説明

抗酸化剤及び皮膚化粧料

【課題】安全性に優れた天然物の中から、高い抗酸化作用を有する物質を見出し、その物質を有効成分とする抗酸化剤を提供する。
【解決手段】
本発明の抗酸化剤に、化学合成物質(酢酸及び油脂を除く)を有効成分とする農薬と肥料とを意図的に使用せずに栽培されたリンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物を、有効成分として含有させる。また、本発明の皮膚化粧料に、化学合成物質(酢酸及び油脂を除く)を有効成分とする農薬と肥料とを意図的に使用せずに栽培されたリンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴの搾汁物又は抽出物を含有する抗酸化剤及び皮膚化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特に生体成分を酸化させる要因として、活性酸素が注目されている。活性酸素は、生体細胞内のエネルギー代謝過程で生じるものであり、スーパーオキシド(すなわち酸素分子の一電子還元で生じるスーパーオキシドアニオン:・O)、過酸化水素(H)、ヒドロキシラジカル(・OH)及び一重項酸素()等がある。これらの活性酸素は、食細胞の殺菌機構にとって必須である一方、活性酸素が過剰に生成されると生体に悪影響を及ぼす。
【0003】
例えば、活性酸素が過剰に生成されると、生体内の膜や組織を構成する生体内分子を攻撃し、コレステロールや中性脂肪といった不飽和脂肪酸を酸化して、脂質過酸化物の濃度上昇を引き起こす。生体内での脂質過酸化物の濃度上昇は、膜構造の破壊等の広範な膜傷害や動脈硬化のみならず、発がんや老化にまで関連していると考えられている。
【0004】
特に、皮膚は、紫外線等の環境因子の刺激を直接受けることから、上記のスーパーオキシドが生成しやすい器官である。そのため、脂質過酸化物の濃度上昇が、しわの増加や弾力性の低下等の皮膚の老化、シミ等の色素沈着、乾燥、荒れ肌、肌の炎症などの原因の一つであると考えられている。したがって、脂質過酸化物の生成を抑制することにより、上記の皮膚の老化症状等を予防、改善又は治療できるものと考えられる。
【0005】
そこで、抗酸化作用を有する物質を、化学合成物よりも安全性の点で有利な天然物から得る試みがなされている。そのような物質の一つとして、広く食用に供されているリンゴ由来のリンゴポリフェノール(特許文献1〜4)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010−500016号公報
【特許文献2】特開2009−179570号公報
【特許文献3】特開2002−47196号公報
【特許文献4】特開平7−285876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のリンゴポリフェノールは、農薬及び肥料に依存した農法(以下「慣行農法」と称する)によって栽培されたリンゴを由来とするため、安全性の点で、消費者の要望に応えきれていないという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、安全性に優れた天然物の中から、高い抗酸化作用を有する物質を見出し、その物質を有効成分とする抗酸化剤及び当該物質を配合した皮膚化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第一に本発明は、化学合成物質(酢酸及び油脂を除く)を有効成分とする農薬と肥料とを意図的に使用せずに栽培されたリンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物を、有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤を提供する(発明1)。
【0010】
上記発明(発明1)において、前記リンゴの摘果果実は、前記リンゴの病気又は害虫の防除のために、(1)酢酸を含む散布剤、(2)天然物由来の物質を有効成分として含有する薬剤、及び(3)油脂、油中水型エマルション又は水中油型エマルションからなる群から選ばれる少なくとも1種を使用して栽培されたものであることが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1,2)において、前記リンゴの摘果果実は、前記リンゴを栽培する土壌の改質のためにマメ科植物を用いて栽培されたものであることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1〜3)において、前記リンゴの摘果果実は、前記リンゴを栽培する土壌100g中の微生物炭素量が40.0mg以上である当該土壌によって栽培されたものであることが好ましい(発明4)。
【0013】
第二に本発明は、化学合成物質(酢酸及び油脂を除く)を有効成分とする農薬と肥料とを意図的に使用せずに栽培されたリンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物を配合したことを特徴とする皮膚化粧料を提供する(発明5)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安全性に優れ、かつ、高い抗酸化作用を有する抗酸化剤及び皮膚化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態の抗酸化剤は、化学合成物質(酢酸及び油脂を除く)を有効成分とする農薬と肥料とを意図的に使用せずに栽培されたリンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物を有効成分として含有するものである。また、本実施形態の皮膚化粧料は、当該搾汁物又は抽出物を配合したものである。
【0016】
本実施形態の抗酸化剤及び皮膚化粧料の原料となるリンゴ(学名:Malus pumila)は、バラ科リンゴ属に属する落葉高木樹であって、日本国内では例えば青森県、北海道及び長野県で栽培される。なお、本実施形態において原料として使用し得るリンゴの栽培品種は、特に限定されるものではないが、つがる、王林、ジョナゴールド、北斗、陸奥、千秋、紅玉、シナノスイート、弘前ふじ、ハックナイン、シナノゴールド、陽光、サンふじ、サン陸奥、黄秋、国光、新世界、世界一、津軽ゴールド、あかぎ、ゴールデン・デリシャス、レッドゴールド、秋映、金星などを挙げることができる。これらの中でも、つがる、王林、弘前ふじ及びハックナインは、本実施形態の抗酸化剤及び皮膚化粧料の原料となるリンゴを栽培しやすい品種である。
【0017】
本実施形態においては、リンゴの成熟果実ではなく、リンゴの摘果果実を原料として使用する。ここで、本実施形態において「リンゴの摘果果実」とは、リンゴの栽培過程において、リンゴ果実の大きさを所望の範囲に増大させることを目的として間引かれる果実を意味し、具体的には、直径が6〜2cm、好ましくは3〜4cmであるリンゴ果実を意味する。
【0018】
上記のリンゴの摘果果実は、化学合成物質(酢酸及び油脂を除く)を有効成分とする農薬と肥料とを意図的に使用しない農法(以下「無農薬・無肥料農法」と称する)により栽培されたものである。すなわち、本実施形態においては、従来より慣行農法によらなければリンゴを栽培することが困難であるとの認識が一般的であったこと、及び無農薬・無肥料農法により栽培されたリンゴの生理活性について報告例がないことを背景に、安全性に優れた天然物の中から高い抗酸化作用を有する上記のリンゴの摘果果実由来の物質を見出し、その物質を有効成分として抗酸化剤に含有させ、又は当該物質を皮膚化粧料に配合したものである。
【0019】
ここで、本実施形態において「化学合成物質」とは、化学的に合成された物質を意味する。すなわち、天然物由来の物質と同一の化学的構造を有する物質であったとしても、化学的に合成されたものであれば、本実施形態の「化学合成物質」に含まれる。
【0020】
また、本実施形態において「農薬」とは、菌、ダニ及び昆虫等の農作物を害する病気又は害虫(以下「病害虫」と称する)の防除等に用いられる、殺虫剤、殺菌剤等の薬剤を意味する。これらの薬剤の多くは化学合成物質を有効成分としている。
【0021】
また、本実施形態において「肥料」とは、植物の栄養に供することを目的として植物又は土地に施される栄養分を意味する。土壌の改質を目的として植物又は土地に施されるものは、本実施形態における「肥料」には含まれない。
【0022】
このような無農薬・無肥料農法においては、病害虫の防除のため、酢酸を含む散布剤を使用してリンゴの摘果果実を栽培することが好ましい。酢酸は、殺菌作用に優れており、リンゴに散布することで葉を中心に繁殖する菌を殺して黒星病や斑点落葉病等を未然に防ぐことができる。その上、希釈率の調整が容易であり、安価で大量に調製できるために、病害虫の防除のための好適な材料である。
【0023】
このような散布剤の調製方法は特に制限されないが、食酢を水で希釈するとともに展着剤を加えて調製することが好ましく、特に食酢を100倍〜900倍に水で希釈するとともに、食酢に対して展着剤を0.2〜0.6質量%加えて調製することがより好ましい。これにより、散布剤の粘度を増加させることができ、散布剤が樹木から垂れ落ち難くなるため、酢酸の殺菌作用を効率よく得ることができる。
【0024】
上記のように食酢及び展着剤を用いて調整した散布液において、食酢の種類は制限されず、一般に市販されている食酢を用いることができる。一般に市販されている食酢は、酢酸を3〜20質量%含み、その他にアミノ酸、アルコール類及び糖類などを含むものである。また、このような食酢を希釈するための水としては、特に制限されず、例えば水道水、井戸水及び純水等を用いることができる。さらに、食酢に添加する展着剤は、食酢の粘度を増加させるものであれば制限されないが、例えば、水分を吸収して粘り気のあるグルテンを生成する小麦粉を用いることができる。
【0025】
散布剤を用いて病害虫の防除をする上で、4月中旬からリンゴの摘果作業が行われるまでの間、所定日ごとに希釈率を変えて散布剤を散布することが好ましい。これにより、病害虫を確実に防除して効率よくリンゴの摘果果実を得ることができる。例えば、4月中旬〜下旬に、食酢を200〜300倍に希釈した散布剤を散布することで、菌が繁殖し難い環境をつくり、黒星病の拡散を防止することができる。また、5月中旬に、食酢を800倍に希釈した散布剤を散布することで、実り始めた果実への影響を避けつつ、黒星病のみならず斑点落葉病の拡散を防止することができる。さらに、以降、10日程度ごとに希釈率を変えて、食酢を300倍〜600倍に希釈した散布剤を散布することで、梅雨に入り気温が高まり湿気も多くなる中で、果実の実り具合に応じた食酢の殺菌作用を得ることができるとともに、菌が耐性を有してしまうことを防止することができる。
【0026】
その後、秋の長雨によって活性化し得る黒星病を未然に防ぐため、9月中旬に食酢を500倍に希釈した散布剤を散布するまでは、このような散布剤の散布を繰り返す。
【0027】
また、無農薬・無肥料農法においては、リンゴの病気の防除のため、天然物由来の物質を有効成分とする薬剤を使用して、リンゴを栽培することが好ましい。天然物由来の物質を有効成分とする薬剤としては、ワサビ、茶、シソ、ウメ、ニンニク及びレモン等からの抽出物を有効成分とする薬剤が挙げられ、リンゴの病害虫を防除し得る殺菌性を有していれば特に制限されないが、この中でもワサビからの抽出物を有効成分とする塗布剤が好ましい。ワサビの殺菌性は極めて高く、このような塗布剤をリンゴの樹皮に塗布することで、樹皮を中心に繁殖する菌を殺して、腐らん病等を未然に防ぐことができる。
【0028】
また、無農薬・無肥料農法においては、害虫の防除のため、油脂又は油中水型エマルション若しくは水中油型エマルションを使用して、リンゴを栽培することが好ましい。油脂としては、脂肪油及び脂肪等の食用油脂や工業用油脂などが挙げられ、リンゴに散布することでハマキムシ等の害虫の越冬卵に付着して呼吸困難にさせ得る性質を有していれば特に制限されないが、この中でもてんぷら油が好ましい。
【0029】
また、無農薬・無肥料農法においては、害虫の防除のため、上記の油脂に、界面活性剤及び水を加えた油中水型エマルション若しくは水中油型エマルションを用いることが好ましく、特に油脂に石鹸水を加えた油中水型エマルション若しくは水中油型エマルションを用いることが好ましい。これにより、油脂に界面活性剤及び水を加えない場合と比較して、油成分を水成分中に分散させて当該油脂の取扱性を向上させるとともに、流動性を高めて当該油脂を散布し易くすることができる。
【0030】
このような天然物由来の物質を有効成分とする薬剤、及び油脂又は油脂組成物は、慣行農法において一般に用いられる化学合成物質を有効成分とする農薬と比較して、安全性が極めて高い。
【0031】
また、無農薬・無肥料農法においては、土壌中の窒素環境を整えるため、リンゴの周囲でマメ科植物を育てることが好ましく、特にリンゴの幹から0.5〜3.5mほど離れた位置でマメ科植物を育てることが好ましい。これにより、マメ科植物の根に宿る根粒菌が行う窒素固定を利用して、養分を吸収する役割を果たすリンゴの根毛が多い位置において、土壌中に窒素を補給することができる。このようなマメ科植物の育成は、リンゴを栽培する土壌の改質を目的とするものであり、本実施形態で意味する肥料には含まれない。なお、マメ科植物の種類は特に制限されないが、大豆を用いることが安価かつ容易であり好ましい。
【0032】
このようなマメ科植物を用いた土壌への窒素補給を行う場合、土壌中の窒素量の不足及び充足を、マメ科植物の根粒の数に基づいて判断することが容易であり好ましい。例えば、マメ科植物の根粒の数が約30個以上である場合には、土壌中の窒素量が不足しており、マメ科植物の栽培を継続することが好ましいと判断することができる。一方、マメ科植物の根粒の数が約10個以下である場合には、土壌中の窒素量が充足しており、土壌中の窒素多過を未然に防ぐためにマメ科植物の育成を止めることが好ましいと判断することができる。
【0033】
無農薬・無肥料農法では、上記のマメ科植物によって土壌中に窒素成分が補給されるために、土壌における植物に吸収可能な可給態窒素量が、肥料を与えて窒素成分を補う慣行農法のものと比較して、同程度又はそれ以上の値となる。具体的には、所定環境下において、慣行農法における土壌100g中の可給態窒素量が約10mgである場合、無農薬・無肥料農法における土壌100g中の可給態窒素量は、約10〜15mgとなる。
【0034】
また、無農薬・無肥料農法では、土壌における微生物の循環が農薬によって阻害されることがないために、土壌中の炭素量を示す微生物炭素量が、農薬を使用する慣行農法のものと比較して、大きい値となる。具体的には、所定環境下において、慣行農法における土壌100g中の微生物炭素量が約20mgである場合、無農薬・無肥料農法における土壌100g中の微生物炭素量は、約40mg以上となる。すなわち、本実施形態の原料となるリンゴの摘果果実を得る上では、リンゴを栽培する土壌100g中の微生物炭素量が40.0mg以上であることが好ましく、特に当該微生物炭素量が42.0mg以上であることがより好ましい。
【0035】
無農薬・無肥料農法では、慣行農法よりも微生物等の恩恵を大きく受け、肥料を与えなくても適量の窒素補給が行なわれている土壌によって、本実施形態の抗酸化剤及び皮膚化粧料の原料となるリンゴの摘果果実を栽培することができる。
【0036】
以上説明した無農薬・無肥料農法において、病害虫の防除のための上記の方法、すなわち、酢酸を含む散布剤の散布による方法と、天然物由来の物質を有効成分として含有する薬剤の塗布による方法と、油脂又は油中水型エマルション若しくは水中油型エマルションの散布による方法とは、それぞれ単独で実施してもよく、組み合わせて実施してもよい。これらすべてを実施するようにすれば、多種多様な病害虫を幅広く防除することができる。また、病害虫が発生し得る環境状況に応じて、実施する病害虫の防除方法を選択することもできる。
【0037】
また、以上説明した無農薬・無肥料農法において、病害虫の防除と、マメ科植物による土壌への窒素補給とは、それぞれ独立して実施可能である。例えば、土壌中の窒素量が充足している場合には、マメ科植物の育成を止める一方、病害虫の防除を引き続き行うようにすることで、病害虫による影響を未然に防ぎつつ、土壌中の窒素多過を防止することができる。
【0038】
以上説明した無農薬・無肥料農法の年間栽培過程を、慣行農法のものと比較すると、主に上記の病害虫の防除、及びマメ科植物による土壌への窒素補給の点で異なる他は、基本的に同様である。すなわち、無農薬・無肥料農法では、2月頃から剪定作業を開始し、4月頃にマメ科植物を用いて土壌中の窒素環境を整え、散布剤の散布等によって病害虫を防除しながら、5月頃の開花の後に摘果作業を開始して、9〜10月頃にリンゴの成熟果実を得る。この年間栽培過程のうち、摘果作業によって、本実施形態の抗酸化剤及び皮膚化粧料の原料となるリンゴの摘果果実を得ることができる。
【0039】
このようなリンゴの摘果果実を得るにあたり、種子や苗からリンゴを栽培することも可能であるが、慣行農法によってリンゴを栽培する環境が整っている場合、慣行農法から無農薬・無肥料農法に移行することが好ましい。この場合、農薬等を与えない期間を数年程度確保して、土壌に残留する農薬成分の濃度を減少させてから無農薬・無農薬農法に移行すれば、より安全性の高いリンゴの摘果果実を得ることができる。なお、無農薬・無肥料農法のリンゴの摘果果実は、市場から入手することもできる。入手元としては、例えば青森県弘前市の木村興農社が挙げられる。
【0040】
本実施形態の原料として用いる搾汁物又は抽出物は、上記の無農薬・無肥料農法によって栽培したリンゴの摘果果実から得ることができる。ここで、本実施形態において「搾汁物」には、リンゴの摩り下ろし液、リンゴに物理的な力を加えて得られた圧搾液、当該摩り下ろし液若しくは圧搾液の希釈液又は濃縮液、又はこれらに裏ごし処理によって得られるピューレの何れもが含まれる。リンゴの摘果果実の搾汁物は、例えば原料となるリンゴの摘果果実を細かく刻んだ後に、公知の圧搾機等に供することにより得ることができる。リンゴの摘果果実の搾汁物には、その褐色変化を防止するため、後述する実施例に記載されるように、加熱による酵素失活処理を施すことが好ましい。
【0041】
また、本実施形態において「抽出物」には、リンゴの摘果果実を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。リンゴの摘果果実からの抽出物は、例えば抽出原料を乾燥した後、粗砕機等を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。
【0042】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0043】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。また、抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0044】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水1容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜100容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水1容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜100容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水1容量部に対して多価アルコール1〜100容量部を混合することが好ましい。
【0045】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出物を得ることができる。
【0046】
上記のように得られた搾汁物又は抽出物は、当該搾汁物又は抽出物の希釈液若しくは濃縮液、当該搾汁物又は抽出物の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。得られた搾汁物又は抽出物は、そのままでも抗酸化剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0047】
リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物が、特有の匂いを有する場合は、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能である。皮膚化粧料等に配合する場合には、大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。
【0048】
上記の無農薬・無肥料農法により栽培したリンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物は、安全性に優れており、かつ後述する実施例から明らかなように、脂質過酸化物(脂質ヒドロキシオキシドLOOH)の生成を抑制し得る抗酸化作用を有している。よって、このようなリンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物は、抗酸化剤の有効成分として含有するのに好適である。
【0049】
上記の抗酸化剤は、リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物のみからなるものであってもよく、リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物を製剤化したものであってもよい。
【0050】
リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物は、他の組成物(例えば、後述する皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、皮膚吸収型製剤、軟膏剤、ハップ剤、貼付剤、ローション等として使用することができる。なお、リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物は、薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状、乳状等の任意の剤形に製剤化することも可能である。その際、助剤としては、例えば、乳化剤、懸濁化剤、吸収促進剤等を用いることができる。本実施形態の抗酸化剤は、必要に応じて、抗酸化作用を有する他の天然抽出物等を配合して有効成分として用いることができる。
【0051】
本実施形態の抗酸化剤の投与方法としては、一般に経皮投与等が挙げられるが、使用者の種類に応じて好適な方法(例えば、経口投与、経粘膜投与等)を適宜選択すればよい。また、本実施形態の抗酸化剤の投与量も、使用者の年齢、個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0052】
本実施形態の抗酸化剤は、リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物が有する抗酸化作用を通じて、しわの増加や弾力性の低下等の皮膚の老化、シミ等の色素沈着、乾燥、荒れ肌、肌の炎症などを予防、改善又は治療することができる。ただし、本実施形態の抗酸化剤は、これらの用途以外にも、抗酸化作用を発揮することに意義のあるすべての用途、例えば、心筋梗塞、脳卒中、白内障等の各種障害を予防、改善又は治療する用途にも用いることができる。
【0053】
また、上記の無農薬・無肥料農法により栽培されたリンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物は、安全性に優れており、かつ高い抗酸化作用を有している。特に、皮膚に適用した場合の使用感又は安全性に優れているため、皮膚化粧料に配合するのに好適である。この場合において、皮膚化粧料には、リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物をそのまま配合することができる。また、リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物から製剤化した抗酸化剤を配合してもよい。リンゴの摘果果実の搾汁物若しくは抽出物又はこれらから製剤化した抗酸化剤を配合することにより、皮膚化粧料に抗酸化作用を付与することができる。
【0054】
リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物等を配合し得る皮膚化粧料の種類は特に限定されるものではなく、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション等が挙げられる。
【0055】
リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物等を皮膚化粧料に配合する場合、その配合量は、皮膚化粧料の種類に応じて適宜調整することができる。好適な配合率としては、0.0005〜0.45質量%(固形分換算)であり、特に好適な配合率は、0.005〜0.05質量%(固形分換算)である。なお、後述する実施例において明らかなように、リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物は、リンゴの完熟果実の搾汁物又は抽出物と比較して、より低濃度においても抗酸化作用を得る。よって、リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物の皮膚化粧料における配合率を、0.0005〜0.001質量%(固形分換算)と低濃度にしたとしても、皮膚化粧料に所望とする作用を付与することができる。
【0056】
上記の皮膚化粧料は、リンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物が有する抗酸化作用を妨げない限り、通常の皮膚化粧料の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された上記の成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた使用効果をもたらすことがある。
【0057】
上記の皮膚化粧料は、安全性に優れており、かつ高い抗酸化作用を通じて、しわの増加や弾力性の低下等の皮膚の老化、シミ等の色素沈着、乾燥、荒れ肌、肌の炎症などの症状を予防、改善又は治療することができる。
【0058】
なお、本実施形態の抗酸化剤及び皮膚化粧料は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0060】
〔実施例1〕摘果リンゴ果汁の製造
無農薬・無肥料農法により栽培されたリンゴ、ふじ種の摘果果実(直径3cm)を圧搾し、濾過した。濾液は、80℃にて30分間加熱し、リンゴ摘果果実の搾汁物としての、摘果リンゴ果汁を得た。
【0061】
得られた摘果リンゴ果汁50μLを、予め蒸留水4mLを入れた15mL容遠心管に添加し、さらに、蒸留水で5倍希釈した発色試薬(和光純薬社製,フォーリン・チオカルト・フェノール試薬)1mLを入れて撹拌した。続いて、10%(w/v)炭酸ナトリウム(ナカライテスク社製)溶液1mLを加え、撹拌したのち、暗所にて1時間静置した。その後、分光光度計(島津製作所社製,UVmini1240)で760nmの吸光度を測定し、2.5mg/mLクロロゲン酸(アルドリッチ社製)の測定結果に対する比から、摘果リンゴ果汁に含まれるポリフェノール濃度を算出したところ、2.04mg/mLであった。
【0062】
〔比較例1〕成熟リンゴ果汁の製造
慣行農法により栽培されたリンゴの成熟果実、ふじ種を使用した以外は実施例1と同様の方法により、リンゴの成熟果実の搾汁物としての、成熟リンゴ果汁を得た。また、実施例1と同様の方法で、成熟リンゴ果汁のポリフェノール濃度を算出したところ、0.91mg/mLであった。
【0063】
〔比較例2〕摘果リンゴポリフェノール溶液
慣行農法により栽培されたリンゴの摘果果実を原料とする市販のリンゴポリフェノール粉末(アサヒフードアンドヘルスケア社製,アップルフェノンSH)1.56mgを蒸留水1mLに溶解し、摘果リンゴポリフェノール溶液を得た。また、実施例1と同様の方法で、摘果リンゴポリフェノール溶液のポリフェノール濃度を算定したところ、2.37mg/mLであった。
【0064】
〔試験例1〕β−カロテン退色試験1
実施例1(摘果リンゴ果汁)、比較例1(成熟リンゴ果汁)及び比較例2(摘果リンゴポリフェノール溶液)について、β−カロテン退色試験を行った。
【0065】
β−カロテン(ナカライテスク社製)10mg、リノール酸(ナカライテスク社製)1.0g及びツィーン40(花王社製,レオドールTW−P120)2.0gを、それぞれクロロホルム(ナカライテスク社製)10mLに溶かし、β−カロテン溶液、リノール酸溶液及びツィーン40溶液を得た。そして、それぞれの溶液を300mL容三角フラスコに0.5mL、0.2mL、1.0mLずつ採り、窒素ガスでクロロホルムを完全に除去した。
【0066】
その後、100mLの蒸留水を加えて溶解し、リノール酸・β−カロテン水溶液とした。リノール酸・β−カロテン水溶液90mLに0.2Mリン酸緩衝液(pH6.8)8mLを加え、静かに撹拌した後、得られた混合物4.9mLを15mL容遠心管に分注して、被検試料(実施例1、比較例1及び比較例2の各試料におけるポリフェノール濃度は表1を参照)を0.1mLずつ添加し、混合した。その後、素早く50℃の恒温槽に移し、15分後と45分後の470nmの吸光度を、分光光度計(島津製作所社製,UVmini1240)で測定した。
【0067】
また、被検試料の対照試料として、合成酸化防止剤BHA(ナカライテスク社製,3-t-Butyl-hydroxyanisole)の80%エタノール溶液(0.01mg/mL)についても、同様の操作と吸光度の測定を行った。さらに、比較例3として、合成酸化防止剤BHA(ナカライテスク社製,3-t-Butyl-hydroxyanisole)の80%エタノール溶液(0.05mg/mL)を用いて、同様の操作と吸光度の測定を行った(比較例3及び対照試料におけるBHA濃度は表1を参照)。
上記のようにして得られた結果から、下記式により抗酸化活性値を算出した。
【0068】
β−カロテン退色による抗酸化活性値=(A−B)/(C−D)
式中、Aは「被検試料の15分後の吸光度」を表し、Bは「被検試料の45分後の吸光度」を表し、Cは「対照試料の15分後の吸光度」を表し、Dは「対照試料の45分後の吸光度」を表す。
結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1中、抗酸化活性値は、対照試料に対する抗酸化活性の比であり、数値が低いほど抗酸化活性が強いことを示し、ポリフェノール濃度は、クロロゲン酸に換算した値である。表1に示すように、無農薬・無肥料農法により栽培されたリンゴの摘果果実を原料として製造した実施例1(摘果リンゴ果汁)は、慣行農法により栽培されたリンゴの成熟果実を原料として製造した比較例1や、慣行農法により栽培されたリンゴの摘果果実を原料として製造された比較例2を含む比較例1〜3に比べ、その抗酸化活性値が非常に低値であった。すなわち、実施例1(摘果リンゴ果汁)は、脂質過酸化物(脂質ヒドロキシオキシドLOOH)の生成を抑制し得る高い抗酸化作用を有していることが示された。
【0071】
〔試験例2〕β−カロテン退色試験2
試験例1と同様の方法で実施例1(摘果リンゴ果汁)を得た後、当該実施例1(摘果リンゴ果汁)を蒸留水で希釈し、試験例1と同様の試験を行った。
結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2においても、表1と同様に、抗酸化活性値は、対照試料に対する抗酸化活性の比であって、数値が低いほど抗酸化活性が強いことを示し、ポリフェノール濃度は、クロロゲン酸に換算した値である。表2に示すように、無農薬・無肥料農法により栽培されたリンゴの摘果果実を原料として製造した実施例1(摘果リンゴ果汁)は、その抗酸化活性値、すなわち抗酸化作用が濃度依存的であり、希釈によってポリフェノール濃度が0.0102mg/mLとされた場合でも、脂質過酸化物(脂質ヒドロキシオキシドLOOH)の生成を抑制し得る高い抗酸化作用を有することが示された。
【0074】
〔配合例1〕
下記組成に従い、皮膚化粧料を常法により製造した。
無農薬・無肥料農法によって栽培した
リンゴの摘果果実の搾汁物(実施例1) 2.00g
ホホバオイル 4.00g
1,3−ブチレングリコール 3.00g
アルブチン 3.00g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.50g
オリーブオイル 2.00g
スクワラン 2.00g
セタノール 2.00g
モノステアリン酸グリセリル 2.00g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.00g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
グリチルリチン酸ステアリル 0.10g
黄杞エキス 0.10g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.10g
イチョウ葉エキス 0.10g
コンキオリン 0.10g
オウバクエキス 0.10g
カミツレエキス 0.10g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の抗酸化剤及び皮膚化粧料は、しわの増加や弾力性の低下等の皮膚の老化、シミ等の色素沈着、乾燥、荒れ肌、肌の炎症などの活性酸素種に起因する症状の予防、改善又は治療に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学合成物質(酢酸及び油脂を除く)を有効成分とする農薬と肥料とを意図的に使用せずに栽培されたリンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物を、有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項2】
前記リンゴの摘果果実が、前記リンゴの病気又は害虫の防除のために、
酢酸を含む散布剤、
天然物由来の物質を有効成分として含有する薬剤、及び
油脂、油中水型エマルション、又は水中油型エマルション
からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用して栽培されたものであることを特徴とする請求項1に記載の抗酸化剤。
【請求項3】
前記リンゴの摘果果実が、前記リンゴを栽培する土壌の改質のためにマメ科植物を用いて栽培されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗酸化剤。
【請求項4】
前記リンゴの摘果果実が、前記リンゴを栽培する土壌100g中の微生物炭素量が40.0mg以上である当該土壌によって栽培されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗酸化剤。
【請求項5】
化学合成物質(酢酸及び油脂を除く)を有効成分とする農薬と肥料とを意図的に使用せずに栽培されたリンゴの摘果果実の搾汁物又は抽出物を配合したことを特徴とする皮膚化粧料。

【公開番号】特開2012−201598(P2012−201598A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64791(P2011−64791)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(300003525)株式会社ブルーム・クラシック (6)
【Fターム(参考)】