説明

抗酸化性成分の取得方法及び機能性組成物

【課題】 黒糖に含まれる機能性成分を効率的に抽出して、健康食品や医薬の原料として用いることのできる組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 黒糖から、高濃度酢酸を用いて分離抽出操作を施すことにより、また、必要によりゲルクロマトグラフィーで精製することによって、フラボノイドを含有またはフラボノイドを主成分とし、ヒト赤血球変形能低下抑制作用をも有する抗酸化性成分を取得する。得られた組成物は、フラボノイドに起因して健康食品や医薬の原料となるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、黒糖からの分離抽出によって得られる、抗酸化性、さらには抗酸化性とヒト赤血球変形能低下抑制作用を有する抗酸化性成分の取得方法に関するものである。
また、黒糖から分離抽出された抗酸化性とヒト赤血球変形能低下抑制作用を有する機能性組成物に関するものであって、健康食品の原料として、あるいは各種疾病の予防又は治療用の医薬として使用される可能性の高いもので、それらの健康食品調製技術、医薬調製技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
黒糖は、砂糖キビの搾り汁に石灰を加えてアク抜きをしたのち、加熱濃縮して、固形化された含蜜糖の一種であって、産地の沖縄では、お茶うけとしてよく使われているものである。
この黒糖は、砂糖キビに由来するビタミンやミネラルを多く含み、最近では、健康食品の一つとして、賞揚されているものである。
【0003】
これらビタミンやミネラルなどの黒糖に含まれる成分は、砂糖キビの産地や種類、製造方法、特にアク抜きの影響を強く受けるものであるが、それらについての研究は、あまり行われていないのが現状である。
【0004】
数少ない研究の内の一つとして、黒糖を適当量の水に溶解し、色素成分を吸着剤に吸着させ、アルコールにより溶離させた色素成分を皮膚外用剤の成分とすることが、特許第2711630号公報(特許文献1)に示されている。
【0005】
また、ジクロロメタンを用いて黒糖からの抽出物を、シリカゲルカラムにより分離精製することによりフェノール性抗酸化成分を得たことが、高良等によって、日本農芸化学会誌(Vol.74・No.8;pp.885〜890,2000(非特許文献1))で報告されている。
【特許文献1】特許第2711630号公報(特許請求の範囲、段落番号0014,0015)
【非特許文献1】日本農芸化学会誌 Vol.74・No.8;pp.885〜890,2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者は、黒糖に含有される各種成分の特性をより深く追求し、それらの特性を有効に活用するために、黒糖における有効成分を探索する一方、健康食品や医薬の原料として用い、より効率的に黒糖を使用することについて検討した。
【0007】
その結果、発明者等は、黒糖からの高濃度酢酸による抽出・分離により、抗酸化性成分が容易に取得できること、得た抗酸化性成分を、ゲルクロマトグラフィーを用いることにより、フェノール性成分とフラボノイドに分離し、得られたフラボノイドが、ヒト赤血球変形能低下抑制作用を有することを見出して、この発明を完成したのである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、この発明の請求項1に記載の発明は、
酢酸を用いて黒糖から分離抽出すること
を特徴とする抗酸化性成分の取得方法である。
【0009】
また、この発明の請求項2に記載の発明は、
酢酸を用いて黒糖から分離抽出したのち、ゲルクロマトグラフィーで精製すること
を特徴とする抗酸化性成分の取得方法である。
【0010】
また、この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の抗酸化性成分の取得方法において、
前記酢酸が、
濃度85〜95%の高濃度酢酸水溶液であること
を特徴とするものである。
【0011】
また、この発明の請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の抗酸化性成分の取得方法において、
前記抗酸化性成分が、
ヒト赤血球変形能低下抑制作用を有するものであること
を特徴とするものである。
【0012】
また、この発明の請求項5に記載の発明は、
請求項4に記載の抗酸化性成分の取得方法において、
前記抗酸化性成分が、
フラボノイドを含有又はフラボノイドを主成分とするものであること
を特徴とするものである。
【0013】
また、この発明の請求項6に記載の発明は、
フラボノイドを含有又はフラボノイドを主成分とし、
抗酸化性とヒト赤血球変形能低下抑制作用を有すること
を特徴とする機能性組成物である。
【0014】
また、この発明の請求項7に記載の発明は、
請求項6に記載の機能性組成物において、
前記フラボノイドは、
黒糖から分離抽出されたものであること
を特徴とする機能性組成物である。
【0015】
また、この発明の請求項8に記載の発明は、
請求項7に記載の機能性組成物において、
前記分離抽出は、
酢酸を用いて行われたこと
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明の抗酸化性成分の取得方法は、黒糖中の有効成分である抗酸化性成分を容易に取出すことができるものである。
また、この取得方法により得られる機能性組成物は、抗酸化性機能とヒト赤血球変形能低下抑制作用を有するもので、健康食品の素材として、あるいは、医薬の原料として、有効に利用されるものである。
【0017】
また、この発明の薬効性組成物は、粉末状態でも、酢酸あるいは水又はエタノール溶液としても使用することができるため、また、上記のような効果を発現させるために、健康食品や医薬として利用する際に、効率的にまた効果的に活用することを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明における分離抽出は、黒糖を対象にして行われるものである。
黒糖は、その成分が、砂糖キビの産地や種類、製造方法、特にアク抜きの影響を強く受けるため、この発明により得られる抽出物の収量や構成成分に多少の差異を有するが、それらの違いに関わらず、この発明では何らそれらの違いを問題にすることなく用いることができる。
それら黒糖は、分離抽出効率を良くするために、乳鉢等を用いて粉末化しておくのが好ましい。
【0019】
分離抽出には、酢酸、通常は濃度85〜95%の高濃度酢酸が用いられる。
分離抽出は、室温で0.5〜1時間、攪拌しながら、さらには超音波処理を施して行なうことが好ましく、それにより、目的とする抽出物が得られる。
【実施例】
【0020】
<抗酸化性成分の取得>
[黒糖からの分離抽出]
下記10種類の黒糖のそれぞれについて、酢酸を用いて抗酸化性成分を以下の手順で取得した。
黒糖を乳鉢で擂り潰し、得られた黒糖粉末20gを食品添加用酢酸(酢酸濃度90%)60mlに加え、よく攪拌し、超音波処理を施した後、ガラスフィルターで洗浄液として上記酢酸を20ml用いて濾過した。
得られた濾液を、減圧乾固し、50%のエタノールに溶解し、20mlの分離抽出成分溶液とした。
得られた分離抽出成分の収量および収率を、表1に示した。
[黒糖の種類]
No.1: 黒糖工房八風畑
No.2: 喜界島産
No.3: JA沖縄与那国製糖工場
No.4: 西表製糖工場
No.5: 宮古製糖(株)多良間工場
No.6: JA沖縄粟国製糖工場
No.7: JA沖縄伊平屋製糖工場
No.8: 小浜糖業株式会社
No.9: 波照間製糖株式会社
No.10: 薩南製糖株式会社
【0021】
<ラジカル捕捉活性の測定>
上記で得られた各分離抽出物のラジカル捕捉活性を、以下の方法で測定し、その結果を表1に示した。
表1から明らかなように、各分離抽出物は、いずれもラジカル捕捉活性を示した。
【0022】
<ラジカル捕捉活性測定法>
試料溶液0.3mlに、DPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)溶液0.3ml、MES緩衝液0.3ml、20%エタノール0.3mlを加え、室温で20分間反応させた後、520nmでの吸光度を測定した。
その活性は、同様にして行った、アスコルビン酸(AsA)でDPPHラジカル捕捉活性の検量線を作成し、試料g当たりのラジカル捕捉活性をアスコルビン酸(AsA)当量(μmol/g)で表した。
【0023】
<抗酸化活性の測定>
上記で得られた各分離抽出物の抗酸化活性を、リノール酸の酸化物がβ−カロチンを退色させる作用を利用したMillerらの方法に準じ、以下の方法で測定した結果を表1に示した。
表1から明らかなように、各分離抽出物に抗酸化活性が認められ、いずれも黒糖から分離抽出された抗酸化性成分であった。
【0024】
<抗酸化活性の測定方法>
試料液0.1mlを分注した分光光度計用試験管セルに、リノ−ル酸−β−カロチン溶液4.9mlを加えて攪拌し、温度50℃の恒温槽で、20分間反応させた場合のβ−カロチンの退色度を470nmの吸光度によって求め、合成抗酸化剤ブチルヒドロキシアニソール(BHA)による吸光度の減少量を測定し、試料と同じ減少量を与えるBHAの濃度によって、試料の抗酸化活性を表した。
【0025】
【表1】

【0026】
<抗酸化性成分の分画>
[ゲルクロマトグラフィーによる分画]
上記の分離抽出物である抗酸化性成分を、1%酢酸溶液で洗浄したバイオゲルP−10カラム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製:2×29cm)に添加し、同溶液を用い室温で展開した後、吸着した成分を50%エタノールとメタノールで溶出した。
図1にNo.1〜3の黒糖から取得した抗酸化性成分のパターンを示した。
また、図2に示すように、No.3の黒糖から取得した抗酸化性成分を、該パターンに基づいて試料を12に分画し、各画分について、ラジカル捕捉活性と抗酸化活性を測定した結果を、表2に示した。
表2に明らかように、各画分とも、ラジカル捕捉活性と抗酸化活性を有するものであった。
【0027】
【表2】

【0028】
[紫外線吸収スペクトルによる同定]
分画された抗酸化性成分のそれぞれを、下記条件で高速液体クロマトグラフィーに付し、よって得られた主なピークについて紫外線吸収スペクトルによる同定を行った。
高速液体クロマトグラフィー分析条件
Waters社製装置のSymmetry R C18 5μmカラム(4.6×250mm)を用い、0.1%TFA溶液中MeCN濃度を40分間に0から60%へ直線的に上昇させて溶出した。
溶出温度 40℃、流速0.5ml/min、検出280nm
図3にその結果を示した。
この結果から、抗酸化性成分は、主にメラノイジン、フェノール性成分及びフラボノイドの3種から構成されていることが判明した。
また、10種の黒糖から分離抽出された抗酸化性成分を高速液体クロマトグラフィーに付し、フラボノイド成分を340nmで検出した結果、図4に示すように、フラボノイドとしては、6種(a〜f)以上が含まれるが、黒糖の種類毎に含有量が異なることが判明した。
【0029】
[赤血球変形能低下抑制作用測定]
成分が、フラボノイドと同定された画分FR.10とFR.12について、赤血球変形能低下抑制作用を、赤血球変形能低下抑制作用を有する、酸化剤(AAPH:2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩)との比較で検討した。
測定方法は、以下のとおりである。
図5に示される結果から、黒糖から分離抽出されたフラボノイドは、赤血球変形能低下抑制作用を有することが認められる。
【0030】
[赤血球変形能低下抑制作用測定法]
3.8%クエン酸ソーダ溶液1.0ml入りの真空採血管に、全量10.0mlとなるように採血したのち、2500rpm×10分遠心分離して赤血球を沈殿させた後、洗浄し、HEPESを加え、ヘマトクリット値6.0%赤血球浮遊液を調製した。
このヘマトクリット値6.0%赤血球浮遊液3.0mlに、HEPESを(a;3.0ml、b;2.40ml、c;2.34ml、d;2.34ml)加え、温度37.0℃で予備インキュベートしたのち、bとcとdには、500mMのAAPH溶液0.6ml、 cには、画分FR.10を0.06ml(10mg/ml)、dには、画分FR.12を0.06ml(10mg/ml)を添加し、温度37.0℃で45分インキュベートした。
その後、測定するまで氷冷し、測定は、温度25.0℃で7分、再度インキュベートしてから行なった。
なお、aはコントロールである。
【0031】
なお、赤血球変形能は、従来の定量性と再現性に難点のある微細孔(nucleipore)フィルターを用いた方法に代わるものとして、発明者が開発したフィルター特性が顕著に改善された、ニッケルメッシュ(nickel mesh)フィルターを用いる、以下の方法で測定した。
ニッケルメッシュは、フォトレジスト法と特殊メッキ法を組み合わせて作成されたニッケル薄膜フィル茶葉、微小孔の数、形状、分布が正確に一定であるばかりでなく、数秒間の超音波洗浄によって100回以上の再使用が可能である。
加えて、ニッケルメッシュの微小孔の辺縁は、滑らかでテーパを持ち、これにより混入白血球が機械的影響を受けることはなく、微小孔には融合や分枝がまったくない。
これらの特徴により、以下の方法は、高い定量性と再現性を保持するものである。
【0032】
この試験は、図6に示すように、垂直に立てたガラス管(vertical tube)1に、タイゴンチューブを介してニッケルメッシュホルダー2を接続し、通常15cmの高さ(height:h)より、HEPESバッファーで調整した生理食塩水を用いて作成した赤血球浮遊液4を濾過させて行なう。
ガラス管1の周囲は、恒温水5を還流させて、試料を定温に保っている。
ガラス管のゼロレベルに設置した圧力(pressure:P)トランスデューサー6で、試料を濾過中の圧力降下を連続的に検出し、これを増幅器とAD変換器(いずれも図示せず)を介してパソコン7に取り込み、流量(flowrate:Q)を計算する。
流量は、圧力を高さに変換し(P=ρgh)、高さ‐時間(h−t)曲線の微分値(dh/dt)を取って、これにガラス管の断面積(a)を乗じて得られる(Q=dh/dt・a)。
血球を含まないコントロール溶液(HEPESバッファー調整生食水:ニュートン流体)の圧−流量曲線を対照として、赤血球浮遊液の圧−流量曲線を検討し、ある一定圧(通常100mm・HO)での、対照液の流量に対する赤血球浮遊液の流量(%)をもって赤血球変形能を評価する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明によれば、上記のような優れた特性を有し、かつ粉末ないし水、酢酸又はエタノールの無毒の溶媒溶液として供給可能な抗酸化性成分を、黒糖から容易に得られることができるため、健康食品産業や医薬業界で広く利用される可能性の高いものである。
また、この機能性組成物は、上記のような優れた特性を有し、かつ粉末ないし水、酢酸又はエタノールの無毒の溶媒溶液として供給可能なものであるため、健康食品産業や医薬業界で広く利用される可能性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】黒糖No.1〜No.3から分離抽出された抗酸化性成分のゲルクロマトグラフィーのパターンを比較した図である。
【図2】黒糖No.3から分離抽出された抗酸化性成分のゲルクロマトグラフィーのパターンを示す図である。
【図3】図2で分画された12画分のそれぞれの、高速液体クロマトグラフィーによって得られた主なピークの吸収スペクトルを示す図である。
【図4】黒糖から分離抽出された抗酸化性成分の高速液体クロマトグラフィーのパターンを示す図である。
【図5】黒糖から分離抽出されたフラボノイドの赤血球変形能低下抑制作用を示す図である。
【図6】赤血球変形能低下抑制作用測定装置の概念図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ガラス管
2 ニッケルメッシュホルダー
3 ニッケルメッシュフィルター
4 赤血球浮遊液
5 恒温水
6 圧力トランスデューサー
7 パソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸を用いて、黒糖から分離抽出すること
を特徴とする抗酸化性成分の取得方法。
【請求項2】
酢酸を用いて黒糖から分離抽出した後、ゲルクロマトグラフィーで精製すること
を特徴とする抗酸化性成分の取得方法。
【請求項3】
前記酢酸が、
濃度85〜95%の高濃度酢酸水溶液であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の抗酸化性成分の取得方法。
【請求項4】
前記抗酸化性成分が、
ヒト赤血球変形能低下抑制作用を有するものであること
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗酸化性成分の取得方法。
【請求項5】
抗酸化性成分が、
フラボノイドを含有又はフラボノイドを主成分とするものであること
を特徴とする請求項4記載の抗酸化性成分の取得方法。
【請求項6】
フラボノイドを含有又はフラボノイドを主成分とし、
抗酸化性とヒト赤血球変形能低下抑制作用を有すること
を特徴とする機能性組成物。
【請求項7】
前記フラボノイドは、
黒糖から分離抽出されたものであること
を特徴とする請求項6記載の機能性組成物。
【請求項8】
前記分離抽出が、
酢酸を用いて行われたこと
を特徴とする請求項7記載の機能性組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−102238(P2009−102238A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273619(P2007−273619)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月15日 社団法人 日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会2007年度中四国・西日本支部合同大会」に文書をもって発表
【出願人】(599035339)株式会社 レオロジー機能食品研究所 (16)
【Fターム(参考)】