説明

指針型絶縁抵抗計

【課題】部品のバラツキや温度の影響を避けるために調整や工数が煩雑になることが無く、効率良く製造できる精度の高い指針型絶縁抵抗計を提供する。
【解決手段】メータMの指針を振れさせて計測された絶縁抵抗値を表示する指針型絶縁抵抗計10は、電流−電圧変換回路18により測定された検出電流Iinから、対数演算手段11bが絶縁抵抗値Rinsuと、その値に応じた対数表示の指示角度を演算し、補正値記憶手段11dに記憶された補正値に基づいて指示角度を補正し、補正された指示角度に応じた指針角度制御電圧をD/A変換手段11cよりメータMへ印加させることで、測定値の指針表示を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電気器具・電気設備などが正しく、正常に設置されたかを確認する、または正常に設置された後、正常に動作をしているかを定期的に点検するための、絶縁抵抗を測定するためのアナログメータを備えた(指針型)絶縁抵抗計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
指針型絶縁抵抗計は、例えば0.1MΩ〜100MΩや2MΩ〜2000MΩのように広い測定範囲を持ち、通常、一つの目盛で広い測定範囲をカバーして表示する。そのために、対数圧縮した目盛が使用される。従来より、トランジスタで増幅した電流を圧縮用ダイオードを用いて圧縮する対数圧縮回路が広く用いられており、この他、従来のアナログ式の指針型絶縁抵抗計に使われる対数圧縮回路の設計手法として、以下の2つの方法も知られている。(1)折線近似回路を使用した回路設計。(2)ログアンプを使用した回路設計。
【0003】
折線近似回路を使用した回路設計では、区間毎に傾きが変換される折れ線で非線形関数に近似させる折れ線近似回路を用い、電流変化を対数的に表すものである(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
ログアンプを使用した回路設計では、対数特性を有するログアンプを利用することで、出力電圧を入力電圧に対する対数関数(log)に変換し、3〜4桁の電流変化を忠実に対数出力できるようにするものである(例えば、特許文献2〜4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−124192号公報
【特許文献2】特開2009−139206号公報
【特許文献3】特開平08−166416号公報
【特許文献4】特開平09−119952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した対数圧縮回路の設計方式は、ダイオードの折線近似、トランジスタの指数特性と、何れも半導体の特長を生かしたものであることから、半導体の購入ロットや個体ごとのバラツキや環境温度の影響が無視できず、計測精度に大きく関わるため、安定した性能の絶縁抵抗計とするためには、調整点も複数あり、工数が多くかかっていた。
【0007】
そこで、本発明は上記のような問題点に鑑み成されたもので、部品のバラツキや温度の影響を避けるために調整や工数が煩雑になることが無く、効率良く製造できる精度の高い指針型絶縁抵抗計の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る指針型絶縁抵抗計は、被測定回路への通電により得た絶縁抵抗値を、メータの対数目盛に指示針で表示する指針型絶縁抵抗計において、前記メータの指示針の指示角度を制御する、マイクロコンピュータ構成の指針表示制御部を備え、前記指針表示制御部は、計測された絶縁抵抗値に基づいて、メータの対数目盛に応じた指示角度を算出する対数演算手段と、前記対数演算手段により算出された指示角度に応じた電流をメータへ流すことで、指示針をその指示角度に振れさせる指針制御手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る指針型絶縁抵抗計は、前記請求項1記載の指針型絶縁抵抗計において、前記指針表示制御部は、前記対数演算手段により算出された指示角度と、該指示角度に基づいて指示針制御手段が制御することによりメータの指示針が指示する対数目盛の位置との誤差を補正値として記憶する補正値記憶手段を有し、前記対数演算手段は、前記補正値記憶手段の記憶する補正値に基づいて補正した指示角度を指針制御手段へ送出するようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る指針型絶縁抵抗計は、前記請求項2に記載の指針型絶縁抵抗計において、外部と有線および/または無線の通信が可能な通信手段を備え、前記通信手段を介して、外部の検査装置と接続することで、検査装置からの補正値を受信し、この補正値を前記補正値記憶手段に記憶させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る指針型絶縁抵抗計によれば、前記メータの指示針の指示角度を制御する、マイクロコンピュータ構成の指針表示制御部を備え、前記指針表示制御部は、計測された絶縁抵抗値に基づいて、メータの対数目盛に応じた指示角度を算出する対数演算手段と、前記対数演算手段により算出された指示角度に応じた電流をメータへ流すことで、指示針をその指示角度に振れさせる指針制御手段と、を有するので、半導体素子により対数圧縮回路を構成する場合のように、部品のバラツキや温度の影響を受けることが無く、精度の高い測定が可能である。しかも、製品毎に行う調整や工数が煩雑になることは無いので、効率良く指針型絶縁抵抗計を製造できるという利点もある。加えて、指示針表示制御部は、マイクロコンピュータ構成とすることで、対数演算手段をソフトウェアにより実現できることから、部品点数を削減でき、延いてはコスト削減にも有効である。
【0012】
また、請求項2に係る指針型絶縁抵抗計によれば、前記指針表示制御部は、前記対数演算手段により算出された指示角度と、該指示角度に基づいて指示針制御手段が制御することによりメータの指示針が指示する対数目盛の位置との誤差を補正値として記憶する補正値記憶手段を有し、前記対数演算手段は、前記補正値記憶手段の記憶する補正値に基づいて補正した指示角度を指針制御手段へ送出するようにしたので、メータの個体差等に起因する指示位置の誤差があっても、その誤差を吸収し、高精度の表示が可能となる。
【0013】
また、請求項3に係る指針型絶縁抵抗計によれば、外部と有線および/または無線の通信が可能な通信手段を備え、前記通信手段を介して、外部の検査装置と接続することで、検査装置からの補正値を受信し、この補正値を前記補正値記憶手段に記憶させるようにしたので、検査装置による検査結果をダイレクトに反映させることができ、製品毎の調整を効率良く行うことで、生産効率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る指針型絶縁抵抗計と検査装置からなる誤差補正システムの概略構成図である。
【図2】対数演算手段が用いる換算対応表の一例を示すイメージ図である。
【図3】図2の換算対応表における絶縁抵抗値とメータ角度を対数表示したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明に係る指針型絶縁抵抗計の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、図1においては、指針型絶縁抵抗計10と検査装置20を接続線30にて接続することで構成される誤差補正システム全体を開示するものとした。
【0016】
指針型絶縁抵抗計10は、指針表示制御部として機能する計測用マイクロコンピュータ11を備え、計測値に基づくメータMの指示針表示を制御するもので、この計測用マイクロコンピュータ11によって実現する諸機能に特別な技術的特徴が存する。その他の機能は、従前の指針型絶縁抵抗計と同様で、例えば、以下のような構成を備える。
【0017】
直流電源12(内蔵電池等)から内部の各回路へ適正な電圧を供給し、そのON/OFFを切り換え制御可能な電源回路13、高圧を発生させるための交流信号を生成する発振回路14、この発振回路14により生成された交流信号を昇圧させるためのトランスと整流して直流に変換するため変圧/整流回路15、被測定回路中の負荷が変動しても出力電圧を一定に保つためのフィードバック回路16、測定用の出力端子Eに接続され、過電流を防止したり、間違って活線に接続しても装置自体を保護するための保護回路16、検出用の入力端子Lから検出した電流を電圧値に変換する電流−電圧変換回路18等を備える。
【0018】
上記のような構成を有する指針型絶縁抵抗計10を被測定回路に接続し、絶縁抵抗の計測を開始すると、先ず、電流−電圧変換回路18により検出電圧に応じた電流が計測用マイクロコンピュータ11のA/D変換手段11aに入力され、この入力電流に応じたデジタル値に変換され、このデジタル化された検出電流Iinが対数演算手段11bへ供給される。
【0019】
対数演算手段11bは、出力電圧Voutと、検出された検出電流Iinから、絶縁抵抗Rinsuを求める(演算式:Rinsu=Vout÷Iin)。
【0020】
通常、アナログ式の絶縁抵抗計においては、出力電圧Voutはほぼ一定(例えば、500V)であることから、測定により検出電流Iinのみ得られれば、絶縁抵抗Rinsuを演算できる。この検出電流Iinに対応する絶縁抵抗値をメータMで表示するように、対数演算手段11bから指針制御手段としてのD/A変換手段11cへ表示用の信号を供給すれば、メータMで指針による計測値の表示を実現できる。
【0021】
一般的に、指針型絶縁抵抗計では、計測した電流値によってメータを振らせているため、電流が小さい(抵抗値が大きい)ときに指針表示が0度に近く、電流が大きい(抵抗値が小さい)ときに90度に近くなるように、指針を振れさせるようにしてある。この指針表示においては、メータMの目盛りが対数目盛りであることから、対数計算により抵抗値に応じた指針の指示角度を求める必要がある。
【0022】
指示角度(度)=角度変換係数k(度)×LOG Rinsu
【0023】
上記の演算式により、測定最大値近辺の値が0度、測定最小値近辺の値が90度になるように、角度変換係数kを調整すれば良い。
【0024】
図2に示すのは、5000MΩで0度、0.05MΩで90度となるように、角度変換係数k=18.00度として対数計算した一例を示す。表示値=LOG(Iinsu/Iinsu at 5000MΩ)で計算でき、その表示値に対応する対数目盛(0.00度〜90.00度の範囲)に換算することで指示角度が求まるのである。図2に示す換算例においては、0.05MΩ〜5000MΩを測定可能範囲と設定したので、最小値から最大値まで100000倍(10の5乗倍)に及ぶ広範囲となるから、これを常用対数で表すと「5」となり、この範囲を90度で振らせるように指示角度の換算を行い、この計算に合わせてメータMにおけるスケール板の目盛を作成すれば良い。
【0025】
図2における絶縁抵抗値を横軸に対数表示し、メータの指示角度を縦軸にとって示した特性が図3であり、理想的には直線性を呈する。しかしながら、実際には、様々な要因により非直線性が現れることとなる。このような非直線性は、個別に補正することも可能であるが、予め非直線性のバラツキの平均をとって、この非直線性補正に基づいて作製した目盛を用いるようにすれば、調整工程の一部を省力化でき、相応の精度での指針表示を行うことができる。
【0026】
なお、上述した対数換算の例では、電流値Iinsuのみから指示角度を求める計算例を示したが、より計測精度を上げるために、計測時の出力電圧Voutを検出できるようにしておき、絶縁抵抗Rinsu=Vout/Iin によって絶縁抵抗を求め、この絶縁抵抗値から指示角度を求めるようにしても良い。
【0027】
また、有効測定範囲も5000MΩ〜0.05MΩの範囲に限定されるものではなく、任意の有効測定範囲を0度〜90度の範囲で指示できるようにして構わない。例えば、絶縁診断に重要な2000MΩ(7.16度)〜0.1MΩ(84.58度)の範囲に有効測定範囲を絞れば、それだけ広く表示させることができる。
【0028】
上記のようにして指示角度を求めた計測用マイクロコンピュータ11の対数演算手段11bは、その指示角度でメータMを振れさせるように、D/A変換手段11cへの出力電圧を制御し、D/A変換手段11cより所望の指針角度制御電圧がメータMへ印加されるようにする。なお、メータMの内部抵抗は、通常0.4%/℃あるので、直接電圧で制御すると、温度の影響を受け易いことから、メータMの内部抵抗よりはるかに大きな抵抗を直列に入れて、定電流動作させることにより、温度の影響を低減できる。また、メータMの端子電圧は、通常50mV〜200mV程度であるから、この10倍から100倍の電圧で制御するようにしても、温度の影響を無視できる。
【0029】
なお、一切余分な部品を使用しないで、計算だけで調整することもできる。例えば、電流が大きい(抵抗値が小さい)点を調整点として、メータの指示が合うように、D/A変換手段11cからの出力値を調整する。このD/A変換手段11cからの出力値を機器ごとの調整値として、不揮発メモリで構成した補正値記憶手段11dに記憶させておき、この補正値記憶手段11dに記憶された補正値を対数演算手段11bが用いることで、D/A変換手段11cへの印加電圧を調整すれば、誤差の少ない極めて高精度の指針表示を実現できるのである。しかも、機器毎の補正値を補正値記憶手段11dに保存すれば、調整が完了するので、調整作業を効率良く処理できるという利点もある。
【0030】
上述した補正作業を一層効率的に行うためには、指針型絶縁抵抗計10と検査装置20を接続線30にて接続することで構成される誤差補正システムを用いることが望ましい。このために、指針型絶縁抵抗計10には、通信手段11eを設けてあり、検査装置20との通信を行えるようにしてある。指針型絶縁抵抗計10と検査装置20との通信は、有線に限らず、近距離無線通信を用いるようにしても良い。
【0031】
検査装置20には、指針型絶縁抵抗計10におけるメータMの指針表示状態を画像として取得できるカメラ等の撮像手段21を備え、この撮像手段21から供給される画像を画像処理手段22により処理(例えば、白黒の2値画像に変換して、スケール板の目盛と指示針のマッチングを行い易くするプレ加工処理など)し、その画像に基づいて、メータ指示角度算出手段23がメータMにおける実際の指示角度を算出し、そのメータ指示角度が比較判定手段24へ供給される。
【0032】
一方、誤差補正作業においては、指針型絶縁抵抗計10の対数演算手段11bがメータMに表示させている指示角度が、通信手段11eにより出力されて検査装置20へ供給され、検査装置20の指示角度受信手段25を介して比較判定手段25へ供給される。
【0033】
このように、実際にメータMに表示されている指示角度と、その指針制御を行っている対数演算手段11bが指示した指示角度とが共に供給される比較判定手段24は、両者を比較することで、その誤差を補正値と判定し、補正値送信手段26を介して指針型絶縁抵抗計10へ送信させる。
【0034】
検査装置20からの補正値を受信した通信手段11eは、その補正値を補正値記憶手段11dに供給し、これを補正値記憶手段11dが記憶することで、個体毎に現れる非直線性を効果的に補正でき、高精度の指針表示を行うことができる。
【0035】
上述したように構成される誤差補正システムによれば、検査装置20によって個体毎の非直線性を補正できる補正値を自動で取得でき、人手による調整作業に比べて、飛躍的な効率化を期せる。加えて、非常に高精度の指針型絶縁抵抗計を、安定してロス無く生産することができる。
【0036】
また、このような誤差補正システムによる誤差の自動補正を可能とする指針側絶縁抵抗計10においては、計測用マイクロコンピュータ11として、比較的廉価で入手できる既製品のマイコンを流用することができ、特に、対数演算手段11bの機能は、ソフトウェアのみで実現できることから、対数圧縮回路を構成するための部品を必要とせず、コストを下げられると共に、半導体部品による特性のバラツキを補正する必要もない。
【0037】
以上は、本発明に係る指針型絶縁抵抗計の実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明の包摂範囲は、これらの実施形態に限定されるものではなく、公知既存の手法を適宜転用することで実現しても構わない。
【符号の説明】
【0038】
10 指針型絶縁抵抗計
11 計測用マイクロコンピュータ
11a A/D変換手段
11b 対数演算手段
11c D/A変換手段
11d 補正値記憶手段
11e 通信手段
20 検査装置
30 接続線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定回路への通電により得た絶縁抵抗値を、メータの対数目盛に指示針で表示する指針型絶縁抵抗計において、
前記メータの指示針の指示角度を制御する、マイクロコンピュータ構成の指針表示制御部を備え、
前記指針表示制御部は、
計測された絶縁抵抗値に基づいて、メータの対数目盛に応じた指示角度を算出する対数演算手段と、
前記対数演算手段により算出された指示角度に応じた電流をメータへ流すことで、指示針をその指示角度に振れさせる指針制御手段と、
を有することを特徴とする指針型絶縁抵抗計。
【請求項2】
前記指針表示制御部は、
前記対数演算手段により算出された指示角度と、該指示角度に基づいて指示針制御手段が制御することによりメータの指示針が指示する対数目盛の位置との誤差を補正値として記憶する補正値記憶手段を有し、
前記対数演算手段は、前記補正値記憶手段の記憶する補正値に基づいて補正した指示角度を指針制御手段へ送出するようにしたことを特徴とする請求項1記載の指針型絶縁抵抗計。
【請求項3】
外部と有線および/または無線の通信が可能な通信手段を備え、
前記通信手段を介して、外部の検査装置と接続することで、検査装置からの補正値を受信し、この補正値を前記補正値記憶手段に記憶させるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の指針型絶縁抵抗計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−225866(P2012−225866A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95941(P2011−95941)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(390025623)共立電気計器株式會社 (7)
【Fターム(参考)】