説明

抗菌剤

【課題】
本発明の目的は、多種類の微生物に対して有効な優れた抗菌剤を提供することである。
【解決手段】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、下記一般式(1)で示される化合物が優れた抗菌活性を有していることを見出し、本発明を完成した。
【化1】


(式(1)において、R1は、炭素数1〜18の分岐を有してもよいアルキル基を示し、R2は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェノール性水酸基の保護基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、医薬部外品等の分野で有用なフラン化合物を含む抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品や化粧品などの分野で、細菌や真菌(カビ)の有害微生物による種々な感染症の予防や治療、医療用具の滅菌、食品・化粧品工場などの無菌性が要求される場所の殺菌・消毒、製品の品質低下、劣化や腐敗など、有害微生物の繁殖や増殖を制御する技術は、生活環境の多様化と生活意識の変化に伴ってそのニーズが広がり、急速な進歩を遂げている。
有害微生物の制御方法には、紫外線やγ線などを使う方法、加熱やろ過技術などを使った、いわゆる物理的な方法や、種々な抗菌・抗カビ剤、防腐剤を使用する化学的な方法が、従来から行われている。例えば、医薬品として、あるいは医薬品や化粧品などの防腐剤として、ソルビン酸、デヒドロ酢酸及びその塩、安息香酸及びその塩、パラオキシ安息香酸エステル誘導体(パラベン)、イソプロピルメチルフェノール、フェノキシエタノール、塩化ベンザルコニウム等の第4アンモニウム類、塩酸アルキルアミノエチルグリシン、塩化ステアリルヒドロキシエチルベタインナトリウム等の両面界面活性剤、感光素、ヨウ素などが挙げらる。
【0003】
しかしながら、上記のような防腐剤は安全性の点で問題があるため、添加量や対象となる製品に制限があり、実際に有効な抗菌活性を示す量を配合できないことも多い。例えばパラベンは、皮膚刺激性や感作性の問題から、化粧品などへの配合量が1.0%に定められており、さらには環境ホルモン作用を示すとの指摘もある(例えば非特許文献1及び2)。
また、近年の安全性指向の高まりから、より安全性の高い新規な抗菌剤及び抗カビ剤の研究開発や、抗菌活性の効力を高めることで使用量を減らすなどの試みが数々行われている(例えば特許文献1〜5)。しかしながら、十分な抗菌活性や防腐力を得るのは難しく、なかでも真菌に対する防腐力を高めることは困難である。
有力な抗カビ活性を持つ抗菌剤として、カワラヨモギ(Artemisia cappillaris Thunb.)から抽出されるカピリンが挙げられるが(例えば非特許文献3)、特異な構造を有する物質であるため、安価に安定的に供給することは難しい。
このように、抗菌・抗カビ剤による有害微生物の制御は、衣食住をはじめとする生活関連分野から、プラスチックス製品や電子部品などの産業関連分野においても、きわめて広範囲にわたって応用展開されながら、より有効で安全な抗菌剤・抗カビ剤の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−73372号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平11−322591号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平11−310506号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平10−53510号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2004−352688号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】厚生省、「第12回内分泌かく乱物質の健康影響に関する討論会」議事録、p.27−28
【非特許文献2】大石眞之、「パラベンの雄ラット性腺系への影響」、環境ホルモン学会第3回研究発表会要旨集、2000年、p.279
【非特許文献3】大嶋悟士、他3名、「カワラヨモギの抗黴作用と化粧品用抗菌剤への応用」、FRAGRANCE JOURNAL、2002年、p.67−71
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、以上のような状況をふまえ、多種類の微生物に対して有効な優れた抗菌剤を提供することである。
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、下記一般式(1)で示される化合物が優れた抗菌活性を有していることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
【化1】

【0008】
式(1)において、R1は、炭素数1〜18の分岐を有してもよいアルキル基を示し、R2は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェノール性水酸基の保護基を示す。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一般式(1)で表わされる化合物は優れた抗菌活性を有しており、食品、医薬品、医薬部外品及び化粧品等の分野に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、一般式(1)で示される化合物のR1は炭素数1〜18のアルキル基であり、当該アルキル基は分岐を有するもの又は有しないもののいずれであってもよい。かかるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルへキシル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、及びステアリル基等が挙げられる。より好ましいアルキル基は、直鎖アルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、及びデシル基が挙げられる。
【0011】
本発明において、一般式(1)のR2は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェノール性水酸基の保護基である。このR2の炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基及びプロピル基が挙げられる。またこのR2のフェノール性水酸基の保護基としては、メトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、ベンジル基及び4−メトキシベンジル基等のエーテル系の保護基、トリメチルシリル基及びt−ブチルジメチルシリル基等のシリル系の保護基、並びにアセチル基、プロピオニル基、ブチロイル基、イソブチロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基及びトリオイル基等のエステル系の保護基等が挙げられ、好ましくはエステル系の保護基である。一般式(1)のR2としてはメチル基又はエチル基が好ましく、更に好ましくはメチル基である。
【0012】
本発明において、一般式(1)のフェノールは、フェノール性水酸基の保護基が結合していても良い。このフェノール性水酸基の保護基としては、上記記載のものが例示できる。
【0013】
○一般式(1)で表される化合物の合成について
一般式(1)で表わされる化合物は、例えば特開2004−315498号に記載の方法に準じて製造することができる。
【0014】
本発明において、一般式(1)で表わされる化合物は、後記する実施例からも明らかなように、抗菌作用を有するため、食品、医薬品、医薬部外品や化粧品等の処方に配合して使用することができる。
【0015】
本発明において、一般式(1)で表される化合物の含有量および使用量は、使用形態や使用剤型、使用の対象となる微生物の種類、それらの予想される発生時期および期間等の条件に応じて、広範囲に変えることができる。
【0016】
式(1)で表される化合物は、単独で優れた抗菌・抗真菌活性を発揮するものではあるが、通常、式(1)で表される化合物を抗菌剤として使用する際には、単独で、又はこれらを組み合わせて用いる時、その濃度は抗菌剤の総量で抗菌製剤中0.001〜10重量%であることが好ましい。0.001重量%未満では本発明の効果が十分得られず、10重量%を越えると製剤上あるいはコスト的に不利である。
しかしながら特別な場合は、これらの範囲を超えるか、または下回ることも可能である。例えば他の抗菌剤や抗カビ剤との併用により、相乗効果や相加効果が認められる場合にはさらに低用量で使用できる。
【0017】
本発明において、抗菌剤としての形態には特に制限はなく、粉末状、顆粒状、錠剤状、溶液状、乳濁液状、懸濁液状等、任意の形態で使用することができる。式(1)化合物を、適宜固体又は液体に担持させて使用することも、また必要に応じて界面活性剤等の他の成分を配合して、エマルジョン、水和剤、粒状材、粉末、スプレー及びエアゾール剤等としても使用できる。さらに抗菌剤の形態に応じて通常の有効基剤を用いてもよく、例えば、トラネキサム酸、グリチルリチン酸ジカリウム、ビタミンE、アズレンなどの薬剤やその他界面活性剤、溶剤、pH調整剤、防腐剤、甘味剤、香料、粘結剤、研磨剤等を配合することもできる。
たとえば、液状の形態で一液製剤化して用いる場合、一液製剤化する方法には特に制限はなく、溶媒に溶解して一液製剤化することができ、水に懸濁して一液製剤化することもできる。
【0018】
式(1)化合物を溶媒に溶解して一液製剤化する場合、使用する溶媒としては、殺菌または防腐の対象物が水系の場合には、有効成分の溶解、分散性を考慮して水または親水性有機溶媒を用いることが好ましい。親水性有機溶媒としては、たとえば、ジメチルホルムアミド等のアミド類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、メチルアセテート、エチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、2−メトキシエチルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、プロピレンカーボネート等のエステル類、炭素数8以下のアルコール類等を挙げることができる。
【0019】
式(1)化合物を水に懸濁して一液製剤化する場合、増粘剤としてキサンタンガム、ラムザンガム、グアーガム等を、分散剤としてノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができる。また、水懸濁剤とするために、ボールミル、アトライター等を用いて湿式粉砕することができる。
【0020】
殺菌または防腐の対象物が、重油スラッジ、切削油、油性塗料等の油系の場合、重油、灯油、スピンドル油等の炭化水素溶媒を用いて一液製剤化することができる。炭化水素溶媒を用いて一液製剤する際には、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることもできる。
【0021】
<実施例>
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、Tsはp−トルエンスルホニル基を示す。
【0022】
<合成例1> 化合物6の合成
○化合物2の合成
下記式(2)で表される化合物1を出発原料として下記式(3)で表される化合物2を合成した。
【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
テトラヒドロフラン350mLに14.4g(79.9mmol)の化合物1、トリエチルアミン22.3mL(160mmol)及びN,N−ジメチルアミノピリジ976mg(7.99mmol)を溶かし、氷冷下でピバロイルクロリド19.7mL(160mmol)を滴下した。そして室温で16時間攪拌後、飽和食塩水100mLで2回洗浄した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。
【0026】
つぎに、得られた残渣をテトラヒドロフラン270mL及びメタノール90mLに溶かし、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム15.7g(87.9mmol)及びテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)923mg(0.799mmol)を加えて4時間還流した。反応後、蒸留水90mLを加えて攪拌した後、4℃で放置した。そして生成した結晶を濾別し回収した。濾液を濃縮した後、酢酸エチルエステル200mLで抽出し、有機相を蒸留水100mLで洗浄した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、酢酸エチルエステル−ヘキサン混合溶媒から再結晶を行った。得られた結晶を前述の結晶とあわせ、黄色結晶性の化合物を20.3g(収率63%)得た。
【0027】
本品の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、1.36(9H, s), 2.44(3H, s), 3.80(3H, s), 3.93(2H, d), 6.06(1H, dt), 6.33(1H, d), 6.83-6.94(3H, m), 7.33(2H, d), 7.75(2H, d)であった。また、赤外線吸収スペクトル(KBrペレット法)で吸収があった波数(cm-1)は、2980, 1747, 1600, 1508, 1480, 1465, 1420, 1399, 1343, 1314, 1304, 1289, 1269であった。さらに、CHN元素分析の結果は、炭素65.65%、水素6.51%であった。
以上の分析により、得られた化合物が化合物2であることを確認した。
【0028】
○化合物3の合成
続いて化合物2を1−ヘプタナールと反応させることにより、下記式(4)で表される化合物3を合成した。
【0029】
【化4】

【0030】
テトラヒドロフラン50mL及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン10mLの混合溶媒に4.45g(11.4mmol)の化合物2を溶かし、ドライアイス/アセトンで−78℃に冷却した。この溶液に、1.6Mのt−ブチルリチウム/ペンタン溶液7.4mL(11.8mmol)を滴下した。この反応液を同温度で5分間攪拌後、1−ヘプタナール 1.6mL(11.5mmol)を滴下した。滴下後、同温度で10分間攪拌した後、徐々に昇温した。反応溶液の温度が−30℃になったところで、クエン酸1gを含むメタノール2mL溶液を加えて反応を停止させた。この反応混合物に飽和食塩水60mL、蒸留水20mL、及び酢酸エチルエステル20mLを加えて攪拌後、有機相を分取した。水層を酢酸エチルエステル20mLで抽出し、合せた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。有機相から溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行い、淡黄色の高粘度液状の化合物を4.15g(72%)得た。
【0031】
本品の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、0.84-0.87(3H, m), 1.19-1.36(19H, m), 2.42(3H, s), 3.57(1H, d), 3.81(3H, s), 4.50-4.61(1H, m), 5.72(1H, dd), 6.18(1H, d), 6.29(1H, dd), 6.79(1H, d), 6.88(1H, s), 6.91(1H, d), 7.31(2H, d), 7.71(2H, d)であった。また、赤外線吸収スペクトル(KBrペレット法)で吸収があった波数(cm-1)は、3510, 2933, 2337, 1755, 1508, 1268であった。さらに、CHN元素分析の結果は、炭素67.41%、水素7.80%であつた。
以上の分析により、得られた化合物が化合物3であることを確認した。
【0032】
○化合物4の合成
続いて化合物3をフェニルセレニルクロリドと反応させ環化し、下記式(5)で表される化合物4を合成した。
【0033】
【化5】

【0034】
アセトニトリル50mLに3.43g(6.71mmol)の化合物3を溶かし、これにモレキュラーシーブス3A 1g、及びフェニルセレニルクロリド1.35g(7.05mmol)を加え、室温で2.5時間攪拌した。この反応混合物を酢酸エチルエステル50mLで希釈し、飽和食塩水50mLにて2回洗浄し、得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。有機相から溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色の高粘度液状の化合物を4.14g(収率92%)得た。
【0035】
本品の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、0.84-0.89(3H, m), 1.24-1.38(19H, m), 2.36(3H, s), 3.51(1H, dd), 3.72(1H, dd), 3.86(3H, s), 3.92-3.97(1H, m), 4.67(1H, d), 6.89-7.55(12H, m)であった。また、赤外線吸収スペクトル(KBrペレット法)で吸収があった波数(cm-1)は、2932, 1755, 1508, 1464, 1274であった。さらに、質量分析の結果は、M+=673であった。
以上の分析により、得られた化合物が化合物4であることを確認した。
【0036】
○化合物5の合成
続いて化合物4を酸化し、下記式(6)で表される化合物5を調製した。
【0037】
【化6】

【0038】
ジクロロメタン100mLに4.29g(6.36mmol)の化合物4を溶解した。これに対して、氷冷下、あらかじめ調製しておいたm−クロロ過安息香酸1.65g(9.58mmol)をジクロロメタン25mLに溶かした溶液を滴下した。反応液を同温で30分間攪拌後、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液100mL加え、反応を停止させた。反応液から有機相を分取し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。有機相から溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色の高粘度液状の化合物を2.84g(収率87%)得た。
【0039】
本品の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、0.83-0.87(3H,m)、1.18-1.36(19H,m)、2.46(3H,s)、3.77(3H,s)、5.01(1H,m)、5.79(1H,d)、6.66(1H,s)、6.82(1H,d)、6.88(1H,d)、6.98(1H,d)、7.37(2H,d)、7.80(2H,d)であった。また、赤外線吸収スペクトル(KBrペレット法)で吸収があった波数(cm-1)は、2935、1755、1599、1510、1321、1283であった。さらに、CHN元素分析の結果は、炭素67.68%、水素7.44%であった。
以上の分析により、得られた化合物が化合物5であることを確認した。
【0040】
○化合物6の合成
化合物5に対して、アルコール溶媒中で水素化ナトリウムを作用させることで、一般式(1)中のR1がヘキシル基及びR2がメチル基に相当する下記式(7)で表される化合物6を合成した。
【0041】
【化7】

【0042】
t−ブチルアルコール50mLに1.41g(2.74mmol)の化合物5を溶解した。これに対して、あらかじめ調製しておいた水素化ナトリウム548mg(13.7mmol)をt−ブチルアルコール30mLに溶かした溶液を滴下した。反応液を40℃にて4.5時間攪拌後、1M/L塩酸を適量加え反応を停止させた。反応液から溶媒を留去した後、酢酸エチルエステル50mLを加えて抽出し、有機相を飽和食塩水25mLで2回洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。有機相から溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色の高粘度液状の化合物を540mg(収率72%)得た。
【0043】
本品の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、0.88-0.91(3H,m)、1.25-1.39(8H,m)、2.66(2H,t)、3.95(3H,s)、5.59(1H,s)、6.02(1H,d)、6.39(1H,d)、6.80(1H,d)、7.13-7.16(2H,m)であった。また、赤外線吸収スペクトル(KBrペレット法)で吸収があった波数(cm-1)は、3532、2931、1505、1254、1212であった。さらに、さらにCHN元素分析の結果は、炭素74.42%、水素8.08%であった。
以上の分析により、得られた化合物が化合物6であることを確認した。
【0044】
<合成例2> 化合物10の合成
○化合物7の合成
化合物2とプロピオンアルデヒドを反応させ、下記式(8)で表される化合物7を合成した。
【0045】
【化8】

【0046】
テトラヒドロフラン50mL及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン10mLの混合溶媒に4.45g(7.45mmol)の化合物2を溶かし、ドライアイス/アセトンで−78℃に冷却した。この溶液に、1.6Mのt−ブチルリチウム/ペンタン溶液7.4mL(11.8mmol)を滴下した。更に同温度で5分間攪拌後、プロピオンアルデヒド0.87mL(12.1mmol)を滴下した。滴下後、同温度で10分間攪拌した後、徐々に昇温した。反応溶液の温度が−30℃になったところで、クエン酸1gを含むメタノール2mL溶液を加えて反応を停止させた。この反応混合物に飽和食塩水60mL、蒸留水20mL及び酢酸エチルエステル20mLを加えて攪拌後、有機相を分取した。水層を酢酸エチル20mLで抽出し、合せた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。有機相から溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を行い、淡黄色の高粘度液状の化合物を3.72g(収率73%)得た。
本品の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、0.97-1.01(3H, m),1.24-1.44(11H, m),2.43(3H, s),3.71(1H, t),3.80(3H, s), 4.30-4.32(1H, m), 5.72(1H, dd), 6.16(1H, d), 6.78-6.80(2H, m),6.93(1H, d), 7.31(2H, d), 7.71(2H, d)であった。
また、赤外線吸収スペクトル(KBrペレット法)で吸収があった波数(cm-1)は、3511, 2972, 1753, 1598, 1509, 1268, 1124であった。
さらに、CHN元素分析の結果は、炭素65.19%、水素7.00%であった。
以上の分析により、得られた化合物が化合物7であることを確認した。
【0047】
○化合物8の合成
続いて化合物7をフェニルセレニルクロリドと反応させ環化し、下記式(9)で表される化合物8を合成した。
【0048】
【化9】

【0049】
アセトニトリル50mLに9.03g(19.6mmol)の化合物7を溶かし、これにモレキュラーシーブス3A 2g及びフェニルセレニルクロリド4.36g(22.8mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。この反応混合物を飽和食塩水100mLにて2回洗浄し、得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。有機相から溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色の高粘度液状の化合物を10.9g(収率90%)得た。
本品の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、1.07-1.11(3H,m), 1.24-1.38(11H,m), 2.37(3H,s), 3.50(1H, dd), 3.73(1H,dd), 3.79-3.89(4H, m), 4.68(1H, d), 6.87-7.55(12H, m)であった。
また、赤外線吸収スペクトル(KBrペレット法)で吸収があった波数(cm-1)は、2971, 1754, 1598, 1509. 1478, 1463, 1274, 1118であった。さらに、質量分析の結果は、M+=617であった。
以上の分析により、得られた化合物が化合物8であることを確認した。
【0050】
○化合物9の合成
続いて化合物8を酸化し、下記式(10)で表される化合物9を調製した。
【0051】
【化10】

【0052】
ジクロロメタン200mLに9.93g(16.1mmol)の化合物8を溶解した。これに対して氷冷下、あらかじめ調製しておいたm−クロロ過安息香酸4.18g(24.2mmol)をジクロロメタン50mLに溶かした溶液を滴下した。更に同温で30分間攪拌後、反応混合物に10%チオ硫酸ナトリウム水溶液200mLを加え、反応を停止させた。この反応液から有機相を分取し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。有機相から溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色の高粘度液状の化合物を7.26g(収率98%)得た。
本品の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、0.91-0.95(3H,m), 1.24-1.38(11H,m), 2.36(3H,s), 3.78(3H,s), 4.97(1H,m), 5.79(1H,d), 6.67(1H,s), 6.83(1H,d), 6.89(1H,d), 6.98(1H,d), 7.37(2H,d), 7.80(2H,d)であった。
また、赤外線吸収スペクトル(KBrペレット法)で吸収があった波数(cm-1)は、2973, 1754, 1508, 1458, 1321, 1304, 1283であった。さらに、CHN元素分析の結果は、炭素65.48%、水素6.59%であった。
以上の分析により、得られた化合物が化合物9であることを確認した。
【0053】
○化合物10の合成
上述の合成例3で得られた化合物9に対して、アルコール溶媒中で水素化ナトリウムを作用させることで、本発明の一般式(1)中のR1がエチル基及びR2がメチル基に相当する下記式(11)で表される化合物10を合成した。
【0054】
【化11】

【0055】
すなわち、t−ブチルアルコール30mLに化合物9、1.49g(3.25mmol)を溶かした。これに対して、あらかじめ調製しておいた水素化ナトリウム390mg(9.75mmol)をt−ブチルアルコール20mLに溶かした溶液を滴下した。この反応液を40℃にて2時間攪拌後、1M/L塩酸を適量加えて反応を停止させた。反応液から溶媒を留去した後、酢酸エチルエステル100mLを加えて抽出し、有機相を飽和食塩水50mLで2回洗浄し、この有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。有機相から溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色の高粘度液状の化合物を420mg(収率59%)得た。
本品の重クロロホルム中で測定した1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値は、1.24-1.29(3H,m), 2.70(2H,dd), 3.94(3H,s), 5.62(1H,s), 6.03(1H,d), 6.40(1H,d), 6.91(1H,d), 7.13-7.16(2H,m)であった。
また、赤外線吸収スペクトル(KBrペレット法)で吸収があった波数(cm-1)は、3510, 2974, 2362, 1506, 1254, 1209であった。さらに、CHN元素分析の結果は、炭素71.54%、水素6.47%であった。
以上の分析により、得られた化合物が化合物10であることを確認した。
【実施例1】
【0056】
○抗微生物活性評価
上記の合成例で調製した、化合物6、化合物10および比較例としてp−ヒドロキシ安息香酸メチル(メチルパラベン、和光純薬社製)について、試験菌の増殖を阻止するための最小濃度(MIC)を測定した。
【0057】
(1)被験試料の調製
被験試料は正確に一定量秤量し25.6mg/mlの濃度になるようにdimethylsulfoxide(DMSO)で溶解した。25.6mg/mlを薬剤希釈系列の1本目として順次DMSOを用いて2倍希釈系列を作成した。
【0058】
(2)試験菌株
試験に使用した各種真菌Trichophyton mentagrophytes IFO(NBRC)6124、Trichophyton rubrum IFO(NBRC)5467、Aspergillus niger NBRC6341、Aspergillus terreus NBRC6346、Aureobasidium pullulans NBRC6353、Eurotium tonophilum NBRC8157は独立行政法人 製品評価技術基盤機構から分譲を受けた株を使用した。
2継代培養後27℃10日間Potato Dextrose Agar(Difco)スラントで培養した。培養後スラント表面を0.1%Tween80加生理食塩水で洗浄して分生子浮遊液を作成した。作成した浮遊液をCell strainer(40μm、FALCON)で濾過後生理食塩水により105cell/mlに調整し接種菌液とした。
また細菌はStaphylococcus aureus 209P、Bacillus subutillis ATCC 6633、Escherichia coli NIH JC-2を使用した。継代培養後Mueller Hinton broth(Difco)で37℃24時間培養した培養液を同培地で104cell/mlに調整し接種菌液とした。
【0059】
(3)培養
96穴マイクロプレートの各ウェルに、上記(1)で調製した、DMSOで作成した2倍希釈系列の各被験試料を2μl注入後、真菌はPotato Dextrose Agar、細菌はMueller Hinton agar(Difco)を198μl注入した。注入した寒天が固化後真菌は105cell/ml、細菌は104cell/mlの菌液を2μl培地表面上に接種した。発育コントロールとしては薬剤不含のウェルを設けた。
真菌は30℃で3日〜5日間、細菌は37℃24時間培養した。MICの判定は目視で発育の認められないウェルの中で最も低い濃度をMICとした。
各試験菌に対する各化合物被験試料のMIC(μg/ml)を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
化合物6、および、化合物10は全ての試験菌に対して良好な抗菌・抗真菌活性を有してした。中でも真菌に対して強い効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のフラン化合物は優れた抗菌・抗真菌活性を有しており、食品、医薬品、医薬部外品の分野で抗菌剤又は防腐剤として、さらにプラスチック製品、紙製品、布製品、革製品等への関連分野に応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする抗菌剤。
【化1】

(式(1)において、R1は、炭素数1〜18の分岐を有してもよいアルキル基を示し、R2は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェノール性水酸基の保護基を示す。)

【公開番号】特開2008−127312(P2008−127312A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312672(P2006−312672)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】