説明

抽出装置及び抽出方法

【課題】抽出原料に抽出溶媒を満遍なく吹き付けることができ、装置構造を簡単にしてコスト低減可能な抽出装置及び抽出方法を提供する。
【解決手段】この抽出装置1は、抽出原料の導入口11を上方に有し、抽出液の取出し口13aを下方に有する容器10と、取出し口13aよりも上方のフィルタ17と、抽出原料を均すための回転可能な攪拌羽根25と、フィルタ17上に導入された抽出原料に抽出溶媒を散布するシャワー装置40とを備え、シャワー装置40は、複数の同心円上に周方向に沿って所定間隔で、かつ、隣接する内外の同心円上で半径方向に重ならないように配置された複数の噴射口60を有し、各噴射口60からの抽出溶媒の噴射量は、前記同心円の内側に位置する噴射口60の噴射量よりも、同心円の外側に位置する噴射口60の噴射量の方が、多くなるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば節類、海藻類、茶類、コーヒー類等の抽出原料が有する香気成分や旨味成分を、少量の抽出溶媒によって、十分かつ効率よく抽出することができる、抽出装置及び抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鰹節等の節類や、昆布等の海藻類から得られるだしは、めんつゆや煮物等の和食のベース調味料として広く使用されており、このようなだしを配合した様々な調味料や加工食品が数多く出回っている。
【0003】
上記の、鰹節等の節類や昆布等の海藻類から得られるだし等を、抽出するための方法としては、抽出原料となる節類及び/又は海藻類を抽出溶媒とともにタンクに入れ、これらを適宜撹拌しながらエキスの抽出を行うバッチ式抽出法や、抽出原料を充填したカラムに抽出溶媒を通液してエキスの抽出を行うカラム式抽出法等が知られている。
【0004】
一方、本出願人は、受け面にフィルターを備えた容器に節類を充填し、前記容器内に形成された節類の充填層のカラムベッド面に抽出溶媒を滴下して、前記充填層のカラムベッド面に前記抽出溶媒が液溜めされない状態で、前記充填層に前記抽出溶媒を通液することを特徴とする節類エキスの製造方法を提案している(特許文献1)。
【0005】
また、鰹節等の節類や昆布等の海藻類から得られるだし等を抽出するための装置として、下記特許文献2には、抽出タンクの底部に網状のフィルタを配設するとともに、抽出タンクに投入された原料に熱水を散布するシャワーパイプと、熱水を散布した原料を攪拌する攪拌羽根とを回転可能に設置し、前記シャワーパイプと攪拌羽根の回転軸を個別に回動可能に設けた同軸の2軸により形成するとともに、少なくとも攪拌羽根の回転軸を抽出タンク内で昇降可能に設けた、食品用液体抽出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008―35767号公報
【特許文献2】特開2004―321137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に記載された抽出方法では、カラムベッド上に充填された抽出原料に、抽出溶媒を満遍なく吹き付けることが要求される。
【0008】
これに関し、上記特許文献2の食品用液体抽出装置では、シャワーパイプを回転させることによって、抽出溶媒である熱水を、抽出タンクに投入された原料に満遍なく散布するように構成されている。しかし、この抽出装置においては、原料を攪拌するための攪拌羽根も回転する構造となっており、結局、攪拌羽根とシャワーパイプとの2つの部材を回転させなければならないので、装置構造が複雑でコストが高いというデメリットがあった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、タンク内に投入された抽出原料に、抽出溶媒を満遍なく吹き付けることができ、また、装置構造を簡単にしてコストを低減することができる抽出装置及び抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の抽出装置は、抽出原料の導入口を上方に有し、抽出液の取出し口を下方に有する容器と、
該容器の前記取出し口よりも上方に配置されたフィルタと、
前記フィルタ上に導入された抽出原料を均すための回転可能な攪拌羽根と、
前記フィルタ上に導入された抽出原料に抽出溶媒を散布するシャワー装置とを備え、
前記シャワー装置は、複数の同心円上に周方向に沿って所定間隔で、かつ、隣接する内外の同心円上で半径方向に重ならないように配置された複数の噴射口を有し、
前記各噴射口からの前記抽出溶媒の噴射量は、前記同心円の内側に位置する噴射口の噴射量よりも、前記同心円の外側に位置する噴射口の噴射量の方が、多くなるように設定されていることを特徴とする。
【0011】
上記発明によれば、容器のフィルタ上に導入された抽出原料を攪拌羽根で均した後、シャワー装置の複数の噴射口から抽出溶媒を噴射して抽出原料の上面に吹き付けることにより、抽出原料に抽出溶媒が通液されて、抽出原料のもつ香気成分や旨味成分等が抽出される。
【0012】
そして、上記シャワー装置は、複数の同心円上に周方向に沿って所定間隔で、かつ、隣接する内外の同心円上で半径方向に重ならないように配置された複数の噴射口を有しているので、抽出溶媒を、抽出原料の上面全体に漏れなく確実に吹き付けることができる。
【0013】
それと共に、各噴射口からの前記抽出溶媒の噴射量は、前記同心円の内側に位置する噴射口の噴射量よりも、前記同心円の外側に位置する噴射口の噴射量の方が、多くなるように設定されている。すなわち、各噴射口の吹付け領域の重なり度合いが多く、抽出溶媒の噴射量が過剰になりがちな容器の中心側へは、抽出溶媒の噴射量を少なくする一方、各噴射口の吹付け領域の重なり度合いが少なく、抽出溶媒の噴射量が不足しがちな容器の内周縁側へは、抽出溶媒の噴出量を多くすることにより、抽出溶媒の噴出量を適宜調整して、吹付けムラを少なくすることができ、抽出原料の上面領域にほぼ満遍なく、溶出溶媒を吹き付けることができる。
【0014】
上記のように、この抽出装置によれば、抽出溶媒を抽出原料の上面領域全体に確実かつ満遍なく吹き付けることができるので、抽出原料の香気成分や旨味成分等を充分かつムラなく効率的に抽出することができる。
【0015】
また、この抽出装置においては、シャワー装置の各噴射口の配置を上記のように設定することにより、シャワー装置を特に回転させることなく、抽出原料に抽出溶媒を満遍なく吹き付けることができるので、シャワー装置を回転させる構造が不要となる。その結果、装置構造を簡単にすることができると共に、装置全体をコンパクト化することができ、装置の製造コストの低減を図ることができる。
【0016】
本発明の抽出装置においては、前記各噴射口から噴射されて前記抽出原料の上面に吹付けられる抽出溶媒の吹付け領域の重なり度合いが最も多い部分の吹付け量が、重なり度合いが最も少ない部分の吹付け量に対して1.1〜5倍となるように設定されていることが好ましい。これによれば、抽出溶媒の吹付けムラをより少なくして、抽出原料の上面領域により満遍なく、溶出溶媒を吹き付けることができる。
【0017】
本発明の抽出装置においては、前記シャワー装置は、同心状に配置された複数の環状又は円弧状の配管を有し、各環状又は円弧状の配管は互いに連通されており、各環状又は円弧状の配管の周方向に沿って所定間隔で前記噴射口が形成されていることが好ましい。これによれば、同心状に配置された複数の配管が互いに連通されているので、複数の配管のいずれかに抽出溶媒を供給するだけの簡単な構造で、各配管に設けた噴射口から抽出溶媒を抽出原料に吹き付けることができ、装置構造をより簡単にすることができると共に、各配管が環状又は円弧状をなしているので、抽出溶媒の流動抵抗を低減させて、各噴射口に抽出溶媒をスムーズに供給することができる。
【0018】
本発明の抽出装置においては、前記攪拌羽根及び前記シャワー装置は、前記容器内でそれぞれ昇降可能に支持されていることが好ましい。これによれば、抽出原料の導入量に応じて、攪拌羽根を上下させ、均し効果が高い位置に配置することができると共に、シャワー装置を上下させて、各噴射口からの抽出溶媒の吹付け領域を拡大又は縮小させ、シャワー装置を抽出原料に対して最適な距離に配置することができる。
【0019】
一方、本発明の抽出方法は、上記抽出装置を用い、所定量の抽出原料を前記フィルタ上に導入し、前記攪拌羽根でフィルタ上の抽出原料の厚さが均一になるように均し、前記シャワー装置の各噴射口から抽出溶媒を噴射して、前記抽出原料の上面に前記抽出溶媒が液溜めされない状態で、前記抽出原料の充填層に前記抽出溶媒を通液させることを特徴とする。
【0020】
上記発明によれば、上記構造の抽出装置を用いたことにより、容器のフィルタ上に導入された抽出原料を攪拌羽根で均した後、抽出溶媒を抽出原料の上面領域全体に確実かつ満遍なく吹き付けることができると共に、抽出原料の上面に抽出溶媒が液溜めされない状態で、抽出原料の充填層に抽出溶媒を通液させるようにしたので、充填層が余分な抽出溶媒を含み膨潤して、物理的及び/又は化学的に劣化することを防ぐことができる。
【0021】
そして、抽出過程中、前記充填層を形成する原料節類からの良好な抽出状態を保つことができるので、風味、旨味のバランスを損ねる成分が抽出されることを抑制することができ、余分な抽出溶媒の圧力によって、前記充填層に不均一な移動相の通り道が形成されることを防ぎ、抽出溶媒を均一に分散させつつ通液させることができる。
【0022】
上記のように、この製造方法においては、抽出溶媒を抽出原料の上面領域全体に確実かつ満遍なく吹き付けつつ、抽出原料の上面に抽出溶媒が液溜めされない状態で、抽出原料の充填層に抽出溶媒を通液させるようにしたので、抽出原料の香気成分や旨味成分等を充分かつムラなく効率的に抽出することができる。
【0023】
本発明の抽出方法においては、前記抽出原料が、節類、海藻類、茶類、コーヒー類から選ばれた一種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、複数の同心円上に周方向に沿って所定間隔で、かつ、隣接する内外の同心円上で半径方向に重ならないように複数の噴射口が配置されていると共に、同心円内側の噴射口の噴射量よりも、同心円外側の噴射口の噴射量の方が多くなるように設定されているので、抽出溶媒を抽出原料の上面領域全体に確実かつ満遍なく吹き付けることができ、抽出原料の香気成分や旨味成分等を充分かつムラなく効率的に抽出することができる。
【0025】
また、シャワー装置を回転させることなく、抽出原料に抽出溶媒を満遍なく吹き付けることができるので、シャワー装置の回転構造が不要となり、装置構造を簡単かつコンパクトにして、製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の抽出装置の一実施形態を示す、一部を断面とした正面図である。
【図2】同抽出装置の平面図である。
【図3】同抽出装置の要部断面図である。
【図4】本発明の抽出装置において、複数の噴射口の配置及び各噴射口の吹付け領域が示されており、(A)は外側の配管に設けた噴射口の吹付け領域を示す説明図、(B)は内側の配管に設けた噴射口の吹付け領域を示す説明図である。
【図5】図4(A),(B)の噴射口の吹付け領域を合成した状態の説明図である。
【図6】本発明の抽出装置の他の実施形態を示しており、各噴射口の配置状態を示す説明図である。
【図7】抽出装置の抽出液の濃度確認試験に用いられる噴射口の配置状態を示しており、(A)は実施例の説明図、(B)は比較例1,2の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図1〜5を参照して、本発明による抽出装置の一実施形態について説明する。
【0028】
図1,2に示すように、この抽出装置1は、上方が閉塞し、下方が開口した略円筒状の容器10を有している。この容器10の上方天井壁の所定位置には、抽出原料を容器10内に導入するための導入口11が形成されている。この導入口11には、上蓋12が図示しないヒンジ構造を介して開閉可能に取付けられている。
【0029】
一方、容器10の下方開口部には、エアシリンダ14及びヒンジ装置15を介して、下蓋13が開閉可能に取付けられている。この下蓋13の下方中央には、抽出液の取出し口13aが設けられている。同下蓋13の上方には、格子状のフィルタ支持枠13b(図2参照)が配設され、その上面にメッシュ状のフィルタ17が載置されており、前記取出し口13aよりも上方にフィルタ17が配置されるようになっている。このフィルタ17は、抽出溶媒の通過を許容しつつ、フィルタ17上に導入された抽出原料の、下蓋13底部への流出を防ぐものである。なお、フィルタ17上に、フィルタ17の目詰まりを防止するために、図示しない補助フィルタを載置してもよい。
【0030】
容器10の天井壁上方には、支持部材20を介して矩形状の昇降ベース21(図2参照)が配置されており、該昇降ベース21の上方に均しモータ23が配設されている。この均しモータ23には下方に向けて回転軸24が連結されており、同回転軸24は前記昇降ベース21及び容器10の上面中央を通って、容器10の内部中心に配置されている。この回転軸24の下端には、フィルタ17上に導入された抽出原料を均すための、攪拌羽根25が回転可能に装着されている。
【0031】
また、前記昇降ベース21の角部(図2参照)にはナット26が固着され、該ナット26内にネジ軸27が螺入されており、いわゆるボールねじ構造を構成している。更に、昇降ベース21の前記ナット26に対角線上の角部(図2参照)には、ガイド筒28が固着され、同ガイド筒28内にガイド軸29が挿通されている。また、容器10の上方には支持アーム31(図1参照)を介して第1昇降モータ32が配設されている。この第1昇降モータ32には駆動プーリ32aが固着されており、この駆動プーリ32aと、前記ネジ軸27の上端に固着された従動プーリ27aとの間にベルト32bが張設されている。
【0032】
したがって、第1昇降モータ32が回転すると、駆動プーリ32a、ベルト32b、従動プーリ27aを介して、ネジ軸27が回転して、それに伴ってナット26に固着された昇降ベース21が、ガイド筒28及びガイド軸29によりガイドされつつ、上下に昇降動作するようになっている。
【0033】
更に、この抽出装置1は、フィルタ17上に導入された抽出原料に抽出溶媒を散布するためのシャワー装置40を備えている。すなわち、容器10の上方外周の、前記導入口11に対向した位置に、支持部41を介して第2昇降モータ43が配設されており、これにネジ軸43aが上方に向けて連結されている。このネジ軸43aにはナット44が螺着されており、前記攪拌羽根25の昇降機構と同様に、いわゆるボールねじ構造をなしている。このナット44には、昇降ベース45を介して一対の昇降軸46,46(図2参照)が連結されている。各昇降軸46の下方部分は、容器10内に挿入されており、その下端に後述する外側配管52が固着されている。
【0034】
また、このシャワー装置40には、前記昇降ベース45の中央を通り、下方部分が容器10内に挿入される供給管48が配設されており、同供給管48の下端に前記外側配管52が連結されている。この供給管48により外側配管52に抽出溶媒が供給される。
【0035】
したがって、上記構造をなすシャワー装置40では、第2昇降モータ43及びネジ軸43aが回転すると、ナット44に固着された昇降ベース45及び昇降軸46を介して、外側配管52及びこれに連結された供給管48が上下に昇降動作するようになっている。
【0036】
上記シャワー装置40には、更に複数の噴射口60が設けられている。これについて図4及び図5を併せて説明すると、円筒状の容器10の内部には、容器10の内部中央(回転軸24が配置された位置)を中心として配置された環状の内側配管50と、該内側配管50の外側に同心状に配置された、環状の外側配管52とを有している。
【0037】
各配管50,52は、周方向の一部が所定幅で切除されてC字環状をなし、それらの切除された開口部分がほぼ整合した位置となるように各配管50,52が配置されている。更に、各配管50,52の開口部分は、容器上方の導入口11に整合して配置されており(図2参照)、容器10内に投入された抽出原料を通過させて、各配管50,52の上方に抽出原料が乗ってしまうことを防止する。また、内側配管50の開口部分の幅の方が、外側配管52の開口部分の幅よりも大きくなっている。内側配管50及び外側配管52の間であって、各管の開口部分に直交した位置には、一対の連結管54,54が配置され、各配管50,52は一対の連結管54,54により連結されて互いに連通されている。
【0038】
また、前述した抽出溶媒を供給する供給管48は、外側配管52の開口部分に対向した位置に連結されており、この部分が抽出溶媒の流入口となっている。これに関連して、各配管50,52はC字環状となっていて、抽出溶媒の流入口から最も離れた部分を開口部分としたので、各噴射口60からの抽出溶媒の噴射圧力をほぼ均等にできるようになっている。
【0039】
そして、各配管50,52には、その周方向に沿って所定間隔で複数の噴射口60が形成され、これら複数の噴射口60は、隣接する内側配管50及び外側配管52において、半径方向に重ならないように配置されている。すなわち、複数の噴射口60は、複数の同心円上に周方向に沿って所定間隔で、かつ、隣接する内外の同心円上で半径方向に重ならないように配置されている。この実施形態では、内側配管50に4つの噴射口60が形成され、外側配管52に8つの噴射口60が形成されている。
【0040】
したがって、前記供給管48から抽出溶媒が外側配管52に供給されると、抽出溶媒は外側配管52の内周を周方向に沿って流動すると共に、その途中で一部が分流されて一対の連結管54,54を通って内側配管50へと流れ、内側配管50の内周を周方向に沿って流動し、各配管50,52に形成された複数の噴射口60から所定の噴射角度で、抽出溶媒が噴射されるようになっている。なお、抽出溶媒としては、水又はアルコール溶液が用いられる。
【0041】
図4には、各噴射口60から噴射されて、抽出原料の上面に吹付けられる抽出溶媒の吹付け領域が示されている。図4(A)には、外側配管52に形成された各噴射口60からの吹付け領域が、円形の1点鎖線で示されており、図4(B)には、内側配管50に形成された各噴射口60からの吹付け領域が、同じく円形の1点鎖線で示されている。
【0042】
そして、図5には、図4(A),(B)で示す、各噴射口60の吹付け領域を合成した、吹付け領域が示されている。符号T1で示す部分が、1つの噴射口60からのみ抽出溶媒が吹き付けられる領域を示し(1重領域T1)、符号T2で示す部分が、2つの噴射口60から抽出溶媒が吹き付けられる領域を示し(2重領域T2)、符号T3で示す部分が、3つの噴射口60から抽出溶媒が吹き付けられる領域を示し(3重領域T3)、符号T4で示す部分が、4つの噴射口60から抽出溶媒が吹き付けられる領域を示している(4重領域T4)。
【0043】
図5に示すように、同心状に複数の噴射口60を配置した場合、容器10の中心側に向かうに従って吹付け領域の重なり度合が多く(3重領域T3、4重領域T4の占める範囲が多い)、容器10の内周縁側に向かうに従って、吹付け領域の重なり度合いが少なくなっている(主として1重領域T1、2重領域T2となっている)。
【0044】
これに関連して、この抽出装置1においては、各噴射口60からの抽出溶媒の噴射量は、同心円の内側に位置する噴射口60(内側配管50側の噴射口60)の噴射量よりも、同心円の外側に位置する噴射口60(外側配管52側の噴射口60)の噴射量の方が、多くなるように設定されていることを特徴の一つとしている。
【0045】
このように設定するためには、例えば、外側配管52の内側の流路面積を、内側配管50の内側の流路面積よりも大きく形成したり、外側配管52側の噴射口60の口径を、内側配管50側の噴射口60の口径よりも大きく形成したり、或いは、外側配管52に形成する噴射口60の数を、内側配管50に形成する噴射口60の数よりも多くすることによって達成される。
【0046】
また、この実施形態では、各噴射口60から噴射されて抽出原料の上面に吹付けられる抽出溶媒の吹付け領域の重なり度合いが最も多い部分の吹付け量が、重なり度合いが最も少ない部分の吹付け量に対して1.1〜5倍となるように設定されている。すなわち、この実施形態では、図5に示す4重吹付け領域T4の吹付け量が、1重吹付け領域T1の吹付け量に対して1.1〜5倍となるように設定されている。また、重なり度合いが最も多い部分の吹付け量が、重なり度合いが最も少ない部分の吹付け量に対して1.1〜3倍であることがより好ましい。重なり度合いが最も多い部分の吹付け量が、重なり度合いが最も少ない部分の吹付け量に対して1.1倍未満とするには、同心状に配置された噴射口60の噴射量の調整が困難で現実的ではなく、5倍を超えた場合には、抽出原料の上面に吹付けられる吹付け量のバラツキが多くなり、抽出原料の上面にムラなく吹き付けることができないので好ましくない。
【0047】
次に、上記構成からなる抽出装置1を用いた、本発明の抽出方法について説明する。
【0048】
まず、本発明において用いる抽出原料としては、一般的に入手可能な原料であれば特に制限はなく、この実施形態では、節類、海藻類、茶類、コーヒー類から選ばれた一種が好ましく用いられる。上記2種類以上の抽出原料の混合物を使用する場合には、それらをブレンドして、上記容器10に充填してもよく、また、抽出原料を多層状に充填してもよく、得たい抽出成分等によって適宜選択することができる。
【0049】
そして、下蓋13を閉じて容器10の下方開口部を閉塞した状態にセットし、適当な大きさに粉砕した上記抽出原料を、容器上方の導入口11から投入して、フィルタ17上に抽出原料を導入する。このとき、第1昇降モータ32を回転させて、攪拌羽根25を下降させ、容器10の下方に配置すると共に、第2昇降モータ43を回転させて、シャワー装置40の各配管50,52を適当な位置に配置する(図1の2点鎖線参照)。
【0050】
次いで、均しモータ23を回転させることにより、攪拌羽根25を回転させて抽出原料を攪拌すると共に、第1昇降モータ32を回転させることにより、攪拌羽根25を上下に適宜昇降動作させ、厚く充填された抽出原料をムラなく攪拌して、抽出原料の充填厚さをほぼ均一に均すことができる。その結果、ほぼ均一な厚さとされた抽出原料の充填層Fが容器10内に形成される。また、充填層Fを均し終えた攪拌羽根25は、充填層Fの上方に配置される(図1の実線参照)。なお、抽出原料は1度に投入してもよいが、数回に分けて投入して、その都度、上記のように攪拌羽根25で均すようにしてもよい。
【0051】
上記状態で第2昇降モータ43を回転させて、シャワー装置40の各配管50,52に設けた複数の噴射口60を、抽出原料の充填層Fの上面から適当な距離を設けてセットする(図1の実線参照)。その後、供給管48から抽出溶媒を供給することにより、抽出溶媒が外側配管52内を流動すると共に、連結管54を通って内側配管50へも流れて、各配管50,52の複数の噴射口60から抽出溶媒が噴射されて、充填層Fの上面に吹付けられる。
【0052】
このとき、複数の噴射口60は、複数の同心円上に周方向に沿って所定間隔で、かつ、隣接する内外の同心円上で半径方向に重ならないように配置されているので、抽出溶媒を、抽出原料の充填層Fの上面全体に漏れなく確実に吹き付けることができる。
【0053】
それと共に、各噴射口60からの抽出溶媒の噴射量は、同心円の内側の噴射口60の噴射量よりも、同心円の外側の噴射口60の噴射量の方が、多くなるように設定されている。その結果、図5に示すように、各噴射口60による吹付け領域のうち、3重領域T3、4重領域T4の占める範囲が多く、抽出溶媒の噴射量が過剰になりがちな容器10の中心側に対しては、抽出溶媒の噴射量が少なくなる。一方、1重領域T1、2重領域T2の占める範囲が多く、抽出溶媒の噴射量が不足しがちな、容器10の内周縁側に対しては、抽出溶媒の噴射量が多くなる。このように、抽出溶媒の噴射量が、容器10の中心から内周縁に向かって適宜調節されるので、抽出溶媒の吹付けムラを少なくすることができ、抽出原料の充填層Fの上面領域にほぼ満遍なく、溶出溶媒を吹き付けることができる。
【0054】
そして、抽出原料の充填層Fの上面に吹付けられた抽出溶媒は、充填層Fを通液して、充填層Fから香気成分や旨味成分等が抽出され、その抽出液がフィルタ17を通って、下蓋13内に貯留されて、取出し口13aから容器外へと取出される。その後、下蓋13を開くことにより、容器内から抽出原料の充填層Fが排出される。取出された抽出液は、そのまま、又は、公知の方法により適宜濃縮、乾燥することでアルコール除去及び/又は固形分調整して、抽出エキスとされる。
【0055】
このとき、この抽出方法においては、抽出原料の上面に抽出溶媒が液溜めされない状態で、抽出原料の充填層Fに抽出溶媒を通液させるようにしているので、充填層Fが余分な抽出溶媒を含み膨潤して、物理的及び/又は化学的に劣化することを防ぐことができる。これにより、抽出過程中、前記充填層Fを形成する抽出原料からの良好な抽出状態を保つことができ、風味、旨味のバランスを損ねる成分が抽出されることを抑制することができる。また、余分な抽出溶媒の圧力によって、前記充填層Fに不均一な移動相の通り道が形成されることを防ぎ、抽出溶媒を均一に分散させつつ通液させることができるので、抽出原料のもつ香気成分及び呈味成分を充分、かつ効率よく抽出することができる。
【0056】
なお、本発明における「抽出溶媒が液溜めされない状態」とは、噴射口60から吹付けられた抽出溶媒が容器10内に形成された抽出原料の充填層Fに浸透して、充填層Fの上面において液溜されない状態を保ちながら通液することを意味する。
【0057】
以上説明したように、上記構造をなした抽出装置1及びそれを用いた抽出方法によれば、抽出溶媒を、抽出原料の充填層Fの上面領域全体に、確実かつ満遍なく吹き付けることができるので、抽出原料の香気成分や旨味成分等を、充分かつムラなく効率的に抽出することができる。
【0058】
また、この実施形態の抽出装置1では、シャワー装置40の各噴射口60を、図3〜5に示すように配置したことにより、シャワー装置40を特に回転させることなく、抽出原料の充填層Fに抽出溶媒を満遍なく吹き付けることができるので、シャワー装置40の回転構造が不要となり、装置構造を簡単にできると共に、装置全体をコンパクト化することができ、装置の製造コストの低減を図ることができる。
【0059】
更に、この実施形態の抽出装置1では、各噴射口60から噴射されて、抽出原料の上面に吹付けられる抽出溶媒の吹付け領域の重なり度合いが最も多い部分の吹付け量が、重なり度合いが最も少ない部分の吹付け量に対して1.1〜5倍となるように設定されているので、抽出溶媒の吹付けムラをより少なくして、抽出原料の上面領域により満遍なく、溶出溶媒を吹き付けることができる。
【0060】
また、この実施形態の抽出装置1では、同心状に配置された複数の配管50,52が互いに連通されているので、一方の配管52に抽出溶媒を供給する供給管48を接続するだけの簡単な構造で、両配管50,52の各噴射口60から抽出溶媒を抽出原料に吹き付けることができ、装置構造をより簡単にすることができると共に、各配管50,52が略C字環状をなしているので、抽出溶媒の流動抵抗を低減させて、抽出溶媒をスムーズに供給することができる。
【0061】
更に、この実施形態の抽出装置1では、攪拌羽根25が容器10内にて昇降可能とされているので、抽出原料の導入量が多く、抽出原料が容器10内で上下に厚く充填されても、抽出原料を均一に攪拌することができる。また、シャワー装置40も容器10内で昇降可能とされているので、容器10内に導入された抽出原料の上面に対する、噴射口60の距離を適宜設定することができ、各噴射口60からの抽出溶媒の吹付け領域を拡大又は縮小することができ、抽出溶媒の吹付け領域を調整しやすくすることができる。
【0062】
図6には、本発明による抽出装置の他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0063】
この実施形態の抽出装置1aでは、複数の噴射口60が3重の同心円上に配置されている。すなわち、容器10の内部中央を中心として配置された、略C字環状の内側配管50と、該内側配管50の外側に同心状に配置された、略C字環状の中間配管56と、該中間配管56の外側に同心状に配置された、略C字環状の外側配管52とからなり、3重配管構造をなしている。各配管50,56,52は、開口部分がそれぞれ整合して配置されており、更に、各配管50,56,52どうしは、3つの連結管54により連結されていて、互いに連通されている。
【0064】
そして、この実施形態においても、各配管50,56,52の周方向に沿って所定間隔で複数の噴射口60が形成され、これら複数の噴射口60は、隣接する配管50,56,52において、半径方向に重ならないように配置されている。
【0065】
上記構造の抽出装置1aにおいても、前記実施形態の抽出装置1と同様に、抽出溶媒を、抽出原料の充填層Fの上面領域全体に、確実かつ満遍なく吹き付けることができ、抽出原料の香気成分や旨味成分等を、充分かつムラなく効率的に抽出することができる。
【実施例】
【0066】
(抽出液の濃度確認試験)
本発明の抽出装置によって、所定の抽出原料から、どの程度の濃度(Brix:%)の抽出液を生成することができるか確認した。
【0067】
(実施例)
直径50cmの容器10を備える抽出機を用い、フィルタ支持枠13b上に50メッシュのフィルタ17をセットして、その上に抽出原料として鰹節粗砕品(7メッシュパス)を35kg仕込んだ。この鰹節粗砕品は、3回に分けて仕込み、その都度攪拌羽根25により均し、その上面がほぼ平行となるように容器10内に充填した。
【0068】
シャワー装置は、図7(A)に示すように、円環状の配管が2重配管状に配置された構造のものを用いた。内側配管50aには、容器中心から15cmの距離で、周方向に均等に4つの噴射口60を形成した。一方、外側配管52aには、容器中心から20cmの距離で、周方向に均等に4つの噴射口60を、前記内側配管50aの各噴射口60に半径方向に重ならないように形成した。
【0069】
また、外側配管52aに形成した噴射口60からの抽出溶媒の噴射量を、内側配管50aに形成した噴射口60からの噴射量を3倍に設定した。更に、各噴射口60から噴射されて抽出原料の上面に吹付けられる抽出溶媒の吹付け領域の重なり度合いが最も多い部分の吹付け量が、重なり度合いが最も少ない部分の吹付け量に対して2.2倍となるように設定した。
【0070】
そして、抽出溶媒は温度70℃の熱水で、流量は、抽出原料の上面に抽出溶媒である熱水が液溜めされないように、70l/h(リットル毎時)で供給し、フィルタ17下方の下蓋13の取出し口13aから回収される、抽出液が35kgになるまで抽出を行った。このときの、抽出液のBrixを調べた。
【0071】
(比較例1)
図7(B)に示すように、抽出装置の配管構造を内側配管50aのみとして、容器中心から15cmの距離で、周方向に均等に4つの噴射口60を形成した以外は、前記実施例と同じ条件で、抽出液のBrixを調べた。
【0072】
(比較例2)
外側配管52aに形成した噴射口60からの抽出溶媒の噴射量と、内側配管50aに形成した噴射口60からの噴射量とを同じとし、各噴射口60からの吹付け領域の重なり度合いを特に考慮しない以外は、前記実施例と同じ条件で、抽出液のBrixを調べた(噴射口60配置は、図7(A)に示されるものである)。
【0073】
(試験結果)
上記抽出条件では、比較例1における抽出液のBrixが10.5%、比較例2における抽出液のBrixが12.0%であるのに対して、実施例における抽出液のBrixが15.6%となり、濃度の高い抽出液が得られることを確認でき、効率的に抽出できることが分かった。
【符号の説明】
【0074】
1 抽出装置
10 容器
11 導入口
12 上蓋
13 下蓋
13a 取出し口
13b フィルタ支持枠
14 エアシリンダ
15 ヒンジ装置
17 フィルタ
20 支持部材
21 昇降ベース
23 均し昇降モータ
24 回転軸
25 攪拌羽根
26 ナット
27 ネジ軸
27a 従動プーリ
28 ガイド筒
29 ガイド軸
31 支持アーム
32 第1昇降モータ
32a 駆動プーリ
32b ベルト
40 シャワー装置
41 支持部
43 第2昇降モータ
43a ネジ軸
44 ナット
45 昇降ベース
46 昇降軸
48 供給管
50,50a 内側配管
52,52a 外側配管
54 連結管
56 中間配管
60 噴射口
F 充填層
T1 1重領域
T2 2重領域
T3 3重領域
T4 4重領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出原料の導入口を上方に有し、抽出液の取出し口を下方に有する容器と、
該容器の前記取出し口よりも上方に配置されたフィルタと、
前記フィルタ上に導入された抽出原料を均すための回転可能な攪拌羽根と、
前記フィルタ上に導入された抽出原料に抽出溶媒を散布するシャワー装置とを備え、
前記シャワー装置は、複数の同心円上に周方向に沿って所定間隔で、かつ、隣接する内外の同心円上で半径方向に重ならないように配置された複数の噴射口を有し、
前記各噴射口からの前記抽出溶媒の噴射量は、前記同心円の内側に位置する噴射口の噴射量よりも、前記同心円の外側に位置する噴射口の噴射量の方が、多くなるように設定されていることを特徴とする抽出装置。
【請求項2】
前記各噴射口から噴射されて前記抽出原料の上面に吹付けられる抽出溶媒の吹付け領域の重なり度合いが最も多い部分の吹付け量が、重なり度合いが最も少ない部分の吹付け量に対して1.1〜5倍となるように設定されている請求項1記載の抽出装置。
【請求項3】
前記シャワー装置は、同心状に配置された複数の環状又は円弧状の配管を有し、各環状又は円弧状の配管は互いに連通されており、各環状又は円弧状の配管の周方向に沿って所定間隔で前記噴射口が形成されている請求項1又は2記載の抽出装置。
【請求項4】
前記攪拌羽根及び前記シャワー装置は、前記容器内でそれぞれ昇降可能に支持されている請求項1〜3のいずれか1つに記載の抽出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の抽出装置を用い、所定量の抽出原料を前記フィルタ上に導入し、前記攪拌羽根でフィルタ上の抽出原料の厚さが均一になるように均し、前記シャワー装置の各噴射口から抽出溶媒を噴射して、前記抽出原料の上面に前記抽出溶媒が液溜めされない状態で、前記抽出原料の充填層に前記抽出溶媒を通液させることを特徴とする抽出方法。
【請求項6】
前記抽出原料が、節類、海藻類、茶類、コーヒー類から選ばれた一種である請求項5記載の抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−172229(P2010−172229A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16398(P2009−16398)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】