説明

抗アレルギー性の海洋性バイオポリマー

本発明は、アレルギー状態または疾患の予防的または治療的処置における医薬としての使用のための、活性成分としてのカラゲナンに基づく医薬組成物に関し、ただしこのカラゲナンはι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンを含み、かつλ−カラゲナンを実質的に含まない。典型的には、本発明は、ι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンと、任意に、1以上の非カラゲナン治療薬とを含む、気道、消化管または眼への投与のための液体処方物、ゲルおよび乾燥粉末組成物に関する。本発明の組成物は、I型アレルギーの予防および治療において有効であることが見いだされ、さらには、非カラゲナン治療薬との併用粘膜投与の際の佐剤機能をもたらす可能性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生理学および免疫学の分野にあり、アレルギーの予防的または治療的処置のためのカラゲナンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
構造的には、カラゲナンは、繰り返すガラクトース関連モノマー単位からできている多糖の複雑な一群である。現在、3つの主要な種類のカラゲナン、つまりλ(ラムダ)、κ(カッパ)、およびι(イオタ)カラゲナンが区別される。λ体は室温で強くはゲル化せず、それゆえ、例えば炎症反応を誘導するために注射による投与が可能である。カラゲナンによって誘導される炎症はよく研究されており、高い再現性がある。炎症の基本徴候、すなわち浮腫、痛覚過敏、および紅斑はλ−カラゲナンの皮下注射後直ちに発生し、典型的には、ブラジキニン、ヒスタミン、タキキニン類、反応性の酸素および窒素種(これらは、損傷の部位でそのままでもしくは浸潤細胞により発生する)を含めた炎症誘発剤の作用から生じる。
【0003】
この炎症反応は、通常、ラット肢の大きさ(浮腫の大きさ)の増加を測定することによりラット肢炎症モデル(rat paw inflammation model)で定量化される。このラット肢の大きさ(浮腫の大きさ)は、λ−カラゲナンまたは別の抗原などの起炎物質の注射後約5時間で最大に到達し、その炎症カスケード内での特定の分子の阻害剤によって調節される。炎症の強度を測定するためのこのモデルは、可能性のある抗炎症剤の評価における1000を超える科学出版物において信頼されてきた。
【0004】
アレルギーは、西半球で発生率が増加しており、その人口の約20%が現在冒されている。アレルギーはI型、III型、またはIV型過敏症を含めたいくつかの種類の望まれない免疫反応を指すことができる。I型およびIII型アレルギーでは、白血球のサブセットである顆粒球がその病変形成に関与するのに対して、I型VアレルギーではT細胞がこれらの疾患の主原因である。マスト細胞および好塩基球は、I型アレルギー、すなわちFc[epsilon]RIを介するIgE媒介性アレルギーにとっての細胞学的根拠である。
【0005】
すべての種類のアレルギーは、せいぜい鼻水の垂れている鼻から重篤な慢性疾患まで、および生命を危うくするアナフィラキシー性ショックまたは敗血症性ショックにさえ及ぶ症状を生じる可能性がある。
【0006】
I型アレルギーは、一般に、コルチコステロイド剤(例えばコルチゾール)、抗ヒスタミン薬、エピネフリン、テオフィリンまたはマスト細胞安定薬によって処置される。これらの化合物はアレルギーメディエーターの作用をブロックし、細胞および脱顆粒プロセスの活性化を阻む。これらの薬物は、急性アレルギーの症状を軽減するのに役立つが、慢性のアレルギー性障害の治療においてはあまり役割を果たさない。上述の薬物のすべてには、とりわけ長期の使用後にはかなり大きい副作用が伴う。
【0007】
アレルギー性鼻炎は、鼻内粘膜の免疫障害および炎症反応である。それは過敏症の状態を表し、身体が花粉または粉塵などの粘膜から取り込まれた物質に反応して過剰に反応するときに起こる。
【0008】
気道上皮は、通常は、健全な粘液層の存在によって脱水からおよび吸入された感染性または有毒な薬剤から保護されている。粘液はまた、吸入された粒子が肺の敏感な肺胞に到達することを防ぐ上で、機械的なバリアまたはフィルター系として非常に重要な役割を果たす。
【0009】
気道粘液はタンパク質、酵素、脂質、ならびに水および電解質から構成されるゾル相の複雑な混合物である。粘液の約95%は水であり、この水は、大きい、すなわち高分子量の糖タンパク質であるムチンを含有する粘弾性ゲルの中に結合されている。粘液の低い表面張力の結果として、鼻を通して吸い込まれた粒子および感染病原体は直ちに粘液によって吸収されて捕捉された状態になる。
【0010】
アレルギー性鼻炎および喘息、ならびに吸入されたアレルゲンに関連する他の状態を患う患者は、粘液の量の減少または異常な特性を備える粘液を有することが多い。この粘液層が損傷を受けるか、遮られるか、または生成が乏しくて、それゆえその吸着能力が著しく損なわれると、アレルゲン性の粒子は漏れのあるバリアを通過して鼻腔のマスト細胞に到達する可能性があり、このマスト細胞でアレルゲン性の粒子はアレルギー反応を引き起こし始める。
【0011】
鼻内粘液は、重力によっておよび粘液線毛クリアランスによって絶えず鼻道から取り除かれており、この除去は、吸入されたアレルゲンおよび感染病原体に対する、繊毛のある鼻内上皮の防御の重要な要素である。アレルギー性鼻炎を患う患者は、しばしば、異常に遅いまたは長期の粘液線毛クリアランスを有し、これはアレルゲンに対する感度の上昇に寄与する可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、λ−カラゲナンではなくてι−カラゲナンおよびκ−カラゲナンが、マスト細胞の炎症反応を阻害するために、従ってI型アレルギーの予防および処置のための療法を提供するために使用することができるということが本発明において見出された。
【0013】
また、鼻道の中の湿度を制御するのに役立つ可能性があるこのようなカラゲナンを含む組成物を投与することにより、粘液線毛クリアランスが正常化されうる、すなわち正常なクリアランス速度へと調整されうるということが見出された。
【0014】
本発明の典型的な実施形態では、ι−カラゲナンは抗アレルギー性医薬組成物の中の治療上活性な薬剤として存在し、粘膜投与の際に、例えば気道、消化管、または眼などの局所的な効果をもたらす。しかしながら、このι−カラゲナンが粘膜経路を介して血流に到達する場合は、さらなる全身性効果が起こる可能性がある。
【0015】
本発明によれば、この活性な抗アレルギー性成分のι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンは、様々な粘度の溶液、泡沫、ゲル、クリーム、ドロップ、薬用キャンディー、錠剤、カプセル、チューインガム、および粉末を含む、レシピエントへの粘膜投与に適したいずれの医薬組成物へと処方されてもよい。
【0016】
本願明細書で言及される抗アレルギー性医薬組成物は、ι−カラゲナンおよびκ−カラゲナンのいずれかまたはその両方を含んでもよいが、λ−カラゲナンは実質的に含まない。これに関して、「実質的に含まない」は、λ−カラゲナンの濃度は市販のι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンの通常の不純物によってもたらされる程度の低さであるということを意味する。典型的には、λ−カラゲナン不純物の量は、本発明の組成物の中のι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンの総量に対して5重量%を超えず、通常は2重量%でさえも超えない。λ−カラゲナンが明示的に本発明の医薬組成物から放棄されているところでは、当該組成物は、本願明細書中でこれまでに明記されたとおり、「実質的な」量のλ−カラゲナンを含まないと理解されたい。
【0017】
本願明細書中で言及される本発明の医薬組成物は医師による処方箋があろうがなかろうが利用可能であってよく、英国医薬品庁(Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency)からの販売承認を必要とする組成物を包含してもよい。
【0018】
本発明は以下の図面および実施例によってさらに例証されるが、それらに限定されるわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】IgE−抗原で刺激されたマスト細胞からのTNF−α産生の阻害の図表を表す。Y軸はTNF−αの濃度(pg/ml単位)を示す。1=刺激されていないもの、2=IgE/抗原で刺激されたもの、3=λ−カラゲーンで前処置されたもの、4=κ−カラゲナンで前処置されたもの、5=ι−カラゲナンで前処置されたもの。
【図2】IgE/抗原で刺激されたマスト細胞からのTNF−α産生の用量依存的阻害についての図表を表す。Y軸はTNF−αの濃度(pg/ml単位)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のカラゲナンに基づく医薬組成物は、適切な担体、およびさらなる活性成分または非活性成分を含んでもよい。ι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンが単独の活性成分である場合には、それらは局所投与、例えば粘膜投与に際して抗アレルギー性効果をもたらすために有効な濃度で当該組成物の中に含有される。典型的には、液体の、ゲル様の、固体のまたは粉末の組成物の中のカラゲナンの濃度は0.05〜5重量%の範囲であってよく、0.1〜2重量%の濃度が好ましい。
【0021】
1つの実施形態では、当該医薬組成物は1以上の非カラゲナン活性成分を含んでもよく、鼻腔内投与に際してこのような成分の徐放性をもたらすように調整されてもよい。例えば、このような非カラゲナン活性成分は、鼻腔内投与から30分間、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間または12時間の期間にわたって放出されてもよい。
【0022】
このような活性成分は、薬学的に活性な薬物からよりはむしろ、薬草から製した薬剤またはホメオパシー薬剤の群から選択されることが好ましい場合がある。薬草から製した治療薬またはホメオパシー治療薬は、通常、治療効果を生じさせるのに必要とされる濃度で毒性をまったく呈しないかまたはせいぜい最小の毒性しか呈しない。
【0023】
これに関して、用語「ホメオパシー」および「薬草から製した」は、天然植物またはミネラル源から誘導された産物を指すものとする。
【0024】
例えば、セイヨウトチノキの木(Aesculus hippocastanum)由来の主要な活性成分であるエスチンは、慢性静脈不全(CVI)、痔および術後浮腫の処置において臨床的に著しい活性を有することが示された。50mgの錠剤が志願者に投与された研究では、1mlあたり16〜18ngのエスチンのピークレベルが血漿中で検出された。驚くべきことに、ι−カラゲーンと組み合わせたエスチン(0.5%の、生理食塩水未満の(hypophysiological)NaCl溶液中の0.09重量% エスチン、0.12重量% ι−カラゲナン)の鼻腔内投与を介して、ウサギ動物モデルにおいて同様またはさらに高い血漿レベルに到達できる(データは示さず)ということが本発明において見出された。このように、経口摂取の際に人体において非常に低いバイオアベイラビリティーしか有しない所望のホメオパシー化合物または他の低毒性もしくは無毒な化合物の粘液投与、例えば鼻腔内投与は、何らかの種類の佐剤としてのι−カラゲナンと組み合わせてこのような化合物を投与することにより、実質的に改善される可能性がある。
【0025】
本発明の組成物の中に存在してもよい非カラゲナン活性成分は、以下の特性の1以上を有するホメオパシー治療薬または薬草から製した治療薬からなる群から選択されてもよい:抗菌性および/もしくは抗真菌性、抗ウイルス性、抗生物性、抗炎症性、抗不眠症性、認知促進性、または心臓血管機能に影響を及ぼす特性、例えば強心性、抗不整脈(antidysrythmic)性もしくは抗狭心症性、血管収縮性もしくは血管拡張性または抗高血圧性。
【0026】
具体例は、アスピリン;セイヨウオトギリソウ;セスキテルペン類、吉草酸、イリドイド類、バレポトリアート類、アルカロイド、フラノフランリグナン、アミノ酸、[γ]−アミノ酪酸、チロシン、アルギニン、グルタミンまたはこれらのいずれかの組み合わせを含む可能性があるカノコソウエキス;フラボノイド、ギンコライド類およびビロバライド類またはこれらのいずれかの組み合わせを含む可能性があるイチョウエキス;ビタミンA、EまたはC;ニンニク、ライム、1以上のプロバイオティクス、ショウガ、エラグ酸、エキナセア、スウェディッシュ・フラワーポーレン(Swedish flower pollen)、クログルミの殻、レモングラス、ヨモギ、グレープフルーツ種子エキス、ブロッコリー、消化酵素、ヒアルロン酸、アストラガルス(astralgus)、ローズヒップ、竜胆、オトギリソウ属、セイヨウトチノキ、朝鮮人参、緑茶、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、柑橘類、ピクノジェノール(登録商標)、カフェイン、クェルセチン、補酵素Q、ヤロウイア属、茶の木、ノニジュース(ヤエヤマアオキ、Morinda citrifolia)、リパーゼ、フラクトオリゴ糖、イヌリン、ブラッククミン(ニゲラ・サティヴァ(Nigella sativa))またはアリシンからなる群から選択されてもよい。
【0027】
本発明に係る組成物はこれらの非カラゲナン成分のうちの1以上を含んでもよいが、ただし、それは保存および使用の条件下で選択された成分が互いに適合性である場合に限る。
【0028】
本発明に係る組成物は、以下のものをさらに含んでもよい:二クロム酸カリウム;ガムまたはデンプンなどの増粘剤;デンプングリコール酸ナトリウムまたは架橋ポビドンなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの離型剤;乳化剤;界面活性剤;薬学的に許容できる賦形剤;アンチケーキング剤(固化防止剤);造粒剤;防腐剤;所望される可能性がある着色料、またはこれらのいずれかの組み合わせ。
【0029】
当該組成物が粉末の形態にある場合は、その粉末組成物は、鼻腔内組成物において頻繁に使用されるが刺激作用を引き起こすかまたは線毛運動に影響を及ぼす可能性がある成分、例えば、プロピレングリコールのような溶媒、シクロデキストリン類またはグリコシドのような吸収促進薬、またはキトサンなどの粘膜接着因子(mucoadhesive)を含まないことが好ましい。
【0030】
本発明に係る組成物は、メントール、ミント、スペアミント、ペパーミント、ユーカリ、ラベンダー、柑橘類、レモン、ライム、またはこれらのいずれかの組み合わせなどの香味物質の添加剤をさらに含んでもよい。
【0031】
経口投与可能または鼻内投与可能な医薬組成物の中に香料を含めると、通常、レシピエントに心地よい感覚のフィードバックを与え、これはしばしば患者の投与時期の記憶を改善し、従って投与計画に関するその患者の服薬順守を改善することができる。より特定すれば、ミント、メントールなどを含む組成物は、香料を含まない本発明の組成物よりも、アレルギー性鼻炎および喘息を処置する際にはより有効であるようである。
【0032】
ミントを含む本発明に係る調剤はまた、より容易かつ滑らかな呼吸を促すという、気道に対する有利な効果を有するようであり、これは喘息を患う患者に関して特に有益である。また、神経質な患者は不規則なパターンで呼吸する傾向がある。ミントなどの香料を含むカラゲナン調剤の投与は心地よい感覚を提供することができ、これは、正常な呼吸パターンを回復することに寄与する可能性がある。
【0033】
別の実施形態では、本発明は、カラゲナン、矯味矯臭剤および非カラゲナン活性成分の併用に関する。カラゲナン、矯味矯臭剤および非カラゲナン活性成分は、1つの調剤の中に一緒に含まれてもよいし、あるいは、各々逐次的な投与のための個別の調剤として提供されてもよい。投与が逐次的である場合は、カラゲナンおよび/または矯味矯臭剤は、この非カラゲナン活性成分の前もしくは後に個別にまたは一緒に、あるいは非カラゲナン活性成分の前および後に投与されてもよい。同様に、この非カラゲナン活性成分は、カラゲナンおよび矯味矯臭剤の併用投与または個別投与の前もしくは後、またはカラゲナンおよび矯味矯臭剤の併用投与または個別投与の前および後の両方で投与されてもよい。
【実施例】
【0034】
実施例1:IgE/抗原で刺激されたマスト細胞からのTNF−α産生の阻害
TNF−αは、感染症、および自己免疫性疾患の際に観察されるもののような炎症プロセスにおいて中心となるメディエーターである。それは、損傷の過程において、白血球細胞、マスト細胞、内皮およびいくつかの他の組織によって放出される。IgE/抗原複合体で刺激されたマウスのマスト細胞を使用する細胞ベースのアッセイは、λ−カラゲナンではなくι−カラゲナンおよびκ−カラゲナンの両方がTNF−α放出を阻害するということを実証した(図1)。
【0035】
CFTL12マスト細胞を、200μg/mlの濃度でι−カラゲナンまたはκ−カラゲナンとともにインキュベーションした。60分後、この細胞をIgE/抗原複合体で刺激した。細胞を37℃で6時間インキュベーションし、この上清中のTNF−αを市販のマウスTNF−α ELISA(ベンダー・メド・システムズ(Bender−Med−Systems))によって測定した。エラーバーは4つの独立のウェルの間の標準偏差を示す。
1=刺激されていないもの;2=IgE/抗原刺激;3=λ−カラゲナン前処置+後のIgE/抗原刺激;4=κ−カラゲナン前処置+後のIgE/抗原刺激、5=ι−カラゲナン前処置+後のIgE/抗原刺激。Y軸はTNF−αの濃度(pg/ml単位)を映す。
【0036】
実施例2:IgE/抗原で刺激されたマスト細胞からのTNF−α産生の用量依存的阻害
マスト細胞を、様々な濃度でι−カラゲナンとインキュベーションした。60分後、この細胞を、IgE/抗原複合体で刺激した。細胞を37℃で6時間インキュベーションし、この上清中のTNF−αを市販のマウスTNF−α ELISA(ベンダー・メド・システムズ(Bender−Med−Systems))によって測定した。結果を図2に示す。エラーバーは4つの独立のウェルの間の標準偏差を示す。1=刺激されていないもの;2=IgE/抗原で刺激されたもの、3=ι−カラゲナン 200μg/ml、4=ι−カラゲナン 66μg/ml、5=ι−カラゲナン 6.6μg/ml、6=ι−カラゲナン 0.6μg/ml。Y軸はTNF−αの濃度(pg/ml単位)を表す。
【0037】
実施例3:アレルギー症状の改善のためのカラゲナン点鼻薬の使用
アレルギー性鼻炎およびいくつかの種類の植物の花粉に対するアレルギーの強い症状を伴うI型アレルギーの判明している病歴をもつ29歳の患者に以下の治療計画を受けさせた:0.12% ι−カラゲナンを含有する点鼻薬を毎日晩に投与し、花粉の季節の間はこの投薬量を増加させた。この患者は、この点鼻薬を使用するときくしゃみの頻度が大きく減少すると報告し、妨げられない睡眠が再び可能となった。加えて、この患者は鼻内粘膜の炎症の減少を報告した。この患者はさらに、それまでの花粉の季節とは極めて対照的に付加的な薬物、とりわけ鼻腔内鬱血除去薬、抗ヒスタミン薬およびコルチコステロイド剤は、もはや必要ではないと報告した。
【0038】
実施例4:抗アレルギー性予防効果
風邪感染に対する予防をもたらすことを意図して、26歳の志願者に0.12% ι−カラゲナンを含有する点鼻薬を使用することを依頼した。投薬手順を遵守して、この志願者は数ヶ月間、毎日少なくとも2回スプレーした。この志願者は、重篤な風邪感染の病歴およびいくつかの種類の植物の花粉に値するアレルギー反応の病歴を有していた。驚くべきことに、かなり厳しい花粉の季節にもかかわらず、自分は予想とは逆にアレルギー性鼻炎(季節性鼻アレルギー)の症状をまったく患っていない、とこの志願者は報告した。しかしながら、この志願者は、点鼻薬を使用していない身体の他の部分ではアレルギー反応の症状を報告した。これらの症状には、眼のかゆみおよび皮膚の発赤が含まれていた。従ってこれらの観察から、例えば点鼻薬として本発明に係るι−カラゲナン組成物の繰り返された局所的な投与、すなわち粘膜投与はアレルギー性鼻炎(季節性鼻アレルギー)に罹るリスクにある個体に予防的および/または治療的保護をもたらす可能性があるということを推測することができる。植物の花粉は主に春の季節の間放出されるため、従って罹患した個体は、本発明の点鼻薬を予防的に投与することを適時に開始することにより、季節性鼻アレルギーの症状を緩和することができる可能性があり、または恐らくは季節性鼻アレルギーの急激な発生を完全に防ぐことができる可能性がある。
【0039】
実施例5:非カラゲナン生理活性化合物の粘膜送達
生理食塩水未満(すなわち0.5%)のリン酸緩衝化された食塩水中の0.12重量%のι−カラゲナンを含む溶液に0.09重量%のエスチンを補った。この溶液の300μl(270μg エスチンを含有する)をニュージーランド白ウサギの1つの前鼻孔の中へと1日4回、5日間移した。最後の付与の後、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、および12時間の時間点で、この動物から血漿を採取した。エスチンの血漿中濃度は6時間でピークを迎え、最高約90ng/mlの最大濃度に到達した。この濃度は、ヒトにおいて、経口投与後に得られる濃度と比べて著しく高い。50mg エスチンで1日2回繰り返して処置したヒト患者におけるエスチンの血漿レベルは20ng/ml未満(10ng/ml 平均レベル、16〜18ng/ml 最大濃度)であった。これらの結果は、カラゲナンはエスチンなどの所望の非カラゲナン活性物質との併用粘膜投与の際に佐剤機能をもたらす可能性があるということを示す。従ってカラゲナンは、経口投与の際にわずかしか生物が利用可能ではない生理活性化合物のバイオアベイラビリティーを改善するために、粘膜投与に適した医薬組成物の製造において使用される可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルギー状態または疾患の予防的または治療的処置における医薬としての使用のためのカラゲナンであって、ただし前記カラゲナンはι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンを含み、かつλ−カラゲナンを実質的に含まない、医薬としての使用のためのカラゲナン。
【請求項2】
前記疾患または状態はアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー、またはアレルギー性喘息である、請求項1に記載の医薬としての使用のためのカラゲナン。
【請求項3】
粘液の損なわれた吸着能力の回復または補強における医薬としての使用のためのカラゲナンであって、ただし前記カラゲナンはι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンを含み、かつλ−カラゲナンを実質的に含まない、医薬としての使用のためのカラゲナン。
【請求項4】
前記粘液は、気道、消化管、および眼のうちの少なくとも1つにある、請求項3に記載の医薬としての使用のためのカラゲナン。
【請求項5】
アレルギー状態または疾患の予防的または治療的処置のための医薬組成物の製造における使用のためのカラゲナンであって、ただし前記カラゲナンはι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンを含み、かつλ−カラゲナンを実質的に含まない、カラゲナン。
【請求項6】
前記アレルギー状態または疾患はアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー、またはアレルギー性喘息である、請求項5に記載のカラゲナン。
【請求項7】
粘液の損なわれた吸着能力の改善または回復のための医薬組成物の製造における使用のためのカラゲナンであって、ただし前記カラゲナンはι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンを含み、かつλ−カラゲナンを実質的に含まない、カラゲナン。
【請求項8】
前記粘液は気道、消化管、および眼のうちの少なくとも1つにある、請求項7に記載のカラゲナン。
【請求項9】
レシピエントの粘膜表面に抗アレルギー性有効量のカラゲナンを含む医薬組成物を投与する工程を含む、アレルギー状態または疾患の予防的または治療的処置方法であって、ただし前記カラゲナンはι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンを含み、かつλ−カラゲナンを実質的に含まない、方法。
【請求項10】
前記投与は、20cP(0.02パスカル秒)以下、好ましくは1〜10cP(0.001〜0.01パスカル秒)の予め選択された粘度の溶液として、または泡沫、ゲル、クリーム、ドロップ、薬用キャンディー、錠剤、カプセル剤、チューインガム、または乾燥粉末としての前記組成物を前記粘膜へと、特に気道、消化管および眼のうちの少なくとも1つの粘膜へと、所望のまたは所定の期間にわたって1日に少なくとも1回投与することによって行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
抗アレルギー性有効量のカラゲナンを含む抗アレルギー性医薬組成物であって、ただし前記カラゲナンはι−カラゲナンおよび/またはκ−カラゲナンを含み、かつλ−カラゲナンを実質的に含まない、抗アレルギー性医薬組成物。
【請求項12】
0.05〜5重量%、通常0.1〜2重量%の、ι−カラゲナンもしくはκ−カラゲナンまたはその両方の混合物を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
非カラゲナン生理活性成分をさらに含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記成分は、天然植物またはミネラル源から誘導された薬草から製した薬剤またはホメオパシー薬剤の群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
好ましくはメントール、ミント、スペアミント、ペパーミント、ユーカリ、ラベンダー、柑橘類、レモン、ライム、またはこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される香料をさらに含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
二クロム酸カリウム、ガムまたはデンプンなどの増粘剤、デンプングリコール酸ナトリウムまたは架橋ポビドンなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの離型剤、乳化剤、界面活性剤、薬学的に許容できる賦形剤もしくは担体、アンチケーキング剤、造粒剤、防腐剤、着色料からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項17】
点鼻薬として適合された、請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−531382(P2012−531382A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515225(P2011−515225)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004696
【国際公開番号】WO2010/000437
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(510311492)マリノメド バイオテクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】