説明

振動制御機構

【課題】ロッキング動や水平面内における捩れ運動のような回転を伴う振動を制御するための有効適切な振動制御機構を提供する。
【解決手段】構造体(建物1)を固定端に対して免震装置(バネ2)により免震支持するとともに、構造体と固定端との間に複数のダンパーを設置して該ダンパーにより構造体が固定端に対して回転を伴う振動を生じることを抑制する。前記ダンパーとして構造物の振動により発電機が駆動されて抵抗力を生じる発電型ダンパー10を用い、かつ各発電型ダンパーの発電機どうしを電気回路20により並列接続する。電気回路には各発電機に流れる電流を制御することにより各発電型ダンパーが生じる抵抗力を制御する制御回路を組み込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物等の構造体に対する振動制御に係わり、特に免震構造の建物におけるロッキング動のような回転を伴う振動を発電型ダンパーにより制御するための振動制御機構に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、一般的な免震構造では水平方向の地震動に対しては免震装置の水平剛性が小さく長周期化するため加速度を大きく低減できるが、鉛直方向の上下動に対しては免震装置の鉛直剛性が大きいことから殆ど低減効果を発揮できない。
【0003】
上下動に対する免震効果を高めるためには免震装置の鉛直剛性を小さくすれば良く、たとえば図8に模式的に示すように免震装置として鉛直方向に充分に柔らかいバネ2を用いて建物1を地盤や基礎(固定端)に対して上下方向に振動可能に免震支持すれば良いのであるが、その場合には次のような問題が生じる。
すなわち、建物1全体がいわゆる「ふかふかバネ状態」となり、建物1内での人の歩行荷重といった比較的小さな常時変動荷重に対しても図8(a)に示すように大きな振幅で上下動が生じて居住性が著しく低下してしまう。
また、図8(b)に示すように、地震時の転倒モーメントによって建物1が鉛直面内において回転するようなロッキング動を生じてしまう。
【0004】
上記の問題のうち、(a)のような「ふかふかバネ状態」による単なる上下動(回転を伴わない並進)に対しては、たとえば非特許文献1に示されているようにダンパーやブレーキ装置を設置することで改善する手法が提案されている。
【0005】
また、(b)のようなロッキング動(回転を伴う上下動)を防止するための手法としては非特許文献2に示されるものが提案されている。
これは,図9(a)に示すように上下免震対象の建物1の4隅部を2組4台のオイルダンパーA,Bにより支持するとともに、対角方向に配置した1組2台のオイルダンパーA,Bどうしをそれぞれ油圧回路Cにより接続するものであり、その油圧回路Cを図9(b),(c)に示すように双方のピストンの上下にたすき掛け配管したものである。
これによれば、(b)に示すように建物1が単に上下動(並進)した場合には油圧回路Cにオイルが自由に流れるので双方のオイルダンパーA,Bは同方向に抵抗なく作動するが、(c)に示すようにロッキング動に対しては各オイルダンパーA,Bでのオイルの流れる方向が逆になるので双方がロックされて逆位相での作動が拘束され、これによりロッキング動を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山崎ほか、「高性能上下免震床構法の開発」、日本建築学会大会学術講演梗概集、2009年8月。
【非特許文献2】露木ほか、「3次元免震建物の開発 その3 ロッキング抑制装置付オイルダンパーの解析と実験」、日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)、2008年9月。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上下免震における単なる上下動(並進)は非特許文献1に示されるような手法により比較的容易に改善可能であるが、ロッキング動を制御することは必ずしも容易ではない。
特に、非特許文献2に示されているようなオイルダンパーによるロッキング動の抑制手法は原理的には合理的ではあるものの、建物の平面形状や荷重分布が複雑な場合にはオイルダンパーの配置や油圧回路の配管経路を厳密に設定する必要があるのでその設計は容易ではないし、また油圧回路が長くなると流通抵抗によるロスや動作遅延も無視し得ず、その点では充分に有効であるとは言い難いものである。
【0008】
なお、ロッキング動と同様に回転を伴う振動は上下方向のみならず水平方向の振動においても起こり得るものであって、たとえば重心位置が平面的な中心位置から大きく偏心しているような免震建物の場合には地震時の水平振動が水平面内において捩れるような回転を伴うものとなる場合があるが、従来一般の免震建物ではそのような回転を伴う水平振動の制御は特に考慮されていないし、上記のロッキング動(鉛直面内における回転を伴う振動)と同様にそれに対する有効な改善手法も確立されていないのが実状である。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明はロッキング動や水平面内における捩れ運動のような回転を伴う振動を制御するための有効適切な振動制御機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、構造体を固定端に対して免震装置により免震支持するとともに、前記構造体と固定端との間に複数のダンパーを設置して該ダンパーにより前記構造体が前記固定端に対して回転を伴う振動を生じることを抑制する振動制御機構であって、前記ダンパーとして前記構造物の振動により発電機が駆動されて抵抗力を生じる発電型ダンパーを用い、かつ各発電型ダンパーの発電機どうしを電気回路により並列接続してなることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の振動制御機構であって、前記電気回路に、各発電機に流れる電流を制御することにより各発電型ダンパーが生じる抵抗力を制御する制御回路を組み込んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では複数の発電型ダンパーどうしを電気的に並列接続するだけで各発電型ダンパーの逆位相での作動が拘束され、それによりロッキング動や水平面内での捩れ振動のような回転を伴う振動を有効に防止することができる。
したがって本発明によれば、従来のオイルダンパーによるこの種の機構では不可避である油圧回路によるロスや動作遅延が生じることはないし、各発電型ダンパーの設置位置や電気回路の構成についての制約を受けることもなく、またパッシブ型の機構であるので外部から電気エネルギーを供給する必要はなく、使用部品も従来から実績のある安価な汎用製品を使用可能であって信頼性が高く経年変化の恐れもなく、以上のことから従来のオイルダンパーによるものに比べて遙かに有効であり合理的である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の振動制御機構の実施形態を示す図である。
【図2】同、発電型ダンパーを示す図である。
【図3】同、発電型ダンパーの作動状況の説明図である。
【図4】同、発電型ダンパーの設置パターンの例を示す図である。
【図5】本発明の振動制御機構の他の実施形態を示す図である。
【図6】同、変形例を示す図である。
【図7】同、変形例を示す図である。
【図8】上下免震構造における振動パターンを示す図である。
【図9】従来のロッキング抑制手法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1実施形態である振動制御機構を図1〜図3に示す。これは建物1を免震装置としてのバネ2によって鉛直方向に振動可能に免震支持するとともに、その建物1のロッキング動を複数の発電型ダンパー10により抑制することを基本とするものである。
【0015】
まず本発明において用いる発電型ダンパー10について図2を参照して説明する。これは本出願人が先に特願2008-107740において提案したものであって、図2(a)に示すように互いに離接する方向に相対振動する構造体I(本実施形態では地盤ないし基礎に該当)と構造体II(同、建物1に該当)との間に介装されるものである。
【0016】
この発電型ダンパー10は、構造体Iに対して固定された発電機としての直流モーター12と、直流モーター12に付設された制御回路13と、直流モーター12に対して振動系の振動(構造体I、IIどうしが互いに離接するような相対振動)を伝達して回転軸を回転させるための伝達機構としてのボールねじ機構14とからなる。
【0017】
直流モーター12は回転軸が回転させられることによって電磁誘導作用によって発電機として機能し、その際には内蔵コイルの両端子間に起電力(電圧)が生じてその起電力に応じた誘導電流が制御回路13に流れるものである。
この場合、直流モーター12に生じる起電力は回転軸の回転速度に比例するものであり、したがってその起電力はボールねじ機構14を介して直流モーター12に伝達される振動系の加振速度x・に比例するものとなる。(なお、加振速度は本来は図中に示すようにxの上部に・が付く記号で表すべきものであるが、本文中では便宜的に上記のようにx・として表すこととする。)
【0018】
ボールねじ機構14はボールねじ軸15とボールナット16からなる周知の機構である。ボールねじ軸15は、その一端部が軸受17を介して構造体Iにより回転自在に支持されて直流モーター12の回転軸に連結されているとともに、他端部は構造体IIに対して軸方向に変位可能とされている。ボールナット16はボールねじ軸15に螺合した状態で構造体IIに固定されている。
したがってこのボールねじ機構14は、構造体I、II間に互いに離接する方向の相対振動が生じた際には、ボールナット16がボールねじ軸15に対して軸方向に変位し、それによりボールねじ軸15が強制的に回転せしめられてそれに連結されている直流モーター12の回転軸が回転せしめられるようになっている。つまり、ボールねじ機構14は振動系の振動を回転運動に変換して直流モーター12に伝達するものであり、それにより直流モーター12の回転軸を強制回転させて発電機として機能せしめて起電力を生じさせるものである。
なお、ボールねじ軸15と直流モーター12との間にたとえば遊星歯車を用いた増速ギア等による適宜の増速機構を設置することにより、振動系の振動を増速して直流モーター12に伝達するようにしても良い。
【0019】
制御回路13はコイルとコンデンサーと抵抗器とが直列接続されたいわゆるLCR直列回路であって、直流モーター12に起電力が生じることによって両端子間に流れる誘導電流がこの制御回路13により制御され、それにより直流モーター12が生じる反力、つまりは振動系に対して制動力として作用する抵抗力Fが制御されるものである。
【0020】
そして、上記の発電型ダンパー10は、図2(b)に示すように、コイルのインダクタンスLに反比例するバネ剛性kを有するバネ要素と、抵抗器の抵抗値Rに反比例する減衰係数cを有する減衰要素と、コンデンサーのキャパシタンスCに比例する慣性質量ψを有する慣性質量要素を備えたダンパーと等価の特性を有するものである。
換言すれば、制御回路13を構成しているコイルのインダクタンスL、コンデンサーのキャパシタンスC、抵抗器の抵抗値Rを、直流モーター12(発電機)の特性値として定まる係数αを用いてそれぞれ図中の関係により決定することにより、この発電型ダンパー10はバネ剛性kのバネ要素、慣性質量ψの慣性質量要素、減衰係数cの減衰要素を備えたダンパーとして機能するものとなる。
【0021】
なお、上記の係数αは、加振速度x・に対する起電力の比を表す係数K1と、回路電流に対する反力の比を表す係数K2との積として表されるものであり、それらの係数K1,K2は、ボールねじ機構14のリードLd、増速ギア比n、直流モーター12のトルク定数Kt、直動・回転変換効率ηとすると、次式で求められるものである。
【0022】
【数1】

【0023】
このように、上記の発電型ダンパー10においては、制御回路3を構成するコイル、コンデンサー、抵抗器の各諸元L,C,Rが、それぞれ機械的な振動モデルを構成する各要素の諸元k,ψ,cに対応するものである。
このことは、慣性質量のないコンデンサーが質量効果を生み、粘性減衰をもたない抵抗器が減衰効果を生み、バネ剛性をもたないコイルが剛性を生むことを意味する。
そして、それら各要素を自由に組み合わせることで、機械装置としての実態のない単なる制御回路13を直流モーター12(発電機)に接続するだけで、主振動系に対する優れた応答制御効果が得られる機構を構成できることになる。
【0024】
たとえば、上記の制御回路13からコイルを省略した場合には、L→0 によりk→∞ となり、これはバネを設けないことと等価である。また、抵抗を省略した場合には、R→0から c→∞ となり、これは粘性減衰ダンパーを設けないことと等価である。さらに、コンデンサーを省略した場合には、C→0 から ψ→0 となり、これは慣性質量ダンパーを設けないことと等価である。
逆に、コイルのみ、抵抗のみ、コンデンサーのみをそれぞれ単独で設ける場合には、それらの各電気的要素がそれぞれバネ、減衰、慣性質量ダンパーという機械的要素に対応してそれらを単独に設けることと等価である。
当然ながら、制御回路13を遮断した場合には電流が流れないので抵抗力は生じないことになり、ダンパーとして機能しないものとなる。また、制御回路13を省略して端子間を短絡させた場合にはわずかな内部抵抗だけが負荷となるので大きな電流が流れて抵抗力が極めて大きくなる。
【0025】
本第1実施形態では、上記の発電型ダンパー10を図1に示すように建物1の底部の少なくとも4隅部に設置してそれらの全体を電気回路20により並列接続することを主眼とする。
但し、本第1実施形態においては各発電型ダンパー10における上記の制御回路13は必要としないので、それを取り外したうえで各直流モーター12の端子間に単に結線を行えば良い。
また、全ての直流モーター12を電気的に並列接続する限りにおいて電気回路20における結線パターンは任意であり、たとえば(b)に示すように各発電型ダンパー10の位置を頂点とする四角形に結線することでも良いし、あるいは(c)に示すように対角線に沿うようにX状に結線することでも良い。
【0026】
このような構成により、本実施形態の振動制御機構は建物1の振動パターンに応じて次のように作動する。
【0027】
図3(a)に示すような上下動(回転を伴わない単なる並進)に対しては、全ての発電型ダンパー10が同方向に同一変位するので各直流モーター12の起電力が同一となり、したがって各端子間には電流が流れないので抵抗力Fは生じない。
つまり、この場合は図9(b)に示したように対のオイルダンパーA,Bによる場合においてそれらの間にオイルが自由に流れて抵抗力を生じずダンパーとして機能しないことと等価である。但し、発電型ダンパー10ではボールねじ機構14による機械的な摩擦抵抗が多少はあるので、その摩擦抵抗により歩行などの小さな加振入力に対する抵抗力は期待できる。
なお、建物1が上下動しつつ傾いて各発電型ダンパー10の変位が同一方向ではあるが不均等となった場合には、各直流モーター(発電機)12の起電力に差が生じて各直流モーター12には平均電圧からの差分(電位差)に比例した電流が流れるので、各発電型ダンパー10にはその差分に応じた反力(抵抗力F)が生じる。その反力は各ダンパー位置での相対速度の差を減少させる向きに作用し、したがって各発電型ダンパー10は建物1の傾きを解消させるように作動することになる。
【0028】
一方、図3(b)に示すようなロッキング動に対しては、浮き上がり側(上方変位側)と押し込み側(下方変位側)で逆向きの起電力がロッキング動の振幅に比例して生じるので、この場合は各直流モーター12を直列に接続したことになり、電気回路20には各直流モータ12の内部抵抗のみを負荷とする大電流が流れて各直流モーター12にはその電流値に比例した大きな抵抗力Fが生じ、その抵抗力Fは変位を戻す方向に作用するので各発電型ダンパー10の全体によりロッキング動が抑制される。これは、図9(c)に示したようにオイルが流れないためにオイルダンパーA,Bがロックされて逆位相では作動しないことと等価である。
【0029】
以上のように、本第1実施形態の振動制御機構によれば、複数の発電型ダンパー10どうしを電気的に並列接続するだけで優れたロッキング抑制効果が得られるものであるし、各発電型ダンパー10の設置位置や電気回路の構成についての制約を受けることもない。
特に従来のオイルダンパーによる場合と比較すれば、オイルダンパーによる場合には油圧配管の延長が長くなると各イルダンパーの作動が遅延することが不可避であるし、配管抵抗や配管膨張による油圧ロスも無視し得ないが、本実施形態によれば各発電型ダンパー10を電気的に同期作動させるのでそのような問題は生じないから、オイルダンパーによるものに比べて遙かに有効であり、合理的である。
勿論、本発明の振動制御機構は直流モーター(発電機)12や電気回路20を有するもののあくまでパッシブ型であって外部から電気エネルギーを供給する必要はないし、使用部品も従来から実績のある安価な汎用製品を使用可能であり、信頼性が高く経年変化の恐れもないから、建物1の上下免震構造に適用するものとして最適である。
【0030】
なお、各方向のロッキング動を防止するためには上記第1実施形態のように4台の発電型ダンパー10を建物1の4隅部(可及的に外周側)に設置することが有利であるが、ロッキング動が生じる方向が特定されてその方向のロッキング動を制御するだけで充分な場合には少なくとも1組2台の発電型ダンパー10を設置することで充分である。
但し、さらに多数の発電型ダンパー10を設置しても勿論良く、たとえば図4に示すように所望台数の発電型ダンパー10を所望位置に任意に設置しても良い。その場合も全ての発電型ダンパー10を電気回路20により単に電気的に並列接続するだけで同様に機能する。
【0031】
次に図5〜図7を参照して第2実施形態を説明する。
上記第1実施形態では、図2に示した発電型ダンパー10における制御回路13を省略して各直流モーター12どうしを電気回路20により単に並列接続したが、以下の第2実施形態では各発電型ダンパー10に流れる電流を制御するための所望の制御回路13を電気回路20に組み込むことにより、第1実施形態と同様のロッキング抑制効果が得られることに加えて、各発電型ダンパー10に上下方向並進時のダンパー性能をもたせたものである。
【0032】
図5に示すものは、各発電型ダンパー10ごとにそれぞれの発電型ダンパー10の電流を制御するための制御回路13を設置するとともに、その制御回路13を抵抗Ri(R1、R2、…)のみにより構成して電気回路20に並列に組み込んだものである。なお、各制御回路13は図5に示しているように電気回路20に対して組み込むことでも良いし、各直流モーター12の端子間に電気回路20とともに直接的に接続することでも勿論良い。
この場合には、図2に示したように各発電型ダンパー10が抵抗Riに反比例する減衰係数cを持つダンパーとして機能するものとなり、その減衰係数cは次式となる(R0はモーターの内部抵抗。α、K1、K2については[数1]参照)。換言すれば、発電型ダンパー10に減衰係数cをもたせるためには次式により決定される抵抗Riからなる制御回路13を各発電型ダンパー10に対して接続すれば良い。
【0033】
【数2】

【0034】
図6に示すものは、各発電型ダンパー10に接続する上記の抵抗Riをまとめて電気回路20に設置するようにしたものである。この場合、まとめて設置するべき抵抗Rは、図5に示したように個々に設置するべき抵抗をRiに対して次式の関係となるように設定すれば良い。
【0035】
【数3】

【0036】
図7は制御回路13を図2に示したようなコイルと抵抗とコンデンサからなるLCR回路としたものであり、(a)はそのような制御回路13を各発電型ダンパー10ごとに設置したもの、(b)は電気回路20にまとめて設置したものであり、いずれの場合も各発電型ダンパー10が図2に示したものと同様に所望の慣性質量ψと減衰係数cとバネ剛性kを有するものとなる。
【0037】
本第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に建物1の外周部に少なくとも1組2台の発電機型ダンパー10を設置することでロッキング動と上下動を有効に抑制できるとともに、建物1の規模や形態、要求される振動特性に応じて所望性能を有する所望台数の発電型ダンパー10を所望位置に最適配置して各発電型ダンパー10をそれぞれの設置位置に応じて最適に作動させる設定とすることにより、建物1全体の振動を最適かつ幅広く制御することが可能となる。
【0038】
「設計例」
ボールねじ機構14のリードLd=12mm、増速ギア比n=5、トルク定数Kt=1.02Nm/A、直動・回転変換効率η=0.95、内部抵抗R0=0.63Ω、外部抵抗なし(Ri=0)の発電型ダンパー10を2台使用した場合、等価な減衰係数は[数2]からc=1.2×106Ns/m=120kN/kineとなり、この場合における最大荷重は252kNにもなる。これは図9に示したオイルダンパーの加振実験で得られた最大荷重の2倍以上にもなる。
【0039】
以上で本発明の第1、第2実施形態を説明したが、本発明はさらに以下に列挙するような変形や応用が可能である。
【0040】
本発明では発電型ダンパー10のボールねじ機構14にフライホイール(回転錘)を一体化することが考えられる。それにより、ボールねじ軸15の回転によりフライホイールの回転慣性モーメントによって回転角速度の変化に比例した抵抗トルクが生じ、それがねじ軸方向の抵抗力に変換される。このメカニズムにより、ダンパー軸方向の相対加速度に比例した抵抗力(反力)が得られるが、この際の摩擦抵抗力はフライホイールの回転慣性モーメントが大きいほど、ボールねじ機構のリードが小さいほど、振動数が高くなるほど増大する傾向があるから、この摩擦抵抗力以下の荷重に対してはダンパーが作動せず固定されたと同じ状態になる。したがって歩行荷重などのように建物の重量に比べてわずかな荷重変動に対してはダンパーが作動せず、「ふかふかバネ状態」になることを防止することができる。
【0041】
上記実施形態は建物1の上下免震におけるロッキング動の抑制を対象としたものであるが、本発明の振動制御機構は水平面内で回転を伴う捩れ振動を抑制する場合にも適用可能である。具体的には、複数の発電型ダンパー10を水平に設置して免震対象の構造体の各部を水平方向に振動可能に支持するとともに、各発電型ダンパー10を電気的に並列接続することによってそれらの逆位相での作動を拘束すれば良く、これににより水平面内における回転を拘束することができる。この場合、各発電型ダンパー10の位置は想定される回転中心から可及的に遠い位置とすることが回転を拘束するうえで有利である。
【0042】
上記実施形態は免震建物への適用例であるが、本発明は免震建物に適用するのみならず、たとえば嫌振機器を対象とする免震装置のように振動制御を必要とする各種構造体に対して広く適用可能であるし、各部の構成や具体的な諸元は振動制御の目的や要求性能に応じて最適設計すれば良い。
たとえば、上記実施形態では建物1の上下方向の振動をボールねじ機構14を介して回転運動に変換して発電機としての直流モーター12に伝達するようにしたが、発電機を駆動できるものであればボールねじ機構14に限らず適宜の伝達機構が採用可能である。
勿論、本発明の振動制御機構を鉛直方向と水平方向の双方に対して設置することにより、鉛直回転と水平回転の双方を同時に制御することが可能である。
【0043】
本発明において用いる発電型ダンパーとしては上記実施形態のように発電機として直流モーター12を用いるものに限らず、ソレノイドコイルを発電機として用いることも可能である。
また、発電型ダンパーに生じる変位が小さい場合には、電磁誘導作用ではなく圧電効果により作動する素子(ピエゾアクチュエーター)を発電機として用いることも可能である。
勿論、発電機に流れる電流を制御するための制御回路13の構成は、第1実施形態のようにそれを省略することも含めて様々な設計的変更が可能であることは当然である。
【符号の説明】
【0044】
1 建物(免震対象の構造体)
2 バネ(免震装置)
10 発電型ダンパー
12 直流モーター(発電機)
13 制御回路
14 ボールねじ機構
15 ボールねじ軸
16 ボールナット
17 軸受
20 電気回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体を固定端に対して免震装置により免震支持するとともに、前記構造体と固定端との間に複数のダンパーを設置して該ダンパーにより前記構造体が前記固定端に対して回転を伴う振動を生じることを抑制する振動制御機構であって、
前記ダンパーとして前記構造物の振動により発電機が駆動されて抵抗力を生じる発電型ダンパーを用い、かつ各発電型ダンパーの発電機どうしを電気回路により並列接続してなることを特徴とする振動制御機構。
【請求項2】
前記電気回路に、各発電機に流れる電流を制御することにより各発電型ダンパーが生じる抵抗力を制御する制御回路を組み込んでなることを特徴とする請求項1記載の振動制御機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−106482(P2011−106482A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259001(P2009−259001)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】