説明

押出し装置及びゴムローラの製造方法

【課題】電子写真装置などに用いるゴムローラ等の押出し物の外形を精度良く制御するためのゴム用押出し装置と、該ゴム用押出し装置を用いたゴムローラの製造方法を提供する。
【解決手段】温調可能なクロスヘッドと、温調が可能なダイスと、ダイス保持部材を少なくとも備える、原料組成物を芯金の周囲に円筒状に形成するゴム用の押出し装置であって、該ダイスは樹脂で形成され、該ダイス保持部材は金属で形成され、該ダイスの内周は円筒形状を有し、その内周の一部に内周面と同軸をなすテーパー面を備え、該テーパー面最小内径箇所の外側にある円筒の外周面とダイス保持部材との間に隙間を全面に設け、かつ該ダイスの材料流入側の端面はクロスヘッドと面で合わさる構造で、ダイス保持部材の内径にH7の基準穴とし、ダイスの外周をf8の軸の公差域を適用した場合の最大隙間の1/2の隙間を少なくとも設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴムローラの製造に用いる押出し装置及びそれを用いたゴムローラの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムローラの製造方法として、クロスヘッドを用いて芯金とゴムを共押し出しする方法がある。クロスヘッド押出しを行った後に、外径を研磨して、所望の形状や外径に仕上げることが多い。その際、押出し後の外径と製品での外径に開きがあると、研磨に時間がかかる。そのため、押出し精度を高め、研磨等の追加工を行わずともゴムローラとして使用することが可能なように、高精度にクロスヘッド押出しする方法が検討されてきた。そのような手段の一つとして、押出しの外径制御がある。押出し成形では、材料の温度変動、メッシュ詰まりなどによって、経時的に外径が変動していくことが知られている。安定して高精度でゴムローラを製造するためには、外径変動を補正することが必要となる。
【0003】
その方法として、押出し物が発泡体であれば、樹脂の温度制御を行うことで、押出し物の外径を制御する方法が特許文献1に開示されている。しかし、スクリューの回転数をフィードバックで制御する場合には、スクリューの回転数を微小に変化させただけで押し出される材料の量が大きく変化し、つまり外径が大きく変化し、大まかには制御できるものの精密に調整することが困難であった。特に、低回転で押出しを行っている場合には、制御に伴うスクリューの微小な回転変化によって外径が大きく変化してしまうため、難しいものであった。また、押出しされる物の温度を制御する場合でも、その押し出される物が非発泡体であると、温度による体積膨張は少なく、自由に外径を制御することが困難であった。
【0004】
一方で、押出し性を改良するために、押出し装置のダイスとして、フッ素樹脂を用いることが特許文献2に開示されている。しかし、ダイスの周囲に隙間を設ける等を行っていないため、押出しの外形を精密に制御することは困難であった。さらに、特許文献3では、一つの押出し機に対して二つのヘッドを具備する押出し装置が検討されている。しかし、複雑な機構を必要としない制御方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−216920公報
【特許文献2】特開平7−314528公報
【特許文献3】特開平9−198942公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、ゴムローラ等の押出し物の外径を精度良く安定して成形することのできる押出し装置を提供することを目的とする。また本発明は、高精度なゴムローラの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ダイスの熱膨張による内径変化を利用するためにダイスに樹脂を用い、ダイスの温調を行い、押出し物の外径を制御することを考え、内径変化を制御できる押出し装置の構造に関する知見を得て、さらに検討して、遂に本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る押出し装置は、温調が可能なクロスヘッドと、温調が可能なダイスと、該ダイスを保持するダイス保持部材を少なくとも備える、原料組成物を芯金の周囲に円筒状に形成するゴム用の押出し装置であって、
該ダイスは樹脂で形成され、該ダイス保持部材は金属で形成され、該ダイスの内周は円筒形状を有し、該ダイスの内周の一部に内周面と同軸をなすテーパー面を該ダイスは備え、該テーパー面の最小内径箇所の外側にあるダイスの円筒の外周面とダイス保持部材との間に全周にわたって、該ダイス保持部材の内径にH7の基準穴を適用した場合の最大内径と該ダイスの外径にf8の軸の公差域クラスを適用した場合の最大隙間の1/2の隙間を少なくとも設け、原料組成物が流入する側の該ダイスの端面はクロスヘッドと面で合わさっていることを特徴とする。
【0009】
また本発明に係るゴムローラの製造方法は、上記の押出し装置を用い、原料組成物を芯金の周囲に円筒状に押出してゴムローラを形成し、ゴムローラの外径を測定した値と外径の目標値との偏差を元に、形成されるゴムローラの外径が目標値となるようにゴム用押出し装置のダイスの温度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クロスヘッドを用いてゴムを芯金と共に押出した際に、精度良く押出し外径を制御することができる。また、長時間にわたって多数本押出しても、外径が安定したゴムローラを安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ゴム用押出し装置の一例を模式的に表した図である。(a)正面図及び(b)側面図。
【図2】ゴム用押出し装置におけるクロスヘッドの一例を模式的に表した断面図である。
【図3】ダイス部周辺を模式的に表した断面図である。上はA−A断面図である。
【図4】ダイス及びダイス保持部材の例を模式的に示す断面図である。
【図5】従来のダイス及びダイス保持部材の一例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の2つのクロスヘッドを備えたゴム用押出し装置の例を模式的に表した図である。(a)平面図及び(b)側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、押出しの外径制御において、微小な外径制御にダイスの熱膨張を利用したものである。具体的には、ダイスを加熱すれば内径/外径が膨張し、冷却すれば収縮する現象を利用したものである。ただ、ゴムを押出す通常のゴム用押出し装置においては、ダイスはダイス保持部材に隙間無く保持されており(挿入するためのはめあい公差を除いて)、内径/外径を膨張させることが難しくなっていた。また、ダイスに熱膨張率の小さい金属を用いたのでは、現実的に利用できる変化幅が小さすぎるものであった。そこで、本発明においては、ダイスの外径が拡大する方向に所定の大きさで隙間を設けること、さらに材質として熱膨張の大きい樹脂を用いることで、押出される物の外径を精密に制御可能にすることができる。また、ダイスやダイス保持部材の温度を変化させると、押出される材料そのものの温度も変化し、流動性が変化し、吐出量すなわち外径も合せて変動させるといった効果も併せてある。
【0013】
ダイスの加熱は、クロスヘッド本体の温調とは別に設けたダイス或いはダイスヒーターの温調にて行う。ダイスの温度を変化させることで、押出される物の外径を制御する。温度による調整を利用するため、1℃程度での分解能で調節が可能であり、内径の変化としてはスクリューの回転を制御する場合よりも微小な変動を調節することができる。
【0014】
なお、精密に制御を行うためには、円筒状に押出すよりも、クロスヘッド押出しを行って、芯金と同時に原料組成物を押出すことがより好ましい。押出し物の形状がヘッドから出た後にも正確に保持できることや、チューブ状に押出す際の内径の影響が無いことから、精度良く外径(吐出量)を測定、制御することができる。
【0015】
図1に、押出し装置の一例の正面図(a)と側面図(b)を示す。図において、10は押出し機であり、下向きクロスヘッド11を備える。クロスヘッド11にはゴムローラの芯金12を通過させる円孔部を備えるマンドレルが設けられ、所定の長さを有する芯金12が供給される。該芯金12はクロスヘッド出口部に設けられたダイス部で弾性層用原料組成物が被覆されながら同時に押出されるようになっている。
【0016】
図2に、該クロスヘッド11の詳細を、断面図で模式的に示す。クロスヘッド11内部には、芯金12を通すための円孔部を備えたマンドレル22が設けられている。原料組成物は押出し機からクロスヘッド11のネック部23を通ってマンドレル22近傍に到達する。到達した原料組成物はマンドレル22に沿って二つに分流し、マンドレル22の反対側で再び合流することで円筒状になる。その後、原料組成物はニップル20方向に進み、ニップル20の先端部で芯金12の周囲に被覆され、さらに、ダイス21によって所定の外径に調整される。なお、ダイス21は、芯金12の進行方向に対して直交二軸の方向に動かせるようにクロスヘッド11の周囲に90度ピッチで配置された4本の調芯ボルト15を備えた超芯リング27に固定されており、円筒状の原料組成物と芯金との中心を合せるように調整することができるようになっている。
【0017】
図3に、ダイス21の詳細の模式的断面図を示す。なお下図は流路に対し縦方向の図であり、上図は下図のA−Aでの端面図である。ダイス21は、原料組成物を所望の外径に絞るためのテーパー面40を備え、内径一定の内周面41(ランド部)に繋がっている。このテーパー面40は、ランド部41と中心軸が同軸に形成されている。ダイス21の外部形状は、円筒形状やテーパー面などを備えることができ、適宜組み合わせた形状とすることができる。ダイス21は、ダイス保持部材26により保持されている。ダイス21の外周部は、ダイス保持部材26との間に隙間24が設けられている。この隙間24は、原料組成物の流路と繋がらないように、押出し方向に直交する面43(ダイスの材料流入側の端面)でクロスヘッド11本体の一部である調芯リング27と面合しされ、ダイス保持部材26に備わるネジなどの手段によって該調芯リング27に押し付けられている。
【0018】
クロスヘッドの温調は、クロスヘッド本体に温水を循環させることができるジャケットを備えることで可能である。また、ダイス21或いはダイス保持部材26の温調は、図3に示すように、バンドヒーター25などを備えることで可能である。なお、ダイス温度を自動で調節する際には、ダイス保持部材26に穴を設け、ダイス21の温度を直接熱電対28等で測定すると良い。なお、隙間24を大きくする場合には、熱伝導が悪くなるので、ダイス21に直接ヒーターなどを備えると良い。
【0019】
ダイス21はダイス保持部材26によって位置を固定されるものである。しかし、精密に押出す場合に、ガタ等があると押出し物の外径や振れが悪化するため、また、ガタがあると、調芯ボルト15によるダイスの調整をする際にも障害となるため、従来は第5図に示す様に、ダイス21の外形をダイス保持部材26の内径と嵌合させられるような寸法で作成されていた。
【0020】
従って、従来はダイス外径とダイス保持部材内径は、JIS B0401−1(1998)におけるはめあい公差で、例えば、H7の基準穴に対して、軸の公差域クラスh6〜h7、f6〜f7、g6〜g7程度で作成され、はめあわせた後は大きなガタがないようになっていた。
【0021】
本発明においては、ガタ等無く、かつ外径が熱膨張しやすい構造を明らかにした。その手法として、外周面で保持するのではなく、ダイスの押出し出口側に位置する一部で、インロー部或いはテーパー面等を設けて位置を固定する。
【0022】
クロスヘッド押出しにおいて、連続的に芯金12を供給している際には、ダイス21のランド部41における内径よりも小さな外径の押出し物を得ることが行われる。押出し物の外径はダイスの内周に設けられたテーパー面40の最小内径箇所40aでほぼ決まり、ランド部41の押出し外径に対して影響が小さい。
【0023】
従って、テーパー面40の最小内径箇所40aに対する外周面42は隙間を設けて膨張できるようにし、ランド部41に対応した外周面に関しては固定に用いても、固定による熱膨張の抑制は少なくすることができる。
【0024】
本発明にかかるダイスの形状としては、図4(a)乃至(c)に示すような構造が挙げられる。
【0025】
図4(a)の構造は、先端外周部にインロー合せ部44を設け、かつその部分の内径を大きくしたものである。押出し外径を決める部分とは異なる箇所でダイス保持部材26に対する位置決めをすることで、インロー合せをしても、外周に隙間24を設けることが可能となる。なお、内径を大きくする箇所が無い場合には、十分内径が拡大することができないため、好ましく無いことがある。
【0026】
テーパー面最小内径箇所40aと先端外周部のインロー合せ部44は、ある程度距離を設けた方が膨張しやすいため、5mm乃至20mm(図中、寸法B)程度が良く、特に好ましくは10mm乃至15mmである。
【0027】
図4(b)の構造は、ダイス21の円筒形状の外周の一部に内周のテーパー面40と中心軸が同軸なテーパー面45を備えるものである。ダイス21の外周面にテーパー面45がある場合には、リング状の部材などの可動できる部材31を介してダイス保持部材26を保持する構造をとることができ、位置決めすることが可能となる。ただ、接触する部分が点や線状になる場合があるため、押出し圧力が高い場合には、耐久性等に課題が出る可能性がある。
【0028】
可動できる部材31としては、リングの形状以外でも、球や棒の形状でも良く、材質としては、耐久性などを考えて、金属製、セラミック製などが良い。
【0029】
図4(c)の構造は、ダイス保持部材26の内周にもテーパー面46を備え、ダイスの外周に備わるテーパー面45と中心軸を同軸に保持するように、テーパー面同士を接触させるものである。テーパー面同士を合せることで、軸合せと位置決めを確実に行うことが可能となり、好ましい構造である。また、テーパー面で合せるため、ダイス21とダイス保持部材26との接触面積が大きく、ダイス保持部材27にヒーターを備える場合などは、熱伝導が良くなることからも好ましいものである。
【0030】
なお、ダイス21内のテーパー面最小内径箇所40aの外側にある円筒外周面は、テーパー面最小内径箇所40aをなす円を含み、該テーパー面中心軸に垂直な面との交線を含む外周面である。第4図(c)においては、A−A断面がダイス21と交わる外周面を指す。本発明では、この外周面全面でダイス保持部材26との間に隙間24を設けることが必要となる。通常ダイス21に適用されるはめあい公差では、公差が比較的ゆるくとも必ずどこかで接触した状態で固定されるが、接触していることが外径を膨張させる際の障害となっていた。
【0031】
テーパー面45の角度Bとしては、浅い方がダイス21の膨張に対して阻害しづらいが、位置決めの効果が少なくなるため、45度乃至75度(中心軸に対して)が良い。
【0032】
設ける隙間量に関しては、制御したい外径の幅などを考慮して決めることができるが、小さすぎるとダイス21が膨張できないため好ましくない。また、大きすぎると、ダイス保持部材26の外側にヒーターを配置する場合、温度の伝わりが鈍くなるためあまり好ましくない。さらに、ダイスの外径によってある温度をかけた際の膨張時のダイス外径の膨張量が異なるため、ダイス保持部材との間に必要な隙間の量が異なる。
【0033】
以上の点を鑑みて、本発明においてはダイスの外径/ダイス保持部材の内径の大きさに従って決まる量であるはめあい基準(JIS B0401−1(1998))に着目した。すなわち、ダイス保持部材の内径にH7の基準穴を適用した場合の最大内径とダイスの外径に軸の公差域f8を適用した場合の最大すきまの少なくとも1/2の隙間を、全面に設ければ、ダイス温調による外径制御の効果があげられることを見出した。
【0034】
また、ダイス保持部材の外側に設けたヒーターで温度を制御する場合には、熱伝導の面から制御する最大温度時に隙間が0.1mm乃至1mm程度に抑えることが好ましい。なお、隙間の測定は、常温(23℃)で行うものとする。
【0035】
隙間の確認方法としては、ダイスをダイス保持部材にセットした状態(クロスヘッドには組み込まない)で、目標とする最小隙間と同一寸法の隙間ゲージや丸棒等を用い、ダイス外周全面に対して挿入可能かどうかで判断することができる。また別の方法としては、三次元測定機を用い、ダイス保持部材とダイスを別々に測定し、組み合わせた際の隙間を計算しても良い。
【0036】
図1に図示する押出し装置には、連続的に所定の長さを有する芯金を自動的に送り込むことができるように芯金供給ユニット14を備える。芯金送りユニット14は、芯金供給部13を備え、芯金ストッカー13aから芯金12を取り出し、芯金送り部14に供給する機構が備わる。芯金12は端面間に隙間無く送りローラ14aに供給される芯金12は、ゴム或いはエラストマーを円筒状に被覆されながらクロスヘッド11から押出され、静止していた支持機構17に途中で接触する。支持機構17は押し出された芯金の進行方向に押されて移動する。支持機構17が所定の位置に到達した時点で、半円状に切りかかれた一対の切断刃16が芯金の周囲に形成された円筒状の原料組成物を切断する。切断された後、支持機構17と切断刃16を芯金の押出し方向に芯金送り速度よりも早い速度で動かし、原料組成物を被覆した芯金(ここで未加硫ローラとする)一本ずつに分離する。その後オートハンド18によってトレイ19に置かれ、次工程(加熱加硫工程、ゴム層トリミング工程(図省略))に進み、ゴムローラを得るものである。
【0037】
押出しヘッドのダイス出口近傍には、押出し物の外径を測定するためのセンサー37を備える。測定に用いるセンサーとしては非接触で外径を測定できるものが良く、例えば、株式会社キーエンス製の寸法/外径測定器「LS−7030」(商品名)等を用いることができる。
【0038】
ダイスの材質としては、熱膨張がある程度大きく、強度のあるものが好ましい。また、原料組成物の押出し時に温度に耐えられるように耐熱性も必要となる。具体的には、以下の樹脂を例示できる。ナイロン(商品名)を含むポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE、変性PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、テフロンR(商品名、ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、アクリル樹脂(PMMA)など。熱膨張率や強度面から、特に好ましくは、ポリアセタール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトンなどである。また、樹脂の中に、カーボン繊維、ガラス繊維などの繊維や、カーボン、グラファイト、シリカ、炭酸カルシウムなどの充填材を含んでも良い。
【0039】
なお、ダイスの材質の熱膨張率としては、JIS K7197(1991)に示される線膨張率の値が5×10-5/K以上のものが好ましい。また、樹脂の強度としては、JIS K7191(2007)に示される荷重たわみ温度(荷重1.82MPa)がダイスの使用温度(制御上限温度)よりも高いことが好ましい。従って、本発明では、溶融温度が高い樹脂などではダイスの強度と熱膨張の面から適した素材が見つからない可能性があるため、用いることが難しい場合があるが、ゴムの押出しに関しては十分対応可能である。
【0040】
ダイス保持部材の材質としては、強度のある金属が好ましく、一般的に用いられる鋼材やステンレス鋼、アルミ、ニッケルの他にマグネシウム合金、アルミ合金などの合金類などいずれを用いても良い。また、ニッケルやクロム等のメッキやチッ化処理、或いは樹脂等などの表面処理を施しても良い。特に好ましくは、鋼材上にクロムメッキを施したものが耐久性などから良い。
【0041】
なお、本発明では、押出された物の外径の制御は、ダイスの温度を調整して、熱膨張により微妙なランド部で径を変化させることによっている。本発明におけるダイスの熱膨張を利用した外径制御方法は、スクリューの回転数を変化させることによる外径制御や、引き取り速度を変化させることによる外径制御と組み合わせても良い。例えば、大まかな制御をスクリューの回転数で行い、微小な制御を本発明による手法とすることができる。
【0042】
さらに、一つのシリンダー/スクリューを持つ押出し機において、ヘッドを二つ備える場合に本発明を適用することで、均一で精度良い押出しを行うことができる。なお、二つのヘッドを備える押出しの場合、単にスクリュー回転数を制御しても、二つのヘッド間に微小な差異による外径差の発生が課題となる。外径差は、二つのヘッドの寸法の微小な差や、表面仕上げの差や、温度などに起因し、全く同一に仕上げることは困難であった。
【0043】
図6に、二ヘッドを有する押出し装置の概要を(a)側面図、(b)平面図で模式的に示す。該押出し装置では一つのスクリュー、シリンダーを備えた押出し機10に原料組成物を供給し、分流部34で流れを二つに分け、35に示すクロスヘッドA、36に示すクロスヘッドBで成形する。それぞれのクロスヘッド出口には外径測定機37、38を設け、ダイス、ダイス保持部材は上記の発明を適用する。
【0044】
その上で、外径制御の手法としては、片方のクロスヘッドAを基準とし、外径測定機37で測定した外径と目標値の偏差を元に、スクリュー回転数にフィードバックして二つのクロスヘッドの外径を同調して制御する。その際、二つのクロスヘッド間の差異によって生じる外径差を補正するために、クロスヘッドBのダイス或いはダイス保持部材の温調を制御することにより、基準となるクロスヘッドAに外径を合せることができる。従って、二つのクロスヘッド間の差異も無く、安定して高精度の押出しをすることが可能となる。なお、クロスヘッドをさらに多くしても、同様に制御することが可能である。
【0045】
ダイスの温度制御方法としては、偏差に比例して入力値を変化させる比例制御(P制御)、偏差の積分に比例して入力値を変化させる動作を組み合わせたPI制御、偏差の微分に比例して入力値を変化させる動作を組み合わせたPID制御などを用いることができる。
【0046】
以上述べてきたような押出し装置を用いて成形を行えば、外径精度の良いゴムローラを安定して得ることができる。
【0047】
こうしたゴムローラは金属等からなる芯金の周囲にゴムの弾性層を設けたものであるが、芯金の材質としては、例えば鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、コバルト、ニッケル、クロム・ニッケル等、あるいはこれらの合金からなるものを用いることができる。また、クロム・ニッケル等でメッキ処理を施しても良い。
【0048】
ゴムローラの弾性層の材料としては、以下のものが挙げられる。天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッソゴム、塩素ゴム、熱可塑エラストマー等。これらの材料は単体で、又は複数種を混合して用いることができる。また、ゴムローラの弾性層に導電性を付与するために、上記ゴム弾性層用材料中には導電性粒子を分散させても良い。この導電性粒子としては導電性カーボンを用いることができる。また、天然グラファイトや人造グラファイトなどのグラファイト、TiO2、SnO2、ZnOなどの金酸化物、SnO2とSb23の固溶体、ZnOとAl23の固溶体などの複酸化物、Cu、Agなどの金属粉等、各種の導電性粒子を使用することができる。これらの導電性粒子は単体で、又は複数種を混合して使用しても良い。更に、導電性粒子に、導電性ポリマー、イオン導電剤などを併用することにより、ゴム弾性層に導電性を付与しても良い。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例を挙げ、本発明を説明する。
【0050】
まず、ゴムローラのゴム層用原料について示す。なお、これら以外は工業用グレードを用いた。
(ゴム原料)
・NBR:「ニトリルゴム JSR N230SV」(商品名:JSR株式会社製)
・エピクロルヒドリンゴム:「エピクロマー CG102」(商品名:ダイソー株式会社製)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル3元共重合体
(カーボンブラック)
・カーボンブラックA:「トーカブラック #7360SB」(商品名、東海カーボン株式会社製)
・カーボンブラックB:「シースト SO」(商品名、東海カーボン株式会社製)
(充填剤)
・炭酸カルシウムA:「ナノックス #30」(商品名、丸尾カルシウム株式会社製)
・炭酸カルシウムB:「シルバー W」(商品名、白石カルシウム株式会社製)
(加硫促進剤)
・TBTD:テトラベンジルチウラムジスルフィド「パーカシット TBzTD」(商品名、フレキシス株式会社製)
・DPTT:ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド「ノクセラー TRA」(商品名、大内新興化学工業株式会社製)
(可塑剤)
・アジピン酸エステル:「ポリサイザー W305ELS」(商品名、日本インキ化学工業株式会社製)
【0051】
(実施例1)
〈ゴム原料組成物の調製〉
まず、NBR100質量部、カーボンブラックA44質量部、ステアリン酸亜鉛0.5質量部、酸化亜鉛5質量部及び炭酸カルシウムA20質量部を加圧式ニーダーで15分間混練した。次に、加硫剤(硫黄)1質量部及び加硫促進剤(TBTD)4.5質量部を加え、さらに15分間オープンロールで混練して、原料組成物を得た。
【0052】
〈押出し装置〉
押出し装置として、図2に示す構成のものを用意した。すなわち、押出し機10は口径Φ50mmでL/D=20のベント式押出し機である。また、ダイスは図4(c)の形状を有するものである。外径Φ25mm(f8)、高さ25mm、ランド部の内径Φ8.9mm、ランド部の長さ15mm、内周のテーパーの角度A30度、外周のテーパーの角度B60度である。そして、その材質はPOM(ポリペンコアセタール(商品名)、日本ポリペンコ株式会社製)である。さらに、ダイス保持部材は、内径25mm(H7)であり、ダイスの外周のテーパー部を受ける保持用テーパーが設けられている。ダイス保持部材はダイスの上面をクロスヘッドの下端部に設けられた超芯リングに押し付けるようにねじ止めされている。なお、ダイスの外径とダイス保持部材の内径について、それぞれ変位を測定したところ、どのようなはめあいにおいても、ダイスとダイス保持部材の間に0.2mm以上の隙間が形成されていることが確認できた。該はめあい基準での最大隙間は108μmである。また、クロスヘッド出口には、押出された未加硫ローラの外径を測るために、非接触の外径測定機(寸法/外径測定器「LS−7030」(商品名))を設けた。
【0053】
〈ゴムローラの製造〉
SUM22Lの鋼材にニッケルメッキを施した径Φ6mm、全長が252mmであり、予め両端部10mmを除いた領域に膜厚約3μmのホットメルト接着剤が塗布されたゴムローラの芯金を用意した。また、上記押出し機のシリンダー、スクリュー及びクロスヘッドを80℃に温調した。その状態で、芯金の送り速度を約20mm/secに設定した状態で上記ゴム原料組成物と同時に押出し、未加硫の原料組成物が周囲に形成された未加硫ローラを得た。押出しの最初の内は、クロスヘッド出口に設けた外径測定機で外径を測定し、目標外径Φ8.75mmに対して±0.05mmの範囲に入るまでスクリューの回転数を変更した上で、目標外径と押出し外径の偏差を元にPID制御を用いて、ダイスの温度を制御した。なお、温度の制御範囲は、70℃乃至110℃である。
【0054】
押出し条件が安定したところでさらに20分間押出した後に、本実施例の未加硫ローラを142本連続して製造した。その後、得られた未加硫ローラを熱風式加熱炉中で、160℃で60分加熱してゴムローラを得た。得られたゴムローラは両端が乱れているので、加硫ゴム層の両端10mmを除去し、ゴム長232mmの製品ゴムローラとした。この様にして製造した全製品ゴムローラ142本の外径をレーザー式の寸法/外径測定機「LS−7030」(商品名)で、10mmピッチで測定した。得られた全データの中の最大値−最小値を外径差とする。結果を表1に示した。
【0055】
(実施例2)
ゴム原料組成物として、まず、エピクロルヒドリンゴム100質量部、カーボンブラックB10質量部、ステアリン酸亜鉛1質量部、酸化亜鉛5質量部、炭酸カルシウムB45質量部、テトラブチルアンモニウムパークロレート1質量部及びアジピン酸エステル15質量部を採った。これに、加硫剤(硫黄)0.5質量部と加硫促進剤(DPTT)2質量部を加えて15分間オープンロールで混練した。以下、実施例1と同様にして、ローラを作成し、評価した。結果を表1に示した。
【0056】
(実施例3)
ダイスの形状を図4(b)に示されるような構造に変更した以外は、実施例1と同様にして、ローラを作成し、評価した。結果を表1に示した。なお、用いたダイス部分は実施例1と同一形状であり、リング状部材はリング部の太さは3mmで、材質はSUS304であった。本実施例でも、先の実施例と同様に外径の変動幅が小さく、均一な外径のゴムローラが得られている。
【0057】
(実施例4乃至6)
ダイスの形状を図4(a)に示されるように変更し、ダイス保持部材の内径を調節して、それぞれダイスとダイス保持部材の隙間を、表1に示すようにした以外、実施例1と同様にして、ローラを作成し、評価した。結果を表1に示した。なお、実施例4は、ダイス保持部材の内径をΦ25mmH7、ダイス外径をΦ25mmf8で仕上げた場合の最大すきま(108μm)の1/2の隙間を設けたものである。さらに、ダイスは、ランド部の長さ(寸法A)が3mm、内周テーパー面終わりからインロー合せ部までの距離(寸法B)が10mm、内周テーパー面終わりから先端部までの長さ(寸法C)が15mmであった。これら実施例では、外径の変動幅が小さく、均一な外径のゴムローラが得られている。また、隙間が少なくともダイス保持部材の内径にH7、ダイス外径にf8を適用した場合の最大すきまの1/2以上あれば、ダイス温調による外径制御の効果が十分得られることがわかった。
【0058】
(実施例7、8)
ダイスの材質をPEEK(ポリエーテルエーテルケトン「PK450」(商品名)、日本ポリペンコ株式会社製)(実施例7)又はPA6(6ナイロン「MCナイロン MC901」(商品名、日本ポリペンコ株式会社製)(実施例8)に変更する以外は、実施例1と同様にして、ローラを作成した。以下、実施例1と同様の評価をした。結果を表1に示した。
【0059】
(実施例9)
押出し装置として、図6に示すクロスヘッドを二つ具備する押出し装置を用い、ダイスは実施例1と同様のものをそれぞれのクロスヘッドに取り付け、以下、実施例1と同様にして、ローラを作成し、評価した。結果を表1に示した。なお、ローラの作成・評価は一つのクロスヘッドにつき142本行い、トータルで284本分行った。
【0060】
制御方法としては、クロスヘッドAを基準とし、外径測定装置で測定した外径と外径の目標値Φ8.75mmの偏差を元に、スクリュー回転数にフィードバックした。その後、二つのクロスヘッド間の外径差はクロスヘッドBのダイス或いはダイス保持部材の温調を、クロスヘッドAからの外径と合せる様にした。なお、制御時にはスクリューの回転数に対するフィードバックは、間隔を延ばし、60secに1回回転数の変更を行う条件とした。また、実施例1と同様に基準となるクロスヘッドAにて、目標外径値±0.05mmに入るまで調整した上で、安定時間として20分間押出し後、未架橋ローラの製造を行った。このように、2つクロスヘッドを設けたものでも、クロスヘッド間の外径差を小さくすることができ、かつ、それぞれのクロスヘッド内でも外径の変動幅が小さくなっており、トータルでも均一な外径のゴムローラが得られている。
【0061】
(比較例1)
ダイスとダイス保持部材の隙間0.02mmにした以外は、実施例1と同様にして、ローラを作成し、評価した。結果を表1に示した。なお、ダイス保持部材の内径をΦ25mmH7とし、ダイスの外径はΦ25mmf7とし、隙間が全周にあることを確認した。得られたゴムローラは外径の変動幅が大きく、安定しない結果となった。
【0062】
(比較例2)
ダイスの材質を鋼材(S45C)に無電解ニッケルメッキを施したもの(鉄+KN)とした以外は、比較例1と同様にして、ゴムローラを作成し、評価した。結果を表1に示した。得られたゴムローラは外径の変動幅が大きく、安定しない結果となった。
【0063】
(比較例3、4)
ダイスを図5に示した構造のものにし、材質はPOM(比較例3)又は(鉄+KN)(比較例4)とした。また、ダイス保持部材とダイスの間に原料組成物が入り込むのを防ぐため隙間量は実質的に0mmであるようにした。それ以外は、実施例1と同様にして、ゴムローラを作成し、評価した。結果を表1に示した。なお、ダイスの外周はh7で作成したものである。その結果、これら比較例では、ゴムローラの外径の変動幅が大きく、安定しない結果となった。
【0064】
(比較例5)
ゴム原料組成物を実施例2のものにし、ダイスとして比較例4のものを用いた以外は、実施例2と同様にして、ゴムローラを作成し、評価した。結果を表1に示した。ゴムローラの外径の変動幅が大きく、安定しない結果となった。
【0065】
(比較例6)
ダイスの材質を(鉄+KN)に変更した以外は、実施例8と同様にして、ゴムローラを作成し、評価した。結果を表1に示した。ダイスは熱膨張性が十分でないために、クロスヘッドAとBの外径差を上手く補正できず、得られたゴムローラの外径の変動幅はより大きなものになってしまった。
【0066】
【表1】

【符号の説明】
【0067】
21 ダイス
24 隙間
25 ダイスヒーター
26 ダイス保持部材
27 調芯リング
28 熱電対
40 テーパー面
40aテーパー面最小内径箇所
41 ランド部
42 外周面
43 合せ面
45 外周テーパー面
46 ダイス保持部材テーパー面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温調が可能なクロスヘッドと、温調が可能なダイスと、該ダイスを保持するダイス保持部材を少なくとも備える、原料組成物を芯金の周囲に円筒状に形成するゴム用の押出し装置であって、
該ダイスは樹脂で形成され、該ダイス保持部材は金属で形成され、該ダイスの内周は円筒形状を有し、該ダイスの内周の一部に内周面と同軸をなすテーパー面を該ダイスは備え、該テーパー面の最小内径箇所の外側にあるダイスの円筒の外周面とダイス保持部材との間に全周にわたって、該ダイス保持部材の内径にH7の基準穴を適用した場合の最大内径と該ダイスの外径にf8の軸の公差域クラスを適用した場合の最大隙間の1/2の隙間を少なくとも設け、原料組成物が流入する側の該ダイスの端面はクロスヘッドと面で合わさっていることを特徴とする押出し装置。
【請求項2】
前記ダイスがポリアセタール、ナイロン又はポリエーテルエーテルケトンを含む材料で形成されている請求項1記載のゴム用押出し装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム用の押出し装置を用い、原料組成物を芯金の周囲に円筒状に押出してゴムローラを形成し、ゴムローラの外径を測定した値と外径の目標値との偏差を元に、形成されるゴムローラの外径が目標値となるようにゴム用の押出し装置のダイスの温度を制御することを特徴とするゴムローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−121329(P2011−121329A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282716(P2009−282716)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】