説明

捲回型二次電池

【課題】二次電池の内部の温度が上昇した場合においても,正極板と負極板との絶縁を確実に確保できる捲回型二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明の二次電池10は,正極と負極との電極板31,32を扁平な形状に捲回した捲回型の電極体11と,電解液13とを電池ケース12に封入してなる捲回型二次電池であって,電極体11は,扁平な箇所と扁平な箇所との間にR部14が形成されており,R部14のうち,少なくとも捲回の最内周側から1つ目の電極板と2つ目の電極板との間の位置に配置され,電解液13を透過させる絶縁体21を有し,絶縁体21は,電極体11の捲回軸方向の幅全体に渡って配置されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,帯状の正負の電極板を捲回してなる捲回型の二次電池に関する。さらに詳細には,扁平形状に捲回した捲回型二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より,例えばリチウムイオン二次電池等の捲回型二次電池が使用されている。この捲回型二次電池においては,正極板と負極板とが,間にセパレータを挟んで対面するように,捲回されている。二次電池では,過充電や微小短絡等の原因により,電池温度が通常の使用時より上昇する場合があることが知られている。セパレータは通常,樹脂製のものを用いていたため,温度上昇の程度によっては収縮または変形するおそれがあった。
【0003】
正極板と負極板との間でセパレータが収縮したり変形によって穴があいたりすると,その箇所の絶縁性が維持できなくなるおそれがあるので好ましくない。これに対し,例えば特許文献1では,捲回型の電極体の最外周に耐熱強度の高いテープを巻き付けた二次電池が開示されている。これにより,電池温度が上昇しても,外装缶と電極体との絶縁性が維持され,短絡が防止されるとされている。また,特許文献2では,セパレータの表面の一部に耐熱層が設けられた二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−251866号公報
【特許文献2】特開2005−302634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の特許文献1に記載の技術では,外装缶との間の絶縁は確保されたとしても,電極体の内部についての対処はなされていない。捲回型の二次電池では,一般に,内周側ほど高温となりがちであり,特に最内周における正極板と負極板との絶縁を確保することが必要となっている。特に扁平形状に捲回された電極体では,扁平面と扁平面との間に形成されるR部で,電極板やセパレータに比較的大きな曲げ変形による応力がかかっている。そのため,昇温によってセパレータがある程度柔軟になっただけで,この箇所のセパレータが変形するおそれがあった。
【0006】
また,特許文献2の技術では,耐熱層がセパレータ上に形成されているため,温度上昇等によってセパレータが収縮した場合には,耐熱層もセパレータとともに移動してしまう。そのため,昇温した場合に,絶縁を確保したい位置に耐熱層がないという状態となるおそれがある。
【0007】
本発明は,前記した従来の捲回型二次電池が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,二次電池の内部の温度が上昇した場合においても,正極板と負極板との絶縁を確実に確保できる捲回型二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の捲回型二次電池は,正極と負極との電極板を扁平な形状に捲回した捲回体と,電解液とを電池ケースに封入してなる捲回型二次電池であって,捲回体は,扁平な箇所と扁平な箇所との間にR部が形成されており,R部のうち,少なくとも捲回の最内周側から1つ目の電極板と2つ目の電極板との間の位置に配置され,電解液を透過させる絶縁体を有し,絶縁体は,捲回体の捲回軸方向の幅全体に渡って配置されているものである。
【0009】
本発明の捲回型二次電池によれば,捲回体のR部に絶縁体が設けられている。特に,捲回の最内周側から1つ目の電極板と2つ目の電極板との間の位置に配置されているので,熱が溜まりやすい内周側の箇所で,絶縁状態を確保することができる。この絶縁体は,捲回体に含まれるセパレータとは別に設けられる。また,最内周側から1つ目の電極板と2つ目の電極板との間のセパレータの内周側に配置されても外周側に配置されても良い。さらに,絶縁体は電解液を透過させるものであるので,二次電池の性能に影響を与えることはない。従って,二次電池の内部の温度が上昇した場合においても,正極板と負極板との絶縁を確実に確保できる捲回型二次電池となっている。
【0010】
さらに本発明では,絶縁体は,150℃で10分間放置した場合の収縮率が1.5%以下のものであることが望ましい。
絶縁体として収縮率の小さいものを用いることにより,二次電池の温度が上昇した場合にも,絶縁状態を確保できる。
【0011】
さらに本発明では,絶縁体は,互いに重ならないように両側のR部にそれぞれ設けられていることが望ましい。
このようになっていれば,必要以上に大きい絶縁体を設けることなく,R部の絶縁状態を確保できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の捲回型二次電池によれば,二次電池の内部の温度が上昇した場合においても,正極板と負極板との絶縁を確実に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本形態の二次電池の内部構成を示す斜視図である。
【図2】電極体の一部を示す説明図である。
【図3】電極体の一部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,本発明を具体化した形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,扁平形状のリチウムイオン二次電池に本発明を適用したものである。
【0015】
本形態の二次電池10は,図1に示すように,扁平形状に捲回された電極体11を,電解液13とともに電池ケース12に封入してなるものである。本形態の電極体11は,扁平形状の捲回体である。そして,電極体11のうち図中の上下の箇所は,他の箇所に比較して曲率の小さいR部14となっている。そして,上下のR部14の内周部にはそれぞれ絶縁体21が挟み込まれている。
【0016】
絶縁体21は,図1に示すように,捲回軸方向について電極体11の両端部に達する幅で,電極体11の捲回の周方向についてR部14を覆う長さのものである。絶縁体21は,板状の部材をR部14の形状に沿って湾曲しU字形状となっている。なお,絶縁体21の幅は,電池ケース12に当たらない程度が好ましい。絶縁体21の長さ(電極体11の捲回の周方向の長さ)は,両側の2枚が互いに重ならない程度とすることが望ましい。絶縁体21の長さは,例えば,電極体11の最内周の長さの半分より小さいものとすることが望ましい。また,絶縁体21は,電極体11の扁平部分をあまり覆わないことが望ましい。
【0017】
電極体11のR部14は,図2にその一部を拡大して示すように,負極板31,正極板32,セパレータ33を有している。この図に示すのは,図1中に一点鎖線で囲って示した範囲Aの断面である。電極体11は,図1中で下方に示されているもう一つのR部14についても,上下を返したのみで同様の構成となっている。
【0018】
負極板31は,銅箔に負極活物質層を形成したものである。正極板32は,アルミ箔に正極活物質層を形成したものである。なお,本形態の電極体は,負極板31の方が正極板32より内周側まで捲回されているものである。セパレータ33は,実際には2枚ある。1枚は,負極板31の外周面と正極板32の内周面に接して配置され,他の1枚は正極板32の外周面と負極板31の内周面に接して配置されている。
【0019】
そして,電極体11の最も内周側には,その2枚のセパレータの一端部が重ねて巻き付けられている。本形態のセパレータ33は,PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)/PPの3層構成で,シャットダウン機能を有するものである。このセパレータ33は,温度上昇に伴い,ある程度収縮するものである。
【0020】
本形態の絶縁体21は,図2に示すように,負極板31のうち最内周の箇所とその外周側のセパレータ33との間に配置されている。本形態の絶縁体21は,熱可塑性を有する絶縁フィルムであり,150℃における収縮率が1.5%以下のものである。ここでの収縮率とは,絶縁体21を150℃で10分間放置した後の長さの,放置前の長さからの減少割合のことである。さらに,本形態の絶縁体21は,微小な穴がたくさん空いており,電解液13を透過させることができるものである。
【0021】
本形態の絶縁体21としては,例えば,PET(ポリエチレンテレフタレート),PEN(ポリエチレンナフタレート)等によるメッシュ材が適している。さらに,本形態の絶縁体21の厚みは,1〜15μmの範囲内が好ましい。また,電極体11の捲回の周方向についての,絶縁体21の長さは,例えば15〜25mmの範囲内が好ましい。
【0022】
この絶縁体21は,セパレータ33より熱収縮しにくい材質である。セパレータ33が収縮する状況であっても,絶縁体21の収縮程度はごく小さく,絶縁体21は,ほぼ元の幅を維持することができる。さらに,絶縁体21は,電極体11に挟み込まれているのみであり,セパレータ33に対して固定されているものではない。従って,セパレータ33に引っ張られて一緒に移動するということはない。従って,二次電池の温度が上昇しても,絶縁体21によって軸方向に全体のR部14を絶縁し続けることができる。
【0023】
本発明者は,この発明の効果を実験により確認した。この実験では,各種の電池を製造し,それぞれに対して過充電試験と抵抗測定とを行った。過充電試験は,二次電池を60℃の環境下で50A−30Vの定電流定電圧で連続充電し,充電開始から20分後の状態を観察することにより行った。評価は以下の通りとした。
異常の無かったものを○
異常が確認できたものを×
【0024】
抵抗については,本発明者が,各例の電池を25℃の環境下で120Aで10秒間放電させ,放電抵抗を測定することによって得た。抵抗は,比較例1のものを100とした指数で表した。なお,抵抗の指数が97以下のものは好ましくない。
【0025】
【表1】

【0026】
この実験に用いた絶縁体の材質や,評価試験の結果を上の表1に示した。この実験において,実施例1〜4で電極体のR部14に挿入した絶縁体の材質は,いずれも上記の表の通りである。実施例1はPETのメッシュ材,実施例2はPENのメッシュ材とした。また,実施例3は,イオン透過紙の紙セパレータを用いた。また,実施例4のアラミド不織布は,アラミド単体の不織布を用いた。
【0027】
上記の表中の数値等は以下の通りの意味である。
配置は,セパレータとは別に絶縁体をR部14に挿入したものを「R部挿入」,挿入しなかったものを「セパレータ」とした。当然,実施例は全て「R部挿入」である。一方,比較例には「R部挿入」と「セパレータ」との両方がある。
材質は,「R部挿入」したものでは挿入した絶縁体の材質であり,「セパレータ」ではセパレータの材質を示した。
厚みは,「R部挿入」したものでは挿入した絶縁体の厚みであり,「セパレータ」ではセパレータの厚みを示した。なお,比較例3の「6+20」は,6μm厚のセラミック耐熱層を20μmのセパレータに塗布したことを意味する。
収縮率は,各種の絶縁体を150℃で10分間放置し,放置前からの収縮量の割合を求めた。
【0028】
比較例1〜4は,R部14への絶縁体の挿入を行わなかったものである。
比較例1はPP/PE/PPの3層セパレータ,比較例4はPEの単層セパレータを用いた。
比較例2は,PEとアラミド繊維とを含む不織布をセパレータとして用いたものである。
比較例3のセパレータは,比較例1のセパレータの表面にセラミック耐熱層を設けたものである。
比較例5は,実施例1と同じ材質で,収縮率が本発明の範囲を超えて大きい絶縁体をR部14に挿入したものである。
比較例6は,実施例1と同じ材質で,厚みが本発明の範囲を超えて大きい絶縁体をR部14に挿入したものである。
【0029】
表1に示すように,実施例1〜4では,過充電試験の結果および抵抗値ともに適切な範囲内であった。これらの材質をR部14に挿入することにより,電池特性を維持しつつ熱収縮による短絡が防止できることが確認された。一方,比較例1〜5は,いずれも過充電試験の結果が良好ではなかった。PETメッシュを挿入しても,比較例5のように収縮率の大きいものでは充分な効果が得られないことが確認された。また,比較例6のように厚すぎるPETメッシュを挿入すると,電池の性能に悪影響が出ることが確認された。従って,絶縁体の厚みは,15μmまでとすることが望ましいことが確認できた。
【0030】
以上詳細に説明したように本形態の二次電池10によれば,電極体11のR部14のうち,最内周の正極板と最内周の負極板との間に,絶縁体21が挿入されている。従って,もし高温となってセパレータ33が収縮したとしても,R部14における絶縁性は維持される。つまり,内部の温度が上昇した場合においても,正極板と負極板との絶縁を確実に確保できる二次電池となっている。
【0031】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
絶縁体21の位置は,図3に示すように,最内周の負極板31の外周側のセパレータ33と最内周の正極板32の間に配置しても良い。また,絶縁体21は,片方のR部14につき1枚に限るものではない。最内周だけでなく,最内周から2周目や3周目の負極板31と正極板32との間等に設けても良い。
【符号の説明】
【0032】
10 二次電池
11 電極体
12 電池ケース
13 電解液
14 R部
21 絶縁体
31 負極板
32 正極板
33 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極との電極板を扁平な形状に捲回した捲回体と,電解液とを電池ケースに封入してなる捲回型二次電池において,
前記捲回体は,
扁平な箇所と扁平な箇所との間にR部が形成されており,
前記R部のうち,少なくとも捲回の最内周側から1つ目の電極板と2つ目の電極板との間の位置に配置され,前記電解液を透過させる絶縁体を有し,
前記絶縁体は,前記捲回体の捲回軸方向の幅全体に渡って配置されているものであることを特徴とする捲回型二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の捲回型二次電池において,
前記絶縁体は,150℃で10分間放置した場合の収縮率が1.5%以下のものであることを特徴とする捲回型二次電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の捲回型二次電池において,
前記絶縁体は,互いに重ならないように両側のR部にそれぞれ設けられていることを特徴とする捲回型二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−37984(P2013−37984A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174812(P2011−174812)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】