説明

手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ

【課題】密封性が良好で、手動ブレーキ解放部品の脱落や紛失を防止でき、手動ブレーキ解放時にモータ軸を手動で回転できるとともにモータ軸のフリー回転を防止できる手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータを提供する。
【解決手段】手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1において、端部に係合部32を有する手動操作軸31がモータ軸2の反負荷側端部に一体的に設けられ、ブレーキカバー22の中心部にねじ孔22aが形成され、おねじ部35a及び中心孔35bを有するつば付内側部材35と外側部材34とから構成されるキャップ33がブレーキカバー22のねじ孔22aに取り付けられ、つば付内側部材35と無励磁作動形電磁ブレーキ11のアーマチュア16との間に無励磁作動形電磁ブレーキ11の制動ばね21が圧縮状態で組み込まれ、手動ブレーキ解放時に、係合部32が中心孔35bに係合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキがモータの反負荷側に装着され、該無励磁作動形電磁ブレーキを覆うブレーキカバーがモータの反負荷側に取り付けられた手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキとして以下のようなものが提案されている。
【0003】
すなわち、励磁コイルと制動ばねとを設けたフィールドコアの磁極面に、アーマチュアとブレーキディスクとサイドプレートとを配置し、前記ブレーキディスクを被制動軸(例えばギヤドモータのモータ軸)側に設けるとともに、前記サイドプレートをフィールドコア側に固定し、前記励磁コイルへの非通電時に前記アーマチュアとサイドプレートとの間でブレーキディスクを挟持することにより制動力を得る無励磁作動型電磁ブレーキにおいて、前記アーマチュア、ブレーキディスク、サイドプレートからなる可動部全体をカップ状に形成したカバーで覆い、このカバーの開口端縁を前記フィールドコアの外周部にシール部材を介して嵌装するとともに、前記サイドプレートに設けたねじ孔に螺合させたねじ(カバー取付け用ねじ)でカラーとシール材を介して前記カバーを取付けたものであって、前記無励磁作動型電磁ブレーキは手動でブレーキの解放をする時には、前記アーマチュアとブレーキディスクとの間を人為的に離間させるためのねじ(手動解放用ねじ)を、前記サイドプレートのねじ孔に前記カバー取付け用ねじの代わりに螺合させるものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、従来、別の、手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキとして以下のようなものが提案されている。
【0005】
すなわち、手動解放装置を備えた無励磁作動形電磁ブレーキにおいて、前記手動解放装置が、制動ばねのばね力に抗してアーマチュアを移動させてブレーキライニングから離反させる解放カムと、該解放カムを回動させる手動解放アームと、ブレーキ作動位置で手動解放アームを保持するアーム保持金具と、ブレーキ解放位置で手動解放アームの回動範囲を規制するアームストッパーとから構成されるものである(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−304314号公報
【特許文献2】特開2002−295551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特開2001−304314号公報に開示された無励磁作動型電磁ブレーキは、密封性は確保できるが、次のような課題がある。
【0007】
手動解放用ねじを保管する必要があるので、この手動解放用ねじを紛失するおそれがある。
手動でブレーキを解放するには、複数本(3本)のカバー取付け用ねじに代えて、複数本(3本)の手動解放用ねじをカバーのねじ孔にねじ込む必要があるので、手動ブレーキ解放作業が複雑であり、また、手動解放用ねじが外れて紛失するおそれがある。
手動解放用ねじが小さいので、手袋での手動ブレーキ解放作業ができない。また、手探りでの手動ブレーキ解放作業ができない。
手動解放用ねじを使用中か否かは、外部から判断できないので、手動でブレーキを解放したままで、モータを駆動してしまう危険がある。
手動解放用ねじをねじ込むと、直ちにモータ軸の回転が自由になるので、モータ軸の自由な回転を防止する別機構がないと、負荷側からモータ軸が回転させられるおそれがある。
また、モータ軸を治具なしで手動で回転させる機能がない。
【0008】
また、特開2002−295551号公報に開示された手動解放装置を備えた無励磁作動形電磁ブレーキは、次のような問題がある。
【0009】
密封構造にするには、手動解放アームおよび解放カムを囲むカバーが必要となり、カバーが大きなものとなる。そして、手動でブレーキを解放するには、手動解放アームおよび解放カムを囲むカバーを外す作業が必要となるので、手動解放作業が複雑になり、また、カバーを外す大きな作業エリアも必要となる。
手動解放アームおよび解放カムを囲むカバーから解放カムの先端が突出する構造にすると、解放カムの回転部の密封構造が必要になるが、この密封構造は複雑であり且つ完全な密封が困難である。
解放カムを回転させる手動解放アームが必要であり、手動解放アームを回動させる時、手動解放アームが他の装置と干渉するおそれがある。
また、モータの振動で、勝手に手動解放状態にならないため、異常な振動音をなくすために手動解放アームをブレーキ作動位置で保持するアーム保持金具(機構)が必要となり、それを取り付けるスペースも必要となる。
手動解放アームをなくすと、二箇所の解放カムを個別に回転させる必要があるので、手動ブレーキ解放作業が複雑となり、また、左右に作業エリアが必要となる。
【0010】
そこで、本発明は、簡単な構造で、省スペースで、密封性が良好で、手動ブレーキ解放部品の脱落や紛失を防止でき、手動ブレーキ解放時に専用工具なしでもモータ軸を手動で回転できるとともにモータ軸のフリー回転を防止できる手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキがモータの反負荷側に装着され、該無励磁作動形電磁ブレーキを覆うブレーキカバーがモータの反負荷側に取り付けられた手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータにおいて、端部に係合部を有する手動操作軸がモータ軸の反負荷側端部に一体的に設けられ、前記ブレーキカバーの中心部にねじ孔が形成され、おねじ部及び中心孔を有するつば付内側部材と外側部材とから構成されるキャップが前記ブレーキカバーの前記ねじ孔に取り付けられ、前記つば付内側部材と前記無励磁作動形電磁ブレーキのアーマチュアとの間に前記無励磁作動形電磁ブレーキの制動ばねが圧縮状態で組み込まれ、手動ブレーキ解放時に、前記手動操作軸の前記係合部が前記つば付内側部材の前記中心孔に係合するものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータにおいて、前記外側部材の内側にパッキンを有するものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータにおいて、前記外側部材の外径及び前記つば付内側部材のつば部の外径は、前記ブレーキカバーの中心部の前記ねじ孔の内径より大きい外径を有し、前記外側部材と前記つば付内側部材は前記ブレーキカバーの中心部の前記ねじ孔を挟んでボルトにより着脱可能に連結されるものである。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータにおいて、前記手動操作軸の前記係合部は、前記つば付内側部材の前記中心孔との係合を容易にするテーパまたは面取り形状の係合導入部を有するものである。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータにおいて、前記つば付内側部材の前記中心孔は、前記手動操作軸の前記係合部との係合を容易にするテーパまたは面取り形状の係合導入部を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、端部に係合部を有する手動操作軸がモータ軸の反負荷側端部に一体的に設けられ、前記ブレーキカバーの中心部にねじ孔が形成され、おねじ部及び中心孔を有するつば付内側部材と外側部材とから構成されるキャップが前記ブレーキカバーの前記ねじ孔に取り付けられ、前記つば付内側部材と前記無励磁作動形電磁ブレーキのアーマチュアとの間に前記無励磁作動形電磁ブレーキの制動ばねが圧縮状態で組み込まれ、手動ブレーキ解放時に、前記手動操作軸の前記係合部が前記つば付内側部材の前記中心孔に係合するものであるので、以下のような効果を有する。
【0017】
前記ブレーキカバーの表面に前記外側部材の裏面が当接するまで前記キャップを前記ブレーキカバーの前記ねじ孔にねじ込むことで、密封性を確保できる。
また、前記キャップの前記ブレーキカバーの前記ねじ孔への螺合を手で緩めるという簡単な操作で、前記制動ばねの前記アーマチュアに対する押圧力が低下し、手動でブレーキを解放できる。
また、手動ブレーキ解放時に、前記手動操作軸の前記係合部と前記つば付内側部材の前記中心孔とが係合しているので、前記キャップを手で時計方向あるいは反時計方向に回転させることで前記モータ軸を回転させることができ、また、前記キャップを手で抑えることで前記モータ軸のフリー回転を抑えることができる。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、前記外側部材の内側にパッキンを有するものであるので、前記ブレーキカバーの表面に前記パッキンが当接するまで前記キャップを前記ブレーキカバーの前記ねじ孔にねじ込むことで、より一層高い密封性を確保できる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、前記外側部材の外径及び前記つば付内側部材のつば部の外径は、前記ブレーキカバーの中心部の前記ねじ孔の内径より大きい外径を有し、前記外側部材と前記つば付内側部材は前記ブレーキカバーの中心部の前記ねじ孔を挟んでボルトにより着脱可能に連結されるものであるので、前記ブレーキカバーからの前記キャップの脱落や紛失を防止できる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、前記手動操作軸の前記係合部は、前記つば付内側部材の前記中心孔との係合を容易にするテーパまたは面取り形状の係合導入部を有するものであるので、前記手動操作軸の前記係合部と前記つば付内側部材の前記中心孔との係合を容易にすることができる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、前記つば付内側部材の前記中心孔は、前記手動操作軸の前記係合部との係合を容易にするテーパまたは面取り形状の係合導入部を有するものであるので、前記手動操作軸の前記係合部と前記つば付内側部材の前記中心孔との係合を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態1に係る手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1について以下に説明する。
【0023】
図1,2に示すように、手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1は、手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ11がモータの反負荷側に装着され、無励磁作動形電磁ブレーキ11を覆うブレーキカバー22がモータの反負荷側ブラケット4に取付ボルト23により取り付けられている。
【0024】
そして、図1,2に示すように、モータ軸2は、反負荷側軸受5を組み込んだ反負荷側ブラケット4および負荷側軸受7を組み込んだ負荷側ブラケット6により回転自在に支持されている。
また、図3,4,5に示すように、モータ軸2の反負荷側端部には、端部に係合部32を有する手動操作軸31が機械加工により一体的に形成されている。そして、図11に示すように、係合部32の外周面には、一対の平面部32aが2個形成されている。なお、この係合部32の機能については後述する。
また、図1,2に示すように、反負荷側ブラケット4および負荷側ブラケット6は、固定子及び回転子を収容したモータケーシング本体3の端部にそれぞれ配置され、通しボルト8によりモータケーシング本体3に取り付けられ、モータケーシング本体3の側面には端子箱9が取り付けられている。
【0025】
次に、モータの反負荷側に装着されている手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ11について、図1,2,3,4,5を参照して説明する。
【0026】
手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ11は、図1,2,3,4,5に示すように、制動板12と、ブレーキディスク13と、断面形状が角形のハブ14と、アーマチュア16と、電磁コイル18を内蔵したヨーク17と、制動ばね21と、カラー20と、ガイドボルト19とを備えている。
【0027】
制動板12は、図示しないボルトにより反負荷側ブラケット4に固定され、ヨーク17は複数個のカラー20を介して複数個のガイドボルト19により制動板12に取り付けられている。なお、複数個のカラー20及びガイドボルト19は、それぞれ1個だけしか図示していない。そして、制動板12とヨーク17の間のスペースには、ヨーク17側から順に、アーマチュア16と、ブレーキディスク13とが並んで配置されている。
【0028】
アーマチュア16は、カラー20により回転止めされ、かつ、カラー20に案内されて軸方向のみにスライド可能に保持されている。また、アーマチュア16は後述する制動ばね21によりブレーキディスク13に圧接されている。
【0029】
ブレーキディスク13は、その中心部に角形の中心孔が形成されている。そして、ブレーキディスク13の中心孔には断面形状が角形のハブ14が嵌め込まれている。また、ハブ14はモータ軸2にキー15により取り付けられている。したがって、ブレーキディスク13は軸方向に移動可能であるとともにモータ軸2と一体に回転する。
【0030】
ブレーキカバー22の中心部にねじ孔22aが形成されており、このねじ孔22aに後述するキャップ33が取り付けられている。
【0031】
キャップ33は、図6に示すように、つば付内側部材35と外側部材34とから構成され、つば付内側部材35と外側部材34は、ボルト36を後述するねじ穴35fにねじ込むことで着脱可能に連結することできる。
なお、つば付内側部材35と外側部材34は、後述する図12(A),図13(A)に示すように、つば付内側部材35のおねじ部35aをブレーキカバー22の内側からねじ孔22aにねじ込み、つば付内側部材35の端面に外側部材34をブレーキカバー22のねじ孔22aを挟み込むように取り付けてボルト36により連結される。
【0032】
外側部材34は、図7(A),(B),(C)に示すように、円板状をしており、その外径はブレーキカバー22の中心部のねじ孔22aの内径より大きく、2個のボルト孔34aを有するとともに、外周面にローレット目34kが形成されている。
【0033】
つば付内側部材35は、図8(A),(B),(C)に示すように、一端につば部35eを有する円筒状をしており、つば部35eの外径はブレーキカバー22の中心部のねじ孔22aの内径より大きく、外周面の一部におねじ部35aを有するとともに、中心孔35bと大径孔部35cと制動ばね挿入溝35dとが同軸状に形成されている。そして、中心孔35bは前述の手動操作軸31の係合部32の断面形状より大きな相似形の断面形状をしており、係合可能な寸法に形成されている。
さらに、つば付内側部材35の中心孔35bの上部に、テーパまたは面取り形状の係合導入部35gが形成されている。
このように、テーパまたは面取り形状の係合導入部35gが形成されていることにより、後述するように、係合部32がつば付内側部材35の中心孔35bと係合する際、容易に係合が行われる。
さらに、つば部35eと反対側の端面にはボルト36をねじ込むための2個のねじ穴35fが形成されている。
【0034】
次に、上述した図7(A),(B),(C)に示す外側部材34(外周面にローレット目34kが形成されたもの)に代えて使用できる外側部材の変形例について図9と図10を参照して以下に説明する。
【0035】
図9(A),(B),(C)は、外側部材の変形例1を示すもので、この変形例1の外側部材34’は、円板状をしており、2個のボルト孔34’aを有するとともに、外周面に対向する平面部34’pが形成されている。そして、キャップ33を回転するには、手またはスパナ(工具)を平面部34’pに係合して回転させるものである。
【0036】
図10(A),(B),(C)は、外側部材の変形例2を示すもので、この変形例2の外側部材34”は、円板状をしており、2個のボルト孔34”aを有するとともに、上面に六角穴34”hが形成されている。そして、キャップ33を回転するには、六角レンチ(工具)を六角穴34”hに差し込んで回転させるものである。
【0037】
次に、モータ軸2の反負荷側端部に一体的に取り付けられる手動操作軸31の好ましい形状を図11(A),(B),(C)に示している。すなわち、好ましい形状の手動操作軸31は、図11(A),(B),(C)に示すように、平面部32aを有する係合部32の下部にテーパまたは面取り形状の係合導入部32cを形成したものである。
このように、テーパまたは面取り形状の係合導入部32cを形成することにより、後述するように係合部32がつば付内側部材35の中心孔35bと係合する際、容易に係合が行われる。
【0038】
次に、制動ばね21と関連して、ブレーキカバー22のねじ孔22aへのキャップ33の取付方について説明する。
【0039】
先ず、つば付内側部材35のおねじ部35aをブレーキカバー22の内側からねじ孔22aにねじ込み、ボルト36により、つば付内側部材35の端面に外側部材34をブレーキカバー22のねじ孔22aを挟み込むように取り付ける。
なお、外側部材34をつば付内側部材35に取り付ける前に、外側部材34の内側にパッキン37を接合しておく。
制動ばね21は1個のコイルばねであり、つば付内側部材35の制動ばね挿入溝35dに挿入する。
その後、制動ばね21が組み込まれたキャップ33が取り付けられたブレーキカバー22をブレーキ付モータ1の反負荷側ブラケット4に取付ボルト23により取り付ける。
そして、このように、キャップ33が取り付けられたブレーキカバー22をモータの反負荷側ブラケット4に取付ボルト23により取り付けられることにより、制動ばね21は、ヨーク17の中心孔である制動ばね貫通孔17aを貫通し、制動ばね21の一端がアーマチュア16に当接し、つば付内側部材35とアーマチュア16との間で圧縮された状態で組み込まれる。
この状態で、モータ軸2の反負荷側端部に一体的に形成された手動操作軸31の係合部32は、つば付内側部材35の大径孔部35c内に位置し、手動操作軸31の係合部32とつば付内側部材35の中心孔35bとは係合していない。
【0040】
次に、本発明の実施の形態1に係る手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1の作動を説明する。
【0041】
手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1に電流を供給すると、図3に示すように、無励磁作動形電磁ブレーキ11の電磁コイル18に電流が供給され、ヨーク17が励磁され、アーマチュア16が制動ばね21の力に抗してヨーク17側に吸着されることでブレーキディスク13から離間し、ブレーキディスク13とアーマチュア16の間にブレーキギャップg’(図3参照)が生じるので、ブレーキディスク13が自由に回転できる状態、すなわちブレーキが解放状態となり、モータ軸2の制動状態が解放されて、ほぼ同時にモータ軸2が回転し、図示しない減速機の出力軸を通じて装置(負荷)を駆動する。
【0042】
一方、手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1に電流を供給しないとき、あるいは、電流の供給が遮断されたときは、図1,4に示すように、モータ軸2が回転しないが、無励磁作動形電磁ブレーキ11の電磁コイル18にも電流が供給されないので、ヨーク17が励磁されず、制動ばね21の力によって、ヨーク17とアーマチュア16の間にブレーキギャップg(図1,4参照)が生じ、アーマチュア16がブレーキディスク13に圧接されるので、ブレーキディスク13が回転不能、すなわちブレーキが作動状態となり、モータ軸2が制動されている。
【0043】
次に、手動ブレーキ解放機構の作用について、図12、図13を参照して以下に説明する。
【0044】
図12に示すように、キャップ33をブレーキカバー22にねじ込んだ状態では、手動操作軸31の係合部32は、大径孔部35c内に位置し、手動操作軸31の係合部32とつば付内側部材35の中心孔35bとは係合していない。
よって、図3に示すように、ブレーキ付モータ1に電流を供給すると、ブレーキ11が解放状態となり、モータ軸2の制動状態が解放されて、モータ軸2は回転可能となる。
ブレーキカバー22のねじ孔22aにねじ込まれているキャップ33の外側部材34のローレット目34kを手で把持して回転させ、ブレーキカバー22のねじ孔22aへの螺合を弛めると、圧縮されていた制動ばね21が伸び、アーマチュア16を押すばね力が低下する。
さらに、キャップ33を回転させると、図13に示すように、つば付内側部材35のおねじ部35aとブレーキカバー22のねじ孔22aの螺合が外れる。
この螺合が外れると、ブレーキカバー22に対してキャップ33は空転可能になるとともに、キャップ33をブレーキカバー22から離れる方向に引き出しながら空転させ、つば付内側部材35の中心孔35bに手動操作軸31の係合部32を係合させる。
なお、図8に示すように、つば付内側部材35の中心孔35bの上部にテーパまたは面取り形状の係合導入部35gを有し、さらに、図11に示すように、手動操作軸31の係合部32の下部にテーパまたは面取り形状の係合導入部32cを有しているので、図13に示すように、テーパまたは面取り形状の係合導入部32c,35gによって係合部32がつば付内側部材35の中心孔35bと係合する際、係合が容易に行われる。
そして、この状態では、アーマチュア16を圧接する制動ばね21のばね力はほぼ無くなり、手動解放状態となる。
したがって、手動操作軸31の係合部32とつば付内側部材35の中心孔35bとが係合しているので、キャップ33を手で時計方向あるいは反時計方向に回転させることでモータ軸2を回転させることができ、また、キャップ33を手で抑えることでモータ軸2のフリー回転を抑えることができる。
【0045】
次に、本発明の実施の形態1に係る手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1の効果を説明する。
【0046】
ブレーキカバー22の表面にパッキン37が当接するまでキャップ33をブレーキカバー22のねじ孔22aにねじ込むことで、高い密封性を確保できる。
また、キャップ33のブレーキカバー22のねじ孔22aへの螺合を手で緩めるという簡単な操作で、制動ばね21のアーマチュア16に対する押圧力が低下し、手動でブレーキを解放できる。
また、キャップ33を構成するつば付内側部材35のつば部35eの外径及び外側部材34の外径は、ブレーキカバー22の中心部のねじ孔22aの内径より大きく、さらに、ねじ孔22aを挟み込むようにつば付内側部材35と外側部材34がボルト36により着脱可能に連結されているので、ブレーキカバー22からのキャップ33の脱落や紛失を防止できる。
また、つば付内側部材35の中心孔35bの上部にテーパまたは面取り形状の係合導入部35gを有し、さらに、手動操作軸31の係合部32の下部にテーパまたは面取り形状の係合導入部32cを有しているので、テーパまたは面取り形状の係合導入部32c,35gによって係合部32がつば付内側部材35の中心孔35bと係合する際、係合が容易に行われる。
本実施の形態では、テーパまたは面取り形状の係合導入部を、係合部32とつば付内側部材35の中心孔35bの両方に有しているが、いずれか一方に設けるだけでも係合部32と中心孔35bとの係合が容易に行われる。
また、手動ブレーキ解放時に、手動操作軸31の係合部32とつば付内側部材35の中心孔35bとが係合しているので、キャップ33を手動で時計方向あるいは反時計方向に回転させることでモータ軸2を回転させることができる。そして、モータ軸2を手動で回転させることで、モータ軸2の負荷側に連結されている図示しない減速機の出力軸を通じて装置(負荷)の位置を調整することができる。
また、キャップ33を手で抑えることでモータ軸2のフリー回転を抑えることができる。そして、本発明の実施の形態1に係る手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1を昇降装置などに使用する場合には、手動ブレーキ解放時に負荷側から引っ張られ、モータ軸2が回転し、落下につながることがあるので、モータ軸2のフリー回転を抑えることは、特に必要なことである。
【0047】
次に、上述した手動操作軸31の係合部32とつば付内側部材35の中心孔35bとの係合例とは異なる他の係合例について、図14と図15と図16を参照して以下に説明する。
【0048】
図14に示す他の係合例1では、手動操作軸31の係合部32は断面D字形状をしており、つば付内側部材35の中心孔35bは係合部32と相似形の断面D字形状をしている。
また、図15に示す他の係合例2では、手動操作軸31の係合部32は断面略正方形状をしており、つば付内側部材35の中心孔35bは係合部32と相似形の断面略正方形状をしている。
また、図16に示す他の係合例3は、手動操作軸31の係合部32とつば付内側部材35の中心孔35bがスプライン係合している。
上記の図14,15,16に示すつば付内側部材35の中心孔35b,中心孔35b,中心孔35bは、手動操作軸31の係合部32,係合部32,係合部32の断面形状より大きな相似形の断面形状をし、係合可能な寸法に形成されている。
また、いうまでもなく、上記以外にも種々の断面形状でも係合が可能である。
【0049】
次に、本発明の実施の形態2に係る手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1’について図17を参照して以下に説明する。
【0050】
本発明の実施の形態2に係る手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1’は、図17に示すように、前述した本発明の実施の形態1に係るものと比較して、キャップ33’を構成するつば付内側部材35’及び無励磁作動形電磁ブレーキ11’を構成するヨーク17’と制動ばね21’が次の点で相違し、その他の構成は相違しないので、以下、相違点のみ説明する。
【0051】
ヨーク17’は、複数個の制動ばね貫通孔17’a(1個のみ図示)を有し、各制動ばね貫通孔17’aにはそれぞれコイル状の制動ばね21’(1個のみ図示)が貫通して挿入されている。
キャップ33’は外側部材34とつば付内側部材35’とから構成され、つば部35’eはヨーク17’の外径と同一の大きさの外径を有している。
そして、つば付内側部材35’のつば部35’eとアーマチュア16との間に、各制動ばね21’が圧縮状態で組み込まれている。
その他の構成は相違しないので、その説明を省略する。
【0052】
そして、本発明の実施の形態2に係る手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ1’の作動及び効果は、前述した本発明の実施の形態1に係るものとほぼ同様であるので、その説明も省略する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1に係る手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータの軸方向断面図で、制動ばねによるブレーキの作動状態を示す。
【図2】図1に示す手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータの軸方向断面図で、手動ブレーキ解放によるブレーキの解放状態を示す。
【図3】図1の要部拡大断面図で、ブレーキ電流供給によるブレーキの解放状態を示す。
【図4】図1の要部拡大断面図で、制動ばねによるブレーキの作動状態を示す。
【図5】図2の要部拡大断面図で、手動ブレーキ解放によるブレーキの解放状態を示す。
【図6】図1,2,3,4,5に示すキャップを一部断面で示す正面図である。
【図7】キャップを構成する外側部材を示すもので、(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は正面図である。
【図8】キャップを構成するつば付内側部材を示すもので、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)は下面図である。
【図9】外側部材の変形例1を示すもので、(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は正面図である。
【図10】外側部材の変形例2を示すもので、(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は正面図である。
【図11】好ましい手動操作軸を示すもので、(A)は上面図、(B)は正面図、(C)は下面図である。
【図12】キャップをブレーキカバーにねじ込んだ状態を示す説明図で、(A)は断面図、(B)は(A)のX−X線断面図である。
【図13】キャップのブレーキカバーに対する螺合を解除した状態を示す説明図で、(A)は断面図、(B)は(A)のY−Y線断面図である。
【図14】手動操作軸の係合部とつば付内側部材の中心孔との他の係合例1を示し、図13(B)に相当する図である。
【図15】手動操作軸の係合部とつば付内側部材の中心孔との他の係合例2を示し、図13(B)に相当する図である。
【図16】手動操作軸の係合部とつば付内側部材の中心孔との他の係合例3を示し、図13(B)に相当する図である。
【図17】本発明の実施の形態2に係る手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータの要部拡大断面図で、制動ばねによるブレーキの作動状態を示す。
【符号の説明】
【0054】
1,1’ 手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ
2 モータ軸
3 モータケーシング
4 反負荷側ブラケット
5 反負荷側軸受
6 負荷側ブラケット
7 負荷側軸受
8 通しボルト
9 端子箱
11,11’ 手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ
12 制動板
13 ブレーキディスク
14 ハブ
15 キー
16 アーマチュア
17,17’ ヨーク
17a,17’a 制動ばね貫通孔
18 電磁コイル
19 ガイドボルト
20 カラー
21,21’ 制動ばね
22 ブレーキカバー
22a ねじ孔
23 取付ボルト
31 手動操作軸
32,32,32,32 係合部
32a 平面部
32c 係合導入部
33,33’ キャップ
34,34’,34” 外側部材
34a,34’a,34”a ボルト孔
34k ローレット目
34’p 平面部
34”h 六角穴
35,35’ つば付内側部材
35a,35’a おねじ部
35b,35’b,35b,35b,35b 中心孔
35c 大径孔部
35d 制動ばね挿入溝
35e,35’e つば部
35f ねじ穴
35g 係合導入部
36 ボルト
37 パッキン
g,g’ ブレーキギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキがモータの反負荷側に装着され、該無励磁作動形電磁ブレーキを覆うブレーキカバーがモータの反負荷側に取り付けられた手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータにおいて、
端部に係合部を有する手動操作軸がモータ軸の反負荷側端部に一体的に設けられ、
前記ブレーキカバーの中心部にねじ孔が形成され、
おねじ部及び中心孔を有するつば付内側部材と外側部材とから構成されるキャップが前記ブレーキカバーの前記ねじ孔に取り付けられ、
前記つば付内側部材と前記無励磁作動形電磁ブレーキのアーマチュアとの間に前記無励磁作動形電磁ブレーキの制動ばねが圧縮状態で組み込まれ、
手動ブレーキ解放時に、前記手動操作軸の前記係合部が前記つば付内側部材の前記中心孔に係合することを特徴とする手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ。
【請求項2】
前記外側部材の内側にパッキンを有することを特徴とする請求項1に記載の手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ。
【請求項3】
前記外側部材の外径及び前記つば付内側部材のつば部の外径は、前記ブレーキカバーの中心部の前記ねじ孔の内径より大きい外径を有し、前記外側部材と前記つば付内側部材は前記ブレーキカバーの中心部の前記ねじ孔を挟んでボルトにより着脱可能に連結されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ。
【請求項4】
前記手動操作軸の前記係合部は、前記つば付内側部材の前記中心孔との係合を容易にするテーパまたは面取り形状の係合導入部を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ。
【請求項5】
前記つば付内側部材の前記中心孔は、前記手動操作軸の前記係合部との係合を容易にするテーパまたは面取り形状の係合導入部を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の手動ブレーキ解放機構を有する無励磁作動形電磁ブレーキ付モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−106981(P2010−106981A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280453(P2008−280453)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000150800)株式会社ツバキエマソン (102)
【Fターム(参考)】