説明

抗原およびタンパク質毒素をコードする異種ヌクレオチド配列からなる担体としての微生物、その生成方法、ならびにその使用

本発明は、抗原および以下の成分を含むタンパク質毒素をコードするヌクレオチド配列の担体としての微生物に関する。すなわち、
(I)少なくとも一つの野生型タンパク質または変異型タンパク質の少なくとも一つの完全抗原または部分抗原をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列;および(II)少なくとも一つのタンパク質毒素および/または少なくとも一つのタンパク質毒素サブユニットをコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列;および(III)a)微生物の外表面上で成分(I)および成分(II)の発現産物の発現を可能にし、ならびに/または成分(I)および成分(II)の発現産物の分泌を可能にする、少なくとも一つの輸送系をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列;および/または成分(I)および成分(II)の発現産物の分泌を可能にする少なくとも一つのシグナル配列をコードする;および/または(III)b)場合により、哺乳類細胞のサイトゾル内で微生物を溶菌するため、および溶菌した微生物に含有されるプラスミドまたは発現ベクターを細胞内に遊離させるために少なくとも一つのタンパク質をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列;および(IV)成分(I)乃至(III)のうちの一つまたは複数の発現のための少なくとも一つの活性化配列のための少なくとも一つのヌクレオチド配列で、前述の活性化配列が微生物内で活性化されることができ、および/または組織細胞特異的、腫瘍細胞特異的、マクロファージ特異的、樹状突起特異的、リンパ球特異的、機能特異的、または非細胞特異的であり;成分(I)乃至(IV)のいずれも、単回または複数回のいずれかで存在し、および同一または異なることもあり得る。また、対応するプラスミドまたは発現ベクターの製造方法および薬物としての微生物の用途も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原およびタンパク質毒素をコードする異種ヌクレオチド配列からなる担体としての微生物、その生成方法、ならびに対応するプラスミドまたは発現ベクターに関する。これらの微生物は、薬物として、特に種々の腫瘍の処置のための腫瘍ワクチンとして用いられることができる。
【0002】
癌の免疫療法は、腫瘍処置の有望な選択肢を意味する。様々なアプローチを用いる多数の臨床試験は、患者におけるその有効性に集中している。原理的には、受動的免疫療法と積極的免疫療法との区別がつけられる。
【0003】
積極的免疫療法は、ワクチンが関連する腫瘍特異的免疫応答の誘導を目的とする。後者は、現在、いくつかの様々なアプローチを用いて臨床的に探索されている。例えば、いわゆる全菌体ワクチンがあり、その供給原料は、直接的に患者から得た(自己の)腫瘍細胞あるいは適切な細胞系に由来する(異種の)腫瘍細胞である。これらの細胞は、次いで、通常は、不活性化され、特異的に操作さて、患者に(再)適用される。
【0004】
対照的に、抗原特異的ワクチンは、一つ(または複数)の腫瘍特異的抗原、抗原または特異的抗原コードDNAの部分、ならびにいわゆる抗イディオタイプのワクチンを含有する。通常、これらのワクチンは分離されずに、適切な担体との組み合わせで注射される。従って、従来からの様々なアジュバントが利用される一方、サイトカイン等の生体免疫賦活薬との組み合わせも同様に利用されている。
【0005】
免疫活性化の目的で、破傷風毒素等の免疫賦活薬に関連する抗原を含有するアプローチが適用されている。さらに、樹状細胞との組み合わせで抗原を適用する試みもある。そして最後に、ウイルス担体または細菌担体と組換え生ワクチンとを用いる試みもいくつかある。
【0006】
抗原を用いるアジュバントとしての、細菌毒素(例えば破傷風毒素、志賀毒素、致死毒素、またはコレラ毒素)の融合タンパク質は、ワクチンとして(特に感染症に対する)長い間利用されている(Freytag and Clements, 1999)。さらに、標的細胞特異的分子(例えば腫瘍細胞の細胞表面分子)と混合されることが多い天然毒素も、標的細胞を破壊するために用いられる。
【0007】
この点で、通常、酵素ユニットおよびタンパク質結合ドメインを含む天然毒素を有する融合タンパク質は、アジュバントとしての用途でそれらの最適な効果を発揮する(Freytag and Clements,1999)。これらのワクチンを用いて、粘膜免疫後(特に経口免疫後でも)、満足できる免疫応答が得られる。これらの融合タンパク質の問題は、天然毒素の毒性が高く、従ってヒトにおいて確立できないことである(Holmgren et al.,2005)。
【0008】
従って、一連の研究の全体は、同時にアジュバント効果を保存する毒素の解毒作用に費やされている。しかし、ほとんどの場合、アジュバント効果は、毒作用に関与する酵素活性と同時に発生する(Lycke et al.,1992)ので、解毒作用は、一部の毒素がそれらの酵素活性、アジュバント活性を失わないことが可能であるように見えても、簡単に行われることはできない(Hormozi et al.,1999;Lycke et al.,1992)。
【0009】
コレラ毒素(CT)の場合、いくつかの解毒作用の試みが行われている(Agren et al.,1999;Byun et al.,2001;Eriksson et al.,2004;Kweon et al.,2002;Sanchez et al.,2002)が、しかし粘膜アジュバントとしての用途が普及している(Freytag and Clements)。従って、とりわけ、T細胞支持を制限する毒素関連MHCクラスIIの増大をもたらす抗体応答(主として粘膜IgA)の効果的な誘導は、タンパク質抗原および融合または同時投与される毒素を含むワクチンのための粘膜アジュバントにとって主要な必須条件である(Freytag and Clements)。
【0010】
コレラ毒素(特にそのBサブユニット(CtxB))に関しては、この毒素はGM−1受容体への結合に関与し、分離されたとき、毒作用を示さないので、アジュバントとしてテストされている(Holmgren et al.)。CtxBによるタンパク質融合は、いわゆるTh2免疫応答の一次誘導によって特徴づけられる。これらは、サイトカイン(例えばIL−4またはIL−6)によって主に特徴づけられ、主として抗体の誘導を引き起こすが、細胞免疫応答(特に細胞傷害性T細胞(CTL))を全く開始しない、もしくはせいぜい限局的に開始するT細胞応答である(Holmgren et al.)。
【0011】
さらに、粘膜アジュバントとしてのCtxBは、タンパク質抗原の全身性寛容を誘導する。全身性寛容は、抗原特異的リンパ球(特にT細胞またはB細胞)の欠乏または不活性化を説明する。従って、この種類のアプローチは、全身性免疫応答の誘導に適用できない(Holmgren et al.)。
【0012】
粘膜適用とは対照的に、毒素抗原の融合タンパク質の腹腔内適用または皮下適用は、全身性応答ならびに低細胞傷害性応答を誘導することができる。これは、モデル系(例えば(Becerra et al.,2003)参照)において腫瘍ワクチン投与で利用されている。しかし、そのような応答も、精製抗原それ自体によって得られ、主として、用いられるアジュバントに依存する。そのモデル系で測定されるCTL応答が多少低いという事実は別として、その防御がこれらの効果に依存さえしていた証拠がなかった。さらに、抗原は、経口的ではなくて、抗原の直接的な注射(皮下、皮内、筋肉内、腹腔内の注射)によってのみ適用された。
【0013】
解毒された毒素に融合される抗原タンパク質は、経口腫瘍ワクチンとして適用される場合、概して効果がない。その主な理由は、全身性免疫応答が全く存在しなくわずかに低い全身性免疫応答が誘導される場合、またはCtxBの場合でも、全身性寛容の誘導ならびに粘膜制限抗体の誘導、およびTh2型免疫応答にある。
【0014】
例えばMcSorleyらは、CtxB抗原融合タンパク質による鼻腔内免疫(腫瘍ワクチンのための全身性応答を誘導する好ましい方法を表す)が望ましく寛容し、従ってTh1細胞を不活性化し、一方Th2細胞は影響されないことを示した(McSorley et al.,1998)。Th2応答は、主にIL−4またはIL−6を産生するヘルパーT細胞によって特徴づけられる。これらのサイトカインは、従来のワクチンのほとんどの場合に防御を提供しているB細胞による抗体産生の開始に特に関与する。対照的に、Th1T細胞は、主に、IL−2およびIFN−γ、従って細胞免疫応答に関与するサイトカインを分泌する。免疫化戦略の目的によって、Th2免疫応答(いわゆるTh2バイアス)を支配する抗体またはTh1応答(いわゆるTh1バイアス)を支配する細胞が開始されるかどうかが極めて重要である。
【0015】
対照的に、ヘルパーT細胞を産生するIFN−γによる細胞免疫応答を支配するTh1の全身的誘導および細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導は、腫瘍免疫療法に不可欠である。
【0016】
先行技術は、毒素がアジュバントとして機能できることを示す。特にコレラ毒素(CT)は、強いアジュバント効果を示す。しかし、この効果は、毒素が解毒されると直ちに著しく減弱される。そのサブセットCtxBに関して、経口適用は全身性寛容をさらに誘導する。この問題は、鼻腔適用によって部分的に回避されることができる。しかし、経鼻投与が適用される場合、他の問題が生じる。特に、脳でのGM−1受容体の発現(van Ginkel et al.,2000)に関してCtxBサブユニットに付随するもので、特に重篤な副作用のリスクの増大を示す(Mutsch et al.,2004)。
【0017】
これらの問題を克服するためには、毒素および(異種の)抗原を同時発現する組換え生ワクチンを生成することが可能である。この選択肢は、感染症ワクチン(すなわち、特定の病原体(例えば結核病原体)に対して向けられ、その病原体に対する免疫を誘導することを意味するワクチン)に関してすでに探究されている。
【0018】
そのような感染症ワクチンを開発する過程で、適切な(異種の)抗原に融合された組換え毒素は、生ワクチンまたは不活化ワクチンとしてのいずれかで、経口で投与されるいくつかの組換え菌種を用いて、すでに生成されている。ほとんどの場合、生成された菌種は、組換え毒素を発現しただけであった。従って、これらのアプローチは、毒素それ自体および結果的に菌株(病原体)を発現するその毒素に対して単に免疫性を与えること(抗体応答の誘導)を主に目的とした。これらの種類のワクチンは、腫瘍治療での潜在的な腫瘍ワクチンとしての用途に適してない。驚くことではないが、対応する試験がそのような適用の可能性を何も述べていない(Reveneau et al.,2002)(Vertiev et al.,2001)(Freytag and Clements, 1999;Jackson et al.,1996)。
【0019】
感染症ワクチンに関して、抗体応答の誘導の過程で毒素は、アジュバントとして機能せず、有力であるのは粘膜抗体の免疫応答の誘導である。これらの感染症ワクチン試験は、全身性免疫応答を含まず、含んでも極めて弱いものだけてある。腫瘍ワクチンとは対照的に、そのようなワクチンは、細胞免疫応答の(特に細胞傷害性T細胞の)誘導を探究しない。病原性微生物を発現させる毒素は、通常、細胞外のライブパターンを示し、従ってCTLの活性化に寄与しない(すなわち、そのような感染症ワクチンによって与えられる防御作用はCTL非依存性である)。
【0020】
以下の菌種:組換え乳酸桿菌(Reveneau et al.,2002)、リステリア(Vertiev et al.,2001)、炭疽菌(Mendelson et al.,2005;Mesnage et al.,1999)、赤痢菌(Anderson et al.,2000;Tzschaschel et al.,1996b)、大腸菌(Walker et al.,1992)、ビブリオ(Butterton et al.,1995;Chen et al.,1998;Thungapathra et al.,1999)、およびサルモネラ(Jackson et al.,1996)は、記述した感染症ワクチンの試験で使用されている。
【0021】
さらに、異種抗原(サルモネラ、赤痢菌(Garmory et al.,2003;Orr et al.,1999;Su et al.,1992;Tzschaschel et al.,1996a;Tzschaschel et al.,1996b)、エルシニア(Sory and Cornelis, 1990)、ビブリオ(Ryan et al.,1997a)、大腸菌(Zhu et al.,2006))として毒素の表面提示(Konieczny et al.,2000)または分泌によって粘膜免疫応答を増強されることが試みられた。しかし、これらの追加の場合、毒素それ自体は、免疫応答が向けられる抗原を表す。
【0022】
従って、注目すべきことは、毒素がアジュバントとして機能しないこと、または記述する研究が付加的な別の(異種の)抗原による融合タンパク質として毒素を発現させることを目的としないことである。さらに、CTまたはCtxBによる融合タンパク質はこれらの系によって生成されず、または融合タンパク質は示唆されなかった。
【0023】
従って、上記に引用した文献に記述される融合タンパク質は、ペプチド分泌シグナル(例えばHlyA)の融合タンパク質、および毒素タンパク質であるが、毒素および(異種の)抗原からなる融合タンパク質ではない。
【0024】
これらの研究の主な目的は、単に、最適な粘膜免疫応答を獲得することであった(Tzschaschel et al.,1996a)。全身性免疫応答の誘導は、遂行されなかった。しかし、とにかく測定される場合、これらの種類のモデルでの防御が主として抗体によってもたらされる(例えば[31]を比較されたい)ので、全身性免疫応答の分析は、抗体(特に、全身性IgA)に制限される。全身性細胞免疫応答(特に細胞傷害性T細胞応答)の誘導は、記述されてない。強力な単なる細胞質発現が不容性凝集体の生成をもたらすことが多いので、分泌シグナルによる融合は、毒素の溶解性を高め、それらの安定性をそれぞれ増強させるために主として用いられた(Gentschev et al.,2002a)。
【0025】
この点において、著者のなかには、分泌シグナルによる融合タンパク質が早急に細胞質分解を引き起こすことを観察し(Tzschaschel et al.,1996a)、一方他の著者は安定化を観察している。従って、先行技術は、この点で相反する。今までのところ、分泌された毒素(毒素+分泌シグナル)による以前の実験は、何よりも安定性を高めることを目的とし、これはすべての実験で明らかに達成されなかった。
【0026】
一つの理由は、種々の発現強度およびプラスミド安定性に確かに見出される。Tzschaschelらは、用いられるプラスミド系が極めて不安定であり、および何よりも(選択なしに)単に少数の細菌に見出されると記述している。可能な解決策として、著者は、ミニトランスポゾンを介して染色体組込みを用いている(Tzschaschel et al.,1996a;Tzschaschel et al.,1996b)。
【0027】
しかし、そのような系にはいくつかの不都合がある。一方では、組込みの点が限定されてないので、宿主菌株の非所望の表現型変化(たとえば隣接する遺伝子の発現の増大/減少)をもたらし得る。他方では、単一のゲノムコピーを用いる予想される発現レベルは低いだけであり、免疫原性に負の効果を及ぼす。結局、染色体トランスポゾンの組込みは、反復成分の両側で自然発生的切断を極めて頻繁にもたらすために、比較的不安定である。
【0028】
上記のように、先行技術は、分泌された異種毒素の安定性に関して相反する。
【0029】
Garmoryらは、異種抗原の分泌が免疫原性に関して何ら特別な利点を有さないとさえ想定する(Garmory et al.,2002;Roland et al.,2005)。他の場合では、静脈内投与後、分泌される毒素への全身性抗体応答の増大が観察されたが、経口適用では観察されなかった。反対のすべては、経口適用が間接的に問題にさえされている(Roland et al.,2005)。
【0030】
最終的に、破傷風毒素を生成するグラム陽性菌(ラクトバチルス・プランタルム)での研究は、菌株(毒素を分泌し、それらの膜に結合したその毒素を提示し、またはその毒素を細胞質に含有する)と比較すると、全身性抗体応答の誘導において何ら有意差を示さなかった(Reveneau et al.,2002)。
【0031】
全身性細胞免疫応答(特に細胞傷害性T細胞応答)およびそれによって生ずる防御は、研究されず、記述されてなかった。
【0032】
上記に引用した、毒素に基づく感染症ワクチンの先行技術は、アジュバントとして用いる毒素の分泌が、全身性(細胞)免疫応答の誘導に関して、有利性を表すかどうかを明言できない。反対のすべては、上記に引用した研究がむしろ安定性の問題を指摘し、かつ分泌される異種毒素の有利性が見当たらないことを述べている。分泌シグナル、毒素、および異種抗原からなる融合タンパク質は、全く記述されず、または示唆されてない。
【0033】
先行技術が提示された上記の節では、毒素を異種発現し、および感染症ワクチンとして使用され得る細菌担体を記述する。引用された例では、主として、毒素の発現または安定性および毒素の溶解性に関する改変(例えば強力な発現プロモーターの挿入、または分泌シグナルへの毒素の融合)が行われた。
【0034】
他の著者らは、生ワクチンでの異種抗原への毒素の遺伝子融合も研究した。これらの場合、毒素は、主にアジュバントとして用いられた。一部の場合(例えば(Brassier et al.,2000))では、異種抗原はアジュバントとして機能し、毒素は適切な抗原として機能した。
【0035】
しかし、前述の場合、注目すべきは、毒素抗原の遺伝子融合コンストラクトの発現は、もっぱら、細胞質またはペリプラズマで起こった。毒素抗原のコンストラクトは、追加の分泌シグナル(その完全な分泌をもたらす)に融合されず、または直接的に分泌されなかった。
【0036】
これらの毒素抗原遺伝子融合コンストラクトの過程で、組換え大腸菌(Clemens et al.,2004)、炭疽菌(Brossier et al.,2000)、赤痢菌(Koprowski et al.,2000;Ranallo et al.,2005;Zheng et al.,2005)、およびビブリオ菌株(Silva et al.,2003)が用いられた。サルモネラ((Garmory et al.,2002)に要約される)の場合も、抗原によるCT変異体の融合(Hajishengallis et al.,1996;Huang et al.,2000)または抗原による他の毒素が記述されている(Barry et al.,1996;Cardenas and Clements, 1993;Chabalgoity et al.,1997;Chabalgoity et al.,1996;Chabalgoity et al.,2000;Chabalgoity et al.,1995;Chacon et al.,1996;Jagusztyn−Krynicka et al.,1993;Khan et al.,1994a;Khan et al.,1994b;Lee et al.,2000;Pogonka et al.,2003;Schodel et al.,1990;Smerdou et al.,1996;Ward et al.,1999;Wu et al.,2000)。
【0037】
これらの場合の大多数では、主な焦点は粘膜(抗体)免疫応答の誘導に関し、および先進性免疫応答の誘導のために経口適用ではなく皮下適用が選択された[36]。
【0038】
支持菌株としてサルモネラをもちいる一部の研究は、その菌株の単なる特徴づけに限定され(Gomez−Duarte et al.,1995;Jagusztyn−Krynicka et al.,1993)、他の研究は粘膜および/または全身性抗体応答および/または防御を分析するだけである(Barry et al.,1996;Cardenas and Clements, 1993;Dunstan et al.,2003;Hajishengallis et al.,1996;Harokopakis et al.,1997;Khan et al.,1994a;Khan et al.,1994b;Pogonka et al.,2003;Smerdou et al.,1996;Somner et al.,1999)。抗原と破傷風毒素との融合を偶発的に用い、感染症ワクチンとしてもっぱら用いられるこれらのすべての場合では、全身性細胞免疫応答(特に細胞傷害性T細胞応答)は研究されなかった。
【0039】
従って、それらの研究の焦点が感染症ワクチンとしての抗体媒介作用に置かれているので、免疫学的観点から、腫瘍ワクチンとしての用途の可能性についての結論は、これらの研究からは引き出せない。
【0040】
研究された免疫応答のイソタイプ分析を含む調査は、より適切であると思われる。実際に、細胞免疫応答は、これらの場合では直接的に測定されないが、抗体応答のイソタイププロファイルによって免疫応答のTh1/Th2バイアスに関する結論が可能になる。IgG1のような抗体イソタイプは、Th2応答と関連し、IgG2aのようなイソタイプは、Th1応答に関連する。すでに述べたように、Th1応答は細胞に支配される免疫応答であり、一方Th2応答は主として液性抗体による応答を表す。依然として、それらの研究は腫瘍ワクチンを記述してなく、または抗腫瘍剤としてのどのような用途を示唆しない。
【0041】
破傷風毒素抗原融合タンパク質を発現させる担体としてサルモネラに基づく一つの感染症ワクチンの研究は、イヌで実現化された。イヌにおいて誘発された低抗体応答は、抗体プロファイルに関してTh1バイアス(従って、むしろ細胞型免疫応答と関連する応答)を示す(Chabalgoity et al.,2000)。確かに、イヌの免疫学は、辛うじて研究されるだけである。従って、どの程度までイヌの抗体プロファイルがTh1バイアスに関する情報を与えることができるかは不明瞭である。
【0042】
しかし、同程度のコンストラクトを用いて、同じグループによって行われたマウスでの研究では、IgG1に対して、IgG2aに対するのと同じレベルを有する抗体プロファイルが示された。これは、混合されたTh1/Th2応答を示唆する。
【0043】
興味深いことに、以前の免疫化のためにほとんどのヒトで見出されるように、破傷風毒素に対する現存する免疫は、IgG1の別の比較的強力な誘導を引き起こし、一方IgG2aはほとんど誘導されない。これは、異なるTh2のバイアスを明白に示す(Chabalgoity et al.,1995)。このため、腫瘍ワクチンとして生ワクチンに基づく破傷風毒素は、ヒト使用にとってむしろ有害である。強力なTh2抗体に支配される応答は、破傷風毒素特異的応答を示すこれらの患者の大多数において誘導されることが予想され得るからである。
【0044】
わずかな研究も、細胞免疫応答を分析して、毒素融合の有り無しで遺伝子コンストラクトを比較する。例えば、一つの場合では、破傷風毒素の有り無しで抗原の融合は、サルモネラにおいて比較されてきた(Lee et al.)。そこで、破傷風毒素抗原融合コンストラクトは、主として全抗体レベルを増大させ、一方Th1/Th2プロファイルは、ほとんど変化しなかった。典型的なTh1サイトカインの抗原特異的CD4+T細胞分泌でさえ、例えばIFN−γおよびIL−2それぞれは、弱い相違を示すだけであった。同じグループによる初期の研究では、細胞IFN−γレベルも、測定された。しかし、破傷風毒素無しのコンストラクトによって何ら比較が引き出されなかった(Chabalgoity et al.)。赤痢菌(Koprowski et al.,;Ranallo et al.,;Zheng et al.)またはビブリオ(Campos et al.,;Ryan et al.)のような異なるグラム陰性菌担体による他の研究は、それぞれ、イソタイプおよび細胞免疫応答を分析しなかった。
【0045】
要約すれば、記述した様々な研究は、抗体による液性免疫応答の誘導に明らかに重点的に取り組んでいると言える。実際に、遺伝毒素の抗原コンストラクトは用いられるが、これらのコンストラクトは、分泌シグナルが備わってなく、または直接的に分泌されない。しかし、どんな条件下でも、全身性細胞免疫応答(特に細胞傷害性T細胞応答)は、分析されなかった。さらには、そのような細胞の細胞傷害性T細胞応答は、液性抗体応答から決定されることができなく、およびその抗体応答は、構成されたTh1/Th2であるかどうかを検出することができない。
【0046】
しかし、腫瘍ワクチン投与療法での使用に不可欠であるのは、まさにこれらの細胞の細胞傷害性T細胞免疫応答である。
【0047】
従って、粘膜感染症ワクチンだけに制限される毒素抗原融合に関して、最先端の技術からは、腫瘍ワクチンとしてそのようなコンストラクトのいずれかの潜在的用途についての記述ができない。
【0048】
すでに述べたように、遺伝子融合コンストラクトの発現は、分泌系の補助無しで実現化される。毒素および毒素抗原コンストラクトは、それぞれ、通常、細胞質ならびにペリプラズマに(すなわち、二つの膜の間)位置している。効果的な細胞免疫応答を誘導するために、毒素は、抗原提示細胞(APC)に自由に到達できなければならない。通常、天然毒素は、グラム陰性菌のペリプラズムで産生される。これは、単なる粘膜免疫応答には十分である。ペリプラズム毒性は、結腸でペリプラズムから抜け出すことができ、従って、到達することもできるからである(Hunt and Hardy, 1991)。しかし、これは、その担体が結腸外部の抗原提示細胞(例えばパイエル板またはリンパ節もしくは脾臓等のリンパ器官)を標的するかどうかを考慮しない。
【0049】
原理的には、二つの因子は、腫瘍ワクチンの効率のために不可欠である。すなわち、Th1型の細胞免疫応答の誘導、および自然免疫系(腫瘍治療の効率にとって重要な役割を果たす、例えばNK細胞、NKT細胞、およびγ−δT細胞)の成分の関与である(Dunn et al.,2004)。
【0050】
自然免疫系のこれらの成分の重要性は、複数のレベルにある。適切に活性化されたNKT細胞およびγ−δT細胞は、大量のIFN−γを局所的に産生することができる。また、T細胞が極性化した特定のTh1によって産生されるこのインターフェロンは、腫瘍治療に関連する複数の機能を有する。その中心機能のうちの一つは血管新生の抑制である。それは、腫瘍の酸素および栄養素供給を切り離して、事実上腫瘍を飢餓状態にする。さらに、NK細胞は、MHCクラスI分子を認識ずる受容体を有する。これらの分子が細胞上に存在する場合、NK細胞は抑制される。
【0051】
特定の細胞傷害性T細胞を誘導するワクチンに関して、腫瘍細胞は、これらのCTLによって死滅させられ得る。腫瘍では極めて頻繁に起こることだが、腫瘍細胞がMHCクラスI分子を発現させるその能力を喪失する場合、特定の細胞傷害性T細胞は無効となる。従って、この場合では、NK細胞の抑制が止まり、NK細胞は腫瘍細胞を直接的に排除することができる。
【0052】
従って、腫瘍ワクチンが両成分を効果的に誘導する場合、それは理想的である。融合毒素アジュバントのTh1−Th2バイアスに関して、矛盾するデータが存在する。前述したように、分離された様式で適用される毒素抗原融合コンストラクトは、強力なTh2極性化免疫応答を明らかに誘導する。一部の著者らは、生担体に対する低Th2バイアスを、依然として記述し、他の著者らは、わずかなTh1バイアスを理解する。
【0053】
しかしこの場合もやはり、これらのデータは、非分泌型コンストラクトだけに基づく。そのような種類の感染症ワクチンによる自然免疫の誘導は、いまだかつて比較されたこともまたは熟考されたこともなかった。
【0054】
すでに述べたように、その主な理由は、現存するワクチンが粘膜感染症ワクチンであって、腫瘍ワクチンでないからである。従って、Th1免疫応答、CTL免疫応答、および自然免疫系の様々な応答は、目標内でなかった。対照的に、腫瘍ワクチンに関して、これらの免疫応答の誘導は、不可欠である。
【0055】
興味深いことに、細胞生物学では天然毒素は、シグナル経路の抑制剤として一般に用いられている。そのため特に、天然の百日咳(pertussis)毒素(コレラ毒素ではなく)は、NK細胞の特定のアポトーシスパターンを抑制することができることが示されている(Ramirez et al.,1994)。異なる調査研究は、コレラ毒素(そのBサブユニットではなく)が特定のNK細胞の機能を遮断することを示すことができた(Poggi et al.,1996)。リンパ球の走化性を抑制するために、天然の百日咳毒素が用いられる(Spangrude et al.,1985)。たとえこれらの研究が腫瘍ワクチン投与に取り組まないとしても、腫瘍治療に不可欠である自然免疫系の応答が誘導されるよりはむしろ抑制されるので、当業者は、腫瘍ワクチンとしての毒素の用途が有害であると判断を下すだろう。
【0056】
他の調査研究は、天然の百日咳毒素(不活性の百日咳毒素ではない)のような毒素が自然免疫系の成分を効果的に誘導することを示すことができた。腫瘍に対する免疫療法に関して、これは(仮にあったとしても)、天然毒素を用いる必要があることを意味する。しかし、毒性の理由から、そのような種類の投与は、実行不可能である。さらに、そのような誘導は、二次免疫応答に向けられるTh2を必ずもたらす。これは、今度は腫瘍治療にとって有害となる(Boyd et al.,2005)。従って、自然免疫応答の誘導に関して、先行技術は、腫瘍ワクチン投与を記述することも熟慮することもない。反対のすべては、文献の批判的な分析が腫瘍治療での毒素の使用に不利に働くことさえある。
【0057】
しかし興味深いのは、毒素またはそれらのサブユニットと他の刺激物質との相乗効果(例えば、免疫刺激DNAオリゴヌクレオチドと、低メチル化CpGモチーフ(CpG ODN)(Holmgren et al.,2005)またはリポサッカリド(LPS)との相乗効果)である。LPSの場合では、主として単球の誘導は毒素のBサブユニットを介して主に増加するように思われ、一方それは、全体としての毒素(ホロ毒素)によって抑制される(Hajishengallis et al.,2004)。しかし、これらの研究は、LPSまたはCpGのような物質がアジュバントとしてそれに加えられる、精製毒素抗原融合コンストラクトの使用にだけに依存する。さらに、適応免疫応答を誘導するが、腫瘍に直接的に攻撃しないマクロファージ上でのみ行う分析もある。従って、これらの研究は、自然免疫系の成分(特に、腫瘍を直接的に攻撃できるNK細胞)の誘導に関して、有意性がない。
【0058】
しかし、他の研究は、NK細胞が緑膿菌外毒素A等の毒素によって活性化され、および走化性的に誘引され得ることを示している(Muhlen et al.,2004)。実験系に応じて、NK細胞応答およびTh1応答の抑制はそれによってほとんど起こるのだが、Th1応答も誘導されることができる(Michalkiewicz et al.,1999)。しかし、これらのアッセイは、エンテロトキシンAの肝毒性の分析を主として目的とし、腫瘍ワクチン投与を言及してない。興味深いことに、効果は極めて用量依存的であるが、ほんのわずかな用量の変化もその効果を反転させることができる。しかし、著者らは、どの応答がin vivoで効果的に起こるかを明らかにすることができなかった。結果として、毒素または解毒された毒素でもアジュバントとして用いられる場合、データはどの効果が起こり得るかの予測を提供しない。
【0059】
全般的に見て、免疫応答は、適用される特定の系に強く依存する。ほとんどの場合では、粘膜抗感染症ワクチンは、効果的な粘膜免疫応答を誘導するために、粘膜で免疫系の局所操作を目的とする(Lycke, 2005)。しかし、これらの研究には、腫瘍ワクチンの開発が含まれてない。さらに、それらの研究は、全身性細胞免疫応答(特に、腫瘍ワクチン投与に必須である細胞傷害性T細胞の応答)の誘導についての情報が欠けている。
【0060】
異種抗原の分泌が全身性免疫応答に対して利点を与えることはすでに示されている(Hess et al.,1996)。しかし、記述された分泌型抗原は、分泌型毒素抗原コンストラクトではなく、毒素またはそのサブユニットは使用されなかった。それによって達成可能な、トランスジェニック腫瘍モデルにおける免疫応答も、極めて限定された(Gentschev et al.,2005)。実際に、弱い抗体および細胞傷害性T細胞応答は、腫瘍の進行から部分的に保護されたこの場合において誘導されることが可能であった。しかし、免疫応答それ自体のみならず、保護それ自体も限定された。同様に、腫瘍ワクチン投与のこれらの研究は、非分泌型コンストラクトとの比較が欠けている。さらに、比較研究は、腫瘍ワクチン投与と関連して行われず(Hess et al.,1996)、および分泌に関してなんら有利性が分らない、さらなる研究と対照的である(Garmory et al.,2002;Roland et al.,2005)。
【0061】
要約すれば、前述したように、先行技術は分泌に関して極めて矛盾しており、全般的に見て、腫瘍治療における分泌型毒素抗原コンストラクトの潜在的利点に関して何らヒントを与えない。反対のすべては、現存する文献の批判的な分析がそのような種類の用途にむしろ異議を唱える。
【0062】
細菌毒素(Todar, 2002):化学的レベルで、2種類の細菌毒素がある。すなわち、グラム陰性菌の細胞壁と結合するリポ多糖類、および細菌細胞から遊離されて、細菌増殖の部位から離れた組織部位で作用し得るタンパク質である。細胞結合リポ多糖(LPS)毒素は内毒素とよばれ、および細胞外拡散毒素は外毒素とよばれる。
【0063】
外毒素は、指数関数的増殖の間、生細菌によって分泌される、通常、可溶性タンパク質であるが、一部の場合では外毒素は、細菌細胞の溶菌によって遊離される。この毒素の産生は、通常、毒素と関連する疾患を引き起こす特定の細菌種に特異的である(例えば破傷風菌は破傷風毒素だけを産生し、ジフテリア菌はジフテリア毒素だけを産生する)。グラム陽性およびグラム陰性の両細菌は、可溶性タンパク質毒素を産生する。
【0064】
一般に、タンパク質(外)毒素には三つのクラスがある。すなわち、(i)宿主細胞表面に結合して、免疫応答を調節するが、細胞内に転位置されないI型毒素(スーパー抗原)、(ii)宿主細胞膜上で作用して、宿主細胞を漏出させて死滅させるII型毒素(ポア形成毒素)、(iii)一つの特異的受容体を介して宿主細胞に結合し、細胞内に転位置され、そこで活性化して、宿主細胞のタンパク質または他の成分を修飾するIII型毒素(A−B毒素)。
【0065】
上記に示すように、宿主細胞に関して細胞内に作用するIII型毒素は、二つの成分からなる。すなわち、一つの成分(サブユニットA)は、毒素の酵素活性に関与し、他の成分(サブユニットB)は、宿主細胞膜上で特定の受容体に結合して、その膜を横切って酵素を移動させることに関わる。酵素成分は、それが天然毒素(A+B)から遊離されるまで、活性でない。分離されたAサブユニットは、酵素的に活性であるが、結合能力および細胞への侵入能力が欠けている。分離したBサブユニットは、標的細胞に結合する(および天然毒素の結合を遮断する)ことも可能だが、それらは無毒である。
【0066】
毒素サブユニットは合成されて配置され得るには、種々の方法がある。すなわち、A+Bは、その毒素が、標的細胞表面で相互作用する二つの別々のタンパク質サブユニットとして合成され、分泌されることを表す。A−BまたはA−5BまたはAB5は、AサブユニットおよびBサブユニットが別々に合成されるが、分泌およびそれらの標的への結合の間は、非共有結合によって結合されることを表す。5BまたはB5は、タンパク質の結合ドメインが5つの同一のサブユニットで構成されることを表す。ABまたはA/Bは、単一のポリペプチドとして合成され、AドメインおよびBドメインに分けられた毒素を表示する。その分割は、タンパク質切断によって分離されることもある。ABまたはA/B毒素の例は、ジフテリア毒素、外毒素A、ボツリヌス毒素、および破傷風毒素である。A−5BまたはAB5毒素の例は、コレラ毒素および志賀毒素であり、一方A−B毒素の例は、炭疽毒素LFおよび炭疽毒素EFである。
【0067】
さらに、該先行技術に関する関連文献は以下を含む。すなわち、
Michlらは、固形腫瘍のための治療薬として細菌および細菌毒素の使用を記述する。毒素抗原融合コンストラクトならびにそのようなコンストラクトの細菌ターゲティングが開示される。ジフテリア毒素(DT)、シュードモナス外毒素A(PE)、およびウエルシュ菌(クロストリジウム・パーフリンジェンス・エンテロトキシン)(CPE)の用途が研究されている。しかし、著者らは、コレラ毒素の用途を述べておらず、または細菌送達による毒素抗原融合コンストラクトの明らかな分泌を示すことも表すこともない(Michl and Gress, 2004)。
【0068】
Lahiriは、様々な細菌毒素についての概要を提示し、それらの多様な用途を考察する。著者は、毒素抗原融合タンパク質を述べているが、コレラ毒素、および分泌された毒素抗原融合コンストラクトの細菌ターゲティングについては言及しない(Lahiri, 2000)。
【0069】
Lavelleらは、免疫調節薬として感染病原体の分子を開示する。著者らは、コレラ毒素抗原融合タンパク質を述べているが、そのようなコンストラクトは、タンパク質として直接的に適用されるだけであり、遺伝子改変生ワクチンを用いて適用されるのではない(Lavelle et al.,2004)。
【0070】
国際特許出願第01/74383号は、キメラ抗原エンテロトキシン粘膜免疫原に関し、コレラ毒素サブユニットA2およびBの用途についても述べている。しかし、そのようなキメラ免疫原は、常にA2サブユニットおよびサブユニットBを同時に含み、かつ腫瘍治療においてではなく粘膜免疫化において使用するためのものである。
【0071】
国際公開第02/077249号は、異種タンパク質を特定の突然変異標的細胞に送達するための非病原性エンテロコリチカ菌(Yersinia enterocolitica)の突然変異系統を記述する。コレラ毒素サブユニットA1の用途も、述べられているが、その特許文献は分泌について言及せず、感染症の処置および感染症の状態だけを参照する。
【0072】
国際特許出願第2004/018630号は、二本鎖真核生物発現カセットをコードする組換え二本鎖RNAファージを開示する。コレラ毒素サブユニットAは述べられているが、この文献はさらに適切ではない。
【0073】
Holmgrenらは、粘膜免疫化およびアジュバントの分野について簡単な概要を提示する。著者らは、とりわけ、粘膜アジュバントとしてのコレラ毒素の効果を考察しているが、遺伝子発現系または生ワクチンについての情報を開示せず、腫瘍治療についても言及しない(Holmgren et al.,2003)。
【0074】
HolmgrenおよびCzerkinskyも、粘膜免疫およびワクチンについての概要を提示する。しかし、この論文は、抗感染性だけに制限され、腫瘍治療の分野における明らかに可能な用途を論ずることも表すこともない(Holmgren and Czerkinsky, 2005)。
【0075】
FreytagおよびClementsによる別の総説は、抗感染性免疫療法での適用のための粘膜アジュバントを考察する。コレラ毒素が粘膜アジュバントとして述べられているが、著者は、分泌された毒素抗原コンストラクトおよび投与の可能な分野としての腫瘍治療について言及しない(Freytag and Clements, 2005)。
【0076】
ShawおよびStarnbachは、ワクチン抗原を送達するための改変細菌毒素の用途を記述する。しかし、その論文は、コレラ毒素を述べず、さらにワクチン投与理由で毒素抗原融合タンパク質の直接適用に限定される(Shaw and Starnbach, 2003)。
【0077】
国際特許出願第03/072789号は、腫瘍の処置用に用いられる細胞抗原をコードするヌクレオチド配列の担体として微生物に関する。この特許文献は、腫瘍治療の分野で分泌および用途を述べているが、細菌毒素および融合タンパク質について全く言及しない。
【0078】
Gentschev、Dietrich、およびGoebel、ならびにGentschevらは、腫瘍ワクチン開発において細胞ターゲティングおよびその用途を記述する。しかし、これらの二つの文献は、腫瘍治療における細菌毒素および融合タンパク質の用途を言及しない(Gentschev et al.,2002a;Gentschev et al.,2002b)。
【0079】
国際特許出願第98/23763号は、hylAに融合する異種抗原を含む融合ポリペプチドと共に、大腸菌溶血素BサブユニットおよびDサブユニットを発現させるコレラ菌細胞を開示する。さらに、コレラ毒素サブユニットBおよび分泌シグナル配列の融合ポリペプチド、異種抗原およびコレラ毒素A2サブユニットを発現させるコレラ菌ワクチン菌株が記述される。最後に、C.ディフィシル毒素Aまたは毒素Bサブユニットの抗原部分に融合するコレラ毒素Bサブユニットを含む融合ポリペプチドが開示される。しかし、この特許出願は、腫瘍治療におけるタンパク質毒素の融合タンパク質、さらにその上に異種の非タンパク質毒素抗原の用途を述べてない。
【0080】
Dietrichおよび同僚は、二種類のワクチン送達ツール(細胞性免疫で用いられることが可能な溶血素Aおよびリステリオリシン)を考察する。しかし、タンパク質毒素−異種抗原の融合タンパク質または同時発現は述べられてない(Dietrich et al.,2003)。
【0081】
Gentschevらは、チフス菌Ty21aワクチン菌株で抗原送達のための大腸菌のα溶血素分泌系の用途を記述する。しかし、著者らは、腫瘍治療で細菌毒素および融合タンパク質の用途を述べない(Gentschev et al.,2004)。
【0082】
国際特許出願第02/47727号は、タンパク質毒素のB−サブユニットを含む治療薬に関する。文献は、ウイルス抗原を有するCtxBおよびEtxBの融合タンパク質を開示する。細菌ワクチンまたは細菌ワクチン送達は述べられてない。
【0083】
Cheng−hua Sおよび同僚は、コレラ毒素Bサブユニットと、HBV PreS2エピトープとの遺伝子融合、および直接的免疫化研究における融合タンパク質の抗原性を記述する。しかし、細菌ワクチンまたは細菌ワクチン送達は述べられてない(Cheng−hua et al.,1995)。
【0084】
Sanchezらは、DNAワクチンと同時に皮内に投与される場合(Sanchez et al.,2004)、コレラ毒素Bサブユニット遺伝子が粘膜の免疫グロブリンA、Th1型、およびCD8+細胞傷害性応答を増強させる(Sanchez et al.,2004)ことを開示する。しかし、このアプローチでは、著者らは、自らアジュバントを促進するTh1として作用する担体としてDNAを用いる。さらに、そのタンパク質は、宿主細胞によって産生され、直接的にまたは細菌担体を介して送達されず、従って、真核細胞に直接的に使用可能である。
【0085】
国際特許出願第01/29233号は、キメラ免疫原組成物およびそれらの組成物をコードする核酸に関する。しかし、細菌ワクチンまたは細菌ワクチン送達は述べられてない。
【0086】
国際特許出願第2007/044406号は、III型分泌シグナルを有するSopEに基づいている細菌抗原送達系を用いて、免疫応答を刺激する方法に関する。しかし、この特許出願は、腫瘍治療での細菌毒素および融合タンパク質の用途を述べてない。
【0087】
要約すれば、天然毒素は、それらの強い毒性のためヒトでの使用を確立され得ないことを先行技術から結論づけることができる。さらに、腫瘍治療でのそれら天然毒素の適用は、自然免疫系の応答(特にNK細胞の応答)が抑制されるために、有害である。しかし、腫瘍細胞は、MHCクラスI分子を発現させるそれら細胞の能力を極めて頻繁に失うことがあり、従ってCTLの認識および攻撃に抵抗性であるので、腫瘍治療の成功にとって重大な成分は、この免疫応答である。
【0088】
一方、解毒した毒素のサブユニットを単体または(異種の)抗原タンパク質に融合させて使用することは、強度に弱毒化したアジュバント効果および/または免疫系の誘導された全身性寛容、ならびに粘膜に制限された抗体およびTh2型免疫応答をもたらす。
【0089】
さらに、抗感染症ワクチン(すなわち、抗原または毒素それ自体でさえ標的にする)の過程で記述されるだけである、(異種の)抗原毒素融合タンパク質の分泌は、細胞質発現に対して何ら利点を示さないばかりか、一般的にむしろ不適切であるといわれている。
【0090】
全般的に見て、腫瘍の治療的アプローチは、提示されることもなく、ヘルパーT細胞を産生するIFNγによるTh1支配型細胞免疫応答の全身的誘導も、CTLの誘導も、自然免疫系の活性化も、記述されることなくまたは達成されなかった。それらすべては、腫瘍治療に不可欠である。
【0091】
本発明は、強力な、全身的細胞性免疫系の応答を誘導し、かつ効果的な腫瘍治療を達成することができる方法によって、新規の腫瘍ワクチンを提供する目的を有する。
【0092】
本発明の目標は、抗原および以下の成分を含むタンパク質毒素をコードするヌクレオチド配列の担体としての微生物を提供することで、一つの態様において驚くほど解決されている。すなわち、
(I)少なくとも一つの野生型タンパク質または変異型タンパク質の少なくとも一つの完全抗原または部分抗原をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列;
(II)少なくとも一つのタンパク質毒素および/または少なくとも一つのタンパク質毒素サブユニットをコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列;
(III)a)微生物の外表面上で成分(I)および成分(II)の発現産物の発現を可能にし、ならびに/または成分(I)および成分(II)の発現産物の分泌を可能にする少なくとも一つの輸送系をコードする;ならびに/また成分(I)および成分(II)の発現産物の分泌を可能にする少なくとも一つのシグナル配列をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列;
b)場合により、哺乳類細胞のサイトゾル内で微生物を溶菌するため、および溶菌した微生物に含有されるプラスミドまたは発現ベクターを細胞内に遊離させるために少なくとも一つのタンパク質をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列;
(IV)成分(I)乃至(III)のうちの一つまたは複数の発現のための少なくとも一つの活性化配列のための少なくとも一つのヌクレオチド配列、ここで前述の活性化配列は、微生物内で活性化されることができ、および/または組織細胞特異的、腫瘍細胞特異的、マクロファージ特異的、樹状突起特異的、リンパ球特異的、機能特異的、または非細胞特異的である;
成分(I)乃至(IV)のいずれも、1回または複数回のいずれかで存在することが可能であり、成分(I)乃至(IV)からの一つの成分が複数回存在する場合、それは互いに非依存的に同一であるかまたは異なり得る。
【0093】
好ましい実施形態では、上述の成分(I)乃至(IV)を含む微生物が提供され、成分(I)および成分(II)は同一でない。すなわち、成分(I)は少なくとも一つのタンパク質毒素および/または少なくとも一つのタンパク質毒素サブユニットをコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列をコードしない
【0094】
本発明の過程で成分(IV)と関連して、用語「組織細胞特異的」は、標的組織細胞(例えば前立腺組織内のホルモン依存性プロモーター)内で特異的に活性化される活性化配列をいう。
【0095】
本発明の過程で成分(IV)と関連して、用語「腫瘍細胞特異的」は、腫瘍細胞(例えば腫瘍特異的腫瘍遺伝子の作用によって活性化されるプロモーターエレメント)内で特異的に活性化される活性化配列をいう。
【0096】
本発明の過程で成分(IV)と関連して、用語「マクロファージ特異的」は、マクロファージ特異的遺伝子をコードする(例えばF4/80をコードする遺伝子)プロモーターエレメント等のマクロファージ内で特異的に活性化される活性化配列をいう。
【0097】
本発明の過程で成分(IV)と関連して、用語「樹状突起特異的」は、樹状細胞内で特異的に活性化される(例えばB7.1の発現を制御するプロモーターエレメント)活性化配列をいう。用語「樹状突起特異的」および「樹状細胞特異的」は、同等である。すなわち、それらは同じ意味を有し、かつ両方とも樹状細胞をいう。
【0098】
本発明の過程で成分(IV)と関連して、用語「リンパ球特異的」は、リンパ球系統の細胞内で特異的に活性化されるエレメント(例えばT細胞内でCD3分子の発現を調節するプロモーターエレメント、または成熟B細胞内でCD20の発現を調節するプロモーターエレメント)をいう。
【0099】
本発明の過程で成分(IV)と関連して、用語「機能特異的」は、細胞状況で(例えばp53発現を喪失した腫瘍細胞内で)特異的に活性化される活性化配列、または状況に応じて(例えば細胞局在もしくは酸素圧)細菌内で活性化される活性化配列をいう。
【0100】
本発明の過程で成分(IV)と関連して、用語「非細胞特異的」は、遍在的に活性である(例えば構成的に活性な細菌プロモーター)活性化配列をいう。
【0101】
本発明の過程で、用語「ヌクレオチド配列」は、dsDNA、ssDNA、dsRNA、ssRNA、またはdsDNA/RNAハイブリッドをいう。好ましいのはdsDNAである。
【0102】
本発明の過程で、用語「抗原」は、抗体と反応する分子(すなわち、抗体を生成することができる)をいう。一部の抗原は、それ自体によって、抗体産生を誘発せず、抗体産生を誘導することができるものだけを免疫原とよばれる。本発明の目的で、公知の抗原のすべての種類は、含まれることを意図する。不当な負担なしに、データベースおよび/または実験的なスクリーニングによって潜在的抗原についての必要な情報を回収することは当業者の知識の範囲内である。抗原の例は、特に細胞抗原、組織細胞特異的抗原(例えば腫瘍が由来する組織細胞)、細胞タンパク質抗原、ウイルス抗原、ウイルスタンパク質抗原 等である。好ましいのは、タンパク質抗原である。さらに好ましいのは、異種抗原または外来抗原(すなわち、本発明のそれぞれの微生物にとって内在性でない抗原、または本発明のそれぞれの微生物によって本来発現されないが、標準の分子生物技術の方法によって該微生物に導入される抗原)である。
【0103】
本発明の過程で、用語「完全抗原」は、上記の定義によって抗体と反応する完全な分子をいう。完全抗原の例は、例えば完全長タンパク質があり、これらも好ましい。
【0104】
本発明の過程で、用語「部分抗原」は、上記の定義によって抗体と反応する分子の特定の部分をいう。部分抗原は、例えばタンパク質モチーフ(例えばタンパク質内のアミノ酸ループ、タンパク質キナーゼドメイン、エピトープ)であり得る。好ましいのは、タンパク質キナーゼドメインおよびエピトープである。後者は、抗体によって認識される抗原の特異的部位(抗原決定基ともよばれる)である。
【0105】
本発明の過程で「タンパク質」に関連して、用語「野生型」および「変異型」は、「天然の」支配するアミノ酸配列(それぞれのヌクレオチド配列によってコードされる)からなるタンパク質、およびそれぞれ野生型配列と比較すると、タンパク質のアミノ酸配列(それぞれヌクレオチド配列によってコードされた)に一つまたは複数の変異を有するタンパク質をいう。好ましくは、野生型タンパク質および/または変異型タンパク質は、腫瘍細胞に由来する。部分抗原に関しては、アミノ酸配列は変異を包含する(すなわち、好ましくは一つまたは複数の変異(例えばB−Raf V600Eエピトープ)を含有するエピトープが選択される)ことがさらに好ましい。
【0106】
本発明の意味での微生物は、細菌、グラム陽性菌、グラム陰性菌、および真核細胞であり、後者は、単細胞寄生虫、酵母、腫瘍細胞、および細胞株細胞(例えば出芽酵母、リーシュマニア菌種、患者由来の自己腫瘍細胞、および腫瘍細胞系)を含む。そのような微生物は、通常、その微生物にとって外来である(異種または異質の)ヌクレオチド配列の転移のための担体として用いられる。好ましくは、それらの病原性を減弱させた細菌、例えばaroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phoP/Q、ompの欠失遺伝子または不活性化遺伝子を有する細菌、温度感受性変異または抗生物質依存性変異である細菌が用いられる(Cardenas and Clements, 1992)。さらに、上記成分(I)乃至(IV)を含む微生物として好ましいのは、担体としてのグラム陰性、減弱した通性細胞内細菌であり、それは腸粘膜を抑えることができる(例えばサルモネラ菌種または 赤痢菌種)。
【0107】
好ましい実施形態では、上記成分(I)乃至(IV)を含む微生物が提供される。ここで、微生物は、細菌、グラム陽性菌、グラム陰性菌、真核細胞からなる群から選択され、および好ましくは、大腸菌種、大腸菌、サルモネラ菌種、チフス菌、ネズミチフス菌、エルシニア菌種、エンテロコリチカ菌、ビブリオ菌種、コレラ菌、リステリア菌種、リステリア菌、赤痢菌種、シゲラ・フレックスネリからなる群から選択され、ここで好ましくは微生物の病原性は減弱される。さらに好ましいのは、コレラ菌は、上記に定義する微生物から除外される。
【0108】
任意の微生物に関連して用語「菌種」は、本発明の目的で与えられた属のすべてのメンバー(種、亜種等)を含むことを意図する。例えば、用語「サルモネラ菌種」は、サルモネラ属(例えばチフス菌、およびネズミチフス菌)のすべてのメンバーを含むことを意図する。
【0109】
別の好ましい実施形態では、上記の定義による微生物が提供され、そこで成分(I)による少なくとも一つの野生型タンパク質または変異型タンパク質の少なくとも一つの完全抗原または部分抗原は、以下の野生型タンパク質およびそれらの公知の変異体からなる群から選択される。すなわち、受容体;受容体の細胞外部分、膜貫通部分、もしくは細胞内部分;接着分子;接着分子の細胞外部分、膜貫通部分、または細胞内部分;シグナル伝達タンパク質;細胞周期タンパク質;転写因子;分化タンパク質;胚タンパク質;ウイルスタンパク質;アレルゲン;病原性微生物のタンパク質;病原性真核生物のタンパク質;癌精巣抗原タンパク質;腫瘍抗原タンパク質;および/または組織細胞特異的タンパク質、組織細胞は、甲状腺、乳腺、唾液腺、リンパ節、乳腺、胃粘膜、腎臓、卵巣、前立腺、頚部、膀胱漿膜、および母斑からなる群から選択される。
【0110】
変異型タンパク質に関して、突然変異は発癌性であり得、およびその本来の細胞機能の喪失または獲得を引き起こし得る。
【0111】
そのような抗原は、細胞において細胞増殖および細胞分裂の制御を行い、正常な細胞の細胞膜上で、例えばMHCクラスI分子によって提示される。腫瘍細胞では、これらの抗原は過剰に発現されるか、または特異的に変異していることが多い。そのような突然変異は、結果として、癌遺伝子抑制因子の機能制限または癌遺伝子に対する癌原遺伝子の活性化を有することが可能であり、および腫瘍増殖に単独で関与する、または過剰発現と共に関与し得る。しかし、そのような細胞抗原は、患者の腫瘍疾患に影響する免疫反応を引き起こすことなく、腫瘍細胞の膜上で提示され、従って腫瘍細胞上で抗原を表す。Rapp(米国特許第5,156,841号)は、すでに、腫瘍性タンパク質の用途(すなわち、腫瘍ワクチン用の免疫原としての癌遺伝子の発現産物)を記述している。
【0112】
本発明による種々の抗原およびそれらの(発癌性)突然変異の例は、以下のとおりである。i)受容体(例えばHer−2/neu、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、ラクトフェリン受容体、ミッドカイン受容体、EGF受容体、ERBB2、ERBB4、TRAIL受容体、FAS、TNFα受容体、TGFβ受容体);ii)シグナル伝達タンパク質(例えばc−Raf(Raf−1)、A−Raf、B−Raf、B−Raf V599E、B−Raf V600E、B−Raf KD、B−Raf V600Eキナーゼドメイン、B−Raf V600E KD、B−Raf V600EキナーゼドメインKD、B−Rafキナーゼドメイン、B−RafキナーゼドメインKD、Ras、Bcl−2、Bcl−X、Bcl−W、Bfl−1、Brag−1、Mcl−1、A1、Bax、BAD、Bak、Bcl−Xs、Bid、Bik、Hrk、Bcr/abl、Myb、C−Met、IAP1、IAO2、XIAP、ML−IAP LIVIN、サバイビン、APAF−1);iii)細胞周期の制御のタンパク質(例えばサイクリンD(1〜3)、サイクリンE、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンH、Cdk−1、Cdk−2、Cdk−4、Cdk−6、Cdk−7、Cdc25C、p16、p15、p21、p27、p18、pRb、p107、p130、E2F(1〜5)、GAAD45、MDM2、PCNA、ARF、PTEN、APC、BRCA、p53、および相同体);iv)転写因子(例えばC−Myc、NFkB、c−Jun、ATF−2、Sp1);v)胚タンパク質(例えば癌胎児性抗原、α−胎児タンパク質、MAGE、MAGE−1、MAGE−3、NY−ESO−1、PSCA);vi)分化抗原(例えばMART、Gp100、チロシナーゼ、GRP、TCF−4、塩基性ミエリン、α−ラクトアルブミン、GFAP、前立腺特異的抗原(PSA)、線維性酸性タンパク質、EGR−1、MUC1);vii)ウイルス抗原(例えば以下のウイルス:HIV、HPV、HCV、EBV、CMV、HSV、インフルエンザウイルス、インフルエンザA型ウイルス、インフルエンザA型ウイルス(H5N1)および(H3N2)、インフルエンザB型ウイルス、インフルエンザC型ウイルス);赤血球凝集素、赤血球凝集素H1、赤血球凝集素H5、赤血球凝集素H7、赤血球凝集素HA1(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、赤血球凝集素HA12(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、赤血球凝集素HA12C(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、ノイラミニダーゼ、微生物抗原(p60)、LLO、ウレアーゼ。真核生物病原体の抗原、すなわち、CSP(マラリア)、calflagin(トリパノソーマ)、CPB(大形リーシュマニア)等。
【0113】
さらに別の好ましい実施形態では、上記の定義により微生物が提供され、ここで成分(I)による少なくとも一つの野生型タンパク質または変異型タンパク質のうち少なくとも一つの完全抗原または部分抗原が以下の野生型タンパク質およびそれらの公知の変異体からなる群から選択される。すなわち、Her−2/neu、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、ミッドカイン受容体、EGF受容体、ERBB2、ERBB4、TRAIL受容体、FAS、TNFα受容体、TGFβ受容体、ラクトフェリン受容体、塩基性ミエリン、α−ラクトアルブミン、GFAP、線維性酸性タンパク質、チロシナーゼ、EGR−1、MUC1)、c−Raf(Raf−1)、A−Raf、B−Raf、B−Raf V599E、B−Raf V600E、B−Raf KD、B−Raf V600Eキナーゼドメイン、B−Raf V600E KD、B−Raf V600EキナーゼドメインKD、B−Rafキナーゼドメイン、B−RafキナーゼドメインKD、N−Ras、K−Ras、H−Ras、Bcl−2、Bcl−X、Bcl−W、Bfl−1、Brag−1、Mcl−1、A1、Bax、BAD、Bak、Bcl−Xs、Bid、Bik、Hrk、Bcr/abl、Myb、C−Met、IAP1、IAO2、XIAP、ML−IAP LIVIN、サバイビン、APAF−1、サイクリンD(1〜3)、サイクリンE、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンH、Cdk−1、Cdk−2、Cdk−4、Cdk−6、Cdk−7、Cdc25C、p16、p15、p21、p27、p18、pRb、p107、p130、E2F(1〜5)、GAAD45、MDM2、PCNA、ARF、PTEN、APC、BRCA、Akt、P13K、mTOR、p53および相同体、C−Myc、NFkB、c−Jun、ATF−2、Sp1、前立腺特異的抗原(PSA)、癌胎児性抗原、α−胎児タンパク質、PAP;PSMA;STEAP;MAGE、MAGE−1、MAGE−3、NY−ESO−1、PSCA、MART、Gp100、GRP、TCF−4、ウイルス抗原(例えばHIV、HPV、HCV、EBV、CMV、HSV、インフルエンザウイルス、インフルエンザA型ウイルス、インフルエンザA型ウイルス(H5N1)および(H3N2)、インフルエンザB型ウイルス、インフルエンザC型ウイルスのウイルス);赤血球凝集素、赤血球凝集素H1、赤血球凝集素H5、赤血球凝集素H7、赤血球凝集素HA1(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、赤血球凝集素HA12(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、赤血球凝集素HA12C(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、ノイラミニダーゼ、p60、LLO、ウレアーゼ、CSP、calflagin、ならびに/またはCPB。
【0114】
さらに別の好ましい実施形態では、上記の定義により微生物が提供され、ここで成分(I)による少なくとも一つの野生型タンパク質または変異型タンパク質のうち少なくとも一つの完全抗原または部分抗原が以下の野生型タンパク質およびそれらの公知の変異体(括弧内はアクセッション番号)からなる群から選択される。
【0115】

【0116】

【0117】

【0118】

【0119】

【0120】
本発明の過程で用語「アレルゲン」は、本明細書に定義するように、過敏症および/またはアレルギー反応を誘発する完全抗原または部分抗原をいう。例としては、Der p5(ダニ)、Bet v1(カバノキの花粉)、Phl p1(牧草花粉)、Asp fl/a(コウジカビ)、PLA 2(ミツバチ)、Hev b(ラテックス)(Schmid−Grendelmeier and Crameri, 2001)がある。
【0121】
微生物病原体および真核生物病原体の抗原ならびに癌精巣抗原の抗原は、上記の一覧表に含まれている。
【0122】
本発明の過程で、成分(II)によるタンパク質毒素および/またはそれらのサブユニットは、好ましくは、細菌タンパク質毒素であり、より好ましくは、外毒素である。細菌外毒素の例としては、I型毒素(スーパー抗原)、II型毒素(ポア形成毒素)、およびIII型毒素(A−B毒素)である。
【0123】
好ましい実施形態では、上記の定義による微生物が提供され、成分(II)は、細菌毒素、エンテロトキシン、外毒素、I型毒素、II型毒素、III型毒素、IV型毒素、V型毒素、RTX毒素、AB毒素、A−B毒素、A/B毒素、A+B毒素、A−5B毒素、および/またはAB5毒素からなる群から選択される。
【0124】
さらに好ましい実施形態では、上記の定義による微生物が提供され、成分(II)は、アデニル酸シクラーゼ毒素、炭疽毒素、炭疽毒素(EF)、炭疽毒素(LF)、ボツリヌス毒素、コレラ毒素(CT、Ctx)、コレラ毒素サブユニットB(CTB、CtxB)、ジフテリア毒素(DT、Dtx)、大腸菌LT毒素、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン(LT)、大腸菌熱不安定性エンテロトキシンサブユニットB(LTB)、大腸菌ST毒素、大腸菌熱安定性エンテロトキシン(ST)、発赤毒素、表皮剥脱性毒素、外毒素A、パーフリンジェンス エンテロトキシン、百日咳毒素(PT、Ptx)、志賀毒素(ST、Stx)、志賀毒素サブユニットB(STB、StxB)、志賀様毒素、ブドウ球菌エンテロトキシン、破傷風毒素(TT)、毒素性ショック症候群毒素、(TSST−1)、ベロ毒素(VT)、ディフィシル菌の毒素A(TA)および毒素B(TB)、ソルデリ菌の致死毒素(LT)および出血性毒素(HT)、ノーヴィ菌のα毒素(AT)からなる群から選択される。
【0125】
しかし、本発明の成分(II)による毒素としてコレラ毒素またはそのサブユニットCtxBを用いる場合、細菌担体(微生物)として.コレラ菌を利用しないことが好ましい。
【0126】
好ましい実施形態では、上記の定義による微生物が提供される。ここで、成分(I)および成分(II)は結合されて、両成分によってコードされる融合タンパク質の発現および/または分泌を可能にする。より好ましくは、この融合タンパク質は、CtxB−PSA、CtxB−B−Raf V600E KD(キナーゼデッド)、CtxB−B−Raf V600Eキナーゼドメイン、CtxB−B−Raf V600EキナーゼドメインKD(キナーゼデッド)、CtxB−B−Raf、CtxB−B−Raf KD(キナーゼデッド)、CtxB−B−RafキナーゼドメインKD(キナーゼデッド)、CtxB−HA1(インフルエンザウイルスの赤血球凝集素のサブユニット1)、CtxB−HA12Cからなる群から選択される。
【0127】
分泌は、化学物質を細胞から分離、同化、および遊離する方法であり、すなわち分泌化学物質または物質の量である。分泌は、真核生物だけに特有ではなく、細菌および古細菌にも存在する。ATP結合カセット(ABC)型輸送体は、生命のこれら3つのドメインすべてに共通である。分泌系はまた別の保存分泌系である。これは、酵母のSec61トランスロコン複合体および細菌のSec Y−E−G複合体からなる真核生物小胞体におけるトランスロコンと相同である。グラム陰性菌は二つの膜を有し、従って、分泌形態をさらに複雑にする。従って、グラム陰性菌には、少なくとも5種類の特殊化分泌系がある。すなわち、
(1)I型分泌系:これは、上述のATP結合カセット輸送体と同じである。
【0128】
(2)II型分泌系:これは、内膜を横切るタンパク質のための分泌系および外膜を横切る別の特別な系に依存する。細胞線毛は、分泌系の改変を用いるがI型系とは異なる。
【0129】
(3)III型分泌系(T3SS):細菌鞭毛基底小体と相同である。それは、細菌(例えば赤痢菌またはエルシニア)が真核細胞内にタンパク質を注入することができる分子シリンジのようなものである。サイトゾルで低濃度Ca2+は、T3SSを調節するゲートを開く。植物病原体でのHrp系は、同様の機構を介して植物内にヘアピンを注入する。
【0130】
(4)IV型分泌系:これは、細菌(および古細菌鞭毛)の接合機構と相同であり、DNAおよびタンパク質の両方を輸送することができる。これは、アグロバクテリウム・ツメファシエンスで発見され、クラウンゴール(腫瘍)を発生する宿主内にT1プラスミドおよびタンパク質を導入するために、この系を用いる。ピロリ菌は、IV型分泌系を用いて胃上皮細胞内にCag Aを注入する。百日咳菌(百日咳の原因物質)は、IV型分泌系を介して百日咳毒素を部分的に分泌する。
【0131】
(5)V型分泌系(自己輸送体ともよばれる):これは内膜を横切るための分泌系を使用する。残りのペプチドを外に輸送するために、この経路を使用するタンパク質はそれらのC末端にβバレルを形成し、外膜内に挿入する能力を有する。最終的に、βバレルは切断されて外膜に置き去りにされることもある。一部の人は、自己輸送体のこれらの残遺物がβバレルと類似するポリンを生じさせたと考えている。
【0132】
ミトコンドリアおよび葉緑体と同様に細菌も、多数の他の特別な輸送系(例えば双アルギニン転位(Tat)経路)を使用する。これは、分泌依存排出と対照的に、完全に折り畳まれたタンパク質を、膜を横切って輸送する。この系の名前は、この系を標的にするために必要とされるシグナル配列における二つの連続したアルギニンに対する必要性に由来する。グラム陰性菌における分泌は、適切な分泌系(例えばHlyI型またはIII型分泌系またはAIDA自己輸送体)によって内膜および外膜を克服することを含む。グラム陽性菌において、分泌系は内膜および細胞壁を克服しなければならない。これは、ほとんどの菌株では適切な分泌シグナルによる融合によって達成されることができる。
【0133】
成分(III)a)は、微生物の外表面上で成分(I)および成分(II)の発現産物を発現させることを可能にし、および/または成分(I)および成分(II)の発現産物を分泌させることを可能にする少なくとも一つの輸送系をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列である。それぞれの成分は、選択肢として、微生物の膜上で分泌されるまたは発現されることができる(すなわち膜結合型である)。そのような輸送系は、例えばi)I型分泌系、II型分泌系、III型分泌系、IV型分泌系、V型分泌系、ii)大腸菌(hly特異的プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の溶血素輸送系(シグナル);以下の輸送シグナル:分泌のため−HlyBおよびHlyDのタンパク質の存在下で、C末端HlyA輸送シグナル;膜結合発現のため−HlyBタンパク質の存在下で、C末端HlyA輸送シグナル、iii)大腸菌(非hly特異的細菌プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の溶血素輸送系(シグナル)、iv)カウロバクター・クレセンタスのS層タンパク質(RsaA)のための輸送シグナル;分泌および膜結合発現のため−C末端RsaA輸送シグナル、v)TolCタンパク質大腸菌のための輸送シグナル;膜結合発現のため−TolCのN末端輸送シグナル(大腸菌の膜内在性タンパク質TolCは、大腸菌の外膜の多機能ポア形成タンパク質であり、例えばコリシンE1の受容(Morona et al.,1983)およびコリシンVの分泌(Fath et al.,1991)の機能に加えて、U3ファージの受容体として役立つ(Austin et al.,1990))が用いられる;このタンパク質は、大腸菌だけでなく、数多くのグラム陰性菌にも見出される(Wiener, 2000);その外膜の局在性および広域の発生のために、TolCは、例えば免疫反応を引き起こすための異種抗原を示す理想的な候補となる。
【0134】
グラム陽性菌は外膜を包含しない。これらの場合での分泌は、単純であり、細胞膜および細胞壁を通る輸送のための専用の分泌機構を通常は必要としない。グラム陽性菌の場合では、異種タンパク質のN末端に融合した分泌シグナルは、通常、分泌には必要十分である。それについてこれらのシグナル配列が記述されるタンパク質は、主に分泌される細菌タンパク質をすべて含む。リステリアの例は、リステリオリシン(p60またはActA)由来の分泌シグナルである。保留シグナルの非存在下で小胞体へのタンパク質を標的にするシグナル配列(例えば遍在性分泌シグナルVtgss)は、分泌には必要十分である場合、一般に、同様のアプローチが真核細胞に適用される。
【0135】
任意の成分(III)b)は、哺乳類細胞のサイトゾル内で微生物を溶菌するため、および溶菌した微生物に含有されるプラスミドまたは発現ベクターを細胞内で遊離するための少なくとも一つのタンパク質をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列である。そのような溶解タンパク質(エンドリシン)は、例えば、リステリン特異的溶解タンパク質(例えばPLY551 (Loessner et al.,1995))および/またはリステリアプロモーターの制御下のリステリア特異的ホリンである。本発明の好ましい実施形態は、異なる成分(III)b)の組み合わせ(例えば溶解タンパク質とホリンとの組み合わせ)である。
【0136】
(III)a)および/または(III)b)の両成分は、互いに構成的活性型から非依存的であり得る。
【0137】
好ましい実施形態では、上記の定義による微生物が提供される。ここで、成分(III)a)は、I型分泌系、II型分泌系、III型分泌系、IV型分泌系、V型分泌系、大腸菌(hly特異的プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の溶血素輸送系(シグナル)、大腸菌(非hly特異的細菌プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の溶血素輸送系(シグナル)、カウロバクター・クレセンタスのS層タンパク質(RsaA)のための輸送シグナル、大腸菌のTolcタンパク質のための輸送シグナル、分泌シグナルVtgssおよび/またはリステリオリシン(p60またはActA)由来の分泌シグナルからなる群から選択され、ここで成分(III)b)は、エンドリシン、グラム陽性菌の溶菌タンパク質、リステリア菌の溶菌タンパク質、リステリア菌のPLY551、および/またはリステリア菌のホリンからなる群から選択される。
【0138】
さらに好ましい実施形態では、同じ成分(III)a)は、微生物の外表面上で成分(I)および成分(II)の発現産物の発現を可能にし、ならびに/または成分(I)および成分(II)の発現産物の分泌を可能にする。すなわち、この好ましい実施形態では、成分(III)a)は、微生物の外表面上で成分(I)および成分(II)の発現産物の同時発現を可能にし、ならびに/または成分(I)および成分(II)の発現産物の同時分泌を可能にするただ一つの輸送系をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列である。そのような好ましい成分(III)a)は、大腸菌(hly特異的プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の溶血素輸送系(シグナル)または大腸菌(非hly特異的細菌プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の溶血素輸送系(シグナル)をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列である。
【0139】
さらに別の好ましい実施形態では、上記の定義による微生物が提供される。ここで、成分(III)a)により成分(I)および成分(II)の発現産物が分泌される。より好ましくは、成分(I)および成分(II)は、結合され、両成分によってコードされる融合タンパク質として共に発現されて分泌される。最も好ましくは、この融合タンパク質は、CtxB−PSA、CtxB−B−Raf V600E KD(キナーゼデッド)、CtxB−B−Raf V600Eキナーゼドメイン、CtxB−B−Raf V600EキナーゼドメインKD(キナーゼデッド)、CtxB−B−Raf、CtxB−B−Raf KD(キナーゼデッド)、CtxB−B−RafキナーゼドメインKD(キナーゼデッド)、CtxB−HA1(インフルエンザウイルスの赤血球凝集素のサブユニット1)、CtxB−HA12Cからなる群から選択される。
【0140】
本発明の過程で「分泌」は、適切な分泌系(例えば上記に説明した分泌系)を用いてグラム陰性菌の両膜を通して、またはグラム陽性菌の内膜および細胞壁を通して、タンパク質抗原、タンパク質毒素、および/または毒素抗原融合タンパク質を隣接した環境に分泌することをいう。
【0141】
分泌系(例えば大腸菌由来の溶血素I型分泌系)を用いての分泌産物は、通常すべての細胞画分に見出される(細胞質で膜に結合した画分、自己膜小胞に位置する画分、および隣接する環境に完全に分泌された画分(Balsalobre et al.,2006))ことが知られているように、本発明の過程での分泌は、完全でなくてもよい。しかし、完全な分泌またはほぼ完全な分泌(すなわち完全に分泌された分泌産物の大部分の量)が望ましく好ましい。
【0142】
成分(IV)は、成分(I)乃至(III)のうちの一つまたは複数の発現のための少なくとも一つの活性化配列のための少なくとも一つのヌクレオチド配列を表す。ここで、前述の活性化配列は、微生物中で活性化されることができ、および/または組織細胞特異的、腫瘍細胞特異的、マクロファージ特異的、樹状突起特異的、リンパ球特異的、機能特異的、または非細胞特異的である。
【0143】
発現が微生物の外表面上の膜結合型である場合、その活性化配列は、好ましくは、微生物中で活性化されることができるように選択される必要がある。そのような活性化配列は、例えば、i)構成的に活性のプロモーター領域(例えば、大腸菌のβラクタマーゼ遺伝子、またはtetA遺伝子のリボソーム結合部位(RBS)(Busby and Ebright, 1994)を有するプロモーター領域、大腸菌hly遺伝子座の内在性プロモーター);ii)誘導されることが可能であるプロモーター、好ましくは、細胞での受容後に活性化するプロモーターである。これらのプロモーターには、リステリア菌のactAプロモーター(Dietrich et al.,1998)またはネズミチフス菌のpagCプロモーター(Bumann, 2001)が属する。
【0144】
微生物が哺乳類細胞のサイトゾルに溶菌した後に、プラスミドを遊離する場合、その活性化配列は細胞特異的ではないが、組織細胞特異的、細胞周期特異的、または機能特異的である。好ましくは、そのような活性化配列が選択され、それらはマクロファージ、樹状細胞、およびリンパ球で特に活性化される。
【0145】
さらに好ましい実施形態では、上記の定義による微生物が提供される。ここで,成分(I)は、B−Raf V600E、B−Raf V600Eキナーゼドメイン、B−Raf V600E KD(キナーゼデッド)、B−Raf V600EキナーゼドメインKD(キナーゼデッド)、B−RafKD(キナーゼデッド)、B−Rafキナーゼドメイン、B−RafキナーゼドメインKD(キナーゼデッド)、前立腺特異的抗原(PSA)、赤血球凝集素HA1(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、赤血球凝集素HA12(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、赤血球凝集素HA12C(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1)からなる群から選択される;
成分(II)は、コレラ毒素サブユニットB(CTB、CtxB)、大腸菌熱不安定性エンテロトキシンサブユニットB(LTB)、破傷風毒素(TT)からなる群から選択される;
成分(III)a)は、Hly分泌系(hly特異的プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の成分と共に大腸菌のHlyA溶血素輸送シグナルからなる群から選択される;
成分(IV)は、大腸菌hly遺伝子座の内在性プロモーターからなる群から選択される;
ここで、成分(I)および成分(II)は、結合されて、両成分によってコードされる融合タンパク質の発現を可能にし、融合タンパク質が分泌される。
【0146】
成分(I)乃至(IV)により上記に説明した微生物ならびに好ましい実施形態は、以下本発明の微生物とよぶ。
【0147】
本発明の微生物は、腫瘍治療における腫瘍ターゲティングの過程で生ワクチンとしての使用に有利に適している。すなわち、遺伝情報の担体として機能する本発明の微生物を用いて、タンパク質毒素と共に異種抗原は、腫瘍部位に輸送され、融合タンパク質として発現され、in situで分泌される。
【0148】
本発明の微生物は、輸送され,コードされて、発現させた毒素抗原融合タンパク質の効率的で優れた発現および分泌を介して、驚くほど有利に特徴づけられる(すなわち、細胞質凝集体および/またはペリプラズマ凝集体が生じない)。
【0149】
さらに、経口投与されるタンパク質ワクチンと比較して、本発明の微生物の投与による強力な全身性細胞免疫系応答は驚くほど誘発される。対照的にタンパク質ワクチンは、免疫系の全身性寛容を誘発する。
【0150】
最も顕著には、Th1の全身性細胞免疫系応答の誘導以外に、本発明の微生物は、MHCクラスI制限CD8+細胞傷害性T細胞(CTL)の活性化を誘導し、このCTL免疫応答を強く増強する。
【0151】
さらに、強力な細胞全身性のTh1およびCTLの免疫系応答の誘導および/または増強に加えて、自然免疫系(例えばNK細胞、NKT細胞、および/またはγ−δT細胞)も、相乗的方法で本発明の微生物によって驚くほど活性化される。
【0152】
コレラ毒素を毒素成分として用いる場合、本発明の微生物は、ヒトにおいて通常存在する毒素に対する免疫が既存しない(例えば、小児期の抗破傷風ワクチン投与による破傷風毒素と対照的に)利点を有する。従って、コレラ毒素および/またはそのサブユニット(特にCtxB)の使用が好ましい。
【0153】
本発明の微生物は、標的腫瘍(免疫)治療に基づく生ワクチンの経口投与に特に適している。それによって改善された患者コンプライアンスが達成できる。
【0154】
しかし、本発明の微生物は、腫瘍治療における使用だけに限定されない。主に、本発明の微生物は、全身性細胞のTh1免疫系応答の誘導が必須である治療を必要とするすべてのこうした疾患の処置および/または予防にも適している。そのような感染性疾患の例としては、HIV、インフルエンザ、HCVおよび他のウイルス性疾患、結核菌、リステリア菌、ならびに他の細菌性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0155】
本発明の微生物は、粘膜免疫系応答と全身性細胞免疫応答との組み合わせによる最適な防御を必要とするインフルエンザのような疾患の処置に完全に適している。さらに、本発明の微生物は、アレルギー疾患(例えばアレルギー性鼻炎)の免疫のようなTh1の特異的誘導にとって有用であり得る。そのような場合では、抗原は、タンパク質毒素成分に融合されるアレルゲンであり、それぞれのワクチンの作用原理は、アレルギー反応(疾患)でアレルゲンに対するTh2優位の免疫応答からTh1免疫応答への免疫応答シフトである。
【0156】
好ましい適用方法は、経口適用である。好ましい実施形態では、本発明によるサルモネラ菌株を、適切な培地で発酵させ、収集し、遠心によって洗浄し、その後に処方し、適切な物質を用いて安定化させ、次いで凍結乾燥させる。凍結乾燥させた物質を、多数の生細胞数(好ましくは109乃至1010の範囲の細胞)を含有する胃耐性カプセルに充填する。それらのカプセルを液体と共に経口で摂取する。
【0157】
あるいは、上述のように凍結乾燥させた細菌を、胃酸を中和させることができる緩衝剤を含有する小袋と共に分布させる(医薬品キット)。好ましい実施形態では、この緩衝剤は炭酸緩衝剤である。使用直前にこの緩衝剤を水で調製して、溶解させる。その後直ちに、凍結乾燥させた細菌を、水で混合させて摂取する。
【0158】
さらに別の方法は、凍結細菌の使用である。この場合では、洗浄後細菌を、安定剤(好ましくは、ショ糖またはグリセリン)を介して安定化させ、その後凍結させて−80℃で、好ましくは投与量あたり109乃至1010の細胞濃度で保存する。この製剤は、好ましくは、上述のように炭酸緩衝剤と共に医薬品キットで用いる。
【0159】
好ましい実施形態では、医薬組成物は、本発明の微生物を少なくとも1種類(好ましくは本発明の少なくとも1種類の凍結乾燥させた微生物)および薬学的に許容される担体(好ましくはカプセル)を含み、提供される。
【0160】
本発明による成分(I)乃至(IV)は、当業者に周知の方法によって本発明の微生物内に導入される。微生物が細菌を表す場合、その成分は、プラスミドまたは発現ベクター内に挿入され、次いでそのプラスミドまたは発現ベクターは、その細菌内に移される。本発明のプラスミド、発現ベクター、および微生物の生成に適した分子生物学的クローニングおよび形質転換の技術は、当業者に周知であり、日常的な実験研究を意味する。
【0161】
本発明の別の主題は、本発明の微生物を含有する薬物製剤の投与である。投与は局所的または全身的に(例えば経口で、経口的に、経直腸的に、表皮内に、皮下組織内に、筋肉組織内に、体腔内に、器官内に、腫瘍内に、または血液循環内に)なされる。
【0162】
そのような薬物製剤は、注射に適した(例えば薬剤師によく知られている)溶液中の本発明の微生物の懸濁液である。
【0163】
本発明の特定の主題は、疾患の処置および/または予防のために、本発明による薬物の経口的または経直腸的な投与である。投与は、単回または複数回なされることが可能である。各投与では、本発明のおおよそ10乃至1011の微生物が投与される。本発明の微生物のこの回数による投与が十分な免疫反応を起こさない場合、注射される回数を増やす必要がある。
【0164】
本発明の微生物の投与後、細胞提示成分(I)の寛容(例えば、腫瘍が生ずる腫瘍細胞または組織細胞)は破壊され、腫瘍および/またはその組織細胞に対して作られる強い全身性免疫応答が引き起こされる。成分(I)の選択に応じて、この細胞免疫反応は、全く腫瘍だけに対して、または腫瘍細胞が生ずる組織細胞を含む腫瘍細胞に対しても作られる。
【0165】
別の態様では、本発明の目標は、上記に説明した遺伝子成分(I)乃至(IV)または本明細書で明らかにした少なくとも1種類の医薬組成物を含む、本発明の少なくとも1種類の微生物を含む薬物を提供することによって解決されている。
【0166】
好ましい実施形態では、本発明の微生物を用いて、無制御細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、細胞腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓癌、腎細胞腫、前立腺癌、前立腺細胞腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺癌、骨肉腫、網膜芽腫、胸腺腫、精巣癌、肺癌、気管支癌、乳癌、乳腺細胞腫、腸癌、大腸腫瘍、結腸癌、直腸癌、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣の腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、頚部細胞腫、子宮体癌、子宮体細胞腫、子宮内膜癌、膀胱癌(urinary bladder cancer)、膀胱癌(bladder cancer)、皮膚癌、基底細胞腫、棘細胞癌、メラノーマ、眼内メラノーマ、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルス性または細菌性感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、および/または自己免疫疾患からなる群から選択される生理的および/または病態生理的な状態の処置および/または予防のための薬物を生成することができる。
【0167】
細菌感染症は、炭疽、細菌性髄膜炎、ボツリヌス中毒、ブルセラ症、カンピロバクター症、ネコ引っ掻き病、コレラ、ジフテリア、発疹チフス、膿痂疹、ネジオネラ症、らい病(ハンセン病)、レプトスピラ症、リステリア症、ライム病、類鼻疽、MRSA感染症、ノカルジア症、百日咳、ペスト、肺炎球菌性肺炎、オウム病、Q熱、ロッキー山紅斑熱(RMSF)、ナルモネラ症、しょう紅熱、細菌性赤痢、梅毒、破傷風、トラコーマ、結核、野兎病、腸チフス熱、チフス、尿路感染症、細菌性心臓疾患を含むがこれらに限定されない。
【0168】
ウイルス感染症は、AIDS、AIDS関連症候群(ARC)、水痘、感冒、サイトメガロウイルス感染症、コロラドダニ熱、デング熱、エボラ出血熱、手足口病、肝炎、単純ヘルペス、帯状疱疹、HPV、インフルエンザ、ラッサ熱、麻疹、マールブルク出血熱、伝染性単核球症、流行性耳下腺炎、灰白脊髄炎、進行性多巣性白質脳症、狂犬病、風疹、SARS、天然痘(痘瘡)、ウイルス性脳炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性肺炎、ウエストナイル疾患、黄熱.を含むがこれらに限定されない。
【0169】
慢性炎症または慢性炎症性疾患は、慢性胆嚢炎、気管支拡張症、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病)、珪肺症および他のじん肺症を含むがこれらに限定されない。
【0170】
自己免疫疾患は、全身性症候群(例えばSLE、シェーグレン症候群、強皮症、関節リウマチおよび多発性筋炎)、ならびに局所性症候群(例えばIDDM、橋本甲状腺炎、アジソン病、尋常性天疱瘡、乾癬、アトピー性皮膚炎、アトピー性症候群、喘息、自己免疫性溶血性貧血、多発性硬化症)を含むがこれらに限定されない。
【0171】
本明細書に記述し明らかにしたように、生理的および/または病態生理的な状態の処置および/または予防で使用するために、本明細書に記述したすべての実施形態により本明細書に明らかにしたように少なくとも1種類の微生物、または本明細書に明らかにしたように少なくとも1種類の医薬組成物を含む対応する薬物も、本発明によって含まれる。
【0172】
別の態様では、本発明の目標は、本明細書に説明するように成分(I)乃至(IV)を含むプラスミドまたは発現ベクターを提供することによって解決されている。本明細書に説明するように成分(I)乃至(IV)を含む少なくとも1種類のプラスミドまたは発現ベクターを有する、本発明の微生物が好ましい。
【0173】
別の態様では、本発明の目標は、本発明の微生物の生成のための方法を提供することによって解決されている。ここで、本明細書に説明するプラスミドまたは発現クベターが生成され、次いで微生物はこのプラスミドまたは発現クベターで形質転換される。
【0174】
別の態様では、本発明の目標は、本発明の少なくとも1種類の微生物、または上述した医薬組成物、または上述した薬物、および薬学的に許容される緩衝剤(好ましくは炭酸緩衝剤)を含む医薬品キットを提供することによって解決されている。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】大腸菌溶血素A(hlyA)分泌シグナルのヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。Nsil部位に下線を引く。
【図2】大腸菌溶血素I型輸送系の大腸菌溶血素B(hlyB)のヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。
【図3】大腸菌溶血素I型輸送系の大腸菌溶血素D(hlyD)のヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。
【図4】シグナルペプチドなしのヒト前立腺特異的抗原(PSA)のヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。アクセッション番号M26663(ヒト前立腺−特異的抗原 mRNA、完全コード配列)、領域100〜807(対応するペプチド:AA26〜261)。
【図5】領域204〜494を包含する、シグナルペプチドなしのコレラ毒素サブユニットB(CtxB)のヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。アクセッション番号K01170(コレラ エンテロトキシンサブユニットA2(γ)のためのコレラ菌toxAおよびtoxB遺伝子コレラ菌)。
【図6】ヒトB−rafタンパク質(BRAF)のB−Rafキナーゼドメイン(B−Raf KD)のヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。アクセッション番号M95712(ヒトB−rafタンパク質(BRAF)mRNA、完全コード配列)、V600E突然変異を含有する、領域1448〜1477なしの領域1403〜2359(対応するペプチド:AA463〜472なしのAA448〜766)。
【図7】ヒトHLA B27制限B−Raf V600Eエピトープのヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。
【図8】CtxB−PSA−HlyAの遺伝子融合コンストラクトのヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。
【図9】Ctx−B−Raf V600E−HlyAの遺伝子融合コンストラクトのヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。
【図10】CtxB−B−Raf V600EキナーゼドメインKD−HlyAの遺伝子融合コンストラクトのヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。
【図11】pMKhly−PSA−CtxBのための種々の細菌種組換えでのPSA−CtxB融合タンパク質の機能的発現および分泌を示す。
【図12】種々の生ワクチン担体で免疫したマウスにおいて、CD8+T細胞および自然免疫系(NK細胞)の応答のための方法としてIFN−γを分泌する脾細胞を示す図である。
【図13】種々の生ワクチン担体での免疫化に応答して、腫瘍容積の減少を示す図である。
【図14】CtxB−OVA融合コンストラクトによる様々な免疫アジュバントを有する種々の生ワクチンで免疫したマウスにおいて、CD8+T細胞および自然免疫系(NK細胞)の応答のための方法としてIFN−γを分泌する脾細胞を示す図である。
【図15】膜貫通領域(HA12c)なしでH5N1赤血球凝集素(HA1+HA2、HA12で示す)の完全配列を包含する動物用ワクチン菌株において、ニワトリインフルエンザ赤血球凝集素H1−CtxB融合タンパク質の効率的な発現および機能的分泌を示す図である。減弱させた生ネズミチフス菌vacT(gyrA D87G)および減弱させた生腸炎菌vacE(菌株Sm24/Rif12/Ssq)(両菌ともLOHMANN ANIMAL HEALTH GMBH & CO KG)。
【図16】CtxB−HA12c−HlyA融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を示す図である。
【図17】チフス菌Ty21aおよび他の菌種内に電気穿孔処理されたベクターpMBKDCを用いての、融合タンパク質の発現および分泌を示す。A)レーンA1〜A3:検出のために抗B−Raf抗体を用いての、TP StMoBKDCによる上清の分析。レーンA1:チフス菌Ty21a pMoBKDC、A2:チフス菌Ty21a、A3:ネズミチフス菌aroA。Braf−V600E KD−CtxB融合タンパク質を上の矢印で示す。この融合タンパク質は、おおよそ48kDaの予想される大きさを有する。タンパク質マーカー:Invitrogen Benchmark着色タンパク質ラダー(#10748−010)。B)検出抗体として新規に生成された抗HlyA抗体を用いる、Aと同等の分析。レーン1、2:StMoPCコンストラクト、レーン3:チフス菌Ty21a MoBKDC、レーン4:大腸菌MoBKDC、レーン5:チフス菌Ty21a、レーン6:ネズミチフス菌aroA。タンパク質マーカー:Invitrogen Benchmark着色タンパク質ラダー(#10748−010、ロット1315592)。
【図18】空ベクターpMKhly1の完全ヌクレオチド配列(5′→3′)を示す図である。
【0176】
引用した参考文献および特許は、それら全体が参考として本明細書で援用される。本発明を、以下の実施例を用いて(しかし、それに制限されることなく)より詳細に説明する。
【0177】
実施例
実施例1:様々な細菌担体の菌株でPSA−CtxB融合タンパク質の構築、発現、および分泌
腫瘍抗原の融合タンパク質を分泌する大腸菌I型溶血素分泌系の可能性を証明し、その有効性を示すために、ここに前立腺特異的抗原(PSA)およびタンパク質毒素成分、アジュバントとしてのCtxB、PSA−CtxB融合タンパク質を、本明細書に説明したように構築した。発現および分泌を、腫瘍治療において生ワクチン株として潜在的に有用である様々なグラム陰性菌株で試験した。分子生物学的クローニングは、以前に記述されている(Gentschev et al.,2005;Gentschev et al.,1996,国際特許出願第03/072789号)プラスミド/発現ベクターpMOhly1に基づいている。
【0178】
1A カナマイシン耐性pMOhly1−発現ベクター誘導体の構築
pMOhly1のアンピシリン耐性カセットの置換を、(Datsenko and Wanner, 2000)に記述されるように行った。
【0179】
要約すると、センスプライマーP1(5′−GAGTATTCAACATTTCCGTGTCGCCCTTATTCCCTTTTTTGGTGTAGGCTGGAGCTGCTTC−3′)およびアンチセンスプライマーP2(5′−GCGATCTGTCTATTTCGTTCATCCATAGTTGCCTGACTCCCCATATGAATATCCTCCTTA−3′)および鋳型としてプラスミドpKD4をPCRで用いて、アンピシリン耐性遺伝子(下線部)と相同の領域によって隣接されるカナマイシン耐性遺伝子(KanR)を有する断片を生成した。
【0180】
PCR断片の形質転換に先立ち、pKD46プラスミドおよび標的プラスミドpMOhly1を内部に持つ大腸菌株BW2514を37℃で、0.2%L−(+)−アラビノースを追加したLB培地(Difco)で3乃至4時間増殖させた。
【0181】
形質転換の後、その細菌細胞を、25μg/mLカナマイシンを含有するLB寒天板上に広げて、37℃で一晩インキュベートした。
【0182】
翌日、KanRクローンを採取して、50μg/mLカナマイシンを含有するLB培地でさらに48時間インキュベートして、プラスミドに与えるすべてのアンピシリン耐性を取り除いた。
【0183】
最終的に、クローンをKanRおよびアンピシリン感受性表現型で選択した。KanRカセットによるAp遺伝子の置換を、PCRおよび塩基配列決定法によって確認した。結果として生じたプラスミドをpMKhly1と呼んだ。
【0184】
1B pMKhly−PSAプラスミドのクローニング
センスプライマーPSA−Nsil(5′−GATTGGTGATGCATCCCTCAT−3′;Nsil制限部位を下線で示す)およびアンチセンスプライマーPSA−Nsi2(5’−GGTGCTCATGCATTGGCCACG−3′)を用いて、PSAをコードするDNA断片をPCRによって増幅させた。PCRをThermal Cycler 60(Biometra、ドイツ国ゲッティンゲン)で、94℃で1分間、54℃で1分間、および72℃で2分間を30サイクル行った。
【0185】
Nsil制限酵素による消化後、psa遺伝子を有するDNA断片を搬出ベクターpMKhly1の単一のNsil部位に挿入した。結果として生じたプラスミドpMKhly−PSAを大腸菌DH5α(Invitrogene、ドイツ)から分離させて、制限分析によって分析し、配列決定した。
【0186】
1C pMKhly−PSA/CtxBプラスミドのクローニング
センスプライマーPtac−Sall(5′−AAAAAAGTCGACGGCTGTGCAGGTCGTAAATCACTGC−3′)およびアンチセンスプライマーPtac−Notl(5’−AAAAAAGCGGCCGCGAAATTGTTATCCGCTCACAATTCC−3′)を用いて、pGEX−6p−1−プラスミド(Amersham Bioscience、ドイツ)から、Ptacプロモーターをコードする201bpのDNA断片をPCRによって増幅させた。PCRを、T3 Thermocycler(Biometra、ドイツ)で、95℃で30秒間、55℃で30秒間、および72℃で90秒間を30サイクル行った。センスプライマーRbs−Notl−順方向(5′−AAAAAAGCGGCCGCTAAGGATGAATTATGATTAAATTAAAATTTGG−3′)およびアンチセンスプライマーctb−Sall−逆方向(5′−TTTATAGTCGACTTAATTTGCCATACTAATTGCGGCAATCGC−3′)を用いて、コレラ菌El tor由来のCtxBのリボソーム結合部位をコードする413bpのDNA断片および全コード配列をPCRによって増幅させた。PCRをT3 Thermocycler(Biometra、ドイツ)で、ステップ1(95℃で30秒間、50℃で30秒間、および72℃で2分を30サイクル)で行った。QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen、ドイツ)による精製およびNotl制限酵素による両断片の消化後、両DNA断片を連結させ、594bpのPtac−ctxB断片をもたらした。結果として生じた断片も精製し、Sail制限酵素による消化後、Ptac−ctxB断片を、搬出ベクターpMKhly−PSAの単一のSail部位に挿入した。結果として生じたプラスミドpMKhly−PSA/CtxBを大腸菌DH5α(Invitrogene、ドイツ)から分離させて、分析し、配列決定した。
【0187】
1D PSA−CtxB−HlyA融合コンストラクトのクローニング
センスプライマー5′ctxB Nsil (5′−GCATATGCACATGCATCACCTCAAAATATTACTGAT−3′)およびアンチセンスプライマー3′ctxB Srfl Nsil(5′−GGCTTTTTTATATCTTATGCATGCCCGGGCATTGCGGCAATCGC−3′)(Srfl部位を下線付き太文字で示す)を用いて、コレラ菌El tor由来のctxB遺伝子を表すおおよそ300bpのDNA断片をPCRによって増幅させた。QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen、ドイツ)による精製およびNsil制限酵素による消化後、N末端シグナル配列のない全ctxB遺伝子を有するDNA断片を、搬出ベクターpMKhly1の単一のNsil部位に挿入した。結果として生じたプラスミドpMKhly−CtxBを大腸菌DH5α(Life Technologies)から分離させて分析し、配列決定した。ヒトpsa遺伝子を、プライマー5−PSA−Blunt(5′−GTGGGAGGCTGGGAGTGC−3′)および3−PSA−Blunt(5′−GGGGTTGGCCACGATGGT−3′)を用いてPCRによってプラスミドpCDNA3PSAから増幅させた。PCRを、Thermal Cycler60(Biometra、ドイツ国ゲッティンゲン)で、94℃で1分間、56℃で1分間、および72℃で2分間を30サイクル行った。引き続いて0.7kbDNA産物を、pMKhly−CtxBのSrfl部位にクローン化した。結果として生じたプラスミドpMKhly−CtxB−PSAを制限分析および塩基配列決定法によって確認した。
【0188】
1E 種々の細菌種における融合タンパク質の発現および分泌
標準電気穿孔方法を用いて、プラスミドpMKhly−CtxB−PSAを種々のエレクトロコンピテント菌種に形質転換させた。カナマイシン耐性単コロニーを採取して、BHI培地(Beckton Dickinson、米国:子ウシの脳、200gから注入、6.0g/L;ウシの心臓、250gから注入、9.8g/L;プロテオースペプトン10.0g/L;塩化ナトリウム5.0g/L;ブドウ糖2.0g/L;リン酸ナトリウム2.5g/L)で、mLあたり1×109細胞の密度まで増殖させた。増殖に続き、20mLの培養物を4℃で、Heraeus遠心分離機で、4000rpm(3000g)で30分間遠心した。18mLの上清を新しいチューブに移した。その後、1.8mLのTCA(トリクロロ酢酸、Applichem、ドイツ)を加えて溶液を混合させ、氷上で少なくとも1時間インキュベートした。インキュベーション後、懸濁液を4℃で、Heraeus遠心分離機で4000rpm(3000g)で30分間遠心させた。上清をデカントし、次いでペレットを1mLアセトンp.a.(Applichem、ドイツ)で洗浄した。沈殿物を4℃で、Heraeus遠心分離機で4000rpm(3000g)で10分間遠心させた。ペレットを空気乾燥させて、βメルカプトエタノール有りまたは無しで150μL 5×Laemmli緩衝液(70mMトリス−HCl、pH6.8、40%(v/v)グリセリン、3%(v/v)ドデシル硫酸ナトリウム、5%(v/v)2−メルカプトエタノール、および0.05%(w/v)ブロモフェノールブルー)に溶解させた(Laemmli, 1970)。20μL溶液を、SDS PAGEの各レーンで使用した。分離させたタンパク質を、Hybond ECLニトロセルロース膜(Amersham−Pharmacia, Little Chalfont、イギリス)に電気泳動的に移し(ウエスタンブロット)、次いで1%BSAを含有するPBS(塩化カリウム0.20g/L、リン酸二水素カリウム0.20g/L、塩化ナトリウム8.00g/L、無水リン酸二ナトリウム1.15g/L)を用いて一晩ブロックした。該膜をPBS−Tween0.05%で洗浄して、ポリクローナルウサギ抗PSA抗体(1:750、DAKO、デンマーク)、CtxB抗体(1:1000、Zytomed、ドイツ国ベルリン)、またはHlyAs抗体(Gentschev et al.,1996))と共にインキュベートし、続いてHRP結合抗ウサギIgG(1/2,000、Dianovaドイツ国ハンブルグ)と共に1時間インキュベートした。ウエスタンブロットを、化学発光を増強したキット(GE Healthcare Life Science、ドイツ)を用いて展開させた。
【0189】
図11は、大腸菌種、サルモネラ症、シトロバクター菌種、チフス菌Ty21a、ネズミチフス菌種、エルウィニア菌種、およびシゲラ・フレックスネリ菌種を含む種々の菌種においてPSA−CtxB融合タンパク質の機能的発現および分泌を示す。
【0190】
PSA−CtxB融合タンパク質を発現し分泌するチフス菌Ty21a菌株を、German Collection of Microorganisms and Cell Cultures(DSMZ)にDSM19244の下で寄託した。
【0191】
実施例2:腫瘍抗原およびCtxBまたはCtxB単独の融合タンパク質を分泌するサルモネラ菌株で免疫したマウスでの腫瘍細胞接種に対する免疫応答および防御
以下の実験によって、腫瘍原およびタンパク質毒素の分泌型融合タンパク質の優れた予防効果を動物腫瘍モデルで示した。このモデルについて、CtxB−PSA融合タンパク質を発現し分泌する菌株ネズミチフス菌aroA(SL7207)pMKhly−CtxB−PSAを、他の対照菌株と比較した。
【0192】
2A 免疫化方法
DBA/2マウスを3週間の間隔で、3回、免疫させた。細菌での免疫化のため、動物に50μLの7%NaHCO3を胃内に適用させることによって前処置して、胃内pHを上げた。前処置から5乃至10分後、5×108カナマイシン耐用生細菌を100μL量のPBSで胃内に適用した。対照として、(Fensterle et al.,2005)に記述するように、マウスを、PSA(pcDNA−PSA)をコードするネイキッドプラスミドDNAで筋肉内に免疫した。
【0193】
2B T細胞応答
最後の免疫化から7日後、免疫したマウスの脾細胞を、以前に発表された(Fensterle et al.,1999)ように脾臓をメッシに通過させ、その後に赤血球を溶解させることによって調製した。PSA特異的CD8+T細胞の検出のためのELISPOT分析を、(Fensterle et al.,1999)に発表されたプロトコルに従って行った。
【0194】
要約すると、PSA特異的CD8+T細胞のex−vivo分析のために、96ウェルのニトロセルロースプレート(Millititer HA;Millipore, Bedford, MA)を、100μLの炭酸緩衝剤(Fensterle et al.,1999)(pH9.6)中の抗マウスIFN−γモノクローナル抗体(mAb)R4(PharMingen)5μg/mLでコーティングした。4℃で一晩インキュベートした後、PBS中の1%BSAでブロックし、ワクチン接種したマウス由来の1×105脾細胞を、ウェルあたり100μL RP10(Fensterle et al.,1999)中で加えた。
【0195】
CD8+T細胞応答の分析のために、P815細胞クローンPPSA24を発現するPSAを用いた。要約すると、このクローンは、プラスミドpCDNA3によってコードされるCMVプロモーターを介して完全長PSAを発現する(Fensterle et al.,2005)。37℃で、30U/mL IL−2の存在下の5%COで、20乃至22時間のインキュベーション後、該プレートを洗浄し、ビオチン化抗マウスIFN−γモノクローナル抗体XMB1.2(0.25μg/mL、PharMingen)100μLと共にさらに2時間インキュベートした。該プレートを洗浄して、37℃で、アルカリホスファターゼ結合ストレプトアビジン(PharMingen)の1/20,000希釈液100μLの存在下で1時間インキュベートした。水に溶解させた既製の基質BCIP/NBT(Sigma, St.ミズーリ州セントルイス)50μLを加えて、斑点を可視化した。手術用顕微鏡下、3倍拡大率で斑点を数えた。
【0196】
ペプチド特異的T細胞(CTL)の頻度を、105脾細胞あたりのIFN−γ分泌細胞の数で表す。再刺激後のT細胞応答の分析のために、2.5×107脾細胞を、60U/mLの組換えIL−2の存在下のRP10培地(Fensterle et al.,1999)で、P815細胞(Fensterle et al.,2005)を発現する2×106照射したPSAで5日間再刺激した。ELISPOT分析を、上述のように、4×105支持細胞(すなわち、ナイーブのDBA/2マウス由来の新しく調製した脾細胞)と、105PPSA24細胞とで混合した再刺激細胞を種々の量(ウェルあたり105、3×104、104、または3×103)で用いることによって行った。
【0197】
細胞免疫応答(特に、CD8+細胞傷害性T細胞)の誘導は、腫瘍治療の効率のために有用な役割を果たしている(Boon et al.,2006;Rosenberg, 2001)。従って、PSA特異的CD8+T細胞免疫応答を誘導するために、pMKhly−CtxB−PSA発現ベクターを有する組換え菌種ネズミチフス菌(SL72007)の有効性を最初に試験した。
【0198】
この目的で週齢10乃至14のDBA−2の雌マウス64匹を、本明細書に記述するように陽性対照として、組換えSL7207/pMKhly−CtxB(n=10)、SL7207/pMKhly−CtxB−PSA(n=10)、SL7207/pMKhly−PSA(n=10)、SL7207/pMKhly−PSA/CxtB(n=10)、SL7207/pMKhly1(n=7)、およびネイキッドpcDNA3−PSA(n=10)で経口免疫した。
【0199】
図12は、DNA免疫化マウスが著明なCD8+T細胞応答を示したことを明らかにするELISPOTデータを示す。再刺激の後、顕著な免疫応答を、CtxBに融合させたサルモネラ菌を分泌するPSAタンパク質でワクチン接種した動物で検出したが、PSA単独またはPSAおよびCtxBを別々に分泌する菌株では検出しなかった。興味深いことに、ただCtxB毒素だけを分泌するサルモネラ菌で予防接種した動物も、再刺激後に著しい免疫応答を示した。これらの応答は、標的細胞系を非特異的に認識する、NK細胞または自然免疫系の他の細胞に起因する可能性が最も高い。従って、CtxB単独分泌型に関するデータから、CtxB−PSA分泌型融合タンパク質(IFN−γ分泌脾細胞)で観察した免疫応答は、CD8+T細胞応答ならびに自然免疫系(可能性が最も高いのはNK細胞)の著明な応答で構成されると結論づけることができる。
【0200】
2C 腫瘍細胞接種に対する防御
免疫化の防御能力を分析するために、群あたり6乃至7匹のマウスを上記のスケジュールに従って免疫した。3回目の免疫化から2週間後、マウスに、剪毛した腹部の皮膚の各側腹部に1×10細胞を2ヶ所の皮下注射によってPPSA24(上記参照)で接種した。腫瘍出現に関して、マウスを14日間モニターし、腫瘍容積を(a)最大および(b)最小の腫瘍径を測定することによって評価した。腫瘍容積を、以下の式を用いて、回転楕円体として算出した。
【0201】
【数1】

【0202】
結果を、Graph Pad Prismソフトウェアを使用して、一元ANOVAおよびDunnettの多重比較ポストテストによって有意性を分析した。ANOVAが有意性を明らかにした場合のみ、ポストテストを行った。
【0203】
図13は、平均値±標準偏差としての結果を示す。6日目、9日目、12日目、および14日目に有意な防護効果を観察した。予想どおり、対照として含んだネイキッドDNAワクチン投与は、腫瘍の増殖からマウスを完全に防御した。しかし、ネイキッドDNAワクチン投与は、ヒトにおいて最も中程度の効率を示している。細菌コンストラクトに関して、ワクチン菌株SL7207/pMKhly−CtxB−PSA(CtxB−PSA融合タンパク質を発現し分泌する)が最も効率的であることが判明した。腫瘍接種から9日、12日、および14日後に腫瘍量が有意に減少した。注目すべきは、14日目に、菌株SL7207/pMKhly−CtxBも、SL7207/pMKhly−CtxB−PSAと同程度の値で腫瘍増殖を減少させた。有意ではないが、この遅発効果は、ELISPOTアッセイで測定した細胞応答と十分に適合する。さらに、SL7207/pMKhly−PSA菌株も、14日目に有意な防御を達成した。これは、この菌株が、検出閾値以下であるT細胞応答を誘導したことも示している。対照的に、SL7207/pMKhly−PSA/CxtB菌株は、関連性の効果を誘導しなく、SL7207/pMKhly1単独と同じ範囲内にとどまった。
【0204】
実施例3:チフス菌Ty21aでの腫瘍遺伝子−毒素融合タンパク質の発現および分泌
実施例1と類似する別の腫瘍抗原である、キナーゼドメインに10aa欠失を有する腫瘍遺伝子B−Raf V600Eのキナーゼドメインを用いた(BRaf V600Eキナーゼドメインキナーゼデッド(KD)、すなわち短縮してBRafKD、さらに短縮してBKD)。この腫瘍遺伝子およびタンパク質毒素成分(ここではCtxB)、アジュバントとしてBKD−CtxB融合タンパク質を本明細書に記述するように構築した。発現および分泌を、ヒトワクチン菌株のチフス菌Ty21aで示した。分子クローニングは、以前に記述されている(Gentschev et al.,2005;Gentschev et al.,1996)プラスミド/発現ベクターpMOhly1に基づき、クローニング方法は本出願の実施例1と類似する。結果として生じるベクターをpMBKDCと命名する。融合タンパク質の配列を図10に示す。
【0205】
図17は、チフス菌株Ty21aおよび他の菌種に電気穿孔処理されたベクターpMBKDCを用いての、融合タンパク質の発現および分泌を示す。
【0206】
BKD−CtxB融合タンパク質を発現し分泌するチフス菌Ty21aを、DSM19245の下で、German Collection of Microorganims and Cell Culture(DSMZ)に寄託した。
【0207】
実施例4:OVA−CtxB融合コンストラクトと、遺伝的にコードされた種々の免疫アジュバントとの比較
生ワクチンによって分泌される毒素−抗原融合タンパク質の免疫学的有効性を比較するために、免疫学的研究で広く使用されている抗原(ニワトリ卵白アルブミン(OVA)およびCtxB)を包含する融合タンパク質を構築した。
【0208】
センスプライマーNsil−OVA−順方向5′−CAT GTA TGC ATT AGC CAT GGT ATA CCT GG−3′およびアンチセンスプライマーNsil−OVA−逆方向5′−TTT TTT ATG CAT AAG GGA AAC ACC ACA TCT GCC−3′を用いて、卵子遺伝子(NM205152)を表す1033bpのDNA断片をPCRによって増幅させた。QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen、ドイツ)による精製およびNsil制限酵素による消化後、N末端シグナル配列のない全卵子遺伝子を有するDNA断片を、搬出ベクターpMKhly1の単一のNsil部位に挿入した。結果として生じたプラスミドpMKhly−Ovaを大腸菌DH5α(Life Technologies)から分離させて、分析し配列決定した。
【0209】
センスプライマー5′ctxB Nsil(5′−GCATATGCACATGCATCACCTCAAAATATTACTGAT−3′)およびアンチセンスプライマー3′ctxB Srfl Nsil(5′−GGCTTTTTTATATCTTATGCATGCCCGGGCATTGCGGCAATCGC−3′)(Srfl部位は下線付き太文字で示す)を用いて、コレラ菌El tor由来のctxB遺伝子を表すおおよそ300bpのDNA断片をPCRによって増幅させた。QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen、ドイツ)による精製およびNsil制限酵素による消化後、N末端シグナル配列のない全ctxB遺伝子を有するDNA断片を、搬出ベクターpMKhly1の単一のNsil部位に挿入した。結果として生じたプラスミドpMKhly−CtxBを大腸菌DH5α(Life Technologies)から分離させて、分析し配列決定した。卵子遺伝子を、5−OVA−Sfrl GCC ATC ATG TCA GCT CTAおよび3−OVA−Sfrl AGG GGA AAC ACA TCT GCCのプライマーを用いてPCRによって、pCI−OVAプラスミドから増幅させた。PCRを、Thermal Cycler60(Biometra、ドイツ国ゲッティンゲン)で、94℃で1分間、49℃で1分間、および72℃で2分30秒間を30サイクル行った。引き続いて1.1kbDNA産物を、pMKhly−CtxBのSrfl部位にクローン化した。結果として生じたpMKhly−CtxB−OVAプラスミドを制限分析および塩基配列決定法によって調べた。
【0210】
Th1免疫応答を誘発するこの融合タンパク質の能力を、インターフェロン(IFN−γ)、インターロイキン(IL−12)、およびケモカイン(IP−10)をコードするDNA送達プラスミド(真核生物プロモーターの制御下でタンパク質をコードする)と組み合わせて、分泌されるOVA単独をコードするpMKhlyベクターの能力と比較した。
【0211】
免疫化方法およびELISPOT分析を、上述のように行った。要約すると、C57BL/6マウスを、異なる菌株で3回、経口で免疫させた。最終免疫化から7日後、脾細胞を取り出し、5日間再刺激させて、ELISPOTアッセイで分析した。脾細胞の再刺激のために、SIINFEKL(文字はアミノ酸を表す)ペプチドでパルスした細胞(卵白アルブミンのH−2b制限型MHC−1エピトープ)を用いた。
【0212】
図14は、IFN−γまたはIP−10を同時送達するコンストラクトと比較して、OVA特異的CD8+T細胞応答および自然免疫系の潜在的応答を誘導する際のニワトリ卵白アルブミン(OVA)およびCtxBを含む融合タンパク質の優れた有効性を示す。その有効性は、IL−12コンストラクトを同時送達する菌株と同様の有効性を示す。
【0213】
実施例5:ウイルス抗原の発現および分泌
いずれかの(非腫瘍)抗原の発現および分泌に対する本発明の微生物の適合性を、動物用ワクチン菌株(ネズミチフス菌VacT)でCtxBに融合させたニワトリインフルエンザウイルスH5N1の赤血球凝集素H1タンパク質の発現を介して示した。
【0214】
センスプライマー5′−HA−G: 5′−ATC TGT CAA ATG GAG AAA −3′およびアンチセンスプライマー3−HA12C: 5′−TAC TCC ACT TAT TTC CTC TCT−3′をPCRで用いて、C末端膜ドメイン(H12C)がないH5をコードするDNA断片を増幅させた。続いてPCR産物を、pMKhly−CtxBのSrfl部位にクローン化させた。結果として生じたpMKhly−CtxB−H12Cプラスミドを、制限分析および塩基配列決定法によって調べた。CtxBおよびHlyAに対して産生されるポリクローナル抗体を用いる免疫ブロットによって示したように(図2)、ネズミチフス菌VacT/pMKhly−CtxB−H12C菌株は、ハイブリッドH5タンパク質を効率的に発現し、分泌した。分泌されたH5の量は、実験条件下で2乃至3μgタンパク質/mL上清であった。
【0215】
細菌をBHI培地で1×109細胞/mLの密度まで増殖させた。20mLの培養物を4℃で、Hereaus遠心分離機で、4000rpm(3000g)で30分間遠心させた。18mLの上清を新しいチューブに移した。続いて、18mLのTCA(トリクロロ酢酸、Applichem、ドイツ)を加えて、溶液を混合させて、氷上で少なくとも1時間インキュベートした。インキュベーション後、懸濁液を4℃で、Hereaus遠心分離機で、4000rpm(3000g)で30分間遠心させた。上清をデカントして、ペレットを1mLのアセトンp.a.(Applichem、ドイツ)で洗浄した。沈澱物を4℃で、Hereaus遠心分離機で、4000rpm(3000g)で10分間遠心させた。ペレットを空気乾燥させて、150μL 5×Laemmli緩衝液に溶解させた。その溶液20μLを、SDS PAGEの各レーンで使用した。分離させたタンパク質をHybond ECLニトロセルロース膜(Amersham−Pharmacia、英国リトルチャルフォント)に電気泳動的に移し、次いで1%BSAを含有するPBSを用いて一晩ブロックした。該膜をPBS−Tween0.05%で洗浄して、ポリクローナルウサギ抗CtxB抗体(1:1000、Zytomed、ドイツ国ベルリン)またはHlyAs抗体(Gentschev et al.,1996)と共にインキュベートし、続いてHRP結合抗ウサギIgG(1/2,000、Dianova、ドイツ国ハンブルグ)と共に1時間インキュベートした。ウエスタンブロットを、化学発光を増強したキット(GE Healthcare Life Science、ドイツ)を用いて行った。
【0216】
図15は、動物用ワクチン菌株(ネズミチフス菌VacT)でのHA12C−CtxB融合タンパク質の効率的な発現および機能的分泌を示す。
【0217】
実施例6:III型分泌系を介する毒素アジュバントおよび腫瘍抗原の融合タンパク質の発現ならびに分泌
いくつかの種類のグラム陰性菌は、抗原分泌のために活用されることができるIII型分泌系を有する。通常、これらの系を、異種抗原を細胞に直接注入するために利用することができる。この実施例では、分泌シグナル(YopE)としての役目を果たすエルシニアの毒素成分は、熱不安定性エンテロトキシンサブユニットB(LT−B)断片と遺伝的に融合され、アジュバントおよび腫瘍抗原PSAとしての役目を果たす。このコンストラクトを、適切な(好ましくは減弱させた)エルシニア菌株で発現させる。それによってYopEシグナル配列を介する内在性III型分泌機構によって融合タンパク質の分泌をもたらす。
【0218】
この実施例では、遺伝子融合YopE18−LT−B−PSAを、プラスミドpaCYC184のEcoRl部位にクローン化する。ネコ遺伝子と同じ方向性を有するコンストラクトの用途のために、ネコプロモーターをコードするプラスミドによって発現される産物をもたらす(http://www.fermentas.com/techinfo/nucleicacids/mappacyc184.htm)。発現の向上のためには、任意の適切なプロモーターを使用することができる。
【0219】
以下に、クローニング方法を例証する。熱不安定性エンテロトキシンサブユニットBを包含する大腸菌またはこの配列(GenBankアクセッション番号AF242418)を包含するベクター由来の染色体DNAを、PCR反応で以下のプライマー:Eco−yope18−f(EcoR1部位+YopE18シグナル配列を包含する):5′−CTGAATTCATGAAAATATCATCATTTATTTCTACATCACTGCCCCTGCCGGCATCAGTGTCAAATAAAGTAAAATGTTATGTTTTAT3′(5′領域ブラック:EcoR1部位+3塩基5′、レッド: YopEタンパク質(aa1乃至18)のIII型分泌のための分泌シグナルをコードする配列、GenBankアクセッション番号M92066、イタリック体の領域:LT−B遺伝子の相同領域(GBアクセッション番号242418)、塩基4乃至28)。リン酸化逆方向プライマーLT−B−r:5′GTTTTCCATACTGATTGCCGCAATTGAATTGG−3′(GBアクセッション番号AF242418の逆方向鎖372乃至341)を用いて増幅させる。
【0220】
同時に、本出願に説明するようにベクターpMK CtxB−PSA由来のPSA配列を、以下のプライマー:リン酸化順方向プライマーpsa−f:5′−GTGGGAGGCTGGGAGTGCGAG−3′逆方向プライマーpsa−eco−r;5′CCTGAATTCTTAGACGTGATACCTTGAAGCAC(5′ブラック:EcoR1部位+3塩基5′、ブルー:終止コドン、ブラック:PSA配列の3′領域、本出願)を用いて増幅させる。
【0221】
続いて、二つの断片を、適切な条件下でDNAリガーゼによって連結する。連結の後、新しい断片を、上述のEco−yope18−fおよびPSA−Eco−Rプライマーを用いて、第2のPCR反応で増幅させる。
【0222】
結果として生じる断片を、適切なPCR精製キットを用いて精製して、緩衝剤およびオリゴヌクレオチドを取り除き、続いて適切な反応条件下でEcoR1酵素で消化させる。結果として生じる1040bpの断片を、EcoR1で消化したベクターpaCYC184に連結したアガロースゲル電気泳動を用いて精製する。テトラサイクリン抵抗性の塩基配列の後、cm感受性クローン、cm遺伝子よりも同じ方向性で組み込まれる正しい配列を有するクローンを選択して、電気穿孔を使用して、適切なエルシニア菌株に形質転換させる。このワクチン菌株は、その内在性III型分泌系を介してLT−B−PSA融合を分泌する。
【0223】
実施例7:グラム陽性細菌における毒素−抗原融合の発現および分泌
グラム陽性および陰性の細菌は、分泌のために種々の必要条件を有する。グラム陰性菌は二つの膜を有し、従って、分泌シグナルに加えて分泌機構は完全な分泌のために必須である。グラム陽性菌の場合、分泌シグナル配列は十分である。
【0224】
この実施例では、p60分泌シグナルを用いる、リステリアでの破傷風トキソイドPSA融合物の分泌のための系を説明する。
【0225】
第1のステップでは、ベクターpUC18(PS)actAOVATinlA(Loeffler et al.,2006)を、Nsilを用いて消化させ、続いて適切な条件下で3′−5′エキソヌクレアーゼを用いて処置する。最終的に、断片をアガロースゲル電気泳動によって精製する。
【0226】
同時に、破傷風トキソイド断片C(GenBankアクセッション番号M12739)を、以下のリン酸化プライマー:tetc順方向:5′−AAAAATCTGGATTGTTGGGTTG−3′を用いて、適切な供給源(例えば破傷風菌株由来のゲノムDNA)から増幅させる。しかるに下線を引いた追加の塩基は、融合物(tect逆方向5′−ATCATTTGTCCATCCTTCATCTG−3′)の正しいフレ−ムを確実にするためである。
【0227】
BRAF KD断片を、以下のリン酸化プライマー:br順方向:5′−GATTGGGAGATTCCTGATG−3′、br逆方向:5′−CCCGTGGACAGGAAACGCACC−3′を用いて、本出願に説明するプラスミドpMO BKDCから増幅させる。
【0228】
両断片を、適切なPCR精製キットを用いて精製し、続いて適切な条件下でDNAリガーゼと連結させる。連結後、断片を、適切なPCR精製キットを用いて再度精製し、tetc順方向プライマーおよびbr逆方向プライマーを用いて増幅させる。増幅後、結果として生じた2280bpの断片を、アガロースゲル電気泳動によって精製し、次いでpUC18(PS)actAOVATinlAの精製したNsil−3′−5′エキソヌクレアーゼ断片に連結させる。連結および大腸菌への形質転換後、断片をフレームに運ぶクローンを選択する。続いて、プラスミドを、PstIおよびSacIを用いて切断し、2837bpの断片を、ゲル電気泳動を用いて精製し、次いで適切に消化させたPstIおよびSacIならびに精製したベクターpSP118(Loeffler et al.,2006)に連結させる。結果として生じるベクター(pSP118−act−TetC−BRafKD)を、trpS欠失を有するリステリア菌株(例えばリステリア菌δ−trps δ−aroA/B(Loeffler et al.,2006))に形質転換させる。この設定では、プラスミドは、trpS(「平衡致死系」)に基づくプラスミドを介して安定化し、およびプラスミドは、菌株の細胞内溶解を引き起こすファージ溶菌素をコードする。act−TetC−BRafKDカセットは、actAプロモーターの制御下で主として真核生物宿主細胞内で発現する。これは、多少細胞外に漏れやすい(Loeffler et al.,2006)。このカッセトのactAシグナル配列は、TetC−BRafKD融合タンパク質の分泌を引き起こす。
【0229】
実施例8:毒素抗原融合物を分泌する真核細胞
この実施例では、CtxB−PSA融合タンパク質を分泌する真核細胞系(例えば腫瘍細胞系)を構築する。この目的のため、一般的な分泌シグナルを利用する(米国特許第6,733,997号)。それは、原理的には、異なる起源の細胞(哺乳類細胞、酵母、および原核細胞)において対応する発現カセットの分泌を可能にする。
【0230】
第1のステップでは、CtxB−BRafKDの融合物を、以下のプライマー: CB−順方向:5′−atcGGATCCTCAAAATATTACTGATTTGTGTGC−3′(小文字:スペーサー、下線部:BamH1部位、大文字:CtxB 5′)。
【0231】
CB−逆方向:5−tagGGATCCTTAGTGGACAGGAAACGCACCATATCC−3′(小文字:スペーサー、下線部:BamH1部位、イタリック体:終止コドン、大文字:BRafKD 3′)を用いてプラスミドpMO BKDC(本出願)から増幅させる。
【0232】
続いて、PCR産物を、適切なPCR精製キットを用いて精製し、続いて、断片(内部BamH1部位)をBamH1で部分的に消化させる。部分消化の1231bp断片を、アガロースゲル電気泳動を介して分離し、その後に消化したBamH1およびゲル精製プラスミドpVtgEGFP(米国特許出願第6733997号)に連結する。続いて、Vtgssとインフレームの方向性を有するクローンを選択して、pVtgCtxBRAfと命名する。このプラスミドは、電気穿孔を介して真核細胞系に形質転換させることができる。それは、kan/neo選択カセットを介して選択され得る。細胞系は、異種癌ワクチンとしての用途のための癌細胞系のような細胞系、自己癌ワクチンとしての用途のための患者由来の腫瘍細胞を確立することができる。
【0233】
どんな場合でも、CtxB−BRafKDに遺伝的に融合したベクターpVtgEGFPによってコードされる分泌シグナルVtgssは、融合タンパク質の分泌をもたらす。
【0234】
同様のアプローチを用いて、融合タンパク質を酵母で発現することもできる。例として、米国特許第6,733,997号の図11に示されているように、改変クローニング戦略を示す。第1のステップでは、上述のプラスミドpVtgCtxBRAfからのVtgss−CtxB−BRafKDの融合物を含有する該カセットを、EaglおよびEco47IIIを介して切取り、ベクターpBSPGK(米国特許第6,733,997号、図11)に挿入する。続いて、結果として生じるベクターをSacIおよびHindIIIで消化させて、PGKエレメントを包含する断片およびVtgss−CtxB−BRafKDの融合物をベクターpYEX−S1の対応する領域に組み込む(米国特許第6,733,997号(図11)の記述と類似する)。結果として生じるプラスミドを、出芽酵母のように酵母菌株に電気穿孔によって形質転換させることができる。酵母は、融合タンパク質を発現させ、分泌し、ワクチン投与目的で使用することができる。
【0235】
略語
ABC ATP結合カセット
AIDA 拡散粘着に関与する付着因子
APC 抗原提示細胞
aroA aroA遺伝子
AT α毒素
ATP アデノシン三リン酸
B−Raf KD B−Rafキナーゼドメイン
BSA ウシ血清アルブミン
Cag A ピロリ菌の病原性タンパク質に関連する主要疾患
CPE クロストリジウム・パーフリンジェンス・エンテロトキシン
CpG CpGモチーフを包含する低メチル化免疫賦活性DNA配列を含有するDNA配列CT/Ctx コレラ毒素
CTB/CtxB コレラ毒素サブユニットB
CTL 細胞傷害性CD8+T細胞(Tキラー細胞)
CMV サイトメガロウイルス
DNA デオキシリボ核酸
ds 二本鎖
DT/Dtx ジフテリア毒素
E.coli 大腸菌
EBV エブスタイン・バーウイルス
GM−1 receptor モノシアロガングリオシド受容体1
HA 赤血球凝集素
HCV C型肝炎ウイルス
HIV ヒト免疫不全ウイルス
HIy 溶血素
HPV ヒトパピローマウイルス
HT 出血性毒素
i.d. 皮内の
i.m. 筋肉内の
i.p. 腹腔内に
IFN インターフェロン
IgA 免疫グロブリンイソタイプA
IgG 免疫グロブリンイソタイプG
IL インターロイキン
KD キナーゼデッド
LPS リポ多糖
LT 大腸菌熱不安定性エンテロトキシン
LT 致死毒素
LTB 大腸菌熱不安定性エンテロトキシンサブユニットB
mAb モノクローナル抗体
MHC 主要組織適合複合体
NK cell ナチュラルキラー細胞
NKT cell ナチュラルキラーT細胞
PAGE ポリアクリルアミドゲル電気泳動
PBS リン酸緩衝食塩水
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
PE シュードモナス外毒素A
PSA 前立腺特異的抗原
PT/Ptx 百日咳毒素
RNA リボ核酸
s.c. 皮下の
SDS ドデシル硫酸ナトリウム
Sec 一般的な分泌(Sec)経路
ss 一本鎖
ST 大腸菌熱安定性エンテロトキシン
ST/Stx 志賀毒素
STB/StxB 志賀毒素サブユニットB
T3SS III型分泌系
Tat 双アルギニン転位
TCA トリクロロ酢酸
Th1(cell) 炎症性CD4+T細胞
Th2(cell) ヘルパーCD4+T細胞
TSST−1 毒素性ショック症候群毒素
TT 破傷風毒素
VT ベロ毒素

【0236】

【0237】

【0238】

【0239】

【0240】

【0241】

【0242】

【0243】

【0244】

【0245】

【0246】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原およびタンパク質毒素をコードするヌクレオチド配列の担体としての微生物であって、以下の成分、すなわち
(I)少なくとも一つの野生型タンパク質または変異型タンパク質の少なくとも一つの完全抗原または部分抗原をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列と、
(II)少なくとも一つのタンパク質毒素および/または少なくとも一つのタンパク質毒素サブユニットをコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列と、
(III)a)前記微生物の外表面上で成分(I)および成分(II)の発現産物の発現を可能にし、ならびに/または成分(I)および成分(II)の前記発現産物の分泌を可能にする、少なくとも一つの輸送系をコードする;および/または成分(I)および成分(II)の発現産物の分泌を可能にする少なくとも一つのシグナル配列をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列と/または、
b)場合により、哺乳類細胞のサイトゾル内で前記微生物を溶菌するため、および溶菌した前記微生物に含有されるプラスミドまたは発現ベクターを細胞内に遊離させるために少なくとも一つのタンパク質をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列と、
(IV)成分(I)乃至(III)のうちの一つまたは複数の発現のための少なくとも一つの活性化配列のための少なくとも一つのヌクレオチド配列で、前記活性化配列が前記微生物内で活性化されることができ、および/または組織細胞特異的、腫瘍細胞特異的、マクロファージ特異的、樹状突起特異的、リンパ球特異的、機能特異的、または非細胞特異的であるヌクレオチド配列と、
を含み、成分(I)乃至(IV)のいずれも、1回または複数回のいずれかで存在することが可能であり、成分(I)乃至(IV)からの一つの成分が複数回存在する場合、それは互いに非依存的に同一であるかまたは異なりこともある、微生物。
【請求項2】
成分(I)および成分(II)が同一でない、すなわち成分(I)が少なくとも一つのタンパク質毒素および/または少なくとも一つのタンパク質毒素サブユニットをコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列をコードしない、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記微生物が細菌、グラム陽性菌、グラム陰性菌、真核細胞からなる群から選択され、好ましくは大腸菌種、大腸菌、サルモネラ菌種、チフス菌、ネズミチフス菌、エルシニア菌種、エンテロコリチカ菌、ビブリオ菌種、コレラ菌、リステリア菌種、リステリア菌、赤痢菌種、シゲラ・フレックスネリ、シュードモナス菌種からなる群から選択され、前記微生物の好ましい病原性が減弱される、請求項1または2に記載の微生物。
【請求項4】
コレラ菌が微生物として除外される、請求項3に記載の微生物。
【請求項5】
成分(I)による少なくとも一つの野生型タンパク質または変異型タンパク質の少なくとも一つの完全抗原または部分抗原が、野生型タンパク質(すなわち、受容体;受容体の細胞外部分、膜貫通部分、もしくは細胞内部分;接着分子;接着分子の細胞外部分、膜貫通部分、または細胞内部分;シグナル伝達タンパク質;細胞周期タンパク質;転写因子;分化タンパク質;胚タンパク質;ウイルスタンパク質;アレルゲン;病原性微生物のタンパク質;病原性真核生物のタンパク質;癌精巣抗原タンパク質;腫瘍抗原タンパク質;および/または組織細胞特異的タンパク質)およびそれらの公知の変異体からなる群から選択され、組織細胞が甲状腺、乳腺、唾液腺、リンパ節、乳腺、胃粘膜、腎臓、卵巣、前立腺、頚部、膀胱漿膜、および母斑からなる群から選択される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の微生物。
【請求項6】
成分(I)による少なくとも一つの野生型タンパク質または変異型タンパク質の少なくとも一つの完全抗原または部分抗原が、野生型タンパク質(すなわち、Her−2/neu、アンドロゲン受容体、エストロゲン受容体、ミッドカイン受容体、EGF受容体、ERBB2、ERBB4、TRAIL受容体、FAS、TNFα受容体、TGFβ受容体、ラクトフェリン受容体、塩基性ミエリン、α−ラクトアルブミン、GFAP、線維性酸性タンパク質、チロシナーゼ、EGR−1、MUC1、c−Raf(Raf−1)、A−Raf、B−Raf、B−Raf V599E、B−Raf V600E、B−Raf KD、B−Raf V600Eキナーゼドメイン、B−Raf V600E KD、B−Raf V600EキナーゼドメインKD、B−Rafキナーゼドメイン、B−RafキナーゼドメインKD、N−Ras、K−Ras、H−Ras、Bcl−2、Bcl−X、Bcl−W、Bfl−1、Brag−1、Mcl−1、A1、Bax、BAD、Bak、Bcl−Xs、Bid、Bik、Hrk、Bcr/abl、Myb、C−Met、IAP1、IAO2、XIAP、ML−IAP LIVIN、サバイビン、APAF−1、サイクリンD(1〜3)、サイクリンE、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンH、Cdk−1、Cdk−2、Cdk−4、Cdk−6、Cdk−7、Cdc25C、p16、p15、p21、p27、p18、pRb、p107、p130、E2F(1〜5)、GAAD45、MDM2、PCNA、ARF、PTEN、APC、BRCA、Akt、Pl3K、mTOR、p53および相同体、C−Myc、NFkB、c−Jun、ATF−2、Sp1、前立腺特異的抗原(PSA)、癌胎児性抗原、α−胎児タンパク質、PAP;PSMA;STEAP;MAGE、MAGE−1、MAGE−3、NY−ESO−1、PSCA、MART、Gp100、GRP、TCF−4、ウイルス抗原(例えばHIV、HPV、HCV、EBV、CMV、HSV、インフルエンザウイルス、インフルエンザA型ウイルス、インフルエンザA型ウイルス(H5N1)および(H3N2)、インフルエンザB型ウイルス、インフルエンザC型ウイルス);赤血球凝集素、赤血球凝集素H1、赤血球凝集素H5、赤血球凝集素H7、赤血球凝集素HA1(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、赤血球凝集素HA12(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、赤血球凝集素HA12C(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、ノイラミニダーゼ、p60、LLO、ウレアーゼ、CSP、calflagin、および/またはCPB)ならびにそれらの公知の変異体からなる群から選択され、または成分(I)による少なくとも一つの野生型タンパク質または変異型タンパク質のうち少なくとも一つの完全抗原または部分抗原が、以下の野生型タンパク質ならびにそれらの公知の変異体(括弧内はアクセッション番号):





からなるキナーゼの群から選択される、請求項5に記載の微生物。
【請求項7】
成分(II)が細菌毒素、エンテロトキシン、外毒素、I型毒素、II型毒素、III型毒素、IV型毒素、V型毒素、RTX毒素、AB毒素、A−B毒素、A/B毒素、A+B毒素、A−5B毒素、および/またはAB5毒素からなる群から選択される、請求項1から6までのいずれか一項に記載の微生物。
【請求項8】
成分(II)がアデニル酸シクラーゼ毒素、炭疽毒素、炭疽毒素(EF)、炭疽毒素(LF)、ボツリヌス毒素、コレラ毒素(CT、Ctx)、コレラ毒素サブユニットB(CTB、CtxB)、ジフテリア毒素(DT、Dtx)、大腸菌(E.coli)LT毒素、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン(LT)、大腸菌熱不安定性エンテロトキシンサブユニットB(LTB)、大腸菌ST毒素、大腸菌熱安定性エンテロトキシン(ST)、発赤毒素、表皮剥脱性毒素、外毒素A、パーフリンジェンス エンテロトキシン、百日咳毒素(PT、Ptx)、志賀毒素(ST、Stx)、志賀毒素サブユニットB(STB、StxB)、志賀様毒素、ブドウ球菌エンテロトキシン、破傷風毒素(TT)、毒素性ショック症候群毒素、(TSST−1)、ベロ毒素(VT)、ディフィシル菌の毒素A(TA)および毒素B(TB)、ソルデリ菌の致死毒素(LT)および出血性毒素(HT)、ノーヴィ菌のα毒素(AT)からなる群から選択される、請求項7に記載の微生物。
【請求項9】
成分(I)および成分(II)が結合されて、両成分によってコードされる融合タンパク質の発現および/または分泌を可能にする、請求項1から8までのいずれか一項に記載の微生物。
【請求項10】
前記融合タンパク質がCtxB−PSA、CtxB−B−Raf V600E KD、CtxB−B−Raf V600Eキナーゼドメイン、CtxB−B−Raf V600EキナーゼドメインKD、CtxB−B−Raf、CtxB−B−Raf KD、CtxB−B−RafキナーゼドメインKD、CtxB−HA1、CtxB−HA12Cからなる群から選択される、請求項9に記載の微生物。
【請求項11】
成分(III)a)がI型分泌系、II型分泌系、III型分泌系、IV型分泌系、V型分泌系、大腸菌(hly特異的プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の溶血素輸送系(シグナル)、大腸菌(非hly特異的細菌プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の溶血素輸送系(シグナル)、カウロバクター・クレセンタスのS層(RsaA)タンパク質のための輸送シグナル、大腸菌のTolCタンパク質のための輸送シグナル、分泌シグナルVtgssおよび/またはリステリオリシン(p60および/またはActA)に由来する分泌シグナルからなる群から選択され、ならびに成分(III)b)がエンドリシン、グラム陽性菌の溶菌タンパク質、リステリア菌(Listeria monocytogenes)の溶菌タンパク質、リステリア菌のPLY551、および/またはリステリア菌のホリンからなる群から選択される、請求項1から10までのいずれか一項に記載の微生物。
【請求項12】
成分(III)a)が前記微生物の外表面上で成分(I)および成分(II)の発現産物の同時発現を可能にし、ならびに/または成分(I)および成分(II)の発現産物の同時分泌を可能にするただ一つの輸送系をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列であり、そのような成分(III)a)が好ましくは、大腸菌(hly特異的プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の溶血素輸送系(シグナル)または大腸菌(非hly特異的細菌プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の溶血素輸送系(シグナル)をコードする少なくとも一つのヌクレオチド配列である、請求項11に記載の微生物。
【請求項13】
成分(III)により成分(I)および成分(II)の発現産物が分泌される、請求項1から12までのいずれか一項に記載の微生物。
【請求項14】
成分(I)がB−Raf V600E、B−Raf V600Eキナーゼドメイン、B−Raf V600E KD、B−Raf V600EキナーゼドメインKD、B−Raf KD、B−Rafキナーゼドメイン、B−RafキナーゼドメインKD、前立腺特異的抗原(PSA)、赤血球凝集素HA1(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、赤血球凝集素HA12(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1))、赤血球凝集素HA12C(好ましくは、インフルエンザA型ウイルス由来(A/Thailand/1 (KAN−1)2004(H5N1)からなる群から選択され、成分(II)がコレラ毒素サブユニットB(CTB、CtxB)、大腸菌熱不安定性エンテロトキシンサブユニットB(LTB)、破傷風毒素(TT)からなる群から選択され、成分(III)がHly分泌系(hly特異的プロモーターの制御下でHlyA、HlyB、およびHlyDを含有するヌクレオチド配列)の成分と共に大腸菌のHlyA溶血素輸送シグナルからなる群から選択され、成分(IV)が大腸菌hly遺伝子座の内在性プロモーターからなる群から選択され、成分(I)および成分(II)が結合されて、両成分によってコードされる融合タンパク質の発現を可能にし、融合タンパク質が分泌され、請求項1から13までのいずれか一項に記載の微生物。
【請求項15】
医薬組成物であって、請求項1から14までのいずれか一項による少なくとも1種類、好ましくは少なくとも1種類の凍結乾燥させた微生物、および薬学的に許容される担体(好ましくはカプセル)を含む、医薬組成物。
【請求項16】
薬物であって、請求項1から14までのいずれか一項に記載の少なくとも1種類の微生物、または請求項15に記載の少なくとも1種類の医薬組成物を含む、薬物。
【請求項17】
請求項1から14までのいずれか一項に記載の微生物の用途であって、無制御細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、細胞腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓癌、腎細胞腫、前立腺癌、前立腺細胞腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺癌、骨肉腫、網膜芽腫、胸腺腫、精巣癌、肺癌、気管支癌、乳癌、乳腺細胞腫、腸癌、大腸腫瘍、結腸癌、直腸癌、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣の腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、頚部細胞腫、子宮体癌、子宮体細胞腫、子宮内膜癌、膀胱癌(urinary bladder cancer)、膀胱癌(bladder cancer)、皮膚癌、基底細胞腫、棘細胞癌、メラノーマ、眼内メラノーマ、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルス性または細菌性感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、および/または自己免疫疾患からなる群から選択される生理的および/または病態生理的な状態の処置および/または予防のための薬物の生成のための微生物の用途である。
【請求項18】
プラスミドまたは発現ベクターであって、請求項1から14までのいずれか一項による成分(I)乃至(IV)を含む、プラスミドまたは発現ベクター。
【請求項19】
請求項1から14までのいずれか一項による微生物の生成のための方法であって、請求項18に記載のプラスミドまたは発現ベクターが生成され、および微生物が前記プラスミドまたは発現ベクター内に形質転換される方法。
【請求項20】
医薬品キットであって、請求項1から14までのいずれか一項に記載の少なくとも1種類の微生物、または請求項15に記載の医薬組成物、または請求項16に記載の薬物、および薬学的に許容される緩衝剤(好ましくは炭酸緩衝剤)を含む、医薬品キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A)】
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【図17B)】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図18−3】
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【図18−4】
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【図18−5】
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【公表番号】特表2010−508861(P2010−508861A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536716(P2009−536716)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062237
【国際公開番号】WO2008/058944
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(503300502)エテルナ ツェンタリス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (25)
【氏名又は名称原語表記】AEterna Zentaris GmbH
【住所又は居所原語表記】Weismuellerstrasse 50,D−60314 Frankfurt am Main,Germany
【Fターム(参考)】