説明

排ガス浄化用触媒

【課題】低温条件下において十分に高度なNOx吸着性能を有し、しかも硫黄被毒後の触媒から硫黄成分を比較的低温で脱離させることが可能な排ガス浄化用触媒を提供すること。
【解決手段】Al、Zr及びCeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(A)と、Ag、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(B)と、Tiとを含有する担体、及び、該担体に担持されたAg、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子を備え、且つ、
前記担体が、前記担体の表面上の直径2nmの任意の複数の測定点をTEM−EDX分析した際に、全測定点の70%以上において、前記元素(B)の含有率が0.5〜10mol%であり且つ前記Tiの含有率が0.3mol%以上であるという条件を満たす前記Tiと前記元素(B)との複合部が確認されるものであることを特徴とする排ガス浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料消費率の低い希薄燃焼式(リーンバーン)エンジン等の内燃機関からの排ガスを浄化するために従来から様々な排ガス浄化用触媒の研究が進められてきた。このような排ガス浄化用触媒として担体に銀を備える触媒が知られている。例えば、特開平11−169708号公報(特許文献1)においては、Pt、Rh、Pd等の白金族金属から選ばれる少なくとも1種と、Ti、Zr、Fe、Ni、Ag、Zn、Snからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含む触媒が開示されている。また、特開平11−76839号公報(特許文献2)においては、アルミナに4.5質量%の銀と1.1質量%のチタニアとを含有させた触媒が開示されている。しかしながら、特許文献1〜2に記載のような従来の触媒においては、低温条件下におけるNOx吸着性能が必ずしも十分なものではなかった。また、特許文献2に記載のような従来の触媒においては、硫黄(S)成分に被毒された際に硫黄成分を触媒から脱離させることが困難であり、硫黄成分の脱離温度が比較的高温であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特特開平11−169708号公報
【特許文献2】特開平11−76839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低温条件下において十分に高度なNOx吸着性能を有し、しかも硫黄被毒後の触媒から硫黄成分を比較的低温で脱離させることが可能な排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、Al、Zr及びCeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(A)と、Ag、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(B)と、Tiとを含有する担体、及び、該担体に担持されたAg、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子を備え且つ前記担体が前記Tiと前記元素(B)とを含有する下記複合部を特定の割合で有することにより、低温条件下において十分に高度なNOx吸着性能を有し、しかも硫黄被毒後の触媒から硫黄成分を比較的低温で脱離させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒は、Al、Zr及びCeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(A)と、Ag、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(B)と、Tiとを含有する担体、及び、該担体に担持されたAg、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子を備え、且つ、
前記担体が、前記担体の表面上の直径2nmの任意の複数の測定点をTEM−EDX分析した際に、全測定点の70%以上において、前記元素(B)の含有率が0.5〜10mol%であり且つ前記Tiの含有率が0.3mol%以上であるという条件を満たす前記Tiと前記元素(B)との複合部が確認されるものであることを特徴とするものである。
【0007】
上記本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記TEM−EDX分析の際の前記測定点の数が15点以上であることが好ましい。
【0008】
上記本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記担体が、前記TEM−EDX分析により、全測定点の70%以上において、前記元素(B)の含有率が1〜7mol%であり且つTiの含有率が1〜50mol%であるという条件を満たす前記Tiと前記元素(B)との複合部が確認されるものであることが好ましい。
【0009】
また、上記本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記担体が、前記TEM−EDX分析により、全測定点の80%以上において前記複合部が確認されるものであることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記元素(B)と前記元素(C)がそれぞれAgであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温条件下において十分に高度なNOx吸着性能を有し、しかも硫黄被毒後の触媒から硫黄成分を比較的低温で脱離させることが可能な排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の担体表面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図2】実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の担体表面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】実施例2で得られた排ガス浄化用触媒の担体表面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】実施例2で得られた排ガス浄化用触媒の担体表面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図5】比較例3で得られた排ガス浄化用触媒の担体表面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図6】比較例4で得られた排ガス浄化用触媒の担体表面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図7】比較例4で得られた排ガス浄化用触媒の担体表面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
本発明の排ガス浄化用触媒は、Al、Zr及びCeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(A)と、Ag、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(B)と、Tiとを含有する担体、及び、該担体に担持されたAg、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子を備え、且つ、
前記担体が、前記担体の表面上の直径2nmの任意の複数の測定点をTEM−EDX分析した際に、全測定点の70%以上において、前記元素(B)の含有率が0.5〜10mol%であり且つ前記Tiの含有率が0.3mol%以上であるという条件を満たす前記Tiと前記元素(B)との複合部が確認されるものであることを特徴とするものである。
【0015】
本発明にかかる担体は、Al、Zr及びCeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(A)を含有する。このような担体中における前記元素(A)としては特に制限されないが、酸化物状態のものが好ましい。更に、このような担体においては、前記元素(A)を、アルミナ、ジルコニア、セリア又はこれらの複合酸化物からなる多孔質材料として含有することが好ましい。なお、このような多孔質材料は1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
さらに、このような元素(A)を含む前記多孔質材料としては、その形状は特に制限されないが、比表面積が向上し、より高い触媒活性が得られるという観点から、粉体状であることが好ましい。このような多孔質材料が粉体状のものである場合においては、前記多孔質材料の平均粒子径は特に制限されないが、0.1〜50μmであることが好ましく、1〜30μmであることがより好ましい。前記粒子径が前記下限未満では、多孔質材料の微細化にコストがかかるとともに、その扱いが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、後述するような基材にコート層を安定に形成させることが困難となる傾向にある。
【0017】
また、このような多孔質材料の比表面積は20m/g以上であることが好ましく、50〜300m/gであることが更に好ましい。このような比表面積が前記下限未満では、前記元素(C)からなる粒子を担持することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱劣化による比表面積低下が大きくなる傾向にある。なお、このような比表面積は吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0018】
このような多孔質材料の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、前記複合酸化物からなる多孔質材料を製造する場合には、2種類以上の元素(A)を含有する水溶液を用い、アンモニアの存在下で前記元素(A)の共沈殿物を生成せしめ、得られた共沈殿物を濾過、洗浄した後に乾燥し、更に焼成することによって多孔質材料を得る方法を採用することができる。また、このような元素(A)を含む多孔質材料としては特に制限されず、市販のものを用いてもよい。
【0019】
また、前記担体は、前記元素(A)の他に、Ag、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(B)とTiとを更に含有する。このような元素(B)としては、NO酸化能力の観点から、Ag、Mn、Coが好ましく、Agがより好ましい。
【0020】
また、このような担体においては、前記担体の表面上の直径2nmの任意の複数(好ましくは15点以上)の測定点をTEM−EDX分析した際に、全測定点の70%以上において、前記元素(B)の含有率が0.5〜10mol%であり且つ前記Tiの含有率が0.3mol%以上であるという条件を満たす前記Tiと前記元素(B)との複合部が確認される。このような複合部における前記元素(B)の含有率が前記下限未満では、NO吸着サイト数が少ないため、NOx吸着量が低下してしまい、他方、前記上限を超えると、元素(B)の分散性が低下するためNOx吸着能力が低下することやTiとの複合割合が低下するため被毒した硫黄(S)成分の脱離性(S脱離性)が低下する。また、前記複合部におけるTiの含有率が前記下限未満ではS脱離性向上の効果が不十分となる。また、このような複合部が確認される測定点の割合が全測定点の70%未満では、担体中における前記複合部の存在比率が低すぎて、低温温度域における十分に高度なNOx吸着性能が得られなくなる。
【0021】
このようなTEM−EDX分析の方法としては、以下のような方法を採用する。すなわち、先ず、TEM−EDX分析の測定装置を用いて、前記担体の表面上の任意の直径2nmの測定点の内部のエネルギー分散型の蛍光X線スペクトルを求める。次に、得られたエネルギー分散型の蛍光X線スペクトルから、前記元素(A)に由来するピークの面積と、前記元素(B)に由来するピークの面積と、Tiに由来するピークの面積を求め、これらのピーク面積の比(面積比)から、前記測定点内における各元素の含有率(mol%)を求める。なお、ここにいう「ピーク」とは、前記スペクトルのベースラインからピークトップまでの高さの強度差が1cps以上のものをいう。また、「ピーク面積」とは、ベースラインとピークとの間の面積をいい、市販のソフト(例えば、OriginLab社製の商品名「Origin」等)を利用して求めることができる。また、このようにして測定される各元素の含有比は、任意の複数(好ましくは15点以上)の測定点においてそれぞれ求める。また、前記TEM−EDX分析の測定装置としては、特に制限されず、従来公知の透過型電子顕微鏡(TEM)に、従来公知のエネルギー分散型X線分光器(EDX分析装置)を装備したTEM−EDX装置(例えば、日本電子社製の商品名「JEM−2010FES」等)を適宜用いることができる。
【0022】
なお、このような複合部は、直径2nmという微細な領域内において、前記元素(B)とTiとがそれぞれ上述の比率で混在している部位である。そのため、前記複合部においては、前記元素(B)とTiとが微細混合された状態(好ましくは、平均粒子径が1nm以下の前記元素(B)の粒子と平均粒子径が1nm以下のTiの粒子とが混合されている状態、より好ましくは前記元素(B)とTiと原子レベルで混合されている状態)で存在する。
【0023】
また、本発明にかかる担体としては、NOx吸着性能とS脱離性との両立という観点から、前記TEM−EDX分析により、全測定点の70%以上において、前記元素(B)の含有率が1〜7mol%であり且つTiの含有率が1〜50mol%であるという条件を満たす前記Tiと前記元素(B)との複合部が確認されることがより好ましい。
【0024】
さらに、前記担体が、前記TEM−EDX分析により、全測定点の80〜100%(更に好ましくは90〜100%)において前記複合部が確認されることがより好ましい。このように複合部が確認される測定点の割合が高くなることにより、より高度なNOx吸着性能と高いS被毒回復性が得られる傾向にある。
【0025】
さらに、このような担体においては、前記元素(A)を含む前記多孔質材料の表面近傍に前記元素(B)とTiとの複合部が形成されていることが好ましい。すなわち、前記担体としては、前記多孔質材料と、前記多孔質材料の表面近傍に形成された前記元素(B)及びTiの複合部とを備える担体が好ましい。なお、ここにいう表面近傍とは、特に制限されないが、担体の表面から、その表面に垂直な方向に向かう深さが50nm程度までの間の領域であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記担体に、Ag、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子が担持されている。
【0027】
このような粒子に含有される前記元素(C)としては、NO酸化能力の観点から、Ag、Mn、Coが好ましく、Agがより好ましい。また、このような元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子においては、粒子中に前記元素(C)以外の他の元素を実質的に含有しないこと(他の元素の含有量が10mol%以下であること)が好ましい。なお、元素(C)は1種を単独であるいは2種以上を混合したものであってもよい。
【0028】
また、このような元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子は直径が1nm超であることが好ましい。また、前記担体に担持された直径が1nm超の元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子の平均直径としては、2〜30nmであることが好ましく、5〜10nmであることがより好ましい。このような粒子の平均直径が前記下限未満では、NO酸化能力が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、NO酸化の活性サイトが低下する傾向にある。なお、このような粒子の平均直径はTEM観察により15個以上の直径が1nm超の前記粒子の直径を測定し、その平均値を算出することにより求められる。また、かかる直径は粒子の断面の最大直径を意味し、粒子の断面が円形でない場合には最大外接円の直径を言う。
【0029】
また、このような排ガス浄化用触媒中の元素(A)の含有率としては、酸化物換算で30〜95質量%であることが好ましく、50〜90質量%であることが好ましい。このような元素(A)の含有率が前記下限未満では、元素(B)及び元素(C)を分散させるための十分な比表面積が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、NOx吸着の活性成分となる元素(B)及び元素(C)の量が不十分となる傾向にある。
【0030】
さらに、前記排ガス浄化用触媒中の元素(B)及び(C)の合計の含有率としては、酸化物換算で5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。このような元素(B)及び(C)の合計の含有率が前記下限未満では、元素(B)からなるNOx吸着サイトの数が不十分となるとともに元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子が担体上に十分に形成されなくなり、十分な触媒活性が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、細孔閉塞等により比表面積が低下し、活性サイト数が減少する傾向にある。
【0031】
前記排ガス浄化用触媒中のTiの含有率としては、酸化物換算で1〜50質量%であることが好ましく、3〜30質量%であることが好ましい。このようなTiの含有率が前記下限未満では、上述のような条件を満たす複合部の存在比が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、比表面積の低下や耐熱性の低下により複合部の存在量が低下する原因となる傾向にある。
【0032】
また、このような本発明の排ガス浄化用触媒の形態は特に制限されず、ハニカム形状のモノリス触媒、ペレット形状のペレット触媒等の形態とすることができる。ここで用いられる基材も特に制限されず、得られる触媒の用途等に応じて適宜選択されるが、DPF基材、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等がより好適に採用される。また、このような基材の材料も特に制限されないが、コージェライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。さらに、このような基材を用いる場合における触媒の製造方法は特に制限されず、例えば、モノリス状基材に担体を担持せしめて担体の粉末からなるコート層を形成した後、前記コート層に前記金属粒子を担持せしめ、その後、前記コート層に前記第三の金属を担持せしめる方法や、あらかじめ前記金属粒子を担持せしめた担体を用い、これをモノリス状基材に担持せしめてコート層を形成した後、前記コート層に前記第三の金属を担持せしめる方法等を採用することができる。
【0033】
また、前記排ガス浄化用触媒を基材に担持する場合、基材容量1Lあたりの元素(A)の担持量としては、金属酸化物換算で50〜300g/Lであることが好ましく、100〜250g/Lであることが好ましい。このような担持量が前記下限未満では、十分な触媒活性が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、圧損上昇やコート層剥離の原因となる傾向にある。
【0034】
さらに、前記排ガス浄化用触媒を基材に担持する場合、基材容量1Lあたりの元素(B)及び(C)の合計の担持量が、金属換算で0.1〜1.0mol/Lであることが好ましく、0.2〜0.6mol/Lであることが好ましい。このような元素(B)及び(C)の合計の担持量が前記下限未満では、元素(B)からなるNOx吸着サイトの数が不十分となるとともに、元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子が担体上に十分に形成されず、十分な触媒活性が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、細孔閉塞等により比表面積が低下し、活性サイトが減少する傾向にある。
【0035】
さらに、前記排ガス浄化用触媒を基材に担持する場合、基材容量1LあたりのTiの担持量としては、金属換算で0.03〜3mol/Lであることが好ましく、0.1〜1mol/Lであることが好ましい。このようなTiの担持量が前記下限未満では、十分に前記複合部が形成されず、触媒活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、比表面積低下により複合部の存在量が低下する傾向にある。
【0036】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒によって、低温条件下(好ましくは200℃以下の温度条件下)においても十分に高度なNOx吸着性能を有し、しかも硫黄被毒後の触媒から硫黄成分を比較的低温で脱離させることが可能なものとなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明においては、担体に前述のような複合部が形成されている。このような複合部は、前記担体において直径2nmという微細な領域内において前記元素(B)とTiとがそれぞれ上述の比率で混在している部位である。このように、前記複合部においては、非常に微細な領域に前記元素(B)とTiとがそれぞれ上述の比率で混在していることが確認できることから、その領域においては少なくとも前記元素(B)とTiとが微細な状態(好ましくは各元素からなる粒子の平均粒子径が1nm以下のサイズで存在する状態、より好ましくは原子レベルで混合して存在する状態)で混合されている。このような複合部においては、前記元素(B)とTiとが微細に混合されていることから、NOxを吸着する際にNOxの吸着に有効な元素(B)が十分に高分散化され、高いNOx吸着量を発現することとなるものと推察される。そして、担体上の任意の複数(好ましくは15点以上)の測定点を測定した際に70%以上の測定点において複合部が確認される場合には、担体の表面上に十分に高い割合で上述のような複合部が形成されているものと考えられる。このように、前記複合部の存在率が高いことにより、高い分散性をもつNOx吸着に有効なサイトが表面上に多く存在することが可能となる。また、前記担体に担持された元素(C)からなる粒子により、NOがより吸着が容易なNOへと酸化され、その後、前記担体に形成されている複合部において硝酸塩や亜硝酸塩として吸着されるため、十分に高度なNOx吸着性能を発揮することができる。また、前記担体上の複合部により、NOxの吸着の阻害要因となる被毒硫黄の安定性を低下させることが可能となるため、本発明の排ガス浄化用触媒においては、比較的低温においてもSOxを十分な脱離速度で脱離させることが可能であると本発明者らは推察する。
【0037】
次に、本発明の排ガス浄化用触媒を製造する方法を説明する。このような排ガス浄化用触媒の製造方法としては、例えば、前記多孔質材料に前記Ag、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(i)の化合物を含有する溶液を接触させた後に焼成して、前記元素(i)が担持された担体(元素担持体)を得る第一工程と、前記元素担持体にTiと多座配位子とを含む錯体を含有する溶液を接触せしめた後に焼成し、前記多孔質材料の表面近傍においてTiと前記元素(i)との複合部を形成して触媒を得る第二工程とを含有する方法が挙げられる。なお、このようにして得られる触媒においては、第一工程において前記多孔質材料に担持された元素(i)のうちの一部が、前記第二工程において、Tiと複合部を形成し、これにより担体の一部を構成する成分(元素(B))となり、前記元素(i)のうちの残りの一部が、その担体に担持されている粒子(元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子)となる。すなわち、このような第一工程及び第二工程を含む方法を採用した場合には、第一工程において担持された元素(i)のうち、第二工程においてTiと複合部(複合体)を形成せずに、元素(i)の粒子として残ったもの(基本的に1nm超の直径を有する粒子)が担体に担持された元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子となる。従って、このような第一工程及び第二工程を含む方法を採用した場合には、Al、Zr及びCeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(A)と、Ag、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(B)と、Tiとを含有する担体、及び、該担体に担持されたAg、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子とを備える触媒を効率よく製造することができる。
【0038】
このような第一工程及び第二工程を含む方法においては、先ず、前記多孔質材料に前記Ag、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(i)の化合物を含有する溶液を接触させた後に焼成して、前記元素(i)が担持された担体(元素担持体)を得る(第一工程)。
【0039】
このような工程に用いる前記元素(i)は、前記元素(B)又は前記元素(C)と同様のものである。また、このような元素(i)の化合物としては、前記多孔質材料に元素(i)を担持することを可能とする化合物であればよく、特に制限されないが、前記元素(i)の塩(硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩等)、前記元素(i)の錯体(ジニトロジアンミン錯体等)、前記元素(i)の水酸化物を好適に使用できる。
【0040】
また、前記元素(i)の化合物を含有する溶液を作製するときに用いる溶媒としては、特に制限されないが、前記元素(i)をイオン状に溶解させることが可能な溶媒であることが好ましく、例えば、水等が挙げられる。また、前記溶液における前記元素(i)の化合物の濃度は、5mol/L以下であることが好ましく、0.3〜2mol/Lであることがより好ましい。前記濃度が前記上限を超えると、前記担体に均一に且つ微細な状態に分散させて元素(i)を担持することが困難となり、最終的に得られた担体に対して前記TEM−EDX分析を行った際に、前記複合部が確認される測定点の数が全測定点の70%未満となってしまう傾向にある。また、前記濃度が前記下限未満では、所定量の元素(i)を担持するために複数回の作業が必要となり、作業性が低下する傾向にあるとともに、複数回の担持時に再溶出、析出が起こり、分散性が低下するため、最終的に得られた担体に対して前記TEM−EDX分析を行った際に、前記複合部が確認される測定点の数が全測定点の70%未満となってしまう傾向にある。
【0041】
また、前記多孔質材料に前記溶液を接触させる方法としては、特に制限されず、前記溶液中に前記多孔質材料を浸して撹拌する方法など、前記溶液を前記多孔質材料に吸着担持させることが可能な公知の方法を適宜採用できる。また、前記多孔質材料に前記溶液を接触させる際には、得られる元素担持体中の元素(i)の担持量が5〜30質量%(より好ましくは10〜20質量%)となるようにして前記溶液を接触させることが好ましい。このような元素(i)の担持量が前記下限未満では、十分に複合部を形成することが困難となり、前記複合部が確認される測定点の数が全測定点の70%未満となってしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると、細孔閉塞等により、比表面積が低下し、活性サイト数が減少する原因となる傾向にある。
【0042】
さらに、前記溶液を多孔質材料に吸着させた後の焼成の条件としては、300〜700℃(より好ましくは400〜600℃)の温度条件で3〜10時間(より好ましくは4〜6時間)焼成することが好ましい。このような焼成温度及び時間が前記下限未満では担持塩が分解せず、十分な性能が発揮されない原因となり、他方、前記上限を超えると、熱劣化が進行し、元素(B)及び(C)の分散性低下の原因となる傾向にある。
【0043】
このような第一工程によれば、前記多孔質材料の表面上に微細な状態(より好ましくは1nm以下)の元素(i)のメタル又は酸化物状の粒子が十分に担持された元素担持体を得ることが可能となる。
【0044】
次に、前記第一工程により得られた元素担持体に、Tiと多座配位子とを含む錯体を含有する溶液を接触せしめ、焼成し、前記多孔質材料の表面近傍においてTiと前記元素(i)との複合部を形成して触媒を得る(第二工程)。
【0045】
このような錯体中の多座配位子は、2個以上の配位基でTiに配位し得るものをいう。このような多座配位子としては、クエン酸、シュウ酸等の多価カルボン酸から少なくとも1つの水素が脱離した残基、グリコール、ピナコール等のジオール類から少なくとも1つの水素が脱離した残基、エチレンジアミン等のジアミン類から少なくとも1つの水素が脱離した残基、アセト酢酸エチル等の2つのカルボニル基を有するエステル類から少なくとも1つの水素が脱離した残基等が挙げられる。このような多座配位子しては、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、アジピン酸、酒石酸、マロン酸、フマル酸、アコニット酸、グルタル酸、エチレンジアミン四酢酸、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、サリチル酸、メバロン酸、エチレンジアミン、アセト酢酸エチル、マロン酸エステル、グリコール及びピナコールのうちの少なくとも1種から少なくとも1つの水素が脱離した残基あることが好ましく、中でも、ヒドロキシ基を併せ持つカルボン酸であるという観点から、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、サリチル酸のうちの少なくとも1種から少なくとも1つの水素が脱離した残基であることがより好ましく、より微細化された粒子としてTiを担持でき、元素(i)とより効率よく微細複合化(ナノレベルで混合)できるという観点から、クエン酸、リンゴ酸のうちの少なくとも1種から少なくとも1つの水素が脱離した残基であることが特に好ましい。なお、このような多座配位子は、1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
また、このようなTiと多座配位子とを含む錯体(多座配位子が配位したTi錯体)の調製方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、チタンイソプロポキシド等のチタンの化合物(市販のものであってもよい)を、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の多座配位子の原料を含有する水溶液中に添加し、溶解させることによりTiと多座配位子とを含む錯体を得る方法を採用してもよい。このような錯体を得るための反応条件等は特に制限されず、用いた多座配位子の原料の種類等に応じて好適な温度等に適宜変更することができる。
【0047】
さらに、前記錯体を含有する溶液に用いる溶媒は、水(より好ましくはイオン交換水及び蒸留水等の純水)であることが好ましい。また、前記錯体を含有する溶液における前記錯体の濃度は0.1〜3mol/Lであることが好ましく、0.3〜2mol/Lであることがより好ましい。前記濃度が前記上限を超えると、溶液の粘性が増加し、分散性よく多孔質担体上に担持させることが困難となる傾向にある。また、前記濃度が前記下限未満では、所定量の担持量を得るための担持回数が増加し、作業性が低下する傾向にある。このような錯体を含有する溶液を用いることで、より効率よく、前記TEM−EDX分析により、全測定点の70%以上において、前記元素(B)の含有率が0.5〜10mol%であり且つ前記Tiの含有率が0.3mol%以上であるという条件を満たす前記Tiと前記元素(B)との複合部を形成することが可能となる。
【0048】
また、前記元素担持体に前記錯体を含有する溶液を接触させる方法としては、特に制限されず、前記溶液中に前記元素担持体を浸して撹拌する方法など、前記溶液を前記元素担持体に吸着担持させることが可能な公知の方法を適宜採用できる。また、このようにして前記錯体を含有する溶液を接触させる際には、得られる触媒中のTiの担持量が1〜50質量%(より好ましくは3〜30質量%)となるようにして前記溶液を前記元素担持体に接触させることが好ましい。このようなTiの担持量が前記下限未満では、元素(B)とTiとの複合部が減少し、高いS脱離性を有するNOx吸着サイト数が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、比表面積低下や耐熱性低下により元素(B)との複合物の存在量が低下する傾向にある。
【0049】
また、前記溶液を元素担持体に接触させた後の焼成の条件としては、前述のような割合で前記複合部をより確実に形成せしめるという観点から、300〜700℃(より好ましくは400〜600℃)の温度条件で3〜10時間(より好ましくは4〜6時間)焼成することが好ましい。このような焼成温度及び時間が前記下限未満では担持塩が分解せず、十分な性能が発揮されない原因となり、他方、前記上限を超えると、熱劣化による比表面積低下等により、元素(B)との複合部の存在量が低下する傾向にある。
【0050】
なお、このような第一工程及び第二工程により、担体の表面上の直径2nmの任意の複数(好ましくは15点以上)の全測定点のうちの70%以上において、前記複合部を形成することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。先ず、第一工程において、多孔質担体に対して5wt%以上の担持量の元素(i)を担持させることにより、表面上に十分な量の元素(i)を存在させることが可能となるため、かかる工程により得られる前記元素担持体中の元素(i)は、非常に高度に分散された状態で前記多孔質材料に担持される。そして、このように元素(i)が高度に分散された状態にある前記元素担持体に、前記Tiと多座配位子とを含む錯体を含有する溶液を接触せしめて前記錯体が元素担持体に担持されると、各錯体中の核(Ti)は配位子の存在によりそれぞれ離間した状態で元素担持体上に配置される。すなわち、多座配位子の存在により、元素担持体表面上に各錯体の核(Ti)が島状に分散されて配置された状態が形成される。次いで、このような錯体を担持した元素担持体を焼成すると、元素担持体と錯体との結合の熱安定性が高いため、錯体の核にある原子(Ti原子)の凝集が十分に防止されながら配位子が除去されていくため、Tiは十分に分散された状態を維持しながら原子状態で元素担持体に担持される。一方、元素担持体においては前記元素(i)が十分に高度に分散されて担持されているため、前記元素担持体の表面においては、前記焼成工程により、元素(i)とTiとが十分に分散された状態を維持したまま複合化される。そのため、上記第一工程及び第二工程を含有する方法によれば、効率よく、表面上の直径2nmの任意の複数(好ましくは15点以上)の測定点をTEM−EDX分析した際に、全測定点の70%以上において、前記元素(B)の含有率が0.5〜10mol%であり且つ前記Tiの含有率が0.3mol%以上であるという条件を満たす前記Tiと前記元素(B)との複合部が確認される担体を形成することができるものと本発明者らは推察する。また、このような方法においては、第二工程で採用する焼成過程において、元素担持体中の一部の元素(i)の粒子が凝集し、前記元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子(好ましくは平均直径が1nm超の粒子)が形成され、これにより、効率よく本発明の排ガス浄化用触媒を製造できるものと推察する。なお、このような第一工程及び第二工程を含む方法においては、多孔質材料の表面に元素(i)の化合物や錯体を担持した後に焼成して多孔質材料の表面上に元素(i)とTiとの複合部が形成されるため、かかる複合部は担体の表面近傍(好ましくは、担体の表面から、その表面に垂直な方向に向かう深さが50nm程度までの間の領域)に形成される。
【0051】
また、前記第一工程及び第二工程を含む方法においては、より確実に前記担体に元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子を担持するという観点から、前記第二工程を実施した後に、前記担体に、元素(C)の化合物を含有する溶液を接触させて焼成し、該担体に元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子を担持する工程を実施してもよい。
【0052】
また、本発明の排ガス浄化用触媒を製造するための方法としては、上述の第一工程及び第二工程を含む方法以外にも、以下のような方法を採用することができる。すなわち、前述の第一工程と同様にして元素担持体を得た後、前記元素担持体に対して、前記元素(i)の化合物及び前記Tiと多座配位子とを含む錯体を含有する複合溶液を接触せしめ、焼成することにより排ガス浄化用触媒を得る方法を採用してもよい。
【0053】
また、このような複合溶液を用いる方法においては、前述の第一工程と同様にして得られる元素担持体中の元素(i)の担持量は5〜30質量%とすることが好ましく、10〜20質量%とすることがより好ましい。このような担持量が前記下限未満では、得られる触媒中における前記元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子の含有比が低くなって、十分な触媒活性が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、細孔閉塞等により比表面積が低下し、元素(B)及び(C)からなる活性サイト数が減少する傾向にある。
【0054】
このような複合溶液の溶媒としては、前述の元素(i)の化合物を含有する溶液の溶媒と同様のものを用いることができる。また、このような複合溶液中に含有させる前記元素(i)の化合物としては、配位子の存在により十分に分散された状態で元素(i)を担持でき、より効率よく前記複合部を形成させることができるという観点から、前記元素(i)の錯体(カルボン酸錯体など)を用いることが好ましい。
【0055】
また、前記複合溶液中の前記元素(i)の化合物の含有量が0.1〜3mol/L(より好ましくは0.3〜2mol/L)であることが好ましい。このような元素(i)の化合物の含有量が前記下限未満では、所定量の元素(i)を担持するための工程が複数回となり、作業性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、溶液の粘性増により均一に担持させることが困難となる傾向にある。
【0056】
さらに、このような複合溶液中の前記Tiと多座配位子とを含む錯体の含有量が0.1〜3mol/L(より好ましくは0.3〜2mol/L)であることが好ましく、前記Tiと多座配位子とを含む錯体と元素(i)との比率(モル比)が1:3〜3:1であることが好ましい。このような錯体の含有量が前記下限未満では、元素(B)との複合化に対して十分な効果が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、元素(i)に対して過剰なTiが存在することとなるため、複合部形成面で不要なTiが増加する傾向にある。
【0057】
また、このような複合溶液を用いる方法における焼成条件は、前記第二工程において採用されている焼成条件と同様の条件を採用できる。
【0058】
上述のようにして得られる本発明の排ガス浄化用触媒は、自動車の内燃機関からの排ガスを浄化するための触媒等として特に有用である。また、このような排ガス浄化用触媒は、他の触媒と組み合わせて用いてもよい。このような他の触媒としては特に制限されず、公知の触媒を適宜用いることができるが、いわゆるNOx吸蔵還元型触媒(例えばNH−SCR触媒など)を用いることが好ましい。また、このように他の触媒と組み合わせて用いる場合においては、本発明の排ガス浄化用触媒に排ガスを接触させた後に前記他の触媒に排ガスが接触するように、ガス流路の上流側に本発明の排ガス浄化用触媒を配置し、その下流側に前記他の触媒を配置することが好ましい。このようにして本発明の排ガス浄化用触媒と前記他の触媒とを組み合わせて用いることにより、排ガスが低温(200℃以下程度)である場合においても上流側の本発明の排ガス浄化用触媒によりNOxを吸着除去し、高温時に主に下流側の前記他の触媒によりNOxを浄化することが可能となり、NOxをより高度な水準で浄化することが可能となる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(調製例1)
直径30mm、長さ50mmLの六角セルコージェライトモノリス基材(セル密度:400cell/inch)に対して、ウォッシュコート法を利用して、アルミナ粉末(平均粒子径22μm、WRグレース社製の商品名「M1386」)を、前記モノリス基材1Lあたりのコート量が200g/Lとなるようにしてコートし、触媒前駆体(A)を調製した。
【0061】
(調製例2)
直径30mm、長さ50mmLの六角セルコージェライトモノリス基材(セル密度:400cell/inch)に対して、ウォッシュコート法を利用して、シリカ粉末(平均粒子径12nm、日本アエロジル社製の商品名「AEROSIL 200」)を、前記モノリス基材1Lあたりのコート量が200g/Lとなるようにしてコートし、触媒前駆体(B)を調製した。
【0062】
(調製例3)
直径30mm、長さ50mmLの六角セルコージェライトモノリス基材(セル密度:400cell/inch)に対して、ウォッシュコート法を利用して、アルミナ粉末(平均粒子径22μm、WRグレース社製の商品名「MI386」)とチタニア(TiO)ゾル(ゾル中のチタニア粒子の平均粒子径10nm、多木化学社製の商品名「タイノック」)とを、それぞれ前記アルミナのコート量が前記モノリス基材1Lあたり200g/Lとなり且つ前記TiOのコート量が前記モノリス基材1Lあたりの金属(Ti)換算による担持量で0.1mol/Lとなるようにしてコートし、触媒前駆体(C)を調製した。
【0063】
(調製例4)
直径30mm、長さ50mmLの六角セルコージェライトモノリス基材(セル密度:400cell/inch)に対して、ウォッシュコート法を利用して、硝酸セリウムと硝酸アルミニウムを用いて共沈法により調製したセリア−アルミナ粉末(平均粒子径20μm、Ce:Al(金属換算によるモル比)が1:20)120g、四塩化チタンとオキソ硝酸ジルコニアを用いて共沈法により調製したチタニア−ジルコニア複合酸化物粉末(平均粒子径20μm、Ti:Zr(金属換算によるモル比)が1:1.5)100g及びロジウム0.5gを担持したジルコニア粉末(平均粒子径2μm、第一稀元素社製の商品名「RC−100」)50gを含む混合粉末を、前記モノリス基材1Lあたりのコート量が270g/Lとなるようにしてコートし、触媒前駆体(D)を調製した。
【0064】
(調製例5)
調製例1で得られた触媒前駆体(A)に硝酸銀水溶液を、前記モノリス基材1LあたりのAgの担持量が0.1mol/Lとなるようにして、吸着担持させた後、大気中、550℃の温度条件で5時間焼成して、触媒前駆体(E)を調製した。
【0065】
(調製例6)
調製例1で得られた触媒前駆体(A)に硝酸パラジウム水溶液を、前記モノリス基材1LあたりのPdの担持量が2g/Lとなるようにして、吸着担持させた後、大気中、300℃の温度条件で3時間焼成して、NOx吸蔵還元型触媒を調製した。
【0066】
(実施例1)
先ず、調製例1で得られた触媒前駆体(A)に対して、前記モノリス基材1Lあたりの銀(Ag)の担持量が0.4mol/Lとなるようにして、硝酸銀水溶液を吸着担持させた後、大気中、550℃の温度条件で5時間焼成して、触媒前駆体(A)中のアルミナにAgが担持されたAg担持体を得た。
【0067】
次に、クエン酸1.5molをイオン交換水450mLに溶解させて、クエン酸溶液を製造した。そして、前記クエン酸溶液を75℃に加熱し温度を75℃に保持した。次いで、前記温度のクエン酸溶液中にチタンイソプロポキシド0.3molを加えて溶解させて5時間反応させた後、室温(25℃)まで冷却して、チタンクエン酸錯体水溶液(錯体の濃度:0.64mol/L)を調製した。
【0068】
次いで、前記Ag担持体に対して前記チタンクエン酸錯体水溶液を、前記モノリス基材1LあたりTi担持量が0.27mol/Lとなるようにして吸水含浸させて担持し、大気中、550℃の温度条件で5時間焼成することにより、排ガス浄化用触媒を得た。
【0069】
(実施例2)
先ず、リンゴ酸3.3mol(442g)を、イオン交換水374mLと28質量%NH水溶液445mLの混合液中に溶解し、リンゴ酸溶液を得た。次に、前記リンゴ酸溶液を75℃に加熱し、温度を75℃に保持した。次いで、前記リンゴ酸溶液にチタンイソプロポキシド1.0mol(299g)を加えて溶解し、5時間反応させた後、室温(25℃)まで冷却して、チタンリンゴ酸錯体水溶液(0.9mol/L)を調製した。次に、前記チタンリンゴ酸錯体水溶液に、酢酸銀1.0mol(167g)を添加した後、溶液のpHが8.5になるようにして28質量%NH水溶液を更に添加し、酢酸銀とチタンリンゴ酸錯体との複合水溶液を調製した。
【0070】
次いで、調製例5で得られた触媒前駆体(E)に対して前記複合水溶液を、前記モノリス基材1LあたりのAg及びTiの担持量が金属換算でそれぞれ0.1mol/Lとなるようにして吸水含浸させて担持し、大気中、550℃の温度条件で5時間焼成することにより、排ガス浄化用触媒を得た。
【0071】
(比較例1)
調製例1で得られた触媒前駆体(A)に硝酸銀水溶液を、前記モノリス基材1LあたりのAgの担持量が0.4mol/Lとなるようにして吸着担持させた後、大気中、550℃の温度条件で5時間焼成して、比較のための触媒を調製した。
【0072】
(比較例2)
調製例1で得られた触媒前駆体(A)に硝酸銀水溶液を、前記モノリス基材1LあたりのAgの担持量が0.2mol/Lとなるようにして吸着担持させた後、大気中、550℃の温度条件で5時間焼成して、比較のための触媒を調製した。
【0073】
(比較例3)
調製例2で得られた触媒前駆体(B)に硝酸銀水溶液を、前記モノリス基材1LあたりのAgの担持量が0.2mol/Lとなるようにして吸着担持させた後、大気中、550℃の温度条件で5時間焼成して、比較のための触媒を調製した。
【0074】
(比較例4)
調製例3で得られた触媒前駆体(C)に硝酸銀水溶液を、前記モノリス基材1LあたりのAgの担持量が0.2mol/Lとなるようにして吸着担持させた後、大気中、550℃の温度条件で5時間焼成して、比較のための触媒を調製した。
【0075】
(比較例5)
調製例4で得られた触媒前駆体(D)にジニトロジアンミンPt硝酸溶液を、前記モノリス基材1LあたりのPtの担持量が2g/Lとなるようにして吸着担持させた後、大気中、300℃の温度条件で3時間焼成して、Pt担持触媒を調製した。
【0076】
次いで、前記Pt担持触媒に対して、Ba、K、およびLiの酢酸塩水溶液を用いて、触媒1Lあたり各金属元素の担持量がそれぞれBa:0.1mol/L、K:0.1mol/L、Li:0.2mol/Lとなるようにして吸水含浸させて担持し、大気中、300℃の温度条件で3時間焼成することにより、比較のための触媒を調製した。
【0077】
(実施例3)
上流側に実施例1で得られた排ガス浄化用触媒を配置し、その下流側に調整例6で得られたNOx吸蔵還元型触媒を配置して、2つの触媒を組み合わせてなる排ガス浄化用触媒を得た。
【0078】
(比較例6)
調製例1で得られた触媒前駆体(A)にジニトロジアンミンPt硝酸溶液を、担体1LあたりのPtの担持量が2g/Lとなるようにして吸着担持させた後、大気中、300℃の温度条件で3時間焼成して、Pt担持触媒を調製した。次いで、前記Pt担持触媒に対して、Ba、K、およびLiの酢酸塩水溶液を用いて、触媒1Lあたり各金属元素の担持量がそれぞれBa:0.2mol/L、K:0.15mol/L、Li:0.1mol/Lとなるようにして吸水含浸させて担持し、大気中、300℃の温度条件で3時間焼成することにより、NOx吸蔵還元型触媒を調製した。
【0079】
なお、実施例1〜2及び比較例1〜6で得られた触媒の組成を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
[実施例1〜3及び比較例1〜6で得られた触媒の性能評価]
<TEM−EDX分析>
実施例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒並びに比較例3〜4で得られた触媒に対して、前述の方法により、TEM−EDX分析を行った。なお、このようなTEM−EDX分析には、日本電子製の商品名「JEM−2010FEF」を測定装置として用いた。また、各触媒の担体上の15箇所以上の測定点を測定して分析した。なお、EDX分析に際しては、担体の表面において1nm超の粒子径を有するAg粒子が確認されなかった箇所を測定した。
【0082】
このような測定の際に得られた透過型電子顕微鏡(TEM)写真を、図1〜2(実施例1)、図3〜4(実施例2)、図5(比較例3)及び図6〜7(比較例4)に示す。なお、図1〜7中の丸印(○)は、EDX分析の際の測定点である。また、このようなTEM−EDX分析の結果として、Agの含有率が0.5〜10mol%であり且つTiの含有率が0.3mol%以上であるという条件を満たす複合部が確認される測定点の割合を表2に示す。また、各測定点におけるAg及びTiの含有率の平均値を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2に示す結果からも明らかなように、実施例1及び2で得られた排ガス浄化用触媒においては、アルミナの表面上に前記複合部が全測定点の70%以上の割合で存在することが確認された。このように、実施例1及び2で得られた本発明の排ガス浄化用触媒においては、直径が1nm超のAg粒子が担持されている部位以外の担体の表面近傍にAgとTiがnmオーダー以下の微細レベルで複合化して存在する前記複合部が上記割合で存在することが確認された。また、図1〜4に示すTEM写真から、実施例1及び2で得られた排ガス浄化用触媒においては、1nm超の粒子径を有するAg粒子の存在が確認された。これに対して、比較例3で得られた触媒においてはAg粒子のみが確認された。また、比較例4で得られた触媒においてはアルミナ上に複合部が形成されている箇所も存在していたが、前記複合部の存在比率が全測定点の43%未満であることが確認された。
【0085】
<耐久試験>
実施例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒並びに比較例1、2、4及び5で得られた比較のための触媒をそれぞれ用い、以下に示すような耐久試験を行った。すなわち、各触媒に対して、温度:750℃、流量:11L/分の条件で、下記表3に示すリーンガス及びリッチガスをリーン/リッチ=110秒/10秒の間隔で変動させながら5時間接触させる処理を行った。なお、表3中のTHCはCを示す。
【0086】
【表3】

【0087】
<硫黄(S)被毒試験>
上記耐久試験後の実施例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒並びに上記耐久試験後の比較例1、2、4及び5で得られた比較のための触媒をそれぞれ用い、以下に示す硫黄被毒脱離試験を行った。すなわち、先ず、各触媒に、触媒の容量2Lあたり硫黄(S)の担持量が3gとなる割合でSOをそれぞれ流通させることにより、硫黄を担持した。次に、硫黄担持後の各触媒に対して、それぞれ、流量:30L/分の条件で、O(0.1容量%)、CO(10容量%)、C(0.2容量%(C換算)、HO(5容量%)及びN(残部)の組成のリッチガスを、ガス温度を初期温度150℃から昇温速度20℃/分の条件で650℃まで上昇させながら接触させて、各触媒に接触した後のガス中のSOx(SO及びSO)の濃度を測定することにより、硫黄脱離温度(脱離した硫黄の濃度が極大となる温度)を求めた。結果を表5に示す。
【0088】
<触媒活性の評価試験>
上記硫黄被毒試験後の実施例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒、上記硫黄被毒試験後の比較例1、2、4及び5で得られた比較のための触媒、初期状態の比較例3で得られた触媒をそれぞれ用い、以下に示す触媒活性の評価試験を行った。すなわち、先ず、各触媒に対して、表4に示す前処理用のガスを温度400℃、流量:30L/分の条件で5分間接触させる前処理をそれぞれ行った。次に、前記前処理後の各触媒に対して、表4に示す試験用のガスを、温度150℃、流量:30L/分の条件で10分間接触させて、触媒1LあたりのNOx吸着量を測定した。なお、NOx吸着量は触媒通過前後のNOx濃度の差分より算出した。結果を表5に示す。
【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
表5に示す結果からも明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1〜2)においては、比較のための触媒(比較例1〜5)と比較して、NOx吸着量が非常に高い値となっており、150℃という低温条件下においても十分に高度なNOx除去性能が得られることが確認された。また、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1〜2)においては、硫黄脱離温度が十分に低い温度となっていることが確認された。
【0092】
<NOx浄化活性試験>
実施例3で得られた排ガス浄化用の触媒及び比較例6で得られたNOx吸蔵還元型触媒をそれぞれ用い、以下に示すNOx浄化活性試験を行った。すなわち、先ず、各触媒に対して、温度:200℃、流量:15L/分の条件で、下記表6に示すリーンガス及びリッチガスをリーン/リッチ=60秒/6秒の間隔で変動させながら接触させて、定常状態となった後において、触媒に接触前のリッチガス中のNOx(NO及びNO)の量と触媒に接触した後のガス中のNOxの量とを測定し、触媒により除去されたNOxの割合(NOx浄化率)を求めた。結果を表7に示す。
【0093】
【表6】

【0094】
【表7】

【0095】
表7に示す結果からも明らかなように、実施例1で得られた本発明の排ガス浄化用触媒を組み合わせて用いた場合(実施例3)においては、比較例6で得られたNOx吸蔵還元型触媒と比べて、十分に高いNOx浄化性能を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明したように、本発明によれば、低温条件下において十分に高度なNOx吸着性能を有し、しかも硫黄被毒後の触媒から硫黄成分を比較的低温で脱離させることが可能な排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。このような本発明の排ガス浄化用触媒は、自動車の内燃機関からの排ガスを浄化する際に用いる触媒等として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al、Zr及びCeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(A)と、Ag、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(B)と、Tiとを含有する担体、及び、該担体に担持されたAg、Mn、Co、Cu及びFeからなる群から選択される少なくとも1種の元素(C)のメタル又は酸化物からなる粒子を備え、且つ、
前記担体が、前記担体の表面上の直径2nmの任意の複数の測定点をTEM−EDX分析した際に、全測定点の70%以上において、前記元素(B)の含有率が0.5〜10mol%であり且つ前記Tiの含有率が0.3mol%以上であるという条件を満たす前記Tiと前記元素(B)との複合部が確認されるものであることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記TEM−EDX分析の際の前記測定点の数が15点以上であることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記担体が、前記TEM−EDX分析により、全測定点の70%以上において、前記元素(B)の含有率が1〜7mol%であり且つTiの含有率が1〜50mol%であるという条件を満たす前記Tiと前記元素(B)との複合部が確認されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記担体が、前記TEM−EDX分析により、全測定点の80%以上において前記複合部が確認されるものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記元素(B)と前記元素(C)がそれぞれAgであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−519(P2011−519A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144252(P2009−144252)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】