説明

抗ウイルス剤

【課題】本発明は、ウイルス感染のリスクを低減できる、より詳しくは、抗ウイルス剤中の有害な重金属類が5ppm以下であり、安全に使用が可能な抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】粒子径が1nm〜60nmのシリカ含有微粒子、アルミナ含有微粒子のうちの1種もしくは2種を有効成分として含む抗ウイルス剤、ならびに、前記微粒子がコロイド溶液を形成している前記抗ウイルス剤、さらに、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム等の殺菌成分を含む抗ウイルス剤の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスの感染リスクを低減する抗ウイルス剤に関する。より詳しくは、医薬品、化粧品、食品をはじめとする生物、特にヒトの身体の皮膚、粘膜等に直接触れる用途において安全が可能な無機物粒子を含有する抗ウイルス剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイルス性感染症に対してはワクチン接種による予防やタミフル等の医薬品による病状進行の抑制や治療の方法があるが、いずれも医療行為をともなうため、一般の生活環境では応用できないという不具合が存在した。さらにワクチンではウイルスへの適合性が合致しないと効果が得られず、タミフル等の医薬品では感染後一定の期間内に服用しないと十分な効果が得られないという問題があった。
【0003】
一方、感染予防の観点から飲食店や病院、さらには一般家庭の台所や洗面台等でアルコールや逆性石鹸などの消毒、殺菌剤が多用されている。特にインフルエンザやノロウイルスの流行にともない、チオセミカルバジドやピロリン酸誘導体等の有機系殺ウイルス剤も使用される場面が増えているが、これらの有機系の消毒、殺菌、殺ウイルス剤は引火の危険性、並びに誤飲や洗浄不足による人体への副作用が懸念され、一般に安心して使用できる製剤とは言えなかった。
【0004】
特許文献1、特許文献2ではリン酸カルシウム系化合物や生物活性ガラスと呼ばれるナトリウム・カルシウム・ホスホ・シリケートガラスを配合した組成物が検討され、その無機物類の組成比によって抗菌作用を示すことが開示されている。
【0005】
また特許文献3では抗ウイルス性金属成分からなる抗ウイルス剤が検討され、無機酸化物微粒子の添加により抗ウイルス性金属成分を安定化し、持続的な抗ウイルス作用が示されることが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−199403号公報
【特許文献2】特表2004−500404号公報
【特許文献3】特開2003−221304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の特許文献1、特許文献2で開示されたリン酸カルシウム系化合物やナトリウム・カルシウム・ホスホ・シリケートガラスを配合した組成物は、抗菌作用については示されているものの抗ウイルス作用については実証データが示されておらず、実際には不十分であった。また、これらの組成物はナトリウム、カルシウム、リン、といった元素が必須であり、その活性の発現に一定の配合比に調整する必要があり、製造に手間およびコストを要するものであった。
【0008】
一方、特許文献3で開示された抗ウイルス性金属成分を含有した無機酸化物微粒子からなる組成物は、必須の有効成分である抗ウイルス性金属成分が重金属やその酸化物といった毒性物質である。よって、安全性の面での問題を有し、医薬品、食品、化粧品等の身体に直接触れる用途での利用は到底困難であった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、医薬品、化粧品、食品の分野への応用が可能な、効果的かつ安全な抗ウイルス剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、高い安全性を有する無機物粒子の抗ウイルス作用について鋭意研究を進めた結果、粒子径が1nm〜60nmの範囲であるシリカ含有微粒子やアルミナ含有微粒子が極めて効果的にウイルス感染を抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、粒子径が1nm〜60nmのシリカ含有微粒子およびアルミナ含有微粒子のうちの1種もしくは2種以上を含有する化粧品、食品又は医薬品用抗ウイルス剤を提供するものである。ここで、前記微粒子がコロイド溶液を形成していることが好ましい。また、前記微粒子に加えて、1種または2種以上の殺菌成分、例えば、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、および塩化セチルピリジニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の殺菌成分を含有していることが好ましい。
【0012】
本発明の抗ウイルス剤を用いることでウイルス感染を極めて効果的に抑制できると共に、本抗ウイルス剤は優れた安全性を有し、医薬品、化粧品、食品の各分野に対し応用が可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ごく少量の添加量でもウイルス感染を効果的に抑制することができる抗ウイルス剤が提供される。本発明の抗ウイルス剤は安全性が高いため、医薬品、化粧品、食品の各分野において広く利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
本発明の抗ウイルス剤は、粒子径が1nm〜60nmのシリカ含有微粒子および/またはアルミナ含有微粒子を有効成分として含むことを特徴とする。
【0016】
一般に、ウイルスは他の生物の細胞を利用して自己を複製させることのできる微小な構造体で、タンパク質の殻とその内部に詰め込まれた核酸からなる。本発明は前記ウイルスの細胞への感染、自己複製、そしてその結果としての細胞障害を抑制する効果を有する抗ウイルス剤に関する。
【0017】
本発明の抗ウイルス剤に含まれるシリカ含有微粒子やアルミナ含有微粒子の抗ウイルス活性は、感染性ウイルスの一種であるインフルエンザウイルスH1N1型やH3N2型を用いた感染系で、その50%阻害濃度(IC50)が数百ppb〜数百ppmと極めて低濃度であることを特徴とする。本発明に含有されるシリカ含有微粒子やアルミナ含有微粒子がいかなる作用機序で抗ウイルス活性を示すかは明確ではないが、本発明の抗ウイルス剤は極めて高度なウイルス感染抑制効果を有する。
【0018】
前記インフルエンザウイルスH1N1型やH3N2型を用いた感染系とは、後述の実施例1において示すように、所定濃度のインフルエンザウイルスと犬腎臓由来のMDCK細胞とを37℃で30分接触させ、2〜3日培養後に得られるプラーク(ウイルス感染によって細胞がはがれ落ちた穴)の数をもって感染細胞数を調べる系のことを指す。前記のシリカ含有微粒子やアルミナ含有微粒子は、この感染系において数百ppb〜数百ppmと極めて低濃度のIC50を示した。
【0019】
本発明の抗ウイルス剤は、粒子径が1nm〜60nmのシリカ含有微粒子および/またはアルミナ含有微粒子を有効成分として含むことを特徴とする。すなわち、上記粒子径のシリカ含有微粒子およびアルミナ含有微粒子のうちのいずれか、或いは両方を有効成分とする。中でも、シリカ含有微粒子とアルミナ含有微粒子の組み合わせを含むことが好ましく、特にシリカ含有微粒子を含むことが好ましい。
【0020】
本発明の抗ウイルス剤に含まれるシリカ含有微粒子とは、SiO2で表されるシリカを主骨格とする水不溶性の化合物を含有する微粒子を指し、天然由来の粘土鉱物微粒子や精製、半精製のシリカ含有微粒子などを用いることができる。シリカ含有微粒子中のシリカの含有率は特に限定されるものではないが、好ましくは70%(以下、%は質量%を表すものとする。)以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の含有率が望ましい。70%未満であればその粒子径が60nmを上回る恐れがあり、かつ十分な抗ウイルス活性が得られない可能性がある。
【0021】
天然由来の粘土鉱物としては、例えばスメクタイト、ベントナイト、モンモリロナイト、パイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト、サポナイト、マイカなどが挙げられる。
【0022】
本発明において用いられるシリカ含有微粒子の例としては、アモルファスシリカ、結晶性シリカおよびアモルファスシリカを水中に分散させた形態のコロイダルシリカ等が挙げられる。それらの中でも、微粒子の分散安定性や抗ウイルス活性の点からコロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは、「スノーテックス」(日産化学工業(株)製)、「シリカドール」(日本化学工業(株)製)等、市販品として容易に入手が可能である。
【0023】
シリカ含有微粒子は、シリカが水和した形であるケイ酸類やその塩の形態を取るものであってもよい。塩の形態をとる場合の金属イオンは重金属以外であればいかような金属でも用いることができ、例えばアルミニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられ、このうちナトリウムが好ましい。またこれらの金属はシリカ含有微粒子中のシラノール基に結合する形態を取ることもできる。
【0024】
本発明の抗ウイルス剤に含まれるアルミナ含有微粒子とは、Al23で表されるアルミナを含有する微粒子を指し、天然由来のアルミナ含有鉱物微粒子や合成、精製、半精製のアルミナ微粒子などを用いることができる。アルミナ含有微粒子中のアルミナの含有率は特に限定されるものではないが、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは95%以上の含有率が望ましい。50%未満であればその粒子径が60nmを上回る恐れがあり、かつ十分な抗ウイルス活性が得られない可能性がある。
【0025】
天然由来のアルミナ含有鉱物の種類は特に限定されるものではなく、代表的な天然鉱物としてはボーキサイトなどが挙げられる。
【0026】
本発明において用いられるアルミナ含有微粒子の例としては、アルミナ水和物をコロイド状に分散させたコロイダルアルミナであるアルミナゾルが挙げられる。例えばアルミナゾル−100、アルミナゾル−200、アルミナゾル−520(いずれも日産化学工業(株)製)が挙げられる。
【0027】
アルミナ含有微粒子は重金属以外の金属を含んでも良く、具体的にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。またケイ酸化合物を含むことも可能である。
【0028】
本発明の抗ウイルス剤に含まれるシリカ含有微粒子および/またはアルミナ含有微粒子の粒子径は1nm〜60nmである。この範囲内であれば良好な抗ウイルス活性や分散性、安定性が得られる。また、より良好な抗ウイルス活性と分散性を得るための粒子径範囲は1nm〜40nmであり、さらに好ましくは1nm〜20nmである。粒子径が60nmを超えると抗ウイルス活性や分散性、安定性が低下し、品質上良好な抗ウイルス剤を得ることができない。一方、粒子径1nm未満の微粒子の調製は技術的な難易度が高く、生産性も低いためコスト的な不具合が生じる。なお、粒子径の測定は一般的な方法を用いることができ、例えばBET法、シアーズ法、動的光散乱法などが挙げられる。
【0029】
本発明の抗ウイルス剤は溶媒中に分散した状態に調製することができ、特にコロイド溶液の状態であることが好ましい。本分散液に用いる溶媒は一般的に用いられているものであればいずれのものでも用いることができ、特に限定されるものではない。具体例としては水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、キシレン、ブタノール、メチルイソブチルケトンなどが挙げられ、これらの溶媒を単独で、もしくは組み合わせて用いることができる。また水を含む分散液のpHは特に限定されず、適当な酸、アルカリ、重金属を除く金属イオンを用いて任意のpHに調整することができるが、特に2〜12のpHが安定性の上で好ましい。
【0030】
本分散液中のシリカ含有微粒子とアルミナ含有微粒子の濃度は任意の濃度で調製することができるが、製剤への配合性の面から下限は1%以上であることが好ましく、懸濁液の分散性、安定性の面から上限は50%以下であることが好ましい。
【0031】
本発明の抗ウイルス剤は、上記シリカ含有微粒子および/またはアルミナ含有微粒子を有効成分とするものであるが、必要に応じて他の殺菌成分を含有するものであってもよい。殺菌成分としては、一般的な殺菌成分を用いることができ、例えばフェノール性化合物、4級アンモニウム塩、安息香酸塩等が挙げられる。それらの中でも配合安定性や抗ウイルス活性の点からイソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、塩化セチルピリジニウムが特に好ましい。これらの殺菌成分は単独では宿主である培養細胞に影響を及ぼすことなく抗ウイルス活性を示すことはできないが、本発明において上記シリカ含有微粒子および/またはアルミナ含有微粒子と組み合わせることにより、生体への安全性を確保しつつ該微粒子の抗ウイルス性を高めることができる。それぞれの殺菌剤は大阪化成(株)、和光純薬工業(株)、チバスペシャリティーケミカルズ(株)等で製造されており、市販品として容易に入手が可能である。
【0032】
本発明においては、重金属類を実質的に含まないことが必要である。重金属類は身体に毒性を有し、また、金属アレルギーの原因にもなりうることから、医薬品、化粧品、食品への用途には使用できない上、仮に上記シリカ含有微粒子および/またはアルミナ含有微粒子と併用した場合には、微粒子の抗ウイルス性を阻害するおそれがある。重金属類の例としては、鉛、銀、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、錫、ニッケル、コバルト、ビスマスなどを挙げることができる。本発明において「実質的に含まない」とは検出限界を超えること(5ppm以下であること)を意味し、まったく含まないことが最も好ましい。
【0033】
本発明の抗ウイルス剤に含まれる殺菌成分の配合比(有効成分としてのシリカ含有微粒子/アルミナ含有微粒子と殺菌成分との合計量に対する配合割合(%))は特に限定されるものではないが、好ましくは0.01%〜25%、さらに好ましくは0.1%〜20%、さらに好ましくは0.5%〜10%である。0.01%よりも少なければ十分な抗ウイルス活性を示さない恐れがあり、25%よりも多ければ細胞障害を示す可能性が考えられ、安全性の面での問題が考えられる。
【0034】
本発明の抗ウイルス剤は、各種のウイルス、例えば、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、RSウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス等に対し抗ウイルス性を示す。特にインフルエンザウイルスに対しては、H1N1型、H3N2型などのタイプにかかわらず顕著な効果を示す。
【0035】
本発明の抗ウイルス剤は、医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品、繊維、塗料、樹脂等の広範囲な分野の製剤に配合が可能であり、製剤中への配合濃度は特に限定されるものではない。即ち製剤の設計に影響がなければ任意の濃度の配合が可能であるが、抗ウイルス活性の面からシリカ含有微粒子とアルミナ含有微粒子換算で10ppb以上であることが好ましく、さらに好ましくは10ppm以上、さらには1%以上の濃度が望ましい。シリカ含有微粒子とアルミナ含有微粒子換算で10ppb未満の配合量の場合、十分な抗ウイルス活性が得られない恐れがある。
【0036】
本発明の抗ウイルス剤は本発明の効果を損なわない範囲において、既知の薬効成分や通常製剤に任意の配合剤を必要に応じて適宜配合することができる。例えばアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、油分、アルコール類、抗炎症剤、鎮咳去痰薬、鎮痛剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、糖類、ビタミン類、アミノ酸類、生薬類、水等を配合して製剤化することができる。
【0037】
本発明の抗ウイルス剤は、医薬品、化粧品、食品分野の製剤に配合が可能である。具体的にはうがい薬、点鼻薬、感冒薬等の医薬品;化粧用クリーム、洗顔剤、身体洗浄剤等の化粧品;キャンディー、グミ、飲料水等の食品を例示することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
以下の各実施例および比較例で使用したサンプルは下記のとおりである。
【0040】
成分1:ナトリウム被覆型コロイダルシリカ(スノーテックス20、日産化学工業(株)製、粒子径:10〜20nm、微粒子含量:20%、分散媒:水、pH:9.7、重金属:検出限界以下*1
【0041】
成分2:非被覆型コロイダルシリカ(スノーテックスO、日産化学工業(株)製、粒子径:10〜20nm、微粒子含量:20%、分散媒:水、pH:3.0、重金属:検出限界以下*1
【0042】
成分3:アルミナ被覆型コロイダルシリカ(シリカドール20P、日本化学工業(株)製、粒子径:10〜20nm、微粒子含量:20%、分散媒:水、pH:6.0、重金属:検出限界以下*1
【0043】
成分4:アルミナ微粒子(アルミナゾル−520、日産化学工業(株)製、粒子径:10〜20nm、微粒子含量:20%、分散媒:水、pH:5.5、重金属:検出限界以下*1
【0044】
成分5:メタノールシリカゾル(スノーテックスMA、日産化学工業(株)製、粒子径:10〜20nm、微粒子含量:30%、分散媒:メタノール、重金属:検出限界以下*1
【0045】
成分6:ナトリウム被覆型コロイダルシリカ(スノーテックスXL、日産化学工業(株)製、粒子径:40〜60nm、微粒子含量:40%、分散媒:水、pH:9.5、重金属:検出限界以下*1
【0046】
成分7:ナトリウム被覆型コロイダルシリカ(スノーテックスXS、日産化学工業(株)製、粒子径:4〜6nm、微粒子含量:20%、分散媒:水、pH:9.5、重金属:検出限界以下*1
【0047】
成分8:イソプロピルメチルフェノール(大阪化成(株)製)
【0048】
成分9:トリクロサン(IRGACARE MP、チバスペシャリティーケミカルズ(株)製)
【0049】
成分10:塩化セチルピリジニウム(和光純薬工業(株)製)
【0050】
比較成分1:ナトリウム被覆型コロイダルシリカ(スノーテックスZL、日産化学工業(株)製、粒子径:70〜100nm、分散媒:水、重金属:検出限界以下*1
*1:鉛(検出限界は5ppm)、カドミウム(検出限界は0.5ppm)として検出せず。
【0051】
[実施例1〜17、比較例1〜4:H1N1型インフルエンザ感染抑制試験]
特開2007−145777に記載された測定法に準じて各サンプルのH1N1型ウイルスに対する感染抑制作用を測定した。
H1N1インフルエンザウイルス溶液(A型インフルエンザウイルス/PR/8/34を100個前後のプラークを形成する濃度に希釈した溶液)310μLと、実施例1〜17、比較例1〜4に対応するサンプルの溶液をそれぞれ310μLずつ混合し、合計620μLの検体を作製した。なお後述するようにサンプルの活性をIC50で評価するべく、各サンプルは0.01ppmから1000ppmの濃度範囲で10倍ずつの希釈系列にて調製を行った。
【0052】
次に、6ウェルマイクロプレート中の培地を除去し、PBS(−)を1〜2mL/ウェル入れて細胞表面を洗浄した。PBS(−)を除去後、上記の方法によって作製した検体620μLを、200μL/ウェルずつ入れ、37℃、5% CO2のインキュベーターで30分間インキュベートした。
【0053】
30分後、検体溶液を除去し、PBS(−)を1〜2mL/ウェル入れて細胞を洗浄した。次に、予め50℃に加温しておいた2%の寒天0.625ml/ウェル(Oxoid,LTD.、製品番号:L28)と1.475ml/ウェルの重層培地(6ウェル分では、2×MEM+BAを6.25ml、精製水を2.25ml、1%DEAEデキストランを0.125ml、7.5% NaHCO3を0.167ml、アセチルトリプシン(1mg/ml(PBS))を0.125ml)(2×MEM+BAとは、9.4g MEMを474mL MiliQ水に加え、高圧滅菌し、濾過滅菌した10mLのL−グルタミン溶液(×100、30mg/mL)及び10mLの1M Hepes(2.4g/10mL)、6mL 35% bovine albumin(A−7409,Sigma)を加えた。)を混合し、これを2mL/ウェルずつ分注入した。室温で30分間静置し、寒天が固まったら反転して、37℃、5% CO2のインキュベーターで2日間インキュベートした。
【0054】
インフルエンザウイルスを感染させてから2日後、重層培地をはずし、プレートを乾燥させた。次に、クリスタルバイオレット染色液(50mg Crystal Violet/50mL 20%エタノール)を500μL/ウェル入れて、5分程度染色を行った後、5回精製水で洗い、風乾させた。最後に、プラークの数をカウントし、サンプルの活性は以下に記載したIC50にて評価した。
【0055】
IC50解析:同一サンプルで10倍ずつ濃度が異なるサンプルのプラーク数を3濃度分以上カウントした。サンプル無添加を対照としてサンプルのプラーク形成比(y)を求めた。サンプル濃度(x)に関してはLog変換(Log(x))を行い、プラーク形成比に関してはLogit変換(Log((y)/(1−y))を行った。両変数の回帰式を求め、Log((y)/(1−y))が0となるときの濃度をIC50として計算した。
各サンプルについて計算したIC50の値を表1−1〜表1−3に示した。
【0056】
【表1−1】

【0057】
【表1−2】

【0058】
【表1−3】

【0059】
上記表1−1〜表1−3に示すとおり、粒子径が60nmを超える微粒子や殺菌成分のみを投与した比較例のサンプルではIC50が非常に高いか検出できなかったが、粒子径が1nm〜60nmのシリカ含有微粒子、アルミナ含有微粒子、またはこれらの組み合わせ、或いはさらに殺菌成分との組み合わせである実施例のサンプルは、充分に低いIC50を示した。
【0060】
この結果から、本発明の抗ウイルス剤にはH1N1型インフルエンザウイルスの感染を抑制する効果が認められた。
【0061】
[実施例18〜34、比較例5〜8:H3N2型インフルエンザ感染抑制試験]
実施例1〜17、比較例1〜4と同様、特開2007−145777に記載された測定法に準じて各サンプルのH3N2型ウイルスの感染抑制活性を測定し、抑制活性はIC50にて評価した。
【0062】
【表2−1】

【0063】
【表2−2】

【0064】
【表2−3】

【0065】
上記表2−1〜表2−3に示すとおり、粒子径が60nmを超える微粒子や殺菌成分のみを投与した比較例のサンプルではIC50が非常に高いか検出できなかったが、粒子径が1nm〜60nmのシリカ含有微粒子、アルミナ含有微粒子、またはこれらの組み合わせ、或いはさらに殺菌成分との組み合わせである実施例のサンプルは、充分に低いIC50を示した。
【0066】
この結果から、本発明の抗ウイルス剤にはH3N2型インフルエンザウイルスの感染を抑制する効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明の抗ウイルス剤は、粒子径が1nm〜60nmのシリカ含有微粒子やアルミナ含有微粒子のうちの1種もしくは2種を有効成分として含有することにより、ウイルス感染を極めて効果的に抑制できる。また本発明の抗ウイルス剤は前記微粒子に加えて1種または2種以上の殺菌成分を含有することもでき、これにより一層顕著な抗ウイルス活性を得ることができる。本発明の抗ウイルス剤は、重金属成分など身体に毒性を有する成分を含有せずともウイルス感染を極めて効果に抑制できるので、優れた安全性を有し、医薬品、化粧品、食品等の広範囲な分野に対し応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が1nm〜60nmのシリカ含有微粒子および/またはアルミナ含有微粒子を有効成分として含有することを特徴とする化粧品、食品又は医薬品用抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記微粒子がコロイド溶液を形成していることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
さらに1種または2種以上の殺菌成分を含有していることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記殺菌成分がイソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、および塩化セチルピリジニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項3に記載の抗ウイルス剤。

【公開番号】特開2009−155262(P2009−155262A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335000(P2007−335000)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】