説明

手動変速機の変速操作装置

【課題】選択摺動式のリバースギヤ列を備えた手動変速機において、後退速への変速動作を良好に行わせることを課題とする。
【解決手段】リバース位置へのシフト操作の前期に、コントロールロッド100に連動して回動し、前進変速段用ゲート部材107を介して同期装置60を作動させることにより、プライマリシャフト10の回転を制動する制動用操作部材121を備えるとともに、リバースアイドルギヤ37を摺動させるリバースシフトレバー110に、シフト操作の後期に前記ゲート部材107に作用して、同期装置60による制動動作を解除させる制動解除用レバー部110cを設け、シフト操作後期における制動解除動作とリバースアイドルギヤ37の噛み合い動作とを常に所定のタイミングで行わせるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載される手動変速機の変速操作装置に関し、自動車用変速機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用の手動変速機は、エンジンにクラッチを介して連結されたプライマリシャフトと、このプライマリシャフトに平行に配置され、駆動輪に差動装置を介して連結されたセカンダリシャフトとを有し、これら両軸間に複数のギヤ列を設け、運転者によるチェンジレバーの操作により、いずれかひとつのギヤ列を動力伝達状態とすることにより、所望の変速段が得られるようになっている。
【0003】
その場合に、前進変速段用の各ギヤ列は、走行中に変速操作が行われることから常時噛合い式のギヤ列を採用し、同期装置を介して動力伝達状態とするように構成されるが、一般に停車中もしくはごく低車速で変速操作が行われる後退速用のギヤ列については、部品点数削減等の観点から、同期装置を用いない選択摺動式のギヤ列が採用されるのが通例である。
【0004】
即ち、リバース用ギヤ列は、プライマリシャフトに固設されたリバースプライマリギヤと、セカンダリシャフトに固設されたリバースセカンダリギヤと、アイドルシャフト上に軸方向に摺動可能に支持されたリバースアイドルギヤとで構成され、チェンジレバーの操作により、リバースアイドルギヤを軸方向に摺動させて、リバースプライマリギヤおよびリバースセカンダリギヤに噛み合わせることにより動力伝達状態となる。
【0005】
ところで、後退速への変速操作は、上記のように停車中もしくはごく低車速の状態で、クラッチを切断した上で行われるが、クラッチを切断した直後はプライマリシャフトが慣性で回転し続けており、そのため、リバースアイドルギヤをリバースプライマリギヤに噛み合わせようとしたときに両ギヤの歯が干渉し、ギヤ鳴りと呼ばれる騒音が発生することがある。
【0006】
この問題に対しては、例えば特許文献1に開示されているように、後退速への変速操作時に、チェンジレバーの操作に連動させて、いずれかの前進変速段用の同期装置を作動させ、該同期装置の同期作用によってプライマリシャフトに制動力を付与することによりプライマリシャフトを停止させ、その状態でリバースアイドルギヤをリバースプライマリプライマリギヤに噛み合わせるように構成することがある。
【0007】
即ち、前記特許文献1に記載された手動変速機は、図9に示すように、後退速への変速操作時におけるチェンジレバーのリバース位置へのシフト操作により、シフトセレクトシャフトaがa’方向に回動し、該シャフトaに固着された図外のシフトアームおよびリバースシフトピースを介してリバースアイドルギヤが噛み合い位置へ摺動するように構成されているとともに、このリバース位置へのシフト操作の前期には、前記シフトセレクトシャフトaに設けられた連動アームbが前記シフトアームに連動して同方向に揺動することにより、該連動アームbの一端の第1駆動アーム部b’が3−4速用シフトピースcの一端に設けられた第1係合アーム部c’に係合して、該シフトピースcを矢印xで示す4速位置側へスライドさせる。これにより、3−4速同期装置を作動させ、プライマリシャフトに制動力を付与するようになっている。
【0008】
そして、リバース位置へのシフト操作の後期には、前記連動アームbがさらにa’方向に揺動することにより、前記第1駆動アーム部b’と第1係合アーム部c’との係合が解除されるとともに、連動アームbの他端に設けられた第2駆動アーム部b”が3−4速用シフトピースcの他端に設けられた第2係合アーム部c”に係合し、該第2係合アーム部c”を押すことにより、3−4速用シフトピースcを矢印yで示すニュートラル位置側へスライドさせ、前記3−4速同期装置の作動を解除する。これにより、プライマリシャフトは停止状態で該同期装置による拘束を解除され、リバースアイドルギヤがリバースプライマリギヤに円滑に噛み合うことができるようなになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−14114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、この特許文献1に記載された手動変速機においては、前記のように、リバース位置へのシフト操作の後期に、リバースアイドルギヤをリバースプライマリギヤに噛み合わせる動作に連動して、3−4速用同期装置の制動作用を解消させる動作が行われるが、その2つの動作は、シフトセレクトシャフトaないし該シャフトaに固着されたシフトアームの揺動を基点とし、ここから操作の伝達経路を分岐させて、一方の経路により、リバースシフトピースをスライドさせて、リバースアイドルギヤをリバースプライマリギヤに噛み合わせるとともに、他方の経路により、前記シフトアームに連動する連動アームbを揺動させ、さらに3−4速用シフトピースcをニュートラル位置側へスライドさせて、3−4速用同期装置の制動作用を解除するようになっている。
【0011】
このように、2つの動作を行わせるための操作が分岐し、異なる経路を経由してそれぞれ目的の動作を行うように構成した場合、両経路をそれぞれ構成する部材間の遊びやがたつき等のため、両動作間に微妙なタイミングのずれが生じやすくなり、例えば同期装置の制動解除動作が不完全な状態でリバースアイドルギヤがリバースプライマリギヤに噛み合って、一時的に変速機がロック状態となるなどの不具合が発生するおそれがある。
【0012】
そこで、本発明は、前記のように、チェンジレバーのリバース位置へのシフト操作の前期に、前進変速段用の同期装置を作動させてプライマリシャフトの回転を制動するとともに、該シフト操作の後期に、前記同期装置の制動動作を解除することにより、リバースギヤの噛み合わせを円滑に行わせるようにした手動変速機において、前記シフト操作後期における同期装置の制動解除動作とリバースギヤの噛み合い動作とを常に所定のタイミングで行わせるように構成し、後退速への変速操作が良好に行われるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0014】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンにクラッチを介して連結されたプライマリシャフトと、該プライマリシャフトに平行に配置され、差動装置を介して駆動輪に連結されたセカンダリシャフトと、これらのシャフト間に設けられ、チェンジレバーの操作により同期装置を介していずれか1つが動力伝達状態とされる複数の前進変速段用ギヤ列と、前記チェンジレバーの操作によりリバースアイドルギヤが軸方向に摺動し、前記プライマリシャフト上のリバースプライマリギヤとセカンダリシャフト上のリバースセカンダリギヤとに噛み合うことにより動力伝達状態とされる選択摺動式のリバース用ギヤ列とが備えられた手動変速機の変速操作装置であって、前記チェンジレバーのリバース位置へのシフト操作時に、リバース用ゲート部材を介して揺動することにより、前記リバースアイドルギヤを噛み合い位置へ摺動させるリバースシフトレバーと、前記シフト操作の前期に、所定前進変速段用のゲート部材を介して同期装置の一つを同期方向に作動させることにより、前記プライマリシャフトの回転を制動する制動機構とを有するとともに、前記リバースシフトレバーに、前記シフト操作の後期に該シフトレバーの揺動により前記所定前進変速段用ゲート部材を操作して、前記同期装置を制動解除方向に作動させる制動解除用レバー部を設けたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の手動変速機の変速操作装置において、前記リバースシフトレバーは、支点を挟んで、リバース用ゲート部材に係合する第1レバー部と、リバースアイドルギヤに係合する第2レバー部とを有し、前記制動解除用レバー部は、前記第1レバー部と第2レバー部の中間の前記支点の近傍に設けられていることを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の手動変速機の変速操作装置において、チェンジレバーのセレクト操作に連動して軸方向に移動し、シフト操作に連動して回動するコントロールロッドが備えられ、前記制動機構は、該コントロールロッドに取り付けられ、先端のフィンガー部が前記所定前進変速段用ゲート部材に設けられた制動用凹部に係合した状態で、コントロールロッドの回動に連動して所定方向に回動することにより、リバース位置へのシフト操作の前期に、該所定前進変速段用ゲート部材を同期装置の同期方向へ操作するとともに、該シフト操作の後期には、前記フィンガー部が前記制動用凹部から離脱する制動用操作部材と、該操作部材を上記所定方向と反対方向に付勢し、前記コントロールロッドがリバースセレクト位置から軸方向に移動したときに、前記操作部材のフィンガー部を前記ゲート部材の制動用凹部に係合可能な位置に復帰させるばね部材とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
次に、前記各請求項に記載の発明の効果を説明する。
【0018】
まず、請求項1に記載の発明によれば、停車状態もしくはごく低車速状態で、運転者がクラッチを切断した上でチェンジレバーをリバース位置へシフト操作したとき、リバース用ゲート部材を介してリバースシフトレバーが揺動することにより、リバースアイドルギヤが所定方向に摺動して、リバースプライマリギヤおよびリバースセカンダリギヤに噛み合い、リバース用ギヤ列が動力伝達状態とされるが、そのシフト操作の前期には、制動機構により所定前進変速段用のゲート部材が同期装置の一つを同期方向に作動させるので、前記クラッチの切断後も慣性で回転していたプライマリシャフトが制動され、該シャフトが停止することになる。
【0019】
そして、上記リバースシフトレバーがさらに揺動するシフト操作の後期には、該シフトレバーに設けられた制動解除用レバー部が前記所定前進変速段用ゲート部材を操作し、前記同期装置を制動解除方向に作動させるので、前記プライマリシャフトに対する制動作用が解除され、該プライマリシャフトないしリバースプライマリギヤは、停止した状態で拘束が解除された状態となる。したがって、その直後、リバースアイドルギヤがリバースプライマリギヤに噛み合うときに、両ギヤは、ギヤ鳴りを生じることなく円滑に噛み合うことになる。
【0020】
その場合に、本発明によれば、シフト操作の後期に所定前進変速段用ゲート部材を操作する制動解除用レバー部が、リバースプライマリギヤを摺動させるリバースシフトレバーに設けられているから、リバースアイドルギヤをリバースプライマリギヤに噛み合わせる動作と、同期装置の制動作用を解除する所定前進変速段用ゲート部材の動作とが、リバースシフトレバーの揺動のみによって直接行われることになる。したがって、これら両動作が予め設定されたタイミングで常に精度よく行われることになり、例えば同期装置の制動解除が不完全な状態でギヤが噛み合うことによるロック状態の発生等が回避される。
【0021】
そして、請求項2に記載の発明によれば、所定前進変速段用ゲート部材を操作するリバースシフトレバーの制動解除用レバー部が、該シフトレバーの第1レバー部と第2レバー部の中間に設けられているので、第1レバー部が係合するリバース用ゲート部材と、制動解除用レバー部が作用する所定前進変速段用ゲート部材との位置関係に応じて、該制動解除用レバー部を、シフトレバーの大型化等を招くことなく、コンパクトに設けることができる。
【0022】
また、該制動解除用レバー部がリバースシフトレバーの支点の近傍に位置するので、所定前進変速段用ゲート部材を操作する際の該レバー部の撓みや変形が少なく、該ゲート部材を介して行う同期装置の制動解除動作を一層精度よく、確実に行うことが可能となる。
【0023】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、同期装置を同期方向に操作する制動機構が、チェンジレバーに連動するコントロールロッドに備えられた制動用操作部材によって構成され、リバース位置へのシフト操作の前期に、該操作部材がコントロールロッドの回動に連動して回動することにより、先端のフィンガー部が前記所定前進変速段用ゲート部材に設けられた制動用凹部に係合して、該ゲート部材を同期装置が同期する方向へ操作する。これにより、同期装置が作動し、プライマリシャフトの回転が制動される。
【0024】
そして、シフト操作の後期には、前記操作部材のフィンガー部が制動用凹部から離脱するので、前記リバースシフトレバーの制動解除用レバー部による制動解除動作を妨げることがない。したがって、シフト操作前期における同期装置による制動動作と、後期における該制動動作の解除動作とが、いずれも確実に行われ、後退速への変速操作が良好に行われる。
【0025】
また、チェンジレバーのセレクト操作に伴うコントロールロッドの軸方向の移動時に、ばね部材により前記操作部材のフィンガー部がゲート部材の制動用凹部に係合可能な位置に復帰するので、チェンジレバーをリバース位置から他の位置へセレクト操作した後、次にリバース位置へ操作するときに、プライマリシャフトに対する前記の制動動作が確実に実行されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る手動変速機の骨子図である。
【図2】同手動変速機における変速操作機構の要部正面図である。
【図3】図2のX−X線に沿う平面図である。
【図4】同、Y−Y線に沿う側面図である。
【図5】同、Z−Z線に沿う平面図である。
【図6】リバース位置へのシフト操作の中間状態を示す図5と同様の平面図である。
【図7】リバース位置へのシフト操作の中間状態を示す図4と同様の側面図である。
【図8】リバース位置へのシフト操作の完了状態を示す図5と同様の平面図である。
【図9】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
図1に示すように、この実施の形態に係る手動変速機1は、前進6速、後進1速の変速機であって、エンジン2の出力軸3に、クラッチ4を介して連結されたプライマリシャフト10と、該シャフト10に平行に配置されたセカンダリシャフト20とを有し、これらのシャフト10、20間に、エンジン側から、1速用ギヤ列G1、リバース用ギヤ列GR、2速用ギヤ列G2、5速用ギヤ列G5、6速用ギヤ列6、3速用ギヤ列G3、および4速用ギヤ列G4が配設されている。
【0029】
前記1速用ギヤ列G1および2速用ギヤ列G2は、それぞれ、プライマリシャフト10に固設されたプライマリギヤ11、12と、セカンダリシャフト20に遊嵌合されたセカンダリギヤ21、22とで構成されている。また、3速用ギヤ列G3〜6速用ギヤ列G6は、それぞれ、プライマリシャフト10に遊嵌合されたプライマリギヤ13〜16と、セカンダリシャフト20に固設されたセカンダリギヤ23〜26とで構成されている。
【0030】
さらに、リバース用ギヤ列GRは、プライマリシャフト10に固設されたリバースプライマリギヤ17と、セカンダリシャフト20に固定されたリバースセカンダリギヤ27と、前記プライマリシャフト10およびセカンダリシャフト20に平行なアイドルシャフト30に軸方向に摺動自在に嵌合されたリバースアイドルギヤ37とで構成されている。
【0031】
そして、セカンダリシャフト20上における1速用、2速用セカンダリギヤ21、22の間、プライマリシャフト10上における3速用、4速用プライマリギヤ13、14の間、同じくプライマリシャフト10上における5速用、6速用プライマリギヤ15、16の間に、それぞれ、1−2速用同期装置40、3−4速用同期装置50、5−6速用同期装置60が配置され、チェンジレバー(図示せず)の操作により、これらの同期装置のスリーブ41、51、61をエンジン側又は反エンジン側にスライドさせれば、スライドされた側の遊嵌合ギヤがプライマリシャフト10又はセカンダリシャフト20に固定され、当該ギヤ列が動力伝達状態とされるようになっている。
【0032】
なお、前記リバース用ギヤ列GRを構成するセカンダリギヤ27は、前記1−2速用同期装置40のスリーブ41に設けられ、該同期装置40のハブ42を介してセカンダリシャフト20に回転方向に固定されている。そして、チェンジレバーの操作により、リバースアイドルギヤ37を反エンジン方向へスライドさせれば、該ギヤ37がリバースプライマリギヤ17およびリバースセカンダリギヤ27にそれぞれ噛み合うことにより、リバース用ギヤ列GRが動力伝達状態とされるようになっている。
【0033】
さらに、前記セカンダリシャフト20のエンジン側の端部には出力ギヤ28が設けられ、該ギヤ28が差動装置70の入力ギヤ71に噛み合わされて、セカンダリシャフト20の回転が該差動装置70を介して左右の車軸72、73に伝達されるようになっている。
【0034】
次に、この手動変速機1の変速操作機構を説明すると、図2、図3に示すように、この変速操作機構は、上下方向に配置されて、変速機ケース80に支持されたコントロールロッド100を有し、チェンジレバーのセレクト操作により該ロッド100が軸方向、即ち図2の上下方向に移動し、チェンジレバーのシフト操作により該ロッド100が図3のA−B方向に回動するようになっている。
【0035】
また、変速機ケース80内の上部には、水平方向に配置されて、軸方向にスライド可能に支持されたリバース用シフトロッド101、1−2速用シフトロッド(図示せず)、3−4速用シフトロッド(図示せず)、および5−6速用シフトロッド102が備えられている。
【0036】
そして、上記コントロールロッド100の上下方向の中ほどに、ゲート部材操作用のアーム部材103が固着されているとともに、各シフトロッドには、リバース用ゲート部材104、1−2速用ゲート部材105、3−4速用ゲート部材106および5−6速用ゲート部材107がそれぞれ取り付けられ、前記アーム部材103の側方に、これらのゲート部材104〜107が、この順序で上方から並べて配置されている。
【0037】
そして、コントロールロッド100の上下位置、即ちチェンジレバーのセレクト位置に応じて、アーム部材103のアーム部103aが、各ゲート部材104〜107に上下に並ぶように設けられたシフト操作用凹部104a〜107a(図4参照)のいずれかに係合し、その状態で、チェンジレバーのシフト操作によりコントロールロッド100がいずれかの方向に回動すれば、前記アーム部材103のアーム部103aが前記凹部に係合したいずれかのゲート部材を介し、該ゲート部材が取り付けられたシフトロッドを水平方向にスライドさせるようになっている。
【0038】
このシフトロッドのスライドにより、前記同期装置40、50、60のスリーブ41、51、61のいずれかがエンジン側又は反エンジン側にスライドし、またはリバースアイドルギヤ37が反エンジン側にスライドし、1速用〜6速用ギヤ列G1〜G6、またはリバース用ギヤ列GRのいずれかが動力伝達状態となる。
【0039】
ここで、図3により、5−6速用同期装置60を例にとり、5速用ギヤ列G5が動力伝達状態となる場合の動作を説明する。
【0040】
チェンジレバーの操作により、コントロールロッド100を介して、5−6速用ゲート部材107ないし5−6速用シフトロッド102がC方向にスライドすると、5−6速用同期装置60においては、シフトフォーク108を介してハブ62の外周にスライド可能にスプライン嵌合されたスリーブ61も同方向にスライドし、シンクロナイザリング63が5速プライマリギヤ15側に設けられたコーン面64に押し付けられる。これにより、該プライマリギヤ15の回転が、シンクロナイザリング63、スリーブ61およびハブ62を介してプライマリシャフト10の回転と同期する。
【0041】
そして、この状態でスリーブ61がさらにプライマリギヤ15側にスライドすることにより、該スリーブ61が前記ハブ62とプライマリギヤ15に固着されたシンクロギヤ65とに跨って噛み合い、これにより、プライマリギヤ15がプライマリシャフト10に結合される。この動作は、シフトロッド102が6速プライマリギヤ16側にスライドした場合も同様であり、さらに他の同期装置40、50においても同様である。
【0042】
一方、図4に示すように、リバース用変速操作部材として、コントロールロッド100と平行してほぼ上下に延びるリバースシフトレバー110が備えられている。このリバースシフトレバー110は、中央部が支軸111を介して変速機ケース80に揺動自在に支持され、該支軸111より上方に延びる第1レバー部110aの先端が、前記リバース用ゲート部材104に設けられた第2のシフト操作用凹部104bに係合され、支軸111より下方に延びる第2レバー部110bの先端が、前記リバースアイドルギヤ37に設けられた周溝37aに係合されている。
【0043】
そして、チェンジレバーのリバース位置への変速操作時に、コントロールロッド100およびアーム部材103が図3のA方向に回動したとき、リバース用ゲート部材104が図3のD方向にスライドすることにより、該シフトレバー104が図4のE方向に揺動し、該シフトレバー110の第2レバー部110bがリバースアイドルギヤ37を反エンジン方向にスライドさせる。これにより、該リバースアイドルギヤ37が図1に示すリバースプライマリギヤ17およびリバースセカンダリギヤ27に噛み合い、リバース用ギヤ列GRが動力伝達状態となる。
【0044】
以上の構成に加えて、この手動変速機1には、後退速への変速操作時におけるシフト操作の前期に、5−6速用同期装置60によりプライマリシャフト10に対する制動動作を行わせ、シフト操作の後期に、その動作を解除するための機構が備えられている。
【0045】
まず、前記同期装置60による制動用機構として、図2および図5に示すように、コントロールロッド100に固着された前記アーム部材103と、その下方でコントロールロッド100に嵌合固着されたスペーサ120との間に、該コントロールロッド100に回動自在に嵌合された制動用操作部材121が備えられている。
【0046】
この操作部材121には、図5に示すように、つる巻きばね122が巻きつけられており、その一端が該操作部材121の外周の段付部121aに係止され、他端が上記スペーサ120に設けられた突起120aに係止されて、該つる巻きばね122により、操作部材121が図5に示すB方向に付勢されている。
【0047】
また、操作部材121の側面には爪部121bが設けらており、該爪部121bが前記つる巻きばね122によるB方向の付勢力により、前記アーム部材103に設けられたスイッチ(図示せず)操作用突起103bの側面に押し付けられている。これにより、アーム部材103のA方向の回動時に、操作部材121が該アーム部材103と同方向に一体的に回動するようになっている。
【0048】
そして、該操作部材121の前記ゲート部材104〜107側の側部には、半径方向に延びるフィンガー部121cが設けられているとともに、前記5−6速用ゲート部材107には、前記シフト操作用凹部107aに隣接させて制動用凹部107bが設けられ、前記フィンガー部121cの先端が該凹部107bを指向するように設定されている。
【0049】
この操作部材121のフィンガー部121cは、図5に示す位置、即ちセレクト方向にはアーム部材103のアーム部103aがリバース用ゲート部材104のシフト操作用凹部104aに係合する位置、回動方向にはシフト操作される前のニュートラル位置において、先端が前記5−6速用ゲート部材107の制動用凹部107bの内面に当接もしくは近接しており、この位置からコントロールロッド100、アーム部材103がA方向へ回動したとき、即ちリバース位置へシフト操作されたときに、該フィンガー部121cが5−6速用ゲート部材107における前記凹部107bの内面を押して、該ゲート部材107および5−6速用シフトロッド102をC方向へスライドさせるようになっている。
【0050】
そして、このシフトロッド102のC方向のスライドにより、前述のように、5−6速用同期装置60のスリーブ61も同方向にスライドし、これにより、5速プライマリギヤ15とプライマリシャフト10とが同期し、プライマリギヤ15の回転が停止しているとき、プライマリシャフト10に制動力が作用することになる。
【0051】
また、5−6速用同期装置60のスリーブ61がシンクロギヤ65に噛み合う前の所定の時点、即ち前記制動用操作部材121のフィンガー部121cが、5−6速用ゲート部材107を介して5−6速用シフトロッド102をニュートラル位置と5速達成位置の中間位置(図6参照)までスライドさせた時点で、該フィンガー部121cは、5−6速用ゲート部材107の制動用凹部107bから離脱し、該ゲート部材107および5−6速用シフトロッド102に作用していたC方向へスライドさせる力が解消されるようになっている。
【0052】
一方、図4に示すように、後退速への変速操作時におけるシフト操作の後期に、5−6速用同期装置60による制動動作を解除するための機構として、前記リバースシフトレバー110に該同期装置60を制動解除方向に作動させる制動解除用レバー部110cが設けられている。
【0053】
この制動解除用レバー部110cは、前記リバースシフトレバー110の第1レバー部110aと第2レバー110bとの中間の支軸111の近傍からゲート部材104〜107側に延び、先端が5−6速用ゲート部材107の先端部を指向している。これに対して、5−6速用ゲート部材107のリバースシフトレバー110側の先端部には、下面に傾斜状のカム面107cが設けられている。
【0054】
そして、前記リバースシフトレバー110がリバース位置へのシフト操作時においてE方向に揺動したとき、その揺動期間の中間時期に、制動解除用レバー部110cが、前述のシフト操作の前期に制動用操作部材121の回動により5速側への中間位置までスライドした5−6速用ゲート部材107のカム面107cに当接し(図7参照)、その状態からさらに揺動することにより、該ゲート部材107をニュートラル側にスライドさせる。これにより、5−6速用シフトロッド102および5−6速用同期装置60のスリーブ61がニュートラル位置に戻され、該同期装置60によるプライマリシャフト10に対する制動動作が完全に解除されることになる。
【0055】
また、その後、さらにリバースシフトレバー110がE方向に揺動することにより、前述のように、リバースアイドルギヤ37が、リバースプライマリギヤ17に噛み合い、さらにリバースセカンダリギヤ27に噛み合うようになっている。
【0056】
上記の構成により、この手動変速機1によれば、チェンジレバーの後退速への変速操作時に、まず該レバーのセレクト操作により、コントロールロッド100が軸方向に移動してゲート部材操作用のアーム部材103のアーム部103aが、リバース用ゲート部材104のシフト操作用凹部104aに係合する。
【0057】
そして、この状態から、チェンジレバーをリバース位置にシフト操作すれば、前記コントロールロッド100の回動により、アーム部材103がリバース用ゲート部材104を図3のD方向にスライドさせるとともに、リバースシフトレバー110が図4のE方向に揺動する。これにより、リバースアイドルギヤ37がアイドルシャフト30上を摺動し、リバースプライマリギヤ17およびリバースセカンダリギヤ27に噛み合い、リバース用ギヤ列GRが動力伝達状態となる。
【0058】
そして、この後退速への変速操作時における前記チェンジレバーのシフト操作の前期、即ち、前記コントロールロッド100ないしアーム部材103がA方向に所定角度まで回動した中間時点までは、制動用操作部材121が前記アーム部材103に連動してA方向に回動し、該操作部材121のフィンガー部121cが前記5−6速用ゲート部材107の制動用凹部107bの内面を押すことにより、該ゲート部材107および5−6速用シフトロッド102をC方向へスライドさせる。
【0059】
そのため、図6に示すように、5−6速用同期装置60のスリーブ61が5速プライマリギヤ15側に所定量スライドし、シンクロナイザリング63をコーン面64に押し付けることにより、前記プライマリギヤ15とプライマリシャフト10とが同期する。これにより、停車した後またはごく低車速で、クラッチが切断されたにも拘らず、プライマリシャフト10が慣性で回転しているときに、該シャフト10の回転が制動されることになる。
【0060】
このとき、図7に示すように、リバース用ゲート部材104、リバースシフトレバー110およびリバースアイドルギヤ37は、リバース位置までの全ストロークの中間位置まで移動しており、リバースアイドルギヤ37は、リバースプライマリギヤ17に噛み合う直前位置にある。
【0061】
また、このとき、5−6速用ゲート部材107が5速位置までの全ストロークの中間位置までC方向にスライドし、前記リバースシフトレバー110も中間位置までE方向に揺動することにより、該リバースシフトレバー110に設けられた制動解除用レバー部110cの先端が、5−6速用ゲート部材107の先端のカム面107cに当接する。
【0062】
そして、この状態からのシフト操作の後期には、前記リバースシフトレバー110がさらにE方向に揺動して、前記制動解除用レバー部110cが5−6速用ゲート部材107のカム面107cを押すことにより、該ゲート部材107が反C方向、即ちシフト操作の前期と反対側のニュートラル側へスライドする。
【0063】
これにより、図8に示すように、5−6速用シフトロッド102および5−6速用同期装置60のスリーブ61も同様にニュートラル位置に戻され、該同期装置60によるプライマリシャフト10に対する制動作用が完全に解消されることになるが、この時点では、該プライマリシャフト10の慣性による回転は既に停止している。
【0064】
そして、前記リバースシフトレバー110がE方向へさらに揺動することにより、図7に鎖線で示すように、リバースアイドルギヤ37がさらに摺動してリバースプライマリギヤ17と噛み合うことになるが、この時点では、プライマリシャフト10が停止していることに伴ってリバースプライマリギヤ17も停止しており、該リバースアイドルギヤ37がプライマリギヤ17に円滑に噛み合うことになる。また、セカンダリギヤ27は車両が停車した時点で停止しているから、該リバースセカンダリギヤ27との噛み合いも円滑に行われ、後退速への変速操作時におけるギヤ鳴りが防止される。
【0065】
そして、特に上記の構成によれば、リバース位置へのシフト操作の後期に、5−6速用同期装置60の制動作用を解除するための5−6速用ゲート部材107のニュートラル側へのスライド動作と、リバースアイドルギヤ37をリバースプライマリギヤ17に噛み合わせる動作とが、いずれもリバースシフトレバー110に設けられた制動解除レバー部110cと第2レバー部110bの操作によって行われるから、両動作が予め設定されたタイミングで常に精度よく行われることになる。これにより、例えば同期装置60による制動作用の解除が不完全な状態でギヤが噛み合うことによるロック状態の発生等が回避され、後退速への変速操作が良好に行われることになる。
【0066】
なお、図8に示すリバース位置へのシフト操作が完了した後、前進変速段等への操作のためにチェンジレバーがシフト操作線上でニュートラル位置へ戻されたとき、アーム部材103が鎖線で示す位置からB方向へ回動するとともに、制動用操作部材121も、つる巻きばね122の付勢力により、アーム部材103に追随してB方向に回動し、フィンガー部121cが5−6速用ゲート部材107の制動操作用凹部107bの外側の面に当接することになる。
【0067】
そして、この状態で、チェンジレバーがセレクト操作されると、コントロールロッド100の軸方向の移動に伴い、アーム部材103および制動用操作部材121も軸方向に移動し、該操作部材121のフィンガー部121cが5−6速用ゲート部材107からコントロールロッド100の軸方向にずれ、前記つる巻きばね122の付勢力により、図5に示す初期位置へ復帰する。したがって、次回の後退速への変速操作時、上記と同様にして同期装置60による制動動作が行われることになる。
【0068】
また、以上の構成によれば、リバースシフトレバー110の制動解除用レバー部110cは、該シフトレバー110の第1レバー部110aと第2レバー部110bとの中間に設けられているので、第1レバー部110aが係合するリバース用ゲート部材104と、制動解除用レバー部110cが作用する5−6速用ゲート部材107との位置関係に応じて、該制動解除用レバー部110cをコンパクトに設けることができる、。
【0069】
また、該制動解除用レバー部110cがリバースシフトレバー110の支軸111の近傍に位置するので、5−6速用ゲート部材107を操作する際の該制動解除用レバー部110cの撓みや変形が少なく、前記ゲート部材110を介して行う同期装置60の制動解除動作を一層精度よく、確実に行うことが可能となる。
【0070】
なお、以上の実施形態は、前進6速の手動変速機1に適用したものであるが、本発明は、同実施形態における6速用部材を省いた前進5速の手動変速機にもそのまま適用することができ、また、他の構成の手動変速機にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明によれば、手動変速機における後退速への変速操作が良好に行われることになり、この種の自動変速機を搭載する自動車の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0072】
10 プライマリシャフト
17 リバースプライマリギヤ
20 セカンダリシャフト
37 リバースアイドルギヤ
60 同期装置(5−6速用同期装置)
100 コントロールロッド
103 アーム部材
104 リバース用ゲート部材
107 所定前進変速段用ゲート部材(5−6速用ゲート部材)
107b 制動用凹部
110 リバースシフトレバー
110a 第1レバー部
110b 第2レバー部
110c 制動解除用レバー部
121 制動用操作部材
121c フィンガー部
122 ばね部材(つる巻きばね)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにクラッチを介して連結されたプライマリシャフトと、該プライマリシャフトに平行に配置され、差動装置を介して駆動輪に連結されたセカンダリシャフトと、これらのシャフト間に設けられ、チェンジレバーの操作により同期装置を介していずれか1つが動力伝達状態とされる複数の前進変速段用ギヤ列と、前記チェンジレバーの操作によりリバースアイドルギヤが軸方向に摺動し、前記プライマリシャフト上のリバースプライマリギヤとセカンダリシャフト上のリバースセカンダリギヤとに噛み合うことにより動力伝達状態とされる選択摺動式のリバース用ギヤ列とが備えられた手動変速機の変速操作装置であって、
前記チェンジレバーのリバース位置へのシフト操作時に、リバース用ゲート部材を介して揺動することにより、前記リバースアイドルギヤを噛み合い位置へ摺動させるリバースシフトレバーと、
前記シフト操作の前期に、所定前進変速段用のゲート部材を介して同期装置の一つを同期方向に作動させることにより、前記プライマリシャフトの回転を制動する制動機構とを有するとともに、
前記リバースシフトレバーに、前記シフト操作の後期に該シフトレバーの揺動により前記所定前進変速段用ゲート部材を操作して、前記同期装置を制動解除方向に作動させる制動解除用レバー部を設けたことを特徴とする手動変速機の変速操作装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載の手動変速機の変速操作装置において、
前記リバースシフトレバーは、支点を挟んで、リバース用ゲート部材に係合する第1レバー部と、リバースアイドルギヤに係合する第2レバー部とを有し、
前記制動解除用レバー部は、前記第1レバー部と第2レバー部の中間の前記支点の近傍に設けられていることを特徴とする手動変速機の変速操作装置。
【請求項3】
前記請求項1又は請求項2に記載の手動変速機の変速操作装置において、
チェンジレバーのセレクト操作に連動して軸方向に移動し、シフト操作に連動して回動するコントロールロッドが備えられ、
前記制動機構は、該コントロールロッドに取り付けられ、先端のフィンガー部が前記所定前進変速段用ゲート部材に設けられた制動用凹部に係合した状態で、コントロールロッドの回動に連動して所定方向に回動することにより、リバース位置へのシフト操作の前期に、該所定前進変速段用ゲート部材を同期装置の同期方向へ操作するとともに、該シフト操作の後期には、前記フィンガー部が前記制動用凹部から離脱する制動用操作部材と、
該操作部材を上記所定方向と反対方向に付勢し、前記コントロールロッドがリバースセレクト位置から軸方向に移動したときに、前記操作部材のフィンガー部を前記ゲート部材の制動用凹部に係合可能な位置に復帰させるばね部材とを有することを特徴とする手動変速機の変速操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−2078(P2011−2078A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147655(P2009−147655)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】