説明

押出し加工物の製造方法および電線・ケーブル

【課題】例えば電線・ケーブル等の処分対象製品等から架橋ポリオレフィン組成物を分離してマテリアルリサイクルする。
【解決手段】電線・ケーブル1の被覆材3などに適用されている平均架橋度20%〜60%のシラン架橋型ポリオレフィン組成物に、少なくとも酸化防止剤(例えば、遊離基連鎖抑制作用を有する一次酸化防止剤と、過酸化物分解作用を有する二次酸化防止剤)を加え所定温度で混練して可塑化する。そして、その可塑化物を温度200℃〜400℃で押出し加工することにより、目的とする押出し加工物を得る。前記酸化防止剤は、遊離基連鎖停止作用を有する一次酸化防止剤や、過酸化物分解作用を有する二次酸化防止剤を利用(例えば、0.05〜5重量部配合)できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出し加工物の製造方法および電線・ケーブルであって、架橋ポリオレフィン組成物を可塑化してマテリアルリサイクルを図る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば各種電線・ケーブル等の製品の被覆材に適用されている架橋ポリオレフィン組成物は、耐熱性,機械的物性等に優れていることが広く知られている。しかしながら、適用対象の製品が寿命等により処分対象となった場合には、その処分対象の製品と共に埋立て処理等の方法により処分されていたが、その埋立て処理に係る最終処分場が年々減少していく傾向となり、その対応策が望まれている。その対応策として、当該製品を焼却処理あるいはサーマルエネルギーとして利用する方法も検討されてきたが、この方法では燃焼処理工程を要するため、種々の有害物質あるいはCO2等を排出してしまう可能性がある。
【0003】
そこで、近年においては、処分対象製品等から架橋ポリオレフィン組成物を分離してマテリアルリサイクルする技術、例えば有機化酸化物により架橋された架橋ポリオレフィン組成物(平均架橋度(ゲル分率)60%以上)を所定温度で混練加工(せん断応力,熱等を加えながら混練)して可塑化し、その可塑化物を所望の形状に押出し加工して得た押出し加工物を再利用(例えば、所望の電線・ケーブル製品の被覆材として再利用)する技術が検討されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、前記のように押出し加工物を得るには、架橋ポリオレフィン組成物を比較的高温(250℃〜400℃)で混練加工して可塑化する必要があるが、その混練加工後の可塑化物は高温であるため、その可塑化物を単に押出し加工した場合には当該押出し加工前後において劣化や焼き現象(色抜けや炭化等)が生じ、再利用できない恐れがある。このため、例えば混練加工後の可塑化物を冷却して熱を除去する工程を増やしたり、押出し加工温度を比較的低温(80℃〜250℃)に設定する必要があった。なお、押出し加工温度が低過ぎる場合には、可塑化物の流動性が低く押出し加工の際の負荷が大きくなってしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−347559号公報(例えば、段落[0003],[0005],[0017]等)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、前記のような技術進歩等に伴って、架橋ポリオレフィン組成物を可塑化してマテリアルリサイクルする技術においては、以下に課題があることに着目した。
【0007】
すなわち、架橋ポリオレフィン組成物を混練加工して得た高温の可塑化物を冷却したり、押出し加工温度を比較的低温に設定しなくとも、劣化や焼き現象(色抜けや炭化等)を抑制しながら当該可塑化物を押出し加工し、マテリアルリサイクルを図ることである。
【0008】
また、前記のようにマテリアルリサイクルされた押出し加工物から成る被覆材においては、例えば電線・ケーブル等に適用した場合に十分な耐熱性,機械的物性等の諸特性を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記の課題を解決すべく創作された技術的思想であって、具体的に、この発明による押出し加工物に製造方法の一態様は、平均架橋度20%〜60%のシラン架橋型ポリオレフィン組成物に少なくとも酸化防止剤を加え混練して可塑化し、その可塑化物を温度200℃〜400℃で押出し加工することを特徴とする。また、前記酸化防止剤は、遊離基連鎖抑制作用(ラジカル連鎖禁止作用)を有する一次酸化防止剤と、過酸化物分解作用を有する二次酸化防止剤であっても良い。さらに、前記酸化防止剤は、シラン架橋型ポリオレフィン組成物100重量部に対し0.05〜5重量部配合しても良い。
【0010】
この発明による、電線・ケーブルの一態様は、ワイヤー状の導体の外周面に被覆材を被覆した電線・ケーブルであって、前記の被覆材として、前記の製造方法により得た押出し加工物を用いたことを特徴とする。
【0011】
従来のように押出し加工条件等を制約(例えば、架橋ポリオレフィン組成物を混練加工して得た高温の可塑化物を冷却したり、押出し加工温度を比較的低温に設定)してマテリアルリサイクルを図るという技術的思想は存在していたものの、本発明のように押出し加工物の劣化や焼き現象(色抜けや炭化等)を抑制する目的で酸化防止剤を適用するという技術的思想は無かった。
【発明の効果】
【0012】
以上、請求項1〜3記載の発明によれば、従来のように押出し加工条件等が制約されることはなく、劣化や焼き現象(色抜けや炭化等)を抑制しながら押出し加工物を得ることができ、架橋ポリオレフィン組成物のマテリアルリサイクルを図ることが可能となる。
【0013】
また、請求項4記載の発明によれば、十分な耐熱性,機械的物性等の諸特性を確保した電線・ケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態における押出し加工物の製造方法および電線・ケーブルの適用例を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る押出し加工物の製造方法および電線・ケーブルにおいては、例えば以下に示すような架橋ポリオレフィン組成物,酸化防止剤を利用でき、各種押出し加工技術分野や電線・ケーブル分野における周知の押出し加工方法,押出し加工機等を適宜適用することができる。
【0016】
[架橋ポリオレフィン組成物]
シラン架橋型ポリオレフィン組成物であって、例えば電線・ケーブル等の被覆材として利用されている組成物(処分対象となった被覆材等)や、当該被覆材を製造した際のオーバーフロー分(押出し加工等により余った被覆材等)を適用することが可能である。その具体例としては、図1に示す電線・ケーブル1のように導電性材料から成るワイヤー状の導体2の外周面に被覆された被覆材3が挙げられる。なお、図1中の符号4は、必要に応じて被覆材3の外周面を覆うように被覆されるシースを示すものである。
【0017】
前記被覆材3に利用されているポリオレフィン樹脂成分としては、例えば直鎖状ポリエチレン(L−LDPE),低密度ポリエチレン(LDPE),エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA),エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA),エチレン−αオレフィン共重合体等の成分や、それら各成分を組み合わせた周知のポリオレフィン樹脂成分が挙げられる。
【0018】
また、前記のポリオレフィン樹脂成分をシラン架橋するシラン架橋剤としても、例えば当該ポリオレフィン樹脂製成分にグラフトされるものを適用でき、ビニルシラン化合物,アミノシラン化合物、エポキシシラン化合物,アクリルシラン化合物,ポリスルフィドシラン化合物,メルカプトシラン化合物などが挙げられる。これらシラン化合物は、単独または混合して適用することもできる。
【0019】
具体例としては、ポリエチレン(例えば、ダウケミカル日本社製のNUCG‐5130),ジクミルペルオキシド(例えば、三井石油化学社製の三井DCP),トリメトキシビニルシラン(例えば、MOMENTIVE社製のA‐171),ジオクチル錫ジラウレート(例えば、日東化成社製のU‐810)を含んだ配合材料から成るシラン架橋型ポリオレフィン組成物が挙げられる。
【0020】
このように、種々のシラン架橋型ポリオレフィン組成物を適用できるが、可塑化物の押出し加工性を考慮(押出し加工物の劣化や焼け現象を抑制できる押出し加工温度(200℃〜400℃程度)を考慮)すると、平均架橋度が20%〜60%のシラン架橋型ポリオレフィン組成物を適用することが好ましい。これにより、当該可塑化物のMFR(メルトフローレート)が0.05〜20g/10分程度となり、後段の押出し加工性が向上する。なお、前記MFRが小さ過ぎる場合(例えば、MFR0.05未満)には可塑化物の流動性が低く押出し加工の際の負荷が大きくなってしまい、当該MFRが大き過ぎる場合(例えば、MFR20超)には可塑化物の粘度が小さくなり過ぎてしまいことから、生産性や押出し加工性が低下する可能性がある。
【0021】
[酸化防止剤]
酸化防止剤としては、例えば電線・ケーブル等の分野で知られているものを適用できるが、例えばフェノール酸化防止剤,アミン系酸化防止剤等の遊離基連鎖抑制作用を有する一次酸化防止剤の他に、硫黄系酸化防止剤,リン系酸化防止剤等の過酸化物分解作用を有する二次酸化防止剤を併用することにより、押出し加工物の劣化や焼け現象を抑制する作用効果をより発揮できることとなる。
【0022】
具体例としては、ラジカル連鎖禁止剤として知られているオクタデシル‐3‐(3,5‐ジ‐tert‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート(例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のIRGANOX1076),テトラキス〔メチレン‐3(3,5‐ジ‐第三ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズのIRGANOX1010)等の一次酸化防止剤や、過酸化物分解剤として知られているトリス(2,4‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)フォスファイト(例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズのIRGAFOS168)等が挙げられる
酸化防止剤の配合量は、目的とする押出し加工物や被覆材の諸特性を阻害しない範囲、例えばシラン架橋型ポリオレフィン組成物100重量部に対して0.05〜5重量部程度の範囲内であれば適宜設定(例えば、一次酸化防止剤0.05重量部)することが可能であるが、当該配合量が少な過ぎる場合(例えば、配合量が0.05重量部未満)には前記のように劣化や焼け現象を抑制する作用効果が不十分となり、当該配合量が多過ぎる場合(例えば、配合量が5重量部超)には当該可塑化物の押出し加工性が低下する可能性がある。
【0023】
[添加剤]
前記のような架橋ポリオレフィン組成物,酸化防止剤の他に、例えば難燃剤,紫外線吸収剤,熱安定剤,顔料,充填剤等の周知の添加剤を、目的とする押出し加工物や被覆材の諸特性を阻害しない範囲で適宜適用することも可能である。
【0024】
[製法]
本実施形態では、前述したような架橋ポリオレフィン組成物に酸化防止剤等を加え所定温度で混練して可塑化でき、その可塑化物を押出し加工できるものであれば、種々の方法,機器等を適用することが可能である。例えば、押出し加工機の場合は、同方向回転二軸押出機や異方向回転二軸押出機等のように、各種材料を投入するホッパー等を備えた供給部,投入された各種材料を所定温度で混練(例えば、せん断応力,熱を加えながら混練)して可塑化する混練部,当該混練部で得た可塑化物を所定温度で押出し加工する押出部、などを有する押出し加工機が挙げられる。
【0025】
本実施形態の場合、押出し加工物の劣化や焼け現象を抑制するために前記の可塑化物中に酸化防止剤を含ませているため、従来(特許文献1等)のように混練加工後の高温の可塑化物を冷却して熱を除去する工程を経る必要がなく、押出部の押出し温度を低く抑える必要もない。すなわち、従来のように押出し加工条件等が制約されることはなく、当該押出部の押出し温度を、少なくとも従来と比較して高く設定(例えば、200℃〜400℃)でき、十分な押出し加工性(吐出性等)を確保することが可能となる。なお、押出し加工温度が高過ぎてしまうと、MFRが大きくなり過ぎてしまい、押出し加工性が阻害される可能性はある。
【0026】
<実施例>
次に、本実施形態における押出し加工物の製造方法および電線・ケーブルの実施例を説明する。
【0027】
まず、電線・ケーブルにも適用されているポリエチレン(ダウケミカル日本社製のNUCG‐5130),ジクミルペルオキシド(三井石油化学社製の三井DCP),トリメトキシビニルシラン(MOMENTIVE社製のA‐171),ジオクチル錫ジラウレート(日東化成社製のU‐810)を含んだ配合材料から成るシラン架橋型ポリオレフィン組成物100重量部に対し、一次酸化防止剤としてテトラキス〔メチレン‐3(3,5‐ジ‐第三ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のIRGANOX1010),二次酸化防止剤としてトリス(2,4‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)フォスファイト(チバ・スペシャルティ・ケミカルズのIRGAFOS168)を下記表1に示す配合量(0.05重量部〜0.2重量部)で配合して種々の試料S1〜S10をそれぞれ得た。
【0028】
そして、前記の試料S1〜S10において、それぞれ同方向回転二軸押出し機(JSW社製の型式TEX)を用いて可塑化し下記表1に示す押出し加工温度で押出し加工することにより、当該可塑化物のMFR(g/10分),押出し加工時の吐出量(kg/h),外観性を観測した。なお、下記表1中の外観性の欄において、記号「○」は押出し加工物に劣化(変色)が観られなかった場合、記号「×」は当該劣化が僅かに観られた場合、記号「×」は当該劣化が多く観られた場合を示すものとする。また、総合判定の欄において、記号「○」は電線・ケーブルの被覆材として適用(再利用)して十分な諸特性(耐熱性,機械的物性等)を付与できる場合、記号「△」は電線・ケーブルの被覆材として適用(再利用)できる可能性はある場合、記号「×」は電線・ケーブルの被覆材として適用(再利用)することは困難である場合を示すものとする。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示す結果において、押出し加工温度が200℃〜400℃の範囲から大きく外れた試料S5,S6の場合は、MFRが極端に小さ過ぎたり大き過ぎてしまい、押出し加工性が低く電線・ケーブルの被覆材として再利用することが困難であることを判明した。
【0031】
一方、押出し加工温度が200℃〜400℃の範囲内の試料S1〜S4,S8,S9の場合は、MFRが極端に小さ過ぎたり大き過ぎることはなく、十分な押出し加工性を確保(表1中に示す目安のほぼ範囲内)でき、少なくとも試料S5,S6の場合と比較して、電線・ケーブルの被覆材として再利用できる、または再利用できる可能性が十分あることを判明した。特に、一次酸化防止剤と二次酸化防止剤を併用した試料S4,S8,S9においては、優れた結果が得られたことを読み取れる。
【0032】
なお、試料S7,S10の場合は、押出し加工温度が200℃〜400℃の範囲から僅かに外れるものであるが、試料S5,S6の場合と比較すると十分良好な観測結果が得られ、電線・ケーブルの被覆材として再利用できる可能性が十分あることを判明した。
【0033】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0034】
例えば実施例と異なる材料や押出し加工機であっても、平均架橋度20%〜60%のシラン架橋型ポリオレフィン組成物に少なくとも酸化防止剤を加え混練して可塑化し、その可塑化物を温度200℃〜400℃で押出し加工して押出し加工物を製造するものであれば、実施例同様の作用効果が得られることを確認した。
【符号の説明】
【0035】
1…電線・ケーブル
2…導体
3…被覆材
4…シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均架橋度20%〜60%のシラン架橋型ポリオレフィン組成物に少なくとも酸化防止剤を加え混練して可塑化し、その可塑化物を温度200℃〜400℃で押出し加工することを特徴とする押出し加工物の製造方法。
【請求項2】
前記酸化防止剤は、遊離基連鎖抑制作用を有する一次酸化防止剤と、過酸化物分解作用を有する二次酸化防止剤であることを特徴とする請求項1記載の押出し加工物の製造方法。
【請求項3】
前記酸化防止剤は、シラン架橋型ポリオレフィン組成物100重量部に対し0.05〜5重量部配合することを特徴とする請求項1または2記載の押出し加工物の製造方法。
【請求項4】
ワイヤー状の導体の外周面に被覆材を被覆した電線・ケーブルであって、
前記の被覆材として、請求項1〜3の何れか記載の製造方法により得た押出し加工物を用いたことを特徴とする電線・ケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−802(P2012−802A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136015(P2010−136015)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】