説明

振動溶着方法

【課題】樹脂母材に対して異なる材質の2以上の樹脂ワークを1回の工程で同時に溶着することができ、十分な溶け込み深さが得られるとともに、デフォームの発生を抑制する。
【解決手段】相対的に振動をするベース板20及び振動板22により、インストルメントパネル12と収納ボックス14、及び、インストルメントパネル12とダクト部材16とを層状に挟み込んで加圧及び加振をして溶着する。ベース板20の載置部20aにはウレタン材の保護材24が設けられている。保護材24の厚みは、収納ボックス14は比較的低融点の材質であり、ダクト部材16は比較的高融点の材質である。保護材24の厚みA1、A2は、支持する箇所の樹脂ワークの材質により異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に振動をする一対の振動部材により、樹脂母材と樹脂ワークとを層状に挟み込んで加圧及び加振をして溶着する振動溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂部品を他の樹脂部品に振動溶着により接合することが従来から行われている。振動溶着は接着剤が不要であり、しかも加熱乾燥等の後工程も不要であって、例えば自動車内装材に対して好適に用いられる。
【0003】
特許文献1には、製品の受け治具に弾性体を設け、重ね合わせ部の部分的な相違を吸収し、振動治具の圧力を一定に保つことが記載されている。
【0004】
このように、1種類の樹脂材で成形された部品の溶着には、素材・形状に応じた適切な条件を設定することで、必要な外観品質及び接合強度を得ることができる。
【0005】
特許文献2には、溶着治具において製品との接触面にウレタン樹脂を設けて製品外観を保持することが記載されている。該溶着治具では、ウレタン樹脂についての厚みは特に考慮されてなく、薄い均一厚みとなっている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−43567号公報
【特許文献2】特開2001−232686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
振動溶着では、例えば、自動車のインストルメントパネル裏面に対して、助手席側SRS(Supplemental Restraint System)エアバッグの収納ボックスや、エアコンディショナのダクト等を接合することができる。これらの収納ボックスやダクト部材は、要求仕様から材質が異なり、例えば収納ボックスはエアバッグ作動時の前面開閉のためのヒンジ機能を有することから比較的融点が低く、軟らかいTPO(thermoplastic Olefin)であり、ダクト部材は比較的融点が高いPP(Polypropylene)である。
【0008】
従来、インストルメントパネルに対してこのような異種のワークを振動溶着させる場合には、別工程で行っている。融点等の違いから同じ加圧及び加振条件で振動溶着を行うと、いずれか一方が溶着強度不足となり、又は少なくとも一方が溶け込み深さが過大となり、溶着箇所のインストルメントパネルの意匠表面側にデフォームが発生するからである。インストルメントパネルの意匠表面側は美観が特に重用視されており、デフォームの発生は好ましくない。
【0009】
収納ボックスの溶着とダクト部材の溶着とを別工程でワーク材質に応じた加圧、加振条件で振動溶着を行えば、それぞれ適度な溶け込み量、適度な接合強度が得られるとともに、意匠表面にもデフォームが発生しない。
【0010】
しかしながら、2以上の工程で振動溶着を行うことは、時間もかかり、溶着装置に対する搬入、搬出及びその他の準備等を2回行うことになり、効率的でない。
【0011】
また、形状の違いから同じ加圧及び加振条件で振動溶着を行うと、いずれか一方が変形してしまう懸念がある。
【0012】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、樹脂母材に対して、2以上の樹脂ワークを1回の工程で同時に溶着することができ、しかもデフォームの発生しない振動溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る振動溶着方法は、相対的に振動をする一対の振動部材により、樹脂母材と樹脂ワークとを層状に挟み込んで加圧及び加振をして溶着する振動溶着方法であって、前記樹脂ワークは2以上設けられ、それぞれ前記樹脂母材に当接させ、前記樹脂母材と前記振動部材の一方との間及び(又は)前記樹脂ワークと前記振動部材の他方との間に保護材を設け、前記保護材の厚みは、支持する箇所により異なることを特徴とする。
【0014】
これにより、樹脂母材に対して2以上の樹脂ワークを1回の工程で同時に溶着することができ、十分な溶け込み深さが得られるとともに、デフォームの発生を抑制することができる。
【0015】
前記樹脂ワークは異なる材質の2以上が設けられ、それぞれ前記樹脂母材に当接させ、前記保護材の厚みは、支持する箇所の前記樹脂ワークの材質により異ならせてもよい。これにより、樹脂母材に対して異なる材質の2以上の樹脂ワークを1回の工程で同時に溶着することができ、十分な溶け込み深さが得られるとともに、デフォームの発生を抑制することができる。
【0016】
前記保護材は、ウレタン材であると潤滑性と適度な強度と柔らかさを備えており、しかも表面が滑らかであり好適である。
【0017】
前記保護材の厚みは、支持する箇所の前記樹脂ワークの融点が低いほど薄くしてもよい。これにより、融点の低い箇所は薄い保護材により振動が抑制され、融点の高い箇所は厚い保護材で振動しやすくなり、樹脂ワークの融点に応じた適度な振動が得られる。
【0018】
前記保護材は、前記樹脂母材と前記樹脂ワークとのうち、製品意匠面側に設けてもよい。これにより保護部材が製品意匠面側を保護することができ、振動による擦れ等を防止できる。
【0019】
前記樹脂母材は、PPであり、複数の前記樹脂ワークは、PP及びTPOを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る振動溶着方法によれば、樹脂母材に対して2以上の樹脂ワークを1回の工程で同時に溶着することができ、十分な溶け込み深さが得られるとともに、デフォームの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る振動溶着方法について実施の形態を挙げ、添付の図1〜図7を参照しながら説明する。
【0022】
本実施の形態に係る振動溶着方法は、図1に示す振動溶着装置10を用いて、自動車用のインストルメントパネル(樹脂母材)12に対して、助手席側SRSエアバッグの収納ボックス(樹脂ワーク)14及びエアコンディショナのダクト部材(樹脂ワーク)16を振動溶着により接合する。
【0023】
インストルメントパネル12の材質は、PP材であり、融点は166℃程度である。収納ボックス14の材質はTPOであり、融点は150℃程度である。ダクト部材16の材質はPP材であり、融点は166℃程度である。ダクト部材16は、中央送風部16a、端部送風部16b及びデフロスタ送風部16c等を有するが、全てPP材である。収納ボックス14は比較的軟らかく、ダクト部材は比較的硬い。
【0024】
収納ボックス14は、裏面が開口したボックス構造であり、SRSを収納可能な構造になっている。収納ボックス14の底面14aは粗いメッシュ形状であり、底部がインストルメントパネル12に接合される。底面14aは、エアバッグ動作時に開放可能なヒンジ構造となっている。インストルメントパネル12における収納ボックス14が溶着される箇所の面は、エアバックの膨脹時に開裂する脆弱部を備えている。
【0025】
図1に示すように、振動溶着装置10は、ベース板(振動部材の一方)20と、振動板(振動部材の他方)22と、保護材24と、制御部26とを有する。
【0026】
ベース板20は、振動溶着装置10のベースとなる部材であり制御部26の作用下に床面に対して昇降可能である。ベース板20は載置部20aを有し、ワークとしてのインストルメントパネル12を位置決め載置可能であり、さらに該インストルメントパネル12の上部に収納ボックス14及びダクト部材16を所定の位置に載置することができる。インストルメントパネル12は、製品意匠面12a側を下向きに載置される。載置部20aは、例えばアルミニウム材である。
【0027】
振動板22は、ベース板20の上方に設けられており、ベース板20が上昇することにより、振動板22とベース板20はインストルメントパネル12の溶着部30aと収納ボックス14の溶着部30bとを層状に挟み込むとともに、インストルメントパネル12の溶着リブ部32aとダクト部材16の溶着部32bとを層状に挟み込み所定の加圧力を加えることができる。この加圧力は、制御部26によって制御可能である。
【0028】
振動板22は、制御部26及び加振手段27の作用下に、ベース板20に対して相対的に横方向(例えば、インストルメントパネル12の横長X方向)に振動をして、ワークに加振力を加えることができる。つまり、振動板22とベース板20は、相対的な振動をする一対の振動部材である。振動板22の振動の振幅、周波数、加振時間等は制御部26によって制御可能である。
【0029】
ベース板20におけるインストルメントパネル12が載置される載置部20a(つまり、ベース板20とインストルメントパネル12との間)には、保護材24が設けられている。
【0030】
保護材24は、表面が滑らかなウレタン材であり、潤滑性と適度な強度と柔らかさを備えており、インストルメントパネル12を適切に支持することができる。また、保護材24は、インストルメントパネル12の製品意匠面12a側に設けられ、該製品意匠面12aを保護することができ、振動による擦れ等を防止できる。
【0031】
図2及び図3に示すように、保護材24の厚みは、支持する箇所の樹脂ワーク(つまり、収納ボックス14及びダクト部材16)の材質により異なり、支持する箇所の樹脂ワークの融点が低いほど薄くなっている。すなわち、融点の比較的低い材質(TPO)の収納ボックス14を支持する箇所では、保護材24は薄い幅A1であり、融点の比較的高い材質(PP)のダクト部材16を支持する箇所では、保護材24は厚い幅A2となっている。保護材24は、必ずしも1枚で構成されている必要はなく、例えば、薄い箇所を1枚とし、厚い箇所を複数枚で構成してもよい。保護材24が複数枚から構成される場合、必ずしも単一の材質である必要はない。
【0032】
また、保護材24は、溶着物及び被溶着物の形状によって異なっているともいえる。すなわち、収納ボックス14が溶着される箇所は、エアバックの膨脹時に開裂する脆弱部を有することから過度な振動を加えないことが望ましく、保護材24を薄くして振動が抑制されている。
【0033】
保護材24の上面は滑らかな面となっており、厚みは載置部20aの高さにより調整されている。
【0034】
次に、このように構成される振動溶着装置10を用いて、インストルメントパネル12に対して、収納ボックス14及びダクト部材16を振動溶着により接合する振動溶着方法について説明する。
【0035】
先ず、準備として、載置部20aに対してインストルメントパネル12を位置決めして、載置する。載置部20aの上面には保護材24が設けられていることから、インストルメントパネル12は保護材24を介して載置部20aに載置される。
【0036】
次いで、インストルメントパネル12に対して収納ボックス14及びダクト部材16を位置決めして載置する。収納ボックス14及びダクト部材16は、予めインストルメントパネル12に位置決め及び仮固定しておき、該インストルメントパネル12と同時に載置部20aに載置してもよい。
【0037】
さらに、制御部26の作用下にベース板20を上昇させて、振動板22の押圧突起22aとベース板20はインストルメントパネル12の溶着部30aと収納ボックス14の溶着部30bとを層状に挟み込むとともに、インストルメントパネル12の溶着リブ部32aとダクト部材16の溶着部32bとを層状に挟み込み所定の加圧力を加える。溶着部30aと溶着部30bとの接触面、及び溶着リブ部32aと溶着部32bとの接触面には、保護材24の厚みに応じて異なる圧力が加わることになる。押圧突起22aは、例えばアルミニウム材である。
【0038】
次に、制御部26の作用下に振動板22をX方向に所定振幅及び所定周波数で振動させる。これにより、溶着部30aと溶着部30bとの接触面、及び溶着リブ部32aと溶着部32bとの接触面に摩擦熱が発生して振動溶着がなされる。
【0039】
所定時間の加振後、又は所定溶着量に到達した後に、振動板22の振動を止め、ベース板20を下降させて、溶着がなされたインストルメントパネル12、収納ボックス14及びダクト部材16を取り出す。取り出された製品では、インストルメントパネル12に対する収納ボックス14の溶着部及びダクト部材16の溶着部とも、十分な溶け込みが得られており、十分な溶着強度が得られる。しかも、この方法及び装置では、溶け込みは深すぎることがなく、インストルメントパネル12の製品意匠面12aにデフォームの発生を抑制することができる。
【0040】
さらに、この方法及び装置では、材質の異なる収納ボックス14とダクト部材16とを1度の工程でインストルメントパネル12に溶着することができ、効率的である。
【0041】
保護材24は、滑らかで且つ適度に柔らかいウレタン材であって潤滑性を有することから、製品意匠面12aを保護できるため、加振時にも該製品意匠面12aに対する擦り傷等を防止できる。
【0042】
なお、上述した方法及び装置では、ダクト部材16の中央送風部16a、端部送風部16b及びデフロスタ送風部16cについて、それぞれの支持する箇所における保護材24は、同じ幅A2を有するものとしたが、種々の要因によって同じ幅A2でも同じ摩擦力が得られるとは限らない。したがって、図4に示すように、同じ材質の樹脂ワーク(ダクト部材16)を支持する場合であっても、箇所によって適度に保護材24の厚みを調整して、A2’、A2”としてもよい。
【0043】
また、上述した方法では、ベース板20を上昇させるとき、各押圧突起22aは、各樹脂ワークの溶着部上面に対して同時に当接して、各溶着部に同じ加圧力を加えるようしているが、同じ加圧力を加えても、種々の要因によって適度な摩擦力が得られるとは限らない。したがって、図5に示すように、当接箇所によって押圧突起22aの突出長さB,B’を調整して、得られる加圧力を当接箇所ごとに調整してもよい。図5では、B’がBより僅かに小さく、突出長さB’の押圧突起22aは、突出長さBの押圧突起22aよりも僅かに遅れてインストルメントパネル12の溶着部32bに当接する。
【0044】
さらに、上述した方法では、保護材24はインストルメントパネル12側に設けたが、設計条件によっては、図6に示すように、収納ボックス14及びダクト部材16側にも設けてもよい。この場合、インストルメントパネル12側の保護材24を省略してもよい。
【0045】
本実施の形態に係る振動溶着方法による溶着部の溶け込み量を計測した結果を図7に示す。図7のグラフ50は、収納ボックス14の溶着部30bとインストルメントパネル12との溶着部の溶け込み量であり、グラフ52は、ダクト部材16の溶着部32bとインストルメントパネル12との溶着部の溶け込み量である。図7から了解されるように、振動開始時刻0の後、時刻t1から双方とも溶け込みが開始され、略同じ程度に溶け込みが進行している。図7の仮想線54は、比較例として保護材24の厚みを一定にして行った場合のダクト部材16の溶着部32bとインストルメントパネル12との溶着部の溶け込み量である。この場合、溶け込み開始時刻が遅くなり、最終的な溶け込み量が小さくなってしまうことが理解されよう。
【0046】
上述したように、振動溶着装置10及び本実施の形態に係る振動溶着方法によれば、インストルメントパネル12に対して異なる材質の2以上の樹脂ワーク(収納ボックス14及びダクト部材16)を1回の工程で同時に溶着することができ、しかもデフォームの発生を抑制することができる。インストルメントパネル12に溶着する樹脂ワークの材質は3以上であってもよいことはもちろんである。
【0047】
本発明に係る振動溶着方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】振動溶着装置及びワークの分解斜視図である。
【図2】振動溶着装置によってインストルメントパネルと収納ボックス及びダクト部材を挟持した状態の断面正面図である。
【図3】振動溶着装置によってインストルメントパネルと収納ボックス及びダクト部材を挟持した状態の断面側面図である。
【図4】挟持する箇所によって保護材の厚みを調整した振動溶着装置の断面図である。
【図5】挟持する箇所によって押圧突起の突出長さを調整した振動溶着装置の断面図である。
【図6】樹脂ワーク側に保護材を設けた振動溶着装置の断面図である。
【図7】溶着部の溶け込み量を計測したグラフである。
【符号の説明】
【0049】
10…振動溶着装置 12…インストルメントパネル
12a…製品意匠面 14…収納ボックス
16…ダクト部材 20…ベース板
20a…載置部 22…振動板
22a…押圧突起 24…保護材
26…制御部 27…加振手段
30a、30b、32b…溶着部 32a…溶着リブ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に振動をする一対の振動部材により、樹脂母材と樹脂ワークとを層状に挟み込んで加圧及び加振をして溶着する振動溶着方法であって、
前記樹脂ワークは2以上設けられ、それぞれ前記樹脂母材に当接させ、
前記樹脂母材と前記振動部材の一方との間及び(又は)前記樹脂ワークと前記振動部材の他方との間に保護材を設け、
前記保護材の厚みは、支持する箇所により異なることを特徴とする振動溶着方法。
【請求項2】
請求項1記載の振動溶着方法において、
前記樹脂ワークは異なる材質の2以上が設けられ、それぞれ前記樹脂母材に当接させ、
前記保護材の厚みは、支持する箇所の前記樹脂ワークの材質により異なることを特徴とする振動溶着方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の振動溶着方法において、
前記保護材は、ウレタン材であることを特徴とする振動溶着方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の振動溶着方法において、
前記保護材の厚みは、支持する箇所の前記樹脂ワークの融点が低いほど薄いことを特徴とする振動溶着方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動溶着方法において、
前記保護材は、前記樹脂母材と前記樹脂ワークとのうち、製品意匠面側に設けることを特徴とする振動溶着方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の振動溶着方法において、
前記樹脂母材は、PPであり、複数の前記樹脂ワークは、PP及びTPOを含むことを特徴とする振動溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−202399(P2009−202399A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46044(P2008−46044)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】