説明

手摺り棒部の制振構造及びチューンドマスダンパー

【課題】高い振動低減効果を発揮することができ、しかも、触れる者に不快感を感じさせることのない手摺り棒部の制振構造等を提供する。
【解決手段】テンションを付与されたワイヤー6と、ワイヤー6の長さ方向の中間部に設けられたマス7とが、筒体8の内部に、ワイヤ−6の延びる方向を筒体8の軸線方向に向けるようにして収容され、マス7が筒体8の内部でワイヤー6と直交する方向に筒体8の内周部に当たることなく振動するようになされたチューンドマスダンパー5が、筒体8の外周部を手摺り面8aとするように、手摺り棒部3の延びる方向の中間部に介設されている。張力調整機構12の調整用操作部10aが筒体8の端部に筒体8の外から操作可能に備えられているとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手摺り棒部の制振構造及びチューンドマスダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
リビング階段などの屋内階段として、スケルトン階段やらせん階段が用いられることがあり、これらスケルトン階段やらせん階段は、構成部材として細身の部材が用いられる傾向にあり、そのため、階段昇降時に手摺り棒部に揺れを生じやすく、階段を昇降する者に不安感を与えてしまいやすい。
【0003】
そのため、従来より、階段の手摺りではないけれども、鉄道車両の車室内に設けられる手摺り棒部の内部に遊動室を設け、該遊動室内に、弾性材で被覆したマスを遊動可能に配置し、車両の振動で遊動室内のマスを遊動室を囲む面に衝突させて手摺り棒部の振動を低減するようにしたものが提案されている。
【特許文献1】特開2004−122845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような制振構造では、必ずしもチューンドマスダンパーのような振動低減効果は得られないし、また、マスを弾性体で被覆しているとはいうものの、マスが遊動室を囲む面に当たる際の衝撃が手摺り棒部に伝わってしまい、手摺りに触れる者に不快感を生じさせてしまいやすいという問題もある。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、高い振動低減効果を発揮することができ、しかも、触れる者に不快感を感じさせることのない手摺り棒部の制振構造等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は、テンションを付与されたワイヤーと、該ワイヤーの長さ方向の中間部に設けられたマスとが、筒体の内部に、ワイヤ−の延びる方向を筒体の軸線方向に向けるようにして収容されると共に、前記ワイヤーの各端部を保持する保持部が備えられ、前記マスが筒体内部でワイヤーと直交する方向に筒体内周部に当たることなく振動するようになされたチューンドマスダンパーが、前記筒体の外周部を手摺り面とするように、手摺り棒部の延びる方向の中間部に介設されるか、又は、手摺り棒部の端部に設けられていることを特徴とする手摺り棒部の制振構造によって解決される(第1発明)。
【0007】
この構造では、手摺り棒部がその軸線方向と直交する方向に振動すると、チューンドマスダンパーのマスが、手摺り棒部の振動の方向とは反対の方向にパッシブに振動して、手摺り棒部の振動を効果的に低減することができる。
【0008】
しかも、マスは、テンションを付与されたワイヤーの長さ方向の中間部に設けられ、筒体内部でワイヤーと直交する方向に筒体内周部に当たることなく振動するようになされているので、チューンドマスダンパーや手摺り棒部に触れる者にマスの振動に伴う不快感を感じさせることもない。
【0009】
加えて、チューンドマスダンパーは、テンションを付与されたワイヤーの長さ方向の中間部にマスを設け、該マスをワイヤーの延びる方向と直交する方向に振動させるようにしているので、細身の手摺り棒部に対して、効果的な制振作用を行うことができながら、無理なく組み込むことができる。
【0010】
第1発明において、前記保持部の一方又は両方にワイヤーのテンションを調整する張力調整機構が備えられ、該テンションを調整することによりマスの固有振動数を調整することができるようになされていて、該張力調整機構の調整用操作部が前記筒体の端部に筒体の外から操作可能に備えられているとよい(第2発明)。
【0011】
この場合は、張力調整機構が備えられているので、チューンドマスダンパーのマスの固有振動数と、実際に設置される手摺り棒部の固有振動数との間にズレがあるような場合でも、マスの固有振動数を張力調整機構による調整で容易に一致させることができる。特に、張力調整機構の調整用操作部は筒体の端部に筒体の外から操作可能に備えられているので、調整を容易に行うことができる。
【0012】
また、上記の課題は、テンションを付与されたワイヤーと、該ワイヤーの長さ方向の中間部に設けられたマスと、ワイヤーの各端部を保持する保持部とを備えたチューンドマスダンパーの前記ワイヤーとマスとが、ワイヤーを手摺り棒部の延びる方向に向けるようにして手摺り棒部に内蔵され、マスがワイヤーと直交する方向に周囲に当たることなく振動するようになされていることを特徴とする手摺り棒部の制振構造によって、同様に解決される(第3発明)。
【0013】
また、第3発明において、ワイヤーのテンションを調整する張力調整機構が備えられ、該テンションを調整することによりマスの固有振動数を調整することができるようになされていているとよく、その場合は、第2発明で述べたのと同じように、チューンドマスダンパーのマスの固有振動数と、実際に設置される手摺り棒部の固有振動数との間にズレがあるような場合でも、マスの固有振動数を張力調整機構による調整で容易に一致させることができる。
【0014】
なお、第3発明では、筒体の外周部が手摺り面であることや、筒体が備えられていること、また、チューンドマスダンパーが手摺り棒部の延びる方向の中間部に介設されていることや手摺り棒部の端部に設けられていることなどは、任意の構成要件である。
【0015】
また、本発明は、テンションを付与されたワイヤーと、該ワイヤーの長さ方向の中間部に設けられたマスとが、筒体の内部に、ワイヤの延びる方向を筒体の軸線方向に向けるようにして収容されると共に、前記ワイヤーの各端部を保持する保持部が備えられ、前記マスが筒体内部でワイヤーと直交する方向に筒体内周部に当たることなく振動するようになされていることを特徴とするチューンドマスダンパーを含む(第4発明)。
【0016】
このチューンドマスダンパーでは、制振対象部がワイヤーの延びる方向と直交する方向に振動すると、チューンドマスダンパーのマスが、制振対象部の振動の方向とは反対の方向にパッシブに振動して、制振対象部の振動を効果的に低減することができる。
【0017】
しかも、マスは、テンションを付与されたワイヤーの長さ方向の中間部に設けられ、筒体内部でワイヤーと直交する方向に筒体内周部に当たることなく振動するようになされているので、チューンドマスダンパーや制振対象部に触れる者にマスの振動に伴う不快感を感じさせることもない。
【0018】
加えて、チューンドマスダンパーは、テンションを付与されたワイヤーの長さ方向の中間部にマスを設け、該マスをワイヤーの延びる方向と直交する方向に振動させるようにしているので、制振対象部が細身のものである場合には、制振対象部の効果的な制振作用を行うことができながら、細身の制振対象部に対して、その延びる方向に筒体の軸線方向を向けるようにして無理なく組み込むことができる。
【0019】
また、第4発明において、前記保持部の一方又は両方にワイヤーのテンションを調整する張力調整機構が備えられ、該テンションを調整することによりマスの固有振動数を調整することができるようになされており、前記張力調整機構の調整用操作部が前記筒体の端部に筒体の外から操作可能に備えられているとよく、その場合は、チューンドマスダンパーのマスの固有振動数と、実際に設置される制振対象部の固有振動数との間にズレがあるような場合でも、マスの固有振動数を張力調整機構による調整で容易に一致させることができ、特に、張力調整機構の調整用操作部が筒体の端部に筒体の外から操作可能に備えられていることで、調整を容易に行うことができる。また、固有振動数の異なる種々の制振対象部に対して、マスの固有振動数を制振対象部の固有振動数に一致させる調整をすることができて、汎用性を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、以上のとおりのものであるから、高い振動低減効果を発揮することができ、しかも、触れる者に不快感を感じさせることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の実施最良形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1〜図3に示す実施形態の手摺り棒部の制振構造は、図3(イ)に示すようなスケルトン階段1の手摺り棒部3や、あるいは、図3(ロ)に示すような空中廊下2の手摺り棒部3等に用いられるもので、各手摺り棒部3,3は、階段1の踏み面1a側、あるいは、空中廊下2の床面2a側から立ち上げられた支柱4の上端部に備えられ、これらの手摺り棒部3,3にチューンドマスダンパー5,5が組み込まれている。
【0023】
各チューンドマスダンパー5は、図2に示すように、テンションを付与されたワイヤー6と、該ワイヤー6の長さ方向の中間部に設けられたマス7とが、筒体8の内部に、ワイヤー6の延びる方向を筒体8の軸線方向に向けるようにして収容されている。筒体8の各端部にはワイヤー6の各端部を保持する保持部9,9が設けられ、マス7が筒体8の内部でワイヤー6と直交する方向に筒体8の内周部に当たることなく振動するようになされている。
【0024】
また、ワイヤー6の両端部には雄ネジ材10,10が設けられると共に、筒体8の各端部の保持部9,9には貫通のネジ孔11,11が設けられ、各雄ネジ材10と各ネジ孔11とが螺合されて張力調整機構12,12を構成しており、雄ネジ材10を回転操作することにより、ワイヤー6のテンションを調整し、マス7の固有振動数を調整することができるようになされている。
【0025】
そして、雄ネジ材10の外端面には、図2(ロ)に示すように、調節操作部としての十字状の工具係合部10aが備えられ、図2(ハ)に示すように、筒体8の外から該工具係合部10aに工具13を係合させて回すことにより、ワイヤー6のテンションの大きさを調整することができるようになされている。
【0026】
また、本実施形態では、図1(イ)に示すように、筒体8の外周部が手摺り面8aに形成されると共に、手摺り棒部3はパイプ状のものからなっていて、筒体8を手摺り棒部3の長さ方向の中間部に介設することができるように、筒体8の両端部には、パイプ状の手摺り棒部3に内嵌め式に嵌合するための嵌合用の凸部8b,8bが設けられ、図1(ロ)に示すように、各嵌合凸部8b,8bを両側の手摺り棒部3a,3aの端部内に嵌合することにより、筒体8の外周部8aと手摺り棒部3a,3aの外周部とが面一に連続するようになされている。
【0027】
上記の構造では、手摺り棒部3がその軸線方向と直交する方向に振動すると、チューンドマスダンパー5のマス7が、手摺り棒部3の振動の方向とは反対の方向にパッシブに振動して、手摺り棒部3の振動を効果的に低減することができる。
【0028】
しかも、マス7は、テンションを付与されたワイヤー6の長さ方向の中間部に設けられ、筒体8の内部でワイヤー6と直交する方向に筒体8の内周部に当たることなく振動するようになされているので、チューンドマスダンパー5や手摺り棒部3に触れる者にマス7の振動に伴う不快感を感じさせることもない。
【0029】
加えて、チューンドマスダンパー5は、テンションを付与されたワイヤー6の長さ方向の中間部にマス7を設け、該マス7をワイヤー6の延びる方向と直交する方向に振動させるようにしているので、細身の手摺り棒部3に対して、効果的な制振作用を行うことができながら、上記のように無理なく組み込むことができる。
【0030】
また、上記のチューンドマスダンパー5には、張力調整機構12が備えられているので、チューンドマスダンパー5のマスの固有振動数と、実際に設置されている手摺り棒部3の固有振動数との間にズレがあるような場合でも、マス7の固有振動数を張力調整機構12による調整で手摺り棒部3の固有振動数と容易に一致させることができる。特に、本実施形態では、調整用操作部10aが筒体8の端部において筒体8の外から操作可能に備えられているので、階段1や空中廊下2における手摺り棒部3の施工において、固有振動数の調整を現場でも容易に行うことができる。
【0031】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、チューンドマスダンパー5が手摺り棒部3の延びる方向の中間部に介設されている場合を示したが、手摺り棒部の端部に設けられていてもよい。
【0032】
また、上記の実施形態では、チューンドマスダンパー5の筒体8の外周部8aを手摺り部とし、該外周部8aと手摺り棒部3の外周部とを面一に連続させるようにしているが、同じく、筒体8の外周部を手摺り部としながら、非面一、例えば段部や傾斜部を介して連続させるようにしてもよいし、また、第3発明では、筒体をパイプ状の手摺りの内部に収容した構造に構成されていてもよいし、筒体を省略して、マスやワイヤー、保持部等をパイプ状の手摺り棒部の内部に設けた構造に構成されていてもよい。
【0033】
また、上記の実施形態では、スケルトン階段1の手摺り棒部3と空中廊下2の手摺り棒部3に適用した場合を示したが、本発明は、その他、らせん階段の手摺り棒部など、各種手摺り棒部に適用することができるのはもちろん、第4発明のチューンドマスダンパーについては、手摺り棒部のほか、手摺り棒部3を支える支柱4や、あるいは、杖、ポールなどの各種棒状部あるいは各種線状部の制振構造を形成するためのダンパーとして広く用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態の手摺り棒部の制振構造を示すもので、図(イ)は手摺り棒部とチューンドマスダンパーとを分離状態にして示す断面正面図、図(ロ)はチューンドマスダンパーを手摺り棒部に組み込んだ状態の断面正面図、図(ハ)は図(ロ)のI−I線断面矢視図である。
【図2】同実施形態のチューンドマスダンパーを示すもので、図(イ)は断面正面図、図(ロ)は側面図、図(ハ)は張力調整方法を示す断面正面図である。
【図3】図(イ)は階段の手摺り棒部に適用した場合の断面正面図、図(ロ)は空中廊下の手摺り棒部に適用した場合の正面図である。
【符号の説明】
【0035】
3…手摺り棒部
5…チューンドマスダンパー
6…ワイヤー
7…マス
8…筒体
8a…手摺り面
9…保持部
10a…工具係合部(操作部)
12…張力調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンションを付与されたワイヤーと、該ワイヤーの長さ方向の中間部に設けられたマスとが、筒体の内部に、ワイヤ−の延びる方向を筒体の軸線方向に向けるようにして収容されると共に、前記ワイヤーの各端部を保持する保持部が備えられ、前記マスが筒体内部でワイヤーと直交する方向に筒体内周部に当たることなく振動するようになされたチューンドマスダンパーが、前記筒体の外周部を手摺り面とするように、手摺り棒部の延びる方向の中間部に介設されるか、又は、手摺り棒部の端部に設けられていることを特徴とする手摺り棒部の制振構造。
【請求項2】
前記保持部の一方又は両方にワイヤーのテンションを調整する張力調整機構が備えられ、該テンションを調整することによりマスの固有振動数を調整することができるようになされていて、該張力調整機構の調整用操作部が前記筒体の端部に筒体の外から操作可能に備えられている請求項1に記載の手摺り棒部の制振構造。
【請求項3】
テンションを付与されたワイヤーと、該ワイヤーの長さ方向の中間部に設けられたマスと、ワイヤーの各端部を保持する保持部とを備えたチューンドマスダンパーの前記ワイヤーとマスとが、ワイヤーを手摺り棒部の延びる方向に向けるようにして手摺り棒部に内蔵され、マスがワイヤーと直交する方向に周囲に当たることなく振動するようになされていることを特徴とする手摺り棒部の制振構造。
【請求項4】
テンションを付与されたワイヤーと、該ワイヤーの長さ方向の中間部に設けられたマスとが、筒体の内部に、ワイヤの延びる方向を筒体の軸線方向に向けるようにして収容されると共に、前記ワイヤーの各端部を保持する保持部が備えられ、前記マスが筒体内部でワイヤーと直交する方向に筒体内周部に当たることなく振動するようになされていることを特徴とするチューンドマスダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−46938(P2009−46938A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216275(P2007−216275)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】