説明

抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、並びにこれから得られる抗菌・消臭性ファイバーおよび不織布

【課題】生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とを含む抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、並びにこれから得られる抗菌・消臭性ナノファイバおよび不織布を提供すること。
【解決手段】生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とをそれぞれ固体状態で混合した後、加熱、混練して抗菌・消臭性物品用樹脂組成物を調製する、生分解性ポリエステルを酸アミド系溶媒に溶解してなる生分解性ポリエステル溶液と、アミノ多糖類を有機酸溶媒に溶解してなるアミノ多糖類溶液とを混合して抗菌・消臭性物品用樹脂組成物を調製する、または生分解性ポリエステルとアミノ多糖類ともギ酸に溶解して抗菌・消臭性物品用樹脂組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とを含む抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、並びにこれから得られる抗菌・消臭性ファイバーおよび不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗菌加工を施した繊維製品や樹脂成形品などが注目され、例えば、抗菌性を付与した衣類、医療用品、日用品などが市販されている。
この抗菌加工に用いられる抗菌物質としては、従来、銅、銀、亜鉛等の金属イオンを有する無機系抗菌剤;塩化ベンザルコニウム、有機シリコン系、第4級アンモニウム塩等の有機系抗菌剤;キトサン等の天然多糖類系抗菌剤が知られている。
無機系抗菌剤は、合成樹脂に添加すると成形時の熱や照射される光の影響で変形し、製品価値が著しく低下するという問題がある。また、有機系抗菌剤は、耐候性・耐薬品性が悪く、急性径口毒性が高いという問題がある。
このため、安全性に優れたキトサン等の天然多糖類系抗菌剤を用いる試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平2−41473号公報)には、キトサン酢酸塩で表面処理した綿糸を、さらにイソシアネート架橋剤で処理し、綿糸とキトサンとをポリウレタン結合で架橋した抗菌繊維が開示されている。この手法で得られた抗菌繊維では、繊維と抗菌剤であるキトサンとが強固に結合しているため、繊維からのキトサンの脱落を防止でき、良好な抗菌性が長期に亘って発揮される。
しかし、この特許文献1の技術では、キトサン処理後の乾燥工程が必須であるうえに、キトサン処理後の綿糸を、再度ポリイソシアネート化合物を用いて架橋処理する必要があるため、工程が煩雑になるという問題がある。
しかも、生分解性ポリエステルなどの生分解性繊維を処理する場合、生分解性繊維に対し、上記架橋処理を行ってしまうと、繊維本来の生分解性が十分に発揮されない虞が生じる。
【0004】
また、特許文献2(特開平7−42076号公報)には、合成樹脂エマルジョンをキトサン酸水溶液で塩析して調製したキトサン含有合成樹脂を、有機溶剤に溶解してなるコーティング加工剤、およびこの加工剤によりコーティング処理された繊維布帛が開示されている。この手法によれば、キトサンが均一に分散した溶液状のコーティング剤が得られ、これを用いることで、繊維表面にキトサンが均一に分散したコーティング層を形成することが可能となる。
しかし、この特許文献2の技術でも、キトサン酸水溶液を用いた塩析工程が必要であるため、工程が煩雑になる。しかも、キトサンをコーティング処理する方法であるため、乾燥工程が必要となるうえに、キトサンが、繊維表面に露出し易くなる結果、脱落し易くなり、抗菌性が経時的に低下してしまうという問題がある。
また、生分解性繊維を処理する場合、繊維表面をアクリル樹脂で被覆してしまうために、繊維本来の生分解性が十分に発揮されない虞が生じる。
【0005】
以上のように、生分解性ポリマー繊維にキトサン等の天然抗菌剤をコーティングする手法は、処理工程の煩雑さや、生分解性の低下という点から、抗菌加工として適したものであるとは言えない。
【0006】
ところで最近、静電紡糸法により、ポリ乳酸や、キトサンのナノファイバーを製造する技術が開示されている(特許文献3:国際公開2004/089433号パンフレット、特許文献4:特開2005−290610号公報参照)。
例えば、特許文献3には、平均繊維径が0.05〜50μmの生体内分解吸収性ポリマーからなる繊維構造体を静電紡糸法により作製する手法が開示され、この生体内分解吸収性ポリマーとして、ポリ乳酸、キトサンが例示され、実施例ではポリ乳酸ナノファイバーが具体的に製造されている。
また、特許文献4には、静電紡糸法により作製された、直径500nm以下のキトサンを主原料とするナノファイバーおよびこれから得られる不織布が開示され、この場合に添加剤としてポリ乳酸を用い得ることが開示されている。
【0007】
このように、特許文献3,4のいずれにも、ポリ乳酸とキトサンとを併用してナノファイバーを製造し得ることが示唆されている。しかしながら、実施例において、それら両者を含むナノファイバーは製造されておらず、ポリ乳酸とキトサンとをどのようにして混合し、紡糸するかについては明らかにされていない。
すなわち、特許文献3の技術では、紡糸用のポリ乳酸溶液に、キトサンは溶解しない。また、キトサンの溶液は、特許文献1,2および4のように酢酸水溶液とすることが通常であるため、これをポリ乳酸の塩化メチレン溶液と混合して両者が溶解した溶液を調製することはできない。したがって、特許文献3の技術において、ポリ乳酸とキトサンとのポリマーブレンドを作製することは困難である。
一方、特許文献4の技術でも、紡糸用のキトサン酸水溶液に、ポリ乳酸の有機溶媒溶液を混合して、両者が溶解した溶液を調製することはできないため、両者のブレンドを調製する場合は、ポリ乳酸を粉末でポリ乳酸の有機溶媒溶液に混合する以外には方法がないが、ナノレベルのポリ乳酸粒子を調製することは非常に困難で、実用的とは言えない。
【0008】
【特許文献1】特開平2−41473号公報
【特許文献2】特開平7−42076号公報
【特許文献3】国際公開2004/089433号パンフレット
【特許文献4】特開2005−290610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とを含む抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、並びにこれから得られる抗菌・消臭性ファイバーおよび不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、固体状の生分解性ポリエステルと固体状のアミノ多糖類とを加熱混練する、生分解性ポリエステルの有機溶媒溶液とアミノ多糖類の有機酸溶液とを混合する、または生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とを、これら両者の溶解能を持つギ酸などの有機溶媒に溶解させることで、生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とが均一に混合された組成物、または溶液中に生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とが均一に分散した組成物が得られることを見出すとともに、後者の組成物を静電紡糸することで、抗菌性および生分解性に優れる(ナノ)ファイバーおよび不織布が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. 生分解性ポリエステル100質量部と、アミノ多糖類0.01〜50質量部とを含むことを特徴とする抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、
2. 前記生分解性ポリエステルと前記アミノ多糖類とをそれぞれ固体状態で混合した後、加熱、混練して調製された1の抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、
3. 前記生分解性ポリエステル中に、前記アミノ多糖類が均一に分散している1または2の抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、
4. 前記生分解性ポリエステルと前記アミノ多糖類のみからなる1〜3のいずれかの抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、
5. さらに、酸アミド系溶媒と、有機酸溶媒とを含む1の抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、
6. 前記生分解性ポリエステルを酸アミド系溶媒に溶解してなる生分解性ポリエステル含有溶液と、前記アミノ多糖類を前記有機酸溶媒に溶解してなるアミノ多糖類含有溶液とを混合して調製された5の抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、
7. さらにギ酸を含み、前記生分解性ポリエステルと前記アミノ多糖類とがギ酸に溶解してなる1の抗菌・消臭物品用樹脂組成物、
8. 均一透明である5〜7のいずれかの抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、
9. 前記アミノ多糖類が、D−グルコサミン単位またはN−アセチル−D−グルコサミン単位を有する1〜8のいずれかの抗菌・消臭性物品用樹脂組成物、
10. 前記生分解性ポリエステルが、ポリ乳酸である1〜9のいずれかの抗菌・消臭物品用樹脂組成物、
11. 1〜10のいずれかの抗菌・消臭物品用樹脂組成物を紡糸してなる平均繊維径1nm〜10μmの抗菌・消臭性ファイバー、
12. 11の抗菌・消臭性ファイバーからなる抗菌・消臭性不織布、
13. 1〜10のいずれかの抗菌・消臭物品用樹脂組成物を成形してなる抗菌・消臭性フィルム、
14. 生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とを含む樹脂組成物を静電紡糸法により紡糸することを特徴とする抗菌・消臭性不織布の製造方法、
15. 前記樹脂組成物が、生分解性ポリエステルを酸アミド系溶媒に溶かした生分解性ポリエステル含有溶液と、前記アミノ多糖類を有機酸に溶かしたアミノ多糖類含有溶液とを混合して調製された14の抗菌・消臭性不織布の製造方法、
16. 前記樹脂組成物が、前記生分解性ポリエステルと前記アミノ多糖類とをギ酸に溶かして調製された14の抗菌・消臭性不織布の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とが分子レベルで混合された組成物を容易に得ることができる。
また、この組成物から得られる本発明の抗菌・消臭性ファイバーおよび不織布は、アミノ多糖類をコーティング加工したものではないため、アミノ多糖類が表面に露出しにくく、これが脱落しにくいため、抗菌性および生分解性に優れる。
さらに、本発明では、生分解性ポリエステルを、酸アミド溶媒などの有機溶媒に溶かし、アミノ多糖類をギ酸などの有機酸に溶かし、これらを混合して溶液する、または両者を、これらの溶解能を有するギ酸などの有機溶媒に溶解して溶液としているため、生分解性ポリエステルとギ酸とを分子レベルで容易に混合することができる。また、この溶液を用いて静電紡糸することで、繊維径のより細い(ナノ)ファイバーを、簡便かつ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る抗菌・消臭物品用樹脂組成物は、生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とを含むものである。
ここで、生分解性ポリエステルとしては、例えば、ポリ乳酸系脂肪族ポリエステル、ポリカプロラクトン系脂肪族ポリエステル、微生物産生脂肪族系ポリエステル、ポリヒドロキシアルカノエイト、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族系ポリエステルといったいわゆる生分解性プラスチックと一般に呼ばれるものが挙げられる。
【0014】
ポリ乳酸系脂肪族ポリエステルとしては、乳酸、リンゴ酸、グリコール酸等のオキシ酸の重合体、およびこれらの共重合体などのポリラクチド類が挙げられ、具体例としては、ポリ乳酸、ポリ(α−リンゴ酸)、ポリグリコール酸、グリコール酸−乳酸共重合体などが挙げられ、特に、ポリ乳酸に代表されるヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステルが好適である。
ポリカプロラクトン系脂肪族ポリエステルは、ε−カプロラクトンの開環重合により得ることができ、水不溶性高分子でありながら、多くの菌により分解されるものであって、一般式:−(O(CH25CO)n−で表される脂肪族ポリエステルである。このようなポリカプロラクトン系脂肪族ポリエステルの市販品としては、例えば、日本ユニカー株式会社販売の「トーン」(商品名)がある。
【0015】
微生物産生脂肪族系ポリエステルは、生体由来の融点をもつ熱可塑性ポリマーである。具体的には、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ(ヒドロキシ酪酸−ヒドロキシプロピオン酸)共重合体、ポリ(ヒドロキシ酪酸−ヒドロキシ吉草酸)共重合体などが挙げられる。
なお、本発明では、生分解性ポリエステル以外に、生分解性のポリウレタン、ポリアクリル、ポリプロピレンや、生分解性ではないポリエステル、ナイロン等を混合してもよい。生分解性ではないポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族系ポリエステルが挙げられる。
【0016】
アミノ多糖類は、特に限定されるものではないが、D−グルコサミン単位またはN−アセチル−D−グルコサミン単位を有するアミノ多糖類が好適である。具体例としては、キチン、キトサン等の天然アミノ多糖類が挙げられる。
【0017】
本発明の抗菌・消臭物品用樹脂組成物において、生分解性ポリエステルとアミノ多糖類との配合割合は、生分解性ポリエステルが過剰(50質量%超)であることが好適であり、特に、生分解性ポリエステル100質量部に対して、アミノ多糖類0.01〜50質量部が好ましく、0.01〜30質量部がより好ましく、0.01〜5質量部がより一層好ましい。
アミノ多糖類が50質量部を超えると、組成物の成形性が低下し、得られる成形品や、不織布の風合いが固く、脆くなる虞がある。アミノ多糖類が0.01〜30質量部、特に0.01〜5質量部の範囲であると、抗菌・消臭性が良好に発揮され、かつ生分解性ポリエステルの機械的強度に近くに樹脂組成物の機械的強度を保てるので、成形品や不織布に抗菌・消臭性と機械的強度をバランスよく付与することができる。
【0018】
本発明の抗菌・消臭物品用樹脂組成物は、生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とを混合して得られる。これらを混合する手法としては、(1)生分解性ポリエステルにアミノ多糖類を練り込み混合する方法、(2)生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とのそれぞれを有機溶媒で溶解させた溶液を調製し、これら溶液を混合する方法、(3)生分解性ポリエステルとアミノ多糖類との両方を溶解させる有機溶媒に溶解混合する方法がある。
これらの3通りの方法を用いることで、生分解性ポリエステル中にアミノ多糖類をより均一に分散させることができる。中でも両者を分子レベルで混合し得ることから、(2)生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とのそれぞれを有機溶媒で溶解させた溶液を調製し、これらを混合する方法、(3)生分解性ポリエステルとアミノ多糖類との両方を溶解させる有機溶媒に溶解混合する方法が好ましい。
【0019】
上記(1)の生分解性ポリエステルにアミノ多糖類を練り込み混合する方法の場合、例えば、生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とをそれぞれ固体状態で混合した後、加熱、混練して抗菌・消臭物品用樹脂組成物とすればよい。
この場合、アミノ多糖類は、粉末状のものを用いることが好ましい。この粉末状のアミノ多糖類は、衝撃式、圧縮式、剪断式、エアジェット式、冷凍粉砕式等の各種粉砕機により機械的に粉砕したり、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸等の有機酸もしくは塩酸、硝酸等の無機酸の水溶液にこれを一旦溶解させた後、アンモニア等のアルカリ溶液に分散して再生させたり、またはスプレードライにより噴霧乾燥して再生させたりして得ることができる。
アミノ多糖類の平均粒径は、0.2〜400μmが好ましく、0.20〜100μmがより好ましい。なお、平均粒径は、光散乱粒度分布測定装置による測定値である。
【0020】
生分解性ポリエステルとアミノ多糖類との混練法は特に限定はなく、一軸混練押出機、二軸混練押出機、バッチ式混練機、連続押出混練機等を用いて混練すればよい。
加熱温度は、アミノ多糖類をより均一に分散させることを考慮すると、100〜250℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。
上記の混練により得られた抗菌・消臭物品用樹脂組成物(樹脂混合ペレット)は、一般的な熱可塑性プラスチックと同様に、押出成形、射出成形、延伸フィルム成形、ブロー成形などにより、種々の形状の成形品とすることができる。
【0021】
上記(2)および(3)の生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とを有機溶媒中に溶解する方法の場合、生分解性ポリエステルを溶解させる有機溶媒としては、酸アミド系溶媒、塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、およびギ酸等の有機溶媒を挙げることができる。一方、アミノ多糖類を溶解させる有機溶媒としては、室温で液体の有機酸溶媒や、室温で固体の有機酸を溶解した酸アミド系溶媒等の有機溶媒を挙げることができる。
生分解性ポリエステルの有機溶媒溶液の調製に用いられる酸アミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFという)やN,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという)などの室温で液体のN−置換アミドが挙げられ、さらにはN−メチル−2−ピロリドンのような一部が環をなし、ヘテロ原子にカルボニル炭素が隣接した化合物でもよい。
塩素系溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルムなどが挙げられ、炭化水素系溶媒としては、トルエン、ベンゼン、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
これらの有機溶媒の中でも、生分解性ポリエステルの有機溶媒溶液(生分解性ポリエステル含有溶液)の調製に用いる溶媒としては酸アミド系溶媒が好ましく、DMF、DMAcなどのN−置換アミドが最適である。また、ギ酸も好適に用いることができる。
【0022】
アミノ多糖類の有機溶媒溶液の調製に用いられる室温で液体の有機酸溶媒としては、上述の生分解性ポリエステルを溶解させるギ酸の他、酢酸、乳酸などが挙げられる。また、室温で固体の有機酸を溶解した酸アミド系溶媒としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などを溶解した酸アミド系溶媒が挙げられる。酸アミド系溶媒については上述のとおりである。
これらの中でも、ゲル化しにくく、均一な溶液を調製し易いという点から、アミノ多糖類の有機溶媒溶液(アミノ多糖類含有溶液)の調製に用いる溶媒としてはギ酸が好適である。特に生分解性ポリエステル含有溶液の調製溶媒にもギ酸を用いる場合は、上記(2)の方法に加え、生分解性ポリエステルとアミノ多糖類との両方を、有機溶媒(ギ酸)中に少量ずつ添加して溶解混合させるという、上記(3)の方法を採用することができる。
【0023】
上記(2)の生分解性ポリエステルとアミノ多糖類との両方をそれぞれ有機溶媒で溶解して混合する方法の場合、上述の有機溶媒を用いて生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とをそれぞれ別の溶液として調製し、これら溶液を混合して液体状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物とすればよい。
特に上記有機溶媒の中でも、生分解性ポリエステルの溶媒に酸アミド系溶媒を、アミノ多糖類の溶媒にギ酸を用いる場合は、アミノ多糖類のギ酸溶液と生分解性ポリエステルの酸アミド系溶媒溶液とは、相溶性がよく、混合溶液は室温で10日以上ゲル化もせず、静電紡糸の原料溶液として保存安定性が良いことから、これらの組み合わせが最適である。
【0024】
生分解性ポリエステル含有溶液は、任意の手法で生分解性ポリエステルと、酸アミド系溶媒等の有機溶媒とを混合し、必要に応じて加熱して調製することができる。加熱する場合の温度は、使用する溶媒の沸点にもよるが、25〜150℃程度が好適である。25℃未満であると、使用する溶媒の種類にもよるが生分解性ポリエステルを均一溶液になるまで溶解させるのに時間がかかり好ましくなく、150℃を超えても溶媒中に含まれる水分による生分解性ポリエステルの加水分解が起こり易くなるので好ましくない。
この場合、溶液中の生分解性ポリエステルの濃度は、2〜50質量%程度が好ましく、5〜40質量%程度がより好ましい。
アミノ多糖類含有溶液は、任意の手法でアミノ多糖類と、有機酸溶媒または有機酸含有酸アミド系溶媒とを混合し、必要に応じて加熱して調製することができる。加熱する場合の温度は、使用する溶媒の沸点以下が好適である。
この場合、溶液中のアミノ多糖類の濃度は、0.1〜20質量%程度が好ましく0.5〜10質量%程度がより好ましい。
【0025】
以上のようにして調製した生分解性ポリエステル含有溶液と、アミノ多糖類含有溶液とを混合して液体状の樹脂組成物を得る。この際、生分解性ポリエステル含有溶液にアミノ多糖類含有溶液を添加しても、その逆でもよい。得られた樹脂組成物は、均一透明の液体として得られる。
この液体状の樹脂組成物を固形状の樹脂組成物に成形するに先立ち、成形方法に合わせて溶液の粘度や樹脂濃度を調整するなどのために、溶液にさらに溶媒を加えてもよい。溶液中の、生分解性ポリエステルおよびアミノ多糖類の濃度は、2.5〜40質量%程度が好ましく、3.5〜30質量%程度がより好ましい。2.5質量%未満では、粘度が低くなるため成形や紡糸が困難になる場合があり、また、40質量%超では、粘度が高くなり、この場合も成形や紡糸が困難になる場合がある。
なお、キトサンなどのアミノ多糖類は、従来、酸水溶液として用いられるため、樹脂の有機溶媒溶液とは混合できなかったが、本発明では、有機酸溶媒、または有機酸を含む有機溶媒を用いてアミノ多糖類の溶液を調製しているため、生分解性ポリエステルの有機溶媒溶液と容易に混合することができる。
【0026】
得られた液体状の樹脂組成物は、流延法、押出成形法、スプレー法、ロールコーティング法、ディッピング法などの方法により、薄膜を形成し、次いで溶媒を真空乾燥するか、水中に浸漬して湿式凝固させて樹脂溶液をゲル化した後に乾燥することにより、フィルムとすることができる。
また、この樹脂組成物は、静電紡糸法、スパンボンド法、メルトブロー法およびフラッシュ紡糸法等により紡糸することで、(ナノ)ファイバーとすることができる。これらの紡糸法の中でも、熱の影響が少ない静電紡糸法が好ましい。
【0027】
静電紡糸法は、電界中で、帯電した樹脂組成物を曳糸しつつ、その電荷の反発力により樹脂組成物を破裂させ、樹脂組成物からなる極微細な繊維状物を形成する方法である。
静電紡糸を行う装置の基本的な構成は、樹脂組成物を排出するノズルを兼用し、樹脂組成物に高電圧で印加する一方の電極と、その電極に対向する他方の電極とからなる。一方の電極から吐出あるいは振出された樹脂組成物は、2つの対向する電極間の電界中で樹脂組成物からなる極微細な繊維状物になり、他方の電極表面上に堆積する。
具体的には、生分解性ポリエステル含有溶液とアミノ多糖類含有溶液とを混合し、口金から押して、混合溶液(樹脂組成物)に数千から5万ボルト程度の高電圧を印加し、混合溶液の高速ジェットおよびそれに引き続くジェットの折れ曲がり、膨張によって(ナノ)ファイバー繊維および不織布が得られる。
【0028】
本発明では、樹脂組成物に酸成分が含まれているため、組成物(溶液)に電圧を印加する際に電荷がたまり易くなり、電界中に組成物をスプレーした際により細かく分裂させることができる。樹脂組成物中の酸の濃度を高めることで、得られる(ナノ)ファイバーの繊維径を細くすることができる。樹脂組成物中の酸成分は、0.1〜90質量%が好ましく、0.5〜85質量%がより好ましく、0.5〜75質量%がより一層好ましい。0.1質量%未満では、繊維径の細さに影響せず、90質量%超であると安定して紡糸できない虞があるため好ましくない。
本発明の樹脂組成物を静電紡糸により紡糸することで、平均繊維径を、ナノファイバーの領域を含む1nm〜10μm、好ましくはナノファイバーの領域である1〜1000nmの範囲において、比較的そろった径に調整できる。
【0029】
以上に本発明の液状の樹脂組成物をフィルムや(ナノ)ファイバー、不織布に成形する方法を述べたが、成形物はこれらに限られるものではない。例えば、液状の樹脂組成物は、液滴化して溶媒を真空乾燥するか、水中に浸漬して湿式凝固させてゲル化した後に、乾燥することでペレットとし、これを一般的な熱可塑性プラスチックと同様に、押出成形、射出成形、延伸フィルム成形、ブロー成形などの成形方法を用いて種々の成形物とすることもできる。
【0030】
なお、以上で説明した各種抗菌・消臭物品用樹脂組成物には、その他の添加剤として、本発明の効果が発揮される範囲で、帯電防止剤、発泡剤、耐熱安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐湿熱安定化剤、滑剤、離型剤、無機充填剤、顔料分散剤、顔料、染料などを適宜添加することができる。
【0031】
本発明の抗菌・消臭物品用樹脂組成物から得られた、(ナノ)ファイバー、不織布、フィルム等の各種成形品は、例えば、払拭シート、マスク、フィルタ、濾過材、有害物質除去製品、手袋、雑巾、ワイパ、マット、カーシート、天井材、壁紙、オムツ、病院用ガウン、医療従事者用衣服、シーツ、包装材、芯地、育苗ポット、育苗マット、土木建築材などに好適に使用できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下の各実施例、比較例における評価項目は下記手法にて実施した。
【0033】
[1]平均繊維径
試料表面を走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製「S−4800I」)により撮影倍率5000倍で撮影して得た写真から、無作為に20箇所を選んで繊維径を測定した。全ての繊維径の平均値(n=20)を求めて平均繊維径とした。
[2]不織布の厚み
デジタルシックネスゲージ((株)テクロック製「SMD−565」)を用いて、測定力1.5Nにより無作為に5箇所を選んで厚みを測定した。全ての厚みの平均値(n=5)を求めて、不織布の厚みとした。
[3]不織布の目付
試料の質量を測定し、平方メートル当たりに換算した。
[4]抗菌性能測定試験(菌数測定法)
繊維製品衛生加工協議会が策定した抗菌防臭加工製品の加工効果評価試験マニュアルに記載された以下の菌数測定法を採用した。
黄色ぶどう球菌を試験菌体とし、これを予め普通ブイヨン培地で106〜107個/mlになるように培養調整し、試験菌懸濁液とした。この懸濁液0.2mlを減菌処理したネジ付きバイアル瓶中の試料0.4gに均一に接種し、36〜38℃で18時間静置培養後、容器内に減菌緩衝生理食塩液を20ml加え、振幅30cmで手により25〜30回強く振とうして試験中の生菌を液中に分散させた後、減菌緩衝生理食塩液で適当な希釈系列を作り、各段階の希釈液1mlをシャーレ2枚に入れ、さらに標準寒天培地約15ml入れた。これを36〜38℃で24〜48時間培養した後、生育コロニー数を計測し、その希釈倍率に応じて試料中の生菌数を算出した。そしてその効果の判定は、増殖値が1.5を超える場合、試験成立を判定した。また、下記式により静菌活性値Sおよび殺菌活性値Lを求めた。
静菌活性値S=B−C
殺菌活性値L=A−C
A:標準布の試験菌接触直後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
B:標準布の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
C:抗菌加工試料の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
[5]生分解性能測定試験
畑土壌中に埋設して3ヵ月後および5ヵ月経過後の試料(5cm×5cm)の分解状況を肉眼判定した。
[6]紡糸性
吐出先端内孔径0.4mm、印加電圧25KV、室温、大気圧下の条件で液状の樹脂組成物を静電紡糸した際の吐出状態を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:安定的に吐出可能
△:中断しながら吐出可能
×:吐出不可能
[7]風合い
得られた不織布を手で握り、その時の触感を判断した。官能評価を以下の基準で行った。
◎:より柔軟
○:柔軟
△:普通
×:硬い
【0034】
[1]フィルムの作製
[実施例1]
ポリ乳酸樹脂(LACEA H400、三井化学(株)製)100質量部とキトサン粉末((株)キミカ製、平均粒子径約1〜5μm)2.5質量部とを、二軸エクストルダー中、220℃で練り込み混合して抗菌・消臭物品用樹脂組成物を製造し、引き続いてギヤポンプにて計量しながら温度210℃のTダイ口金からこの樹脂組成物をシート状に押し出した。その後、20℃まで冷却し、厚み100μmの抗菌フィルムを得た。
【0035】
[実施例2]
ポリ乳酸樹脂(LACEA H280、三井化学(株)製)100質量部とジメチルアセトアミド300質量部とを混合し、60℃でポリ乳酸を溶解させてポリ乳酸含有溶液を調製した。一方、キトサン((株)キミカ製、脱アセチル化75〜85%)2.5質量部とギ酸164質量部とを室温にて混合し、キトサンを溶解させてキトサン含有溶液を調製した。これを、先に調製したポリ乳酸含有溶液に室温で添加して混合し、均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物を、ガラス板上にナイフコータにてキャストし、60℃の真空乾燥機にて10時間乾燥を行い、厚み100μmの抗菌フィルムを得た。
【0036】
[2]不織布の作製
[実施例3]
ポリ乳酸樹脂(LACEA H280、三井化学(株)製)100質量部とジメチルホルムアミド570質量部とを混合し、60℃でポリ乳酸を溶解させてポリ乳酸含有溶液を調製した。一方、キトサン((株)キミカ製、脱アセチル化75〜85%)0.1質量部とギ酸6.6質量部とを室温にて混合し、キトサンを溶解させてキトサン含有溶液を調製した。これを、先に調製したポリ乳酸含有溶液に室温で添加して混合し、均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物(紡糸溶液)をシリンジに入れ、吐出先端内口径が0.4mm、印加電圧25KV(室温下、大気圧)、吐出先端内口径から繊維状物質捕集電極までの距離15cmで静電紡糸を行い、抗菌不織布を得た。得られた不織布の平均繊維径は1μmであり、繊維径10μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域を含むものであった。また、不織布の厚みは150μmであり、目付は30g/m2であった。得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0037】
[実施例4]
キトサンを0.5質量部とし、ギ酸を33質量部とした以外は、実施例3と同様にして均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を実施例3と同様にして静電紡糸し、抗菌不織布を得た。
得られた不織布の平均繊維径は0.5μmであり、繊維径1μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域であった。また、不織布の厚みは100μmであり、目付は10g/m2であった。得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0038】
[実施例5]
キトサンを1質量部とし、ギ酸を66質量部とした以外は、実施例3と同様にして均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を実施例3と同様にして静電紡糸し、抗菌不織布を得た。
得られた不織布の平均繊維径は0.3μmであり、繊維径0.5μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域であった。また、不織布の厚みは50μmであり、目付は6g/m2であった。得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0039】
[実施例6]
キトサンを2.5質量部とし、ギ酸を164質量部とした以外は、実施例3と同様にして均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を実施例3と同様にして静電紡糸し、抗菌不織布を得た。
得られた不織布を電子顕微鏡で観察したところ、図3とほぼ同様で、平均繊維径は0.3μmであり、繊維径0.5μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域であった。また、不織布の厚みは50μmであり、目付は5.5g/m2であった。
【0040】
[実施例7]
キトサンを5質量部とし、ギ酸を330質量部とした以外は、実施例3と同様にして均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を実施例3と同様にして静電紡糸し、抗菌不織布を得た。
得られた不織布の平均繊維径は0.3μmであり、繊維径0.5μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域であった。また、不織布の厚みは35μmであり、目付は2.5g/m2であった。得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0041】
[実施例8]
キトサンを30質量部とし、ギ酸を1980質量部とした以外は、実施例3と同様にして均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を実施例3と同様にして静電紡糸し、抗菌不織布を得た。
得られた不織布の平均繊維径は0.3μmであり、繊維径0.5μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域であった。また、不織布の厚みは35μmであり、目付は2.5g/m2であった。得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0042】
[実施例9]
キトサンを0.5質量部とし、ギ酸を33質量部とし、さらにジメチルホルムアミドをジメチルアセトアミドに置き換えた以外は、実施例3と同様にして均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を実施例3と同様にして静電紡糸し、抗菌不織布を得た。
得られた不織布の平均繊維径は0.4μmであり、繊維径0.8μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域であった。また、不織布の厚みは100μmであり、目付は10g/m2であった。得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を図6に示す。
【0043】
[実施例10]
キトサンを0.5質量部とし、ギ酸を33質量部とし、さらにジメチルホルムアミドをクロロホルム900質量部に置き換えた以外は、実施例3と同様にして均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を実施例3と同様にして静電紡糸し、抗菌不織布を得た。
得られた不織布の平均繊維径は2μmであり、繊維径10μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域を含むものであった。また、不織布の厚みは200μmであり、目付は35g/m2であった。得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を図7に示す。
【0044】
[実施例11]
キトサンを0.5質量部とし、ギ酸を33質量部とし、さらにジメチルホルムアミドを塩化メチレン900質量部に置き換えた以外は、実施例3同様にして均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を実施例3と同様にして静電紡糸し、抗菌不織布を得た。
得られた不織布の平均繊維径は2μmであり、繊維径10μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域を含むものであった。また、不織布の厚みは200μmであり、目付は35g/m2であった。得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を図8に示す。
【0045】
[実施例12]
ポリ乳酸樹脂(LACEA H280、三井化学(株)製)100質量部とキトサン((株)キミカ製、脱アセチル化75〜85%)0.5質量部とを、60℃に加温下、600質量部のギ酸中に加え、ポリ乳酸とキトサンとを溶解させて均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を実施例3と同様にして静電紡糸し、抗菌不織布を得た。
得られた不織布の平均繊維径は0.4μmであり、繊維径0.8μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域であった。また、不織布の厚みは100μmであり、目付は10g/m2であった。得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を図9に示す。
【0046】
[比較例1]
ポリ乳酸樹脂(LACEA H280、三井化学(株)製)100質量部とジメチルアセトアミド300質量部とを混合し、60℃でポリ乳酸を溶解させてポリ乳酸溶液を作成した。
得られたポリ乳酸溶液を、ガラス板上にナイフコータにてキャストし、60℃の真空乾燥機にて10時間乾燥を行い、厚み100μmのフィルムを得た。
【0047】
[比較例2]
キトサン((株)キミカ製、脱アセチル化75〜85%)100部とギ酸200部と蒸留水19700部とを混合し、室温で10時間以上攪拌してキトサンを溶解させた。
得られた0.5質量%キトサン酸水溶液に、市販のポリ乳酸不織布(テラマック ユニチカ社製)を浸し、室温で乾燥させた。乾燥後、70℃で30分間の熱処理を施し、抗菌不織布を得た。コーティング処理を行う前後での重量差から求めたキトサンの乾燥付着量は、約1.5質量%であった。
【0048】
[比較例3]
市販のポリプロピレン不織布(ストラテック、出光テック(株)製、平均繊維系4μm)を用いた以外は、比較例2と同様な方法でコーティング処理を行い、抗菌不織布を得た。コーティング処理を行う前後での重量差から求めたキトサンの乾燥付着量は、約1.5質量%であった。
【0049】
[比較例4]
キトサンを55質量部とし、ギ酸を3630質量部とした以外は、実施例3と同様にして、均一透明液状の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を実施例3と同様にして静電紡糸し、抗菌不織布を得た。
得られた不織布の平均繊維径は0.2μmであり、繊維径0.5μm以上の繊維は観察されず、不織布を構成する繊維はナノファイバーの領域であった。また、不織布の厚みは35μmであり、目付は1.5g/m2であった。
【0050】
上記実施例1〜12および比較例1〜4で得られたフィルム、不織布について、上述の抗菌性能測定試験を行った結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
次に、上記実施例1〜12および比較例1〜4で得られたフィルム、不織布について、上述の生分解性能測定試験を行った結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
また、上記実施例3〜12および比較例2〜4で得られた不織布について上述の風合いを、上記実施例3〜12および比較例4で得られた不織布について上述の紡糸性をそれぞれ評価した結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
表1に示されるように、実施例1〜12で得られた本発明の抗菌フィルムおよび不織布は、比較例1〜3のポリ乳酸のみからなるフィルムおよび市販のポリ乳酸不織布にキトサンを被覆したものと比べ、抗菌性能に格段に優れていることがわかる。
表2に示されるように、実施例1〜12で得られた本発明の抗菌フィルムおよび不織布は、良好な生分解性を示すことがわかる。特に実施例3〜12の抗菌不織布は、比較例2の市販のポリ乳酸不織布にキトサンを被覆したものと比べても生分解性に格段に優れていることがわかる。
表3に示されるように、実施例3〜12で得られた本発明の不織布は、比較例の不織布に比べて風合いが同等以上であり、特にキトサンがポリ乳酸に対して0.5質量%以下で、かつポリ乳酸溶液の溶媒に酸アミド系溶媒を用いた場合に格段に優れたものになることがわかる。また、ポリ乳酸溶液の溶媒に酸アミド系溶媒を用いた場合には、静電紡糸法における紡糸性も良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例3で得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】実施例4で得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】実施例5で得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】実施例7で得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図5】実施例8で得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図6】実施例9で得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図7】実施例10で得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図8】実施例11で得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図9】実施例12で得られた抗菌不織布の電子顕微鏡写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリエステル100質量部と、アミノ多糖類0.01〜50質量部とを含むことを特徴とする抗菌・消臭物品用樹脂組成物。
【請求項2】
前記生分解性ポリエステルと前記アミノ多糖類とをそれぞれ固体状態で混合した後、加熱、混練して調製された請求項1記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物。
【請求項3】
前記生分解性ポリエステル中に、前記アミノ多糖類が均一に分散している請求項1または2記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物。
【請求項4】
前記生分解性ポリエステルと前記アミノ多糖類のみからなる請求項1〜3のいずれか1項記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、酸アミド系溶媒と、有機酸溶媒とを含む請求項1記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物。
【請求項6】
前記生分解性ポリエステルを酸アミド系溶媒に溶解してなる生分解性ポリエステル含有溶液と、前記アミノ多糖類を前記有機酸溶媒に溶解してなるアミノ多糖類含有溶液とを混合して調製された請求項5記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物。
【請求項7】
さらにギ酸を含み、前記生分解性ポリエステルと前記アミノ多糖類とがギ酸に溶解してなる請求項1記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物。
【請求項8】
均一透明である請求項5〜7のいずれか1項記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物。
【請求項9】
前記アミノ多糖類が、D−グルコサミン単位またはN−アセチル−D−グルコサミン単位を有する請求項1〜8のいずれか1項記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物。
【請求項10】
前記生分解性ポリエステルが、ポリ乳酸である請求項1〜9のいずれか1項記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を紡糸してなる平均繊維径1nm〜10μmの抗菌・消臭性ファイバー。
【請求項12】
請求項11記載の抗菌・消臭性ファイバーからなる抗菌・消臭性不織布。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項記載の抗菌・消臭物品用樹脂組成物を成形してなる抗菌・消臭性フィルム。
【請求項14】
生分解性ポリエステルとアミノ多糖類とを含む樹脂組成物を静電紡糸法により紡糸することを特徴とする抗菌・消臭性不織布の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂組成物が、生分解性ポリエステルを酸アミド系溶媒に溶かした生分解性ポリエステル含有溶液と、前記アミノ多糖類を有機酸に溶かしたアミノ多糖類含有溶液とを混合して調製された請求項14記載の抗菌・消臭性不織布の製造方法。
【請求項16】
前記樹脂組成物が、前記生分解性ポリエステルと前記アミノ多糖類とをギ酸に溶かして調製された請求項14記載の抗菌・消臭性不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−127496(P2008−127496A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315713(P2006−315713)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】