抗酸化剤及び抗酸化化粧料
【課題】新規な抗酸化剤を提供する。
【解決手段】2×1018cm−3以上、2.3×1021cm−3未満の電子(e−)を含む12CaO・7Al2O3化合物を有効成分とする抗酸化剤。
【解決手段】2×1018cm−3以上、2.3×1021cm−3未満の電子(e−)を含む12CaO・7Al2O3化合物を有効成分とする抗酸化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子を含む無機粉体を含有する抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子を結晶構造中の隙間に含む無機化合物(12CaO・7Al2O3化合物)が知られている(特許文献1:WO2005/741号公報)。この化合物は高い電気伝導性機能を、室温大気中で発現できることが知られている。しかしながら、この化合物が優れた抗酸化効果を有することは知られていなかった。
生体において抗酸化作用は、健康維持のために重要な機能を果たしている。一般的な抗酸化剤(ラジカル消去剤)はラジカルに電子を一つわたして不対電子を安定な対にする。この場合抗酸化剤自身はラジカルとなるが、このラジカルは一般的に安定であり、様々な経路で非ラジカル種へと変換される。フェノール骨格やチオール基を持つ化合物には抗酸化活性が一般的にある。抗酸化剤は食品や油脂などの酸化防止剤、さらには医薬品へ応用されている。天然に存在する抗酸化剤としてはトコフェロール(ビタミンE), セサミノール(ごま油に存在), レスベラトロール(赤ワインに存在), カテキン(お茶などに存在)などがある
その他、酸化作用に対する防御剤として抗酸化剤が使用されている。塗料、油脂、食品、プラスチックなどに添加剤として利用されている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/000741号公報パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
新規な抗酸化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
電子(e−)を含む12CaO・7Al2O3化合物を有効成分とする抗酸化剤の粉体を有効成分とする抗酸化剤およびその応用を提供する。
本出願の発明の主な構成は次のとおりである。
(1)2×1018cm−3以上、2.3×1021cm−3未満の電子(e−)を含む12CaO・7Al2O3化合物を有効成分とする抗酸化剤。
(2)(1)記載の抗酸化剤を含有する皮膚外用剤。
(3)(1)記載の抗酸化剤を含有する化粧料。
(4)(1)記載の抗酸化剤を含有する美白剤。
(5)(1)記載の抗酸化剤を含有するプラスチック添加用抗酸化剤。
(6)(1)記載の抗酸化剤を含有する塗料添加用抗酸化剤。
【発明の効果】
【0006】
新規な抗酸化剤を提供することができる。
本発明の電子を包接した無機化合物粉体は抗酸化剤として優れた機能を発揮する。プラスチック、塗料、化粧料、油脂等の抗酸化剤として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において出発物質とされるものは、純粋な12CaO・7Al2O3化合物(以下、C12A7と記載することもある)でもよいし、処理中に、C12A7特有のマイエナイト型結晶構造が破壊されない限りは、カルシウムとアルミニウムの一部または全てが他の元素で置換されたC12A7化合物と同等の結晶構造を持つ混晶や固溶体(以下、これらを同等物質と略す)でもよい。
C12A7化合物と同等の結晶構造を持つ物質として現在12SrO・7Al2O3が知られており、CaとSrの混合比を自由に変化させることができる。すなわち、12CaO・7Al2O3と12SrO・7Al2O3との混晶化合物でもよい。また、初期に包接されている陰イオンの種類や量は、フリー酸素の引き抜き及び電子との置換効果に大きな影響を及ぼさない。さらに、出発物質の形態は、粉末、膜、多結晶体、単結晶、のいずれでもよい。
【0008】
出発物質であるC12A7は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)を原子当量比で12:14の割合で含む原料を用いて焼成温度1200℃以上1450℃未満で固相反応させることによって合成される。代表的な原料は炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの混合物である。
単結晶は、固相反応で得られたC12A7焼結体を前駆体として、帯融法(FZ法)によって得ることができる。C12A7単結晶の育成には、棒状のセラミック前駆体に赤外線を集光しながら前駆体棒を引き上げることにより、溶融帯を移動させて、溶融帯−凝固部の界面に単結晶を連続的に成長させる。本発明者らは、高濃度の活性酸素種を含むC12A7化合物単結晶と、気泡の無いC12A7単結晶の製造方法は、(特許第3533648号公報)に開示した。
【0009】
出発物質のC12A7および同等物質を、アルカリ金属又はアルカリ土類金属蒸気を含む雰囲気中、600℃以上、800℃未満の温度、望ましくは700℃の温度に4時間から240時間保持した後、300℃/時間程度の降温速度で室温まで冷却する。アルカリ金属又はアルカリ土類金属蒸気を含む雰囲気は、石英ガラスのような熱的、化学的耐久性のある容器中にアルカリ金属片や粉末又はアルカリ土類金属片や粉末と出発物質を真空封入するとよい。
アルカリ金属は、C12A7化合物及び同型化合物の単結晶中に包接されることもあるので、フリー酸素を引き抜く目的のためには、包接されることの少ないアルカリ土類金属蒸気を用いることが望ましく、出発原料がC12A7化合物の場合は、出発原料中に含まれるカルシウム金属蒸気が最も望ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属蒸気は、単結晶の表面に堆積し、単結晶内部に包接されているフリー酸素と反応して、例えば、カルシウムを用いた場合は、表面に酸化カルシウム層を形成する。単結晶を保持する温度が600℃未満、特に500℃以下では、フリー酸素の引き抜き反応が著しく遅く、800℃以上では、フリー酸素の引き抜きが急速に進み、C12A7化合物及び同型化合物が分解してしまう。
【0010】
保持時間の長さと共に、引き抜かれるフリー酸素量が増加し、表面の酸化カルシウム層が厚くなる。700℃で、240時間保持するとほぼ全量のフリー酸素が引き抜かれ、電子と置き換わり、酸化カルシウム層の内側にエレクトライドC12A7化合物が形成される。引き抜かれたフリー酸素量は、X線回折スペクトル、酸化カルシウム層の厚さ、0.4eVにピークを持つ光吸収バンド強度、電気伝導度から求める事ができる。
出発物質のC12A7化合物及び同型化合物の微粉末を一軸プレスで成形した後、更に、静水圧プレスで追加成形する。静水圧プレスができる様に出発物質が成形されていれば、最初の一軸プレスを省略してもよい。一軸プレスの成形圧は、約200kg/cm2以上、約400kg/cm2以下、好ましくは、300kg/cm2程度とし、静水圧プレスの成形圧は、2000kg/cm2程度が好ましい。
【0011】
得られた成形体を、還元雰囲気、好ましくは、蓋付きのカーボン坩堝中に入れ、該坩堝を蓋付きアルミナ坩堝中に設置し、1550℃以上、1650℃未満、好ましくは約1600℃に昇温して、該温度に1分以上、2時間未満、好ましくは1時間保持した後、冷却する。この昇温降温過程を望ましくは2回以上繰り返す。保持温度が上記の範囲より高温では、単相のC12A7化合物及び同型化合物を生成する事ができない。また、保持温度が1550℃未満でかつ保持時間が1時間未満の場合は、単相のC12A7化合物及び同型化合物を生成する事はできるが、フリー酸素と電子の置換が起こらない。また、保持時間が、1分未満では、1×1018個/cm3未満のフリー酸素しか電子と置換しない。
また、2時間以内にほぼフリー酸素と電子の置換量が飽和するので、2時間以上保持する必要はない。更に、1550℃以上、1650℃未満での昇温および降温過程が1回でかつその保持時間が1時間未満のときは、生成物は、3CaO・Al2O3相(C3A)又はCaO・Al2O3相(CA)であり、これらの相にはケージが存在しないので、電子を包接することができない。しかし、同様の昇温降温過程を繰り返す事によって、電子を包接したC12A7化合物及び同型化合物を生成する事ができる。
粉末をこのような圧力で加圧成形することにより、フリー酸素引き抜き反応の速度が緩和されると考えられ、フリー酸素引き抜き後もC12A7化合物が得られる。加圧成形せずに微粉末の状態でフリー酸素引き抜き反応を行うと、生成物は、3CaO・Al2O3相(C3A)又はCaO・Al2O3相(CA)に分解してしまい、これらの相にはケージが存在しないので、電子を包接することができない。
【0012】
昇温速度は400℃/時間程度とする。降温速度は400℃/時間程度で、室温まで冷却する。昇温速度は、生成物に大きな影響を与えず、通常の電気炉では400℃/時間程度が得やすい。昇温速度を500℃/時間以上に著しく早くするためには、大容量の電気炉が必要となる。降温速度が500℃/時間以上と著しく大きいと得られた化合物がガラス状となり結晶化しにくい。しかし、2回目以降の昇温降温過程では、降温速度が、500℃/時間以上であっても、C12A7化合物及び同型化合物を生成し易い。
カーボン坩堝を直接電気炉中に設置しても生成物は得られるが、電気炉のヒーターからの汚染を防ぐため、さらに、カーボン坩堝の大気との反応を緩和するために、カーボン坩堝を、アルミナ坩堝中に設置した方がよい。得られた化合物は、黒色(粉末は緑色)で、X線回折によりC12A7相であることが分かる。また、約1S/cmの電気伝導度を示し、フリー酸素イオンが電子で置換されている事が確認できる。
【0013】
C12A7化合物及び同型化合物の多結晶薄膜は、該化合物の焼結体をターゲットとして、MgO基板上に、パルスレーザー堆積法により、アモルファス膜を形成した後、大気中で約1100℃に保持する事により得られる。
MgO基板上に堆積したC12A7化合物又は同型化合物の多結晶薄膜を、600℃に保持し、360kV程度に加速したArイオンを該薄膜に打ち込んだ。イオン打ち込み前の薄膜は、電気絶縁性を示す。ドーズ量が5×1017/cm2に対して、約1S/cmの電気伝導性が得られる。ラザフォード後方散乱スペクトルから、Arイオンは膜中に含まれていないことが確認される。したがって、Arイオンがフリー酸素イオンに衝突し、ノックオン効果により、フリー酸素イオンが膜外にはじき出され、電気的中性を保つために、電子が膜中に残ったと考えられる。
フリー酸素が引き抜かれたエレクトライドC12A7化合物では、電気的中性を保つために、酸素イオン1個当り、2個の電子が化合物中に残される。こうしたフリー酸素と置換した電子は、ケージ中に緩く束縛されており、ケージ間をホッピングして移動する事ができる。フリー酸素量は、化合物中に1.1×1021個/cm3程度含まれているので、その全量を電子で置換した場合、電子濃度は、2.3×1021個/cm3となる。室温での電子の移動度は約0.1cm2/(V・秒)であるので、電気抵抗は、約100S/cmとなる。また、ケージ中に緩く束縛された電子により、0.4eV及び2.8eVにピークを持つ2つの光吸収バンドが生じる。このために、電子の包接量の増加と共に、C12A7化合物は、黄色、緑、黒緑色に着色する。また、これらの吸収バンドの強度から、包接されている電子量を求める事ができる。
C12A7化合物及び同型化合物中に含まれる電子は、ケージ内に緩く束縛されているので、室温で、外部から高電場を印加する事により、外部に取り出す事ができる。すなわち、電子を大量に含むC12A7化合物及び同型化合物は、電子放出材料として使用する事ができる。電子放出は広い温度範囲で起こり、室温でも10μA程度の電流が得られる。
【0014】
電子を含む無機粉体は抗酸化剤として優れた機能を発揮する。プラスチック、塗料あるいは化粧料、医薬、油脂等の抗酸化剤として使用できる。
【実施例1】
【0015】
帯融法(FZ法)によって作製したC12A7単結晶を0.4mm×4mm×7mmの薄板に加工し、両面を鏡面研磨した(試料1とする)。該単結晶薄板とカルシウム金属片を、石英管中に入れ、真空封入した。5個の該試料を、700℃で、それぞれ4時間、12時間、18時間、40時間及び240時間保持した(保持時間の異なる結晶薄板をそれぞれ、試料2、3、4、5、及び6とする。)。保持時間が長くなるにつれて、C12A7単結晶薄板は、黄色、緑から黒へと着色したが、表面層は透明であり、該表面層は、X線回折スペクトルから、酸化カルシウムである事が確認された。酸化カルシウム層を除去した結晶薄板は、X線回折パターンから、C12A7の結晶構造を維持していることが分かった。
しかし、240時間保持した試料6では、X線回折ピークの相対強度から、フリー酸素が引き抜かれている事が分かった。第1図に、試料1〜4の光吸収スペクトルを示す。700℃での保持時間の増加と共に、2.8eVにピークを持つ光吸収バンドの強度が増加している。この吸収バンドは、ケージ内に束縛された電子によるものであり、吸収強度の増加は、保持時間の増加と共に、電子濃度が増加していることを示している。
【0016】
第2図は、試料5、6の拡散反射スペクトルからクベルカームンク法により求めた光吸収スペクトルを示す。2.8eVにピークを持つ光吸収バンドが増大しており、ケージ中に包接された電子濃度がさらに増加していることがわかる。
【0017】
第3図は、試料1〜6の電気伝導の温度変化を示したものである。保持時間の増加と共に、室温での電気伝導率が増加しており、ケージ中に包接された電子の濃度が増加していることがわかる。光拡散反射及び電気伝導度から、試料6では、包接される電子の数は、2×1021/cm3であり、これは、ほぼ全てのフリー酸素イオンが電子で置換された事を示している。すなわち、カルシウム金属蒸気中に、700℃、240時間保持する事により、[Ca24Al28O64]4+(4e−)と記述されるエレクトライドC12
A7化合物を作製することができた。
【実施例2】
【0018】
C12A7化合物微粉末約40gを蓋付きカーボン坩堝に入れ、さらに、蓋付きアルミナ坩堝に入れ、600℃/時間の昇温速度で、1600℃まで昇温させた後、1時間保持し、600℃/時間の降温速度で室温まで冷却し、再度600℃/時間の昇温速度で、1600℃まで昇温させた後、1時間保持し、600℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。得られた固形物は、緻密で、黒緑色を呈していた。
得られた固形物を粉砕した後、X-Band ESRにてスピン濃度(=電子濃度)を計測した。CuSO4・5H2Oを強度標準とした。その結果、得られた固形物(エレクトライドC12A7化合物)の電子濃度は3×1019cm−3であった。ESRスペクトルを図4に示す。また粉末エックス線回折より、得られた固形物は、C12A7である事を確認した。
【実施例3】
【0019】
ESR法による二酸化チタン光照射由来ヒドロキシラジカルの消去能評価
アナタース型二酸化チタンに波長が380nm以下の光を照射すると光触媒反応によりラジカルが発生する。二酸化チタン微粒子水分散液に光を照射することによって生じたラジカルを実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物が消去するか否かを電子スピン共鳴(ESR)にて評価した。スピントラップ試薬DMPO(5,5−Dimethyl−1−Pyrroline−N−Oxide)を共存させることでラジカルの寿命を延ばして測定を行った。
【0020】
(試験方法)
アナタース型二酸化チタン微粒子(平均粒径180nm)分散液0.5%(w/v)20μL、サンプル溶液180μL、10mM DMPO水溶液200μLを混合し(合計400μL)、スターラーで攪拌しながら超高圧水銀灯(ウシオスペックスSX-UI500H0)によって1分間紫外線を照射した。紫外線を照射した混合分散液の上澄みをESRの溶液用セルに封入し、DMPO−OHのESRスペクトルを測定した。
サンプル溶液としては、イオン交換水(コントロール)、実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物分散液を用いた。実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物分散液は、実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物を水へ分散後すぐに測定に用いた。
実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物分散液の濃度は0.22%(w/v)、0.56(w/v)、1.1%(w/v)、2.2%(w/v)、10.0%(w/v)とし、混合分散液中の試料の濃度が(a)0.1%(w/v)、(b)0.25%(w/v)、(c)0.5%(w/v)、(d)1.0%(w/v)、(e)4.5%(w/v)となるようにした。
ESR測定には装置EMX8/2.7型(BurkerBiospin)を用いた。測定条件はAuto tuneを用いて決定した。
【0021】
ラジカル消去能を以下の式により求めた。
(式1) ラジカル消去率(%)=(1−β/α)×100
β=サンプル溶液として実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物分
散液を用いたときの紫外線照射後の混合分散液のESRスペクトルの低磁場側から2本目のピーク高さ。
α=サンプル溶液としてイオン交換水(コントロール)を用いたときの紫外線照
射後の混合分散液のESRスペクトルの低磁場側から2本目のピーク高さ。
【0022】
(結果)
混合分散液中の実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物の濃度が0.5%(w/v)以上で、約80%のラジカル消去能を示した。0.25%(w/v)でも55%の消去能を示した。結果を図5に示す。
【実施例4】
【0023】
脂質の酸化抑制効果について(ESRによる抗酸化能評価)
(I)脂質
不飽和脂質として、オレイン酸(Oleic acid,生化学用153-01241(和光純薬工業),純度≧99%)、スクワレン(Squalene,S3626(Sigma-Aldrich),純度≧98%)を用いた。飽和脂質として、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(以下トリグリと呼ぶ)を用いた。
(II)スピントラップ試薬
スピントラップ試薬 α-Phenyl-N-tert-butylnitrone(以下PBNと呼ぶ)をトリグリに溶解させ、400mM溶液とした。
【0024】
オレイン酸
(1)測定サンプル調製
脂質と実施例2のC12A7エレクトライド粉体とPBN溶液を表1の配合量で混合し、ESR測定サンプルとした。C12A7エレクトライド粉体の濃度は(C12A7エレクトライド粉体重量(g))/(脂質体積(mL))で求めた重量/体積比(w/v比)とした。
【0025】
【表1】
【0026】
(2)ESR測定
各サンプルに超高圧水銀灯を照射し、ESRスペクトルを測定した。光照射時間は表1の通りである。以下の式によりラジカル消去率を求めた。A-2からA-5 についての結果を図6に、B-2からB-5 についての結果を図7に示す。
(式2)ラジカル消去率(%)=(1−β/α)×100
β=C12A7エレクトライド粉体を添加した試料(A-2からA-5もしくはB-2
からB-5)のESRスペクトルのシグナル強度
α=コントロール(A-1(YがA-2からA-5のとき)もしくはB-1(YがB-2
からB-5のとき))のESRスペクトルのシグナル強度
【0027】
(3)結果
オレイン酸に実施例2のC12A7エレクトライド粉体を0.05w/v比、0.11w/v比、0.20w/v比、0.50w/v比添加した結果、ラジカル消去率は0%、21%、22%、22%となった(図6)。粉体添加により、顕著な抗酸化効果が示された。オレイン酸:トリグリ=2:5とした脂質に実施例2のC12A7エレクトライド粉体を0.10w/v比、0.20w/v比、0.40w/v比、0.50w/v比添加した結果、ラジカル消去率は12%、22%、17%、33%となった(図7)。粉体添加により、顕著な抗酸化効果が示された。
【0028】
スクワレン
(1)測定サンプル調製
脂質に実施例2のC12A7エレクトライド粉体を入れ、表2の配合量で調製し、ESR測定サンプルとした。C12A7エレクトライド粉体の濃度は(C12A7エレクトライド粉体重量(g))/(スクワレン体積(mL))で求めた重量/体積比(w/v比)とした。
【0029】
【表2】
【0030】
(2)ESR測定
各サンプルに超高圧水銀灯を照射した後、PBN溶液を混合し、ESRスペクトルを測定した。光照射時間は表2の通りである。以下の式によりラジカル消去能を求めた。C-2からC-4 についての結果を図8に示す。
(式3)ラジカル消去率(%)=(1−β/α)×100
β=C12A7エレクトライド粉体を添加した試料(C-2からC-4)のESR
スペクトルのシグナル強度
α=コントロール(C-1)のESRスペクトルのシグナル強度
【0031】
(3)結果
スクワレンに実施例2のC12A7エレクトライド粉体を0.10w/v比、0.21w/v比、0.50w/v比添加した結果、ラジカル消去率は35%、42%、59%となった(図8)。粉体添加により、顕著な抗酸化効果が示された。
不飽和脂質はヒトの皮脂にも多く含まれており、実施例2のC12A7エレクトライド粉体は皮脂に対する抗酸化剤として有効であることが示唆された。
【実施例5】
【0032】
プラスチックペレットの調製
(質量%)
(1)ABS樹脂 96
(2)ステアリン酸カルシウム 1
(3)実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物 3
【0033】
(製法)
上記(1)〜(3)を200℃で押出し加工し、ペレットを作成する。
【実施例6】
【0034】
液状ファンデーションの調製
(質量%)
(1) オリーブ油 2
(2) トリオクタン酸グリセリル 7
(3) トリメチルシロキシケイ酸 1
(4) 無水ケイ酸 6
(5) デカメチルシクロペンタンシロキサン 15
(6) オクタメチルシクロテトラシロキサン 15
(7) 精製水 残量
(8) 1,3−ブチレングリコール 4
(9) 酸化チタン 12.5
(10)マイカ 3
(11)実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物 1
(12)香料 0.1
(13)防腐剤 0.1
【0035】
(製法)
上記成分(1)、(2)、(12)及び(13)を混合し、加熱溶解した(A相)。 成分(7)及び(8)を混合し、溶解する(B相)。
成分(4)、(9)、(10)及び(11)を均一混合後、粉砕する(C相)。
成分(3)、(5)及び(6)を混合する(D相)。A相及びD相を混合した後、C 相を加えて均一に混和し、上記B相を加えて乳化する。
【実施例7】
【0036】
日焼け止めクリームの調製
(質量%)
(1)微粒子酸化チタン 5
(2)微粒子酸化亜鉛 15
(3)酸化セリウム 5
(4)実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物 1
(5)オクタメチルシクロテトラシロキサン 20
(6)アミノ変性ポリエーテルシリコーン 1
(7)ピバリン酸イソステアリル 10
(8)ベヘニルアルコール 3
(9)グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
(10)精製水 残余
【0037】
(製法)
上記(5)〜(7)成分を80℃に加熱溶解する(A相)。
成分(1)〜(4)をA相に添加して混合する(B相)。
(8)、(9)を均一に混合後、これをB相に添加して乳化混合する。
【実施例8】
【0038】
パウダーファンデーションの調製
(質量%)
(1)シリコン処理マイカ 20
(2)シリコン処理タルク 22.4
(3)フッ素処理酸化チタン 10
(4)アミノ酸処理セリサイト 25
(5)シリコン処理黄酸化鉄 5
(6)シリコン処理ベンガラ 2.5
(7)シリコン処理黒酸化鉄 0.1
(8)実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物 1
(9)メチルポリシロキサン(100cst) 11
(10)リンゴ酸ジイソステアリル 3
【0039】
(製法)
(1)〜(8)をヘンシェルミキサーで5分間攪拌した後、よく混合させた(9)〜 (10)を徐々に添加し、ハンマーミルにて粉砕する。その後、中皿にプレスした。
【実施例9】
【0040】
アイシャドウの調製
(質量%)
(1)シリコン処理マイカ 10
(2)シリコン処理タルク 19
(3)アミノ酸処理酸化チタン 7
(4)アミノ酸処理セリサイト 10
(5)ナイロンパウダー 10
(6)シリコンパウダー 10
(7)フッ素処理黄酸化鉄 5
(8)フッ素処理ベンガラ 10
(9)シリコン処理グンジョウ 3
(10)実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物 1
(11)メチルフェニルポリシロキサン 8
(12)2−エチルヘキサン酸セチル 7
【0041】
(製法)
(1)〜(10)をヘンシェルミキサーで5分間攪拌した後、よく混合させた(11)〜(12)を徐々に添加し、ハンマーミルにて粉砕する。その後、中皿にプレスした。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る、電子を包接した無機粉体は抗酸化剤として優れた機能を発揮する。プラスチック、塗料あるいは化粧料、医薬部外等の分野において抗酸化剤として目的に応じた任意の量で配合し、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1における試料1〜4の光吸収スペクトルを示すグラフ。
【図2】実施例1における試料5,6の拡散反射スペクトルからクベルカームンク法により求めた光吸収スペクトルを示すグラフ。
【図3】実施例1における試料1〜6の電気伝導の温度変化を示すグラフ。
【図4】実施例2のエレクトライドC12A7化合物のESRスペクトル。
【図5】実施例2のエレクトライドC12A7化合物を用いたESR法による二酸化チタン光照射由来ヒドロキシラジカルの消去能を示す図。
【図6】実施例4の試料A−2〜A−5のラジカル消去能を示す図。
【図7】実施例4の試料B−2〜B−5のラジカル消去能を示す図。
【図8】実施例4の試料C−2〜C−4のラジカル消去能を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子を含む無機粉体を含有する抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子を結晶構造中の隙間に含む無機化合物(12CaO・7Al2O3化合物)が知られている(特許文献1:WO2005/741号公報)。この化合物は高い電気伝導性機能を、室温大気中で発現できることが知られている。しかしながら、この化合物が優れた抗酸化効果を有することは知られていなかった。
生体において抗酸化作用は、健康維持のために重要な機能を果たしている。一般的な抗酸化剤(ラジカル消去剤)はラジカルに電子を一つわたして不対電子を安定な対にする。この場合抗酸化剤自身はラジカルとなるが、このラジカルは一般的に安定であり、様々な経路で非ラジカル種へと変換される。フェノール骨格やチオール基を持つ化合物には抗酸化活性が一般的にある。抗酸化剤は食品や油脂などの酸化防止剤、さらには医薬品へ応用されている。天然に存在する抗酸化剤としてはトコフェロール(ビタミンE), セサミノール(ごま油に存在), レスベラトロール(赤ワインに存在), カテキン(お茶などに存在)などがある
その他、酸化作用に対する防御剤として抗酸化剤が使用されている。塗料、油脂、食品、プラスチックなどに添加剤として利用されている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/000741号公報パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
新規な抗酸化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
電子(e−)を含む12CaO・7Al2O3化合物を有効成分とする抗酸化剤の粉体を有効成分とする抗酸化剤およびその応用を提供する。
本出願の発明の主な構成は次のとおりである。
(1)2×1018cm−3以上、2.3×1021cm−3未満の電子(e−)を含む12CaO・7Al2O3化合物を有効成分とする抗酸化剤。
(2)(1)記載の抗酸化剤を含有する皮膚外用剤。
(3)(1)記載の抗酸化剤を含有する化粧料。
(4)(1)記載の抗酸化剤を含有する美白剤。
(5)(1)記載の抗酸化剤を含有するプラスチック添加用抗酸化剤。
(6)(1)記載の抗酸化剤を含有する塗料添加用抗酸化剤。
【発明の効果】
【0006】
新規な抗酸化剤を提供することができる。
本発明の電子を包接した無機化合物粉体は抗酸化剤として優れた機能を発揮する。プラスチック、塗料、化粧料、油脂等の抗酸化剤として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において出発物質とされるものは、純粋な12CaO・7Al2O3化合物(以下、C12A7と記載することもある)でもよいし、処理中に、C12A7特有のマイエナイト型結晶構造が破壊されない限りは、カルシウムとアルミニウムの一部または全てが他の元素で置換されたC12A7化合物と同等の結晶構造を持つ混晶や固溶体(以下、これらを同等物質と略す)でもよい。
C12A7化合物と同等の結晶構造を持つ物質として現在12SrO・7Al2O3が知られており、CaとSrの混合比を自由に変化させることができる。すなわち、12CaO・7Al2O3と12SrO・7Al2O3との混晶化合物でもよい。また、初期に包接されている陰イオンの種類や量は、フリー酸素の引き抜き及び電子との置換効果に大きな影響を及ぼさない。さらに、出発物質の形態は、粉末、膜、多結晶体、単結晶、のいずれでもよい。
【0008】
出発物質であるC12A7は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)を原子当量比で12:14の割合で含む原料を用いて焼成温度1200℃以上1450℃未満で固相反応させることによって合成される。代表的な原料は炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの混合物である。
単結晶は、固相反応で得られたC12A7焼結体を前駆体として、帯融法(FZ法)によって得ることができる。C12A7単結晶の育成には、棒状のセラミック前駆体に赤外線を集光しながら前駆体棒を引き上げることにより、溶融帯を移動させて、溶融帯−凝固部の界面に単結晶を連続的に成長させる。本発明者らは、高濃度の活性酸素種を含むC12A7化合物単結晶と、気泡の無いC12A7単結晶の製造方法は、(特許第3533648号公報)に開示した。
【0009】
出発物質のC12A7および同等物質を、アルカリ金属又はアルカリ土類金属蒸気を含む雰囲気中、600℃以上、800℃未満の温度、望ましくは700℃の温度に4時間から240時間保持した後、300℃/時間程度の降温速度で室温まで冷却する。アルカリ金属又はアルカリ土類金属蒸気を含む雰囲気は、石英ガラスのような熱的、化学的耐久性のある容器中にアルカリ金属片や粉末又はアルカリ土類金属片や粉末と出発物質を真空封入するとよい。
アルカリ金属は、C12A7化合物及び同型化合物の単結晶中に包接されることもあるので、フリー酸素を引き抜く目的のためには、包接されることの少ないアルカリ土類金属蒸気を用いることが望ましく、出発原料がC12A7化合物の場合は、出発原料中に含まれるカルシウム金属蒸気が最も望ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属蒸気は、単結晶の表面に堆積し、単結晶内部に包接されているフリー酸素と反応して、例えば、カルシウムを用いた場合は、表面に酸化カルシウム層を形成する。単結晶を保持する温度が600℃未満、特に500℃以下では、フリー酸素の引き抜き反応が著しく遅く、800℃以上では、フリー酸素の引き抜きが急速に進み、C12A7化合物及び同型化合物が分解してしまう。
【0010】
保持時間の長さと共に、引き抜かれるフリー酸素量が増加し、表面の酸化カルシウム層が厚くなる。700℃で、240時間保持するとほぼ全量のフリー酸素が引き抜かれ、電子と置き換わり、酸化カルシウム層の内側にエレクトライドC12A7化合物が形成される。引き抜かれたフリー酸素量は、X線回折スペクトル、酸化カルシウム層の厚さ、0.4eVにピークを持つ光吸収バンド強度、電気伝導度から求める事ができる。
出発物質のC12A7化合物及び同型化合物の微粉末を一軸プレスで成形した後、更に、静水圧プレスで追加成形する。静水圧プレスができる様に出発物質が成形されていれば、最初の一軸プレスを省略してもよい。一軸プレスの成形圧は、約200kg/cm2以上、約400kg/cm2以下、好ましくは、300kg/cm2程度とし、静水圧プレスの成形圧は、2000kg/cm2程度が好ましい。
【0011】
得られた成形体を、還元雰囲気、好ましくは、蓋付きのカーボン坩堝中に入れ、該坩堝を蓋付きアルミナ坩堝中に設置し、1550℃以上、1650℃未満、好ましくは約1600℃に昇温して、該温度に1分以上、2時間未満、好ましくは1時間保持した後、冷却する。この昇温降温過程を望ましくは2回以上繰り返す。保持温度が上記の範囲より高温では、単相のC12A7化合物及び同型化合物を生成する事ができない。また、保持温度が1550℃未満でかつ保持時間が1時間未満の場合は、単相のC12A7化合物及び同型化合物を生成する事はできるが、フリー酸素と電子の置換が起こらない。また、保持時間が、1分未満では、1×1018個/cm3未満のフリー酸素しか電子と置換しない。
また、2時間以内にほぼフリー酸素と電子の置換量が飽和するので、2時間以上保持する必要はない。更に、1550℃以上、1650℃未満での昇温および降温過程が1回でかつその保持時間が1時間未満のときは、生成物は、3CaO・Al2O3相(C3A)又はCaO・Al2O3相(CA)であり、これらの相にはケージが存在しないので、電子を包接することができない。しかし、同様の昇温降温過程を繰り返す事によって、電子を包接したC12A7化合物及び同型化合物を生成する事ができる。
粉末をこのような圧力で加圧成形することにより、フリー酸素引き抜き反応の速度が緩和されると考えられ、フリー酸素引き抜き後もC12A7化合物が得られる。加圧成形せずに微粉末の状態でフリー酸素引き抜き反応を行うと、生成物は、3CaO・Al2O3相(C3A)又はCaO・Al2O3相(CA)に分解してしまい、これらの相にはケージが存在しないので、電子を包接することができない。
【0012】
昇温速度は400℃/時間程度とする。降温速度は400℃/時間程度で、室温まで冷却する。昇温速度は、生成物に大きな影響を与えず、通常の電気炉では400℃/時間程度が得やすい。昇温速度を500℃/時間以上に著しく早くするためには、大容量の電気炉が必要となる。降温速度が500℃/時間以上と著しく大きいと得られた化合物がガラス状となり結晶化しにくい。しかし、2回目以降の昇温降温過程では、降温速度が、500℃/時間以上であっても、C12A7化合物及び同型化合物を生成し易い。
カーボン坩堝を直接電気炉中に設置しても生成物は得られるが、電気炉のヒーターからの汚染を防ぐため、さらに、カーボン坩堝の大気との反応を緩和するために、カーボン坩堝を、アルミナ坩堝中に設置した方がよい。得られた化合物は、黒色(粉末は緑色)で、X線回折によりC12A7相であることが分かる。また、約1S/cmの電気伝導度を示し、フリー酸素イオンが電子で置換されている事が確認できる。
【0013】
C12A7化合物及び同型化合物の多結晶薄膜は、該化合物の焼結体をターゲットとして、MgO基板上に、パルスレーザー堆積法により、アモルファス膜を形成した後、大気中で約1100℃に保持する事により得られる。
MgO基板上に堆積したC12A7化合物又は同型化合物の多結晶薄膜を、600℃に保持し、360kV程度に加速したArイオンを該薄膜に打ち込んだ。イオン打ち込み前の薄膜は、電気絶縁性を示す。ドーズ量が5×1017/cm2に対して、約1S/cmの電気伝導性が得られる。ラザフォード後方散乱スペクトルから、Arイオンは膜中に含まれていないことが確認される。したがって、Arイオンがフリー酸素イオンに衝突し、ノックオン効果により、フリー酸素イオンが膜外にはじき出され、電気的中性を保つために、電子が膜中に残ったと考えられる。
フリー酸素が引き抜かれたエレクトライドC12A7化合物では、電気的中性を保つために、酸素イオン1個当り、2個の電子が化合物中に残される。こうしたフリー酸素と置換した電子は、ケージ中に緩く束縛されており、ケージ間をホッピングして移動する事ができる。フリー酸素量は、化合物中に1.1×1021個/cm3程度含まれているので、その全量を電子で置換した場合、電子濃度は、2.3×1021個/cm3となる。室温での電子の移動度は約0.1cm2/(V・秒)であるので、電気抵抗は、約100S/cmとなる。また、ケージ中に緩く束縛された電子により、0.4eV及び2.8eVにピークを持つ2つの光吸収バンドが生じる。このために、電子の包接量の増加と共に、C12A7化合物は、黄色、緑、黒緑色に着色する。また、これらの吸収バンドの強度から、包接されている電子量を求める事ができる。
C12A7化合物及び同型化合物中に含まれる電子は、ケージ内に緩く束縛されているので、室温で、外部から高電場を印加する事により、外部に取り出す事ができる。すなわち、電子を大量に含むC12A7化合物及び同型化合物は、電子放出材料として使用する事ができる。電子放出は広い温度範囲で起こり、室温でも10μA程度の電流が得られる。
【0014】
電子を含む無機粉体は抗酸化剤として優れた機能を発揮する。プラスチック、塗料あるいは化粧料、医薬、油脂等の抗酸化剤として使用できる。
【実施例1】
【0015】
帯融法(FZ法)によって作製したC12A7単結晶を0.4mm×4mm×7mmの薄板に加工し、両面を鏡面研磨した(試料1とする)。該単結晶薄板とカルシウム金属片を、石英管中に入れ、真空封入した。5個の該試料を、700℃で、それぞれ4時間、12時間、18時間、40時間及び240時間保持した(保持時間の異なる結晶薄板をそれぞれ、試料2、3、4、5、及び6とする。)。保持時間が長くなるにつれて、C12A7単結晶薄板は、黄色、緑から黒へと着色したが、表面層は透明であり、該表面層は、X線回折スペクトルから、酸化カルシウムである事が確認された。酸化カルシウム層を除去した結晶薄板は、X線回折パターンから、C12A7の結晶構造を維持していることが分かった。
しかし、240時間保持した試料6では、X線回折ピークの相対強度から、フリー酸素が引き抜かれている事が分かった。第1図に、試料1〜4の光吸収スペクトルを示す。700℃での保持時間の増加と共に、2.8eVにピークを持つ光吸収バンドの強度が増加している。この吸収バンドは、ケージ内に束縛された電子によるものであり、吸収強度の増加は、保持時間の増加と共に、電子濃度が増加していることを示している。
【0016】
第2図は、試料5、6の拡散反射スペクトルからクベルカームンク法により求めた光吸収スペクトルを示す。2.8eVにピークを持つ光吸収バンドが増大しており、ケージ中に包接された電子濃度がさらに増加していることがわかる。
【0017】
第3図は、試料1〜6の電気伝導の温度変化を示したものである。保持時間の増加と共に、室温での電気伝導率が増加しており、ケージ中に包接された電子の濃度が増加していることがわかる。光拡散反射及び電気伝導度から、試料6では、包接される電子の数は、2×1021/cm3であり、これは、ほぼ全てのフリー酸素イオンが電子で置換された事を示している。すなわち、カルシウム金属蒸気中に、700℃、240時間保持する事により、[Ca24Al28O64]4+(4e−)と記述されるエレクトライドC12
A7化合物を作製することができた。
【実施例2】
【0018】
C12A7化合物微粉末約40gを蓋付きカーボン坩堝に入れ、さらに、蓋付きアルミナ坩堝に入れ、600℃/時間の昇温速度で、1600℃まで昇温させた後、1時間保持し、600℃/時間の降温速度で室温まで冷却し、再度600℃/時間の昇温速度で、1600℃まで昇温させた後、1時間保持し、600℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。得られた固形物は、緻密で、黒緑色を呈していた。
得られた固形物を粉砕した後、X-Band ESRにてスピン濃度(=電子濃度)を計測した。CuSO4・5H2Oを強度標準とした。その結果、得られた固形物(エレクトライドC12A7化合物)の電子濃度は3×1019cm−3であった。ESRスペクトルを図4に示す。また粉末エックス線回折より、得られた固形物は、C12A7である事を確認した。
【実施例3】
【0019】
ESR法による二酸化チタン光照射由来ヒドロキシラジカルの消去能評価
アナタース型二酸化チタンに波長が380nm以下の光を照射すると光触媒反応によりラジカルが発生する。二酸化チタン微粒子水分散液に光を照射することによって生じたラジカルを実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物が消去するか否かを電子スピン共鳴(ESR)にて評価した。スピントラップ試薬DMPO(5,5−Dimethyl−1−Pyrroline−N−Oxide)を共存させることでラジカルの寿命を延ばして測定を行った。
【0020】
(試験方法)
アナタース型二酸化チタン微粒子(平均粒径180nm)分散液0.5%(w/v)20μL、サンプル溶液180μL、10mM DMPO水溶液200μLを混合し(合計400μL)、スターラーで攪拌しながら超高圧水銀灯(ウシオスペックスSX-UI500H0)によって1分間紫外線を照射した。紫外線を照射した混合分散液の上澄みをESRの溶液用セルに封入し、DMPO−OHのESRスペクトルを測定した。
サンプル溶液としては、イオン交換水(コントロール)、実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物分散液を用いた。実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物分散液は、実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物を水へ分散後すぐに測定に用いた。
実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物分散液の濃度は0.22%(w/v)、0.56(w/v)、1.1%(w/v)、2.2%(w/v)、10.0%(w/v)とし、混合分散液中の試料の濃度が(a)0.1%(w/v)、(b)0.25%(w/v)、(c)0.5%(w/v)、(d)1.0%(w/v)、(e)4.5%(w/v)となるようにした。
ESR測定には装置EMX8/2.7型(BurkerBiospin)を用いた。測定条件はAuto tuneを用いて決定した。
【0021】
ラジカル消去能を以下の式により求めた。
(式1) ラジカル消去率(%)=(1−β/α)×100
β=サンプル溶液として実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物分
散液を用いたときの紫外線照射後の混合分散液のESRスペクトルの低磁場側から2本目のピーク高さ。
α=サンプル溶液としてイオン交換水(コントロール)を用いたときの紫外線照
射後の混合分散液のESRスペクトルの低磁場側から2本目のピーク高さ。
【0022】
(結果)
混合分散液中の実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物の濃度が0.5%(w/v)以上で、約80%のラジカル消去能を示した。0.25%(w/v)でも55%の消去能を示した。結果を図5に示す。
【実施例4】
【0023】
脂質の酸化抑制効果について(ESRによる抗酸化能評価)
(I)脂質
不飽和脂質として、オレイン酸(Oleic acid,生化学用153-01241(和光純薬工業),純度≧99%)、スクワレン(Squalene,S3626(Sigma-Aldrich),純度≧98%)を用いた。飽和脂質として、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(以下トリグリと呼ぶ)を用いた。
(II)スピントラップ試薬
スピントラップ試薬 α-Phenyl-N-tert-butylnitrone(以下PBNと呼ぶ)をトリグリに溶解させ、400mM溶液とした。
【0024】
オレイン酸
(1)測定サンプル調製
脂質と実施例2のC12A7エレクトライド粉体とPBN溶液を表1の配合量で混合し、ESR測定サンプルとした。C12A7エレクトライド粉体の濃度は(C12A7エレクトライド粉体重量(g))/(脂質体積(mL))で求めた重量/体積比(w/v比)とした。
【0025】
【表1】
【0026】
(2)ESR測定
各サンプルに超高圧水銀灯を照射し、ESRスペクトルを測定した。光照射時間は表1の通りである。以下の式によりラジカル消去率を求めた。A-2からA-5 についての結果を図6に、B-2からB-5 についての結果を図7に示す。
(式2)ラジカル消去率(%)=(1−β/α)×100
β=C12A7エレクトライド粉体を添加した試料(A-2からA-5もしくはB-2
からB-5)のESRスペクトルのシグナル強度
α=コントロール(A-1(YがA-2からA-5のとき)もしくはB-1(YがB-2
からB-5のとき))のESRスペクトルのシグナル強度
【0027】
(3)結果
オレイン酸に実施例2のC12A7エレクトライド粉体を0.05w/v比、0.11w/v比、0.20w/v比、0.50w/v比添加した結果、ラジカル消去率は0%、21%、22%、22%となった(図6)。粉体添加により、顕著な抗酸化効果が示された。オレイン酸:トリグリ=2:5とした脂質に実施例2のC12A7エレクトライド粉体を0.10w/v比、0.20w/v比、0.40w/v比、0.50w/v比添加した結果、ラジカル消去率は12%、22%、17%、33%となった(図7)。粉体添加により、顕著な抗酸化効果が示された。
【0028】
スクワレン
(1)測定サンプル調製
脂質に実施例2のC12A7エレクトライド粉体を入れ、表2の配合量で調製し、ESR測定サンプルとした。C12A7エレクトライド粉体の濃度は(C12A7エレクトライド粉体重量(g))/(スクワレン体積(mL))で求めた重量/体積比(w/v比)とした。
【0029】
【表2】
【0030】
(2)ESR測定
各サンプルに超高圧水銀灯を照射した後、PBN溶液を混合し、ESRスペクトルを測定した。光照射時間は表2の通りである。以下の式によりラジカル消去能を求めた。C-2からC-4 についての結果を図8に示す。
(式3)ラジカル消去率(%)=(1−β/α)×100
β=C12A7エレクトライド粉体を添加した試料(C-2からC-4)のESR
スペクトルのシグナル強度
α=コントロール(C-1)のESRスペクトルのシグナル強度
【0031】
(3)結果
スクワレンに実施例2のC12A7エレクトライド粉体を0.10w/v比、0.21w/v比、0.50w/v比添加した結果、ラジカル消去率は35%、42%、59%となった(図8)。粉体添加により、顕著な抗酸化効果が示された。
不飽和脂質はヒトの皮脂にも多く含まれており、実施例2のC12A7エレクトライド粉体は皮脂に対する抗酸化剤として有効であることが示唆された。
【実施例5】
【0032】
プラスチックペレットの調製
(質量%)
(1)ABS樹脂 96
(2)ステアリン酸カルシウム 1
(3)実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物 3
【0033】
(製法)
上記(1)〜(3)を200℃で押出し加工し、ペレットを作成する。
【実施例6】
【0034】
液状ファンデーションの調製
(質量%)
(1) オリーブ油 2
(2) トリオクタン酸グリセリル 7
(3) トリメチルシロキシケイ酸 1
(4) 無水ケイ酸 6
(5) デカメチルシクロペンタンシロキサン 15
(6) オクタメチルシクロテトラシロキサン 15
(7) 精製水 残量
(8) 1,3−ブチレングリコール 4
(9) 酸化チタン 12.5
(10)マイカ 3
(11)実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物 1
(12)香料 0.1
(13)防腐剤 0.1
【0035】
(製法)
上記成分(1)、(2)、(12)及び(13)を混合し、加熱溶解した(A相)。 成分(7)及び(8)を混合し、溶解する(B相)。
成分(4)、(9)、(10)及び(11)を均一混合後、粉砕する(C相)。
成分(3)、(5)及び(6)を混合する(D相)。A相及びD相を混合した後、C 相を加えて均一に混和し、上記B相を加えて乳化する。
【実施例7】
【0036】
日焼け止めクリームの調製
(質量%)
(1)微粒子酸化チタン 5
(2)微粒子酸化亜鉛 15
(3)酸化セリウム 5
(4)実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物 1
(5)オクタメチルシクロテトラシロキサン 20
(6)アミノ変性ポリエーテルシリコーン 1
(7)ピバリン酸イソステアリル 10
(8)ベヘニルアルコール 3
(9)グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
(10)精製水 残余
【0037】
(製法)
上記(5)〜(7)成分を80℃に加熱溶解する(A相)。
成分(1)〜(4)をA相に添加して混合する(B相)。
(8)、(9)を均一に混合後、これをB相に添加して乳化混合する。
【実施例8】
【0038】
パウダーファンデーションの調製
(質量%)
(1)シリコン処理マイカ 20
(2)シリコン処理タルク 22.4
(3)フッ素処理酸化チタン 10
(4)アミノ酸処理セリサイト 25
(5)シリコン処理黄酸化鉄 5
(6)シリコン処理ベンガラ 2.5
(7)シリコン処理黒酸化鉄 0.1
(8)実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物 1
(9)メチルポリシロキサン(100cst) 11
(10)リンゴ酸ジイソステアリル 3
【0039】
(製法)
(1)〜(8)をヘンシェルミキサーで5分間攪拌した後、よく混合させた(9)〜 (10)を徐々に添加し、ハンマーミルにて粉砕する。その後、中皿にプレスした。
【実施例9】
【0040】
アイシャドウの調製
(質量%)
(1)シリコン処理マイカ 10
(2)シリコン処理タルク 19
(3)アミノ酸処理酸化チタン 7
(4)アミノ酸処理セリサイト 10
(5)ナイロンパウダー 10
(6)シリコンパウダー 10
(7)フッ素処理黄酸化鉄 5
(8)フッ素処理ベンガラ 10
(9)シリコン処理グンジョウ 3
(10)実施例2で調製したエレクトライドC12A7化合物 1
(11)メチルフェニルポリシロキサン 8
(12)2−エチルヘキサン酸セチル 7
【0041】
(製法)
(1)〜(10)をヘンシェルミキサーで5分間攪拌した後、よく混合させた(11)〜(12)を徐々に添加し、ハンマーミルにて粉砕する。その後、中皿にプレスした。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る、電子を包接した無機粉体は抗酸化剤として優れた機能を発揮する。プラスチック、塗料あるいは化粧料、医薬部外等の分野において抗酸化剤として目的に応じた任意の量で配合し、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1における試料1〜4の光吸収スペクトルを示すグラフ。
【図2】実施例1における試料5,6の拡散反射スペクトルからクベルカームンク法により求めた光吸収スペクトルを示すグラフ。
【図3】実施例1における試料1〜6の電気伝導の温度変化を示すグラフ。
【図4】実施例2のエレクトライドC12A7化合物のESRスペクトル。
【図5】実施例2のエレクトライドC12A7化合物を用いたESR法による二酸化チタン光照射由来ヒドロキシラジカルの消去能を示す図。
【図6】実施例4の試料A−2〜A−5のラジカル消去能を示す図。
【図7】実施例4の試料B−2〜B−5のラジカル消去能を示す図。
【図8】実施例4の試料C−2〜C−4のラジカル消去能を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2×1018cm−3以上、2.3×1021cm−3未満の電子(e−)を含む12CaO・7Al2O3化合物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項2】
請求項1記載の抗酸化剤を含有する皮膚外用剤。
【請求項3】
請求項1記載の抗酸化剤を含有する化粧料。
【請求項4】
請求項1記載の抗酸化剤を含有する美白剤。
【請求項5】
請求項1記載の抗酸化剤を含有するプラスチック添加用抗酸化剤。
【請求項6】
請求項1記載の抗酸化剤を含有する塗料添加用抗酸化剤。
【請求項1】
2×1018cm−3以上、2.3×1021cm−3未満の電子(e−)を含む12CaO・7Al2O3化合物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項2】
請求項1記載の抗酸化剤を含有する皮膚外用剤。
【請求項3】
請求項1記載の抗酸化剤を含有する化粧料。
【請求項4】
請求項1記載の抗酸化剤を含有する美白剤。
【請求項5】
請求項1記載の抗酸化剤を含有するプラスチック添加用抗酸化剤。
【請求項6】
請求項1記載の抗酸化剤を含有する塗料添加用抗酸化剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2009−161728(P2009−161728A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287781(P2008−287781)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年9月2日 社団法人 応用物理学会発行の「2008年(平成20年)秋季 第69回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第0分冊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年9月2日 社団法人 応用物理学会発行の「2008年(平成20年)秋季 第69回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第1分冊」に発表
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年9月2日 社団法人 応用物理学会発行の「2008年(平成20年)秋季 第69回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第0分冊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年9月2日 社団法人 応用物理学会発行の「2008年(平成20年)秋季 第69回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第1分冊」に発表
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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