説明

扁平状の連続気孔が積層配向されたセラミックス焼結体とその製造方法

【課題】
本発明によって創出された発泡性の鋳鉄スラグを用いて既に市場へ提供している多孔質セラミックス製品の吸音特性、断熱特性の改良技術を提供する。
【解決手段】
発泡性のスラグ粒子をアスペクト比2以上の燐片状に破砕し、整粒したものに可塑性粘土を加え、燐片状の粒子は粘土を加えた可塑性組成物を真空土練機を用いて円筒状に押出し成形すると容易に押出し方向へ配向して流動抵抗が少なくなりより少量の粘土で成形可能となる。次に押し出し方向と同一方向にローラー圧延機を用いることにより配向を乱さずに所望の厚さに成型することができる。さらに圧延された成形体は一連の流れで連続的にローラーハースキルンで焼成加工されて扁平状の連続気孔が積層配向されたセラミックス焼結体が得られるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼成によって発泡するケイ酸塩原料を平板状に成形し、焼成によって個々の粒子が発泡し溶着して連続気孔を持つセラミックス多孔体の製造方法にかかるものであり、特に本発明に於いては扁平状の連続気孔が積層配向された全く新規な気孔形状及び構造を持つセラミックス焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は発明者が既に「多孔質結晶化ガラス組成物」として特許第2899954号に登録された成分範囲の、無定形ガラスが加熱され約800℃からCaO,Al2O3,2SiO2及びCaOSiO2の結晶の析出と共に分相して生成した低融点の液相の粘土が105ポアズ以下となったとき、成分中のFeS2及びMaSが熱分解したSO2ガスが爆発的に放出され発泡し、これ等が溶着して連続貫通気孔体となることを発見した。更にこれ等の無定形ガラスはダクタイル鋳鉄の製造時に水滓として産出されるスラグが近似的組成であることを発見し、特願2000−233972「セラミックス多孔体及びその製造方法」として、粒度、配合比率、成形方法及び焼成条件を限定して本発明者等によって出願した。
【0003】
これ等の技術を利用して工業生産を行い、吸音材料、断熱材料、緑化材料として市場へ供給されているものであるが、市場拡大によって特に吸音材料として400Hzから630Hzの低周波域に於ける吸音性能の向上、及び断熱材料としてより高い省エネルギー効率が求められ、これ等の改良技術として鋭意研究開発を行い、本発明を完成した。
【特許文献1】特開平10−7433
【特許文献2】特開2002−47075
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先ず従来技術による量産製品の気孔組織を詳細に解析するとミリメートルサイズの気孔の形状は立方体が様々な形に変形して溶着した気孔が不規則に分布し、気孔間を結合している外皮部分にはミクロンサイス゛の独立気孔が多数含まれているものでかさ密度は0.55〜0.6、気孔率は65%から70%のものであった。
【0005】
更に使用しているスラグ粒子は粒度1mm以上のものは立方体状であるが粒子が小さくなる程球状の粒子から成っていた。これ等のスラグに粘土を加えて押出し成形した生地の断面を観察するとスラグ粒子間を結合している粘土質の厚さが極めて不揃いであった。
【0006】
本発明の目的はより高気孔率であり且つ品質にばらつきの無い高精度の製品を造る為の技術的条件であり、従って第1の課題はスラグ粒子の形状である。本技術の特徴はスラグ粒子を高温に於いて爆発的に発泡させるものであり、これ等の膨張を容積の拡大で成形体の厚さ方向に集中的に集約することが高気孔率とする最大の要因である。又スラグと粘土の配合比率においてより少ない粘土で成形出来る様な即ち押出し成形に於ける可塑流動抵抗の少ない配向性の良いスラグ粒子の形状である。
【0007】
第2の課題は低周波音域に於ける吸音率の向上である。低周波域で広く使用されている吸音材料の殆どはガラスウール等をルーズに成形した材料から成っているものである。これ等の材料の構造は入射した音波が水平方向分散させる様に気孔が配向されている事である。又、熱伝導に於いても同様の効果が期待される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の課題はスラグ粒子の形状である。理想的な多孔体の構造は気孔を包む外皮(セル)が薄く、気孔相互の間隙が少なく規則的に配向配列された構造であることから本発明の改良技術の要点はスラグ粒子を燐片状とすることである。燐片状の粒子は粘土を加えた可塑性組成物を真空土練機を用いて円筒状に押出し成形すると容易に押出し方向へ配向して流動抵抗が少なくなりより少量の粘土で成形可能となる。次に押し出し方向と同一方向にローラー圧延機を用いることにより配向を乱さずに所望の厚さに成型することができる。さらに圧延された成形体は一連の流れで連続的にローラーハースキルンで焼成加工されて扁平状の連続気孔が積層配向されたセラミックス焼結体が得られるものである。
【0009】
更に成形体は燐片状粒が積層された極めて好ましい構造のものとなったが、ガラス質で「もろい」スラグは各種の破砕、粉砕設備を用いて実験したがアスペクト比は2〜3の範囲であった。
【0010】
これ等のスラグの粒度が0.5mm〜1.0mmのものを75%にベントナイト25%の重量比で押出し成形(請求項3)の加熱条件で焼成してみると厚さは生地の約3倍の高い膨張率を示し、且つミリメートルサイズの気孔は扁平状で規則的に配向し積層された従来にない新規な組成の連続気孔体が得られた。これ等の焼成物はかさ比重0.48〜0.5の従来品より約10%気孔率の大きいものが得られた。
【0011】
第2の課題はこれ等扁平状の気孔体とする事により道路用吸音材として求められている400Hz〜630Hzの平均吸音率は従来品の0.83に対し0.86と向上するものであった。
【発明の効果】
【0012】
本発明は同一発明者により改良技術として既に工業製品として市場に供給され多くのユーザーから求められている品質を満たす物性を改良するために、従来この種材料として例のない扁平状の気孔が積層された組織構造を新規な製品設計として開発したものである。特に吸音特性及び断熱特性に於いて扁平状の気孔体は何れも大幅な品質の改良をする事が出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施例について以下に述べる。
【実施例1】
【0014】
1)スラグの粉砕整粒
スラグはエッジランナーミルを用い圧縮転動方式で1.5mm以下に粉砕し0.25mm以下の微粉含有率が20%以下に整粒した。
2)配合率(重量比)
スラグ75%、ベントナイト25%、水分(外掛け)15%
3)成形
真空度−720mmHg、押出し圧力25〜30kg/cm2の真空土練機にて外径300mm、肉厚30mmの円筒状に押出し、展開切断して平板状とし、ローラー圧延機にて厚さ15mm、幅500mm、長さ1,000mmの生地に成形した。
4)乾燥、焼成
遠赤外線照射コンベア上で10分間熱処理し、更に300℃の熱風ドライヤーで乾燥したものを、ローラーハースキルンを用い850℃迄は10℃/分の昇温速度、850℃〜1,050℃の間は20℃/分の急速加熱をし、1050℃10分間キープした後冷却した。
5)焼成品の膨張、製品の物性及び吸音特性の従来品との比較を表1〜表3に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
【表3】

【0018】
上記表1、表2、表3に示した結果から明らかなように、扁平状の気孔が積層された構造には気効率80%に近いものとなり、特に音波及び熱の入射が水平方向に拡散される効果は高い性能を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成によって発泡し容積を2倍以上に拡大する非晶質ケイ酸塩原料をアスペクト比2以上、粒度0.25mm〜1.5mm範囲の燐片状の粒子に整粒したものに可塑性粘土を加えた組成物を燐片状粒子が積層配向する様に成形し、900℃以上1100℃以下の温度で焼成したことを特徴とする扁平状の連続気孔が積層配向されたセラミックス焼結体。
【請求項2】
焼成によって発泡する非晶質ケイ酸塩原料はダクタイル鋳鉄の製造時に水滓として産出される鋳鉄スラグであることを特徴とする請求項1記載の扁平状の連続気孔が積層配向されたセラミックス焼結体。
【請求項3】
アスペクト比2以上の燐片状に整粒され粒度0.25mm〜1.5mmの範囲に調整されたスラグが重量比60%〜75%、可塑性粘土が25%〜40%の範囲に配合され、水分は外掛け15〜20%加えて混合、混練し、真空土練機を用いて円筒状に押出し、展開して平板状とし、ローラー圧延機を用いて所望の厚さの平板状生地とする。更に遠赤外線を照射して乾燥したものをローラーハースキルンを用いて850℃迄は10℃/分程度でゆっくり加熱し、850℃〜1050℃の温度範囲は20℃/分と急速加熱して焼成したことを特徴とする扁平状の連続気孔が積層配向されたセラミックス焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2009−274895(P2009−274895A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126041(P2008−126041)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(593162855)株式会社ダイム (1)
【Fターム(参考)】