説明

拡張被写界深度を有する正確な画像化方法および装置

【解決手段】 方法および装置であって、シーンからの光の放射を光学軸に沿う方向に向かわせる光学部を使用する工程を含み、この光学部は前記シーン特有の分光的特徴に対して機能する色分散を有し、拡張被写界深度領域に対して前記光学軸に沿って略空間的に一定である色ぼやけを生成するものである。異なる方法は、特有のシーンのスペクトル応答曲線を特定する工程と、前記スペクトル応答曲線の下の面積を複数の略等分のセグメントに分割する複数の異なる波長ノードを決定する工程と、前記波長ノードの各々を前記光学軸に沿って略等間隔に空けられた複数の焦点のそれぞれの1つにマッピングするマッピング関係を生成する工程と、前記光学系を前記マッピング関係に応じて設定する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像処理技術に関し、より具体的には、拡張された被写界深度を提供することを意図する画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光学系は一般に、物体空間において被写界深度が限られているという欠点があり、それに伴い像空間において焦点深度が限定されてしまう。例えば、これらの限界は、多くの電気光学結像系(例えば、デジタルカメラ)および赤外線前方監視(forward looking infrared:FLIR)システムで存在している。
【0003】
1つの具体的な例として、非冷却検出器配列を有する既存の最新鋭FLIR撮像装置が考えられる。一般に約70mから無限の範囲に位置する全ての対象または他の被写体は鮮明に見えるが、より撮像装置に近いあらゆるものの検出器配列からの画像はぼやける。被写体が撮像装置から例えば15mの距離で突然現れた場合、当該対象を特定するまたはさらには認識することは困難若しくは不可能である。前記撮像装置に焦点を再度合わせるようにすることができるが、これは時間を要しかつ可動部分を含んでいることになる。さらに重要なことは、この方法で撮像装置の焦点を再度合わせる試みにより、遠くにある物(例えば50mから無限)の画像がぼやけてしまうので、その遠くにある物を認識するおよび/または正確に特定するは非常に困難である。
【0004】
5mから無限の異なる距離で同時に現れる複数の被写体の鮮明な熱画像を生成することができる撮像装置が望まれている。しかしながら、実際問題として、非冷却検出器を有する従来型の携帯撮像装置でそのような深い被写界深度を達成することは単純な作業ではない。理論的に可能な方法の1つは、光学部を絞ることである。しかしながら、これは常にかなりの光の消失が含まれるため、非冷却検出器を有する熱撮像装置にとっては問題である(なぜならそのような検出器は適切に動作するため非常に速い光学部を必要とするからである)。更に、光学部を絞ることはまた、(少なくとも良く補正された光学部において)解像度の消失を含むものである。
【0005】
1つの異なる手法は段階的な焦点調節を行い、同時に各段階で個別の画像を記録し、その後に複数の記録画像を融合させる。しかしながら、これは可動部分を必要としかつ比較的遅く、複雑で費用のかかる解決策である。また、画像融合プロセスの間、いかなる所与の被写体の鮮明な画像も、他の焦点段階で撮られた同一被写体の不鮮明な画像と重複し、これはコントラストを下げ、高度でかつ長期の画像処理ルーチンを必要とする。上記タイプの既存の技術はそれらの使用目的に対してほとんどの場合十分であったが、あらゆる点において満足されては来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本発明のさらなる理解が、次に続く詳細な説明から理解され、添付の図面と併せて得られるであろう。
【図1】図1は、本発明の態様を実施する、ならびに光学部、画像検出器、コンピュータ、および表示部を含む装置の線図である。
【図2】図2は、図1の装置における、3つの異なる波長の1つに対するスルーフォーカス単色相対光学伝達関数(relative optical transfer functions:ROTFs)、対応する多色ROTF、および回析限界応答を示すグラフである。
【図3】図3は、図1の装置における、7つの異なる波長の1つに対するスルーフォーカス単色ROTFs、対応する多色ROTF、および回析限界応答を示すグラフである。
【図4】図4は、図1の光学部を示す線図であり、光学部の意図的な長手方向(すなわち軸方向)色収差が全体システムの連続したブロードバンド、不均一、スペクトル応答にどのようにマッチされているかを示す。
【図5】図5、6、および7は、仮定のシーンまたは被写体に対して、個々の異なる温度300K、350K、および400Kに対応する異なる黒体スペクトル曲線を示し、これらの曲線はそれらのピーク値に基づいて正規化されている。
【図6】図5、6、および7は、仮定のシーンまたは被写体に対して、個々の異なる温度300K、350K、および400Kに対応する異なる黒体スペクトル曲線を示し、これらの曲線はそれらのピーク値に基づいて正規化されている。
【図7】図5、6、および7は、仮定のシーンまたは被写体に対して、個々の異なる温度300K、350K、および400Kに対応する異なる黒体スペクトル曲線を示し、これらの曲線はそれらのピーク値に基づいて正規化されている。
【図8】図8は、図1に示すタイプの画像検出器を使用した従来の光学部の線図である。
【図9】図9は、不等間隔の波長ノードの長手方向色収差を光学軸に沿って均等に分配するように光学部を設定する手順を示す流れ図である。
【図10】図10は、図1の光学部でもある、図9の手順を使用して得られる例示的な光学部の線図である。
【図11】図11は、図10の光学部を具体化する図1の装置を用いて達成される軸方向幾何学的光学伝達関数の動作を示すグラフである。
【図12】図12は、被写体の後ろに2つの輪を伴った熱源を有する実験的シーンの線図である。
【図13】図13は、図2のシーンにおける線A−Bに沿った強度分布を表す3つの曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は、光学軸13を伴う光学部12と、画像検出器14と、コンピュータ16と、表示部17とを含む装置10の線図である。図1の前記装置10は遠赤外(long wave infrared:LWIR)放射を含む動作範囲で設定されている、しかし、代わりに前記電磁スペクトルの他の範囲で動作するように設定することもできる。
【0008】
前記光学部12の例示的な実施については、あとで詳細に説明する。図1の目的は、前記光学部12を図式的に説明することである。シーンが前記光学軸13に沿った位置27に配置される対象または被写体26を含むと仮定する。また、簡単にするため、前記被写体26が唯一2つの単色スペクトル線を伴う分光的特徴を有すると初めに仮定する。別の言い方をすれば、前記被写体27によって放射、反射、または透過される光の放射は事実上異なる色を表す唯一2つの波長λおよびλを含む。以下での説明を明確にするため、図1は、各光の放射ビームを表す単一光線を使用する。このようにして、例えば、単一光線31が、位置27にあるとき前記被写体26によって放射、反射、または透過される前記光の放射を示すのに使用される。
【0009】
前記光学部12は、長手方向(つまり軸方向)色収差をそこを通過する光の放射の中に意図的に導入するように設定される。図1の前記装置10は、前記光学部12によって導入される意図的な長手方向(つまり軸方向)色収差を除き、光学的に完全であると仮定する、このため異なる波長で構成され、前記光学部12を通過する光の平行ビームが前記光学軸に沿って完全なしかし個別の焦点を結ぶ。このようにして例えば、前記光の放射31の2つの異なる波長λおよびλは前記光学部12によって異なって屈折され、そして、波長λの光の放射36は前記光学軸上の焦点37で収束するが、波長λの光の放射38は前記光学軸上の異なる焦点39で収束する。この説明を簡単にするためおよび一般性を失わないようにするため、前記画像検出器14は前記光学軸13に沿って前記波長λの光の放射36の焦点37に位置付された。波長λの光の放射38の図示された光線は、前記画像検出器14の前記焦点37から外れた点42でぶつかる。言い換えれば、前記被写体26が位置27にあるとき、波長λの光の放射は前記画像検出器14で焦点が鮮明に合されるが、波長λの光の放射は前記検出器14で意図的に不明瞭な状態である。図1の上部は、前記被写体26が位置27にある状態に対応するグラフを含み、さらに波長λの単色スルーフォーカス光学伝達関数(optical transfer function:OTF)46、波長λの単色スルーフォーカスOTF47、およびさらに曲線48が曲線46および47の合計である波長λおよびλの多色スルーフォーカスOTF48を描写する。
【0010】
さて、前記被写体26が、位置27から異なる位置56に前記光学部12から離れるように移動すると仮定する。参照番号58は波長λおよびλを含む、位置56の前記被写体26からの多色光の放射の1つの光線を表す。前記光学部12は長手方向(つまり軸方向)色収差を導入することにより、波長λの単色光の放射61が焦点62を有し、前記画像検出器14上の前記光学軸13から外れた点42でぶつかる。参照番号61は波長λで放射の単色光線を表し、これは、焦点62で前記光軸13と交差し、前記画像検出器上で前記光学軸から外れた前記点42でぶつかる。参照番号63は、前記焦点37で前記光学軸13と交差する、波長λで放射の単色光を表す。
【0011】
簡単にするためおよび一般性を失わないようにするため、前記被写体26の位置56が図1で選択され、これにより波長λの光の放射は前記画像検出器14の焦点37に収束する。これにより、前記被写体26が位置56にあるとき、波長λの光の放射は前記画像検出器14上で焦点が鮮明に合されるが、波長λの光の放射は前記画像検出器14上で意図的な度合いで不鮮明な状態である。図1の下部は、前記被写体26が位置56にあるときの状態に対応するグラフを含み、さらに波長λの単色スルーフォーカス光学伝達関数(optical transfer function:OTF)66、波長λの単色スルーフォーカスOTF67、およびさらに曲線68が曲線66および67の合計である波長λおよびλの多色スルーフォーカスOTF68を描写する。
【0012】
図1の実施形態において、前記画像検出器14は、LWIR光の放射を検出するように設定される従来装置である。特に、前記画像検出器14は、45ミクロンのピクセルピッチ、22サイクル/mmのサンプリング周波数、および11サイクル/mmのナイキスト周波数を伴う19,200ピクセル(160x120ピクセル)の非冷却マイクロボロメータ配列(microbolometric array)である。しかしながら、他の適切な装置を前記画像検出器14の代わりとして使用することも可能である。前記画像検出器14によって検出された画像は、電子的形態で74でコンピュータ16に供給される。前記コンピュータ16のハードフェアは従来のものであり、プロセッサ76とメモリ77とを含む。前記メモリ77は前記プロセッサ76によって実行されるコンピュータプログラムを格納し、また実行の際に前記コンピュータプログラムによって利用される静的および動的データを格納する。
【0013】
前記被写体26が位置27にある場合、74で前記画像検出器14から前記コンピュータ16によって受け取られる画像の示す波長λの光の放射は鮮明に見えるが、波長λの光の放射は不鮮明である。前記プロセッサ76によって実行される前記コンピュータプログラムは74で受け取った画像情報を取り込み、波長λおよびλのそれぞれの光の放射が鮮明に見える処理画像を生成するため、波長λの不鮮明な光の放射を鮮明に見えるようにする(一意的な回復カーネル(recovery kernel)を備える)標準デコンボリューションアルゴリズムを適用する。この処理画像は、次に、従来の表示部17に供給され、表示される。この件についてはさらに詳しく後で述べるように、前記光学部12は、前記被写体26の特有の分光的特徴に機能するように設定される色分散を有し、これにより、拡張被写界深度領域に関して、前記光学軸13に沿って略空間的に一定である色ぼやけを生成する。この全体システムは、幾何学的光学伝達関数(geometric optical transfer function:GOTF)を有し、前記プロセッサ76で実行される前記コンピュータプログラムは、前記GOTFの逆数を回復カーネル(recovery kernel)として使用して、前記標準デコンボリューションアルゴリズムを実行する。
【0014】
一方、前記被写体26が位置56にある場合には、その後74で前記画像検出器14から前記コンピュータ16によって受け取られた画像の示す波長λの光の放射は鮮明に見えるが、波長λの光の放射は不鮮明な状態である。前記プロセッサ76によって実行される前記コンピュータプログラムは74で受け取られた前記画像情報を取り込み、前記波長λおよびλのそれぞれの光の放射が鮮明に見える処理画像を生成するため、波長λの不鮮明な光の放射を鮮明に見えるようにする(一意的な回復カーネル(recovery kernel)を備える)標準デコンボリューションアルゴリズムを適用する。この処理画像は、その後従来の表示部17に供給され、表示される。
【0015】
前記ぼやけた光の放射と鮮明な光の放射の重ね合わせが前記被写体26の位置27および56のそれぞれに関する前記画像検出器14の同一反応を生成する場合、前記システムは前記被写体の画像を本質的に同一の不鮮明な状態で記録する。前記画像検出器14によって知覚されるぼやけが同一であるので、前記同一のデコンボルーションカーネル(deconvolving kernel)が両方の位置で使用することができる。実際、2つの同一のまたは酷似する被写体が同時にそれぞれの位置27および56に置かれた場合、ぼやけは逆フィルタリングの単一動作でそれらの画像の各々から同時に取り除かれ、両方の被写体を鮮明に描写する処理画像を生む。
【0016】
さらに詳細に、2aの全幅を有するスリット射出瞳と、前記画像検出器のピクセルピッチがpである前記画像検出器へのワーキング焦点距離s'を有する一次元の光学系を検討する。(前記シーンまたは被写体からの光のスペクトル放射/反射、伝搬媒質および光学部を通る分光透過、および前記画像検出器のスペクトル応答を含む)全体配列に関するスペクトル加重係数はλがcでλがcであると仮定する。さらに、c+c=1となるような標準正規化を仮定する。また、前記光学部の長手方向(つまり軸方向)色収差が、前記画像検出器の平面から波長λの焦点までの距離がdz'であると仮定する。前記検出器での幾何学的ぼやけのサイズはdz/Nであって、Nは前記光学部の有効F値である。このぼやけは、幾何学的点広がり関数(point spread function:PSF)として解釈され、その(幾何学的光学限界での対応する単色OTF応答を示す)フーリエ変換は、
【0017】
【数1】

【0018】
であって、v'は検出器空間のサイクル/mmの空間周波数であり、sinc(x)=sin(Bx)/(Bx)である。この時点で、前記空間周波数および長手方向(すなわち軸方向)焦点ぼけに関する無次元変数を以下のように導入するのが都合良い、
【0019】
【数2】

【0020】
であって、v'nyq=1/(2p)は前記画像検出器のナイキスト周波数を表し、pは前記検出器のピクセルピッチである。前記ナイキスト定理に従って、前記ぼやけの適切なサンプリングを獲得するため、唯一1以下の正規化周波数vおよび1以上の正規化焦点移動dzに興味がある。
【0021】
=c=1/2または言い換えれば前記2つのスペクトル線(波長λおよびλを表す)の両方が同じ強度を有し、これにより同一の検出器応答を生成する場合、多色OTF応答は両方の被写体位置が同じであることは明らかであろう。この場合には、次に逆フィルタリングがいずれかの位置の前記被写体の鮮明な画像および2つの位置のそれぞれの2つの類似の被写体の鮮明な画像を伝送する。
【0022】
上記のように、デコンボリューションが拡張焦点深度を有する画像を得るのに使用することができる。デコンボリューション使用の基礎となる理論の幾つかを簡単に述べる。線形システム理論によれば、インコヒーレント照明での拡張被写体の光学画像に適用されて、前記画像の強度分布g(x',y')は2つの関数のコンボリューションである。第1は前記被写体の拡大バージョンでの強度分布o(x',y')であり、単一点の画像での強度分布を表す第2は、インコヒーレント点広がり関数psf(x',y')として知られている。このように、
【0023】
【数3】

【0024】
であって、θはコンボリューションの演算(接合積族(Faltung))を表し、(x',y')は像平面でのデカルト座標である。これは、前記画像面が前記光学軸に沿って位置z'にあることを前提とする。
【0025】
一般的に、psf(x',y')は光学系によって引き起こされる、回析および波面収差によるぼやけ効果を含む低下を表す。前記系が完全な場合には、その後回析のみがpsf(x',y')の形状に影響を及ぼす。この議論では、前記点広がり関数の回析限定バージョンがpsf(x',y')によって表されている。
【0026】
二次元のコンボリューションは、前記画像領域にわたる複雑で長期の二次元積分を付含めることができる。フーリエ変換に関するよく知られているコンボリューション定理の使用を通して、上記の関係は、対応する強度関数のフーリエ変換の積として同等に表現することができる。特に、G(u',v')、O(u',v')、およびOTF(u',v')が強度分布のフーリエ変換g(x',y')、o(x',y')、およびpsf(x',y')である場合、前記コンボリューションは、前記積によって単純に置き換えられ、
【0027】
【数4】

【0028】
であって、(u',v')は空間周波数を表し、psf(x',y')のフーリエ変換は、検討中の前記光学系の光学伝達関数OTF(u',v')である。
【0029】
上記方程式(1)および(2)は数学的に等価であるが、方程式(2)によって表される空間周波数領域法の方が通常使用するのに便利なため、以下の説明においてこれを使用する。この方法は、完全なデジタル結像系の他の構成要素(例えば、前記画像検出器、前記電子機器、および前記表示部)から成り、それらはそれ自体の伝達関数を有する。しかしながら代わりに、上記の方程式(1)によって表される前記画像空間領域で対処することも可能である。
【0030】
デコンボリューションは、拡大された被写体でぼやけていない強度分布o(x',y')を回復するための古典的なテクニックであり、そのぼやけた画像の強度分布g(x',y')が十分であることが提供され、前記光学部の点広がり関数psf(x',y')によって表される前記ぼやけの原因と本質が知られている。前記デコンボリューションは、単にO(u',v')に関する上記方程式(2)を解くことによって空間周波数領域で同等に実行することができ、
【0031】
【数5】

【0032】
そして、O(u',v')に達するためにこの結果の逆フーリエ変換を取り込む。前記空間周波数領域でデコンボリューションを実行するこの方法は、しばしば逆フィルタリングとして言及され、逆数の
【0033】
【数6】

【0034】
が回復関数または回復カーネルとして知られている。
【0035】
この既知のデコンボリューションの方法(前記関数o(x',y')によって説明されるような真の被写体または対象を回復する試み)は本明細書では使用しない。本明細書での目的は、画像の回析限定バージョンg(x',y')を元の状態に戻すことである。このような画像は前記光学部が収差のなかった場合にのみ作成され、これにより考慮された画質劣化の源のみが光の回析である。実際問題として当然、純粋な回折限界的な光学系は現実の世界では存在しない。それにもかかわらず、この方法は多くのイメージングアプリケーションおよび装置に対してまだ十分に適切である。
【0036】
前記光学が完全である、言い換えれば本当に回析限界である場合、前記光学の光学伝達関数は、OTF(u',v')として表現することができる。便宜上、相対的光学伝達関数(relative optical transfer function:ROTF)を導入するのは役に立つ:
【0037】
【数7】

【0038】
回折限界的な光学系に関して、興味のある全ての空間周波数に対してROTF(u',v')=1.0である。実際上の理由で本明細書では、画像収集に使用される前記検出器配列のナイキスト空間周波数より低い空間周波数に対してのみ考慮する。(前記検出器ナイキスト周波数は、前記検出器空間サンプリング周波数1/pの半分であり、pはピクセルピッチである。)さらに、空間周波数バンドは、前記画像コントラスがゼロに落ちるまたはノイズフロアより下がる場所またはコントラスト反転が起る場所では無視される。
【0039】
本明細書での目的は、被写体または対象の画像の回析限界バージョンを回復することであるので、通常の逆フィルタリング方法は以下のように修正される:
【0040】
【数8】

【0041】
そこで、前記回復関数は前記相対的伝達関数の逆数であり、言い換えれば1/ROTF(u',v')である。逆フーリエ変換を上記結果に適用した後、前記回析限界の画像g(x',y')が最終的に元に戻される。
【0042】
回復カーネル(recovery kernel)1/ROTF(u',v')を成立させることに関して以下の発見的近似を考慮する:
【0043】
【数9】

【0044】
方程式(7)は、前記OTFの真の値(波面収差および回析の複合効果を計上する方法で計算される)が2つのより単純な項の積として表すことができることを示している。第1の項は、単純に対応する回析限界のOTFであり、回析のみを含み収差は含まない。第2の項は、光学伝達関数(GOTF)の幾何学的近似であり、光線収差のみを含み回析は含まない。
【0045】
前記GOTF項
は、幾何学的光線パターンを使用して予測されるように(または言い換えれば、前記光線の間の回析および干渉効果を無視して、横軸の光線収差のみを考慮に入れることによって)、前記PSFの強度分布のフーリエ変換を実行することによって容易に発見することができる。これは、特に光学が3つ以上の波の収差を有する場所で、迅速な数値OTF計算を現状に対して十分に正確に許容することによって前記計算を単純化する。本明細書において、分析の目的でおよび特に適切なぼやけた画像を生成する光学の迅速かつ効率的な設計のために、これを使用する。方程式(6)と(7)を比較することによって、回析限界の画像を元に戻すために要求される前記回復カーネル(recovery kernel)が単に前記GOTFの逆数、または言い換えれば、1/GOTF(u',v')であることが明らかである。
【0046】
上記のように、前記GOTFは、所与の画像平面での横軸の光線収差が知られているとき発見することができる。従って、おおよそ一定のぼやけを有するひどくぼやけた画像は、前記光学のGOTFが知られているとき、変換されてその回析限界の同等のものに戻ることができ、その後逆フィルタリングの処理で回復カーネル(recovery kernel)として使用される。
【0047】
図1に示される特定の実施形態に戻って参照すると、1つの目的は、前記光学には長手方向(つまり軸方向)色収差がなかったかのように、位置27および56の両方にある前記被写体26の回析限界の画像を回復させることである。この様な場合、幾何学的光学近似での逆フィルタリング処理は、以下の回復利得関数の使用を必要とする:
【0048】
【数10】

【0049】
前記被写体のデコードされた鮮明な回析限界の画像は、前記被写体の両方の位置で同一である。前記光学によって提供されなければならない長手方向(つまり軸方向)色収差は、
【0050】
【数11】

【0051】
であって、Vは屈折、回折、またはハイブリッド光学のいずれかに関して関連のあるアッベ数であり(本明細書では単純にするため接触する一組の薄いレンズによって表す)、対応する光強度K=1/(EFL)において、EFLは光学モジュールの有効な焦点距離である。Vによって表される利用可能な色分散の合計に関して、最小が要求される長手方向(つまり軸方向)色収差を伝送する最小のバックワーキング(back−working)共役s'がある。イメージング遠隔被写体には、これは最小値EFLmin=2pNVである。
【0052】
最小画像共役のためのこの要件はまた、物体空間(前記検出器配列の所与の寸法)での最大可能な視野を設定する。前記長手方向(つまり軸方向)色収差の量に応じて、完全な重複(dz=0、前記長手方向(つまり軸方向)色収差を有さない完全な光学の参照シナリオを表す)、部分的重複(おおよそ一定のスルーフォーカスOTF応答での全ての中間位置における被写体処理)、または重複なし(前記被写体の2つの個別の位置のみの処理)であり得る。
【0053】
便宜上および単純にするため、図1の先の検討では、前記被写体26が2つの波長(λおよびλ)のみを放射、反射、または透過すると仮定した。実際問題として当然で、前記被写体26は2つの波長のみではなくそれ以上の波長を通常放射、反射、または透過する。従って、説明目的のため、図1の前記被写体26が3つ以上の異なる別々の波長を放射、反射、または透過し、かつ、前記光学12の意図的な長手方向(つまり軸方向)色収差が前記光学軸13に沿って同等の強度の複数の、別々の、等距離の焦点を生成して、そのような焦点のそれぞれが異なる波長に対応するようになると仮定する。
【0054】
各追加の波長のため、または言い換えれば各新規の等間隔焦点のため、長手方向(つまり軸方向)色収差の新規増分量が必要であり、このようにして結果として生じる画像にはよりぼやけが見える。前記2つの波長の場合、正規化色焦点移動dzは、ナイキスト条件を満足させるため1より小さくないことが必要であるが、同時に連続する単色OTFsの適切な重複を提供するため2未満でなくてはならない。その結果として、結果として生じる多色スルーフォーカスOTF応答は、拡張された焦点深度にわたってわずかな変化があるだけである。前記ステップの最適選択は、含まれる別々の波長(スペクトル線)の数Mによって決まる。
【0055】
前記被写体26が2つのみの異なる波長の代わりに3つの異なる波長を放射、反射、または透過すると仮定する。図2は、ナイキスト周波数での前記3つの波長のそれぞれに対する前記スルーフォーカス単色相対的OTFs(ROTFs)(前記軸ステップdz=10によって分離される前記単色焦点を有する)を示すグラフであり、また結果として生じる単色ROTF101および(前記長手方向(つまり軸方向)色収差を表さない)回析限界の応答102を示す。
【0056】
さて、前記被写体26が、2つまたは3つだけの異なる波長の代わりに7つの異なる波長を放射、反射、または透過すると仮定する。図3は、ナイキスト周波数での)(前記軸ステップdz=10によって分離される前記単色焦点を有する)前記7つのスルーフォーカス単色相対的OTFs(ROTFsを示すグラフであり、また結果として生じる多色ROTF106および(前記長手方向(つまり軸方向)色収差を表さない)回析限界の応答102を示す。等距離の焦点が漸次増加されると、拡張焦点深度が漸次大きくなり、鮮明な画像を回復するにのに必要な回復獲得(recovery gain)がまた漸次大きくなる。同じ強さのMスペクトル線のため、前記スペクトル重量はすべて同一であり、すべて1/Mに等しい。同時に、前記焦点深度は約M倍拡張され、回析限界の画像を達成するために要求される回復獲得係数(recovery gain factor)はMである。
【0057】
実際的な問題として当然、図1の前記被写体26は、2つ、3つ、または7つの特定の波長のみを放射、反射、または透過するのではないであろう。代わりに、それは光の放射の比較的連続するスペクトルを放射、反射、または透過する。図4は、図1の前記被写体26および前記光学12を示す線図であり、前記光学12の意図的な長手方向(つまり軸方向)色収差が前記全体システムの連続的なブロードバンドの、不均一なスペクトル応答にマッチする。
【0058】
この点について、R(λ)が図1に示す全体配列の累積スペクトル応答を表し、それは、(1)前記被写体26の分光的特徴、(2)前記画像検出器14のスペクトル応答、および(3)全ての媒体(大気、あらゆる光学屈折および反射物質、あらゆる回析構造物、あらゆる薄膜コーティングなどを含む)を通る分光透過の積である。図4の右下部分は、λmin〜λmaxの範囲のこの累積スペクトル応答R(λ)を表す曲線126を有するグラフを描写する。λmin〜λmaxの範囲において、前記R(λ)累積応答曲線126の下の全面積はAである。概念的に、前記R(λ)曲線126の下のこの面積Aを等面積ΔA=A/MのMセグメントに分ける。図4において、8つの前記Mセグメントが参照番号131〜138で特定される。
【0059】
第1のセグメント131において、前記第1のセグメントを等面積ΔA/2=A/2Mの2つのサブセグメントに分ける第1の波長λを選択する。132から138までの他のセグメントのそれぞれに対して、関連するセグメントを等面積ΔA/2=A/2Mの2つのサブセグメントに分けるそれぞれの波長λ〜λを得るために、同様のことを行う。これらのセグメントを分ける波長λ〜λは、本明細書では波長ノードと言及する。今述べたような方法は、前記波長ノードλ〜λを選択するための1つの可能な技術である。しかしながらこれの代わりに、他の適切な技術を使用して波長ノードを選択することも可能である。1つの実施例として、前記波長ノードを前記対応するセグメントの重心の横座標で定義することができる。
【0060】
さらに図4を参照して、前記波長ノードλとλの間にそれぞれが面積ΔA/2=A/2Mを有する2つのサブセグメントがあることに気付くであろう。このように、前記2つの波長ノードλとλの間の前記曲線126の下の面積は、ΔA=A/Mである。一般化すると、図4の隣接する波長ノードλ〜λのそれぞれの対の間の前記曲線126の下の面積は同一であり、ΔA=A/Mである。これからの当然の結果として、波長目盛りに沿って隣接する波長ノードλ〜λの間は不均一な間隔であることに気付くべきである。当然のことながら、前記累積スペクトル応答R(λ)が前記全体のスペクトルバンドλmin〜λmaxにわたって比較的一定であった場合、前記波長ノードは等間隔である。しかし、実際のところ、前記累積スペクトル応答R(λ)は典型的には不均一であり、これにより前記波長ノードは典型的には不均一な間隔である。
【0061】
前記波長ノードλ〜λの各々が面積ΔA=A/Mを有するそれぞれのセグメント131〜138と関連するので、前記M対応スペクトル線のそれぞれに対するスペクトル重量は同じであり、1/Mである。このように、ブロードバンドスペクトル応答の場合は、同じ強さの一組のM離散スペクトル線として都合良く再公式化される。一般に、これは一組の不等距離波長ノードλ〜λを生じさせ、それは、図4を参照して、前記光学軸13に沿って等間隔にある一組の焦点FP〜FPにマッピングされ、前記焦点FP〜FPの各々は前記波長ノードλ〜λのそれぞれの1つに直接対応する。図4において、マッピング機能は、159の破線ボックスによって図式的に表されている。
【0062】
不等距離波長ノードλ〜λの等距離の焦点FP〜FPへのマッピングは、適切な長手方向(つまり軸方向)色収差(色焦点移動)を提供する光学12で達成することができる。1つの分析レベルにおいて、純粋な屈折光学のため、前記必要な色点移動を波長λ(または回析のためのその逆数1/λ)の低次多項式によって表すことができる。一方、技術系のためのより実用的な方法は、前記要求される等距離の色焦点移動値をメリット関数の目的として設定すると同時に、前記光学を市販のレンズ構造のコンピュータプログラムで最適化する。このことについて、適切なレンズ設計コンピュータプログラムの例として、カリフォルニア州パサデナのOptical Research Associatesから商標名CODE Vで市販されているプログラム、ワシントン州ベルビューのZemax Development Corporationから商標名ZEMAX(登録商標)で市販されているプログラム、またはニューヨーク州ピッツフォードのSinclair Optics,Inc.から商標名OSLOで市販されているプログラムがある。これらは単なる例であり、これらの代わりに他の適切なレンズ設計コンピュータプログラムを使用することも可能である。
【0063】
図4において159で図式的に示されるマッピング機能に関して、このマッピング機能を実行する1つの方法は、誤差関数を使用して行うことである。より具体的には、1つの適切な誤差関数は、個々の欠陥の適切に加重された二乗の合計である。特に、幾つかの欠陥値が計算され、各欠陥値は目標値と興味のある特定のパラメータの計算値との間の差である。このような欠陥値の各々は次に2乗され、その後この2乗の値にそれらの相対的重要性に従って重みが付けられる。次に、前記重み付き2乗が合計される。
【0064】
上記のZEMAX(登録商標)を使用する際、前記誤差関数は一連の「AXCL」オペランドを使用して生成することができる。各AXCLは色焦点移動(2つの異なる波長に対応する2つの焦点の間の軸方向距離)を計算する。このようにして、図4について言えば、波長λおよびλに対するノードを使用してAXCL(1,2)を計算し、波長λおよびλに対するノードを使用してAXCL(2,3)を計算し、波長λおよびλに対するノードを使用してAXCL(3,4)を計算し、と続く。これらのAXCLオペランドは、隣接する波長ノードから対応する隣接の焦点間の軸方向距離へのマッピングを行う。
【0065】
前記ZEMAX(登録商標)ソフトウェアは、次に、これらAXCLの全てが等しくなるような方法で初期レンズ設定を再最適化するように求められる。AXCLが収束しなければならないような特定の値を定めるのではなく、単に全てのAXCLが等しくなる設定を求めるようにするのが良く、これによって最適化プロセスがこの追加の自由度を活用することができるようになる。技術的には前記誤差関数を定義するために、連続するAXCLの間の差のみが欠陥としてZEMAX(登録商標)の中に入力される必要がある。前記ZEMAX(登録商標)ソフトウェアは、次に前記一連のAXCLオペランドにわたって使用することができる、AXCLが結果として生じるレンズ設定において全て等しくなる「EQUA」オペランドを有する。ZEMAX(登録商標)の最適化アルゴリズムは、次に前記初期レンズ設定を取り込み、前記誤差関数を次第に減少させる目的で、前記誤差関数(重み付き2乗の合計)が選択された閾値より低くなるまでその設定(例えば、レンズ曲率半径、レンズ厚さ、レンズ間の空隙など)のパラメータを反復的に調整する。
【0066】
前記ZEMAX(登録商標)ソフトウェアは、通常このカスタム誤差関数(重み付き2乗の合計)と初期設定誤差関数とを組み合わせるように設計されている。前記初期設定誤差関数の1つの特徴は、(普通は望ましくないと考えられている)長手方向(つまり軸方向)色収差を取り除くように設計されていることである。しかしながら、本明細書で開示されている最適化を実行するとき、前記初期設定誤差関数は無効に(または少なくとも中心波長でその単色部分に減少)されるべきである。これにより、前記初期設定誤差関数が前記カスタム誤差関数に対して機能しなくなることを確かにする。言い換えれば、前記初期設定誤差関数は、前記カスタム誤差関数が意図的に確立しようとする前記長手方向(つまり軸方向)色収差を取り除こうと試みないことを確実にする。
【0067】
特定のシーンまたは被写体26に適切な、意図的な長手方向(つまり軸方向)色収差を有する光学12を設定する1つの技術の実施例を提供する。上記のように、図1の装置10は、電磁スペクトルの様々な異なる部分のいずれかに用いられるように設定され得るが、LWIR光の放射(約8〜12μmの波長)で用いるように設定されることもある。このように、以下の説明は前記スペクトルのLWIR部分との関連で行うが、開示される方法は前記電磁スペクトルの他の部分にも同様に適用可能である。
【0068】
この説明目的のため、興味のある対象または被写体26が約300K〜400Kの間の温度を有すると仮定される。例えば、健康な人は、人種、年齢、または性別に関係なく、概して約310K(37℃)の光の放射を放射する。図5、6、および7の各々は、7〜14μmの範囲にわたるそれぞれの異なる温度に対応する黒体スペクトル曲線を示す。すなわち、図5の曲線は温度300Kに対応し、図6の曲線は温度350Kに対応し、ならびに図7の曲線は温度400Kに対応する。これらの曲線は、それらのピーク値に基づいて正規化されている。
【0069】
図5〜7の各々において、前記曲線の下の面積は、等面積の8つのセグメントに分割されており、これらのセグメントは縦の実線によって区切られている。次に、これら8つのセグメントは、等面積の2つのサブセグメントに分けられており、縦の破線によって示されている。前記縦の破線に対応する波長は、本明細書において波長ノードと言及される。いずれの2つの隣接する縦の破線の間における前記曲線の下の面積は同じであり、さらにあらゆる2つの隣接する縦の実線の間における前記曲線の下の面積と等しい。
【0070】
先に説明したように、前記画像検出器14(図1)は、19,200ピクセル(160x120ピクセル)を有する(および45ミクロンのピクセルピッチを有する)非冷却マイクロボロメータ配列(microbolometric array)である。こうして、サンプリング周波数は22サイクル/mmであり、ナイキスト周波数は11サイクル/mmである。当技術分野で知られているように、このタイプの非冷却配列は非常に速い光学(例えば、約f/1程度)を必要とする。大気および前記光学12の分光透過は、前記画像検出器14のスペクトル応答とともに、理想的な「頂冠」スペクトル曲線を定義する。結果として、前記全体のシステムの合計累積スペクトル応答R(λ)は、所与の熱的シーンまたは被写体を示す黒体スペクトル曲線に比例する。その結果として、図5〜7に示す前記波長ノードは、効果的に前記全体システムを表している。
【0071】
上記のように、前記画像検出器14は非常に速い光学12を必要とする。図8は、14で示すタイプの画像検出器とともに使用される既存の光学181の線図である。前記光学181は、2つに分かれて間隔の空いたレンズ183と184とを含む。前記レンズ181は前面186と後面187とを有し、前記レンズ184は前面188と後面189とを有する。前記画像検出器14の保護筐体は、光強度を有さない保護ウィンドウ192を含む。前記光学181は、60ミリメートルの焦点距離と、f/1.15のF値とを有する。前記レンズ183および184はそれぞれ、カルコゲナイドガラスから作られ、なぜなら前記カルコゲナイドガラスはがLWIR光の放射を透過するからである。光学に妥当な視野(field of view:FOV)を提供するため、レンズの数を低く抑えながら、前記後面187および189はそれぞれ非球面である。
【0072】
前記低いレンズの数を維持しながら、長手方向(つまり軸方向)色収差を補正するため、前記レンズ183の前記裏面187は同心回析光学表面(diffractive optical surface:DOS)であり、それは非球面ベース上の前記レンズの絞り(瞳)に最も近くに提供される。前記DOSは前記非球面ベースに比較的低コストで、ダイヤモンド切削を使用して形成できる。図8のこの従来技術の配置において、187の前記DOSは、特に長手方向(つまり軸方向)色収差を補正するように設計されている。対照的に上記のように図1の前記光学12は、特定の方法で意図的な長手方向(つまり軸方向)色収差を導入する。図8の181で示す従来技術の光学は出発点として使用され、長手方向(つまり軸方向)色収差を意図的に導入するだけでなく、不等間隔の波長ノードに対する長手方向(つまり軸方向)色収差の均等な分布を提供する方法で導入するような(図5〜7)前記光学12(図1)を得るように修正される。
【0073】
図9は、適切な意図的な長手方向(つまり軸方向)色収差を有する光学を設定する1つの可能な手順を示す流れ図であり、特に前記光学が前記光学軸に沿って不等間隔の波長ノードの前記長手方向(つまり軸方向)色収差を均等に分布する。ブロック201において、1若しくはそれ以上のスペクトル応答曲線が特有のシーンまたは被写体として特定される。本明細書の説明にある実施例に、図5〜7に示される前記スペクトル応答がある。次に、ブロック202において、波長ノードの各組がそれぞれの曲線に特定され、前記波状ノードは、前記スペクトル応答曲線の下の面積を均等なセグメントに分割する。図5〜7の各々において、前記波長ノードは縦の破線に対応する波長である。
【0074】
次に、ブロック203において、誤差関数またはマッピング関係が各組の波長ノードに対して生成される。前記誤差関数は、前記組の波長ノードを前記光学軸に沿って均等に間隔が空けられた複数の焦点にマッピングされる。このような誤差関数またはマッピング機能の1つは、図4に図式的に159で示されている。
【0075】
そして、ブロック206において、前記光学12は、前記誤差関数の各々の同時結合最小化を含む方法で設定される。本明細書で説明する特定の実施例において、これは標準ZEMAX(登録商標)レンズ設計ソフトウェアの不可欠な要素である減衰最小二乗アルゴリズムを使用して実行された。しかしながら、代わりに異なるレンズ設計ソフトウェアおよび/または異なる自動最適化アルゴリズムを使用することも可能である。
【0076】
図10は、図1の装置10で使用され、本発明の観点を具体化する前記結果として生じる光学12の線図である。前記画像検出器14は、そのゼロ出力ウィンドウ192とともにまだ存在している。前記光学12は2つのレンズ221および222を含む。前記レンズ221はカルコゲナイドガラスでできており、前記レンズ222はゲルマニウムでできている。前記光学12は、57.5ミリメートルの焦点距離とf/1.10のF値とを有する。前記レンズ221は前面226と後面227とを有し、前記レンズ222は前面228と後面229とを有する。前記表面229は非球面である。前記表面227は、非球面ベースのDOSであり、当該DOSは28個の同心円状の輪(コンセントリックリング)を含む。前記DOSは光強度にのみ貢献し(または言い換えれば、高次項を有さない)、意図的な長手方向(すなわち軸方向)色収差の望ましい程度を提供する。図11は、前記装置10(図1および10)で達成される軸方向GOTF性能を示すグラフである。図11は、黒体被写体の温度が300K〜400Kで変化するとき、拡張被写界深度にわたる最小変化があることを示す。
【0077】
前記被写界深度が増加できるという事実の比較実証を提供するために、実験が実施された。前記実験には、8〜12μm熱バンド(LWIR)で光の放射の画像を記録するように設計された単一の従来の赤外線カメラを使用した。前記カメラは、76,800ピクセル(320x240ピクセル)および45μmのピクセルピッチの不冷却赤外線検出器を含んだ。前記カメラは、2つの非球面カルコゲナイドレンズを有する従来の十分な修正f/1.1レンズ配置を含み、60mmの有効焦点距離を有した。比較評価を促すため、意図的な長手方向(つまり軸方向)色収差の適切な程度および分布を追加するように設計された設定とともに別々の追加回折素子が作られた。前記回析素子は、前記従来のカメラの前に選択的に取り外し可能に搭載されることにより、前記カメラが前記回析素子の有無にかかわらず使用することができた。この取り外し可能な回析素子は、7つの輪と、ゼロ合計回析−屈折光強度と、回転対称とを有した。300Kの黒体源に対して上述の手順を使用するように設計された。前記最後の最適化は、上述した方法でZEMAX(登録商標)レンズ設計ソフトウェアを使用して実行された。前記ZEMAX(登録商標)はまた、ぼやけた画像をデコンボリューションするための対応するカーネルを生成するのに使用された。
【0078】
前記カメラの焦点が、当該カメラから150cmから無限の間隔を空けた選択された位置に合わされた。前記カメラの焦点が合わされた、選択された位置に比べて拡張した視野に配置された被写体とともに、様々な実験シーンが提供された。各実験シーンに対して、所定の位置の前記取り外し可能な回析素子で画像が撮られ(例えば、意図的に彩色的にぼやけた画像)、また前記回析素子なしで画像が撮られた(例えば、従来の画像)。前記ぼやけた画像からの情報は、それらの画像の処理バージョンを得るため、1/GOTFカーネルを使用してデコンボリューションされた。前記処理画像は、前記従来の画像の被写界深度より大きい被写界深度を有する鮮明な画像であった。
【0079】
1つの実施例として、図12は、2つの輪271および272を伴う被写体の後ろに熱源を有する実験シーンの線図である。これらの輪271および272は、従来の被写界深度よりさらに離れたおおよそ5倍の距離で前記カメラから間隔を空けられた。上述したように、このシーンと同様の画像が前記取り外し可能な回析素子でまたはなしで撮られた。前記取り外し可能な回析素子で撮られた画像に関する前記画像からの情報は、処理画像を得るため上記で説明したカーネルを使用してデコンボリューションされた。図13は、(1)図12の線A−Bに沿った期待強度分布を表す曲線281、(2)前記取り外し可能な回析素子なしで撮られた従来の画像からの線A−Bに沿った強度分布を表す曲線282、および(3)回析素子で撮られた意図的なぼやけた画像からの情報のデコンボリューションを通して得られた処理画像から線A−Bに沿った強度分布を表す曲線283である。前記期待強度分布を表す前記曲線281は、前記カメラの通常の焦点限界内の位置に配置される2つの輪の被写体を伴い、前記回析素子なしで撮られた個別の参照画像を基にした近似値であった。図13において、従来の画像の曲線282から、前記2つの輪がぼやけており、前記強度分布が前記輪の領域内で比較的均一であることが分かる。結果として、前記輪かまたは前記輪の間の分離のいずれかを明確に特定するのは困難である。それと対照的に、前記処理画像からの前記曲線283は、むしろはっきりと前記2つの輪の各々(およびそれらの間の分離)を特定する。
【0080】
幾つかの選択された実施形態の先の議論から明らかなように、本明細書で開示の技術は、時間および/または空間で著しく変化しないスペクトル特性を有するイメージングシーンまたは被写体に適切な、作業に基づいた光学デジタルシステムで使用できる。それは、このようなシーンまたは被写体の前記分光的特徴の少なくとも部分的知識を前提とする。このような作業に基づいたシステムの幾つかの実施例は、熱探知カメラ、光学的結像器(optical imager)、および蛍光顕微鏡である。
【0081】
前記開示技術の1つの態様は、光軸に沿って長手方向(すなわち軸方向)色収差の所定の分布を有する光学系によって生成される意図的にぼやけた画像の、デコンボリューション(同様の復号または回復動作)を使用した、拡張焦点深度(拡張被写界深度)の提供である。この所定の分布は、前記全体システムの累積スペクトル応答に適切にマッチすることを確実にし、これは、シーンまたは被写体の分光的特徴、媒質(大気)の分光透過、結像光学系の分光透過、および画像検出(または画像を記録するたの構造)のスペクトル応答を含む。
【0082】
1つの関連する考察は、システムの所与の累積スペクトル応答関数が、前記光学の適切な所定の長手方向(すなわち軸方向)色収差を使用することにより、対応する軸方向一定の多色イメージング応答(例えば、OTFまたはPSF)にマッピングできることである。言い換えれば、シーンまたは被写体の分光的特徴が与えられかつ前記システムのスペクトル特性が知られている場合、波長に関連する色焦点移動の変化を表す曲線は、前記光学軸に沿った多色ぼやけが拡張深度の領域にわたり一定であるような方法で形作ることができる。この条件がおおよそでも満たされる場合、あらゆる標準デコンボリューション技術は、単一動作でぼやけた画像を復号するのに(一意の回復カーネルとともに)使用することができ、そして、前記拡張被写界深度にわたる対応する鮮明な画像が得られる。外来の高価なオプティカルハードウェアは必要としない。このようにして、例えば、位相マスク、または別々に処理される多数の独立したスペクトル(カラー)チャネルへの光の放射のスペクトル分割を実行するハードウェアを使用する必要はない。大幅に異なる温度で撮られた灰色体の分光的特徴に関して、前記光学の軸方向色収差でおおよそ一定のぼやけを得ることは可能である。これは重要なことである、なぜなら熱赤外(ヒト、動物、空、砂、エンジンなどを含む)での熱の共通ソースの多くは、よく知られている灰色体モデルによって特徴付けられることができるからである。本明細書で開示される技術の使用を通して、拡張被写界深度を有するIR赤外線画像の新世代を提供するのに実際に役に立つ。
【0083】
前記開示技術は、シーンまたは被写体が少なくとも2つの個別のスペクトル線(2つの個別の波長)を有する光の放射を放射、反射、または透過する場所で働く。厳密に言えば、前記開示技術は、単一スペクトル線(単一波長)から成る単色光の放射には使用できない。しかし、現実の世界では純粋な単色光の放射は存在せず、準単色光の放射が観察できる。準単色光の放射が、高分散性の光学が完全な単色焦点移動を作成するのに十分なスペクトルバンド幅を有する場合、前記開示技術は成功裏に使用することができる。当然の成り行きとして、シーンまたは被写体から受け取られる光の放射が多くの個別スペクトル線から成る(または連続するブロードバンドスペクトル分布を有する)ブロードバンド光の放射である場合、より良い結果が得られる。
【0084】
上記で開示された方法が、幾何学的光学ベース回復カーネルを使用して逆フィルタリングを介して画像のぼやけ修正を達成するが、代わりに多くの他のデコンボリューション技術(従来の線形技術および制約付き非線形技術の両方を含む)のいずれかを使用することも可能である。幾つかの例として、疑似逆フィルタリング、ウィーナーフィルタリング、ファンシッタート(Van Cittert)の技術、および最大エントロピー技術を含む。場合によっては、満足のいくぼやけ修正をコンボリューションなしに例えば単一画像処理ツールを使用することによって達成することができる。このような技術は、ぼやけ修正された画像、より良い信号対雑音比のため交換できる場合には好ましい。選択された実施形態が詳細に説明および解説されてきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神と範囲から逸脱することなく様々な代替および変更が可能なことは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、シーンからの光の放射を光学軸に沿う方向に向かわせる光学部を有し、この光学部は前記シーンの特有の分光的特徴に対して機能する色分散を有し、これにより拡張被写界深度領域に対して前記光学軸に沿って略空間的に一定である色ぼやけを生成するものである装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、前記光学部を通過した光の放射の進路に位置付けられる画像検出器を含むものである装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、前記画像検出器の出力を処理する構造を含み、前記拡張被写界深度領域を含む前記シーンの鮮明な画像を生成するものである装置。
【請求項4】
請求項2記載の装置において、前記画像検出器の出力をデコンボリューションする(deconvolve)構造を含み、前記拡張被写界深度領域を含む前記シーンの鮮明な画像を生成するものである装置。
【請求項5】
請求項1記載の装置において、前記光学部は、両側に対向するように第1および第2の光学表面を有する第1のレンズと、前記第1のレンズから間隔を空けて配置された、両側に対向するように第3および第4の光学表面を有する第2のレンズとを含み、前記第1、第2、第3、および第4の光学表面の1つは非球面ベースでの回析光学表面であり、前記第1、第2、第3、および第4の光学表面の別のものは非球面である装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、前記シーンからの光の放射は、前記第1、第2、第3、および第4の光学表面を連続して通過するものであり、前記第2の光学表面は前記非球面ベースでの前記回析光学表面であり、前記第4の光学表面は前記非球面である装置。
【請求項7】
方法であって、シーンからの光の放射を光学軸に沿う方向に向かわせる光学部を使用する工程を有し、この光学部は前記シーンの特有の分光的特徴に対して機能する色分散を有し、これにより拡張被写界深度領域に対して前記光学軸に沿って略空間的に一定である色ぼやけを生成するものである方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、前記光学部を通過した光の放射を画像検出器に衝突させる工程を含むものである方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法において、前記画像検出器の出力を処理する工程を含み、前記拡張被写界深度領域を含む、前記シーンの鮮明な画像を生成するものである方法。
【請求項10】
請求項8記載の方法において、前記画像検出器の出力をデコンボリューションする工程を含み、前記拡張被写界深度領域を含む、前記シーンの鮮明な画像を生成するものである方法。
【請求項11】
請求項7記載の方法において、両側に対向するように第1および第2の光学表面を有する第1のレンズと、前記第1のレンズから間隔を空けて配置された、両側に対向するように第3および第4の光学表面を有する第2のレンズとを含む前記光学部を設定する工程を含み、前記第1、第2、第3、および第4の光学表面の1つは非球面ベースでの回析光学表面であり、前記第1、第2、第3、および第4の光学表面の別のものは非球面である方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法において、前記光学部を設定する工程は、さらに、
前記第1および第2のレンズを配置する工程であって、前記シーンからの光の放射が前記第1、第2、第3、および第4の光学表面を連続して通過するようになるものである、前記配置する工程と、
前記第2の光学表面を選択する工程であって、当該第2の光学表面が前記非球面ベースでの回析光学表面となるものである、前記選択する工程と、
前記第4の光学表面を選択する工程であって、当該第4の光学表面が前記非球面となるものである、前記選択する工程と
を含むものである方法。
【請求項13】
光学軸を有する光学系を設計する工程を有する方法であって、
選択された波長の範囲内で特有のシーンに対するスペクトル応答曲線を特定する工程と、
前記選択された波長の範囲内で、前記スペクトル応答曲線の下の面積を略等面積の複数のセグメントに分割する異なる複数の波長ノードを決定する工程と、
前記複数の波長ノードと前記光学軸に沿って略等分に間隔が空けられた複数の焦点との間のマッピング関係を生成する工程であって、このマッピング関係は前記波長ノードの各々を前記焦点のそれぞれの1つにマッピングするものである、前記生成する工程と、
前記光学系を前記マッピング関係に応じて設定する工程と
を含む方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法であって、前記特定する工程は、前記選択された波長の範囲内で、前記特有のシーンのさらなるスペクトル応答曲線を特定する工程を含み、前記スペクトル応答曲線の各々は前記特有のシーンのそれぞれの異なる温度に対応するものであり、
前記決定する工程は、前記選択された波長の範囲内で、前記スペクトル応答曲線の下の面積を略等面積の複数のセグメントに分割する異なる複数のさらなる波長ノードを決定する工程を含むものであり、
前記生成する工程は、前記複数のさらなる波長ノードと前記光学軸に沿って略等分に間隔が空けられた複数のさらなる焦点との間のさらなるマッピング関係を生成する工程を含み、このさらなるマッピング関係は、前記さらなる波長ノードの各々を前記さらなる焦点のそれぞれの1つにマッピングする工程であり、および
前記設定する工程は、前記マッピング関係のそれぞれに応じて実行されるものである
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法において、前記マッピング関係の各々はそれぞれの誤差関数であり、および
前記設定する工程は、前記誤差関数の各々の同時結合最小化を実行する工程を含むものである
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法において、前記実行する工程は、減衰最小二乗法を使用して実行されるものである方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−519919(P2012−519919A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553140(P2011−553140)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/026389
【国際公開番号】WO2010/102227
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(503455363)レイセオン カンパニー (244)
【Fターム(参考)】