説明

振動計測方法、及び、振動計測装置

【課題】ギヤからトランスミッションケースへの振動伝達部位における振動、応力、モーメントを計測し、振動発生部位の特定や振動伝達経路の解析を行うため技術を提案する。
【解決手段】振動発生源となるカウンタードライブギア12を、リング状の分力計20を介してトランスミッションのケース3にて支持し、信号処理装置35にて、前記分力計20に発生する荷重成分、及び、モーメント成分から定量的な値を求め、周波数処理装置37にて、前記定量的な値をFFT処理することにより、前記カウンタードライブギア12における振動を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のトランスミッションのギヤノイズを計測する方法、及び、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のトランスミッション等にて発生する騒音の解析には、例えば、図5に示すごとくの構成により行うものがあり、この例では、トランスミッション51に入力軸52と出力軸53・53を結合し、入力軸52にはエンジン相当の回転をトランスミッション内に与え、出力軸53・53には車輪相当の負荷を与えた状況とし、前記入力軸52又は出力軸53・53のいずれか一方の回転数を回転検出器54にて検出するとともに、トランスミッション51の近傍にマイク55を設置して音圧を検出し、前記回転数と音圧を電子制御装置56にてFFT処理し(Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換処理)、解析を行うこととしている。
また、このトランスミッションの騒音を解析するとともに、騒音を積極的に低減させる装置について開示する文献も存在する(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、上述のトランスミッションの騒音は、(1)ギヤの噛合いによる振動発生、(2)トランスミッション内部の振動伝達、(3)トランスミッションケースの振動、(4)ケース表面より発音、といったメカニズムで発生すると考えられている。
【特許文献1】実開平6−32787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した検出される音圧に基づくFFT処理による解析では、トランスミッションケース全体から発生される音圧が対象となるため、振動発生源や、振動伝達経路の特定が困難であった。
また、このように、振動発生源や、振動伝達経路の特定が困難であるため、騒音評価においては、トランスミッションのユニット単位で合否の判定を行うしかなく、不合格の場合の要因については解析ができないといった現状がある。
【0005】
そこで、本発明では、ギヤからトランスミッションケースへの振動伝達部位における振動、応力、モーメントを計測し、振動発生源の特定や振動伝達経路の解析を行うため技術を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上のごとくであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1に記載のごとく、振動発生源となるギアを、リング状の分力計を介してケースにて支持し、信号処理装置にて、前記分力計に発生する荷重成分、及び、モーメント成分から定量的な値を求め、周波数処理装置にて、前記定量的な値をFFT処理することにより、前記ギアにおける振動を計測する、振動計測方法とするものである。
【0008】
また、請求項2に記載のごとく、前記分力計に発生する荷重成分、及び、モーメント成分のうち、低周波数域におけるものをローパスフィルタを介して取得することで、前記ギアに生じる静的な荷重成分、及び、モーメント成分を計測する振動計測方法とするものである。
【0009】
また、請求項3に記載のごとく、ギア仕組を内装するケースと、前記ギア仕組を構成するギアの間に介設されるリング状の分力計と、前記分力計にて検出される荷重成分、及び、モーメント成分の各成分ごとの定量的な値を求める信号処理装置と、前記ギアの回転数を検出するための回転数検出器と、前記信号処理装置と回転数検出器から入力されるデータに基づいてFFT処理を実行する周波数処理装置とを具備する、振動計測装置とするものである。
【0010】
また、請求項4に記載のごとく、前記分力計に発生する荷重成分、及び、モーメント成分のうち、低周波数域におけるものを計測するローパスフィルタを具備することとするものである。
【発明の効果】
【0011】
以上の請求項1に記載の発明では、ギアの噛合い起因する振動を解析することにより、該振動がケースに伝達することによって生じ得る騒音の原因を特定することができ、この解析結果をギアの設計等(例えば、歯の形状)の変更の指針として、低騒音化を図ることができる(動的な荷重成分、及び、モーメント成分の解析)。
【0012】
また、請求項2に記載の発明では、騒音発生の原因となり得る、ギアの静的状態での荷重、モーメントを特定することができ、この解析結果をトランスミッションの構造設計の指針として利用することにより、低騒音化を図ることができる(静的な荷重成分、及び、モーメント成分の解析)。
【0013】
また、請求項3に記載の発明では、ギア仕組のギアにおいて発生する振動を解析することが可能となり、この解析結果をギアの設計等(例えば、歯の形状)の変更の指針として、低騒音化を図ることができる(動的な荷重成分、及び、モーメント成分の解析)。
【0014】
また、請求項4に記載の発明では、騒音発生の原因となり得る、ギア仕組のギアに生じる静的な荷重成分、及び、モーメント成分を解析することが可能となり、この解析結果をギア仕組の構造設計の指針として利用することにより、低騒音化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明にかかる振動計測方法により、トランスミッション1の振動解析をする場合の例について示すものである。
該トランスミッション1の外観は、図示せぬエンジンに取り付けられるケース2と、該ケース2の反エンジン側に取り付けられ、遊星歯車機構4等を内装するケース3とから構成される。
また、前記ケース2においては、エンジンの出力軸5に対してインプットシャフト6が連結されている。該インプットシャフト6は、前記ケース3内のメインシャフト7と連結されている。前記出力軸5、インプットシャフト6、及び、メインシャフト7は、同一軸心上に配置される。
【0016】
また、前記ケース3内において、前記メインシャフト7を中心に遊星歯車機構4が構成されている。該遊星歯車機構4は、前記メインシャフト7に固定されるサンギア8と、該サンギア8に噛合する複数のプラネタリピニオンギア9と、該プラネタリピニオンギア9を支持するプラネタリキャリア10と、前記プラネタリピニオンギア9・9と内歯で噛合するインターナルギア11とから構成されている。
また、前記ケース3内において、前記プラネタリキャリア10には、カウンタードライブギア12が外嵌されている。該カウンタードライブギア12は、ベアリング13、及び、分力計20のリング状の枠体21を介して前記ケース3に対して支持されている。
【0017】
また、前記ケース3内において、前記カウンタードライブギア12には、カウンタードリブンギア14が噛合されている。該カウンタードリブンギア14は、ディファレンシャルドライブピニオン15に外嵌されている。該ディファレンシャルドライブピニオン15は、ディファレンシャル−ギア16(差動歯車装置)のリングギア17と噛合される。
また、ディファレンシャル−ギア16の出力は、左右のドライブシャフト18L・18Rへと出力される。
【0018】
以上の構成では、エンジンの出力軸5の駆動力は、インプットシャフト6、メインシャフト7、遊星歯車機構4、カウンタードライブギア12、カウンタードリブンギア14、ディファレンシャルドライブピニオン15、ディファレンシャル−ギア16といった順に伝達され、左右のドライブシャフト18L・18Rが駆動されるようになっている。
【0019】
また、以上の構成において、前記カウンタードライブギア12は、ベアリング13及び分力計20のリング状の枠体21を介してケース3に支持される構成としており、これにより、カウンタードライブギア12とカウンタードリブンギア14の噛合いにより発生し、ケース3へ伝わろうとする荷重を、前記分力計20にて検出できるようになっている。
【0020】
前記分力計20は、図2に示すごとくリング状の枠体21で構成されるものであり、該枠体21には、複数の起歪部22・22・・・が、枠体21の厚み方向に貫通するように(周状表面21aと周状裏面21bの間を貫通するように)設けられている。
そして、図2に示すごとく、X軸31x、Y軸31y、Z軸31zの三軸をとり、該三軸方向に付与される荷重成分32x・32y・32zと、該三軸を中心とするモーメント成分33x・33y・33zを検出すべく、歪ゲージG・G・・・が前記起歪部22・22・・・の配置される位置に貼着され、これら歪ゲージG・G・・・にてホイートストンブリッジ回路が構成されるものとしている。この構成では、荷重とモーメントの合計6つの分力が検出される6分力計として構成されるようになっている。
尚、前記起歪部22・22・・・の配置については、歪を検出すべく適切な位置に配置されるものであれよく、特に限定されるものではない。また、前記ホイートストンブリッジ回路と歪ゲージによる6分力計の回路構成については、周知の技術によるものであり、具体的な構成については、特に限定されるものではない。
【0021】
そして、図3に示すごとく、前記分力計20のホイートストンブリッジ回路の信号は、ケース3の外部へと取り出され、信号処理装置35へと出力される。
この信号処理装置35においては、前記分力計20から入力される各信号の干渉成分を補正するためのマトリクス処理機能が備えられており、前記分力計20にて検出される荷重成分32x・32y・32z、及び、モーメント成分33x・33y・33zの各成分ごとの定量的な値、即ち、荷重(N;ニュートン)、モーメント(Nm;ニュートンメートル)を求めることができるようになっている。
また、信号処理装置35には、各成分のゼロ点を補正するためのゼロ点補正機能が備えられており、前記歪ゲージG・G・・・に負荷が全くかかっていないとした場合における、前記各成分の値をゼロにセットできるようになっている。
【0022】
また、前記信号処理装置35の処理結果は、周波数処理装置37へと入力される。
また、該周波数処理装置37には、回転数検出器34から出力軸5の回転数が入力される。尚、回転数検出器34においては、出力軸5の回転数を検出するほか、ドライブシャフト18L・18Rの回転数を検出することとしてもよく、回転数を検出する対象となる回転体については、特に限定されるものではない。
【0023】
そして、前記周波数処理装置37は、信号処理装置35の処理結果と、回転数検出器34にて検出される回転数に基づいて、FFT処理(高速フーリエ変換処理)が行われるようになっている。
また、このFFT処理においては、カウンタードライブギア12とカウンタードリブンギア14の噛合いに起因する振動成分、即ち、ギアの噛合いによって生じる静的な荷重成分、及び、モーメント成分を分離することで(低周波数の振動成分を除外する)、低周波数域を除いた周波数域における動的な荷重成分、及び、モーメント成分を取得できる(ギアの回転により生じる振動の計測できる)ようになっている。
また、このFFT処理の結果は、表示器38や、データロガー39へと出力され、該出力結果を、振動解析や、騒音評価の合否判定のデータとして利用することができるようにしている。
【0024】
また、前記信号処理装置35の処理結果は、ローパスフィルタ36に入力されるようになっており、中〜高周波数域を除いた周波数、即ち、低周波数域における荷重成分32x・32y・32z、及び、モーメント成分33x・33y・33zを取得できるようになっている。これらの各成分はギアの噛合いによって生じる静的な成分として捉えることができるため、これらの各成分を解析し、ギアの噛合い反力を解析することができるようになっている。
【0025】
以上のように、本発明にかかるトランスミッションの振動計測方法では、振動発生源となるカウンタードライブギア12を、リング状の分力計20を介してトランスミッションのケース3にて支持し、信号処理装置35にて、前記分力計20に発生する荷重成分、及び、モーメント成分から定量的な値を求め、周波数処理装置37にて、前記定量的な値をFFT処理することにより、前記カウンタードライブギア12における振動を計測することとするものである。
また、前記分力計20に発生する荷重成分、及び、モーメント成分のうち、低周波数域におけるものをローパスフィルタ36を介して取得することで、前記カウンタードライブギア12に生じる静的な荷重成分、及び、モーメント成分を計測することとするものである。
【0026】
そして、以上のようにして、カウンタードライブギア12とカウンタードリブンギア14の噛合い起因する振動を解析することによれば、該振動がケース3に伝達することによって生じ得る騒音の原因を特定することができ、この解析結果をカウンタードライブギア12の設計等(例えば、歯の形状)の変更の指針として、低騒音化を図ることができる(動的な荷重成分、及び、モーメント成分の解析)。
【0027】
また、前記ギヤの噛合い反力の解析によれば、騒音発生の原因となり得る、カウンタードライブギア12の静的状態での荷重、モーメントを特定することができ、この解析結果をトランスミッション1の構造設計(カウンタードライブギア12とカウンタードリブンギア14の中心間距離)の変更の指針として、低騒音化を図ることができる(静的な荷重成分、及び、モーメント成分の解析)。
【0028】
また、前記カウンタードライブギア12は、トランスミッション1のケース3に対し、ベアリング13及び分力計20を介して支持される構成としていることから、振動発生源の一つとして考えられるカウンタードライブギア12からケース3へ伝達される振動成分を、この伝達経路にある分力計20によって直接的に検出し、解析することができるので、信頼性の高い解析を行うことができる。
【0029】
また、以上では、分力計20を最終製品の構成部材となるトランスミッション1のケース3に設置した場合の振動解析の例について述べたが、ギア仕組の設計段階において前記分力計20を用いた振動解析を行うこととしてもよい。
つまり、例えば、図4に示すごとく、遊星歯車機構等のギア仕組41を構成するギア42a・42bと、前記ギア仕組を内装するケース43の間に、リング状の分力計44a・44bを介設し、前記ギア42a・42bを回転させた場合に分力計44a・44bに付与される荷重成分、及び、モーメント成分を周波数処理装置37によって解析するものである。
【0030】
この図4の装置構成では、遊星歯車機構等のギア仕組41を内装するケース43と、前記ギア仕組41を構成するギア42a・42bの間に介設されるリング状の分力計44a・44bと、前記分力計44a・44bにて検出される荷重成分、及び、モーメント成分の各成分ごとの定量的な値を求める信号処理装置35と、前記ギア42a・42bの回転数を検出するための回転数検出器34と、前記信号処理装置35と回転数検出器34から入力されるデータに基づいてFFT処理を実行する周波数処理装置37とを具備する、振動計測装置とするものである。
また、図において、45は前記ギア仕組41を駆動するための駆動源であり、46はギア仕組41に負荷を与えるための負荷装置である。
【0031】
以上の構成により、ギア仕組41のギア42a・42bにおいて発生する振動を解析することが可能となり、この解析結果をギア42a・42bの設計等(例えば、歯の形状)の変更の指針として、低騒音化を図ることができる(動的な荷重成分、及び、モーメント成分の解析)。
【0032】
また、前記分力計20に発生する荷重成分、及び、モーメント成分のうち、低周波数域におけるものを計測するローパスフィルタ36を具備する構成とする。
この構成により、ギア仕組41のギア42a・42bに生じる静的な荷重成分、及び、モーメント成分を解析することが可能となり、この解析結果をギア仕組41の構造設計の指針として利用することにより、低騒音化を図ることができる(静的な荷重成分、及び、モーメント成分の解析)。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の振動計測方法を実施するトランスミッションの構成について示す断面図。
【図2】分力計の構成について示す斜視図。
【図3】振動計測装置に必要な構成について示す図。
【図4】ギア仕組の設計において本発明の振動計測方法を実施する場合の装置構成について示す図。
【図5】従来の振動計測方法が実施される装置構成例について示す図。
【符号の説明】
【0034】
1 トランスミッション
2 ケース
3 ケース
12 カウンタードライブギア
14 カウンタードリブンギア
20 分力計
34 回転数検出器
35 信号処理装置
36 ローパスフィルタ
37 周波数処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生源となるギアを、リング状の分力計を介してケースにて支持し、
信号処理装置にて、前記分力計に発生する荷重成分、及び、モーメント成分から定量的な値を求め、
周波数処理装置にて、前記定量的な値をFFT処理することにより、
前記ギアにおける振動を計測する、振動計測方法。
【請求項2】
前記分力計に発生する荷重成分、及び、モーメント成分のうち、
低周波数域におけるものをローパスフィルタを介して取得することで、
前記ギアに生じる静的な荷重成分、及び、モーメント成分を計測する、
請求項1に記載の振動計測方法。
【請求項3】
ギア仕組を内装するケースと、
前記ギア仕組を構成するギアの間に介設されるリング状の分力計と、
前記分力計にて検出される荷重成分、及び、モーメント成分の各成分ごとの定量的な値を求める信号処理装置と、
前記ギアの回転数を検出するための回転数検出器と、
前記信号処理装置と回転数検出器から入力されるデータに基づいてFFT処理を実行する周波数処理装置とを具備する、振動計測装置。
【請求項4】
前記分力計に発生する荷重成分、及び、モーメント成分のうち、
低周波数域におけるものを取得するローパスフィルタを具備する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の振動計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−266956(P2006−266956A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87425(P2005−87425)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】