する電子を受け取って形成されるプラズマが大きくなり、その結果、後述するように本実施形態ではCFのイオンビームを形成することが可能である。
【0042】
また、蒸着手段21の第1イオンソース31とは逆側、即ち基材Sの進行方向の上流側には、さらに第2イオンソース63が、蒸着手段21の並設方向に沿って複数並設されている。第2イオンソース63は、成膜面S1に成膜された膜の表面のアニールを行うことができるように、アルゴンのイオン電流を放出して、成膜された膜のアニールを行うように構成されている。このような第2イオンソース63としては、上述した第1イオンソース31と同様の構成からなるものを用いてもよく、また、アニールを行うためのアルゴン等のイオン電流を放出することができれば異なる構成のものを用いてもよい。
【0043】
かかる蒸着装置1による成膜方法について説明する。
【0044】
初めに、真空チャンバ10内を真空排気装置12により真空排気して、約10−5Torr(1.33×10−4Pa)程度の真空状態とする。
【0045】
所定の真空状態となった後、巻き出しロール13からフィルム状の基材Sの走行を開始させる。
【0046】
その後、電子ビーム装置23から出射される線状の電子ビームを蒸着原料22aに照射しながら溶融し、酸化亜鉛である蒸着原料22aを中心線部から線状に溶融する。これにより蒸着原料22aが蒸発し、基材Sの成膜面S1に幅方向に亘って均一に酸化亜鉛が蒸着される。酸化亜鉛膜の堆積速度は、ほぼ一定の蒸着速度になるように電子ビーム装置23の出力を制御することができる。その堆積速度は、好ましくは0.5〜10nm/sである。この範囲より堆積速度が早いと、膜の密度が荒くなり膜質が低下してしまい、また、この範囲より堆積速度が遅いと成膜時間がかかり過ぎて実用的ではないため、この範囲が好ましい。より好ましい膜質の膜を得ると同時に実用的な好ましい堆積速度としては、1〜5nm/sである。
【0047】
このように蒸着原料22aを蒸発させて蒸着させると同時に、第1イオンソース31からイオンビームを基材Sに照射する。本実施形態では第1イオンソース31で、ガスをガス導入路からイオン形成空間44内に導入しながら、第1フィラメント45に電圧を印加して熱電子を放出させる。放出された熱電子は、磁石47により形成された磁場によりスパイラル運動しながら、カソードとして機能する第1フィラメント45とアノード部42との間に形成された電場により、アノード部42側へ加速され移動する。そして、導入されたガスがイオン形成空間44でプラズマ化、即ちイオン化される。これにより形成されたイオンビームが、アースである基板に向けて照射される。即ち、第1イオンソース31に導入したOガスとCxFyを含むガスとのプラズマから、正に帯電したイオン(O,CxFy)が引き出され、電圧印加手段32の加速電圧により加速されて基材Sに向けて放出する。
【0048】
このように、本実施形態では、第1イオンソース31に供給されるガスは、OガスとCxFy含有ガスである。Oガスを導入することで、十分に酸化された酸化亜鉛膜を形成できる。またCxFy含有ガスを添加することで、CxFyドープされた酸化亜鉛膜を形成することができる。このようなCxFyドープされた酸化亜鉛膜は、高い導電率を有すると共に、高い光透過率を有する。
【0049】
CxFy含有ガスとしては、xは0以上、yは1以上の自然数であるものが挙げられる。このようなCxFyガスとしては、例えば、C、C、C、C10、C10、C12、C、C、C、C、CF、C、及びCから選ばれた少なくとも一種のフロロカーボンガスがあげられる。本実施形態では、最も好ましいCFを用いている。また、CxFy含有ガスとして、CxFyIzで表されるガスを用いることも可能である。
【0050】
これらのOガスとCxFy含有ガスとを1:99〜20:80の混合割合となるように第1イオンソース31に供給する。この範囲であることで、所望の酸化亜鉛膜を形成することができる。CxFy含有ガスの割合が少なすぎれば、CxFyドープされた膜とすることができず、他方で、CxFy含有ガスの割合が多すぎれば、酸素量が少なすぎて所望の酸化亜鉛膜を形成することができない。
【0051】
この場合に、OガスとCxFyガスとの混合ガスの流量は、0.5〜5sccmである。
【0052】
また、Oガスの解離率は、好ましくは70%以上である。70%以上であることで、十分に蒸発粒子と反応することができる。
【0053】
この場合に第2フィラメント6に電圧を印加することで、第1イオンソース31に電子を供給することができ、その結果、第1イオンソース31からのイオンビームの電流密度を向上させることができる。第1イオンソース31からのイオンビームの電流密度は、好ましくは、200〜1500μA/cmである。この範囲であることで、イオンビームの加速が十分であり、基材Sの表面で蒸着粒子とイオンビームとが反応しやすく、所望の膜を形成しやすい。
【0054】
本実施形態では、イオンビームアシスト蒸着法を用いているので、基板に付着した蒸着粒子とイオンビームの反応性が高く、その結果、反応性を高めるために基板温度を高くする必要がない。このため、例えば、成膜温度を100℃以下とすることができ、例えば基材SとしてPETフィルム等を用いることができる。このように第1イオンソース31により成膜アシストすることで膜質のよい酸化亜鉛膜を形成することができると共に、CxFyイオンを導入することで、酸化亜鉛膜にCxFyドープすることが可能である。得られたCxFyドープ酸化亜鉛膜は、例えば、380〜780nmの波長の光での平均波長は90%以上であり、370nm以上の波長の波を70%以上透過することができると共に、抵抗率が1.87×10―4Ω・cm以下であり、高い透過率を有すると共に、低い抵抗率を有する。
【0055】
本実施形態の蒸着装置1では、ライン状となるように複数の蒸着手段21を配すると共に、複数の第1イオンソース31を配することで、ロール状であり、幅広である基材Sに対して成膜することが可能である。この場合に蒸着手段21が有する電子ビーム装置23からの電子ビームのビーム形状が非円形であることから、基材Sの幅方向に亘って均一に蒸着粒子が付着して均一な膜厚、均一な膜質で成膜することが可能である。
【0056】
本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、本実施形態では、酸化亜鉛を含有する透明導電膜を形成したが、これに限定されず、所望の膜、例えばインジウムを含む透明導電膜や、他の機能性膜を形成することができる。
【0057】
本実施形態では、蒸着原料22aである複数のペレットを真空チャンバ10内に列設したが、これに限定されない。例えば、基材Sの幅に合わせて一つの細長い蒸着原料22aを設けても良いし、また、複数(例えば3つ)の蒸着原料22aが一つの坩堝に収納されていてもよい。
【0058】
本実施形態では電子ビームのビーム形状が線状となるように構成しているが、これに限定されない。ビーム形状は、非円形形状(アスペクト比が2〜10)であって、蒸着手段21の並設方向とビーム形状の長手方向とが一致すればよい。このように構成することで、基材Sの幅方向(基材Sの走行方向とは直交する方向)に亘って成膜することができる。なお、本実施形態のように楕円形状ではなく線状となるように構成することで、膜厚及び膜質をより均一とすることが可能である。
【0059】
また、本実施形態では、成膜ドラム15は断面視において円形状となっていたが、これに限定されない。例えば、真空チャンバ10の底面側が凹となっている曲面から構成されていてもよい。このように構成することで、蒸着原料22aについては蒸着手段21の並設方向及び並設方向に直交する方向において焦点があっていたとしても、この場合の蒸着材料の分布に一致するので、基材Sの幅方向に亘って均一に成膜することが可能である。この場合には、成膜ドラム15としては、例えば静電チャックなどを用いても良い。
【0060】
本実施形態では、基材Sをロール・ツー・ロール式で成膜したが、これに限定されない。例えば、基板をトレイに載置してローラーで搬送し、蒸着させてもよい。
【0061】
本実施形態では、蒸着手段は、電子ビーム型の蒸着装置を用いたが、抵抗加熱型のものを用いても良い。
【符号の説明】
【0062】
1 蒸着装置
6 第2フィラメント
10 真空チャンバ
11 排気口
12 真空排気装置
13 巻き出しロール
14 巻き取りロール
15 成膜ドラム
16 駆動ロール
17 下端部
21 蒸着手段
22a 蒸着原料
22 坩堝
23 電子ビーム装置
31 第1イオンソース
32 電圧印加手段
41 筐体
42 アノード部
43 凹部
44 イオン形成空間
45 第1フィラメント
46 突起部
47 磁石
48 冷却手段
51 第1貫通孔
52 間隙
53 第2貫通孔
61 フィラメント電圧印加手段
63 第2イオンソース
S 基材
S1 成膜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理対象を走行させる搬送手段と、
前記被処理対象の走行方向に対して直交する方向に沿うように、該被処理対象の成膜面に対向して設けられたライン状の蒸着原料と、
前記蒸着原料を溶融するための複数の電子ビーム装置と、
前記蒸着原料からの蒸着粒子を活性化させるイオンビームを放出する複数の第1イオンソースとを備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記蒸着原料と、第1イオンソースとの間には、フィラメントが設けられていると共に、該フィラメントには、電圧印加手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記電子ビーム装置は、電子ビームの蒸着原料に照射された時のビーム形状が非円形形状であって、該ビーム形状の長手方向が前記蒸着原料の長手方向に沿うように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記電子ビーム装置は、前記電子ビームが前記蒸着原料の長手方向に沿って掃引可能であるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記蒸着原料は、蒸着材料からなるペレットを複数列設したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記蒸着原料の、前記第1イオンソースとは逆側に、前記被処理対象をアニールするためのイオンビームを放出する第2イオンソースが設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−172260(P2012−172260A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39039(P2011−39039)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(500357552)株式会社エス・エフ・シー (20)
【Fターム(参考)】