説明

抗腫瘍活性を有する化合物及びその製造方法

【課題】 新規な抗腫瘍性物質及びその製造法の提供。
【解決手段】 下記の式(I)で表される化合物又はその塩、並びに微生物を用いる該化合物の製造方法。
【化1】


[式中、
、Xは、互いに独立に、O又はSであり、
は水素、メチル又はフェニルであり、
、Rは、互いに独立に、水素、メチル、イソプロピル、イソブチル又はsec−ブチルであり、
、Rは、互いに独立に、水素又はメチルである]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物が生産する新規な化合物及びその製造方法、並びにその化合物を含む抗菌剤及び抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および非特許文献1は抗癌物質としてStreptomyces nobilisから分離した次の構造式を有する化合物を開示している。
【0003】
【化1】

【0004】
また特許文献2は抗癌物質としてThermoactinomyces sp.から分離した次の構造式を有する化合物を開示している。
【0005】
【化2】

【0006】
特許文献2は同時に上記構造式を一般化した構造式:
【化3】

[式中、Rは水素、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のアルキリデン、置換又は無置換のアルケニル、置換又は無置換のアルキニル、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロ環基及び置換又は無置換のアシルからなる群から各々独立に選択され;Rは水素、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、ニトロ、アジド、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のアルケニル、置換又は無置換のアルキニル、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロ環基及び置換又は無置換のアシルからなる群から各々独立に選択され;RはNR、O及びSから各々独立に選択され;Rは水素、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のアルコキシ及び置換又は無置換のアシルからなる群から各々独立に選択される。なおこの式中のR〜Rは本発明の化合物における同名の基とは無関係である。]
についても開示しているが、分離・精製あるいは製造されたものではなく、その存在や活性も明らかではないことから単なる類比推理による拡張構造である。また、特許文献2には化学合成法による上記拡張構造を有する化合物の製造法が述べられているが、実施例が記載されているわけでもなく、論文等の引用にのみ依った推論である。現実にはチアゾール、オキサゾールを有する化学物質の合成化学的手法による製造は困難で、たとえば、Streptomyces anulatusから単離された最も強力なテロメアーゼ阻害剤として知られるTelomestatin:
【0007】
【化4】

は2001に発表され(非特許文献2)合成研究が進められているが、いまだに達成されていない(非特許文献3)。
【0008】
ヒトは、感染症の治療のためにペニシリンやストレプトマイシン等多くの抗生物質や抗菌剤を利用してきた。しかしながら、医療現場における抗生物質の頻繁な使用によって、被使用菌が薬剤耐性を獲得し、使用抗生物質が効かなくなるという問題がある。また、癌などの腫瘍に対しても、抗生物質の使用を継続すると、使用抗生物質に対して耐性が生じる。
【0009】
また現在、先に述べたペニシリンやストレプトマイシンに代表されるように、微生物代謝産物から有用な抗生物質を探索するという試みが行われている(特許文献3、4及び5参照)。また、生理活性物質の探索資源として真菌類や海洋性生物が着目されつつある(非特許文献4、5)。
【0010】
上記で述べたような既存の抗生物質に耐性を獲得した病原菌に対して有効な、また、既存の抗癌剤では十分な治療効果が得られないような腫瘍に対する効果を有するような新しい抗生物質の発見が常に望まれている。特に、抗腫瘍性活性を有する新規抗生物質の発見が望まれている。
【0011】
【特許文献1】特開平11−180997号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/000880号パンフレット
【特許文献3】特開2001−257454号公報
【特許文献4】特開2000−189182号公報
【特許文献5】特開平05−247018号公報
【非特許文献1】Kin−ya Sohda, Koji Nagai, Takao Yamori, Ken−ichi Suzuki and Akihiro Tanaka, The Journal of Antibiotics, 58, 27−31, 2005
【非特許文献2】K. Shin−ya, K. Wierzba, K. Matsuo, T. Ohtani, Y. Yamada, K. Furihata, Y. Hayakawa and H. Seto,J. Am. Chem. Soc., 123, 1262−1263, 2001
【非特許文献3】辛 重基、米沢養躬、化学と工業、57、933−936、2004
【非特許文献4】供田 洋、化学と生物、Vol.40、No.11、p.757−764, 2002年
【非特許文献5】John W. Blunt, Brent R. Copp, Murray H. G. Munro, Peter T. Northcote and Michele R. Prinsep; Natural Products Report, 20, p.1−48, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明は、抗腫瘍活性を有する新規な抗生物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、サーモアクチノマイセス属に属する微生物の培養液から得られた化合物が、新規であり、かつ抗菌活性及び抗腫瘍活性を示す有用な化合物であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)式(I):
【化5】

[式中、
、Xは、互いに独立に、O又はSであり、
は水素、メチル又はフェニルであり、
、Rは、互いに独立に、水素、メチル、イソプロピル、イソブチル又はsec−ブチルであり、
、Rは、互いに独立に、水素又はメチルである]
で表される化合物又はその塩。
【0015】
(2)式(I)においてXがOであり、R及びRが共に水素である(1)記載の化合物又はその塩。
(3)式(I)においてX及びXが共にSであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがメチルであり、Rが水素であり、Rがメチルである(1)記載の化合物又はその塩。
【0016】
(4)(1)記載の化合物を生産する能力を有するサーモアクチノマイセス属に属する微生物を培地に培養し、培養物中に該化合物を生成蓄積させ、該化合物を採取することを特徴とする、(1)記載の化合物の製造法。
【0017】
(5)(1)記載の化合物がXがSであり、XがOであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがイソプロピルであり、R及びRが共に水素である化合物である(4)記載の製造法。
【0018】
(6)(1)記載の化合物がX及びXが共にSであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがメチルであり、Rが水素であり、Rがメチルである化合物である(4)記載の製造法。
【0019】
(7)式(I)においてXがSであり、XがOであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがイソプロピルであり、R及びRが共に水素である(1)記載の化合物を生産する能力を有するサーモアクチノマイセス属に属する微生物。
【0020】
(8)式(I)においてX及びXが共にSであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがメチルであり、Rが水素であり、Rがメチルである(1)記載の化合物を生産する能力を有するサーモアクチノマイセス属に属する微生物。
(9)(1)〜(3)の何れかに記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬。
(10)抗腫瘍剤である(9)記載の医薬。
【0021】
なお式(I)で表される化合物は、従来の方法に従って塩(特に酸付加塩)を形成することができる。
【0022】
式(I)の化合物の酸付加塩としては有機酸又は無機酸との塩が挙げられ、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、糖酸塩、シクロヘキシルスルフアミン酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ナウタレンスルホン酸塩などが挙げられる。
式(I)で表される化合物又はその塩は溶媒和物としても提供され得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、新規な抗腫瘍性化合物、並びに該化合物を生産する能力を有する微生物、並びに微生物を用いた該化合物の製造方法が提供される。本発明の化合物は、医薬品、医薬品原料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明を詳細に説明する。
上記式(I)により表される化合物は抗腫瘍活性を有する。従って、本発明の化合物は医薬、特に抗腫瘍剤としての用途を有する。上記式(I)により表される化合物の中でも、
がOであり、R及びRが共に水素である式(I.1):
【0025】
【化6】

[式中、X、R、R及びRは式(I)について定義した通りである]
で表される化合物、及び、
及びXが共にSであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがメチルであり、Rが水素であり、Rがメチルである式(I.2):
【0026】
【化7】

で表される化合物が好ましい。
【0027】
本発明者らは上記式(I.1)で表される化合物のうち、下記式(I.1.1):
【化8】

により表される化合物を、最初に海洋性細菌(サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3−251株)から単離・精製した。本発明者らはまた、式(I.1)に包含される他の化合物を調製した。本発明者らはまた、式(I.2)で表される化合物を海洋性細菌(サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM11−542株)から単離・精製した。本発明の化合物の性質及びその製造方法について以下に詳述する。
【0028】
1.本発明の化合物の性質
1.式(I.1.1)で表される化合物の性質
上記式(I.1.1)で表される化合物の構造式及び理化学的性質は以下のとおりである:
(1)物質の色 :無色
(2)分子量 :708
(3)分子式 :C3532
(4)質量分析 :高分解能FABMS(高速中性粒子衝突イオン化質量分析),実測値:709.2104(M+H),計算値:709.2193(C3533S)
(5)紫外線吸収スペクトル(メタノール中)λmax(logε) 260nm(4.73)
(6)[α]110°(c=0.038、DMSO)
(7)H NMR(重ジメチルスルホキシド中で測定、750MHz)
δppm:0.89(d, 3H, J=6.8Hz), 0.93(t, 3H, J=7.5Hz), 0.95(d, 3H, J=6.8Hz), 1.00(d, 3H, J=6.8Hz), 1.13(m, 1H), 1.64(m, 1H), 2.06(m, 2H), 4.65(dd, 1H, J=6.6, 3.9Hz), 4.78(t, 1H, J=8.6Hz), 5.79(s, 1H), 5.92(s, 1H), 7.50(t, 1H, J=7.5Hz), 7.55(t, 2H, J=7.5Hz), 8.31(t, 2H, J=7.5Hz), 8.49(d, 1H, J=6.9Hz), 8.50(s, 1H), 8.77(d, 1H, J=9.0Hz), 8.95(s, 1H), 9.06(s, 1H), 9.09(s, 1H), 9.95(s, 1H)
(8)13C NMR(重ジメチルスルホキシド中で測定、125MHz)
δppm:12.01(q), 14.35(q), 18.55(q), 19.13(q), 26.07(t), 32.05(d), 38.66(d), 56.92(d), 58.14(d), 109.31(t), 121.37(d), 126.41(s), 127.15(d), 128.48(d), 128.54(s), 129.53(s), 129.57(s), 129.90(d), 130.59(s), 135.50(s), 139.32(d), 140.22(d), 140.27(d), 141.31(s), 150.35(s), 152.00(s), 154.63(s), 157.14(s), 157.35(s), 158.78(s), 159.90(s), 170.08(s), 170.71(s)
(9)溶解性:クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMSO)に可溶。メタノールに難溶。
(10)ヒト肺癌由来細胞株A549細胞を本発明の式(I.1.1)の化合物40nMの濃度で48時間培養したところ、A549細胞の細胞増殖を50%阻害し、200nMの濃度で48時間培養したところ、A549細胞を完全に死滅させた。
【0029】
1.2.式(I.1)で表される他の化合物の性質
式(I.1)で表される他の化合物もまた式(I.1.1)の化合物と同様に抗腫瘍活性を有することが確認された。
【0030】
1.3.式(I.2)で表される化合物の性質
上記式(I)で表される化合物の構造式及び理化学的性質は以下のとおりである:
(1)物質の色 :無色
(2)分子量 :710
(3)分子式 :C3430
(4)質量分析 :FABMS(高速中性粒子衝突イオン化質量分析),実測値 711(M+H)(C3431),733(M+Na)(C3430Na)
(5)紫外線吸収スペクトル(メタノール中) λmax(logε) 267nm(4.35),291nm(4.52)
(6)赤外線吸収スペクトル(KBr)3393,2921,2851,1654,1507,1459cm-1
(7)[α]22=+38°(c=0.5、CHCl
(8)H NMR(重ジメチルスルホキシド中で測定、750MHz)
δppm 0.85 (3H, d, J=6.8 Hz), 0.86 (3H, t, J=7.5 Hz), 1.09 (1H, m), 1.46 (1H, m), 1.50 (3H, d, J=6.8 Hz), 1.82 (3H, d, J=7.5 Hz), 2.06 (1H, m), 4.52 (1H, dd, J=8.3, 9.0 Hz), 4.75 (1H, dq, J=6.8, 7.5 Hz), 6.62 (1H, q, J=7.5 Hz), 7.51 (1H, dd, J=6.8, 6.8 Hz), 7.55 (2H, dd, J=6.8, 7.5 Hz), 8.34 (2H, d, J=7.5 Hz), 8.59 (1H, s), 8.69 (1H, s), 8.75 (1H, br d, J=7.5 Hz), 8.88 (1H, s), 9.00 (1H, br), 9.07 (1H, s), 9.49 (1H, br s)
(9)13C NMR(重ジメチルスルホキシド中で測定、125MHz)
δppm 11.09 (q), 13.38 (q), 15.09 (q), 19.80 (q), 25.24 (t), 36.92 (d), 48.13 (d), 58.45 (d), 121.06 (d), 123.05 (d), 123.70 (s), 126.64 (s), 127.78 (d), 127.78 (d), 128.30 (d), 128.30 (d), 128.78 (d), 129.56 (s), 129.84 (d), 130.52 (s), 135.50 (s), 139.43 (d), 140.12 (d), 141.93 (s), 147.79 (s), 151.00 (s), 154.02 (s), 155.11 (s), 157.26 (s), 159.65 (s), 159.95 (s), 161.08 (s), 169.45 (s), 170.30 (s)
(10)溶解性 :クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMSO)に可溶。メタノールに微溶。
(11)ヒト肺癌由来細胞株A549細胞を本発明の式(I)の化合物12nMの濃度で48時間培養したところ、A549細胞の細胞増殖を50%阻害し、100nMの濃度で48時間培養したところ、A549細胞を完全に死滅させた。また、ヒト白血病性T細胞株であるJurket細胞を本発明の式(I)の化合物5.6nMの濃度で48時間培養したところ、Jurket細胞の細胞増殖を50%阻害し、50nMの濃度で48時間培養したところ、A549細胞を完全に死滅させた。
【0031】
2.本発明の化合物の製造
式(I)で表される化合物は、微生物を培地に培養し、培養物中に該化合物を生成蓄積させ、該培養物から該化合物を採取することにより製造することができる。本発明に用いることのできる微生物としては、サーモアクチノマイセス(Thermoactinomyces)属に属し、かつ上記式(I)で表される化合物を生産する能力を有する微生物であれば特に限定されない。式(I)で表される化合物はまた化学合成により製造することもできる。
【0032】
2.1.式(I.1.1)の化合物の製造
本発明の式(I.1.1)の化合物は、微生物を培地に培養し、培養物中に該化合物を生成蓄積させ、該培養物から該化合物を採取することにより製造することができる。
(1)微生物
式(I.1.1)の化合物の製造において用いることのできる微生物としては、サーモアクチノマイセス(Thermoactinomyces)属に属し、かつ上記式(I.1.1)で表される化合物を生産する能力を有する微生物であれば特に限定されない。
【0033】
ここで、「上記式(I.1.1)で表される化合物を生産する能力を有する微生物」とは、典型的には、菌株を500mLのマリンブロス培地を入れた1Lバッフル付き三角フラスコ中で、30℃にて5日間回転振盪(100rpm)培養して種菌とし、該種菌を500mLのマリンブロス培地の入った1Lバッフル付きフラスコ80本(計40L)に5mLずつ植菌し、30℃、5日間、回転震盪(100rpm)培養して得られた培養液40Lを、遠心分離(6000xg、20分間)して菌体と上清に分離し、菌体をクロロホルム/メタノール(9:1)で抽出して得られた菌体抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して抗腫瘍活性を有する画分を回収し、該画分を高速液体クロマトグラフィーにて精製するという操作を繰り返し行った場合に、培養液120L当たり3mg以上、より好ましくは4mg以上、より好ましくは5mg以上、最も好ましくは6mg以上の量で上記式(I.1.1)で表される化合物を生産することができる微生物を意味する。
【0034】
そのような微生物としては、例えば、サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3−251株、及び、該菌株に由来する変異株もしくは該菌株の類似菌株であって上記式(I.1.1)で表される化合物を生産する能力を有するものを挙げることができる。なおサーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3−251株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、平成16年5月19日付で受託番号NITE P−2として寄託されている。
【0035】
ここでいう「変異株」は任意の適当な変異原を用いた変異誘発処理により得られたものであり、「変異原」なる語は、その広義において、例えば変異原効果を有する薬剤のみならずUV照射のごとき変異原効果を有する処理をも含むものと理解すべきである。適当な変異原の例としてエチルメタンスルホネート、UV照射、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、ブロモウラシルのようなヌクレオチド塩基類似体及びアクリジン類が挙げられるが、他の任意の効果的な変異原もまた使用され得る。
【0036】
ここでいう「類似菌株」としては、サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3−251株の16S rDNA遺伝子の塩基配列(配列番号1に示す)と95%以上相同な塩基配列で表される16S r DNA遺伝子を持つ菌株を挙げることができる。16S rDNA遺伝子の相同性は95%以上であればよいが、97%以上であることが好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、100%相同であることが最も好ましい。
【0037】
サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3−251株は、自然界から新たに単離した株であり、その細菌学的性質については以下の通りである。
a. 形態的および培養的性質
1) 細胞の形および大きさ :菌糸を形成する。
2) 胞子の有無 :有り。
3) マリンアガー平板培養 :良好に生育,コロニーは円形,台状,菌糸状,乳白色。
4) マリンブロス培養 :良好に生育。
5) リトマスミルク :変化なし。
b. 生理学的性質
1) 硝酸塩の還元 :還元しない。
2) インドールの生成 :生成しない。
3) 硫化水素の生成 :生成しない。
4) デンプンの加水分解 :分解しない。
5) カゼインの分解 :分解する。
6) エスクリンの分解 :分解しない。
7) DNAの分解 :分解しない。
8) キチンの分解 :分解しない。
9) チロシンの分解 :分解しない。
10) クエン酸の利用 :Simmons 培地:利用しない。
11) 色素の生成 :なし。
12) ウレアーゼ活性 :陰性
13) オキシダーゼ活性 :陽性
14) カタラーゼ活性 :陽性
15) アルカリホスファターゼ活性 :陽性
16) エステラーゼ(C4)活性 :陽性
17) エステラーゼリパーゼ(C8)活性 :陽性
18) エステラーゼ(C4)活性 :陰性
19) ロイシン アリルアミダーゼ活性:陰性
20) バリン アリルアミダーゼ活性 :陰性
21) シスチン アリルアミダーゼ活性:陰性
22) トリプシン活性 :陽性
23) キモトリプシン活性 :陰性
24) 酸性フォスファターゼ活性 :陽性
25) ナフトール−AS−BI−ホスホハイドロラーゼ活性:陽性
26) α−ガラクトシダーゼ活性 :陰性
27) β−ガラクトシダーゼ活性 :陰性
28) β−グルクロニダーゼ活性 :陰性
29) α−グルコシダーゼ活性 :陰性
30) β−グルコシダーゼ活性 :陰性
31) α−マンノシダーゼ活性 :陰性
32) α−フコシダーゼ活性 :陰性
33) 生育の範囲(pH) :pH6〜9
34) 耐塩性 :有り (生育塩濃度範囲:0〜7%)
35) Mg2+の要求性 :有り
36) 炭素源の資化性(BiOLOG社 GP2マイクロプレート使用)
L−アラビノース −
D−キシロース −
D−グルコース −
D−マンノース −
D−フラクトース −
D−ガラクトース −
マルトース −
シュクロース −
ラクトース −
トレハロース +
D−ソルビトール −
D−マンニトール +
イノシトール −
グリセロール −
グリコーゲン +
イヌリン −
メロビオース +
ラフィノース +
酢酸 +
ピルビン酸 +
37) GC含量 :47(モル%)
38) イソプレノイドキノン :MK−9(73%),MK−8(21.7%),MK−10(2.9%),MK−7(2.5%)
【0038】
(2)微生物の培養
本発明における微生物の培養は、通常の微生物の培養方法が用いられる。培地としては、資化可能な炭素源、窒素源、無機物及び必要な生育・生産促進物質を適宜含有する培地であれば、合成培地又は天然培地のいずれでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、澱粉、デキストリン、マンノース、フラクトース、シュクロース、ラクトース、キシロース、アラビノース、マンニトール、糖蜜などを単独又は組み合わせて用いることができる。さらに、必要に応じて炭化水素、アルコール類、有機酸、アミノ酸(トリプトファン等)なども用いることができる。窒素源としては塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、乾燥酵母、コーン・スチープ・リカー、大豆粉、綿実かす、カザミノ酸などを単独又は組み合わせて用いることができる。そのほか、必要に応じて食塩、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛などの無機塩類を加えることができる。さらに使用する微生物の生育や本発明の化合物の生産を促進する微量成分を適当に添加することができ、当業者であればそのような成分として適当なものを選択することができる。
【0039】
培養法としては、液体培養が適しているが、これに限定されるものではない。培養温度は、25〜37℃が適当であり、培養中の培地のpHは7〜9に維持することが望ましく、震盪速度が30〜120rpmで回転又は往復震盪培養することが望ましい。液体培養で通常5〜14日間培養を行うと、目的化合物が培養液中ならびに菌体中に生成蓄積される。通常は、培養物中の生成量が最大に達した時に培養を停止する。
【0040】
(3)化合物の単離・精製
培養物からの本発明の化合物の単離・精製は、微生物代謝生産物を培養物から単離・精製するために常用される方法に従って行われ得る。ここで、「培養物」とは、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。例えば培養物を濾過や遠心分離により培養瀘液と菌体に分け、菌体をクロロホルム/メタノール(9:1)混合溶媒などで抽出する。また培養濾液は酢酸エチル、クロロホルムなどで抽出することができる。ついで、菌体抽出液、培養瀘液若しくは培養瀘液の抽出物をそれぞれ単独で又はそれらの2種以上を合わせて濃縮し、カラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどにより精製を行い、本発明の化合物を得ることができる。得られた化合物は、NMR解析などの通常の化学的手法により、上記「1.式(I.1.1)で表される化合物の性質」に記載した性質を示すか否かを調べることにより、本発明の化合物であることを確認することができる。
【0041】
一方、得られた化合物が抗腫瘍活性を有することを確認するには、例えば、癌細胞を播種したマイクロプレートに、得られた化合物を適当な濃度で添加し、培養する。培養後に例えばMTTアッセイ等で生存癌細胞数を測定し、対照の化合物無添加群における細胞数と比較して、その癌細胞の増殖が抑制されたか否かを観察する。
【0042】
2.2.式(I.1)で表される他の化合物の製造
式(I.1)で表される化合物としては、具体的には表1で示される置換基の組み合わせを有する化合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0043】
【表1】

【0044】
式(I.1)で表される化合物は例えば以下の合成経路図に示した手順で調製することができる。
【0045】
1(N−α−t−ブトキシカルボニルセリンメチルエステル)に2,2−ジメトキシプロパンをパラトルエンスルホン酸一水和物存在下、ベンゼン中で加熱還流し、2を得る。アルカリ処理によってメチル基を除いた後、セリンメチルエステルとの縮合反応にて3を得る。3をトリエチルアミン存在化メタンスルホン酸作用させメタンスルホン化し、後、ジアザビシクロウンデセンを作用させ4を得る。4をメタノール中、N−ブロモスクシミドを作用させブロモ化し、炭酸カルシウムにてオキサゾール環を形成し、脱メタノールし、5を得る。5のメチル基を除去した後に、フェニルセリンベンジルエステルと縮合反応を行い6(R=フェニル)を得る。3から5を合成したのと同様の手法で6を7に変換する。7のBoc(t−ブトキシカルボニル)基、アセトナイドをはずし、ブロム化することで8を得る。
【0046】
また、5を原料に2から5の合成に用いたオキサゾール形成反応を繰り返し、9を得る。9をスルホンアミド化し10を得る。
【0047】
次に、8と10の縮合反応を行い11を得る。11のベンジル基を除去し、バリンベンジルエステルと縮合反応を行い12(R=イソプロピル)を得る。12のベンジル基を除去し、再度、バリンベンジルエステルと縮合反応を行い13(R=イソプロピル)を得る。13のBoc基、アセトナイド、ベンジル基を除去し、14を得る。14を用いて分子内環化反応により15を得た後、3から4への合成に用いた方法で式I.1.2の化合物を得る。
【0048】
また、6を合成する際に用いるアミノ酸をフェニルセリンからスレオニンに変えることでRがメチル基である誘導体を、また12もしくは13を合成する際に用いるアミノ酸をバリンからアラニンにかえることで、R、Rがメチルである誘導体を合成することができ、これらのアミノ酸を適宜組み合わせることで種々の誘導体を得ることができる。
【0049】
【化9】


【0050】
2.3.式(I.2)の化合物の製造
本発明の式(I.2)の化合物は、微生物を培地に培養し、培養物中に該化合物を生成蓄積させ、該培養物から該化合物を採取することにより製造することができる。
(1)微生物
式(I.2)の化合物の製造において用いることのできる微生物としては、サーモアクチノマイセス(Thermoactinomyces)属に属し、かつ上記式(I.2)で表される化合物を生産する能力を有する微生物であれば特に限定されない。
【0051】
ここで、「上記式(I.2)で表される化合物を生産する能力を有する微生物」とは、典型的には、菌株を500mLのマリンブロス培地を入れた1Lバッフル付き三角フラスコ中で、30℃にて5日間回転振盪(100rpm)培養して種菌とし、該種菌を500mLのマリンブロス培地の入った1Lバッフル付きフラスコ50本(計25L)に5mLずつ植菌し、30℃、7日間、回転震盪(100rpm)培養して得られた培養液25Lを、遠心分離(6000xg、20分間)して菌体と上清に分離し、菌体をクロロホルム/メタノール(1:1)で抽出して得られた菌体抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して抗腫瘍活性を有する画分を回収し、該画分を高速液体クロマトグラフィーにて精製するという操作を繰り返し行った場合に、培養液25L当たり3mg以上、より好ましくは4mg以上、より好ましくは5mg以上、最も好ましくは6mg以上の量で上記式(I.2)で表される化合物を生産することができる微生物を意味する。
【0052】
そのような微生物としては、例えば、サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM11−542株、及び、該菌株に由来する変異株もしくは該菌株の類似菌株であって上記式(I.2)で表される化合物を生産する能力を有するものを挙げることができる。なおサーモアクチノマイセス・スピーシーズYM11−542株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、平成17年1月25日付で受託番号NITE P−70として寄託されている。
【0053】
「変異株」については上記「2.1.式(I.1.1)の化合物の製造」の説明を参照されたい。
【0054】
「類似菌株」としては、サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM11−542株の16S rDNA遺伝子の塩基配列(配列番号2に示す)と95%以上相同な塩基配列で表される16S rDNA遺伝子を持つ菌株を挙げることができる。16S rDNA遺伝子の相同性は95%以上であればよいが、97%以上であることが好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、100%相同であることが最も好ましい。
【0055】
サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM11−542株は、自然界から新たに単離した株であり、その細菌学的性質については以下の通りである。
a. 形態的および培養的性質
1) 胞子の有無 :有り。
2) マリンアガー平板培養 :良好に生育,コロニーは円形,台状,菌糸状,乳白色。
3) マリンブロス培養 :良好に生育。
4) リトマスミルク :変化なし。
【0056】
b. 生理学的性質
1) 硝酸塩の還元 :還元しない。
2) インドールの生成 :生成しない。
3) 硫化水素の生成 :生成しない。
4) デンプンの加水分解 :分解しない。
5) カゼインの分解 :分解する。
6) エスクリンの分解 :分解しない。
7) DNAの分解 :分解しない。
8) キチンの分解 :分解しない。
9) チロシンの分解 :分解しない。
10) クエン酸の利用 :Simmons 培地:利用しない。
11) 色素の生成 :なし。
12) ウレアーゼ活性 :陰性
13) オキシダーゼ活性 :陽性
14) カタラーゼ活性 :陽性
15) アルカリホスファターゼ活性 :陽性
16) エステラーゼ(C4)活性 :陽性
17) エステラーゼリパーゼ(C8)活性:陽性
18) リパーゼ(C4)活性 :陰性
19) ロイシン アリルアミダーゼ活性 :陰性
20) バリン アリルアミダーゼ活性 :陰性
21) シスチン アリルアミダーゼ活性 :陰性
22) トリプシン活性 :陰性
23) キモトリプシン活性 :陰性
24) 酸性フォスファターゼ活性 :陽性
25) ナフトール−AS−BI−ホスホハイドロラーゼ活性:陽性
26) α−ガラクトシダーゼ活性 :陰性
27) β−ガラクトシターゼ活性 :陰性
28) β−グルクロニダーゼ活性 :陰性
29) α−グルコシダーゼ活性 :陰性
30) β−グルコシダーゼ活性 :陰性
31) α−マンノシダーゼ活性 :陰性
32) α−フコシダーゼ活性 :陰性
33) 生育の範囲(pH) :pH6〜9
34) 耐塩性 :有り(生育塩濃度範囲:0〜7%)
35) Mg2+の要求性 :有り
36) 炭素源からの酸の生成(API50CH使用)
L−アラビノース −
D−キシロース −
D−グルコース −
D−マンノース −
D−フラクトース −
D−ガラクトース −
マルトース −
シュークロース −
ラクトース −
トレハロース −
D−ソルビトール −
D−マンニトール −
イノシトール −
デンプン −
5−ケトグルコン酸 +
37) GC含量 :45(モル%)
38) イソプレノイドキノン :MK−9,MK−8
(2)微生物の培養
上記「2.1.式(I.1.1)の化合物の製造」の(2)の説明を参照されたい。
(3)化合物の単離・精製
上記「2.1.式(I.1.1)の化合物の製造」の(3)の説明を参照されたい。ただし、菌体の抽出溶媒としてはクロロホルム/メタノール(1:1)混合溶媒が好ましい。
【0057】
3.本発明の化合物の用途
(1)抗腫瘍剤
本発明の式(I)で表される化合物は、優れた抗腫瘍活性を有するため抗腫瘍剤として有用であり、人体及び動物用医薬品、医薬品原料等として使用することができる。
【0058】
本発明の抗腫瘍剤は、上記式(I)で表される化合物を有効成分として含むものである。本発明の抗腫瘍剤は、上記「2.本発明の化合物の製造」の項に記載の方法に従って調製される、上記(I)で表される化合物を含有する培養物を含むものであってもよい。さらに本発明の抗腫瘍剤は、他の抗腫瘍剤及び/又は添加剤などをさらに含有するものであってもよい。このような他の抗腫瘍剤及び添加剤は、本発明の化合物の抗腫瘍活性を低減させるものでなければ任意のものを使用することができ、例えば、アドリアマイシン、シスプラチン、タキソール、ハーセプチンなどが挙げられる。
【0059】
本発明の抗腫瘍剤を腫瘍の予防又は治療目的で使用する場合は、予防又は治療の対象は特に限定されない。例えば、癌、肉腫、良性腫瘍などの少なくとも一種の腫瘍について予防又は治療を特異目的として用いることができる。これらの疾病は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであっても、使用の対象とすることができる。これらの癌種は特に限定されるものではなく、例えば脳腫瘍、上咽頭癌、舌癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、肝癌、直腸癌、結腸癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、骨肉腫及び白血病からなる群から選択される少なくとも一種などが挙げられる。また単一の癌のみならず複数の癌が併発したものも含まれる。
【0060】
本発明の抗腫瘍剤を投与する対象としては、限定するものではないが、哺乳動物、例えば、ヒト、家畜(ウシ、ウマ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ等)、実験動物(マウス、ラット、ハムスター等)でありうる。
【0061】
(2)投与
本発明の抗腫瘍剤は、医薬的に許容される担体又は添加物を共に含む医薬製剤として哺乳動物に投与され得る。このような担体及び添加物の例としては、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤などの他、リポゾームなどの人工細胞構造物などが挙げられる。使用される添加物は、医薬組成物の剤形に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
本発明の抗腫瘍剤は、経口経路又は非経口経路のいずれでも投与することができる。
【0062】
本発明の抗腫瘍剤を経口的に投与する場合、本発明の抗腫瘍剤は、それに適用される錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤などの固形製剤、あるいは液剤、シロップ剤などの液体製剤等として製剤化され得る。特に顆粒剤及び散剤は、カプセル剤として単位投与剤形とすることができ、液体製剤の場合は使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。
【0063】
これら剤形のうち経口用固形剤は通常、それらの組成物中に製剤上一般に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤などの添加剤を含有する。また、経口用液体製剤は通常それらの組成物中に製剤上一般に使用される安定剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、芳香剤、着色剤などの添加剤を含有する。
【0064】
また非経口的に投与する場合は、注射剤又は坐剤などの剤形とすることができる。例えば注射剤は、ポリアルコキシフラボノイドを溶液、懸濁液、乳液などに溶解又は懸濁して調製されるものであり、通常単位投与量アンプル又は多投与量容器の形態で提供される。また注射剤は、使用する際に適当な担体、例えば発熱物質不含の滅菌水に再溶解させる粉剤であってもよい。注射手法としては、例えば点滴静脈内注射、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、皮内注射が挙げられる。これらの非経口投与剤形は、通常それらの組成物中に薬学上一般的に使用される乳化剤、懸濁剤などの添加剤を含有する。
【0065】
上記抗腫瘍剤における本発明の化合物の量は、用途、剤形及び投与経路などにより異なるが、総重量を基準として1〜5重量%、好ましくは2〜3重量%である。また、本発明の化合物の有効量は、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。例えば、1日につき体重1kg当たり0.1〜1000mgであり、1日数回から数週間の間隔で投与することができる。
【0066】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明は実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。
【実施例1】
【0067】
式(I.1.1)の化合物の製造
式(I.1.1)の化合物の生産菌としてサーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3−251株を用いた。該菌株を、500mLのマリンブロス培地(Difco)を入れた1Lバッフル付き三角フラスコ中で、30℃にて5日間回転振盪(100rpm)培養し、次に行う大量培養の種菌とした。この種菌培養物を500mLのマリンブロス培地の入った1Lバッフル付きフラスコ80本(計40L)に5mLずつ植菌し、30℃、5日間、回転震盪(100rpm)培養した。培養中、培地のpHは特に制御しなかった。
【0068】
このようにして得られた培養液40Lを遠心分離(6000xg、20分間)し、菌体と上清に分離した。上清は等量の酢酸エチルで二回抽出した。菌体は、クロロホルム/メタノール(9:1)で抽出した。抗腫瘍活性のほとんどは菌体抽出物に認められたので、次に、得られた菌体抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。ワコーゲルC200(和光純薬)を担体として用い、移動層として、まず、クロロホルムにて溶出、次に、2%(v/v)メタノール含有クロロホルムにて溶出、ついで3%(v/v)メタノール含有クロロホルムと1%刻みで6%(v/v)含有メタノールまで溶出した。3%(v/v)メタノール含有クロロホルムと4%(v/v)メタノール含有クロロホルムにて溶出した画分に抗腫瘍活性が認められた。
【0069】
次に、抗腫瘍活性が認められた画分を高速液体クロマトグラフィー(カラム:TSKgel ODS−80Ts(直径4.6mm長さ150mm)、移動相A:水、移動相B:アセトニトリル、グラジエント:0分〜2分 60%(v/v)アセトニトリル、2分〜18分 60%(v/v)アセトニトリルから70%(v/v)アセトニトリルまでリニアグラジエント、流速1mL/min)にて精製した。本発明の式(I.1.1)の化合物は上記の条件で保持時間13〜14分で溶出された。
【0070】
このような大量培養とその培養物からの精製をくり返し行い、培養物計120Lから本発明の式(I.1.1)の化合物を6mg得た。最終的には、ジクロロメタン/メタノール混合溶媒からの結晶化を行い式(I.1.1)の化合物の結晶を得た。
【実施例2】
【0071】
式(I.2)の化合物の製造
式(I.2)の化合物の生産菌としてサーモアクチノマイセス・スピーシーズYM11−542株を用いた。該菌株を、500mLのマリンブロス培地(Difco)を入れた1Lバッフル付き三角フラスコ中で、30℃にて5日間回転振盪(100rpm)培養し、次に行う大量培養の種菌とした。この種菌培養物を500mLの0.1%スクロース添加マリンブロスの入った1Lバッフル付きフラスコ50本(計25L)に5mLずつ植菌し、30℃、7日間、回転震盪(100rpm)培養した。培養中、培地のpHは特に制御しなかった。
【0072】
このようにして得られた培養液25Lを遠心分離(6,000xg、20分間)し、菌体と上清に分離した。上清は等量の酢酸エチルで二回抽出した。菌体は、クロロホルム/メタノール(1:1)で繰り返し抽出した。抗腫瘍活性のほとんどは菌体抽出に認められたので、次に、得られた菌体抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。キーゼルグール(Merck社製)を担体として用い、移動層として、まず、クロロホルムにて溶出、次に、2%メタノール含有クロロホルムにて溶出、ついで3%メタノール含有クロロホルムと1%刻みで6%含有メタノールまで溶出した。4%メタノール含有クロロホルムと5%メタノール含有クロロホルムにて溶出した画分に抗腫瘍活性が認められた。
【0073】
次に、抗腫瘍活性が認められた画分を高速液体クロマトグラフィー(カラム:TSKgel ODS−80Ts(直径4.6mm長さ150mm)、移動相A:水、移動相B:アセトニトリル、グラジエント:0分〜2分 45%アセトニトリル、2分〜40分 45%アセトニトリルから50%アセトニトリルまでリニアグラジエント、流速1mL/min)にて精製した。本発明の式(I.2)の化合物は上記の条件で保持時間27〜29分で溶出された。
最終的に培養物計25Lから本発明の式(I.2)の化合物を6mg得た。
【実施例3】
【0074】
式(I.1.1)の化合物の抗腫瘍活性の評価
本発明の化合物の抗腫瘍活性を以下の様に評価した。ヒト肺癌由来細胞A549細胞を96穴マイクロプレートに4×10個/200μL/wellの濃度で播種し、14時間、COインキュベーター(5%二酸化炭素、37℃)にて前培養した。ここに、希釈系列を作成した式(I.1.1)の化合物を添加し、48時間培養した。48時間後にアラマーブルー(和光純薬より購入)を用いて生存細胞数を測定した。その結果、式(I.1.1)の化合物は、43nMの濃度でA549細胞の細胞増殖を約50%阻害し(すなわちIC50値は約43nM)、200nMの濃度でA549細胞を完全に死滅させた。
【0075】
なお、同様の条件下で測定された既存の抗腫瘍剤のIC50値は、例えばカンプトテシンが18nM、ドキソルビシンが283nM、パクリタキセルが12nMであることから、本発明の化合物が抗腫瘍剤として優れたものであることがわかる。
【実施例4】
【0076】
式(I.2)の化合物の抗腫瘍活性の評価
本発明の化合物の抗腫瘍活性を以下の様に評価した。ヒト肺癌由来細胞A549細胞を96穴マイクロプレートに4×10個/200μL/wellの濃度で播種し、14時間、COインキュベーター(5%二酸化炭素、37℃)にて前培養した。ここに、希釈系列を作成した式(I.2)の化合物を添加し、48時間培養した。48時間後にアラマーブルー(和光純薬より購入)を用いて生存細胞数を測定した。その結果、式(I.2)の化合物は、12nMの濃度でA549細胞の細胞増殖を50%阻害し、100nMの濃度でA549細胞を完全に死滅させた。また、ヒト白血病性T細胞株であるJurket細胞を96穴マイクロプレートに4×10個/200μL/wellの濃度で播種し、14時間、COインキュベーター(5%二酸化炭素、37℃)にて前培養した。ここに、希釈系列を作成した式(I.2)の化合物を添加し、48時間培養した。48時間後にアラマーブルー(和光純薬より購入)を用いて生存細胞数を測定した。その結果、式(I.2)の化合物は、5.6nMの濃度でJurket細胞の細胞増殖を50%阻害し、50nMの濃度でA549細胞を完全に死滅させた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明により、式(I)で表される新規な抗腫瘍性化合物、並びに微生物を用いた該化合物の製造方法が提供される。本発明の化合物は、医薬品、医薬品原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、
、Xは、互いに独立に、O又はSであり、
は水素、メチル又はフェニルであり、
、Rは、互いに独立に、水素、メチル、イソプロピル、イソブチル又はsec−ブチルであり、
、Rは、互いに独立に、水素又はメチルである]
で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
式(I)においてXがOであり、R及びRが共に水素である請求項1記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
式(I)においてX及びXが共にSであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがメチルであり、Rが水素であり、Rがメチルである請求項1記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
請求項1記載の化合物を生産する能力を有するサーモアクチノマイセス属に属する微生物を培地に培養し、培養物中に該化合物を生成蓄積させ、該化合物を採取することを特徴とする、請求項1記載の化合物の製造法。
【請求項5】
請求項1記載の化合物がXがSであり、XがOであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがイソプロピルであり、R及びRが共に水素である化合物である請求項4記載の製造法。
【請求項6】
請求項1記載の化合物がX及びXが共にSであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがメチルであり、Rが水素であり、Rがメチルである化合物である請求項4記載の製造法。
【請求項7】
式(I)においてXがSであり、XがOであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがイソプロピルであり、R及びRが共に水素である請求項1記載の化合物を生産する能力を有するサーモアクチノマイセス属に属する微生物。
【請求項8】
式(I)においてX及びXが共にSであり、Rがフェニルであり、Rがsec−ブチルであり、Rがメチルであり、Rが水素であり、Rがメチルである請求項1記載の化合物を生産する能力を有するサーモアクチノマイセス属に属する微生物。
【請求項9】
請求項1〜3の何れかに記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬。
【請求項10】
抗腫瘍剤である請求項9記載の医薬。

【公開番号】特開2006−160723(P2006−160723A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82505(P2005−82505)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【Fターム(参考)】