抗炎症性組成物
本発明は、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン及びその医薬組成物そして、炎症性疾患を予防又は治療するように意図された薬剤を調製するためのその使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン、及びその医薬組成物、ならびに炎症性疾患を予防又は治療するための医薬を調製するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、生理学的な生体防御の重要な要素である。しかしながら、時間的又は空間的に不適切な炎症性応答が、明白に白血球を要素とする疾病(例えば自己免疫疾患、喘息又はアテローム性動脈硬化)のみならず、従来は白血球が関与すると考えられていなかった疾病(例えば骨粗鬆症又はアルツハイマー病)を含む、広範な疾病において役割を果たしていることが次第に明らかとなっている。
【0003】
ケモカインは、生理学的及び病的な状態の両方において、白血球輸送の調節に関与しているインターロイキン−8に対する相同性を有するシグナル伝達分子の大きなファミリーである。ケモカインシグナル伝達に関与する50超のリガンド及び20超の受容体により、この系は骨髄から末梢に向かいそして次に二次リンパ器官を通って戻るという複雑な免疫調節プロセスを介して白血球に対処するための必須の情報密度を有している。しかしながら、このケモカイン系の複雑性は、まず、ケモカイン受容体遮断を介して炎症性応答を変調させるための薬理学的アプローチの妨げとなった。所与の炎症性疾患における治療的利益を生み出すためにどのケモカイン受容体(単複)を阻害すべきかを決定するのは、困難であることがわかっている。
【0004】
より最近では、広範囲のケモカインによってシグナル伝達を遮断する作用因子ファミリーが記述されてきた;Recklessら、Biochem J.(1999年)、340;803−811。第1のかかる作用因子である「ペプチド3」と呼ばれるペプチドは、5つの異なるケモカインにより誘発される白血球遊走を阻害することが発見されたが、その他の化学誘引物質(例えばfMLP又はTGF−ベータ)に応答した遊走を改善させなかった。このペプチド及びNR58−3.14.3.といったその類似体(すなわち配列番号1のc(DCys−DGln−DIle−DTrp−DLys−DGln−DLys−DPro−DAsp−DLeu−DCys)−NH2)は、集合的に広域スペクトラムケモカイン阻害薬(BSCIs)と称される。Graingerら、Biochem. Pharm.、第65号(2003年)、1027〜1034頁はその後、BSCIが、一範囲の動物疾病モデルにおいて潜在的に有用な抗炎症性活性を有することを示してきた。興味深いことに、多数のケモカインの同時遮断は、一見したところ急性又は慢性毒性に関連しておらず、このアプローチが、ステロイドと同様のメリットを有しながら副作用は削減される新しい抗炎症性投薬療法の開発のための有用な戦略であり得る、ということを示唆している。
【0005】
しかしながら、NR58−3.14.3といったようなペプチド及びペプトイド誘導体は、生体内での使用にとって最適ではない可能性がある。これらは、合成に費用がかかり、比較的好ましくない薬物動態及び薬力学特性を有する。例えば、NR58−3.14.3は経口での生体利用が不能であり、静脈内注射後30分以内の半減期で血漿から除去される。
【0006】
ペプチド3及びNR58−3.14.3の抗炎症性特性を保持しながら、医薬品として使用するための改善された特性を有する新規の調製物を同定するために、2つの並行的な戦略が採用されてきた。まず第1に、一連のペプチド類似体が開発され、そのうちの一部は、NR58−3.14.3よりも長い血漿半減期を有し、その合成コストは著しく低い。第2に、もとのペプチドの有益な特性を保持し得る小型非ペプチド構造を提案するために、ファルマコフォアを同定するためペプチドの構造;活性分析が行われてきた。
【0007】
この第2のアプローチは、アルカロイドヨヒンビンの16−アミノ及び16−アミノアルキル誘導体ならびに一連のN置換3−アミノグルタルイミドを含む、ペプチドの抗炎症性特性を保持する複数の構造的に全く異なる一系列の化合物を生み出した。(参考文献:Foxら、J. Med. Chem.、第45号(2002年)、360〜370頁;国際公開第99/12968号(WO99/12968)及び国際公開第00/42071号(WO00/42071))。これらの化合物は全て、非ケモカイン化学誘引物質を超える選択性を保持する広域スペクトラムケモカイン阻害薬であり、その多くが生体内で急性炎症を遮断することが示されてきた。
【0008】
これらの化合物のうち最も効力及び選択性の高いものは(S)−3(ウンデス−10−エノイル)−アミノグルタルイミド(NR58,4)であり、これは、5nMのED50で試験管内においてケモカイン誘発型遊走を阻害した。しかしながら、さらなる研究により、アミノグルタルイミド環が血清中で酵素開環を受ける可能性があることが明らかになった。したがって、一部の利用分野については(例えば自己免疫疾患の場合のように、治療中の炎症が慢性的である場合)、これらの化合物は最適な特性を有さない可能性があり、そして類似の抗炎症性特性を伴う、より安定した化合物の方が優れていることがある。
【0009】
かかる安定した類似体を同定するためのアプローチとして、(S)−3−(ウンデス−10−エノイル)−アミノグルタルイミドの様々な誘導体が、血清中のそれらの安定性について試験されてきた。このような誘導体の1つである6−デオキソ類似体(S)−3−3−(ウンデス−10−エノイル)−2−オンは、37℃で少なくとも7日間ヒト血清の中で完全に安定しているが、親分子と比べて効力が著しく低い。
【0010】
安定した広域スペクトラムケモカイン阻害物質(BSCI)のこのような1つのファミ
リーは、7員モノラクタム環を有する3−アミノ−カプロラクタムである(例えば国際公開第2005/053702号(WO2005/053702)及び国際公開第2006/016152号(WO2006/016152)を参照のこと)。しかしながら、さらに有用な抗炎症性化合物は同様に、異なる環サイズを有するその他の3−アミノラクタムからも生成されてきた(例えば国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)を参照のこと)。ヘテロ原子及びビシクロラクタム環系の導入を含むラクタム環に対するその他の修飾も同様に、BSCI活性をもつ化合物を生み出す(例えば国際公開第2006/018609号(WO2006/018609)及び国際公開第2006/085096号(WO2006/085096)を参照のこと)。
【0011】
これまでのところ、BSCI活性ひいては生体内の抗炎症性特性を有する広範な部類の作用因子の同定は、BSCI活性の効力の最適化に基づいていた。例えば、以前の開示は、(アシル−3−アミノラクタムのアシル側鎖内のアルファ又は主要炭素原子における)2.2−2置換の導入により、2.2−2置換アシル基が開鎖(国際公開第2005/053702号(WO2005/053702)参照)、単環(国際公開第2006/134384号(WO2006/134384)参照)又は多環(国際公開第2006/016152号(WO2006/016152)参照)であるか否かに関わらず、急性炎症モデルにおいて試験管内及び生体内の両方でBSCIとしての効力の著しい増加が導かれるということを教示していた。
【0012】
しかしながら、所望の薬理効果の潜在性は、1つの薬剤が有用なヒト用の医薬品を製造するか否かを決定する上で、重要な要因ではあるものの1つの要因にすぎない。特に、薬物動態(又は体内の薬剤の性質)は、特定の薬剤の有用性に対して重大な効果を及ぼす。(身体に対する薬物の効果についての研究である薬力学と対照させて、薬物に対する体の効果を研究としてその最も広い意味合いにおいて定義される)薬物動態は、吸収、血漿安定性、分布体積(そして特に「標的」組織内への平衡化速度)、代謝的変換(シトクロムP450イソ酵素媒介型酸化などの肝代謝、及び硫酸化及びグルクロン酸化などの第II相代謝、及び血清酵素修飾などの肝外代謝を含む)、及び排せつ(例えば尿中への腎クリアランス及び糞便排せつ)を含めた(ただしこれらに限定されない)一連の複雑な生理学的プロセスにより左右される。これらのプロセスは、多くの場合、集合的に、薬剤の「ADME」特性と呼ばれる(ADMEは、吸収、分布、代謝及び排せつの頭字語である)。
【0013】
ヒト用医薬品としての薬剤の有用性を決定する上でのもう1つの重要な要因は、安全性である。全てとはいわないまでも投与される化合物の多くは体に対し多数の効果を惹起し、そのうち望ましい薬理学的効果はほんの一部にすぎない。残りの効果は、患者にとって有害なもの(毒性効果)又は不都合なもの(副作用)を結果としてもたらす可能性がある。候補となる医薬品のこのような特性の研究を毒物学又は安全性薬理学と呼ぶ。望ましくない効果は、大きく2つのタイプに分類できる。クラス効果は、所望の薬理学的作用と密に関連し、(程度の差こそあれ)選択された分子標的を操作したことの不可避的な帰結である。例えば、病的炎症を防ぐように設計された薬剤は、或る程度は、免疫抑制及び感染の危険性を増大させる結果をもたらす可能性がある。これは、炎症性組織損傷及び感染が両方共、免疫系の活性度と密接不可分であるからである。その結果、同一の薬理学的標的を共有する全ての分子が、多少の程度の差こそあれ、クラス効果を共有することになる。これとは対照的に、化合物効果は通常、意図された薬理学的標的とは全く異なる標的との(多くの場合予想外の)相互作用の結果として、特定の化合物構造と特異的に関連づけされる。原則として、同じ意図された薬理学的効果をもつものの化合物特異的な副作用が全く無い別の分子を見出すことは可能である。一部の化合物効果は共通である(例えば、心臓ペーシングの間のQT間隔を危険なほどに延長しその結果致命的となる可能性のある心不整脈をもたらし得るhERG相互作用など)が、その一方で、明らかに特定の化合物に独特な化合物効果もある。
【0014】
重大なことに、何十年間にもわたる薬学的開発の経験にも関わらず、1つの薬剤のADME及び薬物動態特性、又はその毒物学及び安全性薬理学のいずれかを予測するための一般的に受入れられた方法はいまだに全く存在していない。新しい医薬品の開発する上での世界的な規制では、最初に試験管内の検定システム(例えばhERG発現細胞系)を用いた、次に動物内で、そして最後に人間における第I相臨床試験において明示的な試験を行うことが要件となっているのはこのような理由からである。
【0015】
分子構造の検査からADMEのいくつかの様相を予測するための方法が記述されてきており、経験豊かな医薬品化学者が純粋に理論的な根拠に基づき数多くの構造を高い信頼性で排除できるということには、ほとんど疑いの余地があり得ない。(信頼性はいずれも同程度であることから)このような「経験則」の一例としては、大部分の承認された医薬品が分子量、回転可能結合数及び極性に関係するいくつかの基準を満たすという観察事実に基づいたリピンスキーの「5の法則」がある。同様にして、大きな疏水基をもつ分子の方がhERGチャネルとの望ましくない相互作用を示す確率が高いところということは一般に周知である。
【0016】
このような一般的ガイドラインは、たとえ一緒に適用された場合でさえ、不適切な分子を除去する上で有用であっても、数多くの極めて不適切な分子(様々な理由で)が、なおも網をくぐりぬけていくと思われる。今日、一部類の活性化合物から、純粋に理論的な根拠に基づいて薬物候補を選択することに真剣に賛同する者は誰もいないと思われる。その結果として、特に有利なADME、薬物動態、毒物学及び安全性薬理学的特性を有する一つの部類の中から特定の一化合物を発見するには、優れた候補間で数多くの実用的実験を行う必要があり、かかる発見は、当業者でさえ予測できなかった新規の発見である。
【発明の概要】
【0017】
本明細書では、以前に報告されたことのない、
【化1】
という新規の化合物、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン(I)について記述する。
【0018】
この化合物は、以前に記述された(例えば国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)を参照のこと)BSCIの広範な一般的部類の具体的なメンバーである。しかしながらこの部類の分子は全てBSCI活性を有するものの、化合物(I)はこの部類のその他のメンバーと実験的に比較した場合に、ADME、薬物動態、毒物学及び安全性薬理学的特性をそれが組合せた結果としてヒト用医薬品として使用するための著しく優れた特性を有するものとなっている、ということを我々はここで実証する。
【0019】
ラクタム環の3位にある炭素原子は非対称であり、したがって、本発明の化合物は考えられる少なくとも2つの個別形態すなわち「R」及び「S」構成を有する。本発明は、2つの鏡像異性体形態、及びラセミ「RS」混合物を含めたこれらの形態の全ての組合せを包含する。単純さを目的として、式中に特異的立体配置が一切示されていない場合、2つの個別の鏡像異性体形態及びその混合物が表現されていると理解すべきである。鏡像異性体逆転は、化合物の優位性の原因である主要なADME特性に対し全く効果がない(そして付加的には、BSCIといった化合物の効力に対してわずかな効果しかもたない)ことから、鏡像異性体形態及びその混和物の両方共がその部類全般よりも実質的に優れた具体例を表わしている。
【0020】
好ましくは、本発明に係る式(I)の化合物は、
【化2】
という式(I’)の化合物である。
【0021】
立体中心に(S)−立体配置を有する化合物(I’)は、(R)−鏡像異性体よりもBSCIとしての効力が5〜25倍高い。
【0022】
同様に提供されているのは、活性成分としての一般式(I)又は(I’)の化合物又はその医薬として許容される塩、及び少なくとも1つの医薬として許容される賦形剤及び/又は担体を含む医薬組成物である。
【0023】
医薬として許容される塩というのは、特に、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、二リン酸塩及び硝酸塩などの無機酸の付加塩又は、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、パルミチン酸塩及びステアリン酸塩などの有機酸の付加塩を意味する。同様に、本発明の範囲内に入るのは、使用可能な場合の、水酸化ナトリウム又はカリウムといった塩基から形成される塩である。医薬として許容される塩のその他の例については、「塩基性薬物用の塩の選択」、Int. J. Pharm.(1986年)、第33号:201〜217頁を参照することができる。
【0024】
医薬組成物は、例えば粉末、顆粒、錠剤、ゼラチンカプセル、リポソーム又は座薬などの固体の形態をとり得る。適切な固体支持体は、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、デキストリン、 デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン及びロウであり得る。その他の適切な医薬として許容される賦形剤及び/又は担体は、当業者にとって公知である。
【0025】
本発明に係る医薬組成物は、同様に、例えば溶液、エマルジョン、懸濁液又はシロップといった液体形態の体裁をとることもできる。適切な液体支持体は例えば水、有機溶媒例えばグリセロール又はグリコール、ならびに変動する割合のそれらの水中混合物であり得る。
【0026】
本発明は同様に、炎症性疾患を治療するための医薬の調製のための、式(I)又は(I’)の化合物又はその医薬として許容される塩の使用をも提供する。
【0027】
本発明は、水和又は溶媒和形態をした、定義された化合物、組成物及びその使用を含む。
【0028】
先行技術と比較して、本発明の改良は、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンが、以前に記述された一般的分類のラクタムBSCI(例えば前出の国際出願)に比べて優れたADME特性を有するという予想外の観察事実にある。かかる化合物は、許容される薬力学的特性を有するものとして報告され(すなわち、これらは、そのBSCI活性の結果として生体内で強力な抗炎症性効果を有する)、かつ許容される薬物動態ひいてはADME特性を有しているはずであると推論されたものの、それでも、ADME特性の直接的評価からは、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンが顕著にかつ予想外に優れていることが示唆されている(以下の実施例を参照のこと)。
【0029】
特に、以前の試験管内血清中安定性研究では、文献中(例えばFoxら、J, Med. Chem.、2005年、第48号;867〜74頁)の中で報告されているようにラクタムBSCIが早期イミドBSCIに比べて著しく優れている(例えば国際公開第99/12968号(WO99/12968)参照)ということが示唆されていたが、今では、ラクタム部類の多く(又は実に大部分)のBSCIが、生体内で望ましくない代謝を受けていることは明白である。我々は、アシルアミノラクタム部類の12個超のBSCIを作製しテストしたが、これまでにテストされたラクタム部類のBSCIは、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンを除いて全て、高速肝代謝を受けやすい(シトクロムP450媒介型ヒドロキシル化及び/又は第II相代謝)。
【0030】
少なくとも部分的には、生体内代謝が削減されたことの帰結として、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンの全体的クリアランスは、テストされたその他のラクタムBSCIの場合より著しく低いものである。その結果、単回経口用量の後の曝露は、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンの場合10倍超高い。したがって、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンは、特に、以前に開示されたラクタムBSCIの大部分(全部ではないにせよ)に比べて、特に効能のため慢性的経口曝露が必要とされる場合にヒト用医薬品として使用するのにより適している。
【0031】
先行技術のペプチド(例えばNR58−3.14.3)は、(a)高価であり、固相合成を必要とすること(少なくとも長い方のものについて)、及び(b)腎臓を介して非常に速やかに排泄されること、及び(c)一般に効力がはるかに低いこと(試験管内では25分の1よりもさらに効力が低く、生体内では10000分の1よりもさらに効力が低い)という欠点を有する。
【0032】
先行技術のアミノグルタルイミドは、安価であり、腎臓を介して速やかに排泄されず、試験管内でより効力が高いが、血清中で極めて不安定である(イミド環の酵素系的開放の結果として;例えばFoxら、J. Med. Chem. 2005年48:867〜74頁を参照のこと)。その結果、(S)−3−(ウンデス−10−エノイルアミノ)グルタルイミドなどのアミノグルタルイミドBSCIは、急性炎症モデル(例えば化合物の安定性及びADME特性の影響が少なくとも明確な全身的TNF−α産生を特徴とするLPS誘発型内毒素血症)においてさえ、2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ−テトラヒドロピリジン−2−オンに比べ生体内において多くとも250分の1未満の効力しか有していない。
【0033】
文献内で記述されてきた構造的に関係ある(ただし機能的には大きく異なっている)別の一連の化合物は、通常は3−オキソ−アシル側鎖を伴う6員のホモセリンラクトン構造のまわりに標準的に基礎を置く細菌性自己誘発因子化合物である(例えば、広範囲のかかる化合物を請求しているBycroftら、米国特許第5,969,158号(US5,969,158)を参照のこと)。興味深いことに、かかる開示にはラクタムならびにラクトンを包含する一般式が含まれているものの、細菌性自己誘発因子特性をもつ例証された化合物のうちラクタム頭部基を有するものはあったとしても極わずかである。かかる化合物は全て(ただし特にラクトン頭部基及び/又は3−オキソアシル尾部基をもつもの)、比較的不安定であることがわかっており、薬剤としてのその応用が制限されている。
【0034】
ここで記述されている改良、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンは、合成コストが低く(かつ本明細書で開示されている方法は、kg規模でさえ容易な合成を可能にする)、試験管内で単離された血清中で優れた代謝安定性を示す(以前に開示されたBSCIの全ラクタム部類と共有する特性)だけでなく、生体内でも優れた代謝安定性を示す。その結果、本発明の化合物は(これまでに網羅的に研究されてきた化合物のなかでも)、効能、効力及び薬学的特性例えばADME、薬物動態、毒物学及び安全性薬理学の観点から見て人間の炎症性疾患の治療のために、無比の形で最適化されている。
【0035】
本発明によると、式(I)又は(I’)の化合物又はその医薬として許容される塩又はそれらと共に活性成分を含有する医薬組成物又は薬剤が予防又は治療を意図している炎症性疾患としては、特に以下のものが含まれる:
− 自己免疫疾患例えば多発性硬化症、関節リウマチ、狼瘡、過敏性腸症候群、クローン病;
− 卒中、冠動脈疾患、心筋梗塞、不安定狭心症、アテローム性動脈硬化症又は脈管炎、例えばベーチェット症候群、巨細胞性動脈炎、リウマチ性多発性筋痛、ヴェグナー肉芽腫症、チャーグ・ストラウス症候群脈管炎、ヘノッポシェーンライン紫斑病及び川崎病;
− ウイルス感染又は複製、例えばポックスウイルス、ヘルペスウイルス(例えばHerpes virus samiri)、サイトメガロウイルス(CMV)、肝炎ウイルス又はレンチウイルス(HIVを含む)を含めたウイルスに起因する感染又はその複製;
− 喘息及びそれに関連する呼吸器疾患例えばアレルギー性鼻炎及びCOPD;
− 骨粗鬆症;(低骨密度);
− 腫瘍成長;
− 臓器移植拒否反応及び/又は臓器移植後臓器機能障害(例えば腎移植患者の場合);
− 高いTNF−αレベルを特徴とする疾患;
− 乾癬;
− 肥厚性瘢痕化(ケロイド形成)、一般又は婦人科外科手術後の癒着形成、肺線維症、肝線維症(アルコール性肝臓疾患を含む)又は特発性か又は糖尿病といった(糖尿病性ネフロパシー)基礎疾患の帰結としての腎臓の線維症を含めた、皮膚創傷及び他の線維性疾患;
− マラリア又は結核といったような細胞内寄生体に起因する疾患;
− 神経因性疼痛(例えば術後幻肢痛、肝炎後神経痛など)、
− アレルギー又は
− アルツハイマー病、
【0036】
本発明によると、さらなる炎症性疾患としては、以下のものが含まれる:
− ALS;
− 抗原誘発性想起応答、
− 免疫応答抑制。
【0037】
これらの臨床的適応は、炎症性疾患又は高いTNFαレベルを特徴とする疾患の一般的定義に入る。
【0038】
疑念を回避するため、本発明の化合物を含むBSCIの一次的作用機序は、免疫系に対するものであるという点に留意すべきである。したがって、ウイルス感染及び/又は複製及び腫瘍成長(それ自体そもそも免疫系の疾病ではない身体条件)といったような疾病についての請求されている有益な効果は、ウイルスの感染及び/又は複製パターン又は腫瘍の成長及び広がりに対する免疫系の変調の間接的な効果の結果としてもたらされる。本発明で請求されている化合物を含むBSCIは(一般に)直接ウイルス複製又は腫瘍成長に影響を及ぼさないことから、BSCIは、無傷でかつ機能している免疫系が存在しない単離された系内で(例えば培養した細胞系の試験管内感染又は腫瘍細胞系増殖検定において)全く効果をもたないことが予想されると思われる。したがって、かかる単離された系における任意の化合物の効果に関する先行する情報が、免疫系に作用するBSCIの開発についての情報を提供することはできない。
【0039】
法的に許容される場合には、本発明は同様に、本発明中で請求されている通りの化合物、組成物又は薬剤を抗炎症量だけ患者に投与することによって、(いずれかの薬剤に対する有害な炎症反応を含めた)炎症性疾患の症候の治療、改善又は予防方法をも提供する。
【0040】
本発明に係る薬剤の投与は、局所的、経口、非経口経路、筋内注射などによって実施可能である。
【0041】
本発明に係る薬剤について想定された投与用量は、使用される投与経路及び処方に応じて0.1mg〜10gの間に含まれる。
【0042】
本発明によると、一般式(I)又は(I’)の化合物は、以下で記述するプロセスを用いて調製可能である。
【0043】
一般式(I)又は(I’)の化合物の調製
一般式(I)又は(I’)の全ての化合物は、当業者にとって公知の一般的方法にしたがって容易に調製可能である。
【0044】
化合物(I)は、オルニチンと2,2−ジメチルプロピオニルクロリドから作ることのできる無色の結晶性化合物である。(I’)の合成のためには、鏡像異性的に純粋な(S)−オルニチンが使用される。オルニチン又はそのメチルエステルで始まる閉環が考えられる。トリメチルシリルクロリドを用いたHClのその場生成により、アミノ酸を乾燥メタノール中でエステル化することができる。代替的には、単離したエステルを閉環することもできるが、いずれの場合もトリエチルアミンを使用する。粗製生成物は次に、溶媒交換の後にアシル化することができる。
【0045】
アシルアミノラクタム生成物(I)は、有意な水溶液を有し、その結果、関係する疎水性生成物のために使用されるアシル化条件(例えば国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)を参照のこと)は不充分であった。塩基として炭酸ナトリウム3当量を使用すると、大量の水(オルニチン1mmolあたり4ml超)を使用するのでないかぎり、結果として炭酸水素ナトリウム副産物の有意な沈殿が形成された。これらの濃度では、ジクロロメタン内への生成物の抽出は効率的でない。したがって、炭酸ナトリウム3当量を、水酸化ナトリウム2.5当量(これは閉環ステップにおいて生成されるトリエチルアミン塩酸塩2.5当量を中和する)と交換した。この塩基の場合、著しく少ない量の水を使用することができる(オルニチン1mmolあたり1mL未満)(最終pH8〜9)。EtOAc(オルニチン1mmolあたり2mL×3)で水層を抽出し、EtOAc(高温、0.5mL/mmol)及び40〜60の石油(5mL/mmol)から再結晶化させることで、43%の収量で第1の産物が生産された。
【0046】
検査中、水層のpHが過度に低い場合には、EtOAc層内に少量のトリエチルアミン塩酸塩が抽出される。水でこのEtOAc溶液を洗浄することを試みると、塩酸アミンと共に有意な数量のラクタム生成物(I)が抽出される。これは、EtOAc抽出を試みる前に水層のpHを12まで上昇させること(例えば酸塩化物との関係においてほぼ1当量のKOHを添加することによる)で回避でき、このときラクタム生成物(I)と共にトリエチルアミン遊離塩基が抽出され、これは、蒸発によってか又は再結晶化の間にさらに容易に除去可能である。
【0047】
したがって、以下のような好ましい合成経路が提供される:
【化3】
【0048】
(S)−オルニチンモノヒドロクロリド(50mmol)を乾燥メタノール(100ml)中に懸濁させ、トリメチルシリルクロリド(75mmol)を添加する。反応を24時間還流にて加熱する。次にトリエチルアミン(150mmol)を添加し、48時間還流にて加熱する。その後メタノールを減圧下で除去し(任意には、除去を容易にするため後の段階でトルエンを添加してもよい)、KOH(125mmol)を添加した水(20mL)の中に残渣を溶解させる。
【0049】
混合物を0℃まで冷却し、その後2.2−ジメチルプロピニルクロリド(50mmol)をゆっくりと添加し、反応を18時間撹拌し、その間室温まで暖めた。その後固体KOH(50mmol)を添加し、ひとたび溶解したならば反応をEtOAc(3×100mL)で抽出する。組合さった有機層をK2CO3及びNa2SO4の組合せの上で急速に乾燥させ、低圧下で還元(reduced)させる。その後、固体残渣をEtOAc(25mL)/40〜60石油エーテル(200〜250mL)から再結晶化させて、結晶性固体としてラクタム(I’)を得る(50%超の収量)。
【0050】
生成物の同一性及び純度(95%超)を次にプロトンNMR分光法により確認した(δH(400MHz,CDCl3)6.63(1H,br s,NH)、6.01(1H,br s,NH)、4.20(1H,dt,J11,5.5,CHNH)、3.40−3.31(2H,m,CH2NH)、2.61(1H,dq,J13,4.5,CH2)、1.97−1.88(2H,m,CH2)、1.50(1H,dddd,J13,12,9.5,7.5,CH2)、1.22(9H,s,3×CH3))。
【0051】
定義
「約」という用語は、考慮対象の値の前後の一定の範囲を意味する。本出願中で使用されている「約X」というのは、XからXの10%を減じたものからXにXの10%を加えたものまでの範囲を意味する。
【0052】
本明細書中の数値域の使用は、明確に、その範囲内の全ての個々の整数及び所与の範囲の最も広い領域内の上限及び下限数の全ての組合せを本発明の範囲内に含み入れるように意図されたものである。したがって、例えば、(とりわけ)使用すべき3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンの用量に関して規定された0.1mg〜10gの範囲は、明示的に例証されているか否かに関わらず、0.1mg〜10gの間の全ての用量、及び上位数及び下位数を組合せたもの各々の全ての下位範囲を内含するように意図されている。
【0053】
本発明中で使用される「〜を含む」という用語は、「〜を含む」と「〜から成る」の両方を意味するものとして解釈すべきである。したがって、本発明が或る化合物を「活性成分として含む医薬組成物」に関係する場合、この用語は、その他の活性成分が中に存在し得る組成物と同様、定義された通りの1つの活性成分のみからなる組成物をも網羅するように意図されている。
【0054】
別段の定義がないかぎり、ここで使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。同様にして、本発明中に記載されている全ての刊行物、特許出願及び特許及びその他の参考文献は、(法的に許容される場合)参照により援用されている。
【0055】
以下の実施例は、上述の手順を例示するために提示されており、いかなる形であれ本発明の範囲を限定するものとしてみなされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1A】ラットに対し経口経路を介して1%のCMC中で単回3mg/kg用量を投与した後テストされた5つの化合物(I’)〜(V)についての時間−濃度グラフを示す。各化合物についての3本のラインは、3匹の複製動物を表わす。Y軸は、ng/ml単位で表わした濃度を示す(0〜3000);X軸は分単位で表わした時間を示す(0〜480)。
【図1B】上に同じ。
【図1C】上に同じ。
【図1D】上に同じ。
【図1E】上に同じ。
【図2】1%のCMC中に3mg/kgの割合で投与されたテスト対象の5つの化合物(I’)〜(V)の各々の単回経口用量に曝露されたラットから24時間にわたって収集されたプールされた尿についてLC−MS−MSにより(フルスキャンモードで)同定された主要代謝産物を示す。化合物(IV)の主要代謝産物(IV)は同定されたものの、その構造は、公に入手可能な代謝産物IDデータベース内で断片化/再配置パターンを比較することによって解明されなかった、という点に留意されたい。個々の代謝産物の濃度は決定されなかったが、これらは、存在量の最も高い種を各行の左側に示して、尿中における存在量の定性的順序で示されている。
【図3A】各々別個の実験において、ビヒクルか又は5つの化合物(I’)〜(V)に曝露された場合の、hERG遺伝子産物を発現する細胞についての電流対時間のグラフを示す。各実験において、複製細胞を、hERGにより導入された電流を完全に遮断する陽性対照化合物に曝露した。Y軸はnA単位の電流を表わし;X軸は秒単位の時間を表わす。パネルGは、各化合物又は0.1%のDMSOビヒクル単独(Veh)又は陽性対照化合物E−4031(+ve)に対して曝露された複製細胞についてのhERGテール電流(パネルA−F内の時間対電流グラフの下の面積)を示す。パネルG内のヒストグラムのY軸は、未処理細胞との関係におけるhERGテール電流の阻害百分率を表わす。
【図3B】上に同じ。
【図3C】上に同じ。
【図3D】上に同じ。
【図3E】上に同じ。
【図3F】上に同じ。
【図4】化合物(I’)についての典型的な結合曲線を示す。この実施形態においては、各反応は、様々な競合物質(100μM−1pM)と合わせて、10nMの標識されたBN83250(化合物(I’)と同じ受容体に結合するラクタムBSCI)を受けた。全特異結合は、大きな余剰分(100μM)だけ変位された量であった。各棒は、3回の複製定量の平均を表わし、ウィスカー(差)はSEMを表わしている。Y軸は、毎分計数(cpm)単位での各実験において結合させられた放射能計数を表わす。上部破線は、実験条件下での全結合を表わし、一方下部破線は非特異結合を表わしている。特異結合は、破線間の距離によって表わされている。
【図5A】CEREPパネル(本文参照)を構成する75の異なる受容体パネルに対する5つの化合物(I’)〜(V)の各々についての交差反応性のプロフィール(パネルA:(II);B:(III);C:(V);D:(I’)及びE:(IV))を示す。化合物は、単一の濃度(10μM)でテストされ、公知のリガンドについての75の受容体の各々に対する結合の阻害(各ヒストグラムのY軸)が報告されている(したがって−100%は、テスト化合物の存在下での特異的リガンドの結合の2倍増加を表わす)。全ての反応は、デュプリレートで実施され、棒は平均を表わす(グラフを簡略化するため、複製誤差の推定値は一切示されていない)。このスクリーニング検定においては、結合の50%以上の阻害(又は刺激)(特定の受容体とテスト化合物の相互作用について10μM未満のED50を表わす)のみを、統計的及び生物学的に有意であるとみなした。ここでテストされた5つの化合物について、1つの相互作用(パネルAで矢印によりマークされたNK2受容体と化合物(II)の相互作用)のみが潜在的に有意であるとみなされたが、この相互作用でさえも微弱なものであった(推定ED50 5〜10μM)。
【図5B】上に同じ。
【図5C】上に同じ。
【図5D】上に同じ。
【図5E】上に同じ。
【図6A】Chemo TxTMトラスンウェル遊走(transwell migration)検定における5つの化合物(I’)〜(V)の各々についての、試験管内でのケモカイン誘発型白血球遊走の阻害に関する代表的用量応答曲線を示す。各々の実験において、THP−1細胞は、様々な用量(10pM〜1μM)の各化合物の存在下又は不在下で最大限に有効な量のケモカインMCP−1を用いて遊走するように誘発された。各実験において適切なビヒクル対照が用いられた。各テスト化合物の各濃度における(下部チャンバから削除されたMCP−1と共に遊走させられた細胞の数をMCP−1の存在下で遊走させられた細胞の数から差引いたものとして計算される)MCP−1誘発型遊走の阻害百分率は、トリプリケート決定値の平均として示され、ウィスカーはSEMを表わしている。ED50は、提示されたグラフの線形補間により推定された。各グラフのY軸は、MCP−1誘発型遊走の阻害百分率を表わしている。X軸は、nM単位で表わした存在するテスト化合物の濃度を表わす(0.01〜1000)。
【図6B】上に同じ。
【図6C】上に同じ。
【図6D】上に同じ。
【図6E】上に同じ。
【図7A】亜致死内毒素血症のマウスモデルにおける生体内でのLPS誘発型TNF−α産生の阻害についての代表的な用量応答曲線を示す。各実験において、6匹のマウスからなるグループは、経口(丸印)又は皮下(三角印)経路のいずれかを介して様々な用量で5つの化合物(パネルA:(II);B:(III);C:(V);D:(I’)及びE:(IV))での前処理を受けた。30〜60分後に、腹腔内経路を介して動物にLPSの抗原投与を行ない、3時間後に末端出血から血清を調製した。ELISAによって血中のTNF−αのレベルを測定し、(内毒素を含まないPBSに対する疑似曝露を受けたマウスにおけるTNF−αの濃度をLPSに曝露されたマウスにおけるTNF−αの濃度から差し引いたものとして計算された)LPS誘発型TNF−α産生の阻害度は、6匹の動物の平均として各グラフのY軸に示され、ウィスカーはSEMを示している。LPSを受けたもののBSCI処理を全く受けていないマウスにおけるTNF−αの濃度は、標準的に平均5000〜6000pg/mlであった(これに比べて抗原投与を受けていないマウスでは10pg/ml未満であった)。ED50は、提示されたグラフの線形補間により推定された。各グラフのX軸は、1mg単位で表わしたグループ内の各マウスに投与された各化合物の用量を表わしている(1E−07〜1)。
【図7B】上に同じ。
【図7C】上に同じ。
【図7D】上に同じ。
【図7E】上に同じ。
【図8】喘息のげっ歯類モデルにおけるBAL流体内の細胞計数によって評価される、代表的実験での肺の炎症に対する化合物(I’)の効果を示す。棒は、5匹の動物からなるグループについて、106個の細胞の単位でY軸に示された平均細胞計数を表わし、ウィスカーはSEMを表わす;*2つの尾部を伴って、等しい分散を仮定した対応のないスチューデントt−検定を用いて「感作されたもの」に対してp<0.01)。水平ラインは、抗原投与を受けていないラットの肺からのBAL流体中に存在する平均白血球数を表わす。残りの3つの群における全てのラットは、同じ感作及び抗原投与計画を受けたが、ビヒクル単独(「感作済み」)か又は体重1kgあたり0.3mgの化合物(I’)又は体重1kgあたり30mgのモンテルカスト(monteleukast)(「シングレア(SingulairTM)」)で処理された(全て、経口強制飼養により毎日投与)。
【図9】喘息のげっ歯類モデルにおけるCD4+脾細胞によるIFN−γ(Th1マーカーサイトカイン)及びIL−4(Th2マーカーサイトカイン)産生のフローサイトメトリによる決定によって評価されるような代表的実験におけるTヘルパー細胞の極性化に対する化合物(I’)の効果を示す。棒は、10匹の動物からなるグループについて、Y軸に示された平均Th1/Th2比を表わし、ウィスカーはSEMを表わす;*抗原投与を受けていないラットに対してp<0.05;†感作を受け抗原投与を受けていないラットに対してp<0.05、両方のケースにおいて、2つの尾部を伴って等しい分散を仮定して対応のないスチューデントt−検定が用いられる)。(オボアルブミンに曝露されなかった「BNラット」グループを除いて)全てのラットは同じ感作及び抗原投与計画を受けたが、ビヒクル単独(「感作済み+ビヒクル」)か又は体重1kgあたり0.3mgの化合物(I’)又は体重1kgあたり30mgのモンテルカスト(monteleukast)(「シングレア(SingulairTM)」)で処理された(全て、経口強制飼養により毎日投与)。
【図10】ラットにおける一範囲の異なるBSCI化合物についての血漿半減期(分単位)対経口曝露のプロットである。各ケースにおいて、半減期は、生理食塩水中の0.9%のDMSO、1%のCMCの中に溶解させた1mg/kgの割合の化合物の単回静脈内ボーラス注射から0、0.25、0.5、1、2、4、6及び8時間後における血漿濃度の標準的1コンパートメントモデルを用いて推定された。経口曝露(分、ng/ml単位のAUCO−t)は、生理食塩水中の0.9%のDMSO、1%のCMC中で溶解された3mg/kgの割合の化合物の単回経口用量の後に計算された。化合物(I’)の反転であり「(R)−(I)」として同定されている化合物(I)のR−光学異性体は、白丸印でマークされている。
【実施例】
【0057】
以下の実施例1〜6の各々においては、(S)−3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン(化合物I’)を、様々な下位部類(subclasss)を代表するものとして選択された一範囲のその他のラクタムBSCIと比較した。例えば、ポリシクロアシルラクタムBSCIの下位部類(例えば先に国際公開第2006/016152号(WO2006/016152)内で開示されたもの)の典型として、3−(アダマンタン−1−カルボニルアミノ)−カプロラクタム(II)を選択した。
【化4】
【0058】
同様にして、モノシクロアシルラクタムBSCIの下位部類(例えば先に国際公開第2006/134384号(WO2006/134384)内で開示されたもの)の典型として、3−(1’−メチルシクロヘキシルカルボニルアミノ)−カプロラクタム(III)を選択した。
【化5】
【0059】
単純(非環状)アルキル側鎖を伴うBSCIの下位部類(例えば先に国際公開第2005/053702号(WO2005/053702)内で開示されたもの)ならびにスルホニルアミノリンカーを伴うもの(選択された残りの化合物中の炭素アミドリンカーに対立するものとして)の典型として、化合物3−(1’,1’−ジメチルエチルスルホニルアミノ)−カプロラクタム(IV)が選択された。
【化6】
【0060】
選択された最終化合物3−(3’−ヒドロキシアダマンチル−1−カルボニルアミノ)−カプロラクタム(V)は、(構造が単純直鎖、分岐、単環式又は多環式のいずれであるかに関わらず)置換アシル側鎖を伴うBSCIに典型的であった。
【化7】
【0061】
これらのBSCI化合物(II)〜(V)は全て以前に具体的に開示されており、全てが生体内で強力なBSCI活性を有する(MCP−1誘発型THP−1細胞遊走の阻害についてED50<1nM)という点を指摘しておくことが重要である。全ては、試験管内で優れた血清中安定性を有し、理論的観点からみて全て、生体内での抗炎症性特性をもつヒト用医薬品としての開発のための優れた候補である。
【0062】
上述の化合物(I’、II、III、IV及びV)の全てが、ラクタム立体中心で(S)立体配置でテストされた。
【0063】
実施例1 単回用量後の薬物動態
化合物を、(静脈内経路を介して5%のDMSO中で体重1kgあたり1mgか又は、経口経路を介して1%のカルボキシメチルセルロース中で3mg/kgの)単回用量として3匹の成体ラットに(各化合物及び各投与経路について異なるラットを用いて)投与した。
【0064】
その後、様々な時点(用量投与直前を含む)において、投薬後24時間に至るまで血液を採取し、有効性確認されたLC−MS/MS検定を用いて様々な化合物のレベルを評価した。簡単に言うと、95:5の水:アセトニトリル中の0.1%のギ酸中でWaters Atlantis(C18 20×2.1mn、ビーズサイズ3μm)逆相クロマトグラフィーカラムに対して、3〜5μlの脱タンパク試料を適用した。3:5分にわたり、結合した材料を勾配溶離して5:95の水:アセトニトリル中の0.1%のギ酸に達し、その後続いて95:5の水:アセトニトリル中の0.1%のギ酸に戻るように段階的に勾配させた。その後カラム溶離剤を、Turbo IonsprayTMイオン源を陽イオンモードで作動させながらApplied Biosystems API 4000/3200 Q Trap MS/MS質量分析計まで導いた。界面温度は650℃に設定され、各々のMRM遷移についてドウエル時間は40msで、以下のイオンが監視された:
【表1】
【0065】
各決定における内部標準は、関連化合物(S)−3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−カプロラクタムであり、これは脱タンパクに先立ち試料内にスパイクされた。この検定のための定量下限(LLQQ)は、それが38.1ng/mlであった(I’)を除き、各化合物について2.4ng/mlであった。
【0066】
各々の収集された試料のLC−MS/MS分析の後、化合物の薬物動態的体内動態を、かかるアプリケーションのための周知のソフトウェアパッケージであるKineticaソフトウェアを用いてモデリングした。
【0067】
結果
経口経路を介して各化合物で処理された各ラットについての個々の濃度対時間グラフは、図1に示されている。これらの5つの構造的に多様なラクタムBSCIのうち、(IV)、(V)及び(I’)のみが感知され得る何らかの経口曝露を達成し、これらのうち(I’)がその他のものよりも実質的に優れている、ということは直ちに明らかである。
【0068】
表1には、単純な1コンパートメント薬学動態モデルのパラメータが示されている。まず第1に、これは、次に優れた化合物(V)よりもほぼ20倍高い、(I’)で達成されたより優れた曝露を実証している。(分、ng/mlの単位で濃度対時間曲線の下の面積として計算される)このより優れた曝露の理由も同様に明らかである。すなわちml/分/kg単位で毎分薬物が完全に排泄される理論的血液量として定義されている(I’)のクリアランスは、他のラクタムBSCIの場合よりも10倍超低いものである。
【0069】
【表2】
【0070】
表1.構造的に多様なラクタムBSCIについての薬物動態パラメータ
3匹のラットを平均した、各化合物についての単一の1コンパートメント薬物動態モデルからの、経口生物学的利用能(F,%)優性血漿半減期(t1/2、分)、クリアランス(ml/分/kg)、分布容量(Vss、L/kg)及び曝露(AUCO→無限、分、ng/ml)。*24分は、注入用量の95%超のクリアランスを説明する(V)についての優性半減期である;劣位t1/2βは110分であった。全てのケースにおいて、Cmaxは、30分以内で達成され、これは最適な吸収と一貫性あるものであった。
【0071】
(II)及び(III)のクリアランスは、ラットの肝血流量に接近し、このことは、これらの化合物の両方が最初の肝臓内通過の時点でほぼ完全に代謝されるということを強く示唆している。同様にして、(IV)及び(V)の両方のクリアランスは、ラット体内の腎血流量を約3〜4倍ほど超過し、ここでもまた、同じく肝臓を媒介とするものと推定される実質的な代謝クリアランスを示唆している。これとは全く対照的に、2.6ml/分/kgでの(I’)のクリアランスは、腎血流量(典型的には7〜9ml/分/kgとして引用されている)の半分未満であり、これは最小代謝クリアランスを示唆している。分布容量が合計体内水分(0.7L/kg)の自由平衡と一貫性を有する状態で、(I’)はきわめて水溶性が高いことから、腎血流量より低いクリアランスが(例えば親油性コンパートメント内への金属イオン封鎖に起因する腎臓に対する曝露の低下ではなくむしろ)腎臓遠位尿細管内の水での再吸収を表わすということが考えられる。
【0072】
その他の化合物と比べて(I’)についてのクリアランスがはるかに低いことと一貫して、(I’)は実質的により長い血漿半減期を有する(他の4つの化合物については半時間未満であるのに比べ、3時間超)。
【0073】
選択された化合物のうち5つ全てが急性炎症評価項目について経口生物活性を有することがわかっていたにせよ、BSCIの全てが経口生物学的利用能を有することが観察されたわけではない。このことは恐らく、効率良く吸収されたものの最初の肝臓通過時点でBSCIとしての一部の活性を保持する代謝産物へと転換される(II)及び(III)の急速な肝臓媒介型代謝を反映している。
【0074】
この薬物動態分析に基づくと、当業者にとっては、これら5つの化合物についての単離された血清中の類似の化学的安定性及び試験管内安定性ならびにそれらの理論的根拠に基づく類似の予測された特性にも関わらず、それでも(I’)がその他のもの全てよりも著しく優れている、ということが明白になる。特に、化合物のクリアランスは、恐らくは肝臓媒介型代謝に対する傾向を反映してはるかに低く、その結果、次に優れた被験化合物に比べ血漿半減期は10倍長く、経口曝露はほぼ20倍優れたものとなる。
【0075】
別個の実験においては、異なる(非げっ歯類)種、すなわちイヌにおける薬物動態パラメータについて、(I’)を第2に優れた化合物(V)と比較した。2つの投与経路の間で1週間のウォッシュアウトを伴う単純な交差設計で各化合物について一匹のイヌに単回用量(静脈内で5%のDMSO中1mg/kg又は、経口で1%のCMC中3mg/kg)を投与した。
【0076】
結果は表2に示されている。
【0077】
静脈内PK(1mg/kg)
【表3】
【0078】
経口PK(3mg/kg)
【表4】
【0079】
表2.ラット及びイヌにおける最良の2つのラクタムBSCIについての薬物動態パラメータの比較。イヌにおける薬物動態は、おおむねラットに類似している。両方の種において、著しく低いクリアランス、より長い血漿半減期ひいてはより大きな曝露(分、ng/ml単位のAUC)を有する化合物(I’)。各々のケースにおいて、優性半減期(速い方のt1/2α)が、注射された用量の95%超を排泄させる原因となっている。
【0080】
これらの観察事実は、(I’)のより優れた薬物動態特性が種特異的なものではなく、したがってヒトにおいて観察される確率も非常に高いものであるということを示している。
【0081】
実施例2 一次代謝産物の同定
単回経口用量(1%のCMC中3mg/kg)の各化合物に曝露されたラットから代謝ケージ内で24時間にわたり尿を収集した。その後プールした尿試料を、前述の実施例1で記述されたものと同じLC−MS条件を用いて、フルスキャン質量スペクトル分析に付した。次にプロダクトイオンのさらなるMS−MS分析を実施し、公に入手可能な代謝産物IDデータベースから、可能性ある断片化/転位を割当てた。
【0082】
主要な代謝産物については、割当てられた構造を、当該技術分野において周知の方法を用いて基準試料の合成により確認し、これらを、尿試料と同じ条件下でLC−MS−MS分析に付した。
【0083】
代謝産物ID研究が、存在する異なる代謝産物の相対量の定性的推定値のみを提供し、適切な内部標準を用いた別々に有効性確認された検定が、各々の代謝産物種を定量するために必要とされることになるという点に留意されたい。
【0084】
結果
検出された濃度の順位で、検出された代謝産物が、分析された5つの化合物について図2で示されている。ここで使用される方法が必然的に網羅的でなく、ここで適用された方法について検出限界を下回るさらなる(特に微量の)代謝産物も同様に存在し得るという点に留意することが重要である。一般に、注射された用量の10%以上を占める代謝産物が、ここで使用される方法によって(必ずしも構造的に同定されはしないものの)検出されるものと仮定することができる。
【0085】
化合物(II)及び(III)については、主要代謝経路は、肝血流量に接近する率での高速クリアランスと一貫性をもつシトクロムP450媒介型ヒドロキシル化である(以上の実施例1を参照のこと)。両方の化合物における主要なヒドロキシル化部位は、シクロアルキル尾部基上であり、第2の(より低速の)ヒドロキシル化はラクタム頭部基上で起こる。ラクタムヒドロキシル化生成物は、エレクトロスプレー源内での7−ヒドロキシアダクツの不安定性のため、(+16amuとは対照的に)−2amuでMS−MSにおいて出現したという点に留意されたい。
【0086】
化合物(II)については、ジヒドロキシル化生成物は、尿中で検出されるのに充分な量で存在し、一方化合物(III)については、いかなるジヒドロキシル化生成物も検出されなかった。両方のケースにおいて、付加的な微量生成物も同様に、適用された方法の検出レベルより下で形成された確率が高い(例えば、特に(V)のグルクロン酸化アダクツが検出されたことから、ヒドロキシ−(II)及びヒドロキシ−(III)の両方のグルクロン酸化アダクツと同様に、3,5ジヒドロキシ及び3,5,7トリヒドロキシアダマンチル誘導体)。
【0087】
化合物(V)については、グルクロン酸化化合物は、主要代謝産物であったが、ラットにおいては、グルクロン酸塩の微量画分のみが尿中に排泄され、大部分は糞便へと移行する(このグルクロン酸アダクツが主として尿中で排泄されるヒトとはきわめて対照的である)。その他の第II相代謝産物(例えば3’−O−サルフェート)も同様に形成された可能性があるが、本明細書中で使用された方法によって検出されるには低すぎるレベル(少なくとも尿中では)にすぎなかった。化合物(II)及び(III)に関しては、ラクタム頭部基上でヒドロキシル化された少量の生成物も検出された(ここでもまた主として−2amuプロダクトイオンとして)。
【0088】
化合物(IV)については、主要代謝産物は同定できなかったが、親化合物の喪失(表3参照)は、未同定代謝産物の形成と明らかに一貫性を有していた(注射された(IV)の用量の10%未満が、不変の状態で回収された)。化合物(IV)は、スルホンアミド結合を含む唯一の薬剤であったことから、リンカーの代謝分割(又はその他の修飾)が発生していた可能性はあると思われるものの現在のところ証明されていない。ここでもまた、ラクタム頭部基における少量のヒドロキシル化が同様に観察された。
【0089】
その他の化合物全てときわめて対照的に、尿中には(I’)の有意な代謝産物は一切検出されず、これは注射された用量の大部分が不変形態で尿中に出現したこと(表3参照)及び腎血流量以下のクリアランス率(以上の実施例1を参照のこと)と一貫性を有していた。この代謝産物形成の欠如は、ヒト用医薬品としての開発に向けて本明細書でテストされたその他の化合物と比べて(I’)が有する主要な予想外の利点であり、少なくとも部分的に、以上の実施例1で記述されたより優れた薬物動態特性の原因である。
【0090】
テストされた化合物の各々が代謝された程度を示す量的推定値を提供するために、内部標準として(S)−3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−カプロラクタムを用いて、尿中の不変な親化合物の量を、実施例1に記述されているものと同じ有効性確認されたLC−MS検定を用いて測定した。結果は表3に示されている。さらに、様々な標的組織中の化合物レベルも決定した。
【0091】
【表5】
【0092】
表3.ラットにおける単回用量から24時間後の様々な組織中への化合物の分布。単回経口用量(1%のCMC中3mg/kg)から24時間後の尿中では、化合物(I’)、(V)及び(IV)のみが検出可能であった。これらのうち、化合物(I’)は著しく少ない代謝しか受けていなかった(注射された用量の60%超が尿中で回収された)。さらに、単回用量から24時間後には、その他のいずれ組織の中でも化合物(I’)だけを検出できた。このことは恐らく、ここでテストされたその他の化合物と比べて(I’)と関連する曝露の増加及びより優れた分布の両方を反映している。
【0093】
その他の化合物に比べてはるかに低い(I’)の代謝速度は、(I’)が予想外に、ヒト用医薬品としての開発のために先に開示された広範囲のラクタムBSCIよりも著しく優れていることを実証している。この低い代謝(ひいては改善されたADME特性)は恐らく、以上の実施例1の中で示されている劇的に優れた薬物動態特性を説明するものである。さらに、BSCIは、広範囲の組織内への不適切な白血球動員を標的とする抗炎症剤としての開発用に意図されていることから、単回用量から24時間後にテストされた体の全組織中に(I’)が見出される一方で、テストされたその他のラクタムBSCIが見出されなかったという予想外の発見事実は、この新規の化合物が特に有用であることを明白に実証している。
【0094】
実施例3.安全性薬理学
確率の高い遺伝毒性を評価するために、5つの化合物を標準的AMES試験に付した。S9ラット肝臓ミクロソーム代謝系の存在下及び不在下で(最高5mg/mlまでの)5つの濃度を用いて各々の化合物でS. Typhinuriumの3つのHis−栄養要求性菌株(TA102、TA98及びTA100)を処置した。次に、微量His最小培地上に平板固定することによって、復帰突然変異体コロニーの数を決定した。
【0095】
結果(表4)は、5つの化合物のうちのいずれも、テストされた菌株のいずれにおいても(代謝活性化を伴う又は伴わない)復帰突然変異体コロニー形成を有意に増大しないということを示している。
【0096】
【表6】
【0097】
表4.AMES試験における復帰突然変異体コロニー。テストされた化合物のいずれも、テストされた濃度のいずれにおいても復帰突然変異体コロニー形成の有意な増加をひき起こさなかった(上位用量についてのデータのみが示されている)。化合物(II)が5mg/mlで細菌叢成長の阻害をひき起こしたという点に留意されたい。
【0098】
別個の実験においては、hERGイオンチャネルとの相互作用について、5つの化合物全てをテストした。hERGと相互作用する化合物は、QTの延長そして潜在的には致命的な心不整脈をひき起こす危険性がある。10μMでhERGテール電流を50%超阻害する化合物は、一般的に、ヒト用医薬品としての開発のためには危険性が高いものとみなされている。
【0099】
hERGを発現するために安定した形でトランスフェクトされたHEK239細胞に、10μMで化合物を含有する浴溶液(0.1%のDMSO)を灌流させた。3個の細胞からのhERGテール電流を次に、5秒間+20mVまで減極した後パッチ−クランプ分析により記録した。その後、10μMで有意な変調を示すあらゆる化合物について、4点用量−応答曲線の中で、hERG相互作用の効力を決定した。
【0100】
結果(図3)は、5つの化合物のいずれも、10μMでhERGチャネルと有意な形で相互作用しなかったことを示している。
【0101】
我々は、安全性薬理学の観点から、(I’)を含め5つの化合物全てが、ヒトの医薬品としての開発のために同等に適しているという結論を下している。特に、以上の実施例1及び実施例2で例証された(I’)の著しく優れたADME及び薬物動態特性は、それに対応するさらに好ましくない安全性薬理学プロフィールを随伴していない。
【0102】
実施例4.一般薬理
5つの化合物の一般薬理を、特異的標的受容体に対してと同様、多くが標的受容体と構造的に関連づけられる多種多様なその他の受容体に対して評価した。標的受容体に対する特異的結合は、[3H]−BN83250の結合に対する競合により評価された(BN83250は、(S)−3−(2’,2’−ジメチルドデカノイルアミノ)−カプロラクタム(Foxら、J. Med Chem. 第200;4813号);867〜74頁)、すなわちここで開示されているラクタムBSCIと同じ標的受容体に結合するものとして知られている薬剤である)。非標的受容体に対する結合は、当該技術分野において周知であるその他の受容体のための様々な特異的放射性リガンドの結合に対する競合によって評価された。
【0103】
特異的結合のためには、ヒト骨髄単核細胞系を、10nMの[3H]−BN83250(100%のエタノール中の1μMの原液由来;30Ci/mmol)及び様々な競合物質(1%のDMSO最大ビヒクル濃度)の存在下で4℃で、結合緩衝液(20mMのHEPES、150mMのNaCl、pH7.4;一反応あたり106個の細胞)中で再懸濁させた。反応を氷上で2時間インキュベートさせ、次に、0.5%のポリエチレンイミン中に予め浸漬させたGF/Cフィルタを通して濾過した。未結合の材料を、低速真空下で5×5mlの氷冷洗浄緩衝液(20mMのHEPES、150mMのNaCl、pH7.4)で洗い去った。これらの条件は、少なくとも80%の結合特異性(10μMの低温BN83250と競合可能)を用いて、平衡結合を達成することが先に示されている。
【0104】
このとき、化合物(I’)、(II)及び(V)での特異的[3H]−BN83250に対する競合を、1pM〜10μMの様々な濃度で決定した。化合物(III)及び(IV)はこれらの実験において検討されなかった。(I’)についての典型的競合結合曲線が図4に示されている。
【0105】
このとき、(BN83250の特異的相互作用部位として定義される)標的受容体に結合する薬剤としてのそれらの特性を比較する目的で、様々な化合物についての競合結合曲線に対し、非線形モデリングを適用した。結果として得たモデルのパラメータを表5に示す。
【0106】
【表7】
表5.競合結合曲線の非線形モデリング
【0107】
化合物(I’)は、ラクタムBSCI(II)及び(V)ときわめて対照的に、標的受容体に対する理想的かつ予測可能な結合を示したという点を指摘しておくことが重要である。特に、受容体に対する結合のためのみかけの親和性は、遊走阻害検定における機能的ED50値と同等の規模のものであった。同様にして、ヒルスロープは、もう一方のラクタムBSCIが著しく浅いヒルスロープを示した一方で、およそ−1.0(単純な非協調的競合結合モデルについての理論的予想値)であった。化合物(II)及び(V)についての標的受容体に対する理想的結合からの逸脱の原因はわかっていないが、この差異は化合物(I’)の予想外の優位性をさらに明確に示している。
【0108】
非標的受容体に対する結合は、当該技術分野において周知である各受容体についての特異的放射性リガンドを活用する類似のプロトコルを用いて評価された。各化合物は、単一の濃度(10μM)のみにおける各リガンドの特異的結合に対する競合についてテストされた。結合の阻害が20%〜80%であった場合、相互作用のためのKaが推定された。阻害が20%未満の場合、化合物は、受容体との競合的相互作用を一切もたないものと仮定された。阻害が80%超であった場合、Kaは1μM未満として報告された。スクリーニングされた受容体及び検定中で使用された放射性リガンド及び細胞型についての詳細は、www.cerep.frで入手可能である。
【0109】
結果(図5)は、テストされたラクタムBSCI化合物の全てが、75の受容体のこのパネルに基づいて主要な交差反応を有していないということを実証している(1μM未満の推定されたKaとの相互作用は全く指摘されなかった)。わずか1つの弱い(ただし統計的には有意な)交差反応が指摘された(NK2受容体を伴う化合物(II))。これに基づくと、化合物(I’)は(II)に比べて標的受容体に対する特異性がわずかに高かったが、テストされた全てのラクタムBSCI化合物は、この高処理量のスクリーニング検定型式において同定されたそれらの標的外結合の欠如に基づいてヒト用医薬品としての開発に適していた。
【0110】
実施例5.試験管内での広域スペクトラムケモカイン阻害活性
本発明の化合物の生物学的活性は、ボイデンチャンバ及び関連するトランスウェル遊走検定、アガロース下遊走検定及び直接視覚化チャンバたとえばダン・チャンバーを含めた(ただしこれらに限定されない)広範な試験管内での白血球遊走の機能的検定のいずれかを用いて実証可能である。
【0111】
例えば、(他の化学誘引物質ではなく)ケモカインに応答した白血球遊走の阻害を実証するために、Neuroprobe(Gaithersburg, MD USA)製の96ウェル型式のChemo TxTMマイクロトランスウェル検定システムが使用されてきた。原則として、この検定は、多孔質膜により分離された2つのチャンバからなる。化学誘引物質は下部コンパートメント内に入れられ、細胞は上部コンパートメント内に入れられる。37℃でのインキュベーションの後、細胞は化学誘引物質に向かって移動し、下部コンパートメント内の細胞の数は、(一連の対照との関係において)化学誘引物質活性に正比例する。
【0112】
この検定は、一定範囲の異なる白血球集団について使用可能である。例えば、調製されたばかりのヒト末梢血白血球を使用してよい。代替的には、密度勾配遠心分離又は磁気ビーズ分離などの当業者にとって周知の方法を用いて、多形核細胞又は白血球又は単球を含めた白血球サブセットを調製してよい。代替的には、単球モデルとしてのTHP−1細胞又は未感作T細胞モデルとしてのシャーカット細胞を含めた(ただしこれらに限定されない)、ヒト末梢血白血球モデルとして有効性が広く確認されている不死の細胞系を使用してよい。
【0113】
ケモカイン誘発型白血球遊走の阻害を実証するためには一定範囲の検定条件が許容できるが(例えば、試験管内遊走検定を解釈するために必要とされる条件については、Frowら、Med Res Rev. 2004年;24(3):276〜98頁により提供されている助言を参照のこと)、ここでは一具体例が示される。
【0114】
材料
トランスウェル遊走システムは、Neuroprobe, Gaithersburg, MD, USAが製造している。使用される平板は、Chemo TxTM平板(Neuroprobe 101−8)及び30μlの透明平板(Neuroprobe MP30)である。
【0115】
ゲイの平衡塩類溶液は、Sigma社より購入する(Sigma G-9779)。無脂肪酸BSAはシグマ社から購入する(Sigma A-8806)。MTTすなわち3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミドも、Sigma社から購入する(Sigma M-5655)。フェノールレッド無しのRPMI−1640も、Sigma社から購入する(Sigma R-8755)。
【0116】
白血球細胞集団としてTHP−1細胞系(European Cell Culture Collection)を使用した。
【0117】
試験プロトコル
ケモカインによって誘発される白血球遊走を特異的に遮断する能力について、本発明の化合物を試験するために以下の手順を使用する:
【0118】
まず第1に、上部コンパートメント内に入れるべき細胞懸濁液を調製する。THP細胞を遠心分離(770×g;4分)によりペレット化し、1mg/mlのBSA(GBSS+BSA)を伴うゲイ平衡塩類溶液で洗浄する。この洗浄をその後反復し、細胞を再度ペレット化してから、例えば標準的な血球計を用いた計数のため少量のGBSS+BSA中で再懸濁させる。
【0119】
その後、細胞が1mlのGBSS+BSAあたり4.45×106個の細胞という最終密度となるように、存在する細胞数に応じてCBSS+BSAの体積を調整する。こうして、溶液25μl毎に100,000個のTHP−1細胞が確実に存在することになり、これが平板の上部チャンバ内に入れられる。
【0120】
ケモカイン誘発型遊走を阻害するその能力について単一の化合物を試験するためには、2つの細胞ロットを調製することが必要である。4.45×106細胞/mlでのTHP−1細胞の懸濁液を2つのポットに分ける。1つのポットには、試験対象の阻害物質を適切なビヒクル中に適切な最終濃度で、(例えば1%以下のDMSO中1μMで)添加する。2つ目のポットには、対照として作用させるべく、等体積のGBSS+BSAと該当する場合にはビヒクル(例えば1%以上のDMSO)を加える。
【0121】
次に、下部コンパートメントに入れるべき化学誘引物質溶液を調製する。例えば、MCP−1をGBSS+BSA中で希釈して、25ng/mlの最終濃度を得る。これを、細胞懸濁液に関して2つのポットに分割する。1つのポットには、試験化合物を細胞懸濁液に添加されたものと同じ最終濃度まで添加し、一方もう1つのポットには、等体積のGBSS+BSAと該当する場合にはビヒクル(例えば1%以下のDMSO)を添加する。代替的には、その他のケモカインを使用してもよい(7.5ng/mlのSDF−1α;50ng/mlのRANTES;標的細胞集団として好中球を用いて10ng/mlのIL−8)。各ケースにおいて、選択された標的白血球集団の最大遊走刺激をひき起こす各ケモカインの濃度を(別個の実験において)決定することが重要である。このときこの最大濃度を実験において使用して本発明の化合物の阻害活性を試験しなければならない。ケモカインは典型的に、鐘形用量応答曲線をもつ白血球遊走を誘発することから、最大未満又は最大超のケモカイン濃度の使用は、人為的(artefactual)な結果を導く可能性がある(例えば、ケモカイン阻害物質である化合物は、実験のために化学誘引物質の最大超の濃度が誤って選択された場合、白血球遊走の逆説的刺激を生み出す可能性がある。試験管内白血球遊走実験の設計におけるこの重要な要因のさらなる例証は、Frowと同僚らにより提供された(Med Res Rev. 2004年;24(3):276〜98頁)。さらに、本発明の化合物の生物活性を実証するために、非ケモカイン化学誘引物質を使用してもよい(例えば標的細胞集団として好中球を用いて25ng/mlのC5a又は標的集団としてTHP−1細胞を用いて10ng/mlのTGF−β1)。
【0122】
下部コンパートメント用の溶液中のMCP−1の最終濃度及び上部コンパートメント内の細胞の最終濃度を実証するにあたっては、試験化合物の添加と共に添加する必要のある液体の体積を考慮に入れる必要があるという点に留意されたい。
【0123】
下部ウェル用の化学誘引物質溶液及び上部チャンバ用の細胞溶液がひとたび調製されたならば、遊走チャンバを組立てなくてはならない。チャンバの下部ウェル内に29μlの適切な化学誘引物質溶液を入れること。検定は各々の条件で少なくともトリプリケートで決定して実施すべきである。下部チャンバの全てがひとたび充填されたならば、メーカーの指示にしたがって、チャンバに多孔質膜を適用する。最終的に、各上部チャンバに対し適切な細胞溶液を25μl適用する。蒸発を防ぐため、器具全体の上にプラスチックのふたを置く。
【0124】
組立てられたチャンバを2時間37℃、5%CO2でインキュベートする。GBSS+BSA中の細胞の懸濁液も試験管内で同一の条件下でインキュベートする。これらの細胞は、各条件下で下部チャンバに遊走した細胞数を決定するための標準曲線を構築するために使用されることになる。
【0125】
インキュベーションの終りで、液体細胞懸濁液を上部チャンバから穏やかに取り出し、上部チャンバに、PBS中の氷冷20mM EDTAを20μl添加し、器具を15分間4℃でインキュベートする。この手順は、膜の下側に付着したあらゆる細胞を下部チャンバ内に落下させる。
【0126】
このインキュベーションの後、フィルタをGBSS+BSAで入念に洗い流してEDTAを洗い出し、その後フィルタを取り出す。
【0127】
このとき、各条件下で下部チャンバ内に遊走した細胞数を、直接計数、螢光性又は放射性マーカーでの標識化又は生体染色色素の使用を含めた数多くの方法により決定することができる。標準的には、生体染色色素MTTを利用する。各ウェルに3μlのMTT原液を添加し、次に37℃で1〜2時間平板をインキュベートし、その間に細胞内部のデヒドロゲナーゼ酵素が可溶性MTTを不溶性青色ホルマザン生成物へと転換し、これを分光光度法で定量化することができる。
【0128】
これに並行して、8点標準曲線を構築する。各々の上部チャンバに添加された細胞の数(100,000)から始めて、GBSS+BSA中の2倍連続希釈で降下し、3μlのMTT原液を添加しながら、25μlで細胞を平板に添加する。標準曲線平板を、遊走平板と同時にインキュベートする。
【0129】
このインキュベーションの終りで、下部チャンバから液体を入念に除去し、このとき、沈殿したホルマザン生成物を乱さないように注意を払う。簡単に空気乾燥させた後、各々の下部チャンバに20μlのDMSOを添加して青色染料を可溶化し、96ウェルの平板の読取り装置を用いて595nmの吸光度を決定する。その後、各ウェルの吸光度を標準曲線に対して補間して、各々の下部チャンバ内の細胞数を推定する。
【0130】
化学誘引物質が全く添加されなかったウェル内の下部コンパートメントに到達した細胞の平均数を、化学誘引物質が存在した下部コンパートメントに到達した細胞の平均数から差し引くことによって、化学誘引物質で刺激された遊走を決定する。
【0131】
試験物質の影響は、試験物質の様々な濃度の存在下又は不在下で発生した化学誘引物質誘発型遊走を比較することによって計算される。典型的には、遊走阻害は、化合物の存在によって遮断された合計化学誘引物質誘発型遊走の百分率として表現される。大部分の化合物について、一範囲の異なる化合物濃度(典型的に、活性度の低い化合物の場合1nMから1μM以上までの範囲)で発生する化学誘引物質誘発型遊走の阻害を決定することによって、用量−応答グラフが構築される。このとき、各化合物の阻害活性は、化学誘引物質誘発型遊走を50%削減するのに必要とされる化合物の濃度(ED50濃度)として表現される。典型的には、広範囲の化合物の生物活性を比較するための標準化された試料システムとして、THP−1細胞のMCP−1誘発型遊走が使用されてきた(例えばReckless & Grainger Biochem J.、1999年6月15日;第340号(Pt3):803〜11頁; Recklessら、Immunology. 2001年6月;第103号(2):244〜54頁; Fox ら、J Med Chem. 2002年1月17日;第45号(2):360〜70頁; Foxら、J Med Chem. 2005年2月10日;第48号(3):867〜74頁; 上掲の国際公開を参照のこと)。2つ以上のケモカインにより誘発されるものの非ケモカイン化学誘引物質(例えばTGF−β又はC5a)によっては誘発されない白血球遊走を阻害する化合物は、広域スペクトラムケモカイン阻害物質として定義される(BSCI:例えばGrainger & Reckless Biochem Pharmacol. 2003年4月1日;第65号(7):1027〜34頁; Grainger ら、Mini Rev Med Chem. 2005年9月;第5号(9):825〜32頁を参照のこと)。
【0132】
結果
THP−1細胞のMCP−1誘発型遊走を阻害する化合物(I’)についての典型的用量応答曲線が、特に高い(すなわち<1nM)効力をもつものとして知られているその他の選択されたラクタムBSCIについての比較可能な用量応答曲線と合わせて、図6に示されている。ED50値として表現されている、化合物(I’)対様々なケモカイン及び非ケモカイン化学誘引物質の効力は、表6に示され、先に記述したその他のラクタムBSCIと比較されている。
【0133】
このデータから、化合物(I’)をBSCIとして分類できるということは明白である(これは、この化合物が一範囲のケモカインにより誘発される白血球遊走を強力にかつ高い効力で阻害するものの、ここではC5aアナフィラトキシンである非ケモカイン化学誘引物質によって誘発される白血球遊走に対して全く効果をもたないからである)。さらに、化合物(I’)が、先に開示された選択されたラクタムBSCI(例えば国際公開第2006/016152号(WO2006/016152)中の化合物(II)又は国際公開第2005/053702号(WO2005/053702)中の化合物(IV))と少なくとも同程度に、試験管内においてBSCIとして効力が高く強力であるということも明白である。ここで検査されている全てのラクタムBSCIは、これまでに開示されてきた非ラクタムBSCI(イミド例えばNR58,4、ヨヒンバミド(yohimbamide)、リセルグアミド(lysergamide)及びペプチド3そして関連する構造例えばNR58−3,14,3を含む)のいずれよりもはるかに効力が高い。実際、化合物(I’)は、先に開示又は記述された他のいずれの化合物よりも(少なくともMCP−1誘発型遊走に対して)試験管内でBSCIとして効力が高い。BSCIとしてのこの効力は、(わずかな程度ではあるものの)先行技術におけるBSCIよりも量的に優れているが、化合物(I)を先行技術のBSCIよりも予想外に優れているものとして主として極立たせているのはこの特性ではない。それどころか、このことは、先に開示された広範囲のBSCIに比べて化合物(I)の予想外のそして実質的に優れたADME及び薬物動態特性が、試験管内でのBSCIとしての能力又は効力を全く失うことなく達成されたということを実証している。
【0134】
【表8】
【0135】
表6.試験管内での白血球遊走に対する選択されたラクタムBSCIの効果。各ケースにおいて、記載された化学誘引物質の最大用量に応答した白血球遊走を50%阻害するのに必要とされる化合物の用量(pM単位)(ED50)が示されている。別段の記載のないかぎり、データはTHP−1細胞系について報告されている。C5a誘発型遊走については、試験された化合物のいずれも、試験された最高の濃度(1μM)でさえ好中球遊走を少しも阻害しなかった。
【0136】
実施例6.生体内での抗炎症性活性
我々は、先に開示されたBSCI(例えばFoxら、J Med Chem. 2002年;第45号(2):360〜70頁; Foxら、J Med Chem. 2005年;第48号(3):867〜74頁参照)の生体内での全身的抗炎症性特性を実証するために、亜致死LPS誘発型内毒素血症検定を使用した。この検定において、マウスには、細菌内毒素(LPS)を用いて非特異的炎症性抗原投与が与えられ、(正常な条件下の血液からは基本的に存在しないものの広範囲の炎症性刺激に応答して急速に上昇する)中心的炎症性サイトカインTNF−αの血清レベルによって全身性炎症性応答の程度が測定される。このモデルはそれ自体がいずれかのヒト炎症性疾患条件に特に近いモデルではないにせよ、TNFαが非常に数多くの疾患(関節リウマチ、自己免疫疾患、クローン病、アテローム性動脈硬化症、喘息その他多数を含む)において重要であることがわかっているために、このモデルが選択された。したがって、このような広範囲の疾病を治療するために、TNF−αの産生を抑制する薬剤がすでに臨床的に使用されている(例えばEnbrelTM及びその他の抗TNF−α抗体製品)。したがってこのモデルにおけるTNF−α抑制活性の実証は、広範囲の疾患において、臨床的に有用な抗炎症性効果を充分予測させるものである。
【0137】
マウス(6匹のグループ)を、LPS抗原投与の30分前に皮下経路で、或いはLPSの60分前に経口経路で(強制飼養を介して)、様々な用量の各化合物を用いて前処理した。その後、細菌LPS750μgを腹腔内注射することにより抗原投与し、3時間後に屠殺した。心臓穿刺により末端出血から血清を調製し、TNF−αの濃度をELISA(R&D Systems)によって決定する。各実験において、6匹のマウスからなる1グループはLPSを一切受けず陰性対照として作用し、第2のグループはLPSのみ(阻害物質候補無し)を受ける。薬物前処理無しでLPSを受けたこれらの動物からの血清中のTNF−αのレベルは、恣意的に100%にセットされる(そして、陰性対照グループ内の10pg/ml未満のレベルと比べて、典型的にはおよそ6000pg/mlである)。我々は先に、合成コルチコステロイドデキサメタゾン(それ自体、広範囲の炎症性疾患において活性である周知の抗炎症性薬剤である)が、このモデルにおいてLPS誘発型TNF−α産生を少なくとも90%阻害し、一方、サリドマイド(ここで記述されているBSCIのような白血球動員阻害物質としてよりもむしろ細胞TNF−α産生のレベルで作用する、TNF−α産生の別の公開されている阻害物質)はLPS誘発型TNF−α産生を約60%阻害することを示してきた。
【0138】
様々な用量での化合物(I’)ならびにその他の選択されたラクタムBSCIの効果は、図7で示されている。予想された通り、化合物は、それが皮下経路(丸印)を介して送達されたか又は経口経路(三角印)を介して送達されたかに関わらず、LPS誘発型TNF−α産生を強力に阻害する。1μg/マウスより高い用量で、LPS誘発型TNF−αレベルは、一般に、コルチコステロイドデキサメタゾンの効果に匹敵する90%超抑制された。
【0139】
試験されたもう一方のラクタムBSCIも同様に、用量依存的にLPS誘発型TNF−αを阻害した(図7)が、(I’)の生体内での効力は試験された他の化合物のいずれよりも大きい(そして実に、この検定において試験され他の箇所で以前に開示されたその他のラクタムBSCIの効力よりも大きい)ものであった。この効力の量的増加は(小さいものではあるが)、我々がここで先行技術のBSCIよりも予想外に優れたものとして化合物(I)を請求する主たる理由ではない。それどころか、このことは、先に開示された広範囲のBSCIに比べて化合物(I)の予想外のそして実質的に優れたADME及び薬物動態特性が、生体内での抗炎症剤としての能力又は効力を全く失うことなく達成されたということを実証している。さらに、これらの発見事実は、増大したTNF−α産生が発病機序の一構成要素である多種多様な炎症性疾患において有用性を示す1つの炎症性モデルにおける生体内での抗炎症剤としての(I)の有用性を、明確に実証している。
【0140】
このモデルで観察された超急性炎症が、試験された抗炎症剤のADME及び薬物動態特性に対し特に不感応であるという点を指摘しておくことが重要である。LPS刺激は薬物からわずか30分後に投与されることから、非常に短い血漿滞留時間を有する薬剤(例えば化合物(II)及び(III))でさえ、強力な抗炎症効果を惹起するのに充分な濃度で血漿中に存在し続けている。したがって、かかる試験は、先行技術に比べた請求対象化合物の優性を強調するものではないが、それでも化合物の有用性は実証している。
【0141】
請求対象化合物の有用性はさらに、ヒトの疾病である喘息の動物モデルにおける研究により実証されている(LPS曝露に応答して観察される超急性炎症性応答は、いずれかの特別なヒト疾患に典型的なものではないかもしれないが、それは明らかに、急性炎症全般の有用のモデルシステムである)。これらの研究においては、げっ歯類(特にラット)は、以下の実験設計にしたがってオボアルブミンに曝露される:
【0142】
成体ブラウン・ノルウェーラット(体重200〜300g;グループあたりn=10)を0日目に0.1mgのオボアルブミンの単回腹腔内注射によって感作した。その後、各ラットは、8日目に1%のオボアルブミン(w/v)溶液そして15、18及び21日目に2%のオボアルブミン(w/v)の気管内抗原投与を受けた。その後、21日目に最終抗原投与から3時間後に、動物を屠殺した。Endo TrapTM Redカラム(Cambrexより購入;メーカーの指示事項にしたがって使用)上を通過させることで、オボアルブミン(Sigma;入手可能な最高純度等級)から内毒素を無くし、LAL検定(QCL−1000TM;Cambrex;メーカーの指示事項にしたがって実施;標準内毒素1mgは、約900,000EU/mgを含有する)を用いて内毒素レベルをタンパク質1mgあたり5EU未満と確認した。こうして、肺の炎症応答が、最高純度等級の市販のオボアルブミン調製物の場合でさえ起こる意図されていないLPS刺激からではなく、むしろオボアルブミンタンパク質に対するアレルギー応答からの結果であるということが保証され、ひいては、このモデルがヒトの喘息の基礎を成す分子病理学をより密に代表していることが保証される。
【0143】
1つのマウスグループ(基線対照として作用するもの)は、オボアルブミンの抗原投与を全く受けなかったが、その他の点では同一の要領で処置した。第2のグループ(陽性対照)は、抗原投与を受けたが、薬物治療を一切受けなかった。第3のグループは、同一の要領で処置されたが、8日目から21日目まで経口強制飼養を介して0.3mg/kgの用量で化合物(I’)の一日投薬量を受けたが、ここでこの投薬量は同じ日に行なわれたオボアルブミンでの後続するあらゆる抗原投与の一時間前に与えられている。化合物(I’)は、内毒素を含まないリン酸緩衝生理食塩水中の無菌溶液として投与された。第4のグループは、化合物(I’)と同一の治療スケジュールで経口経路を介して30mg/kgでモンテルカスト(monteleukast)(市販の喘息薬物治療法薬シングレア(SingulairTM)の活性成分)を受けた。
【0144】
屠殺の時点で、気管カニューレを通して導入される3mlの無菌リン酸緩衝生理食塩水4ロットを用いて、気管支肺胞洗浄(BAL)を実施することにより、全肺白血球動員を評価した。各動物について、BAL洗浄液を組合せ、合計細胞集団を(血球計を用いて)計数した。さらに、当該技術分野において周知の手順にしたがって、フローサイトメータを用いて、存在する白血球のタイプを推定した。
【0145】
各マウスから脾臓も切除し、これをRPMI+10%のFCS+抗生物質の中に置いた。その後、脾臓を、無菌ペトリ皿の中に置いた無菌のふるいカップ(sieve cup)内で細目(100μm)ナイロンスクリーンを通してプレスして、単一細胞懸濁液を生成した。結果として得た細胞懸濁液を次に遠心分離し(328g;5分間)、RPMI+10%FCS+抗生物質中で洗浄してから、新鮮な培地中に再度懸濁させ、血球計を用いて計数した。
【0146】
合計4×106個の総脾細胞(RBCは除く)を、各マウス由来の96ウェル平板の4ウェル内(1ウェルあたり100μlの体積/1×106細胞/ウェル)の2U/ml(10ng/ml)のマウスIL−2の存在下で、一晩、RPMI+10%のFCS+抗生物質中で培養した(37℃;5%のCO2)。約24時間後に、4つのウェルを2ウェルずつの2つのグループに分割した。1つのグループを未処置のまま放置し、一方第2のグループは500ng/mlのイオノマイシン及び50ng/mlのPMAで37℃で4時間刺激した。このインキュベーションの最後の2時間、各セット由来の1つのウェルに対し10μg/mlのブレフェルジンA(ブレフェルジンA)(EtOH中の1mg/mlの原液)を加えた。ブレフェルジンAは、ゴルジ体へのタンパク質輸送を遮断し、したがってER内でのタンパク質の蓄積を可能にする。
【0147】
ブレフェルジンA無しのウェルを37℃でさらに48時間インキュベートした。インキュベーションの終りで、細胞懸濁液を遠心分離し(328g;5分)上清をマウスIL−4(Th2細胞のマーカー)及びマウスインタフェロン−γ(IFN−γ;Th1細胞のマーカー)について、ELISA検定に付した(R&D Systems;メーカーの指示事項にしたがって実施)。
【0148】
以下の通り4時間のインキュベーションの終りで直ちに細胞内IL−4及びIFN−gについてブレフェルジンAを伴うウェルを染色した;細胞を、氷上で30分間、抗−CD4−FITC抗体(e Bioscience Rat Ig G2b, Cat. Code. 11-0041)で染色し、その後ダルベッコのPBS中で洗浄し、20分間、ダルベッコのPBS中で2%のパラホルムアルデヒド(最終濃度)で固定した。固定の後、室温で10分間ダルベッコのPBS/1%のBSA/0.5%のサポリン(Sigma S7900)を用いて細胞に透過性を付与した。各ウェルからの細胞を次に3つの別々のFACS管に分割し、30分間室温で次のものと共にインキュベートした:
・ IFN−g−PE(e Bioscience Rat IgG1, Cat. Code. 12-7311-82,100μg)又は、
・ Il−4−PE(e Bioscience Rat IgG1, Cat. Code. 12-7041-82,100μg)又は、
・ イソタイプ対照(Rat IgG2b-FITC, e Bioscience Cat. Code 11-4031及びRat IgG1-PE, e Bioscience Cat. Code 12-4301の混合物)。
その後、細胞を洗浄し(PBS/BSA/サポニンで2回、そして次にサポニン無しでPBS/BSAで洗浄し膜閉鎖を可能にする)、ダルベッコのPBS中に再懸濁させていつでもフローサイトメトリ分析できる状態にした。
【0149】
PEチャネル上のIL−4又はIFN−gについての特異的染色の存在に関して、(細胞をT−ヘルパー細胞として同定する)FITCチャネル上のCD4に対する特異的染色を伴う細胞を分析した。IFN−gについて陽性の染色を示すCD4+細胞とIL−4について陽性の染色を示すCD4+細胞の比を次に、Th1/Th2比として報告した。未処置のブラウン・ノルウェーラットは、およそ2.7のTh1/Th2比を有する(すなわち、脾臓中のおよそ2.7倍多いCD4+細胞がIL−4としてINF−gを合成している)。感作及びオボアルブミンでの反復的抗原投与の後、比率は1.5未満まで降下し、げっ歯類及びヒトの両方における喘息性変化に随伴する顕著なTh2の極性化を実証した(より低いTh1/Rh2比は、相対的Th2極性化を示し、一方増大するTh1/Th2比は相対的Th1極性化を示す)。
【0150】
化合物(I’)及び陽性対照比較化合物モンテルカストの両方を用いた毎日の投薬により、BAL洗浄液中の白血球数は有意な形で減少した(化合物(I’)では70%の減少;p<0.01の対応のないスチューデントt−検定:図8)。このことは、本発明の化合物が、ケモカインに応答して白血球遊走を遮断するその能力の結果として、ヒト喘息モデルにおいて有用な抗炎症効果を有するということをはっきりと実証している。かかる効果の規模は、少なくとも、ヒト喘息の治療用に意図された市販の薬剤(例えばSingularTM)のものに少なくとも匹敵し、一方、化合物(I’)の優れた薬物動態及び生体内分布パラメータはモンテルカストに比べて著しく増大した効力によって例示される(化合物(I’)のわずか0.3mg/kgという用量に比べ、BAL白血球計数において類似の減少を生成させるためには30mg/kgのモンテルカスト用量が必要とされる)。
【0151】
陽性対照比較化合物モンテルカストでは起こらなかったものの化合物(I’)での毎日の投薬は、Th2の極性化を有意な形で逆転させ(図9)、これはここで使用されるオボアルブミン誘発型肺炎症モデル及びヒト喘息の両方において喘息発病の主要な要因とみなされている。経口経路を介した0.3mg/kgといった低い用量であっても化合物(I’)での治療は、オボアルブミンといったようなアレルゲンに対する慢性的曝露によりひき起されるTh2極性化を完全に根絶し、かくして、化合物(I’)で治療される動物におけるTh1/Th2の均衡は、抗原投与を受けていないブラウン・ノルウェーラットと本質的に区別不可能となっている。
【0152】
アテローム性動脈硬化症といったようなその他の慢性炎症性疾患が(Th2とは対照的に)Th1の極性化と関連するという点を指摘できるのは興味深いことである。両方のタイプの疾病において、T−ヘルパー細胞サイトカインプロフィール内の不均衡は、この疾病の慢性炎症性構成要素の主たる病原性原因として記述されてきた。Th1極性化と関連する疾病のモデル(例えばアテローム性動脈硬化症)において、我々は以前に、ここで請求される化合物(I’)などのBSCIでの治療の時点でTh2に向かっての顕著なシフトを観察した。apoEをコードする遺伝子のホモ接合体欠失を有するマウス(apo E−/−マウス)は、通常のチャウダイエットの場合でさえ、複数の血管脂質病変を発生させ、(バックグラウンドC57B16野生型菌株内での3.2に比べ)約8というTh1/Th2を有している。しかしながら、後続する3ヵ月間のBSCIでの治療(12週令から24週令、この期間中に大部分の脂質病変発生が起こる)は、Th1/Th2比を正規化する(そしてこのモデルでは、非常に高い用量でTh2の極性化さえひき起こす)。喘息のオボアルブミン誘発型肺炎症モデルにおけるデータと一緒に取上げて、我々は、基礎にある病原性欠陥がTh2の極性化であるか(喘息の場合のように)又はTh1の極性化であるか(アテローム性動脈硬化症の場合のように)とは無関係に、BSCIがT−ヘルパー細胞サイトカイン産生プロフィールを正規化するか又は再均衡化することができるということを実証した。我々は、BSCIが現在、T−ヘルパー細胞集団に対するこの「再均衡化」効果を有する唯一の記述された薬剤であると考えている。これらの機構的見解は、BSCIそして特にここで請求されている化合物(I)が(その予想外に優れた薬物動態及び生体内分布特性の結果として)、炎症性構成要素を伴う異常に広い範囲の身体条件を治療するための薬剤として有用であるという我々の主張に、(炎症性構成要素をもつ異なる疾病の数多くの動物モデルにおける効能データと共に)根拠を与えている。
【0153】
実施例7.構造的に関係する類似体と化合物(I’)との比較
その他のアシルアミノラクタムBSCIに比べて、(特にその薬物動態に関して)驚くほど優れた薬剤学的特性を有するものとして化合物(I)を同定した上で、次に我々は、それを先に開示された大部分の構造的に類似する類似体と直接比較した。
【0154】
実施例1〜6において比較された原初の化合物パネルを、先に開示したアシルアミノラクタムBSCIの境界内で可能なかぎり構造的に多様なものとなるようにまとめた。化合物(I)は、6員のラクタム「頭部基」がこのパネル内に含まれることを保証したが、それらが7員のラクタム環をもつ化合物よりも一般に優れている(又は実際に劣っている)ことを仮定する理由は特に存在しない(試験管内でBSCIと効力の観点からみて異なる環サイズをもつアシルアミノラクタム類似体の広範な比較については国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)を参照のこと)。同様にして、このパネルには、残留分子内のアミドリンカーと全く異なり、スルホンアミド結合(IV)の単一の例が含まれていた。
【0155】
「尾部基」に関しては、このパネルは、2つの単純なアルキル基(共にピボイル)及び3つの環式アルキル基(メチルシクロヘキシ基及び2つのアドマンタン、うち1つは置換されていた)を含んでいた。5つの化合物は全て、(4つの炭素原子が4面体型配置でこの炭素原子に結合されている状態で、アミドカルボニルのカルボニルとの関係において2つの位置で)主要炭素において4面体型結合角を有する確立した2’2−2置換を共有していた。主要炭素原子におけるこの2’2’−2置換特徴は、すでに、直鎖アルキル「尾部基」又は本質的に4面体型の配置でこの主要炭素に結合した4つの炭素原子が欠如したその他の構造に比べて、BSCIに対し付加的な効力を付与するものとしてすでに開示されてきた(国際公開第2006/016152号(WO2006/016152))。
【0156】
その結果、原初のパネル内の「尾部基」は、適切な試験管内効力を確保するためにこの2’,2’−2置換特徴を有するという要件のみならず結果として得られる分子内に許容できる物理的特性を生み出すという要件を伴って選択された。例えば、アドマンタン、シクロヘキシル及び短鎖2’2−分岐アルキル基が結果として、結晶質(又は半結晶質)の固体形態そして許容できる水溶性をもつ化合物をもたらすことが予想された。これとは対照的に、その他の考えられる尾部基、例えば2’,2’−ジメチルドデカノイル(これは、本来であれば主要2−位における望ましい配置に適合する)は、固体としてのそのロウ質の非晶質形態及び生理学的緩衝液中でのその極端な不可溶性を根拠として、パネルから排除された。これらの因子は両方共、例えば処方中又は錠剤化中にこの化合物の取扱いを困難にし、このことは経口生物学的利用能の欠如又は長期的投薬における貯蔵脂肪の蓄積といったような不利なADME特性が発生する確率を増大させることから、ADME及び毒物学的特性が決定される前でさえ薬学的開発用としての化合物の好適性を削減する。
【0157】
かくして、実施例1から6までで検査された5つの化合物が薬学的開発に適したものである確率は、ほぼ等しいものであった。それらのADME特性を決定するに先立ち、どれがより優れているかを予測することは不可能であった。
【0158】
しかしながら、実施例1〜6内で記述されている試験がひとたび完了した時点で、化合物(I)がその他の化合物よりも実質的かつ予想外に優れていることが明らかとなった。化合物(I)は、6員環を有するパネル内の唯一の化合物であったことから、より優れた特性がラクタム環のサイズに起因することが考えられる。これが正しいか否かを見極めるために、我々は、BSCI活性を有する先に開示された全てのアシルアミノラクタム化合物例を精査し、(I)との構造的類似性が最も高い2つの化合物を選択した。これらはBSCI活性を有する既に公知であった全ての化合物のうち、化合物(I)と最も類似した構造を有する2つの化合物であった。
【0159】
選択された化合物は、3−(2’,2’−ジメチルドデカノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン(国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)からの実施例3;ここではVIと呼ばれる)及び3−(アダマナタン−1−カルボニルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン(国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)からの実施例1;ここではVIIと呼ばれる)であった。
【化8】
【0160】
これらの化合物は(I)と共通して、本質的に4面体配置で、4つの炭素原子がアミドカルボニル基との関係において2位で主要炭素に結合されている状態での2’,2’−2置換の存在、6員のラクタム環及びアミドリンカーを共有している。
【0161】
化合物(VI)及び(VII)は、実施例1で先に化合物(I)〜(V)について適用されたものと全く同じプロトコルを用いてラットにおいて薬物動態分析に付された。(VI)及び(VII)の両方の(S)光学異性体は、これまでに記述されたその他の全てのアシルアミノラクタムBSCIと共通のより活性な光学異性体であると予想されていることから、これらの実験のためにはこの光学異性体が使用されたという点に留意されたい。
【0162】
結果
残念なことに、(VI)は、溶媒を保持する傾向をもつロウ質固体であった。溶媒を含まない(VI)の調製物を得ることは困難であったが、これは何週間にもわたる相当な乾燥の後に最終的に達成された。しかしながら、この試料は、先の化合物の静脈内投薬のためのビヒクルとして使用された生理食塩水中の5%DMSO内では全く不溶であった。結果として、静脈内投薬に適した溶液を調製するために全く異なるビヒクルを用いる必要があった。静脈内投薬のため、50%のPEG400/20%のソルトール(Solutol)/30%の生理食塩水中に化合物(VI)を溶解させた。(VI)を含む全ての化合物を、経口投薬のため、生理食塩水中の1%のカルボキシメチルセルロース中に懸濁(又は溶解)させた。異なるビヒクルを用いて実験間の経口生物学的利用能を比較することは一般に推奨されないが(ビヒクルが、化合物の腸管吸収に著しい影響を与える可能性があるため)、それでもビヒクルの選択が、(I)といったその他の化合物と比べた(VI)の静脈内注射後の実際の半減期に著しい影響を及ぼす確率は非常に低い。
【0163】
単純な1コンパートメント薬物動態モデルのパラメータは、表7に示されている。以上の表1からの化合物(I’)についてのデータが、比較のために示されている。(VI)と(VII)が(I’)に比べ共に著しく劣っており、クリアランス率は10倍超高く、25〜50倍低い経口曝露は(I’)で達成された、ということは明白である。
【0164】
【表9】
【0165】
表7.選択された6環アシルアミノラクタムBSCIについての薬物動態パラメータ。各化合物について単純な1コンパートメント薬物動態モデルからの経口生物学的利用能(F、%)、静脈内投薬後の優性血漿半減期(t1/2、分)、クリアランス(ml/分/kg)、分布容量(Vss、L/kg)及び経口曝露(AUC0−t、分、ng/ml)は、3匹のラットの平均であった。(VII)については、Cmaxは15分以内に達成され、(I’)に関する最適な吸収と一貫していた。しかしながら、疎水性(VI)は、より緩慢に吸収され、Tmaxは60〜120分の間であった。
【0166】
実際、表1と表7の比較から、化合物(VI)及び(VII)が曝露の観点からみて(IV)及び(V)と同等程度ほど優れていないことは明白である。(I)と6−ラクタム環を共有しているにも関わらず、化合物(VI)及び(VII)は、著しく低いADME特性しかもたず、先に開示された広範囲のその他のアシルアミノラクタムBSCI化合物と同程度である。
【0167】
(I’)と比べて(VI)及び(VII)がはるかに高いクリアランスを有することと一貫して、これらの化合物は、(I’)よりも実質的に短い血漿半減期を有する(3時間に対して1時間未満)。
【0168】
この薬物動態分析に基づくと、類似の化学的安定性ならびに理論的根拠に基づくそれらの類似の予測された特性及びその構造上の類似性にも関わらず、(I’)が(VI)及び(VII)の両方よりも著しく優れ、これらの6環ラクタム類似体のいずれよりも25〜50倍優れた経口曝露を有することは、当業者にとって明白である。我々は、(I’)の予想外に優れたADME特性が、6環ラクタムにも(その他の6環ラクタム例えば(VI)及び(VII)がその傑出したADME特性を共有しないことを理由として)、アミドリンカーにも((II);(III)及び(V)を含むその他のアミドリンカー化合物がその傑出したADME特性を共有しないことを理由として)、またピボイル尾部基にも(化合物(IV)がこの基を共有し、かつ(I’)の傑出したADME特性を有さないことを理由として)起因する可能性はないという結論を下すものである。それどころか、驚くべきそして顕著に優れた(I’)のADME特性は、構造的特徴の特定の組合せに依存しており、予測することは不可能であった。
【0169】
実施例8.(I’)と同等のADME特性をもつアシルアミノラクタムBSCIを合理的に設計する試み
化合物(I’)のより優れたADME特性を同定するプロセスにおいて、我々は、試験管内でBSCIとしてサブナノモル効力をもつ様々な異なるアシルアミノラクタムの薬物動態を分析した。その結果、我々は、この構造的空間の内部で分子のためのADME特性を変調させる因子についての幾分かの洞察力を得たものと期待できると思われる。したがって我々は、この実験を用いて、(I’)のものと可能なかぎり同じようなADME特性をもつ先に開示された構造的部類の中から第2のアシルアミノラクタムBSCI化合物を選択しようと試みた。
【0170】
(I’)と比べて比較的急速な(IV)のクリアランス(上述の表1を参照のこと)は、アミドリンカーがより優れたADME特性と相関し得るということを示唆していた。したがって我々は、選択を、アミドリンカーを有する化合物に限定した。
【0171】
化合物(II)はひじょうに良く吸収されたが、恐らくは肝臓シトクロムP450イソ酵素(単複)の作用を通して生体内で急速に(V)へと転換された。化合物(V)自体は、(恐らくアダマンチン環上の電子求引性置換基の結果として)見かけ上さらに酸化されてはいなかったが、それでも比較的急速に排泄された。尿中に検出可能な一次代謝産物が存在しないことは、急速なクリアランスが、ラットでは糞便中に排泄されるグルクロニドといった第II相コンジュゲートの形成によって媒介されたということを強く示唆している。第II相コンジュゲートは、(V)中の3−ヒドロキシアダマンタンなどの水酸基において容易に形成される。その結果、我々は、ハロ置換基などの第II相コンジュゲートを形成することのできなかった(シトクロムP450又はその他の肝臓ヒドロキシラーゼ又はオキシダーゼによりアダマンチン環のヒドロキシル化を防止するための)安定した電子求引性置換基を有する(II)の誘導体が、我々の求めていた最適なADME特性を有するかもしれないということを提案した。
【0172】
その結果、以下の化合物(VIII)を合成し試験した。我々は、合成経路を容易に利用できる公知の化合物であったこと(国際公開第2006/016152号(WO2006/016152)中の実施例8を参照のこと)を理由として、(例えばフルオロ置換された類似体ではなく)クロロ置換された類似体を選択した。さらに、脂肪族C−F結合の導入は、合成的に難度が高いものであり、活性薬剤成分の商品原価を2ケタ以上増加させる可能性がある。
【0173】
【化9】
【0174】
前述の通り(実施例7参照)、一般的にアシルアミノラクタム化合物の(S)−光学異性体は試験管内でより大きなBSCI活性を有することがわかっていることから、我々はこの化合物の(S)−光学異性体を調製し評価することを選択した。
【0175】
この分子に関係する明白な懸念は、C−Cl結合の安定性にあった。したがって我々は、生理食塩水中及びラットの肝臓ミクロソーム調製物の両方において、試験管内での(VIII)の安定性を検査した。37℃で24時間後でさえ、(VIII)の2%未満しか(加水分解産物(V)及び親化合物(VIII)の2重イオン検出を伴ってLC/MSにより決定される)加水分解しなかったことが励みになった。同様にして、37℃で1時間のラットミクロソーム調製物との1μMでの(VIII)のインキュベーションから、「NADPH無し」のブランクランに比べて10%未満しか分解されないという結果がもたらされた。その結果、我々は、化合物(VIII)が(I’)と類似の試験管内安定性及び固有クリアランスを有するという結論を下す。
【0176】
かくして、(I’)の発見から得た経験ならびにADME特性を予測する当該技術分野における一般的技術を用いた、ならびに肝臓ミクロソーム調製物における試験管内安定性及び固有クリアランスといった従来の試験管内スクリーニング検定を用いた理論的根拠に基づくと、化合物(VIII)は、(I’)に匹敵するADME特性を有すると予想されるように思われる。
【0177】
したがって我々は、(VIII)を、実施例1及び7において化合物(I’)〜(VII)のために先に適用されたものと全く同じプロトコルを用いてラットにおける薬物動態分析に付した。
【0178】
結果
単純な1コンパートメント薬物動態モデルのパラメータは表8に示されている。以上の表1からの化合物(I’)についてのデータが、比較のために示されている。クリアランス率が20倍超高く、検出可能な経口生物学的利用能が全く無いことから、化合物(VIII)が(I’)よりも著しく劣っていることは明白である。
【0179】
【表10】
【0180】
表8.選択されたラクタムBSCIのための薬物動態パラメータ。各化合物について単純な1コンパートメント薬物動態モデルからの経口生物学的利用能(F、%)、静脈内投薬後の優性血漿半減期(t1/2、分)、クリアランス(ml/分/kg)、分布容量(Vss、L/kg)及び経口曝露(AUC0−t、分、ng/ml)は、3匹のラットの平均であった。(VII)については、Cmaxは15分以内に達成され、(I’)に関する最適な吸収と一貫していた。しかしながら、疎水性(VI)は、より緩慢に吸収され、Tmaxは60〜120分の間であった。(VIII)については、検体レベルは、経口投薬後のすべての時点で、定量限界(約2ng/ml)未満であった。
【0181】
結論として、理論的考慮事項及び試験管内スクリーニング試験に基づいて我々が最適なADME特性を有するものとして選択した化合物(III)は、それにもかかわらず、医薬品としての開発のためには、少なくともPKが決定されたものの中では最も不適なアシルアミノラクタム化合物に入るものであった。この化合物は、急速なクリアランスを示し、その結果血漿半減期は短く、さらに、経口生物学的利用能を全く示さなかった。
【0182】
化合物(I’)の優位性の程度は図10に示されている。ここで我々は、ラットにおいて薬物動態が分析された全てのBSCI化合物のための2つのPKパラメータ(血漿半減期及び経口曝露)をプロットした。化合物(I’)は、この構造的空間内の化合物の一般的に低いADME特性を表わす(そして非常に多くの完全に関係のない薬物候補部類に典型的である)クラスタからかなり離れたところにあり、化合物(I’)が予想外にかつ著しく優れているということを示している。
【0183】
実施例9.(I)の(S)及び(R)−光学異性体の比較
化合物(I’)は、予想外の著しく優れたADME特性を有することが示された(実施例1を参照のこと)。この化合物は、(アミドリンカーとの環接合部において)非対称の炭素原子を有し、その結果2つの立体異性体の形すなわち、(I’)と呼ばれる(S)−光学異性体及び(R)−(I)と呼ばれる反対の(R)−光学異性体の形で存在する。
【0184】
これまでに記述されたその他の全てのアシルアミノラクタムBSCIの場合と同様に、(I)の(S)−光学異性体は対応する(R)−光学異性体よりも試験管内でBSCIとしてより高い効力を有する。単離された(R)−光学異性体又は光学異性体の混合物ではなくむしろ(I’)が大部分の実験において研究されてきたのは、このような理由からである。ただし、ADME特性が効力を裏付ける薬理学的活性に関係づけされる確率は低い。実際、数多くの化合物について、化合物の物理的特性は(数多くのケースにおい)生体内での体内動態を決定する上で特に支配的であり、光学異性体対の物理的特性は同一であることから、光学異性体対のADME特性は非常に類似している。
【0185】
結果として、我々は、(R)−光学異性体が(I’)の特に優れたADME特性を共有しているか否かを試験した。任意の特定の化合物の有用性は、主要な薬理学的効果(単複)の効力と生体内での分子の体内動態の両方に左右されることから(というのも、有効であるためには薬物分子はその薬理学的効果を及ぼすのに充分な濃度で、意図された標的部位(単複)に存在しなければならないからである)、このとき、効力はより低いものの優れたADME特性を有する化合物は、より効力が大きいもののADME特性が劣る比較化合物よりもさらに有効である(又は生体内でより効力が高い)かもしれない。
【0186】
したがって、(I)の単離された(R)−光学異性体は(まさに本明細書中で単離(S)−光学異性体について記述された通りに、ただし(S)−オルニチン出発材料を高い立体化学的純度をもつ市販の(R)−オルニチンで置換して)合成され、ラット内でこの薬剤のPK特性が、上述された同一の方法論を用いて決定された(実施例1、7及び8を参照のこと)。
【0187】
結果
単純な1コンパートメント薬物動態モデルのパラメータは表9に示されている。以上の表1からの化合物(I’)についてのデータが、比較のために示されている。(R)−(I)が、大体において(I’)の予想外に優れたADME特性を共有していることは明白である。(I’)の場合と同様に、(R)−(I)は本質的に、量的には経口生物学的利用能を有し、これまでに試験された次善の化合物よりも5倍超高い3mg/kgでの単一経口用量にしたがって曝露を達成する(実施例1中の化合物(V)を参照;表1)。
【0188】
【表11】
【0189】
表9.(I)の単離された(R)−及び(S)−光学異性体のための薬物動態パラメータ。各化合物について単純な1コンパートメント薬物動態モデルからの経口生物学的利用能(F、%)、静脈内投薬後の優性血漿半減期(t1/2、分)、クリアランス(ml/分/kg)、分布容量(Vss、L/kg)及び経口曝露(AUC0−t、分、ng/ml)は、3匹のラットの平均であった。(VII)については、Cmaxは15分以内に達成され、(I’)に関する最適な吸収と一貫していた。しかしながら、疎水性(VI)は、より緩慢に吸収され、Tmaxは60〜120分の間であった。両方の場合において、ピーク血漿濃度は典型的に30分までに観察され、これは優れた吸収と一貫していた。
【0190】
(R)−(I)は明らかに、(I’)の異常に有益なADME特性を有意な程度まで共有しているものの、それでも幾分かの統計学的に有意な差異が存在する。最も顕著であるのは、血漿クリアランスの増加((I’)と比べて(R)−(I)については約3倍高い)であり、その結果、静脈内投薬後の血漿半減期は2倍短く、単回経口用量後の曝露は3倍低くなる。
【0191】
(R)−(I)のクリアランスはラットにおける糸球体濾過率(典型的には9ml/分/kgで見積られている)に接近し、一方(I’)のクリアランスは、著しく低い。ここでもまたこれらの発見事実に対して考えられる解釈は、(I’)が恐らくはネフロンの遠位尿細管内で活発に再吸収され、この再吸収プロセスは、(R)−光学異性体に比べ(S)−光学異性体に対して選択的であるというものである。当然考えられることであるが、予想外できわめて優れた(I’)のADME特性が、一部には(R)−光学異性体と(S)−光学異性体を区別することのできる輸送体を介したネフロン内の再摂取に原因があるとすれば、そのとき、それはADME特性の予測不能性を強調し、本明細書で記述した本発明の非自明性をさらに例証する。
【0192】
それでも、(R)−(I)は明らかに、本発明に係るより優れた化合物でもある(それがADME特性において一般的部類のアシルアミノラクタムよりも(I’)に近いことを例証する図10中の白円印によって示されている通り)。したがって、結論としては、(R)−(I)及び(I’)の両方共、ひいてはさらに一般的には化合物(I)は、開示されてきたその他のアシルアミノラクタムBSCIに比べて予想外にかつ著しく優れたADME特性を有することがわかる。その上、全体として化合物(I’)はわずかにしかし有意に化合物(I)より優れ、したがって好ましい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン、及びその医薬組成物、ならびに炎症性疾患を予防又は治療するための医薬を調製するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、生理学的な生体防御の重要な要素である。しかしながら、時間的又は空間的に不適切な炎症性応答が、明白に白血球を要素とする疾病(例えば自己免疫疾患、喘息又はアテローム性動脈硬化)のみならず、従来は白血球が関与すると考えられていなかった疾病(例えば骨粗鬆症又はアルツハイマー病)を含む、広範な疾病において役割を果たしていることが次第に明らかとなっている。
【0003】
ケモカインは、生理学的及び病的な状態の両方において、白血球輸送の調節に関与しているインターロイキン−8に対する相同性を有するシグナル伝達分子の大きなファミリーである。ケモカインシグナル伝達に関与する50超のリガンド及び20超の受容体により、この系は骨髄から末梢に向かいそして次に二次リンパ器官を通って戻るという複雑な免疫調節プロセスを介して白血球に対処するための必須の情報密度を有している。しかしながら、このケモカイン系の複雑性は、まず、ケモカイン受容体遮断を介して炎症性応答を変調させるための薬理学的アプローチの妨げとなった。所与の炎症性疾患における治療的利益を生み出すためにどのケモカイン受容体(単複)を阻害すべきかを決定するのは、困難であることがわかっている。
【0004】
より最近では、広範囲のケモカインによってシグナル伝達を遮断する作用因子ファミリーが記述されてきた;Recklessら、Biochem J.(1999年)、340;803−811。第1のかかる作用因子である「ペプチド3」と呼ばれるペプチドは、5つの異なるケモカインにより誘発される白血球遊走を阻害することが発見されたが、その他の化学誘引物質(例えばfMLP又はTGF−ベータ)に応答した遊走を改善させなかった。このペプチド及びNR58−3.14.3.といったその類似体(すなわち配列番号1のc(DCys−DGln−DIle−DTrp−DLys−DGln−DLys−DPro−DAsp−DLeu−DCys)−NH2)は、集合的に広域スペクトラムケモカイン阻害薬(BSCIs)と称される。Graingerら、Biochem. Pharm.、第65号(2003年)、1027〜1034頁はその後、BSCIが、一範囲の動物疾病モデルにおいて潜在的に有用な抗炎症性活性を有することを示してきた。興味深いことに、多数のケモカインの同時遮断は、一見したところ急性又は慢性毒性に関連しておらず、このアプローチが、ステロイドと同様のメリットを有しながら副作用は削減される新しい抗炎症性投薬療法の開発のための有用な戦略であり得る、ということを示唆している。
【0005】
しかしながら、NR58−3.14.3といったようなペプチド及びペプトイド誘導体は、生体内での使用にとって最適ではない可能性がある。これらは、合成に費用がかかり、比較的好ましくない薬物動態及び薬力学特性を有する。例えば、NR58−3.14.3は経口での生体利用が不能であり、静脈内注射後30分以内の半減期で血漿から除去される。
【0006】
ペプチド3及びNR58−3.14.3の抗炎症性特性を保持しながら、医薬品として使用するための改善された特性を有する新規の調製物を同定するために、2つの並行的な戦略が採用されてきた。まず第1に、一連のペプチド類似体が開発され、そのうちの一部は、NR58−3.14.3よりも長い血漿半減期を有し、その合成コストは著しく低い。第2に、もとのペプチドの有益な特性を保持し得る小型非ペプチド構造を提案するために、ファルマコフォアを同定するためペプチドの構造;活性分析が行われてきた。
【0007】
この第2のアプローチは、アルカロイドヨヒンビンの16−アミノ及び16−アミノアルキル誘導体ならびに一連のN置換3−アミノグルタルイミドを含む、ペプチドの抗炎症性特性を保持する複数の構造的に全く異なる一系列の化合物を生み出した。(参考文献:Foxら、J. Med. Chem.、第45号(2002年)、360〜370頁;国際公開第99/12968号(WO99/12968)及び国際公開第00/42071号(WO00/42071))。これらの化合物は全て、非ケモカイン化学誘引物質を超える選択性を保持する広域スペクトラムケモカイン阻害薬であり、その多くが生体内で急性炎症を遮断することが示されてきた。
【0008】
これらの化合物のうち最も効力及び選択性の高いものは(S)−3(ウンデス−10−エノイル)−アミノグルタルイミド(NR58,4)であり、これは、5nMのED50で試験管内においてケモカイン誘発型遊走を阻害した。しかしながら、さらなる研究により、アミノグルタルイミド環が血清中で酵素開環を受ける可能性があることが明らかになった。したがって、一部の利用分野については(例えば自己免疫疾患の場合のように、治療中の炎症が慢性的である場合)、これらの化合物は最適な特性を有さない可能性があり、そして類似の抗炎症性特性を伴う、より安定した化合物の方が優れていることがある。
【0009】
かかる安定した類似体を同定するためのアプローチとして、(S)−3−(ウンデス−10−エノイル)−アミノグルタルイミドの様々な誘導体が、血清中のそれらの安定性について試験されてきた。このような誘導体の1つである6−デオキソ類似体(S)−3−3−(ウンデス−10−エノイル)−2−オンは、37℃で少なくとも7日間ヒト血清の中で完全に安定しているが、親分子と比べて効力が著しく低い。
【0010】
安定した広域スペクトラムケモカイン阻害物質(BSCI)のこのような1つのファミ
リーは、7員モノラクタム環を有する3−アミノ−カプロラクタムである(例えば国際公開第2005/053702号(WO2005/053702)及び国際公開第2006/016152号(WO2006/016152)を参照のこと)。しかしながら、さらに有用な抗炎症性化合物は同様に、異なる環サイズを有するその他の3−アミノラクタムからも生成されてきた(例えば国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)を参照のこと)。ヘテロ原子及びビシクロラクタム環系の導入を含むラクタム環に対するその他の修飾も同様に、BSCI活性をもつ化合物を生み出す(例えば国際公開第2006/018609号(WO2006/018609)及び国際公開第2006/085096号(WO2006/085096)を参照のこと)。
【0011】
これまでのところ、BSCI活性ひいては生体内の抗炎症性特性を有する広範な部類の作用因子の同定は、BSCI活性の効力の最適化に基づいていた。例えば、以前の開示は、(アシル−3−アミノラクタムのアシル側鎖内のアルファ又は主要炭素原子における)2.2−2置換の導入により、2.2−2置換アシル基が開鎖(国際公開第2005/053702号(WO2005/053702)参照)、単環(国際公開第2006/134384号(WO2006/134384)参照)又は多環(国際公開第2006/016152号(WO2006/016152)参照)であるか否かに関わらず、急性炎症モデルにおいて試験管内及び生体内の両方でBSCIとしての効力の著しい増加が導かれるということを教示していた。
【0012】
しかしながら、所望の薬理効果の潜在性は、1つの薬剤が有用なヒト用の医薬品を製造するか否かを決定する上で、重要な要因ではあるものの1つの要因にすぎない。特に、薬物動態(又は体内の薬剤の性質)は、特定の薬剤の有用性に対して重大な効果を及ぼす。(身体に対する薬物の効果についての研究である薬力学と対照させて、薬物に対する体の効果を研究としてその最も広い意味合いにおいて定義される)薬物動態は、吸収、血漿安定性、分布体積(そして特に「標的」組織内への平衡化速度)、代謝的変換(シトクロムP450イソ酵素媒介型酸化などの肝代謝、及び硫酸化及びグルクロン酸化などの第II相代謝、及び血清酵素修飾などの肝外代謝を含む)、及び排せつ(例えば尿中への腎クリアランス及び糞便排せつ)を含めた(ただしこれらに限定されない)一連の複雑な生理学的プロセスにより左右される。これらのプロセスは、多くの場合、集合的に、薬剤の「ADME」特性と呼ばれる(ADMEは、吸収、分布、代謝及び排せつの頭字語である)。
【0013】
ヒト用医薬品としての薬剤の有用性を決定する上でのもう1つの重要な要因は、安全性である。全てとはいわないまでも投与される化合物の多くは体に対し多数の効果を惹起し、そのうち望ましい薬理学的効果はほんの一部にすぎない。残りの効果は、患者にとって有害なもの(毒性効果)又は不都合なもの(副作用)を結果としてもたらす可能性がある。候補となる医薬品のこのような特性の研究を毒物学又は安全性薬理学と呼ぶ。望ましくない効果は、大きく2つのタイプに分類できる。クラス効果は、所望の薬理学的作用と密に関連し、(程度の差こそあれ)選択された分子標的を操作したことの不可避的な帰結である。例えば、病的炎症を防ぐように設計された薬剤は、或る程度は、免疫抑制及び感染の危険性を増大させる結果をもたらす可能性がある。これは、炎症性組織損傷及び感染が両方共、免疫系の活性度と密接不可分であるからである。その結果、同一の薬理学的標的を共有する全ての分子が、多少の程度の差こそあれ、クラス効果を共有することになる。これとは対照的に、化合物効果は通常、意図された薬理学的標的とは全く異なる標的との(多くの場合予想外の)相互作用の結果として、特定の化合物構造と特異的に関連づけされる。原則として、同じ意図された薬理学的効果をもつものの化合物特異的な副作用が全く無い別の分子を見出すことは可能である。一部の化合物効果は共通である(例えば、心臓ペーシングの間のQT間隔を危険なほどに延長しその結果致命的となる可能性のある心不整脈をもたらし得るhERG相互作用など)が、その一方で、明らかに特定の化合物に独特な化合物効果もある。
【0014】
重大なことに、何十年間にもわたる薬学的開発の経験にも関わらず、1つの薬剤のADME及び薬物動態特性、又はその毒物学及び安全性薬理学のいずれかを予測するための一般的に受入れられた方法はいまだに全く存在していない。新しい医薬品の開発する上での世界的な規制では、最初に試験管内の検定システム(例えばhERG発現細胞系)を用いた、次に動物内で、そして最後に人間における第I相臨床試験において明示的な試験を行うことが要件となっているのはこのような理由からである。
【0015】
分子構造の検査からADMEのいくつかの様相を予測するための方法が記述されてきており、経験豊かな医薬品化学者が純粋に理論的な根拠に基づき数多くの構造を高い信頼性で排除できるということには、ほとんど疑いの余地があり得ない。(信頼性はいずれも同程度であることから)このような「経験則」の一例としては、大部分の承認された医薬品が分子量、回転可能結合数及び極性に関係するいくつかの基準を満たすという観察事実に基づいたリピンスキーの「5の法則」がある。同様にして、大きな疏水基をもつ分子の方がhERGチャネルとの望ましくない相互作用を示す確率が高いところということは一般に周知である。
【0016】
このような一般的ガイドラインは、たとえ一緒に適用された場合でさえ、不適切な分子を除去する上で有用であっても、数多くの極めて不適切な分子(様々な理由で)が、なおも網をくぐりぬけていくと思われる。今日、一部類の活性化合物から、純粋に理論的な根拠に基づいて薬物候補を選択することに真剣に賛同する者は誰もいないと思われる。その結果として、特に有利なADME、薬物動態、毒物学及び安全性薬理学的特性を有する一つの部類の中から特定の一化合物を発見するには、優れた候補間で数多くの実用的実験を行う必要があり、かかる発見は、当業者でさえ予測できなかった新規の発見である。
【発明の概要】
【0017】
本明細書では、以前に報告されたことのない、
【化1】
という新規の化合物、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン(I)について記述する。
【0018】
この化合物は、以前に記述された(例えば国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)を参照のこと)BSCIの広範な一般的部類の具体的なメンバーである。しかしながらこの部類の分子は全てBSCI活性を有するものの、化合物(I)はこの部類のその他のメンバーと実験的に比較した場合に、ADME、薬物動態、毒物学及び安全性薬理学的特性をそれが組合せた結果としてヒト用医薬品として使用するための著しく優れた特性を有するものとなっている、ということを我々はここで実証する。
【0019】
ラクタム環の3位にある炭素原子は非対称であり、したがって、本発明の化合物は考えられる少なくとも2つの個別形態すなわち「R」及び「S」構成を有する。本発明は、2つの鏡像異性体形態、及びラセミ「RS」混合物を含めたこれらの形態の全ての組合せを包含する。単純さを目的として、式中に特異的立体配置が一切示されていない場合、2つの個別の鏡像異性体形態及びその混合物が表現されていると理解すべきである。鏡像異性体逆転は、化合物の優位性の原因である主要なADME特性に対し全く効果がない(そして付加的には、BSCIといった化合物の効力に対してわずかな効果しかもたない)ことから、鏡像異性体形態及びその混和物の両方共がその部類全般よりも実質的に優れた具体例を表わしている。
【0020】
好ましくは、本発明に係る式(I)の化合物は、
【化2】
という式(I’)の化合物である。
【0021】
立体中心に(S)−立体配置を有する化合物(I’)は、(R)−鏡像異性体よりもBSCIとしての効力が5〜25倍高い。
【0022】
同様に提供されているのは、活性成分としての一般式(I)又は(I’)の化合物又はその医薬として許容される塩、及び少なくとも1つの医薬として許容される賦形剤及び/又は担体を含む医薬組成物である。
【0023】
医薬として許容される塩というのは、特に、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、二リン酸塩及び硝酸塩などの無機酸の付加塩又は、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、パルミチン酸塩及びステアリン酸塩などの有機酸の付加塩を意味する。同様に、本発明の範囲内に入るのは、使用可能な場合の、水酸化ナトリウム又はカリウムといった塩基から形成される塩である。医薬として許容される塩のその他の例については、「塩基性薬物用の塩の選択」、Int. J. Pharm.(1986年)、第33号:201〜217頁を参照することができる。
【0024】
医薬組成物は、例えば粉末、顆粒、錠剤、ゼラチンカプセル、リポソーム又は座薬などの固体の形態をとり得る。適切な固体支持体は、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、デキストリン、 デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン及びロウであり得る。その他の適切な医薬として許容される賦形剤及び/又は担体は、当業者にとって公知である。
【0025】
本発明に係る医薬組成物は、同様に、例えば溶液、エマルジョン、懸濁液又はシロップといった液体形態の体裁をとることもできる。適切な液体支持体は例えば水、有機溶媒例えばグリセロール又はグリコール、ならびに変動する割合のそれらの水中混合物であり得る。
【0026】
本発明は同様に、炎症性疾患を治療するための医薬の調製のための、式(I)又は(I’)の化合物又はその医薬として許容される塩の使用をも提供する。
【0027】
本発明は、水和又は溶媒和形態をした、定義された化合物、組成物及びその使用を含む。
【0028】
先行技術と比較して、本発明の改良は、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンが、以前に記述された一般的分類のラクタムBSCI(例えば前出の国際出願)に比べて優れたADME特性を有するという予想外の観察事実にある。かかる化合物は、許容される薬力学的特性を有するものとして報告され(すなわち、これらは、そのBSCI活性の結果として生体内で強力な抗炎症性効果を有する)、かつ許容される薬物動態ひいてはADME特性を有しているはずであると推論されたものの、それでも、ADME特性の直接的評価からは、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンが顕著にかつ予想外に優れていることが示唆されている(以下の実施例を参照のこと)。
【0029】
特に、以前の試験管内血清中安定性研究では、文献中(例えばFoxら、J, Med. Chem.、2005年、第48号;867〜74頁)の中で報告されているようにラクタムBSCIが早期イミドBSCIに比べて著しく優れている(例えば国際公開第99/12968号(WO99/12968)参照)ということが示唆されていたが、今では、ラクタム部類の多く(又は実に大部分)のBSCIが、生体内で望ましくない代謝を受けていることは明白である。我々は、アシルアミノラクタム部類の12個超のBSCIを作製しテストしたが、これまでにテストされたラクタム部類のBSCIは、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンを除いて全て、高速肝代謝を受けやすい(シトクロムP450媒介型ヒドロキシル化及び/又は第II相代謝)。
【0030】
少なくとも部分的には、生体内代謝が削減されたことの帰結として、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンの全体的クリアランスは、テストされたその他のラクタムBSCIの場合より著しく低いものである。その結果、単回経口用量の後の曝露は、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンの場合10倍超高い。したがって、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンは、特に、以前に開示されたラクタムBSCIの大部分(全部ではないにせよ)に比べて、特に効能のため慢性的経口曝露が必要とされる場合にヒト用医薬品として使用するのにより適している。
【0031】
先行技術のペプチド(例えばNR58−3.14.3)は、(a)高価であり、固相合成を必要とすること(少なくとも長い方のものについて)、及び(b)腎臓を介して非常に速やかに排泄されること、及び(c)一般に効力がはるかに低いこと(試験管内では25分の1よりもさらに効力が低く、生体内では10000分の1よりもさらに効力が低い)という欠点を有する。
【0032】
先行技術のアミノグルタルイミドは、安価であり、腎臓を介して速やかに排泄されず、試験管内でより効力が高いが、血清中で極めて不安定である(イミド環の酵素系的開放の結果として;例えばFoxら、J. Med. Chem. 2005年48:867〜74頁を参照のこと)。その結果、(S)−3−(ウンデス−10−エノイルアミノ)グルタルイミドなどのアミノグルタルイミドBSCIは、急性炎症モデル(例えば化合物の安定性及びADME特性の影響が少なくとも明確な全身的TNF−α産生を特徴とするLPS誘発型内毒素血症)においてさえ、2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ−テトラヒドロピリジン−2−オンに比べ生体内において多くとも250分の1未満の効力しか有していない。
【0033】
文献内で記述されてきた構造的に関係ある(ただし機能的には大きく異なっている)別の一連の化合物は、通常は3−オキソ−アシル側鎖を伴う6員のホモセリンラクトン構造のまわりに標準的に基礎を置く細菌性自己誘発因子化合物である(例えば、広範囲のかかる化合物を請求しているBycroftら、米国特許第5,969,158号(US5,969,158)を参照のこと)。興味深いことに、かかる開示にはラクタムならびにラクトンを包含する一般式が含まれているものの、細菌性自己誘発因子特性をもつ例証された化合物のうちラクタム頭部基を有するものはあったとしても極わずかである。かかる化合物は全て(ただし特にラクトン頭部基及び/又は3−オキソアシル尾部基をもつもの)、比較的不安定であることがわかっており、薬剤としてのその応用が制限されている。
【0034】
ここで記述されている改良、3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンは、合成コストが低く(かつ本明細書で開示されている方法は、kg規模でさえ容易な合成を可能にする)、試験管内で単離された血清中で優れた代謝安定性を示す(以前に開示されたBSCIの全ラクタム部類と共有する特性)だけでなく、生体内でも優れた代謝安定性を示す。その結果、本発明の化合物は(これまでに網羅的に研究されてきた化合物のなかでも)、効能、効力及び薬学的特性例えばADME、薬物動態、毒物学及び安全性薬理学の観点から見て人間の炎症性疾患の治療のために、無比の形で最適化されている。
【0035】
本発明によると、式(I)又は(I’)の化合物又はその医薬として許容される塩又はそれらと共に活性成分を含有する医薬組成物又は薬剤が予防又は治療を意図している炎症性疾患としては、特に以下のものが含まれる:
− 自己免疫疾患例えば多発性硬化症、関節リウマチ、狼瘡、過敏性腸症候群、クローン病;
− 卒中、冠動脈疾患、心筋梗塞、不安定狭心症、アテローム性動脈硬化症又は脈管炎、例えばベーチェット症候群、巨細胞性動脈炎、リウマチ性多発性筋痛、ヴェグナー肉芽腫症、チャーグ・ストラウス症候群脈管炎、ヘノッポシェーンライン紫斑病及び川崎病;
− ウイルス感染又は複製、例えばポックスウイルス、ヘルペスウイルス(例えばHerpes virus samiri)、サイトメガロウイルス(CMV)、肝炎ウイルス又はレンチウイルス(HIVを含む)を含めたウイルスに起因する感染又はその複製;
− 喘息及びそれに関連する呼吸器疾患例えばアレルギー性鼻炎及びCOPD;
− 骨粗鬆症;(低骨密度);
− 腫瘍成長;
− 臓器移植拒否反応及び/又は臓器移植後臓器機能障害(例えば腎移植患者の場合);
− 高いTNF−αレベルを特徴とする疾患;
− 乾癬;
− 肥厚性瘢痕化(ケロイド形成)、一般又は婦人科外科手術後の癒着形成、肺線維症、肝線維症(アルコール性肝臓疾患を含む)又は特発性か又は糖尿病といった(糖尿病性ネフロパシー)基礎疾患の帰結としての腎臓の線維症を含めた、皮膚創傷及び他の線維性疾患;
− マラリア又は結核といったような細胞内寄生体に起因する疾患;
− 神経因性疼痛(例えば術後幻肢痛、肝炎後神経痛など)、
− アレルギー又は
− アルツハイマー病、
【0036】
本発明によると、さらなる炎症性疾患としては、以下のものが含まれる:
− ALS;
− 抗原誘発性想起応答、
− 免疫応答抑制。
【0037】
これらの臨床的適応は、炎症性疾患又は高いTNFαレベルを特徴とする疾患の一般的定義に入る。
【0038】
疑念を回避するため、本発明の化合物を含むBSCIの一次的作用機序は、免疫系に対するものであるという点に留意すべきである。したがって、ウイルス感染及び/又は複製及び腫瘍成長(それ自体そもそも免疫系の疾病ではない身体条件)といったような疾病についての請求されている有益な効果は、ウイルスの感染及び/又は複製パターン又は腫瘍の成長及び広がりに対する免疫系の変調の間接的な効果の結果としてもたらされる。本発明で請求されている化合物を含むBSCIは(一般に)直接ウイルス複製又は腫瘍成長に影響を及ぼさないことから、BSCIは、無傷でかつ機能している免疫系が存在しない単離された系内で(例えば培養した細胞系の試験管内感染又は腫瘍細胞系増殖検定において)全く効果をもたないことが予想されると思われる。したがって、かかる単離された系における任意の化合物の効果に関する先行する情報が、免疫系に作用するBSCIの開発についての情報を提供することはできない。
【0039】
法的に許容される場合には、本発明は同様に、本発明中で請求されている通りの化合物、組成物又は薬剤を抗炎症量だけ患者に投与することによって、(いずれかの薬剤に対する有害な炎症反応を含めた)炎症性疾患の症候の治療、改善又は予防方法をも提供する。
【0040】
本発明に係る薬剤の投与は、局所的、経口、非経口経路、筋内注射などによって実施可能である。
【0041】
本発明に係る薬剤について想定された投与用量は、使用される投与経路及び処方に応じて0.1mg〜10gの間に含まれる。
【0042】
本発明によると、一般式(I)又は(I’)の化合物は、以下で記述するプロセスを用いて調製可能である。
【0043】
一般式(I)又は(I’)の化合物の調製
一般式(I)又は(I’)の全ての化合物は、当業者にとって公知の一般的方法にしたがって容易に調製可能である。
【0044】
化合物(I)は、オルニチンと2,2−ジメチルプロピオニルクロリドから作ることのできる無色の結晶性化合物である。(I’)の合成のためには、鏡像異性的に純粋な(S)−オルニチンが使用される。オルニチン又はそのメチルエステルで始まる閉環が考えられる。トリメチルシリルクロリドを用いたHClのその場生成により、アミノ酸を乾燥メタノール中でエステル化することができる。代替的には、単離したエステルを閉環することもできるが、いずれの場合もトリエチルアミンを使用する。粗製生成物は次に、溶媒交換の後にアシル化することができる。
【0045】
アシルアミノラクタム生成物(I)は、有意な水溶液を有し、その結果、関係する疎水性生成物のために使用されるアシル化条件(例えば国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)を参照のこと)は不充分であった。塩基として炭酸ナトリウム3当量を使用すると、大量の水(オルニチン1mmolあたり4ml超)を使用するのでないかぎり、結果として炭酸水素ナトリウム副産物の有意な沈殿が形成された。これらの濃度では、ジクロロメタン内への生成物の抽出は効率的でない。したがって、炭酸ナトリウム3当量を、水酸化ナトリウム2.5当量(これは閉環ステップにおいて生成されるトリエチルアミン塩酸塩2.5当量を中和する)と交換した。この塩基の場合、著しく少ない量の水を使用することができる(オルニチン1mmolあたり1mL未満)(最終pH8〜9)。EtOAc(オルニチン1mmolあたり2mL×3)で水層を抽出し、EtOAc(高温、0.5mL/mmol)及び40〜60の石油(5mL/mmol)から再結晶化させることで、43%の収量で第1の産物が生産された。
【0046】
検査中、水層のpHが過度に低い場合には、EtOAc層内に少量のトリエチルアミン塩酸塩が抽出される。水でこのEtOAc溶液を洗浄することを試みると、塩酸アミンと共に有意な数量のラクタム生成物(I)が抽出される。これは、EtOAc抽出を試みる前に水層のpHを12まで上昇させること(例えば酸塩化物との関係においてほぼ1当量のKOHを添加することによる)で回避でき、このときラクタム生成物(I)と共にトリエチルアミン遊離塩基が抽出され、これは、蒸発によってか又は再結晶化の間にさらに容易に除去可能である。
【0047】
したがって、以下のような好ましい合成経路が提供される:
【化3】
【0048】
(S)−オルニチンモノヒドロクロリド(50mmol)を乾燥メタノール(100ml)中に懸濁させ、トリメチルシリルクロリド(75mmol)を添加する。反応を24時間還流にて加熱する。次にトリエチルアミン(150mmol)を添加し、48時間還流にて加熱する。その後メタノールを減圧下で除去し(任意には、除去を容易にするため後の段階でトルエンを添加してもよい)、KOH(125mmol)を添加した水(20mL)の中に残渣を溶解させる。
【0049】
混合物を0℃まで冷却し、その後2.2−ジメチルプロピニルクロリド(50mmol)をゆっくりと添加し、反応を18時間撹拌し、その間室温まで暖めた。その後固体KOH(50mmol)を添加し、ひとたび溶解したならば反応をEtOAc(3×100mL)で抽出する。組合さった有機層をK2CO3及びNa2SO4の組合せの上で急速に乾燥させ、低圧下で還元(reduced)させる。その後、固体残渣をEtOAc(25mL)/40〜60石油エーテル(200〜250mL)から再結晶化させて、結晶性固体としてラクタム(I’)を得る(50%超の収量)。
【0050】
生成物の同一性及び純度(95%超)を次にプロトンNMR分光法により確認した(δH(400MHz,CDCl3)6.63(1H,br s,NH)、6.01(1H,br s,NH)、4.20(1H,dt,J11,5.5,CHNH)、3.40−3.31(2H,m,CH2NH)、2.61(1H,dq,J13,4.5,CH2)、1.97−1.88(2H,m,CH2)、1.50(1H,dddd,J13,12,9.5,7.5,CH2)、1.22(9H,s,3×CH3))。
【0051】
定義
「約」という用語は、考慮対象の値の前後の一定の範囲を意味する。本出願中で使用されている「約X」というのは、XからXの10%を減じたものからXにXの10%を加えたものまでの範囲を意味する。
【0052】
本明細書中の数値域の使用は、明確に、その範囲内の全ての個々の整数及び所与の範囲の最も広い領域内の上限及び下限数の全ての組合せを本発明の範囲内に含み入れるように意図されたものである。したがって、例えば、(とりわけ)使用すべき3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オンの用量に関して規定された0.1mg〜10gの範囲は、明示的に例証されているか否かに関わらず、0.1mg〜10gの間の全ての用量、及び上位数及び下位数を組合せたもの各々の全ての下位範囲を内含するように意図されている。
【0053】
本発明中で使用される「〜を含む」という用語は、「〜を含む」と「〜から成る」の両方を意味するものとして解釈すべきである。したがって、本発明が或る化合物を「活性成分として含む医薬組成物」に関係する場合、この用語は、その他の活性成分が中に存在し得る組成物と同様、定義された通りの1つの活性成分のみからなる組成物をも網羅するように意図されている。
【0054】
別段の定義がないかぎり、ここで使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。同様にして、本発明中に記載されている全ての刊行物、特許出願及び特許及びその他の参考文献は、(法的に許容される場合)参照により援用されている。
【0055】
以下の実施例は、上述の手順を例示するために提示されており、いかなる形であれ本発明の範囲を限定するものとしてみなされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1A】ラットに対し経口経路を介して1%のCMC中で単回3mg/kg用量を投与した後テストされた5つの化合物(I’)〜(V)についての時間−濃度グラフを示す。各化合物についての3本のラインは、3匹の複製動物を表わす。Y軸は、ng/ml単位で表わした濃度を示す(0〜3000);X軸は分単位で表わした時間を示す(0〜480)。
【図1B】上に同じ。
【図1C】上に同じ。
【図1D】上に同じ。
【図1E】上に同じ。
【図2】1%のCMC中に3mg/kgの割合で投与されたテスト対象の5つの化合物(I’)〜(V)の各々の単回経口用量に曝露されたラットから24時間にわたって収集されたプールされた尿についてLC−MS−MSにより(フルスキャンモードで)同定された主要代謝産物を示す。化合物(IV)の主要代謝産物(IV)は同定されたものの、その構造は、公に入手可能な代謝産物IDデータベース内で断片化/再配置パターンを比較することによって解明されなかった、という点に留意されたい。個々の代謝産物の濃度は決定されなかったが、これらは、存在量の最も高い種を各行の左側に示して、尿中における存在量の定性的順序で示されている。
【図3A】各々別個の実験において、ビヒクルか又は5つの化合物(I’)〜(V)に曝露された場合の、hERG遺伝子産物を発現する細胞についての電流対時間のグラフを示す。各実験において、複製細胞を、hERGにより導入された電流を完全に遮断する陽性対照化合物に曝露した。Y軸はnA単位の電流を表わし;X軸は秒単位の時間を表わす。パネルGは、各化合物又は0.1%のDMSOビヒクル単独(Veh)又は陽性対照化合物E−4031(+ve)に対して曝露された複製細胞についてのhERGテール電流(パネルA−F内の時間対電流グラフの下の面積)を示す。パネルG内のヒストグラムのY軸は、未処理細胞との関係におけるhERGテール電流の阻害百分率を表わす。
【図3B】上に同じ。
【図3C】上に同じ。
【図3D】上に同じ。
【図3E】上に同じ。
【図3F】上に同じ。
【図4】化合物(I’)についての典型的な結合曲線を示す。この実施形態においては、各反応は、様々な競合物質(100μM−1pM)と合わせて、10nMの標識されたBN83250(化合物(I’)と同じ受容体に結合するラクタムBSCI)を受けた。全特異結合は、大きな余剰分(100μM)だけ変位された量であった。各棒は、3回の複製定量の平均を表わし、ウィスカー(差)はSEMを表わしている。Y軸は、毎分計数(cpm)単位での各実験において結合させられた放射能計数を表わす。上部破線は、実験条件下での全結合を表わし、一方下部破線は非特異結合を表わしている。特異結合は、破線間の距離によって表わされている。
【図5A】CEREPパネル(本文参照)を構成する75の異なる受容体パネルに対する5つの化合物(I’)〜(V)の各々についての交差反応性のプロフィール(パネルA:(II);B:(III);C:(V);D:(I’)及びE:(IV))を示す。化合物は、単一の濃度(10μM)でテストされ、公知のリガンドについての75の受容体の各々に対する結合の阻害(各ヒストグラムのY軸)が報告されている(したがって−100%は、テスト化合物の存在下での特異的リガンドの結合の2倍増加を表わす)。全ての反応は、デュプリレートで実施され、棒は平均を表わす(グラフを簡略化するため、複製誤差の推定値は一切示されていない)。このスクリーニング検定においては、結合の50%以上の阻害(又は刺激)(特定の受容体とテスト化合物の相互作用について10μM未満のED50を表わす)のみを、統計的及び生物学的に有意であるとみなした。ここでテストされた5つの化合物について、1つの相互作用(パネルAで矢印によりマークされたNK2受容体と化合物(II)の相互作用)のみが潜在的に有意であるとみなされたが、この相互作用でさえも微弱なものであった(推定ED50 5〜10μM)。
【図5B】上に同じ。
【図5C】上に同じ。
【図5D】上に同じ。
【図5E】上に同じ。
【図6A】Chemo TxTMトラスンウェル遊走(transwell migration)検定における5つの化合物(I’)〜(V)の各々についての、試験管内でのケモカイン誘発型白血球遊走の阻害に関する代表的用量応答曲線を示す。各々の実験において、THP−1細胞は、様々な用量(10pM〜1μM)の各化合物の存在下又は不在下で最大限に有効な量のケモカインMCP−1を用いて遊走するように誘発された。各実験において適切なビヒクル対照が用いられた。各テスト化合物の各濃度における(下部チャンバから削除されたMCP−1と共に遊走させられた細胞の数をMCP−1の存在下で遊走させられた細胞の数から差引いたものとして計算される)MCP−1誘発型遊走の阻害百分率は、トリプリケート決定値の平均として示され、ウィスカーはSEMを表わしている。ED50は、提示されたグラフの線形補間により推定された。各グラフのY軸は、MCP−1誘発型遊走の阻害百分率を表わしている。X軸は、nM単位で表わした存在するテスト化合物の濃度を表わす(0.01〜1000)。
【図6B】上に同じ。
【図6C】上に同じ。
【図6D】上に同じ。
【図6E】上に同じ。
【図7A】亜致死内毒素血症のマウスモデルにおける生体内でのLPS誘発型TNF−α産生の阻害についての代表的な用量応答曲線を示す。各実験において、6匹のマウスからなるグループは、経口(丸印)又は皮下(三角印)経路のいずれかを介して様々な用量で5つの化合物(パネルA:(II);B:(III);C:(V);D:(I’)及びE:(IV))での前処理を受けた。30〜60分後に、腹腔内経路を介して動物にLPSの抗原投与を行ない、3時間後に末端出血から血清を調製した。ELISAによって血中のTNF−αのレベルを測定し、(内毒素を含まないPBSに対する疑似曝露を受けたマウスにおけるTNF−αの濃度をLPSに曝露されたマウスにおけるTNF−αの濃度から差し引いたものとして計算された)LPS誘発型TNF−α産生の阻害度は、6匹の動物の平均として各グラフのY軸に示され、ウィスカーはSEMを示している。LPSを受けたもののBSCI処理を全く受けていないマウスにおけるTNF−αの濃度は、標準的に平均5000〜6000pg/mlであった(これに比べて抗原投与を受けていないマウスでは10pg/ml未満であった)。ED50は、提示されたグラフの線形補間により推定された。各グラフのX軸は、1mg単位で表わしたグループ内の各マウスに投与された各化合物の用量を表わしている(1E−07〜1)。
【図7B】上に同じ。
【図7C】上に同じ。
【図7D】上に同じ。
【図7E】上に同じ。
【図8】喘息のげっ歯類モデルにおけるBAL流体内の細胞計数によって評価される、代表的実験での肺の炎症に対する化合物(I’)の効果を示す。棒は、5匹の動物からなるグループについて、106個の細胞の単位でY軸に示された平均細胞計数を表わし、ウィスカーはSEMを表わす;*2つの尾部を伴って、等しい分散を仮定した対応のないスチューデントt−検定を用いて「感作されたもの」に対してp<0.01)。水平ラインは、抗原投与を受けていないラットの肺からのBAL流体中に存在する平均白血球数を表わす。残りの3つの群における全てのラットは、同じ感作及び抗原投与計画を受けたが、ビヒクル単独(「感作済み」)か又は体重1kgあたり0.3mgの化合物(I’)又は体重1kgあたり30mgのモンテルカスト(monteleukast)(「シングレア(SingulairTM)」)で処理された(全て、経口強制飼養により毎日投与)。
【図9】喘息のげっ歯類モデルにおけるCD4+脾細胞によるIFN−γ(Th1マーカーサイトカイン)及びIL−4(Th2マーカーサイトカイン)産生のフローサイトメトリによる決定によって評価されるような代表的実験におけるTヘルパー細胞の極性化に対する化合物(I’)の効果を示す。棒は、10匹の動物からなるグループについて、Y軸に示された平均Th1/Th2比を表わし、ウィスカーはSEMを表わす;*抗原投与を受けていないラットに対してp<0.05;†感作を受け抗原投与を受けていないラットに対してp<0.05、両方のケースにおいて、2つの尾部を伴って等しい分散を仮定して対応のないスチューデントt−検定が用いられる)。(オボアルブミンに曝露されなかった「BNラット」グループを除いて)全てのラットは同じ感作及び抗原投与計画を受けたが、ビヒクル単独(「感作済み+ビヒクル」)か又は体重1kgあたり0.3mgの化合物(I’)又は体重1kgあたり30mgのモンテルカスト(monteleukast)(「シングレア(SingulairTM)」)で処理された(全て、経口強制飼養により毎日投与)。
【図10】ラットにおける一範囲の異なるBSCI化合物についての血漿半減期(分単位)対経口曝露のプロットである。各ケースにおいて、半減期は、生理食塩水中の0.9%のDMSO、1%のCMCの中に溶解させた1mg/kgの割合の化合物の単回静脈内ボーラス注射から0、0.25、0.5、1、2、4、6及び8時間後における血漿濃度の標準的1コンパートメントモデルを用いて推定された。経口曝露(分、ng/ml単位のAUCO−t)は、生理食塩水中の0.9%のDMSO、1%のCMC中で溶解された3mg/kgの割合の化合物の単回経口用量の後に計算された。化合物(I’)の反転であり「(R)−(I)」として同定されている化合物(I)のR−光学異性体は、白丸印でマークされている。
【実施例】
【0057】
以下の実施例1〜6の各々においては、(S)−3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン(化合物I’)を、様々な下位部類(subclasss)を代表するものとして選択された一範囲のその他のラクタムBSCIと比較した。例えば、ポリシクロアシルラクタムBSCIの下位部類(例えば先に国際公開第2006/016152号(WO2006/016152)内で開示されたもの)の典型として、3−(アダマンタン−1−カルボニルアミノ)−カプロラクタム(II)を選択した。
【化4】
【0058】
同様にして、モノシクロアシルラクタムBSCIの下位部類(例えば先に国際公開第2006/134384号(WO2006/134384)内で開示されたもの)の典型として、3−(1’−メチルシクロヘキシルカルボニルアミノ)−カプロラクタム(III)を選択した。
【化5】
【0059】
単純(非環状)アルキル側鎖を伴うBSCIの下位部類(例えば先に国際公開第2005/053702号(WO2005/053702)内で開示されたもの)ならびにスルホニルアミノリンカーを伴うもの(選択された残りの化合物中の炭素アミドリンカーに対立するものとして)の典型として、化合物3−(1’,1’−ジメチルエチルスルホニルアミノ)−カプロラクタム(IV)が選択された。
【化6】
【0060】
選択された最終化合物3−(3’−ヒドロキシアダマンチル−1−カルボニルアミノ)−カプロラクタム(V)は、(構造が単純直鎖、分岐、単環式又は多環式のいずれであるかに関わらず)置換アシル側鎖を伴うBSCIに典型的であった。
【化7】
【0061】
これらのBSCI化合物(II)〜(V)は全て以前に具体的に開示されており、全てが生体内で強力なBSCI活性を有する(MCP−1誘発型THP−1細胞遊走の阻害についてED50<1nM)という点を指摘しておくことが重要である。全ては、試験管内で優れた血清中安定性を有し、理論的観点からみて全て、生体内での抗炎症性特性をもつヒト用医薬品としての開発のための優れた候補である。
【0062】
上述の化合物(I’、II、III、IV及びV)の全てが、ラクタム立体中心で(S)立体配置でテストされた。
【0063】
実施例1 単回用量後の薬物動態
化合物を、(静脈内経路を介して5%のDMSO中で体重1kgあたり1mgか又は、経口経路を介して1%のカルボキシメチルセルロース中で3mg/kgの)単回用量として3匹の成体ラットに(各化合物及び各投与経路について異なるラットを用いて)投与した。
【0064】
その後、様々な時点(用量投与直前を含む)において、投薬後24時間に至るまで血液を採取し、有効性確認されたLC−MS/MS検定を用いて様々な化合物のレベルを評価した。簡単に言うと、95:5の水:アセトニトリル中の0.1%のギ酸中でWaters Atlantis(C18 20×2.1mn、ビーズサイズ3μm)逆相クロマトグラフィーカラムに対して、3〜5μlの脱タンパク試料を適用した。3:5分にわたり、結合した材料を勾配溶離して5:95の水:アセトニトリル中の0.1%のギ酸に達し、その後続いて95:5の水:アセトニトリル中の0.1%のギ酸に戻るように段階的に勾配させた。その後カラム溶離剤を、Turbo IonsprayTMイオン源を陽イオンモードで作動させながらApplied Biosystems API 4000/3200 Q Trap MS/MS質量分析計まで導いた。界面温度は650℃に設定され、各々のMRM遷移についてドウエル時間は40msで、以下のイオンが監視された:
【表1】
【0065】
各決定における内部標準は、関連化合物(S)−3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−カプロラクタムであり、これは脱タンパクに先立ち試料内にスパイクされた。この検定のための定量下限(LLQQ)は、それが38.1ng/mlであった(I’)を除き、各化合物について2.4ng/mlであった。
【0066】
各々の収集された試料のLC−MS/MS分析の後、化合物の薬物動態的体内動態を、かかるアプリケーションのための周知のソフトウェアパッケージであるKineticaソフトウェアを用いてモデリングした。
【0067】
結果
経口経路を介して各化合物で処理された各ラットについての個々の濃度対時間グラフは、図1に示されている。これらの5つの構造的に多様なラクタムBSCIのうち、(IV)、(V)及び(I’)のみが感知され得る何らかの経口曝露を達成し、これらのうち(I’)がその他のものよりも実質的に優れている、ということは直ちに明らかである。
【0068】
表1には、単純な1コンパートメント薬学動態モデルのパラメータが示されている。まず第1に、これは、次に優れた化合物(V)よりもほぼ20倍高い、(I’)で達成されたより優れた曝露を実証している。(分、ng/mlの単位で濃度対時間曲線の下の面積として計算される)このより優れた曝露の理由も同様に明らかである。すなわちml/分/kg単位で毎分薬物が完全に排泄される理論的血液量として定義されている(I’)のクリアランスは、他のラクタムBSCIの場合よりも10倍超低いものである。
【0069】
【表2】
【0070】
表1.構造的に多様なラクタムBSCIについての薬物動態パラメータ
3匹のラットを平均した、各化合物についての単一の1コンパートメント薬物動態モデルからの、経口生物学的利用能(F,%)優性血漿半減期(t1/2、分)、クリアランス(ml/分/kg)、分布容量(Vss、L/kg)及び曝露(AUCO→無限、分、ng/ml)。*24分は、注入用量の95%超のクリアランスを説明する(V)についての優性半減期である;劣位t1/2βは110分であった。全てのケースにおいて、Cmaxは、30分以内で達成され、これは最適な吸収と一貫性あるものであった。
【0071】
(II)及び(III)のクリアランスは、ラットの肝血流量に接近し、このことは、これらの化合物の両方が最初の肝臓内通過の時点でほぼ完全に代謝されるということを強く示唆している。同様にして、(IV)及び(V)の両方のクリアランスは、ラット体内の腎血流量を約3〜4倍ほど超過し、ここでもまた、同じく肝臓を媒介とするものと推定される実質的な代謝クリアランスを示唆している。これとは全く対照的に、2.6ml/分/kgでの(I’)のクリアランスは、腎血流量(典型的には7〜9ml/分/kgとして引用されている)の半分未満であり、これは最小代謝クリアランスを示唆している。分布容量が合計体内水分(0.7L/kg)の自由平衡と一貫性を有する状態で、(I’)はきわめて水溶性が高いことから、腎血流量より低いクリアランスが(例えば親油性コンパートメント内への金属イオン封鎖に起因する腎臓に対する曝露の低下ではなくむしろ)腎臓遠位尿細管内の水での再吸収を表わすということが考えられる。
【0072】
その他の化合物と比べて(I’)についてのクリアランスがはるかに低いことと一貫して、(I’)は実質的により長い血漿半減期を有する(他の4つの化合物については半時間未満であるのに比べ、3時間超)。
【0073】
選択された化合物のうち5つ全てが急性炎症評価項目について経口生物活性を有することがわかっていたにせよ、BSCIの全てが経口生物学的利用能を有することが観察されたわけではない。このことは恐らく、効率良く吸収されたものの最初の肝臓通過時点でBSCIとしての一部の活性を保持する代謝産物へと転換される(II)及び(III)の急速な肝臓媒介型代謝を反映している。
【0074】
この薬物動態分析に基づくと、当業者にとっては、これら5つの化合物についての単離された血清中の類似の化学的安定性及び試験管内安定性ならびにそれらの理論的根拠に基づく類似の予測された特性にも関わらず、それでも(I’)がその他のもの全てよりも著しく優れている、ということが明白になる。特に、化合物のクリアランスは、恐らくは肝臓媒介型代謝に対する傾向を反映してはるかに低く、その結果、次に優れた被験化合物に比べ血漿半減期は10倍長く、経口曝露はほぼ20倍優れたものとなる。
【0075】
別個の実験においては、異なる(非げっ歯類)種、すなわちイヌにおける薬物動態パラメータについて、(I’)を第2に優れた化合物(V)と比較した。2つの投与経路の間で1週間のウォッシュアウトを伴う単純な交差設計で各化合物について一匹のイヌに単回用量(静脈内で5%のDMSO中1mg/kg又は、経口で1%のCMC中3mg/kg)を投与した。
【0076】
結果は表2に示されている。
【0077】
静脈内PK(1mg/kg)
【表3】
【0078】
経口PK(3mg/kg)
【表4】
【0079】
表2.ラット及びイヌにおける最良の2つのラクタムBSCIについての薬物動態パラメータの比較。イヌにおける薬物動態は、おおむねラットに類似している。両方の種において、著しく低いクリアランス、より長い血漿半減期ひいてはより大きな曝露(分、ng/ml単位のAUC)を有する化合物(I’)。各々のケースにおいて、優性半減期(速い方のt1/2α)が、注射された用量の95%超を排泄させる原因となっている。
【0080】
これらの観察事実は、(I’)のより優れた薬物動態特性が種特異的なものではなく、したがってヒトにおいて観察される確率も非常に高いものであるということを示している。
【0081】
実施例2 一次代謝産物の同定
単回経口用量(1%のCMC中3mg/kg)の各化合物に曝露されたラットから代謝ケージ内で24時間にわたり尿を収集した。その後プールした尿試料を、前述の実施例1で記述されたものと同じLC−MS条件を用いて、フルスキャン質量スペクトル分析に付した。次にプロダクトイオンのさらなるMS−MS分析を実施し、公に入手可能な代謝産物IDデータベースから、可能性ある断片化/転位を割当てた。
【0082】
主要な代謝産物については、割当てられた構造を、当該技術分野において周知の方法を用いて基準試料の合成により確認し、これらを、尿試料と同じ条件下でLC−MS−MS分析に付した。
【0083】
代謝産物ID研究が、存在する異なる代謝産物の相対量の定性的推定値のみを提供し、適切な内部標準を用いた別々に有効性確認された検定が、各々の代謝産物種を定量するために必要とされることになるという点に留意されたい。
【0084】
結果
検出された濃度の順位で、検出された代謝産物が、分析された5つの化合物について図2で示されている。ここで使用される方法が必然的に網羅的でなく、ここで適用された方法について検出限界を下回るさらなる(特に微量の)代謝産物も同様に存在し得るという点に留意することが重要である。一般に、注射された用量の10%以上を占める代謝産物が、ここで使用される方法によって(必ずしも構造的に同定されはしないものの)検出されるものと仮定することができる。
【0085】
化合物(II)及び(III)については、主要代謝経路は、肝血流量に接近する率での高速クリアランスと一貫性をもつシトクロムP450媒介型ヒドロキシル化である(以上の実施例1を参照のこと)。両方の化合物における主要なヒドロキシル化部位は、シクロアルキル尾部基上であり、第2の(より低速の)ヒドロキシル化はラクタム頭部基上で起こる。ラクタムヒドロキシル化生成物は、エレクトロスプレー源内での7−ヒドロキシアダクツの不安定性のため、(+16amuとは対照的に)−2amuでMS−MSにおいて出現したという点に留意されたい。
【0086】
化合物(II)については、ジヒドロキシル化生成物は、尿中で検出されるのに充分な量で存在し、一方化合物(III)については、いかなるジヒドロキシル化生成物も検出されなかった。両方のケースにおいて、付加的な微量生成物も同様に、適用された方法の検出レベルより下で形成された確率が高い(例えば、特に(V)のグルクロン酸化アダクツが検出されたことから、ヒドロキシ−(II)及びヒドロキシ−(III)の両方のグルクロン酸化アダクツと同様に、3,5ジヒドロキシ及び3,5,7トリヒドロキシアダマンチル誘導体)。
【0087】
化合物(V)については、グルクロン酸化化合物は、主要代謝産物であったが、ラットにおいては、グルクロン酸塩の微量画分のみが尿中に排泄され、大部分は糞便へと移行する(このグルクロン酸アダクツが主として尿中で排泄されるヒトとはきわめて対照的である)。その他の第II相代謝産物(例えば3’−O−サルフェート)も同様に形成された可能性があるが、本明細書中で使用された方法によって検出されるには低すぎるレベル(少なくとも尿中では)にすぎなかった。化合物(II)及び(III)に関しては、ラクタム頭部基上でヒドロキシル化された少量の生成物も検出された(ここでもまた主として−2amuプロダクトイオンとして)。
【0088】
化合物(IV)については、主要代謝産物は同定できなかったが、親化合物の喪失(表3参照)は、未同定代謝産物の形成と明らかに一貫性を有していた(注射された(IV)の用量の10%未満が、不変の状態で回収された)。化合物(IV)は、スルホンアミド結合を含む唯一の薬剤であったことから、リンカーの代謝分割(又はその他の修飾)が発生していた可能性はあると思われるものの現在のところ証明されていない。ここでもまた、ラクタム頭部基における少量のヒドロキシル化が同様に観察された。
【0089】
その他の化合物全てときわめて対照的に、尿中には(I’)の有意な代謝産物は一切検出されず、これは注射された用量の大部分が不変形態で尿中に出現したこと(表3参照)及び腎血流量以下のクリアランス率(以上の実施例1を参照のこと)と一貫性を有していた。この代謝産物形成の欠如は、ヒト用医薬品としての開発に向けて本明細書でテストされたその他の化合物と比べて(I’)が有する主要な予想外の利点であり、少なくとも部分的に、以上の実施例1で記述されたより優れた薬物動態特性の原因である。
【0090】
テストされた化合物の各々が代謝された程度を示す量的推定値を提供するために、内部標準として(S)−3−(2’,2’−ジメチルプロパノイルアミノ)−カプロラクタムを用いて、尿中の不変な親化合物の量を、実施例1に記述されているものと同じ有効性確認されたLC−MS検定を用いて測定した。結果は表3に示されている。さらに、様々な標的組織中の化合物レベルも決定した。
【0091】
【表5】
【0092】
表3.ラットにおける単回用量から24時間後の様々な組織中への化合物の分布。単回経口用量(1%のCMC中3mg/kg)から24時間後の尿中では、化合物(I’)、(V)及び(IV)のみが検出可能であった。これらのうち、化合物(I’)は著しく少ない代謝しか受けていなかった(注射された用量の60%超が尿中で回収された)。さらに、単回用量から24時間後には、その他のいずれ組織の中でも化合物(I’)だけを検出できた。このことは恐らく、ここでテストされたその他の化合物と比べて(I’)と関連する曝露の増加及びより優れた分布の両方を反映している。
【0093】
その他の化合物に比べてはるかに低い(I’)の代謝速度は、(I’)が予想外に、ヒト用医薬品としての開発のために先に開示された広範囲のラクタムBSCIよりも著しく優れていることを実証している。この低い代謝(ひいては改善されたADME特性)は恐らく、以上の実施例1の中で示されている劇的に優れた薬物動態特性を説明するものである。さらに、BSCIは、広範囲の組織内への不適切な白血球動員を標的とする抗炎症剤としての開発用に意図されていることから、単回用量から24時間後にテストされた体の全組織中に(I’)が見出される一方で、テストされたその他のラクタムBSCIが見出されなかったという予想外の発見事実は、この新規の化合物が特に有用であることを明白に実証している。
【0094】
実施例3.安全性薬理学
確率の高い遺伝毒性を評価するために、5つの化合物を標準的AMES試験に付した。S9ラット肝臓ミクロソーム代謝系の存在下及び不在下で(最高5mg/mlまでの)5つの濃度を用いて各々の化合物でS. Typhinuriumの3つのHis−栄養要求性菌株(TA102、TA98及びTA100)を処置した。次に、微量His最小培地上に平板固定することによって、復帰突然変異体コロニーの数を決定した。
【0095】
結果(表4)は、5つの化合物のうちのいずれも、テストされた菌株のいずれにおいても(代謝活性化を伴う又は伴わない)復帰突然変異体コロニー形成を有意に増大しないということを示している。
【0096】
【表6】
【0097】
表4.AMES試験における復帰突然変異体コロニー。テストされた化合物のいずれも、テストされた濃度のいずれにおいても復帰突然変異体コロニー形成の有意な増加をひき起こさなかった(上位用量についてのデータのみが示されている)。化合物(II)が5mg/mlで細菌叢成長の阻害をひき起こしたという点に留意されたい。
【0098】
別個の実験においては、hERGイオンチャネルとの相互作用について、5つの化合物全てをテストした。hERGと相互作用する化合物は、QTの延長そして潜在的には致命的な心不整脈をひき起こす危険性がある。10μMでhERGテール電流を50%超阻害する化合物は、一般的に、ヒト用医薬品としての開発のためには危険性が高いものとみなされている。
【0099】
hERGを発現するために安定した形でトランスフェクトされたHEK239細胞に、10μMで化合物を含有する浴溶液(0.1%のDMSO)を灌流させた。3個の細胞からのhERGテール電流を次に、5秒間+20mVまで減極した後パッチ−クランプ分析により記録した。その後、10μMで有意な変調を示すあらゆる化合物について、4点用量−応答曲線の中で、hERG相互作用の効力を決定した。
【0100】
結果(図3)は、5つの化合物のいずれも、10μMでhERGチャネルと有意な形で相互作用しなかったことを示している。
【0101】
我々は、安全性薬理学の観点から、(I’)を含め5つの化合物全てが、ヒトの医薬品としての開発のために同等に適しているという結論を下している。特に、以上の実施例1及び実施例2で例証された(I’)の著しく優れたADME及び薬物動態特性は、それに対応するさらに好ましくない安全性薬理学プロフィールを随伴していない。
【0102】
実施例4.一般薬理
5つの化合物の一般薬理を、特異的標的受容体に対してと同様、多くが標的受容体と構造的に関連づけられる多種多様なその他の受容体に対して評価した。標的受容体に対する特異的結合は、[3H]−BN83250の結合に対する競合により評価された(BN83250は、(S)−3−(2’,2’−ジメチルドデカノイルアミノ)−カプロラクタム(Foxら、J. Med Chem. 第200;4813号);867〜74頁)、すなわちここで開示されているラクタムBSCIと同じ標的受容体に結合するものとして知られている薬剤である)。非標的受容体に対する結合は、当該技術分野において周知であるその他の受容体のための様々な特異的放射性リガンドの結合に対する競合によって評価された。
【0103】
特異的結合のためには、ヒト骨髄単核細胞系を、10nMの[3H]−BN83250(100%のエタノール中の1μMの原液由来;30Ci/mmol)及び様々な競合物質(1%のDMSO最大ビヒクル濃度)の存在下で4℃で、結合緩衝液(20mMのHEPES、150mMのNaCl、pH7.4;一反応あたり106個の細胞)中で再懸濁させた。反応を氷上で2時間インキュベートさせ、次に、0.5%のポリエチレンイミン中に予め浸漬させたGF/Cフィルタを通して濾過した。未結合の材料を、低速真空下で5×5mlの氷冷洗浄緩衝液(20mMのHEPES、150mMのNaCl、pH7.4)で洗い去った。これらの条件は、少なくとも80%の結合特異性(10μMの低温BN83250と競合可能)を用いて、平衡結合を達成することが先に示されている。
【0104】
このとき、化合物(I’)、(II)及び(V)での特異的[3H]−BN83250に対する競合を、1pM〜10μMの様々な濃度で決定した。化合物(III)及び(IV)はこれらの実験において検討されなかった。(I’)についての典型的競合結合曲線が図4に示されている。
【0105】
このとき、(BN83250の特異的相互作用部位として定義される)標的受容体に結合する薬剤としてのそれらの特性を比較する目的で、様々な化合物についての競合結合曲線に対し、非線形モデリングを適用した。結果として得たモデルのパラメータを表5に示す。
【0106】
【表7】
表5.競合結合曲線の非線形モデリング
【0107】
化合物(I’)は、ラクタムBSCI(II)及び(V)ときわめて対照的に、標的受容体に対する理想的かつ予測可能な結合を示したという点を指摘しておくことが重要である。特に、受容体に対する結合のためのみかけの親和性は、遊走阻害検定における機能的ED50値と同等の規模のものであった。同様にして、ヒルスロープは、もう一方のラクタムBSCIが著しく浅いヒルスロープを示した一方で、およそ−1.0(単純な非協調的競合結合モデルについての理論的予想値)であった。化合物(II)及び(V)についての標的受容体に対する理想的結合からの逸脱の原因はわかっていないが、この差異は化合物(I’)の予想外の優位性をさらに明確に示している。
【0108】
非標的受容体に対する結合は、当該技術分野において周知である各受容体についての特異的放射性リガンドを活用する類似のプロトコルを用いて評価された。各化合物は、単一の濃度(10μM)のみにおける各リガンドの特異的結合に対する競合についてテストされた。結合の阻害が20%〜80%であった場合、相互作用のためのKaが推定された。阻害が20%未満の場合、化合物は、受容体との競合的相互作用を一切もたないものと仮定された。阻害が80%超であった場合、Kaは1μM未満として報告された。スクリーニングされた受容体及び検定中で使用された放射性リガンド及び細胞型についての詳細は、www.cerep.frで入手可能である。
【0109】
結果(図5)は、テストされたラクタムBSCI化合物の全てが、75の受容体のこのパネルに基づいて主要な交差反応を有していないということを実証している(1μM未満の推定されたKaとの相互作用は全く指摘されなかった)。わずか1つの弱い(ただし統計的には有意な)交差反応が指摘された(NK2受容体を伴う化合物(II))。これに基づくと、化合物(I’)は(II)に比べて標的受容体に対する特異性がわずかに高かったが、テストされた全てのラクタムBSCI化合物は、この高処理量のスクリーニング検定型式において同定されたそれらの標的外結合の欠如に基づいてヒト用医薬品としての開発に適していた。
【0110】
実施例5.試験管内での広域スペクトラムケモカイン阻害活性
本発明の化合物の生物学的活性は、ボイデンチャンバ及び関連するトランスウェル遊走検定、アガロース下遊走検定及び直接視覚化チャンバたとえばダン・チャンバーを含めた(ただしこれらに限定されない)広範な試験管内での白血球遊走の機能的検定のいずれかを用いて実証可能である。
【0111】
例えば、(他の化学誘引物質ではなく)ケモカインに応答した白血球遊走の阻害を実証するために、Neuroprobe(Gaithersburg, MD USA)製の96ウェル型式のChemo TxTMマイクロトランスウェル検定システムが使用されてきた。原則として、この検定は、多孔質膜により分離された2つのチャンバからなる。化学誘引物質は下部コンパートメント内に入れられ、細胞は上部コンパートメント内に入れられる。37℃でのインキュベーションの後、細胞は化学誘引物質に向かって移動し、下部コンパートメント内の細胞の数は、(一連の対照との関係において)化学誘引物質活性に正比例する。
【0112】
この検定は、一定範囲の異なる白血球集団について使用可能である。例えば、調製されたばかりのヒト末梢血白血球を使用してよい。代替的には、密度勾配遠心分離又は磁気ビーズ分離などの当業者にとって周知の方法を用いて、多形核細胞又は白血球又は単球を含めた白血球サブセットを調製してよい。代替的には、単球モデルとしてのTHP−1細胞又は未感作T細胞モデルとしてのシャーカット細胞を含めた(ただしこれらに限定されない)、ヒト末梢血白血球モデルとして有効性が広く確認されている不死の細胞系を使用してよい。
【0113】
ケモカイン誘発型白血球遊走の阻害を実証するためには一定範囲の検定条件が許容できるが(例えば、試験管内遊走検定を解釈するために必要とされる条件については、Frowら、Med Res Rev. 2004年;24(3):276〜98頁により提供されている助言を参照のこと)、ここでは一具体例が示される。
【0114】
材料
トランスウェル遊走システムは、Neuroprobe, Gaithersburg, MD, USAが製造している。使用される平板は、Chemo TxTM平板(Neuroprobe 101−8)及び30μlの透明平板(Neuroprobe MP30)である。
【0115】
ゲイの平衡塩類溶液は、Sigma社より購入する(Sigma G-9779)。無脂肪酸BSAはシグマ社から購入する(Sigma A-8806)。MTTすなわち3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミドも、Sigma社から購入する(Sigma M-5655)。フェノールレッド無しのRPMI−1640も、Sigma社から購入する(Sigma R-8755)。
【0116】
白血球細胞集団としてTHP−1細胞系(European Cell Culture Collection)を使用した。
【0117】
試験プロトコル
ケモカインによって誘発される白血球遊走を特異的に遮断する能力について、本発明の化合物を試験するために以下の手順を使用する:
【0118】
まず第1に、上部コンパートメント内に入れるべき細胞懸濁液を調製する。THP細胞を遠心分離(770×g;4分)によりペレット化し、1mg/mlのBSA(GBSS+BSA)を伴うゲイ平衡塩類溶液で洗浄する。この洗浄をその後反復し、細胞を再度ペレット化してから、例えば標準的な血球計を用いた計数のため少量のGBSS+BSA中で再懸濁させる。
【0119】
その後、細胞が1mlのGBSS+BSAあたり4.45×106個の細胞という最終密度となるように、存在する細胞数に応じてCBSS+BSAの体積を調整する。こうして、溶液25μl毎に100,000個のTHP−1細胞が確実に存在することになり、これが平板の上部チャンバ内に入れられる。
【0120】
ケモカイン誘発型遊走を阻害するその能力について単一の化合物を試験するためには、2つの細胞ロットを調製することが必要である。4.45×106細胞/mlでのTHP−1細胞の懸濁液を2つのポットに分ける。1つのポットには、試験対象の阻害物質を適切なビヒクル中に適切な最終濃度で、(例えば1%以下のDMSO中1μMで)添加する。2つ目のポットには、対照として作用させるべく、等体積のGBSS+BSAと該当する場合にはビヒクル(例えば1%以上のDMSO)を加える。
【0121】
次に、下部コンパートメントに入れるべき化学誘引物質溶液を調製する。例えば、MCP−1をGBSS+BSA中で希釈して、25ng/mlの最終濃度を得る。これを、細胞懸濁液に関して2つのポットに分割する。1つのポットには、試験化合物を細胞懸濁液に添加されたものと同じ最終濃度まで添加し、一方もう1つのポットには、等体積のGBSS+BSAと該当する場合にはビヒクル(例えば1%以下のDMSO)を添加する。代替的には、その他のケモカインを使用してもよい(7.5ng/mlのSDF−1α;50ng/mlのRANTES;標的細胞集団として好中球を用いて10ng/mlのIL−8)。各ケースにおいて、選択された標的白血球集団の最大遊走刺激をひき起こす各ケモカインの濃度を(別個の実験において)決定することが重要である。このときこの最大濃度を実験において使用して本発明の化合物の阻害活性を試験しなければならない。ケモカインは典型的に、鐘形用量応答曲線をもつ白血球遊走を誘発することから、最大未満又は最大超のケモカイン濃度の使用は、人為的(artefactual)な結果を導く可能性がある(例えば、ケモカイン阻害物質である化合物は、実験のために化学誘引物質の最大超の濃度が誤って選択された場合、白血球遊走の逆説的刺激を生み出す可能性がある。試験管内白血球遊走実験の設計におけるこの重要な要因のさらなる例証は、Frowと同僚らにより提供された(Med Res Rev. 2004年;24(3):276〜98頁)。さらに、本発明の化合物の生物活性を実証するために、非ケモカイン化学誘引物質を使用してもよい(例えば標的細胞集団として好中球を用いて25ng/mlのC5a又は標的集団としてTHP−1細胞を用いて10ng/mlのTGF−β1)。
【0122】
下部コンパートメント用の溶液中のMCP−1の最終濃度及び上部コンパートメント内の細胞の最終濃度を実証するにあたっては、試験化合物の添加と共に添加する必要のある液体の体積を考慮に入れる必要があるという点に留意されたい。
【0123】
下部ウェル用の化学誘引物質溶液及び上部チャンバ用の細胞溶液がひとたび調製されたならば、遊走チャンバを組立てなくてはならない。チャンバの下部ウェル内に29μlの適切な化学誘引物質溶液を入れること。検定は各々の条件で少なくともトリプリケートで決定して実施すべきである。下部チャンバの全てがひとたび充填されたならば、メーカーの指示にしたがって、チャンバに多孔質膜を適用する。最終的に、各上部チャンバに対し適切な細胞溶液を25μl適用する。蒸発を防ぐため、器具全体の上にプラスチックのふたを置く。
【0124】
組立てられたチャンバを2時間37℃、5%CO2でインキュベートする。GBSS+BSA中の細胞の懸濁液も試験管内で同一の条件下でインキュベートする。これらの細胞は、各条件下で下部チャンバに遊走した細胞数を決定するための標準曲線を構築するために使用されることになる。
【0125】
インキュベーションの終りで、液体細胞懸濁液を上部チャンバから穏やかに取り出し、上部チャンバに、PBS中の氷冷20mM EDTAを20μl添加し、器具を15分間4℃でインキュベートする。この手順は、膜の下側に付着したあらゆる細胞を下部チャンバ内に落下させる。
【0126】
このインキュベーションの後、フィルタをGBSS+BSAで入念に洗い流してEDTAを洗い出し、その後フィルタを取り出す。
【0127】
このとき、各条件下で下部チャンバ内に遊走した細胞数を、直接計数、螢光性又は放射性マーカーでの標識化又は生体染色色素の使用を含めた数多くの方法により決定することができる。標準的には、生体染色色素MTTを利用する。各ウェルに3μlのMTT原液を添加し、次に37℃で1〜2時間平板をインキュベートし、その間に細胞内部のデヒドロゲナーゼ酵素が可溶性MTTを不溶性青色ホルマザン生成物へと転換し、これを分光光度法で定量化することができる。
【0128】
これに並行して、8点標準曲線を構築する。各々の上部チャンバに添加された細胞の数(100,000)から始めて、GBSS+BSA中の2倍連続希釈で降下し、3μlのMTT原液を添加しながら、25μlで細胞を平板に添加する。標準曲線平板を、遊走平板と同時にインキュベートする。
【0129】
このインキュベーションの終りで、下部チャンバから液体を入念に除去し、このとき、沈殿したホルマザン生成物を乱さないように注意を払う。簡単に空気乾燥させた後、各々の下部チャンバに20μlのDMSOを添加して青色染料を可溶化し、96ウェルの平板の読取り装置を用いて595nmの吸光度を決定する。その後、各ウェルの吸光度を標準曲線に対して補間して、各々の下部チャンバ内の細胞数を推定する。
【0130】
化学誘引物質が全く添加されなかったウェル内の下部コンパートメントに到達した細胞の平均数を、化学誘引物質が存在した下部コンパートメントに到達した細胞の平均数から差し引くことによって、化学誘引物質で刺激された遊走を決定する。
【0131】
試験物質の影響は、試験物質の様々な濃度の存在下又は不在下で発生した化学誘引物質誘発型遊走を比較することによって計算される。典型的には、遊走阻害は、化合物の存在によって遮断された合計化学誘引物質誘発型遊走の百分率として表現される。大部分の化合物について、一範囲の異なる化合物濃度(典型的に、活性度の低い化合物の場合1nMから1μM以上までの範囲)で発生する化学誘引物質誘発型遊走の阻害を決定することによって、用量−応答グラフが構築される。このとき、各化合物の阻害活性は、化学誘引物質誘発型遊走を50%削減するのに必要とされる化合物の濃度(ED50濃度)として表現される。典型的には、広範囲の化合物の生物活性を比較するための標準化された試料システムとして、THP−1細胞のMCP−1誘発型遊走が使用されてきた(例えばReckless & Grainger Biochem J.、1999年6月15日;第340号(Pt3):803〜11頁; Recklessら、Immunology. 2001年6月;第103号(2):244〜54頁; Fox ら、J Med Chem. 2002年1月17日;第45号(2):360〜70頁; Foxら、J Med Chem. 2005年2月10日;第48号(3):867〜74頁; 上掲の国際公開を参照のこと)。2つ以上のケモカインにより誘発されるものの非ケモカイン化学誘引物質(例えばTGF−β又はC5a)によっては誘発されない白血球遊走を阻害する化合物は、広域スペクトラムケモカイン阻害物質として定義される(BSCI:例えばGrainger & Reckless Biochem Pharmacol. 2003年4月1日;第65号(7):1027〜34頁; Grainger ら、Mini Rev Med Chem. 2005年9月;第5号(9):825〜32頁を参照のこと)。
【0132】
結果
THP−1細胞のMCP−1誘発型遊走を阻害する化合物(I’)についての典型的用量応答曲線が、特に高い(すなわち<1nM)効力をもつものとして知られているその他の選択されたラクタムBSCIについての比較可能な用量応答曲線と合わせて、図6に示されている。ED50値として表現されている、化合物(I’)対様々なケモカイン及び非ケモカイン化学誘引物質の効力は、表6に示され、先に記述したその他のラクタムBSCIと比較されている。
【0133】
このデータから、化合物(I’)をBSCIとして分類できるということは明白である(これは、この化合物が一範囲のケモカインにより誘発される白血球遊走を強力にかつ高い効力で阻害するものの、ここではC5aアナフィラトキシンである非ケモカイン化学誘引物質によって誘発される白血球遊走に対して全く効果をもたないからである)。さらに、化合物(I’)が、先に開示された選択されたラクタムBSCI(例えば国際公開第2006/016152号(WO2006/016152)中の化合物(II)又は国際公開第2005/053702号(WO2005/053702)中の化合物(IV))と少なくとも同程度に、試験管内においてBSCIとして効力が高く強力であるということも明白である。ここで検査されている全てのラクタムBSCIは、これまでに開示されてきた非ラクタムBSCI(イミド例えばNR58,4、ヨヒンバミド(yohimbamide)、リセルグアミド(lysergamide)及びペプチド3そして関連する構造例えばNR58−3,14,3を含む)のいずれよりもはるかに効力が高い。実際、化合物(I’)は、先に開示又は記述された他のいずれの化合物よりも(少なくともMCP−1誘発型遊走に対して)試験管内でBSCIとして効力が高い。BSCIとしてのこの効力は、(わずかな程度ではあるものの)先行技術におけるBSCIよりも量的に優れているが、化合物(I)を先行技術のBSCIよりも予想外に優れているものとして主として極立たせているのはこの特性ではない。それどころか、このことは、先に開示された広範囲のBSCIに比べて化合物(I)の予想外のそして実質的に優れたADME及び薬物動態特性が、試験管内でのBSCIとしての能力又は効力を全く失うことなく達成されたということを実証している。
【0134】
【表8】
【0135】
表6.試験管内での白血球遊走に対する選択されたラクタムBSCIの効果。各ケースにおいて、記載された化学誘引物質の最大用量に応答した白血球遊走を50%阻害するのに必要とされる化合物の用量(pM単位)(ED50)が示されている。別段の記載のないかぎり、データはTHP−1細胞系について報告されている。C5a誘発型遊走については、試験された化合物のいずれも、試験された最高の濃度(1μM)でさえ好中球遊走を少しも阻害しなかった。
【0136】
実施例6.生体内での抗炎症性活性
我々は、先に開示されたBSCI(例えばFoxら、J Med Chem. 2002年;第45号(2):360〜70頁; Foxら、J Med Chem. 2005年;第48号(3):867〜74頁参照)の生体内での全身的抗炎症性特性を実証するために、亜致死LPS誘発型内毒素血症検定を使用した。この検定において、マウスには、細菌内毒素(LPS)を用いて非特異的炎症性抗原投与が与えられ、(正常な条件下の血液からは基本的に存在しないものの広範囲の炎症性刺激に応答して急速に上昇する)中心的炎症性サイトカインTNF−αの血清レベルによって全身性炎症性応答の程度が測定される。このモデルはそれ自体がいずれかのヒト炎症性疾患条件に特に近いモデルではないにせよ、TNFαが非常に数多くの疾患(関節リウマチ、自己免疫疾患、クローン病、アテローム性動脈硬化症、喘息その他多数を含む)において重要であることがわかっているために、このモデルが選択された。したがって、このような広範囲の疾病を治療するために、TNF−αの産生を抑制する薬剤がすでに臨床的に使用されている(例えばEnbrelTM及びその他の抗TNF−α抗体製品)。したがってこのモデルにおけるTNF−α抑制活性の実証は、広範囲の疾患において、臨床的に有用な抗炎症性効果を充分予測させるものである。
【0137】
マウス(6匹のグループ)を、LPS抗原投与の30分前に皮下経路で、或いはLPSの60分前に経口経路で(強制飼養を介して)、様々な用量の各化合物を用いて前処理した。その後、細菌LPS750μgを腹腔内注射することにより抗原投与し、3時間後に屠殺した。心臓穿刺により末端出血から血清を調製し、TNF−αの濃度をELISA(R&D Systems)によって決定する。各実験において、6匹のマウスからなる1グループはLPSを一切受けず陰性対照として作用し、第2のグループはLPSのみ(阻害物質候補無し)を受ける。薬物前処理無しでLPSを受けたこれらの動物からの血清中のTNF−αのレベルは、恣意的に100%にセットされる(そして、陰性対照グループ内の10pg/ml未満のレベルと比べて、典型的にはおよそ6000pg/mlである)。我々は先に、合成コルチコステロイドデキサメタゾン(それ自体、広範囲の炎症性疾患において活性である周知の抗炎症性薬剤である)が、このモデルにおいてLPS誘発型TNF−α産生を少なくとも90%阻害し、一方、サリドマイド(ここで記述されているBSCIのような白血球動員阻害物質としてよりもむしろ細胞TNF−α産生のレベルで作用する、TNF−α産生の別の公開されている阻害物質)はLPS誘発型TNF−α産生を約60%阻害することを示してきた。
【0138】
様々な用量での化合物(I’)ならびにその他の選択されたラクタムBSCIの効果は、図7で示されている。予想された通り、化合物は、それが皮下経路(丸印)を介して送達されたか又は経口経路(三角印)を介して送達されたかに関わらず、LPS誘発型TNF−α産生を強力に阻害する。1μg/マウスより高い用量で、LPS誘発型TNF−αレベルは、一般に、コルチコステロイドデキサメタゾンの効果に匹敵する90%超抑制された。
【0139】
試験されたもう一方のラクタムBSCIも同様に、用量依存的にLPS誘発型TNF−αを阻害した(図7)が、(I’)の生体内での効力は試験された他の化合物のいずれよりも大きい(そして実に、この検定において試験され他の箇所で以前に開示されたその他のラクタムBSCIの効力よりも大きい)ものであった。この効力の量的増加は(小さいものではあるが)、我々がここで先行技術のBSCIよりも予想外に優れたものとして化合物(I)を請求する主たる理由ではない。それどころか、このことは、先に開示された広範囲のBSCIに比べて化合物(I)の予想外のそして実質的に優れたADME及び薬物動態特性が、生体内での抗炎症剤としての能力又は効力を全く失うことなく達成されたということを実証している。さらに、これらの発見事実は、増大したTNF−α産生が発病機序の一構成要素である多種多様な炎症性疾患において有用性を示す1つの炎症性モデルにおける生体内での抗炎症剤としての(I)の有用性を、明確に実証している。
【0140】
このモデルで観察された超急性炎症が、試験された抗炎症剤のADME及び薬物動態特性に対し特に不感応であるという点を指摘しておくことが重要である。LPS刺激は薬物からわずか30分後に投与されることから、非常に短い血漿滞留時間を有する薬剤(例えば化合物(II)及び(III))でさえ、強力な抗炎症効果を惹起するのに充分な濃度で血漿中に存在し続けている。したがって、かかる試験は、先行技術に比べた請求対象化合物の優性を強調するものではないが、それでも化合物の有用性は実証している。
【0141】
請求対象化合物の有用性はさらに、ヒトの疾病である喘息の動物モデルにおける研究により実証されている(LPS曝露に応答して観察される超急性炎症性応答は、いずれかの特別なヒト疾患に典型的なものではないかもしれないが、それは明らかに、急性炎症全般の有用のモデルシステムである)。これらの研究においては、げっ歯類(特にラット)は、以下の実験設計にしたがってオボアルブミンに曝露される:
【0142】
成体ブラウン・ノルウェーラット(体重200〜300g;グループあたりn=10)を0日目に0.1mgのオボアルブミンの単回腹腔内注射によって感作した。その後、各ラットは、8日目に1%のオボアルブミン(w/v)溶液そして15、18及び21日目に2%のオボアルブミン(w/v)の気管内抗原投与を受けた。その後、21日目に最終抗原投与から3時間後に、動物を屠殺した。Endo TrapTM Redカラム(Cambrexより購入;メーカーの指示事項にしたがって使用)上を通過させることで、オボアルブミン(Sigma;入手可能な最高純度等級)から内毒素を無くし、LAL検定(QCL−1000TM;Cambrex;メーカーの指示事項にしたがって実施;標準内毒素1mgは、約900,000EU/mgを含有する)を用いて内毒素レベルをタンパク質1mgあたり5EU未満と確認した。こうして、肺の炎症応答が、最高純度等級の市販のオボアルブミン調製物の場合でさえ起こる意図されていないLPS刺激からではなく、むしろオボアルブミンタンパク質に対するアレルギー応答からの結果であるということが保証され、ひいては、このモデルがヒトの喘息の基礎を成す分子病理学をより密に代表していることが保証される。
【0143】
1つのマウスグループ(基線対照として作用するもの)は、オボアルブミンの抗原投与を全く受けなかったが、その他の点では同一の要領で処置した。第2のグループ(陽性対照)は、抗原投与を受けたが、薬物治療を一切受けなかった。第3のグループは、同一の要領で処置されたが、8日目から21日目まで経口強制飼養を介して0.3mg/kgの用量で化合物(I’)の一日投薬量を受けたが、ここでこの投薬量は同じ日に行なわれたオボアルブミンでの後続するあらゆる抗原投与の一時間前に与えられている。化合物(I’)は、内毒素を含まないリン酸緩衝生理食塩水中の無菌溶液として投与された。第4のグループは、化合物(I’)と同一の治療スケジュールで経口経路を介して30mg/kgでモンテルカスト(monteleukast)(市販の喘息薬物治療法薬シングレア(SingulairTM)の活性成分)を受けた。
【0144】
屠殺の時点で、気管カニューレを通して導入される3mlの無菌リン酸緩衝生理食塩水4ロットを用いて、気管支肺胞洗浄(BAL)を実施することにより、全肺白血球動員を評価した。各動物について、BAL洗浄液を組合せ、合計細胞集団を(血球計を用いて)計数した。さらに、当該技術分野において周知の手順にしたがって、フローサイトメータを用いて、存在する白血球のタイプを推定した。
【0145】
各マウスから脾臓も切除し、これをRPMI+10%のFCS+抗生物質の中に置いた。その後、脾臓を、無菌ペトリ皿の中に置いた無菌のふるいカップ(sieve cup)内で細目(100μm)ナイロンスクリーンを通してプレスして、単一細胞懸濁液を生成した。結果として得た細胞懸濁液を次に遠心分離し(328g;5分間)、RPMI+10%FCS+抗生物質中で洗浄してから、新鮮な培地中に再度懸濁させ、血球計を用いて計数した。
【0146】
合計4×106個の総脾細胞(RBCは除く)を、各マウス由来の96ウェル平板の4ウェル内(1ウェルあたり100μlの体積/1×106細胞/ウェル)の2U/ml(10ng/ml)のマウスIL−2の存在下で、一晩、RPMI+10%のFCS+抗生物質中で培養した(37℃;5%のCO2)。約24時間後に、4つのウェルを2ウェルずつの2つのグループに分割した。1つのグループを未処置のまま放置し、一方第2のグループは500ng/mlのイオノマイシン及び50ng/mlのPMAで37℃で4時間刺激した。このインキュベーションの最後の2時間、各セット由来の1つのウェルに対し10μg/mlのブレフェルジンA(ブレフェルジンA)(EtOH中の1mg/mlの原液)を加えた。ブレフェルジンAは、ゴルジ体へのタンパク質輸送を遮断し、したがってER内でのタンパク質の蓄積を可能にする。
【0147】
ブレフェルジンA無しのウェルを37℃でさらに48時間インキュベートした。インキュベーションの終りで、細胞懸濁液を遠心分離し(328g;5分)上清をマウスIL−4(Th2細胞のマーカー)及びマウスインタフェロン−γ(IFN−γ;Th1細胞のマーカー)について、ELISA検定に付した(R&D Systems;メーカーの指示事項にしたがって実施)。
【0148】
以下の通り4時間のインキュベーションの終りで直ちに細胞内IL−4及びIFN−gについてブレフェルジンAを伴うウェルを染色した;細胞を、氷上で30分間、抗−CD4−FITC抗体(e Bioscience Rat Ig G2b, Cat. Code. 11-0041)で染色し、その後ダルベッコのPBS中で洗浄し、20分間、ダルベッコのPBS中で2%のパラホルムアルデヒド(最終濃度)で固定した。固定の後、室温で10分間ダルベッコのPBS/1%のBSA/0.5%のサポリン(Sigma S7900)を用いて細胞に透過性を付与した。各ウェルからの細胞を次に3つの別々のFACS管に分割し、30分間室温で次のものと共にインキュベートした:
・ IFN−g−PE(e Bioscience Rat IgG1, Cat. Code. 12-7311-82,100μg)又は、
・ Il−4−PE(e Bioscience Rat IgG1, Cat. Code. 12-7041-82,100μg)又は、
・ イソタイプ対照(Rat IgG2b-FITC, e Bioscience Cat. Code 11-4031及びRat IgG1-PE, e Bioscience Cat. Code 12-4301の混合物)。
その後、細胞を洗浄し(PBS/BSA/サポニンで2回、そして次にサポニン無しでPBS/BSAで洗浄し膜閉鎖を可能にする)、ダルベッコのPBS中に再懸濁させていつでもフローサイトメトリ分析できる状態にした。
【0149】
PEチャネル上のIL−4又はIFN−gについての特異的染色の存在に関して、(細胞をT−ヘルパー細胞として同定する)FITCチャネル上のCD4に対する特異的染色を伴う細胞を分析した。IFN−gについて陽性の染色を示すCD4+細胞とIL−4について陽性の染色を示すCD4+細胞の比を次に、Th1/Th2比として報告した。未処置のブラウン・ノルウェーラットは、およそ2.7のTh1/Th2比を有する(すなわち、脾臓中のおよそ2.7倍多いCD4+細胞がIL−4としてINF−gを合成している)。感作及びオボアルブミンでの反復的抗原投与の後、比率は1.5未満まで降下し、げっ歯類及びヒトの両方における喘息性変化に随伴する顕著なTh2の極性化を実証した(より低いTh1/Rh2比は、相対的Th2極性化を示し、一方増大するTh1/Th2比は相対的Th1極性化を示す)。
【0150】
化合物(I’)及び陽性対照比較化合物モンテルカストの両方を用いた毎日の投薬により、BAL洗浄液中の白血球数は有意な形で減少した(化合物(I’)では70%の減少;p<0.01の対応のないスチューデントt−検定:図8)。このことは、本発明の化合物が、ケモカインに応答して白血球遊走を遮断するその能力の結果として、ヒト喘息モデルにおいて有用な抗炎症効果を有するということをはっきりと実証している。かかる効果の規模は、少なくとも、ヒト喘息の治療用に意図された市販の薬剤(例えばSingularTM)のものに少なくとも匹敵し、一方、化合物(I’)の優れた薬物動態及び生体内分布パラメータはモンテルカストに比べて著しく増大した効力によって例示される(化合物(I’)のわずか0.3mg/kgという用量に比べ、BAL白血球計数において類似の減少を生成させるためには30mg/kgのモンテルカスト用量が必要とされる)。
【0151】
陽性対照比較化合物モンテルカストでは起こらなかったものの化合物(I’)での毎日の投薬は、Th2の極性化を有意な形で逆転させ(図9)、これはここで使用されるオボアルブミン誘発型肺炎症モデル及びヒト喘息の両方において喘息発病の主要な要因とみなされている。経口経路を介した0.3mg/kgといった低い用量であっても化合物(I’)での治療は、オボアルブミンといったようなアレルゲンに対する慢性的曝露によりひき起されるTh2極性化を完全に根絶し、かくして、化合物(I’)で治療される動物におけるTh1/Th2の均衡は、抗原投与を受けていないブラウン・ノルウェーラットと本質的に区別不可能となっている。
【0152】
アテローム性動脈硬化症といったようなその他の慢性炎症性疾患が(Th2とは対照的に)Th1の極性化と関連するという点を指摘できるのは興味深いことである。両方のタイプの疾病において、T−ヘルパー細胞サイトカインプロフィール内の不均衡は、この疾病の慢性炎症性構成要素の主たる病原性原因として記述されてきた。Th1極性化と関連する疾病のモデル(例えばアテローム性動脈硬化症)において、我々は以前に、ここで請求される化合物(I’)などのBSCIでの治療の時点でTh2に向かっての顕著なシフトを観察した。apoEをコードする遺伝子のホモ接合体欠失を有するマウス(apo E−/−マウス)は、通常のチャウダイエットの場合でさえ、複数の血管脂質病変を発生させ、(バックグラウンドC57B16野生型菌株内での3.2に比べ)約8というTh1/Th2を有している。しかしながら、後続する3ヵ月間のBSCIでの治療(12週令から24週令、この期間中に大部分の脂質病変発生が起こる)は、Th1/Th2比を正規化する(そしてこのモデルでは、非常に高い用量でTh2の極性化さえひき起こす)。喘息のオボアルブミン誘発型肺炎症モデルにおけるデータと一緒に取上げて、我々は、基礎にある病原性欠陥がTh2の極性化であるか(喘息の場合のように)又はTh1の極性化であるか(アテローム性動脈硬化症の場合のように)とは無関係に、BSCIがT−ヘルパー細胞サイトカイン産生プロフィールを正規化するか又は再均衡化することができるということを実証した。我々は、BSCIが現在、T−ヘルパー細胞集団に対するこの「再均衡化」効果を有する唯一の記述された薬剤であると考えている。これらの機構的見解は、BSCIそして特にここで請求されている化合物(I)が(その予想外に優れた薬物動態及び生体内分布特性の結果として)、炎症性構成要素を伴う異常に広い範囲の身体条件を治療するための薬剤として有用であるという我々の主張に、(炎症性構成要素をもつ異なる疾病の数多くの動物モデルにおける効能データと共に)根拠を与えている。
【0153】
実施例7.構造的に関係する類似体と化合物(I’)との比較
その他のアシルアミノラクタムBSCIに比べて、(特にその薬物動態に関して)驚くほど優れた薬剤学的特性を有するものとして化合物(I)を同定した上で、次に我々は、それを先に開示された大部分の構造的に類似する類似体と直接比較した。
【0154】
実施例1〜6において比較された原初の化合物パネルを、先に開示したアシルアミノラクタムBSCIの境界内で可能なかぎり構造的に多様なものとなるようにまとめた。化合物(I)は、6員のラクタム「頭部基」がこのパネル内に含まれることを保証したが、それらが7員のラクタム環をもつ化合物よりも一般に優れている(又は実際に劣っている)ことを仮定する理由は特に存在しない(試験管内でBSCIと効力の観点からみて異なる環サイズをもつアシルアミノラクタム類似体の広範な比較については国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)を参照のこと)。同様にして、このパネルには、残留分子内のアミドリンカーと全く異なり、スルホンアミド結合(IV)の単一の例が含まれていた。
【0155】
「尾部基」に関しては、このパネルは、2つの単純なアルキル基(共にピボイル)及び3つの環式アルキル基(メチルシクロヘキシ基及び2つのアドマンタン、うち1つは置換されていた)を含んでいた。5つの化合物は全て、(4つの炭素原子が4面体型配置でこの炭素原子に結合されている状態で、アミドカルボニルのカルボニルとの関係において2つの位置で)主要炭素において4面体型結合角を有する確立した2’2−2置換を共有していた。主要炭素原子におけるこの2’2’−2置換特徴は、すでに、直鎖アルキル「尾部基」又は本質的に4面体型の配置でこの主要炭素に結合した4つの炭素原子が欠如したその他の構造に比べて、BSCIに対し付加的な効力を付与するものとしてすでに開示されてきた(国際公開第2006/016152号(WO2006/016152))。
【0156】
その結果、原初のパネル内の「尾部基」は、適切な試験管内効力を確保するためにこの2’,2’−2置換特徴を有するという要件のみならず結果として得られる分子内に許容できる物理的特性を生み出すという要件を伴って選択された。例えば、アドマンタン、シクロヘキシル及び短鎖2’2−分岐アルキル基が結果として、結晶質(又は半結晶質)の固体形態そして許容できる水溶性をもつ化合物をもたらすことが予想された。これとは対照的に、その他の考えられる尾部基、例えば2’,2’−ジメチルドデカノイル(これは、本来であれば主要2−位における望ましい配置に適合する)は、固体としてのそのロウ質の非晶質形態及び生理学的緩衝液中でのその極端な不可溶性を根拠として、パネルから排除された。これらの因子は両方共、例えば処方中又は錠剤化中にこの化合物の取扱いを困難にし、このことは経口生物学的利用能の欠如又は長期的投薬における貯蔵脂肪の蓄積といったような不利なADME特性が発生する確率を増大させることから、ADME及び毒物学的特性が決定される前でさえ薬学的開発用としての化合物の好適性を削減する。
【0157】
かくして、実施例1から6までで検査された5つの化合物が薬学的開発に適したものである確率は、ほぼ等しいものであった。それらのADME特性を決定するに先立ち、どれがより優れているかを予測することは不可能であった。
【0158】
しかしながら、実施例1〜6内で記述されている試験がひとたび完了した時点で、化合物(I)がその他の化合物よりも実質的かつ予想外に優れていることが明らかとなった。化合物(I)は、6員環を有するパネル内の唯一の化合物であったことから、より優れた特性がラクタム環のサイズに起因することが考えられる。これが正しいか否かを見極めるために、我々は、BSCI活性を有する先に開示された全てのアシルアミノラクタム化合物例を精査し、(I)との構造的類似性が最も高い2つの化合物を選択した。これらはBSCI活性を有する既に公知であった全ての化合物のうち、化合物(I)と最も類似した構造を有する2つの化合物であった。
【0159】
選択された化合物は、3−(2’,2’−ジメチルドデカノイルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン(国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)からの実施例3;ここではVIと呼ばれる)及び3−(アダマナタン−1−カルボニルアミノ)−テトラヒドロピリジン−2−オン(国際公開第2006/134385号(WO2006/134385)からの実施例1;ここではVIIと呼ばれる)であった。
【化8】
【0160】
これらの化合物は(I)と共通して、本質的に4面体配置で、4つの炭素原子がアミドカルボニル基との関係において2位で主要炭素に結合されている状態での2’,2’−2置換の存在、6員のラクタム環及びアミドリンカーを共有している。
【0161】
化合物(VI)及び(VII)は、実施例1で先に化合物(I)〜(V)について適用されたものと全く同じプロトコルを用いてラットにおいて薬物動態分析に付された。(VI)及び(VII)の両方の(S)光学異性体は、これまでに記述されたその他の全てのアシルアミノラクタムBSCIと共通のより活性な光学異性体であると予想されていることから、これらの実験のためにはこの光学異性体が使用されたという点に留意されたい。
【0162】
結果
残念なことに、(VI)は、溶媒を保持する傾向をもつロウ質固体であった。溶媒を含まない(VI)の調製物を得ることは困難であったが、これは何週間にもわたる相当な乾燥の後に最終的に達成された。しかしながら、この試料は、先の化合物の静脈内投薬のためのビヒクルとして使用された生理食塩水中の5%DMSO内では全く不溶であった。結果として、静脈内投薬に適した溶液を調製するために全く異なるビヒクルを用いる必要があった。静脈内投薬のため、50%のPEG400/20%のソルトール(Solutol)/30%の生理食塩水中に化合物(VI)を溶解させた。(VI)を含む全ての化合物を、経口投薬のため、生理食塩水中の1%のカルボキシメチルセルロース中に懸濁(又は溶解)させた。異なるビヒクルを用いて実験間の経口生物学的利用能を比較することは一般に推奨されないが(ビヒクルが、化合物の腸管吸収に著しい影響を与える可能性があるため)、それでもビヒクルの選択が、(I)といったその他の化合物と比べた(VI)の静脈内注射後の実際の半減期に著しい影響を及ぼす確率は非常に低い。
【0163】
単純な1コンパートメント薬物動態モデルのパラメータは、表7に示されている。以上の表1からの化合物(I’)についてのデータが、比較のために示されている。(VI)と(VII)が(I’)に比べ共に著しく劣っており、クリアランス率は10倍超高く、25〜50倍低い経口曝露は(I’)で達成された、ということは明白である。
【0164】
【表9】
【0165】
表7.選択された6環アシルアミノラクタムBSCIについての薬物動態パラメータ。各化合物について単純な1コンパートメント薬物動態モデルからの経口生物学的利用能(F、%)、静脈内投薬後の優性血漿半減期(t1/2、分)、クリアランス(ml/分/kg)、分布容量(Vss、L/kg)及び経口曝露(AUC0−t、分、ng/ml)は、3匹のラットの平均であった。(VII)については、Cmaxは15分以内に達成され、(I’)に関する最適な吸収と一貫していた。しかしながら、疎水性(VI)は、より緩慢に吸収され、Tmaxは60〜120分の間であった。
【0166】
実際、表1と表7の比較から、化合物(VI)及び(VII)が曝露の観点からみて(IV)及び(V)と同等程度ほど優れていないことは明白である。(I)と6−ラクタム環を共有しているにも関わらず、化合物(VI)及び(VII)は、著しく低いADME特性しかもたず、先に開示された広範囲のその他のアシルアミノラクタムBSCI化合物と同程度である。
【0167】
(I’)と比べて(VI)及び(VII)がはるかに高いクリアランスを有することと一貫して、これらの化合物は、(I’)よりも実質的に短い血漿半減期を有する(3時間に対して1時間未満)。
【0168】
この薬物動態分析に基づくと、類似の化学的安定性ならびに理論的根拠に基づくそれらの類似の予測された特性及びその構造上の類似性にも関わらず、(I’)が(VI)及び(VII)の両方よりも著しく優れ、これらの6環ラクタム類似体のいずれよりも25〜50倍優れた経口曝露を有することは、当業者にとって明白である。我々は、(I’)の予想外に優れたADME特性が、6環ラクタムにも(その他の6環ラクタム例えば(VI)及び(VII)がその傑出したADME特性を共有しないことを理由として)、アミドリンカーにも((II);(III)及び(V)を含むその他のアミドリンカー化合物がその傑出したADME特性を共有しないことを理由として)、またピボイル尾部基にも(化合物(IV)がこの基を共有し、かつ(I’)の傑出したADME特性を有さないことを理由として)起因する可能性はないという結論を下すものである。それどころか、驚くべきそして顕著に優れた(I’)のADME特性は、構造的特徴の特定の組合せに依存しており、予測することは不可能であった。
【0169】
実施例8.(I’)と同等のADME特性をもつアシルアミノラクタムBSCIを合理的に設計する試み
化合物(I’)のより優れたADME特性を同定するプロセスにおいて、我々は、試験管内でBSCIとしてサブナノモル効力をもつ様々な異なるアシルアミノラクタムの薬物動態を分析した。その結果、我々は、この構造的空間の内部で分子のためのADME特性を変調させる因子についての幾分かの洞察力を得たものと期待できると思われる。したがって我々は、この実験を用いて、(I’)のものと可能なかぎり同じようなADME特性をもつ先に開示された構造的部類の中から第2のアシルアミノラクタムBSCI化合物を選択しようと試みた。
【0170】
(I’)と比べて比較的急速な(IV)のクリアランス(上述の表1を参照のこと)は、アミドリンカーがより優れたADME特性と相関し得るということを示唆していた。したがって我々は、選択を、アミドリンカーを有する化合物に限定した。
【0171】
化合物(II)はひじょうに良く吸収されたが、恐らくは肝臓シトクロムP450イソ酵素(単複)の作用を通して生体内で急速に(V)へと転換された。化合物(V)自体は、(恐らくアダマンチン環上の電子求引性置換基の結果として)見かけ上さらに酸化されてはいなかったが、それでも比較的急速に排泄された。尿中に検出可能な一次代謝産物が存在しないことは、急速なクリアランスが、ラットでは糞便中に排泄されるグルクロニドといった第II相コンジュゲートの形成によって媒介されたということを強く示唆している。第II相コンジュゲートは、(V)中の3−ヒドロキシアダマンタンなどの水酸基において容易に形成される。その結果、我々は、ハロ置換基などの第II相コンジュゲートを形成することのできなかった(シトクロムP450又はその他の肝臓ヒドロキシラーゼ又はオキシダーゼによりアダマンチン環のヒドロキシル化を防止するための)安定した電子求引性置換基を有する(II)の誘導体が、我々の求めていた最適なADME特性を有するかもしれないということを提案した。
【0172】
その結果、以下の化合物(VIII)を合成し試験した。我々は、合成経路を容易に利用できる公知の化合物であったこと(国際公開第2006/016152号(WO2006/016152)中の実施例8を参照のこと)を理由として、(例えばフルオロ置換された類似体ではなく)クロロ置換された類似体を選択した。さらに、脂肪族C−F結合の導入は、合成的に難度が高いものであり、活性薬剤成分の商品原価を2ケタ以上増加させる可能性がある。
【0173】
【化9】
【0174】
前述の通り(実施例7参照)、一般的にアシルアミノラクタム化合物の(S)−光学異性体は試験管内でより大きなBSCI活性を有することがわかっていることから、我々はこの化合物の(S)−光学異性体を調製し評価することを選択した。
【0175】
この分子に関係する明白な懸念は、C−Cl結合の安定性にあった。したがって我々は、生理食塩水中及びラットの肝臓ミクロソーム調製物の両方において、試験管内での(VIII)の安定性を検査した。37℃で24時間後でさえ、(VIII)の2%未満しか(加水分解産物(V)及び親化合物(VIII)の2重イオン検出を伴ってLC/MSにより決定される)加水分解しなかったことが励みになった。同様にして、37℃で1時間のラットミクロソーム調製物との1μMでの(VIII)のインキュベーションから、「NADPH無し」のブランクランに比べて10%未満しか分解されないという結果がもたらされた。その結果、我々は、化合物(VIII)が(I’)と類似の試験管内安定性及び固有クリアランスを有するという結論を下す。
【0176】
かくして、(I’)の発見から得た経験ならびにADME特性を予測する当該技術分野における一般的技術を用いた、ならびに肝臓ミクロソーム調製物における試験管内安定性及び固有クリアランスといった従来の試験管内スクリーニング検定を用いた理論的根拠に基づくと、化合物(VIII)は、(I’)に匹敵するADME特性を有すると予想されるように思われる。
【0177】
したがって我々は、(VIII)を、実施例1及び7において化合物(I’)〜(VII)のために先に適用されたものと全く同じプロトコルを用いてラットにおける薬物動態分析に付した。
【0178】
結果
単純な1コンパートメント薬物動態モデルのパラメータは表8に示されている。以上の表1からの化合物(I’)についてのデータが、比較のために示されている。クリアランス率が20倍超高く、検出可能な経口生物学的利用能が全く無いことから、化合物(VIII)が(I’)よりも著しく劣っていることは明白である。
【0179】
【表10】
【0180】
表8.選択されたラクタムBSCIのための薬物動態パラメータ。各化合物について単純な1コンパートメント薬物動態モデルからの経口生物学的利用能(F、%)、静脈内投薬後の優性血漿半減期(t1/2、分)、クリアランス(ml/分/kg)、分布容量(Vss、L/kg)及び経口曝露(AUC0−t、分、ng/ml)は、3匹のラットの平均であった。(VII)については、Cmaxは15分以内に達成され、(I’)に関する最適な吸収と一貫していた。しかしながら、疎水性(VI)は、より緩慢に吸収され、Tmaxは60〜120分の間であった。(VIII)については、検体レベルは、経口投薬後のすべての時点で、定量限界(約2ng/ml)未満であった。
【0181】
結論として、理論的考慮事項及び試験管内スクリーニング試験に基づいて我々が最適なADME特性を有するものとして選択した化合物(III)は、それにもかかわらず、医薬品としての開発のためには、少なくともPKが決定されたものの中では最も不適なアシルアミノラクタム化合物に入るものであった。この化合物は、急速なクリアランスを示し、その結果血漿半減期は短く、さらに、経口生物学的利用能を全く示さなかった。
【0182】
化合物(I’)の優位性の程度は図10に示されている。ここで我々は、ラットにおいて薬物動態が分析された全てのBSCI化合物のための2つのPKパラメータ(血漿半減期及び経口曝露)をプロットした。化合物(I’)は、この構造的空間内の化合物の一般的に低いADME特性を表わす(そして非常に多くの完全に関係のない薬物候補部類に典型的である)クラスタからかなり離れたところにあり、化合物(I’)が予想外にかつ著しく優れているということを示している。
【0183】
実施例9.(I)の(S)及び(R)−光学異性体の比較
化合物(I’)は、予想外の著しく優れたADME特性を有することが示された(実施例1を参照のこと)。この化合物は、(アミドリンカーとの環接合部において)非対称の炭素原子を有し、その結果2つの立体異性体の形すなわち、(I’)と呼ばれる(S)−光学異性体及び(R)−(I)と呼ばれる反対の(R)−光学異性体の形で存在する。
【0184】
これまでに記述されたその他の全てのアシルアミノラクタムBSCIの場合と同様に、(I)の(S)−光学異性体は対応する(R)−光学異性体よりも試験管内でBSCIとしてより高い効力を有する。単離された(R)−光学異性体又は光学異性体の混合物ではなくむしろ(I’)が大部分の実験において研究されてきたのは、このような理由からである。ただし、ADME特性が効力を裏付ける薬理学的活性に関係づけされる確率は低い。実際、数多くの化合物について、化合物の物理的特性は(数多くのケースにおい)生体内での体内動態を決定する上で特に支配的であり、光学異性体対の物理的特性は同一であることから、光学異性体対のADME特性は非常に類似している。
【0185】
結果として、我々は、(R)−光学異性体が(I’)の特に優れたADME特性を共有しているか否かを試験した。任意の特定の化合物の有用性は、主要な薬理学的効果(単複)の効力と生体内での分子の体内動態の両方に左右されることから(というのも、有効であるためには薬物分子はその薬理学的効果を及ぼすのに充分な濃度で、意図された標的部位(単複)に存在しなければならないからである)、このとき、効力はより低いものの優れたADME特性を有する化合物は、より効力が大きいもののADME特性が劣る比較化合物よりもさらに有効である(又は生体内でより効力が高い)かもしれない。
【0186】
したがって、(I)の単離された(R)−光学異性体は(まさに本明細書中で単離(S)−光学異性体について記述された通りに、ただし(S)−オルニチン出発材料を高い立体化学的純度をもつ市販の(R)−オルニチンで置換して)合成され、ラット内でこの薬剤のPK特性が、上述された同一の方法論を用いて決定された(実施例1、7及び8を参照のこと)。
【0187】
結果
単純な1コンパートメント薬物動態モデルのパラメータは表9に示されている。以上の表1からの化合物(I’)についてのデータが、比較のために示されている。(R)−(I)が、大体において(I’)の予想外に優れたADME特性を共有していることは明白である。(I’)の場合と同様に、(R)−(I)は本質的に、量的には経口生物学的利用能を有し、これまでに試験された次善の化合物よりも5倍超高い3mg/kgでの単一経口用量にしたがって曝露を達成する(実施例1中の化合物(V)を参照;表1)。
【0188】
【表11】
【0189】
表9.(I)の単離された(R)−及び(S)−光学異性体のための薬物動態パラメータ。各化合物について単純な1コンパートメント薬物動態モデルからの経口生物学的利用能(F、%)、静脈内投薬後の優性血漿半減期(t1/2、分)、クリアランス(ml/分/kg)、分布容量(Vss、L/kg)及び経口曝露(AUC0−t、分、ng/ml)は、3匹のラットの平均であった。(VII)については、Cmaxは15分以内に達成され、(I’)に関する最適な吸収と一貫していた。しかしながら、疎水性(VI)は、より緩慢に吸収され、Tmaxは60〜120分の間であった。両方の場合において、ピーク血漿濃度は典型的に30分までに観察され、これは優れた吸収と一貫していた。
【0190】
(R)−(I)は明らかに、(I’)の異常に有益なADME特性を有意な程度まで共有しているものの、それでも幾分かの統計学的に有意な差異が存在する。最も顕著であるのは、血漿クリアランスの増加((I’)と比べて(R)−(I)については約3倍高い)であり、その結果、静脈内投薬後の血漿半減期は2倍短く、単回経口用量後の曝露は3倍低くなる。
【0191】
(R)−(I)のクリアランスはラットにおける糸球体濾過率(典型的には9ml/分/kgで見積られている)に接近し、一方(I’)のクリアランスは、著しく低い。ここでもまたこれらの発見事実に対して考えられる解釈は、(I’)が恐らくはネフロンの遠位尿細管内で活発に再吸収され、この再吸収プロセスは、(R)−光学異性体に比べ(S)−光学異性体に対して選択的であるというものである。当然考えられることであるが、予想外できわめて優れた(I’)のADME特性が、一部には(R)−光学異性体と(S)−光学異性体を区別することのできる輸送体を介したネフロン内の再摂取に原因があるとすれば、そのとき、それはADME特性の予測不能性を強調し、本明細書で記述した本発明の非自明性をさらに例証する。
【0192】
それでも、(R)−(I)は明らかに、本発明に係るより優れた化合物でもある(それがADME特性において一般的部類のアシルアミノラクタムよりも(I’)に近いことを例証する図10中の白円印によって示されている通り)。したがって、結論としては、(R)−(I)及び(I’)の両方共、ひいてはさらに一般的には化合物(I)は、開示されてきたその他のアシルアミノラクタムBSCIに比べて予想外にかつ著しく優れたADME特性を有することがわかる。その上、全体として化合物(I’)はわずかにしかし有意に化合物(I)より優れ、したがって好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性疾患を治療するための医薬の調製のための式(I):
【化1】
の化合物又はその医薬として許容される塩の使用。
【請求項2】
炎症性疾患を治療するための医薬の調製のための式(I’):
【化2】
の化合物又はその医薬として許容される塩の使用。
【請求項3】
活性成分として、式(I):
【化3】
の化合物又はその医薬として許容される塩、及び少なくとも1つの医薬として許容される賦形剤及び/又は担体を含む、医薬組成物。
【請求項4】
活性成分として、式(I’):
【化4】
の化合物又はその医薬として許容される塩、及び少なくとも1つの医薬として許容される賦形剤及び/又は担体を含む、医薬組成物。
【請求項5】
一般式(I):
【化5】
の化合物。
【請求項6】
一般式(I’):
【化6】
の化合物。
【請求項7】
前記炎症性疾患が、自己免疫疾患、血管障害、ウイルス感染又は複製、喘息、骨粗鬆症(低骨密度)、腫瘍成長、臓器移植拒否反応及び/又は臓器移植後臓器機能障害、高いTNF−αレベルを特徴とする障害、乾癬、皮膚創傷、細胞内寄生体に起因する疾患、神経因性疼痛、アレルギー、アルツハイマー病、抗原誘発性想起応答、免疫応答抑制、関節リウマチ、多発性硬化症、ALS、線維症及び癒着形成からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の式(I)又は(I’)の化合物の使用。
【請求項8】
前記炎症性疾患が、喘息、アレルギー性鼻炎又は慢性閉塞性肺疾患である、請求項7に記載の式(I)又は(I’)の化合物の使用。
【請求項9】
前記炎症性疾患が、婦人科手術又は外科手術後の癒着形成である、請求項7に記載の式(I)又は(I’)の化合物の使用。
【請求項10】
前記炎症性疾患が、糖尿病性ネフロパシーを含むネフロパシーである、請求項7に記載の式(I)又は(I’)の化合物の使用。
【請求項11】
抗炎症量の請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物、組成物又は医薬を患者に投与することにより、いずれかの薬剤に対する有害な炎症反応を含む炎症性疾患の症候を治療、改善又は予防する方法。
【請求項12】
炎症性疾患の症候の治療、改善又は予防において使用するための、請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記疾患が、請求項7〜10のいずれか1項に記載の疾患から選択される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項1】
炎症性疾患を治療するための医薬の調製のための式(I):
【化1】
の化合物又はその医薬として許容される塩の使用。
【請求項2】
炎症性疾患を治療するための医薬の調製のための式(I’):
【化2】
の化合物又はその医薬として許容される塩の使用。
【請求項3】
活性成分として、式(I):
【化3】
の化合物又はその医薬として許容される塩、及び少なくとも1つの医薬として許容される賦形剤及び/又は担体を含む、医薬組成物。
【請求項4】
活性成分として、式(I’):
【化4】
の化合物又はその医薬として許容される塩、及び少なくとも1つの医薬として許容される賦形剤及び/又は担体を含む、医薬組成物。
【請求項5】
一般式(I):
【化5】
の化合物。
【請求項6】
一般式(I’):
【化6】
の化合物。
【請求項7】
前記炎症性疾患が、自己免疫疾患、血管障害、ウイルス感染又は複製、喘息、骨粗鬆症(低骨密度)、腫瘍成長、臓器移植拒否反応及び/又は臓器移植後臓器機能障害、高いTNF−αレベルを特徴とする障害、乾癬、皮膚創傷、細胞内寄生体に起因する疾患、神経因性疼痛、アレルギー、アルツハイマー病、抗原誘発性想起応答、免疫応答抑制、関節リウマチ、多発性硬化症、ALS、線維症及び癒着形成からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の式(I)又は(I’)の化合物の使用。
【請求項8】
前記炎症性疾患が、喘息、アレルギー性鼻炎又は慢性閉塞性肺疾患である、請求項7に記載の式(I)又は(I’)の化合物の使用。
【請求項9】
前記炎症性疾患が、婦人科手術又は外科手術後の癒着形成である、請求項7に記載の式(I)又は(I’)の化合物の使用。
【請求項10】
前記炎症性疾患が、糖尿病性ネフロパシーを含むネフロパシーである、請求項7に記載の式(I)又は(I’)の化合物の使用。
【請求項11】
抗炎症量の請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物、組成物又は医薬を患者に投与することにより、いずれかの薬剤に対する有害な炎症反応を含む炎症性疾患の症候を治療、改善又は予防する方法。
【請求項12】
炎症性疾患の症候の治療、改善又は予防において使用するための、請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記疾患が、請求項7〜10のいずれか1項に記載の疾患から選択される、請求項12に記載の医薬組成物。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2010−535186(P2010−535186A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518744(P2010−518744)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002635
【国際公開番号】WO2009/016390
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(503372842)ケンブリッジ エンタープライズ リミティド (32)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002635
【国際公開番号】WO2009/016390
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(503372842)ケンブリッジ エンタープライズ リミティド (32)
【Fターム(参考)】
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