抗菌性医療機器とその製造方法
【課題】生体内で十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器の提供。
【解決手段】少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器の前記Ca化合物に、イノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器。前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる抗菌性医療機器。少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器を、イノシトールリン酸の水溶液と接触させ、前記Ca化合物にイノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器を得る抗菌性医療機器の製造方法。前記Ca化合物にイノシトールリン酸を結合させた後、さらに銀イオンを含む水溶液と接触させて、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる抗菌性医療機器を得る製造方法。
【解決手段】少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器の前記Ca化合物に、イノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器。前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる抗菌性医療機器。少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器を、イノシトールリン酸の水溶液と接触させ、前記Ca化合物にイノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器を得る抗菌性医療機器の製造方法。前記Ca化合物にイノシトールリン酸を結合させた後、さらに銀イオンを含む水溶液と接触させて、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる抗菌性医療機器を得る製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において使用されるインプラント、手術用具などの医療機器に関し、特に、抗菌性を有する抗菌性医療機器とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体インプラントにおいて抗菌性を備えるチタン系または非チタン系部材として、例えば、特許文献1に開示された技術が提案されている。
特許文献1には、基材、該基材上に形成された結晶性アルカリチタネートのナノシート、ナノチューブ、ナノファイバーまたはナノクリスタルの層、及び前記アルカリチタネートのアルカリ成分の一部又は全部が銀イオンで置換されている銀チタネート層を含むことを特徴とするチタネートでコーティングされた抗菌性部材が開示されている。
また、特許文献1には、前記抗菌性部材の製造方法として、(i)チタン系基材をアルカリ水溶液中で110〜180℃の温度下に水熱処理に供する工程、(ii)前記水熱処理後の生成物を200〜700℃で加熱処理する工程、及び(iii)前記加熱処理後の生成物を洗浄、乾燥した後、銀イオン含有水溶液に浸漬する工程、を含むことを特徴とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008/081861
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示された抗菌性部材は、銀チタネート層を含むことから高い抗菌活性は得られるものの、この抗菌性部材をインプラントに用いる場合、チタネート又は銀チタネートが生体組織と接触するために、インプラントと生体組織との適合性が悪いという問題があった。
また、前記抗菌性部材の銀チタネート層は、アルカリチタネートのアルカリ成分の一部又は全部が銀イオンで置換されたものなので、その実施例10等にも記載されているように、移植部位などの使用状態によって銀イオンの溶出度合が大きく変動してしまう。したがって、この抗菌性部材は、銀イオンが溶出せずに抗菌性が生じなかったり、逆に銀イオンが過剰に溶出して毒性が発現する恐れがある。また、銀イオンの溶出度合いが不安定であることから、長期間抗菌性を維持できないなどの問題が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、生体内で十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器の前記Ca化合物に、イノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器を提供する。
本発明の抗菌性医療機器において、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる構成としてもよい。
また、前記イノシトールリン酸は、フィチン酸(イノシトール六リン酸、以下、IP6と略記する場合がある)であることが好ましい。
さらに、前記Ca化合物は、水酸化アパタイトであることが好ましい。
また、前記抗菌性医療機器は、抗菌性インプラントであることが好ましい。
【0007】
また本発明は、少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器を、イノシトールリン酸の水溶液と接触させ、前記Ca化合物にイノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器を得ることを特徴とする抗菌性医療機器の製造方法を提供する。
本発明の抗菌性医療機器の製造方法において、前記Ca化合物にイノシトールリン酸を結合させた後、さらに銀イオンを含む水溶液と接触させて、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる抗菌性医療機器を得ることもできる。
また、前記イノシトールリン酸は、フィチン酸であることが好ましい。
さらに、前記Ca化合物が水酸化アパタイトであることが好ましい。
また、前記抗菌性医療機器は、抗菌性インプラントであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗菌性医療機器は、少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器の前記Ca化合物に、イノシトールリン酸が結合されてなるものなので、生体内で十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器を提供できる。
本発明の抗菌性医療機器において、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる構成とすれば、より即効性のある抗菌性を持った抗菌性医療機器を提供できる。
【0009】
また本発明の抗菌性医療機器の製造方法は、医療機器の前記Ca化合物にイノシトールリン酸の水溶液を接触させ、前記Ca化合物にイノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器を得るものなので、生体内で十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器を効率よく安価に製造することができる。
本発明の抗菌性医療機器の製造方法において、前記Ca化合物にイノシトールリン酸を結合させた後、さらに銀イオンを含む水溶液と接触させて、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる抗菌性医療機器を得ることによって、より即効性のある抗菌性を持った抗菌性医療機器を効率よく安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の抗菌性医療機器の第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の抗菌性医療機器の第2実施形態を示す概略構成図である。
【図3】本発明の抗菌性医療機器の第3実施形態を示す概略構成図である。
【図4】本発明の抗菌性医療機器の第4実施形態を示す概略構成図である。
【図5】実施例でのチタンの調製工程に関し、(a)は表面研磨後のチタン表面拡大画像、(b)はその表面の含有元素の測定結果、(c)は研磨処理済チタン(左)と未処理チタン(右)との画像である。
【図6】実施例での実験手順を説明するためのフロー図である。
【図7】水酸化アパタイトコーティングチタン表面のSEM画像であり、(a)は500倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍、(d)は20000倍の画像、(e)は同じ表面の含有元素の測定結果である。
【図8】実施例での水酸化アパタイトコーティングチタン表面へのイノシトールリン酸と銀イオン固定化の手順を示すフロー図である。
【図9】イノシトールリン酸濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面の結晶相の同定結果を示す図である。
【図10】イノシトールリン酸濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面のSEM画像である。
【図11】水酸化アパタイトコーティングチタン表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図12】イノシトールリン酸濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図13】イノシトールリン酸濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面の銀の含有量を示すグラフである。
【図14】イノシトールリン酸濃度を変動させた実験でのイノシトールリン酸の濃度、硝酸銀水溶液の濃度及びAg/(Ca+Ag)の値との関係を示すグラフである。
【図15】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面のX線回折結果を示す図である。
【図16】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面のSEM画像である。
【図17】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.001mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図18】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.005mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図19】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図20】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で硝酸銀水溶液の濃度とサンプル表面の銀の含有量との関係を示すグラフである。
【図21】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験での硝酸銀水溶液の濃度とAg/(Ca+Ag)の値との関係を示すグラフである。
【図22】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験で得られたサンプル表面の結晶相の同定X線回折結果を示す図である。
【図23】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験で得られたサンプル表面のSEM画像である。
【図24】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験でIP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図25】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験でIP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間30分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図26】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験でIP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間60分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図27】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験で浸漬時間とサンプル表面の銀の含有量との関係を示すグラフである。
【図28】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験で浸漬時間とAg/(Ca+Ag)の値との関係を示すグラフである。
【図29】インプラントのサンプルNo.1〜No.8のシャーレテストによる抗菌性試験の結果を示すシャーレのphase画像である。
【図30】インプラントのサンプルNo.1〜No.8のシャーレテストによる抗菌性試験の結果を示すシャーレのbluc画像である。
【図31】インプラントのサンプルNo.1〜No.8のシャーレテストによる抗菌性試験の結果を示す各サンプルのphase画像である。
【図32】インプラントのサンプルNo.1〜No.8のシャーレテストによる抗菌性試験の結果を示す各サンプルのbluc画像である。
【図33】インプラントのサンプルNo.7について処理無し、洗浄後、摩擦後の各サンプル、及びサンプルNo.4についてのシャーレテストによる抗菌性試験の結果を示す、各サンプルのphase画像及びbluc画像である。
【図34】サンプルNo.4及びNo.7のインプラントを大腿骨に移植し、かつ黄色ブドウ球菌を注入したマウスにおけるインプラント周囲の菌の繁殖状態を経時的に調べたin vivo試験−1の結果を示すグラフとbluc画像である。
【図35】サンプルNo.4及びNo.5のインプラントを大腿骨に移植し、かつ黄色ブドウ球菌を注入したマウスにおけるインプラント周囲の菌の繁殖状態を経時的に調べたin vivo試験−2の結果を示すグラフとbluc画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
本発明において「医療機器」とは、平成14年改正薬事法において定義された医療機器が挙げられる。これらの医療機器の中でも、純チタンやチタン合金(Ti−6Al−4V合金など)、ステンレス鋼、低炭素鋼、銅又は銅合金、銀又は銀合金、金又は金合金、プラチナなどの白金族元素又はその合金、コバルトクロム合金などの金属材料で作られた医療機器;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、カーボン、炭素繊維強化PEEK、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、ポリ乳酸などの合成樹脂で作られた医療機器;水酸化アパタイト等のCa化合物で作られた医療機器;シリカ、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックスで作られた医療機器が好ましい。また、本発明の「医療機器」には、抗菌性の付与が望まれる食器、玩具等にも適用される。
【0012】
以下、本発明において好適な医療機器を例示する。
[抗菌加工が可能な生体インプラントなど]
・チューブ:気管切開チューブ、気管内チューブ、イレウス用チューブ、経鼓膜換気チューブ、胃・食道静脈瘤圧迫止血用チューブ、シャントチューブ、血管用チューブ、排尿チューブ、各種ドレナージチューブ、持続チューブ。
・カテーテル:動静脈圧測定用カテーテル、サーモダイリューション用カテーテル、冠状動脈洞内血液採取用カテーテル、血管造影用カテーテル、血管内視鏡カテーテル、直腸カテーテル、中心静脈用カテーテル、套管針カテーテル、栄養カテーテル、胃管カテーテル、吸引留置カテーテル、腎瘻カテーテル、膀胱瘻カテーテル、経皮的又は経内視鏡的胆管等ドレナージ用カテーテル、胃瘻カテーテル、膀胱留置用カテーテル、ブラッドアクセス用留置カテーテル、腹膜透析用カテーテル、副鼻腔炎治療用カテーテル、植込み型輸液ポンプ用髄腔カテーテル、経皮的カテーテル、心筋焼灼術用カテーテル、バルーンパンピング用バルーンカテーテル、心臓手術用カテーテル、ガイディングカテーテル、血管内手術用カテーテル、尿路拡張用カテーテル、胆道結石除去用カテーテル、腎・尿管結石除去用カテーテル、ドレーンカテーテル、心拍出量測定用カテーテル、脳・髄液圧測定用カテーテル、画像診断用カテーテル、消化器内圧カテーテル、腹部血管造影用カテーテル、多目的造影用カテーテル、消化器造影カテーテル、内視鏡的造影カテーテル、頸部・脳脊髄血管造影用カテーテル、心臓胸部血管造影用カテーテル、電極カテーテル、PTCAカテーテル、子宮卵管用カテーテル、尿道カテーテル、尿道・膀胱内圧測定用カテーテル、尿管カテーテル、バルーンカテーテル、尿管結石除去用カテーテル、留置用カテーテル、吸引カテーテル。
・ガイドワイヤー、ワイヤー:経皮的冠動脈形成術用カテーテル用ガイドワイヤー、冠動脈造影用センサー付ガイドワイヤー、血管造影用ガイドワイヤー、弁拡張用カテーテル用ガイドワイヤー、体外式ペースメーカー用心臓埋込ワイヤー、脊椎手術用金属ワイヤー、PTCA用ガイドワイヤー、キルシュナー鋼線。
・針:プラスチックカニューレ型静脈内留置針、脳・脊髄腔用カニューレ、子宮頸部縫縮用針、翼状針、心臓外科用針、造影用針、カテラン針、スパイナル針。
・電極:植込み型除細動器用カテーテル電極、体外式ペースメーカー用カテーテル電極、体表面ぺーシング用電極、埋込型脳・脊髄電気刺激装置、脳波測定用頭蓋内電極、植込み式心臓ペースメーカー用リード。
・血管内超音波プローブ。
・ダイレーター:血管ダイレーター、尿道・尿管ダイレーター、筋肉ダイレーター。
・クリップ:脳動脈瘤手術クリップ、脳血液遮断用クリップ、脳動静脈奇形手術用等クリップ、硬膜損傷用クリップ、血管外科手術用クリップ、ウェック、自動吻合、縫合器、止血・結サツ用クリップ、血管クランプ。
・人工膜、人工線維:人工硬膜、組織代用人工繊維布、合成吸収性癒着防止材、皮膚欠損用創傷被覆材、真皮欠損用グラフト。
・ステント:胆道ステント、尿管ステント、尿道ステント、気管・気管支ステント、食道用ステント、大動脈用ステントグラフト、冠動脈用ステント、肺塞栓防止用アンブレラ。
・内固定材料:副木(プレート)、固定用内副子(スクリュー)、固定用内副子(プレート)、大腿骨外側固定用内副子、固定用内副子用ワッシャー・ナット類、創外固定インプラント、髄内釘、固定釘、固定用金属線、固定用金属ピン、吸収ピン・スクリュー。
・脊椎固定用材料:椎体ワッシャー、脊椎ロッド、脊椎プレート、椎体フック、脊椎スクリュー、脊椎コネクター、脊椎ワイアー、ネスプロンテープ。
・椎間スペーサー(ケージ)。
・人工関節:人工股関節、人工膝関節、人工肩関節、人工肘関節、人工手関節、人工足関節、人工指関節、カスタムメイド人工関節。
・人工臓器:人工心肺回路、人工血管、人工咽頭、人工内耳用材料、人工靱帯、人工骨頭帽、人工骨、カスタムメイド人工骨、機械弁、生体弁、弁付きグラフト(生体弁)、人工弁輪、心臓弁、補助人工心臓、ディスポーザブル人工肺(模型肺)、人工肺、人工食道、人工乳房、泌尿器科用インプラント、耳鼻科用プロテーゼ。
・ペースメーカー。
・除細動器:植込み型除細動器、両室ぺーシング機能付き植込み型除細動器。
・リード:脳深部刺激装置用リード、脊髄刺激装置用リード。
・耳鼻科関連医療材料:涙点プラグ、鼻中隔プロテーゼ、鼻孔プロテーゼ。
・止血材:ゼラチンスポンジ止血材、デキストラノマー、微繊維性コラーゲン、経皮的冠動脈形成術用穿刺部止血材料。
・バルブ:頭・静脈・腹腔シャントバルブ、胸水・腹水シャントバルブ。
・ポンプ:植込み型輸液ポンプ、遠心式体外循環用血液ポンプ、髄腔内持続投与用ポンプ。
・カニューレ:体外循環用カニューレ。
・フィルター:輸血用血液フィルター、麻酔器・人工呼吸器フィルター。
・塞栓物質:肝動脈塞栓材、脳外科プラチナコイル。
・内視鏡。
・注射器:インスリン製剤等注射器、ヒト成長ホルモン剤注射器、ホルモン製剤等注射器、万年筆型注入器用注射針。
・機器・装置:血漿交換用血漿分離器、血漿交換用血漿成分分離器、組織拡張器、吸着式血液浄化用浄化器(エンドトキシン除去用)、腹膜透析装置専用回路、腹水濾過器(回路を含む。)、濃縮再静注用濃縮器(回路を含む。)。
・その他:骨セメント、合成吸収性骨片接合材料、尿路結石破砕装置用ピンハンマー、非固着性シリコンガーゼ、遠心分離式白血球除去用材料、白血球吸着用材料、循環式人工腎臓用吸着筒、防塵マット、手術台、手術台関連器具。
・ドレーン:ドレーンカテーテル、ドレーン容器。
・バック:尿バック、術後ドレーンバック。
・ドレープ:手術用プラスティックドレーン。
【0013】
[手術器具]
・メス。
・鉗子:食道鉗子、骨把持鉗子、直角鉗子、流産鉗子、腸鉗子、止血鉗子、大動脈鉗子、頭皮用布鉗子、剥離鉗子、糸鉗子、移植用ブルドック鉗子、フォガティー血管鉗子、ヘモクリップ鉗子、胃鉗子、リスター、大静脈鉗子、十二指腸鉗子、骨鉗子、虫垂断端鉗子、関節包鉗子、腱誘導鉗子、甲状腺鉗子、リンパ線鉗子、肺剥離鉗子、のみ鉗子、バブコック鉗子、多用途血管鉗子、鋭匙鉗子、結合組織圧縮鉗子、モスキート、キュストネル子宮安全鉗子、血管鉗子、ペアン、マルチン単双鉗子、ドレーン鉗子、コッヘル、ミュウゾウ2双鉗子、メラブルドック鉗子、ケリー、柄付鉗子、胸・腹腔鏡用鉗子類、アリス、ブルドック鉗子、ミクリッツ鉗子、布鉗子、胎盤鉗子。
・メスホルダー。
・エレバトリューム。
・ラスパトリューム。
・ハンマー。
・ロンジュール。
・ヘラ:腸ベラ、脳ベラ、神経ベラ。
・リュエル。
・ピンセット。
・開創器:アドソン、ゲルピー、ウェイトラーナー。
・開口器。
・鈎:筋鈎、天晶式単鋭鈎、神経鈎、肺圧排鈎、鞍状鈎、特大巾広筋鈎、ディーバー鈎、ホーマン鈎、肩甲骨鈎、尿管鈎、腱牽引鈎、上顎洞鈎、偏平二鈎、デマ鈎。
・ケリソン。
・剪刀:眼科剪刀、形成剥離剪刀、スキャンラン剪刀、ディマルティ剪刀、後方肋骨剪刀。
・キリ。
・持針器:マチュー、スキャメド、サロット、ライダー、ウエブスター、スウェーデン。
・スプレッダー。
・フック:スキンフック、フレンチフック。
・クリップ:レーニンクリップ。
・タオル:カップ。
・レトラクター。
・金属シャーレ。
・糸。
・マスク(医者、看護師用、患者換気用)。
・手袋。
・術衣。
・ガーゼ。
・針:注射針、動脈瘤針、脳室穿刺針、デシャン動脈瘤針。
・ゾンデ。
・ビーカー。
・トレイ。
・膿盆。
・鋭匙:軟部鋭匙、歯科用骨鋭匙。
・剥離子:歯科用剥離子、神経剥離子、口蓋裂剥離子、耳鼻科剥離子。
・内視鏡:肛門鏡、頭蓋骨内視鏡、鼻鏡、膣鏡、耳鏡、関節鏡、直腸鏡、カプセル型内視鏡。
・鑷子(セッシ):血管鑷子、スエーデンセッシ、バーグセッシ、マイクロセッシ、耳鼻科用セッシ、クッシングセッシ、歯科用鑷子、フック鑷子、先曲りドベーキー鑷・長鑷子、アドソンセッシ、プリンスセッシ。
・舌圧子。
・吸引管。
・ヤスリ。
・ミラー。
・聴診器。
・ハサミ:クーパー、メッチェン。
・剪刀。
【0014】
[その他]
・便器。
・洗面台。
・手すり。
・コンピュータ内部の部品。
・体温計。
・美容外科用器具(鼻形成用、豊胸用シリコンなど)。
・歯科インプラント各種。
・入れ歯。
・コンタクトレンズ。
・工業機器の一部。
【0015】
図1は、本発明の抗菌性医療機器の第1実施形態を示す概略構成図である。本実施形態の抗菌性医療機器1Aは、Ca化合物以外の材料で作られた医療機器2の表面に、Ca化合物層として水酸化アパタイト層3が形成され、該水酸化アパタイト層3にイノシトールリン酸4が結合した構造になっている。
【0016】
前記水酸化アパタイト層3は、Ca10(PO4)6(OH)2で表される水酸化アパタイトからなり、或いは各構成元素のモル比が若干変動したり微量の炭酸が含有された水酸化アパタイトからなり、医療機器2の表面の少なくとも一部、好ましくは表面全部を被覆している。この水酸化アパタイト層3の厚さは、1μm以上であることが好ましい。なお、Ca化合物層は、この水酸化アパタイト層3に限定されず、他の不溶性のCa化合物、例えば、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、Caの一部がMgで置換された不溶性塩類などを用いても良い。
【0017】
この水酸化アパタイト層3の形成方法は特に限定されず、例えば、プラズマ溶射法、真空蒸着法、化学気相成膜法(CVD法)などの乾式成膜法、Ca化合物とP化合物を含む水溶液中で医療機器2の表面に水酸化アパタイトを析出・付着させる湿式法などが挙げられる。これらの方法の中でも、各種材質の医療機器2に適用でき、また大量かつ安価に水酸化アパタイト層3を形成できる点から、湿式法が好ましい。湿式法としては、特に、水酸化アパタイトの組成モル比に対応させた比率でCa化合物とP化合物とを溶かした溶液に、尿素とウレアーゼとを添加し、それらの混合溶液に医療機器2を浸漬し、30〜60℃程度、好ましくは50℃程度の温度下でインキュベートして水酸化アパタイトを析出させ、医療機器2の表面に付着させる方法が好ましい。
【0018】
前記イノシトールリン酸は、イノシトール(1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサオール)の6つの水酸基の少なくとも1つがリン酸エステル化されたものであって、本発明では、水酸基の3つ以上がリン酸エステル化されたイノシトールリン酸が好ましく、水酸基の4つ以上がリン酸エステル化されたイノシトールリン酸がより好ましく、イノシトールの水酸基全部がリン酸エステル化されたフィチン酸(イノシトール六リン酸、IP6)が最も好ましい。フィチン酸は、強いキレート作用を有しており、本実施形態の抗菌性医療機器1Aにあっては、前記水酸化アパタイト層3のCaイオンに結合して存在している。
【0019】
本実施形態の抗菌性医療機器1Aは、前述したように、医療機器2の表面に水酸化アパタイト層3を形成し、さらにこれをIP6などのイノシトールリン酸溶液中に浸漬することによって、水酸化アパタイト層3にイノシトールリン酸4を結合させる湿式法によって簡単に作製できる。また、イノシトールリン酸溶液への浸漬に代えて、イノシトールリン酸溶液を水酸化アパタイト層3の表面にスプレー塗布し、表面のCaにイノシトールリン酸を結合させることも可能である。
【0020】
フィチン酸等のイノシトールリン酸の生体内の作用に関しては、抗腫瘍作用を有することが予測されてはいるものの、その詳しい作用については未だ十分解明されていない。
一方、本発明では、前記水酸化アパタイト層3などのCa化合物に結合させた状態のイノシトールリン酸が、抗菌性を有しているという新たな作用効果を見出している。
【0021】
本発明の抗菌性医療機器1Aにおいて、イノシトールリン酸4の結合量は、前記水酸化アパタイト層3などのCa化合物にできるだけ多く結合させることが好ましい。このイノシトールリン酸4の結合量は、表面に水酸化アパタイト層3を形成した医療機器2をイノシトールリン酸4の溶液に浸漬する際の、イノシトールリン酸の濃度や浸漬時間などによって適宜調整可能である。
【0022】
本実施形態の抗菌性医療機器1Aは、医療機器2の表面に、Ca化合物層として水酸化アパタイト層3が形成され、該水酸化アパタイト層3にイノシトールリン酸4が結合した構造であり、これまでのイノシトールリン酸に関する知識からは予測できなかった抗菌活性を有する、という作用効果を備えている。これにより、実用十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器を提供できる。
【0023】
図2は、本発明の抗菌性医療機器の第2実施形態を示す概略構成図である。本実施形態の抗菌性医療機器1Bは、Ca化合物以外の材料で作られた医療機器2の表面に、Ca化合物層として水酸化アパタイト層3が形成され、該水酸化アパタイト層3にイノシトールリン酸4が結合し、さらに該イノシトールリン酸4に銀イオン5が結合した構造になっている。
【0024】
前記水酸化アパタイト層3に結合したイノシトールリン酸4は、未だキレート結合が可能であり、これに銀イオンを接触させることによってイノシトールリン酸4に銀イオン5を結合させることができる。このイノシトールリン酸4に結合した銀イオン5は、生体内で体液や組織と接触することによって徐々に遊離して銀イオンとなり、強い抗菌活性を発揮する。
【0025】
本実施形態の抗菌性医療機器1Bは、前述した第1実施形態の抗菌性医療機器1Aを、硝酸銀水溶液などのAgイオン含有溶液中に浸漬し、引き上げて洗浄・乾燥させる、又は該溶液をスプレー塗布し洗浄・乾燥することによって容易に作製することができる。なお、銀イオン5の結合量は特に限定されず、抗菌性医療機器1Bの種類や使用用途などに応じて適切な量の銀イオン5を結合させればよい。銀イオン5の結合量は、浸漬に用いる溶液の銀イオン濃度や浸漬時間により適宜調整可能である。
【0026】
本実施形態の抗菌性医療機器1Bは、前述した第1実施形態の抗菌性医療機器1Aにおけるイノシトールリン酸4に銀イオン5を結合させた構造であるので、より即効性のある抗菌性を持った抗菌性医療機器を提供できる。
【0027】
図3は、本発明の抗菌性医療機器の第3実施形態を示す概略構成図である。本実施形態の抗菌性医療機器1Cは、Ca化合物からなる、あるいはCa化合物を含有している医療機器6の表面に、直接イノシトールリン酸4を結合させた構造になっている。
【0028】
本実施形態の抗菌性医療機器1Cは、必要に応じて医療機器6の表面を研磨したり洗浄した後、イノシトールリン酸溶液にこの医療機器6を浸漬することにより、表面のCaにイノシトールリン酸を結合させた後、これを溶液から分離し、洗浄・乾燥させることによって簡単に作製することができる。また、イノシトールリン酸溶液への浸漬に代えて、イノシトールリン酸溶液を医療機器6の表面にスプレー塗布し、表面のCaにイノシトールリン酸を結合させることも可能である。
【0029】
本実施形態の抗菌性医療機器1Cは、前述した第1実施形態の抗菌性医療機器1Aと同様に、Ca化合物からなる、あるいはCa化合物を含む医療機器6の表面にイノシトールリン酸4が結合した構造であり、これまでのイノシトールリン酸に関する知識からは予測できなかった、抗菌活性を有する、という作用効果を備えている。これにより、実用十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器を提供できる。
【0030】
図4は、本発明の抗菌性医療機器の第4実施形態を示す概略構成図である。本実施形態の抗菌性医療機器1Dは、Ca化合物からなる、あるいはCa化合物を含有している医療機器6の表面に、直接イノシトールリン酸4を結合させ、さらに該イノシトールリン酸4に銀イオン5を結合させた構造になっている。
【0031】
本実施形態の抗菌性医療機器1Dは、前述した第3実施形態の抗菌性医療機器1Cを、硝酸銀水溶液などのAgイオン含有溶液中に浸漬し、引き上げて洗浄・乾燥させる、又は該溶液をスプレー塗布し洗浄・乾燥することによって容易に作製することができる。なお、銀イオン5の結合量は特に限定されず、抗菌性医療機器1Dの種類や使用用途などに応じて適切な量の銀イオン5を結合させればよい。銀イオン5の結合量は、浸漬に用いる溶液の銀イオン濃度や浸漬時間により適宜調整可能である。
【0032】
本実施形態の抗菌性医療機器1Dは、前述した第3実施形態の抗菌性医療機器1Cにおけるイノシトールリン酸4に銀イオン5を結合させた構造であるので、より即効性のある抗菌性を持った抗菌性医療機器を提供できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明の効果を実証するが、以下の実施例は本発明の一例に過ぎず、本発明は実施例の記載により限定されるものではない。
【0034】
(1)チタン基板への水酸化アパタイトコーティング
(1−1)試薬の調整
・生体疑似体液(以下、SBFと記す)の調製
SBFは、ヒトの血液中の血しょうからヒトの細胞やタンパク質などの有機物を除いた無機イオン濃度を、血しょうとほぼ等しくした溶液である。表1に、SBFと血しょうのイオン濃度を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1中、SBF(1.5)とは、標準濃度のSBF(SBF(1.0))の溶質の量をすべて1.5倍にしたものである。
このSBFは、表2中に記した試薬を用い、記載した通りの割合で各試薬を加え、全量を1dm3(36.5℃、pH7.40)とする。以下の実施例において、SBFとして、SBF(1.5)を用いた。
【0037】
【表2】
【0038】
・表面処理溶液の調製
表面処理溶液は、SBFに尿素を加えて調製した。
SBFに尿素濃度が2.0mol/dm3となるように尿素を加えた。また、チタンを表面処理溶液に浸漬させるときに、尿素の加水分解酵素であるウレアーゼを純水に溶かし、1.0質量%ウレアーゼ溶液としたものを加えた。
この2種類の溶液を用意した。
【0039】
(1−2)チタンの調製
チタンは研磨機を用い、#240の研磨紙で表面を研磨した。そのあと、純水→エタノール→アセトンの順番で超音波洗浄を5分間ずつ2回行った。その後自然乾燥させたものを使った。図5(a)は、調製したチタン表面の拡大画像であり、また図5(b)は含有元素の測定結果であり、また図5(c)は研磨処理済チタン(左)と未処理チタン(右)との外観である。
【0040】
(1−3)実験手順
実験手順を図6に示す。前記の通り表面研磨・洗浄・乾燥を行ったチタンは、次に、空気中で200℃に加熱し、次に、尿素とウレアーゼを含むSBF中に入れ、50℃のインキュベーター中で数日間静置して水酸化アパタイトを析出させた。
この水酸化アパタイトコーティングに使う溶液を表3に示す。
SBFは、2日目、4日目、6日目に取り替えた。
7日目は、溶液をすべて抜いて純水で洗い、その後自然乾燥させた。
【0041】
【表3】
【0042】
前記手順によって水酸化アパタイトコーティングチタンを得た。図7(a)は、得られた水酸化アパタイトコーティングチタンの表面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像(×500)であり、図7(b)は同じく×5000の画像、(c)は同じく×10000の画像、(d)は同じく×20000の画像、(e)は同じ水酸化アパタイトコーティングチタンの表面のEDX(エネルギー分散形X線分析)による含有元素の測定結果である。これらの結果から、得られた水酸化アパタイトコーティングチタンの表面には、水酸化アパタイトからなるコーティングが形成されたことがわかる。
【0043】
(2)水酸化アパタイトコーティングチタンへの銀イオン固定化
(2−1)試薬の調製
・イノシトールリン酸
銀イオンの固定化には、イノシトールリン酸水溶液を使う。本実施例においてイノシトールリン酸としてIP6を用いた。IP6は、イノシトールの全ての水酸基(6個)がリン酸でエステル化された化合物であり、高いキレート効果を持つ生体関連物質である。イノシトールリン酸は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)以上の金属キレート効果を持ち、金属防蝕作用・除金属作用・抗酸化作用を有することが見出されている。
イノシトールリン酸の水溶液を水酸化アパタイト層と接触させることにより、水酸化アパタイト中のカルシウムイオンとイノシトールリン酸とが結合し、さらに結合したイノシトールリン酸が銀イオンをキレートし、水酸化アパタイト層にイノシトールリン酸を介して銀イオンが固定化されるものと考えられる。
本実施例において、イノシトールリン酸は、50%フィチン酸を希釈し1000ppm水溶液とした。これを原液とし、さらに希釈して4種類の水溶液を調製した。
【0044】
・銀イオン
本実施例において、銀イオン源としては硝酸銀水溶液を用いた。
市販の硝酸銀1.71gを純水に溶かし、100mLとする。これを原液として、さらに希釈し、0.00005ppm、0.0001ppm、0.0005ppm、0.001ppm、0.005ppmおよび0.01ppmの6種類の水溶液を調製した。硝酸銀は他の銀化合物と比べて純水への溶解度が高い。純水中で銀イオンはAg+として存在している。
【0045】
(2−2)実験方法
図8は、水酸化アパタイトコーティングチタン表面へのイノシトールリン酸と銀イオン固定化の手順を示す概略図である。
本実験では、まず、前記水酸化アパタイトコーティングチタンを6wellプレートにセットし、濃度250ppm〜、500ppm、750ppmおよび1000ppmのIP6溶液5.0cm3をそれぞれ該プレート内に注入し、50℃で一日静置し、水酸化アパタイトコーティングチタン表面にIP6を結合させた。
その後、プレートからIP6溶液を除去し、純水でプレート内を数回洗浄した。
次に、上記濃度0.00005〜0.01ppmに調整した硝酸銀水溶液をプレート内に注入し、浸漬時間15分・30分・60分で浸漬後、前記チタンを取り出し、純水で十分に洗浄し、自然乾燥させて水酸化アパタイトコーティングチタンに銀イオンを固定化したサンプルを作製した。
【0046】
本実施例では、銀イオン固定化について以下の実験1)〜3)を行った。
1)イノシトールリン酸の濃度による被膜への影響
図9は、イノシトールリン酸(IP6)の濃度を変えて作製した各サンプルの表面のX線回折結果を示すグラフである。図9から、イノシトールリン酸を用いたサンプルでは、表面に銀(Ag3PO4)の存在が確認でき、イノシトールリン酸を介してサンプル表面に銀が固定化できていることがわかる。一方、水酸化アパタイトのみの場合、銀は見られない。
図10は、イノシトールリン酸(IP6)の濃度を変えて作製した各サンプルの表面のSEM画像である。
図11は、水酸化アパタイトをコーティングしたサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。このサンプルでは、Agを示すピークは見られない。
図12は、イノシトールリン酸(IP6)の濃度を変えて作製した各サンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図13は、イノシトールリン酸(IP6)の濃度とサンプル表面の銀の含有量との関係を示すグラフである。
図14は、イノシトールリン酸(IP6)の濃度とサンプル表面のAg/(Ca+Ag)の割合との関係を示すグラフである。
【0047】
1)の実験結果をまとめると、今回はイノシトールリン酸の濃度を250ppm〜1000ppmと4種類で検討したが、どの場合でも銀を含有していることが確認できた。また、イノシトールリン酸の濃度が変化しても、銀の質量%は20%〜30%と大きな変化は見られなかった。図14の結果から、硝酸銀の濃度が0.005ppm未満になれば、イノシトールリン酸の濃度依存性が不安定となってくる。
よって、以下の実験においてイノシトールリン酸の濃度は1000ppmで行うことにした。
【0048】
2)硝酸銀水溶液の濃度を変化させたときの被膜への影響
図15は、硝酸銀水溶液の濃度を変えて作製した各サンプルの表面のX線回折結果を示すグラフである。
図16は、硝酸銀水溶液の濃度を変えて作製した各サンプルの表面のSEM画像である。
図17は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.001mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図18は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.005mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図19は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図20は、硝酸銀水溶液の濃度とサンプル表面の銀の含有量との関係を示すグラフである。
図21は、硝酸銀水溶液の濃度とサンプル表面のAg/(Ca+Ag)の割合との関係を示すグラフである。
【0049】
2)の実験結果をまとめると、硝酸銀水溶液への浸漬時間とイノシトールリン酸の濃度を一定にした場合、硝酸銀水溶液の濃度が濃いほど銀の含有率が増えていることがわかった。このことから、硝酸銀水溶液の濃度をコントロールすることで、抗菌性医療機器の製造において表面に付加させる銀イオンの量を調節することができると思われる。
しかしながら、銀の量は多すぎると細胞毒性を示すことが知られている。適切な銀の量を抗菌性医療機器に付加できるようにコントロールすることが重要である。
【0050】
3)硝酸銀水溶液への浸漬時間を変化させたときの被膜への影響
図22は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3の条件で、浸漬時間を変えて作製した各サンプルの表面のX線回折結果を示すグラフである。
図23は、浸漬時間を変えて作製した各サンプルの表面のSEM画像である。
図24は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図25は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間30分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図26は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間60分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図27は、硝酸銀水溶液への浸漬時間とサンプル表面の銀の含有量との関係を示すグラフである。
図28は、硝酸銀水溶液への浸漬時間とサンプル表面のAg/(Ca+Ag)の割合との関係を示すグラフである。
【0051】
3)の実験結果をまとめると、イノシトールリン酸と硝酸銀水溶液の濃度が一定で、浸漬時間が異なる場合、浸漬させる時間が長いほど銀の含有率が高くなった。しかしながら、EDXの結果によると60分浸漬させたものは、「カルシウム」がほぼ無いに等しく、銀の量がかなり多かった。
硝酸銀水溶液に浸漬させると銀が含まれていくが、その分カルシウムの量が減っている。
【0052】
ここまでの一連の実験の結果から、次のことが分かった。
・銀の含有について
今回のイノシトールリン酸を用いた場合、銀が含有されていることが確認できた。しかしながら、XRDのグラフを見ると、銀は「リン酸銀」という形で存在していることがわかった。またEDXの結果より、銀とカルシウムが共存していることも確認できた。さらに、SEM観察において、SBFから析出する水酸化アパタイトに特徴的なりん片状の形態を呈した粒子が認められたことから、本製造工程において、オリジナルの水酸化アパタイト層は、リン酸銀と水酸化アパタイトとの混合層に変化したものと考えられる。
・銀の含有量について
銀の含有量は、硝酸銀水溶液の濃度と浸漬時間により調節できることがわかった。しかしながら硝酸銀水溶液に長く浸漬させた場合、また濃い濃度に浸漬させた場合カルシウムの量が減っていた。酸性溶液下では水酸化アパタイトが溶解してしまうため、なるべく硝酸銀水溶液には短い時間で浸漬させなければならないことがわかった。
【0053】
[抗菌性試験]
前述した実験の結果から得られた好適な製造条件に従って、抗菌性試験を実施するためのサンプルを製造した。このサンプルは、マウスの大腿骨に移植するために、太さ0.5mm、長さ8mmの純チタン製のインプラントを材料として製造した。
【0054】
(サンプルNo.1)
太さ0.5mm、長さ8mmの純チタン製のインプラントを未処理のまま使用した(以下「Ti」と記す場合がある。)
【0055】
(サンプルNo.2)
太さ0.5mm、長さ8mmの純チタン製のインプラントの表面を#240の研磨紙で研磨した後、純水→エタノール→アセトンの順番で超音波洗浄を5分間ずつ2回行った。その後自然乾燥させたものをサンプルとした(以下「Ti(アセトン処理)」と記す場合がある)。
【0056】
(サンプルNo.3)
サンプルNo.2と同様の研磨・洗浄・乾燥後、空気中200℃に加熱し、そのまま放冷し、サンプルとした(以下「Ti(加熱処理)」と記す場合がある)。
【0057】
(サンプルNo.4)
サンプルNo.3と同様に空気中200℃に加熱した後、図6に示すように、尿素+ウレアーゼのSBF溶液中に入れ、該溶液を交換しながら7日間静置し、表面に水酸化アパタイトを析出、コーティングさせ、その後純水で洗浄し、自然乾燥したものをサンプルとした(以下「HAP-Ti」等と記す場合がある)。
【0058】
(サンプルNo.5)
サンプルNo.4と同様に、純チタン製のインプラントの表面に水酸化アパタイトをコーティングし、その後、濃度1000ppmのIP6水溶液(温度50℃)に一日浸漬し、その後取り出して純水で洗浄し、自然乾燥させてサンプルとした(以下「HAP-IP6-Ti」と記す場合がある)。
【0059】
(サンプルNo.6)
サンプルNo.5と同様に、IP6水溶液に浸漬した後、濃度0.001mol/dm3の硝酸銀水溶液中に15分浸漬して銀イオンを固定化し、その後純水で洗浄し、自然乾燥させてサンプルとした(以下「HAP-IP6-Ag-Ti Ag0.001M」と記す場合がある)。
【0060】
(サンプルNo.7)
サンプルNo.5と同様に、IP6水溶液に浸漬した後、濃度0.005mol/dm3の硝酸銀水溶液中に15分浸漬して銀イオンを固定化し、その後純水で洗浄し、自然乾燥させてサンプルとした(以下「HAP-IP6-Ag-Ti Ag0.005M」と記す場合がある)。
【0061】
(サンプルNo.8)
サンプルNo.5と同様に、IP6水溶液に浸漬した後、濃度0.01mol/dm3の硝酸銀水溶液中に15分浸漬して銀イオンを固定化し、その後純水で洗浄し、自然乾燥させてサンプルとした(以下「HAP-IP6-Ag-Ti Ag0.01M」等と記す場合がある)。
【0062】
(1)シャーレテスト
前記の通り製造したサンプルNo.1〜8のインプラントを、シャーレに入れたLB寒天培地上に放射線状に並べて置き、該培地にルシフェラーゼ発現のある黄色ブドウ球菌を植菌し、37℃で培養し、前記インプラントの周囲の菌繁殖状態を調べた。
図29は、培養後のシャーレ全体のphase画像である。また、図31は、培養後のシャーレにおける各インプラント1〜8の周囲のphase画像である。これらの図から、サンプルNo.1〜8のインプラントのうち、銀イオンを固定化したサンプルNo.6〜8のインプラント周囲には細菌の非増殖部位(黒色)が観察され、強い抗菌性を有していることが分かる。さらに、イノシトールリン酸を固定化しAgを固定化していないサンプルNo.5も軽度の抗菌性を有することが認められた。
【0063】
図30は、図29と同じ培養後のシャーレ全体を、Xenogen社製のIVIS(登録商標)イメージングシステムを用い、ルシフェラーゼ発現のある黄色ブドウ球菌から発する光を捉える高感度の観測を行ったbluc画像である。また、図32は、培養後のシャーレにおける各インプラント1〜8の周囲のbluc画像である。これらの図から、サンプルNo.1〜8のインプラントのうち、銀イオンを固定化したサンプルNo.6〜8のインプラント周囲には細菌の非増殖部位(黒色)が観察され、強い抗菌性を有していることが分かる。さらに、イノシトールリン酸を固定化しAgを固定化していないサンプルNo.5も軽度の抗菌性を有することが認められた。
【0064】
次に、前記サンプルNo.7のインプラントについて、実際の臨床応用を想定し、さまざまな条件下で抗菌性の有無を確認した。すなわち、実際の臨床応用において、インプラントは血液と接触したり、骨内に挿入する際に摩耗され多少のロスも予測される。
ここでは、前記サンプルNo.7のインプラントについて、洗浄、摩擦を行ったインプラントについても前記シャーレテストを行って、抗菌性の有無を確認した。サンプルとしては、前記サンプルNo.7のインプラント(IP6-Ag coating)、それを洗浄したもの(IP6-Ag coating washed)、摩擦を行ったもの(IP6-Ag coating rubbed)、及び比較のためにサンプルNo.4のインプラント(HAP coating)の4種類を用いた。
図33は、前記4種類のインプラントを対象としたシャーレテストの結果を示し、上側は4種類のインプラント周囲のphase画像であり、下側はbluc画像である。
図33に示すように、強い抗菌性が認められたサンプルNo.7のインプラントについて、洗浄や摩擦を加えても、インプラント周囲には細菌の非増殖部位(黒色)が観察され、その抗菌性は十分に維持されていることが分かる。従って、サンプルNo.7のインプラントは、実際の臨床応用に耐え得る耐久性・安定性を有していることが確認された。
【0065】
[in vivo抗菌性試験−1]
BALB/c 雄成獣マウスを用い、骨髄炎モデルの作成を行った。
インプラントとして、前記サンプルNo.1〜8のインプラントのうち、サンプルNo.4のインプラント(HAP-Ti;以下、HAPと略記する)とサンプルNo.7のインプラント(HAP-IP6-Ag-Ti Ag0.005M;以下、Ag+と略記する)を用い、これらのインプラントをマウスの大腿骨に移植した。
移植したインプラントの周囲に、ルシフェラーゼ発現の黄色ブドウ球菌を注入し、このマウスを前述したイメージングシステムを用い、移植後1日目〜28日目まで、ルシフェラーゼ発現のある黄色ブドウ球菌から発する光を捉える高感度の観測を行った。図34にその結果を示す。
【0066】
図34の上段のグラフは、HAPとAg+とのいずれかのインプラントを移植し、かつ前記の菌を注入したマウス(HAP群,Ag+群ともN=4)について、移植後1日、3日、7日、14日、21日及び28日の各時点で、前述したイメージングシステムを用いてマウスの移植部周辺の発光強度を測定し、その平均値及び変動範囲をまとめて示すグラフである。なお、該グラフの縦軸の数値は発光強度(任意強度単位)であり、横軸の数値は移植後の日数を表している。
図34の下段は、両群の代表的マウスについて、前述したイメージングシステムを用いてマウスの細菌移植部の発光状態を移植後1日、3日、7日、14日、21日及び28日の各時点で撮影した経時的な推移を示した画像である。
【0067】
図34に示した結果から、移植後1日目において、HAP群では、発光強度が急激に増加し、移植したインプラント周囲に細菌(ルシフェラーゼ発現の黄色ブドウ球菌)が増殖していることが分かる。一方、Ag+群では、発光強度の増加が見られたものの、その発光強度はHAP群と比べて統計学的に有意に低い結果であった。
移植後3日目、HAP群のマウスは引き続いて発光強度が高い状態を維持していた。Ag+群のマウスは、1日目よりも発光強度が増加したが、HAP群のマウスの発光強度よりも低かった。
移植後7日目、HAP群のマウスは、3日目に比べて発光強度が増加した。一方、Ag+群のマウスは3日目に比べて発光強度が低下した。Ag+群の発光強度はHAP群に比べ、統計学的に有意に低かった。
移植後14日目、HAP群とAg+群の両群において7日目に比べて発光強度が自然免疫により低下した。自然免疫によって細菌が死滅する事実は過去の多くの細菌感染実験において示されている現象である。両群間の比較では、14、21、28日の各時点でAg+群の発光強度は、HAP群と比較してより低く、経時的にも減少する結果であった。特記すべきは、28日目においてAg+群の発光強度は画像でも示す如くバックグラウンドとほぼ同等、すなわち細菌がほぼ死滅していた。
【0068】
図34に示した結果から、本発明に係るAg+のインプラントは、HAPのインプラントに比べて移植後のインプラント周辺の細菌増殖を抑制することができた。この結果から、本発明に係るインプラントは、in vivoでも高い抗菌性を発揮し、しかも短期で強い抗菌性を示し、長期においても抗菌性を維持できることが実証された。
【0069】
[in vivo抗菌性試験−2]
前記[in vivo抗菌性試験−1]と同じく、BALB/c 雄成獣マウスを用い、骨髄炎モデルの作成を行った。
インプラントとして、前記サンプルNo.1〜8のインプラントのうち、サンプルNo.4のインプラント(HAP)とサンプルNo.5のインプラント(HAP-IP6-Ti;以下、IP6と略記する)を用い、これらのインプラントをマウスの大腿骨に移植した。
移植したインプラントの周囲に、ルシフェラーゼ発現の黄色ブドウ球菌を注入し、このマウスを前述したイメージングシステムを用い、移植後1日目〜28日目まで、ルシフェラーゼ発現のある黄色ブドウ球菌から発する光を捉える高感度の観測を行った。図35にその結果を示す。
【0070】
図35の上段のグラフは、HAPとIP6とのいずれかのインプラントを移植し、かつ前記の菌を注入したマウス(HAP群,IP6群ともN=6)について、移植後1日、3日、7日、14日、21日及び28日の各時点で、前述したイメージングシステムを用いてマウスの移植部周辺の発光強度を測定し、その平均値及び変動範囲をまとめて示すグラフである。なお、該グラフの縦軸の数値は発光強度(任意強度単位)であり、横軸の数値は移植後の日数を表している。
図35の下段は、両群の代表的マウスについて、前述したイメージングシステムを用いてマウスの細菌移植部の発光状態を移植後1日、3日、7日、14日、21日及び28日の各時点で撮影した経時的な推移を示した画像である。
【0071】
図35に示した結果から、移植後1日目では、HAP群では、発光強度が急激に増加し、移植したインプラント周囲に細菌(ルシフェラーゼ発現の黄色ブドウ球菌)が増殖していることが分かる。IP6群についても、発光強度の増加が見られたが、HAP群の場合よりも若干低めであった。
移植後3日目、HAP群のマウスは引き続いて発光強度が上昇した。IP6群のマウスについても、発光強度の上昇が見られたが、HAP群の場合よりも低い結果であった。
移植後7日目、HAP群のマウスは3日目に比べて発光強度の低下が見られたが、依然として発光強度が高いレベルにあった。一方、IP6群のマウスでは、3日目に比べ、発光強度が急激に低下した。IP6群の発光強度はHAP群と比較して、統計学的に有意に低かった。
移植後14日目〜21日目、両群の発光強度は低下傾向にあるが、IP6群のマウスの発光強度は依然としてHAP群のマウスと比較し低かった。移植後21日目〜28日目では、両群の発光強度に有意な変化は無く、IP6群は依然としてHAP群と比較し低かった。特記すべきは、21日目以降においてIP6群の発光強度は画像でも示す如くバックグラウンドとほぼ同等、すなわち細菌がほぼ死滅していた。
【0072】
図35に示した結果から、本発明に係るIP6のインプラントもAg+のインプラント同様に抗菌性を持ち、HAPのインプラントに比べて移植後のインプラント周辺の細菌増殖を抑制することができた。この結果から、本発明に係るインプラントは、in vivoでも高い抗菌性を発揮し、しかも長期にわたり抗菌性を維持できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器を提供できる。
【符号の説明】
【0074】
1A〜1D 抗菌性医療機器
2 医療機器
3 水酸化アパタイト層(Ca化合物層)
4 イノシトールリン酸
5 銀イオン
6 医療機器
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において使用されるインプラント、手術用具などの医療機器に関し、特に、抗菌性を有する抗菌性医療機器とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体インプラントにおいて抗菌性を備えるチタン系または非チタン系部材として、例えば、特許文献1に開示された技術が提案されている。
特許文献1には、基材、該基材上に形成された結晶性アルカリチタネートのナノシート、ナノチューブ、ナノファイバーまたはナノクリスタルの層、及び前記アルカリチタネートのアルカリ成分の一部又は全部が銀イオンで置換されている銀チタネート層を含むことを特徴とするチタネートでコーティングされた抗菌性部材が開示されている。
また、特許文献1には、前記抗菌性部材の製造方法として、(i)チタン系基材をアルカリ水溶液中で110〜180℃の温度下に水熱処理に供する工程、(ii)前記水熱処理後の生成物を200〜700℃で加熱処理する工程、及び(iii)前記加熱処理後の生成物を洗浄、乾燥した後、銀イオン含有水溶液に浸漬する工程、を含むことを特徴とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008/081861
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示された抗菌性部材は、銀チタネート層を含むことから高い抗菌活性は得られるものの、この抗菌性部材をインプラントに用いる場合、チタネート又は銀チタネートが生体組織と接触するために、インプラントと生体組織との適合性が悪いという問題があった。
また、前記抗菌性部材の銀チタネート層は、アルカリチタネートのアルカリ成分の一部又は全部が銀イオンで置換されたものなので、その実施例10等にも記載されているように、移植部位などの使用状態によって銀イオンの溶出度合が大きく変動してしまう。したがって、この抗菌性部材は、銀イオンが溶出せずに抗菌性が生じなかったり、逆に銀イオンが過剰に溶出して毒性が発現する恐れがある。また、銀イオンの溶出度合いが不安定であることから、長期間抗菌性を維持できないなどの問題が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、生体内で十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器の前記Ca化合物に、イノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器を提供する。
本発明の抗菌性医療機器において、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる構成としてもよい。
また、前記イノシトールリン酸は、フィチン酸(イノシトール六リン酸、以下、IP6と略記する場合がある)であることが好ましい。
さらに、前記Ca化合物は、水酸化アパタイトであることが好ましい。
また、前記抗菌性医療機器は、抗菌性インプラントであることが好ましい。
【0007】
また本発明は、少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器を、イノシトールリン酸の水溶液と接触させ、前記Ca化合物にイノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器を得ることを特徴とする抗菌性医療機器の製造方法を提供する。
本発明の抗菌性医療機器の製造方法において、前記Ca化合物にイノシトールリン酸を結合させた後、さらに銀イオンを含む水溶液と接触させて、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる抗菌性医療機器を得ることもできる。
また、前記イノシトールリン酸は、フィチン酸であることが好ましい。
さらに、前記Ca化合物が水酸化アパタイトであることが好ましい。
また、前記抗菌性医療機器は、抗菌性インプラントであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗菌性医療機器は、少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器の前記Ca化合物に、イノシトールリン酸が結合されてなるものなので、生体内で十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器を提供できる。
本発明の抗菌性医療機器において、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる構成とすれば、より即効性のある抗菌性を持った抗菌性医療機器を提供できる。
【0009】
また本発明の抗菌性医療機器の製造方法は、医療機器の前記Ca化合物にイノシトールリン酸の水溶液を接触させ、前記Ca化合物にイノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器を得るものなので、生体内で十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器を効率よく安価に製造することができる。
本発明の抗菌性医療機器の製造方法において、前記Ca化合物にイノシトールリン酸を結合させた後、さらに銀イオンを含む水溶液と接触させて、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる抗菌性医療機器を得ることによって、より即効性のある抗菌性を持った抗菌性医療機器を効率よく安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の抗菌性医療機器の第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の抗菌性医療機器の第2実施形態を示す概略構成図である。
【図3】本発明の抗菌性医療機器の第3実施形態を示す概略構成図である。
【図4】本発明の抗菌性医療機器の第4実施形態を示す概略構成図である。
【図5】実施例でのチタンの調製工程に関し、(a)は表面研磨後のチタン表面拡大画像、(b)はその表面の含有元素の測定結果、(c)は研磨処理済チタン(左)と未処理チタン(右)との画像である。
【図6】実施例での実験手順を説明するためのフロー図である。
【図7】水酸化アパタイトコーティングチタン表面のSEM画像であり、(a)は500倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍、(d)は20000倍の画像、(e)は同じ表面の含有元素の測定結果である。
【図8】実施例での水酸化アパタイトコーティングチタン表面へのイノシトールリン酸と銀イオン固定化の手順を示すフロー図である。
【図9】イノシトールリン酸濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面の結晶相の同定結果を示す図である。
【図10】イノシトールリン酸濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面のSEM画像である。
【図11】水酸化アパタイトコーティングチタン表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図12】イノシトールリン酸濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図13】イノシトールリン酸濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面の銀の含有量を示すグラフである。
【図14】イノシトールリン酸濃度を変動させた実験でのイノシトールリン酸の濃度、硝酸銀水溶液の濃度及びAg/(Ca+Ag)の値との関係を示すグラフである。
【図15】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面のX線回折結果を示す図である。
【図16】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で得られたサンプル表面のSEM画像である。
【図17】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.001mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図18】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.005mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図19】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図20】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験で硝酸銀水溶液の濃度とサンプル表面の銀の含有量との関係を示すグラフである。
【図21】硝酸銀水溶液の濃度を変動させた実験での硝酸銀水溶液の濃度とAg/(Ca+Ag)の値との関係を示すグラフである。
【図22】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験で得られたサンプル表面の結晶相の同定X線回折結果を示す図である。
【図23】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験で得られたサンプル表面のSEM画像である。
【図24】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験でIP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図25】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験でIP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間30分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図26】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験でIP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間60分の条件で作製したサンプル表面の含有元素の調査結果を示す図である。
【図27】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験で浸漬時間とサンプル表面の銀の含有量との関係を示すグラフである。
【図28】硝酸銀水溶液への浸漬時間を変動させた実験で浸漬時間とAg/(Ca+Ag)の値との関係を示すグラフである。
【図29】インプラントのサンプルNo.1〜No.8のシャーレテストによる抗菌性試験の結果を示すシャーレのphase画像である。
【図30】インプラントのサンプルNo.1〜No.8のシャーレテストによる抗菌性試験の結果を示すシャーレのbluc画像である。
【図31】インプラントのサンプルNo.1〜No.8のシャーレテストによる抗菌性試験の結果を示す各サンプルのphase画像である。
【図32】インプラントのサンプルNo.1〜No.8のシャーレテストによる抗菌性試験の結果を示す各サンプルのbluc画像である。
【図33】インプラントのサンプルNo.7について処理無し、洗浄後、摩擦後の各サンプル、及びサンプルNo.4についてのシャーレテストによる抗菌性試験の結果を示す、各サンプルのphase画像及びbluc画像である。
【図34】サンプルNo.4及びNo.7のインプラントを大腿骨に移植し、かつ黄色ブドウ球菌を注入したマウスにおけるインプラント周囲の菌の繁殖状態を経時的に調べたin vivo試験−1の結果を示すグラフとbluc画像である。
【図35】サンプルNo.4及びNo.5のインプラントを大腿骨に移植し、かつ黄色ブドウ球菌を注入したマウスにおけるインプラント周囲の菌の繁殖状態を経時的に調べたin vivo試験−2の結果を示すグラフとbluc画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
本発明において「医療機器」とは、平成14年改正薬事法において定義された医療機器が挙げられる。これらの医療機器の中でも、純チタンやチタン合金(Ti−6Al−4V合金など)、ステンレス鋼、低炭素鋼、銅又は銅合金、銀又は銀合金、金又は金合金、プラチナなどの白金族元素又はその合金、コバルトクロム合金などの金属材料で作られた医療機器;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、カーボン、炭素繊維強化PEEK、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、ポリ乳酸などの合成樹脂で作られた医療機器;水酸化アパタイト等のCa化合物で作られた医療機器;シリカ、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックスで作られた医療機器が好ましい。また、本発明の「医療機器」には、抗菌性の付与が望まれる食器、玩具等にも適用される。
【0012】
以下、本発明において好適な医療機器を例示する。
[抗菌加工が可能な生体インプラントなど]
・チューブ:気管切開チューブ、気管内チューブ、イレウス用チューブ、経鼓膜換気チューブ、胃・食道静脈瘤圧迫止血用チューブ、シャントチューブ、血管用チューブ、排尿チューブ、各種ドレナージチューブ、持続チューブ。
・カテーテル:動静脈圧測定用カテーテル、サーモダイリューション用カテーテル、冠状動脈洞内血液採取用カテーテル、血管造影用カテーテル、血管内視鏡カテーテル、直腸カテーテル、中心静脈用カテーテル、套管針カテーテル、栄養カテーテル、胃管カテーテル、吸引留置カテーテル、腎瘻カテーテル、膀胱瘻カテーテル、経皮的又は経内視鏡的胆管等ドレナージ用カテーテル、胃瘻カテーテル、膀胱留置用カテーテル、ブラッドアクセス用留置カテーテル、腹膜透析用カテーテル、副鼻腔炎治療用カテーテル、植込み型輸液ポンプ用髄腔カテーテル、経皮的カテーテル、心筋焼灼術用カテーテル、バルーンパンピング用バルーンカテーテル、心臓手術用カテーテル、ガイディングカテーテル、血管内手術用カテーテル、尿路拡張用カテーテル、胆道結石除去用カテーテル、腎・尿管結石除去用カテーテル、ドレーンカテーテル、心拍出量測定用カテーテル、脳・髄液圧測定用カテーテル、画像診断用カテーテル、消化器内圧カテーテル、腹部血管造影用カテーテル、多目的造影用カテーテル、消化器造影カテーテル、内視鏡的造影カテーテル、頸部・脳脊髄血管造影用カテーテル、心臓胸部血管造影用カテーテル、電極カテーテル、PTCAカテーテル、子宮卵管用カテーテル、尿道カテーテル、尿道・膀胱内圧測定用カテーテル、尿管カテーテル、バルーンカテーテル、尿管結石除去用カテーテル、留置用カテーテル、吸引カテーテル。
・ガイドワイヤー、ワイヤー:経皮的冠動脈形成術用カテーテル用ガイドワイヤー、冠動脈造影用センサー付ガイドワイヤー、血管造影用ガイドワイヤー、弁拡張用カテーテル用ガイドワイヤー、体外式ペースメーカー用心臓埋込ワイヤー、脊椎手術用金属ワイヤー、PTCA用ガイドワイヤー、キルシュナー鋼線。
・針:プラスチックカニューレ型静脈内留置針、脳・脊髄腔用カニューレ、子宮頸部縫縮用針、翼状針、心臓外科用針、造影用針、カテラン針、スパイナル針。
・電極:植込み型除細動器用カテーテル電極、体外式ペースメーカー用カテーテル電極、体表面ぺーシング用電極、埋込型脳・脊髄電気刺激装置、脳波測定用頭蓋内電極、植込み式心臓ペースメーカー用リード。
・血管内超音波プローブ。
・ダイレーター:血管ダイレーター、尿道・尿管ダイレーター、筋肉ダイレーター。
・クリップ:脳動脈瘤手術クリップ、脳血液遮断用クリップ、脳動静脈奇形手術用等クリップ、硬膜損傷用クリップ、血管外科手術用クリップ、ウェック、自動吻合、縫合器、止血・結サツ用クリップ、血管クランプ。
・人工膜、人工線維:人工硬膜、組織代用人工繊維布、合成吸収性癒着防止材、皮膚欠損用創傷被覆材、真皮欠損用グラフト。
・ステント:胆道ステント、尿管ステント、尿道ステント、気管・気管支ステント、食道用ステント、大動脈用ステントグラフト、冠動脈用ステント、肺塞栓防止用アンブレラ。
・内固定材料:副木(プレート)、固定用内副子(スクリュー)、固定用内副子(プレート)、大腿骨外側固定用内副子、固定用内副子用ワッシャー・ナット類、創外固定インプラント、髄内釘、固定釘、固定用金属線、固定用金属ピン、吸収ピン・スクリュー。
・脊椎固定用材料:椎体ワッシャー、脊椎ロッド、脊椎プレート、椎体フック、脊椎スクリュー、脊椎コネクター、脊椎ワイアー、ネスプロンテープ。
・椎間スペーサー(ケージ)。
・人工関節:人工股関節、人工膝関節、人工肩関節、人工肘関節、人工手関節、人工足関節、人工指関節、カスタムメイド人工関節。
・人工臓器:人工心肺回路、人工血管、人工咽頭、人工内耳用材料、人工靱帯、人工骨頭帽、人工骨、カスタムメイド人工骨、機械弁、生体弁、弁付きグラフト(生体弁)、人工弁輪、心臓弁、補助人工心臓、ディスポーザブル人工肺(模型肺)、人工肺、人工食道、人工乳房、泌尿器科用インプラント、耳鼻科用プロテーゼ。
・ペースメーカー。
・除細動器:植込み型除細動器、両室ぺーシング機能付き植込み型除細動器。
・リード:脳深部刺激装置用リード、脊髄刺激装置用リード。
・耳鼻科関連医療材料:涙点プラグ、鼻中隔プロテーゼ、鼻孔プロテーゼ。
・止血材:ゼラチンスポンジ止血材、デキストラノマー、微繊維性コラーゲン、経皮的冠動脈形成術用穿刺部止血材料。
・バルブ:頭・静脈・腹腔シャントバルブ、胸水・腹水シャントバルブ。
・ポンプ:植込み型輸液ポンプ、遠心式体外循環用血液ポンプ、髄腔内持続投与用ポンプ。
・カニューレ:体外循環用カニューレ。
・フィルター:輸血用血液フィルター、麻酔器・人工呼吸器フィルター。
・塞栓物質:肝動脈塞栓材、脳外科プラチナコイル。
・内視鏡。
・注射器:インスリン製剤等注射器、ヒト成長ホルモン剤注射器、ホルモン製剤等注射器、万年筆型注入器用注射針。
・機器・装置:血漿交換用血漿分離器、血漿交換用血漿成分分離器、組織拡張器、吸着式血液浄化用浄化器(エンドトキシン除去用)、腹膜透析装置専用回路、腹水濾過器(回路を含む。)、濃縮再静注用濃縮器(回路を含む。)。
・その他:骨セメント、合成吸収性骨片接合材料、尿路結石破砕装置用ピンハンマー、非固着性シリコンガーゼ、遠心分離式白血球除去用材料、白血球吸着用材料、循環式人工腎臓用吸着筒、防塵マット、手術台、手術台関連器具。
・ドレーン:ドレーンカテーテル、ドレーン容器。
・バック:尿バック、術後ドレーンバック。
・ドレープ:手術用プラスティックドレーン。
【0013】
[手術器具]
・メス。
・鉗子:食道鉗子、骨把持鉗子、直角鉗子、流産鉗子、腸鉗子、止血鉗子、大動脈鉗子、頭皮用布鉗子、剥離鉗子、糸鉗子、移植用ブルドック鉗子、フォガティー血管鉗子、ヘモクリップ鉗子、胃鉗子、リスター、大静脈鉗子、十二指腸鉗子、骨鉗子、虫垂断端鉗子、関節包鉗子、腱誘導鉗子、甲状腺鉗子、リンパ線鉗子、肺剥離鉗子、のみ鉗子、バブコック鉗子、多用途血管鉗子、鋭匙鉗子、結合組織圧縮鉗子、モスキート、キュストネル子宮安全鉗子、血管鉗子、ペアン、マルチン単双鉗子、ドレーン鉗子、コッヘル、ミュウゾウ2双鉗子、メラブルドック鉗子、ケリー、柄付鉗子、胸・腹腔鏡用鉗子類、アリス、ブルドック鉗子、ミクリッツ鉗子、布鉗子、胎盤鉗子。
・メスホルダー。
・エレバトリューム。
・ラスパトリューム。
・ハンマー。
・ロンジュール。
・ヘラ:腸ベラ、脳ベラ、神経ベラ。
・リュエル。
・ピンセット。
・開創器:アドソン、ゲルピー、ウェイトラーナー。
・開口器。
・鈎:筋鈎、天晶式単鋭鈎、神経鈎、肺圧排鈎、鞍状鈎、特大巾広筋鈎、ディーバー鈎、ホーマン鈎、肩甲骨鈎、尿管鈎、腱牽引鈎、上顎洞鈎、偏平二鈎、デマ鈎。
・ケリソン。
・剪刀:眼科剪刀、形成剥離剪刀、スキャンラン剪刀、ディマルティ剪刀、後方肋骨剪刀。
・キリ。
・持針器:マチュー、スキャメド、サロット、ライダー、ウエブスター、スウェーデン。
・スプレッダー。
・フック:スキンフック、フレンチフック。
・クリップ:レーニンクリップ。
・タオル:カップ。
・レトラクター。
・金属シャーレ。
・糸。
・マスク(医者、看護師用、患者換気用)。
・手袋。
・術衣。
・ガーゼ。
・針:注射針、動脈瘤針、脳室穿刺針、デシャン動脈瘤針。
・ゾンデ。
・ビーカー。
・トレイ。
・膿盆。
・鋭匙:軟部鋭匙、歯科用骨鋭匙。
・剥離子:歯科用剥離子、神経剥離子、口蓋裂剥離子、耳鼻科剥離子。
・内視鏡:肛門鏡、頭蓋骨内視鏡、鼻鏡、膣鏡、耳鏡、関節鏡、直腸鏡、カプセル型内視鏡。
・鑷子(セッシ):血管鑷子、スエーデンセッシ、バーグセッシ、マイクロセッシ、耳鼻科用セッシ、クッシングセッシ、歯科用鑷子、フック鑷子、先曲りドベーキー鑷・長鑷子、アドソンセッシ、プリンスセッシ。
・舌圧子。
・吸引管。
・ヤスリ。
・ミラー。
・聴診器。
・ハサミ:クーパー、メッチェン。
・剪刀。
【0014】
[その他]
・便器。
・洗面台。
・手すり。
・コンピュータ内部の部品。
・体温計。
・美容外科用器具(鼻形成用、豊胸用シリコンなど)。
・歯科インプラント各種。
・入れ歯。
・コンタクトレンズ。
・工業機器の一部。
【0015】
図1は、本発明の抗菌性医療機器の第1実施形態を示す概略構成図である。本実施形態の抗菌性医療機器1Aは、Ca化合物以外の材料で作られた医療機器2の表面に、Ca化合物層として水酸化アパタイト層3が形成され、該水酸化アパタイト層3にイノシトールリン酸4が結合した構造になっている。
【0016】
前記水酸化アパタイト層3は、Ca10(PO4)6(OH)2で表される水酸化アパタイトからなり、或いは各構成元素のモル比が若干変動したり微量の炭酸が含有された水酸化アパタイトからなり、医療機器2の表面の少なくとも一部、好ましくは表面全部を被覆している。この水酸化アパタイト層3の厚さは、1μm以上であることが好ましい。なお、Ca化合物層は、この水酸化アパタイト層3に限定されず、他の不溶性のCa化合物、例えば、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、Caの一部がMgで置換された不溶性塩類などを用いても良い。
【0017】
この水酸化アパタイト層3の形成方法は特に限定されず、例えば、プラズマ溶射法、真空蒸着法、化学気相成膜法(CVD法)などの乾式成膜法、Ca化合物とP化合物を含む水溶液中で医療機器2の表面に水酸化アパタイトを析出・付着させる湿式法などが挙げられる。これらの方法の中でも、各種材質の医療機器2に適用でき、また大量かつ安価に水酸化アパタイト層3を形成できる点から、湿式法が好ましい。湿式法としては、特に、水酸化アパタイトの組成モル比に対応させた比率でCa化合物とP化合物とを溶かした溶液に、尿素とウレアーゼとを添加し、それらの混合溶液に医療機器2を浸漬し、30〜60℃程度、好ましくは50℃程度の温度下でインキュベートして水酸化アパタイトを析出させ、医療機器2の表面に付着させる方法が好ましい。
【0018】
前記イノシトールリン酸は、イノシトール(1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサオール)の6つの水酸基の少なくとも1つがリン酸エステル化されたものであって、本発明では、水酸基の3つ以上がリン酸エステル化されたイノシトールリン酸が好ましく、水酸基の4つ以上がリン酸エステル化されたイノシトールリン酸がより好ましく、イノシトールの水酸基全部がリン酸エステル化されたフィチン酸(イノシトール六リン酸、IP6)が最も好ましい。フィチン酸は、強いキレート作用を有しており、本実施形態の抗菌性医療機器1Aにあっては、前記水酸化アパタイト層3のCaイオンに結合して存在している。
【0019】
本実施形態の抗菌性医療機器1Aは、前述したように、医療機器2の表面に水酸化アパタイト層3を形成し、さらにこれをIP6などのイノシトールリン酸溶液中に浸漬することによって、水酸化アパタイト層3にイノシトールリン酸4を結合させる湿式法によって簡単に作製できる。また、イノシトールリン酸溶液への浸漬に代えて、イノシトールリン酸溶液を水酸化アパタイト層3の表面にスプレー塗布し、表面のCaにイノシトールリン酸を結合させることも可能である。
【0020】
フィチン酸等のイノシトールリン酸の生体内の作用に関しては、抗腫瘍作用を有することが予測されてはいるものの、その詳しい作用については未だ十分解明されていない。
一方、本発明では、前記水酸化アパタイト層3などのCa化合物に結合させた状態のイノシトールリン酸が、抗菌性を有しているという新たな作用効果を見出している。
【0021】
本発明の抗菌性医療機器1Aにおいて、イノシトールリン酸4の結合量は、前記水酸化アパタイト層3などのCa化合物にできるだけ多く結合させることが好ましい。このイノシトールリン酸4の結合量は、表面に水酸化アパタイト層3を形成した医療機器2をイノシトールリン酸4の溶液に浸漬する際の、イノシトールリン酸の濃度や浸漬時間などによって適宜調整可能である。
【0022】
本実施形態の抗菌性医療機器1Aは、医療機器2の表面に、Ca化合物層として水酸化アパタイト層3が形成され、該水酸化アパタイト層3にイノシトールリン酸4が結合した構造であり、これまでのイノシトールリン酸に関する知識からは予測できなかった抗菌活性を有する、という作用効果を備えている。これにより、実用十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器を提供できる。
【0023】
図2は、本発明の抗菌性医療機器の第2実施形態を示す概略構成図である。本実施形態の抗菌性医療機器1Bは、Ca化合物以外の材料で作られた医療機器2の表面に、Ca化合物層として水酸化アパタイト層3が形成され、該水酸化アパタイト層3にイノシトールリン酸4が結合し、さらに該イノシトールリン酸4に銀イオン5が結合した構造になっている。
【0024】
前記水酸化アパタイト層3に結合したイノシトールリン酸4は、未だキレート結合が可能であり、これに銀イオンを接触させることによってイノシトールリン酸4に銀イオン5を結合させることができる。このイノシトールリン酸4に結合した銀イオン5は、生体内で体液や組織と接触することによって徐々に遊離して銀イオンとなり、強い抗菌活性を発揮する。
【0025】
本実施形態の抗菌性医療機器1Bは、前述した第1実施形態の抗菌性医療機器1Aを、硝酸銀水溶液などのAgイオン含有溶液中に浸漬し、引き上げて洗浄・乾燥させる、又は該溶液をスプレー塗布し洗浄・乾燥することによって容易に作製することができる。なお、銀イオン5の結合量は特に限定されず、抗菌性医療機器1Bの種類や使用用途などに応じて適切な量の銀イオン5を結合させればよい。銀イオン5の結合量は、浸漬に用いる溶液の銀イオン濃度や浸漬時間により適宜調整可能である。
【0026】
本実施形態の抗菌性医療機器1Bは、前述した第1実施形態の抗菌性医療機器1Aにおけるイノシトールリン酸4に銀イオン5を結合させた構造であるので、より即効性のある抗菌性を持った抗菌性医療機器を提供できる。
【0027】
図3は、本発明の抗菌性医療機器の第3実施形態を示す概略構成図である。本実施形態の抗菌性医療機器1Cは、Ca化合物からなる、あるいはCa化合物を含有している医療機器6の表面に、直接イノシトールリン酸4を結合させた構造になっている。
【0028】
本実施形態の抗菌性医療機器1Cは、必要に応じて医療機器6の表面を研磨したり洗浄した後、イノシトールリン酸溶液にこの医療機器6を浸漬することにより、表面のCaにイノシトールリン酸を結合させた後、これを溶液から分離し、洗浄・乾燥させることによって簡単に作製することができる。また、イノシトールリン酸溶液への浸漬に代えて、イノシトールリン酸溶液を医療機器6の表面にスプレー塗布し、表面のCaにイノシトールリン酸を結合させることも可能である。
【0029】
本実施形態の抗菌性医療機器1Cは、前述した第1実施形態の抗菌性医療機器1Aと同様に、Ca化合物からなる、あるいはCa化合物を含む医療機器6の表面にイノシトールリン酸4が結合した構造であり、これまでのイノシトールリン酸に関する知識からは予測できなかった、抗菌活性を有する、という作用効果を備えている。これにより、実用十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器を提供できる。
【0030】
図4は、本発明の抗菌性医療機器の第4実施形態を示す概略構成図である。本実施形態の抗菌性医療機器1Dは、Ca化合物からなる、あるいはCa化合物を含有している医療機器6の表面に、直接イノシトールリン酸4を結合させ、さらに該イノシトールリン酸4に銀イオン5を結合させた構造になっている。
【0031】
本実施形態の抗菌性医療機器1Dは、前述した第3実施形態の抗菌性医療機器1Cを、硝酸銀水溶液などのAgイオン含有溶液中に浸漬し、引き上げて洗浄・乾燥させる、又は該溶液をスプレー塗布し洗浄・乾燥することによって容易に作製することができる。なお、銀イオン5の結合量は特に限定されず、抗菌性医療機器1Dの種類や使用用途などに応じて適切な量の銀イオン5を結合させればよい。銀イオン5の結合量は、浸漬に用いる溶液の銀イオン濃度や浸漬時間により適宜調整可能である。
【0032】
本実施形態の抗菌性医療機器1Dは、前述した第3実施形態の抗菌性医療機器1Cにおけるイノシトールリン酸4に銀イオン5を結合させた構造であるので、より即効性のある抗菌性を持った抗菌性医療機器を提供できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明の効果を実証するが、以下の実施例は本発明の一例に過ぎず、本発明は実施例の記載により限定されるものではない。
【0034】
(1)チタン基板への水酸化アパタイトコーティング
(1−1)試薬の調整
・生体疑似体液(以下、SBFと記す)の調製
SBFは、ヒトの血液中の血しょうからヒトの細胞やタンパク質などの有機物を除いた無機イオン濃度を、血しょうとほぼ等しくした溶液である。表1に、SBFと血しょうのイオン濃度を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1中、SBF(1.5)とは、標準濃度のSBF(SBF(1.0))の溶質の量をすべて1.5倍にしたものである。
このSBFは、表2中に記した試薬を用い、記載した通りの割合で各試薬を加え、全量を1dm3(36.5℃、pH7.40)とする。以下の実施例において、SBFとして、SBF(1.5)を用いた。
【0037】
【表2】
【0038】
・表面処理溶液の調製
表面処理溶液は、SBFに尿素を加えて調製した。
SBFに尿素濃度が2.0mol/dm3となるように尿素を加えた。また、チタンを表面処理溶液に浸漬させるときに、尿素の加水分解酵素であるウレアーゼを純水に溶かし、1.0質量%ウレアーゼ溶液としたものを加えた。
この2種類の溶液を用意した。
【0039】
(1−2)チタンの調製
チタンは研磨機を用い、#240の研磨紙で表面を研磨した。そのあと、純水→エタノール→アセトンの順番で超音波洗浄を5分間ずつ2回行った。その後自然乾燥させたものを使った。図5(a)は、調製したチタン表面の拡大画像であり、また図5(b)は含有元素の測定結果であり、また図5(c)は研磨処理済チタン(左)と未処理チタン(右)との外観である。
【0040】
(1−3)実験手順
実験手順を図6に示す。前記の通り表面研磨・洗浄・乾燥を行ったチタンは、次に、空気中で200℃に加熱し、次に、尿素とウレアーゼを含むSBF中に入れ、50℃のインキュベーター中で数日間静置して水酸化アパタイトを析出させた。
この水酸化アパタイトコーティングに使う溶液を表3に示す。
SBFは、2日目、4日目、6日目に取り替えた。
7日目は、溶液をすべて抜いて純水で洗い、その後自然乾燥させた。
【0041】
【表3】
【0042】
前記手順によって水酸化アパタイトコーティングチタンを得た。図7(a)は、得られた水酸化アパタイトコーティングチタンの表面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像(×500)であり、図7(b)は同じく×5000の画像、(c)は同じく×10000の画像、(d)は同じく×20000の画像、(e)は同じ水酸化アパタイトコーティングチタンの表面のEDX(エネルギー分散形X線分析)による含有元素の測定結果である。これらの結果から、得られた水酸化アパタイトコーティングチタンの表面には、水酸化アパタイトからなるコーティングが形成されたことがわかる。
【0043】
(2)水酸化アパタイトコーティングチタンへの銀イオン固定化
(2−1)試薬の調製
・イノシトールリン酸
銀イオンの固定化には、イノシトールリン酸水溶液を使う。本実施例においてイノシトールリン酸としてIP6を用いた。IP6は、イノシトールの全ての水酸基(6個)がリン酸でエステル化された化合物であり、高いキレート効果を持つ生体関連物質である。イノシトールリン酸は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)以上の金属キレート効果を持ち、金属防蝕作用・除金属作用・抗酸化作用を有することが見出されている。
イノシトールリン酸の水溶液を水酸化アパタイト層と接触させることにより、水酸化アパタイト中のカルシウムイオンとイノシトールリン酸とが結合し、さらに結合したイノシトールリン酸が銀イオンをキレートし、水酸化アパタイト層にイノシトールリン酸を介して銀イオンが固定化されるものと考えられる。
本実施例において、イノシトールリン酸は、50%フィチン酸を希釈し1000ppm水溶液とした。これを原液とし、さらに希釈して4種類の水溶液を調製した。
【0044】
・銀イオン
本実施例において、銀イオン源としては硝酸銀水溶液を用いた。
市販の硝酸銀1.71gを純水に溶かし、100mLとする。これを原液として、さらに希釈し、0.00005ppm、0.0001ppm、0.0005ppm、0.001ppm、0.005ppmおよび0.01ppmの6種類の水溶液を調製した。硝酸銀は他の銀化合物と比べて純水への溶解度が高い。純水中で銀イオンはAg+として存在している。
【0045】
(2−2)実験方法
図8は、水酸化アパタイトコーティングチタン表面へのイノシトールリン酸と銀イオン固定化の手順を示す概略図である。
本実験では、まず、前記水酸化アパタイトコーティングチタンを6wellプレートにセットし、濃度250ppm〜、500ppm、750ppmおよび1000ppmのIP6溶液5.0cm3をそれぞれ該プレート内に注入し、50℃で一日静置し、水酸化アパタイトコーティングチタン表面にIP6を結合させた。
その後、プレートからIP6溶液を除去し、純水でプレート内を数回洗浄した。
次に、上記濃度0.00005〜0.01ppmに調整した硝酸銀水溶液をプレート内に注入し、浸漬時間15分・30分・60分で浸漬後、前記チタンを取り出し、純水で十分に洗浄し、自然乾燥させて水酸化アパタイトコーティングチタンに銀イオンを固定化したサンプルを作製した。
【0046】
本実施例では、銀イオン固定化について以下の実験1)〜3)を行った。
1)イノシトールリン酸の濃度による被膜への影響
図9は、イノシトールリン酸(IP6)の濃度を変えて作製した各サンプルの表面のX線回折結果を示すグラフである。図9から、イノシトールリン酸を用いたサンプルでは、表面に銀(Ag3PO4)の存在が確認でき、イノシトールリン酸を介してサンプル表面に銀が固定化できていることがわかる。一方、水酸化アパタイトのみの場合、銀は見られない。
図10は、イノシトールリン酸(IP6)の濃度を変えて作製した各サンプルの表面のSEM画像である。
図11は、水酸化アパタイトをコーティングしたサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。このサンプルでは、Agを示すピークは見られない。
図12は、イノシトールリン酸(IP6)の濃度を変えて作製した各サンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図13は、イノシトールリン酸(IP6)の濃度とサンプル表面の銀の含有量との関係を示すグラフである。
図14は、イノシトールリン酸(IP6)の濃度とサンプル表面のAg/(Ca+Ag)の割合との関係を示すグラフである。
【0047】
1)の実験結果をまとめると、今回はイノシトールリン酸の濃度を250ppm〜1000ppmと4種類で検討したが、どの場合でも銀を含有していることが確認できた。また、イノシトールリン酸の濃度が変化しても、銀の質量%は20%〜30%と大きな変化は見られなかった。図14の結果から、硝酸銀の濃度が0.005ppm未満になれば、イノシトールリン酸の濃度依存性が不安定となってくる。
よって、以下の実験においてイノシトールリン酸の濃度は1000ppmで行うことにした。
【0048】
2)硝酸銀水溶液の濃度を変化させたときの被膜への影響
図15は、硝酸銀水溶液の濃度を変えて作製した各サンプルの表面のX線回折結果を示すグラフである。
図16は、硝酸銀水溶液の濃度を変えて作製した各サンプルの表面のSEM画像である。
図17は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.001mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図18は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.005mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図19は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図20は、硝酸銀水溶液の濃度とサンプル表面の銀の含有量との関係を示すグラフである。
図21は、硝酸銀水溶液の濃度とサンプル表面のAg/(Ca+Ag)の割合との関係を示すグラフである。
【0049】
2)の実験結果をまとめると、硝酸銀水溶液への浸漬時間とイノシトールリン酸の濃度を一定にした場合、硝酸銀水溶液の濃度が濃いほど銀の含有率が増えていることがわかった。このことから、硝酸銀水溶液の濃度をコントロールすることで、抗菌性医療機器の製造において表面に付加させる銀イオンの量を調節することができると思われる。
しかしながら、銀の量は多すぎると細胞毒性を示すことが知られている。適切な銀の量を抗菌性医療機器に付加できるようにコントロールすることが重要である。
【0050】
3)硝酸銀水溶液への浸漬時間を変化させたときの被膜への影響
図22は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3の条件で、浸漬時間を変えて作製した各サンプルの表面のX線回折結果を示すグラフである。
図23は、浸漬時間を変えて作製した各サンプルの表面のSEM画像である。
図24は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間15分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図25は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間30分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図26は、IP6濃度1000ppm、AgNO3濃度0.01mol/dm3、浸漬時間60分の条件で作製したサンプル表面のEDXによる含有元素の測定結果を示すグラフである。
図27は、硝酸銀水溶液への浸漬時間とサンプル表面の銀の含有量との関係を示すグラフである。
図28は、硝酸銀水溶液への浸漬時間とサンプル表面のAg/(Ca+Ag)の割合との関係を示すグラフである。
【0051】
3)の実験結果をまとめると、イノシトールリン酸と硝酸銀水溶液の濃度が一定で、浸漬時間が異なる場合、浸漬させる時間が長いほど銀の含有率が高くなった。しかしながら、EDXの結果によると60分浸漬させたものは、「カルシウム」がほぼ無いに等しく、銀の量がかなり多かった。
硝酸銀水溶液に浸漬させると銀が含まれていくが、その分カルシウムの量が減っている。
【0052】
ここまでの一連の実験の結果から、次のことが分かった。
・銀の含有について
今回のイノシトールリン酸を用いた場合、銀が含有されていることが確認できた。しかしながら、XRDのグラフを見ると、銀は「リン酸銀」という形で存在していることがわかった。またEDXの結果より、銀とカルシウムが共存していることも確認できた。さらに、SEM観察において、SBFから析出する水酸化アパタイトに特徴的なりん片状の形態を呈した粒子が認められたことから、本製造工程において、オリジナルの水酸化アパタイト層は、リン酸銀と水酸化アパタイトとの混合層に変化したものと考えられる。
・銀の含有量について
銀の含有量は、硝酸銀水溶液の濃度と浸漬時間により調節できることがわかった。しかしながら硝酸銀水溶液に長く浸漬させた場合、また濃い濃度に浸漬させた場合カルシウムの量が減っていた。酸性溶液下では水酸化アパタイトが溶解してしまうため、なるべく硝酸銀水溶液には短い時間で浸漬させなければならないことがわかった。
【0053】
[抗菌性試験]
前述した実験の結果から得られた好適な製造条件に従って、抗菌性試験を実施するためのサンプルを製造した。このサンプルは、マウスの大腿骨に移植するために、太さ0.5mm、長さ8mmの純チタン製のインプラントを材料として製造した。
【0054】
(サンプルNo.1)
太さ0.5mm、長さ8mmの純チタン製のインプラントを未処理のまま使用した(以下「Ti」と記す場合がある。)
【0055】
(サンプルNo.2)
太さ0.5mm、長さ8mmの純チタン製のインプラントの表面を#240の研磨紙で研磨した後、純水→エタノール→アセトンの順番で超音波洗浄を5分間ずつ2回行った。その後自然乾燥させたものをサンプルとした(以下「Ti(アセトン処理)」と記す場合がある)。
【0056】
(サンプルNo.3)
サンプルNo.2と同様の研磨・洗浄・乾燥後、空気中200℃に加熱し、そのまま放冷し、サンプルとした(以下「Ti(加熱処理)」と記す場合がある)。
【0057】
(サンプルNo.4)
サンプルNo.3と同様に空気中200℃に加熱した後、図6に示すように、尿素+ウレアーゼのSBF溶液中に入れ、該溶液を交換しながら7日間静置し、表面に水酸化アパタイトを析出、コーティングさせ、その後純水で洗浄し、自然乾燥したものをサンプルとした(以下「HAP-Ti」等と記す場合がある)。
【0058】
(サンプルNo.5)
サンプルNo.4と同様に、純チタン製のインプラントの表面に水酸化アパタイトをコーティングし、その後、濃度1000ppmのIP6水溶液(温度50℃)に一日浸漬し、その後取り出して純水で洗浄し、自然乾燥させてサンプルとした(以下「HAP-IP6-Ti」と記す場合がある)。
【0059】
(サンプルNo.6)
サンプルNo.5と同様に、IP6水溶液に浸漬した後、濃度0.001mol/dm3の硝酸銀水溶液中に15分浸漬して銀イオンを固定化し、その後純水で洗浄し、自然乾燥させてサンプルとした(以下「HAP-IP6-Ag-Ti Ag0.001M」と記す場合がある)。
【0060】
(サンプルNo.7)
サンプルNo.5と同様に、IP6水溶液に浸漬した後、濃度0.005mol/dm3の硝酸銀水溶液中に15分浸漬して銀イオンを固定化し、その後純水で洗浄し、自然乾燥させてサンプルとした(以下「HAP-IP6-Ag-Ti Ag0.005M」と記す場合がある)。
【0061】
(サンプルNo.8)
サンプルNo.5と同様に、IP6水溶液に浸漬した後、濃度0.01mol/dm3の硝酸銀水溶液中に15分浸漬して銀イオンを固定化し、その後純水で洗浄し、自然乾燥させてサンプルとした(以下「HAP-IP6-Ag-Ti Ag0.01M」等と記す場合がある)。
【0062】
(1)シャーレテスト
前記の通り製造したサンプルNo.1〜8のインプラントを、シャーレに入れたLB寒天培地上に放射線状に並べて置き、該培地にルシフェラーゼ発現のある黄色ブドウ球菌を植菌し、37℃で培養し、前記インプラントの周囲の菌繁殖状態を調べた。
図29は、培養後のシャーレ全体のphase画像である。また、図31は、培養後のシャーレにおける各インプラント1〜8の周囲のphase画像である。これらの図から、サンプルNo.1〜8のインプラントのうち、銀イオンを固定化したサンプルNo.6〜8のインプラント周囲には細菌の非増殖部位(黒色)が観察され、強い抗菌性を有していることが分かる。さらに、イノシトールリン酸を固定化しAgを固定化していないサンプルNo.5も軽度の抗菌性を有することが認められた。
【0063】
図30は、図29と同じ培養後のシャーレ全体を、Xenogen社製のIVIS(登録商標)イメージングシステムを用い、ルシフェラーゼ発現のある黄色ブドウ球菌から発する光を捉える高感度の観測を行ったbluc画像である。また、図32は、培養後のシャーレにおける各インプラント1〜8の周囲のbluc画像である。これらの図から、サンプルNo.1〜8のインプラントのうち、銀イオンを固定化したサンプルNo.6〜8のインプラント周囲には細菌の非増殖部位(黒色)が観察され、強い抗菌性を有していることが分かる。さらに、イノシトールリン酸を固定化しAgを固定化していないサンプルNo.5も軽度の抗菌性を有することが認められた。
【0064】
次に、前記サンプルNo.7のインプラントについて、実際の臨床応用を想定し、さまざまな条件下で抗菌性の有無を確認した。すなわち、実際の臨床応用において、インプラントは血液と接触したり、骨内に挿入する際に摩耗され多少のロスも予測される。
ここでは、前記サンプルNo.7のインプラントについて、洗浄、摩擦を行ったインプラントについても前記シャーレテストを行って、抗菌性の有無を確認した。サンプルとしては、前記サンプルNo.7のインプラント(IP6-Ag coating)、それを洗浄したもの(IP6-Ag coating washed)、摩擦を行ったもの(IP6-Ag coating rubbed)、及び比較のためにサンプルNo.4のインプラント(HAP coating)の4種類を用いた。
図33は、前記4種類のインプラントを対象としたシャーレテストの結果を示し、上側は4種類のインプラント周囲のphase画像であり、下側はbluc画像である。
図33に示すように、強い抗菌性が認められたサンプルNo.7のインプラントについて、洗浄や摩擦を加えても、インプラント周囲には細菌の非増殖部位(黒色)が観察され、その抗菌性は十分に維持されていることが分かる。従って、サンプルNo.7のインプラントは、実際の臨床応用に耐え得る耐久性・安定性を有していることが確認された。
【0065】
[in vivo抗菌性試験−1]
BALB/c 雄成獣マウスを用い、骨髄炎モデルの作成を行った。
インプラントとして、前記サンプルNo.1〜8のインプラントのうち、サンプルNo.4のインプラント(HAP-Ti;以下、HAPと略記する)とサンプルNo.7のインプラント(HAP-IP6-Ag-Ti Ag0.005M;以下、Ag+と略記する)を用い、これらのインプラントをマウスの大腿骨に移植した。
移植したインプラントの周囲に、ルシフェラーゼ発現の黄色ブドウ球菌を注入し、このマウスを前述したイメージングシステムを用い、移植後1日目〜28日目まで、ルシフェラーゼ発現のある黄色ブドウ球菌から発する光を捉える高感度の観測を行った。図34にその結果を示す。
【0066】
図34の上段のグラフは、HAPとAg+とのいずれかのインプラントを移植し、かつ前記の菌を注入したマウス(HAP群,Ag+群ともN=4)について、移植後1日、3日、7日、14日、21日及び28日の各時点で、前述したイメージングシステムを用いてマウスの移植部周辺の発光強度を測定し、その平均値及び変動範囲をまとめて示すグラフである。なお、該グラフの縦軸の数値は発光強度(任意強度単位)であり、横軸の数値は移植後の日数を表している。
図34の下段は、両群の代表的マウスについて、前述したイメージングシステムを用いてマウスの細菌移植部の発光状態を移植後1日、3日、7日、14日、21日及び28日の各時点で撮影した経時的な推移を示した画像である。
【0067】
図34に示した結果から、移植後1日目において、HAP群では、発光強度が急激に増加し、移植したインプラント周囲に細菌(ルシフェラーゼ発現の黄色ブドウ球菌)が増殖していることが分かる。一方、Ag+群では、発光強度の増加が見られたものの、その発光強度はHAP群と比べて統計学的に有意に低い結果であった。
移植後3日目、HAP群のマウスは引き続いて発光強度が高い状態を維持していた。Ag+群のマウスは、1日目よりも発光強度が増加したが、HAP群のマウスの発光強度よりも低かった。
移植後7日目、HAP群のマウスは、3日目に比べて発光強度が増加した。一方、Ag+群のマウスは3日目に比べて発光強度が低下した。Ag+群の発光強度はHAP群に比べ、統計学的に有意に低かった。
移植後14日目、HAP群とAg+群の両群において7日目に比べて発光強度が自然免疫により低下した。自然免疫によって細菌が死滅する事実は過去の多くの細菌感染実験において示されている現象である。両群間の比較では、14、21、28日の各時点でAg+群の発光強度は、HAP群と比較してより低く、経時的にも減少する結果であった。特記すべきは、28日目においてAg+群の発光強度は画像でも示す如くバックグラウンドとほぼ同等、すなわち細菌がほぼ死滅していた。
【0068】
図34に示した結果から、本発明に係るAg+のインプラントは、HAPのインプラントに比べて移植後のインプラント周辺の細菌増殖を抑制することができた。この結果から、本発明に係るインプラントは、in vivoでも高い抗菌性を発揮し、しかも短期で強い抗菌性を示し、長期においても抗菌性を維持できることが実証された。
【0069】
[in vivo抗菌性試験−2]
前記[in vivo抗菌性試験−1]と同じく、BALB/c 雄成獣マウスを用い、骨髄炎モデルの作成を行った。
インプラントとして、前記サンプルNo.1〜8のインプラントのうち、サンプルNo.4のインプラント(HAP)とサンプルNo.5のインプラント(HAP-IP6-Ti;以下、IP6と略記する)を用い、これらのインプラントをマウスの大腿骨に移植した。
移植したインプラントの周囲に、ルシフェラーゼ発現の黄色ブドウ球菌を注入し、このマウスを前述したイメージングシステムを用い、移植後1日目〜28日目まで、ルシフェラーゼ発現のある黄色ブドウ球菌から発する光を捉える高感度の観測を行った。図35にその結果を示す。
【0070】
図35の上段のグラフは、HAPとIP6とのいずれかのインプラントを移植し、かつ前記の菌を注入したマウス(HAP群,IP6群ともN=6)について、移植後1日、3日、7日、14日、21日及び28日の各時点で、前述したイメージングシステムを用いてマウスの移植部周辺の発光強度を測定し、その平均値及び変動範囲をまとめて示すグラフである。なお、該グラフの縦軸の数値は発光強度(任意強度単位)であり、横軸の数値は移植後の日数を表している。
図35の下段は、両群の代表的マウスについて、前述したイメージングシステムを用いてマウスの細菌移植部の発光状態を移植後1日、3日、7日、14日、21日及び28日の各時点で撮影した経時的な推移を示した画像である。
【0071】
図35に示した結果から、移植後1日目では、HAP群では、発光強度が急激に増加し、移植したインプラント周囲に細菌(ルシフェラーゼ発現の黄色ブドウ球菌)が増殖していることが分かる。IP6群についても、発光強度の増加が見られたが、HAP群の場合よりも若干低めであった。
移植後3日目、HAP群のマウスは引き続いて発光強度が上昇した。IP6群のマウスについても、発光強度の上昇が見られたが、HAP群の場合よりも低い結果であった。
移植後7日目、HAP群のマウスは3日目に比べて発光強度の低下が見られたが、依然として発光強度が高いレベルにあった。一方、IP6群のマウスでは、3日目に比べ、発光強度が急激に低下した。IP6群の発光強度はHAP群と比較して、統計学的に有意に低かった。
移植後14日目〜21日目、両群の発光強度は低下傾向にあるが、IP6群のマウスの発光強度は依然としてHAP群のマウスと比較し低かった。移植後21日目〜28日目では、両群の発光強度に有意な変化は無く、IP6群は依然としてHAP群と比較し低かった。特記すべきは、21日目以降においてIP6群の発光強度は画像でも示す如くバックグラウンドとほぼ同等、すなわち細菌がほぼ死滅していた。
【0072】
図35に示した結果から、本発明に係るIP6のインプラントもAg+のインプラント同様に抗菌性を持ち、HAPのインプラントに比べて移植後のインプラント周辺の細菌増殖を抑制することができた。この結果から、本発明に係るインプラントは、in vivoでも高い抗菌性を発揮し、しかも長期にわたり抗菌性を維持できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、十分な抗菌活性を有し、生体組織との適合性に優れ、長期間抗菌性を維持でき、かつ安全性の高い抗菌性医療機器を提供できる。
【符号の説明】
【0074】
1A〜1D 抗菌性医療機器
2 医療機器
3 水酸化アパタイト層(Ca化合物層)
4 イノシトールリン酸
5 銀イオン
6 医療機器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器の前記Ca化合物に、イノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器。
【請求項2】
前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる請求項1に記載の抗菌性医療機器。
【請求項3】
前記イノシトールリン酸がフィチン酸である請求項1又は2に記載の抗菌性医療機器。
【請求項4】
前記Ca化合物が水酸化アパタイトである請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗菌性医療機器。
【請求項5】
前記抗菌性医療機器が抗菌性インプラントである請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗菌性医療機器。
【請求項6】
少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器を、イノシトールリン酸の水溶液と接触させ、前記Ca化合物にイノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器を得ることを特徴とする抗菌性医療機器の製造方法。
【請求項7】
前記Ca化合物にイノシトールリン酸を結合させた後、さらに銀イオンを含む水溶液と接触させて、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる抗菌性医療機器を得る請求項6に記載の抗菌性医療機器の製造方法。
【請求項8】
前記イノシトールリン酸がフィチン酸である請求項6又は7に記載の抗菌性医療機器の製造方法。
【請求項9】
前記Ca化合物が水酸化アパタイトである請求項6〜8のいずれか1項に記載の抗菌性医療機器の製造方法。
【請求項10】
前記抗菌性医療機器が抗菌性インプラントである請求項6〜9のいずれか1項に記載の抗菌性医療機器の製造方法。
【請求項1】
少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器の前記Ca化合物に、イノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器。
【請求項2】
前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる請求項1に記載の抗菌性医療機器。
【請求項3】
前記イノシトールリン酸がフィチン酸である請求項1又は2に記載の抗菌性医療機器。
【請求項4】
前記Ca化合物が水酸化アパタイトである請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗菌性医療機器。
【請求項5】
前記抗菌性医療機器が抗菌性インプラントである請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗菌性医療機器。
【請求項6】
少なくとも表面がCa化合物層で覆われた医療機器又はCa化合物からなる医療機器を、イノシトールリン酸の水溶液と接触させ、前記Ca化合物にイノシトールリン酸が結合されてなる抗菌性医療機器を得ることを特徴とする抗菌性医療機器の製造方法。
【請求項7】
前記Ca化合物にイノシトールリン酸を結合させた後、さらに銀イオンを含む水溶液と接触させて、前記イノシトールリン酸に銀イオンが結合されてなる抗菌性医療機器を得る請求項6に記載の抗菌性医療機器の製造方法。
【請求項8】
前記イノシトールリン酸がフィチン酸である請求項6又は7に記載の抗菌性医療機器の製造方法。
【請求項9】
前記Ca化合物が水酸化アパタイトである請求項6〜8のいずれか1項に記載の抗菌性医療機器の製造方法。
【請求項10】
前記抗菌性医療機器が抗菌性インプラントである請求項6〜9のいずれか1項に記載の抗菌性医療機器の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図16】
【図23】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
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【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
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【図23】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公開番号】特開2010−268917(P2010−268917A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122472(P2009−122472)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
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