説明

抗菌性銀溶液

以下の諸工程を含む、水、クエン酸イオン及び銀イオンを含む濃厚溶液の製造方法:一定量のクエン酸三銀を準備する工程;一定量のクエン酸を準備する工程、ここで該クエン酸の量は、質量基準で、該クエン酸三銀の量の少なくとも19倍である;及び該クエン酸三銀と該クエン酸とを、一定量の水中で混合して、前記濃厚溶液を製造する工程、ここで該水の量は、該濃厚溶液が、少なくとも300g/Lなるクエン酸イオン濃度を持つように選択される。少なくとも10g/Lなる銀イオン濃度を持つことを特徴とする、水、クエン酸イオン及び銀イオンを含む濃厚溶液。水、クエン酸イオン及び銀イオンを含む濃厚溶液に水を添加することにより調製される、希薄溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性銀溶液及び抗菌性銀溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀の抗菌特性は、数世紀に渡り利用されてきた。例えば、初期地中海文明は、銀製容器内での水の保存が、携行可能とすることを認識していた。中世紀において、硝酸銀が神経性疾患、癲癇及び梅毒に対して使用されていた。1844年に、ドイツ人産科医クレード(Crede)は、分娩後の感染によって生じる新生児における失明を排除するために、硝酸銀溶液を使用した。硝酸銀溶液は、また1887年にフォンベーリング(von Behring)により、腸チフス及び炭疽病の治療のために使用された。食品の腐敗を防止するための被覆及び創傷及び骨折の外科的治療のための銀プレート及び箔等の他の形状の銀も、これら世紀を通して使用されている。
銀の抗菌特性は、銀イオンによってもたらされる可能性があるものと考えられている。その結果、従来技術においては、抗菌性を与える際に使用する目的で、銀イオンを含む組成物を製造する努力がなされてきた。このような組成物の製造における一つの課題は、使用前に銀イオンが該組成物中でそのイオン状態を維持し、結果として抗菌特性を与える使用中に該銀イオンが利用可能である、比較的「安定な」組成物を与えることである。このような組成物の製造におけるもう一つの課題は、比較的安価な該組成物の製造方法を提供することである。
【0003】
米国特許第6,197,814号(アラタ(Arata))は、クエン酸銀とクエン酸との水性溶液を含む水性消毒薬を開示しており、該消毒薬は、クエン酸及び水を含む溶液中で、電解を行うことにより銀イオンを生成する工程を含む方法によって製造され、ここで、該銀イオンはクエン酸と反応して、同様な又は同一のクエン酸と水との溶液内で、非-電解的に発生するクエン酸銀の濃度よりも高い濃度を持つ、電解的に発生したクエン酸銀を生成する。
米国特許第6,838,095号(ニューマン(Newman)等)は、実質的に非-コロイド性の溶液を開示しており、これは水、遊離銀イオン源、及び実質的に非-毒性の、実質的にチオールを含まない、実質的に水溶性の錯化剤を含む成分を結合することによって作成される。
比較的高濃度の銀イオンを含む比較的安定な水性溶液を製造するための、比較的経済性の良い方法に対する要求がある。また、直接に又は希釈して抗菌性組成物として使用できる、比較的高濃度の銀イオンを含む比較的安定な溶液に対する要求がある。
【発明の概要】
【0004】
本明細書における作業パラメータ、範囲、範囲の下限、及び範囲の上限に関連する言及は、本発明の範囲に関する厳密な境界を与えることを意図したものではなく、特に述べない限り、本明細書の教示の範囲内の「およそ」又は「約」又は「実質的」なものを意味するものと解釈すべきである。
前段落に対してさらに、本明細書における、「g」、「モル」、「質量%」、「ppm」等で表された化合物の量に関する言及は、記載された該化合物のおよそのモル質量を基準とするものである。例えば、本明細書において、クエン酸のモル質量は、約192g/モルであるものと考えられ、またクエン酸イオンのモル質量は、約189g/モルであるものと考えられ、クエン酸三銀(trisilver citrate)のモル質量は、約513g/モルであるものと考えられ、また硝酸銀のモル質量は、約170g/モルであるものと考えられる。
前記2つの段落に対してさらに、本明細書における、「g」、「モル」、「質量%」、「ppm」等相互間の変換に関する言及は、近似的な変換である。例えば、2モルのクエン酸及び2モルのクエン酸イオンは、両者とも、本発明の目的にとっては、事実上約400gに等しいものと考えられる。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、一般的には水、適当なカルボン酸及び該カルボン酸の適当な銀塩を含む溶液の製造方法を提供することを目的とするものである。本発明は、また一般に水、適当なカルボン酸及び該カルボン酸の適当な銀塩を含む溶液の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の溶液は、濃厚溶液又は希薄溶液何れであってもよい。濃厚溶液は、少なくとも10g/Lなる、濃厚化銀イオン濃度を持つ、本発明に従って製造される溶液である。希薄溶液は、濃厚溶液から製造され、かつ該濃厚化銀イオン濃度未満の、希釈銀イオン濃度を持つ溶液である。
本発明において使用するのに特に適したカルボン酸は、クエン酸であり、また本発明において使用するのに特に適した銀塩は、クエン酸三銀である。他の潜在的に適したカルボン酸は、グリコール酸、乳酸、α-ヒドロキシ酪酸、マンデル酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、及びmeso-酒石酸を含むが、これらに限定されない。
クエン酸三銀は、通常の物理化学的条件下(例えば、室温及び大気圧条件下)において、比較的低い水に対する溶解度を示す。メルクインデックスによれば、該クエン酸三銀の水に対する溶解度は、3500部の水に対して約1部のクエン酸三銀(即ち、約285パーツパーミリオン(ppm)又は約0.285g/L又は約0.0026M/L)である。
【0007】
本発明は、一部には、クエン酸三銀が、クエン酸の水性溶液に対して比較的高い溶解度を示すという発見に基いており、この溶解度は、該水性溶液におけるクエン酸(即ち、クエン酸イオン)の濃度に比例する。
本発明は、また水、クエン酸イオン、及びクエン酸三銀を含有する溶液が、該水性溶液中の該クエン酸の濃度及び該銀イオン濃度に依存して、比較的安定であり得るという発見に基くものである。本明細書の目的にとって、「安定な」溶液とは、該溶液中に初めに存在した銀イオンの実質的全てが、長期間に渡り該溶液中に維持されるような溶液である。
クエン酸の水性溶液に対する銀イオンの溶解度及びこのような溶液の安定性は、少なくとも部分的には、該溶液中で1又はそれ以上の比較的溶解性の高いクエン酸銀錯体の生成に起因するものと考えられる。
より詳しくは、本発明は、部分的には、通常の物理化学的な条件下で、水、クエン酸(即ち、クエン酸イオン)、及び銀イオンを含む溶液に対して、一般的に適用可能であることが分かっている、また本発明を実施する上で適用される、以下のような観測された諸特性に基くものである:
【0008】
1. 該溶液に対する銀イオンの溶解度は、該水性溶液中の該クエン酸の濃度が、0から約4M/L(即ち、約800g/L、又は約45質量%)まで増大するのに伴って、該クエン酸の濃度と実質的に線形関係で増大する;
2. 上記の直線関係に応じて、少なくとも約30g(即ち、約0.16モル)のクエン酸が、該溶液に溶解される銀イオンの各1g(即ち、約0.0093モル)を、該溶液に溶解するのに必要とされる;
3. 上記の直線関係に応じて、少なくとも約19g(即ち、約0.099モル)のクエン酸が、該溶液に溶解されるクエン酸三銀の各1g(即ち、約0.0020モル)を、該溶液に溶解するのに必要とされる;
4. 約4M/L(即ち、約800g/L、又は約45質量%)なる、該溶液中のクエン酸濃度において、約25g/L(即ち、約25,000ppm又は約0.23M/L)なる銀イオン濃度を、該溶液中で達成することができる;
5. 約2M/L(即ち、約400g/L又は約29質量%)なる該溶液中のクエン酸濃度において、約13g/L(即ち、約13,000ppm又は約0.12M/L)なる銀イオン濃度を、該溶液中で達成することができる;
【0009】
6. 約1.5M/L(即ち、約300g/L又は約23質量%)なる、該溶液中のクエン酸濃度において、約10g/L(即ち、約10,000ppm又は約0.093M/L)なる銀イオン濃度を、該溶液中で達成することができる;
7. 約13g/L(即ち、約13,000ppm又は約0.12M/L)以下なる銀イオン濃度を持つ溶液は比較的安定であり、該溶液中の該銀イオン濃度が、長期に渡り実質的に一定に維持される;
8. 安定化剤を、約13g/L(即ち、約13,000ppm又は約0.12M/L)を越える銀イオン濃度を持つ溶液に添加して、該溶液の安定性を高めることができる。適当な安定化剤は、グリセロールを含むものであり得る。
9. 約13g/L(即ち、約13,000ppm又は約0.12M/L)を越える銀イオン濃度を持つ濃厚溶液に水を添加することにより製造される、約13g/L(即ち、約13,000ppm又は約0.12M/L)以下の銀イオン濃度を持つ希薄溶液は比較的安定であり、該溶液中の該銀イオン濃度が長期間に渡り実質的に一定に維持される。
上記の観測された諸特性は、約192g/Mというクエン酸に関する凡そのモル質量、約108g/Mという銀に関する凡そのモル質量、約189g/Mというクエン酸イオンに関する凡そのモル質量、及び約513g/Mというクエン酸三銀に関する凡そのモル質量に基くものである。
【0010】
上記観測された諸特性に関連して、一組成物の局面において、本発明は、水、クエン酸イオン、及び銀イオンを含む濃厚溶液であり得、ここで該クエン酸イオンは、少なくとも300g/Lなる、該濃厚溶液における濃厚化クエン酸イオン濃度を持ち、かつ該銀イオンは、少なくとも10g/Lなる、該濃厚溶液における濃厚化銀イオン濃度を持つ。
上記観測された諸特性に関連して、もう一つの組成物の局面において、本発明は、水、クエン酸イオン、及び銀イオンを含む濃厚溶液に水を添加することによって製造される希薄溶液であり得、ここで該銀イオンは、10g/Lを越える、該濃厚溶液における濃厚化銀イオン濃度を持ち、該クエン酸イオンは、質量基準で、該濃厚化銀イオン濃度の少なくとも30倍に相当する、該濃厚溶液における濃厚化クエン酸イオン濃度を持ち、該銀イオンは、該濃厚化銀イオン濃度未満の、該希薄溶液における希釈銀イオン濃度を持ち、かつ該クエン酸イオンは、質量基準で、該希釈銀イオン濃度の少なくとも30倍に相当する、該希薄溶液における希釈クエン酸イオン濃度を持つ。
上記観測された諸特性に関連して、一方法に係る局面において、本発明は、水、クエン酸イオン、及び銀イオンを含む濃厚溶液の製法であり得、この方法は、以下の諸工程を含む:
【0011】
(a) 一定量のクエン酸三銀を準備する工程;
(b) 一定量のクエン酸を準備する工程、ここで該クエン酸の量は、質量基準で、該クエン酸三銀の量の少なくとも19倍であり;及び
(c) 該クエン酸三銀と該クエン酸とを、一定量の水中で混合して、前記濃厚溶液を製造する工程、ここで該水の量は、該濃厚溶液が、少なくとも300g/Lなる、該濃厚溶液における濃厚化クエン酸イオン濃度を持つように選択される。
この本発明の方法は、約2℃〜約100℃なる範囲の任意の温度にて実施できる。該方法を実施するための好ましい温度範囲は、約20℃〜約40℃なる範囲内にある。該方法の実施温度を高めることは、該クエン酸イオン及び該銀イオンの、該濃厚溶液に対する溶解度を高めるために、及び該方法を実施できる速度を高めるために有利であり得る。
該濃厚化クエン酸イオン濃度は、300g/Lから該溶液の物理化学的条件下で達成することのできる最大クエン酸イオン濃度なる範囲内であり得る。通常の物理化学的条件下で、クエン酸水性溶液中の該最大クエン酸イオン濃度は、水1リッター当たりクエン酸イオン約1,550gであると考えられる。
【0012】
結果として、該濃厚化クエン酸イオン濃度は、通常の物理化学的条件下で、300g/L〜1,550g/Lなる範囲内であり得る。
約800g/L以上の濃厚化クエン酸イオン濃度は、達成しまた維持することが困難である可能性があり、また800g/Lを越えるクエン酸イオンを含む溶液に対する銀イオンの溶解度は、線形関係での増加を停止する恐れがある。
結果として、幾つかの態様において、該濃厚化クエン酸イオン濃度は、通常の物理化学的条件下で、300g/L〜800g/Lなる範囲内にある。
800g/Lなる濃厚化クエン酸イオン濃度において、該濃厚化銀イオン濃度は、約25g/Lである。300g/Lなる濃厚化クエン酸イオン濃度において、該濃厚化銀イオン濃度は、約10g/Lである。400g/Lなる濃厚化クエン酸イオン濃度において、該濃厚化銀イオン濃度は、約13g/Lである。
【0013】
結果として、該濃厚化クエン酸イオン濃度が300g/L〜1,550g/Lなる範囲内にある、幾つかの態様において、該濃厚化銀イオン濃度は、10g/L〜25g/Lなる範囲内にある。該濃厚化クエン酸イオン濃度が300g/L〜800g/Lなる範囲内にある幾つかの態様において、該濃厚化銀イオン濃度は、10g/L〜25g/Lなる範囲内にある。該濃厚化クエン酸イオン濃度が少なくとも400g/Lである幾つかの態様において、該濃厚化銀イオン濃度は、13g/Lを越える値である。
水を該濃厚溶液に添加して、希薄溶液を製造することができる。該濃厚溶液に添加される該水は、精製水、例えば蒸留、脱イオン処理、逆浸透処理、濾過又は幾つかの他の精製処理に付されている水であり得る。
幾つかの用途において、該濃厚溶液に添加される該水は、未精製水であり得るが、これは該利用可能な未精製水中に含まれる可能性のある不純物に依存する。該利用可能な未精製水が、該濃厚溶液に対する該銀イオンの溶解を著しく妨害する恐れのある不純物を含む場合には、該濃厚溶液に添加して、該希薄溶液を製造するための該水は、精製水であることが好ましい。
【0014】
該クエン酸イオンは、該希薄溶液において希釈クエン酸イオン濃度を持ち、また該銀イオンは、該希薄溶液において希釈銀イオン濃度を持つ。該希釈銀イオン濃度は、前記濃厚化銀イオン濃度未満である。該希釈クエン酸イオン濃度は、質量基準で、該希釈銀イオン濃度の少なくとも30倍である。
幾つかの態様において、該希釈銀イオン濃度は、13g/Lを越えるものである。幾つかの態様において、該希釈銀イオン濃度は、13g/L以下である。幾つかの態様において、該希釈銀イオン濃度は、10g/L以下である。
同一又は異なる希釈銀イオン濃度を持つ、複数の希薄溶液は、前記濃厚溶液から製造することができる。また、希薄溶液は、さらに希釈することができる。一種又はそれ以上の希薄溶液の、該濃厚溶液からの調製は、特定の抗菌的又は生物医学的用途に適した銀イオン濃度を持つ希薄溶液の調製における出発物質として使用するための、比較的高い銀イオン濃度(即ち、少なくとも10g/L)を持つ該濃厚溶液の製造を容易にする。
該濃厚化銀イオン濃度が、13g/Lを越えるものである場合、該濃厚溶液の安定性に関する問題は解決できる。このような態様においては、得られる希薄溶液が、比較的安定なものとなるように、13g/Lに等しいかそれ未満の希釈銀イオン濃度を与えるように、該濃厚溶液を希釈することができる。
【0015】
あるいはまた、13g/Lを越える銀イオン濃度を持つ、濃厚溶液及び/又は希薄溶液の安定性は、該溶液に所定量の安定化剤を含めることにより高めることができる。
該安定化剤は、該溶液中に該銀イオンを維持するのに役立つ、任意の適当な物質又は物質の組合せで構成することができる。例えば、該安定化剤は、グリセロールを含むことができる。
該濃厚溶液及び/又は該希薄溶液は、本質的に水、クエン酸イオン、銀イオン、及び随意の安定化剤からなるものであり得る。あるいはまた、該濃厚溶液を、水、クエン酸イオン、銀イオン、及び随意の安定化剤で構成することができる。
幾つかの用途において、該濃厚溶液及び/又は該希薄溶液は、本質的に水、クエン酸イオン、銀イオン、及び随意の安定化剤からなることが好ましい。このような用途において、該希薄溶液の任意の調製は、該濃厚溶液に精製水を添加することにより行うことが好ましい。
【0016】
該濃厚溶液及び/又は該希薄溶液が、水、クエン酸イオン、銀イオン、及び随意の安定化剤に加えて、イオン又は物質を含む場合、このようなイオン又は物質は、該溶液に対する該銀イオンの溶解度に、実質的な負の影響を与えないものであることが好ましい。例えば、該濃厚溶液及び/又は該希薄溶液は、該クエン酸イオンとの相互作用により該溶液中にクエン酸銀錯体を形成するような、該銀イオンと競合する「対イオン」を含まないことが好ましい。
クエン酸及びクエン酸三銀は、通常の物理化学的条件下で、両者共に固体である。結果として、該濃厚溶液の調製は、所定量の水に、所定量のクエン酸及び所定量のクエン酸三銀を溶解することにより行うことができる。
該クエン酸三銀は、水に対して比較的不溶性の固体として、本発明で使用するために得ることができる。あるいはまた、該クエン酸三銀は、本発明の方法を実施する前に、あるいは該方法の一部として行われる予備工程において、銀イオン源とクエン酸源とから製造することができる。
【0017】
非-限定的な例の一つとして、該クエン酸三銀は、本発明において使用するために、水性硝酸銀と水性水酸化ナトリウムとを反応させて、酸化銀を沈殿として生成し、また該沈殿した酸化銀を水性クエン酸と反応させて、クエン酸三銀を沈殿として生成する、「水酸化ナトリウム経路」を利用して製造することができる。
第二の非-限定的な例として、該クエン酸三銀は、本発明において使用するために、水性硝酸銀と水性水酸化アンモニウムとを反応させて、可溶性の銀ジアミノ錯体を生成し、次いで該錯体をクエン酸と反応させて、クエン酸三銀を沈殿として生成する、「水酸化アンモニウム経路」を利用して製造することができる。
第三の非-限定的な例として、該クエン酸三銀は、本発明において使用するために、酸化銀固体を水性クエン酸と反応させて、クエン酸三銀を沈殿として生成する、「酸化銀経路」を利用して製造することができる。
第四の非-限定的な例として、該クエン酸三銀は、本発明において使用するために、水性銀塩(例えば、硝酸銀)を水性クエン酸塩化合物(例えば、クエン酸アンモニウム又はクエン酸塩)と反応させて、クエン酸三銀を沈殿として生成する、「銀塩-クエン酸塩化合物経路」を利用して製造することができる。
【0018】
第五の非-限定的な例として、該クエン酸三銀は、本発明において使用するために、クエン酸イオンを含む電解質溶液中で、銀イオン源としての銀電極を用いて電解を行って、クエン酸三銀を溶液として又は沈殿として生成する、「電解化学経路」を利用して製造することができる。
クエン酸三銀を製造するための上記様々な経路は、生成物としてのクエン酸三銀に加えて、1種又はそれ以上の物質を生成する可能性がある。該濃厚溶液が、本質的に水、クエン酸イオン、銀イオン、及び随意の安定化剤からなるものである場合、該クエン酸三銀を、本発明の方法において使用する前に、このような他の物質から分離することができる。このような他の物質からの、該クエン酸三銀の分離は、濾過により、洗浄により及び/又は他の適当な分離技術を使用することにより行うことができる。
本発明に従って調製された、該濃厚溶液及び希薄溶液を水で希釈して、任意の所望の銀イオン濃度とすることができる。本発明に従って調製され、また13g/L以下の銀イオン濃度を持つ、濃厚溶液及び希薄溶液は、比較的安定である。13g/Lを越える銀イオン濃度を持つ、濃厚溶液及び希薄溶液は、水で希釈して、13g/L以下の銀イオン濃度とすることにより、一層安定なものとすることができる。
【0019】
本発明に従って調製された、該濃厚溶液及び希薄溶液は、銀イオンの抗菌特性が有用であり得る、多くの異なる用途において使用することができる。非-限定的な例として、本発明に従って調製される、濃厚溶液及び/又は希薄溶液は、(銀イオン濃度に応じて)スイミングプール、湯船、病院、建造物、航空機、バス、自動車の消毒薬又は浄化剤として、保護マスク、外科用器具、創傷の手当て用品、カウンタートップ、外科用手術台を消毒するために、生体膜の形成を防止するために、農業用途のために、及び獣医学的用途のために使用することができる。
銀イオンの抗菌特性の利益を得ることに加えて、本発明に従って調製される、該濃厚溶液及び希薄溶液は、またクエン酸イオンの酸化防止特性に起因する利益をも得ることができる。クエン酸イオンの酸化防止特性は、多くの種々の医療状況を処置するのに有用である。非-限定的な例として、クエン酸の該酸化防止特性は、癌、結膜炎、アクネ、流感、目の感染症、火傷及び尿路感染症の治療のために有用であり得る。
【0020】
結果として、本発明に従って調製される、該濃厚溶液及び該希薄溶液は、単一の組成物又は製品に、銀イオンの抗菌特性とクエン酸イオンの酸化防止特性という併合効果を与えることができる。
本発明に従って調製される、該濃厚溶液及び希薄溶液は、任意の適当な方法で使用することができる。非-限定的な例として、該濃厚溶液及び該希薄溶液は、表面又は物体に吹き付け、他の液体に添加することができ、及び/又は物体を、該濃厚溶液及び該希薄溶液に浸すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
次に、本発明の態様を、以下の添付図面を参照しつつ説明する。
【図1】図1は、水性溶液中のクエン酸濃度(モル(M)/L単位で表示)の関数として、該水性溶液中の銀イオン濃度(g/L単位で表示)の、「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここでは、実質的な直線関係が、0 M/L〜約4M/Lなる範囲内のクエン酸濃度に対して観測され、また約39g/Lなる固体クエン酸三銀が、該水性溶液中に与えられており、しかも最大クエン酸濃度は、約4M/Lである。
【図2】図2は、水性溶液中のクエン酸の濃度(M/L単位で表示)の関数として、該水性溶液中の銀イオン濃度(M/L単位で表示)の、「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここでは、実質的な直線関係が、0 M/L〜約4M/Lなる範囲内のクエン酸濃度に対して観測され、また約39g/Lなる固体クエン酸三銀が、該水性溶液中に与えられており、しかも最大クエン酸濃度は、約5M/Lである。
【図3】図3は、水性溶液中のクエン酸の濃度(M/L単位で表示)の関数として、該水性溶液中の銀イオン濃度(M/L単位で表示)の、「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここでは、実質的な直線関係が、0 M/L〜約4M/Lなる範囲内のクエン酸濃度に対して観測され、また約39g/Lなる固体クエン酸三銀が、該水性溶液中に与えられており、しかも最大クエン酸濃度は、約4M/Lである。
【0022】
【図4】図4は、水性溶液中のクエン酸の濃度(M/L単位で表示)の関数として、該水性溶液中に溶解したクエン酸三銀又はクエン酸三銀溶液(M/L単位で表示)の、「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここでは、該クエン酸銀濃度は約であり、実質的な直線関係が、0 M/L〜約4M/Lなる範囲内のクエン酸濃度に対して観測され、また約39g/Lなる固体クエン酸三銀が、該水性溶液中に与えられており、しかも最大クエン酸濃度は、約4M/Lである。
【図5】図5は、本発明に従って調製した水性溶液中での、時間の関数としての、銀イオン濃度(g/Lで表示) の、「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここでは、初期銀イオン濃度は、約19g/Lである。
【図6】図6は、本発明に従って調製した水性溶液中での、時間の関数としての、銀イオン濃度(g/Lで表示)の、「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここでは、初期銀イオン濃度は、約13g/Lである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
クエン酸三銀(Ag3C6H5O7)は、白色の固体化合物であり、通常の物理化学的条件(即ち、室温及び大気圧)の下で、比較的低い水(H2O)に対する溶解度を示す。
本発明は、水に対して溶解性であるクエン酸銀錯体の製造方法、このようなクエン酸銀錯体を比較的高濃度で含む濃厚溶液、及びこのような濃厚溶液から調製した希薄溶液の提供を目的とする。
本発明によって、溶液として達成できる最大の銀イオン濃度は、約25gの銀イオン(Ag(I))/L(即ち、約25,000ppm又は約0.23M/L)であると見積もられる。本発明に従って調製された銀イオンの濃厚溶液は、(銀塩の沈殿を生じることなしに)希釈して、目標とする用途に依存して、5ppm〜60ppmなる範囲の低い銀イオン濃度を含む、広範囲の銀イオン濃度に渡り、抗菌的及び/又は消毒の目的のために使用できる、希薄溶液を提供することができる。
クエン酸三銀は、水に対して有意な程度まで溶解性ではないが、本明細書に記載したような適当な条件下で、水性クエン酸溶液に溶解し得る。
【0024】
クエン酸(H3C6H5O7)は、比較的水に対して溶解性の固体である。クエン酸を、クエン酸三銀の固体粒子を含むスラリーに添加した場合、得られる水性溶液に対する該クエン酸三銀の溶解は、化合物:AgH2C6H5O7及びAg2HC6H5O7が水に溶解性である場合には、理論的に以下の式により表すことができる:
Ag3C6H5O7↓ + 2 H3C6H5O7 → 3AgH2C6H5O7 (1)
及び
2 Ag3C6H5O7↓ + H3C6H5O7 → 3Ag2HC6H5O7 (2)
上記式(1)及び(2)の化学量論性及び化合物:AgH2C6H5O7及びAg2HC6H5O7が水に溶解性であるという仮定に基いて、100g(約0.195M)のクエン酸三銀の溶解を達成するために必要とされる固体クエン酸の量は、夫々式(1)に対して、約74.89g(約0.39M)、及び式(2)に対して、約18.72g(約0.098M)であることを容易に算出できる。
【0025】
しかし、実験データは、上記式(1)及び(2)によって示唆される、該計算された量と一致しないことを明らかにした。実験的には、該式(1)及び(2)によって示唆される量よりも大幅に多い量のクエン酸が、クエン酸三銀の溶解のために必要とされることが分かった。
加熱することによって、水1リッター当たり約1,550gのクエン酸(即ち、約8M/L又は約61質量%)なる、水性溶液中でのクエン酸濃度を達成し得ることを、実験的に観測した。また、水1リッター当たり約25gまでに相当する銀イオン(即ち、約25,000ppm、又は約0.23M/L)なる銀イオン濃度が、少なくとも約800g/L(即ち、約4M/L、又は約45質量%)に相当する、クエン酸又はクエン酸イオン濃度を持つ濃厚溶液中で達成し得ることが、実験的に観測された。
これらの実験的な観測に基けば、水性クエン酸溶液に対するクエン酸三銀の溶解は、上記式(1)及び(2)によっては正確に説明できないものと思われる。
上記式ではなく、水性クエン酸溶液に対するクエン酸三銀の溶解は、以下の式によって説明し得るものと考えられる:
【0026】
Ag3C6H5O7↓ + nH3C6H5O7 → [Ag3C6H5O7(C6H5O7)n]3n- + 3nH+ (3)
又は
Ag3C6H5O7↓ + nH3C6H5O7 → [Ag3(C6H5O7)n+1]3n- + 3nH+ (4)
本発明に従って製造した(また、一般式:[Ag3(C6H5O7)n+1]3n-を持つクエン酸銀錯体を含むものと考えられる)、水、クエン酸イオン及び銀イオンを含む濃厚溶液及び希薄溶液は、本明細書に記載したようなある条件下において、水に対して比較的溶解性であり、しかも比較的安定であることが分かった。
電気化学的装置の使用を回避し、またそれにより時間及びエネルギーを節減するために、本発明の濃厚溶液を、多くの異なる経路を利用して製造することができ、その幾つかが、非-限定的な例として本明細書において説明される。本発明による濃厚溶液の製造は、ここに記載する経路に限定されるものではない。該濃厚溶液を製造するための他の可能な経路は、ここに記載される技術を利用しかつこれを改良することによって、当業者には明らかとなるであろう。
カルボン酸又はより具体的にはオキシ酸の銀塩が、硝酸銀の水性溶液と対象とする該カルボン酸の可溶性塩とを混合した際に、白色沈殿として製造できることは公知である。結果として、本発明による濃厚溶液を製造するための、可能な化学的経路の例は、以下に列挙するものを含む:
【0027】
A. 水酸化ナトリウム(NaOH)経路
水溶性の塩、例えば硝酸銀(AgNO3)から出発して、所定量の水酸化ナトリウム(NaOH)の添加は、以下の式に従って酸化銀(Ag2O)の生成へと導くであろう:
2AgNO3 + NaOH → Ag2O↓ + 2NaNO3 + H2O (5)
該酸化銀沈殿が、適切に分離され、また適切に洗浄された場合には、次の化学量論的に適当な量のクエン酸溶液の添加は、クエン酸三銀としての銀の完全な沈殿をもたらすであろう。この工程における銀の損失を回避するために、該工程の条件を、該沈殿するクエン酸三銀の収率が、常に約97%〜約100%なる範囲にあるように選択される。クエン酸溶液を該酸化銀の沈殿に対して添加した際の、クエン酸三銀の生成は、以下の式によって説明することができる:
3Ag2O↓ + 2H3C6H5O7 → 2Ag3C6H5O7↓ + 3H2O (6)
該式(6)が示すように、適当な条件の下では、クエン酸三銀及び水のみが生成されるであろう。その他の如何なる成分も生成されず、また該出発物質が汚染物を含まない場合には、高品位かつ高純度の生成物が得られるであろう。
【0028】
適当量のクエン酸を、クエン酸三銀を含有する上記スラリーに添加した場合には、一般式:[Ag3(C6H5O7)n+1]3n-を持つクエン酸銀錯体を含む濃厚溶液の生成が、上記式(4)によって記載されるように、起り得る。
本発明の濃厚溶液を製造するための同様な方法が、NaOHの代わりに、該方法において他のアルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物を使用した場合に可能となる。
B. 水酸化アンモニウム(NH4OH)経路
この経路は、酸化銀が水酸化アンモニウムに可溶性であることから魅力的なものであり得、また他の物質からのクエン酸三銀の分離は、このような他の物質の存在が許容される幾つかの用途に対しては、恐らく回避することができる。
この経路において、水酸化アンモニウム(NH4OH)を、硝酸銀の水性溶液に添加した場合には、可溶性銀ジアミノ錯体の生成が、以下の式によって記載されるように、起り得る:
2AgNO3 + 2NH4OH → Ag2O↓ + 2NH4NO3 + H2O (7)
Ag2O↓ + 4NH4OH → 2[Ag(NH3)2]OH + 3H2O (8)
又は
AgNO3 + 3NH4OH → [Ag(NH3)2]OH + NH4NO3 + 2H2O (9)
【0029】
該系における不要なアンモニウムイオン(NH4+)の蓄積を回避するために、化学量論的に適切な量の水酸化アンモニウムのみを使用することを推奨する。この適切な量は、この方法における中間生成物として形成される、該酸化銀の溶解へと導く、水酸化アンモニウムの最後の1滴によって決定される。この系が、過剰量のアンモニウムイオンを含む場合、追加のクエン酸を添加して、該塩基を中和し、また該クエン酸三銀の適切な析出を可能とする必要がある。
該銀ジアミノ錯体溶液に対するクエン酸の添加は、以下の反応により示されるように、クエン酸三銀の析出へと導く:
3[Ag(NH3)2]OH + 2H3C6H5O7 → Ag3C6H5O7↓ + (NH4)3C6H5O7 + NH4NO3 (10)
該系におけるアンモニウムイオンの存在が許容され得る場合には、該溶液からの該クエン酸三銀の分離を回避することができる。しかし、アンモニウムイオンは、銀イオンと競合し、またクエン酸銀錯体の生成を妨害して、本発明の方法及び得られる濃厚溶液の有効性を減じる恐れのある、潜在的な「対イオン」に相当する。
【0030】
結果として、分離段階は、該溶液から該クエン酸三銀を分離し、かつそれによって純粋なクエン酸三銀を得るために望ましいものであり得る。
一旦、該クエン酸三銀沈殿が形成され、また場合により該アンモニウムイオンから分離された場合、更なる追加のクエン酸は、本発明によるクエン酸錯体を含有する濃厚溶液を生成するであろう。
所定の銀イオン濃度を持つ濃厚溶液を生成するのに必要なクエン酸の量は、クエン酸三銀の量及び結果として銀イオンの量及び該クエン酸三銀を製造するのに使用される硝酸銀の量に依存する。
C. 酸化銀(Ag2O)経路
上記経路A及びBの説明に基けば、クエン酸三銀が、銀イオン源として酸化銀を使用する経路によって製造できることは明白である。この経路において、化学量論的に適切な量のクエン酸を、固体酸化銀を含有するスラリーに添加した場合、クエン酸三銀沈殿は、以下の式に従って生成されるであろう:
3Ag2O + 2H3C6H5O7 → 2Ag3C6H5O7↓ + 3H2O (11)
次いで、該経路A及びBについて説明した方法と同様にして、所定の銀イオン濃度を持つ濃厚溶液を製造するために、適切な量のクエン酸を、水性溶液中の該クエン酸三銀と混合することができる。
【0031】
D. 銀塩-クエン酸塩化合物経路
この経路に関しては、該クエン酸三銀を製造するために、任意の水溶性クエン酸塩を使用することができる。一例として、クエン酸三ナトリウム(Na3C6H5O7)を用いた場合は、以下の通りである:
化学量論的に適切な量の固体又は溶解したクエン酸三ナトリウムを、硝酸銀の水性溶液に添加した場合、クエン酸三銀の析出は、以下の式に従って起こるであろう:
3AgNO3 + Na3C6H5O7 → Ag3C6H5O7↓ + 3NaNO3 (12)
該硝酸ナトリウム溶液からの該クエン酸三銀沈殿の分離後、所定の銀イオン濃度を持つ濃厚溶液は、上記経路A及びBについて記載した如く、該クエン酸三銀と、適当な量のクエン酸を含む水性溶液とを混合することにより製造することができる。
クエン酸イオン源として使用される該出発化合物が、クエン酸アンモニウム((NH4)3C6H5O7)である場合、クエン酸三銀の析出は、以下の式に従って起こるであろう:
3AgNO3 + (NH4)3C6H5O7 → Ag3C6H5O7↓ + 3NH4NO3 (13)
【0032】
一般的には、クエン酸イオン及び銀イオンの源に依存して、クエン酸三銀の析出は、以下の一般式により記述することができる:
Me(I)3C6H5O7 + 3AgY → Ag3C6H5O7↓ + 3MeY (14)
ここで、AgYは任意の水溶性銀塩であり、またMe(I)は任意の一価の金属又はNH4+であり得る。
該クエン酸イオン源が、二価の金属:Me(II)のクエン酸塩である場合、クエン酸三銀の析出は、以下の式により記述することができる:
Me(II)3(C6H5O7)2 + 6AgY → 2Ag3C6H5O7↓ + 3MeY2 (15)
該クエン酸イオン源が、三価の金属:Me(III)のクエン酸塩である場合、クエン酸三銀の析出は、以下の式により記述することができる:
Me(III)C6H5O7 + 3AgY → Ag3C6H5O7↓ + MeY3 (16)
【0033】
E. クエン酸三銀経路
本発明によるクエン酸銀錯体を含む濃厚溶液を製造するために、以下の一般的な方法を使用することができる:
入手可能な場合には、クエン酸三銀を、出発物質として直接使用することができる。あるいはまた、銀イオン源及びクエン酸イオン源から、クエン酸三銀を製造するための経路(上記経路A、B、C及びDを含むが、これらに限定されない)により製造されたクエン酸三銀を、出発物質として使用することができる。
この一般的な方法において、適当な量のクエン酸を含む水性溶液中への、該クエン酸三銀の溶解は、上記経路A、B、C及びDに記載された方法で行うことができ、また一般式[Ag3(C6H5O7)n+1]3n-を持つ可溶性のクエン酸銀錯体を含む、濃厚溶液を製造することができる。
簡単に言えば、該経路A、B、C、D及びEは、本発明による濃厚溶液を製造するための可能な化学的経路の例に相当する。該経路A、B、C及びDは、本発明による濃厚溶液の製造をもたらし、ここでクエン酸三銀は、出発物質として使用されないが、銀イオン源及びクエン酸イオン源から製造される。次いで、この生成されたクエン酸三銀を、水及びクエン酸と結合して、本発明による濃厚溶液を生成する。該経路Eは一般的な経路であり、そこでクエン酸三銀は、出発物質として使用され、該クエン酸三銀は、銀イオン源及びクエン酸イオン源からクエン酸三銀を製造する経路を包含する、任意の源から得ることができる。
【0034】
本発明による該濃厚溶液は、水、クエン酸イオン及び銀イオンを含む。本発明による該濃厚溶液は、添加物又は不純物として他の物質を含むことができる。好ましくは、本発明の該濃厚溶液は、該濃厚溶液中でのクエン酸銀錯体の生成及び/又はそこでの該錯体の維持を妨害する、実質的な量の添加物又は不純物を含むことはない。結果として、幾つかの態様において、該濃厚溶液は、該濃厚溶液中に存在する如何なる他の物質も、該溶液中でのクエン酸銀錯体の生成及び/又はそこでの該錯体の維持を著しく妨害することがないように、本質的に水、クエン酸イオン及び銀イオンからなる。
本発明に従って製造した濃厚溶液を、任意の銀イオン濃度まで希釈して、特定の抗菌的用途用の希薄溶液を製造することができる。本発明に従って製造した濃厚溶液及び希薄溶液は、その組成に依存して、比較的安定であり、また広範囲に及ぶ抗菌的及び/又は消毒の用途において有用であり得る。
本発明による濃厚溶液及び希薄溶液の製造は、該溶液中に存在するクエン酸の量(即ち、クエン酸濃度又はクエン酸イオン濃度)の注意深い管理を要する。というのは、クエン酸三銀の溶解度及びその結果としてのクエン酸銀錯体の生成が、該溶液中のクエン酸又はクエン酸イオン濃度に依存するからである。
【0035】
濃厚溶液及び希薄溶液中の該クエン酸又はクエン酸イオン濃度の管理を指導する原理は、図1〜6を参照して明らかにすることができる。
図1〜6は、本発明の実施に関連する該原理及び限界を設定するために行われた、研究室における実験の結果を与えている。
図1は、通常の物理化学的条件下で、クエン酸及びクエン酸三銀を含有する水性溶液/スラリー中の、クエン酸の濃度(M/L単位で表示)の関数としての、銀イオン濃度(g/L単位で表示)の「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここで、該溶液/スラリー中のクエン酸三銀の初期濃度は、39g/L(即ち、約24.6g/Lなる銀)である。
図1から理解されるように、該クエン酸濃度における増大は、クエン酸銀の溶解度における増大及び結果として該溶液中の銀イオンの濃度における増大に導く。
図1から、クエン酸濃度と銀イオン濃度との間の関係が、0 M/L〜約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)なる範囲内のクエン酸濃度に対して、実質的に直線であることを理解することができる。この直線関係は、以下の式によって表すことができる:
y = 6.4316x + 0.3 (17)
ここで、yはg/L単位で表した銀イオン濃度であり;xはM/L(モル/L)単位で表したクエン酸濃度である。
【0036】
理解されるように、該直線関係を表す該式17の勾配は、6.4316であり、これは6.4316gの銀イオンが、該溶液/スラリー中に存在するクエン酸の各1モル/Lに対して、水1リットル中に溶解し得ることを意味する。
結果として、約13g/L(即ち、約13,000ppm又は約0.12M/L)なる銀イオン濃度が、約2M/L(即ち、約400g/L又は約29質量%)なるクエン酸濃度を持つ溶液中において達成できるものと思われ、また約25g/L(即ち、約25,000ppm又は約0.23M/L)なる銀イオン濃度が、約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)なるクエン酸濃度を持つ溶液中において達成できるものと思われる。
図2は、通常の物理化学的条件下で、クエン酸及びクエン酸三銀を含有する水性溶液/スラリー中の、クエン酸の濃度(M/L単位で表示)の関数としての、銀イオン濃度(M/L単位で表示)の「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここで、該溶液/スラリー中のクエン酸三銀の初期濃度は、39g/L(即ち、約24.6g/Lなる銀)である。
同様に、図2から理解されるように、該クエン酸濃度における増大は、クエン酸銀の溶解度における増大及び結果として該溶液中の銀イオンの濃度における増大に導く。
【0037】
図2から、同様に、クエン酸濃度と銀イオン濃度との間の関係が、0 M/L〜約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)なる範囲内のクエン酸濃度に対して、実質的に直線であることを理解することができる。約4M/Lなるクエン酸濃度において、銀イオン濃度は、約0.23M/L(即ち、約25g/L又は約25,000ppm)であり、これは初めに該溶液/スラリー中に含まれていた、該クエン酸三銀によって与えられる銀濃度と等価である。
図3は、通常の物理化学的条件下で、クエン酸及びクエン酸三銀を含有する水性溶液/スラリー中の、クエン酸の濃度(M/L単位で表示)の関数としての、銀イオン濃度(M/L単位で表示)の「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここで、該溶液/スラリー中のクエン酸三銀の初期濃度は、39g/L(即ち、約24.6g/Lなる銀)である。
同様に、図3から理解されるように、該クエン酸濃度における増大は、クエン酸銀の溶解度における増大及び結果として該溶液中の銀イオンの濃度における増大に導く。
図3から、同様に、クエン酸濃度と銀イオン濃度との間の関係が、0 M/L〜約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)なる範囲内のクエン酸濃度に対して、実質的に直線であることを理解することができる。この直線関係は、以下の式で表すことができる:
y = 0.0592x + 0.0028 (18)
ここで、yはM/L単位で表した銀イオン濃度であり;xはM/L単位で表したクエン酸濃度である。
【0038】
理解されるように、該直線関係を表す該式18の勾配は、0.0592であり、これは0.0592Mの銀イオンが、該溶液/スラリー中に存在するクエン酸の各1 M/Lに対して、水1リットル中に溶解し得ることを意味する。
結果として、約0.12M/L(即ち、約13g/L又は約13,000ppm)なる銀イオン濃度が、約2M/L(即ち、約400g/L又は約29質量%)なるクエン酸濃度を持つ溶液中において達成できるものと思われ、また約0.24M/L(即ち、約25g/L又は約25,000ppm)なる銀イオン濃度が、約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)なるクエン酸濃度を持つ溶液中において達成できるものと思われる。
図4は、通常の物理化学的条件下で、クエン酸及びクエン酸三銀を含有する水性溶液/スラリー中の、クエン酸の濃度(M/L単位で表示)の関数としての、該溶液/スラリー中に溶解したクエン酸三銀又はクエン酸三銀溶液(M/L単位で表示)の「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここで、該溶液/スラリー中のクエン酸三銀の初期濃度は、39g/L(即ち、約24.6g/Lなる銀)である。
同様に、図4から理解されるように、該クエン酸濃度における増大は、クエン酸銀の溶解度における増大及び結果として該溶液中に含まれる溶解クエン酸三銀の増大へと導く。
【0039】
図4から、同様に、クエン酸濃度と溶解したクエン酸三銀濃度との間の関係が、0 M/L〜約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)なる範囲内のクエン酸濃度に対して、実質的に直線であることを理解することができる。この直線関係は、以下の式で表すことができる:
y = 0.0197x + 0.0009 (19)
ここで、yはM/L単位で表した溶解したクエン酸三銀濃度であり;xはM/L単位で表したクエン酸濃度である。
理解されるように、該直線関係を表す該式19の勾配は、0.0197であり、これは0.0197Mのクエン酸三銀が、該溶液/スラリー中に存在するクエン酸の各1 M/Lに対して、水1リットル中に溶解し得ることを意味する。0.0197Mのクエン酸三銀が、クエン酸三銀に関する513g/Mなるモル質量及び銀に関する108g/Mなるモル質量に基いて、約0.0124Mの銀を含むことに注意すべきである。
結果として、約0.12M/L(即ち、約13g/L又は約13,000ppm)なる銀イオン濃度が、約2M/L(即ち、約400g/L又は約29質量%)なるクエン酸濃度を持つ溶液中において達成できるものと思われ、また約0.24M/L(即ち、約25g/L又は約25,000ppm)なる銀イオン濃度が、約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)なるクエン酸濃度を持つ溶液中において達成できるものと思われる。
【0040】
通常の物理化学的条件下で、水に対するクエン酸の最大溶解度は、理論的には約1,550g/L(即ち、約8M/L又は約61質量%)である。しかし、約4M/Lを越えるクエン酸濃度を達成することは、極めて難しいことが分かっている。研究室における実験中に、約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)を越えるクエン酸濃度の増大は、クエン酸の飽和溶液の精製及びクエン酸結晶の生成をもたらす恐れがあることが観測されている。
約4M/Lを越えるクエン酸を含む溶液/スラリーの加熱は、該クエン酸結晶の溶解を助けるが、その後の該溶液/スラリーの冷却は、更なる結晶化をもたらすことが、経験的に観測されており、このことは、通常の物理化学的条件下での、実際の飽和限界が、約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)であることを示唆している。
上で述べたように、約25g/L(即ち、約25,000ppm又は約0.23M/L)なる銀イオン濃度が、約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)を越えるクエン酸濃度において達成し得るものと思われる。
結果として、図1-4の結果及び研究室における実験中になされた観測に基けば、本発明は、約4M/L(即ち、約800g/L又は約45質量%)又はそれ以上のクエン酸又はクエン酸イオン濃度を持つ水性溶液において、約25g/L(即ち、約25,000ppm又は約0.23M/L)までの銀イオン濃度を持つ濃厚溶液を得ることを可能とするものと思われる。
【0041】
図1-4の結果に基けば、0 M/L〜約4 M/Lなる範囲のクエン酸又はクエン酸イオン濃度を持つクエン酸の水性溶液において達成し得る銀イオン濃度も、該クエン酸又はクエン酸イオン濃度と実質的に直線関係で変動するものと思われ、この線形関係は、以下のように表すことができる:
1. クエン酸又はクエン酸イオン濃度(M/L単位で表示)対銀イオン濃度(g/L単位で表示)の比は、少なくとも約0.16:1である;
2. クエン酸又はクエン酸イオン濃度(M/L単位で表示)対銀イオン濃度(M/L単位で表示)の比は、少なくとも約17:1である;
3. クエン酸又はクエン酸イオン濃度(g/L単位で表示)対銀イオン濃度(g/L単位で表示)の比は、少なくとも約30:1である;
4. クエン酸又はクエン酸イオン濃度(M/L単位で表示)対溶液中に溶解し得るクエン酸三銀濃度(g/L単位で表示)の比は、少なくとも約0.099:1である;
5. クエン酸又はクエン酸イオン濃度(M/L単位で表示)対溶液中に溶解し得るクエン酸三銀濃度(M/L単位で表示)の比は、少なくとも約51:1である;及び
6. クエン酸又はクエン酸イオン濃度(g/L単位で表示)対溶液中に溶解し得るクエン酸三銀濃度(g/L単位で表示)の比は、少なくとも約19:1である。
【0042】
図5及び図6は、時間の関数としての、銀イオン濃度の「最良の適合状態」を描いたグラフであり、ここで初期銀イオン濃度は、夫々19g/L及び13g/Lである。図5及び図6の結果は、本発明に従って製造した濃厚溶液及び/又は希薄溶液の相対的な安定性を明らかにしている。
図5を参照すると、約13週間(即ち、約3カ月)なる期間に及ぶ、本発明に従って製造した濃厚溶液の銀イオン濃度が、約19g/L(即ち、19,000ppm又は約0.18M/L)なる初期銀イオン濃度を持つ濃厚溶液についてプロットされている。
図5に示されたように、該銀イオン濃度は、この3カ月という期間中に、約19g/Lから約12g/L(即ち、約12,000ppm又は約0.11M/L)まで減少した。
図6を参照すると、約10週間(即ち、約2-3カ月)という期間に及ぶ、本発明に従って製造した濃厚溶液の銀イオン濃度が、約13g/L(即ち、約13,000ppm又は約0.12M/L)なる初期銀イオン濃度を持つ濃厚溶液についてプロットされている。
図6にプロットされているように、銀イオン濃度は、上記2-3カ月なる期間に渡り、約13g/Lなる初期銀イオン濃度から大幅に変動することはなかった。
【0043】
一般に、約13g/L(即ち、約13,000ppm又は約0.12M/L)に等しいかそれ未満の銀イオン濃度を持つ、本発明に従って調製された濃厚溶液は、通常の物理化学的条件下で比較的安定であることが分かった。さらに、約13g/Lを越える銀イオン濃度を持つ濃厚溶液から調製された、約13g/Lに等しいかそれ未満の銀イオン濃度を持つ希薄溶液も、比較的安定であることも分かったが、クエン酸又はクエン酸イオン濃度対銀イオン濃度の適当な比が、該希薄溶液において維持されていることを条件とする。
約13g/L(即ち、約13,000ppm又は約0.12M/L)乃至約15g/L(即ち、約15,000ppm又は約0.14M/L)なる範囲にある銀イオン濃度を持つ、濃厚溶液及び希薄溶液は、一般的にかなり安定であるが、約13g/Lに等しいかそれ未満の銀イオン濃度を持つ濃厚溶液及び希薄溶液ほどには、確実に安定というわけではないことも分かった。
濃厚溶液及び希薄溶液の上記安定性は、これらの溶液に安定化剤を添加することによって高めることができる。グリセロールが、本発明において使用するのに適した安定化剤であり得ることが分かっている。
【0044】
本発明に従って調製した濃厚溶液及び希薄溶液は、ある範囲内の抗菌用途及び消毒用途のために使用することができる。非-限定的な例として、本発明に従って調製した濃厚溶液及び希薄溶液は、様々な特定の用途、例えば生体膜形成の防止、スイミングプール、高温浴槽、温泉の殺菌、消毒、外科用器具、公共建造物、航空機の消毒、局所的創傷の手当て用品(例えば、包帯)、清浄化剤用の添加剤及び微生物の抑制が必要とされるあらゆる他の用途にとって有用であり得る。
本発明に従って調製される濃厚溶液及び希薄溶液のもう一つの有力な利点は、銀イオン及びクエン酸イオン両者が、その抗菌特性に関して公知である点にある。結果的に、本発明に従って調製される濃厚溶液及び希薄溶液における、銀イオンと比較的高濃度のクエン酸イオンとの組合せは、銀イオンのみ又はクエン酸イオンのみを含む組成物と比較して、優れた抗菌特性を与えることができる。
以上、本発明を、主として出発物質としてのクエン酸三銀及びクエン酸から製造した濃厚溶液及び希薄溶液に関連して説明してきたが、グリコール酸、乳酸等の他のカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸を、クエン酸の代わりに使用して、このような酸の銀塩と組合せて、同様な溶液を調製することも可能である。
【実施例】
【0045】
以下の実施例は、本発明の特徴及び局面を例証するものである。
実施例1
7.6849gの硝酸銀(AgNO3)(即ち、約4.88gの銀イオンを含む)を、100mLの逆浸透(RO)法で精製した水に溶解した。この溶液に、10mLの28容量%の水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を添加した。暗褐色の酸化銀(Ag2O)沈殿の析出が生じた後、このスラリーをさらに20分間混合した。該スラリーを放置して、該褐色の酸化銀沈殿を沈降させ、次いで無色透明な溶液を、デカンテーション処理した。次に、該褐色の酸化銀沈殿を、洗液のpHが約7となるまで、逆浸透精製水で注意深く洗浄した。該洗浄工程の完了後、100mLの逆浸透(RO)法で精製した水に溶解した、155gの固体クエン酸(H3C6H5O7)(即ち、約1550g/L、約8M/L、又は約61質量%)の溶液を、該湿った褐色の酸化銀沈殿に添加した。この高濃度のクエン酸溶液を添加した際に、該沈殿の色は、暗褐色から白色に変化した。この外観における変化は、褐色の酸化銀沈殿の白色クエン酸三銀(Ag3C6H5O7)沈殿への変換を示すものであった。加熱により、該白色のクエン酸三銀沈殿は消失し、また透明で高密度の、無色の溶液が得られた。この溶液を250mLまで濃縮して、約620g/L(即ち、約3M/L又は約38質量%)のクエン酸を含む濃厚溶液を得た。
【0046】
該濃厚溶液の化学分析は、銀イオン濃度が、約18.8g/L(即ち、該濃厚溶液中に、全体として約4.7gの銀イオンを含む)であった。このことは、該硝酸銀に含まれていた銀イオンの僅かに約3.7%が、該濃厚溶液の製造中に失われたことを意味する。該濃厚溶液の密度は、約1.26g/cm3であり、またこの最終製品としての溶液は、1なるpHを有していた。
該無色透明な濃厚溶液の外観は、3か月に渡り不変であった。しかし、容器の底部における僅かな結晶化が、この3カ月中に生じた。該結晶は、最初無色であり、次いで白色となり、最終的に灰色がかった色となるように思われた。この濃厚溶液の化学分析は、該溶液中の銀イオン濃度が、時間の経過に伴って徐々に減少することを明らかにした。具体的に、該濃厚溶液中の銀イオン濃度は、18.8g/Lなる初期銀イオン濃度から、3ヶ月後の約11g/Lなる最終的な銀イオン濃度まで、時間の経過に伴って減少した。
【0047】
実施例2
7.8651gの硝酸銀(AgNO3)(即ち、約4.99gの銀イオンを含有する)を用いて、銀イオン及びクエン酸イオンのみを含む無色透明の水性溶液を、実施例1に記載したものと同様な方法で得た。35mLのグリセロール(C3H5(OH)3)を、この溶液に添加し、該溶液を、正確に250mLとなるように希釈して、約620g/L(即ち、約3M/L又は約38質量%)のクエン酸を含む濃厚溶液を製造した。
この濃厚溶液の化学分析により、銀イオン濃度が18.96g/L(即ち、該濃厚溶液中の全銀イオン:約4.74g)であることが分かった。このことは、該硝酸銀に含まれる銀イオンの約5.1%が、この工程中に失われたことを示している。
さらに、該濃厚溶液は、3か月という期間に渡り比較的安定であった。容器底部における幾分かの結晶の生成が、観測された。重大なことに、該濃厚溶液中の銀イオン濃度は減少したが、実施例1において観測された減少よりもその程度は著しく低いものであった。具体的には、3か月という期間に渡り、該濃厚溶液中の銀イオン濃度は、18.96g/Lから、約17g/Lまで減少した。このことは、安定化剤としてのグリセロールの使用が、本発明により調製した溶液の安定性を、大幅に高めることができることを示している。
【0048】
実施例3
7.8614gの硝酸銀(AgNO3)(即ち、約4.99gの銀イオンを含む)を、100mLの逆浸透(RO)法で精製した水に溶解した。この溶液に、7mLの28容量%の水酸化アンモニウム(NH4OH)溶液を添加して、銀ジアミノ錯体([Ag(NH3)2]+)を含む無色透明な溶液を得た。無色透明な溶液を得た時点において、100mLの逆浸透(RO)法で精製した水に、155gの固体クエン酸(H3C6H5O7)を溶解して得た溶液(即ち、約1,550g/L、約8M/L、又は約61質量%)を、室温にて該銀ジアミノ錯体溶液に添加した。初めに、白色のクエン酸銀(Ag3C6H5O7)沈殿の生成が観測されたが、これは該溶液を約50-60℃に加熱することにより溶解した。該溶液を加熱しつつ、安定化剤としてのグリセロール35mLを、該溶液と混合し、約50-60℃なる温度をその後の10分間に渡り維持した。次いで、この溶液を、約200mL〜220mLなる範囲の容積となるまで沸騰させた。次に、該沸騰させた溶液を、逆浸透(RO)法で精製した水で、250mLなる最終体積まで希釈して、約620g/Lのクエン酸(即ち、約3M/L又は約38質量%)を含む濃厚溶液を得た。
該無色透明な濃厚溶液は、約1なるpH、約1.3g/cm3なる密度、及び19.51g/L(即ち、約4.88gなる全銀イオン)なる銀イオン濃度を有しており、この銀イオン濃度は、初めの硝酸銀の量に基いて予想された銀イオン濃度(19.97g/L又は4.99g)よりも、僅かに低い値であった。
【0049】
老化に伴って、この濃厚溶液の銀イオン濃度は、3か月という期間に渡って、19.51g/Lから約13g/Lまで、漸進的な減少を示した。この濃厚溶液の更なる老化は、銀イオン濃度における有意な低下に導くことはなかった。
本実施例3においては、「対イオン」(NH4+)が、該濃厚溶液中に存在していたことに注意すべきである。結果として、実施例3は、本発明に従って製造した溶液中の所謂「対イオン」の存在が、安定化剤としてグリセロールを添加しても、該濃厚溶液中の銀イオン濃度における著しい減少及び該濃厚溶液の安定性における低下をもたらす恐れがあることを明らかにしている。
実施例4
7.8624gの硝酸銀(AgNO3)(即ち、約4.99gの銀イオンを含む)を、150mLの逆浸透(RO)法で精製した水に溶解した。別のビーカー内で、4gのクエン酸三ナトリウム(Na3C6H5O7)を50mLの逆浸透(RO)法で精製した水に溶解した。磁気攪拌機で該硝酸銀溶液を攪拌しつつ、該クエン酸三ナトリウム溶液を、この硝酸銀溶液添加したところ、白色のクエン酸三銀(Ag3C6H5O7)沈殿の生成が観測された。
20分間攪拌した後、得られる併合された溶液を、静置した。該白色のクエン酸三銀沈殿を、濾過により該併合溶液から分離し、該併合溶液中の銀イオン濃度を化学分析により測定したところ、約2.15g/Lであることが分かった。
【0050】
該白色クエン酸三銀沈殿を、逆浸透(RO)法で精製した水で注意深く洗浄した。100mLの逆浸透(RO)法で精製した水に、155gの固体クエン酸(H3C6H5O7)を溶解して得た溶液を、該クエン酸三銀(Ag3C6H5O7)沈殿に添加した。穏やかに加熱すると、該白色クエン酸三銀沈殿は溶解し、無色透明な溶液が得られた。次いで、該溶液の体積を、約250mLに調節して、約620g/L(即ち、約3M/L又は約38質量%)のクエン酸を含む濃厚溶液を得た。
該濃厚溶液中の銀イオン濃度は、約20.31g/Lであった。該硝酸銀によりもたらされる銀イオンの量(即ち、約4.99g)を考慮すると、該濃厚溶液において測定される銀イオン濃度は、該濃厚溶液の体積が、実際には250mL未満であることを示唆しており、結果として、該濃厚溶液中のクエン酸濃度は、実際には3M/L又は38質量%を越えるものであった。該濃厚溶液を、透明なボトル中に保存した。4か月という期間中に、その色における変化は何ら観測されなかったが、該濃厚溶液中の銀イオン濃度は、この4か月という期間中に、約20g/Lから約14g/Lまで減少した。
【0051】
実施例5
約20g/Lなる銀イオン濃度及び約620g/L(即ち、約3M/L又は約38質量%)なるクエン酸濃度を持つ濃厚溶液を、正確に上記実施例4に記載したようにして調製した。
この濃厚溶液を、逆浸透(RO)法で精製した水で希釈して、9g/L〜20g/Lなる範囲の銀イオン濃度を持つ、一連の希薄溶液を得た。
13g/L(即ち、13,000ppm又は約0.12M/L)未満の銀イオン濃度を持つ希薄溶液は比較的安定であり、しかも該クエン酸濃度が、該希薄溶液のクエン酸三銀を維持し、またその結果として該クエン酸三銀の析出を防止する限り、銀イオン濃度における著しい減少を示さないことを観測した。前に記載したように、13g/L(即ち、13,000ppm又は約0.12M/L)なる銀イオン濃度に対して、クエン酸三銀の析出を防止するのに必要なクエン酸濃度は、少なくとも約400g/L(即ち、約2M/L又は約29質量%)である。
本明細書において、用語「含む(comprising)」とは、この用語に続く事項が含まれ、かつ具体的に述べられていない事項を排除するものではないことを意味するものとして、非-限定的な意味で使用される。不定冠詞「a」によるある要素(成分)への言及は、これを含む文脈が、該要素(成分)の一つ及び一つのみの存在を、明確に要請しているのではない限り、1を越える該要素(成分)の存在の可能性を排除するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、クエン酸イオン及び銀イオンを含む濃厚溶液であって、該クエン酸イオンが、少なくとも300g/Lなる、該濃厚溶液中の濃厚化クエン酸イオン濃度を有し、かつ該銀イオンが、少なくとも10g/Lなる、該濃厚溶液中の濃厚化銀イオン濃度を持つことを特徴とする、前記濃厚溶液。
【請求項2】
前記濃厚化クエン酸イオン濃度が、300g/L〜1,550g/Lなる範囲内にあり、かつ前記濃厚化銀イオン濃度が、10g/L〜25g/Lなる範囲内にある、請求項1記載の濃厚溶液。
【請求項3】
前記濃厚化クエン酸イオン濃度が、300g/L〜800g/Lなる範囲内にあり、かつ前記濃厚化銀イオン濃度が、10g/L〜25g/Lなる範囲内にある、請求項1記載の濃厚溶液。
【請求項4】
前記濃厚化銀イオン濃度が、13g/Lを越えるものであり、かつ該濃厚化クエン酸イオン濃度が、質量基準で、該濃厚化銀イオン濃度の少なくとも30倍である、請求項1記載の濃厚溶液。
【請求項5】
前記濃厚溶液が、本質的に前記水、前記クエン酸イオン及び前記銀イオンからなる、請求項1記載の濃厚溶液。
【請求項6】
さらに、一定量の安定化剤をも含む、請求項4記載の濃厚溶液。
【請求項7】
前記安定化剤が、グリセロールを含む、請求項6記載の濃厚溶液。
【請求項8】
前記濃厚溶液が、本質的に前記水、前記クエン酸イオン、前記銀イオン及び前記安定化剤からなる、請求項6記載の濃厚溶液。
【請求項9】
水、クエン酸イオン及び銀イオンを含む濃厚溶液に、水を添加することにより調製される希薄溶液であって、該銀イオンが、10g/Lを越える、該濃厚溶液における濃厚化銀イオン濃度を有し、該クエン酸イオンが、質量基準で、該濃厚化銀イオン濃度の少なくとも30倍の、該濃厚溶液における濃厚化クエン酸イオン濃度を有し、該銀イオンが、該濃厚化銀イオン濃度未満の、該希薄溶液における希釈銀イオン濃度を有し、かつ該クエン酸イオンが、質量基準で、該希釈銀イオン濃度の少なくとも30倍の、該希薄溶液における希釈クエン酸イオン濃度を持つことを特徴とする、前記希薄溶液。
【請求項10】
前記濃厚化銀イオン濃度が、13g/Lを越えるものであり、かつ前記希釈銀イオン濃度が、13g/L以下である、請求項9記載の希薄溶液。
【請求項11】
前記濃厚化銀イオン濃度が、15g/Lを越えるものであり、かつ前記希釈銀イオン濃度が、15g/L以下である、請求項9記載の希薄溶液。
【請求項12】
前記希薄溶液が、本質的に前記水、前記クエン酸イオン及び前記銀イオンからなる、請求項9記載の希薄溶液。
【請求項13】
水、クエン酸イオン及び銀イオンを含む濃厚溶液の製造方法であって、該方法が、以下の諸工程:
(a) 一定量のクエン酸三銀を準備する工程;
(b) 一定量のクエン酸を準備する工程、ここで該クエン酸の量は、質量基準で、該クエン酸三銀の量の少なくとも19倍であり;及び
(c) 該クエン酸三銀と該クエン酸とを、一定量の水中で混合して、前記濃厚溶液を製造する工程、ここで該水の量は、該濃厚溶液が、少なくとも300g/Lなる、該濃厚溶液における濃厚化クエン酸イオン濃度を持つように選択される、
を含むことを特徴とする、前記濃厚溶液の製造方法。
【請求項14】
前記濃厚溶液が、少なくとも10g/Lなる、該濃厚溶液における濃厚化銀イオン濃度を持つ、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記濃厚溶液が、10g/L〜25g/Lなる範囲の、該濃厚溶液における濃厚化銀イオン濃度を持つ、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記濃厚溶液が、13g/Lを越える、該濃厚溶液における濃厚化銀イオン濃度を持つ、請求項13記載の方法。
【請求項17】
前記濃厚溶液が、10g/L〜13g/Lなる範囲の、該濃厚溶液における濃厚化銀イオン濃度を持つ、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記濃厚溶液が、本質的に前記水、前記クエン酸イオン及び前記銀イオンからなる、請求項13記載の方法。
【請求項19】
さらに、前記濃厚溶液に、一定量の安定化剤を添加する工程をも含む、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記安定化剤が、グリセロールを含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記濃厚溶液が、本質的に前記水、前記クエン酸イオン、前記銀イオン及び前記安定化剤からなる、請求項19記載の方法。
【請求項22】
さらに、前記濃厚溶液に水を添加して、希薄溶液を製造する工程をも含み、ここで前記銀イオンは、前記濃厚化銀イオン濃度未満の、該希薄溶液における希釈銀イオン濃度を有し、前記クエン酸イオンは、該希薄溶液において希釈クエン酸イオン濃度を有し、かつ該希釈クエン酸イオン濃度は、質量基準で、該希釈銀イオン濃度の少なくとも30倍である、請求項14記載の方法。
【請求項23】
前記希薄溶液が、本質的に前記水、前記クエン酸イオン及び前記銀イオンからなる、請求項22記載の方法。
【請求項24】
さらに、前記濃厚溶液に水を添加して、希薄溶液を製造する工程をも含み、ここで前記銀イオンは、該希薄溶液において希釈銀イオン濃度を有し、前記クエン酸イオンは、該希薄溶液において希釈クエン酸イオン濃度を有し、該希釈銀イオン濃度は、13g/L以下であり、かつ該希釈クエン酸イオン濃度は、質量基準で、該希釈銀イオン濃度の少なくとも30倍である、請求項16記載の方法。
【請求項25】
前記希薄溶液が、本質的に前記水、前記クエン酸イオン及び前記銀イオンからなる、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記濃厚溶液が、15g/Lを越える、該濃厚溶液における濃厚化銀イオン濃度を持つ、請求項13記載の方法。
【請求項27】
さらに、前記濃厚溶液に水を添加して、希薄溶液を製造する工程をも含み、ここで前記銀イオンは、該希薄溶液において希釈銀イオン濃度を有し、前記クエン酸イオンは、該希薄溶液において希釈クエン酸イオン濃度を有し、該希釈銀イオン濃度は、15g/L以下であり、かつ該希釈クエン酸イオン濃度は、質量基準で、該希釈銀イオン濃度の少なくとも30倍である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記希薄溶液が、本質的に前記水、前記クエン酸イオン及び前記銀イオンからなる、請求項27記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−530542(P2011−530542A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522355(P2011−522355)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001042
【国際公開番号】WO2010/017623
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(511038787)エキシトン テクノロジーズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】