説明

折板の製造方法

【課題】寸法が安定化された折板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る折板の製造方法は、建築材料に用いられる折板の寸法を安定化させる工程を含む折板の製造方法であって、樹脂材料からなる平板を折り曲げることにより折板を形成する形成工程と、当該形成工程で形成された折板を加熱する加熱工程とを有する。加熱工程では折板の表面温度が100℃〜140℃になるまで当該折板を加熱する。形成工程では平坦な山部と谷部とが傾斜部を挟んで交互に並設された形状の折板を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建築材料に用いられる、寸法が安定化された折板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工場や倉庫、学校の体育館や公共の体育施設等の建築物の屋根として、金属製の折板を用いて構成する折板屋根が多く採用されている。金属製の折板屋根は、その形状がJIS A 6514で定められており、その加工方法としては、例えば凹凸形状が組み合わされた成形ロール間に金属板を通過させ、折板状に成形する方法が採用されている。
【0003】
屋根において自然光を取り入れるためには、金属製の折板の所定部分を透光性合成樹脂製の折板に置き換えるのが一般的である。透光性合成樹脂製の折板は、例えばポリカーボネートからなり、1.5〜2mm程度の厚さの平板を金属製の折板と同じ波状に折り曲げ加工したものが採用される。
【0004】
ポリカーボネートを折り曲げる方法としては、例えばベンダー折り曲げ機による方法またはロールフォーミング等が挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−104383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、折り曲げ工程でポリカーボネート平板が所定形状に折り曲げられた後、当該工程で得られたポリカーボネート折板の折り曲げ部において折り曲げ方向と逆方向の反発力(復元力)が作用し、折り曲げ加工を精度良く実施できないことがある。そのため、ポリカーボネート折板において所望の寸法が得られないことが現状となっている。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、寸法が安定化された折板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る折板の製造方法は、建築材料に用いられる折板の寸法を安定化させる工程を含む折板の製造方法であって、樹脂材料からなる平板を折り曲げることにより折板を形成する形成工程と、形成工程で形成された折板を加熱する加熱工程と、を有することを要旨とする。
【0009】
本発明に係る折板の製造方法においては、形成工程で樹脂材料(例えばポリカーボネート)からなる平板を折り曲げる。折り曲げ形状としては、例えば平坦な山部と谷部とが傾斜部を挟んで交互に並設されたもの等が挙げられるが、これに限定されるものではなく、波型のものや凹凸が交互に並設されたもの等でもよい。折り曲げに使用する曲げ加工装置は、ロールフォーミング等の連続式装置やバッチ式装置を採用することができる。
【0010】
所定形状に折り曲げられた折板は、その復元力によって元の状態に戻ろうとするため、折板の各箇所における寸法が設計値の許容範囲から外れる場合が多い。
【0011】
そこで本発明では、形成工程で形成された折板を加熱工程において加熱する。加熱方法としては、所定温度(例えば500℃)の温風を折板に供給してもよいし、ヒータを折板に接触または近接させて加熱してもよい。加熱工程では、ポリカーボネート折板の場合、当該折板の表面温度が100℃〜140℃になるまで加熱することが好ましい。また、折板の形状を維持する観点で当該折板を拘束して加熱することが望ましい。なお、折板の表面温度は放射温度計等で計測する。上記のような加熱工程を実施することによって、上記復元力を抑制でき、折板の寸法が設計値の許容範囲内におさまる(以下「寸法が安定化する」と称する場合がある)。これにより、施工においてスムーズに折板同士や折板と他部材(金属折板)との連結を行うことができ、また、強引な連結に起因するクラックが折板に生じることも防止できる。
【0012】
形成工程の前に、平板にマスキングフィルムを貼り付ける貼付工程を有してもよい。表面保護等のためにマスキングフィルムを平板に貼り付けた場合、この平板を加熱すると、加熱によってマスキングフィルムが必要以上に平板に密着する問題がある。そのため、上記フィルムの除去に時間がかかり、工期の短縮が困難となるとともに、フィルムの残り滓等の影響で折板の品質向上を図ることもできない。しかし本発明では、α−オレフィンを共重合体の主成分とするポリオレフィン系粘着剤層を有するマスキングフィルムを平板に貼り付けることで、加熱した後でも当該フィルムが必要以上に折板に密着することなく、当該折板からフィルムを確実に剥すことができる。なお、上記共重合体の主成分とするとは、α−オレフィンが50質量%以上であることを意味する。
【0013】
形成工程では平板を曲げ加工装置によって折り曲げ、曲げ加工装置に設けられたヒータにより、平板の折り曲げの際に当該平板を予備加熱する予備加熱工程を有してもよい。この場合、曲げ加工装置の折り曲げ用上型内に設けられたヒータや、平板を挟んでこの上型と対向する成形受け部内に設けられたヒータによって、折り曲げの際に平板が予備的に加熱されるので、加熱工程での加熱時間を低減できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、形成工程で形成された折板を加熱工程において加熱することによって、折り曲げられた折板の復元力を抑制でき、折板の寸法が設計値の許容範囲内におさまる。これにより、施工においてスムーズに他部材(金属折板)との連結を行うことができ、また、強引な連結に起因するクラックが折板に生じることも防止できる。したがって、雨漏りを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は折板の一例を示す斜視図であり、(b)は(a)のAA線断面図である。
【図2】(a)は平板を保持する状態の曲げ加工装置を示す断面図であり、(b)は平板を折り曲げて折板を形成する状態の曲げ加工装置を示す断面図である。
【図3】曲げ加工装置の他例を示す説明図である。
【図4】折板にマスキングフィルムが貼り付けられた状態を示す断面図である。
【図5】本実施形態に係る折板の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】(a)は実施例における折板の形状を示す斜視図であり、(b)はマスキングフィルムが貼り付けられた折板を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態における、寸法が安定化された折板の製造方法について図面を参照しながら説明する。なお本実施形態に係る製造方法により製造された折板は、建築物の屋根や壁等に用いられる。
【0017】
図1は折板1の形状の一例を示す説明図である。図1(a),(b)に示すように、折板1は、冷間加工(常温での加工)において後述の曲げ加工装置によって平板が折り曲げられて形成されるものであり、例えば平坦な山部1aと谷部1bとが傾斜部1cを挟んで交互に並設されたものである。折板1の構成材料としては、ポリカーボネート等の透光性合成樹脂が挙げられる。
【0018】
図2は平板を折り曲げて折板を形成するための曲げ加工装置10の構成の一例を示す断面図である。この曲げ加工装置10はバッチ式装置であり、図2では曲げ工程の一工程を示している。
【0019】
図2に示すように、曲げ加工装置10は受け側の下型11および押し側の上型15を有しており、下型11には凹状の成形凹部11aが形成されている。なお上型15内にはこの上型15を加熱する熱源15aが設けられている。
【0020】
成形凹部11aには、熱源12aを有するヒータ部材12と、当該ヒータ部材12を支持するヒータ支持部材13と、当該ヒータ支持部材13の外周面を取り巻くスプリング14とが設けられている。
【0021】
図2(a)に示すように、最初に下型11の上に例えば板厚が1.5〜2.0mmの平板1hが載置される。そして、ヒータ部材12および上型15が所定温度の範囲内に加熱された状態で、図2(b)に示すように、成形凹部11aに向けて上方から上型15を下降させる。そうすると、上型15の下降に伴ってヒータ部材12がスプリング14に抗して下方に押し付けられつつ、図2(a)の平板1hが折り曲げられて図2(b)の折板1が形成される。なお、曲げ工程が終了した後は、折板1は曲げ加工装置10から除去されて、後述の折板加熱工程へと移行される。
【0022】
なお、曲げ加工装置としては、ロールフォーミングを行う以下の装置を採用することもできる。
【0023】
図3は曲げ加工装置20の概略的構成を示す説明図である。この曲げ加工装置20は連続式装置であり、図3では曲げ工程の一工程を示している。
【0024】
図3に示すように、この曲げ加工装置20では、一対の送りローラ21により平板1hが下流側に送り出されて、段階的に曲げ加工が行われる。すなわち、まず上型22とこれに対応する下型23とによって、折板1の傾斜部1cの水平面に対する傾斜角度が例えば30°となるように曲げ加工が行われる。次に、下流側の上型24とこれに対応する下型25とによって、傾斜部1cの水平面に対する傾斜角度が例えば60°となるように曲げ加工が行われる。
【0025】
本実施形態では、曲げ工程の前に、平板1hの表面および裏面にそれぞれマスキングフィルムMFが貼り付けられる。曲げ工程を行った後の折板1の表面および裏面のマスキングフィルムMFの状態は図4に示すようなものとなる。
【0026】
マスキングフィルムMFの例としては、α−オレフィンを共重合体の主成分とするポリオレフィン系粘着剤層を有するものを採用する。マスキングフィルムMFの基材は特に限定されないが、ポリエチレンやポリプロピレンなどが好ましい。これにより、加熱工程を経た後でもマスキングフィルムMFが必要以上に折板1に密着することなく、折板1からマスキングフィルムMFを確実に剥すことができる。
【0027】
図5は本実施形態に係る折板の製造方法の流れを示すフローチャートである。図5に示すように、まず平板1hにマスキングフィルムMFが貼り付けられる(ステップS1)。
【0028】
次いで、曲げ工程(形成工程)において平板1hを所定形状に折り曲げて折板1を形成する(ステップS2)。そして、この折板1の表面温度が所定温度範囲(例えば100〜140℃)内の温度となるように折板1を加熱する(ステップS3)。加熱時間は、折板1の板厚によって異なるが、概ね5〜10秒である。折板1の加熱処理は、曲げ加工装置の外部に設けられた加熱室で赤外線ヒータ等を用いて行ってもよいし、曲げ加工装置が連続式装置である場合には、曲げ工程が終了した後、折板1をそのまま下流に搬送して赤外線ヒータ等により行ってもよい。
【0029】
上記の加熱工程の際には、折板1の表面温度が放射温度計等により測定される(ステップS4)。
【0030】
測定された表面温度が所定温度範囲内の温度である場合には(ステップS5でYes)、処理が終了する。一方、測定された表面温度が所定温度範囲内の温度でない場合には(ステップS5でNo)、折板1の表面温度が所定温度範囲内となるよう、上記のステップS3〜ステップS5の処理が繰り返される。
【0031】
本実施形態では、曲げ工程で形成された折板1を加熱工程において折板1の表面温度が100℃〜140℃になるまで加熱することによって、曲げ工程後の折板1における復元力を抑制でき、折板1の寸法が設計値の許容範囲内におさまる。これにより、施工においてスムーズに折板同士や折板と他部材(金属折板)との連結を行うことができ、また、強引な連結に起因するクラックが折板に生じることも防止できる。したがって、雨漏りを防止できる。
【0032】
本発明はもとより上記実施形態によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0034】
図6(a)に示すように、板厚が2mmの平板を90mm×50mmのチャンネル形状(凹状)に加工した後、加熱すべき表面温度を決めて加熱処理を行った場合と行わない場合とにおける折板1の寸法変化を評価した。なお、曲げ工程の前の貼付工程において平板の内側面および外側面にそれぞれ所定のマスキングフィルムMFを貼り付け、このような平板を折り曲げて、図6(b)に示すような折板1とした。
【0035】
また、加熱工程では折板1の一方側面1Lおよび他方側面1Rを図示しない拘束冶具で拘束しつつ、赤外線ヒータを用いて折板1を加熱し、放射温度計(IR−TE チノー社製)により折板1の表面温度を測定した。なお、測定した最高温度を表面温度とし、最高温度に達したときに赤外線ヒータをオフにして、拘束冶具による拘束を解いた。
【0036】
マスキングフィルムMFとしては、α−オレフィンを共重合体の主成分とするポリオレフィン系粘着剤層を有するPAC−2−50TH(サンエー化研社製)およびFM−21−5TF(大王加工紙社製)と、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)系粘着剤層を有するPAC−4−50(サンエー化研社製)とを採用した。
【0037】
寸法変化の評価においては、図6(a)に示す折板1の開口部の寸法HKの変化が、0mm〜2mmである場合にOKとし、2mmを超えた場合にNGとした。また、開口部の寸法HKについては、ノギス(CD−15 ミツトヨ社製)を用いて目視測定を行った。
【0038】
一方、マスキングフィルムMFの剥れの評価においては、破れが無い状態で剥れた場合にOKとし、破れが生じた場合にNGとした。また、寸法変化の評価および剥れ評価が共にOKである場合は総合評価としてOKとし、それ以外の場合は総合評価としてNGとした。
【0039】
実施例1〜3および比較例1〜5における折板1の加工方法等および評価結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、曲げ工程の後、加熱工程において折板1の表面温度が100℃〜140℃となるよう加熱処理を行った実施例1〜3では、折板1の開口部の寸法HKの変化が2mm以下となると共に、マスキングフィルムMFについても破れが無い状態で剥すことができた。なお、折板1の加工方法としては、ベンダーおよびロールフォーミング共に特段影響がないことがわかった。
【0042】
曲げ工程の後、加熱処理を行わなかった比較例1では、寸法HKの変化が2mmを超える結果となった。また、比較例2では、加熱工程を実施し、表面温度を130℃としたので寸法HKの変化が2mm以下となったものの、EVA系粘着剤層を有するマスキングフィルムMFを採用したので、剥れの評価はNGとなった。
【0043】
加熱工程において折板1の表面温度を50℃に達するまでしか加熱しなかった比較例3では、寸法HKの変化が2mmを超えNGとなった。また、加熱工程で折板1を拘束しなかった比較例4では寸法変化の評価がNGとなった。
【0044】
また、加熱工程において折板1の表面温度を170℃に達するまで加熱し、EVA系粘着剤層を有するマスキングフィルムMFを採用した比較例5では、寸法変化の評価および剥れ評価共にNGとなった。
【0045】
以上のことから、曲げ工程の後に、折板1をその表面温度が100〜140℃になるよう加熱することによって、寸法HKが安定化することを確認することができた。また、このように加熱処理を施した場合でも、施工時において破れが無い状態でマスキングフィルムMFを剥すには、α−オレフィンを共重合体の主成分とするポリオレフィン系粘着剤層を有するマスキングフィルムMFを採用すべきことを確認できた。図1で示した形状の折板1に対して加熱処理を施した場合でも、寸法安定化の効果が奏されることが期待できる。
【符号の説明】
【0046】
1 折板
1a山部
1b 谷部
1c 傾斜部
1h 平板
10,20 曲げ加工装置
MF マスキングフィルム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築材料に用いられる折板の寸法を安定化させる工程を含む前記折板の製造方法であって、
樹脂材料からなる平板を折り曲げることにより折板を形成する形成工程と、
前記形成工程で形成された前記折板を加熱する加熱工程と、
を有することを特徴とする折板の製造方法。
【請求項2】
前記形成工程では、平坦な山部と谷部とが傾斜部を挟んで交互に並設された形状の折板を形成する請求項1に記載の折板の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程では前記折板の表面温度が100℃〜140℃になるまで前記折板を加熱する請求項1または請求項2に記載の折板の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程では前記折板を拘束して加熱する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の折板の製造方法。
【請求項5】
前記形成工程の前に、前記平板にマスキングフィルムを貼り付ける貼付工程を有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の折板の製造方法。
【請求項6】
前記貼付工程では、α−オレフィンを共重合体の主成分とするポリオレフィン系粘着剤層を有する前記マスキングフィルムを前記平板に貼り付ける請求項5に記載の折板の製造方法。
【請求項7】
前記形成工程では前記平板を曲げ加工装置によって折り曲げ、
前記曲げ加工装置に設けられたヒータにより、前記平板の折り曲げの際に当該平板を予備加熱する予備加熱工程を有する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の折板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−214029(P2012−214029A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−64359(P2012−64359)
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(390018050)日本ポリエステル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】