説明

振動波モータ用の負荷トルク変動装置及び画像形成装置

【課題】 ロータに設けられる回転部材に機構的な特徴を加えてロータ及びステータに同じ接触状態が続くことを回避することで偏磨耗を抑制し、振動波モータの長寿命化を実現する。
【解決手段】 振動波モータMで回転するシャフト405に設けられ、シャフト405に掛かる負荷トルクの大きさをシャフト405の回転位相で変動させる偏心カム1302、アーム1303、付勢バネ1402と、シャフト405に掛かる負荷トルクの周期をシャフト405の回転周期に対して変動させるワンウェイクラッチ1301と、を備える振動波モータ用の負荷トルク変動装置500を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動波モータの駆動によって回転中心軸の回りに回転する回転部材を備える振動波モータ用の負荷トルク変動装置及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式の画像形成装置では、高精度で良好な画像を形成するためにその回転精度に優れる振動波モータが用いられているものがある。振動波モータとは、振動を利用したモータである。
【0003】
こうした振動波モータに関する発明として、特許文献1〜3に記載の発明が開示される。この特許文献1〜3に記載の振動波モータによれば、定速度で安定した回転性能が実現される。
【0004】
また、従来の振動波モータでは、振動体として耐摩耗性の高い材料が貼り付けられているが、摩耗が生じてしまうという問題があった。特に、ステータ及びロータの位相に同期した一定の負荷状態が繰り返されると、所謂「偏摩耗」という現象が生じてしまう。この偏磨耗とは、場所によって振動振幅の異なる状態で振動波モータを長時間駆動すると、振動振幅が大きいところでは摩耗量が多く、振動振幅が小さいところでは摩耗量が少なくなり、こうした磨耗の偏りをいう。このような状態になると、感光体ドラムまたは無端ベルトを本来の速度で駆動することが不可能となり、画像形成装置としての機能を果たさなくなる虞があった。
【0005】
こうした「偏磨耗」の抑制に関する発明として、特許文献4及び5に記載の発明が開示される。特許文献4には、振動波モータの駆動周波数の振れ幅が所定の値よりも大きい場合には振動波モータが偏磨耗している可能性が高いと判断し、振動波モータの目標駆動速度を低下させる技術が開示される。こうした構成によれば、シートの印刷時間は長くはなるが、印刷動作は継続して行うことができる。その結果、振動波モータの長寿命化は実現される。また、特許文献5には、ステータ及びロータの接触部分に対磨耗性及び耐熱性の高い材料が用いられる。こうした構成によれば、低湿度又は高湿度の環境下での振動波モータの長期使用が可能になり、また、振動波モータの長寿命化は実現される。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−1379号公報
【特許文献2】特開昭60−176470号公報
【特許文献3】特開昭59−204477号公報
【特許文献4】特開2005−210781号公報
【特許文献5】特開平11−172123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4に記載の発明では、「偏磨耗」が生じた場合に振動波モータの目標速度を低下させるということであることから、「偏磨耗」自体は回避される構成ではない。したがって、偏磨耗の原因となっているロータ及びステータの間で同じ接触状態が続行するのを回避するものではない。
【0008】
また、特許文献5に記載の発明では、「偏磨耗」の抑制のためにステータ及びロータの接触部分に耐磨耗性の高い材料を用いるが、経時的に耐磨耗性材料が消失した場合には「偏磨耗」は回避されない。したがって、偏磨耗の原因となっているロータ及びステータの間で同じ接触状態が続行するのを回避するものではない。
【0009】
そこで、本発明は、ロータに設けられる回転部材に機構的な特徴を加えてロータ及びステータに同じ接触状態が続くことを回避することで偏磨耗を抑制し、振動波モータの長寿命化を実現できる振動波モータ用の負荷トルク変動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の振動波モータ用の負荷トルク変動装置は、振動波モータで回転する回転部材に設けられ、前記回転部材に掛かる負荷トルクの大きさを前記回転部材の回転位相で変動させる回転位相負荷変動部と、前記回転部材に掛かる負荷トルクの周期を前記回転部材の回転周期に対して変動させる負荷周期変動部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、回転位相負荷変動部が、負荷トルクの大きさを回転部材の回転位相で変動させる。したがって、回転部材が振動波モータのロータに固定されている場合には、ロータがステータに対して接触する接触位置の軌跡は、回転部材の回転方向で変動する。また、負荷周期変動部が、回転部材に掛かる負荷トルクの周期を回転部材の回転周期に対して変動させる。したがって、回転部材が振動波モータのロータに固定されている場合には、ロータがステータに対して接触する接触位置の軌跡は、回転部材の周方向に回転する。このように、回転部材に対して機構的な特徴が加えられることで、ロータ及びステータの接触状態が周期的に同一形状になることが回避されて同じ接触状態が続くことが回避され、ロータ及びステータの偏磨耗は抑制される。その結果、振動波モータの長寿命化が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施形態に記載される構成部品の寸法、材質、形状、それらの相対位置等は、本発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるから、特に特定的な記載が無い限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態に係る振動波モータ用の負荷トルク変動装置500を適用可能な画像形成装置99の構成を示す断面図である。画像形成装置99は、電子写真画像形成プロセスを利用した両面印刷機能を有するカラー画像形成装置である。図1に示されるように、画像形成装置99は画像形成装置本体100を有し、この画像形成装置本体100の内部には、第1画像形成部Pa、第2画像形成部Pb、第3画像形成部Pc、第4画像形成部Pdが設けられる。これらの4つの画像形成部によって、カラー画像が形成されるようになっている。なお、画像形成部Pa〜Pdは、1つ或いはそれ以上の任意数の画像形成部を含む画像形成装置にも本発明は適用できるものである。
【0014】
画像形成装置本体100の内部には、図1中の右側に記載されるように、一方側に給送部101が設けられており、図1中の左側に記載されるように、他方側にシート排出口102が設けられている。給送部101は、シート103を従動ローラ104側から搬送ベルト105上に載置する機能を有する。シート排出口102に隣接して内側には定着器106が配設されている。
【0015】
定着器106は、分離ローラ107側から給送されたシート103を受けて各画像形成部Pa〜Pdにおいてシート103に重ねて転写された顕画像を一括して定着し、永久像を形成するものである。
【0016】
また、画像形成装置本体100の内部の給送部101から定着器106に至る経路の下側には、給送部101に近接して従動ローラ104が、また、定着器106に近接して分離ローラ107がそれぞれ設けられている。これら従動ローラ104と分離ローラ107との間に誘電体シートの無端状搬送部材、例えば、搬送ベルト105が架設されている。この搬送ベルト105は、分離ローラ107の下側の駆動ローラ108によって回転駆動される回転部材である。従動ローラ104の下方には、搬送ベルト105の内周側からこの搬送ベルト105と当接して搬送ベルト105への引張力を自在に調節する調節ローラ109が設けられている。
【0017】
一方、従動ローラ104から分離ローラ107に至る経路の上側には、搬送ベルト105に近接して給送部101側から順に前述の4つの画像形成部Pa〜Pdが併設されている。
【0018】
搬送ベルト105は、駆動ローラ108によって図1に示す矢印A方向に駆動され、給送部101を通じて送給されるシート103を担持し、各画像形成部Pa〜Pdへと順次搬送する搬送部を構成している。
【0019】
各画像形成部Pa〜Pdは、実質的に同一の構成を有し、周知のように図1の矢印方向に回転駆動される像担持体である感光体ドラム110a,110b,110c,110dを含む。各感光体ドラム110a〜110dの周辺には、感光体ドラム110a〜110dを一様に帯電する一次帯電器111a,111b,111c,111dが配設される。また、そのドラム回転方向の隣りの位置には、感光体ドラム110a〜110d上に形成された静電潜像を現像する現像器112a,112b,112c,112dが配設される。さらに、そのドラム回転方向の隣りの位置には、現像された顕画像をシート103へ転写する転写帯電器113a,113b,113c,113dが配設される。また、そのドラム回転方向の隣りの位置には、感光体ドラム110a〜110d上に残存するトナーを除去するクリーニング器114a,114b,114c,114dが配設されている。また、各感光体ドラム110a〜110dの上方には、露光部115a,115b,115c,115dが各々設けられている。
【0020】
現像器112aにはイエロー色のトナーが、現像器112bにはマゼンタ色のトナーが、現像器112cにはシアン色のトナーが、現像器112dにはブラック色のトナーが各々収容されている。露光部115aにはカラー画像のイエロー成分像に対応する画素信号が、露光部115bにはカラー画像のマゼンタ成分像に対応する画素信号が各々入力される。また、露光部115cにはカラー画像のシアン成分像に対応する画素信号が、露光部115dにはカラー画像のブラック成分像に対応する画素信号が各々入力される。これら電気デジタル画素信号の入力を受けて、この信号に対応して変調された光束を各々一次帯電器111a〜111dと現像器112a〜112dとの間で感光体ドラム110a〜110dの母線方向にドラム面を露光するようになっている。
【0021】
画像形成装置99において、図示するようにシート103としてカットシート状のものが使用され、このシート103が給送部101の給送ガイド内を移動し、搬送ベルト105上に送り出される。駆動ローラ108もこれに同期して駆動され、搬送ベルト105が図1の矢印A方向に駆動される。シート103が給送ガイドによって案内されて搬送ベルト105上に載置される。
【0022】
その後、第1画像形成部Paの感光体ドラム110aにはイエロー画像が、第2画像形成部Pbの感光体ドラム110bにはマゼンタ画像が、それぞれ分担されて形成される。また、第3画像形成部Pcの感光体ドラム110cにはシアン画像が、第4画像形成部Pdの感光体ドラム110dにはブラック画像が、それぞれ分担されて形成される。これら画像形成部Pa〜Pdにおける画像形成の原理は、カールソンプロセスとして既に公知であるため、その説明は省略する。
【0023】
搬送ベルト105の移動によって、シート103は各画像形成部Pa〜Pdの感光体ドラム110a〜110dの下部を順次通過して定着器106の方向へ搬送される。そして、各画像形成部Pa〜Pdの転写帯電器113a〜113dにより、シート103上に、各画像形成部Pa〜Pdにて形成された各色の顕画像が順次重ねて転写されて,カラー画像が合成される。
【0024】
シート103は、第4画像形成部Pdを通過した後、シート103の弾性力を利用して搬送ベルト105からの分離を実現する小曲率の分離ローラ107を経て搬送ベルト105から分離される。搬送ベルト105から分離されたシート103は定着器106に送られ、この定着器106内で転写された各色の顕画像が一括して定着された後、シート排出口102から排出され、1つの画像記録サイクルが終了する。
【0025】
搬送ベルト105の駆動ローラ108付近には、除電清掃部116が取り付けられている。この除電清掃部116は、搬送ベルト105に関して、シート表面電位を接地除電し、更には、そのシート載置面に付着した汚れを清掃する清掃部を有するクリーニング部としての機能を有する。除電清掃部116は、除電部であるファーブラシ117、清掃部である板状粘弾性体より成るクリーナブレード118、各部を一体に保持すると共に清掃によって発生した汚損物を蓄積する容器部としての枠体119によって構成されている。
【0026】
図2は、画像形成装置99の感光体ドラム110a〜110dの概略構成を示す斜視図である。同図において、4本の感光体ドラム110a〜110dの同軸上には、それぞれ駆動源としての振動波モータMa,Mb,Mc,Mdが取り付けられている。また、振動波モータMa〜Mdには、速度を検出する部であるロータリエンコーダEa,Eb,Ec,Edが内蔵されている。振動波モータMa〜Mdは、比較的低速度で高いトルクを発生させることができるので、図2に示すように、感光体ドラム110a〜110dの駆動軸にダイレクトに接続することができる。これにより、従来必要であったギア等の減速部を用いなくても済むために、色ずれの低減が実現でき、印刷品位を向上させることができる。
【0027】
図3は、画像形成装置99の搬送ベルト105の概略構成を示す一部拡大斜視図である。同図において、駆動ローラ108には振動波モータMeが接続されている。また、振動波モータMeにも速度を検出するためのロータリエンコーダEeが内蔵されている。搬送ベルト105の駆動においても、感光体ドラム110a〜110dの駆動と同じく、振動波モータMeが駆動ローラ108の駆動軸にダイレクトに接続されているために、印刷品位を向上させることが可能となっている。
【0028】
図4は、感光体ドラム110a〜110d及び駆動ローラ108の駆動源である振動波モータMの構成を示す断面図である。本実施形態において使用する振動波モータMa〜Meは、全て図4に示す振動波モータMa(M)と同一の構成である。また、本実施形態において使用するロータリエンコーダEa〜Eeは、全て図4に示すロータリエンコーダEa(En)と同一の構成である。なお、振動波モータMa〜Meに共通の内容に関して説明する場合には、以下適宜『振動波モータM』との用語によって説明する。また、ロータリエンコーダEa〜Eeに共通の内容に関して説明する場合には、以下適宜『エンコーダEn』との用語によって説明する。なお、振動波モータMには必ずしもエンコーダEnが含まれなくとも良い。図4に示されるように、モータカバー400は、後述するコードホイール408とエンコーダ素子409を覆う。金属製の弾性体401は、焼結等の方法によって製造される。この弾性体401には圧電素子402が接着されている。弾性体401と圧電素子402とが接着された構造体をステータと呼ぶ。
【0029】
図4において、『ロータ』である移動体403は金属製の円環状の部材である。移動体403は、弾性体401に対向すると共に、加圧バネ404によって弾性体401に所定の力で押し付けられている。圧電素子402に上記4相の交番電圧を印加すると、弾性体401上には進行性の振動波が発生する。その結果、弾性体401に押し付けられた移動体403が摩擦力によって回転運動をする。
【0030】
シャフト405は、加圧バネ404を介して移動体403と接続されている。移動体403が回転運動をするとシャフト405も回転運動を行う。シャフト405は、2つのベアリング406,407によって回転可能に支持されている。
【0031】
408はコードホイールで、シャフト405の回転速度または回転位置を検出するためのエンコーダの構成部品である。コードホイール408の表面には、周方向に反射面と非反射面とが交互に形成されている。409は反射式のエンコーダ素子で、発光部と受光部とから成り、コードホイール408に光線を照射し、その反射光に応じた電圧信号が出力されるように構成されているIC(集積回路)である。410は金属性の内側筐体、411は圧電素子402に電力を供給するためのコネクタである。
【0032】
図5は、振動波モータMのステータの構成を示す斜視図である。図5に示されるように、弾性体401の櫛歯上部に耐摩耗性を向上させるための摩擦材412が接着されている。これにより、振動波モータMの寿命を向上させている。
【0033】
図6は、振動波モータMの圧電素子402の電極の構成を示す概略図である。図6に示されるように、圧電素子402は、パターン電極面の領域で電極が蒸着されており、弾性体401に接着する前工程において全ての領域で同一方向に分極処理が施されている。図6において、各電極に対してA相、B相、A*相、B*相と記載しているが、これは振動波モータMの駆動時に印加する交番電圧の種類を示しており、不図示のフレキシブルプリント基板により各相に外部から交番電圧が供給されるようになっている。
【0034】
上記交番電圧の周波数は、弾性体401と圧電素子402とから成る振動体の共振周波数近傍の周波数である。また、A相とB相に印加する交番電圧は、時間的位相差が90°異なる関係の信号を印加する。A相に対してB相の時間的位相差を90°進ませるか、90°遅らせるかは、振動波モータMの回転方向に応じて切り替える。A相とA*相は時間的位相差が180°異なる交番電圧を印加し、B相とB*相は同じく時間的位相差が180°異なる交番電圧を印加する。
【0035】
図7は、画像形成装置99における振動波モータMa〜Meの駆動回路構成を示すブロック図である。図7中の『USM』との記載は、Ultrasonic Motorの略であり、超音波モータのことを言い、ここでは、振動波モータと同義である。図7において、700は画像形成装置本体基板で、画像形成装置99全体の動作を制御するCPU(中央処理装置)701が実装されている。画像形成装置本体基板700には、CPU701以外にも、画像処理用のICや振動波モータ以外のアクチュエータのコントローラ、通信用のIC等が実装されているが、ここでは振動波モータMa〜Meの制御に関する部分のみの説明とする。702は振動波モータMの駆動基板で、ゲートアレイ703と昇圧回路704a,704b,704c,704d,704eが実装されている。ゲートアレイ703は、主に下記3種類の働きを行う。
【0036】
(1)振動波モータMa〜Meの駆動信号の生成
前述したように、本実施形態における振動波モータMa〜Meは、時間的位相の異なる4相の交番電圧を圧電素子の電極に印加することによって、駆動するようになっている。ゲートアレイ703では、4相の交番電圧の元となるパルス信号を生成している。
【0037】
4相のパルスP1,P2,P3,P4は、周波数が等しく(周期が全てT)、90°ずつ時間的位相が異なる信号である(図8参照)。なお、図8は、振動型アクチュエータの駆動制御装置を適用した画像形成装置99の駆動回路における信号生成回路から出力される波形を示すグラフである。この4相のパルス信号を後述する昇圧部で振動波モータMa〜Meを駆動可能な電圧に昇圧する。パルス信号の周波数や位相差は、CPU701からゲートアレイ703に指令される。
【0038】
(2)振動波モータMa〜Meの回転速度の検出
振動波モータMa〜Meに内蔵されているロータリエンコーダEa〜Eeからは、振動波モータMa〜Meの回転速度に応じたパルス信号が出力される。このパルス信号は、振動波モータMa〜Meの回転速度に比例した周波数のパルス信号である。よって、このパルス信号の周波数を計測することにより、振動波モータMa〜Meの回転速度が検出できることになる。
【0039】
本実施形態では、ロータリエンコーダEa〜Eeから出力されるパルス信号の立ち上がりエッジから次の立ち上がりエッジまでの時間、即ち、エンコーダパルス信号の周期を計測している。その結果として、振動波モータMa〜Meの回転速度の逆数に比例した情報が算出され、この情報をCPU701に出力している。
【0040】
(3)CPU701との通信
CPU701では、振動波モータMa〜Meの制御に関する演算を行っている。制御演算の際には、ゲートアレイ703で検出された速度情報を取り込み、演算を行い、その演算によって操作量を決定する。本実施形態では操作量として駆動周波数を操作している。決定された駆動周波数情報はゲートアレイ703に指令する必要がある。これらの情報の入出力の機能としての通信回路も、ゲートアレイ703の機能として実装されている。
【0041】
図9は、これら昇圧回路704a〜704eの回路構成図である。図9において、900a,900b,900c,900dはスイッチング素子である。本実施形態では、スイッチング素子としてMOS FETを使用している。901a,901bはトランスで、1次側と2次側の各々にセンタータップを有している。トランス901a,901bの2次側のインダクタンスは、振動波モータMa〜Meの駆動周波数近傍において、振動波モータMa〜Meの静電容量との間で共振状態となるように設定されている。この結果、トランス901a,901bの2次側には、トランス901a,901bの昇圧率以上に昇圧された正弦波状の電圧が発生する。
【0042】
次に、振動波モータMa〜Meの制御方法について、図10を用いて説明する。図10は、振動波モータMa〜Meの速度制御の方法を示すブロック図である。図10において、破線で囲まれたブロックは、CPU701のソフトウエアにより実施される部分である。
【0043】
図10において、振動波モータM(振動波モータMa〜Meに対応する)の回転速度はエンコーダEn(ロータリエンコーダEa〜Eeに対応する)で検出される。エンコーダEnからは、振動波モータMの回転速度に比例した周波数のパルス信号が出力される。このパルス信号は、周期計測手段1002で周期情報が計測される。周期計測手段1002で計測された周期情報は速度の逆数となるので、逆数演算手段1003で速度情報に変換される。
【0044】
減算手段1004では、速度情報と速度指令値との差である速度偏差を演算により求めている。求められた速度偏差は、比例演算手段1005、積分演算手段1006及び加算手段1007によって、公知制御演算の1つである比例積分演算が行われる。
【0045】
加算手段1007から出力される情報は振動波モータMの操作量である。本実施形態では、操作量として振動波モータMの駆動周波数を変更することによって制御を行っているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、振動波モータMの印加電圧、複数の交番電圧間の時間的位相差等、振動波モータMの速度を可変できる手段であれば、操作量として用いても良いものとする。
【0046】
操作量である駆動周波数の指令値は、信号生成回路1008(図7のゲートアレイ703に対応する)に入力され、駆動パルス信号が生成される。この駆動パルス信号は、昇圧回路1009(図7の昇圧回路704a〜704dに対応する)にて振動波モータMを駆動するための電圧に増幅され、振動波モータMに印加する。
【0047】
以上説明した制御ループで振動波モータMの制御を行うことにより、振動波モータMの回転速度が一定に保たれることになる。
【0048】
本実施形態では、画像形成装置99の印刷品位を向上させるために振動波モータMa〜Meを駆動源として使用している。また、画像形成装置99の駆動源として使用される振動波モータMa〜Meは、耐久性が必要とされるために、前述したように弾性体401には摩擦材が接着されている。
【0049】
振動波モータが駆動している時の弾性体401に発生する振動振幅は,どの部分も同じであるのが理想であるが、実際には場所によって振動振幅が異なってしまう現象が生じることもある。場所によって振動振幅の異なる状態で振動波モータMを長時間駆動すると、振動振幅が大きいところでは摩耗量が多く、振動振幅が小さいところでは摩耗量が少ないという状態が生じてしまう。これを偏摩耗と呼ぶ。偏摩耗状態になった振動波モータMは出力トルクが低下してしまう。以下に振動波モータMの偏摩耗状態について、図11及び図12を用いて説明する。
【0050】
図11は、振動波モータの一定速度制御時における駆動周波数の推移を示したグラフである。同図中、Aは正常な振動波モータの波形、Bは偏摩耗状態になった振動波モータの波形である。
【0051】
図12は、図11の一部を拡大し、振動波モータが略1回転する時間での周波数変化を表したグラフである。同図にて明らかなように、振動波モータは、起動直後から温度の上昇と共に駆動周波数がゆるやかに低下する。これは、本実施形態で使用している振動波モータのステータの共振周波数が高温になるほど低下することによるものである。上述した温度に依存した緩やかな周波数の低下は、正常な振動波モータも偏摩耗状態になった振動波モータも同様である。
【0052】
しかし、図12に示す短時間での駆動周波数の変化は、正常な振動波モータと偏摩耗状態の振動波モータとでは明らかに異なる。図12において、正常な振動波モータの波形であるAは、ほぼ一定な値で推移しているのに対し、偏摩耗状態になった振動波モータの波形であるBは、振動波モータの略1回転の時間内において、小刻みな増減が見られる。これが、偏磨耗が発生した振動波モータの特徴となる。
【0053】
振動波モータは図4の弾性体401上に生成される進行性の振動波により、弾性体401に押し付けられた移動体403が摩擦力によって回転運動する。この振動波は弾性体401と圧電素子402とから成る振動体の共振周波数を利用して発生させられている。この共振周波数は振動波モータに与えられる温度条件、負荷条件、弾性体401と移動体403の接触状態によって変化する特性である。このため、振動波モータを一定条件で制御するためにはこの共振周波数の変化に追従して交番電圧の周波数を常時変化させる必要がある。この為、負荷や温度などの条件が変化すると、共振周波数が変化し、この共振周波数で一定条件になるように交番電圧の周波数を変化させると、同時に弾性体401と移動体403の接触状態も連動して変化する。この為、移動体403の回転位相に同期した負荷の変化があると、該接触状態の変化も移動体403の回転位相に同期する。結果、回転位相に応じた磨耗進行が発生し偏磨耗に至る。
【0054】
偏磨耗した振動波モータについては上記弾性体401と移動体403の接触状態が変化する際に磨耗による不連続点が生じるため、上記、図12のような短時間での駆動周波数の変化が生ずることになる。このような偏磨耗は変化の少ない負荷条件、温度条件で連続的に長時間駆動された場合に生ずる。
【0055】
図13は、振動波モータM、及び、振動波モータ用の負荷トルク変動装置500の構成を示す断面図である。図14は、図13のX−X線に沿う断面図である。前述のように、ユーザの使用条件によって偏磨耗に繋がる長時間稼動があるために、画像形成装置99には振動波モータ用の負荷トルク変動装置500が設けられる。すなわち、図2の感光体ドラム110a〜110dのシャフト405、図3の駆動ローラ108のシャフト405には、図13及び図14に示す振動波モータ用の負荷トルク変動装置(以下、単に『負荷トルク変動装置』という)500が設けられる。
【0056】
図13及び図14に示されるように、負荷トルク変動装置500は、振動波モータMの駆動によって『回転中心軸』である第1回転中心軸Rの回りに回転する『回転部材』であるシャフト405に対して取り付けられる。このシャフト405の端部は、前述したように振動波モータMの『ロータ』である移動体403に固定されている。
【0057】
シャフト405には、『負荷周期変動部』であるワンウェイクラッチ1301を介して『回転位相負荷変動部』の一部である偏心カム1302が固定されている。この偏心カム1302は、第1回転中心軸Rに対して偏心して側面が形成されて第1回転中心軸Rの回りに回転することができるようになっている。
【0058】
ワンウェイクラッチ1301はシャフト405及び偏心カム1302の間に設けられる。偏心カム1302が逆方向(図14中の時計回り)に力を加えられて回転する場合(図15参照)には、ワンウェイクラッチ1301により偏心カム1302及びシャフト405が接続される。そのために、偏心カム1302及びシャフト405は一体的に正方向(図14中の反時計回り)に回転する。また、偏心カム1302が正方向(図14中の反時計回り)に力を加えられて回転する場合(図17参照)には、ワンウェイクラッチ1301により偏心カム1302及びシャフト405の接続が解除される。そのために、偏心カム1302がシャフト405の回転に先行して独自に正方向(図14中の反時計回り)に回転する。
【0059】
この偏心カム1302がシャフト405に先行して独自に正方向(図14中の反時計回り)に回転し得ることを利用する。そうすると、シャフト405に掛かる力の周期がシャフト405の回転周期に対して変動し、そのために、シャフト405に掛かる負荷トルクの周期がシャフト405の回転周期に対して変動するように構成することができる。ここで、図14の状態において、シャフト405の所定の点をシャフト特定点E、偏心カム1302の第1回転中心軸Rからの距離が最大な点を最大寸法特定点F、偏心カム1302の第1回転中心軸Rからの距離が最小な点を最小寸法特定点Gとする。この図14の状態では、シャフト405のシャフト特定点E及び偏心カム1302の最大寸法特定点Fは同一角速度で第1回転中心軸Rを中心に回転している。
【0060】
また、負荷トルク変動装置500は、『回転位相負荷変動部』の一部である『揺動部材』としてのアーム1303、及び、『回転位相負荷変動部』の一部である『付勢部材』としての付勢バネ1402を備える。アーム1303は、基端部が第1回転中心軸Rと平行に配置された第2回転中心軸Tを含む揺動中心固定軸1401で軸支され、先端部1303aが第2回転中心軸Tを含む揺動中心固定軸1401の回りに揺動可能に構成される。付勢バネ1402は、アーム1303の先端部1303aに取り付けられ、アーム1303をシャフト405に向かって付勢するようになっている。そのために、アーム1303は偏心カム1302を押圧する。シャフト405及び偏心カム1302が回転すると、アーム1303及び付勢バネ1402がシャフト405に掛ける力の大きさがシャフト405の回転位相で変動し、シャフト405に掛かる負荷トルクの大きさがシャフト405の回転位相で変動する。さらに、負荷トルク変動装置500では、偏心カム1302の近傍に発泡体の緩衝部材1403が配設されている。以上のような負荷トルク変動装置500によれば、偏心カム1302の回転に伴ってシャフト405に掛かる負荷トルクが経時的に変化する。
【0061】
なお、緩衝部材1403は、偏心カム1302の最大寸法特定点Fの部分が緩衝部材1403を通過した後に回りすぎてアーム1303の位置まで一気に上昇してしまうのを抑制するためのものである。
【0062】
図15〜図18は、振動波モータ用の負荷トルク変動装置500の動作を示す工程図である。図19は、振動波モータMの駆動にあたって、シャフト405の回転角、及び、シャフト405に掛かる負荷トルクの関係を示すグラフである。以下、図15〜図18の工程を説明するにあたって、適宜図19を参照して説明する。
【0063】
図14の状態から図15の状態へと、シャフト405が反時計方向に回転すると、ワンウェイクラッチ1301を介して回転駆動が偏心カム1302に伝えられて、偏心カム1302はシャフト405と一体に正方向(図15中の反時計回り)に回転していく。すなわち、シャフト405のシャフト特定点E及び偏心カム1302の最大寸法特定点Fは同一の角速度で回転する。このとき、アーム1303の先端は押し上げられ、付勢バネ1402の伸長によって付勢力が増し、アーム1303は偏心カム1302を下向きに押圧し、シャフト405への負荷トルクが増大していく(図19のaの部分参照)。
【0064】
シャフト405が更に正方向(図16中の反時計回り)に回転すると、図16に示されるように、シャフト405の中心から偏心カム1302の外側面までの距離が最大に離れた最大寸法特定点Fがアーム1303を押し上げた状態となる。この場合に、アーム1303の押上量は最大に達し、シャフト405に掛かる負荷トルクは最大となる(図19のbの部分参照)。なお、このときまでは、シャフト405のシャフト特定点E及び偏心カム1302の最大寸法特定点Fは同一の角速度で回転する。
【0065】
シャフト405が更に正方向(図17中の反時計回り)に回転すると、図17に示されるように、アーム1303からの付勢力は偏心カム1302を加速する方向の力となる。この加速状態ではワンウェイクラッチ1301のフリー側となり、偏心カム1302はシャフト405より先行して回転する(図19のcの部分参照)。なお、このときから、偏心カム1302の最大寸法特定点Fの角速度はシャフト405のシャフト特定点Eの角速度よりも速くなる。
【0066】
シャフト405が更に正方向(図18中の反時計回り)に回転すると、図18に示されるように、偏心カム1302が緩衝部材1403に衝突する(図19のdの部分参照)。そして、偏心カム1302は緩衝部材1403から逆方向(図18中の時計回り)に力を受けながら回転しようとする。そのために、ワンウェイクラッチ1301及び偏心カム1302が噛み合って回転しようとするが、偏心カム1302が緩衝部材1403に衝突して一時停止することから、負荷トルクは上昇していく(図19のeの部分参照)。そして、、その後は偏心カム1302が緩衝部材1403の位置を通過するところで、負荷トルクは極大値となる(図19のfの部分参照)。それ以後は、負荷トルクが下降し、その後は、図14の状態に戻る。
【0067】
これ以降、シャフト405の回転に伴って前述の動作が繰り返される。この場合に、図17(図19のcの部分参照)に示されるように、偏心カム1302がシャフト405より速く回転する。このために、偏心カム1302のカム回転周期がシャフト405のシャフト回転周期より短い周期で連続する。その結果、図19に示されるように、負荷トルクのトルク負荷周期及びシャフト405の回転周期はシャフト回転角毎に異なってくる。つまり、負荷トルクの負荷位相はシャフト405の回転に伴ってずれていく。そして、このシャフト405の回転毎に異なる負荷トルクの負荷条件により、弾性体401及び移動体403の接触状態には、移動体403及び弾性体401の双方の位相に同期しない連続的な変化が生じ、移動体403及び弾性体401の間の偏磨耗は低減される。
【0068】
以上のように、本発明の負荷トルク変動装置500によれば、偏心カム1302、アーム1303及び付勢バネ1402が、負荷トルクの大きさをシャフト405の回転位相で変動させる。したがって、シャフト405が移動体403に固定されている場合には、移動体403が弾性体401に対して接触する接触状態(例えば接触位置の軌跡)は、シャフト405の回転方向で変動する(図20(a)参照)。
【0069】
また、ワンウェイクラッチ1301が、シャフト405に掛かる負荷トルクの周期をシャフト405の回転周期に対して変動させる。したがって、シャフト405が移動体403に固定されている場合には、移動体403が弾性体401に対して接触する接触状態の変動のプロファイル(接触位置の軌跡プロファイル)は、シャフト405の周方向に回転する(図20(b)参照)。
【0070】
なお、例えば、このワンウェイクラッチ1301が無くて、前述の偏心カム1302、アーム1303及び付勢バネ1402が有るだけの場合を想定する。この場合には、接触位置の軌跡は、シャフト405の回転方向で変動した形状となるものの、シャフト405の周方向に回転した形状となることはない。そのために、周期毎に同一形状の接触状態となってしまう。そのために、ワンウェイクラッチ1301の機能に基づくシャフト405に掛かる負荷トルクの変化は必須となる。
【0071】
このように、シャフト405に対して機構的な特徴が加えられることで、移動体403及び弾性体401に接触状態が周期的に同一形状になることが回避されて同じ接触状態が続くことが回避され、移動体403及び弾性体401の偏磨耗は抑制される。その結果、振動波モータMの長寿命化が実現される。なお、画像形成装置99の構成が簡単な構成のままで済み、安価な振動波モータMで良好な画像を継続的に出力することができる。また、移動体403及び弾性体401は満遍なく磨耗していくことができる。
【0072】
また、シャフト405に掛かる力の大きさがシャフト405の回転位相で変動し、シャフト405に掛かる力の周期がシャフト405の回転周期に対して変動する。その結果、シャフト405自体の断面形状は変える必要がなく、シャフト405自体の回転には影響は生じないようにすることができる。
【0073】
さらに、シャフト405の駆動力によって偏心カム1302は回転し、また、偏心カム1302は回転しながらアーム1303及び付勢バネ1402によって押圧される。このようにシャフト405の周囲の偏心カム1302が押圧されることによって、シャフト405に負荷トルクが伝達される。したがって、他の駆動装置の駆動力が用いられなくとも、振動波モータMの駆動力によって、シャフト405に掛かる負荷トルクが変動する。その結果、負荷トルク変動装置500の構成が最小限で済まされる。
【0074】
また、負荷トルク変動装置500が振動波モータMの外部に配置されることから、振動波モータMの大型化は抑制される。
【0075】
(第2実施形態)
図21は、第2実施形態に係る振動波モータ用の負荷トルク変動装置600の構成を示す断面図である。図22は、図21のY−Y線に沿う断面図である。第2実施形態の振動波モータ用の負荷トルク変動装置600の構成のうち第1実施形態の振動波モータ用の負荷トルク変動装置500と同一の構成及び効果に関しては、同一の符号を用いて説明を適宜省略する。第2実施形態においても、第1実施形態と同様の画像形成装置99に適用することができるため、画像形成装置の説明は省略する。前述のように、ユーザの使用条件によって偏磨耗に繋がる長時間稼動があるために、画像形成装置99には振動波モータ用の負荷トルク変動装置600が設けられる。すなわち、図2の感光体ドラム110a〜110dのシャフト405、図3の駆動ローラ108のシャフト405には、図21及び図22に示す振動波モータ用の負荷トルク変動装置(以下、単に『負荷トルク変動装置』という)600が設けられる。
【0076】
図21及び図22に示されるように、負荷トルク変動装置600は、振動波モータMの駆動によって『回転中心軸』である第1回転中心軸Rの回りに回転する『回転部材』であるシャフト405を備える。シャフト405に対してカラー1901が取り付けられる。このカラー1901に摺動するように、カラー1901の上方には、『回転位相負荷変動部』である『押圧部材』としてのパッド1902が配置される。このパッド1902は発泡体ゴム等で形成されれば良い。パッド1902は、シャフト405及び偏心カム1903の間に配置される。偏心カム1903の第1回転中心軸Rからの距離が最大な点を最大寸法特定点F、偏心カム1302の第1回転中心軸Rからの距離が最小な点を最小寸法特定点Gとする。
【0077】
パッド1902は、偏心カム1903が回転中心固定軸1904の回りを回転して偏心カム1903の最大寸法特定点Fの部位による押圧力が増加する。そうすると、パッド1902がシャフト405側に向かって縮んで厚みが減少することから、パッド1902に蓄積される弾性エネルギが増加し、パッド1902が伸びようとする力によってシャフト405に伝達される押圧力は増加する。
【0078】
パッド1902は、偏心カム1903が回転中心固定軸1904の回りを回転して偏心カム1903の最大寸法特定点Fの部位による押圧力が減少する。そうすると、パッド1902が偏心カム1903側に向かって伸びて厚みが増加することから、パッド1902に蓄積される弾性エネルギが減少し、パッド1902が縮もうとする力によってシャフト405に伝達される押圧力は減少する。
【0079】
この一方で、パッド1902の上方には、前述のように、第1回転中心軸Rと平行に配置された第3回転中心軸Sを含む回転中心固定軸1904の回りに回転可能で第3回転中心軸Sに対して偏心する『回転位相負荷変動部』である偏心カム1903が配置される。偏心カム1903が回転すると、偏心カム1903がパッド1902が押圧し、このパッド1902がカラー1901を押圧する。このパッド1902の押圧力に基づいて、カラー1901が固定されたシャフト405が押圧されることになる。したがって、偏心カム1903の位相によってその押圧力が変化する。その結果、パッド1902がカラー1901に押圧されることにより、偏心カム1903のカム回転力をシャフト405に掛かる負荷トルクに変換する。
【0080】
図21及び図22に示されるように、偏心カム1903の回転中心固定軸1904にはプーリ1905が回動自在に取り付けられる。各々の回転中心固定軸1904のプーリ1905、軸2003、及び、回転周期を変動可能な『負荷周期変動部』である『駆動部』としての駆動モータ2001の軸には、『負荷周期変動部』である『ベルト』としての駆動ベルト2002が張架される。この駆動ベルト2002は、駆動モータ2001の駆動力を偏心カム1903に駆動力を伝達する。そのために、偏心カム1903の回転中心固定軸1904は、プーリ1905により駆動ベルト2002で駆動される。駆動ベルト2002は図22に示す駆動モータ2001により駆動される。駆動モータ2001は画像形成装置の内部の別のユニット(例えば現像ユニット等)の駆動を兼ねていて、偏心カム1903の回転周期は感光体ドラム110の回転周期とは異なるように、プーリ1905の径が設定されている。
【0081】
図22に示されるように、振動波モータ用の負荷トルク変動装置600では、各色の感光体ドラム110a〜110dの各々の偏心カム1903は各色でその位相をずらして配設されている。
【0082】
『負荷周期変動部』であるベルト機構800は、回転駆動力が変化可能な『駆動部』である駆動モータ2001と、駆動モータ2001及び偏心カム1903に張架される『ベルト』である駆動ベルト2002とを有する。偏心カム1903の回転周期を変化させる。偏心カム1903の回転に伴ってシャフト405に掛かる負荷トルクを経時的に変化させる。
【0083】
図23は、振動波モータMの駆動にあたって、シャフト405の回転角、及び、シャフト405に掛かる負荷トルクの関係を示すグラフである。図23に示されるように、画像形成装置の動作時には、感光体ドラム110a〜110dには負荷トルクの変化が生ずる。ここで、図23中のaの部分は感光体ドラム110aのシャフト405に掛かる負荷トルクの変化を表し、図23中のbの部分は感光体ドラム110bのシャフト405に掛かる負荷トルクの変化を表す。図23中のcの部分は感光体ドラム110cのシャフト405に掛かる負荷トルクの変化を表し、図23中のdの部分は感光体ドラム110dに掛かる負荷トルクの変化を表す。
【0084】
図23に示されるように、振動波モータMの移動体403及び弾性体401の接触状態には、移動体403及び弾性体401双方の位相に同期しない連続的な変化が生じ、移動体403及び弾性体401の間の偏磨耗は防止される。
【0085】
なお、各色の感光体ドラム110a〜110dの駆動の負荷ピークは、図22のようにカム位相をずらすことで重ならないため、画像形成装置としてのピーク消費電力が増大することを防ぐことができる。
【0086】
以上のように、本発明の負荷トルク変動装置600によれば、偏心カム1903及びパッド1902が、負荷トルクの大きさをシャフト405の回転位相で変動させる。したがって、シャフト405が移動体403に固定されている場合には、移動体403が弾性体401に対して接触する接触状態(例えば接触位置の軌跡)は、シャフト405の回転方向で変動する(図20(a))。
【0087】
また、駆動モータ2001及び駆動ベルト2002が、シャフト405に掛かる負荷トルクの周期をシャフト405の回転周期に対して変動させる。したがって、シャフト405が移動体403に固定されている場合には、移動体403が弾性体401に対して接触状態の変動のプロファイル(接触位置の軌跡プロファイル)は、シャフト405の周方向に回転する(図20(b))。
【0088】
なお、例えば、この駆動モータ2001及び駆動ベルト2002が無くて、前述の偏心カム1903及びパッド1902が有るだけの場合を想定する。この場合には、接触位置の軌跡は、シャフト405の回転方向で変動した形状となるものの、シャフト405の周方向に回転した形状となることはない。そのために、周期毎に同一形状の接触状態となってしまう。そのために、駆動モータ2001及び駆動ベルト2002の機能に基づくシャフト405に掛かる負荷トルクの変化は必須となる。
【0089】
このように、シャフト405に対して機構的な特徴が加えられることで、移動体403及び弾性体401に接触状態が周期的に同一形状になることが回避されて同じ接触状態が続くことが回避され、移動体403及び弾性体401の偏磨耗は抑制される。その結果、振動波モータMの長寿命化が実現される。なお、画像形成装置99の構成が簡単な構成のままで済み、安価な振動波モータMで良好な画像を継続的に出力することができる。また、移動体403及び弾性体401は満遍なく磨耗していくことができる。
【0090】
また、シャフト405に掛ける力の大きさがシャフト405の回転位相で変動し、シャフト405に掛ける力の周期がシャフト405の回転周期に対して変動する。その結果、シャフト405自体の断面形状は変える必要がなく、シャフト405自体の回転には影響は生じないようにすることができる。
【0091】
さらに、駆動モータ2001及び駆動ベルト2002の回転周期が自在に変動することで、偏心カム1903の回転周期は自在に変動する。したがって、偏心カム1903及びパッド1902がシャフト405に掛ける負荷トルクの周期は自在に変動する。その結果、シャフト405に掛かる負荷トルクの周期の自由度は向上する。
【0092】
また、負荷トルク変動装置600が振動波モータMの外部に配置されることから、振動波モータMの大型化は抑制される。
【0093】
さらに、偏心カム1903の各々で、第3回転中心軸Sの偏心方向が互いに異なることから、複数の偏心カム1903が複数のパッド1902に伝達しなければならない押圧力の総量が低減され、最大の消費電力が低減される。その結果、駆動モータ2001の小型化が実現される。裏を返すと、複数の偏心カム1903で第3回転中心軸Sの偏心方向が互いに同じ方向にあると、複数の偏心カム1903が複数のパッド1902を一度に押圧する状況が生じる。このために、偏心カム1903がパッド1902に伝達しなければならない押圧力の総量が多く必要となり、最大の消費電力が増大する。こういった事態が抑制される。
【0094】
なお、第1実施形態及び第2実施形態における『回転位相負荷変動部』は偏芯させたはずみ車等重力を利用したものに設計変更することも可能である。また、印加電圧に応じて負荷力を変化できる電磁ブレーキや、他の電気的負荷印加手段に設計変更することも可能である。また、『負荷周期変動部』は上記電気負荷印加手段の印加電圧プロファイルを変化させることで実現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1実施形態に係る振動波モータ用の負荷トルク変動装置を適用可能な画像形成装置の構成を示す断面図である。
【図2】画像形成装置の感光体ドラムの概略構成を示す斜視図である。
【図3】画像形成装置における搬送ベルトの概略構成を示す一部拡大斜視図である。
【図4】感光体ドラム及び駆動ローラの駆動源である振動波モータの構成を示す断面図である。
【図5】振動波モータのステータの構成を示す斜視図である。
【図6】振動波モータの圧電素子の電極の構成を示す概略図である。
【図7】画像形成装置における振動波モータの駆動回路構成を示すブロック図である。
【図8】振動型アクチュエータの駆動制御装置を適用した画像形成装置の駆動回路における信号生成回路から出力される波形を示すグラフである。
【図9】これら昇圧回路の回路構成図である。
【図10】振動波モータの速度制御の方法を示すブロック図である。
【図11】振動波モータの一定速度制御時における駆動周波数の推移を示したグラフである。
【図12】図11の一部を拡大し、振動波モータが略1回転する時間での周波数変化を表したグラフである。
【図13】振動波モータ、及び、振動波モータ用の負荷トルク変動装置の構成を示す断面図である。
【図14】図13のX−X線に沿う断面図である。
【図15】振動波モータ用の負荷トルク変動装置の動作を示す工程図である。
【図16】振動波モータ用の負荷トルク変動装置の動作を示す工程図である。
【図17】振動波モータ用の負荷トルク変動装置の動作を示す工程図である。
【図18】振動波モータ用の負荷トルク変動装置の動作を示す工程図である。
【図19】振動波モータの駆動にあたって、シャフトの回転角、及び、シャフトに掛かる負荷トルクの関係を示すグラフである。
【図20】(a)は、移動体が弾性体に対して接触する接触位置の軌跡を示す概略図であり、(b)は、移動体が弾性体に対して接触する接触位置の軌跡のプロファイルを示す概略図である。
【図21】第2実施形態に係る振動波モータ用の負荷トルク変動装置の構成を示す断面図である。
【図22】図21のY−Y線に沿う断面図である。
【図23】振動波モータの駆動にあたって、シャフトの回転角、及び、シャフトに掛かる負荷トルクの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0096】
400 モータカバー(カバー)
401 弾性体(ステータ)
402 圧電素子(ステータ)
403 移動体(ロータ)
405 回転部材
1301 ワンウェイクラッチ(負荷周期変動部)
1302 偏心カム(回転位相負荷変動部)
1303 アーム(揺動部材)(回転位相負荷変動部)
1402 付勢バネ(付勢部材)(回転位相負荷変動部)
1902 パッド(押圧部材)(回転位相負荷変動部)
1903 偏心カム(回転位相負荷変動部)
2001 駆動モータ(駆動部)(負荷周期変動部)
2002 駆動ベルト(ベルト)(負荷周期変動部)
M 振動波モータ
R 第1回転中心軸(回転中心軸)
T 揺動中心固定軸(第2回転中心軸)
S 回転中心固定軸(第3回転中心軸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動波モータで回転する回転部材に設けられ、前記回転部材に掛かる負荷トルクの大きさを前記回転部材の回転位相で変動させる回転位相負荷変動部と、
前記回転部材に掛かる負荷トルクの周期を前記回転部材の回転周期に対して変動させる負荷周期変動部と、
を備えることを特徴とする振動波モータ用の負荷トルク変動装置。
【請求項2】
前記回転位相負荷変動部は、前記回転部材に掛かる力の大きさを前記回転部材の回転位相で変動させることによって前記回転部材に掛かる負荷トルクの大きさを変動させ、
前記負荷周期変動部は、前記回転部材に掛かる力の周期を前記回転部材の回転周期に対して変動させることによって前記回転部材に掛かる負荷トルクの周期を前記回転部材の回転周期に対して変動させることを特徴とする請求項1に記載の振動波モータ用の負荷トルク変動装置。
【請求項3】
前記回転位相負荷変動部は、前記回転部材の第1回転中心軸に対して偏心して形成されて前記第1回転中心軸の回りに回転する偏心カムと、基端部が前記第1回転中心軸と平行に配置された第2回転中心軸で軸支されると共に先端部が前記第2回転中心軸の回りに揺動可能な揺動部材と、前記揺動部材の前記先端部に取り付けられると共に前記揺動部材を前記回転部材に向かって付勢する付勢部材とを有し、
前記負荷周期変動部は、前記偏心カム、前記揺動部材及び前記付勢部材の押圧力に基づいて、前記回転部材及び前記偏心カムを接続して前記偏心カムを前記回転部材と一体に回転させ、前記回転部材及び前記偏心カムの接続を解除して前記偏心カムを前記回転部材よりも速く回転させるワンウェイクラッチであることを特徴とする請求項2に記載の振動波モータ用の負荷トルク変動装置。
【請求項4】
前記回転位相負荷変動部は、前記回転部材の第1回転中心軸と平行な第3回転中心軸の回りに回転可能で前記第3回転中心軸に対して偏心する偏心カムと、前記回転部材及び前記偏心カムの間に配置されて、前記偏心カムが回転して前記偏心カムの押圧力が増加すると、厚みを減少させて前記回転部材への押圧力を増加させ、前記偏心カムが回転して前記偏心カムの押圧力が減少すると、厚みを増加させて前記回転部材への押圧力を減少させる押圧部材と、を有し、
前記負荷周期変動部は、回転駆動力を変動可能な駆動部と、前記駆動部及び前記偏心カムに張架されるベルトと、を有することを特徴とする請求項2に記載の振動波モータ用の負荷トルク変動装置。
【請求項5】
シートに画像を形成する画像形成部と、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の振動波モータ用の負荷トルク変動装置と、を備え、前記振動波モータは、ステータ、及び、前記回転部材に取り付けられると共に前記ステータに対向するロータを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
前記振動波モータ用の負荷トルク変動装置は、前記振動波モータのカバーの外側で前記回転部材に取り付けられることを特徴とする請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
シートに画像を形成する画像形成部と、請求項4に記載の振動波モータ用の負荷トルク変動装置とを備え、前記振動波モータ用の負荷トルク変動装置は複数であり、前記偏心カムの各々では、前記第3回転中心軸の偏心方向が互いに異なることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−148160(P2010−148160A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319097(P2008−319097)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】