説明

投写型表示装置

【課題】応答速度が十分ではないライトバルブを用いながら、パッシブ方式の偏光メガネにより、クロストークが小さく明るい立体画像表示を観察でき、かつ2次元画像表示の明るさを確保する。
【解決手段】照明部3〜6からの照明光によりライトバルブ21〜23は右眼用及び左眼用の画像光を時分割で形成し、その画像光の偏光方向を位相差パネル32により切り替えて投写レンズ33により拡大投写する。右眼用と左眼用の各画像光の偏光方向が互いに異なることにより、立体画像を観察可能である。黒挿入用液晶パネル30及び黒挿入用液晶パネルの両側に配置される黒挿入用偏光素子29、31を含み、黒挿入用液晶パネルを制御することにより右眼用及び左眼用画像光の相互間に遮光期間を挿入可能なように構成された黒挿入部と、黒挿入用偏光素子を画像光の光路中及び光路外の位置の間で移動させる移動制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライトバルブ上に形成される画像を照明光で照射し、投写レンズによりスクリーン上に拡大投写する投写型表示装置に関し、特に、立体画像表示用の投写型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で、設置性に優れた立体画像表示装置を得るために、ライトバルブとして液晶パネルを用いた1台の投写型表示装置を、時分割で駆動する構成が知られている。時分割で駆動する場合、投写型表示装置により右眼用、左眼用の画像光を時分割で形成し、画像光の偏光方向を切り替えてパッシブ方式の偏光メガネで観察する方法、あるいは、アクティブ方式の液晶シャッターメガネで観察する方法がある。
【0003】
画像光の偏光方向を切り替えて、パッシブ方式の偏光メガネで立体画像を観察するように構成された、従来の投写型表示装置の例を図5に示す(特許文献1参照)。光源ランプ60の光から青、緑、赤の色光の画像を形成する光学系61が、色分離用のダイクロイックミラー62、63、反射ミラー64、65、66、および画像を形成する液晶パネル67r、67g、67bから構成されている。液晶パネル67r、67g、67bからの青、緑、赤の画像光は、合成プリズム68により合成され、偏光回転液晶69を経て投写レンズ70により投写される。偏光回転液晶69は、投写光の偏光方向を0°と90°の間で切換える。
【0004】
光学系61からは、青、緑、赤の各色光の右眼用画像光と左眼用画像光とが、1フィールド毎に交互に出射される。その際、緑の色光の右眼用および左眼用画像光の出射タイミングが、赤、青色光の右眼用および左眼用画像光の出射タイミングに対して、1フィールドずらされている。さらに、合成プリズム68からの投影光の偏光方向が、偏光回転液晶69により1フィールド毎に0°と90°との間で切換えられる。これにより、偏光めがねを用いて立体画像を観察することができる。
【0005】
しかしながら、1フィールドごとに右眼用画像と左眼用画像を形成し、切替えるため、右眼用画像が左眼に入射し、左眼用画像が右眼に入射するというクロストークが生じることがあった。クロストークが大きいと二重像の画像となる。このクロストークを低減するには、偏光回転制御用の液晶セルだけではなく、画像形成用の液晶ライトバルブにも同様に高速な応答性が求められる。しかし、実用的なライトバルブのTNモード液晶やVAモード液晶では、必要とされる5msec以下の高速な応答性の確保は困難であった。
【0006】
一方、液晶シャッターメガネを用いる表示装置の例が、特許文献2に開示されている。この装置では、画像形成用ライトバルブの応答速度不足を改善するために、ライトバルブを高速(例えば240Hz)で駆動し、左眼用の画像と右眼用の画像をそれぞれ2回ずつ繰り返して画像を形成させる。そして、それぞれ2回目に形成された画像の一期間のみを液晶シャッターメガネで透過させる。これにより、液晶パネルを用いた場合における液晶応答速度の不足や、シャッタ眼鏡の液晶シャッタのコントラスト不足により発生するクロストークを改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−65055号公報
【特許文献2】特開2010−239474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アクティブ方式の液晶シャッターメガネを用いる上記従来例の方法では、画像形成用液晶パネルの高速駆動と液晶シャッターメガネの開閉時間の制御によりクロストークは低減されるが、液晶シャッターメガネでの光損失が大きく、2次元画像表示の場合と比べて略8%と大幅に暗くなる。また、メガネに表示装置との間の送受信装置が必要であったり、メガネへの充電もしくは電池交換が必要であるなどの、不便な面もある。このように、パッシブ方式の偏光メガネと比較して、明るさが低下する、コストが高くなる、利便性が低いなどの問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みて、パッシブ方式の偏光メガネにより立体画像を観察する構成により、応答速度が十分ではないライトバルブを用いながらも、クロストークが非常に小さく、明るい立体画像表示が得られ、さらに、2次元画像表示の場合の明るさを十分に確保可能な投写型表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の投写型表示装置は、光源と、前記光源からの光を集光して照明光を形成する照明部と、前記照明光を受けて右眼用画像光及び左眼用画像光を時分割で形成するライトバルブと、前記右眼用及び左眼用画像光の偏光方向を切り替える位相差パネルと、前記画像光を拡大投写する投写レンズとを具備し、前記右眼用及び左眼用画像光の偏光方向を互いに異ならせて表示して、立体画像の観察を可能とするように構成される。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の投写型表示装置は、黒挿入用液晶パネル、及び前記黒挿入用液晶パネルの両側に配置される黒挿入用偏光素子を含み、前記黒挿入用液晶パネルを制御することにより前記右眼用及び左眼用画像光の相互間に遮光期間を挿入可能なように構成された黒挿入部と、少なくとも前記黒挿入用偏光素子を前記画像光の光路中及び光路外の位置の間で移動させる移動制御部とを更に備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成の投写型表示装置は、移動制御可能な偏光素子を備えた黒挿入用液晶パネル、及び位相差パネルにより、クロストークを大幅に低減した明るい立体画像表示と、明るい2次元画像表示が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1における投写型表示装置の構成を示す正面図
【図2】同投写型表示装置における黒挿入用液晶パネルと位相差パネルの配置を示す斜視図
【図3】同投写型表示装置における黒挿入用液晶パネルと位相差パネルの動作を説明するための図
【図4】本発明の実施の形態2における投写型表示装置の構成を示す正面図
【図5】従来例の投写型表示装置の構成を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の投写型表示装置は、上記構成を基本として、以下のような態様を採ることが可能である。
【0015】
すなわち、前記移動制御部は、2次元画像表示の場合には、少なくとも前記黒挿入用偏光素子を前記画像光の光路外の位置に移動させるように動作する構成とすることが好ましい。
【0016】
また、前記ライトバルブが液晶ライトバルブにより構成され、前記ライトバルブと投写レンズとの間に配置され、青、緑、赤の色光を合成する色合成部と、前記色合成部からの所定の色光の偏光方向を回転させて、前記色光の各々の偏光方向を互いに揃える波長選択性偏光回転素子とを備えた構成とすることができる。
【0017】
また、前記黒挿入用液晶パネルは、電圧制御により遮光と透過が切り替えられる液晶パネルとすることができる。
【0018】
また、前記黒挿入用偏光素子は、放熱基板に貼合した偏光フィルムとすることができる。
【0019】
また、前記黒挿入用偏光素子は、無機偏光板とすることができる。
【0020】
また、前記移動制御部は、電動で移動制御が可能である構成とすることができる。
【0021】
また、前記位相差パネルは、電圧制御により位相差が零と1/2波長とで切り替えられる液晶セルとすることができる。
【0022】
また、前記位相差パネルと前記投写レンズの間に1/4波長板が配置された構成とすることができる。
【0023】
また、前記光源は、放電ランプまたは固体光源とすることができる。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における投写型表示装置の構成を示す正面図である。この装置では、液晶ライトバルブとして、TNモードもしくはVAモードの透過型の液晶パネルを用いる。
【0026】
光源部が、放電ランプ1、反射鏡2、及び凹レンズ3により構成されている。光源部からの光を集光して照明光を形成する照明部が、第1および第2レンズアレイ板4、5、偏光変換素子6、及び集光レンズ7により構成されている。照明光を赤、青、緑の色光に分離する色分離部が、青反射のダイクロイックミラー8、緑反射のダイクロイックミラー9、反射ミラー10、11、12、及びリレーレンズ13、14により構成されている。色分離された各色光の画像光を形成するライトバルブ部が、フィールドレンズ15、16、17、入射側偏光板18、19、20、画像光形成用の液晶パネル21、22、23、及び出射側偏光板24、25、26により構成されている。
【0027】
ライトバルブ部により形成された各色の画像光を合成する色合成プリズム27は、赤反射のダイクロイックミラーと青反射のダイクロイックミラーから構成されている。合成された画像光は、波長選択性偏光回転素子28により偏光方向が揃えられる。波長選択性偏光回転素子28から出射する画像光に遮光期間を挿入する黒挿入部が、偏光板29、31、及び黒挿入用液晶パネル30により構成されている。黒挿入部から出射する画像光は、位相差パネル32により偏光方向が切り替えられて、投写レンズ33により拡大投写される。
【0028】
上記構成による動作の詳細について、以下に説明する。放電ランプ1から放射される光は反射鏡2により集光され、凹レンズ3により略平行光に変換される。略平行光に変換された光は、複数のレンズ素子から構成された第1レンズアレイ板4に入射する。第1レンズアレイ板4に入射した光束は多数の光束に分割される。分割された多数の光束は、複数のレンズから構成された第2レンズアレイ板5に収束する。第1レンズアレイ板4のレンズ素子は、液晶パネルと相似形の開口形状であり、また、第1レンズアレイ板4と液晶パネル21、22、23とが略共役関係となるようにその焦点距離が決められている。第2レンズアレイ板5から出射した光は、偏光変換素子6に入射する。偏光変換素子6は、偏光分離プリズムと1/2波長板により構成され、ランプからの自然光を一つの偏光方向の光に変換する。偏光変換素子6からの光は集光レンズ7に入射する。集光レンズ7は、第2レンズアレイ板5の各レンズ素子から出射した光を、液晶パネル21、22、23を重畳照明するように集光する。
【0029】
集光レンズ7からの光は、色分離部を構成する青反射のダイクロイックミラー8、緑反射のダイクロイックミラー9により、青、緑、赤の色光に分離される。緑の色光はフィールドレンズ15、入射側偏光板18を透過して、液晶パネル21に入射する。青の色光は反射ミラー10で反射した後、フィールドレンズ16、入射側偏光板19を透過して液晶パネル22に入射する。赤の色光はリレーレンズ13、14を透過し、屈折され、反射ミラー11、12により反射され、フィールドレンズ17、入射側偏光板20を透過して、液晶パネル23に入射する。
【0030】
3枚の液晶パネル21、22、23は、アクティブマトリックス方式の液晶パネルであって、映像信号に応じた画素への印加電圧の制御により、入射する光の偏光状態を変化させる。それぞれの液晶パネル21、22、23の両側に、透過軸を互いに直交させてそれぞれの入射側偏光板18、19、20および出射側偏光板24、25、26が配置され、それらを組み合わせた作用により光を変調する。その際、緑、青、赤の右眼用および左眼用の画像光を時分割で形成する。
【0031】
出射側偏光板24、25、26を透過した各色光は、色合成プリズム27により合成される。すなわち、赤色光が赤反射のダイクロイックミラーで、青色光が青反射のダイクロイックミラーで反射されて、透過する緑の色光と合成される。合成プリズム27の反射面に対して、緑の色光はP偏光で透過し、赤、青の色光はS偏光で反射する。緑の色光をP偏光、青、赤の色光をS偏光で用いるのは、各色光に対する分光特性が、広帯域で透過率および反射率を高くできるためである。
【0032】
波長選択性偏光回転素子28は、緑の色光の偏光方向を90度回転させ、赤、青の色光の偏光方向は回転させない。波長選択性偏光回転素子28は、位相差フィルムを積層して、特定波長帯域の偏光方向を回転させるように構成されている。これにより、緑、青、赤の色光がS偏光に揃えられる。波長選択性偏光回転素子28を出射した光は、両側に偏光板29、31が配置された黒挿入用液晶パネル30に入射する。黒挿入用液晶パネル30は、電圧制御により右眼用と左眼用のそれぞれの画像光の一定期間の光を遮光する。黒挿入用液晶パネル30を透過した光は、位相差パネル32に入射する。位相差パネル32は、電圧制御により位相差が零もしくは1/2波長に変化し、一定期間の光の偏光方向を回転させる。
【0033】
図2に、黒挿入用液晶パネル30と位相差パネル32の配置構成と偏光状態を示す。それぞれ、駆動信号供給用のフレキシブル配線基板30a、30bが装着されている様子が示されるが、他の部分との配線は図示が省略されている。色合成プリズム27からの光は、緑(G)の色光がP偏光、青、赤(R、B)の色光がS偏光である。波長選択性偏光回転素子28により、緑色光の偏光方向が90度回転され、緑、赤、青の色光がS偏光に揃えられる。偏光板29の偏光透過軸はS偏光方向である。偏光板31は偏光板29とクロスニコルとなる配置である。偏光板29、31は、サファイアや水晶などの薄板放熱基板に偏光フィルムを貼合した構成とすることができる。位相差パネル32により制御された出射光の偏光方向が、右眼用画像光についてはRで、左眼用画像光についてはLで示されている。
【0034】
偏光板29、31は保持機構34により保持され、保持機構34は、ギアモーター35で移動制御が可能であり、保持機構34とギアモーター35により構成された移動制御部により、偏光板29、31を光路外の位置に移動させることが可能である。但し、このように移動制御部を電動とすることは必須ではなく、手動で移動させるように構成してもよい。2次元画像信号が供給される場合には、ギアモーター35により、偏光板29、31を画像光の光路外に移動させるように制御する。
【0035】
偏光板29、31は放熱基板を備えているために、吸収される熱を効率よく放熱する。但し、偏光板29は入射光と偏光透過軸を一致させているため光吸収は最小となるが、偏光板31は遮光する場合があるため、光吸収が大きい。偏光板29、31、黒挿入用液晶パネル30、位相差パネル32は、それぞれ温度上昇に応じて冷却ユニット(図示せず)により冷却され、所定の温度以下に保たれる。偏光板29、31で吸収する光量が大きく、放熱基板では所定の温度以下へ温度上昇を抑制できない場合には、高コストとなるが、ワイヤーグリッド型の無機偏光板や延伸異方性金属粒子をガラス基板に混入した無機偏光板を用いてもよい。
【0036】
以上のようにして、位相差パネル32からは、一定の期間毎に、偏光方向が異なる右眼用画像光Rと左眼用画像光Lが切り替えられた光が出射される。黒挿入用液晶パネル30及び位相差パネル32は、応答速度が2ms以下の高速液晶であれば、液晶モードはSTN、TN、OCB、強誘電液晶など、いずれの液晶のモードであってもよい。図1に示すように、位相差パネル32を出射した光は投写レンズ33に入射する。投写レンズ33に入射した右眼用画像光Rと左眼用画像光Lは偏光状態を乱されることなく、偏光特性を維持するスクリーン(図示せず)上に拡大投写される。拡大投写された投写画像をパッシブ方式の偏光メガネを通すことにより、立体表示画像を観察できる。
【0037】
図3を参照して、黒挿入用液晶パネル30と位相差パネル32の、時間に対する動作を説明する。図3(a)は立体画像信号の変化、図3(b)から(d)はそれぞれ、画像形成用液晶パネル18〜20、黒挿入用液晶パネル30、及び位相差パネル32の動作の時間に対する変化を示す。図3(e)は、位相差パネル32からの出射光の相対光束と偏光方向の時間に対する変化を示す。図中、L、Rは、左眼用画像光L、右眼用画像光Rに対応することを示す。
【0038】
立体画像信号の左眼用信号Lと右眼用信号Rは、60Hzの時分割信号である。画像形成用の液晶パネル18〜20は、240Hzで画像光L、Rをそれぞれ2回ずつ繰り返し形成する。黒挿入用液晶パネル30は、2回目の画像光L、Rの期間のみ透過状態、他の期間は遮光状態に制御される。位相差パネル32は、2回目のLの期間のみ、位相差が1/2波長となるよう切り替える。このようにして、右眼用画像光、左眼用画像光の出射光は偏光方向毎に良好に分離され、クロストークが大幅に低減した光となる。
【0039】
各要素の典型的な光学特性の一例では、波長選択性偏光回転素子28の偏光回転率を92%、偏光板29、31の偏光透過率を84%、黒挿入用液晶パネル30と位相差パネル32の透過率をそれぞれ90%、時間開口率を25%、パッシブ方式の偏光メガネの偏光透過率を84%とする。この場合、波長選択性偏光回転素子28、黒挿入用液晶パネル30、及び位相差パネル32を配置して立体画像光を得る場合の光利用効率は、11%となる。
【0040】
一方、液晶シャッターメガネの場合には、入射する光が自然光となるため、偏光板や液晶セルの透過率に同様な数値を用いると、立体画像光の光利用効率は7.9%となる。したがって、図1の構成では、液晶シャッターメガネを利用する場合と比べ、光利用効率が1.4倍となる。
【0041】
また、2次元画像の場合は、偏光特性の維持が不要なため、偏光板29、31を移動制御部により光路外の領域に退避させる。この場合は、波長選択性偏光回転素子28の透過率を98%、黒挿入用液晶パネル30と位相差パネル32の透過率を90%とすると、2次元画像の場合の光利用効率は66.7%となる。これに対して、偏光板29、31を移動制御しない場合の光利用効率は44.1%であり、これと比べると、移動制御する場合は1.5倍の光利用効率が得られることになる。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、従来例の方法と比べると、光利用効率が高く、明るい立体画像と2次元画像を得ることができる。
【0043】
2次元画像表示の場合に偏光板29、31を光路外へ移動させると、図1に示す投写レンズ33のバックフォーカスが変化する。1枚の偏光板の厚みを0.7mm、屈折率を1.5とすると、像面移動量は0.47mmとなる。投写レンズ33は、その像面移動量を調整可能なように構成される。偏光板29、31が薄板のため、投写レンズ33のバックフォーカス調整量は小さい。また、偏光板29、31には液晶パネルや位相差パネルのような制御用配線が不要なため、移動機構は簡易でよい。
【0044】
位相差パネル32と投写レンズ33の間に、直線偏光を円偏光に変換する1/4波長板を配置してもよい。1/4波長板により、直交する直線偏光がそれぞれ右回り、左回りの円偏光に変換され、円偏光タイプの偏光メガネを利用すれば、画像光と偏光メガネとの偏光方向の角度ずれによるクロストークを低減できる。
【0045】
上述の説明では、位相差パネル32は、位相差が零と1/2波長とを切り替える液晶セルとしたが、位相差が1/4波長と3/4波長の間で切り替える液晶セルにより位相差パネルを構成してもよい。この場合には、周り方向が異なる円偏光に変換され、1/4波長板を追加で配置することなく、円偏光タイプの偏光メガネが利用可能となる。
【0046】
図1では、偏光板29、31のみを移動制御する構成となっているが、これに限らず、黒挿入用液晶パネル30や位相差パネル32を移動制御できる構成とすることができる。そのためには、投写レンズ33のバックフォーカスの調整のための移動量が大きい機構を投写レンズ33に付加することが望ましい。黒挿入用液晶パネル30や位相差パネル32を移動制御することにより、2次元画像表示の場合の光利用効率を23%向上させることができる。
【0047】
以上のように、波長選択性偏光回転素子、移動制御可能な偏光板を配置した黒挿入用液晶パネル、及び位相差パネルを用いることにより、利便性に優れた安価なパッシブ方式の偏光メガネを用いた観察が可能で、クロストークが大幅に低減された明るい立体画像表示、及び明るい2次元画像表示が可能となる。
【0048】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における投写型表示装置の構成を示す正面図である。この装置では、液晶ライトバルブとして、TNモードもしくはVAモードの透過型の液晶パネルを用いる。また光源としては、固体光源である発光ダイオードを用いる。本実施の形態は、光源部の構成が実施の形態1と相違することが特徴である。
【0049】
光源部は、緑、赤、青の色光をそれぞれ発光する発光ダイオード40、41、42、ヒートシンク43、44、45、コンデンサレンズ46、47、48、緑反射のダイクロイックミラー49、青透過のダイクロイックミラー50から構成されている。光源部からの光が入射する照明部の第1レンズアレイ板4以降の、投写レンズ33に至る要素の構成及び動作は、実施の形態1と同様である。従って、同一の要素については同一の参照番号を付して説明の繰り返しを省略する。光源部の構成と作用について、以下に詳述する。
【0050】
発光ダイオード40、41、42から発光する緑、赤、青の色光は、それぞれ対応するコンデンサレンズ46、47、48により集光され、略平行光に変換される。発光ダイオード40、41、42は、それぞれ発光ダイオードと密着させたヒートシンク43、44、45と空冷ユニット(図示せず)により、一定の温度以下に制御される。
【0051】
発光ダイオード40からの緑の色光は、平行光に変換された後、緑反射のダイクロイックミラー49と青透過のダイクロイックミラー50で反射される。発光ダイオード41からの赤の色光は、緑反射のダイクロイックミラー49を透過し、青透過のダイクロイックミラー50で反射される。発光ダイオード42からの青の色光は、青透過のダイクロイックミラー50を透過する。このように、発光ダイオードからの緑、赤、青の色光はダイクロイックミラー49、50で合成され、白色光となり、第1レンズアレイ板4に入射する。
【0052】
発光ダイオードは放電ランプに比べて、発光光束は少ないが、長寿命で、色再現範囲が広く、応答速度が速い。図3(c)の黒挿入用液晶パネル30の時間に対応する動作を参照すると、透過するタイミングでの4.17msの期間でのみ、スクリーン上に画像光が投写される。このタイミングに合わせて発光ダイオード40、41、42を発光させれば、黒挿入用液晶パネル30での不要な光吸収がなく、クロストークがさらに改善される。また、発光ダイオードはパルス駆動して用いるため、連続駆動よりも発光光束が大きく、発光ダイオードのジャンクション温度が下がり、長寿命が可能となる。なお、固体光源として用いるのは発光ダイオードに限らず、レーザー光源や、レーザー光で励起させて蛍光発光する光源を用いても同様な効果を得ることができる。
【0053】
本実施の形態のように、応答速度の速い固体光源、波長選択性偏光回転素子、移動制御可能な偏光板を配置した黒挿入用液晶パネル、及び位相差パネルを用いることにより、クロストークを大幅に低減し、色再現範囲が広く、明るい立体画像を得ることができる。
【0054】
以上のとおり、実施の形態1,2の投写型表示装置は、光源からの自然光を効率よく直線偏光の光に変換し、均一に液晶パネルへ照明して、緑、赤、青の3枚の液晶パネルを用いて各色光の画像を形成する構成である。そのため、明るく、均一で、高精細の投写画像を得ることができる。また、1本の投写レンズで構成した1台の投写型表示装置により立体画像を表示するため、設置調整が不要で安定した投写画像を表示できる。
【0055】
上述の実施の形態1,2では、液晶ライトバルブとして透過型の液晶パネルを用いたが、反射型の液晶パネルを用いて構成してもよい。反射型の液晶パネルを用いることにより、高精細な投写型表示装置を構成できる。また、ライトバルブとして、ミラー偏向型ライトバルブであるデジタル・マイクロミラー・デバイス(DMD)を1枚もしくは3枚用いることもできる。DMDを用いる場合には、波長選択性偏光回転素子は不要となり、液晶ライトバルブよりも応答速度が速いため、黒挿入用液晶パネルの透過状態である時間開口率を高く設定でき、明るく、小型で高信頼性の投写型表示装置を構成できる。
【0056】
以上のように、本発明の投写型表示装置は、移動制御可能な偏光素子を備えた黒挿入用液晶パネルと位相差パネルにより、クロストークを大幅に低減した明るい立体画像表示が可能であるとともに、明るい2次元画像表示が可能である。また、パッシブ方式の偏光メガネを用いるため、安価で利便性の高い投写型の立体表示装置を構成できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の投写型表示装置は、クロストークが非常に小さく、明るい立体画像表示が得られ、応答速度が十分ではない液晶ライトバルブを用いた投写型の立体表示装置として有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 ランプ
2 反射鏡
3 凹レンズ
4 第1レンズアレイ板
5 第2レンズアレイ板
6 偏光変換素子
7 集光レンズ
8 青反射のダイクロイックミラー
9、49 緑反射のダイクロイックミラー
10、11、12 反射ミラー
13、14 リレーレンズ
15、16、17 フィールドレンズ
18、19、20 入射側偏光板
21、22、23 画像形成用の液晶パネル
24、25、26 出射側偏光板
27 色合成プリズム
28 波長選択性偏光回転素子
29、31 偏光板
30 黒挿入用液晶パネル
32 位相差パネル
33 投写レンズ
34 保持機構
35 ギアモーター
40、41、42 発光ダイオード
43、44、45 ヒートシンク
46、47、48 コンデンサレンズ
50 青透過のダイクロイックミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を集光して照明光を形成する照明部と、
前記照明光を受けて右眼用画像光及び左眼用画像光を時分割で形成するライトバルブと、
前記右眼用及び左眼用画像光の偏光方向を切り替える位相差パネルと、
前記画像光を拡大投写する投写レンズとを具備し、
前記右眼用及び左眼用画像光の偏光方向を互いに異ならせて表示して立体画像の観察を可能とするように構成された投写型表示装置であって、
黒挿入用液晶パネル、及び前記黒挿入用液晶パネルの両側に配置される黒挿入用偏光素子を含み、前記黒挿入用液晶パネルを制御することにより前記右眼用及び左眼用画像光の相互間に遮光期間を挿入可能なように構成された黒挿入部と、
少なくとも前記黒挿入用偏光素子を前記画像光の光路中及び光路外の位置の間で移動させる移動制御部とを更に備えたことを特徴とする投写型表示装置。
【請求項2】
前記移動制御部は、2次元画像表示の場合には、少なくとも前記黒挿入用偏光素子を前記画像光の光路外の位置に移動させるように動作する請求項1記載の投写型表示装置。
【請求項3】
前記ライトバルブが液晶ライトバルブにより構成され、
前記ライトバルブと投写レンズとの間に配置され、青、緑、赤の色光を合成する色合成部と、
前記色合成部からの所定の色光の偏光方向を回転させて、前記色光の各々の偏光方向を互いに揃える波長選択性偏光回転素子とを備えた請求項1記載の投写型表示装置。
【請求項4】
前記黒挿入用液晶パネルが、電圧制御により遮光と透過が切り替えられる液晶パネルである請求項1記載の投写型表示装置。
【請求項5】
前記黒挿入用偏光素子が、放熱基板に貼合した偏光フィルムである請求項1記載の投写型表示装置。
【請求項6】
前記黒挿入用偏光素子が、無機偏光板である請求項1記載の投写型表示装置。
【請求項7】
前記移動制御部は、電動で移動制御が可能である請求項2記載の投写型表示装置。
【請求項8】
前記位相差パネルは、電圧制御により位相差が零と1/2波長とで切り替えられる液晶セルである請求項1記載の投写型表示装置。
【請求項9】
前記位相差パネルと前記投写レンズの間に1/4波長板が配置された請求項1記載の投写型表示装置。
【請求項10】
前記光源は、放電ランプまたは固体光源である請求項1記載の投写型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−163944(P2012−163944A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237558(P2011−237558)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】