説明

排ガス浄化触媒および排ガス浄化フィルタおよび排ガス浄化装置

【課題】ディーゼル排ガスを浄化する方法において、DPF前段に配置されたヒータの消費電力を下げるために、PMを600℃よりも低温で燃焼させることができる排ガス浄化触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒という構成にしたことにより、アルミノ珪酸塩中のアルカリ金属がPM2燃焼に対して高い活性を有するため、PM2を600℃よりも低温で燃焼させることができるようになり、排ガス浄化フィルタ7の前段に配置されたヒータ8の消費電力を下げることができるという効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排ガスに含まれるPMを燃焼するための排ガス浄化触媒および排ガス浄化フィルタおよび排ガス浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排ガスへの規制が年々厳しくなり、排ガス中の粒子状物質(以下PMと記す)排出量の規制をクリアするにはディーゼルパティキュレートフィルタ(以下DPFと記す)の搭載が必須になる。このDPFを用いたディーゼル排ガス浄化方法は、DPFにPMが堆積するにつれて圧力損失が高くなり、エンジン出力を低下させてしまうことにつながるため、堆積したPMを燃焼除去する必要がある。
【0003】
従来、この種のPM燃焼方法は、ヒータ等の加熱手段によりPMが燃焼する温度以上に加熱することにより燃焼する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
以下、そのPM燃焼方法について図3を参照しながら説明する。
【0005】
図3に示すように、DPF101の前段に空気を加熱するためのヒータ102が配置されている。このヒータ102の作用によってPM103は加熱されて燃焼除去されるのだが、このDPF101にはPM103をより低温で燃焼させるための触媒が担持されていないため、600℃以上に加熱しなくてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−72609号公報(第4頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来のPM燃焼方法においては、空気を600℃以上に加熱しなくてはならないので、DPF前段に配置されたヒータの消費電力が大きくなるという課題を有していた。
【0008】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、DPF前段に配置されたヒータの消費電力を下げるために、PMを600℃よりも低温で燃焼させることができる排ガス浄化触媒および排ガス浄化フィルタおよび排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、この目的を達成するために、本発明は、アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒としたものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒という構成にしたことにより、アルミノ珪酸塩中のアルカリ金属がPM燃焼に対して高い活性を有するため、PMを600℃よりも低温で燃焼させることができるようになり、DPF前段に配置されたヒータの消費電力を下げることができるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明実施の形態1に記載のポルサイトとCuVとの混合粉末によるPM燃焼メカニズムを説明する概念図
【図2】本発明実施の形態2に記載の排ガス浄化装置の概念図
【図3】従来のPM燃焼方法を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明請求項1に記載の排ガス浄化触媒は、アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒である。これにより、アルミノ珪酸塩中のアルカリ金属がPM燃焼に対して高い活性を有するため、PMを600℃よりも低温で燃焼させることができるようになり、DPF前段に配置されたヒータの消費電力を下げることができるという効果を奏する。
【0013】
アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩とは、アルカリ金属元素が結晶構造の少なくとも一部を構成している状態のアルミノ珪酸塩を示す。アルカリ金属元素が結晶構造の一部を構成することにより、アルカリ金属元素が固定化されるため、移動や飛散することによる性能の低下を防ぐことができる。
【0014】
本発明請求項2に記載の排ガス浄化触媒は、アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩と、銅とバナジウムとの複合酸化物とを、含むことを特徴とする排ガス浄化触媒である。これにより、銅とバナジウムとの複合酸化物が酸素を供給する役割を果たし、アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩のPM燃焼性能を促進させるという効果を奏する。
【0015】
本発明請求項3に記載の排ガス浄化触媒は、アルカリ金属元素が少なくともセシウム元素を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒である。アルカリ金属元素の中ではセシウムがPMに対する燃焼活性が最も高いので、より低温でPMを燃焼させることができるという効果を奏する。
【0016】
本発明請求項4に記載の排ガス浄化触媒は、アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩がポルサイトであることを特徴とする排ガス浄化触媒である。ポルサイトはその結晶構造中にセシウム元素を含むため、PMに対する燃焼活性が高く、より低温でPMを燃焼させることができるという効果を奏する。
【0017】
ここに示すポルサイトとは、天然に存在する鉱石であり、産出した鉱石を粉砕して触媒として用いることができるが、合成したポルサイトであっても構わない。
【0018】
また、ポルサイトはセシウム元素が結晶構造の一部を構成しているため、セシウム元素が固定化され、移動や飛散することによる性能の低下を防ぐことができる。
【0019】
本発明請求項5に記載の排ガス浄化触媒は、銅とバナジウムとの複合酸化物がCuVであることを特徴とする排ガス浄化触媒である。CuVは銅とバナジウムとの複合酸化物のなかで最も安定な構造であるため、構造変化して、酸素供給能力が低下していくことを防ぐことができるという効果を奏する。
【0020】
本発明請求項6に記載の排ガス浄化触媒は、アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩と、銅とバナジウムとの複合酸化物とを、乾式または湿式で混合することにより調製されることを特徴とする排ガス浄化触媒である。これにより、アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩と、銅とバナジウムとの複合酸化物とが、均一に分散されるので、銅とバナジウムとの複合酸化物が酸素を供給する役割を果たし、アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩のPM燃焼性能を促進させるという効果を奏する。
【0021】
本発明請求項7に記載の排ガス浄化触媒は、触媒と排ガス中のPMとが接触することにより、PMを燃焼することを特徴とする排ガス浄化触媒である。触媒とPMとが直接接触し、排ガス中の酸素によりPMを酸化させることができるので、排ガス中の窒素酸化物(以下NOxと記す)の酸化作用を利用してPMを酸化燃焼させる貴金属系の触媒とは異なり、NOxのない雰囲気中でもPMを燃焼させることができるという効果を奏する。
【0022】
本発明請求項8に記載の排ガス浄化フィルタは、上記の排ガス浄化触媒を、セラミックまたは金属の基材上に担持した排ガス浄化フィルタである。これにより、排ガス中のPMを捕集すると同時にPMが排ガス浄化触媒と接触するので、排ガス浄化触媒の作用により600℃よりも低い温度でPMを燃焼除去させることができるという効果を奏する。
【0023】
また、フィルタの材質としては、排ガス温度が600℃を超える場合もあるので、セラミックや金属など、耐熱性を有する材質が好ましい。さらに耐腐食性なども考慮すると、セラミックとしてはコージェライトや炭化珪素、金属としてはステンレスを用いるのがさらに好ましい。
【0024】
本発明請求項9に記載の排ガス浄化装置は、上記の排ガス浄化フィルタと、その排ガス浄化フィルタを加熱する手段とを、備えた排ガス浄化装置である。これにより、排ガス浄化フィルタに捕集されたPMは排ガス浄化触媒と接触し、排ガス浄化触媒の作用により600℃よりも低い温度でPMを燃焼除去させることができるので、排ガス浄化フィルタを加熱するための消費電力を小さくすることができるという効果を奏する。
【0025】
また、排ガス浄化フィルタを加熱する手段としては、排ガス浄化フィルタの前段にヒータを設けて空気やフィルタを加熱しても良く、金属のフィルタを高周波誘導加熱や通電などの方法で直接加熱しても良い。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
(実施の形態1)
イオン交換水78.0gに、結晶構造中にセシウムを含むアルミノ珪酸塩としてのポルサイトと、銅とバナジウムとの複合酸化物としてのCuVとを加え、1時間攪拌混合した。得られたスラリーを乾燥した後、焼成することにより、ポルサイトとCuVとの混合粉末を得た。
【0028】
次に、ポルサイトとCuVとの混合粉末がPMを燃焼するメカニズムについて図1を参照しながら説明する。
【0029】
ポルサイト1と接触したPM2は、ポルサイト1に含まれるセシウム3の作用によって雰囲気中の酸素分子4と反応し、酸化燃焼される。また、近接するCuV5からも酸素が供給され、ポルサイト1のPM燃焼性能を促進させることができる。
【0030】
以上のように、アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒という構成にしたことにより、アルミノ珪酸塩中のアルカリ金属がPM燃焼に対して高い活性を有するため、PMを600℃よりも低温で燃焼させることができるようになり、DPF前段に配置されたヒータの消費電力を下げることができるという効果を得ることができる。
【0031】
さらに、ポルサイト1はセシウム3が結晶構造の一部を構成しているため、セシウム3が固定化され、移動や飛散することによる性能の低下を防ぐことができる。
【0032】
(実施の形態2)
図2に示すように、本発明に記載の排ガス浄化装置は、フィルタケース6の中に、排ガス浄化触媒が担持された炭化珪素の排ガス浄化フィルタ7と、排ガス浄化フィルタ7の前段にヒータ8とが設けている。
【0033】
ディーゼルエンジンから排出された排ガス中のPM2は排ガス浄化フィルタ7で捕集され、それと同時に排ガス浄化フィルタ7に担持された排ガス浄化触媒と接触する。捕集されて排ガス浄化触媒と接触したPM2は、ヒータ8により加熱された空気または輻射熱によって加熱され、燃焼して二酸化炭素となって排出される。
【0034】
この捕集と燃焼を随時行うことによって、排ガス浄化フィルタ7はPM2の堆積で目詰まりしてしまうことなく、排ガスを連続的に浄化することができる。このとき、排ガス浄化フィルタ7には排ガス浄化触媒が担持されているため、排ガス浄化触媒の作用によりPMを600℃よりも低温で燃焼させることができるようになり、DPF前段に配置されたヒータの消費電力を下げることができるという効果を得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0036】
イオン交換水78.0gに、ポルサイト8.88gとCuV17.16gとを加え、1時間攪拌混合した。得られたスラリーを乾燥した後、600℃で焼成することにより、ポルサイトとCuVとの混合粉末を得た。
【0037】
(評価例)
次に、本発明に記載の排ガス浄化触媒のカーボン燃焼活性試験を行った。その試験方法を説明する。
【0038】
前述の方法で調製したポルサイトとCuVとの混合粉末0.04gと、カーボンブラック0.01gとを乳鉢で1時間粉砕混合した粉末を、示差熱熱重量同時測定装置(TG−DTA)を用いて5℃/minで昇温したときの重量変化を測定した。また、ポルサイトとカーボンブラックとを混合したサンプルについても同様の測定を行った。
【0039】
カーボン燃焼活性は、200℃のときの重量を100%とし、10%重量減少時の温度と100%重量減少時の温度とを比較することにより評価した。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より、カーボンブラックは500℃以上でようやく燃焼し始め、620℃で100%燃焼することがわかった。つまり、触媒のない場合は600℃以上に加熱しなければカーボンブラックを完全に燃焼させることができないことを示している。
【0042】
一方、ポルサイトとカーボンブラックとを混合したサンプルは、10%重量減少温度が112℃も低下し、優れた排ガス浄化触媒であることがわかった。これは、ポルサイトに含まれるセシウムがカーボンブラックに対して高い燃焼活性を有するためであると考えられる。
【0043】
さらに、ポルサイトとCuVとを混合することにより10%重量減少温度が184℃も低下し、CuVが酸素を供給する役割を果たし、ポルサイトのPM燃焼性能を促進させる効果があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明にかかる排ガス浄化触媒は、PMを600℃よりも低温で燃焼させることができるようになり、DPF前段に配置されたヒータの消費電力を下げることができるので、排ガス浄化装置に使用される排ガス浄化触媒として有用である。
【符号の説明】
【0045】
1 ポルサイト
2 PM
3 セシウム
4 酸素分子
5 CuV
6 フィルタケース
7 排ガス浄化フィルタ
8 ヒータ
101 DPF
102 ヒータ
103 PM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩と、銅とバナジウムとの複合酸化物とを、含むことを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
アルカリ金属元素が少なくともセシウム元素を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩がポルサイトであることを特徴とする請求項3に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
銅とバナジウムとの複合酸化物がCuVであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の排ガス浄化触媒。
【請求項6】
アルカリ金属元素を有するアルミノ珪酸塩と、銅とバナジウムとの複合酸化物とを、乾式または湿式で混合することにより調製されることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の排ガス浄化触媒。
【請求項7】
触媒と排ガス中のPMとが接触することにより、PMを燃焼することを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の排ガス浄化触媒。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の排ガス浄化触媒を、セラミックまたは金属の基材上に担持した排ガス浄化フィルタ。
【請求項9】
請求項8記載の排ガス浄化フィルタと、前記排ガス浄化フィルタを加熱する手段とを、備えた排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−98270(P2011−98270A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253716(P2009−253716)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】