説明

抗菌剤

【課題】各種の微生物に対して高い抗菌活性を有する新規な抗菌剤を提供する。
【解決手段】下記式(I)C60(OH)(I)(式中、nは30〜48の整数、特に、40〜48の整数が好ましい。)で表される水酸化フラーレンを有効成分として含有する抗菌剤。該抗菌剤は、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、メシチリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)、皮膚ブドウ球菌、ニキビ菌、カンジダ、またはマラセチアに対して特に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、感染症、院内感染、食中毒などの菌による汚染の問題が深刻化している。このような汚染を防止するために、たとえば抗生物質や合成抗菌剤などが使用されているが、これらの長期にわたる使用や大量使用は、薬剤耐性菌の出現を引き起こし、細菌汚染の防止を一層困難とするおそれがある。そのため、耐性菌の出現および耐性菌による細菌汚染を防止するために、新たな抗菌剤を開発することが要望されている。
【0003】
一方、にきびやふけなどの細菌、真菌によって引き起こされる美容トラブルを、外用塗布により効果的に防止することができる新たな抗菌剤も望まれている。
【0004】
フラーレン誘導体は従来の有機化合物とは異なる骨格を有し、それに由来する特徴的な物性を持つため、新たな抗菌剤として期待される。
【0005】
従来、フラーレンに関しては、E. coliやB. Subtilisに対する抗菌活性が検討され(非特許文献1,2)、フラーレン誘導体に関しては、C60-bis(N,N-dimethylpyrrolidinium iodide)の抗菌性が検討されている(非特許文献3)。また、特許文献1,2には、フラーレンC60のマロン酸ジエチル誘導体の溶液を噴霧したフィルターシートに光照射することによって殺菌効果を示す旨が記載されている。
【非特許文献1】Environmental Toxicity and Chemistry, Vol. 24, No. 11, pp. 2757-2762 (2005)
【非特許文献2】Environ. Sci. Technol. Vol. 40, pp. 4360-4366 (2006)
【非特許文献3】Bioorganic & Medical Chem. Lett. Vol. 13, pp. 4395-4397 (2003)
【特許文献1】特開2004−313910号公報
【特許文献2】特開2004−316010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来検討されているフラーレンおよびフラーレン誘導体の抗菌活性は、実際的にはあまり大きくない場合が多い。また、ブドウ球菌など特定の菌への効果も明らかにされていない。このような現状において、より多様な種類の微生物に対して高い抗菌活性を示すフラーレン誘導体の探索が望まれている。
【0007】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、各種の微生物に対して高い抗菌活性を有する新規な抗菌剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特徴としている。
【0009】
第1:下記式(I)
60(OH) (I)
(式中、nは30〜48の整数を示す。)で表される水酸化フラーレンを有効成分として含有することを特徴とする抗菌剤。
【0010】
第2:式(I)のnが40〜48の水酸化フラーレンを有効成分として含有することを特徴とする上記第1の抗菌剤。
【0011】
第3:メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、メシチリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)、皮膚ブドウ球菌、ニキビ菌、カンジダ、またはマラセチアに対する抗菌剤であることを特徴とする上記第1または第2の抗菌剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い抗菌活性、特にメシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、メシチリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)、皮膚ブドウ球菌、ニキビ菌、カンジダ、またはマラセチアに対する高い抗菌活性を有する新規な抗菌剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0014】
なお、本発明において「抗菌剤」の抗菌作用、すなわち微生物の発生、成育、増殖を抑制する作用の対象となる微生物には、細菌類および真菌類を含むものとする。
【0015】
本発明の抗菌剤の有効成分は、式(I)で表される水酸化フラーレンである。この水酸化フラーレンは、既に各種の水酸基数のものが製造できることが知られており、従来公知の方法に従って製造することができる。なお、この水酸化フラーレンは水和物の形態であってもよい。
【0016】
式(I)の水酸化フラーレンは、赤外線吸収スペクトル分析(水酸基が存在し、炭素−水素単結合および炭素−酸素二重結合がないこと)、元素分析(水素と酸素の元素数の値が近いこと)、水分測定(含有水分量の見積もり)、紫外可視スペクトル分析(共役二重結合数の減少)、水への溶解度測定、または水中における粒径分布測定、あるいはこれらの組み合わせによって同定できる。
【0017】
式(I)において、nは30〜48、好ましくは40〜48である。nが大きいほど抗菌活性が高くなり抗菌対象となる微生物の種類も増加する傾向があるが、nが48を超える場合、フッ素では48個までフラーレンに付加することができるという報告があるが、原子サイズや軌道を考慮すると、フッ素と水酸基では類似しているため、48個を超える数の水酸基の付加は現実的には難しいと考えられる。
【0018】
式(I)の水酸化フラーレンにおいて、nが30〜48のものでは、皮膚ブドウ球菌、カンジダ、およびマラセチアに対して抗菌活性が認められる。皮膚ブドウ球菌は、元来自然界に広く分布し、ヒトの皮膚常在菌である。全てのブドウ球菌が重篤な疾患を引き起こすわけではなく、ヒトに病原性を示す菌としては、一般に黄色ブドウ球菌が最も重要であるが、近年、コアグラーゼ陰性のS. epidermidis、S. saprophyticusなどは、敗血症、心内膜炎、尿路感染症からしばしば分離されており、重要視されている。
【0019】
カンジダは、酵母の一種であり、ヒトのカンジダ症を引き起こす病原体であり、日和見感染の原因となるものである。
【0020】
マラセチアは、ヒト/動物を宿主とする皮膚常在菌であり、脂質要求性を示す。癜風、マラセチア毛包炎に加えて、脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎との関連性が報告されている。
【0021】
また、nが40〜48のものでは、上記のものに加えてさらに、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、メシチリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)、およびニキビ菌に対して抗菌活性が認められる。メシチリン耐性黄色ブドウ球菌は、院内感染の原因菌として注目されているものであり、メシチリン感受性黄色ブドウ球菌は、化膿症、食中毒、熱傷様皮膚症候群、毒素性ショック症候群の原因として知られている。ニキビ菌は、嫌気性の好脂菌の一種で、毛穴に詰まった油を栄養源として増殖し、皮膚の中の炎症を引き起こすタンパク質を刺激する特徴を有する。
【0022】
式(I)の水酸化フラーレンは、上記の微生物に対して高い抗菌効果を発揮し得るため、これらの微生物に対する抗菌剤として使用することができる。本発明の抗菌剤は、たとえば化粧品、医薬部外品等として好適に用いることができ、剤型の具体例としては、液剤、ジェル剤、クリーム剤、軟膏剤などが挙げられる。
【0023】
たとえば、化粧品または医薬部外品の外用塗布物として使用することで、にきび(アクネ菌)や、ふけ(マラセチア)などの細菌、真菌によって引き起こされる美容トラブルを効果的に防止することができる。
【0024】
本発明の抗菌剤は、通常抗菌剤に使用される他の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、担体および希釈剤などを挙げることができ、より具体的には、固体希釈剤および賦形剤、無菌水性媒体、各種の非毒性有機溶媒などを挙げることができる。このような抗菌剤中における式(I)の水酸化フラーレンの配合量は、たとえば後述の実施例におけるMICの結果等を参照し、場合に応じて適宜に変更すればよい。
【0025】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例示によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0026】
表2に示す実施例1,2および比較例1〜5の成分について、抗菌力の最小阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration:MIC)を測定した。なお、実施例1の水酸化フラーレンは、特開2007−176899号公報に記載の方法に準じて、実施例2の水酸化フラーレンは、国際公開WO2006/028297号パンフレットに記載の方法に準じて製造した。比較例1の水酸化フラーレンはJ. Org. Chem. Vol. 59, pp. 3960-3968 (1994)に記載の方法に準じて合成し(5% Dimethyl sulfoxide (DMSO)(比較例3と同様のDMSO濃度))、比較例2の水溶化フラーレンはAdv. Mater. Vol. 18, pp. 729-732 (2006)に記載の方法に準じて製造した。
【0027】
また、被験菌株はそれぞれ3種類用意し、20μg/mLにおいてMICを有するものが2/3株以上であったものについては抗菌活性を有すると判断した。なお、比較例2で使用したフラーレンC60の試料は、比較例4と同様に40mMのSDSを含有している。
【0028】
被験菌株Escherichia coli、Bacillus species、Staphylococcus aureus (MRSA) 、Staphylococcus aureus (MSSA)、Staphylococcus epidermidis、Propionibacterium acnesについては、(1) Methods for dilution antimicrobial susceptibility tests for bacteria that grow aerobically; Approved standard ─ seventh edition (CLSI M7-A7, 2006)、(2) Performance standards for antimicrobial susceptibility testing; seventeenth informational supplement (CLSI M100-S17, 2007)、(3) Methods for antimicrobial susceptibility testing of anaerobic bacteria; Approved standard ─ sixth edition (CLSI M11-A6, 2004)に準じた寒天平板希釈法にてMICを測定した。Candida albicansについては、Reference method for broth dilution antifungal susceptibbility testing of yeasts;Approved standard―second edition(CLSI M27-A2, 2002)に準拠した微量液体希釈法にてMICを測定した。Malassezia furfurについては、(4) Leeming JP, and Notman FH. Improved method for isolation and enumeration of Malassezia furfur from human skin. J. Clin. Microbiol. 25: 2017-2019, 1987、(5) Garau M, Pereiro M, del Palacio A: In vitro susceptibilities of Malassezia species to a new azole (UR-9825), and other antifungal compounds. Antimicrob Agents Chemother 47: 2342-2344, 2003に準拠した微量液体希釈法にてMICを測定した。
【0029】
測定培地およびMIC測定時の培養条件を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
薬剤不含有培地における菌の発育を確認した後、菌の発育が肉眼的に認められない最小の薬剤濃度をMICとした。Malassezia furfur は青色から赤変した最小の薬剤濃度をMICとした。
【0032】
MICの測定結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2より、実施例1の水酸化フラーレン(n=44)では、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)、メシチリン感受性黄色ブドウ球菌(S. aureus)、皮膚ブドウ球菌(S. epidermidis)、ニキビ菌(P. acnes)、カンジダ(C. albicans)、マラセチア(M. furfur)について抗菌活性が認められた。また、比較例5のカテキンと比較してもブドウ球菌、ニキビ菌に対する抗菌活性は高いものであった。
【0035】
また、実施例2の水酸化フラーレン(n=36)では、皮膚ブドウ球菌(S. epidermidis)、カンジダ(C. albicans)、マラセチア(M. furfur)について抗菌活性が認められた。
【0036】
一方、比較例1の水酸化フラーレン(n=12)では、C. albicansとM. furfurについて抗菌活性を示したが、実施例1、2に比較すると抗菌活性は小さいものであった。
【0037】
水酸基を有しない比較例2のフラーレンは、40mMのSDS(比較例4)と有意差はなく、抗菌活性を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
60(OH) (I)
(式中、nは30〜48の整数を示す。)で表される水酸化フラーレンを有効成分として含有することを特徴とする抗菌剤。
【請求項2】
式(I)のnが40〜48の水酸化フラーレンを有効成分として含有することを特徴とする請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、メシチリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)、皮膚ブドウ球菌、ニキビ菌、カンジダ、またはマラセチアに対する抗菌剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の抗菌剤。

【公開番号】特開2009−179615(P2009−179615A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21554(P2008−21554)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(503272483)ビタミンC60バイオリサーチ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】