説明

抗菌剤、それを含む樹脂組成物及び成形品

【課題】 抗菌性能とともに、耐水性に優れた抗菌性能を有するリン酸塩系ガラスを含む抗菌剤、該抗菌剤を含む樹脂組成物、及び該樹脂組成物からなる成形品を提供する。
【解決手段】 酸化物基準のモル%表示で、P:20〜40%;ZnO:55〜65%;SO:0.5〜18%;LiO+NaO+KO:3〜20%(但し、LiO:0〜5%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%);AgO若しくはCuO:0.05〜10%;Al:0〜5%;MgO:0〜10%;CaO:0〜10%;BaO:0〜10%、及びSnO:0〜10%を有するリン酸塩系ガラスを含むことを特徴とする抗菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀又は銅を含有したリン酸塩系ガラスを含む抗菌剤、該抗菌剤を含む樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、長時間の高湿の条件下におかれる樹脂製品には、細菌や黴の増殖をおさえるために、樹脂に抗菌剤が添加、含有されている。これらに使用される無機系の抗菌剤としては、酸化銀を利用したものが多く用いられており、例えば、酸化銀を担持させたゼオライト粉末や、組成中に酸化銀を含む溶解性ガラス粉末等が知られている。酸化銀含有ガラス粉末は、長期間使用すると紫外線や熱等の作用で変色する傾向がある。この傾向は樹脂製品が白色や透明である場合には特に問題になりやすい。特許文献1及び特許文献2には、上記の問題点を解決するガラス抗菌剤が開示されている。
【0003】
しかしながら、これらの従来知られるガラス抗菌剤は、その製造過程において、1000℃以上の溶解温度が必要であった。このような製造過程において高温で溶解する場合には、ガラス成分の一部が揮散しガラス組成が変動しやすくなったり、NOやSO等の腐食性ガスの揮散が増える傾向にあり、また、設備の金属部分の腐食や揮発が増大する可能性が高くなるなどの問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−267749号公報
【特許文献2】特開2005−22916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐水性や耐光性に優れた抗菌性能を有するとともに、比較的低い溶解温度で製造できるので経済的に製造することができる、銀又は銅を含有するリン酸塩系の新規なガラス抗菌剤、該抗菌剤を含む樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、ガラス組成として、ZnO、Pを特定割合で含み、加えて、SO及びアルカリ金属である、LiO、NaO、及びKOをそれぞれ特定割合で含有し、且つ銀又は銅を含有するリン酸塩系のガラスが、耐水性や耐光性に優れた抗菌性能を有するとともに、1000℃未満の溶融温度で溶解することにより得られことを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、かかる新規な知見に基づき本発明に到達したものであり、下記を
特徴とする要旨を有する。
1. 酸化物基準のモル%表示で、P:20〜40%;ZnO:55〜65%;SO:0.5〜18%;LiO+NaO+KO:3〜20%(但し、LiO:0〜5%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%);AgO若しくはCuO:0.05〜10%;Al:0〜5%;MgO:0〜10%;CaO:0〜10%;BaO:0〜10%、及びSnO:0〜10%を有するリン酸塩系ガラスを含むことを特徴とする抗菌剤。
2. AgO:0.05〜1%若しくはCuO:0.1〜10%を有するリン酸塩系ガラスを含む、上記1に記載の抗菌剤。
3. 樹脂100質量部に対して0.05〜20質量部添加されて使用される、上記1又は2に記載の抗菌剤。
4. 抗菌剤を含む樹脂組成物であって、抗菌剤がP:20〜40%;ZnO:55〜65%;SO:0.5〜18%;LiO+NaO+KO:3〜20%(但し、LiO:0〜5%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%);AgO若しくはCuO:0.05〜10%;Al:0〜5%;MgO:0〜10%;CaO:0〜10%;BaO:0〜10%、及びSnO:0〜10%を有するリン酸塩系ガラスであることを特徴とする樹脂組成物。
5. 抗菌剤が、AgO:0.05〜1%若しくはCuO:0.1〜10%を有するリン酸塩系ガラスである、上記4に記載の抗菌剤。
6. リン酸塩系ガラスが、0.5〜20μmの平均粒径(D50)を有する粉末である上記4又は5に記載の樹脂組成物。
7. 樹脂100質量部に対してリン酸塩系ガラスが0.05〜20質量部を含有する上記4〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
8. 樹脂が、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム、又はエラストマーであることを特徴とする上記4〜7のいずれかに記載の樹脂組成物。
9. 上記4〜8のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐水性や耐光性に優れた抗菌性能を有するとともに、経済的に製造することができる、銀又は銅を含有したリン酸塩系の新規なガラス抗菌剤、該抗菌剤を含む樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる成形品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明でおける抗菌剤を構成するリン酸塩系のガラスは、上記のように、酸化物基準のモル%表示(以下、特に断りのない限り、「%」はモル%である)で、P:20〜40%;ZnO:55〜65%;SO:0.5〜18%;LiO+NaO+KO:3〜20%(但し、LiO:0〜5%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%);AgO若しくはCuO:0.05〜10%;Al:0〜5%;MgO:0〜10%;CaO:0〜10%;BaO:0〜10%、及びSnO:0〜10%を有する。
【0010】
なかでも、本発明でおける抗菌剤を構成する好ましいリン酸塩系のガラスは、P:25〜35%;ZnO:55〜60%;SO:1〜12%;LiO+NaO+KO:5〜10%(但し、LiO:0〜5%、NaO:4〜9%、KO:1〜6%);AgO若しくはCuO:0.1〜5%;Al:0〜2%;MgO:0〜1%;CaO:0〜5%;BaO:0〜2%、及びSnO:0〜2%を有する。
【0011】
本発明のリン酸塩系のガラスにおける必須の成分は、P、ZnO、SO、アルカリ金属成分および、AgO又はCuOである。このうち、Pは、ガラス形成に必須な成分であり、その含有量は20〜40%で、好ましくは25〜35%で、最も好ましくは27〜33%である。Pが20%よりも少なくなるとガラス化し難くなり、均質なガラスが得られなくなり、一方、40%より多いと、ガラスとしての耐水性が低下するため好ましくない。また、ZnOは、抗菌作用を示す成分であり、その含有量は55〜65%で、好ましくは55〜60%である。ZnOが55%よりも少なくなると抗菌作用が弱くなり、65%を越えるとガラス化が困難になる。
【0012】
本発明のリン酸塩系ガラスにおいて、SOはガラスの溶解性に影響し、かつ抗菌性にも影響与える重要な成分である。その含有量は0.5〜18%、好ましくは1〜12%である。SOが0.5%よりも少なくなると得られるガラスの溶解性が小さくなり、抗菌作用が弱くなる。また、ガラス溶融時の温度を1000℃未満にすることが困難となり好ましく無い。一方、含有量が18%を越えるとガラスとしての耐水性が著しく低下するため、ガラスの溶解性を制御することが困難となり不都合である。
【0013】
また、アルカリ金属であるLiO、NaO、及びKOは、ガラスの溶融を助ける
成分である。その含有量は、LiO+NaO+KOの合計で、3〜20%であり、好ましくは5〜10%である。該合計の含有量が3%より少ない場合には、ガラスの溶融が不十分となり、ガラス化し難くなり、一方、20%より多い場合には、ガラスとしての耐水性が著しく低下するため好ましくない。なお、アルカリ金属の個々の成分としては、LiOが0〜15%、好ましくは0〜5%であり、NaOが3〜15%、好ましくは4〜9%であり及びKOは0〜10%、好ましくは1〜6%である。
【0014】
本発明の一形態のリン酸塩系ガラスにおいて、AgOは抗菌性を発現する重要な成分であり、その含有量は、0.05〜1%である。含有量が0.05%より少ない場合には、抗菌性の発現が不十分となり、一方、1%より多い場合には、樹脂組成物とした場合に赤味の発色があるため好ましくなく、更に得られるガラスが高価となり好ましくない。なかでも、Ag2Oの含有量は、0.1〜0.6%が好ましく、0.1〜0.3%が特に好ましい。
【0015】
本発明の別形態のリン酸塩系ガラスにおいて、CuOは抗菌性を発現する重要な成分であり、その含有量は、0.1〜10%である。含有量が0.1%より少ない場合には、抗菌性の発現が不十分となり、一方、10%より多い場合には、ガラスの青色の着色が濃くなり、成形品の用途によって青色の着色が好ましくない場合がある。なかでも、CuOの含有量は、0.2〜5%が好ましく、0.2〜3.5%が特に好ましい。
【0016】
本発明のリン酸塩系ガラスにおける任意の成分について説明すると、Alは、ガラスの化学耐久性を向上させるために添加する成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%である。Alが5%を超えると、ガラスの溶融がより困難となり均質なガラスが得られないためである。更にAlの含有量は0.1%未満であることが、ガラスの溶融温度を上昇させないために好ましい。
【0017】
また、CaOは、ガラスの溶融を助ける成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0〜5%であり、その含有量が15%を越えると、ガラスが失透しやすくなるので好ましくない。BaOは、ガラスの溶融を助ける成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0〜2%である。MgOは、ガラスの溶融を助ける成分であり、また耐水性を向上させる成分である。その含有量は0〜15%、好ましくは0〜1%である。SnOは、ガラスの耐久性を向上させる機能を有する成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0〜1%である。更に、CaO,BaO,MgOおよびSnOの含有量は、いずれも、0.1%未満であることが、ガラスの溶融温度を上昇させるために好ましい。
【0018】
本発明の抗菌剤に使用されるリン酸塩系ガラスは、上記以外にB、Sr、Ti、Fe、Co、Ni、Zr、Moなどの金属酸化物をガラス組成の成分として含有してもよい。
【0019】
本発明のリン酸塩系ガラスの形態は、繊維、粉末、フレーク、バルーン(中空体)など適宜選ぶことができる。繊維の形態の場合、その太さが好ましくは1〜30μmであり、特には6〜23μmである。本発明のリン酸塩系ガラスは直接繊維化してもよいし、一旦カレットを製造し、該カレットを繊維化してもよい。かかる本発明のリン酸塩系ガラスの繊維は抗菌性繊維として使用することができる。
【0020】
また、本発明のリン酸塩系ガラスの形態が粉末の場合、比表面積が大きくなり、高い抗菌効果が得られるので好ましい。粉末の場合、平均粒径(D50)が0.5〜20μm、好ましくは1〜10μmが好適である。平均粒径が0.5μmより小さいとガラス粉末が製造し難くなり、20μmより大きくなると粒子が大きいため、樹脂組成物の表面外観性が劣るため好ましくない。
【0021】
本発明の抗菌剤のリン酸塩系ガラスは、Znイオン、AgイオンまたはCuイオンの溶出を通じて抗菌性を発現することから、ガラスとしての耐水性と、抗菌性を発現するための溶出性とを両立する必要があり、耐水性は好ましくは0.02〜3.0質量%、特に好ましくは0.02〜1.0質量%が好適である。耐水性が0.02%よりも小さいと、Znイオン、AgイオンまたはCuイオンの溶出量が少なく、抗菌性を十分に発揮することが困難となる。また、耐水性が3.0%よりも大きいと、ガラスとしての耐水性が不十分となり、吸湿しやすくなり、ガラスの長期保存や取扱い性が困難になったりするので好ましくない。
【0022】
本発明の抗菌剤を構成するリン酸塩系ガラスは、既知の方法及び装置を用いて、所望と
するガラス組成となるように、ガラス原料を混合し溶融させてから固化させることにより製造される。リン酸塩系ガラスの粉末は、ガラスのカレットを作製し、所定の平均粒径となるように粉砕することにより得ることができる。リン酸塩系ガラスのカレットを粉砕する方法として、媒体撹拌ミル、コロイドミル、湿式ボールミルなどの湿式粉砕、ジェットミル、乾式ボールミル、ロールクラッシャーなどの乾式粉砕などが挙げられ、複数の粉砕方法を組合せて用いてもよい。
【0023】
上記の粉砕方法を用いて、所定の平均粒径を有するガラス粉末を得ることができる。また、粉砕して得られるガラス粉末の平均粒径が上記の好ましい範囲になるように、分級処理を行ってもよい。分級処理としては特に限定されないが、風力式分級機や篩い分け装置等を用いるのが好ましい。
【0024】
本発明のリン酸塩系ガラスの抗菌剤は、熱硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、エラストマーなどに各種の材料に添加又は充填して使用できる。なかでも、樹脂に充填する場合には、優れた抗菌性を有する樹脂組成物を与える。好ましい樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;AS(アクリロニトリルースチレン共重合体)樹脂;ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂;ポリウレタン系、ポリエステル系などの熱可塑性エラストマー;PBT,PETなどの熱可塑性ポリエステル系樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;アクリル系樹脂;フェノール系樹脂;エポキシ系樹脂;メラミン樹脂;シリコーン系樹脂が挙げられる。これら樹脂のなかでも、特に衛生容器等に用いられるポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ABS樹脂や、シーリング材等に使用されるシリコーン系樹脂が好ましい。
【0025】
本発明の樹脂組成物における抗菌剤の含有量は、樹脂100質量部に対して0.05〜20質量部、好ましくは0.1〜15質量部であり、特に0.1〜5質量部であることが好ましい。含有量が、0.1質量部より少ないと樹脂に十分な抗菌性を付与し難くなる。また、含有量が20質量部を越えると抗菌力は殆ど変わらなくなり、経済的でないため好ましくない。
【0026】
更に、本発明で抗菌剤として使用されるリン酸塩系ガラスは、カップリング剤を含む処理剤で表面処理することもできる。この表面処理により、リン酸塩系ガラスと樹脂とから樹脂組成物を得る際や、この樹脂組成物を成形する際に、リン酸塩系ガラスと樹脂との接着性を向上させる。また、リン酸塩系ガラスを取り扱う上で、静電気の発生を抑えてハンドリング性を改善することもできる。また、樹脂とリン酸塩系ガラスとの接着性が向上することにより、樹脂組成物の機械的物性が改善できる。
【0027】
上記カップリング剤としては、シラン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤などを使用できる。特に、樹脂とガラス粉末との接着性が良好である点からシラン系カップリング剤を用いるのが好ましい。
【0028】
また、上記カップリング剤の成分のリン酸源ガラスへの付与量は、使用される樹脂やリン酸源ガラスなどの種類に応じて選択されるが、付与後のリン酸塩系ガラスの質量を基準にして固形分として、好ましくは0.1〜4質量%、特に好ましくは0.2〜2質量%である。付与量が0.1質量%より少ないとガラスを取り扱う上でのハンドリング性及び樹脂との接着性を充分に改善することが難しくなるので好ましくない。また、付与量が4質量%より多いと、表面処理時にガラスの粉末が2次凝集して固まりになるため前記樹脂への分散を低下させることになり易いので好ましくない。
【0029】
本発明の抗菌剤を含む樹脂組成物は、樹脂、リン酸塩系ガラス、及び必要に応じて配合される種々の添加剤とを、混合することにより得られる。特に、樹脂が熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーである場合には、各種成分を混合するとともに溶融(例えば溶融混練)してもよく、また、各種成分の混合後の溶融混練などの従来の樹脂組成物の製造方法と同様の方法により成形材料としての樹脂組成物を得ることができる。配合される樹脂の形態は、特に制限なく、ペレット状、粒状、粉末状、繊維状などの種々の形態を用いることができる。上記各成分を溶融混練した後、押出成形してペレット状又は粒状の成形材料とすることが好ましい。
【0030】
成形材料である本発明の抗菌剤を含む樹脂組成物は、従来の樹脂組成物の同様に各種の方法によって成形して成形品とすることができる。その成形方法としては、プレス成形、押出し成形、カレンダ成形、射出成形、引き抜き成形などがある。このような成形方法により、成形品である本発明の樹脂組成物が得られる。また、成形材料である本発明の樹脂組成物を経ることなく、樹脂、リン酸塩系ガラス、及び、さらに必要に応じてそれら以外の添加剤とを、射出成形機や押出し成形機などの成形機中で溶融混合するとともにその溶融混合物を成形して、本発明の成形品を得ることもできる。
【0031】
例えば、不飽和ポリエステル樹脂などの硬化性樹脂と、硬化剤、低収縮化剤、フィラー、添加剤および増粘剤とを混合したものをガラス繊維などの繊維状補強材に含浸あるいは混練させる方法は、既知の方法、すなわちシートモールディングコンパウンド(SMC)やバルクモールディングコンパウンド(BMC)の製造方法を使用することができる。前記製造方法により得られる硬化性樹脂組成物、SMC、BMCは、これを既知の方法で製品の形状に成形し、例えば120〜150℃に加熱し硬化させ、浴槽製品や水まわり製品等の成形品が製造される。成形品としては、例えば、便器、浴槽、洗面台などの衛生関連製品、台所製品、文具、玩具などが挙げられる。
【0032】
本発明の抗菌剤は上記に限られるものではなく、フィルム材、シート材、電化製品のハウジング材、紙製品、繊維製品、塗料などの各種の材料に添加して用いることができる。また、例えば、ガラスやセラミックスの抗菌性釉薬、金属の抗菌性塗料などの種々の抗菌用途に使用可能である。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されないことはもちろんである。
なお、以下における各種の特性値の測定はそれぞれ次のように行った。
(1)初期の抗菌性試験:
a)日本化学療法学会の抗菌力評価試験法の最小発育阻止濃度測定法I(2003年度版)に従い、液体培地希釈法によるMIC測定法(以下、MIC法とする)で抗菌性試験を実施した。テスト細菌として黄色ぶどう球菌及び大腸菌を用いた。抗菌性の評価は、MIC法の判定に従い、試験菌の発育が認められない試料の最低濃度を最小発育阻止濃度として求め、800μg/ml以下を合格とした。
(2)耐光性試験後の抗菌性試験:
JIS−B7753のサンシャインカーボンアーク灯式の耐光性試験装置を用い、水の噴霧無しの63±3℃で80時間の条件で処理した試料について、JIS Z2801 5.2により、抗菌加工製品規格に従い、テスト細菌として黄色ぶどう球菌及び大腸菌を用いて抗菌性試験を実施した(以下、JIS法とする)。抗菌性の評価は、該JIS法に定義される抗菌活性値で判定した。抗菌活性値2.0以上を抗菌性があると評価した。
(3)ガラスの耐水性:
ガラスカレット(約15mm角で厚さ約6mmの板状体)を試料として秤量し、90℃の熱湯浴に浸漬し、6時間後に浴から取出し、常温で乾燥後、試料を秤量し、質量損失を測定した。浸漬前の質量に対する質量損失の割合を百分率として算出して、0.02〜1.0%を○、1.0〜3.0%を△、0.02%未満及び3.0%超を×としてランク評価した。
(4)樹脂組成物の色調評価:
樹脂組成物の成形品の色調は、日本電色株式会社製Σ90を用い、JIS‐K‐7105方法に準じて、反射法によって厚さ2mmの試験片を測定した。初期の樹脂単体の色調を基準として、色差(△E)を求めた。
【0034】
実施例1〜4及び比較例1〜5(リン酸塩ガラス粉末の調製):
、ZnO、SO、LiO、NaO、KO、B、Al、AgO及びCuOからなるガラス組成が表1に示す組成(モル%表示)になるように、ガラス原料を混合し溶融させて固化させることにより、リン酸塩系ガラスからなる実施例1〜4及び比較例1〜5のカレットを作製した。
【0035】
表1には、実施例1〜4及び比較例1〜5のリン酸塩系ガラスについて、溶融温度、失透現象の有無、及び耐水性を示し、さらには、黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対する評価の結果も示した。
【0036】
また、リン酸塩系ガラスからなる実施例1〜4及び比較例5のカレットをボールミルにより粉砕し、平均粒径(D50)が2μmのガラス粉末を得た。なお、表1中の比較例3における耐水性および抗菌性の結果についての「―」は失透したため測定しなかったことを示す。
【0037】
本発明のリン酸塩系ガラスである実施例1〜4のガラスは、いずれも溶解温度が1000℃未満で得られ、抗菌性試験で最小発育阻止濃度が800μg/ml以下で合格であった。AgまたはCuを含まない比較例1、2および3のガラスは抗菌性が不充分であったり、耐水性が不充分であったりした。また、Agを含有する本発明の組成範囲外の比較例4のガラスは、失透したガラスが得られた。
【0038】
実施例5〜11及び比較例5(ポリプロピレン樹脂組成物):
ポリプロピレン樹脂(PP:J−700GP、プライムポリマー社製)と、上記で得られた実施例1〜4又は比較例5のリン酸塩系ガラスのガラス粉末(平均粒径2μm)とを、表2に示す割合にて混合した後、シリンダー設定温度200℃の2軸押出し機用いて溶融混練し、実施例5〜11及び比較例6〜7のペレット状の各樹脂組成物を得た。これらの各樹脂組成物を80℃で5時間乾燥後、射出成形機を用い、シリンダー温度200℃、金型温度50℃にて成形することにより、実施例5〜11及び比較例6〜7のポリプロピレン樹脂製の平板成形品(厚さ2mm)を得た。
【0039】
これらの成形品から試験片を切り出し、初期の抗菌性試験及び耐光性試験後の抗菌性試験を行った。その結果を表2に示した。また、成形品の色調評価を行い、それらの評価結果を表3に示す。なお、リン酸塩系ガラスを含まない上記ポリプロビンレン樹脂単体の成形品を参考例として用い、抗菌性試験の対照サンプル及び色調評価のブランクとした。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

本発明のリン酸塩系ガラスを含む実施例5〜11は、初期及び耐光性試験後の抗菌性試験で抗菌活性値がそれぞれ、いずれも2以上を示した。
【0043】
また、本発明の組成範囲外のAg含有量の多いリン酸塩系ガラスを含む比較例6及び7は、初期及び耐光性試験後の抗菌性試験では抗菌活性値がそれぞれ、いずれも2以上を示したものの、耐水性試験後の成形品の色差が大きく、かつ、変色があった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の抗菌剤は、抗菌性能とともに、耐水性に優れた、またコストも安いので各種の分野に好適に使用でき。それらの例としては、便器、浴槽、洗面台などの衛生関連製品、台所製品、文具、玩具、電化製品、紙製品、繊維製品などの分野が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%表示で、P:20〜40%;ZnO:55〜65%;SO:0.5〜18%;LiO+NaO+KO:3〜20%(但し、LiO:0〜5%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%);AgO若しくはCuO:0.05〜10%;Al:0〜5%;MgO:0〜10%;CaO:0〜10%;BaO:0〜10%、及びSnO:0〜10%を有するリン酸塩系ガラスを含むことを特徴とする抗菌剤。
【請求項2】
AgO:0.05〜1%若しくはCuO:0.1〜10%を有するリン酸塩系ガラスを含む、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
樹脂100質量部に対して0.05〜20質量部添加されて使用される、請求項1又は2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
抗菌剤を含む樹脂組成物であって、抗菌剤がP:20〜40%;ZnO:55〜65%;SO:0.5〜18%;LiO+NaO+KO:3〜20%(但し、LiO:0〜5%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%);AgO若しくはCuO:0.05〜10%;Al:0〜5%;MgO:0〜10%;CaO:0〜10%;BaO:0〜10%、及びSnO:0〜10%を有するリン酸塩系ガラスであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項5】
抗菌剤が、AgO:0.05〜1%若しくはCuO:0.1〜10%を有するリン酸塩系ガラスである、請求項4に記載の抗菌剤。
【請求項6】
リン酸塩系ガラスが、0.5〜20μmの平均粒径(D50)を有する粉末である請求
項4又は5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
樹脂100質量部に対してリン酸塩系ガラスが0.05〜20質量部を含有する請求項4〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
樹脂が、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム、又はエラストマーであることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項4〜8のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2008−231005(P2008−231005A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71358(P2007−71358)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】